結論テキスト
特許第7585286号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-8、10-14〕について訂正することを認める。
特許第7585286号の請求項1-14に係る特許を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2025700196 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7585286号(以下「本件特許」という。)に係る特許についての出願は、平成30年12月27日の出願である特願2018-246310号の一部を令和4年12月12日に新たな出願とした特願2022-197638号であって、令和6年11月8日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和7年2月14日に、本件特許の請求項1~14に係る特許に対して、特許異議申立人 折茂 重雄(以下「申立人」という。)により、全請求項を対象として特許異議の申立てがされた。
その後の手続は以下のとおりである。
令和 7年 3月10日付け 手続補正指令(方式)
同年 同月27日 手続補正書(方式)の提出
同年 7月25日付け 取消理由通知
同年 9月19日 訂正請求書、意見書(特許権者)の提出
同年10月 2日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 同月30日 意見書(申立人)の提出
(1)訂正請求の趣旨
令和7年9月19日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、「特許第7585286号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2~8、10~14について訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とするものである。
(2)訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2の
「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して0.1~10質量%であり、シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cであり、反応性乳化剤(A)の範疇に属さない他の乳化剤を含み、他の乳化剤がアニオン性乳化剤を含む、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。」
を
「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して
1
~10質量%であり、シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cであり、反応性乳化剤(A)の範疇に属さない他の乳化剤を含み、他の乳化剤がアニオン性乳化剤を含む、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。」
に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の
「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、
反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して0.1~10質量%であり、
シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、
重合成分が、さらに、脂肪族(メタ)アクリレート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを含み、
脂肪族(メタ)アクリレートが、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含み、
水酸基含有(メタ)アクリレートの割合が、脂肪族(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1~20質量部であり、
重合成分全体における2-エチルへキシル(メタ)アクリレートの割合が10~90質量%である、エマルション、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。」
を
「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、
反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して
1
~10質量%であり、
シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、
重合成分が、さらに、脂肪族(メタ)アクリレート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを含み、
脂肪族(メタ)アクリレートが、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含み、
水酸基含有(メタ)アクリレートの割合が、脂肪族(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1~20質量部であり、
重合成分全体における2-エチルへキシル(メタ)アクリレートの割合が10~90質量%である、エマルション、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。」
に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10の
「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤(A)の範疇に属さない他の乳化剤を含み、他の乳化剤がアニオン性乳化剤を含む、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。」
を
「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、
反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して1質量%以上であり、
反応性乳化剤(A)の範疇に属さない他の乳化剤を含み、他の乳化剤がアニオン性乳化剤を含む、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。」
に訂正する。
(3)一群の請求項
訂正前の請求項4~8及び11~14は訂正前の請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、上記(2)アの訂正事項1によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項2、4~8及び11~14は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項(以下単に「一群の請求項」という。)である。
また、訂正前の請求項5~8及び11~14は訂正前の請求項3を直接又は間接的に引用するものであって、上記(2)イの訂正事項2によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項3、5~8及び11~14は一群の請求項である。
さらに、訂正前の請求項11~14は訂正前の請求項10を直接又は間接的に引用するものであって、上記(2)ウの訂正事項3によって記載が訂正される請求項10に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項10~14は一群の請求項である。
そして、上記各一群の請求項はいずれも訂正前の請求項11~14を含むから、特許法施行規則45条の4の規定により、これら各一群の請求項が1つの一群の請求項を構成する。そのため、訂正後の請求項2~8及び10~14に対応する訂正前の請求項2~8及び10~14は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は一群の請求項ごとにするものである。
(1)訂正事項1
訂正事項1による請求項2についての訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落0030の「重合成分において、反応性乳化剤(A)の割合は...重合成分全体...の...1質量%以上...であってもよい。」という記載に基づいて、請求項2の「重合成分全体に対」する「反応性乳化剤(A)の割合」を「0.1~10質量%」から「1~10質量%」に限定するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2による請求項3についての訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落0030の「重合成分において、反応性乳化剤(A)の割合は...重合成分全体...の...1質量%以上...であってもよい。」という記載に基づいて、請求項3の「重合成分全体に対」する「反応性乳化剤(A)の割合」を「0.1~10質量%」から「1~10質量%」に限定するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3
訂正事項3による請求項10についての訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落0030の「重合成分において、反応性乳化剤(A)の割合は...重合成分全体...の...1質量%以上...であってもよい。」という記載に基づいて、請求項10の「重合成分」である「反応性乳化剤(A)」の割合を新たに「重合成分全体に対して1質量%以上」と特定するものである。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)独立特許要件
本件訂正請求による訂正は特許異議の申立てがされている請求項である訂正前の請求項2~8及び10~14に係るものであるから、これに対応する訂正後の請求項2~8及び10~14に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正請求による訂正は適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-8、10-14〕について訂正することを認める。
上記第2のとおり本件訂正請求による訂正が認められたため、本件特許の請求項1~14に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明14」といい、これらを合わせて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して0.1~10質量%であり、シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cであり、乳化剤全体における反応性乳化剤(A)の割合が90質量%以上である、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。
【請求項2】
芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して1~10質量%であり、シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cであり、反応性乳化剤(A)の範疇に属さない他の乳化剤を含み、他の乳化剤がアニオン性乳化剤を含む、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。
【請求項3】
芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、
反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して1~10質量%であり、
シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、
重合成分が、さらに、脂肪族(メタ)アクリレート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを含み、
脂肪族(メタ)アクリレートが、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含み、
水酸基含有(メタ)アクリレートの割合が、脂肪族(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1~20質量部であり、
重合成分全体における2-エチルへキシル(メタ)アクリレートの割合が10~90質量%である、エマルション、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。
【請求項4】
アニオン性乳化剤が、プロペニル-アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルホネート塩、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩、プロペニルノニルフェニルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルホネート塩、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩、及びビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルホネート塩から選択された少なくとも1種を含む、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
反応性乳化剤(A)が下記式(1)で表される反応性乳化剤を含む請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【化1】
58
153
0001433085000001.jpg
(式中、Dは下記式(D-1)又は(D-2)を示し、Aは炭素数2~4のアルキレン基を示し、Tは水素原子又は-SO
3
M(Mは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はNH
4
)を示し、lは1~2を示し、mは1~3を示し、nは1~1000を示す。)
【化2】
30
102
0001433085000002.jpg
【化3】
29
102
0001433085000003.jpg
(式中、R
1
は水素原子又はメチル基を示す。)
【請求項6】
重合成分が、さらに、脂環族基を有する単量体及び芳香族基を有する単量体から選択される1種以上の単量体を含む請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
反応性乳化剤(A)以外の乳化剤の割合が、重合成分全体に対して5質量%以下である請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cである請求項3~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、乳化剤全体における反応性乳化剤(A)の割合が90質量%以上である、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。
【請求項10】
芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して1質量%以上であり、反応性乳化剤(A)の範疇に属さない他の乳化剤を含み、他の乳化剤がアニオン性乳化剤を含む、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の組成物を含む塗料。
【請求項12】
請求項11に記載の塗料で形成された塗膜。
【請求項13】
請求項12に記載の塗膜を有する建築物。
【請求項14】
請求項12に記載の塗膜を有する建材。」
(1)特許異議申立に係る申立理由の概要
ア 申立理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性)
本件発明1~14は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由2(甲第10号証に係る特許出願との同日出願)
本件発明8及び11~14は、同一の発明について同日に甲第10号証に係る特許出願があり、かつ協議をすることができない状況にあるものであって、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項8及び11~14に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立人が提出した証拠方法
ア 特許異議申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特開2011-46783号公報
甲第2号証:特開平8-33543号公報
甲第3号証:特開2003-226793号公報
甲第4号証:特開2017-2271号公報
甲第5号証:国際公開第2016/076116号
甲第6号証:国際公開第2013/108588号公報
甲第7号証:特開2018-53119号公報
甲第8号証:石原真興,レオロジーコントロール剤,色材協会誌,72巻,5号,1999年,328-336頁
甲第9号証:折原茂雄の作成に係る令和7年1月31日付けの実験報告書
甲第10号証:特許第7217146号に係る特許異議申立事件(異議2023-700782号)についての令和6年5月23日付けの異議の決定
イ 令和7年10月30日に提出された意見書に添付して提出された証拠方法
甲第11号証:特開平11-209648号公報
甲第12号証:特開平8-217808号公報
甲第13号証:特開2015-78264号公報
以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。
(1)令和7年7月25日付けの取消理由通知に係る取消理由の概要
ア 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性)
本件発明2~6、8及び10~14は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2~6、8及び10~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由2(甲10に係る特許出願との同日出願)
本件発明8及び11~14は、同一の発明について同日に甲10に係る特許出願があり、かつ協議をすることができない状況にあるものであって、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項8及び11~14に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由通知において当審合議体が提示した証拠方法
甲1、5、7、9及び10
当審合議体は、本件発明1~14に係る特許は特許異議申立書に記載された申立理由1若しくは2又は取消理由通知書に記載された取消理由1若しくは2によっては取り消すことができないと判断する。その理由は以下のとおりである。
本件発明は、上記第3から、「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルション」及び「ウレタン会合型増粘剤」を含む塗料用組成物であって、上記反応性乳化剤(A)の配合量が、乳化剤全体における90質量%以上又は重合成分全体に対して1~10質量%であるものであるといえる。
ここで、本件発明は、本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の段落0006及び0007等の記載からみて、「耐水性に優れた塗膜を効率よく形成すると共に、増粘応答性に優れる(増粘応答性を改善又は向上しうる)エマルションを提供しうる」ことを課題とするものと認められる。
また、本件明細書には、本件発明が、上記課題に対応した、耐水性に優れた塗膜を効率よく形成すると共に、増粘応答性に優れる(増粘応答性を改善又は向上しうる)エマルションを提供しうるという効果を奏することが記載されている(段落0014及び0015)。
そして、本件明細書に記載された実施例、比較例及び参考例(段落0179~0213。特に表1及び表2)を見ると、「没水後の塗膜強度」の試験結果が、本件発明に属しない実施例10、比較例1及び参考例1~6は「×:浮きや剥れが発生」であるのに対し、本件発明に属する実施例1~9は「◎:僅かに傷が付くが浮きや剥れが見られない」又は「○:僅かに傷が付くが浮きや剥れが一部発生」であることから、本件発明は没水後の塗膜強度に優れる塗膜を形成するものであるといえる。また、「増粘応答性」の試験結果が、本件発明に属しない実施例10は「2.0g」、本件発明に属しない比較例1及び参考例1~6は「3.0~3.5g」であるのに対し、本件発明に属する実施例1~9は「1.5g又は1.6g」と比較例1及び参考例1~6の半分あるいはそれ以下であることから、本件発明は増粘応答性に優れるものであるといえる。
したがって、本件発明は、上記発明特定事項、特に上記反応性乳化剤(A)の配合量が、乳化剤全体における90質量%以上又は重合成分全体に対して1質量%以上であるという発明特定事項を備えることにより、没水後の塗膜強度に優れる塗膜を形成することができ、かつ、増粘応答性に優れる塗料用組成物を提供するという技術的意義を有するものであるといえる。
(1)引用発明
甲1(段落0023、0025、0029及び0030)の実施例2に係る水性エマルジョン樹脂組成物を使用したグロス塗料の調製における、粘性調整剤としてのアデカノールUH-420(株式会社ADEKA製)1重量部を仕込んだ段階までに着目すると、甲1には、
「以下のミルベース300重量部、以下の実施例2に係る水性エマルジョン組成物600重量部(不揮発分50重量%の場合。不揮発分が50重量%以外の場合は、それぞれの不揮発分に応じて、300重量部の樹脂が含まれるように添加量を設定した)、造膜助剤としてのCS-12(チッソ株式会社製)をα重量部(α=MFT(最低造膜温度)÷5×6)、粘性調整剤としてのアデカノールUH-420(株式会社ADEKA製)1重量部を仕込んだ組成物。
<ミルベース>
脱イオン水82.6重量部、増粘剤としてのナトロゾール250HR(ハーキュレース製)0.8重量部、中和剤としてのアンモニア水0.2重量部、防腐剤としてのアモルデンFS-14D(大和化学工業株式会社製)1.1重量部、分散剤としてのポイズ521(花王株式会社製)4.2重量部、消泡剤としてのSNデフォーマー371(サンノプコ株式会社製)1.1重量部、酸化チタンとしてのタイペークCR-97(石原産業製)210重量部を容器中でホモディスパーを用いて約2000rpmで撹拌しながら上記順に仕込み、更に約2000rpmで1時間撹拌し、その後、120メッシュのテフロン(登録商標)メッシュで濾過して得た、300重量部、固形分濃度70重量%(酸化チタンを固形分として計算)のミルベース
<実施例2に係る水性エマルジョン組成物>
撹拌機、温度計および還流凝縮機を備えた重合装置内に、200重量部の脱イオン水および0.2重量部のアデカリアソープSR-10(アニオン性反応性界面活性剤、株式会社ADEKA製)を入れ、窒素置換を十分に行った後、75°Cに昇温し、258重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR-10、22.5重量部のメタクリル酸メチル、300重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、160重量部のアクリル酸-2-エチルヘキシル、2.5重量部のγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、10重量部のメタクリル酸および5重量部のメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルからなる乳化物を用意し、重合装置内の温度を75°Cに保ちながら、その乳化物の一部(5重量%)を重合装置内に加え、次いで、重合装置内に0.2重量部の過硫酸カリウムを加えて重合を開始し、80°Cで15分反応させ、さらに、重合装置内の温度を80°Cに保ちながら、先の乳化物の残り(95重量%)および50重量部の2%過硫酸カリ ウム水溶液を4時間掛けて重合装置内に滴下し、さらに、80°Cで2時間反応させ、その後、室温(25°C)に冷却した。最後に3.5重量部のアンモニア水を入れてpHを調整して得た、不飽和単量体組成物の理論Tgは20°Cであり、不揮発分50.4重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23°C)190mPa・s、pH8.8、MFT(最低造膜温度)46°Cである、水性エマルジョン樹脂組成物」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明との構成の対応は以下のとおりである。
(a)甲1発明における「アデカリアソープSR-10」は、本件明細書の記載(段落0109)に照らし、反応性乳化剤であって、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩という芳香族基を有しないものであるといえるから、本件発明1における「(メタ)アクリル系ポリマー」の「重合成分」に相当するとともに、本件発明2における「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)」と、「反応性乳化剤」という限りで一致する。
(b)甲1発明における「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」は、本件明細書(段落0034及び0042)の記載に照らし、本件発明1における「(メタ)アクリル系ポリマー」の「重合成分」に相当するとともに、本件発明1における「重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)」に相当する。
(c)甲1発明における「メタクリル酸メチル」、「メタクリル酸シクロヘキシル」、「アクリル酸-2-エチルヘキシル」、「メタクリル酸」及び「メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル」は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であるから、本件発明1における「(メタ)アクリル系ポリマー」の「重合成分」に相当する。
(d)甲1発明における「水性エマルジョン樹脂」は、本件発明1における「ポリマーのエマルション」に相当する。
(e)甲1発明における「アデカリアソープSR-10」、「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」、「メタクリル酸メチル」、「メタクリル酸シクロヘキシル」、「アクリル酸-2-エチルヘキシル」、「メタクリル酸」及び「メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル」の配合量(重量部)は(0.2+9.8)、2.5、22.5、300、160、10及び5である。そうすると、これらの総量((0.2+9.8)+2.5+22.5+300+160+10+5=510重量部)における「アデカリアソープSR-10」の割合は、
(0.2+9.8)/510×100=2.0(%)
である。したがって、上記(a)~(c)に照らし、甲1発明は本件発明1における「反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して0.1~10質量%」という構成を、「反応性乳化剤の割合が、重合成分全体に対して0.1~10質量%」という限りで備えるといえる。
(f)上記(e)と同様、甲1発明における「アデカリアソープSR-10」、「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」、「メタクリル酸メチル」、「メタクリル酸シクロヘキシル」、「アクリル酸-2-エチルヘキシル」、「メタクリル酸」及び「メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル」の総量(510重量部)における「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」の割合は、
2.5/510×100=0.5(%)
である。したがって、上記(a)~(c)に照らし、甲1発明は本件発明1における「シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%」という構成を備えるといえる。
(g)甲1発明における「不飽和単量体組成物の理論Tgは20°C」は、甲1(段落0013)の記載及び本件明細書(段落0199)の記載に照らし、本件発明1における「(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°C」に相当する。
(h)甲1発明における実施例2に係る水性エマルジョン組成物はアデカリアソープSR-10以外の乳化剤を使用していないから、上記(a)に照らし、甲1発明は本件発明1における「乳化剤全体における反応性乳化剤(A)の割合が90%以上である」という構成を、「乳化剤全体における反応性乳化剤の割合が90%以上である」という限りで備えるといえる。
(i)甲1発明における「アデカノールUH-420(株式会社ADEKA製)」は、本件明細書(段落0159)の記載に照らし、本件発明1における「ウレタン会合型増粘剤」に相当する。
(j)甲1発明における「組成物」は、甲1(段落0025)の記載に照らし、その後撹拌され濾過されることでグロス塗料となることから、本件発明1における「塗料用組成物」に相当する。
(k)甲1発明はp-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランを使用していないから、甲1発明は本件発明1における「ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く」という構成を備えるといえる。
そうすると、上記(a)~(k)に照らし、本件発明1と甲1発明とは、
「反応性乳化剤及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤の割合が、重合成分全体に対して0.1~10質量%であり、シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cであり、乳化剤全体における反応性乳化剤の割合が90%以上である、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。」
という点で一致し、
相違点1-1:反応性乳化剤が、本件発明1は芳香族基を複数有するものであるのに対し、甲1発明はアデカリアソープSR-10という芳香族基を有しないものである点
で相違する。
イ 相違点について
(ア)甲1の記載
甲1発明がグロス塗料とされる水性エマルション樹脂組成物であることは甲1(段落0025)の記載に接した当業者に明らかである。また、甲1(段落0015)には、非反応性のアニオン性界面活性剤をラジカル反応性界面活性剤と併用してもよいことが記載されている。
(イ)甲5の記載
甲5には、一般式(I)で表される界面活性剤(A)(本件発明1における「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)」に相当する。)及びラジカル重合し得る置換基を有しない界面活性剤(B)の存在下、炭素-炭素不能和結合を有する化合物(C1)を含む重合性化合物(C)を乳化重合して得られる水系樹脂分散体が記載されている(請求項1)。
また、甲5には、そのような水系樹脂分散体は、界面活性剤(B)としてアニオン性乳化剤であるB-7~B-12を使用した場合を含め、界面活性剤a-1やa-2(アリルオキシメチル基を有する点で上記(ア)で指摘した甲1の上記記載におけるラジカル反応性界面活性剤に相当することは当業者に明らかである。)を単独で使用した場合と比較して、界面活性剤の共重合性及び基剤に対するぬれ性に優れることも記載されている(段落0069~0086、0094及び0095。特に実施例7~12並びに比較例6及び7)。また、共重合性については、一般式(I)で表される界面活性剤(A)である界面活性剤A-2の重合率は80%以上であるのに対し、アクアロンKH-10の重合率は40%以上80%未満であることが記載されている(段落0073、0074及び0085~0087。特に比較例1及び比較例6)。
(ウ)甲6の記載
甲6には、一般式(I)で表される化合物(本件発明1における「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)」に相当する。)を含有する乳化重合用乳化剤が記載され(請求項1)、この乳化重合用乳化剤を添加して得られるポリマーディスパージョンは例えば被覆剤等として樹脂、金属等に適用することができることが記載されている(段落0084)。
また、甲6には、乳化重合用乳化剤として従来使用されているアニオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤は遊離の状態でポリマーフィルム中に残留するためフィルムの耐水性、接着性が劣る等の問題があり(段落0002)、従来提案されている反応性乳化剤は乳化重合時の重合安定性が悪化する、モノマー種や重合条件によりモノマーとの共重合性が劣る場合があるといった問題点があるところ(段落0003)、上記化合物を含有する乳化重合用乳化剤は、殊にスチレン系モノマーとの共重合性に優れ、ポリマー組成に組み込まれやすいため、共重合性の反応性乳化剤として、ポリマーエマルションから得られたポリマーフィルム中に遊離した状態で存在する乳化剤量が著しく減少し、フィルムの耐水性等の諸特性の向上に極めて優れた効果を発揮することが記載されている(段落0043)。
(エ)甲7の記載
甲7には、一般式(1)で表される界面活性剤(A)(本件発明1における「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)」に相当する。)及び界面活性剤(A)とは異なる疎水基及び重合性炭素-炭素不飽和結合を有するアニオン性界面活性剤(B)を含む界面活性剤組成物が記載されている(請求項1及び2)。
また、甲7には、そのような界面活性剤組成物を使用して調製した樹脂水分散体は、界面活性剤c-2(プロペニル基を有する点で上記(ア)で指摘した甲1の上記記載におけるラジカル反応性界面活性剤に相当することは当業者に明らかである。)を単独で使用して調製した樹脂水分散体と比較して化学的安定性に優れることも記載されている(段落0055~0068。特に実施例4~6及び比較例1)。
(オ)検討
上記(ア)~(エ)から、甲1と甲5~7とは、ポリマーエマルション組成物に関するものであるという点で、それらの属する技術の分野が共通するといえる。また、会合型増粘剤の増粘効果がエマルション中に遊離している遊離の界面活性剤の影響を受けることは本件特許に係る出願時の技術常識である(甲8の334頁の図-14及び336頁左欄)。そのため、当業者であれば、概括的には、反応性乳化剤を使用して調製したポリマーエマルションは非反応性乳化剤を使用して調製したポリマーエマルションよりも会合型増粘剤に対する増粘応答性に優れ得ると予測するといえる。
しかし、甲1には芳香族基を複数有する反応性乳化剤を使用することは記載も示唆もされていない。また、甲5には甲5の一般式(I)で表される界面活性剤(A)を使用することにより、没水後の塗膜強度に優れる塗膜を形成することができ、かつ、増粘応答性に優れる組成物を提供できることは記載も示唆もされていない。また、甲6には甲6の一般式(I)で表される化合物を使用することにより、没水後の塗膜強度に優れる塗膜を形成することができ、かつ、増粘応答性に優れる組成物を提供できることは記載も示唆もされていない。さらに、甲7には、甲7の一般式(1)で表される界面活性剤(A)を使用することにより、没水後の塗膜強度に優れる塗膜を形成することができ、かつ、増粘応答性に優れる組成物を提供できることは記載も示唆もされていない。
一方、本件明細書に記載された実施例、比較例及び参考例(段落0179~0213。特に表1及び表2)を見ると、乳化剤として非反応性乳化剤であるハイテノールNF-08を使用した参考例6と比較して、乳化剤として反応性乳化剤であるアクアロンKH-10を使用した参考例5は、上記(イ)で指摘したとおりアクアロンKH-10は重合性を有する反応性乳化剤であるにもかかわらず、没水後の塗膜強度及び増粘応答性が全く改善していない。これに対し、乳化剤として芳香族基を複数有する反応性乳化剤であるアクアロンAR-10を使用した実施例1は、没水後の塗膜強度が「×:浮きや剥れが発生」から「◎:僅かに傷が付くが浮きや剥れが見られない」へと、増粘応答性が3.1gから1.5gへと、それぞれ劇的に改善している。また、こうした劇的な改善は、実施例3及び5並びに参考例3における乳化剤、没水後の塗膜強度及び増粘応答性から見て、アデカアリアソープSR-10の半量をアクアロンAR-10に置換するだけでほぼ達成できるといえる。
そして、没水後の塗膜強度について、甲5~7には芳香族基を複数有する反応性乳化剤を使用することにより没水後の塗膜強度が上記のように劇的に改善することは記載も示唆もされていないから、上記のような劇的な改善は当業者が予測をすることができるものではない。
また、増粘応答性についても、甲5~7には芳香族基を複数有する反応性乳化剤を使用することにより没水後の塗膜強度が上記のように劇的な改善することは記載も示唆もされていない。そして、上記のような劇的な改善は、上記のとおり重合性を有する反応性乳化剤としてアクアロンKH-10使用しても増粘応答性が全く改善しないことも考慮すると、会合型増粘剤の増粘効果がエマルション中に遊離している遊離の界面活性剤の影響を受けるという抽象的な上記技術常識や、上記(ウ)で指摘した甲6の一般式(I)で表される化合物はスチレン系モノマーとの共重合性に優れポリマー組成に組み込まれやすいという甲6の定性的な記載、上記(イ)で指摘した甲5の一般式(I)で表される界面活性剤(A)である界面活性剤A-2の重合率は80%以上であるのに対しアクアロンKH-10の重合率は40%以上であるにとどまるという甲5の記載からだけでは説明できるものではなく、したがって当業者が予測をすることができるものではない。
そうすると、甲1及び5~7には、当業者において、形成される塗膜の没水後の強度や増粘応答性を劇的に改善するために芳香族基を複数有する反応性乳化剤を採用する動機となる記載はないといえる。そのため、甲1発明において、アデカリアソープSR-10に代えて芳香族基を複数有する反応性乳化剤を採用することは、当業者が甲1又は甲5~甲7の記載に基づいて容易になし得たことではない。
また、甲2~4及び8にはそもそも芳香族基を複数有する反応性乳化剤について記載も示唆もされていないから、甲1発明において、アデカリアソープSR-10に代えて芳香族基を複数有する反応性乳化剤を採用することは、当業者が甲2~4又は8の記載に基づいて容易になし得たことでもない。
したがって、甲1発明において相違点1-1に係る構成を備えるようにして本件発明1とすることは、当業者が甲1~8の記載及び技術常識に基づいて容易に想到し得たことではない。
なお、甲9は、本件発明1に属しない実験例を記述するものに過ぎない上、本件特許に係る出願後に作出されたものであるから、本件発明1の構成の容易想到性の判断に影響を与えるものではない。
ウ 効果について
上記2から、本件発明1は、没水後の塗膜強度に優れる塗膜を形成することができ、かつ、増粘応答性に優れる塗料用組成物を提供するという効果を奏するものであるといえる。
そして、上記イ(オ)から、この効果は、甲1発明並びに甲1~8の記載及び技術常識に照らして、当業者の予測の範囲を超える顕著なものであるといえる。
なお、甲9は、本件発明1に属しない実験例を記述するものに過ぎないから、本件発明1の効果の非予測・顕著性の判断に影響を与えるものではない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は当業者が甲1発明及び甲1~8の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2について
ア 対比
上記(2)アで検討した本件発明1と甲1発明との対比を参考にして本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明2と甲1発明とは、
「反応性乳化剤及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤の割合が、重合成分全体に対して1~10質量%であり、シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cである、エマルション(ただし、(メタ)アクリル系ポリマーが、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、グリシジルメタクリレート及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのすべてを重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーである場合を除く)、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。」
という点で一致し、
相違点2-1:反応性乳化剤が、本件発明2は芳香族基を複数有するものであるのに対し、甲1発明はアデカリアソープSR-10という芳香族基を有しないものである点
相違点2-2:エマルションが、本件発明2は反応性乳化剤(A)の範疇に属さない他の乳化剤を含み、他の乳化剤がアニオン性乳化剤を含むのに対し、甲1発明は反応性乳化剤(A)の範疇に属さない他の乳化剤を含まない点
で相違する。
イ 相違点について
相違点2-1は相違点1-1と同様のものである。したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、上記(2)イで検討したのと同様に、甲1発明において相違点2-1に係る構成を備えるようにして本件発明2とすることは、当業者が甲1~8の記載及び技術常識に基づいて容易に想到し得たことではない。
ウ 効果について
上記2から、本件発明2は、没水後の塗膜強度に優れる塗膜を形成することができ、かつ、増粘応答性に優れる塗料用組成物を提供するという効果を奏するものであるといえる。
そして、上記(2)ウで検討したのと同様に、この効果は、甲1発明並びに甲1~8の記載及び技術常識に照らして、当業者の予測の範囲を超える顕著なものであるといえる。
エ 本件発明2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明2は当業者が甲1発明及び甲1~甲8の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明3~14について
本件発明9は、本件発明1と同じ「乳化剤全体における反応性乳化剤(A)の割合が90質量%以上」という事項を発明特定事項とするものであって、甲1発明と少なくとも上記(2)アで指摘した相違点1-1と同様の相違点で相違する。そのため、他の相違点について検討するまでもなく、上記(2)で述べたのと同様の理由により、本件発明9は当業者が甲1発明及び甲1~甲8の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明3及び10は、本件発明2と同じ又は同様の「反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して1~10質量%」又は「反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して1質量%以上」という事項を発明特定事項とするものであって、甲1発明と少なくとも上記(3)アで指摘した相違点2-1と同様の相違点で相違する。そのため、他の相違点について検討するまでもなく、上記(3)で述べたのと同様の理由により、本件発明3及び10は当業者が甲1発明及び甲1~甲8の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
さらに、本件発明4~8及び11~14は、請求項1~3又は10を直接又は間接的に引用することで本件発明1~3又は10の発明特定事項の全てを発明特定事項とするものである。そのため、上記(2)若しくは(3)又は本項で述べたのと同様の理由により、本件発明4~8及び11~14は当業者が甲1発明及び甲1~甲8の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(5)申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は、令和7年10月30日に提出された意見書において、
(a)甲1発明と甲5~7に記載された事項とは耐水性の改善という課題で共通するから、甲1発明に甲5~7記載された事項を組み合わせようとする動機は存在する(5頁2~4行)。
(b)没水後の塗膜強度及び増粘応答性は甲1、5及び7に記載されていないものの、それらの改善を図ることは本件特許に係る出願前周知の事項であったから、本件発明の没水後の塗膜強度及び増粘応答性の作用効果は格別顕著なものとはいえない(7頁9~12行)。
(c)芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)の割合が50質量%の実施例3及び4と、この反応性乳化剤(A)の割合が100質量%の実施例1、2及び4~9とを比較すると、実施例3及び4では没水後の塗膜強度が実施例1、2及び4~9よりもやや劣るものの相応の良好な結果を出しており、また、増粘応答性ではほぼ同等の良好な結果を出している。また、上記反応性乳化剤(A)とそれ以外の乳化剤とを併用する場合の実施例は、乳化剤全体における上記反応性乳化剤(A)の割合が50質量%のものしか示されておらず、上記反応性乳化剤(A)の割合が90質量%以上の実施例は示されていない。したがって、乳化剤全体における上記反応性乳化剤(A)の割合の下限値90質量%に格別の技術的意義を認めることはできない(11頁12~20行)。
(d)甲6には、甲1発明と同じく耐水性に優れた(メタ)アクリル系ポリマー塗料用組成物を製造するために、乳化剤として芳香族基を複数有する反応性乳化剤を使用することが記載されている。そして、甲1発明と甲6に記載された事項とは課題が共通するから、甲1発明の反応性乳化剤を甲6に記載された芳香族基を複数有する反応性乳化剤に置き換えることは、当業者が容易になし得たことである(14頁17~22行)。
(e)甲5及び7には、甲1発明と同じく耐水性に優れた(メタ)アクリル系ポリマー塗料用組成物を製造するために、乳化剤として芳香族基を複数有する反応性乳化剤と当該反応性乳化剤以外の乳化剤とを併用することが記載されている。そして、甲1発明と甲5及び7に記載された事項とは課題が共通するから、甲1発明の乳化剤を甲5又は7に記載された芳香族基を複数有する反応性乳化剤と当該反応性乳化剤以外の乳化剤とに置き換え、かつ、この置き換えの際に乳化剤中における芳香族基を複数有する反応性乳化剤の割合を高めることは、当業者が容易になし得たことである(15頁2~11行)。
と主張するので、以下検討する。
イ 申立人の主張の検討
(ア)主張(a)、(d)及び(e)について
上記2で説示したとおり、本件発明は、特に上記反応性乳化剤(A)の配合量が、乳化剤全体における90質量%以上又は重合成分全体に対して1質量%以上であるという発明特定事項を備えることにより、没水後の塗膜強度に優れる塗膜を形成することができ、かつ、増粘応答性に優れる塗料用組成物を提供するという技術的意義を有するものである。そして、上記(2)イ(オ)で検討したとおり、甲1及び5~7には、当業者において、形成される塗膜の没水後の強度や増粘応答性を劇的に改善するために芳香族基を複数有する反応性乳化剤を採用する動機となる記載はない。
そして、甲1発明と甲5~7に記載された事項とが形成される塗膜の耐水性の改善という抽象的な課題で共通し、そのため甲1発明に甲5~7に記載された技術的事項を適用する動機が存在するとしても、そのことは、甲1発明から出発して上記技術的意義を有する本件発明に到達することは当業者が甲1及び5~7の記載に基づいて容易になし得たことではないとの判断に影響しない。
(イ)主張(b)について
上記(2)イ(オ)で検討したとおり、没水後の塗膜強度の劇的な改善は当業者が予測をすることができるものではないし、増粘応答性の劇的な改善も、会合型増粘剤の増粘効果がエマルション中に遊離している遊離の界面活性剤の影響を受けるという抽象的な技術常識や甲6又は甲5の記載からだけでは説明できるものではなく、当業者が予測をすることができるものではない。
そして、没水後の塗膜強度及び増粘応答性の改善を図ることは本件特許に係る出願前周知の事項であったとしても、そのことのみでは、既に完成した本件発明に接した当業者が本件発明の効果を認識することができたことの根拠にはなり得ても、甲1発明から出発する当業者が本件発明の効果を予測することができたことの根拠にはならない。
(ウ)主張(c)について
本件明細書に記載された実施例、比較例及び参考例を見ると、申立人が指摘するとおり、芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)の割合が50質量%である実施例3及び4と、この反応性乳化剤(A)の割合が100質量%である実施例1、2及び4~9とを比較すると、実施例3及び4は没水後の塗膜強度が実施例1、2及び4~9よりもやや劣るものの相応の良好な結果を出しており、また、増粘応答性ではほぼ同等の良好な結果を出しているといえる。そうすると、乳化剤全体における上記反応性乳化剤(A)の割合を50質量%以上とすることに既に技術的意義を認めることができる。
そうである以上、乳化剤全体における上記反応性乳化剤(A)の割合の下限値90質量%に格別の技術的意義を認めることができるか否かは何ら問題にならない。なぜならば、拒絶理由(特許法第49条)、取消理由(同法第113条)及び無効理由(同法第123条第1項)のいずれにも同法第36条第5項に規定する要件を満たしていないことが掲げられていないことから理解できるとおり、特許法は出願人が自らの意思で発明特定事項を限定することを許容しているからである。
ウ 申立人の主張についてのまとめ
以上のとおり、申立人の主張は上記(2)~(4)における判断を左右するものではない。
(6)取消理由1及び申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~14は当業者が甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明1~14に係る特許は取消理由1又は申立理由1により取り消されるべきものではない。
(1)引用発明
甲10に係る特許異議申立事件の対象である特許第7217146号に係る出願である特願2018-246310号(以下「甲10に係る出願」という。)の請求項2、9、15及び17~20に係る発明(以下「甲10発明2」~「甲10発明20」という。)は、令和6年2月8日の訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項2、9、15及び17~20に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項2】
芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり、反応性乳化剤(A)が下記式(1)で表される反応性乳化剤を含み、(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cであり、反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して0.1~10質量%であり、シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり、重合成分が、さらに、脂肪族(メタ)アクリレート及び/又は脂環族系単量体、並びに水酸基含有(メタ)アクリレートを含み、水酸基含有(メタ)アクリレートの割合が、脂肪族(メタ)アクリレート及び/又は脂環族系単量体100質量部に対して、0.1~20質量部である、エマルション。
【化4】
58
153
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(式中、Dは下記式(D-1)又は(D-2)を示し、Aは炭素数2~4のアルキレン基を示し、Tは水素原子又は-SO
3
M(Mは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はNH
4
)を示し、lは1~2を示し、mは1~3を示し、nは1~1000を示す。)
【化5】
30
102
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【化6】
29
102
0001433085000006.jpg
(式中、R
1
は水素原子又はメチル基を示す。)
【請求項9】
重合成分が、さらに、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含み、重合成分全体における2-エチルへキシル(メタ)アクリレートの割合が10~90質量%である、請求項2~7のいずれかに記載のエマルション。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載のエマルション及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物。
【請求項17】
請求項1~14のいずれかに記載のエマルション又は請求項15~16のいずれかに記載の組成物を含む塗料。
【請求項18】
請求項17に記載の塗料で形成された塗膜。
【請求項19】
請求項18に記載の塗膜を有する建築物。
【請求項20】
請求項18に記載の塗膜を有する建材。
(2)本件発明8について
ア 対比
本件発明8は本件発明5を引用するものを包含し、本件発明5は本件発明3を引用するものを包含するから、本件発明8は本件発明5及び3を引用するものを包含する。
一方、甲10発明15は甲10発明9を引用するものを包含し、甲10発明9は甲10発明2を引用するものを包含するから、甲10発明15は甲10発明9及び2を引用するものを包含する。
そこで以下、本件発明5及び3を引用する本件発明8(以下「本件同日発明8」という。)と、甲10発明9及び2を引用する甲10発明15(以下「甲10同日発明15」という。)とを対比する。
(a)甲10同日発明15のうち甲10発明2に係る構成である「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり」、「シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり」及び「エマルション」は、本件同日発明8のうち本件発明3に係る構成である「芳香族基を複数有する反応性乳化剤(A)及び重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤(B)を少なくとも重合成分とする(メタ)アクリル系ポリマーのエマルションであり」、「シランカップリング剤(B)の割合が、重合成分全体に対して0.05~10質量%であり」及び「エマルション」と互いに同一である。
(b)甲10同日発明15のうち甲10発明2に係る構成である「反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して0.1~10質量%であり」は、本件同日発明8のうち本件発明3に係る構成である「反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して1~10質量%であり」と、「反応性乳化剤(A)の割合が、重合成分全体に対して10質量%以下であり」という限りで一致する。
(c)甲10同日発明15のうち甲10発明2に係る構成である「重合成分が、さらに、脂肪族(メタ)アクリレート及び/又は脂環族系単量体、並びに水酸基含有(メタ)アクリレートを含み」及び「水酸基含有(メタ)アクリレートの割合が、脂肪族(メタ)アクリレート及び/又は脂環族系単量体100質量部に対して、0.1~20質量部である」は、明示的に「重合成分が、さらに、脂肪族(メタ)アクリレート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを含み」、「水酸基含有(メタ)アクリレートの割合が、脂肪族(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1~20質量部である」という選択肢を含むから、本件同日発明8のうち本件発明3に係る構成である「重合成分が、さらに、脂肪族(メタ)アクリレート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを含み」及び「水酸基含有(メタ)アクリレートの割合が、脂肪族(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1~20質量部であり」と互いに同一である。
(d)甲10同日発明15のうち甲10発明2に係る構成である
「反応性乳化剤(A)が下記式(1)で表される反応性乳化剤を含み」、「
【化4】
58
153
0001433085000007.jpg
(式中、Dは下記式(D-1)又は(D-2)を示し、Aは炭素数2~4のアルキレン基を示し、Tは水素原子又は-SO
3
M(Mは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はNH
4
)を示し、lは1~2を示し、mは1~3を示し、nは1~1000を示す。)
【化5】
30
102
0001433085000008.jpg
【化6】
29
102
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(式中、R
1
は水素原子又はメチル基を示す。)」
は、本件同日発明8のうち本件発明5に係る構成である
「反応性乳化剤(A)が下記式(1)で表される反応性乳化剤を含む」、「
【化1】
58
153
0001433085000010.jpg
(式中、Dは下記式(D-1)又は(D-2)を示し、Aは炭素数2~4のアルキレン基を示し、Tは水素原子又は-SO
3
M(Mは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はNH
4
)を示し、lは1~2を示し、mは1~3を示し、nは1~1000を示す。)
【化2】
30
102
0001433085000011.jpg
【化3】
29
102
0001433085000012.jpg
(式中、R
1
は水素原子又はメチル基を示す。)」
と互いに同一である。
(e)甲10同日発明15のうち甲10発明2に係る構成である「(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cであり」は、本件同日発明8に係る構成である「(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が-40~80°Cである」と互いに同一である。
(f)甲10同日発明15のうち甲10発明9に係る構成である「重合成分が、さらに、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含み、重合成分全体における2-エチルへキシル(メタ)アクリレートの割合が10~90質量%である」は、本件同日発明8のうち本件発明3に係る構成である「重合成分が、さらに、脂肪族(メタ)アクリレート...を含み」、「脂肪族(メタ)アクリレートが、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含み」及び「重合成分全体における2-エチルへキシル(メタ)アクリレートの割合が10~90質量%である」と互いに同一である。
(g)甲10同日発明15の構成である「エマルション及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物」は、本件同日発明8のうち本件発明3に係る構成である「エマルション、及びウレタン会合型増粘剤を含む塗料用組成物」と互いに同一である。
上記(a)~(g)から、本件同日発明8と甲10同日発明15とは、
相違点8-1:反応性乳化剤(A)の重合成分全体に対する割合の下限が、本件同日発明8は1質量%であるのに対し、甲10同日発明15は0.1質量%である点
で相違し、また相違点8-1が課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
そうすると、本件同日発明8と甲10同日発明15は互いに同一ではない。
したがって、本件発明8と甲10発明15は特許法第39条第2項に規定する同一の発明ではない。
(3)本件発明11~14について
本件発明11~14は、本件同日発明8を引用するものを包含する上記第3のとおりのものであり、甲10発明17~20は、甲10同日発明15を引用するものを包含する上記(1)のとおりのものである。
そして、上記(2)で検討したとおり、本件同日発明8と甲10同日発明15は互いに同一ではない。
そうすると、本件同日発明8を引用する本件発明11~14と甲10同日発明15を引用する甲10発明17~20も互いに同一ではない。
したがって、本件発明11~14と甲10発明17~20は特許法第39条第2項に規定する同一の発明ではない。
(4)申立人の主張について
申立人は、令和7年10月30日に提出された意見書において、取消理由2及び申立理由2について意見を述べていない。
(5)取消理由2及び申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明8及び11~14は同一の発明について同日に甲10に係る出願があるものではない。
したがって、本件発明8及び11~14に係る特許は取消理由2又は申立理由2により取り消されるべきものではない。
本件発明1~14に係る特許は、上記第5のとおり、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載された取消理由によっては取り消すことができない。また、ほかに本件発明1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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