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Trademark Appeal Case

KINOの周知性と商標類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025900157
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
登録第6928102号商標の商標登録を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 本件商標

本件登録第6928102号商標(以下「本件商標」という。)は、「KINO THE KEI」の欧文字を標準文字により表してなり、令和6年9月17日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,靴保護具,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服(「水上スポーツ用特殊衣服」を除く。)」を指定商品として、同7年4月22日に登録査定され、同年5月14日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立人が引用する商標

1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、登録異議の申立ての理由において、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する登録第5905366号商標(以下「11号引用商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成28年6月17日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,寝巻き類,下着,水泳着,和服,エプロン,ショール,靴下,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,帽子,ベルト,ガーター,靴類,げた,スリッパ,運動用特殊衣服」を指定商品として、同年12月16日に設定登録され、この商標権は、現に有効に存続しているものである。

2 申立人が、登録異議の申立ての理由において、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する商標は、申立人が「洋服,コート,セーター類」(以下「申立人商品」という。)に使用し、需要者の間に広く知られていると主張する「KINO」の文字からなるものである(以下「引用商標」という。)。

第3 登録異議の申立ての理由

申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証(枝番号を含む。)を提出した。

以下、証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載し、枝番号を全て記載するときは、枝番号を省略する。

1 申立人及び引用商標の周知性

申立人は、1999年にデザイナーであるA氏が立ち上げたブランド「KINO」の婦人服、紳士服、犬用の服、アクセサリー等のデザイン・企画並びにこれらの製造販売を業とするファッションメーカーである(甲3)。

「KINO」は、立ち上げ当初から現在まで約26年にわたり、国内外のファッション業界で注目され続けてきた結果、品質の良さに価値を見いだし、不変のスタイリッシュ性を求める大人の男女から圧倒的な支持を集めてきた。申立人によると、「KINO」の名称は、時代に流されない自立した美しい女性の名前を意味し、「KINO」には、「KINO..(キノドット)」、「KINO MEN’S(キノメンズ)」、「KINO meets dog(キノミーツドッグ)」という派生ラインが存在する(甲4)。これら派生ラインを含む「KINO」の名称は、以下(1)ないし(7)に示すとおり、デザイナーのA氏によるハイエンドブランドとして、これまでファッションショー、芸能界、新聞や雑誌などのメディアで採用され、日本のファッション業界において高い信用と周知著名性を築いてきた。

(1)東京コレクション

「KINO」は、遅くとも2003年から複数回にわたり、主に日本を代表するデザイナーやブランドの最新コレクションを紹介するファッションショーである東京コレクションに参加し、膨大な数の雑誌や新聞等で広く取り上げられてきた(甲5の1~6)。東京コレクションは、世界的なデザイナーであるB氏やC氏が1974年に立ち上げ、時代の経過とともにその形を変えてきた日本のファッションショーで、現在は、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリで開催される世界4大コレクションに匹敵するものとして、世界中で注目されている日本のファッションイベントである(甲5の7)。

なお、東京コレクションヘの参加条件は、ウェブサイト上では確認できないが、例えば、「KINO」が参加した、2006年秋冬コレクションには、世界4大コレクションの一つであるパリコレクションにも参加した「HIROKO KOSHINO」や「KEITAMARUYAMA」といったブランドが参加していることに鑑みれば、実績や認知度が極めて高いトップクラスのブランドのみが東京コレクションに参加できることが容易に分かる(甲5の8)。

(2)有名ブランド等とのコラボレーション

「KINO」は、これまで、「KINO+○○○」といったように、他のブランド(UNIQLO、三越伊勢丹、BEAMES及びjournal standard)等とコラボレーションを行ってきた(甲6)。これらのブランドが日本において「KINO」と肩を並べる人気ブランド等であることはあえて詳述するまでもない。

(3)海外におけるプレゼンス

「KINO」は、パリ、ロシア、中国でも注目され、海外においても洗練された実力派ブランドとしての地位を確立した。パリ、ロシア、中国のファッションショー等(甲7)への参加の機会を得たのは、東京コレクションヘの参加を含め、「KINO」のデザインが日本で高く評価された結果であるといえる。

(4)芸能人による「KINO」の着用

「KINO」のファッションは、日本の人気歌手や俳優達のスタイリストの間でも注目され、雑誌の衣装などで頻繁に採用されてきた。特にメンズラインは、アイドルグループやメディアの露出度が非常に高い歌手や俳優陣の衣装として頻繁に使用されてきた(甲8の1)。

また、テレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」のキャスターを務めるD氏は、当該番組の衣装として「KINO」を愛用しており、自身のインスタグラムでも「KINO」の服を身にまとった姿を頻繁に公開している(甲8の2)。なお、「報道ステーション」の視聴率は、テレビ番組全体の中でもトップクラスに入る高さを誇り、例えば、2024年の年間平均視聴率は個人全体5.7%、世帯10.2%とテレビ離れが進んでいる今日において高い人気を誇る長者番組である(甲8の3)。このように、「KINO」は高視聴率番組を通じても広く認知されているブランドであるといえる。

(5)雑誌等の掲載率の高さ

「KINO」は、人気ファッション誌で複数回にわたり取り上げられ、ファッション誌の常連ブランドとしての地位を確立した(甲9)。例えば、ファッションやトレンドに興味がある者の間で人気の雑誌「LEE」、「anan」、「FIGARO japon」、「eclat」、「クロワッサン」、「popeye」等で「KINO」のファッションが取り上げられてきたが、これらの人気雑誌に掲載されることが容易ではないことは明らかである。

(6)百貨店等におけるポップアップストア

「KINO」は、東京の神宮前に実店舗及びホームページ上でオンラインショップを構えるが(甲10の1)、それに加えて国内の有名百貨店等で頻繁にポップアップストアを開催してきた。甲第10号証の2は、2017年から2025年現在まで、高島屋、西武百貨店、京成百貨店、そごう百貨店、阪急百貨店等の大手百貨店で実施されたポップアップストアの情報が分かる資料である。もちろん、誰もが簡単に百貨店でポップアップストアを開催できるわけではない。これまでの実績や想定売上、集客率、ブランドイメージなど、さまざまな要素において「KINO」は、これらの百貨店が求める厳格な基準を見事にクリアしており、その結果として、かかる機会を頻繁に設けることができるのである。

(7)A氏の認知度

「KINO」のファッション業界での成功と並行して、デザイナーA氏にも注目が集まり、雑誌や新聞などで頻繁にクローズアップされてきた(甲11の1)。「最新コレクションのクリエイションに迫る」特集の「DESINER‘S FILE」とのタイトルの下、12ページにわたり、A氏に焦点を当てたスタイルで特集が組まれている(甲11の2)。なお、A氏は、ファッションやデザイン教育のパイオニア的存在として知られているヴァンタンデザイン研究所出身であるところ、同所が発行する雑誌などにおいて「KINO」のデザイナーとして成功を収めているA氏が卒業生として取り上げられている(甲11の3)。

上述のとおり、申立人の代表兼デザイナーのA氏が立ち上げたブランド「KINO」は、1999年の立ち上げから現在まで約26年間、日本の需要者等に支持され続け、ファッション業界において周知著名な地位を確立している。A氏は、「KINO」に化体した信用、評判、名声を損なわないよう細心の注意を払ったブランド戦略を心掛けてきた。また、これまで「KINO」を採用・愛用してきた東京コレクション関係者、スタイリスト、芸能人、百貨店等の評判をも守るべく、立ち上げ当初から一貫して、美しいシルエットとカッティングを特徴とする、洗練された大人の装いという世界観を維持してきた。したがって、「KINO」の名称は、申立人と全く関係のない第三者が自由に使用しようとしても、自ずとA氏による「KINO」が築き上げた信用、名声などが付随するといえる。

以上のことから、本件商標の登録出願時には既に、引用商標に係る「KINO」は、申立人の代表である注目のデザイナーA氏が立ち上げたブランドの名称として広く知られており、また、申立人が申立人商品に使用する商標として、認識され、現在に至っている。

2 被申立人及び本件商標について

(1)被申立人

本件商標の権利者(以下「本件商標権者」という。)は、愛知県豊橋市所在のファッションアパレルの企画・製造・EC運営等を営む法人であり(甲12)、同社のホームページによると、同社は、1983年10月に靴下やニット製品の製造卸、輸出事業から事業をスタートし、2012年以降は自社ブランドのECサイト「Joint Space」で8つの個別ブランドを販売しており、本件商標は、そのうちの一つに該当する(甲12の2、3)。なお、同社は申立人と全く関係がない第三者である。

企業がニュースリリース(プレスリリース)を自ら作成・掲載・配信できるプラットフォーム「PR TIMES」に掲載された記事によると、本件商標に係るブランドは、2025年3月3日に公式オンラインストア「Joint Space」及び日本最大級のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」で販売が開始された(甲12の4)。該記事によると、本件商標に係るブランドコンセプトは、「都会と自然を行き来しながら、自分の心と体を大切にする女性のためのブランド。特別なシーンだけでなく、日々の流動的な気分にフィットする「ヘルシーモダン」な服を提案。スタンダードの中にエッジを効かせたデザインで、心地良い緊張感を楽しむ。」とのことだが、なぜ引用商標「KINO」の文字を採用し、あえてブランド名の語頭に配したのか、その理由については触れられていない。

(2)本件商標

本件商標は、本件商標権者により2024年9月17日に商標登録出願されたものである(甲1)。本件商標は、デザイナーA氏のブランド名称として広く知られている「KINO」の文字を語頭に配し、定冠詞である「THE」と人名ともとれる「KEI」の3つの欧文字の組み合わせから構成されるところ、「KINO THE KEI」の文字全体として特定の概念を示すものとは認められない。この点、欧文字を用いた標準文字からなる本件商標が同書同大等間隔に表してなるものだとしても、定冠詞「THE」は、名詞の前に置かれ、数量や特定性を示したり、「その」といった話し手と聞き手の間で特定できるものを示す際に用いられるため、常にその直後に配される名詞とともに看取されるものである。よって、本件商標中の「THE」と「KEI」の文字は分離不可分の一体的な文字の組合せと看取される。そうすると、本件商標を構成する3つの文字のいずれもが指定商品との関係において自他商品の識別標識としての機能が弱いとはいえないとしても、本件商標は「KINO」と「THE KEI」に分離可能であり、語頭に配され、申立人による人気ブランドの名称である「KINO」の文字のみが着目される可能性が高いと考えられる。

ちなみに、ブランド名や宿泊施設名では、定冠詞「THE」を語頭に置いて唯一性や格式を示す用法が広く見られるから、「THE」の文字から始まる名称は、日本の需要者にもなじみがあり、名称全体として無理なく一体的に把握されるといえる。

しかしながら、本件商標「KINO THE KEI」は、定冠詞「THE」を中間に配し、日本人にはなじみのない文字構成からなるため、全体として一体的に把握することが極めて困難といえる。そのため、やはり、本件商標に接する者は、文法的に親しみのある定冠詞「THE」の直後の「KEI」を一つのまとまりとして認識し、冒頭の「KINO」を独立した要素として解釈するのが自然といえる。

商標は全体の構成によって他人の商標と区別できるように考案されたものであるから、構成の一部だけを取り出し、それを他人の商標と比較して類否を判断することは許されない。しかしながら、「リラ宝塚事件」で示されたように、「簡易、迅速をたつとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところであるとの考え方を採用するのが適切な場合もある。この点、本件商標の類否判断では、その文字構成上、この考え方を採用するのが適当といえる。

すなわち、本件商標は、「KINO」部分と「THE KEI」部分を分離して観察することが文字構成上、不自然ではないため、簡易、迅速を尊ぶ実際の取引の場面では、その一部である「KINO(キノ)」のみで称呼され得るとみるのが適当である。特に、本件商標は「KINO」の文字から始まり、「THE KEI」のまとまりが「KINO」の文字を凌駕する程度に強い印象を与えるものとはいえない。そのため、スピードが求められる取引の場面では、「KINO」のみをもって取引に資される可能性が非常に高いと考えられるところ、事実、「KINO」の表示のみで使用されている実情が複数件確認されている。したがって、本件商標においては、語頭の「KINO」が特に看者の注意を引き、要部として自他商品の識別標識として独立して機能するとみるのが適当である。

3 混同のおそれについて

(1)本件商標の使用態様

本件商標は、その文字構成上、「KINO」の文字のみをもって使用される可能性が高いことが容易に推認され、実際に、本件商標の権利者及びその関係者は「KINO」の文字のみを使用して自身のブランド「KINO THE KEI」を指し示している実情がある。例えば、本件商標権者のインスタグラムの投稿には、「KINO」の文字が単体で目立つように使用されていることが確認できる。簡易、迅速が求められる取引において、これらの投稿のみに接した者が、本件商標権者の「KINO THE KEI」のプロモーション広告であると直ちに認識できる可能性は極めて低いといえる。なお、インスタグラムは、リアルタイムの文字情報発信を特徴とするX(エックス)とは異なり、写真や動画を使ったビジュアル中心の情報発信ツールであるから、例えば、画像や動画を使ったビジュアル面でまずは看者の興味を引き、商品情報の詳細を文字情報で確認してもらえるような構成にするのが一般的である。そうすると、本件商標権者による投稿は、「KINO」の文字以外、特に人々の注意を引くような視覚上の情報がない画像が表示されているから、看者によっては、A氏による「KINO」の投稿であると誤解し、「KINO THE KEI」の詳細ページに誘導される可能性が考えられる。

さらに、インスタグラムをマーケティングツールとして利用することが当たり前となっている今日、本件商標権者の関係者によるインスタグラム上では、「KINO THE KEI」を「KINO」と略して、使用している場面が散見される(甲13)。

このような記載は需要者等において商品の出所について混同するおそれが高い点については、あえて詳述するまでもない。なお、上記のような使用は、引用商標に係る申立人の商標権侵害を構成する可能性が考えられるが、申立人は、極力無用な争いを避けたいと考えており、本異議申立の中で解決することを希望している。

(2)ファッション業界における派生ライン及びセカンドラインの実情

ファッション業界においては、百貨店等に店舗を構える有名ブランドがメンズライン、ティーン向けライン、子供向けライン等のセグメントごとに派生ラインを展開することが商慣行として行われている。例えば、「KINO」ともコラボレーションしたファッションブランド「journal standard」は、メンズラインの「JOURNAL STANDARD MEN‘S」、レディースラインの「JOURNAL STANDARD LADY’S」に加え、家具ラインの「JOURNAL STANDARD FURNITURE」や食品関連ラインの「J.S.FOODIES」等の複数のラインを展開している(甲14の1)。この点、先にも触れたとおり、「KINO」は、「KINO..(キノドット)」、「KINO MEN’S(キノメンズ)」、「KINO meets dog(キノミーツドッグ)」という派生ラインも展開しており、いずれのラインもファッション業界においてはA氏による「KINO」の派生ラインとして認識され、人気を博してきた。かかる状況に鑑みると、本件商標「KINO THE KEI」は、A氏による「KINO」の派生ラインとして認識されてしまう可能性が高いと考えられる。

なお、「KINO」と「KINO THE KEI」は、価格帯が全く異なるから、混同が生じる可能性は低いとはいえない。というのも、ファッション業界においては、「KINO」のように、例えばワンピースが5万円ほどするようなハイブランドが、価格帯や生地の品質等を変更し、ブランドの知名度を利用したセカンドラインをプロデュースするブランド戦略がよく行われているためである(甲14の2)。ファッション業界においては、この他にも数多くのブランドがセカンドラインをプロデュースする実情がある(甲14の3、4)。

このように多数のブランドがメンズ向けやキッズ向けなどの派生ラインや、価格帯を下げたセカンドラインをプロデュースするのがファッション業界の商慣行として成立しており、かかる実情は、日本の消費者にもなじみのあるものである。そのため、本件商標は、申立人の「KINO」のセカンドラインと認識されるおそれが高いと考えられる。本件商標の登録が認められ、上記のように「KINO」と略した商標の使用が継続されると、A氏による「KINO」の商品と混同が生じるおそれがますます高くなることが考えられる。この点、中古品の売買サイト「メルカリ」におけるショッピングページ(甲14の5)には、ブランド名を「MaxMara」として検索した場合、メインブランドの「MaxMara」に加え、「Weekend MaxMara」や「Sportmax code」の商品が検索結果として確認できるが、これらはメインブランド「MaxMara」の公式のセカンドラインである。一方、ブランド名を「KINO」とした場合、引用商標に係る「KINO」及びその「BEAMS」とのコラボレーション商品に加え、本件商標の商品も同時に挙がっていることが確認できる。この場合、本件商標が引用商標「KINO」のセカンドラインと誤認されるおそれが高いことは明白である。

さらに、申立人と本件商標権者のコレクションの画像(甲14の6)を比較すると、白黒の色彩、シンプルなデザインや色合いを用いている点で、看者によっては、両者はどことなく似たような雰囲気があるとも捉えかねない。かかる状況より、需要者等によっては、本件商標を本件商標権者の「KINO」のセカンドラインとして認識する可能性を示唆する具体的実情が存在する。

この点、ファッションは、その洋服を着る人の自己表現のツールであったり、ステータスなどを示す社会的ツールともいえるところ、A氏による「KINO」のような高価でハイエンドな洋服を着用する者は、A氏が作り上げた「KINO」の世界観に共感する者であることがうかがえる。そのため、「KINO」のセカンドラインとも捉えられかねない「KINO THE KEI」との名称のブランドが、A氏とは全く関係ない第三者によって販売されていることは、これまでA氏の「KINO」を支持してきた愛好者の信用や名声までも毀損することにもつながりかねない。

これまで「KINO」の製品を高く評価し、芸能人の衣装や雑誌で「KINO」を使用してきたスタイリストによる声明文(甲14の7)の署名、記名者には、雑誌、テレビ、映画、ファッションショーなどの主要なメディアやイベントにおいて、モデルや女優の衣装、小物のコーディネート等を手掛けるスタイリストとして業界内で広く認知され、確固たる実績を持つE氏、F氏、G氏等も含まれている(甲14の8)。声明文の中でも、A氏の努力により化体した「KINO」ブランドヘの信用や名声が、「KINO THE KEI」とのブランドにより毀損されかねない点が懸念されている。

4 取消理由の根拠法条への該当性

以上を踏まえつつ、以下、本件異議申立ての理由の根拠法条への該当性について検討する。

(1)商標法第4条第1項第15号について

商標法第4条第1項第15号は、他人の業務にかかる商品または役務と混同を生ずるおそれがある商標は、商標登録を受けることができない旨を規定する。そして、混同を生ずるおそれがある場合とは、その他人の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合をもいう、とされている。

この点、引用商標「KINO」は、東京コレクションヘの複数回にわたる参加、有名芸能人の衣装としての採用歴、雑誌や新聞などにおける掲載歴等に鑑みて、本件商標の登録査定時はもとより、本件商標の登録出願時においても、我が国における取引者、需要者の間で、少なくとも申立人商品について、申立人の出所を表示する識別標識として広く知られていたと考えられる。また、引用商標はこれらの商品との関係で何ら直接的に商品の品質等の内容を表すものではないから、独創性は高いとみるのが相当である。

そして、本件商標は、かかる周知著名な商標「KINO」に「THE KEI」の文字を結合したものである。さらに、ファッション業界においては、有名ブランドが、メインブランドの他に派生ラインやセカンドラインをプロデュースする実情が存在し、メインブランドとセカンドラインは市場において共通するブランドイメージを形成していると認識されている実情がある。

そうすると、本願商標は、引用商標と同一の要素をその構成中に含む結合商標であり、その外観・称呼・観念のいずれにおいても、当該同一部分が他の部分から分離して認識されうるものである。加えて、引用商標はA氏のブランドの名称として広く知られており、本願商標の指定商品と引用商標が使用されている商品とは重複し、その取引者や需要者も共通している。

これらの事情を総合的に考慮すれば、本願商標に接する取引者・需要者は引用商標を連想し、商品の出所について誤認するおそれがあると認められ、仮に本件商標の登録を認めれば、引用商標の顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)や、その希釈化(いわゆるダイリューション)を招く結果となりえる。

したがって、本件商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号の規定に該当する。周知著名な引用商標の一部を含む商標の異議申立において、商標法第4条第1項第15号該当性が認められた判断があるが、本件商標のみが別異に取り扱われる理由はないといえる(甲15)。

(2)商標法第4条第1項第11号について

上述のとおり、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として認められないが、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際において、構成部分が不可分的に結合していると認められない商標は、その一部のみで簡略に称呼・観念されるとみなすことが許される。さらに、審査基準では、ある結合商標が、需要者の間に広く認識された商標を構成中に含む場合、指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の緊がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとすると規定されている。

この点、本件商標は、標準文字よりなる同書同大等間隔の欧文字よりなるとしても、「KINO」と「THE KEI」部分が不可分的に結合しているとは認められないため、スピード感が求められる実際の取引においては、その一部のみで称呼・観念される可能性が高いといえる。また、語頭に置かれた「KINO」の文字は、第25類の指定商品「洋服,コート,セーター類」等について、申立人のブランドの名称として広く認識されている。さらに、本件商標権者は積極的に「KINO」の文字部分のみをもって取引に資している。そうすると、かかる事情に照らすならば、本件商標中における取引者、需要者の注意を喚起させる特徴的部分は、「KINO」であると解すべきである。そして、11号引用商標の指定商品「洋服,コート,セーター類,寝巻き類,下着,水泳着,和服,エプロン,ショール,靴下,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,帽子,ベルト,ガーター,靴類,げた,スリッパ,運動用特殊衣服」は、本件商標の指定商品「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊靴,運動用特殊衣服(「水上スポーツ用特殊衣服」を除く。)」と同一または類似する。

したがって、本件商標は、他人の先願登録商標である11号引用商標と類似の関係にあるため、商標法第4条第1項第11号に該当する。

(3)商標法第4条第1項第19号について

商標法第4条第1項第19号は、日本国内または外国における他人の周知著名商標と同一または類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものは、商標登録を受けることができない旨を規定する。かかる状況は、周知著名商標の出所表示機能を稀釈化させたり、名声を毀損させることが可能であり、このような目的を持った不正な使用から十分保護する必要があるためである。

この点、引用商標「KINO」は、東京コレクションに複数回にわたり参加し、有名芸能人の衣装として使用され、雑誌や新聞などでも継続的に広く取り上げられたブランドである。すなわち、引用商標は、本件商標の登録査定時はもとより、本件商標の登録出願時において、本件商標権者にとって他人の業務に係る少なくとも、申立人商品を表示するものとして、日本国内において、取引者、需要者に広く認識されていたといえる。対して、本件商標は、2025年3月に販売開始となったブランドの名称であるところ、インスタグラム上で本件商標権者及びその関係者が本件商標を「KINO」と略して取引を行っていることが確認できることからしても、本件商標権者においては、申立人の周知なブランド力にあやかって不当な利益を得ることを目的に、本件商標を採択したものと考え得る。さらに、本願商標に係る指定商品と、引用商標に係る指定商品は、同一または類似の商品であり、これらを扱う両者は同業者と認められる。

本件商標権者が長年にわたりファッション業界で事業を営んできた者でありながら、本件商標を引用商標とは全く関係なくたまたま偶然に採択した可能性は低いと考えられる。そうすると、本件商標の出願登録行為には、引用商標の周知著名性ヘフリーライドする目的または申立人の事業活動を阻害する目的があった可能性が考えられる。

したがって、本件商標は、その出願時において、日本国内または外国で周知著名な引用商標と同一または類似する商標であつて、不正の目的をもって使用をするものと認められ得るから、商標法第4条第1項第19号に該当する。

(4)商標法第4条第1項第7号について

商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないと規定するところ、ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」への該当性については、周知著名商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって周知著名商標の有する特徴を模倣して出願登録を受けたものも含まれると考えられる。

これを本件に照らすと、引用商標は、我が国及び海外において約26年間にわたり継続的に使用された結果、相当程度の周知著名性を獲得した商標であり、それに化体した信用、名声及び顧客吸引力は極めて高いものであることは、長年にわたり、アパレルの製造販売等を主たる事業をしている本件商標権者であれば、知らない可能性は低いように思われる。そうすると、本件商標権者が本件商標を「KINO」と略して使用する行為は、引用商標の周知著名性ヘフリーライドする目的があるようにも捉えられ得る。

かかる場合、本件商標は、本件商標権者が属するファッション業界において相当程度知られた引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって出願されたものと認められ、公序良俗に反することから、商標法第4条第1項第7号に該当する。

(5)商標法第4条第1項第10号について

上述のとおり、引用商標は、本件商標の登録査定時はもとより、本件商標の登録出願時において、商標権者にとって他人の業務に係る少なくとも、申立人商品について、申立人の出所を表示する識別標識として広く知られていたといえる。また、本件商標と引用商標は同一又は類似であるといえ、申立人商品と、本件商標の指定商品とは類似する商品であるといえる。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。

第4 当審の判断

1 引用商標の周知性について

申立人提出の証拠及び申立人の主張によれば、以下の事実が認められる。

ア 申立人は、1999年に設立された「KINO」ブランド(以下「申立人ブランド」という。)の被服等の製造、販売を業とするファッションメーカーであり、申立人ブランドには、派生ラインとして、「KINO」の文字を冠した「KINO..」(キノドット)、「KINO Men‘s」(キノメンズ)などがある(甲3、甲4)。

また、申立人商品は、自身の実店舗(神宮前)及びオンラインショップのほか、2017年ないし2025年に開催された百貨店(高島屋、阪急百貨店、そごう百貨店、西武百貨店ほか)等におけるポップアップストアにおいて取り扱われている(甲10)。

イ 2003年ないし2008年に開催された「東京コレクション」というファッションショーに申立人ブランドが参加し、当該コレクションにおける申立人ブランドの紹介記事において、申立人商品が掲載されるとともに、引用商標が使用されている(甲5)。

ウ 申立人ブランドは、2007年、2012年、2013年及び2020年に、他ブランド(UNIQLO、三越伊勢丹、BEAMES及びjournal standard)とコラボレーションを行った(申立人の主張、甲6)。

エ 2009年ないし2025年にかけて、複数の芸能人やニュースキャスターによって、申立人商品が着用されたことがうかがえる(甲8)。

オ 2001年ないし2022年にかけて発行された複数の雑誌や新聞等に、申立人商品が掲載されるともに、引用商標が使用されている(甲9)。

カ 外国の記事において、海外(ロシア及びパリ等)の展示会に申立人ブランドが参加し、申立人商品の写真とともに引用商標が確認できるが、記事の詳細は不明である(甲7)。

(2)上記(1)からすれば、申立人は、1999年に設立された被服等の製造、販売を業とするファッションメーカーであり、申立人ブランドに「KINO」の文字を冠して使用していること、申立人商品は、自身の実店舗及びオンラインショップのほか、百貨店等のポップアップストアにおいて取り扱われていること、2003年ないし2008年に開催された「東京コレクション」の紹介記事及び2001年ないし2022年にかけて発行された複数の雑誌や新聞等において、申立人商品が掲載されるとともに引用商標が使用されていること、他ブランドとコラボレーションを行ったこと、2009年ないし2025年にかけて、複数の芸能人やニュースキャスターによって申立人商品が着用されたことはうかがえる。

しかしながら、申立人ブランドの東京コレクションへの参加は、本件商標の登録出願時及び登録査定時より約20年前であり、雑誌や新聞等への掲載については他の複数のブランドとともに掲載されている例が多く、必ずしも申立人商品のみが目立つ形で掲載されているとはいえない。

また、複数の芸能人やニュースキャスターによる申立人商品の着用についても申立人ブランドが着目される形での掲載方法とはいえない。

さらに、海外での使用についても、申立人商品の写真とともに引用商標が確認できるものの、翻訳がないものが多くその詳細は不明である。

そして、申立人商品に対する需要者の認識を判断するための、申立人商品の販売実績、広告宣伝の規模、広告宣伝費等の証拠の提出がないことから、引用商標の我が国及び外国における周知性の程度を判断することができない。

その他、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。

そうすると、申立人提出に係る全証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く知られていたとは認めることはできない。

2 商標法第4条第1項第11号該当性について

(1)本件商標と11号引用商標の類否について

本件商標は、「KINO THE KEI」の欧文字を標準文字で表してなるところ、「KINO」、「THE」及び「KEI」の間にそれぞれ1文字程度の間隔を有するものの、同書、同大にて外観上まとまりよく表されていることから、一体的に看取されるものである。

また、本件商標の構成全体から生じる「キノザケイ」の称呼も無理なく称呼し得るものである。

そして、「THE」の文字が「その」(「ジーニアス英和辞典」第6版)の意味を有する語であるとしても、「KINO」及び「KEI」の文字は、一般の辞書等での載録がないものであり、全体として、何らかの特定の意味合いを有する語とはいえない。

そうすると、本件商標は、外観上まとまりのよい一体的な商標であり、その構成文字に相応して「キノザケイ」の一連の称呼を生じ、特定の観念は生じない。

他方、11号引用商標は、別掲のとおり、上段に「KINO」(「O」の文字は、他の文字に比して細い線で表されている。以下同じ。)の欧文字、下段に「キノ」の片仮名を配してなるところ、「KINO」及び「キノ」の文字は、一般の辞書等での載録がないものであるから、11号引用商標は、その構成文字に相応して「キノ」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。

そうすると、本件商標と11号引用商標は、外観において「THE KEI」の有無によって、容易に判別できるものであり、また、称呼においても、「ザケイ」の音の有無に差異を有するものであるから容易に聴別可能である。

してみると、本件商標と11号引用商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第10号該当性について

上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く知られていたと認めることはできず、上記2のとおり、本件商標と11号引用商標とは、非類似の商標であり、11号引用商標の欧文字と同じ綴りからなる引用商標も同様に非類似の商標といえるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。

4 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について

上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く知られていたと認めることはできず、上記3のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、類似性の程度は低いものである。

そうすると、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(申立人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。

その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

5 商標法第4条第1項第19号該当性について

上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く知られていたと認めることはできないものである。

また、上記3のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標である。

さらに、申立人が提出した証拠からは、本件商標権者が本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他不正の目的をもって使用するものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。

そうすると、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものということはできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

6 商標法第4条第1項第7号該当性について

本件商標は、上記3のとおり、引用商標とは非類似の商標であって、申立人の提出に係る証拠において、本件商標権者が引用商標の周知性にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできず、また、本件商標が、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないというべき事情は見いだせないものである。

また、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激又は他人に不快な印象を与えるようなものでもない。

さらに、他に、本件商標が国際信義に反し、また、その登録出願及び登録の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序良俗に反するものというべき事情は見いだせない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

7 むすび

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものとはいえず、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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