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Trademark Appeal Case

ありふれた名称の識別力

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024890033
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 本件商標

本件登録第6155848号商標(以下「本件商標」という。)は、「あおば皮フ科クリニック」の文字を標準文字で表してなり、平成30年7月19日に登録出願、第44類「医業」を指定役務として、令和元年5月20日に登録査定、同年6月28日に設定登録されたものである。

第2 請求人が引用する使用標章及び商標

1 商標法第4条第1項第10号に該当するとして引用する使用標章

請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第10号に該当するとして引用する標章は、(以下の使用標章をまとめて「使用標章」という場合がある。)以下のとおりであり、いずれも「医業」について使用するものである。

(1)標章の構成 「あおば皮膚科クリニック」(以下「使用標章1」という。)

標章の使用者 医療法人社団陽和会(茨城県日立市)

(2)標章の構成 「あおば皮ふ科」(以下「使用標章2」という。)

標章の使用者 医療法人社団あおば会(神奈川県横浜市青葉区)

(3)標章の構成 「医療法人あおばクリニック」(以下「使用標章3」という。)

標章の使用者 医療法人あおばクリニック(大阪府大阪市淀川区)

(4)標章の構成 「あおば内科クリニック」(以下「使用標章4」という。)

標章の使用者 医療法人あおば内科クリニック(愛知県蒲郡市)

(5)標章の構成

ア 「医療法人社団泰晴会あおばこどもアレルギークリニック」(以下「使用標章5」という。)

イ 「あおば眼科クリニック」(以下「使用標章6」という。)

ウ 「医療法人社団泰晴会あおば内科・総合診療クリニック」(以下「使用標章7」という。)

エ 「医療法人社団泰晴会あおば眼科西新井駅クリニック」(以下「使用標章8」という。)

オ 「医療法人社団泰晴会五反野あおば眼科クリニック」(以下「使用標章9」という。)

カ 「医療法人社団泰晴会竹ノ塚あおば眼科クリニック」(以下「使用標章10」という。)

標章の使用者 医療法人社団泰晴会(東京都足立区)

2 商標法第4条1項第11号に該当するとして引用する商標

請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第11号に該当するものとして引用する登録商標(以下の商標をまとめて「引用商標」という場合がある。)は、以下のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。

(1)登録第5303913号商標(以下「引用商標1」という。)

商標の構成:別掲

登録出願日:平成21年9月29日

設定登録日:平成22年2月26日

指定役務 :第44類「医業、医療情報の提供、健康診断、調剤、栄養の指導、あん摩・マッサージ及び指圧、カイロプラクティック、きゅう、柔道整復、はり、介護」

(2)登録第6048599号商標(以下「引用商標2」という。)

商標の構成:「横浜青葉デンタルクリニック」(標準文字)

登録出願日:平成29年9月22日

設定登録日:平成30年6月1日

指定役務 :第44類「歯科医業、医療情報の提供、栄養の指導」

第3 請求人の主張

請求人は、本件商標の商標登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書において要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第27号証を提出した。

1 請求の理由

本件商標は、商標法第3条第1項第4号、同項第6号、同法第4条第1項第10号又は同項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。

2 本件商標を無効とすべき事由

(1)第3条第1項第4号(ありふれた氏又は名称)

本件商標は、「あおば」という青々と茂った木の葉を意味する一般名詞であり、また、地名(仙台市青葉区、横浜市青葉区など)、人名にも広く使用されている単語に、「皮フ科」という診療科名と、「クリニック」という診療所の名称として広く使用されている一般名詞を組み合わせたものである。

なお、医療法第1条の5により入院患者19人以下の医療施設は診療所と定義されるところ、診療所は「病院」と名乗ることを禁止されている(医療法第1条の5)ため、診療所を示す名称として大多数が「クリニック」もしくは「医院」という名称を用いているという実態がある。

ここで、商標審査基準によると、「著名な地理的名称、ありふれた氏、業種名等やこれらを結合したものに、商号や屋号に慣用的に付される文字や会社等の種類名を表す文字等を結合したものは、原則として、「ありふれた名称」に該当すると判断する。」、「ありふれた氏又は名称をローマ字又は仮名文字で表示するものは、「普通に用いられる方法で表示する」ものに該当すると判断する。」とされているところである(商標審査基準第1-六)。

「あおば」という地名は、仙台市青葉区、横浜市青葉区という政令指定都市の区名として複数使用されている著名な地名であるのみならず、「青葉」という青々と茂った木の葉を意味する一般名詞からくる若々しくさわやかな印象や、柔らかく親しみやすい語感、3音と短く言いやすいことなどから、日本中に広く地名として利用されている。

さらに、「青葉町」や「青葉台」という地名も、北海道から九州まで全国的に広く存在している。

また、駅名としては、北海道苫小牧市に「青葉駅」があるほか、仙台市青葉区に「あおば通駅」、「青葉通一番町駅」、「青葉山駅」、横浜市青葉区に「青葉台駅」が存在する。

特に、仙台市青葉区、横浜市青葉区については、政令指定都市の区名であって全国的に著名な地名である。なかでも仙台市における「青葉」の地名は、街の象徴である仙台城の別名「青葉城」、青葉城が鎮座する「青葉山」、そして中心部の大通りである「青葉通」、中心部にある地下鉄の「あおば通駅」、93万人(令和6年度)の観光客を集める「仙台青葉まつり」、また「青葉城恋唄」のヒットなどもあって、全国的に極めて著名となっている。請求人の商標の「あおば」の由来も、仙台藩ゆかりの地に開業しているからである。

また、「青葉」ないし「あおば」という言葉は、人の姓や名としても、広く使われている言葉である。例えば、「チバ」について、これをその指定商品に使用した場合、取引者、需要者は、他の「千葉」の氏姓を有する者の同種商品とその出所を区別することができないとして、商標法第3条第1項第4号に該当するとした裁判例がある(東京高裁昭和43年3月30日付判決)。

ゆえに、本件商標は、「あおば」という著名な地理的名称ないし人名に、「皮フ科」という業種名と、「クリニック」という診療所の名称として広く使用されている一般名詞を組み合わせたにすぎない。よって、ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、本件商標は、商標法第3条第1項第4号に該当する。

(2)商標法第3条第1項第6号(識別力のないもの)

商標審査基準によると、「商標が国内外の地理的名称として認識される場合」や、「商標が、指定役務において店名として多数使用されていることが明らかな場合」に本号に該当するとされている。

ア 国内外の地理的名称として認識される場合

上記(1)で述べたとおり、「あおば」ないし「青葉」は、地理的名称として認識されている。これについては、「あおば」ないし「青葉」を名称に用いる医業、歯科医業、薬局計594施設のうち、125施設が神奈川県に、48施設が宮城県に存在することからも明らかである(甲1)。

ゆえに、商標法第3条第1項第6号に該当する。

イ 店名として多数使用されていることが明らかな場合

「あおば」ないし「青葉」という言葉は、「青葉」という青々と茂った木の葉を意味する一般名詞からくる若々しくさわやかな印象や、柔らかく親しみやすい語感、3音と短く言いやすいことなどから、医業の施設で広く使われているほか、歯科医業、薬局、接骨院などの周辺業種、幼稚園、食料品店(関東地方にて著名な食品スーパーのチェーン店「食品館あおば」が存在する)、法律事務所や税理士事務所など、様々な業種で使用されている。

また、列車名として、東北本線にはかつて特急「あおば」が存在しており、また東北新幹線の各駅停車型の呼称として「あおば」が存在していた。一般には、ひらがな3文字で新幹線の呼称に使用されるような言葉は、語感がよいため、様々な業種で使用されている。例えば「あおば」、「のぞみ」、「ひかり」(東海道新幹線)、「さくら」(九州新幹線)などといった単語は、その後に「クリニック」をつけても、「整骨院」をつけても、「幼稚園」をつけても、国民誰もが一度は耳にしたことがあるような、日本中どこにでもよくある名前である。

なお、同じ第44類に属する役務では、「青葉」という植物を意味する言葉と密接に関連する農業、園芸又は林業においても多く使用されている。農協だけを見ても、JAあおば(富山市)、JA東京あおば(東京都練馬区、板橋区、北区、豊島区)の2つが存在する。

甲第1号証は、医療機関、歯科医、薬局について、「あおば」ないし「青葉」の名称を含むものを調査したものである。これらは、厚生労働省の各厚生局(関東信越厚生局、東海北陸厚生局など全国で8局)において、保険医療機関として登録されているものを対象に調べたものである(そのため、保険医療機関として登録せず自由診療のみを行う医療機関はこの数に計上されていない。)。

これによると、日本国内において、医療機関において名称に「あおば」を用いるものが100施設、「青葉」を用いるものが81施設、計181施設も存在する(甲1)。

また、被請求人が愛知県にて「あおば皮フ科クリニック」を開院した日であると主張する平成24年6月6日(甲2)よりも前に保健医療機関として指定されていた医療機関のうち現存しているものだけを数えても、「あおば」は35施設、「青葉」は48施設、計83施設も存在する。これに、歯科医院や薬局を加えると、その数は319施設にも上る(甲1)。

次に、甲第3号証は、「あおば」が名称に入る法人登記(商業登記を除く。つまりは会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)を除く。)を抽出したものである。「あおば」が入る法人数は全国で143法人もあり、うち34法人が医療法人となっている。医療法人はもちろんのこと、社会福祉法人、税理士法人、弁護士法人など他業界も含めて、「あおば」という名前は広く使用されている。

以上のとおり、「あおば」ないし「青葉」という商標は医業において極めて多数使用されている。例えば、商標審査基準にも例示され、典型例としてよく取り上げられる酒類提供店における「愛」という商標を用いた店舗は、愛知県内において「愛」、「スナック愛」、「あい」など計9店舗あるようであるが、一方で愛知県内の医業において「あおば」「青葉」を用いた病院・診療所は同じく計9施設存在する(甲1。なお、甲1は被請求人を含まない。)。酒類提供店のほうが、病院・診療所より圧倒的に総数が多い(愛知県において、酒類提供店(「酒場、ビヤホール」と「バー、キャパレー、ナイトクラブ」の合計)11,606店、病院・診療所5,115施設)ことに鑑みれば、医業において「あおば」ないし「青葉」という商標は識別力がないといえるほど多数使用されていることは明らかである。全国には、「あおば」ないし「青葉」という商標を用いる病院・診療所だけで181施設、歯科医や薬局も含めると594施設も存在するのであるから(甲1)、全国規模でも同様の評価である。

よって、「商標が、指定役務において店名として多数使用されていることが明らか」であるから、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。

(3)商標法第4条第1項第10号(他人の周知商標)

商標審査基準によると、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」における、「需要者の間に広く認識されている商標」には、最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含むと解されている。

本件商標(あおば皮フ科クリニック)と類似する商標は数百存在するところであるが(甲1)、少なくとも以下の5点の一地方で被請求人の開業以前より広く認識されている商標と同一ないし極めて類似している。

ア あおば皮膚科クリニック(茨城県日立市)

同クリニックは、保険医療機関に平成19年4月1日に指定されており(甲4)。同クリニックのホームページ(甲5)をみると、Web受付システムを導入するなどインターネットを通じて広く集客をしている。

過去のウェブサイトを検索できる「Wayback Machine(ウェイバックマシン)」を利用して過去のアーカイブを検索すると、少なくとも平成17年2月12日にはホームページが稼働しており(甲6)、被請求人の開業よりもかなり古くから、茨城県北部を中心とした地域に広く周知された皮膚科として営業していることが確認できる。(なお、途中で法人化をしたなどの理由で、保険医療機関の指定日は開業日より後になるケースがある。開業日としては平成17年とみるべきである。)

令和6年現在、常勤医2名、非常勤医5名であり(甲4)、茨城県北部の皮膚科としては、かなり大きな規模となっている。

イ あおば皮ふ科(横浜市青葉区)

横浜市青葉区に平成15年に開業しており(甲8、甲9)、被請求人の開業よりもかなり古くから、横浜市を中心とした地域に広く周知された皮膚科として営業していることが確認できる。ホームページ上では、診療の予約も受け付けている(甲8)。

同じく「Wayback Machine(ウェイバックマシン)」により過去のアーカイブを検索すると、そのホームページも平成15年6月29日には存在していた(甲9)。保険医療機関には平成19年4月1日に登録されている(甲7)。

ウ あおばクリニック(大阪市淀川区)

平成23年12月7日に医療法人あおばクリニックの法人登記がなされており(甲10)、「あおばクリニック」を開設している。平成24年1月1日に保険医療機関に指定されており、診療科は内科、循環器科である(甲11)。

エ あおば内科クリニック(愛知県蒲郡市)

平成21年12月11日に医療法人あおば内科クリニックが設立され(甲12)、愛知県蒲郡市において「あおば内科クリニック」が開設されている。平成22年1月1日に保険医療機関に指定されている(甲13)。ホームページを開設して広く地域の患者に周知を図っており(甲14)、同じく「Wayback Machine(ウェイバックマシン)」により過去のアーカイブを検索すると、平成20年8月21日にはホームページが存在しており(甲15)、同ホームページには平成18年10月に開院したと記されている。

同クリニックは、被請求人と同じ愛知県の三河地方(愛知県は西の尾張地方、東の三河地方に分かれるところ、県東部を指す。)に存在し、同クリニック間は車でおよそ30分強の近い距離であるから(甲16)、需要者の地域が重複しており、両者に何らかの関係性があるかのように誤認しかねない状況にある。

被請求人のあおば皮フ科クリニックよりも、あおば内科クリニックのほうが開設時期もかなり古いことから、愛知県三河地方における周知性は、被請求人よりも蒲郡市のあおば内科クリニックの方が上であると思料する。

オ あおば眼科クリニックほか(東京都足立区)

医療法人社団泰晴会は、平成8年2月8日に法人登記されている(甲17)。「あおば」を冠する複数のクリニックを開設しており、あおばこどもアレルギークリニック(保険医療機関指定日:平成8年3月1日 甲18)、あおば眼科クリニック(同平成13年1月1日 甲19)、あおば内科・総合診療クリニック(同平成20年4月1日 甲20)、あおば眼科西新井駅クリニック(同平成29年9月1日 甲21)、五反野あおば眼科クリニック(同令和3年5月1日 甲22)、竹ノ塚あおば眼科クリニック(同令和5年4月1日 甲23)と、「あおば」を冠するクリニックを足立区に6つ開設されている(甲17、甲24)。同じく「Wayback Machine(ウェイバックマシン)」により過去のホームページを検索すると、30年以上も前である平成3年12月4日には既にホームページが存在しており(甲25)、同ホームページの文末には「copy right 2001 AOBA EYECLINIC」との記載が認められることから、平成3年にはすでに開院していたものと思料される。かなり古くから足立区に根付き、被請求人が開設するよりも以前から多店舗展開をしていたため、「あおばクリニック」といえばこのグループのクリニックといえるほど周知された存在となっていることは容易に推測できる。

そして、被請求人の「あおば皮フ科クリニック」が、保険医療機関として指定されたのは平成24年6月1日(甲26)、被請求人が主張する開業日は平成24年6月6日(甲2)であるから、上記5点のいずれのクリニックも、被請求人よりも古くから商標を使用している。また、被請求人のクリニックの常勤の医師の数は1人である(甲26)。

また、類似性の点においては、「ア あおば皮膚科クリニック」は、診療科名である皮膚科の「膚」の字を、漢字にしたものをカタカナの「フ」に変えたに過ぎず、ほぼ同一であることは明らかである。

「イ あおば皮ふ科」についても、ひらがなの「ふ」とカタカナの「フ」の違いしかない。また、「クリニック」という単語の有無も異なるが、「クリニック」は診療所を意味する単語にすぎず、いずれも診療所であることは名前から明白であるから、実質的な差異はない。

「ウ あおばクリニック」、「エ あおば内科クリニック」は、いずれも診療科は内科であって被請求人と異なるが、同じく医業を展開する「クリニック」であって「あおばクリニック」と略称される点においては被請求人と共通しており、強い類似性が認められる。特に、エについては被請求人と同じ愛知県三河地方である愛知県蒲郡市に所在するのであるから、需要者の地域も共通している。

「オ あおばこどもアレルギークリニック、あおば眼科クリニック、あおば内科・総合診療クリニック」については、いずれも同じ法人(医療法人社団泰晴会)によって運営されており、被請求人が開設後にもさらに3施設が開設され、同法人が運営する様々な診療科のクリニックを示す符号として「あおば」という単語が機能しており、いわば「あおばクリニック」グループと呼べるほどの地位を、足立区及びその周辺において築いている。被請求人の登録商標は、医療法人社団泰晴会により開設された皮膚科クリニックであるとの誤認されるほどの類似性を有している。また、被請求人はアレルギー科も診療科として挙げているところ(甲26)、あおばこどもアレルギークリニック(甲18)とは診療科名も重複している。

よって、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。

(4)商標法第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)

上記第2の2のとおり、類似する先願に係る他人の登録商標として、2つの引用商標が存在し、いずれも、略称の音は「アオバクリニック」となるのであって、呼称は類似している。

そして、引用商標1の指定役務は「医業」であり完全に同一である。また、引用商標2の指定役務も「医業」に隣接する「歯科医業」を含むほか、「医療情報の提供」や「栄養の指導」は被請求人の「医業」にも当然含まれるものであり重複している。

以上の2つの引用商標の登録日は、被請求人の商標の登録日よりも前である。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。

3 これまでの経緯(請求人が利害関係人であること)

請求人は、本件商標が登録された令和元年6月28日よりも以前である平成30年7月10日より、東京都港区麻布十番にて「あおば皮フ科クリニック」の商標にて皮膚科の診療所を開設している。現在では、法人化して医療法人社団みなとあおばを設立し、東京都港区白金にて「白金あおば皮フ科クリニック」も開設し、合計で2つの診療所を開設し、現在に至るまで運営している。

しかし、被請求人の代理人弁護士より、令和6年5月28日付で、商標権に基づき商標の使用の中止を求める警告書を受け取ることとなった(甲2)。

請求人は、本件商標の登録日より以前から、「あおば皮フ科クリニック」の商標を用いている。請求人の商標の由来は、診療所がある麻布十番は仙台藩伊達家の下屋敷があったところであり、「仙台坂」の地名や、仙台藩伊達家由来の「銀杏」、「お稲荷さん」等も残っており、商店街では「麻布十番仙台七夕まつり」も開催するなど(甲27)、仙台と所縁のある場所である。請求人の商標は、そうした縁から、仙台を象徴する単語であって、また語感もよい「あおば」という単語を、皮膚科の診療所であることを意味する「皮フ科クリニック」の頭につけた商標を名付けたものである。また、理事長の夫であり医療法人の事務長の出身地が仙台であって、理事長の本籍地も仙台であるという由縁もあった。「あおば」は開設している地域にとって大変意味があり親しみやすさのある名称であるため、開設後6年となる今になって変更するとなれば多大な損害が発生することになる。

請求人は、開設時に商標を名付けるにあたって、「あおば」を冠した診療所は日本中に無数とあること、そして「あおば」を付した商標を登録をしている診療所や病院は当時存在しなかったことを確認している。また、同じような名称のクリニックが無数にあることから、同業の諸先輩方への配慮も考えれば商標登録をすることなどは選択肢に無かった。

請求人は、被請求人の請求には到底応じられるものではなく、本件商標について利害関係があるため、本無効審判を請求するものである。

第4 被請求人の答弁

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。

1 答弁の理由

(1)商標法第3条第1項第4号(ありふれた名称)について

ア 「ありふれた氏又は名称」とは、原則として、同種の氏又は名称が多数存在するものをいう。そして、著名な地理的名称、ありふれた氏、業種名等やこれらを結合したものに、商号や屋号に慣用的に付される文字や会社等の種類名を表す文字等を結合したものは、原則として、「ありふれた名称」に該当する(以上につき、商標審査基準。)。

イ そして、「あおば」=「青葉」は、著名な地理的名称ではない。

なぜなら、商標審査基準では、著名な地理的名称の例として、「日本」、「東京」、「薩摩」、「フランス」が挙げられているところ、「あおば」=「青葉」が、かかる例と同じレベルで著名でないことは一見して明らかだからである。

そもそも、請求人の指摘するとおり、「青葉」という地名が付けられている場所が全国的に複数あるのであれば、「青葉」では特定の場所を想定することすらできず、およそ著名とは言い難い。「日本」も「東京」も「薩摩」も「フランス」も、いずれも名称を聞けば特定の場所を想定することができる名称である。

ウ また、「あおば」=「青葉」は、同種の氏が多数存在するとはいえない。

そもそも、「あおば」=「青葉」は、全国でわずか1800人しか使っていない氏であり(乙1)、同種の氏が多数存在するといえるようなものではない。なお、請求人の引用する「千葉」は、全国で18万6000人という「青葉」の約100倍もの人が使っている氏であり(乙2)、「青葉」と比較できるようなものではない。

加えて、特許庁の査定不服審判(不服2020-17247)においては、全国でおよそ3万0400人が使用している「ミタ」=「三田」という氏についてすら、同種の氏が多数存在するとはいえないとの判断をしている。

エ このように、「あおば」が著名な地理的名称でも、ありふれた氏でもないため、これに「皮フ科」や「クリニック」という業種名を結合したとしても、「ありふれた名称」にはならない。

よって、本件商標は、商標法第3条第1項第4号に該当しない。

(2)商標法第3条第1項第6号(識別力のないもの)について

ア 国内外の地理的名称を表示する商標

「あおば」=「青葉」は、上記(1)イのとおり、およそ特定の場所を想定することができるものではなく、そもそも国内外の地理的名称として認識されるような名称ではない。

実際、「あおば」=「青葉」と聞いて通常思い浮かべるのは、青々と茂った木の葉であって、地理的なものではない。

イ 店名として多数使用されている商標

本件商標の設定登録日(令和元年6月28日)に近い令和元年6月末の医療施設(歯科診療所及び薬局を除く。)の数は11万0766施設(=8318施設+10万2448施設。乙3。)である。仮にそのうちの83施設に「あおば」又は「青葉」が使用されていたとしても、割合はわずか約0.0749パーセントであり、およそ指定役務において店名として多数使用されているとは言い得ない。

実際、「あおば」=「青葉」という名称自体は、指定役務である医業と直接結びつくような親和性を持っているわけではなく、医業に多数使用されるようなものではない。商標審査基準で例として挙がっているのは、「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」(例えばスナック)における「さくら」、「愛」、「純」、「ゆき」、「ひまわり」、「蘭」といった名称であり、まさに指定役務との直接の結びつきが認められる名称である。

なお、甲第1号証は、無効理由の基準時とは異なる令和6年5月1日現在の医療機関に関する資料であり、しかも、「○○薬局青葉店」など、「あおば」=「青葉」が施設の名称として使用されているともいえないことが明らかなものまで含まれており、資料として適切ではない。

ウ よって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当しない。

(3)商標法第4条第1項第10号(他人の周知商標)

請求人の主張する事実は、いずれも施設が開院していたとか、ホームページを開設していたことを示すものに過ぎず、およそ「需要者の間に広く認識されている」ことを示すものではない。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。

(4)商標法第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)

商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する(商標審査基準)。

そして、医業において、需要者にとっては取扱分野が極めて重要であるところ、請求人の主張する商標と本件商標とは、「こころ」(精神科)、「デンタル」(歯科)、「皮フ科」(皮膚科)といった分野によって明確に識別されている。

そのため、請求人の主張する商標と本件商標とで、出所混同のおそれがあるとはいえない。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

第5 当審の判断

請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。

以下、本案に入って審理する。

1 商標法第3条第1項第4号該当性について

(1)商標法第3条第1項第4号について

商標法第3条は商標登録の要件を規定するものであり、同条第1項柱書及び同項第4号によると、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができないものとされている。これは、ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章は、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、多くの場合、自他商品・役務識別力を欠くと考えられることから、このような標章のみからなる商標については、登録を許さないとしたものと解される。

そして、著名な地理的名称やありふれた氏に業種名や会社の種別、屋号に慣用的に用いられる文字等を結合し、普通に用いられる方法で表示したものは、当該著名な地理的名称に居住する者、あるいは、同地理的名称に関係のある者等が商標として自由に採択使用することができるものであるし、また、当該ありふれた氏を称する者等が取引をするに際して、商標として使用することを欲するものと考えられ、同様に特定人による独占的使用になじまず、かつ、その表示だけでは自他識別力を欠くものというべきであるから、特段の事情のない限り、「ありふれた名称」に当たると解するのが相当である。

(2)判断

本件商標は、前記第1のとおり、「あおば皮フ科クリニック」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「あおば」の文字部分は「青葉」の文字に通じる「緑色の、若葉、新緑」などの意味を有する語であり、「皮フ科」の文字部分は「皮膚科」の文字に通じる「皮膚の疾患を研究・治療する医学の一分科」を意味する語であり、「クリニック」の文字部分は「診療所」の意味を有する語であると容易に理解されるものである(それぞれ、岩波書店「広辞苑第七版」参照。以下、単に「広辞苑」という。)。

そして、本件商標の構成中「皮フ科クリニック」の文字部分は、「皮膚の疾患の治療等を行う診療所」ほどの意味を表すものであって、「〇〇クリニック」(「〇〇」の部分は診療科の名称)の表示は、医業に関する分野において、業種名を表すものとして一般に慣れ親しまれているものである。

一方、「あおば」の文字部分は、同音異義語として「青葉」及び「青羽(青翅)」(鳥や昆虫の青い羽。)が辞書上(広辞苑)に掲載されているものの、上述のとおり「青葉」を表したものと理解されるというのが自然であるところ、「青葉」の文字は、上記の辞書上の意味合いのほか、姓氏(名字)として使用される場合(乙1)、あるいは、地名(またはその地名等の一部)に使用される場合があることなどから、その読みを表す平仮名「あおば」の文字のみをもって、いずれの意味合いで使用されているものであるか、直ちに認識させるものであるとはいえない。

したがって、本件商標中の「あおば」の文字部分が地名を表すものであると直ちに理解されるものではない。

また、「あおば」の文字部分が、「青葉」の姓氏を平仮名で表したものと理解される場合があるとしても、「青葉」の姓氏は、「全国順位」が5,492位であって、「全国人数」もおよそ1,800人程度であることから(乙1)、当該文字を姓氏とする者が、全国的にみてもその順位が高い、あるいは数が多いとはいえないことを踏まえれば、「青葉」は、姓氏としてありふれたものであるとはいえない。

したがって、本件商標中の「あおば」の文字部分は、ありふれた氏(姓氏)を表したものであるとはいえない。

そうすると、本件商標は、著名な地理的名称やありふれた氏に業種名や会社の種別、屋号に慣用的に用いられる文字等を結合したものであるとはいえないことから、「ありふれた名称」にあたるとはいえない。

よって、本件商標は、商標法第3条第1項第4号に該当しない。

2 商標法第3条第1項第6号該当性について

(1)商標法第3条第1項第6号について

商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法第1条)、商標の本質は、自己の業務に係る商品又は役務と識別するための標識として機能することにあり、この自他商品又は役務の識別標識としての機能から、出所表示機能、品質保証機能及び広告宣伝機能等が生じるものである。同法第3条第1項第6号が、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を商標登録の要件を欠くと規定するのは、同項第1号ないし第5号に例示されるような、識別力のない商標は、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、自他商品・役務の識別力を欠くために、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される。

(2)判断

本件商標は、前記第1のとおり、「あおば皮フ科クリニック」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「あおば」の文字部分は、上記1(2)のとおり「緑色の、若葉、新緑」などの意味を有する語であると理解されるところ、「医業」との関係において、その役務の質等を表すものではないことから、自他役務の出所識別標識としての機能を発揮し得る部分であるといえる。

なお、請求人は、「あおば」の文字について、医療機関において、「あおば」ないし「青葉」の文字を含む名称が広く使用されているほか、歯科医業、薬局、接骨院などの周辺業務、幼稚園、食料品店、法律事務所を含む様々な業種で使用されているなど(甲1及び甲3)、「あおば」ないし「青葉」という商標は識別力がないといえるほど多数使用されていることは明らかであるから、本件商標は商標法第3条第1項第6号に該当する旨主張する。

しかしながら、「あおば」の文字が、「医業」との関係において自他役務の出所識別標識としての機能を発揮し得ることは上記のとおりであり、また、請求人が主張するように、「あおば」の文字及びこれに通ずる「青葉」の文字が、医療機関等の名称の一部に使用されていることがうかがえるとしても、請求人により提出された証拠(甲1)からは、「あおば(青葉)」の文字に他の文字が結合されたものがほとんどであって、「あおば(青葉)」の文字のみが単独で名称として多数使用されているとはいえず、さらに、本件商標とほぼ同一の構成といえる「あおば皮フ科クリニック」、「あおば皮ふ科クリニック」及び「あおば皮膚科クリニック」の名称の使用例は少数であって、医業の分野において、これら同一の構成からなる名称が一般的に使用されているとはいえないことから、本件商標は、全体として自他役務の出所識別標識としての機能を発揮し得るものである。

そうすると,本件商標は、これをその指定役務「医業」について使用しても、役務の出所識別標識としての機能を果たし得るものというべきであるから、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であるとはいえない。

よって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第10号該当性について

(1)商標法第4条第1項第10号における周知性について

商標法第4条第1項第10号は、先使用未登録商標に他の商標登録出願を排除する効力を認めるものであるから、同号にいう「広く認識されている」に該当するといえるための地理的範囲としては、必ずしも全国的に知られている必要まではないが、1都道府県内で知られているだけでは足りず、少なくとも、例えば、関西一円などの数県にわたる相当広い範囲で、取引者・需要者に知られていることを要するというべきである。また、「広く認識されている」といえるための取引者・需要者の範囲としても、同様の趣旨から、すべての取引者・需要者に知られている必要まではないが、相当程度の取引者・需要者に知られていることを要すると解すべきである。

また、同号の規定を適用するために引用される使用標章は、本件商標の出願時においても、我が国内の需要者の間に広く認識されていなければならない(商標法第4条第3項)。

(2)使用標章の周知性について

ア 使用標章1について

上記第2の1(1)のとおり、医療法人社団陽和会が医療機関の名称として使用する使用標章1は、「あおば皮膚科クリニック」の文字よりなるところ、請求人により提出された証拠(甲4ないし甲6)からは、同医療機関(茨城県日立市)について、平成11年頃からウェブサイトを開設しており、同サイトからウェブ受付も可能であることが確認できるものの、同医療機関における来院者の数やその居住地、広告宣伝の方法、期間、地域及び規模等が不明であることから、本件商標の出願時及び査定時(以下、まとめて「本件商標の出願時等」ということがある。)において、使用標章1がどの程度の数及び範囲の需要者に認識されていたのか推し量ることはできず、所属する勤務医の数も近隣都道府県まで知られている規模の医療機関といえるほど多いものとはいえない。また、「医業」に関する需要者は、広く一般の需要者を含むものであって、茨城県を含む関東圏における一般の需要者は相当な数に及ぶことを考慮すると、請求人の主張及び立証からは、本件商標の出願時等において、使用標章1が医療法人社団陽和会の業務(医業)に関する役務を表示するものであると茨城県を含む関東圏において相当程度の需要者に知られていたとは認められない。

イ 使用標章2について

上記第2の1(2)のとおり、医療法人社団あおば会が医療機関の名称として使用する使用標章2は、「あおば皮ふ科」の文字よりなるところ、請求人により提出された証拠(甲7ないし甲9)からは、平成15年頃から同医療機関(神奈川県横浜市青葉区)を開業し、ウェブサイトも開設して、同サイトからウェブ受付も可能であることが確認できるものの、同医療機関における来院者の数やその住地、広告宣伝の方法、期間、地域及び規模等が不明であることから、本件商標の出願時等において、使用標章2がどの程度の数及び範囲の需要者に認識されていたのか推し量ることはできない。また、神奈川県を含む関東圏における一般の需要者は相当な数に及ぶことを考慮すると、請求人の主張及び立証からは、本件商標の出願時等において、使用標章2が医療法人社団あおば会の業務(医業)に関する役務を表示するものであると神奈川県を含む関東圏において相当程度の需要者に知られていたとは認められない。

ウ 使用標章3について

上記第2の1(3)のとおり、医療法人あおばクリニックが医療機関の名称として使用する使用標章3は、「医療法人あおばクリニック」の文字よりなるところ、請求人により提出された証拠(甲10及び甲11)からは、同医療機関(大阪府大阪市淀川区)が平成24年に医療機関として指定されていることが確認できるものの、使用標章3が、医療法人あおばクリニックの業務(医業)に係る役務を表示するものとして使用されている実情を示す証拠は何ら提出されておらず、これがどの程度の数及び範囲の需要者に認識されていたのか推し量ることはできない。また、大阪府を含む関西圏における一般の需要者は相当な数に及ぶことを考慮すると、使用標章3が医療法人社団あおば会の業務(医業)に関する役務を表示するものであると大阪府を含む関西圏において相当程度の需要者に知られていたとは認められない(なお、請求人より提出された証拠からは「あおばクリニック」のみからなる使用は確認できない。)。

エ 使用標章4について

上記第2の1(4)のとおり、医療法人あおば内科クリニックが医療機関の名称として使用する使用標章4は、「あおば内科クリニック」の文字よりなるところ、請求人により提出された証拠(甲12ないし甲16)からは、平成18年頃から同医療機関(愛知県蒲郡市)を開業し、遅くとも平成20年頃からウェブサイトも開設していることが確認できるものの、同医療機関における来院者の数やその居住地、広告宣伝の方法、期間、地域及び規模等が不明であることから、本件商標の出願時等において、使用標章4がどの程度の数及び範囲の需要者に認識されていたのか推し量ることはできない。また、愛知県を含む中部地方における一般の需要者は相当な数に及ぶことを考慮すると、請求人の主張及び立証からは、本件商標の出願時等において、使用標章4が医療法人あおば内科クリニックの業務(医業)に関する役務を表示するものであると愛知県を含む中部地方において相当程度の需要者に知られていたとは認められない。

オ 使用標章5ないし使用標章10について

上記第2の1(5)のとおり、医療法人社団泰晴会が医療機関の名称として使用する使用標章5ないし使用標章10は、下記(ア)ないし(カ)のとおりの文字よりなるところ、請求人により提出された証拠(甲17ないし甲25)からは、東京都足立区において、平成8年に「医療法人社団泰晴会あおばこどもアレルギークリニック」(使用標章5)の名称の医療機関として指定されており、また、遅くとも平成13年頃から「あおば眼科クリニック」(使用標章6)の名称にかかる医療機関のウェブサイトを開設していることが確認でき、その後、名称に「あおば」の文字を含む医療機関を東京都足立区内に計6つ開設していることが認められる。

(ア)「医療法人社団泰晴会あおばこどもアレルギークリニック」(使用標章5)

(イ)「あおば眼科クリニック」(使用標章6)

(ウ)「医療法人社団泰晴会あおば内科・総合診療クリニック」(使用標章7)

(エ)「医療法人社団泰晴会あおば眼科西新井駅クリニック」(使用標章8)

(オ)「医療法人社団泰晴会五反野あおば眼科クリニック」(使用標章9)

(カ)「医療法人社団泰晴会竹ノ塚あおば眼科クリニック」(使用標章10)

しかしながら、上記各医療機関における来院者の数やその居住地、広告宣伝の方法、期間、地域及び規模等が不明であることから、本件商標の出願時等において、使用標章5ないし使用標章10がどの程度の数及び範囲の需要者に認識されていたのか推し量ることはできない。また、東京都を含む関東圏における一般の需要者は相当な数に及ぶことを考慮すると、請求人の主張及び立証からは、本件商標の出願時等において、使用標章5ないし使用標章10が医療法人社団泰晴会の業務(医業)に関する役務を表示するものであると東京都を含む関東圏において相当程度の需要者に知られていたとは認められない。

なお、請求人は、上記の各使用標章は、被請求人よりも古くから使用されていることや、同一の使用者によって多店舗展開されている(使用標章5ないし使用標章10を名称とする医療機関)ことを需要者の間に広く認識されている理由として主張しているが、使用標章が需要者の間に広く認識されているとは認められないことは上記のとおりであり、本件商標との使用開始時期の前後やグループとして多店舗に展開していることのみをもって、直ちに需要者の間に広く認識されているものであると判断されるものではない。

カ 小括

以上のとおり、医業の分野における使用標章の使用によっても、本件商標の出願時等に、使用標章が他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものであるとは認められない。

(3)商標法第4条第1項第10号該当性について

上記(2)のとおり、使用標章は、他人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることができないものである。

したがって、他の要件を判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ないから、同号に該当しない。

4 商標法第4条第1項第11号該当性について

(1)本件商標について

本件商標は、前記第1のとおり、「あおば皮フ科クリニック」の文字を標準文字で表してなるところ、これらの文字は、同じ書体、同じ大きさ、等間隔で、視覚上まとまりよく一体に表されているものであり、その構成文字に相応して生じる「アオバヒフカクリニック」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。

そして、本件商標の構成中「あおば」の文字部分は、前記1(2)のとおり、「青葉」の文字に通じる「緑色の、若葉、新緑」などの意味を有する語であり、「皮フ科クリニック」の文字部分は、「皮膚の疾患の治療等を行う診療所」ほどの意味を表すものであって、「医業」の分野においては、例えば「○○皮フ科(皮膚科)クリニック」(「○○」は任意の文字。以下同じ。)のように、医療機関(皮膚科)の名称の一部として一般的に使用されている実情があることからすると、「あおば皮フ科クリニック」の文字は、医療機関の名称を表してなることを連想させるものの、構成全体の文字が一般の辞書等に載録されているものではなく、また、特定の意味合いを認識させる語として知られている事情も見いだせないことから、本件商標は、特定の意味合いを認識させることはなく、構成全体として医療機関の名称を表したものと把握されるというのが相当である。

(2)引用商標について

ア 引用商標1

(ア)引用商標1は、別掲のとおり、木又は葉をモチーフとしたとおぼしき青色の図形とその右上部分に鳥とおぼしき黄色の図形(以下、2つの図形部分をまとめて「引用1図形部分」という場合がある。)の下側に、「AOBA」の欧文字、「MENTALCARE CLINIC」の欧文字及び「青葉こころのクリニック」の文字をそれぞれ青色で三段に横書きしてなるものであるから(なお、二段目の「MENTALCARE CLINIC」の文字は、一段目及び三段目の文字に比しておよそ4分の1以下の大きさである。以下、これらの文字をまとめて「引用1文字部分」という場合がある。)、引用商標1は、図形と文字とを組み合わせてなる結合商標であると容易に看取、把握されるものである。

そして、引用1図形部分と引用1文字部分は、相互に重なり合うこともなく間隔を空けて配置されており、かつ、図形と文字の違いがあることも考慮すると、それぞれが視覚上分離、独立した印象を与えるものである。

(イ) 引用1図形部分は、木又は葉をモチーフとしたとおぼしき青色の図形とその右上部分に鳥とおぼしき黄色の図形を表してなるものであるが、これに接する需要者は、いかなる植物あるいは鳥などを図案化したものであるか、一見して明確に認識できるものではない。

そうすると、引用1図形部分は、引用商標1の指定役務との関係において、役務の質等を表すものではないことから、独立して役務の出所識別標識としての機能を発揮し得る要部になり得るといえるものの、特定の称呼、観念が生じるものではない。

(ウ)引用1文字部分の構成中、一段目の「AOBA」の欧文字部分は、その表音「アオバ」から「青葉」の文字に通じる「緑色の、若葉、新緑」などの意味を有する語であると(広辞苑)、2段目の「MENTALCARE」の文字部分は「精神面での援助・介護。」を意味する語であると(小学館「デジタル大辞泉」参照)、「CLINIC」の文字部分は「診療所」の意味を有する語であって(広辞苑)、これら欧文字で表された「AOBA MENTALCARE CLINIC」の文字部分は、文字の大きさは異なるものの、これらの文字から生じる意味合いから三段目に配された「青葉こころのクリニック」の文字を英語で表したものと容易に理解、認識されるものである。したがって、引用1文字部分は、「青葉こころのクリニック」の文字とそれを英語で表した「AOBA MENTALCARE CLINIC」の欧文字とを三段で併記して配されたものであると認識されるものである。

そして、引用1文字部分において、「MENTALCARE CLINIC(メンタルケアクリニック)」及び「こころのクリニック」の文字部分は、「医業」の分野において、例えば「○○MENTALCARE CLINIC(メンタルクリニック)」、「○○こころのクリニック」のように、医療機関(心療内科、精神科)の名称の一部として一般的に使用されている実情があることからすると「青葉こころのクリニック」の文字及びそれを英語で表した、「AOBA MENTALCARE CLINIC」の欧文字は、医療機関の名称を表してなることを連想させるものの、構成全体の文字が一般の辞書等に載録されているものではなく、また、特定の意味合いを認識させる語として知られている事情も見いだせないことから、「青葉こころのクリニック」の文字及び「AOBA MENTALCARE CLINIC」の欧文字は、特定の意味合いを認識させることはなく、医療機関の名称として把握されるというのが相当であって、それぞれの構成文字に相応して「アオバメンタルケアクリニック」及び「アオバココロノクリニック」の称呼が生じ、かつ、無理なく一連に称呼し得るものである。

(エ)上記のとおり、引用1図形部分と引用1文字部分は、それぞれ、視覚上分離、独立した印象を与えるものであって、かつ、称呼及び観念における関連性も見いだせないものであるから、それぞれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないし、ほかに各構成部分を常に一体のものとしてのみ観察しなければならない特段の事情も見いだせない。

そうすると、引用1文字部分である「AOBA MENTALCARE CLINIC」の欧文字及び「青葉こころのクリニック」の文字は、それぞれ独立して役務の出所識別標識としての機能を発揮し得る要部といえる。

したがって、引用商標1は、その要部である引用1文字部分である「AOBA MENTALCARE CLINIC」の欧文字及び「青葉こころのクリニック」の文字に相応して、「アオバメンタルケアクリニック」及び「アオバココロノクリニック」の称呼を生じ、医療機関の名称として把握されるものの、特定の観念は生じないものである。

また、引用商標1は、引用1図形部分が要部となり得るものの、当該図形部分から特定の称呼、観念が生じるものではない。

イ 引用商標2

引用商標2は、前記第2の2(2)のとおり、「横浜青葉デンタルクリニック」の文字を標準文字で表してなるところ、これらの文字は、同じ書体、同じ大きさ、等間隔で、視覚上まとまりよく一体に表されているものであり、その構成文字に相応して生じる「ヨコハマアオバデンタルクリニック」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。

そして、引用商標2の構成中「横浜」の文字部分は、「神奈川県東部の市。神奈川県の県庁所在地。」の意味を、「青葉」の文字部分は、「緑色の、若葉、新緑」などの意味を有する語であると、「デンタルクリニック」の文字部分は、「歯科医院」の意味を有する語(三省堂「コンサイスカタカナ語辞典第5版」)であって、「歯科医業」の分野において、例えば「○○デンタルクリニック」のように、医療機関(歯科)の名称の一部として一般的に使用されている実情があることからすると、「横浜青葉デンタルクリニック」の文字は、医療機関の名称を表してなることを連想させるものの、構成全体の文字が一般の辞書等に載録されているものではなく、また、特定の意味合いを認識させる語として知られている事情も見いだせないことから、引用商標2は、特定の意味合いを認識させることはなく、構成全体として医療機関の名称を表したものと把握されるというのが相当である。

(3)本件商標と引用商標の類否について

ア 本件商標と引用商標1の類否

本件商標である「あおば皮フ科クリニック」の文字と引用商標1の要部(引用1文字部分)である「AOBA MENTALCARE CLINIC」の欧文字及び「青葉こころのクリニック」の文字を比較するに、外観においては、一部「クリニック」の文字を共通にするものの、その他の文字において明らかに異なることから、外観上、判然と区別し得るものである。

また、称呼においては、一部「クリニック」の称呼を共通にするものの、本件商標のその他の称呼「アオバヒフカ」と引用1文字部分のその他の称呼「アオバメンタルケア」及び「アオバココロノ」とは、音数及び音構成において明らかに異なり、明瞭に聴別できるものである。

そして、観念においては、いずれも特定の観念は生じないから、比較することができない。

そうすると、本件商標と引用1文字部分とは、観念において比較できないものの、外観においては明確に区別でき、称呼において明瞭に聴別できるものである。

また、本件商標と引用商標1の要部となり得る引用1図形部分を比較するに、称呼及び観念は比較できないものの、外観においては明確に区別できるものである。

したがって、本件商標と引用商標1とは、上記のとおり両商標の外観、称呼、観念が与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、両者は相紛れるおそれのない、非類似の商標というのが相当である。

イ 本件商標と引用商標2の類否

本件商標である「あおば皮フ科クリニック」の文字と引用商標2である「横浜青葉デンタルクリニック」の文字を比較するに、外観においては、一部「クリニック」の文字を共通にするものの、その他の文字において明らかに異なることから、外観上、判然と区別し得るものである。

また、称呼においては、一部「アオバ」及び「クリニック」の称呼を共通にするものの、本件商標のその他の称呼「ヒフカ」と引用商標2のその他の称呼「ヨコハマ」及び「デンタル」の有無が異なり、全体の音数及び音構成において明らかに異なることから、明瞭に聴別できるものである。

そして、観念においては、いずれも特定の観念は生じないから、比較することができない。

そうすると、本件商標と引用商標2とは、観念において比較できないものの、外観においては明確に区別でき、称呼において明瞭に聴別できるものであるから、両商標が与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、両者は相紛れるおそれのない、非類似の商標というのが相当である。

なお、請求人は、引用商標1及び引用商標2のいずれも、その略称の音(称呼)は「アオバクリニック」となるのであって、本件商標と呼称が類似している旨主張するが、本件商標、引用商標1(引用1文字部分)及び引用商標2が、構成全体として医療機関の名称を表したものと需要者に把握されるものであることは上記で述べたとおりであって、例えば、上記医療機関が「アオバクリニック」と略称されて需要者の間に広く知られているなど、本件商標又は引用商標が「アオバクリニック」と略称されて一般の需要者に認識されているという特段の事情は見いだせないことから、上記請求人の主張は採用することができない。

ウ 本件商標と引用商標の類否

したがって、本件商標と引用商標とは相紛れるおそれのない非類似の商標である。

(4)小括

上記のとおり、本件商標と引用商標とは相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

5 むすび

以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第4号、同項第6号、同法第4条第1項第10号及び同項第11号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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