結論テキスト
登録第6152270号の指定役務中、第42類「全指定役務」についての登録を無効とする。
その余の指定役務についての審判請求は成り立たない。
審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024890029 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本件登録第6152270号商標(以下「本件商標」という。)は、「AIアナウンサー」の文字を標準文字で表してなり、平成30年4月19日に登録出願、第35類、第38類、第41類及び第42類に属する別掲のとおりの役務を指定役務として、平成31年4月22日に登録査定、令和元年6月14日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の指定役務中、第35類「新聞記事情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,広告業,コンピュータデータベースへの情報編集」、第38類「報道をする者に対するニュースの供給,電気通信(「放送」を除く。)」、第41類「全指定役務」及び第42類「全指定役務」(以下「請求に係る役務」という。)についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書、審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)及び審理再開申立書において要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第31号証を提出した(枝番号を含む。なお、以下、証拠の記載にあたっては、「甲第○号証」を「甲○」、「乙第○号証」を「乙○」のように表記する。)。
本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号に該当するから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
(1)商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号
ア 本件商標について
本件商標は、「AIアナウンサー」の文字を標準文字で表してなるが、本件査定日当時、「AIアナウンサー」の名を付したサービスが、少なくとも「エフエム和歌山」、「株式会社Spectee」及び「NHK(日本放送協会)」から提供されていた(甲3~甲11)。そして、本件査定日当時、テレビ・ラジオなどの各種放送及び店内アナウンス・場内アナウンスなどの各種アナウンスに関係する業界(以下、これらをまとめて「放送業界」という。)、映画・映像業界、IT(Information Technology)業界及び出版業界をはじめとし様々な業界において、「AIアナウンサー」の語は、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を用いて生成された人工音声により自動で原稿を読み上げるバーチャル・アナウンサーを提供するサービスであることが広く知られていた(甲3~甲14)。
さらに、本件査定後においても「AIアナウンサー」の名を付したサービス及びその利用範囲は拡大し、2024年6月14日現在、需要者又は取引者に限らず、一般消費者においても「AIアナウンサー」の語がAI技術を用いたバーチャル・アナウンサーを示すことが認識されている(甲15~甲19)。
イ 商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について
本件商標は、本件査定日当時から需要者又は取引者においてAI技術を用いたバーチャル・アナウンサーを示す語であると知られていた「AIアナウンサー」の文字を、普通に用いられる方法で表示したにすぎないから、本件商標をその指定役務中、例えば第35類「AIアナウンサーに関する新聞記事情報の提供」、「AIアナウンサーを活用した新聞記事情報の提供」、「AIアナウンサーを提供するビジネスに関する経営の診断又は経営に関する助言」、「AIアナウンサーを活用した経営の診断又は経営に関する助言」、「AIアナウンサーを提供するビジネスに関する市場調査又は分析」、「AIアナウンサーを活用した広告業」及び「AIアナウンサーを構築するための擬音や合成音等の音・人の音声に関するコンピュータデータベースへの情報編集」、第38類「報道をする者に対するAIアナウンサーの音声を含むニュースの供給」及び「AIアナウンサーの音声を送る電気通信(「放送」を除く。)」、第41類「AIアナウンサーを活用した技芸・スポーツ又は知識の教授」、「AIアナウンサーを活用したセミナーの企画・運営又は開催」、「AIアナウンサーに関するセミナーの企画・運営又は開催」、「AIアナウンサーに関する電子出版物の提供」、「AIアナウンサーに関する図書及び記録の供覧」、「AIアナウンサーに関する書籍の制作」、「AIアナウンサーを活用した教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」及び「AIアナウンサーを活用した放送番組の制作における演出」、第42類「AIアナウンサーに関する電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」及び「AIアナウンサーに関する電子計算機用プログラムの提供」のように、AIアナウンサーに関係する役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に役務の質、提供の用に供する物、用途、態様、提供の方法について表示した語と認識するにとどまり、該文字は自他識別標識としての機能を果たしていないから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
また、本件商標を、上記役務以外の請求に係る役務に使用するときは、役務の質、提供の用に供する物、用途、態様、提供の方法について誤認を生じるおそれがあるため、商標法第4条第1項第16号に該当する。
なお、前述した各役務の一部について、本件査定日時点では、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるとまではいえなかったとしても、本件商標登録後、少なくとも本審判請求日時点では、役務の質の誤認を生ずるおそれがあることは明らかであるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第7号
「AIアナウンサー」の語は、本件出願日当時、既に、本件商標権者以外の者が提供するサービスや技術の内容を示す一般名称として使用しており、そのことは全国的に報道されていた(甲3~甲11)。
そうすると、本件商標権者が、先願主義に名を借りて、金銭的利益を得ることを目的に、一般名称化している又は一般名称化しつつある語について商標出願をしたことは明らかである(甲20~甲25)。
このため、本件商標の登録を維持することは、「AIアナウンサー」に関するサービスの提供者に限らず、「AIアナウンサー」を利用している者、「AIアナウンサー」について研究・開発を行っている者などに広く影響が及ぶため、単なる特定の当事者間の私的な問題にとどまるものではなく、公正な取引秩序そのものに関わる違反がある。
このように、本件商標は、公共的利益を私的に独占させるような結果になるおそれのある商標であるから、商標法第4条第1項第7号に違反するものである。
(1)請求に係る指定役務について
第35類「AIアナウンサーに関する新聞記事情報の提供」、第38類「報道をする者に対するAIアナウンサーの音声を含むニュースの供給」、第41類「AIアナウンサーを活用した技芸・スポーツ又は知識の教授」、第42類「AIアナウンサーに関する電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」などは、本件商標の指定役務の下位概念であるから、当然に、これらの役務には「AIアナウンサー」に関係する役務への使用が含まれる。
したがって、「指定役務のすり替え」という被請求人の主張は明らかに失当であり、審判請求書における主張には、何ら問題はない。
なお、被請求人は、審判事件答弁書(以下「答弁書」という場合がある。)において、本件商標の指定役務が、AIアナウンサーに関する前述した各役務の上位概念であることを自ら認めている。
もし、被請求人が本件商標の指定役務を、「AIアナウンサー」に関係する役務に使用する意思がなかったのであれば、出願時又は審査段階による補正で「(AIアナウンサーに関する役務は除く)」としていたはずであるから、被請求人が「AIアナウンサー」に関係する役務に上記指定役務を使用することを前提にしていたことは容易に想像でき、AIアナウンサーに関する役務への使用を否定する被請求人の主張には矛盾がある。
(2)甲15ないし甲19について
甲15ないし甲19は、商標法第46条第1項第6号に規定される後発的無効理由(商標法第4条第1項第16号)の証拠である。後発的無効理由の判断時期は登録査定時ではないから、甲15ないし甲19は証拠能力を有する。
(3)需要者の認識と識別力との関係について
乙10の1及び乙10の2は、設定登録後の普通名称化についての裁判であり、登録査定時に識別力に関する基準を示したものではない。このため、被請求人が、設定登録後に第三者に警告等を行ったとしても、登録査定時の当該商標の識別力には何ら影響しない。
このように、設定登録後の警告やそれに対する回答を理由に「登録査定時における本件商標の識別力」を主張することは、全く意味がなく、主張自体失当である。
(4)第4条第1項第7号について
被請求人自ら、答弁書において第三者に警告等を行っている旨主張しており、その一部が証拠として提出されているが、乙9の1(現代用語の基礎知識への掲載禁止)及び乙9の2の警告行為は、明らかに本件商標に係る商標権の権利が及ばない範囲に対してのものであり、権利濫用に該当する。
それに加えて、被請求人は、請求人及び請求人の販売代理店に対しても、同様の通知書を送付している(甲26、甲27)。請求人のサービス名である「AIアナウンサー 荒木ゆい」は、本件商標出願の前から使用されており、本件商標出願時において既に周知性を獲得していたことは、被請求人も知るところである(乙1参照)。それにもかかわらず、請求人に対して警告を行い、さらには、請求人の販売代理店に対しても警告を行って、金銭を要求する行為は、権利の濫用といわざるを得ない。
このように、被請求人が、金銭的利益を得ることを目的に、本件商標を出願したことは明らかであり、本件商標は「悪意の商標出願」によるもので、登録を維持するべきではない。
また、被請求人は、本件商標に係る指定役務は、商標法第3条第1項第3号(品質等表示)及び同法第4条第1項第16号(品質等誤認)による拒絶理由が通知されなかった一部のサービスのみであるにもかかわらず、自身のウェブサイトにおいて、「【おしらせ】AI関連商標権の侵害について」というタイトルで、「AIアナウンサー」の文字を使用すると、いかなる商品・役務であっても商標権侵害になるような印象を受ける文章を掲載している(甲28参照)。
このため、被請求人による前述した行為が継続されると、需要者や取引者が誤認するだけでなく、被請求人以外にも、善意の第三者が不利益を被るおそれがある。
よって、本件商標は、出願の目的及び経緯に照らしても、商標法第4条第1項第7号に規定される「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するため、無効とすべきである。
(1)商標法第3条第1項第3号について
商標法第3条第1項第3号は、指定役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について、商標登録を受けることができない旨規定している。
本件商標の構成中「AI」の語は、「人工知能」の意味を有する「Artificial Intelligence」の略語として、また、「アナウンサー」の語は、「テレビやラジオで、ニュースを報じたり、番組の司会、スポーツの実況放送などをしたりする人」の意味を有する語として、それぞれ本件査定日当時から一般に知られている。
そして、本件査定日当時から、テレビ・ラジオなどの各種放送及び店内アナウンス・場内アナウンスなどの各種アナウンスに関係する業界(以下、これらをまとめて「放送業界」という。)、映画・映像業界、IT(Information Technology)業界及び出版業界をはじめとする様々な業界において、「AI(人工知能)を用いて生成された人工音声により自動で原稿を読み上げるバーチャル・アナウンサー」を意味する言葉として、「AIアナウンサー」の語が使用されている(甲3~甲14参照)。
上記事実によれば、本件査定日当時から、本件商標を構成する「AIアナウンサー」の文字は、「AI(人工知能)を利用したバーチャル・アナウンサー」というような意味合いを有する語として、広く認識されていたといえる。
そうすると、本件商標をその指定役務中、請求に係る役務に使用した場合、これに接する取引者や需要者は、当然に、「AIアナウンサー(AIを利用したバーチャル・アナウンサー)」に関係する役務であると容易に認識し理解するから、自他役務識別標識としての機能を果たさず、商標法第3条第1項第3号に該当する。
なお、被請求人は「本件商標の指定役務は、請求人が提示するような限定・変更されたものなどではない」と再三主張しているが、本件商標の指定役務は、前述した「AIアナウンサー(AIを利用したバーチャル・アナウンサー)に関する役務」や「AIアナウンサー(AIを利用したバーチャル・アナウンサー)を活用した役務」も含むものである。
この点については、被請求人が請求人及び請求人の販売代理店に対して送付した通知書(甲26、甲27参照)において、請求人による「AIを利用したバーチャル・アナウンサー(AIアナウンサー荒木ゆい)」のサービスを「本件指定役務と同一」と主張していることから、被請求人も同様の認識であると推認される。
このように、被請求人の主張は、自らの行動と明らかに矛盾しており、信用できない。
(2)商標法第4条第1項第16号について
商標法第4条第1項第16号は、役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標について、商標登録を受けることができない旨規定している。ここでいう「役務の質の誤認を生じるおそれがある商標」に該当するというためには、その商標によって表されるような質の役務が現実に提供されていることを必要とするものではなく、一般需要者が、その商標を付した役務に接したとするならば、その役務の質等の特性を誤認するおそれがあれば足りる。また、商標法第4条第1項第16号は、除斥期間の適用がなく、後発的無効理由でもあるから、その判断時期は本件査定日時点及び本審判請求日時点である。
前述したように、「AIアナウンサー」の語が「AI(人工知能)を用いて生成された人工音声により自動で原稿を読み上げるバーチャル・アナウンサー」を意味する言葉であることは、本件査定日時点及び本審判請求日時点において一般に広く認識されていたため、本件商標を、「AIアナウンサー(AIを利用したバーチャル・アナウンサー)」に関係しない役務に使用した場合、それに接した取引者・需要者が「AIアナウンサー(AIを利用したバーチャル・アナウンサー)」に関係する役務であると誤認することは明らかである。
したがって、本件商標は、役務の質、提供の用に供する物、用途、態様、提供の方法について誤認を生じるおそれがあり、商標法第4条第1項第16号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1項第7号は、公序良俗を害するおそれがある商標について、商標登録を受けることができない旨規定している。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も該当する。また、商標法第4条第1項第7号も、後発的無効理由でもあるから、その判断時期は本件査定日時点及び本審判請求日時点である。
本件商標を構成する「AIアナウンサー」の語は、本件出願日当時、既に、被請求人以外の複数の者から提供されているサービスや技術の内容を示す一般名称として使用されており、そのことは全国的に報道されていた(甲3~甲11)。
一方、被請求人は、「AI」の語を含む商標を多数出願しており(甲20~甲25参照)、我が国において広く使用されるであろう語を、先回りして、不正な目的をもって剽窃的に出願したものであるから、商標登録出願について先願主義を採用し、また、現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても、そのような出願は、健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり、商標法の目的(商標法第1条)にも反し、公正な商標秩序を乱すものというべきである。したがって、本件査定日時点及び本審判請求日時点において「AIアナウンサー」の語が周知・著名であったか否かにかかわらず、本件商標は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当し、商標法第4条第1項第7号に違反するものである。
(4)結語
以上述べたように、本件商標登録は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
(5)附言
ア 乙10の1及び乙10の2について
被請求人は、答弁書において2つの裁判例を引用した点について、「商標権者の警告等を受けて使用を中止した同業者が存在する事実を請け、商標の識別力があることが肯定(再確認)された事例が存在することを示すべく、件の裁判例を提示したものである。」と述べている。
しかしながら、裁判例のうち「大阪地裁平成19年(ワ)第7660号商標権侵害差止等請求事件」は、その控訴審(東京高裁平成20年(ネ)第2836号商標権侵害差止等請求控訴事件)において、識別力が否定されている(甲29)。
また、裁判例のうち「神戸地裁平成7年(ワ)第661号商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件(第一事件),神戸地裁平成8年(ワ)第1937号商標権侵害差止等請求事件(第二事件)」において「「茶福豆」が大黒花芸豆又は紫花豆を原料とする煮豆商品の普通名称であるとする一部業者らの認識が業界一般のものになっているとは到底認め難い。」と判示された理由は、商標権者の警告等を受けて使用を中止した同業者が存在するからではなく、多数提出された証拠を検討した結果、「茶福豆」は煮豆商品の普通名称ではないと認識している商社や業者が多数確認されたためである。
そして、被請求人が、「本件商標が本件査定日当時に識別力を有していた証拠」として提出したJ社からの令和6年5月7日付け回答書(乙9の1)及びM社からの2024年3月15日付け回答書(乙9の2)によっては、本件査定日当時に「AIアナウンサー」の語が普通名称化していなかったことを証明することはできない。
逆に、乙9の2には「M社が本件出願日以前からAIアナウンサーの名称を使用していた」点及び「本件商標は普通名称であり商標法第26条が適用される余地がある」点が記載されていることから、この書面は、同業者が本件商標を普通名称であると認識している証拠といえる。
イ 「AI」と「普通名称」を組み合わせた商標の識別力について
本件査定日以前から、「AI」と「普通名称」や「一般名称」を組み合わせた商標(AI○○)は、「AI技術を活用した○○」あるいは「AI技術を搭載した○○」という商品・役務の質や特性を表示したものにすぎないという理由で、自他商品識別力や自他役務識別力が否定されていた(甲30、甲31)。
本件商標は、同時期に出願され拒絶又は登録が取り消されたこれらの商標と識別力の度合に差違はないから、本件審判の請求に係る指定役務について自他役務識別力を欠くものであることは明らかである。
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判事件答弁書及び審判事件答弁書(2)において要旨以下のように述べ、証拠方法として乙1ないし乙11(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標法第3条第1項第3号の不該当について
ア 請求人の「請求の理由」について
(ア)本件商標の指定役務は、請求人が提示するような限定されたものなどではない。
「AIアナウンサー」は登録商標であり、自他商品役務識別機能を有する文字であるところ、これを内容の不明確な「AIアナウンサーに関する〇〇(役務)」や「AIアナウンサーを活用した〇〇(役務)」などと表記したところで、それが特定の意味合いを表す、あるいは需要者等をして具体的な内容に認識されることはない。
(イ)無効理由の存否は、登録査定時が基準である
本件審判請求に係る無効理由(商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第7号、同項第16号)の存否について判断されるのは、登録査定時が基準となる。
既に登録されてから5年間以上も使用を継続され、多くの権利関係や実取引を伴ってきている本件商標について、その無効理由を論じる以上は、かかる前提条件は厳粛に認証しなければならない。
そこで、請求人が提出した証拠をみると、提示された証拠のうち、請求人自らも認めるように、甲15ないし甲19は、本件商標登録の査定後のものであり、当該無効理由の存否について論ずるにあたり、考慮されるべきではない。
(ウ)手続補正による登録
なお、本件商標は、審査時に審査官から拒絶理由通知(商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号)を受け、指摘対象の指定役務を削除する手続補正を行ったことにより登録を認められた(乙1)。
すなわち、当該拒絶理由通知により拒絶理由の存するとされた対象指定役務を本件商標から削除することにより、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号の該当事由は解消され、本件商標について、登録要件が備わることが認められて登録となったものである。よって、本件商標は、指定役務についての自他商品役務の識別力を有することが正式な審査により認められたことに相違ない。
(エ)請求人の提示する甲3ないし甲11、甲13は、審査で確認されているものである。
請求人が提出した証拠物件中、議論の対象とすべき本件商標査定時までの物件となる甲3ないし甲14についてみると、以下の4つの使用主体のものに収れんされる。
1つ目は、NHKが提供する「ニュースのヨミ子」に関する記事等の掲載にあたるもの(甲9~甲11)。2つ目は、請求人たる株式会社Spectee社の提供する「荒木ゆい」に関する記事等の掲載にあたるもの(甲4~甲6、甲8、甲13)。3つ目が、エフエム和歌山の開発及び提供によるプログラム(「ナナコ」)に関する記事等の掲載にあたるもの(甲3、甲7)。そして、4つ目が、中国の国営通信社である新華社通信などの提供するものに関する記事等の掲載である(甲12)。なお、甲14は、大学教授による発表論稿であり、内容的には、上記2つ目(請求人に関する)を除く、残り3つの内容等について触れたものであり、この論文自体は、「AIアナウンサー」という名称の使用実例に当たるとはいえず、論文テーマの一部としてこれらの使用例に言及したにすぎない。また、4つ目(甲12)は、日本とは関係ない、他国(中国)に関する報道記事にすぎない。
そして、これらの使用実例については、既に本件商標審査時の拒絶理由通知書(乙1)の中に提示されたもので、審査官によって審査の際に探知され認識されていたものと同内容のものばかりである。
つまり、請求人が提示した証拠のうち、有効と扱われるもの(甲3~甲14)のほとんどは、決して目新しいものではなく、既に本件商標の審査段階において審査官が確認しているのであって、せいぜい我が国とは関係のない中国のニュース記事(甲12)が追加されているにすぎない。よって、登録を認めた審査判断への反論となるような、これを覆すべき事情を示す証拠としては脆弱不足の至りであり、根拠を欠いた単なる持論の主張にすぎない。
イ 本件商標の識別力について
本件商標の構成中の「AI」について、我が国では、「AI」という文字からは、例えば、近年著名であり若者を中心に人気のある歌手の「AI(アイ)」氏(乙2の1)が認識されるということもできる。また、そもそも、「AI」という欧文字は、日本では通常のローマ字読みで「アイ」と読まれて称呼される方が自然であるといえる。したがって、上記の歌手の「AI(アイ)」氏のように、一般になじまれて非常に好んで名付けられる名称の「あい(愛)」のローマ字表記として読まれ、認識されることも決して少なくはない。むしろ、「エーアイ」という読み方を意図するのであれば、正確には「A.I.」といったようにピリオドで区切って表記する場合も多く、ローマ字の略語表記をする場合には一般的であろうと考えられる(乙2の2及び3)。
この「AI」の文字と、「アナウンサー」の文字(「ラジオやテレビでニュースを読んだり、司会・実況放送などをしたりする人。競技場・駅などで、放送により伝達・告知する係。」の意味を有する(株式会社岩波書店 広辞苑第六版))と組み合わせられた「AIアナウンサー」は、従来にはなかった言葉、文字であり、本件商標出願時の一部の指定役務(「放送」、「放送番組の制作」、などは審査官の指摘を受け指定役務から削除補正済み)の分野を除いては、いわば一種の造語といえる。かかる商標「AIアナウンサー」は、少なくとも審査当時は、抽象的な観念しか生じさせず、特定の意味合いのみが看取されるような言葉などではなく、あくまでも漠然として曖昧な意味内容しか認識されない文字にすぎない。それゆえに、5年前の審査時点では、一部の指定役務を除いては、顕著性が認められて、商標登録が査定されたのである。
ウ 本件商標権者による使用について
本件商標権者は、2014年に「AIメディア構想」を掲げて、AI開発のロードマップを作成し始め、2016年には、「AIテレビ」:「ニューズオプエド」として「AIニューズ」番組の開発をし、同年には「AIアナウンサー」の開発を成功させ、「AIスタジオ」、「AI記者」などを世に送り出している(乙3、乙4)。
なお、請求人が提示する甲20ないし甲25の登録商標は、かかる事業に係るサービス名称を保護し、まさに自ブランドとして正当かつ適正に権利化を図るべく商標登録出願をしたものであり、請求人の述べるような「先願主義に名を借りて、金銭的利益を得ることを目的に・・・商標出願をした」といった指摘などは、根拠のない全くの的外れなものである。かかる商標登録による、本件商標権者(商標の使用をする者)の業務上の信用の維持を図るという商標法の本旨にのっとった正当な商標登録出願に対し、確たる根拠もなく「先願主義に名を借りて、金銭的利益を得ることを目的に・・・商標出願をした」などというのは、いわゆる言い掛かりである。
本件商標権者は、上記のように事業の一環である「オプエド」が、放送開始(2014年6月)から10年を経過しているが、同番組開始直後の2015年からAI技術を取り入れたニュース生成の技術を開発し、2023年11月に業界を先んじて、世界で初めてAIを使用した生放送の「AIテレビNOBORDER」の番組の放送実施をするに至っている(乙3、乙4)。このような「AIメディアプロジェクト」への取り組みの一環として、本件商標「AIアナウンサー」を2016年に開発を成功し、2019年には番組への導入を始め(乙5の1~3)、同年に本件商標を出願して登録したものである。同社の事業は、諸所の経緯を経て現在に至るものの、これまでに上記のような事業の取り組みとともに、各サービス名称のブランド化、商標権の明示と事業に則した適正な使用を継続し、各メディア上においてもそのことを訴求し一貫して掲示し続けてきている(乙6)。これは、その後現在に至るまで、一貫して継続されてきており、本件商標権者が、商標登録にとどまらずに、これらに提示する商標を適正に使用しており、かつそのことを明確に示しているものといえる(乙7の1~13)。
上記のごとき、本件商標権者による商標権の適正使用のもと、本件商標については、登録が認められた以降は、「(株)NOBORDERNEWS TOKYOが運営・制作する「ニューズ・オプエド」は「言論の多様性」をキーワードに自由で健全な言論空間の構築を求めて2014年6月から1000回を超える生放送を行うとともに「AIニューズ」「AIメディア」「AIテレビ」「AIアナウンサー」「AIスタジオ」など最新AI技術にも努めております。」として明示されている(乙7の3~13)。
そして、同社及び同社代表により、本件商標である「AIアナウンサー」及び関連事業たるAI技術を活用した事業展開を積極的に実施しており、これに伴って、「AIアナウンサー」商標も使用継続され、登録商標として露出されている(乙8)。
このように、本件商標権者によるAI技術に関する事業は、本件商標の登録査定時よりも5年近くも前から事業が開始されていたものであり、拒絶理由通知書及び請求人の提示する先の3社(NHK、請求人、エフエム和歌山)の使用例の時期が、仮に本件商標の登録査定時よりもやや前であったとしても、それはほぼ同時期(2017年8月頃~)のことであって、単に、自社の事業展開に伴って本件商標権者が先駆して使用していた本件商標を目にし、触発されたことによりこれを追随し、あるいはその名称たる本件商標を模倣し、または借用したにすぎないということも可能である。
エ 需要者の認識について
本件商標登録後の他者による本件商標の無断使用等に対しては、本件商標権者より各使用者に対し、商標権者として当然の権利保護のための施策として、無断使用の停止、及び登録商標であることと商標権者の表示を伴った使用の要請、更には使用のための協議機会の設定に関する通知連絡を、誠意をもって実施している。
これに対しては、例えば「現代用語の基礎知識」を発行する株式会社自由国民社からは、翌(2025)年度版の刊行の際には、「AIアナウンサー」の用語の削除、あるいは掲載する際には、株式会社NOBODER社の登録商標であることを明記する旨の回答を得ており(乙9の1)、また、他者においても、運営するWEBページへの掲載は取りやめるといった回答をも得ている(乙9の2)。
これらの事実は、本件商標の指定役務分野の需要者が、本件商標は識別力を有するものであることを認識する例である。
なお、商標権者の警告等を受けて使用を中止した同業者が存在する事実を、商標の識別力がある方向に肯定的に評価した事例は、過去の裁判例においてもみられる(乙10の1及び2)。
オ まとめ
上記のとおり、いずれにしても、本件商標の査定時には既に審査の判断資料として認識されていた使用例を、事後に改めて指摘をされたとしても、それが審査時に識別力を認められて登録となった本件商標の審査に対して影響を与えるものではなく、本件商標の識別力は何ら疑いがない。
そして、上記の如く、その後の本件商標の使用及びメディア等での頻繁な露出などにより、これを追随し借用するケースが増加することは、現在のような情報社会においては自然の流れであって想定内のことと考えられる。
したがって、本件商標は、識別力を備えた商標であること、それを認められたことに相違なく、決して指定役務の質や用途等を表示するような語ではないため、商標法第3条第1項第3号には該当しない。
(2)商標法第4条第1項第16号の不該当について
上記のとおり、本件商標「AIアナウンサー」の識別力は、審査時に認められたものに違わず、それを覆すに足るような証左もないのであるから、指定役務の質や用途等を表示するような語ではなく、したがって、指定役務の質等についての誤認を生じるおそれなどはないため、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第7号の不該当について
請求人は、本件商標「AIアナウンサー」の語が、「本件出願日当時、既に、本件商標権者以外の者が提供するサービスや技術の内容を示す一般名称として使用しており、そのことは全国的に報道されていた(甲3~甲11)」ということのみをもって、その他、何も根拠を示すことなく、本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反するとしている。
甲3ないし甲11は、本件商標審査時に、審査官が提示したものと同内容のものにすぎないが、これをもって、そして、本件商標権者が、その他の「AIニューズ」をはじめとする登録商標を出願していたこと(甲20~甲25)のみをもって、なぜ「本件商標権者が、先願主義に名を借りて、金銭的利益を得ることを目的に、一般名称化している又は一般名称化しつつある語について商標出願をしたことは明らかである」といえるのか、疑問を禁じ得ない。
そもそも、商標法第4条第1項第7号に該当するというには、「指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。」あるいは、「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。」などに該当するものとされる(乙11)が、かかる事由に該当するような根拠や証拠を何ら示すことなく、商標出願したことを「公共的利益を私的に独占させるような結果になるおそれ」というならば、あらゆる商標出願がこれに該当することになってしまい、商標登録制度自体を否定することになりかねない。
本件商標の出願に係る経緯は、本件商標権者の事業展開に伴う商標を保護し、適正かつ正当な商標の使用・活用を図り、これを実施するものであり、そこには「社会の一般的道徳観念に反する」ことも、「出願の経緯に社会的相当性を欠くもの」といった実情もなく、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には該当しない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号には該当しないことは明らかである。
(4)総括
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号のいずれにも該当せず、その登録は、同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効にすべきではない。
(1)請求人の弁駁内容について
ア 指定役務について
請求人は、請求書において、本件商標の指定役務とはまったく異なる、極めて限定され歪められた内容の表記であり、請求人の恣意的な表現で本来の指定役務とすり替えようとしており、無効理由の存否の対象(指定役務)が別の改変された表示に置き換えられているため、議論の前提が大きく外れてしまっていることに対する、被請求人からの指摘について、弁駁書において、「下位概念であるから、当然に、これらの役務には「AIアナウンサー」に関係する役務への使用が含まれる。」と弁駁している。
しかしながら、被請求人は、「上位概念」とか「下位概念」に当たるか当たらないということについて議論をする意図は毛頭無い(そもそも、果たして正しく下位概念として明確に認められ得るかどうかも不明である)。
請求人の主張によるならば、「AIアナウンサー」なる語が、「人工知能を用いて生成された人工音声により自動で原稿を読み上げるバーチャル・アナウンサーを提供するサービス」を一般に表していたことにより、「Aに関するB」といった下位概念であるかどうかにかかわらず、要するに「B」の指定役務分野(例えば、「新聞記事情報の提供」や「経営の診断又は経営に関する助言」に属する分野)の需要者間においても、「人工知能を用いて生成された人工音声により自動で原稿を読み上げるなどのバーチャル・アナウンサー」などによるサービスであると、一般に認識されていたかが本筋の議論の対象となるべきである。
被請求人は、請求人が「AIアナウンサーに関する○○」や「AIアナウンサーを活用した○○」などの概念で画する各指定役務において、「AIアナウンサー」の部分が、本件商標の各指定役務の分野に属する需要者間において一般に何を指称していたものであるかを、証拠に基づいて主張立証せずに、請求人が恣意的に「限定(あるいは変更)された」内容の指定役務を所与の前提に論じていることが問題であり、それでは本件商標の実態から逸れるという点を指摘したものである。したがって、請求人の上記弁駁は論外であって、議論の前提を違うものといえる。本件商標の指定役務は、請求人が提示するような限定・変更されたものなどではない。
「AIアナウンサー」は登録商標であり、その指定役務との関係で、自他商品役務識別機能を有する商標である。
イ 甲15ないし甲19について
本件商標は、令和元年(2019年)に登録査定、設定登録された登録商標であり、当然に識別力が認められたものである。したがって、既に答弁書に述べたとおり、本件商標権者たる被請求人が、2016年には開発をし、2019年には番組にて導入を開始し、広く本件商標の使用を開始したものであるが、請求人が提示する事後の使用証拠(甲15~甲19)は、いずれも本件商標の使用を目にし、触発されたことによりこれを追随して使用、あるいは名称として借用ないしは模倣したものにすぎないと推測され得ることは、時系列的に証明され得るものである。これを裏付けるものとして、被請求人が、商標権者として、メディア等を通じて広く正当に本件商標を使用し続けてきたことは、既に答弁書で論証したとおりである。
審査を経て識別標識として認められ、すなわち指定役務の質や用途等を表示するものではない、登録を認められた本件商標と同じ名称を、後から無断で使用した事案をもってきて、後付けで品質等の誤認が生ずる(商標法第4条第1項第16号に該当する)などという論理には、到底同意することができない。
少なくとも、「後発的無効理由」としての商標法第4条第1項第16号適用を論じるならば、余程、社会一般に広く浸透するなど、正当に登録され使用されている登録商標の無効を認めるに足るような事象や事例でなければ、わずか数件の事後使用では証明されるべくもない。
ウ 需要者の認識について
請求人は弁駁書にて、被請求人が答弁書で引用した判例について「設定登録後の普通名称化についての裁判であり、登録査定時に識別力に関する基準を示したものではない。」と述べているが、被請求人が当該判例を引用した主旨は、すなわち、被請求人が、商標権者として当然の権利保護のための施策として、無断使用の停止、及び登録商標であることと商標権者の表示を伴った使用の要請、更には使用のための協議機会の設定に関する通知連絡をした結果、使用者がこれに応じる事実が、本件商標の指定役務分野の需要者が、本件商標は識別力を有するものであることを認識する事例と評価できるものであるが、これと同様にして、商標権者の警告等を受けて使用を中止した同業者が存在する事実を請け、商標の識別力があることが肯定(再確認)された事例が存在することを示すべく、件の裁判例を提示したものである。
これらの判例は、どちらも紛うことなく対象商標の識別力の有無について判断され、識別力があることが再確認された判例であり、その一環として商標の普通化の有無についても論じられてはいるものの、それが果たして被請求人の上記答弁の主旨に対してどのように影響するのか、すなわち、これらの判例が“設定登録後の普通名称化についての裁判”とする評価が、商標の識別力が再確認された事実について何を意味するのかがにわかには理解できない。同時に“登録査定時に識別力に関する基準を示したものではない”という言及も、やはり的外れな指摘にすぎない。
要するに、弁駁書の内容をもってしても、請求人も記すとおり、まさしく“登録査定時の当該商標の識別力には何ら影響しない”のであり、本件商標に認められた識別力は揺るがないものである。
エ 商標法第4条第1項第7号について
被請求人が、商標権者の当然の権利保護のための施策として、無断使用の停止、及び登録商標であることと商標権者の表示を伴った使用の要請、使用のための協議機会の設定に関する通知連絡をしたことに対して、これを“警告行為”という事実と異なる表現とし、「明らかに本件商標に係る商標権の権利が及ばない範囲に対してのものであり、権利濫用に該当」と主張する。かかる本件商標権の権利保護のために「商標権」の尊重を要請することが、一体いかなる点で“権利が及ばない範囲に対してのもの”となるのか甚だ疑問である。
その上、「請求人のサービス名である「AIアナウンサー 荒木ゆい」」は、一体どんな経緯で“周知性を獲得していた”というのであろうか。また、一体誰が誰に(請求人なのか被請求人なのか)対して“警告を打って、金銭を要求する行為”(さしずめ脅迫行為とでもする主張か)を行ったというのであろうか。根拠もなく“権利濫用”とし、商標保有者としての正当な出願行為を“悪意の商標出願”と断ずる語調は、もはや目に余る難癖といえまいか。
そして、極めつけは、被請求人が自社サイトに掲示する自社保有「商標権」の侵害に対するお知らせを挙げて、“いかなる商品・役務であっても商標権侵害になるような印象を受ける文章を掲載”などという、まったく根拠のない言い掛かりのような主張を重ねるに及び、もはや事実無根の破綻した議論であることは明白といえる。
オ まとめ
上記のように、請求人の弁駁の内容は、いずれも根拠がなく、あるいは総じて的外れなものであり、到底容認することができない。
いずれにしても、本件商標の識別力は何ら疑いのないものである。
したがって、本件商標は、識別力を備えた商標であること、それを認められたことに相違なく、決して指定役務の質や用途等を表示するような語ではない。また、指定役務について誤認を生じるものではなく、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標にも該当しないため、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号、並びに同項第7号には該当しない。
カ 補足
補足ながら、アラビア語と英語でニュース等を24時間放送している世界的に有名な衛星テレビ局の「アルジャジーラ」(本社:カタール国のドーハ)が、2025年1月11日に開催した「Al Jazeera Conference 「AI in Media」において、ワシントンポスト、ニューヨークタイムズ、ロイター、AP通信などの名だたるメディアと並んで、日本を代表して被請求人が招待されて被請求人代表が登壇している。当該「AIカンファレンス」では、メディアとテクノロジーの専門家が一堂に会し、AIの利用に関する最新の動向について議論され、ビッグデータの処理や編集及び技術業務の改善など、ジャーナリズムにAIをどのように活用できるかについて検討され、マイクロソフト、グーグル、シスコ、IBMなどの大手テクノロジー企業の講演者や、アルジャジーラ・ネットワークの専門家、一流大学や学術機関の研究者によるセッションが行われたものである。これらのセッションの中で、メディア業界の最新のスマートツールとアプリケーションの事例として、ワシントンポスト、ニューヨークタイムズ、ロイター、AP通信社などとともに、被請求人であるノーボーダーニュースが国際的な成功事例として紹介された。
かかる事実からしても、被請求人の「AIアナウンサー」を含むAI技術が、世界的にも認知され評価されていることが裏付けられるものといえる。
(2)総括
以上のとおり、請求人の弁駁はまったく根拠のない内容であり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号のいずれにも該当せず、その登録は、同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効にすべきではない。
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがないものであり、請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下、本案に入って審理する。
(1)請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 「ITmedia NEWS」のウェブサイトにおいて、「“AIアナウンサー”がラジオ放送 Amazonの音声合成技術で」(2017年8月1日)の見出しの下、「コミュニティーFM「Banana FM」を運営するエフエム和歌山(和歌山市)が、人工知能(AI)技術を使ったラジオ放送を7月に始めた。・・・ディープラーニング技術を使用し、人間の声のような音声を合成できるという「Amazon Polly」を活用。・・・あらかじめ新聞社などからニュース原稿を受け取り、エフエム和歌山が開発したプログラムを使い、合成音声で読み上げやすいようにルビや句読点の位置などを自動修正。いったん原稿をエフエム和歌山のサーバに保存しておき、放送直前にAmazon Pollyが音声に変換して、自動的に読み上げるという。・・・これまでエフエム和歌山は、金銭的・人口的な要因からアナウンサーの確保が難しく、特に深夜や早朝の放送が困難だったという。Amazon Pollyを導入することで、これまで放送できなかった時間帯でも放送を始めたほか、局地的豪雨や地震が発生した場合に災害放送が可能としている。」の記載がある(甲3)。
イ 「CNET Japan」のウェブサイトにおいて、「人間に近い音声で読み上げるAIアナウンサー「荒木ゆい」―Specteeが開発」(2017年11月7日)の見出しの下、「報道機関向けのニュース速報サービス「Spectee」を運営するSpecteeは11月7日、人間に近い音声で原稿を読み上げたり、会話したりできるAIアナウンサー「荒木 ゆい」のベータ版を公開したと発表した。実際にアナウンサーが読んでいる約10万件のニュース音声を、同社が開発した人工知能エンジン「Spectee AI」で機械学習したことで・・・自動で原稿を読み上げるバーチャルアナウンサーを開発したという。・・・これらの技術によって、報道現場のコスト削減に繋げられるほか、たとえば災害時の長時間放送をAIアナウンサーが担当することで、休むことなくニュースを配信できるとしている。」の記載がある(甲5)。
ウ 「ITmediaビジネスオンライン」のウェブサイトにおいて、「“いま”が分かるビジネス塾 「AIアナウンサー」年間1000円の衝撃」(2017年10月12日)の見出しの下、「和歌山県の放送局が、放送業界にちょっとした衝撃を与えている。特定非営利活動法人であるエフエム和歌山が「ナナコ」と名付けたAIアナウンサーの運用を開始したからだ。・・・エフエム和歌山の事例が画期的なのは、音声読み上げシステムを同局の職員が手作りしてしまったことである。・・・同社が選択したのは、米Amazon.com(以下、アマゾン)がクラウド経由で提供しているAIサービスを利用する手法だった。アマゾンは「AWS(Amazon Web Services)」と呼ばれるクラウドサービスを提供しているが、その中には、音声合成や画像分析、対話型インタフェースなど各種のAIサービスが含まれている。」の記載がある(甲7)。
エ 「日本経済新聞」のウェブサイトにおいて、「AIアナウンサーがニュース読む NHK、4月から」(2018年3月27日)の見出しの下、「NHKに人工知能(AI)アナウンサー」が登場する。26日、4月から一部の番組でニュース原稿をAIに読ませるサービスを始めると発表。・・・NHK放送技術研究所は、いつでも迅速かつ正確にニュースを伝えられるようにAIを活用したニュースの伝達方法を研究してきた。・・・4月からニュース番組に採用する新サービス「ニュースのヨミ子」は、ロボット実況の技術をベースに、17年10月から開発を始めた。事前に同社に所属するアナウンサーに大量のニュース原稿を読んでもらい、録音した音声データを10万語の音素に分解。AIはNHKのウェブサイト上のニュース原稿をもとに音素を組み合わせて発声する。・・・突発的なニュースにも素早く対応できるようにし、他の職員の仕事量を軽減させる効果も期待する。」の記載がある(甲10)。
(2)判断
本件商標は、上記第1のとおり、「AIアナウンサー」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「AI」の文字は「人工知能」(広辞苑第七版 株式会社岩波書店)の意味を、「アナウンサー」の文字は「ラジオやテレビでニュースを読んだり、司会・実況放送などをしたりする人」(前掲書)の意味を有する語として、それぞれ一般に用いられている語であり、本件商標は、全体として、これらの語を組み合わせてなるものと容易に理解させるものである。
そして、上記(1)によれば、本件商標の登録査定時前から、放送業界や電子計算機用プログラムを取り扱う業界において、アナウンサーに代わり、AI(人工知能)により合成された音声を用いてニュース原稿の読み上げ等を行うシステム(プログラム)が開発、提供され、そのようなニュース原稿を読み上げるシステム(プログラム)を、アナウンサーに見立てて、「AIアナウンサー」と称していたものと認められる。
そうすると、「AIアナウンサー」の文字からなる本件商標は、その登録査定時に、「AI(人工知能)を用いてニュース原稿の読み上げを行うシステム(プログラム)」を指すものであると理解、認識されていたといえるから、本件商標をその請求に係る指定役務中、第42類「電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守,電子計算機用プログラムの提供」に使用した場合には、これらの役務が、AI(人工知能)を用いてニュース原稿の読み上げを行うプログラムに係る役務であること、すなわち、役務の質を表示したものと理解されるにとどまるというのが相当である。
また、本件商標を、上記役務中、「AI(人工知能)を用いてニュース原稿の読み上げを行うプログラムに係る役務」以外の役務について使用した場合には、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する。
(3)被請求人の主張について
ア 被請求人は、「AI」の文字は、一般になじまれている名称の「あい(愛)」のローマ字表記として読まれ、認識されることも少なくはなく、これと「アナウンサー」の文字を組み合わせた本件商標は、本件商標出願時の一部の指定役務(削除補正済み)の分野を除いては、漠然とした意味合いしか認識されない一種の造語といえる旨主張する。
しかしながら、「AI」の文字は、上記(2)のとおり、「人工知能」を意味するものとして一般に知られている語であるとともに、上記(1)のとおり、放送業界や電子計算機用プログラムを取り扱う業界においても当該意味合いにおいて使用されていることを踏まえれば、「AI」の文字は、上記の分野においては、「エーアイ」と発音され、人工知能を意味するものと認識され得るというべきである。そして、当該「AI」の文字と「アナウンサー」の文字を組み合わせてなる本件商標が、「AI(人工知能)を用いてニュース原稿の読み上げを行うシステム(プログラム)」の意味合いを理解させ、第42類「電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守,電子計算機用プログラムの提供」との関係において、役務の質を表したものと認識させることは、上記(2)で述べたとおりである。
イ 被請求人は、請求人が提示する証拠のうち、有効と扱われるもののほとんどは、既に本件商標の審査段階において認識されていたものであるから、請求人の主張は根拠を欠くものである旨主張する。
しかしながら、上記(1)の事実によれば、電子計算機用プログラムを取り扱う業界においても、本件商標の登録査定前から、「AIアナウンサー」の文字が、「AI(人工知能)を用いてニュース原稿の読み上げを行うシステム(プログラム)」を称するものとして使用されていたものと認められるから、上記(2)で述べたとおり、本件商標を請求に係る役務中、第42類「電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守,電子計算機用プログラムの提供」に使用した場合には、すなわち、役務の質を表示したものと理解されるにとどまるものというのが相当である。
ウ したがって、被請求人の上記主張はいずれも採用することができない。
請求人は、「AIアナウンサー」の語は、本件商標の出願時には既にサービスや技術の内容を示す一般名称として使用されていたから、本件商標権者が、先願主義に名を借りて、金銭的利益を得ることを目的に、一般名称化している又は一般名称化しつつある語について商標出願をしたことは明らかであって、本件商標の登録を維持することは、「AIアナウンサー」に関するサービスの提供者、「AIアナウンサー」を利用している者、「AIアナウンサー」について研究・開発を行っている者などに広く影響が及び、公正な取引秩序そのものに関わるものであり、公共的利益を私的に独占させるような結果になるおそれがあるから、本件商標の登録は商標法第4条第1項第7号に違反する旨主張する。
しかしながら、本件商標権者が金銭的利益を得ることを目的に本件商標を出願した旨の主張について、そのことを証明する具体的かつ客観的な証拠の提出はない。
さらに、請求人は、本件商標権者が、明らかに本件商標に係る商標権の権利が及ばない範囲に対して警告を行っていることや、「AIアナウンサー」の文字を含む請求人のサービス名が、本件商標出願時に周知性を獲得していたことを知りながら、請求人に対して警告を行ったことは権利の濫用である旨主張するが、当該主張を認めるに足る客観的な証拠も見いだせない。
そうすると、本件商標の登録出願及びその経緯が、著しく社会的相当性を欠き、その登録を認めることが公正な取引秩序を乱し、公序良俗を害するものということはできない。
その他、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものであるなど、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
以上のとおり、本件商標は、その指定役務中、「結論掲記の役務」について、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものであり、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。
しかしながら、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない上、「結論掲記の役務」以外の指定役務については、同法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものではない。
してみれば、「結論掲記の役務」以外の指定役務についての本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第7号及び同項第16号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。