結論テキスト
登録第6687612号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2023890059 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
理 由
本件登録第6687612号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和3年2月22日に登録出願、第30類「ぎょうざ,しゅうまい,中華まんじゅう,ハンバーガー,ホットドッグ,穀物の加工品」を指定商品として、同5年2月6日に登録審決され、同年4月7日に設定登録されたものである。
請求人が本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するとして引用する商標は、次のとおり(以下、これらをまとめて「引用商標」という。)であり、いずれの商標権も現に有効に存続している。
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成8年6月24日
設定登録日:平成10年8月21日
指定商品:第30類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:平成12年8月1日
設定登録日:平成13年6月29日
指定商品:第29類、第30類及び第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
商標の構成:別掲4のとおり
登録出願日:平成12年8月1日
設定登録日:平成13年8月10日
指定商品:第26類、第29類、第30類及び第32類に属する商標登録原簿記載のとりの商品
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成19年6月25日
設定登録日:平成21年6月19日
指定役務:第35類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務
商標の構成:麒麟(標準文字)
登録出願日:平成27年2月20日
設定登録日:平成30年5月11日
指定商品:第29類、第30類、第32類及び第33類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
商標の構成:キリン(標準文字)
登録出願日:平成27年12月10日
設定登録日:令和 元年11月22日
指定商品及び指定役務:第5類、第7類、第9類、第14類、第16類、第18類、第21類、第24類、第25類、第28類ないし第30類、第32類、第33類、第35類ないし第45類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
商標の構成:麒麟(標準文字)
登録出願日:平成27年12月10日
設定登録日:令和 元年11月22日
指定商品及び指定役務:第5類、第7類、第9類、第14類、第16類、第18類、第21類、第24類、第25類、第28類ないし第30類、第32類、第33類、第35類ないし第45類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
商標の構成:きりん(標準文字)
登録出願日:平成28年11月22日
設定登録日:令和 元年11月22日
指定商品及び指定役務:第5類、第7類、第9類、第14類、第16類、第18類、第21類、第24類、第25類、第28類ないし第30類、第32類、第33類、第35類ないし第45類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成29年 7月 7日
設定登録日:令和 元年11月22日
指定商品及び指定役務:第5類、第7類、第9類、第14類、第16類、第18類、第21類、第24類、第25類、第28類ないし第33類、第35類ないし第42類、第44類及び第45類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書及び審判弁駁書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第206号証を提出した(以下、「甲(乙)第○号証」の表示は、「甲(乙)○」と表記する。)。
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効にすべきものである。
(1)請求の利益について
本件商標は、引用商標との関係で商標法第4条第1項第11号又は同項第15号に該当するものであるから、被請求人が、本件商標をその指定商品に使用する場合、当該商品が、請求人、「麒麟麦酒株式会社」、「キリンビバレッジ株式会社」、「協和キリン株式会社」及びそのグループ会社(以下、まとめて「キリングループ」という場合がある。)の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生じさせ、また、これにより、請求人の引用商標に係る商標権が侵害され、又は請求人の営業上の利益が侵害されるおそれがある。このため、請求人が本件商標に対して無効審判請求することについて利害関係を有することは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
(ア)本件商標は、円輪郭内に、長い2本のひげを生やした長い顔と、四足動物のような体を有する動物を、雲の上を駆けるような構図で描いた図形標章(以下「図形部分」という場合がある。)と、その下に間隔を空けて「キリンフーズ」の片仮名を横書きした文字標章(以下「文字部分」という場合がある。)とで構成される(甲1)。
図形部分と文字部分は、段を異にし、間隔を空けて配置されているから、視覚上分離して認識されるものである。
このような構成において、図形部分と文字部分とは、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとも認められない。そして、図形部分と文字部分を常に一体としてとらえなければならない特段の事情も認め得ないものである。
そうすると、本件商標と引用商標との類否にあたっては、図形部分と文字部分の各部分を、それぞれ独立単独に、商品の出所識別標識としての機能を果たし得る部分として分離、抽出することができるものである。
このことは、本件商標の拒絶査定(甲12)及び審決(甲13)並びに過去の審決例(甲14、甲15)からも理解できることである。
(イ)本件商標の図形部分について
本件商標の図形部分は、円輪郭内に、長い2本のひげを生やした長い顔と、四足動物のような体を有する動物を、雲の上を駆けるような構図で描いたものであり、その特徴から想像上の動物である「麒麟」(甲16)を表したものと容易に認識できるものである(甲17~甲20)。特定の動物等の特徴を備えている商標について、文字を含まない場合でも、その特定の動物等に応じた称呼、観念が生じ得ることは、特許庁審判部において繰り返し判断されている(甲21~甲34)。
そうすると、本件商標がその指定商品に使用される場合、図形部分より、商品の出所識別標識としての「キリン」の称呼及び「麒麟」の観念が生ずるものである。
(ウ)本件商標の文字部分について
本件商標の構成中の「キリンフーズ」の文字部分は横一連に表されているものの、a 「フーズ」が「食品」の意味を有する英語である「foods」の読みを片仮名で表したものであること(甲16)、b 「キリン」が「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」及び「ウシ目(偶蹄類)キリン科の哺乳類」を意味すること(甲16)、c 「キリンフーズ」の文字が全体として1個の熟語を形成しているものと認められないこと、d 本件商標の指定商品が第30類「ぎょうざ,しゅうまい,中華まんじゅう,ハンバーガー,ホットドッグ,穀物の加工品」(以下「本件指定商品」という場合がある。)であって明らかに食品の範疇に属する指定商品であることからすると、本件商標が、本件指定商品に使用される場合、「フーズ」の部分は、本件指定商品との関係で商品の品質等を表すにすぎず、商品の出所識別標識として機能し得ないものである。
そして、「フーズ」又は「FOODS」が食品の範疇に属する指定商品との関係で商品の品質等を表示するものであることは、長年にわたり、特許庁審判部において繰り返し示されているとおりである(甲35~甲42)。
(エ)以上より、本件商標について、「フーズ」の文字部分からは、本件指定商品との関係で商品の出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる。他方で、上記のような意味を有する「キリン」の文字部分は、本件指定商品との関係で「フーズ」よりも識別力が高く、取引者、需要者に対して強く支配的な印象を与えるというべきである。加えて、本件商標において、常に全体として「キリンフーズ」とのみ一体的に認識し、一連に称呼しなければならない理由はなく、2つ以上の称呼、観念の生じないとする取引の実情その他の理由も存しない。
したがって、本件商標は、その構成中、「キリン」の文字部分と「フーズ」の文字部分につき分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められず、要部である「キリン」の文字部分を抽出した場合、同部分からは「キリン」との称呼が生じるとともに、想像上の動物である「麒麟」と、ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生ずる。
イ 引用商標について
引用商標1、引用商標4及び引用商標9は「KIRIN」の文字を、引用商標2、引用商標5及び引用商標7は「麒麟」の文字を、引用商標3及び引用商標6は「キリン」の文字を、引用商標8は「きりん」の文字を横書きにしてなるから、引用商標からは「キリン」の称呼が生じるとともに、想像上の動物である「麒麟」とウシ目キリン科の動物「キリン」の観念が生じる
ウ 引用商標の周知著名性について
引用商標は、次の(ア)ないし(エ)の各事実から、少なくとも食品業界において、キリングループの商品又は役務を示すものとして取引者及び需要者の間で周知著名になっていると認められるものであり、このような引用商標の周知著名性からすれば、「キリン」の文字を含む商標に接する取引者及び需要者は、これよりキリングループと何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると連想、想起することは明らかである。
(ア)日本商標名鑑及び日本有名商標集の掲載例
商標調査会発行の「日本商標名鑑(抜粋)」に、「キリン」の文字商標、「KIRIN」の文字商標、「麒麟」の図形商標、及び「麒麟」の文字商標が掲載されている(甲43、甲44)。社団法人国際工業所有権保護協会日本部会作成の「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN 日本有名商標集(抜粋)」に、「KIRIN」の文字商標が掲載されている(甲45)。なお、商標審査便覧に、「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN 日本有名商標集」に掲載されている商標については、「わが国における周知度、指定商品及び指定役務との関係等を考慮して取り扱うものとする」という記載がある(甲46)。
(イ)防護標章登録例
「KIRIN」「麒麟」「キリン」の文字商標及び「麒麟」の図形商標は、本件指定商品を含む、広範囲に及ぶ指定商品及び指定役務について防護標章登録されている(甲47~甲54)。
(ウ)決定例及び審決例
「「麒麟」の文字は、申立人の著名な略称として、また、申立人の業務に係る商品「ビール」等を表示する商標として使用され、・・・取引者・需要者の間に広く認識されている」と判断されている(甲55、甲56)。
(エ)裁判例
「KIRIN」の文字商標につき、「キリングループの商品又は役務を示すものとして取引者及び需要者の間で周知著名になっていると認められる」と判断されている(甲57~甲60)。
エ 商標の類似性について
本件商標の構成中、図形部分からは、「キリン」との称呼が生じるとともに、想像上の動物である「麒麟」と、ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生じる。
また、本件商標の構成中、文字部分につき、要部である「キリン」の文字部分を抽出した場合、同部分からは「キリン」との称呼が生じるとともに、想像上の動物である「麒麟」と、ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生じる。
そして、引用商標からも、本件商標と同じ「キリン」との称呼が生じる上、想像上の動物である「麒麟」と、ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生じる。
そうすると、本件商標と引用商標を称呼及び観念で区別することはできない。
加えて、本件指定商品は、食品業界における引用商標の周知著名性の高さや、その需要者に一般消費者が含まれるだけでなく、比較的安価なものであることからすると、一般消費者が注意深く観察せずに、本件商標が付された商品を購入することもあり得るものといえる。
上記のような事情も併せて考慮すると、本件商標と引用商標は、出所について誤認混同を生ずるおそれがある類似する商標というべきである。
したがって、本件商標は、引用商標と類似する商標である。
オ 指定商品の類似性
引用商標の各指定商品に本件指定商品と同一の商品が含まれている。
また、引用商標の各指定商品には、本件指定商品と類似の商品、すなわち、それらの商品(小売等役務の取扱い商品)が通常同一営業主により製造・生産又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の製造・生産又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある商品が含まれるものである。
カ 小括
以上の次第で、本件商標は、引用商標と類似であって、引用商標の指定商品又はこれに類似の商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 引用商標の周知・著名性及び独創性の程度
前述のとおり、本件商標の登録出願時において、引用商標は、キリングループが永年にわたり自己の業務に係る商品又は役務に使用し、全国の広告用看板や雑誌・新聞・テレビなどのメディアを利用して盛大な広告宣伝等を継続した結果、キリングループに属する各社の商品等を表示する代表的出所標識として需要者の間で広く認識されているものであり、その使用期間及び使用規模からすると、引用商標の周知・著名性の程度は極めて高いことは明らかである(甲43~甲60)。
そして、引用商標は、「キリン」の称呼が生じ、想像上の動物である「麒麟」と、ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生ずる表示として取引者、需要者の間で定着しているものである。
とりわけ、「キリン」の文字商標等が、本件指定商品を含む、広範囲に及ぶ指定商品及び指定役務について防護標章登録されている事実(甲47~甲54)は、引用商標の周知・著名性の程度の高さを示すものとして顕著な事実といえる。
そして、引用商標は、キリングループの商品又は役務の出所識別標識、すなわち商標として採択する行為それ自体がまさに独創的であるというべきものであり、それ故、引用商標は、独創性の程度が高い表示といえる。
イ 本件商標と引用商標との類似性の程度
前述のとおり、本件商標と引用商標は、いずれも「キリン」の称呼が同一であり、「麒麟(キリン)」の観念を生ずる点で共通するから、称呼又は観念において極めて相紛らわしいものであり、両者の類似性の程度が極めて高いことは、いうまでもない。
ウ 取引の実情等
請求人は、「麒麟麦酒株式会社」、「キリンビバレッジ株式会社」、「協和キリン株式会社」等の親会社であり、キリングループは請求人及び連結子会社148社、持分法適用関連会社30社により構成される多角経営企業であり、184期の連結売上収益は約1兆9895億円(国際会計基準)である(甲61、甲62)。
そして、キリングループ各社が引用商標を使用する商品は、主に飲食料品や医薬品であり、特に飲食料品については本件指定商品と関連性の程度が高いものである。
そして、キリングループが多角経営企業であるという事実は広く知られる事実であり、キリングループの中核をなす事業が食品事業であることも、広く知られた事実である。
他方、本件指定商品は、食品の分野に属する商品であることは明白である。
そうすると、本件指定商品とキリングループに属する各社の商品又は役務(とりわけ、食品の分野に係る商品)の関連性の程度は高いものであり、取引者及び需要者の範囲も共通する場合も少なくないものである。
加えて、飲食料品の購入者等には共に特別な専門的知識経験を有しない一般消費者が含まれ、当該商品を購入するに際して払われる注意力はさほど高いものではない。
さらに、被請求人の商号は「キリンフーズ株式会社」であるところ、食品事業を行うにあたり、代表的出所標識に「フーズ」を加えた会社名(例えば「サントリーフーズ株式会社」、「住商フーズ株式会社」、「ANAフーズ株式会社」、「アイワイフーズ株式会社」、「株式会社ニチレイフーズ」など)が採用される場合は決して少なくない(甲63~甲67)。そして、キリングループにおいても、過去に商号中に「キリン」と「フーズ」の各文字を含む「キリン協和フーズ株式会社」が存在していた(甲68)。
上記各事情を考慮すると、「キリンフーズ株式会社」の名称からなる被請求人が「キリンフーズ」の文字を含む本件商標を本件指定商品に使用した場合、一般消費者が注意深く観察せずに、キリングループと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品と誤信し、本件商標が付された商品を購入することもあり得るものといえる。
エ 小括
以上の次第で、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、本件商標は、これを被請求人が本件指定商品に使用するときは、その商品があたかもキリングループと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものである。
したがって、本件商標は、仮に商標法第4条第1項第11号に該当しない場合においても、少なくとも、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
請求人は被請求人の答弁に対し、以下のとおり反論する。
(1)本件商標の図形部分について
被請求人は、本件商標の図形部分から具体的な観念、称呼が生じない旨主張するが、上記1(2)ア(イ)のとおり、図形部分は、その特徴から、想像上の動物である「麒麟」(甲16)を表したものと容易に認識できるものであり(甲17~甲20)、特定の動物等の特徴を備えている商標について、その特定の動物等に応じた称呼、観念が生じ得るものである(甲21~甲34)。また、想像上の動物である「麒麟」の図形商標、「KIRIN」等の文字商標とが、かつて連合商標制度の下、類似する商標として登録されていた事実(甲69~甲82)は、様々な態様の「麒麟」の図形商標から、同じ「キリン」の称呼及び想像上の動物である「麒麟」の観念が生じ得ることを示すものである。
いずれにせよ、図形部分は、想像上の動物である「麒麟」(甲16)を表したものと容易に認識できるものであり、図形部分から「キリン」の称呼、想像上の動物である「麒麟」の観念を生ずるものである。
また、図形部分から「キリン」の称呼、「麒麟」の観念を生じないとしても、上記1(2)ア(ア)のとおり図形部分と文字部分の各部分を分離観察できるものであり、本件商標は、要部である「キリン」の部分から「キリン」との称呼が生じるとともに、想像上の動物である「麒麟」と、ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生ずることから、結論において影響を与えるものではない。
(2)本件商標の文字部分について
被請求人は、本件商標の文字部分につき、一体一連の造語であるから、具体的な観念は生じず「キリンフーズ」のみの称呼が生じる旨主張するが、上記1(2)ア(ウ)のとおり、構成中の「フーズ」の部分は、本件指定商品との関係で商品の品質等を表すにすぎず、商品の出所識別標識として機能し得ないものであり、要部である「キリン」の文字部分を抽出した場合、同部分からは「キリン」との称呼が生じるとともに、想像上の動物である「麒麟」と、ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生ずるものである。
(3)出所混同のおそれについて
上記1(2)ウのとおり、引用商標は、食品業界において、キリングループの商品又は役務を示すものとして取引者及び需要者の間で周知著名になっていると認められるものであり(甲43~甲60)、このような引用商標の周知著名性やその他の事情(甲61~甲68)を考慮すれば、「キリン」の文字を含む商標に接する取引者及び需要者は、これよりキリングループと何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると連想想起することは明らかである。
また、上記1(2)ウ(イ)のとおり、「キリン」の文字商標等は、本件指定商品を含む、広範囲に及ぶ指定商品及び指定役務について防護標章登録されている(甲47~甲54)。
いずれにせよ、本件商標は、これを被請求人が本件指定商品に使用するときは、その商品があたかもキリングループと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものである。
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、と旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙1ないし乙34を提出した。
(1)本件商標の全体構成
本件商標は、動物をモチーフとする図柄を円輪郭の中に表した図形を相対的に大きく記載し、当該図形の下側に相対的に小さく、被請求人たる「キリンフーズ株式会社」の略称である「キリンフーズ」の片仮名を同書、同大、等間隔で横一列に記載して構成されている。そして、下側の「キリンフーズ」の文字部分は、上側の図形部分の円輪郭の左右の範囲からはみ出ないように配置されている。
上側図形部分と下側文字部分との相対的な大きさを両者の高さで比較すると、上側図形部分は、下側文字部分の高さの6倍を超える寸法であり、上側図形部分が大きく、かつ目立つように構成されている。
(2)本件商標の図形部分
円輪郭内に、長い2本ひげを生やした長い顔と、四足動物のような体の前側部分とを有する動物が、土煙を立てて駆ける、又は雲の上を駆けるような構図で描かれているが、動物の後側部分は描かれていないので、尾を有するか否かを判別することができないばかりか、四足動物であるか否かも判別することができない。
また、胴体の大きさに対して、頭部が相対的に大きく表されており、胴体と頭部とがアンバランスで、全体としてやや滑稽な印象を与える。
一方、頭部に向かって右側である後頭部には、7つの束に分け、人間の後ろ髪のようにその先端をカールさせることによって擬人化させた長いたてがみが、円輪郭の略中央位置から円輪郭右側の部分にわたって横になびくように表されている。頭部の左側であるおでこの部分は、肉塊等のない平坦な形状になしてあり、頭頂部から2本の角がやや後方へ向かって伸びている。そしてこれらの体の各部は黒色でべた塗りされている。
(3)本件商標の文字部分
前述のとおり、「キリンフーズ」の片仮名を同書、同大、等間隔で横一列に配した構成であり、被請求人の会社の略称である。
(4)本件商標の称呼及び観念
本件商標の図形部分は、上記(2)で述べたとおりの構成であるから、「ウシ目(偶蹄類)キリン科の哺乳類」である「キリン」はもちろんのこと、「中国で聖人の出る前に現れるという想像上の動物」である「麒麟」を含め、具体的な観念は生じず、称呼も生じない。
一方、本件商標の文字部分は、上記(3)のとおり、まとまりよく構成してあり、全体から生じる称呼も冗長ではないから、一連一体の造語と判断できる。
したがって、本件商標の文字部分からは、具体的な観念は生じず、「キリンフーズ」の称呼のみが生じる。
(1)商標法第4条第1項第11号に違反する無効理由に関して
ア 請求人が挙げた甲16にあるように、想像上の動物である「麒麟」の特徴は、「形は鹿に似て大きく、尾は牛に、蹄は馬に似、背毛は五彩で毛は金色。頭上に肉に包まれた角がある。・・・一角獣。」とされており、同様の記載が、甲17及び甲18の2葉目にも示されている。また、これらの特徴を備える「麒麟」の像の写真又は挿絵が甲17ないし甲20に示されているが、「麒麟」は聖獣とされていることから、いずれも、威厳を備える荘厳な印象を醸し出すデザインとなっている。
これに対して本件商標の図形部分は、上記1(2)で述べたとおり、尾はなく、背毛及び毛は五色でも金色でもなく、頭上に肉に包まれていない2本の角があることから、上述の「麒麟」の特徴のほとんどを有さない構成となっていることに加えて、比較的大きな面積を占めるたてがみが擬人化されて描かれている上に、全体としてやや滑稽や印象を与える構成になっていることから、聖獣の印象がみじんも窺われないデザインとなっている。これらのことから、本件商標の図形部分から聖獣たる「麒麟」の観念を生じることはなく、「キリン」の称呼が生じることもない。
イ 「○○フーズ」の文言は、食品会社の略称として多数使用されている実情(乙2~乙10)が存在する。
そのため、「○○フーズ」なる商標に接した取引者・需要者にあっては、「○○」と「フーズ」を分離して把握することはなく一体的に、「○○フーズ」とのみ把握する。
これは、仮に「○○」の部分を抽出した場合、「○○フーズ」たる食品会社とは異なる別の会社と認識してしまうことになるため、一体的に「○○フーズ」と認識することが取引上自然だからである。
ウ 甲35の審決に係る商標と同じ構成の商標の判決(乙11)では、「「NISSIN FOODS」「ニッシンフーズ」の語は一体のものとして自他商品識別の機能を果たしうるものである。」と指摘されている。なお、この判決日より後の日付の甲38ないし甲42は、本件商標とは事案が異なる。
一方、甲42の商標と同じ称呼を有する標準文字「健康フーズ」について、「フーズ」が食品の意味を有する語であるとしても、かかる構成においては、これが特定の商品又は商品の品質を具体的に表示したものとはいいがたく、むしろ構成全体をもって一種の造語よりなる商標とみるのが相当であると、審決されている(乙12)。
エ このように、「○○フーズ」からなる商標は、一体のものとして把握されることから、「○○フーズ」と「○○」は非類似であると判断されている(乙13~乙27)。
オ 以上より「キリン」と「フーズ」を分離観察できるとした上で、本件商標と引用商標が類似するとの請求人の主張は失当である。
したがって、本件商標は、引用商標と類似とはいえず、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第15号に違反する無効理由について
ア 商標の類似性
上記(1)に述べたとおり、本件商標と引用商標は互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標である。
また、本件商標は、上記1(1)に述べたとおり、図形部分と文字部分からなるところ、上側図形部分が大きく、かつ、目立つように構成されていることから、本件商標が付された商品に接した取引者、需要者には、本件商標の図形部分が真っ先に視認される。
そして、この図形部分は、上記1(2)で述べたとおり、聖獣たる「麒麟」の特徴をほとんど有さない構成となっていることに加え、比較的大きな面積を占めるたてがみが、擬人化されて描かれ、全体として滑稽な印象を与える構成から、ウシ目キリン科の哺乳類である「キリン」はおろか、聖獣たる「麒麟」の印象すらみじんに窺われないデザインになっている。
したがって、本件商標が付された商品に接した取引者、需要者にあっては、一見しただけで上記「キリン」のみならず、上記「麒麟」のいずれとも別異の図形部分を備える商標が付されているものと瞬時に認識し、理解するものである。
そのような取引者、需要者にあっては、本件商標の小さく表示された文字部分の一部に引用商標が含まれているとしても、本件商標の文字部分と引用商標は非類似であることに加え、上記「キリン」、「麒麟」のいずれとも別異であるため、本件商標が付された商品がキリングループの業務にかかる商品であるとの混同を生ずるおそれはない。
イ 周知著名性
引用商標にあっては、例えば甲56では、請求人が販売する商品「ビール」等を表示する標章として、我が国の取引者、需要者の間において広く知られ認識されてきたものであると認められる・・・」と判断されていると請求人が主張するように、商品「ビール」等を表す標章として周知著名性を有していると認められるものの、本件指定商品についての周知著名性の記載及び証拠はなく、また、請求人が引用商標を本件指定商品に使用した事実も一切挙げられていない。
請求人は、本件指定商品を含む商品について防護標章が登録されていることを挙げて周知著名性を主張しているが(甲47~甲54)、これらの各甲号証には、本件指定商品における引用商標の周知著名性を示すものではない。
加えて、請求人は、後述するように、グループ内の事業を再編する過程において、本件指定商品を含む食品事業をキリングループ以外の企業に譲渡しており、本件指定商品において引用商標が使用されることは無く、周知著名性を獲得するに至ることはない。
ウ 独創性
請求人は、「引用商標を商標として採択する行為それ自体が独創的である」と主張するが、商標として採択する行為、すなわち、選択行為に独創性が認められないことは明らかである。
同様の判断は、特許庁の審判部においてもなされている(乙28、乙29)。
エ 取引実情等
(ア)乙30及び乙31にあるように、請求人のグループ内の事業を再編する過程において、一般食品を取り扱う事業は、キリン協和フーズ株式会社に集約され、その後、キリン協和フーズ株式会社は、キリングループ以外のグループ企業に譲渡されている。そして、乙32にあるように、本件審判請求がなされた令和5年(2023年)7月18日より10年以上前である2013年(平成25年)3月18日にかかる事情が、広く一般に告知されていることを踏まえると、「キリングループの中核をなす事業が食品事業であることも広く知られて事実である」、という請求人の主張は根拠がないこと明らかである。かかる事情は、請求人が引用商標を本件指定商品に使用した事実が一切挙げられていないこととも符合する。
(イ)一方、引用商標は、請求人が販売する商品「ビール」等を表示する標章として、我が国の取引者、需要者の間において広く知られ認識されてきたものと認められる。
しかしながら、ビールを含む酒類の販売店にあっては、本件指定商品を含む他の商品と酒類とを壁などによって物理的に分離し、又は、両者が混在しないように区分して陳列することが義務付けられており、また、酒類を陳列したコーナーには、そこがお酒のコーナーであること、販売する上で年齢制限があることなどの表示も義務付けられている(乙33)。
このように、我が国においては、いずれの販売店にあっても上述した厳格な陳列管理がなされており、引用商標が商品「ビール」等において周知著名であるとしても、引用商標とは別異の本件商標が付された本件指定商品を、一般消費者が、キリングループと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務にかかる商品と誤信して購入するおそれは生じない。
(ウ)ところで、被請求人は、設立時「キリン食品工業有限会社」であった社名を、昭和60年に「キリンフーズ有限会社」に改名し、平成6年に「キリンフーズ株式会社」に組織変更しており、本件指定商品の「ぎょうざ」について、本件商標の図形部分と同じ図形部分を有し、その下側に小さく「KIRIN FOODS」の文字を配した本件商標と同じ称呼を生ずる商標を、少なくとも平成19年から使用している。並行して本件商標も使用しており、これらの本件商標等を付した本件指定商品の直近5年間における販売実績は乙34に示したとおりである。
以上より、本件商標は、被請求人が販売する「ぎょうざ」を表示する標章として、我が国の取引者、需要者に一定の周知性を獲得している。
さらに、本件商標の使用を開始してから現在に至るまで、本件商標を付した本件指定商品について、キリングループと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務にかかる商品であるのか、又はこれに類する問い合わせ等があった事実はない。
よって、かかる事情からも、本件商標が付された「ぎょうざ、しゅうまい」を含む本件指定商品を、取引者、需要者がキリングループと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品と誤信して購入するおそれは生じないといえる。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、被請求人は何ら争っておらず、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下、本案に入って審理する。
(1)商標法第4条第1項第11号における商標の類否判断の基準
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
そして、商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(最高裁昭和34年(オ)第856号同36年6月23日第二小法廷判決・民集15巻6号1689頁参照)。
また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和38年判決、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。
(2)本件商標の構成等
ア 外観
本件商標の構成は、前記第1のとおりであり、上段に細い円で描かれた枠の中に、長い2本のひげを生やし、風になびく長い鬣(たてがみ)、細い目、長い口を有する細長い顔と、四足動物のような体を有する動物の一部分を、雲の上を駆けるような構図で描いた特徴のある図形(図形部分)と、そのすぐ下に、図形部分の輪郭の左右の幅に合わせて、「キリンフーズ」の片仮名を一連に配して(文字部分)、全体として同色をもって表されるものである。
本件商標の構成中の文字部分は、上記のとおり「キリンフーズ」と一連に表記してなるものであるところ、このうち「キリン」の部分は、「きりん【麒麟】(1)中国で聖人の出る前に現れるという想像上の動物。形は鹿に似て大きく、尾は牛に、蹄は馬に似、背毛は五彩で毛は黄色。頭上に肉に包まれた角がある。・・・(3)ウシ目(偶蹄類)キリン科の哺乳類」の意味を有する語であり、「フーズ」の部分は、食品を意味する英語である「foods」を片仮名表記したものである(広辞苑第7版。甲16)。
本件商標の構成中の図形部分は、その下の文字部分の高さや全体の幅からすると、本件商標の全体構成において5分の4ほどを占める大きさで表されているが、本件商標の図形部分と文字部分とは、相互に重なり合う部分もなく、上下に明確に分かれていること、文字部分の横幅は、図形部分の横幅とほぼ同じであって、文字部分が図形部分に埋没した印象を与えることもなく、「キリンフーズ」の文字が明瞭に認識できる大きさであることから、両者は視覚的に分離して看取されるものである。
これらによると、本件商標は、図形部分と文字部分とからなる結合商標と理解されるところ、図形部分と文字部分とは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められず、図形部分と文字部分とが一体として看取されるといった必然性も見出せないから、本件商標からは、文字部分を抽出し、当該文字部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
そして、本件指定商品は、前記第1のとおり、ぎょうざ、しゅうまい、穀物の加工品等の食品であり、その需要者は一般消費者であると認められるところ、「フーズ」の語は上記のとおり食品を意味する英語である「foods」を片仮名表記したものとして我が国において周知であること、企業名の後ろに「フーズ」を付して食品会社であることを示す例も、「サントリーフーズ株式会社」(甲63)、「住商フーズ株式会社」(甲64)、「ANAフーズ株式会社」(甲65)等、多数見受けられるところ、これらの例では著名な企業名が「フーズ」の前に冠されていること(その他にも甲66、甲67、乙2~乙11)からすると、本件商標の文字部分のうち「フーズ」の部分の自他識別力は、「キリン」の部分に比べ弱いものということができる。
本件商標の図形部分の円形の輪郭内に描かれた、上記のとおり特徴的な動物の図形は、我が国において一般に知られる上記ウシ目キリン科の哺乳類である実際に生息するキリンの姿とはほど遠く、それ自体として実在する特定の動物を表したものとはみられないものの、図形の動物の長いひげや鬣、細長い顔や雲の上を駆ける姿、文字部分の一部である「キリン」の文字から、上記「きりん【麒麟】」の意味の一つである、「中国で聖人の出る前に現れるという想像上の動物」である「麒麟」をモチーフにしたものという印象を与える。なお、このように、本件商標の図形部分は、その姿に加え、文字部分の一部である「キリン」と相まって、「麒麟」をモチーフにしたものという印象を与えるところ、図形部分及びそれを含む本件商標全体の態様や、上記のとおり、識別力の弱い「フーズ」の語が著名な企業名の後にくる例があること、及び後記エ(ア)のとおりの「キリン」の文字部分に係る企業の周知性に鑑みると、本件商標の図形部分は、文字部分の「キリン」に看者の注意を集めるという面もあるということができ、図形部分が文字部分の「キリン」と共通する印象を与えることから直ちに、本件商標の図形部分と文字部分が不可分一体であって、商標の類否判断に当たって文字部分を要部として抽出することができない、とはいえない。
これらによると、本件商標は、文字部分のうちの自他識別力を有する部分である「キリン」を要部として抽出することができるというべきである。
イ 称呼
本件商標からは、その文字部分の表記に応じて、「キリンフーズ」の称呼が生じる。
また、後記ウのとおり、図形部分に描かれた動物図形から、想像上の動物である「麒麟」の観念が生じるものと認められるから、文字部分のうち識別力が強く、その要部である「キリン」の部分から、「キリン」の称呼も生じるものと認められる。
被請求人は、本件商標の文字部分については、一体不可分の構成の商標としてみるのが相当であり、「キリン」と「フーズ」とに分離して観察されるものではない旨を主張する。
しかし、文字部分のうち「フーズ」の部分の識別力は弱いこと、及び、後記ウのとおりの図形部分から生じる観念にもよれば、「キリン」の称呼も生じ得ると認められる。
したがって、被請求人の上記主張は採用することができない。
ウ 観念
本件商標の図形部分の円形の輪郭内に描かれた特徴的な動物の図形は、上記アのとおり、実際に生息するキリンの姿とはほど遠く、図形中の動物の姿や、文字部分の一部である「キリン」の文字から、想像上の動物である麒麟をモチーフにしたものと看て取れ、文字部分には「キリン」の文字もあるから、本件商標の外観からは、想像上の動物である「麒麟」の観念が生じるものと認められる。
エ 「キリン」という文字部分の商品の出所識別標識としての印象等について
(ア)請求人は、「麒麟麦酒株式会社」、「キリンビバレッジ株式会社」、「協和キリン株式会社」等のキリングループを構成する会社の親会社であり、キリングループは請求人及び連結子会社148社、持分法適用関連会社30社により構成される多角経営企業であり、184期の連結売上収益は約1兆9895億円(国際会計基準)である(甲61、甲62)。キリングループは、酒類事業、飲料事業のほか、医薬事業、ヘルスサイエンス事業も行っており(甲61、甲62)、キリングループ各社は、飲食料品、医薬品及び食品に各引用商標を使用している(甲153、甲154)。
本件指定商品は、「ぎょうざ、しゅうまい、中華まんじゅう、ハンバーガー、ホットドック、穀物の加工品」であり、肉と小麦粉等を使用した商品等であるのに対し、各引用商標に係る主な商品は「ビール」等であって主な原材料を麦とするアルコール飲料や飲料製品であるが、これらの両商品は、ともに広く消費される飲食料品の一種であり、需要者は一般の消費者であるから、本件指定商品と各引用商標に係る商品は関連性があり、需要者に共通性もあるといえる。加えて、各引用商標に係る商品「ビール」等の飲料は、本件指定商品である「ぎょうざ、しゅうまい」等を含む、それと相性がよいとされる食品と一緒に消費されることもあると認められ(甲169~甲180)、請求人が飲食料品を取り扱う取引者と連携し、飲料と食品とに関連性をもたせたキャンペーン活動が行われていることなども踏まえると(甲181~甲186)、本件指定商品と各引用商標に係る商品との関係は希薄であるともいい難い。
(イ)前記アないしウのとおり、本件商標の構成に照らし、本件商標は、文字部分のうちの「キリン」を要部として抽出することができ(前記ア)、本件商標は、「キリン」の部分から「キリン」の称呼が生じるものであり(前記イ)、本件商標は、想像上の動物である「麒麟」の観念を生じるものである(前記ウ)。そして、それに加え、前記(ア)の事実をも考慮すると、本件指定商品の需要者の間においては、本件商標のうち「キリン」の部分は、需要者をして、請求人若しくはその関連会社又はその商品若しくは役務を想起させることも少なくないものと認められ、その点からも、本件商標中の「キリン」の部分は、取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
なお、被請求人は、医薬事業、ヘルスサイエンス事業及び食品販売の分野において、各引用商標と同様の商標が使用された商品の取扱量は少ないこと、請求人のグループ企業による食品(甲153)の販売数量が少ないこと、本件指定商品と組み合わされる飲料は「ビール」等に限られず、本件指定商品と各引用商標に係る指定商品との関連性は希薄であること、請求人の主張するキャンペーンにおいて飲食物の提供を行っているのはスーパーマーケットを運営する会社であることなどから、本件商標において「キリン」の部分が強く支配的な印象を与えることはなく、識別力を有することもなく、本件商標と引用商標は類似せず、出所の混同を生ずるおそれはない旨主張する。しかし、本件商標の構成の分析に加え、本件指定商品の主たる需要者が、専門的知識経験を有さず、特に高い注意力を有するものでもない一般消費者であり、前記(ア)の事実が認められることからすれば、被請求人の主張を踏まえても、需要者の認識として、上記の認定は覆されることはないというべきである。
(3)各引用商標の構成等
ア 外観
引用商標1、引用商標4及び引用商標9は、前記第2の1、第2の4及び第2の9のとおり、「KIRIN」の欧文字を横書きに表してなるものである。
引用商標2は前記第2の2のとおり、「麒麟」の文字を横書きに表してなるものである。
引用商標3は前記第2の3のとおり、「キリン」の文字を横書きに表してなるものである。
引用商標5及び引用商標7はそれぞれ標準文字で「麒麟」の文字を、引用商標6は標準文字で「キリン」の文字を、引用商標8は標準文字で「きりん」の文字を、それぞれ横書きにして表してなるものである。
イ 称呼
各引用商標は、いずれも各文字の構成に相応して「キリン」の称呼を生じる。
ウ 観念
各引用商標は、「キリン」(実際に生息する哺乳類)又は「麒麟」(想像上の動物)の観念を生じるものと認められる。
エ 請求人による防護標章の登録
請求人は、登録第4498171-1/01号(甲50)、登録第4498171-1/02号(甲51)として、引用商標3と同じ片仮名表記の「キリン」の商標につき、指定商品を第30類「中華まんじゅう、ハンバーガー、ホットドッグ、穀物の加工品、ぎょうざ、しゅうまい」を含むその他商品及び役務として、防護標章の登録を受けている。
(4)本件商標と各引用商標の類否について
ア 外観の比較
本件商標の外観においては、図形部分があるほか、文字部分の文字数は6文字である。
一方、引用商標1、引用商標4、引用商標9は欧文字5文字、引用商標2、引用商標5、引用商標7は漢字2文字、引用商標3、引用商標6は片仮名3文字、引用商標8は平仮名3文字であり、本件商標と各引用商標は、外観において構成する文字数が異なり、本件商標には図形部分もあることから、本件商標と各引用商標はいずれも外観が相違する。
しかし、このうち文字部分の外観において、文字の種類が片仮名と欧文字あるいは片仮名と平仮名とで異なる部分について、商標の使用においては、商標の構成文字を同一の称呼を生じる範囲内で文字種を相互に変換して表記することがあることに鑑みると、その外観上の差異は、需要者に対し、強い印象を与えるものではない。
また、前記(2)アのとおり、本件商標の文字部分については、「キリン」の部分を要部として抽出できるものであるから、「フーズ」の有無による外観上の差異は、本件指定商品との関係において、需要者に対し、強い印象を与えるものではない。
イ 称呼の比較
本件商標の文字部分からは、「キリンフーズ」の称呼のほか、その要部から「キリン」の称呼も生じる。
各引用商標からは「キリン」の称呼が生じるから、本件商標と各引用商標はそれぞれ称呼が同一であり又は類似するものといえる。
ウ 観念の比較
観念について、本件商標からは前記(2)ウのとおり想像上の動物である麒麟の観念が生じるところ、引用商標2、引用商標4、引用商標7は漢字2文字で構成され、想像上の動物である麒麟の観念が生じ、その他引用商標1、引用商標3、引用商標5、引用商標6ないし引用商標9からも、同様に、想像上の動物である麒麟の観念も生じるものと認められるから、本件商標と各引用商標は、観念において類似する。
エ 類否の判断
本件指定商品と、各引用商標の指定商品・役務は、いずれもその指定商品・役務の内容から、需要者は一般の消費者であると認められるところ、一般の消費者は、必ずしも商標の構成を細部にわたり記憶して取引に当たるものとはいえないから、そのような需要者が通常有する注意力の程度を踏まえて、本件商標と各引用商標の外観、称呼及び観念の要素を総合勘案することとなる。
本件商標と各引用商標は、外観において相違するものの、想像上の動物である麒麟の観念及び「キリン」の称呼を共通にするものであり、本件商標からは「キリンフーズ」との称呼も生じるものの、前記(2)アのとおり商品の自他識別標識として分離抽出することができる要部から生じる「キリン」の称呼及び想像上の動物である麒麟の観念を共通とするものであり、外観の相違は、称呼、観念の共通性による印象を凌駕するほど顕著なものということはできないといえる。
これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本件商標と各引用商標は、全体として、商品・役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の商標であると認められる。
(5)商品の類否について
ア 本件指定商品は、前記第1のとおり、第30類「ぎょうざ、しゅうまい、中華まんじゅう、ハンバーガー、ホットドッグ、穀物の加工品」である。
イ 引用商標1の指定商品には、第30類「調味料、穀物の加工品、菓子及びパン」が含まれる(甲2、甲144)ところ、これらは、本件指定商品と同一又は類似の商品である。
引用商標2及び引用商標3の指定商品には、いずれも、第30類「水あめ、穀物の加工品、菓子及びパン」が含まれる(甲3、甲4、甲145、甲146)ところ、これらは、いずれも本件指定商品と同一又は類似の商品である。
引用商標4の指定役務には、第35類「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、加工食料品(「イーストパウダー・こうじ・酵母・ベーキングパウダー」及びこれらに類似する商品を除く。)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、穀物の加工品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が含まれる(甲5、甲147)ところ、その「小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の対象商品である「菓子及びパン、加工食料品、穀物の加工品」と本件指定商品とは同一ないし類似するから、引用商標4の指定役務は本件指定商品と類似する役務である。
引用商標5の指定商品には、第30類「菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、調味料、穀物の加工品、穀物調整品、パン生地、ぎょうざ、しゅうまい、すし、たこ焼き、弁当、ラビオリ、調理済み麺類」が含まれる(甲6、甲148)ところ、これらは本件指定商品と同一ないし類似する商品である。
引用商標6の指定商品には、第30類「菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、調味料、かゆ、穀物の加工品、ぎょうざ、しゅうまい、すし、たこ焼き、弁当、ラビオリ」が含まれる(甲7、甲149)ところ、これらは本件指定商品と同一ないし類似する商品である。
引用商標7の指定商品には、第30類「野菜入り中華まんじゅう、包装された中華まんじゅう、容器入りの中華まんじゅう、野菜入りハンバーガー、包装されたハンバーガー、容器入りのハンバーガー、野菜入りホットドッグ、包装されたホットドッグ、容器入りのホットドッグ、ぎょうざの皮、コーンフレーク、さらしあん、人造米、スパゲッティの麺、そうめんの麺、即席うどんの麺、即席そばの麺、即席中華そばの麺、そばの麺、中華そばの麺、春雨、パン粉、ビーフン、ふ、米飯の缶詰、マカロニ、餅、包装された穀物の加工品、容器入りの穀物の加工品、野菜入りぎょうざ、包装されたぎょうざ、容器入りのぎょうざ、野菜入りしゅうまい、包装されたしゅうまい、容器入りのしゅうまい」等が含まれる(甲8、甲150)ところ、これらは本件指定商品と同一ないし類似する商品である。
引用商標8の指定商品には、第30類「菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、調味料、かゆ、穀物の加工品、ぎょうざ、しゅうまい、すし、たこ焼き、弁当、ラビオリ」が含まれる(甲9、甲151)ところ、これらは本件指定商品と同一ないし類似する商品である。
引用商標9の指定商品には、第30類「菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、調味料、かゆ、穀物の加工品、ぎょうざ、しゅうまい、すし、たこ焼き、弁当、ラビオリ」が含まれる(甲10、甲152)ところ、これらは本件指定商品と同一ないし類似する商品である。
ウ 以上のとおり、本件指定商品は、各引用商標の指定商品若しくは指定役務と同一ないし類似する。
(6)商標法第4条第1項第11号該当性についての結論
以上のとおり、本件商標は、他人の登録商標である各引用商標と類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(7)被請求人の主張に対する判断
ア 被請求人は、前記第4の1及び第4の2(1)のとおり、本件商標の文字部分から「キリン」を分離観察することはできない旨を主張し、需要者は「〇〇フーズ」と一体的に認識することが取引上自然であるとしてそれに沿う証拠(甲196、甲197、甲199、甲200)を提出する。
しかし、本件商標については図形部分と文字部分を分離観察することができ、本件商標の図形部分から想像上の動物である麒麟の観念が生じ、文字部分についても、「フーズ」の識別力は弱く、「キリン」の部分を要部として抽出することができることなどについては既に検討したとおりであり、被請求人の提出する証拠を検討しても、本件商標の需要者である一般消費者において、「キリンフーズ」と一体的に認識することが自然であるとは認められないというべきである。
したがって、被請求人の上記主張は採用することができない。
イ 被請求人は、前記第4の2(1)のとおり、本件商標と各引用商標とは類似しない旨を主張する。
しかし、既に述べたとおり、本件商標と各引用商標から生じる称呼及び観念は、いずれも各引用商標と類似し、これら商標は類似する商標であるということができる。
したがって、被請求人の上記主張は採用することができない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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