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Trademark Appeal Case

特許異議申立の進歩性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025700999
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7667635号の請求項1~11に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 手続等の経緯

特許第7667635号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願(特願2019-545206号)は、2018年(平成30年)9月28日(優先権主張 2017年(平成29年)9月29日)を国際出願日とする出願であって、令和7年4月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行されたものである。

そして、本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年10月16日に特許異議申立人 石渡 英房(以下「申立人」という。)から請求項1~11に対して特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、これらを総称して本件特許発明という。)は、特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】

光透過性基材、ハードコート層および無機層をこの順で備える光学フィルムであって、

前記ハードコート層が、前記無機層に接し、

前記ハードコート層が、バインダ樹脂および無機粒子を含み、かつ単層構造であり、

前記バインダ樹脂および前記無機粒子の少なくともいずれかが、金属元素および半金属元素の少なくともいずれかを含み、

前記ハードコート層の膜厚が、1μm以上10μm以下であり、

前記ハードコート層のインデンテーション硬さが、200MPa以上であり、

前記ハードコート層の膜厚方向の断面において、前記ハードコート層と前記無機層の界面から前記ハードコート層の深さ500nmまでの領域における前記無機粒子の面積比率が、5%以上であり、

前記ハードコート層に含まれ、かつX線光電子分光分析法により測定される前記金属元素および前記半金属元素の合計の原子比率が、1.5%以上30%以下である、光学フィルム。

【請求項2】

前記無機層が、無機酸化物層である、請求項1に記載の光学フィルム。

【請求項3】

前記無機層が、ケイ素を含む、請求項1に記載の光学フィルム。

【請求項4】

前記無機層の厚みが、10nm以上300nm以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の光学フィルム。

【請求項5】

前記ハードコート層の前記バインダ樹脂および前記無機粒子の少なくともいずれかが、半金属元素を含み、前記半金属元素がケイ素である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の光学フィルム。

【請求項6】

前記ハードコート層の前記バインダ樹脂が、重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含む、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の光学フィルム。

【請求項7】

前記光学フィルムの対向する辺部の間隔が6mmとなるように180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に割れまたは破断が生じない、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の光学フィルム。

【請求項8】

前記無機層が内側となり、かつ前記光学フィルムの対向する辺部の間隔が2mmとなるように180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に割れまたは破断が生じない、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の光学フィルム。

【請求項9】

前記光透過性基材が、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはこれらの混合物からなる基材である、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の光学フィルム。

【請求項10】

表示パネルと、

前記表示パネルよりも観察者側に配置された請求項1ないし9のいずれか一項に記載の光学フィルムと、を備え、

前記光学フィルムの前記ハードコート層が、前記光透過性基材よりも観察者側に位置している、画像表示装置。

【請求項11】

前記表示パネルが、有機発光ダイオードパネルである、請求項10に記載の画像表示装置。」

第3 申立人が提出した証拠方法及び申立理由

1 申立人が提出した証拠方法

申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに証拠方法として、以下に示す甲第1号証~甲第4号証を提出した。

甲第1号証:国際公開第2015/186434号(以下「甲1」という。)

甲第2号証:特開2011-154352号公報(以下「甲2」という。)

甲第3号証:特開2015-217530号公報(以下「甲3」という。)

甲第4号証:特開2010-000739号公報(以下「甲4」という。)

2 申立理由の概要

申立人は、概略、下記(1)~(4)の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当合議体が付与したものである。

(1) 申立理由1(新規性・進歩性欠如)

本件特許発明1~5及び7~11は、甲1発明と差異がないか、甲1発明から当業者が容易に想到できたものである。(申立書24~33ページ)。

(2) 申立理由2(新規事項)

令和6年11月28日付手続補正書により本件特許発明1~11に導入された事項は、当初明細書等に記載されたものではない(申立書33~36ページ)。

(3) 申立理由3(サポート要件違反)

本件特許発明1~11は、発明の詳細な説明に記載したものではない(申立書36~37ページ)。

(4) 申立理由4(実施可能要件違反)

本件特許明細書の発明の詳細な説明は当業者が本件特許発明1~11を実施できるように明確かつ十分に記載されたものではない(申立書37~39ページ)。

(5) 申立理由5(明確性要件違反)

本件特許発明1~11は明確ではない(申立書39ページ)。

第4 当合議体の判断

1 申立理由1(新規性・進歩性欠如)について

(1) 甲号証の記載事項及び甲1発明

ア 甲1の記載事項

甲1には、以下の記載がある。なお、下線は、合議体が認定・判断において活用した箇所を示す。

(ア) 「技術分野

[0001] 本発明は、ガスバリアーフィルムに関する。より詳しくは、ガスバリアー性を保持しつつ、クリアハードコート層とガスバリアー層との密着性に優れたガスバリアーフィルムに関する。

背景技術

[0002] 従来、食品、包装材料、医薬品などの分野で、水蒸気や酸素等のガスの透過を防ぐため、樹脂基材の表面に金属や金属酸化物の蒸着膜等の無機膜を設けた比較的簡易な構造を有するガスバリアーフィルムが用いられてきた。

包装用途以外にも、フレキシブル性を有する太陽電池素子、

有機エレクトロルミネッセンス(electroluminescence:EL)素子、液晶表示(Liquid Crystal Display:LCD)素子等のフレキシブル電子デバイスヘの展開が要望され、多くの検討がなされている。

・・・(略)・・・

発明が解決しようとする課題

[0006]

本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ガスバリアー性を保持しつつ、クリアハードコート層とガスバリアー層との密着性に優れるガスバリアーフィルムを提供することである。

課題を解決するための手段

[0007] 本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、クリアハードコート層及びガスバリアー層のX線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づく各構成元素の分布曲線のうち、ガスバリアー層の層厚方向におけるクリアハードコート層とは反対側のガスバリアー積暦層の表面からの距離と、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対する炭素原子数の比率(炭素原子比率)との関係を示す炭素分布曲線、又は炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対する酸素原子数の比率(酸素原子比率)との関係を示す酸素分布曲線の組成傾斜領域の幅を、特定範囲内とすることにより、ガスバリアー性を保持しつつ、クリアハードコート層とガスバリアー層との密着性に優れたガスバリアーフィルムを提供できることを見出し、本発明に至った。

[0008] すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。

[0009] 1.樹脂基材の少なくとも一方の面に、UV硬化樹脂からなるクリアハードコート層と、少なくとも1層の、ロール to ロールCVD装置により成膜された酸化炭化ケイ素を含有するガスバリアー層とが順次積層されたガスバリアーフィルムであって、

前記クリアハードコート層及び前記ガスバリアー層のX線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づく各構成元素の分布曲線のうち、前記ガスバリアー層の層厚方向における前記クリアハードコート層とは反対側の前記ガスバリアー層の表面からの距離と、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対する炭素原子数の比率(炭素原子比率)との関係を示す炭素分布曲線、又は炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対する酸素原子数の比率(酸素原子比率)との関係を示す酸素分布曲線の組成傾斜領域の幅が、7~20nmの範囲内であることを特徴するガスバリアーフィルム。

[0010] 2.前記クリアハードコート層における酸素原子比率が25~45at%の範囲内であり、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対するケイ素原子数の比率(ケイ素原子比率)が10~30at%の範囲内であることを特徴とする第1項に記載のガスバリアーフィルム。

・・・(略)・・・

発明の効果

[0017] 本発明の上記手段により、ガスバリアー性を保持しつつ、クリアハードコート層とガスバリアー層との密着性に優れたガスバリアーフィルムを提供することができる。」

(イ) 「発明を実施するための形態

・・・(略)・・・

[0021]

本発明のガスバリアーフィルムは、樹脂基材の少なくとも一方の面に、UV硬化性樹脂からなるクリアハードコート層と、少なくとも1層の、ロールtoロールCVD装置により成膜された酸化炭化ケイ素を含有するガスバリアー層とが順次積層され

、クリアハードコート層及びガスバリアー層のX線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づく各構成元素の分布曲線のうち、ガスバリアー層の層厚方向におけるクリアハードコート層とは反対側のガスバリアー層の表面からの距離と、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対する炭素原子数の比率(炭素原子比率)との関係を示す炭素分布曲線、又は炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対する酸素原子数の比率(酸素原子比率)との関係を示す酸素分布曲線の組成傾斜領域の幅が、7~20nmの範囲内であることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項8までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。

[0022]

本発明の実施態様としては、クリアハードコート層とガスバリアー層との親和力及びクリアハードコート層と基材との密着性向上の観点から、クリアハードコート層における酸素原子比率が25~45at%の範囲内であり、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対するケイ素原子数の比率(ケイ素原子比率)が10~30at%の範囲内であることが好ましい。

[0023] また、クリアハードコート層とガスバリアー層との親和力及び応力緩和効果、並びにクリアハードコート層と基材との密着性向上の観点から、クリアハードコート層にSiO

2

微粒子が含有されていることが好ましい。

・・・(略)・・・

[0031]《ガスバリアーフィルム》

図1に示すとおり、本発明のガスバリアーフィルムFは、樹脂基材2上に、クリアハードコート層4、ガスバリアー層6が順次積層されて構成されている。

・・・(略)・・・

[0048]《樹脂基材(2)》

本発明のガスバリアーフィルムの樹脂基材としては、樹脂フィルムを用いる。用いられる樹脂フィルムは、ガスバリアー層を保持できるフィルムであれば材質、厚さ等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。

樹脂フィルムを構成する樹脂としては、・・・(略)・・・ポリイミド・・・(略)・・・などの熱可塑性樹脂が挙げられる。

[0049] ガスバリアーフィルムを有機EL素子等の電子デバイスの基板として使用する場合は、樹脂基材は耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、線膨張係数が15~100ppm/Kの範囲内で、かつガラス転移温度Tgが100~300°Cの範囲内の樹脂基材が使用される。該樹脂基材は、電子部品用途、ディスプレイ用積層フィルムとしての必要条件を満たしている。

・・・(略)・・・

[0050] 樹脂基材として用いることができる熱可塑性樹脂のより好ましい具体例としては、・・・(略)・・・ポリイミド(例えば、三菱ガス化学株式会社製、ネオプリム(登録商標):260°C)・・・(略)・・・等が挙げられる(なお、括弧内の数値は、Tgを示す。)。特に、透明性を求める場合には、脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。

[0051]

ガスバリアーフィルムは、有機EL素子等の電子デバイスとして利用される

ことから、樹脂基材は透明であることが好ましい。すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。

光線透過率は、JIS K 7105:1981に記載された方法、すなわち、積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率及び散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。

[0052] ただし、

ガスバリアーフィルムをディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。

したがって、このような場合は、樹脂基材として不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。

[0073]《ガスバリアー層(6)》

本発明に係るガスバリアー層は、少なくとも1層からなり、SiC

x

O

y

で表される酸化炭化ケイ素を含んで構成されている。

例えば、クリアハードコート層上に、化学気相蒸着法(CVD法)によって第1のガスバリアー層を形成し、更にケイ素化合物を含有する溶液を塗布して第2のガスバリアー層を形成してもよい。」

(ウ) 「実施例

[0137] 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。

以下、本実施例において使用される材料を示す。

[0138]<基材>

樹脂フィルムからなるロール基材として、厚さ23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポン製:KFL12W)を用いた。

[0139]<クリアハードコート材料>

・ウレタンアクリレートA:共栄社化学製UA-306I(ペンタエリスリトールトリアクリレートとイソホロンジイソシアネートの反応物)

・・・(略)・・・

・アクリレートモノマーD:新中村化学製A-9300(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート)

・光重合開始剤:BASFジャパン製 イルガキュア819

・・・(略)・・・

・SiO

2

微粒子F:コロイダルシリカ(日産化学社製「スノーテックスO」)10質量部をペンタエリスリトールトリアクリレート50質量部とイソホロンジイソシアネート20質量部で処理したもの

・フッ素系活性剤:AGCセイミケミカル製S651

[0140]《ガスバリアーフィルム用基材の作製》

<ガスバリアーフィルム用基材1の作製>

基材上に、下記組成のクリアハードコート層塗布液1を塗布し、乾燥させた後、紫外光による硬化処理を行ってクリアハードコート層を形成し、ガスバリアーフィルム用基材1を作製した。乾燥条件、乾燥層厚及び硬化条件を以下に示す。

[0141]

<クリアハードコート層塗布液1>

・ウレタンアクリレートA:70質量部

・アクリレートモノマーD:20質量部

・光重合開始剤:1質量部

・SiO

2

微粒子F:10質量部

フッ素系活性剤:0.03質量部

・希釈溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルで固形分35%に調整

[0142] 乾燥条件:90°C、90秒間、

乾燥層厚:3μm、

硬化条件:高圧水銀ランプ、500mJ/cm

2

・・・(略)・・・

[0144][表1]

71

153

0001433119000001.jpg

[0145]《ガスバリアーフィルムの作製》

<プラズマCVD法によるガスバリアー層の形成>

上記クリアハードコート層を形成したガスバリアーフィルム用基材1

~12

図4に示す

プラズマCVD成膜装置31にセットし、搬送させた。

次いで、

成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に磁場を印加するとともに、成膜ローラー39と成膜ローラー40とにそれぞれ電力を供給して、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に放電してプラズマを発生させた。その後、形成された放電領域に、成膜ガス(原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとしての酸素ガス(放電ガスとしても機能する)との混合ガス)を供給し、クリアハードコート層を形成した面上に、

下記条件にて

プラズマCVD法により層厚120nmのガスバリアー層を形成し、ガスバリアーフィルム1

~12

を作製した。

・・・(略)・・・

[0147]《ガスバリアーフィルムの評価》

<クリアハードコート層及びガスバリアー層における元素分布プロファイルの測定>

作製した各ガスバリアーフィルムについて、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、層厚方向のガスバリアー層の表面からの距離における、炭素原子分布、ケイ素原子分布及び酸素原子分布を得た。

その結果、全てのガスバリアーフィルムにおいて、炭素分布曲線が少なくとも二つの極値を有し、かつ、炭素原子比率の最大値と最小値との差の絶対値が3at%以上であった。

各ガスバリアーフィルムについて、組成傾斜領域の幅(nm) 、組成傾斜領域における酸素分布曲線及び炭素分布曲線の変化率(傾き)、並びに

クリアハードコート層内における酸素原子比率(at%)(平均値)及びケイ素原子比率(at%)(平均値)を表2に示す。

・・・(略)・・・

[0152]

[表2]

57

153

0001433119000002.jpg

(当合議体注:[表2]は、便宜上、時計回りに90°回転したものである。)

(エ) 「請求の範囲

[請求項1] 樹脂基材の少なくとも一方の面に、UV硬化樹脂からなるクリアハードコート層と、少なくとも1層の、ロール to ロールCVD装置により成膜された酸化炭化ケイ素を含有するガスバリアー層とが順次積層されたガスバリアーフィルムであって、

前記クリアハードコート層及び前記ガスバリア一層のX線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づく各構成元素の分布曲線のうち、前記ガスバリア一層の層厚方向における前記クリアハードコート層とは反対側の前記ガスバリアー層の表面からの距離と、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対する炭素原子数の比率(炭素原子比率)との関係を示す炭素分布曲線、又は炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対する酸素原子数の比率(酸素原子比率)との関係を示す酸素分布曲線の組成傾斜領域の幅が、7~20nmの範囲内であることを特徴とするガスバリアーフィルム。

[請求項2] 前記クリアハードコート層における酸素原子比率が25~45at%の範囲内であり、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子の総原子数(100at%)に対するケイ素原子数の比率(ケイ素原子比率)が10~30at%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のガスバリアーフィルム。」

(オ) 「[図1]

37

89

0001433119000003.jpg

イ 甲1発明

(ア) 引用文献1の[0002]及び[0051]によれば、甲1に実施例1として記載された「ガスバリアーフィルム1」は、ディスプレイ用途に用いることが想定されているといえる。

(イ) 上記ア(ウ)及び上記(ア)によれば、甲1には、実施例1として次の「ガスバリアーフィルム1」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 樹脂フィルムからなるロール基材として、厚さ23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポン製:KFL12W)を用い、

基材上に、以下に示す乾燥条件、乾燥層厚及び硬化条件で、下記組成のクリアハードコート層塗布液1を塗布し、乾燥させた後、紫外光による硬化処理を行ってクリアハードコート層を形成し、ガスバリアーフィルム用基材1を作製し、

<クリアハードコート層塗布液1>

・ウレタンアクリレートA:共栄社化学製UA-306I(ペンタエリスリトールトリアクリレートとイソホロンジイソシアネートの反応物) 70質量部

・アクリレートモノマーD:新中村化学製A-9300(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート) 20質量部

・光重合開始剤:BASFジャパン製 イルガキュア819 1質量部

・SiO

2

微粒子F:コロイダルシリカ(日産化学社製「スノーテックスO」)10質量部

・フッ素系活性剤:AGCセイミケミカル製S651 0.03質量部

・希釈溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルで固形分35%に調整

乾燥条件:90°C、90秒間、

乾燥層厚:3μm、

硬化条件:高圧水銀ランプ、500mJ/cm

2

上記クリアハードコート層を形成したガスバリアーフィルム用基材1をプラズマCVD成膜装置31にセットし、搬送させ、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に磁場を印加するとともに、成膜ローラー39と成膜ローラー40とにそれぞれ電力を供給して、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に放電してプラズマを発生させ、形成された放電領域に、成膜ガス(原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとしての酸素ガス(放電ガスとしても機能する)との混合ガス)を供給し、クリアハードコート層を形成した面上に、プラズマCVD法により層厚120nmのガスバリアー層を形成し作製した、

クリアハードコート層内におけるケイ素原子比率は22at%である、

ディスプレイ用途に用いる、ガスバリアーフィルム1。」

ウ 甲2~4の記載事項

(ア)甲2の記載事項

甲2には、以下の記載がある。

a 「【請求項1】

光透過性基材の一面側に膜厚1~40μmのハードコート層が設けられた・・・(略)・・・光学フィルム。」

b 「【0021】

(光透過性基材)

・・・(略)・・・

具体的には光透過性基材としては、・・・(略)・・・ポリイミド系樹脂・・・(略)・・・からなるフィルムを挙げることができる。」

(イ)甲3の記載事項

甲3には、以下の記載がある。

a 「【背景技術】

【0002】

液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイパネル(PDP)等の各種ディスプレイの表面には、ディスプレイの表面を保護して傷付きを防止する高硬度透明フィルムが設けられることが多い。」

b 「【0080】

<基材フィルム>

基材フィルム111の材料は特に制限されないが、・・・(略)・・・ポリイミド(PI)・・・(略)・・・を好適に使用することができる。」

(ウ)甲4の記載事項

甲4には、以下の記載がある。

a 「【0001】

本発明は、膜硬度が高く、平滑性、折れ割れ耐性、密着性に優れた積層構造を有するハードコート層付積層体に関する。本発明は、ブラウン管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)等のディスプレイの表面や家電製品等のタッチパネル・・・(略)・・・として利用できる。」

b 「【0026】

〔樹脂基材〕

本発明のハードコート層付積層体を構成する樹脂基材としては、特に制限はないが、・・・(略)・・・ポリイミド(PI)樹脂・・・(略)・・・を用いることができる。」

(2) 本件特許発明1について

ア 対比

本件特許発明1と甲1発明を対比する。

(ア) 光透過性基材、ハードコート層および無機層をこの順で備える光学フィルム

甲1発明のガスバリアーフィルムはディスプレイ用途に用いることが想定されており、また、ガスバリアーフィルム用基材1はポリエチレンテレフタレートフィルムであるから、甲1発明のガスバリアーフィルム用基材1は光透過性であると考えられる。また、甲1発明のガスバリアー層は、HMDSOと酸素ガスとを用いたプラズマCVD法により形成されたものであって、酸化炭化ケイ素からなるものである。

してみれば、甲1発明の「ガスバリアーフィルム用基材1」、「クリアハードコート層」及び「ガスバリアー層」、「ガスバリアーフィルム1」は、それぞれ、本件特許発明1の「光透過性基材」、「ハードコート層」及び「無機層」、「光学フィルム」に相当する。そして、甲1発明の「ガスバリアーフィルム1」は、「クリアハードコート層を形成したガスバリアーフィルム用基材1」上に「ガスバリアー層を形成し作製した」ものである。

そうすると、甲1発明は、本件特許発明1における「光透過性基材、ハードコート層および無機層をこの順で備える光学フィルム」という要件を満たす。

(イ) 前記ハードコート層が、前記無機層に接し、前記ハードコート層が、バインダ樹脂および無機粒子を含み、かつ単層構造であり、前記バインダ樹脂および前記無機粒子の少なくともいずれかが、金属元素および半金属元素の少なくともいずれかを含むこと

甲1発明では、「クリアハードコート層を形成した面上に、プラズマCVD法により層厚120nmのガスバリアー層を形成し作製し」ているから、甲1発明の「クリアハードコート層」は、「ガスバリアー層」に接するものである。

また、甲1発明の「クリアハードコート層」は、「ウレタンアクリレートA」及び「アクリレートモノマーD」を含む「クリアハードコート層塗布液1」を硬化したものであり、並びに、「SiO

2

微粒子F」を含有し、また、単層構造である。

ここで、甲1発明の「SiO

2

微粒子F」は、本件特許発明1の「無機粒子」に相当し、Siは半金属元素である。

そうすると、甲1発明の「クリアハードコート層」は、本件特許発明1の「ハードコート層」における「前記無機層に接する」という要件及び「バインダ樹脂および無機粒子を含み、かつ単層構造であり、前記バインダ樹脂および前記無機粒子の少なくともいずれかが、金属元素および半金属元素の少なくともいずれかを含む」という要件を満たす。

(ウ) 前記ハードコート層の膜厚が、1μm以上10μm以下であること

甲1発明の「クリアハードコート層」は、「乾燥膜厚3μm」である。

そうすると、甲1発明の「クリアハードコート層」は、本件特許発明1の「ハードコート層」における「膜厚が、1μm以上10μm以下である」という要件を満たす。

(エ) 前記ハードコート層に含まれ、かつX線光電子分光分析法により測定される前記金属元素および前記半金属元素の合計の原子比率が、1.5%以上30%以下であること

甲1発明の「ガスバリアーフィルム1」の「クリアハードコート層におけるケイ素原子比率は22at%」である。

そうすると、甲1発明の「ガスバリアーフィルム1」は、本件特許発明1の「光学フィルム」における「前記ハードコート層に含まれ、かつX線光電子分光分析法により測定される前記金属元素および前記半金属元素の合計の原子比率が、1.5%以上30%以下である」という要件を満たす。

イ 一致点及び相違点

上記アによれば、両者は下記(ア)の点で一致し、下記(イ)及び(ウ)の点で相違する。

(ア) 一致点

「光透過性基材、ハードコート層および無機層をこの順で備える光学フィルムであって、

前記ハードコート層が、前記無機層に接し、

前記ハードコート層が、バインダ樹脂および無機粒子を含み、かつ単層構造であり、

前記バインダ樹脂および前記無機粒子の少なくともいずれかが、金属元素および半金属元素の少なくともいずれかを含み、

前記ハードコート層の膜厚が、1μm以上10μm以下であり、

前記ハードコート層に含まれ、かつX線光電子分光分析法により測定される前記金属元素および前記半金属元素の合計の原子比率が、1.5%以上30%以下である、光学フィルム。」

(イ) 相違点1

ハードコート層のインデンテーション硬さが、本件特許発明1では、200MPa以上であるのに対して、甲1発明では、定かでない点。

(ウ) 相違点2

ハードコート層の膜厚方向の断面において、ハードコート層と無機層の界面からハードコート層の深さ500nmまでの領域における無機粒子の面積比率が、本件特許発明1では、5%以上であるのに対して、甲1発明では、定かでない点。

ウ 判断

(ア) 相違点1について

本件特許明細書の【0226】【表1】には、実施例3のインデンテーション硬さが228MPaであることが示されているところ、【0195】及び【0207】の記載によれば、実施例3のハードコート層は、バインダー樹脂としてポリエステルアクリレート(製品名「M-9050」、東亞合成株式会社製)90質量部、無機微粒子としてシリカ粒子(製品名「MIBK-SD」、日産化学工業株式会社製)10質量部を用いたもの(含有量がごくわずかである反応後の光反応開始剤の残留物を無視すると、ハードコート層中のシリカ粒子の含有量は約10質量%)である。これに対して、比較例2のハードコート層は、【0199】及び【0216】の記載によれば、バインダー樹脂をポリプロピレングリコールジアクリレート(製品名「M-220」、東亞合成株式会社製)90質量部に代えたことを除いては実施例3と同一の製法であり、そのインデンテーション硬さは125MPaである。技術常識からみて、ポリエステルアクリレート(M-9050)の硬化物とポリプロピレングリコールジアクリレート(M-220)の硬化物とでは、前者のほうが硬いと考えられる。

そうすると、バインダー樹脂と無機粒子とからなるハードコート層において、無機粒子の種類及び存在量が同じであれば、バインダー樹脂の硬化物が柔らかいほうが、インデンテーション硬さがより小さくなるといえる。

ここで、甲1発明の「クリアハードコート層」は、UV硬化樹脂として「ウレタンアクリレート」である「UA-306I 70質量部」及び「エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート」である「A-9300」 20質量部、並びに、「SiO

2

微粒子F10質量部」を含有するものである。本件特許明細書に記載の実施例3のハードコート層と甲1発明の「クリアハードコート層」とは、種類が異なるもののシリカ粒子を略同量含有するものである。そして、ポリエステルアクリレート(M-9050)の硬化物とウレタンアクリレート(UA-306I)70質量部及びエトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート(A-9300)20質量部の硬化物とでは、その分子構造からみて、後者が柔らかいと考えられる。したがって、甲1発明のクリアハードコート層のインデンテーション硬さは実施例3のそれを下回ると推認される。

そうすると、甲1発明のクリアハードコート層のインデンテーション硬さが200MPa以上であることを認めるに足りる証拠はない。

したがって、相違点1は実質的な相違点であって、本件特許発明1は甲1発明ではない。

そして、甲1発明が解決しようとする課題は、甲1の[0006]、[0021]及び「0022」等の記載に基づけば、ガスバリアー性を保持しつつ、クリアハードコート層とガスバリアー層との密着性に優れるガスバリアーフィルムを提供すること(上記(1)ア(ア))であって、クリアハードコート層のインデンテーション硬さと上記ガスバリアー性と密着性との関係について示唆する記載はないから、甲1発明のクリアハードコート層のインデンテーション硬さを200MPa以上に調整しようとする動機づけもない。また、甲2~甲4の記載事項(上記(1)ウ)をみても、この判断は変わらない。

(イ) 小括

以上によれば、相違点2について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 申立人の主張について

申立人は申立書27ページにおいて、上記相違点1は、ハードコート層の物性値に関するものであるが、甲1発明のクリアハードコート層と本件特許発明1のハードコート層は、組成において何ら差異がないのだから、甲1発明のクリアハードコート層も本件特許発明1のハードコート層と同様の物性値を示すと考えるのが自然である旨主張する。

しかしながら、上記ウ(ア)で述べたとおり、甲1発明のクリアハードコート層のインデンテーション硬さが200MPa以上であることを認めるに足りる証拠はないから、当該主張は採用できない。

(3) 本件特許発明2~11について

本件特許の特許請求の範囲の請求項2~11は、いずれも、請求項1を引用するものであって、本件特許発明2~11は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、本件特許発明2~11も、甲1に記載された発明であるとも、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4) 申立理由1についてのまとめ

上記のとおり、本件特許発明1~11は、特許法29条の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法113条2号に該当しない。

よって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、申立理由1によって取り消すことはできない。

2 申立理由2(新規事項)について

(1) 新規事項の判断基準

補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、特許法17条の2第3項の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

この判断基準に基づいて、以下検討する。

(2) 新規事項についての判断

令和6年11月28日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により、補正前の請求項4が補正されて請求項1とされ、「前記バインダ樹脂および前記無機粒子の少なくともいずれかが、金属元素および半金属元素の少なくともいずれかを含み」との事項が特定された(以下「補正事項1」という。)。

また、本件補正により、補正前の請求項10が補正されて補正後の請求項6とされ、「前記ハードコート層が、重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含む」との事項が「前記ハードコート層の前記バインダ樹脂が、重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含む」との事項が特定された(以下「補正事項2」という。)。

事案に鑑み、まず、補正事項2についてみると、本件当初明細書等の発明の詳細な説明には、第2の実施形態として、「図5に示される光学フィルム50は、光学フィルム10と同様に、光透過性基材11、ハードコート層51および無機層13をこの順で備えている」(【0178】)こと、「ハードコート層51は、耐擦傷性をより向上させる観点からシリコーン樹脂51Aおよび無機粒子51Bを含んでいることが好ましい」(【0182】)こと、「シリコーン樹脂51Aとしては、重合性官能基を有する一般式(R

9

SiO

1.5

)

n

で表されるシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体(硬化物)であることが好ましい」(【0183】)こと及び実施例10としてグリシジルポリシルセスキオキサンと重合開始剤を含有するハードコート層用組成物5を用いてハードコート層を形成している(【0197】、【0214】)ことが記載されているところ、他にハードコート層における「バインダ樹脂」として働くような成分は記載されていないことから、第2の実施形態ではポリシルセスキオキサンがハードコート層におけるバインダ樹脂として働くことが想定されていることは明らかである。そうすると、本件当初明細書等には、補正事項2に係る「前記ハードコート層の前記バインダ樹脂が、重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含む」との技術的事項が記載されているといえる。

また、補正事項1に関しても、ハードコート層におけるバインダ樹脂として働いているポリシルセスキオキサンがケイ素すなわち半金属元素を含有するのであるから、本件当初明細書等には、「前記バインダ樹脂」が「半金属元素を含」む様態、すなわち、補正事項1に係る「前記バインダ樹脂および前記無機粒子の少なくともいずれかが、金属元素および半金属元素の少なくともいずれかを含み」との技術的事項が記載されているといえる。

以上によれば、補正事項1及び2を含む本件補正は、本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

よって、本件補正は、本件当初明細書等に記載された範囲内においてするものである。

(3) 申立人の主張について

申立人は、申立書の33~36ページにおいて、第2の実施形態及び実施例の記載があるとしても「バインダ樹脂が金属元素および半金属元素の少なくともいずれかを含み」あるいは「前記ハードコート層の前記バインダ樹脂が、重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含み」という記述は存在しない旨主張するが、上記(2)で検討したとおり、ポリシルセスキオキサンがハードコート層におけるバインダ樹脂として働くことが想定されていることは明らかであるから、本件当初明細書等には「バインダ樹脂が半金属元素を含む」様態及び「ハードコート層の前記バインダ樹脂が重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含む」様態が記載されているといえる。

よって、申立人の上記主張は採用できない。

(4) 申立理由2についてのまとめ

上記のとおり、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。

よって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、申立理由2によって取り消すことはできない。

3 申立理由3(サポート要件違反)について

(1) サポート要件の判断基準

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2) サポート要件についての判断

発明の詳細な説明の記載からみて、本件特許発明が解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は、「優れた耐擦過性」、「折り畳みへの耐久力」及び「干渉縞の抑制」と認められる(【0006】、【0038】~【0043】、【0151】)。

そして、例えば、本件特許明細書の【0182】における、ハードコート層が金属元素および半金属元素の少なくとも含んでいれば、耐擦傷性をより向上させることができて、当該金属元素および半金属元素がシリコーン樹脂由来か無機粒子由来かは問わない旨の記載からみて、本件特許発明1及び6が発明の課題のうち「優れた耐擦過性」を解決できることを当業者は認識できるといえる。

加えて、上記2(2)に記載したとおり、本件特許明細書には、実施例10としてハードコート層の前記バインダ樹脂が、重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含む光学フィルムが開示され、耐擦過性、折り畳み性及び干渉縞において優れるものであることが示されている。

そうすると、当業者は、本件特許発明が、発明の課題を解決できるものと認識できるというべきである。

したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

(3) 申立人の主張について

申立人は、申立書の37~38ページにおいて、「バインダ樹脂」が「金属元素および半金属元素の少なくともいずれか」を含む態様は発明の詳細な説明に記載されていない発明に関するものである旨、及び、本件特許発明6における「重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体」は、本件特許明細書においては、第2の実施形態のハードコート層51を構成するシリコーン樹脂51Aの好ましい態様として記載されているものであり、第1の実施形態のハードコート層12を構成する「バインダ樹脂12A」を構成する化合物として記載されたものではない旨主張する。

しかしながら、上記2(2)に記載したとおり、「バインダ樹脂が半金属元素を含む」様態及び「ハードコート層の前記バインダ樹脂が重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含む」様態は、本件特許明細書に記載された事項である。。

よって、申立人の上記主張はその前提に誤りがあるから採用できない。

(4)申立理由3についてのまとめ

上記のとおり、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。

よって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。

4 申立理由4(実施可能要件違反)について

(1) 実施可能要件の判断基準

本件特許発明1~11は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たすといえる。

(2) 実施可能要件についての判断

上記3(2)に記載したとおり、本件特許明細書には、前記バインダ樹脂が半金属元素を含む様態、あるいはハードコート層の前記バインダ樹脂が、重合性官能基を有するシルセスキオキサンを含む重合性化合物の重合体を含む様態が記載されている。これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明1~11の光学フィルムを生産することができるといえる。

よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1~11について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり実施可能要件を満たす。

(3) 申立人の主張について

上記3(3)と同様である。

(4) 申立理由4についてのまとめ

上記のとおり、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。

よって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、申立理由4によって取り消すことはできない。

4 申立理由5(明確性要件違反)について

(1) 明確性要件の判断基準

特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2) 明確性要件についての判断

本件特許発明の技術的範囲は、上記第2において認定したとおりのものである。そして、本件特許に関する手続の経緯を参酌すれば、ハードコート層が無機粒子を含有しない態様に関する実施例10を実施例と表示することが直ちに特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確にしているとはいえない。

よって、本件特許発明は明確である。

(3) 申立人の主張について

申立人は、申立書の39ページにおいて、本件特許発明1が「前記ハードコート層が、バインダ樹脂および無機粒子を含み」という発明特定事項を備えるものであるところ、ハードコート層が無機粒子を含有しない態様に関する実施例10があたかも本件特許発明の実施例であるかのように存置されており、その結果特許請求の範囲が不明瞭となっている旨主張する。

しかしながら、当該主張は、本件特許明細書等において「実施例」と表示する様態はもれなく特許請求の範囲の技術的範囲に包含されなければならないことを前提としたものと解されるが、そのような前提は独自の見解であってそのように解すべき根拠はない。

よって、当該主張は採用することができない。

(4) 申立理由5についてのまとめ

上記のとおり、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。

よって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、申立理由5によって取り消すことはできない。

第5 むすび

請求項1~11に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。

また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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