結論テキスト
特許第7673839号の請求項1~3に係る特許を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2025701045 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7673839号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2023-571395号)は、2023年(令和5年)5月22日(優先権主張 2022年(令和4年)5月27日)を国際出願日とする出願であって、令和7年4月28日にその特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年11月6日に特許異議申立人 高橋 昌義(以下「申立人」という。)から請求項1~3に対して特許異議の申立てがされた。
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
液晶ポリマーを含み、液晶ポリマーフィルムの材料として用いられる液晶ポリマーペレットであって、
広角X線散乱により測定される配向度が86%以上の液晶ポリマーペレット。
【請求項2】
固め嵩密度が0.35g/cm
3
以下である、請求項1に記載の液晶ポリマーペレット。
【請求項3】
繊維状の分岐部を有する、請求項1または2に記載の液晶ポリマーペレット。」
申立人は、概略、下記1~3の特許異議申立理由を主張している。
本件特許発明1~3は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(申立書3~8ページ)
本件特許発明3は、特許請求の範囲の記載により特許を受けようとする発明が明確ではない。(申立書8~9ページ)
本件明細書は、本件特許発明1~3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。(申立書9~10ページ)
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) サポート要件についての判断
ア 本件特許発明が解決しようとする課題の認定
本件特許明細書の【0007】~【0008】の記載からみて、本件特許発明が解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は、「面内の線膨張係数が小さい液晶ポリマーフィルムを得るための液晶ポリマーペレットを得ること」と認められる。
イ 本件特許発明が発明の課題を解決できると認識できるかについて
本件特許明細書の【0009】、【0015】~【0016】、【0126】~【0148】、【0153】【表1】に記載された実施例及び比較例の評価結果に関する記載に基づけば、当業者は、液晶ポリマーペレットが、「広角X線散乱により測定される配向度が86%以上」との要件を満たせば、それによって得られる液晶ポリマーフィルムの面内の線膨張係数が小さくなる(できる)ことを理解することができる。ここで、本件特許発明1~3はいずれも上記要件を満たすことが特定されているから、本件特許発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)の5ページにおいて、液晶ポリマーペレットの配向度が86%以上であっても、固め嵩密度が高い(例えば、0.35g/cm
3
超)液晶ポリマーペレットを用いた場合に、本件発明の課題を解決できるのかは十分に示されていないことを根拠として、本件特許発明1は、固め嵩密度についての構成を欠いており、課題解決手段が特許請求の範囲に十分に反映されていないため、サポート要件を欠く旨主張している。当該主張は、固め嵩密度が低いことが、発明の課題を解決するための(配向度に関する上記要件とは別の)独立した要件であることを前提としたものと解される。
しかしながら、液晶ポリマーペレットの配向度を86%以上とすることによって発明の課題が解決できると認識できることは上記(2)で検討したとおりであって、本件明細書の【0162】、FIG.12及びFIG.13には、配向度と固め嵩密度が逆相関の関係にあることも明確に示されているのであるから、配向度に係る上記要件が満たされ、かつ、固め嵩密度に係る要件が満たされない例が本件明細書に開示されていないからといって直ちにサポート要件を満たさないとはいえない。
したがって、上記主張は採用できない。
イ 申立人は、申立書の6~7ページにおいて、本件明細書には、液晶ポリマー原料の材質としてHBAとHNAとの共重合体しか開示されていないため、原料の液晶ポリマーの組成が限定されていない本件特許発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。
しかしながら、液晶ポリマーペレットの配向度を86%以上とすることによって発明の課題が解決できると認識できることは、上記(2)で述べたとおりである。そして、仮に当該所望の配向度が達成できない液晶ポリマーがあったとしても、当該液晶ポリマーは本件特許発明の技術的範囲外のものに過ぎないのであって、原料の液晶ポリマーの組成が限定されていないことを根拠とした上記主張は失当であって採用できない。
ウ 申立人は、申立書の7~8ページにおいて、本件明細書には、特定の方法以外の製造方法で製造された液晶ポリマーペレットを用いた場合に、本件発明の課題を解決できるのかは十分に示されていないため、製造方法が特定されていない本件特許発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。
しかしながら、液晶ポリマーペレットの配向度を86%以上とすることによって効果が奏されることは、上記(2)で述べたとおりである。そして、本件特許明細書の段落【0026】~【0034】には、液晶ポリマーペレットの製造方法が記載され、段落【0126】~【0131】には、液晶ポリマーペレットの具体的な製造方法が実施例1として開示されていることからみて、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明に係る液晶液晶ポリマーペレットの製造方法が十分に記載されているといえる。
(4) 申立理由1についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~3に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~3に係る特許は、申立理由1によって取り消すことはできない。
(1) 明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 明確性要件についての判断
広辞苑第七版(岩波書店、2018年)によると、「繊維」は「一般に、細い糸状の物質」、「状」は「すがた、ありさま」、「分岐」は「わかれること」、及び「部」は「分けた一区分」という意味である。そうしてみると、本件特許発明3の「繊維状の分岐部」は、細い糸状の物質のすがたにわかれた、その一区分という意味であると理解できる。したがって、同「繊維状の分岐部」の記載自体は明確である。
また、「繊維状の分岐部」を上記の意味で理解すれば、同「繊維状の分岐部」の記載は、本件特許明細書の【0149】の「図3~図8の写真から、実施例のLCPペレットでは、比較例のLCPペレットに比べて、バリ、毛羽立ちなどの繊維状の分岐部が大きいことが分かる。」という記載、及び【図3】~【図8】に示された液晶ポリマーペレットを撮影した写真の内容とも整合する。
そうしてみると、請求項3の記載それ自体は明確であり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。
したがって、本件特許発明3については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3) 申立人の主張について
申立人は、申立書の8~9ページにおいて、「繊維状の分岐部」の明確な定義が存在せず、抽象的な表現にすぎないため、「繊維状の分岐部を有する」との規定が、液晶ポリマーペレットのどのような形状を具体的に規定しているのかが不明確である旨主張している。
しかしながら、明確性要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、「繊維状の分岐部を有する」との記載が不明確であるとはいえないことは、上記(2)で述べたとおりである。
(4) 申立理由2についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項3に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項3に係る特許は、申立理由2によって取り消すことはできない。
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1~3は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たすといえる。
(2) 実施可能要件についての判断
本件特許明細書の段落【0020】~【0021】には、液晶ポリマーペレットの具体的な材料、段落【0026】~【0034】には、液晶ポリマーペレットの具体的な製造方法が、それぞれ記載され、段落【0126】~【0153】【表1】には、上記材料を使用して製造した液晶ポリマーペレットの実施例が開示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明1~3の液晶ポリマーペレットを生産することができるといえる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~3について、当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載されており、実施可能要件を満たす。
(3) 申立人の主張について
申立人は、申立書の9~10ページにおいて、本件明細書には、液晶ポリマーの原料モノマーがHBAとHNAであることが記載されているに過ぎず、どのような構成単位の種類及びその構成比であれば本願発明の課題を解決できる液晶ポリマーペレットが製造できるかが不明であるため、当業者が本願発明の課題を解決するために過度な試行錯誤を要することなく、本件特許発明1の実施をすることができるとは認められない旨主張する。
しかしながら、実施可能要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、本件特許発明に係る液晶液晶ポリマーペレットの製造方法が本件明細書の発明の詳細な説明に十分に記載されていることは上記(2)で検討したとおりである。
したがって、上記主張は採用できない。
(4) 申立理由3についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~3に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~3に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。
請求項1~3に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
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