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Trademark Appeal Case

がん分析の記載要件

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023014773
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本願は、平成31年 3月15日を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。

令和 4年12月27日付け:拒絶理由通知書

令和 5年 3月13日 :意見書・手続補正書の提出

同年 6月21日付け:拒絶査定

同年 9月 4日 :審判請求書・手続補正書の提出

令和 7年 8月27日付け:拒絶理由通知書

同年10月30日 :意見書・手続補正書の提出

第2 本願発明

本願特許請求の範囲の請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和7年10月30日に提出された手続補正書に記載された以下のとおりのものである。

「尿検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-103と、miR-21および/またはmiR-19とのmicroRNA量を定量する測定部と、

前記測定部により定量されたmiR-103と、miR-21および/またはmiR-19のmicroRNA量を分析装置に送信する送信部と

を備える測定装置と、

前記測定装置から送信された前記microRNA量を受信する受信部と、

特定の個人について継続的に収集された前記microRNA量を記憶する記憶部と、

前記記憶部に記憶された特定の個人のmicroRNA量のデータに基づいて、継続的に収集したデータよりもmiR-21の量のmiR-103の量に対する値が多くなった時、および/または、miR-19の量のmiR-103の量に対する値が少なくなった時にがんである状態と分析する分析部と

を備える分析装置と

を含むがんの分析システムであって、

前記卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つであるがんの分析システム。」

第3 当審における拒絶の理由

令和 7年 8月27日付けで当審が通知した拒絶理由の理由1及び理由2の概要は、次のとおりのものである。

理由1(サポート要件)

この出願は、請求項1~6に係る発明について、発明の詳細な説明に継続的にデータを収集することにより課題が解決するとする具体的なデータの開示やそれに代わる科学的根拠を見出すことができず、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2(実施可能要件)

この出願は、発明の詳細な説明の記載について、継続的にデータを収集することにより容易に実施可能となる科学的根拠を見出すことができず、請求項1~6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 サポート要件の判断

1 サポート要件の規範

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識等に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当であるとされる。

2 本願発明の課題

発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】として「本発明の目的は、非侵襲かつ、早期にがんの発見が可能ながんの分析方法、がんの分析システム、プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することである。」(【0010】)と記載されている。

3 本願発明の詳細な説明の記載

発明の詳細な説明の記載には、以下のとおり記載されている。

(ア)

「【0030】

本発明において、定量する対象となるmicroRNAは、miR-103と、miR-21および/またはmiR-19である。

【0031】

ここで、miR-103は血清/血漿中、尿中および脳脊髄液のエクソソーム中において安定して発現するものである(例えば、http://www.exiqon.com/ls/Documents/Scientific/microRNA-serum-plasma-guidelines.pdfのTable6(25頁)参照)。

【0032】

また、

miR-21は、血清または脳脊髄液等から抽出されたエクソソームに含まれる疾患特異的分子として、卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫といった幅広い種類のがんにみられるmicroRNAである。即ち、幅広い種類のがん細胞から多く分泌される種類のmicroRNAである。

【0033】

ここで、

上述のmiR-103のように血清/血漿中、尿中および脳脊髄液のエクソソームで安定して発現する種類のmicroRNAもあれば、安定して発現しないmicroRNAも存在する

(上記と同様に、例えば、http://www.exiqon.com/ls/Documents/Scientific/microRNA-serum-plasma-guidelines.pdfのTable6(25頁)参照)。

したがって、血清や脳脊髄液等から抽出されたエクソソームに含まれる種類のmicroRNAとして発現するからといって、尿から抽出されたエクソソームに含まれる種類のmicroRNAとして発現するとはいえないものである。すなわち、血清や脳脊髄液等から抽出されたエクソソームに含まれるmicroRNAの種類と、尿から抽出されたエクソソームに含まれるmicroRNAの種類との間に完全な相関が認められるものではない。

【0034】

また、

miR-19は、幅広いがん細胞から分泌が抑制される種類のmicroRNAであり、がん患者の血清または脳脊髄液等から抽出されたエクソソームに含まれる種類のmicroRNAとしては発現量が少なくなる。

【0035】

次に、定量PCR装置4の制御部8は送信部14を介して、定量によって得られたmicroRNA量のデータをPC6へ送信し(ステップS4)、PC6は受信部18を介して定量によって得られたmicroRNA量のデータを受信する(ステップS5)。ここで、定量PCR装置4の送信部14とPC6の受信部18との間の通信は有線LAN等の有線通信により行ってもよいし、無線LANやBluetooth(登録商標)等の無線通信により行ってもよい。

【0036】

次に、PC6のCPU16は、受信部18を介して受信したmicroRNA量のデータを記憶部20に記憶させる(ステップS6)。ここで、記憶部20においては、microRNA量のデータを例えば、検体IDや測定日時、測定番号などと対応させて記憶する。

【0037】

そして、操作部24を介して分析対象のデータを指定し、分析開始の指示が入力されると、CPU16は分析部22にがんの状態の分析を行わせる(ステップS7)。なお、がんの状態の分析を行う際には、CPU16は記憶部20に記憶されたmicroRNA量のデータのうち、分析対象として指定されたデータを読み出し、分析部22にがんの状態の分析を行わせる。

【0038】

ここで、定量PCR装置4を用いて定量されたmicroRNA量は、統計処理により分析することができるが、比較Ct法により得られたデータを統計処理して分析することが好ましい。たとえば、特定の人の尿検体から抽出したエクソソームに含まれるmiR-103と、miR-21および/またはmiR-19を継続的に定量することにより、平常時(すなわち、非がんであるとき)のデータを収集し、これに対してmiR-21の発現量が多くなった時、および/またはmiR-19の発現量が少なくなった時にがんと分析することができる。ここで、miR-21の量およびmiR-19の量は、miR-103の量と比較した値を用いる。これらの値は、実施例においても後述するように、がんと非がんとの2群間で統計的有意差をもって変動する値であることが、本発明者らの検討により判明した。

【0039】

分析部22によるがんの状態の分析においては、たとえば、特定の個人ごとに継続的に収集したデータを用いることにより、継続的に収集したデータよりもmiR-21の量のmiR-103の量に対する値が多くなった時、および/または、miR-19の量のmiR-103の量に対する値が少なくなった時にがんである状態と分析することができる。

【0040】

また、がんの状態を分析する際に、所定の閾値を用いて分析を行ってもよい。この場合には、記憶部20に記憶されたmicroRNA量のうちの全部のデータや無作為に抽出されたデータからmiR-21の量のmiR-103の量に対する値、および/またはmiR-19の量のmiR-103の量に対する値を統計処理することにより、予めがんである状態と分析するための閾値を算出する。そして、この閾値をがんの状態を分析する際の閾値として設定することにより、特定のデータががんである状態であるか否かの分析を行うことができる。

【0041】

なお、上述のがんの状態の分析においては外れ値や欠損値等のデータを除去して、がんの状態の分析を行ってもよい。

【0042】

本発明の実施の形態に係るがんの分析方法およびがんの分析システムによれば、非侵襲かつ、早期にがんを発見することができる。」

(イ)

「【実施例】

【0047】

以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特記しない限り重量基準である。

【0048】

がん患者(n=6)および非がん患者(n=6)のそれぞれについて尿検体をFTAマイクロカードに付着または吸着させた。これにより尿検体からエクソソームを抽出した。

【0049】

次にmicroRNA抽出用キット(miRCURY RNA Isolation Kit (Product# 300110; EXIQON社))を用いてそれぞれのエクソソームからmicroRNAを抽出した。そして、得られたmicroRNAをそれぞれ超純水により分散または溶解させて所定の濃度とし、次にそれぞれの検体から逆転写酵素によって逆転写反応させて、cDNAを合成させ、そのcDNAを用いて、miR-103と、miR-21およびmiR-19の発現を定量PCRで解析した。

【0050】

定量PCR法の具体的な手順としては以下のように行った。上記microRNAから得たcDNAを用いてPrimeScript RT Master Mix (Takara)の方法に準じ、cDNAに逆転写し、SYBR Premix EX Taq II (Takara)により増幅した。なお、PCR反応液としては、50μL(25μL SYBR Green Mix (2x), 1μL cDNA, 2μL primer pair mix (5pmol/μL each primer), 22μL H2O)のPCR反応液を用い、反応は95°Cにて30秒を1サイクル、さらに95°Cにて5秒および60°Cにて30秒のサイクルを50サイクルの条件にて行った。比較Ct法(ΔΔCt法)より相対定量を行った。なお、RT-PCR(リアルタイムPCR)に用いた各種ターゲット(miR-103と、miR-21およびmiR-19)のPrimerとしてはそれぞれ所定のものを用いた。

【0051】

またmicroRNAを元にして、このRT反応と定量PCRを1つの試験管内で行えるOne Step-RT-PCR Kitを用いることも出来る。例えば、Luna Universal One-step Reaction Mix (New England BioLabs社)も使用できる。

【0052】

そして、定量PCRにより得られたmiR-21の量のmiR-103の量に対する値を図3に、およびmiR-19の量のmiR-103の量に対する値を図4にそれぞれ示す。

【0053】

図3および図4から、miR-21の量のmiR-103の量に対する値が大きいほどがんである状態と分析することができ、miR-19の量のmiR-103の量に対する値が小さいほど、がんである状態と分析することができることが分かった。

【0054】

なお、図3および図4において点線で囲った部分ががんの状態であると分析できる範囲であり、実線で囲った部分が非がんの状態であると分析できる範囲であり、破線で囲った部分がボーダーの状態、または、閾値と分析できる範囲である。また、図3のmiR-21の値で小さいほうに外れている検体が1点あるが、この検体は図4のmiR-19においてもはずれており、miR-21、miR-19が共通してはずれているため、正常では無いと判断できる。」

さらに、図3及び図4として以下に示したとおりに記載されている。

(ウ)

「【図3】

120

105

0001432358000001.jpg

「【図4】

122

114

0001432358000002.jpg

4 サポート要件についての判断

発明の詳細な説明に記載された内容のうち実施例の記載によると、がん患者(n=6)および非がん患者(n=6)のそれぞれについて尿検体からエクソソームを抽出し、miR-103と、miR-21およびmiR-19の発現を定量PCRで解析したこと、定量PCRにより得られたmiR-21の量のmiR-103の量に対する値として図3、およびmiR-19の量のmiR-103の量に対する値として図4が得られたことが記載されていることまでは理解することができる。

しかしながら、当該実施例の記載は、あくまでがんの種類が明らかではないがん患者(n=6)および非がん患者(n=6)のそれぞれについて尿検体からエクソソームを1回抽出したに止まり、特定の個人ごとに継続的に収集したデータを取得したことや、1回のデータの評価と継続的に収集されたデータ及びその数値の変化動向を関連づけて評価したことやその評価結果は開示されていない。

そして、microRNAは免疫応答の調節や炎症反応など多くの生物学的プロセスに関与するものであること、microRNAもその全容が明らかにされていない遺伝子の複雑な発現調節によって産生されるものであることを踏まえると、非がん患者であるか、がん患者であるかに関わらず血統、人種、性別等の先天的遺伝的要素の影響や、過去の罹患歴など、現在の健康状態や疾患と無関係な後天的要素の影響を受けうるといえる。

そして、そのことは、実施例で示されているがん患者(n=6)および非がん患者(n=6)のそれぞれの尿検体に由来するmiR-21の量のmiR-103の量に対する値、およびmiR-19の量のmiR-103の量に対する値についても、図3の縦軸DeltaCt(差分)が0より大きくなる範囲には、非がん患者、がん患者のmiR-21の量のmiR-103の量に対する値のいずれも含まれ、図4の縦軸DeltaCt(差分)が0を示す線上には、非がん患者、がん患者の「miR-21の量のmiR-103の量に対する値」や「miR-19の量のmiR-103の量に対する値」のいずれも含まれるように、「miR-21の量のmiR-103の量に対する値」や「miR-19の量のmiR-103の量に対する値」は、そもそも非がん患者、がん患者の間で重複しあう関係となるように大きくばらついていることからも明らかである。

また、発明の詳細な説明として「図3および図4において点線で囲った部分ががんの状態であると分析できる範囲であり、実線で囲った部分が非がんの状態であると分析できる範囲であり、破線で囲った部分がボーダーの状態、または、閾値と分析できる範囲である。また、図3のmiR-21の値で小さいほうに外れている検体が1点あるが、この検体は図4のmiR-19においてもはずれており、miR-21、miR-19が共通してはずれているため、正常では無いと判断できる。」(【0054】)と記載されているように、外れ値であるか、ボーダーの状態であるかさえも、miR-21の量のmiR-103の量に対する値、およびmiR-19の量のmiR-103の量に対する値の双方を用いなければ明らかにならず、特許請求の範囲の発明特定事項のとおりの特定の個人について収集されたいずれか一方の値のみからは明らかにすることはできないといえる。

また、実施例に記載された、がん患者(n=6)はいずれかの種類のがんに罹患した者であったとしても、少なくとも「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つ」のがんにも罹患した者であると認めるに足る根拠はない。

したがって、がん患者(n=6)から提供された「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つ」のがんに基づくデータであるということができない図3及び図4に示された両群の値の差異が仮に「がん」の有無に起因するものであると仮定しても、その差異は「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つ」以外の胃がんや肺がん等の他のがんに起因する可能性があることは、発明の詳細な説明に「miR-21は、・・・・、幅広い種類のがん細胞から多く分泌される種類のmicroRNAである。」(【0032】)、「miR-19は、幅広いがん細胞から分泌が抑制される種類のmicroRNAであり」(【0034】)と記載されていることからも明らかであって、理論的に直ちに「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つ」のがんに起因とすると結論づけられるものでもない。

さらに、図3及び図4に示された両群の値の差異が仮に「がん」の有無に起因するものであるとしても、これらは特定の個人ごとに継続的に収集されるデータではないため、せいぜいmiR-21の量のmiR-103の量に対する絶対値が一定のボーダーの状態又は閾値を超えた場合、miR-19の量のmiR-103の量に対する絶対値が一定のボーダーの状態又は閾値を下回った場合には「がん」の可能性があると仮に判断できるにとどまり、miR-21の量のmiR-103の量に対する値が一定のボーダーの状態又は閾値を超えない範囲で特定の個人ごとに継続的に収集されるデータよりも大きくなった場合や、miR-19の量のmiR-103の量に対する値が一定のボーダーの状態又は閾値を下回らない範囲で特定の個人ごとに継続的に収集されるデータよりも小さくなった場合にその絶対値とは無関係に数値の変動のみをもって「がん」と分析できることを導き出せる理論的根拠は示されていない。

したがって、本願の発明の詳細な説明は、実施例で1回の尿検体に由来するmiR-21の量のmiR-103の量に対する値、およびmiR-19の量のmiR-103の量に対する値として図3及び図4のとおりの値が示されたことを超えて、特定の個人ごとに継続的に収集されるデータに関してmiR-21の量のmiR-103の量に対する値が多くなり、miR-19の量のmiR-103の量に対する値が少なくなるいずれか一方のときに特定の個人が非がん状態から「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つである」がん状態になったと評価できることについて理論的に説明したものともそれを裏付けるものともいえない。

そうすると、本願発明の詳細な説明の、「miR-21の量およびmiR-19の量は、miR-103の量と比較した値を用いる。これらの値は、実施例においても後述するように、がんと非がんとの2群間で統計的有意差をもって変動する値であることが、本発明者らの検討により判明した。分析部22によるがんの状態の分析においては、たとえば、特定の個人ごとに継続的に収集したデータを用いることにより、継続的に収集したデータよりもmiR-21の量のmiR-103の量に対する値が多くなった時、および/または、miR-19の量のmiR-103の量に対する値が少なくなった時にがんである状態と分析することができる。」(【0038】~【0039】)などの記載だけでは、特定の個人のmicroRNA量のデータに基づいて、継続的に収集したときに特定の個人のがんと非がんとの健康状態の間で統計的有意差をもって変動することが判明しているということはできないし、本願発明の発明特定事項で特定される「記憶部に記憶された特定の個人のmicroRNA量のデータに基づいて、継続的に収集したデータよりもmiR-21の量のmiR-103の量に対する値が多くなった時、および/または、miR-19の量のmiR-103の量に対する値が少なくなった時」に「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つであるがん」である状態と分析することができると当業者が認識できるともいえない。

以上のとおり、発明の詳細な説明には,当業者が出願時の技術常識に照らし、非侵襲かつ、早期にがんの発見が可能な「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つであるがん」の分析方法、がんの分析システム、プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供するという課題を解決できると認識できる程度の理論的な説明があるともいえず、またそれに代わる具体的な実験条件及び前記課題を解決したことを示す実験結果を伴う実施例の記載もないのであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

第5 実施可能要件について

発明の詳細な説明には、本願発明に係る「尿検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-103と、miR-21および/またはmiR-19とのmicroRNA量を定量」し、「前記記憶部に記憶された特定の個人の」「継続的に収集」された「microRNA量のデータ」が体調や環境的負荷、「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つ」以外の健康状態に応じてどの程度ばらつくものであるのか、miR-21の量のmiR-103の量に対する値が図3及び図4にいうボーダーの状態又は閾値を超えない範囲で特定の個人ごとに継続的に収集されるデータよりも大きくなった場合や、miR-19の量のmiR-103の量に対する値が図3及び図4にいうボーダーの状態又は閾値を下回らない範囲で特定の個人ごとに継続的に収集されるデータよりも小さくなった場合にその絶対値とは無関係に数値の変動のみをもって「がん」と分析するのかしないのか、どのようにして「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つであるがん」の場合とそれ以外の場合を判別するのかについて何ら具体的に開示するところがない。

また、そのような判断に係る処理を具現することができる具体的な手段は出願時の技術常識に基づいても明らかではないといえる。

以上からすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。

第6 審判請求人の主張に対して

審判請求人が、令和7年10月30日提出の意見書においてした主張1及び2とそれらに対する合議体の判断は次のとおりである。

1 統計的有意性に関する指摘は解消されたこと

図3および図4には、十字のような表示にて信頼区間が示されていること、および、上記のように「比較Ct法(ΔΔCt法)においてmiR-103の発現量に対するmiR-21の発現量が16以上であり、かつ、比較Ct法(ΔΔCt法)においてmiR-103の発現量に対するmiR-19の発現量が-7以下である」であることを規定した場合には、信頼区間の中心値よりもmiR-21のもので大きい値、miR-19のもので小さい値を設定していることから、信頼区間に示された統計的有意性よりもシビアな値を設定しているといえ、統計的有意性に関する指摘は解消された。

特定の個人についてのデータを収集する請求項4~6に関して、図3および図4に示すデータのようにmiR-103の発現量に対するmiR-21の発現量が16以上の場合など、値が大きい場合にがんである状態と判断することができ、また、miR-103の発現量に対するmiR-19の発現量がー7以下の場合など、値が小さい場合にがんである状態と判断することができるため、特定の個人についてこれらのデータを収集し、miR-103の発現量に対するmiR-21の発現量が大きくなった場合、miR-103の発現量に対するmiR-19の発現量が小さくなった場合、がんである状態と判断することができる。

2 データに多少のばらつきがあったとしても、データの傾向が顕著に出ていれば、非侵襲で早期のがんの発見という目的を達成可能であること

本願は、明細書段落[0005]に記載されているように、「現在、がんの検査としてPET検査、X線検査、腫瘍マーカー検査等が行われているが、がんの大きさが5mm以上とならないと検出できない一方、がんの大きさが0.1mm程度からすでに転移が生じる可能性についても報告されている」ことに鑑み、非侵襲で早期のがんの発見を目的としている。さらに、がんの診断・治療を鑑みると、生理検査等により確定診断を行い、手術・投薬等を行うという現状がある。そのため、非侵襲で早期のがんの発見を行うことにより、早期の確定診断や治療が可能となることから、本願の方法によるデータに多少のばらつきがあったとしても、データの傾向が顕著に出ていれば、非侵襲で早期のがんの発見という目的を達成可能である。

3 主張1について

請求人は、「図3および図4に示すデータのようにmiR-103の発現量に対するmiR-21の発現量が16以上の場合など、値が大きい場合にがんである状態と判断することができ、また、miR-103の発現量に対するmiR-19の発現量が-7以下の場合など、値が小さい場合にがんである状態と判断することができる」と主張するが、「がん患者(n=6)および非がん患者(n=6)のそれぞれについて尿検体をFTAマイクロカードに付着または吸着させた」という患者毎に1回の測定が行われたことに基づくデータと、特定の個人ごとに継続的に収集したデータとは、尿中のmiR-21の量またはmiR-19の量が、継続的にデータを収集するに際して、体調や環境的負荷、「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つ」以外の健康状態に応じてどの程度変動するかについて出願時点において技術常識といえるものは何ら存在しないことを考慮すると同列に論じられるものではない。

また、「miR-103の発現量に対するmiR-21の発現量が16以上」、「miR-103の発現量に対するmiR-19の発現量が-7以下」はいずれも本願発明の発明特定事項ではないし、がんである状態であるか否かを判断するだけでなく、特許請求の範囲に規定されているとおり「卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫のうちの少なくとも1つ」のがんであるか否かを分析しなければならないから、請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものであるともいえない。

4 主張2について

本願発明は、特定の個人ごとに継続的に収集したデータを用いて分析するものであり、本願の方法については、多少のばらつきどころか、具体的な実験条件及び前記課題を解決したことを示す実験結果を伴う実施例の記載は何ら存在しない。

また、仮に図3及び図4に記載されたデータが参酌されるべきものであるとしても、図3の縦軸DeltaCt(差分)が0より大きくなる範囲には、非がん患者、がん患者の「miR-21の量のmiR-103の量に対する値」のいずれも含まれ、図4の縦軸DeltaCt(差分)が0を示す線上には、非がん患者、がん患者の「miR-19の量のmiR-103の量に対する値」のいずれも含まれるように、両者はそもそも重複しあう関係にあり、統計的に有意であることが明らかな程度にデータの傾向が顕著に出ているとはいえない。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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