結論テキスト
国際登録第1738379号商標の商標登録を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024685014 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由
本件国際登録第1738379号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、2023年(令和5年)5月25日にSingaporeにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条の規定による優先権を主張し、同年6月7日に国際商標登録出願、第9類「Computer programs, downloadable; computer software applications, downloadable; electronic publications, downloadable; teaching robots; interactive computer software; computer chatbot software for simulating conversations; artificial intelligence software.」及び第41類「Teaching; education services; arranging and conducting of tutorials; providing online electronic publications, not downloadable; provision of online tutorials.」を指定商品及び指定役務として、令和6年4月17日に登録査定、同年5月17日に設定登録されたものである。
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録第6710224号商標(以下「引用商標」という。)は、「GPT」の欧文字を標準文字で表してなり、2022年(令和4年)12月27日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条の規定による優先権を主張し、令和5年2月13日に登録出願、第9類及び第42類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同5年6月21日に設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第34号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)本件商標の内容
本件商標は、波状の曲線を内包する円図形の右側に「MathGPT」と横書きに表した欧文字を配してなり、当該欧文字中「Math」の文字は「GPT」に比して、より太く表されている。
ア 非共通要素「Math」について
本件商標の構成要素のうち、「Math」は、「数学」を意味する英単語「mathematics」の略語である(甲3、甲4)。
我が国では、2020年4月の学習指導要領の改訂により、小学校での英語教育が本格的にスタートし、小学校3年から英語学習が行われている。学習指導要領によると、小学校では卒業までに600~700語を授業で取り扱うこととされていて(甲5)、文部科学省作成に係る参考図書に学習対象となる英単語が掲載されており、小学校で習う英単語リスト(甲6)を始めとし、多くの媒体において「math」が小学校で学習する英単語であることが紹介されている。
また、AI(人工知能)の仕組みには、統計学・機械学習・深層学習など様々な数理科学の分野の知識が使われている。数学は、これら数理科学のどの分野でも必要な共通言語であって、AI技術の基盤となるアルゴリズムの設計やデータの分析、解釈において中心的な枠割を果たしており、AIエンジニアリングを目指すうえで数学の知識は必須とされている(甲7~甲9)。
さらに、AI(人工知能)は、数学の学習、問題解決、スキル開発のための貴重なリソースとされており、数学の学習、問題解決等のために利用されるAIツールの名称に「math(マス)」の語が用いられるケースが頻繁に見受けられ、例えば、中国のEコマース大手Alibaba社のクラウドストレージ部門が提供する数学特化AIモデルは「Qwen2-Math」と呼ばれ(甲10)、また、「CheckMath」は、AI技術を駆使して算数の問題解答や学習支援を行うアプリである(甲11)。他にも、「photomath(フォトマス)」(高度なコンピュータービジョンと人工知能を使用して数学の問題を即座に解決するモバイルアプリ)、「Mathway(マスウェイ)」(基本的な算数から高度な微積分まで、幅広い数学の問題に即座に解答を提供する強力な数学問題解決アプリ)、「MathPapa(マスパパ)」(学生が代数の概念を学習し、実践できるように設計されたオンライン代数計算機及びAI教育ツール)(甲12)等、「math」の語を含んだ名称のAIツール(モデル)は枚挙にいとまがない。
このように、数学の意を有する「math」の語は、AI(人工知能)ツールと緊密な関係を有しており、数学の学習、問題解決といったAIツールの用途を明確に示すために当該ツールの名称として頻繁に使用されている。
よって、「Math」の商標としての識別力は、人工知能(AI)ツールをはじめとするソフトウェア関連商品、役務との関係では相当程度減殺されると考えるのが相当である。
さらに、「MathGPT」の語は、商標権者が使用する(甲13の1)他、複数の(複数人による)使用が認められるところ(甲13の2~6)、このうち、甲第13号証の2ないし4に係るMathGPTがOpenAI社の提供するGPTモデルを利用しているのか不明である。仮に利用していない場合、「GPT」の語の周知著名性を勘案すると、その出所についてユーザー(需要者)に誤認混同を招きかねず、しかも、甲第13号証の2ないし4に係るMathGPT製品にあっては、著名商標ChatGPT同様、「GPT」の語を接尾辞として使用したうえで、自らの製品について、わざわざOpenAI社のGPTモデルとの比較を喧伝さえしており(甲13の2~4)、申立人の業務上の信用にただ乗りし、顧客(需要者)をだまし討ちで誘引する手法であり、到底看過できない。
また、仮に、上記MathGPT製品がOpenAI社(申立人)のGPTモデルを利用するものであったとしても、そもそも、申立人のブランドガイドライン(甲14)や書証(甲16の17)が示すとおり、申立人は需要者が誤認混同することを未然に防止するため、GPTモデルを利用する製品やアプリの名称に「GPT」の語を使用することを禁止している。
商標権者のMathGPT製品は、甲第13号証の1記載のとおり、商標権者ないしそのグループが開発した大規模言語モデルを利用するものであり、申立人のGPTモデルを利用しておらず、そのうえで、申立人のGPT-4に言及し(甲13の1)、「ChatGPT」等の申立人の商標と構成の軌を一とする態様で本件商標を使用している。本件商標の出願時期は、「GPT」が申立人の商標として広く知られるに至った後であるから、商標権者も「GPT」の顧客吸引力に着目し、OpenAI社の業務上の信用にただ乗りする目的で本件商標を採択したのではないか、と懐疑的にならざるを得ない。
イ 共通要素「GPT」について
(ア)「GPT」の語意
本件商標のもう一つの構成要素である「GPT」については、複数の語意が事実上存在することを認めるにやぶさかではないが、少なくとも、本件商標が指定している第9類の商品との関係では、所定の言語モデルを表す「Generative Pre-trained Transformer」のアクロニム(頭文字)として広く知られている(甲15)。OpenAI社の開発・提供に係る、この「GPT」を冠する大規模言語モデルについては、本件指定商品等と関連する分野のみならず、様々な分野において、複数の企業が同言語モデルを活用した商品、サービスを取り扱ったり、そのための研究開発を行ったりしている。その結果、コンピュータやソフトウェアに関連しない分野においても、「GPT」の名は相当程度浸透しているということができる。
「Generative Pre-trained Transformer」とは、「トランスフォーマー(文章の中に含まれる単語のような連続のデータの関係性を追うことで、文脈やその意味を学習するニューラルネットワーク)をベースにした事前学習した言語モデル」を指すが(甲16の1)、該語は、人工知能で利用される大規模言語モデルを指す一般的な用語ではなく、OpenAI社の開発・提供に係る所定の大規模言語モデルを表している。大規模言語モデルを表す一般的、汎用的な用語としては「LLM(Large Language Model)」(大規模言語モデル)という語が存在する。
「GPT」が大規模言語モデルを指す一般的、汎用的な用語でないこと(OpenAI社の開発・提供に係る所定の大規模言語モデルを指すこと)は、インターネット情報からも容易に理解することができ(甲15、甲16の1~16)、ChatGPTに関する書籍も種々発行されている(甲16の18)。
ちなみに、ChatGPTに「GPTとは何か?」「GPTを開発したのは誰か?」と尋ねると、「GPTとは、『Generative Pre-trained Transformer』の略で、自然言語処理(NLP)に用いるAIモデルの一つです」「GPT(Generative Pre-trained Transformer)は、アメリカの人工知能(AI)研究所であるOpenAIによって開発されました。」との回答が得られる(甲17)。
上記のみを踏まえても、少なくとも、第9類の商品との関係で、「GPT」は、OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルであって、「ChatGPT」や「GPT-3」「GPT-4」をはじめとする言語モデルシリーズを表象するブランド(商標)として把握、認識されており、該語からは、「OpenAIの開発・提供に係る大規模言語モデル」程度の意味合いないしイメージが容易に想起される。
(イ)「GPT」の周知著名性
上記のとおり、「GPT」の語からは、「OpenAIの開発・提供に係る大規模言語モデル」程度の意味合いないしイメージが容易に想起される。
OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルはGPT-1が2018年6月にリリースされて以来、「GPT-2」(2019年2月リリース)、「GPT-3」(2020年6月リリース)、「GPT-3.5」(2022年3月リリース)、「GPT-4」(2023年3月リリース)と、新しいバージョンが次々とリリースされ(甲15)、今日に至る。OpenAI社は、「GPT」シリーズをベースに個別の分野や用途に特化した「Codex」(プログラムコード)、「ProtoGPT2」(タンパク質配列)、「BioGPT」(医学文献)なども開発・提供している(甲16の9)。
OpenAI社が2022年11月頃リリースしたGPTモデルの一つであり、特に対話型のアプリケーション向けに設計されたものとしてChatGPTがある。
OpenAI社がChatGPTを他社のソフトウェアと連携できる仕組みを開放した2023年3月以降、ChatGPTの仕組みを活用した新サービスが加速している(甲18)。例えば、エボラニ社は、ChatGPTと無料メッセージアプリ「LINE」を連携させ、顧客の質問に自動で正確な内容を回答するサービスの提供を始めた。また、法人向けのメッセージアプリ「Slack」で利用するチャットボットを提供する企業や、ChatGPTによる誤回答を補完する機能を使いだした企業もある。三井住友銀行は2023年4月から情報漏洩の懸念に注意しながら「GPT」を組み込んだ対話型AIツール「SMBC-GPT」の活用実験を開始している。
他にも、「GPT」は、AIによってロゴデザイン案を作成するロゴデザインサービスやリーガルテックサービスでも利用研究されており(甲19の1、2)、また、本件指定商品、指定役務と関連する「教育支援AIロボット」(甲20、甲21)、「電子出版物」(甲22、甲23)、「教育」(甲24、甲25)の分野においても、ChatGPTの活用例が認められ、さらなる活用が期待されている。
野村総合研究所のレポートによると、「米国OpenAI社が2022年11月30日に公開した生成型AI『ChatGPT』は、猛スピードで世界中に広がり、4日後の12月4日には利用者が世界で100万人を超え、2か月後の2023年1月には1億人を突破したと言われている。ちなみにこれまでの主要SNSを見ても、ユーザー数1億人に到達したのはTikTokで9か月、インスタグラムは2年4か月かかっていることから、ChatGPTの浸透スピードがいかに早いかがわかるだろう。ちなみにChatGPT並みのスピードで広まったものとして新型コロナワクチンがある。同ワクチンの世界全体での接種回数は、ワクチンが登場した2020年12月から、やはり2か月後の2021年1月29日に延べ1億回に達している。」(甲26の1)。SBクリエイティブ株式会社発行の「生成AIで世界はこう変わる」でも、「ChatGPT」について、「2022年11月に公開された言語生成AIであるChatGPTは、史上最速(5日!)で100万人のユーザーを獲得したサービスとなり、生成AIブームの火付け役」であることが紹介されている(甲26の2)。
ChatGPTは、2023年2月まで6.72億回の訪問を記録し、世界トップ50ウェブサイトにランクインした(44位)(甲26の3)。また、2023年5月には、ChatGPTは18億回の訪問を記録し、Openai.comは、現在、bing.com、reddit.com、booking.comなど、何十年にもわたってユーザーを獲得してきた多くの有名なウェブサイトを上回り、世界で18番目に訪問されているドメインとなっている(甲26の4)。さらに、2023年8月までには、フォーチュン500(アメリカ合衆国のフォーチュン誌が年1回編集・発行するリストの1つであり、全米上位500社がその総収入に基づきランキングされる。)にランクインしている会社のうち80%以上(企業のメールドメインに関連付けられたアカウントを基に、フォーチュン500企業のうちChatGPTアカウントを登録している企業の割合。)がChatGPTを使用している従業員を有していることが明らかになっている(甲26の5)。
米国テレビネットワークCNBCによると、2024年10月時点で、ChatGPTは、週に2.5億人のユーザーが利用しており、1100万人のChatGPT Plusユーザー、100万人の商用ユーザーが存在する。日本での利用率は、「1位米国、2位インドに次いで、日本は3位(6.6%)と上位にいる。日本は人口規模を考えれば、米国、インドよりもChatGPTの利用度合いが高いと言えるだろう。ウェブサイトへのアクセス状況を可視化するSimilarwebによれば、日本から同サイトへのアクセスの平均滞在時間は8分56秒で、米国の6分50秒、インドの6分27秒よりもだいぶ長く、これをみても日本人の関心の高さがうかがえる。」とされている。本件商標の優先日前である2023年4月15日から16日に野村総合研究所が関東地方在住の15~69歳を対象に行ったインターネットアンケート調査では、約61.3%がChatGPTを認知しており、12.1%が実際に利用した経験があるとされている(甲26の1)。
「ChatGPT」の2024年4月時点の利用者数は、全世界で「1億8050万人に達し」「この数値は、2023年の1億人からさらに大きく増加しており、その成長が続いていることを示して」いる。我が国のユーザー数は全世界のユーザー数の「6.00%」である(甲27)。
よって、日本では、2024年4月の時点で、1000万人超のユーザーがChatGPTを利用していると理解でき、EUでは、2024年8月8日時点で、5600万以上のChatGPT登録アカウント、647,000以上のChatGPT PLUS登録アカウントが存在する。
ChatGPTは、人々と自然で有意義な対話を行うために訓練(pre-trained)されている。具体的には、GPT-3やGPT-4などのバージョンが対話に使用され、これらのモデルはユーザーの質問に回答したり、会話を進行させたりする能力(機能)を有している。すなわち、ChatGPTは、GPTモデル(特にGPT-3、GPT-4など)を基盤にし、対話型AIアプリケーションに特化して設計されたものであり、ChatGPTの我が国での普及、浸透に伴い、その基盤となるGPTモデルも需要者の間に広く普及、浸透しているといっても過言ではない。だからこそ、甲第16号証のように、「GPTとは」等の見出しとともに申立人の業務に係る大規模言語モデルを紹介する数多くの記事がインターネット等において認められるのである。
また、特許庁においても、「GPT」がOpenAI社の業務に係る商品等を表示する商標として広く知られていること、すなわち、「GPT」が周知著名であることが、審査レベルではあるが、認定されている(甲28の1)。
さらに、申立人が中国法人の商標「hifigpt」に対して行ったマカオにおける異議申立事件では、当局は、「gpt」を当該商標の要部であると認定したうえで、申立人の商標である「GPT」や「ChatGPT」との類似性を理由に、「hifigpt」に係る商標出願を拒絶している(甲28の2)。
申立人は、このように国内外で極めて広く知られている「GPT」関連商標に関して、有効かつ十分な保護を図るため国内外で多くの商標登録を行っており、我が国では、引用商標に加え、7つの商標登録を得ている(甲29)。
以上を踏まえると、「GPT」の語は、本件商標の優先日(令和5年(2023年)5月25日)より前の、ChatGPTがリリースされる令和4年(2022年)11月30日頃又はそれ以前より、国内外において周知著名であって、その周知著名性は現在も継続していると考えるのが相当であり、その周知著名性を否定すべき合理的理由は一切見出せない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、上記(1)のとおり、波状の曲線を内包する円図形と横書きの欧文字「MathGPT」とを並列して配置してなるものであり、当該欧文字中「Math」の文字は「GPT」に比して、より太く表されている。
引用商標は、欧文字「GPT」を標準文字で表してなるものである。
上記(1)アで述べたとおり、本件商標の構成中「Math」は、数学を表す英単語「mathematics」の略称であって、現在、小学校レベルで学習される語である(甲5、甲6)。数学(Math)は、GPTをはじめとする生成AI、ひいては人工知能と密接な関係を有しており(甲7~甲9)、数学の学習、問題解決に利用されるAI(人工知能)ツールの名称の一部として頻繁に使用されている(甲10~甲13)。
よって、本件商標中「Math」の語は、本件指定商品である「computer chatbot software for simulating conversations; artificial intelligence software」を始めとするソフトウェア関連商品・役務、教育支援ロボット、電子出版、教育等の分野における商品、役務との関係で、識別力が欠如しているか、又は識別力を有したとしても、それは極めて弱いといわざるを得ない。
他の構成要素である「GPT」は、OpenAI社の大規模言語モデルを表示し、周知著名である「GPT」に相応し、故に、商品又は役務の出所識別標識として取引者需要者に強く支配的な印象を与えるものである。
よって、「GPT」の文字部分を本件商標の要部として抽出し、当該文字部分を他人の商標と比較して商標の類否を判断することは許される。
これは、例えば、「CamGPT」(商願2023-19746)、「CatGPT」(商願2023-35340及び商願2023-44885)、「LegalGPT」(商願2023-44487)(甲30の1、甲31の1、甲32の1、甲33の1)等、「GPT」を接尾辞とする結合商標が、引用商標や「GPT-4」(商標登録第6818510号)、「GPT-5」(商標登録第6813235号)等との類似性を理由に拒絶されていることからも明らかである(甲30の2、甲31の2、甲32の2、甲33の2)。
したがって、本件商標からは、「マスジーピーティー」という称呼がその全体構成から生ずるほか、その要部を成す「GPT」から「ジーピーティー」との称呼が生じ、「OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデル」程度の観念が生ずる。
上記称呼及び観念は、引用商標から生ずる称呼観念と同一である。本件商標と引用商標の外観は「Math」の有無の点で相違するものの、かかる相違が前記称呼及び観念の同一性を凌駕するとは決していえない。
むしろ、本件商標中の「GPT」は、「Math」の語やその他の構成要素に比し、より細く(細字で)表されており、他の要素と分離して観察され易く、本件商標中「Math」と「GPT」を常に一体のものとして看取すべき理由は見出せない。加えて、本件商標は、大文字「GPT」を接尾辞とし、語頭の「Math」を先頭の「M」のみ大文字で表している点で、外観上の構成の軌を引用商標と一にするものであるから、両商標は、外観上も近似性が高い。そのため、本件商標は、一見して、あたかもOpenAI社が提供するGPTモデルの一つを示す標識であるかのごとく印象を与える。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観において類似し、称呼及び観念を共通にするものであるから、両商標の外観、称呼、観念によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本件商標は、商品又は役務の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標であると考えるのが相当である。
そして、本件指定商品等のうち、第9類「computer programs, downloadable; computer software applications, downloadable; interactive computer software; computer chatbot software for simulating conversations; artificial intelligence software」は、引用商標に係る指定商品等と類似する。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号について
上記(1)イ(イ)で述べたとおり、「GPT」は、本件商標の優先日(令和5(2023)年5月25日)の前より現在に至るまで、OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルを表示するものとして、様々な分野における取引者、需要者の間で広く認識されており、本件商標を構成する「GPT」は、申立人の業務に係る大規模言語モデルを表象する「GPT」に相応する。
本件商標は、その構成中の「GPT」を要部とするものであり、そのため、本件商標と引用商標からは、同一の称呼「ジーピーティー」及び観念「OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデル」が生じ、外観上も類似する。そのため、両商標の類似性の程度は高い。
「GPT」の語は、「グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼの略称。」等の意味も有するようであるが、それらの観念が我が国において親しまれているとは到底いえない。
よって、「GPT」は、OpenAI社の商標として、一定程度の独創性を有するものであるといえる。
「GPT」は、OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルを表示する商標として広く知られているが、それは、コンピュータ、ソフトウェア等の分野に限られたものではない。甲第20号証ないし甲第25号証が示すとおり、教育支援ロボット、電子出版、教育等にも活用されており、上記(2)で挙げた指定商品以外の商品、役務とも、一定の関連性を有する。
以上を踏まえると、本件商標を、その指定商品等に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、その商品又は役務が、あたかもOpenAI社又はOpenAI社と組織的又は経済的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であるかのごとく、商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというのが相当である。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号について
上記(2)及び(3)のとおり、本件商標は、引用商標に類似する。
また、上記(1)イ(イ)で述べたとおり、「GPT」は、本件商標の優先日(令和5(2023)年5月25日)前より現在に至るまで、OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルを表示するものとして、様々な分野における取引者、需要者の間で広く認識されている。
付言すると、「GPT」の周知著名性は、我が国に限られるものではなく、世界中で極めて広く知られ、活用されている。「GPT」モデルを基盤とするChatGPTは、リリース日から4日後の2022年12月4日には利用者が世界で100万人を超え、2か月後の2023年1月には1億人を突破したといわれている(甲26の1)。TikTokが1億人に到達するのに9か月、LINEが19か月、Instagramが30か月かかったのに比べると、その普及スピードの驚異的な速さが分かる(甲26の1)。
「GPT」が本件商標の優先日前から現在に至るまで周知著名性を有すること、及び「GPT」が一定程度の独創性を有することは、商願2023-750(甲34の1)及び商願2023-56381(甲34の2)をはじめとし、特許庁も認めるところである。
してみれば、本件商標は、不正の目的をもって使用するものである。
以上を踏まえると、本件商標は、OpenAI社の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されている引用商標と類似し、不正の目的をもって使用するものと考えるのが相当である。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人の主張及び提出された証拠によれば、以下のとおりである。
(ア)「GPT(Generative Pre-trained Transformer)」は、申立人であるOpenAI社の開発・提供にかかる大規模言語モデルの名称であり(甲16)、初期タイプである「GPT-1」が2018年6月にリリースされて以来、「GPT-2」(2019年2月リリース)、「GPT-3」(2020年6月リリース)、「GPT-3.5」(2022年3月リリース)、「GPT-4」(2023年3月リリース)と、新しいバージョンがリリースされている(甲15)。
(イ)「IT用語辞典e-Words」の「GPT【Generative Pre-trained Transformer】」の概要(2023年9月27日更新)には、申立人がGPTシリーズをベースに個別の分野や用途に特化した「CodeX」(プログラムコード)、「ProtoGPT2」(タンパク質配列)、「BioGPT」(医学文献)なども開発・提供していると記載されている(甲16の9)。
(ウ)申立人は、2023年3月にGPTを有料で各企業に開放し、これにより、自動で質問に答えるチャットボット(自動会話プログラム)のサービスを提供していた企業がGPTの導入を進めている(甲18)。
(エ)申立人が2022年11月に公開した、GPTを技術基盤とするAIチャットボットサービス「ChatGPT」は、公開4日で100万人のユーザーを獲得し、公開2か月で世界のユーザー数が1億人に達し、2022年11月から2023年4月の国別の利用度合いは、米国、インドに次いで日本が3位であり、また、我が国において2023年4月に実施された調査によれば、ChatGPTの認知率は61.3%であった(甲26、甲27)。また、「生成AIで世界はこう変わる」(「SBクリエイティブ株式会社」2024年1月15日初版第1刷発行)には、ChatGPTは、史上最速で100万人のユーザーを獲得したサービスとなり、生成AIブームの火付け役となった旨の記載がある(甲26の2)。
(オ)「ChatGPT」は、教育などの分野において活用されている(甲20、甲25ほか)。
イ 以上によれば、申立人は、2018年6月に、「GPT」と称する大規模言語モデルを開発し、以降、GPTの新しいバージョンのプログラムや、それを活用したプログラムなどに「GPT」の文字を含む名称を使用している実情が認められる。
そして、GPTの技術基盤を用いた「ChatGPT」は、その認知率や利用度合いなどから、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に一定程度知られていたといい得る。
しかしながら、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が単独で使用された申立人の業務に係る商品及び役務についての我が国及び外国における市場占有率(販売シェア等)、売上高、宣伝広告の詳細など、使用の事実を量的に把握することができる資料は提出されておらず、客観的な使用事実に基づいて引用商標の使用状況を把握することができない。
そうすると、申立人提出の証拠によっては、引用商標「GPT」の文字のみが、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識され、本件商標の登録出願時及び登録査定時に周知著名性を獲得していたとは認められない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、図形の右側に「MathGPT」の欧文字を横書きしてなるところ、図形部分と文字部分とは視覚上分離して把握し得る。
そして、構成中の図形部分は、特定の事物を表すものとして認識されているものではないから、図形部分からは特定の称呼及び観念を生じない。また、構成中の文字部分をみると、「Math」の文字は、語頭の「M」のみを大文字で、その他を小文字で表し、「GPT」の文字は、全て大文字で表してなり、前者は後者に比べやや太く表示されているものの、これらは同じ書体、同じ大きさで横一列に空隙なく表され、視覚上、一体的に看取し得るものであり、構成文字全体に相応して生じる「マスジーピーティー」の称呼も格別冗長というべきものではなく、無理なく一連に称呼し得る。
そして、上記「Math」の文字部分は、「数学」を意味する「mathematics」の略語(甲3、甲4)であるが、「GPT」の文字は、一般の辞書等に掲載されておらず、特定の意味合いをもって親しまれた語でもないから、その構成文字全体は、特定の意味を有しない造語として理解されるといえる。
そうすると、本件商標は、図形部分と文字部分を分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているとはいい難く、それぞれが独立して自他商品役務の出所識別標識としての機能を果たし得るものである。そして、文字部分については、「Math」と「GPT」の文字に分離して観察されるものではなく、構成文字全体が一体不可分のものとして認識されるとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、構成中の文字部分全体に相応して「マスジーピーティー」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じない。
イ 引用商標
引用商標は、上記2のとおり、「GPT」の欧文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して、「ジーピーティー」の称呼を生じ、当該文字は、上記アと同様に、特定の意味を有しない造語として理解される。
そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して「ジーピーティー」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標を比較すると、上記ア及びイのとおりの構成からなるところ、外観においては、両者は全体の構成において図形の有無の差異を有し、また、本件商標の「MathGPT」の文字部分と引用商標の「GPT」を比較しても、両者は「GPT」の文字部分を共通にするものの、本件商標の構成中の「Math」の文字部分が、語頭に位置し全体として一連一体のものと理解されることからすると、当該文字の有無の差異などにより、視覚上、異なる印象を与えるものであるから、外観上、相紛れるおそれはない。
次に、称呼においては、本件商標は「マスジーピーティー」の称呼を生じるのに対し、引用商標は「ジーピーティー」の称呼を生じるところ、「マス」の音の有無の差異を有し、両者をそれぞれ一連に称呼しても語調語感が相違するから、相紛れるおそれはない。
そして、観念においては、本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないから、観念において比較することができない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において比較することができないとしても、外観及び称呼において相紛れるおそれはないから、これらを総合的に勘案すると、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標といえる。
なお、申立人は、本件商標の構成中、「Math」の語は、「数学」を意味する「mathematics」の略称であり、小学校レベルで学習される語であって、GPTをはじめとする生成AI、ひいては人工知能と密接な関係を有し、数学の学習、問題解決に利用されるAI(人工知能)ツールの名称の一部に頻繁に使用されているから、当該語は、本件商標のソフトウェア関連商品・役務、教育支援ロボット等の分野における商品・役務との関係で識別力が欠如しているか、又は極めて弱いといわざるを得ず、他方「GPT」は、申立人の大規模言語モデルを表示し、周知著名であるから、「GPT」の文字部分を本件商標の要部として分離抽出し、比較すべきである旨主張している。
しかしながら、提出された証拠によれば、数学学習用等のプログラムの名称中に「Math」の文字が含まれているものがあることは認められる(甲10~甲12)ものの、当該文字がソフトウェア関連商品・役務、教育支援ロボット等の分野の取引で広く一般的に使用されていると認めるに足る証左は見いだせず、「Math」の文字が本件商標の指定商品及び指定役務との関係において、商品の品質又は役務の質を表すものと認識されるというべき事情も確認できない。そして、本件商標は、上記アのとおり、構成全体をもって、一種の造語と理解されるものであり、さらに、上記(1)のとおり、引用商標は、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたとはいえないことからすると、本件商標の構成中の「GPT」の文字部分は、申立人の大規模言語モデルの名称を理解させるとはいえないから、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるから、本件商標の指定商品が、引用商標の指定商品と同一又は類似であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標は、上記(1)イのとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されているものではない。
また、本件商標と引用商標とは、上記(2)ウのとおり、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、類似性の程度は低い。
そうすると、本件商標は、申立人の業務に係る商品及び役務に係る需要者をして、引用商標を連想又は想起させるものとは認められず、その商品及び役務が他人(申立人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく、その商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれはない。
したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標ではないから、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
引用商標は、上記(1)イのとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間で広く認識されていたものではなく、また、上記(2)ウのとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標である。
そして、申立人提出に係る証拠からは、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標権者が引用商標にフリーライドするなど不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる証拠は見いだせない。
そうすると、本件商標は、本件商標権者が引用商標の名声を毀損させることを認識し、あるいは、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同項に違反してされたものとはいえない。
他に本件商標の登録が商標法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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