sokuhyo

Trademark Appeal Case

医薬発明の実施・サポート要件

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023008091
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

1.分割出願の経緯

本願は、2011年(平成23年)8月23日(パリ条約による優先権主張 2010年8月23日、2010年10月26日、2010年11月8日、2011年4月29日 いずれも米国(US))を国際出願日とする特願2013-526085号を最先の出願とし、その一部を特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(分割出願)として、以下のとおり分割出願を重ねた、いわゆる第3世代の分割出願である。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。

最先の出願:特願2013-526085号(平成23年 8月23日)

第1世代 :特願2016-100753号(平成28年 5月19日)

第2世代 :特願2019-125907号(令和 元年 7月 5日)

本願 :特願2021-96528号 (令和 3年 6月 9日)

2.本願手続の経緯

本願の主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 6月 9日 分割出願

令和3年 7月 9日 手続補正書の提出

同年12月10日 手続補正書の提出

令和4年 8月 1日付け 拒絶理由通知書(特許法第50条の2の通知)

同年11月 9日 意見書、手続補正書及び手続補足書の提出

同年12月28日付け 令和4年11月9日提出の手続補正書による

補正の却下の決定

同年12月28日付け 拒絶査定

令和5年 5月17日 審判請求書、手続補正書及び手続補足書の提出

令和7年 2月10日付け 拒絶理由通知書

同年 8月 8日 意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和7年8月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項より特定される、次のとおりのものと認める(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)。なお、下線は補正箇所を示す。

「ヒト患者における転移腫瘍のサイズを減少させるための医薬組成物であって、前記ヒト患者が、IL-1αを発現する腫瘍又はIL-1α発現炎症細胞に浸潤されている腫瘍により特徴付けられる転移性癌を有し、前記医薬組成物が、抗IL-1α抗体を含み、前記抗IL-1α抗体が、ヒトIL-1αに

、MABp1のKaと類似している又は同一の

Kaで結合するモノクローナル抗体(mAb)であることを特徴とする医薬組成物。」

第3 当審の拒絶理由の概要

当審が令和7年2月10日付けで通知した拒絶理由通知の概要は、次のとおりである。請求項の番号は、令和5年5月17日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載による。

1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)

本願明細書の発明の詳細な説明には、「ヒトIL-1αに少なくとも1×10

9

M

-1

以上のKaで結合する」「モノクローナル抗体(mAb)」でありさえすれば、「ヒト患者における転移腫瘍のサイズを減少させるため」に使用することができることを、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が理解することができるように記載されているとはいえない。

したがって、本願の発明の詳細な説明は、請求項1~12、14及び15に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)

本願明細書の発明の詳細な説明に基づき、請求項1に係る発明で特定する「ヒトIL-1αに少なくとも1×10

9

M

-1

以上のKaで結合するモノクローナル抗体(mAb)」によって、「IL-1αを発現する腫瘍又はIL-1α発現炎症細胞に浸潤されている腫瘍により特徴付けられる転移性癌を有」する「ヒト患者における転移腫瘍のサイズを減少させるため」の医薬組成物を提供するという当該発明の有する課題を解決できることを当業者が認識することができない。

したがって、請求項1~12、14及び15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断

1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について

(1)判断手法について

特許法第36条第4項第1号には、発明の詳細な説明の記載について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることが規定されるところ、「医薬組成物」という「物の発明」である本件発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるためには、発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願時の医薬の技術分野における技術常識を参照した当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、その物を作り、かつ、その物を使用できることが必要である。

ここで、本願明細書(【0019】)にも記載されるように、抗IL-1αモノクローナル抗体は従来公知の化合物であるところ、本願発明1は、「ヒトIL-1αに、MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合するモノクローナル抗体(mAb)」というKa(合議体注:結合定数。要すれば、後記第4(3)ア(引用文献6)及びオ(参考文献C)を参照。)により特定される「抗IL-1α抗体」を、「IL-1αを発現する腫瘍又はIL-1α発現炎症細胞に浸潤されている腫瘍により特徴付けられる転移性癌」を有する「ヒト患者における転移腫瘍のサイズを減少させるため」に使用するという医薬用途を特定した点に技術的特徴を有する医薬用途発明であるといえる。

そうすると、本願発明1が、発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるためには、発明の詳細な説明の記載、及び本願出願時の技術常識を参照した当業者が、上記特定の医薬用途に「ヒトIL-1αに、MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合するモノクローナル抗体(mAb)」というKaのみによって特定される抗IL-1α抗体を使用できることを当業者が理解できるように記載される必要がある。

以上を踏まえて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の要件を満たすか否かについて、検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載

本願明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、本願発明1に関して、以下の記載がある。なお、下線は強調のために合議体が付与したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。

「【背景技術】

【0004】

多大な進歩があったにもかかわらず、

癌などの腫瘍関連疾患は、先進国では今も主要な死因及び疾患の1つ

である。現在、腫瘍形成の分子機構の多くが明らかになっているにもかかわらず、最も侵襲性が強い腫瘍の標準的治療は、依然として外科的切除、化学療法及び放射線療法である。徐々に成功を収めつつある一方で、これらの治療はそれぞれ、今もなお、多くの望ましくない副作用を引き起こしている。例えば、外科手術の結果、疼痛、健康な組織に対する外傷及び瘢痕が生じる。放射線療法及び化学療法によって、悪心、免疫抑制、胃潰瘍及び二次的な腫瘍形成が起こる。

【0005】

過去数年にわたり、癌性腫瘍を治療するためにAbなどの生物学的薬剤を用いることで、目覚しい進歩があった。Abは、腫瘍を死滅させるために患者の免疫反応を利用するため、腫瘍細胞の特異的なタイプを直接標的とし得る。あるいは、これらは、腫瘍細胞の増殖を阻止するために細胞増殖因子を標的とし得る。

従来の化学療法剤と同様に、全ての抗腫瘍Abが全タイプの新生物を処置するために有用というわけではなく、最初は有効であった多くの抗体が後に効力を失う

従って、新しい抗腫瘍Abが必要とされている

【0006】

本発明は、IL-1αに特異的に結合するmAbが、様々な腫瘍関連疾患を治療するために有用であるという発見に基づく

【0007】

従って、本発明は、ヒト対象において腫瘍性疾患(例えば、KRAS突然変異を有するものなどの結直腸癌、鼻咽頭癌もしくはバーキットリンパ腫などのEBV関連癌、非小細胞肺癌(NSCLC)又は、キャッスルマン病など腫瘍が付随する非癌性状態、)を治療するための薬剤及び方法を特徴とする。本方法は、医薬的に許容可能な担体と、対象において腫瘍関連病態の症状を改善し及び/又は

腫瘍のサイズを少なくとも約10%(例えば、少なくとも8、9、10、15、17、20、30、40、50、60、70、80、90又は100%)縮小させる

ために有効な量の抗IL-1αAbと、を含む医薬組成物を対象に投与することによって行われ得る。本薬剤は抗IL-1αAbを含み得る。この抗IL-1αAbは、IgG1などのmAbであり得る。この抗IL-1αAbは、MABp1であるmAb又はMABp1の1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含むmAbであり得る。

・・・

【0018】

腫瘍関連疾患の治療

本明細書中に記載の組成物及び方法は、対象における腫瘍関連疾患の少なくとも1つの特徴を改善するために有効な量の抗IL-1α Abを含む医薬組成物を対象に投与することによって哺乳動物対象において腫瘍関連疾患を治療するために有用である。この哺乳動物対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ及びブタを含む、腫瘍関連疾患に罹患しているあらゆるものであってもよい。ヒト対象は、男性、女性、成人、小児、高齢者(65歳以上)及び他の疾患に罹患している者であってもよい。特に好ましい対象は、化学療法、放射線療法、外科手術及び/又は生物学的薬剤での治療後に疾患が進行した対象である。抗IL-1αAbでの治療に感受性がある、あらゆるタイプの腫瘍関連疾患が標的となり得る。抗IL-1αAbの投与は、結直腸腫瘍(例えば、KRAS突然変異がある結直腸癌)、EBV関連新生物、例えば鼻咽頭癌又はバーキットリンパ腫など、NSCLC及び血液細胞癌、例えばキャッスルマン病におけるものなど、を治療するために特に有効であると思われる。

IL-1αを発現する腫瘍又はIL-1α炎症細胞が浸潤している腫瘍を伴う疾患もまた標的となってもよい

改善させようとする腫瘍関連疾患の特有の特徴

は、

腫瘍サイズ

(例えば、T0、Tis又はT1-4)、

転移の状態(例えば、M0、M1)

、観察される腫瘍数、

リンパ節転移(例えば、N0、N1-4、Nx)

、グレード(即ちグレード1、2、3又は4)、ステージ(例えば、0、I、II、III又はIV)、細胞又は体液中でのある一定のマーカーの存在もしくは濃度(例えば、AFP、B2M、β-HCG、BTA、CA15-3、CA27.29、CA125、CA72.4、CA19-9、カルシトニン、CEA、クロムグライニン(chromgrainin)A、EGFR、ホルモン受容体、HER2、HCG、免疫グロブリン、NSE、NMP22、PSA、PAP、PSMA、S-100、TA-90及びサイログロブリン)及び/又は関連病態(例えば腹水又は浮腫)又は症状(例えば、悪液質、発熱、食欲不振又は疼痛)

であり得る

。改善は、%により評価可能な場合は、少なくとも5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80又は90%であり得る(例えば腫瘍の体積又は線寸法)。

・・・

【0019】

IL-1αを標的とする抗体及び他の薬剤

IL-1αに特異的に結合し、対象において腫瘍関連疾患の特徴を軽減する何らかの適切なタイプのAb又は他の生物学的薬剤(例えば、IL-1受容体などのIL-1α結合成分を含む融合タンパク質)が本発明において使用され得る。例えば、使用される抗IL-1αAbは、mAb、ポリクローナルAb、mAbの混合物又はAb断片又はscFvなどの改変Ab様分子であってもよい。

AbのKaは、好ましくは少なくとも1×10

9

M

-1

以上(例えば、9×10

10

M

-1

、8×10

10

M

-1

、7×10

10

M

-1

、6×10

10

M

-1

、5×10

10

M

-1

、4×10

10

M

-1

、3×10

10

M

-1

、2×10

10

M

-1

又は1×10

10

M

-1

超)である

好ましい実施態様において、本発明は、(i)ヒトIL-1αに対する非常に高い結合親和性(例えば少なくともナノ又はピコモルレベル)を示す抗原結合可変領域と、(ii)定常領域と、を含む完全ヒトmAbを利用する

。ヒトAbは、好ましくはIgG1であるが、IgM、IgAもしくはIgEなどの様々なアイソタイプ又はIgG2、IgG3もしくはIgG4などのサブクラスなどであってもよい。

特に有用なmAbの一例は、2009年6月1日出願の米国特許出願第12/455,458号明細書に記載される、MABp1、IL-1α特異的IgG1 mAbである

。他の有用なmAbは、MABp1の少なくとも1つの、しかし好ましくは全てのCDRを含むものである。

【0020】

ヒトIL-1αに特異的なIgを発現するBリンパ球はヒトにおいて天然に存在するので、

mAbを生成させるための現在のところ好ましい方法は、最初に対象からこのようなBリンパ球を単離し、次いでそれが培養において継続的に複製され得るようにそれを不死化することである

。ヒトIL-1αに特異的なIgを発現する多数の天然Bリンパ球がない対象に対して、このようなBリンパ球数を増加させるために1つ以上のヒトIL-1α抗原で免疫付与を行うことができる。ヒトmAbは、ヒトAb分泌細胞(例えばヒト形質細胞)を不死化することによって調製される。例えば米国特許第4,634,664号明細書を参照のこと。

【0021】

代表的な方法において、1名以上の(例えば5、10、25、50、100、1000名以上の)

ヒト対象に対して、その血中でのこのようなヒトIL-1α特異的Abの有無についてスクリーニングする

。次に、望ましいAbを発現する対象をBリンパ球ドナーとして利用することができる。ある可能な方法において、ヒトIL-1αに特異的なAbを発現するBリンパ球を保持するヒトドナーから末梢血を得る。次に、例えば細胞選別(例えば蛍光活性化細胞選別、「FACS」;又は磁気ビーズ細胞選別)によって、このようなBリンパ球を血液試料から単離し、ヒトIL-1αに特異的なIgを発現するBリンパ球を選択する。次に、公知の技術に従い、ウイルス形質転換(例えばEBVを用いて)によって又はヒト骨髄腫などの別の不死化細胞への融合によって、これらの細胞を不死化することができる。次に、限界希釈法によって、この集団内のヒトIL-1αに特異的なIgを発現するBリンパ球を単離することができる(例えばマイクロタイタープレートのウェル中でヒトIL-1αに特異的なIgに対して陽性である細胞を選択し、継代培養し、望ましいクローン株を単離できるまでこの過程を繰り返す)。例えば、Goding,MAbs:Principles and Practice,pp.59-103,Academic Press,1986を参照のこと。ヒトIL-1αに対して少なくともナノモル又はピコモル単位の結合親和性を有するIgを発現するクローン細胞株が好ましい。ソルトカット(salt cuts)、サイズ排除、イオン交換分離及びアフィニティークロマトグラフィーなどの従来のIg精製手順によって、培養液又は体液(例えば腹水)から、これらのクローン細胞株により分泌されるMAbを精製することができる。

【0022】

MAbを直接産生させるためにインビトロ培養で不死化Bリンパ球を使用することができるが、ある場合においては、mAbを産生させるために異種発現系を使用することが望ましいことがある。例えば米国特許出願第11/754,899号明細書に記載の方法を参照のこと。例えば、ヒトIL-1αに特異的なmAbをコードする遺伝子をクローニングし、異種宿主細胞(例えばCHO細胞、COS細胞、骨髄腫細胞及び大腸菌(E.coli)細胞)での発現のために発現ベクター(例えばプラスミドに基づく発現ベクター)に導入してもよい。Igは、H2L2構造の重(H)及び軽(L)鎖を含むので、それぞれをコードする遺伝子を個別に単離し、異なるベクター中で発現させることができる。

【0023】

対象が抗Ab反応を発現する可能性がより高いゆえに一般的にあまり好ましくないが、それぞれの部分が異なる動物種由来(例えばマウスIgの可変領域をヒトIg定常領域に融合させる)の抗原結合分子であるキメラmAb(例えば「ヒト化」mAb)を本発明において使用してもよい。当技術分野で公知の方法によってこのようなキメラAbを調製することができる。例えばMorrison et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,81:6851,1984;Neuberger et al.,Nature,312:604,1984;Takeda et al.,Nature,314:452,1984を参照のこと。同様に、当技術分野で公知の方法によってAbをヒト化することができる。例えば、様々な業者によって又は米国特許第5,693,762号明細書;同第5,530,101号明細書;又は同第5,585,089号明細書に記載のように、所望の結合特異性を有するmAbをヒト化することができる。

【0024】

本明細書中に記載のmAbに対して、VH及びVLドメインシャッフリング(Marks et al.Bio/Technology 10:779-783、1992)、 超可変領域(HVR)及び/又はフレームワーク残基のランダム変異導入法(Barbas et al.Proc Nat.Acad.Sci.USA 91:3809-3813,1994;Schier et al.Gene 169:147-155,1995;Yelton et al.J.Immunol.155:1994-2004,1995;Jackson et al.J.Immunol.154(7):3310-9,1995;及びHawkins et al.J.Mol.Biol.226:889-896,1992)などの公知の方法によって、それらの結合特異性を促進するか又は変化させるために親和性成熟を行い得る。Abをコードするヌクレオチド配列に適切な変化を導入することによって、Abのアミノ酸配列変異体を調製し得る。さらに、ある種の発現系においてmAbの産生を促進させるために、(例えばmAbのアミノ酸配列を変化させずに)mAbをコードする核酸配列に対する修飾を変化させ得る(例えば、イントロン削除及び/又は所定の発現系に対するコドン最適化)。別のタンパク質(例えば別のmAb)又は非タンパク質分子への複合体化によって、本明細書中に記載のmAbを修飾することもできる。例えば、ポリエチレングリコール又はカーボンナノチューブなどの水溶性ポリマーとmAbを複合体化し得る(例えば、Kam et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA 102:11600-11605,2005参照)。米国特許出願第11/754,899号明細書参照のこと。

【0025】

好ましくは、有害な影響を最小限に抑えながら高タイターのヒトIL-1α特異的mAbを対象に投与できることを確実にするために、本発明のmAb組成物は、少なくとも0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、99.9重量パーセント以上の純度である(賦形剤を除く)。本発明のmAb組成物は、1種類のmAbのみを含んでもよいし(即ち1種類のクローンBリンパ細胞株から産生されるもの)又は2種類以上(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10以上)の異なるmAbの混合物を含んでもよい。

・・・

【実施例】

【0032】

実施例1-Xilonix(商標)

Xilonix(商標)は、安定化等張緩衝液(pH6.4)中の15mg/mL MAbp1の滅菌注射液製剤である

。各10mLのタイプIホウケイ酸ガラス血清バイアルにこの製剤が5mL含有され、20mmの大協精工Flurotecブチルゴム栓及びフリップオフアルミシールにより密封されている。本製品は5±3°Cで保管し、室温に出してもよい。本製剤の正確な組成を下記で示す。

69

125

0001433376000001.jpg

【0033】

投与方法:

適切なシリンジを用いて、計算した体積を薬物(mAb)含有バイアルから抜き取る。次いで、100mLの生理食塩水(0.9%NaCl)を含有する小型のIVバッグに薬物を注入し、転倒混合する。希釈した製剤は投与前に室温で3時間保管することができ、輸液反応の兆候について対象を監視しながら、1時間にわたり点滴する。点滴セットに保持され得る製品を全て送達させるために、最低でも30mLの生理食塩水で点滴の洗い流しを行う。

【0034】

実施例2-IL-1α特異的MAb(Xilonix(商標))による結直腸癌の治療

ヒト対象は、

転移性結直腸癌(KRAS突然変異陽性)と診断された63歳女性

であった。Xilonix(商標)での治療前に、対象は右半結腸切除術を受け、報告によると、T3N1MXに病期分類された。その後、本対象は、約6カ月にわたり全部で12サイクルのFOLFOXによる補助化学療法を受けた。FOLFOX治療終了から約2カ月後に行ったPET CTスキャンから、本対象の骨盤中で腫瘤が明らかになった。明らかに腫瘍由来である閉塞性水腎症が原因で、尿管ステントを留置する際に本対象を入院させた。本対象は、その後すぐ、FOLFIRI及びAvastinを開始し、8サイクルの治療を受けた。次に、本対象に対してPET CTスキャンを行って病期分類を再び行い、骨盤中で病変が確認され、転移性疾患と合致する肺内小結節も明らかになった。胸部、腹部及び骨盤のCTスキャンから、

12cmの骨盤内腫瘤、2cmの大網腫瘤

及び尿管ステントがある右側での水腎症が明らかになった。本対象は、さらに2サイクルのFOLFIRI及びAvastin投与を受けた。その後のPET CTスキャンから、

両側性肺内結節

の進行が示された。次いで、本対象に対してイリノテカン及びErbitux(登録商標)(セツキシマブ)療法を開始した。フォローアップPET CTスキャンから、肺における疾患進行が明らかになった。

【0035】

本対象に対して、Doxil(登録商標)(ドキソルビシンリポソーム製剤)、Velcade(登録商標)(ボルテゾミブ)及びGemzar(登録商標)(ゲムシタビン)での第1相試験を開始したが、残念なことに最初の病期再分類から疾患進行が示唆された。本対象は、アザシチジネオン(azacitydineon)と組み合わせたオキサリプラチンによる別の第1相試験も終了し、疾患進行なく2サイクルを終了した。この最後の第1相臨床試験への本対象の参加終了時に、本対象を本臨床試験に登録した。

【0036】

本対象は、第一の用量コホート(0.25mg/mL)に登録され、そのプロトコルにおいて5-21日サイクルを終了し、従って、

21日ごとに全部で5回のMABp1(0.25mg/kg)の点滴を受けた

。本対象の用量をサイクル6の第1日に0.75mg/kgに増量した。最初のPET CTスキャンから、追跡を行っていた患者の腫瘍直径の総和が約17%低下したことが明らかになった。MABp1のさらなる投与後、患者の追跡腫瘍の直径の総和が30%以上低下したことが認められた。胸部CTから、

傍気管リンパ節が

、以前の測定では

3.5cm

であったものが、サイクル6の終了時には

2.9cmに縮小

したことが示された。

左肺転移巣は、2.2cmから1.9cmに縮小し、左直筋からの移植性転移組織が3.2cmから2.7cmに縮小した

。ベースライン時のCEA腫瘍マーカーは81であり、サイクル3の終了時に69.2に低下し、サイクル7の第1日の時点で27.9であった。この患者は、71週間以上にわたり治療を継続しており、疾患は依然として安定している。

【0037】

実施例3-IL-1α特異的MAb(Xilonix(商標))による鼻咽頭癌の治療

対象は、組織学的亜型リンパ上皮腫(古い専門用語)又は非角化癌がある

EBV+(エプスタインバーウイルス)の鼻咽頭癌に罹患している47歳の中国系男性

であった。本対象は、シスプラチン、5-FU、放射線療法、Taxotere(登録商標)(ドセタキセル)、Gemzar(登録商標)(ゲムシタビン)、Xeloda(登録商標)(カペシタビン)、EBV標的T細胞養子免疫伝達(Adoptive EBV-directed T cell transfer)及び、Gemzar(登録商標)(ゲムシタビン)と組み合わせたCymevene(登録商標)(ガンシクロビル)による治療を以前に受けていた。治療開始前に、本患者は、倦怠感、発熱及び発汗があり、腹水に対する治療のための穿刺を頻繁に受けていた。

【0038】

本対象は、

第0日に1.25mg/kg IVによる2週間ごとのMABp1療法を開始した

。第3及び4日までに、対象の倦怠感、発熱及び発汗の顕著な軽減が指摘された。腹水も消散した。腹部CT腹部スキャンから、

腫瘤のうち1つの転移性肝腫瘍のサイズが、第1日の50.4mmから第36日までに35.8mmに(ほぼ30%)縮小し

たことが示された。

複数の他の肝病変サイズ

縮小し

、骨病変が安定していると考えられた。

・・・

【0042】

実施例5-IL-1α特異的MAb(Xilonix(商標))によるNSCLCの治療

対象は、穿刺吸引により

転移性非小細胞肺癌と診断された病歴がある84歳女性

であった。診断から3カ月後、本対象は、疾患進行が指摘された時点で8カ月にわたるTarceva(登録商標)(エルロチニブ)での治療を開始した。次いで、病因不明の腎不全の発症により治療が中止された時点で8カ月にわたりAlimta(登録商標)(ペルメトレキセド(Permetrexed))により11サイクル、本対象に対する治療が行われた。6カ月後、進行性疾患が指摘され、本患者を再びTarceva(登録商標)(エルロチニブ)で3カ月間治療した。その時点で、本患者のCATスキャンから、肺においてさらに進行性疾患が示され、

右上葉の腫瘤サイズが拡大し、転移と合致する肺内結節が見られ、胸腔内リンパ節肥大が増大した

【0043】

次に、Xilonix(商標)を用いた治験に本対象を登録した。

21日ごとに9サイクル、MABp1(3.75mg/kg)を静脈内点滴した

。治療後、およそ30週間にわたり

安定疾患が指摘され、最新の病期再分類において、右肺病変が空洞化し

ていると思われた。

【0044】

実施例6-IL-1α特異的MAb(Xilonix(商標))での非小細胞肺癌の治療

対象は、第0日に

KRAS-陽性非小細胞(腺癌)肺癌と診断された52歳女性

であった。第14日からのPET/CTスキャンから、

肺、肺門節、右鼠径リンパ節、右副腎、右第四肋骨及び仙腸関節への疾患転移

とともに、4x3.5cmの左上葉腫瘤が明らかになった。本対象は、スキャンから数週間後、カルボプラチン、パクリタキセル及びベバシズマブでの治療を開始した。本対象の初期反応は良好であり、5サイクルを終了した後、初回治療から約5カ月で進行が見られた。次の6カ月間にわたり、ドセタキセルで3サイクル及びカルボプラチン+ペメトレキセドで1サイクル、本対象を治療した。この治療にもかかわらず、本対象は病状が進行し続けた。

【0045】

本対象は、続いてMABp1での治療を開始した。僅か4日後、本対象は頭痛の悪化を感じ始めた。これらは最初、静脈洞炎に起因していたが、MRIによって、

脳への転移

が明らかになった。治験責任医師は、これらが治療開始前に存在していたようだと考えたが、本対象は、ガンマナイフ放射線療法を受けるために、

僅か1回のMABp1の投与後に試験を終了した。最初のMABp1投与から20日後

、フォローアップにおいて本対象を観察し、本対象の胸部痛が軽減したという自覚症状の改善が報告された。このため、治験責任医師は、胸部X線を調べ、これにより、僅か1回の投与後の「

本対象の肺病変のサイズの明らかな縮小

」が示された。試験免除が発出され、

本対象は治療を再開した。最初のMABp1投与から46日後

、本対象に対して病期再分類を行い、RECIST基準によりグレード評価を行ったところ、

病変の全直径の総和が6%縮小していた

(3)本願出願時における技術水準を示す文献

ア 引用文献1:特表2009-537628号公報

原査定及び当審における拒絶理由において引用された、本願出願前に発行された特表2009-537628号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。また、下線は合議体が付したものである。以下他の文献も同様である。

・記載事項1-1(【0003】)

「【0003】

発明の詳細な説明

抗体を用いたIL-1αのターゲッティングは、癌処置として用いることができる。特に、

抗IL-1α抗体は、腫瘍転移における腫瘍由来のIL-1αが果たす生理学的役割の妨害を通して、腫瘍の転移能を阻害することができる

。さらに、IL-1αは腫瘍により発現されるため、IL-1αを標的にする抗体は、抗体に方向づけられる細胞傷害性(一般的にADCCと呼ばれる)を通じて直接的な腫瘍細胞傷害性を引き起こすことができる。」

・記載事項1-2(【0026】~【0032】)

「【0026】

実施例4

aIL-1α抗体による転移発生率の低下

樹立した転移性腫瘍を有するnu/nuマウスを、PBS、5mg/kgの

m

a

h

IL-1α b、または5mg/kgの

h

a

m

IL-1α bと共に5mg/kgの

h

a

m

IL-1α bの腹腔内注射で週2回、処置する

。担癌マウスの2つの群を用い、それらには、5×10

6

個のMDA-MB-436腫瘍細胞またはPC-3腫瘍細胞を皮下注射した。

抗体の週2回の投与を、腫瘍細胞の皮下注射の日かまたは3mm

3

の腫瘍増殖後のいずれかに開始する

。表1参照。

【0027】

(表1)実験計画および動物の数の記載

49

110

0001433376000002.jpg

【0028】

目に見える腫瘍コロニーを、屠殺時に器官上で数える

。表面肝臓転移の数を、腫瘍病巣を可視化する組織検査により測定する。横隔膜、腸壁および腹膜壁、ならびにリンパ節上の転移性病巣の数を同様の様式で測定する。

【0029】

乳房腫瘍モデルにおいて、目に見える

リンパ節、肺、および肝臓の転移は、

m

a

h

IL-1αでの処置によるか、または

m

a

h

IL-1α b+

h

a

m

IL-1α bでの組み合わせ処置によるかのいずれかで低下している

。抗IL-1α処置マウスの10%のみが腹水を形成したのと対照的に、対照処置マウスの100パーセントが、腹水症を発症した。前立腺腫瘍モデルに関して同様に観察し、

m

a

h

IL-1αか、または

m

a

h

IL-1α b+

h

a

m

IL-1α bのいずれかを受けたマウスは、

転移性腫瘍量が低下していた

。乳房腫瘍モデルおよび前立腺腫瘍モデルの両方において、

h

a

m

IL-1α bを投与されたマウスは、屠殺時点で、明らかな転移の低下を示さなかった。表2参照。

【0030】

(表2)aIL-1α抗体での処置による異種移植腫瘍の制御

164

120

0001433376000003.jpg

52

122

0001433376000004.jpg

【0031】

すべてのPBS処置マウスを50日目までに屠殺するが、aIL-1α処置マウスは、60日後、乳房異種移植腫瘍または前立腺異種移植腫瘍によって死んではいない。IL-1αを発現する腫瘍に由来するIL-1α、または内因的(主に白血球)に由来するIL-1αを標的にするaIL-1α処置は、乳房異種移植癌または前立腺異種移植癌のいずれかを有するマウスにおいて転移性腫瘍量を低下させる。腫瘍が発現したIL-1αを標的にするaIL-1α処置は、統計学的により強力な抗腫瘍効果を生じるが、抗腫瘍aIL-1α抗体および抗内因性aIL-1α抗体の組み合わせ処置は、乳房腫瘍または前立腺腫瘍のいずれかを有するnu/nuマウスにおいて、転移性腫瘍の増殖をほとんど完全に遮断する。図1参照。

【0032】

m

a

h

IL-1α、または

h

a

m

IL-1α、またはその2つの抗体の組み合わせのいずれかを受けた動物は

、疾患の臨床経過の重症度が低下している。すべての対照動物は、最終的には瀕死状態を示し、研究の終了前に屠殺を必要とする。対照的に、

m

a

h

IL-1α+

h

a

m

IL-1αを受けた動物は、外観上ごく普通であり、身繕いが良く、活動的であり、苦痛の徴候を示さず、正常な成長および体重増加を示し、かつすべて実験期間中生存している。しかしながら、抗体の組み合わせを受けたマウスについて、器官を注意深く死後調査した後、観察可能な転移性病巣が明らかとなる。このことは、処置を開始する前に、樹立した転移性腫瘍を有する動物において特に顕著である。

樹立した転移性病巣が発生して初めて処置を受けるマウスは、すべての樹立した病巣をその後に除去することはできない

と思われる。しかしながら、

これらの処置されたマウスにおける転移性病巣は、明らかに停止している

。」

・記載事項1-3(図1A~図1D)

「図1A

73

122

0001433376000005.jpg

図1B

71

119

0001433376000006.jpg

図1C

77

120

0001433376000007.jpg

図1D

76

124

0001433376000008.jpg

イ 引用文献6:特開2011-90008号公報

当審における拒絶理由において引用された、本願出願前に発行された特開2011-90008号公報(以下「引用文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。

・記載事項6-1(【0029】)

「【0029】

試験抗体:リガンド(L)と細胞表面抗原:レセプター(R)の結合はリガンド・レセプター複合体(LR)と次の反応式で示される。

L+R←→LR

遊離リガンド濃度〔L〕、非結合型レセプター濃度〔R〕、レセプターと結合したリガンド濃度〔LR〕として、平衡下での解離定数Kdは

Kd = 〔L〕〔R〕/ 〔LR〕 ・・・・I

用いるリガンドの全量〔L total〕は遊離型とレセプターに結合したものとの和になる。

〔L total〕= 〔L〕+〔LR〕・・・・II

一方、レセプターも総量〔R total〕はリガンドに結合していないものと結合したものとの和になる。

〔R total〕= 〔R〕+〔LR〕・・・・III

このレセプターの数〔R total〕(試験抗体の最大結合量)とレセプターとリガンドとの親和性をScatchard解析で推定する。上記I,II,IIIの式を変形、代入すると、

〔LR〕/〔L〕 = - 1/Kd〔LR〕 + 〔R total〕/ Kd

〔LR〕をB (bound) 、〔L〕をF (free) で表し、〔R total〕をB max(定数)で示すと

B / F = - 1 / Kd B + Bmax / Kd

が得られる。この式はB/Fをy軸にBをx軸にとる一次関数となる。直線の傾きからKd値を得、y切片からBmaxを得ることができる。Kd値は濃度の次元をもち、低い値ほど高い親和性を示す。

(結合定数Ka = 1/ Kd)

ウ 引用文献7:British Journal of Pharmacology (2009), 157, 220-233に記載された事項

当審における拒絶理由において引用され、請求人が令和5年5月17日受付の手続補足書で提出した証拠資料1である、本願出願前に発行されたBritish Journal of Pharmacology (2009), 157, 220-233(以下「引用文献7」という。)は、「治療用抗体:成果、限界、そして将来への期待」と題する学術文献であって、以下の事項が記載されている。なお、引用文献7は外国語の文献であるため、合議体による翻訳文で記す。

・記載事項7-1(224頁左欄2段落)

「さらに、もう一つの要因である「結合部位の障壁効果」が、mAbのがんへの浸透をさらに低下させる可能性がある(Fujimori et al.,1990)。より強い結合が常に望ましいと推測されるかもしれないが、いくつかの研究により、固形腫瘍を標的とする治療用抗体では、非常に高い親和性が最適ではない場合があることが示されている(Adams et al.,2001)。

高親和性抗体は、最初の遭遇時、すなわち腫瘍の周辺部で抗原と強固に結合するため、抗原分子が周辺部で飽和するまでは腫瘍の内部に深く浸透しない

。これに対し、

中程度の親和性を持つ抗体は、最初に遭遇した抗原から離れ、腫瘍のより深い部分に浸透し、最終的には腫瘍内に均一に分布し、より多くの腫瘍に取り込まれる

結合性の適切なバランスは、効率的な腫瘍標的化と腫瘍滞留につながり、また腫瘍内の拡散も可能にする

これらの特性は、抗原密度、細胞内取り込み、結合および解離速度など、いくつかの要因に依存する

ため、

最適な結合性を常に容易に設計できるわけではない。

エ 参考文献A:北関東医学, 1986, 36,(6), p.415-421

本願出願前に発行された、北関東医学, 1986, 36,(6), p.415-421(以下「参考文献A」という。)は、「モノクローナル抗体の特性について」と題する学術文献であって、以下の事項が記載されている。

・記載事項A-1(417頁右欄1行~21行、図4)

「上に具体例によって血清抗体と異なるMAbの一般的性質のいくつかを見てきたが、これを模式的に説明づけようとするのが図4である。

抗原分子上には抗体分子が認識結合できる抗原決定基(エピトープ)が一般に複数個あって

、血清抗体は異なるエピトープに対する多様な抗体分子種の混合物であるのに対し、

MAbは1個のエピトープに対する単一の抗体分子種から成ることが要点である

この違いのために、血清抗体は巨大抗原抗体複合体を形成し、免疫沈降や補体結合反応を示す。また血清抗体は多様なエピトープに同時に結合するから抗原分子の機能を阻害することも多い。生物種間で共通のエピトープも近縁種間ほど多いであろうから、血清抗体の種間交差反応性は段階的に表われる。これに対し、

MAbは1個のエピトープにしか結合しない

ので多価の抗原分子でなければ巨大複合体は形成できず、

そのエピトープが抗原分子の活性中心に関与していなければ、その機能を阻害しない場合も多いであろう

。また特定のエピトープが生物種問で保存されているか否かによって交差反応性がall or noneに出ることが予想される。」

52

153

0001433376000009.jpg

オ 参考文献B:特表2004-517078号公報

本願出願前に発行された、特表2004-517078号公報(以下「参考文献B」という。)には、以下の事項が記載されている。

・記載事項B-1(【0013】)

「【0013】

リガンドによって媒介されるシグナル伝達をアンタゴナイズするには、様々な方法がある。顕著な2つの方法は、リガンドを抗体によってブロックすることであり;レセプターを抗体でブロックすることである。

様々なエピトープが、それらの相互作用を阻害する(例えば、相互作用をブロックする立体構造的障害を引き起こす)各々の上に存在する

シグナル伝達をブロックする能力の相関関係は、リガンドまたはレセプターのいずれかへの結合親和性に相関することが必ずしも予想されていない

。」

カ 参考文献C:新機能抗体開発ハンドブック、2012年、初版第1刷、株式会社エヌ・ティー・エス

本願出願前に発行された、新機能抗体開発ハンドブック、2012年、初版第1刷、株式会社エヌ・ティー・エス(以下「参考文献C」という。)には、以下の事項が記載されている。

・記載事項C-1(143頁左欄16行~24行)

「抗体が抗原に結合する量と反応時間で規定され、ビアコアなど分子計測によって反応経過が観察される(

結合定数,association constant;K

a

)。短時間により多くの抗体が抗原に反応できるかどうかで決まる。一方、結合した抗体がどの程度長く抗原に結合していることができるかを計測する解離定数(dissociation constant; K

d

)としても表示される。したがって抗体のアフィニティK

D

値はK

d

÷K

a

で示される。」

(4)検討

ア 上記1(2)の記載事項に基づけば、発明の詳細な説明の記載から以下の事項が理解できる。

(ア) 技術的背景として、「癌などの腫瘍関連疾患は、先進国では今も主要な死因及び疾患の1つ」であって、「従来の化学療法剤と同様に、全ての抗腫瘍Abが全タイプの新生物を処置するために有用というわけではなく、最初は有効であった多くの抗体が後に効力を失う」ことから、「新しい抗腫瘍Abが必要とされてい」た(【0004】、【0005】)ところ、「本発明は、IL-1αに特異的に結合するmAbが、様々な腫瘍関連疾患を治療するために有用であるという発見に基づく」こと(【0006】)、本願発明1の医薬組成物が「腫瘍のサイズを少なくとも約10%(例えば、少なくとも8、9、10、15、17、20、30、40、50、60、70、80、90又は100%)縮小させる」ものであり(【0007】)、「IL-1αを発現する腫瘍又はIL-1α炎症細胞が浸潤している腫瘍」を標的とすることや、「転移の状態(例えば、M0、M1)」及び「リンパ節転移(例えば、N0、N1-4、Nx)」を改善させようとすること(【0018】)が記載されている。

(イ) 抗IL-1α抗体については、「AbのKaは、好ましくは少なくとも1×10

9

M

-1

以上(例えば、9×10

10

M

-1

、8×10

10

M

-1

、7×10

10

M

-1

、6×10

10

M

-1

、5×10

10

M

-1

、4×10

10

M

-1

、3×10

10

M

-1

、2×10

10

M

-1

又は1×10

10

M

-1

超)である。好ましい実施態様において、本発明は、(i)ヒトIL-1αに対する非常に高い結合親和性(例えば少なくともナノ又はピコモルレベル)を示す抗原結合可変領域と、(ii)定常領域と、を含む完全ヒトmAbを利用する。・・・。特に有用なmAbの一例は、2009年6月1日出願の米国特許出願第12/455,458号明細書に記載される、

MABp1

、IL-1α特異的IgG1mAbである。」と記載され(【0019】)、特に「MABp1」と呼ばれる特定の抗体が好ましいことが記載されている。一方で、「MABp1」のKa値や、それと「類似している」又は「同一」のKa値についての記載はない。

(ウ) また、ヒト抗IL-1αに対するモノクローナル抗体の作成方法については、ヒト血液中のヒトIL-1α特異的Abの有無についてスクリーニングし、望ましいAbを発現するBリンパ球を単離し、不死化するという一般的な作成方法が記載されるにとどまり(【0020】~【0025】)、「ヒトIL-1αに、MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合」し、かつ、「ヒト患者における転移腫瘍のサイズを減少させる」作用を有するヒト抗IL-1αモノクローナル抗体を取得するための具体的な方法は示されていない。

(エ) 実施例として、以下のとおり、ヒト患者を対象に各種の転移腫瘍においてそのサイズを減少させたことを示す臨床試験の結果が記載されている(実施例2、3、5、6)。

・「転移性結直腸癌(KRAS突然変異陽性)と診断された63歳女性」では、「傍気管リンパ節が」「3.5cm」から「2.9cmに縮小」し、「左肺転移巣は、2.2cmから1.9cmに縮小し、左直筋からの移植性転移組織が3.2cmから2.7cmに縮小した」(実施例2)。

・「EBV+の鼻咽頭癌に罹患している47歳の中国系男性」に対して、「腫瘤のうち1つの転移性肝腫瘍のサイズが、第1日の50.4mmから第36日までに35.8mmに(ほぼ30%)縮小し」、「複数の他の肝病変サイズ」も「縮小し」た(実施例3)。

・「転移性非小細胞肺癌と診断された病歴がある84歳女性」で「右上葉の腫瘤サイズが拡大し、転移と合致する肺内結節が見られ、胸腔内リンパ節肥大が増大した」腫瘍に対して、「安定疾患が指摘され、最新の病期再分類において、右肺病変が空洞化し」た(実施例5)。

・「KRAS-陽性非小細胞(腺癌)肺癌と診断された52歳女性」で「肺、肺門節、右鼠径リンパ節、右副腎、右第四肋骨及び仙腸関節への疾患転移」が見られたところ、「本対象の肺病変のサイズの明らかな縮小」が観察され、「病変の全直径の総和が6%縮小していた」(実施例6)。

しかしながら、いずれの実施例においても、抗IL-1α抗体として用いられているのは「MABp1」のみであって、本願発明1の「ヒトIL-1αに、MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合する」、他のモノクローナル抗体を用いた試験結果は発明の詳細な説明に開示されていない。

そして、上記実施例において観察された抗IL-1α抗体の有する結合定数と転移腫瘍のサイズを減少させる作用との因果関係については、実験的裏付けはなく、理論的な説明も全く記載されていない。

イ 続いて、本願出願時の技術常識について検討する。

引用文献7によれば、固形腫瘍を標的とする治療用抗体では、効率的な腫瘍標的化と腫瘍内の拡散性は、抗体の標的に対する結合性のみならず、解離速度や

抗原密度、細胞内取り込みなど

のいくつかの要因にも依存するため、

最適な結合性を常に容易に設計できるわけではない

ことが知られていた(前記(3)ウ)。

また、モノクローナル抗体については、「抗原分子上には抗体分子が認識結合できる抗原決定基(エピトープ)が一般に複数個あ」り、「そのエピトープが抗原分子の活性中心に関与していなければ、その機能を阻害しない場合も多」く(前記(3)エ)、「リガンドまたはレセプター」に対するモノクローナル抗体についても、「様々なエピトープ」が「相互作用を阻害する各々の上に存在」するため、「シグナル伝達をブロックする能力の相関関係は、リガンドまたはレセプターのいずれかへの結合親和性に相関することが必ずしも予想されていない」ものであった(前記(3)オ)。そうすると、リガンド及びレセプターを標的とするモノクローナル抗体のシグナル伝達阻害活性は、標的抗原に対する結合性のみならず、エピトープの位置などの他の要因も影響を与えることが本願出願時の技術常識であった。

さらに、引用文献1によれば、「抗IL-1α抗体は、腫瘍転移における腫瘍由来のIL-1αが果たす生理学的役割の妨害を通して、腫瘍の転移能を阻害することができる」ことを確認するために(記載事項1-1)、結合定数の明示がないヒト抗IL-1α抗体として、腫瘍由来のIL-1αに拮抗するマウス抗ヒトIL-1α抗体(

m

a

h

IL-1抗体)を、内因性IL-1αを中和するハムスター抗マウスIL-1α抗体(

h

a

m

IL-1α)と組み合わせた製剤をすでに転移性病巣が樹立されたマウスに投与したところ、「すべての樹立した病巣をその後に除去することはでき」ず、「転移性病巣は、明らかに停止している」と評価されていることからみて(前記(3)ア)、同じ抗IL-1α抗体であっても、すでに樹立した転移腫瘍に対しては、あくまで転移を停止する程度の作用にとどまり、腫瘍のサイズを減少させることまではできない抗体が存在していたといえる。

ウ 上記の発明の詳細な説明及び本願出願時の技術常識を踏まえて検討すると、発明の詳細な説明には、抗体の結合定数と転移腫瘍サイズ減少作用との因果関係について、実験的又は理論的な裏付けは記載されておらず(前記ア(エ))、抗体の効率的な腫瘍標的化と腫瘍内の拡散性や、シグナル伝達阻害活性は、抗体の持つ結合定数のみならず、解離速度や抗原決定基(エピトープ)の位置等のその他の要因にも依存するという本願出願時の技術常識を考慮すれば(前記イ)、発明の詳細な説明に記載された実施例の臨床試験において、MABp1が各種の転移腫瘍のサイズを減少させた作用は、単にMABp1に固有のKaに起因するものであるとはいえず、MABp1に固有の抗原決定基(エピトープ)やその他の要因にも依存した適切な結合性を有する抗体を用いたために奏された作用である可能性を否定できない。

エ さらに、同じ抗IL-1α抗体であっても、転移病変の見かけ上の停止にとどまり、すでに確立された転移腫瘍のサイズを減少させることまではできない抗体が知られているところ(前記イ)、この点、請求人は令和4年11月9日付け意見書において(2頁最終段落1行~3頁5段落)、発明の詳細な説明の実施例では、「転移性腫瘍の成長は逆転し、単に停止したのではない」として、抗IL-1αモノクローナル抗体によりヒト患者において確立された転移腫瘍の腫瘍サイズを減少させることの予測困難性、及び異種移植モデルからのデータをヒト臨床に外挿することの困難性を強調しているにも関わらず、発明の詳細な説明には、ヒト抗IL-1αモノクローナル抗体の一般的な作成方法が記載されるにとどまり、そのような特殊な作用を有するヒト抗IL-1αモノクローナル抗体を取得するための具体的な方法については何も示されていない(前記ア(ウ))。

そうすると、転移病変の見かけ上の停止にとどまらず、「転移腫瘍サイズを減少させる」という薬理作用を有する抗IL-1αモノクローナル抗体を得るためには、実施例で用いられた「MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合する」、様々なヒト抗IL-1αモノクローナル抗体を作成し、ヒト患者において確立された転移腫瘍のサイズを減少させる作用があるかどうかについて、実際に試験を行って個々に確認する必要があり、これは当業者に過度な試行錯誤を強いるものといえる。

オ 以上によれば、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1において、「ヒトIL-1αに、MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合する」という結合定数のみで特定されたヒト抗IL-1αモノクローナル抗体のうち、「MABp1」以外の抗IL-1αモノクローナル抗体を用いる態様については、「IL-1αを発現する腫瘍又はIL-1α発現炎症細胞に浸潤されている腫瘍により特徴付けられる転移性癌」を有する「ヒト患者における転移腫瘍のサイズを減少あさせるため」に使用することができることを、当業者が理解することができるように記載されているとはいえず、実際にそのような抗体を得るためには、過度な試行錯誤を要するものである。

(5)請求人の主張

請求人は令和7年8月8日提出の意見書において、補正により、抗IL-1α抗体が「MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合するモノクローナル抗体(mAb)である」ものに限定されたことにより、本願の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たす旨を主張しているが、令和7年2月10付けの拒絶理由通知書において、「本願明細書の実施例の臨床試験において「MABp1」が各種の転移腫瘍のサイズを減少させた作用は、あくまで「MABp1」の持つ固有の結合親和性のみならず、そのアミノ酸配列に基づく固有の抗原結合部位やその他の要因に依存した適切な結合性のバランスを有する抗体を用いたために奏された作用である可能性を否定できない。」と指摘した点に対し、何ら反論していない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

(6)結論

以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえないから、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

(1)判断手法について

特許法第36条第6項第1号(サポート要件)は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを規定するものであるところ、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)検討

これを本件について見ると、本願発明1の解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の【0005】及び特許請求の範囲の記載からみて、「IL-1αを発現する腫瘍又はIL-1α発現炎症細胞に浸潤されている腫瘍により特徴付けられる転移性癌を有」する「ヒト患者における転移腫瘍のサイズを減少させるため」の医薬組成物を提供することであると認める。

しかしながら、上記1で説示したように、発明の詳細な説明は、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願発明1で特定する「MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合するモノクローナル抗体(mAb)である」抗IL-1α抗体により、「IL-1αを発現する腫瘍又はIL-1α発現炎症細胞に浸潤されている腫瘍により特徴付けられる転移性癌」を有する「ヒト患者における転移腫瘍のサイズを減少させる」ことを当業者が理解できるように記載されていない。

したがって、本願発明1は、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時における技術常識に基づき、本願発明1が有する上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(3)請求人の主張について

請求人は、補正により、抗IL-1α抗体を「MABp1のKaと類似している又は同一のKaで結合するモノクローナル抗体(mAb)である」に限定し、請求項1に係る発明の範囲から、「少なくとも1×10

9

M

-1

以上」というKaの下限値のみが特定される抗体が除外されたことにより、本願発明1は、サポート要件を満たしている旨を主張している。

しかしながら、上記1(4)ウで説示したとおり、MABp1が各種の転移腫瘍のサイズを減少させた作用は、単にMABp1に固有のKaに起因するものであるとはいえず、請求人の主張は、本願発明1が上記課題を解決できると認識できる範囲のものではないという判断を覆すに足るものではない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

(4)結論

以上のとおり、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび

以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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