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Trademark Appeal Case

光起電力セルの進歩性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024000523
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本願は、2019年(令和元年)6月28日を国際出願日とする外国語特許出願であって(優先権主張外国庁受理 2018年(平成30年)6月29日 フランス)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。

令和3年 2月24日 :翻訳文の提出

令和5年 3月31日付け:拒絶理由通知書

同年 7月10日 :意見書、手続補正書の提出

同年 9月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)

(同月12日 :原査定の謄本の送達)

令和6年 1月12日 :審判請求書、手続補正書の提出

令和7年 4月24日付け:拒絶理由通知書

同年 8月 6日 :意見書、手続補正書の提出

以下、2018年(平成30年)6月29日を「優先日」という。

第2 本願発明

1 本願発明の認定

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和7年8月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。

「光起電力セル(1)であって:

- ガラス又はポリマー材料から作製された支持体(2)、

- カソードを構成し、前記支持体(2)を覆う酸化インジウムスズの層(3)、

- 前記カソード(3)を覆う、酸化亜鉛又はアルミニウムドープ酸化亜鉛の第一の界面層(4)、

- 前記第一の界面層(4)を覆う光起電力活性層(5)、

- ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムとのポリマーブレンドを含み、前記光起電力活性層(5)を覆う第二の界面層(6);

- アノードを構成し、前記第二の界面層(6)を覆う銀の層(7);

を備え、前記セルは、前記第二の界面層が、

電気的に

連続的であり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムに基づくマイクロメートル単位の有機繊維状構造、及び80nm~100nmの平均厚さを有することを特徴とする、

光起電力セル(1)。」

2 本願発明の分説

検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Gまでに分説する。また、参考図として、本願の【図2】を掲載する。

(構成X)光起電力セル(1)であって:

(構成A)- ガラス又はポリマー材料から作製された支持体(2)、

(構成B)- カソードを構成し、前記支持体(2)を覆う酸化インジウムスズの層(3)、

(構成C)- 前記カソード(3)を覆う、酸化亜鉛又はアルミニウムドープ酸化亜鉛の第一の界面層(4)、

(構成D)- 前記第一の界面層(4)を覆う光起電力活性層(5)、

(構成E)- ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムとのポリマーブレンドを含み、前記光起電力活性層(5)を覆う第二の界面層(6);

(構成F)- アノードを構成し、前記第二の界面層(6)を覆う銀の層(7);

を備え、

(構成G)前記セルは、前記第二の界面層が、

電気的に

連続的であり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムに基づくマイクロメートル単位の有機繊維状構造、及び80nm~100nmの平均厚さを有することを特徴とする、

(構成X)光起電力セル(1)。

参考図(【図2】)

112

139

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3 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載

本願の明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある(下線は、合議体による。)。

「【0001】

本発明は、光起電力セル、特に有機光起電力セル(通常は、「Organic Photovoltaic Cells」に対する英語の頭文字であるOPCと称される)の製造全般に属し、それに関する。

【0002】

本発明の目的のために、有機光起電力セルは、少なくとも活性層が有機分子から成る光起電力セルとして定義される。

【背景技術】

【0003】

有機セルは、光起電力装置の分野において実際に関心を集めている。実際、光起電力セルに一般的に用いられている有機半導体を置き換えることができれば、実現可能なシステムを増加させ、したがって用途の可能性を広げることが可能となる。有機光起電力セルの開発は、さらに市販可能な有機光起電力セルの開発は、現時点での主要な課題である。

【0004】

近年、有機光起電力セルの開発は、その実装におけるインクジェット印刷技術の使用によって進化してきた(非特許文献1、2)。さらに、2014年には、本願出願人は、これらのセルの層の印刷部分にこの技術を用いた光起電力セルの製造方法を開発した(非特許文献3)。

【0005】

最初は、多くの研究が、通常はPEDOT:PSSの略語で称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムとのポリマー混合物を含むインクのインクジェット印刷による界面層の作製に集中していた。その後、この分野における研究は、一方は電子供与体で他方は電子受容体である2つの有機材料から通常は構成される光起電力活性層のインクジェット印刷に集中した。有機由来の活性層の場合、従来、P3HT:PCBMが用いられる(P3HTは、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)の略語であり、PCBMは、[6,6]-フェニル-C71-メチルブタノエートの略語である)。

【0006】

従来の構造を有する光起電力セルでは、PEDOT:PSS層が、ITO(酸化インジウムスズの略語である)の上、及び、例えばP3HT:PCBMをベースとする活性層の下に配置され、一方逆構造を有する光起電力セルでは、PEDOT:PSS層は、活性層の上、及びアノードとして作用する上側電極の下に印刷される。逆構造の光起電力セルは、従来構造のセルよりも空気中で安定であり、変換効率も高いという利点を有する。

【0007】

本発明の目的のために、光起電力セルの変換効率とは、ある任意のスペクトル分布及び強度における入射光パワーに対する、セルによって得られる最大電力の比を意味する。したがって、PEDOT:PSS層の1cm

2

の面に対して銀ナノワイヤを直接インクジェット印刷することによって、4.3%の変換効率を有するOPVセルを得ることが可能であった(非特許文献4)。しかし、

そのような効率が有望ではあるものの、それは、セルの非常に狭い領域上でしか実現されない

【先行技術文献】

【非特許文献】

【0008】

【非特許文献1】Sharaf Sumaiya, Kamran Kardel, and Adel El-Shahat. "Organic Solar Cell by Inkjet Printing - An Overview. " 53, Georgia, USA : Technologies, 2017, Vol. 5.

【非特許文献2】Peng, X., Yuan, J., Shen, S., Gao, M., Chesman, A. S. R., & Yin, H. (2017). "Perovskite and Organic Solar Cells Fabricated by Inkjet Printing: Progress and Prospects", Adv. Funct. Mater. 2017, 1703704

【非特許文献3】DRACULA TECHNOLOGIES' European patent application EP2960957, filed on 25 June 2015 and published on 30 December 2015.

【非特許文献4】Maisch, P., Tam, K. C., Lucera, L., Egelhaaf, H. J., Scheiber, H., Maier, E., & Brabec, C. J. (2016). "Inkjet printed silver nanowire pe

rcolation networks as electrodes for highly efficient semitransparent organic solar cells". Organic Electronics: Physics, Materials, Applications, 38, 139-143. https://doi.org/10.1016/j.orgel.2016.08.006.

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0009】

先行技術の欠点を克服するために、本願出願人は、光起電力セルの製造方法を開発し、この方法では、

透明電極で被覆された基材に塗布されたすべての層が、インクジェット印刷によって適用され

、このようにして適用された層をカスタマイズすることが可能となる。

【0010】

有機光起電力セルの

ある特定の層をインクジェット印刷を用いて作製することは、既に知られている

【課題を解決するための手段】

【0011】

より詳細には、本発明は:

- ガラス又はポリマー材料から作製された支持体、

- カソードを構成し、前記支持体を覆う酸化インジウムスズの層、

- 前記カソードを覆う、酸化亜鉛又はアルミニウムドープ酸化亜鉛の第一の界面層、

- 前記第一の界面層を覆う光起電力活性層、

- ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムとのポリマーブレンドを含み、前記光起電力活性層を覆う第二の界面層、

- アノードを構成し、前記第二の界面層を覆う銀の層、

を備えた光起電力セルであって、前記セルは、前記第二の界面層が、連続的であり、有機繊維状構造、及び30nm~120nmの平均厚さを有することを特徴とするセルに関する。

【0012】

第二の界面層の有機繊維状構造は、好ましくは、例えば原子間力顕微鏡を用いて観察することができるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムに基づくマイクロメートル単位の有機繊維の存在によって定められる非晶質結晶構造であってよいことには留意されたい。」

「【0061】

本発明に従うOPVセルC2~C16は、光起電力セルのPEDOT:PSS材料から作製されたHTL(「hole transport layer(ホール輸送層)」の略語)の印刷の問題が解決されており:

セル、又は可撓性プラスチック若しくは剛性ガラス基材上に存在する第一の透明導電性電極上に印刷した4つの層から構成される、又はいかなる材料も存在しない可撓性プラスチック若しくは剛性ガラス基材上に印刷した5つの層から構成される有機モジュールを作製することができる

ことを示している。

【0062】

本発明は、インクジェット印刷プロセスと適合するPEDOT-PSS溶液を処方することにある。この処方によって、有利には、従来からETL(「electron transport layer(電子輸送層)」の略語)に用いられている高導電性PEDOT-PSSを、HTL層を得るために提供することが可能となる。

【0063】

インクジェット印刷プロセスをこの処方と組み合わせることによって、印刷層の厚さを制御すること、材料の電気的及び光学的特性を最適化することが可能となるが、

さらに、電荷の輸送に有利となるように実質的に垂直方向に本質的に配向される有機繊維を特に呈する非晶質繊維状有機結晶構造の実現を伴う第二の界面層の構造も可能となる

。本発明の補助で作製されるモジュールの変換効率は、今日までのところ依然として他に類を見ない。したがって、6つの相互接続されたセルの一連の10のモジュールを製造することが可能であり、各モジュールは、第一の構造化ITO層上に印刷された4つの層から成り、合計で3.5cm

2

の活性層に相当し、1 SUN AM 1.5の下、平均変換効率は5.7%、最大変換効率は6.2%である。」

第3 当審において通知した拒絶の理由の概要

本願発明は、本件補正前の請求項1(令和6年1月12日に提出された手続補正書による補正後のもの)に係る発明を補正したものであるところ、当審において令和7年4月24日付け拒絶理由通知書で本件補正前の請求項1に係る発明に対して通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうちの理由4(進歩性の欠如)の概要は、次に示すとおりである。

理由4(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明及び引用文献9に記載された技術事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献一覧>

1.中国特許出願公開第102299264号明細書

9.OH, Jin Young et al., Effect of PEDOT Nanofibril Networks on the Conductivity, Flexibility, and Coatability of PEDOT:PSS Films, ACS Applied Materials & Interfaces, April 8, 2014, Vol 6, Issue 9, pp.6954-6961

第4 当合議体の判断

当合議体は、以下に示すとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。

1 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定

(1) 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定

ア 引用文献1に記載された事項

当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に発行された引用文献1(中国特許出願公開第102299264号明細書)には、次の事項が記載されている。括弧内の翻訳は、当合議体が作成したものであり、翻訳の下線は当合議体が付したものである。他の文献についても同様である。

(ア) 技術分野([0001])、背景技術([0002]~[0005])

18

144

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5

18

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...(中略)...

33

145

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28

145

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(技術分野

[0001] 本発明は、太陽電池の技術分野に関し、特に有機太陽電池の製造方法及びその方法によって製造された有機太陽電池に関する。

背景技術

...(中略)...

[0004] 有機太陽電池技術は、最も魅力的で安価な太陽電池技術の一つと考えられている。一方では、有機材料は合成コストが低く、機能の調整が容易で、柔軟性および成膜性が優れている。他方では、有機太陽電池の製造工程は、無機材料のスパッタリング、化学気相成長、高純度シリコン結晶の成長、ドーピングなどの薄膜形成技術や高価な物理的・化学的加工手段を必要とせず、スピンコートやインクジェット印刷などの成膜技術を利用することができる。これにより、大面積製造が容易で、製造工程が比較的簡単であり、柔軟な基板の使用が可能で、環境に優しく、軽量で携帯性に優れ、デバイスの製造コストが低いという特徴を有している。

[0005] 近年、有機太陽電池の材料や構造に関する研究が進み、変換効率は6~7%に達している。しかし、現在報告されている高性能な有機太陽電池の多くは、電極や修飾層の形成に真空蒸着法を使用しており、この方法は工程が複雑で時間がかかり、コストやエネルギー消費が高く、大面積製造に不向きであるため、有機太陽電池の「低コスト・簡便・量産性」という利点を損なう要因となっている。)」

(イ) 発明の概要([0006]~[0030])

34

144

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(発明の概要

[0006] 本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術の真空蒸着法の欠点を鑑み、真空蒸着工程を必要としない有機太陽電池の製造方法を提供することであり、製造時間が短く、工程が簡単で、コストが低く、エネルギー消費量が少なく、大面積製造に適しているという特徴を有する。

[0007] 本発明が解決しようとするさらなる技術的課題は、上記の製造方法により得られる有機太陽電池を提供することである。)

...(中略)...

28

145

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([0023] 上記目的を達成するため、本発明によれば、以下を含む有機太陽電池も提供される。

[0024] 透明材料を基板とし、該基板上に帯状の透明導電性酸化物膜をエッチングにより形成した基板。基板の透明導電性酸化膜上に湿式法により順次積層された、電子輸送能を有する陰極修飾層、電子供与性材料と電子受容体材料の混合物からなる光活性層、正孔輸送能を有する陽極修飾層、導電性ペーストを硬化させて形成した陽極層。)

(後略)」

(ウ) 具体的な実施形態([0034]~[0047]、図1~図2)

38

144

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(具体的な実施形態

[0034] 本発明の目的、技術的解決法及び利点をより明確に理解するために、添付の図面及び実施形態を参照して本発明を更に詳細に説明する。

[0035] 図1は

有機太陽電池

の構造を示す概略図である。図1に示すように、

有機太陽電池は、下から上に向かって、基板100、陰極層200、陰極修飾層300、光活性層400、陽極修飾層500及び陽極層600を含む

。陰極層200及び陽極層600は、配線を介して出力装置に接続され、この有機太陽電池は、出力装置に電力を供給することができる。)」

68

138

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5

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6

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50

144

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([0036] 以下に、有機太陽電池の各構成要素について詳細に説明する。

[0037] 基板100は、有機太陽電池デバイスの支持基板として機能し、透明材料で構成される。例えば、光透過性を有するガラス、金属、シリコン、プラスチック又は有機合成材料などが用いられる。

[0038]

陰極層200は、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素スズ酸化物(FTO)又はアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)などの透明導電性酸化膜であり

、陰極層200の厚さは80~150nmである。有機太陽電池の製造においては、前述したシリコン等の基板100の片面にゾルゲル法等の湿式法により透明導電性酸化物膜を作製したり、ITO透明導電性ガラス、FTO透明導電性ガラス等の透明導電性ガラスを使用し、透明導電性ガラスのガラス層及び透明導電性酸化物層を基板100及び陰極層200として用いることができる。現在、透明導電性ガラスは市販されており、市場から直接購入して有機太陽電池の製造に用いることができる。

[0039] 陰極修飾層300の役割は、有機太陽電池の陰極の仕事関数を光活性層中の電子供与体及び受容体材料のエネルギー準位とより適合させることであり、陰極層200の表面をより平滑にし、キャリアの収集を促進し、有機太陽電池デバイスの変換効率を向上させることである。この陰極修飾層300に使用される材料は、電子輸送特性を有する無機金属酸化物であり、例えばCs

2

O

3

、ZnO、TiO

2

、SnO

2

、CoOなどが挙げられる。この層の厚さは20~100nmである。

[0040] 光活性層400は、有機太陽電池の重要な構成要素であり、この層は電子供与体及び電子受容体材料の混合物で構成され、強い光吸収能力と高いキャリア移動度を有している。光活性層400内に電荷分離機能を有するヘテロ接合を形成するためには、使用される電子供与体材料と電子受容体材料のエネルギー準位が互いに適合している必要がある。これらの材料としては、共役高分子材料とフラーレン及びその誘導体が好ましい。例えば、電子供与体材料としては、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)、側鎖がC6~C12のアルキル基を持つポリチオフェン誘導体、ポリ[2-メトキシ-5-(2′-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン](MEH-PPV)、ポリ[2-メトキシ-5-(3′,7′-ジメチルオクシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン](MDMO-PPV)などのポリフェニレンビニレン(PPV)誘導体が挙げられる。電子受容体材料としては、フラーレン誘導体である[6,6]-C60-フェニル酪酸メチルエステル(PC60BM)又は[6,6]-C70-フェニル酪酸メチルエステル(PC70BM)などが用いられる。光活性層400の厚さは30~300nmであり、使用される電子供与体材料と電子受容体材料の質量比は1:4~4:1である。)

34

144

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([0041] 陽極修飾層500の役割は、陽極の仕事関数を光活性層400内の電子供与体及び電子受容体材料のエネルギー準位とより適合させることであり、これはキャリアの収集に有益であり、それによって有機太陽電池の変換効率が向上する。また、光活性層400を保護し、デバイスの安定性を向上させることもできる。

陽極修飾層500の厚さは20~100nmであり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)、ポリエチレンオキシド(PEO)などの有機物や高分子又はNiO、MoO

3

、V

2

O

5

、WO

3

などの金属酸化物などの正孔輸送特性を有する材料である

。)

55

145

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([0042]

陽極層600に用いられる材料は、

比較的低温又は光照射下で硬化可能な導電性ペーストであり、例えば、

低温熱硬化型導電性ペースト

や光熱硬化型導電性ペースト等

が挙げられる

が、これらに限定されない。

低温熱硬化型導電性ペーストは、一般に、ミクロンサイズの金粉又は銀粉などの金属粉と、高分子樹脂、溶剤、添加剤などから構成される混合物が使用され、その中でも金属粉としては銀粉が好ましい

。混合物中の成分の質量分率は、金属粉末60~80%、溶剤10~30%、高分子樹脂0.1~5%、添加剤9.9~15%であり、金属粉末と溶剤の質量分率の合計は90%である。光熱硬化ペーストは、一般に、ミクロンサイズの金粉又は銀粉などの金属粉と、高分子樹脂、溶剤、光開始剤、光安定剤、添加剤などから構成される混合物を使用し、その中でも金属粉としては銀粉が好ましい。混合物中の各成分の質量分率は、金属粉末60~70%、溶剤10~20%、高分子樹脂0.1~10%、光開始剤及び光安定剤1~5%、添加剤5~18.9%であり、金属粉末と溶剤の質量比の合計は80%である。陽極層600の厚さは2~10μmである。)

(後略)」

(エ) 実施例1([0048]~[0054])

83

144

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([0048]実施例1:

[0049] (1)

ガラス基板上にゾルゲル法で厚さ80nmのITO透明導電膜を作製し、これを一定幅の薄帯状にエッチングし、

洗浄、乾燥して使用準備を整える。

[0050] (2)

ゾルゲル法で製造したZnOナノ粒子をクロロベンゼンに50mg/mLの濃度で分散させ、ITO透明導電膜上に4500rpm(回転数/分)の回転速度で30秒間スピンコートして厚さ20nmのZnO層を形成し、180°Cで35分間加熱して固化させた後、冷却する

[0051] (3)

P3HTとPCBMを質量比4:1で均一に混合し、総濃度15mg/mLのクロロベンゼン溶液をZnO層に滴下し、

スピンコーターの回転数を4000rpm、スピン時間を30秒に制御して、

厚さ60nmの光活性層を得た後、グローブボックスに入れて120°Cで15分間加熱して固化させた後、冷却する

[0052] (4)

光活性層の上にPEDOT:PSS層をスピンコートし、

スピンコーターの回転数を1500rpmに制御し、スピン時間を20秒に設定し、

フィルムの厚さを約80nmにし、150°Cで30分間加熱して固化させ、冷却する

[0053] (5)

スクリーン印刷により、PEDOT:PSS層上に導電性銀ペースト層を形成する

。このペーストは、質量比で、粒径1μmの銀粉末60%、ジメチルアジペート30%、エポキシ樹脂1%、可溶性フェノール樹脂9%を含み、

厚さ2μmのフィルムを形成し、グローブボックス内で100°Cで40分間加熱して硬化させる

[0054] (6)最後に、

装置全体をグローブボックスに入れてアニール処理を行い、有機太陽電池を得る

。)」

イ 引用発明の認定

前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、実施例1に係る有機太陽電池に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている(引用発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。

<引用発明>

「有機太陽電池であって、([0035]・[0054])

有機太陽電池は、下から上に向かって、基板100、陰極層200、陰極修飾層300、光活性層400、陽極修飾層500及び陽極層600を含み、([0035])

陰極層200は、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素スズ酸化物(FTO)又はアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)などの透明導電性酸化膜であり、([0038])

陽極修飾層500の厚さは20~100nmであり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)、ポリエチレンオキシド(PEO)などの有機物や高分子又はNiO、MoO

3

、V

2

O

5

、WO

3

などの金属酸化物などの正孔輸送特性を有する材料であり、([0041])

陽極層600に用いられる材料は、低温熱硬化型導電性ペーストが挙げられ、低温熱硬化型導電性ペーストは、一般に、ミクロンサイズの金粉又は銀粉などの金属粉と、高分子樹脂、溶剤、添加剤などから構成される混合物が使用され、その中でも金属粉としては銀粉が好ましく、([0042])

以下の製造工程で得られる有機太陽電池。([0049]~[0054])

ガラス基板上にゾルゲル法で厚さ80nmのITO透明導電膜を作製し、これを一定幅の薄帯状にエッチングし、([0049])

ゾルゲル法で製造したZnOナノ粒子をクロロベンゼンに50mg/mLの濃度で分散させ、ITO透明導電膜上に4500rpm(回転数/分)の回転速度で30秒間スピンコートして厚さ20nmのZnO層を形成し、180°Cで35分間加熱して固化させた後、冷却し、([0050])

P3HTとPCBMを質量比4:1で均一に混合し、総濃度15mg/mLのクロロベンゼン溶液をZnO層に滴下し、厚さ60nmの光活性層を得た後、グローブボックスに入れて120°Cで15分間加熱して固化させた後、冷却し、([0051])

光活性層の上にポリPEDOT:PSS層をスピンコートし、フィルムの厚さを約80nmにし、150°Cで30分間加熱して固化させ、冷却し、([0052])

スクリーン印刷により、PEDOT:PSS層上に導電性銀ペースト層を形成し、厚さ2μmのフィルムを形成し、グローブボックス内で100°Cで40分間加熱して硬化させ、([0053])

装置全体をグローブボックスに入れてアニール処理を行う。([0054])」

(2) 引用文献9に記載された事項及び引用文献9技術事項の認定

ア 引用文献9に記載された事項

当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に発行された引用文献9(Effect of PEDOT Nanofibril Networks on the Conductivity, Flexibility, and Coatability of PEDOT:PSS Films)には、次の事項が記載されている。

(ア) はじめに

「INTRODUCTION

Conductive polymers have been widely investigated as a potential new type of flexible transparent electrode. Of these, particular interest has been given to poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(styrenesulfonate) (PEDOT:PSS) because the aqueous solution used for its coating is environmentally friendly and its electrical properties are relatively stable in ambient air. At present, PEDOT:PSS aqueous solutions are commercialized under trade names of Baytron, Clevios, Orgacon, etc., with many different formulations available offering a range of viscosities and conductivities. These products have been investigated as potential replacements for brittle indium-tin oxide (ITO) electrodes and have already been widely used as a hole-transporting layer in optoelectronic devices because of the fact that their high work function facilitates the injection/extraction of holes.」(6954頁左欄1~17行)

(はじめに

導電性ポリマーは、新しいタイプのフレキシブル透明電極の可能性として広く研究されてきた。これらの中でも、とりわけ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)は、コーティングに使用される水溶液が環境に優しく、その電気的特性が大気中でも比較的安定しているため、特に注目されている。現在、PEDOT:PSS水溶液は、Baytron、Clevios、Orgaconなどの商標名で市販されており、さまざまな粘度と導電性を提供するさまざまな配合が用意されている。これらの製品は、脆いインジウムスズ酸化物(ITO)電極の潜在的な代替品として研究されており、高い仕事関数によって正孔の注入/抽出が容易になるため、光電子デバイスの正孔輸送層としてすでに広く使用されている。)

「In this study, a small-molecule nonionic surfactant (Triton X-100) was added to a PEDOT:PSS solution in order to facilitate the deposition of PEDOT:PSS nanofibril thin films onto hydrophobic substrates. The conductivity, electrical stability on mechanical bending, and coatability of these films are discussed herein. Also, flexible polymer solar cells incorporating the film were assessed with a view to their practical application.」(6956頁左欄5~11行)

(本研究では、

PEDOT:PSS ナノフィブリル薄膜の疎水性基板への堆積を容易にするために、低分子の非イオン性界面活性剤(Triton X-100)をPEDOT:PSS溶液に添加した

。これらのフィルムの導電性、機械的曲げに対する電気的安定性及びコーティング性についてここで検討する。また、実用化を視野に入れ、このフィルムを組み込んだフレキシブルポリマー太陽電池を評価した。)

(イ) 結果と考察

「RESUTS AND DISCUUSION」(6956頁左欄12行)

(結果と考察)

「Figure 2c shows transmittance of the PEDOT:PSS films containing Triton X-100 (f

surf

= 1.0 wt %) with respect to the film thickness. The thickness was controlled by repeated spin coating after the previous PEDOT:PSS layer had dried. In all cases, a very similar relationship between transmittance and thickness was discernible. The 40-nm-thick thin film was highly transparent (96% without glass and 87% with glass) to visible light. Figure 2d shows the sheet resistance as a function of the film thickness at a wavelength of 550 nm, in which the sheet resistance of the 40-nm-thick film was 240 Ω/□ at 96% transmittance (87% with glass) and that of the 400-nm-thick film was 32 Ω/□ at 65% transmittance (55% with glass). These values are the same as those previously obtained by combining DMSO and Zonyl surfactants.」(6956頁右欄28~41行)

(図2cは、Triton X-100(f

surf

=1.0wt%)を含むPEDOT:PSSフィルムの透過率をフィルムの厚さに対して示してる。厚さは、前のPEDOT:PSS層が乾燥した後、スピンコーティングを繰り返すことにより制御した。いずれの場合も、透過率と厚さの間には、非常によく似た関係が認められた。厚さ40nmの薄膜は、可視光に対して非常に透明であった(ガラスなしで96%、ガラスありで87%)。図2dは、波長550nmでのシート抵抗を膜厚の関数として示している。厚さ40nmのフィルムのシート抵抗は、透過率96%(ガラスありで87%)で240Ω/□であり、厚さ400nmのフィルムのシート抵抗は、透過率65%(ガラスありで55%)で32Ω/□であった。これらの値は、以前にDMSOとZonyl界面活性剤を組み合わせて得られた値と同じある。)

「Figure 2

99

144

0001432447000019.jpg

「PEDOT:PSS films are known to have a bicontinuous structure that arises as a result of microphase separation during the coating process. Consequently, in order to achieve high conductivity, the PEDOT phase should consist of nanoscale microdomains with a good network structure, sharp interfaces with the PSS phases, and a well-developed crystal structure. These two latter aspects are inherently linked because a well-developed crystal naturally creates sharp interfaces. The effect of the surfactant on the morphology of the PEDOT phase was therefore investigated by atomic force microscopy (AFM) and transmission electron microscopy (TEM). The PSS phase was partially dissolved with methanol in order to obtain clearer images of the PEDOT phase. The PEDOT phase with surfactant showed a nanofibril structure, while the PEDOT phase without surfactant showed the typical aggregation of nanosized granules. In the TEM images, the darker regions represent areas of greater electron density, in this case correlating with the self-assembled PEDOT phase, which has a greater density than the amorphous phase. The notable difference between the two was that the pristine PEDOT:PSS film contained granular PEDOT phases (Figure 5a,b), whereas the surfactant-modified films formed a network of nanofibrils (~30 nm wide; Figure 5c,d). AFM phase images of these PEDOT:PSS films are shown in Figure S4 in the SI. The effect of methanol washing on the morphology of PEDOT was checked. AFM and TEM images of the PEDOT phase obtained prior to washing the PSS phase with methanol are provided in Figure S5 in the SI, which shows the same morphologies as those observed in Figure 5. This indicates that formation of the nanofibrils was caused by the surfactant not by methanol washing. Unfortunately, the average length of the nanofibrils could not be determined because they were simply too dense. The remarkable improvement in the conductivity observed with surfactant addition is attributed to the nanofibril-based network of the PEDOT phase.」(6956頁右欄下から6行~6957頁右欄16行)

(

PEDOT:PSSフィルムは、コーティングプロセス中にミクロ相分離が起こることで生じる双連続構造を持つことが知られている。このため、高い導電性を実現するためには、PEDOT相は、良好なネットワーク構造を持つナノスケールのミクロドメイン、PSS相との鮮明な界面、十分に発達した結晶構造で構成されている必要がある

。これらの後者の二つの側面は、十分に発達した結晶が自然に鋭い界面を形成するため、本質的に関連している。そのため、界面活性剤がPEDOTの形態に与える影響を、原子間力顕微鏡(AFM)と透過型電子顕微鏡(TEM)で調査した。PEDOT相のより鮮明な画像を得るために、PSS相をメタノールで部分的に溶解した。

界面活性剤を含むPEDOT相はナノフィブリル構造を示した一方、界面活性剤を含まないPEDOT相は、典型的なナノサイズの粒子の凝集体を示した

。TEM画像では、暗い領域は電子密度が高い領域を表し、この場合、自己組織化PEDOT相と相関しており、自己組織化PEDOT相は非晶質相よりも密度が高い。

両者の顕著な違いは、無改質のPEDOT:PSSフィルムには粒状のPEDOT相が含まれていた

(図5a、b)

のに対し、界面活性剤で改質したフィルムはナノフィブリルのネットワーク(幅約30nm

、図5c、d

)を形成した点である

。これらのPEDOT:PSSフィルムのAFM相画像は、SIの図S4に示されている。メタノール洗浄がPEDOTの形態に与える影響を確認した。PSS相をメタノールで洗浄する前のPEDOT相のAFM及びTEM画像は、SIの図S5に示されており、図5で観察されたものと同じ形態を示している。これは、ナノフィブリルの形成がメタノール洗浄ではなく界面活性剤によって引き起こされたことを示している。残念ながら、

ナノフィブリルの平均長さは、密度が高すぎたため、決定できなかった

界面活性剤の添加により観察される導電性の顕著な改善は、PEDOT相のナノフィブリルベースのネットワークに起因すると考えられる

。)

「Figure 5

155

144

0001432447000020.jpg

「To verify the coatability and enhanced conductivity by methanol washing, inverted organic solar cells with an active layer area of 5.4 mm

2

were fabricated from PEDOT:PSS films modified with Triton X-100 (f

surf

= 1.0 wt %). The device was made by a consecutive coating: glass/ITO/ZnO/P3HT:ICBA/PEDOT:PSS. Note that the hydrophobic photoactive layer (P3HT:ICBA) prevents the use of pristine PEDOT:PSS films, while a glass substrate was used for the high annealing temperature (250°C) required for a ZnO layer. Figure 7 shows the current density-voltage (J-V) curves of these inverted organic solar cells after partial washing of the PSS phase with methanol. This demonstrates that, without methanol washing, the power conversion efficiency (PCE) of the device was quite poor (see the SI, Figure S7), whereas after methanol washing, the J-V curve was typical of polymer cells and the PCE value was increased to 3.14%. It is notable that a silver electrode was not used in this inverted cell and, instead, the enhanced conductivity afforded by methanol washing allowed PEDOT:PSS to function as the electrode.」(6958頁左欄9行~右欄2行)

(コーティング性とメタノール洗浄による導電性の向上を検証するために、

Triton X-100(f

surf

=1.0wt%)で修飾したPEDOT:PSSフィルムから、活性層面積が5.4mm

2

の反転型有機太陽電池を作成した

デバイスは、ガラス/ITO/ZnO/P3HT:ICBA/PEDOT:PSSの連続コーティングによって作成した

。疎水性光活性層(P3HT:ICBA)のために、無改質のPEDOT:PSSフィルムは使用できないが、ZnO層に必要な高温アニール温度(250°C)のためにガラス基板が使用されていることに注意。図7は、PSS相をメタノールで部分洗浄した後のこれらの反転型有機太陽電池の電流密度-電圧(J-V)曲線を示す。これは、メタノール洗浄を行わない場合、デバイスの電力変換効率(PCE)が非常に低いことを示す(SI、図S7を参照)。一方、メタノール洗浄後は、J-V曲線がポリマーセルの典型的なものとなり、PCE値が3.14%に増加した。この反転セルでは銀電極が使用されず、代わりにメタノール洗浄によって向上した導電性により、PEDOT:PSSが電極として機能できることは注目に値する。)

「Figure7

95

127

0001432447000021.jpg

イ 引用文献9技術事項の認定

前記(ア)に摘記した引用文献9の記載事項を総合すると、引用文献9には、PEDOT:PSSナノフィブリル薄膜に関して、次の技術事項(以下「引用文献9技術事項」という。)が記載されている

<引用文献9技術事項>

「PEDOT:PSSナノフィブリル薄膜の疎水性基板への堆積を容易にするために、低分子の非イオン性界面活性剤(Triton X-100)をPEDOT:PSS溶液に添加し、(6956頁左欄5~8行)

PEDOT:PSSフィルムは、コーティングプロセス中にミクロ相分離が起こることで生じる双連続構造を持つことが知られており、このため、高い導電性を実現するためには、PEDOT相は、良好なネットワーク構造を持つナノスケールのミクロドメイン、PSS相との鮮明な界面、十分に発達した結晶構造で構成されている必要があり、(6956頁右欄下から6行~最終行)

界面活性剤を含むPEDOT相はナノフィブリル構造を示した一方、界面活性剤を含まないPEDOT相は、典型的なナノサイズの粒子の凝集体を示し、(6957頁左欄7~10行)

両者の顕著な違いは、無改質のPEDOT:PSSフィルムには粒状のPEDOT相が含まれていたのに対し、界面活性剤で改質したフィルムはナノフィブリルのネットワーク(幅約30nm)を形成した点であり、(6957頁左欄最下行~同右欄4行)

ナノフィブリルの平均長さは、密度が高すぎたため、決定できなかったが、界面活性剤の添加により観察される導電性の顕著な改善は、PEDOT相のナノフィブリルベースのネットワークに起因すると考えられ、(6957頁右欄12~16行)

Triton X-100(f

surf

=1.0wt%)で修飾したPEDOT:PSSフィルムから、活性層面積が5.4mm

2

の反転型有機太陽電池を製造し、デバイスは、ガラス/ITO/ZnO/P3HT:ICBA/PEDOT:PSSの連続コーティングによって作られたこと。(6958頁左欄10~14行)」

(3) 引用文献10~13に記載された事項及び技術常識Aの認定

ア 引用文献10に記載された事項

当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された次のaに示す文献(以下「引用文献10」という。)には、bに示す記載がある。

a 文献名

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー部「太陽エネルギー技術開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発」事業原簿」(太陽エネルギー技術開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発(中間評価)分科会資料 5-1)2012年11月5日、XIIページ

b 記載事項

24

144

0001432447000022.jpg

イ 引用文献11に記載された事項

当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特表2014-519202号公報(以下「引用文献11」という。)には、次の記載がある。

「【技術分野】

【0001】

本発明の主題は、光起電力用途のための最適特性を示す光起電力モジュールの有機光起電力セルの活性層のための組成物である。本発明はまた、このような組成物の光起電力モジュールの有機光起電力セルへの使用、およびこのような光起電力セルを含む光起電力モジュールに関する。」

「【0064】

1.活性層の相溶化剤としての本発明による直鎖状アーキテクチャを有するコポリマーの使用(上記課題1):

試験配合物およびフィルムの製造:

全セルを以下の方法で、制御雰囲気(酸素および湿気の非存在)下で調製し試験した:

異なる量のコポリマー(P3HT/MPCB量に対して0~10重量%)を、P3HT/MPCB(重量比1/1混合物、40mg.ml

-1

の全体濃度)のオルト-ジクロロベンゼン中溶液に導入する。次いで、こうして調製した溶液を、完全に溶解させるために、50°C(摂氏温度)で16時間攪拌したままにする。さらに、ガラス基板上ITO(スズをドープした酸化インジウムIn

2

O

3

)を超音波浴中で洗浄する。これを、第1のステップではアセトン、次いでエタノール、最後にイソプロパノールで行う。各洗浄操作を15分間継続させる。基板を乾燥させ、UV/オゾンで15分間処理した後、PEDOT-PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)=PEDOTおよびポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム)=PSS)の薄層を5000回転/分(5000rev/分)の速度で当業者に周知のスピンコーティング技術により堆積させ、その後動的真空下110°Cのオーブンで乾燥させた。PEDOT-PSS層の厚さは50nm(ナノメートル)である。これは、例えば、「Alpha-step IQ Surafe Profiler」装置を使用して測定した。事前に50°Cのオルト-ジクロロベンゼンに溶解させたP3HT:MPCB:コポリマー混合物で構成される活性層を、1000回転/分(1000rev/分)の速度でPEDOT-PSS層上にスピンコーティングすることによりこの基板上に堆積させる。この層の厚さは、展開的には80~150nmの間である。アルミニウム(Al)カソードを、マスクを通して真空(約10

-7

mbar)下熱蒸発により堆積させる。例えば、セルの活性表面積は8.4mm

2

である。次いで、165°Cで20分間の熱処理を、加温板を通して施す。

【0065】

次いで、光起電力セルについての標準的構成(ITO/PEDOT:PSS/P3HT:MPCB:コポリマー/Al)を得る。その後、セルとの電気接点を、「Karl Suss PM5」サンプラーを使用して確立する。電流/電圧測定を、例えば、AM 1.5G フィルターと組み合わせた「K.H.S.Solar Celltest 575」ソーラーシミュレーターを通して得られる100mW/cm

2

の照明下「Keithley 4200 SCS」を使用して得る。PEDOT-PSS層の堆積後に行う全手順は、水および分子酸素の量が0.1ppm(百万分率)未満の不活性雰囲気(分子窒素)下グローブボックス内で行った。」

ウ 引用文献12に記載された事項

当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特表2017-506815号公報(以下「引用文献12」という。)には、次の記載がある。

「【技術分野】

【0001】

本発明は、有機太陽電池または光起電電池(OPV)、有機発光ダイオード(LED)、および有機光検出器(OPD)などの有機電子デバイスの分野に関する。

【背景技術】

【0002】

これらのデバイスは、いわゆる「p型」層に隣接していわゆる「活性」層を特に備える多層スタックの上下にそれぞれ置かれた第1および第2の電極から成る。

【0003】

より正確には、本発明は、この活性層とこのp型層との間の付着を改善することを目指す。

【0004】

p型材料は、正孔数が電子数を大きく上回る材料である。従って、p型材料は正孔を優先的に伝導する。

【0005】

n型材料は、電子数が正孔数を大きい上回る材料である。従って、n型材料は電子を優先的に伝導する。

【0006】

OPV電池の活性層では、光子の吸収後、正孔および電子が、生成される。各電荷は、具体的には1つの電極に集められなければならないので、正孔または電子が選択されることを可能にする界面層が、追加される。

【0007】

従って、p型界面層は活性層に生成された正孔が選択的に抽出され、これらの正孔がその後アノードに輸送されることを可能にする層である。

【0008】

従って、n型界面層は活性層に生成された電子が選択的に抽出され、これらの電子がその後カソードに輸送されることを可能にする層である。

【0009】

有機電子デバイス、特に有機太陽電池は、それらの構成層の連続する順序に応じて順構造または逆構造を有するとして分類されることもある。

【0010】

いわゆる順構造では、これらの層は、下記の順、

- 基板、

- アノードを形成する、第1の電極としての透明導電層、

- 「正孔輸送層」またはp型層と呼ばれるp型半導体層、

- 「活性層」と呼ばれる電気的に活性な層、

- 「電子輸送層」またはn型層と呼ばれるn型半導体層、および

- カソードを形成する、第2の電極としての導電層の順に堆積される。

【0011】

いわゆる逆構造またはNIP構造でさえでは、スタックは、逆にされ、層は、下記の順、

- 基板1、

- カソードを形成する、第1の電極2としての透明導電層、

- 「電子輸送層」またはn型層と呼ばれるn型半導体層3、

- 「活性層」と呼ばれる電気的に活性な層4、

- p型層または「正孔輸送層」とさえ呼ばれるp型半導体層5、および

- アノードを形成する、第2の電極6または上部電極としての導電層の順に堆積される。

...(中略)...

【0013】

一般に、これらの構造に使用されるp型半導体層は、大部分2つのポリマー、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)およびポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)のブレンド、すなわちPEDOT:PSSと呼ばれるポリマーブレンドから形成される。それ故に、これらの層は、親水性であるという特性を有する。」

エ 引用文献13に記載された事項

当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特表2017-505531号公報(以下「引用文献13」という。)には、次の記載がある。

「【技術分野】

【0001】

本発明は、有機光起電力セル、有機発光ダイオード(OLED)、及び有機光検出器(OPD)等の、有機電子デバイスの分野に関する。

【0002】

これらのデバイスは、「p型」層及び「n型」層に隣接する「活性」層を特に含んだいくつかの層の積層体の上方及び下方にそれぞれ位置決めされている、第1及び第2の電極からなる。

【0003】

本発明は、改善されたp型層、したがってその安定性、特に熱安定性及び空気安定性が改善され且つ高性能を有する有機電子デバイスを得るのに有利なp型層を、提示することを目標とする。

【背景技術】

【0004】

有機電子デバイス、詳細には有機光起電力セルは、一般に、それらのアーキテクチャの標準構造又は逆構造に分類される。

【0005】

標準構造では、層は、下記の順序:

- 基板、

- 第1の電極(アノード)としての伝導性層、

- 「正孔輸送層」と呼ばれるp型半導体層、

- 電気活性層、

- 「電子輸送層」と呼ばれるn型半導体層、

- 第2の電極(カソード)としての伝導性層

で堆積される。

【0006】

逆構造では、積層体が逆になっており、層は、下記の順序:

- 基板、

- 第1の電極(カソード)としての伝導性層、

- 「電子輸送層」と呼ばれるn型半導体層、

- 電気活性層、

- 「正孔輸送層」と呼ばれるp型半導体層、

- 第2の電極(アノード)又は上方電極

で位置決めされる。

【0007】

一般に、これらの構造で考慮されるp型半導体層は、大部分が、2種のポリマー、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)との混合物であってPEDOT:PSSと呼ばれるものから形成される。したがってこれらの層は、親水性である性質を有する。」

オ 技術常識Aの認定

前記ア~ウに示した引用文献10~13の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識A」という。)。

<技術常識A>

「「PEDOT:PSS」における「PSS」はポリスチレンスルホン酸塩の略称であり、PEDOT:PSSのPSSとして、ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムを用いること。」

2 対比

(1) 対比分析

本願発明と引用発明を対比する。

ア 構成Xの観点

構成Xは、「光起電力セル」の発明であることを特定するものである。

(ア) 引用発明の「有機太陽電池」は、本願発明の「光起電力セル」に相当する。

(イ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。

「光起電力セル」の発明である点。

イ 構成Aの観点

構成Aは、「ガラス又はポリマー材料から作製された支持体」を備えることである。

(ア) 引用発明の「ガラス基板」は、本願発明の「ガラス又はポリマー材料から作製された支持体」に相当する。

(イ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Aの点である次の点において一致する。

「ガラス又はポリマー材料から作製された支持体」を備える点。

ウ 構成Bの観点

構成Bは、「カソードを構成し、前記支持体を覆う酸化インジウムスズの層」を備えることである。

(ア) 引用発明の「ITO透明導電膜」は、本願発明の「酸化インジウムスズの層」に相当する。

(イ) 引用発明においては、「陰極層200は、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素スズ酸化物(FTO)又はアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)などの透明導電性酸化膜であ[る]」ことから、引用発明における「ITO透明導電膜」は、本願発明にいうところの「カソード」であるといえる。したがって、引用発明における「ITO透明導電膜」は、本願発明でいう「カソードを構成[する]」ものであるといえる。

(ウ) 引用発明における「ITO透明導電膜」は、「ガラス基板上」に作製されるものであるから、前記イ(ア)の検討結果も踏まえると、本願発明でいう「前記支持体を覆う」ものであるといえる。

(エ) 前記(ア)~(ウ)をまとめると、本願発明と引用発明は、構成Bの点である次の点において一致する。

「カソードを構成し、前記支持体を覆う酸化インジウムスズの層」を備える点。

エ 構成Cの観点

構成Cは、「前記カソードを覆う、酸化亜鉛又はアルミニウムドープ酸化亜鉛の第一の界面層」を備えることである。

(ア) 引用発明における「ZnO層」は、「ITO透明導電膜上」に形成され、その上に「光活性層を得[る]」ものであるから、本願発明における「酸化亜鉛又はアルミニウムドープ酸化亜鉛の第一の界面層」に相当する。

(イ) 引用発明における「ZnO層」は、「ITO透明導電膜上」に形成されるものであるから、前記ウ(イ)の検討結果も踏まえると、本願発明でいう「前記カソードを覆う」ものである。

(ウ) 前記(ア)及び(イ)をまとめると、本願発明と引用発明は、構成Cの点である次の点において一致する。

「前記カソードを覆う、酸化亜鉛又はアルミニウムドープ酸化亜鉛の第一の界面層」を備える点。

オ 構成Dの観点

構成Dは、「前記第一の界面層を覆う光起電力活性層」を備えることである。

(ア) 引用発明における「光活性層」は、引用発明が「有機太陽電池」であることから、本願発明における「光起電力活性層」に相当することは明らかである。

(イ) 引用発明における「光活性層」は、「P3HTとPCBMを質量比4:1で均一に混合し、総濃度15mg/mLのクロロベンゼン溶液をZnO層に滴下[する]」ことにより得るものであるから、前記エ(ア)の検討結果も踏まえると、本願発明でいう「前記第一の界面層を覆う」ものである。

(ウ) 前記(ア)~(イ)をまとめると、本願発明と引用発明は、構成Dの点である次の点において一致する。

「前記第一の界面層を覆う光起電力活性層」を備える点。

カ 構成Eの観点

構成Eは、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムとのポリマーブレンドを含み、前記光起電力活性層を覆う第二の界面層」を備えることである。

(ア) 引用発明における「PEDOT:PSS層」は、「光活性層の上」にスピンコートされ、その上に「導電性銀ペースト層」が形成されるものであるから、本願発明における「第二の界面層」に相当する。

(イ) 引用発明における「PEDOT:PSS」は、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)」を意味することを踏まえると、引用発明における「PEDOT:PSS層」と、本願発明における「第二の界面層」は、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホン酸)」「とのポリマーブレンドを含[む]」点において共通する。

(ウ) 引用発明における「PEDOT:PSS層」は、「光活性層の上」にスピンコートされ[る]」ものであるから、前記オ(ア)の検討結果も踏まえると、本願発明でいう「前記光起電力活性層を覆う」ものである。

(エ) そうすると、構成Eの観点における本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。

a 構成Eの観点における一致点

「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホン酸)」「とのポリマーブレンドを含み、前記光起電力活性層を覆う第二の界面層」を備える点。

b 構成Eの観点における相違点

ポリ(スチレンスルホン酸)が、

本願発明においては、「ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウム」であるのに対して、

引用発明においては、ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムであるかどうか不明である点。

キ 構成Fの観点

構成Fは、「アノードを構成し、前記第二の界面層を覆う銀の層」を備えることである。

(ア) 引用発明における「導電性銀ペースト層」は、本願発明における「銀の層」に相当する。

(イ) 引用発明は、「陽極層600に用いられる材料は、低温熱硬化型導電性ペーストが挙げられ、低温熱硬化型導電性ペーストは、一般に、ミクロンサイズの金粉又は銀粉などの金属粉を高分子樹脂、溶剤、添加剤などと混合したものが使用され、その中でも金属粉としては銀粉が好まし[い]」ことから、引用発明における「導電性銀ペースト層」は、本願発明における「アノード」であるといえる。したがって、引用発明の「導電性銀ペースト層」は、本願発明でいう「アノードを構成[する]」ものであるといえる。

(ウ) 引用発明における「導電性銀ペースト層」は、「PEDOT:PSS層上」に形成されるものであるから、前記カ(ア)の検討結果も踏まえると、本願発明でいう「前記第二の界面層を覆う」ものであるといえる。

(エ) 前記(ア)~(ウ)をまとめると、本願発明と引用発明は、構成Fの点である次の点において一致する。

「アノードを構成し、前記第二の界面層を覆う銀の層」を備える点。

ク 構成Gの観点

構成Gは、「前記セルは、前記第二の界面層が、電気的に連続的であり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムに基づくマイクロメートル単位の有機繊維状構造、及び80nm~100nmの平均厚さを有する」ことである。

(ア) 引用発明は、「陽極修飾層500の厚さは20~100nmであり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)、ポリエチレンオキシド(PEO)などの有機物や高分子又はNiO、MoO

3

、V

2

O

5

、WO

3

などの金属酸化物などの正孔輸送特性を有する材料であ[る]」ことから、引用発明の「PEDOT:PSS層」は、正孔輸送特性を有する材料であることが理解できる。また、引用発明の「PEDOT:PSS層」は、「スピンコートし、フィルムの厚さを約80nmにし[た]」ものであることも併せて考慮すれば、本願発明でいう「電気的に連続的であ[る]」といえる。

(イ) 引用発明の「PEDOT:PSS層」は、「フィルムの厚さを約80nmにし[た]」ものであるから、本願発明でいう「80nm~100nmの平均厚さを有する」ものであるといえる。

(ウ) そうすると、構成Gの観点における本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。

a 構成Gの観点における一致点

「前記セルは、前記第二の界面層が、電気的に連続的であり、80nm~100nmの平均厚さを有する」点。

b 構成Gの観点における相違点

第二の界面層が、

本願発明においては、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムに基づくマイクロメートル単位の有機繊維状構造」を有するのに対して、

引用発明においては、当該有機繊維状構造を有するかどうか不明である点。

(2) 一致点及び相違点の認定

前記(1)の対比分析を踏まえると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、ぞれぞれ次のア及びイに示すとおりである。

ア 一致点

「光起電力セルであって:

- ガラス又はポリマー材料から作製された支持体、

- カソードを構成し、前記支持体を覆う酸化インジウムスズの層、

- 前記カソードを覆う、酸化亜鉛又はアルミニウムドープ酸化亜鉛の第一の界面層、

- 前記第一の界面層を覆う光起電力活性層、

- ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルホン酸)とのポリマーブレンドを含み、前記光起電力活性層を覆う第二の界面層;

- アノードを構成し、前記第二の界面層を覆う銀の層;

を備え、前記セルは、前記第二の界面層が、電気的に連続的であり、80nm~100nmの平均厚さを有する、

光起電力セル」の発明である点。

イ 相違点

(ア) 相違点1

ポリ(スチレンスルホン酸)が、

本願発明においては、「ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウム」であるのに対して、

引用発明においては、ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムであるかどうか不明である点。

(イ) 相違点2

第二の界面層(6)が、

本願発明においては、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムに基づくマイクロメートル単位の有機繊維状構造」を有するのに対して、

引用発明においては、当該有機繊維状構造を有するかどうか不明である点。

3 判断

(1) 相違点についての検討

ア 相違点1(ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウム)について

前記1(3)オにおいて技術常識Aとして認定したとおり、「「PEDOT:PSS」における「PSS」はポリスチレンスルホン酸塩の略称であり、PEDOT:PSSのPSSとして、ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムを用いること」は、技術常識であるから、引用発明におけるPEDOT:PSS層のPSSとして、ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムを用いることは、当業者にとっては自明のことにすぎず、前記相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2(マイクロメートル単位の有機繊維状構造)について

(ア) 引用発明のような有機太陽電池において、PEDOT:PSS層の導電率の改善は当業者によく知られた課題であるところ、引用文献9技術事項は、有機太陽電池のPEDOT:PSSフィルムについて、PEDOT相のナノフィブリルベースのネットワークにより導電性の顕著な改善が得られることを開示するものである。

したがって、引用発明において、PEDOT:PSS層の導電率を改善するために、引用文献9技術事項の示唆を適用して、PEDOT:PSS層をPEDOT相のナノフィブリルベースのネットワークを有するものとすることは、当業者にとっては自明の設計指針にすぎないことである。このとき、前記アも勘案すれば、PEDOT相のナノフィブリルベースのネットワークは、相違点2に係る本願発明の「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウムに基づく」「有機繊維状構造」となる。

(イ) 次に、相違点2に係る本願発明の有機繊維状構造が「マイクロメートル単位」である点について検討すると、引用文献9技術事項ではナノフィブリルの平均長さは決定できなかったとされているが、「界面活性剤を含むPEDOT相はナノフィブリル構造を示した一方、界面活性剤を含まないPEDOT相は、典型的なナノサイズの粒子の凝集体を示[す]」ことと、「界面活性剤の添加により観察される導電性の顕著な改善は、PEDOT相のナノフィブリルベースのネットワークに起因すると考えられ[る]」ことからみて、当業者であれば、導電性の顕著な改善には、ナノフィブリルとナノサイズの粒子との相違、すなわち、フィブリルの長さが所定以上であることが寄与していることを理解できる。これらのことを勘案すれば、引用発明において、導電性を改善するためにナノフィブリルの大きさを好適化し、マクロメートル単位とすることは、当業者にとっては通常の創作能力の発揮にすぎない。

(ウ) そして、本願の明細書を参酌しても有機繊維状構造がマイクロメートル単位であることの技術上の意義は特段記載されていない。

(エ) そうすると、引用発明に引用文献9技術事項を適用して、相違点2に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点についての判断のまとめ

前記ア及びイにおいて検討したとおり、引用発明において、相違点1及び2に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び引用文献9技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明が奏する効果としては、本願発明の構成が奏するものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献9技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 請求人の主張について

請求人は、引用文献9を参照した当業者は、伝導性向上を目的として引用文献9における層の厚さに関する記載を考慮し、引用文献9では良好な透過性を保つ観点から薄い膜厚が推奨されており、引用文献9の6956頁右欄28~41行にはフィルム厚さは40nmであったことが示されているから、当業者が引用発明に引用文献9技術事項を適用してPEDOT:PSS層をPEDOT相のナノフィブリルベースのネットワークを有するものとした上で、さらに層の厚さを80~100nmとすることには阻害要因がある旨を主張している。

そこで、請求人の主張する引用文献9の6956頁右欄28~41行の記載を確認すると、前記第4の1(2)ア(イ)で摘記したとおり、厚さ40nmのフィルムのシート抵抗は、透過率96%(ガラスありで87%)で240Ω/□であり、厚さ400nmのフィルムのシート抵抗は、透過率65%(ガラスありで55%)で32Ω/□であることが記載されているとともに、当業者は、図4dから、厚さに対して透過率とシート抵抗がトレードオフの関係にあることを把握することができる。そして、引用文献9技術事項が、「高い導電性を実現する」ことを意図したものであることを勘案すれば、引用発明に引用文献9技術事項を適用する際には、「PEDOT:PSS層」の厚さは透過率及びシート抵抗(すなわち、導電率)を考慮して適宜決定することができるのであり、さらに、引用発明における「PEDOT:PSS層」のフィルムの厚さである約80nmは、引用文献9技術事項の前記記載に示されている厚さ40nm~400nmの範囲内の値であることも勘案すれば、引用発明に引用文献9技術事項を適用する際に、引用発明の「PEDOT:PSS層」のフィルムの厚さである約80nmを維持することには、何らの阻害要因も認められない。したがって、請求人の主張は採用できない。

第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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