結論テキスト
特許第7402871号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7402871号の請求項1、2に係る特許を維持する。
特許第7402871号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024700585 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7402871号の請求項1~3に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)10月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年(平成30年)11月1日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とするものであり、令和5年12月13日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、令和6年6月20日に、請求項1~3に係る特許を対象として特許異議申立人椛澤貴正(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。以降の主な手続きは以下のとおりである。
令和6年 9月10日付け 取消理由通知
同年12月10日 意見書の提出(特許権者)
令和7年 2月13日 上申書の提出(異議申立人)
同年 2月18日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月30日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年 7月 8日 意見書の提出(異議申立人)(甲第4号証を添付)
同年 9月 3日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 9月19日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年10月28日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)(以下、この訂正を「本件訂正」という。)
なお、令和7年5月30日にされた訂正の請求(以下、この訂正を「先の訂正」ということがある。)及び同年9月19日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、令和6年 9月10日付け取消理由通知後、同年12月10日に特許権者から提出された意見書に対し、異議申立人から令和7年 2月13日に上申書が提出されていること、先の訂正後、異議申立人に意見書の提出の機会が与えられたこと、そして、本件訂正は、先の訂正に対して、先の訂正後の請求項1に係る発明の技術的な特徴点である「非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルム」をさらに限定された「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、流延された多孔質高密度ポリエチレンフィルム」に訂正する関係にあるものであるところ、上記「非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルム」に対して上記意見書で詳細な主張がなされており、さらに限定された本件訂正後の「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、流延された多孔質高密度ポリエチレンフィルム」に対して、本特許異議申立書における申立理由、上記意見書で主張している理由以外で、本件訂正に付随して、本件訂正後の請求項1、2に係る特許を取り消すべきとする何らかの理由が生じる余地があるとはいえないこと、本特許異議申立事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても、上記「結論」にあるように、特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したことから、本件訂正後には、異議申立人に意見書の提出の機会を与えていない。
本件訂正は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「多孔質ポリエチレンフィルムを調製する方法」とあるのを、「多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムを調製する方法」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ポリエチレンポリマー及び溶媒を含む加熱されたポリマー溶液を押出温度で押出し、押出されたポリマーフィルムを形成すること」とあるのを、「
高密度
ポリエチレンポリマー
と、高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒及び高密度ポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む
溶媒
とから本質的になる
加熱されたポリマー溶液を押出温度で押出し、押出されたポリマーフィルムを形成すること」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、流延された多孔質ポリエチレンフィルムを形成すること
を含み、
流延された多孔質ポリエチレンフィルムが、0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有し、
流延された多孔質ポリエチレンフィルムが、HFE-7200液状流体を使用して25°Cの温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する」とあるのを、「押出されたポリマーフィルムの温度を下げ
て、一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、
流延された多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムを形成すること
を含み、
一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、
流延された多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムが、0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有し、
一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、
流延された多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムが、HFE-7200液状流体を使用して25°Cの温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「ポリエチレンポリマー」とあるのを、「
高密度
ポリエチレンポリマー」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件明細書の【0036】、【0037】の「
本明細書に記載される範囲内の分子量を有するポリエチレンを含むポリエチレンは、
ポリエチレンポリマーに利用可能な密度の範囲内にある密度を示してもよい。・・・特定の例では、ポリエチレンは、ポリエチレンポリマーに利用可能でありうる、可能な密度の範囲にわたって他のポリエチレン材料に比べ比較的高い密度を有するものであってもよい。
ポリエチレン材料は、一般的に1立方センチメートル当たり約1.0グラム未満の密度、例えば1立方センチメートル当たり0.94~0.97グラムの範囲の密度を有してもよい。・・・
「高密度ポリエチレン」(「HDPE」)
は、一部の場合で1立方センチメートル当たり0.941~0.965グラムの範囲の密度を有するとみなされる。」等の記載に基づき、「ポリエチレン」を、「高密度ポリエチレン」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の「ポリマー溶液」に「含む」とされていた、「ポリエチレンポリマー」を「高密度ポリエチレンポリマー」に、「溶媒」を「高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒及び高密度ポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む溶媒」に、また、単に(ポリエチレンポリマー及び溶媒を)「含む」とされ、ポリエチレンポリマー及び溶媒の量が任意であったものを、本件明細書の【0034】に「本明細書で使用される場合、特定の成分または指定の成分の組合せ「から本質的になる」と記載される組成物(例えば、モノマー組成物)は、成分または指定の成分の組合せ、および少量またはわずかな量以下の他の材料、例えば3、2、1、0.5、0.1または0.05重量パーセント以下の任意の他の成分または成分の組合せを含有する組成物である。」と記載されるように、「・・・から本質的になる」との表現により、高密度ポリエチレンポリマー及び溶媒の含有量をより限定することからなり、本件訂正前の「ポリマー溶液」をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、「高密度ポリエチレンポリマー」については、上記(1)で述べたように同【0036】、【0037】等に、「高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒及び高密度ポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む溶媒」については、特許掲載公報の【請求項3】に、「・・・から本質的になる」については、上述の【0034】に記載されるものであるから、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の「流延された多孔質ポリエチレンフィルム」について、「一体型非対称細孔構造を有」するものであること、「共押し出しされたもの」ではない、すなわち「共押し出しされたもの」が除かれたものであること、「高密度」(ポリエチレン)であることの限定を付加し、「流延された多孔質ポリエチレンフィルム」の範囲をより狭くなるように限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、「流延された多孔質ポリエチレンフィルム」が、「一体型非対称細孔構造を有」するものであることについては、本件明細書の【0022】の「
細孔は膜の厚さ全体に分布し、非対称細孔構造を示すように配列する
。本記載の文脈の範囲内では、「非対称」膜は、膜の2つの側面に異なるサイズの細孔を含む膜である。非対称膜は、例えば図2Aに示されるように、比較的小さな細孔を含む第1の側面(一部の場合では「密封」側面または「保持」側面と称される)、および例えば図2Bに示されるように、比較的大きな細孔を含む第2の側面(「開放」側面または「支持」側面)を含む。2つの側面の間では、膜は徐々に変化する中間サイズの細孔を含む。」との記載によれば、多孔質ポリエチレンフィルムに「非対称細孔構造」という構造があることが理解でき、同【0023】の「全体の厚さおよび
非対称膜の両方の側面は
、同じポリマー材料から形成され、単一の形成工程により
一体型の膜として一緒に形成される
。したがって、非対称膜は、
「一体型非対称」と称される
場合もある。
一体型非対称膜とは対照的に、任意選択で非対称であってもよい他の種類の膜は、非一体型でありうる。一部の場合で多層または「複合」膜と称される他の膜は、それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層を組み合わせるまたは接着させることにより調製される
。」との記載によれば、膜について、「一体型非対称」の場合と、「非一体型非対称」の場合があることから、多孔質ポリエチレンフィルムの上述の「非対称細孔構造」には、「一体型非対称細孔構造」と「非一体型非対称細孔構造」があることが理解できることに基づくものである。
また、「流延された多孔質ポリエチレンフィルム」が、「共押し出しされたもの」ではないことは、「多孔質ポリエチレンフィルム」から、単に「共押し出しされたもの」を除くものであって、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでもない。
さらに、「流延された多孔質ポリエチレンフィルム」のポリエチレンが「高密度ポリエチレン」であることについては、上記(1)で述べたように同【0036】、【0037】等に基づくものである。
そうすると、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
先の訂正において、上記1(3)の訂正事項3に対応して、以下の訂正が請求されていた。
「特許請求の範囲の請求項1に「押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、流延された多孔質ポリエチレンフィルムを形成すること
を含み、
流延された多孔質ポリエチレンフィルムが、0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有し、
流延された多孔質ポリエチレンフィルムが、HFE-7200液状流体を使用して25°Cの温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する」とあるのを、「押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、
非対称細孔構造を有する
流延された
単層の
多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムを形成すること
を含み、
非対称細孔構造を有する
流延された
単層の
多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムが、0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有し、
非対称細孔構造を有する
流延された
単層の
多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムが、HFE-7200液状流体を使用して25°Cの温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する」に訂正する。」
そして、異議申立人は、上記の訂正について、以下の(1)及び(2)の主張をしている。
(1)単層について
本件明細書等には、文言上、流延された多孔質ポリエチレンフィルムが「単層」であることの記載がないところ、特許権者は、「単層」との文言を新規に創出している。
このように、請求項1において、「単層」との文言を追加する訂正は、明細書等に記載のない、新たな技術的事項を導入するものであり、新規事項を追加している。
(2)単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成する工程について
この新規に創出した「単層」との文言を含む「押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成する」工程について、本件明細書の【0046】には、「加熱されたポリマー溶液をダイに通し、押出温度よりはるかに低い温度、すなわち「冷却温度」にある成形表面上に分配する。押出されたとき、加熱されたポリマー溶液は、より低温の成形表面と接触し、ポリマーおよび加熱されたポリマー溶液の溶媒が、ポリマーが本明細書に記載される多孔質フィルター膜へと形成される様態で1つまたは複数の相分離を経る。」との記載があるので、当業者であれば、ポリマーが「相分離」して「多層」のフィルムが形成されることが容易に想到されるところ、それが仮にポリマーが「相分離」して「単層」のフィルムが形成されるとするならば、どのようにすれば「相分離」して「単層」のフィルムが形成されるのか不明である。
したがって、当該工程に係る訂正は、新たな技術的事項を導入するものであり、新規事項を追加している。
以上の主張に対し、先の訂正後の「
非対称細孔構造を有する
流延された
単層の
多孔質
高密度
ポリエチレンフィルム」が、本件訂正では「
一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、
流延された多孔質
高密度
ポリエチレンフィルム」と訂正されていることから、これを踏まえて、上記(1)及び(2)の主張に対する判断を行う。
上記(1)の主張については、「単層」との用語の使用に問題があるとするものであるところ、この記載が新規事項の追加に該当するか否かを論ずるまでもなく、本件訂正では、この用語が使用されていないのであるから、上記(1)の主張には、理由がない。
さらに、「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない」との記載が新規事項を追加するものではないことは、上記2(3)で述べたとおりである。
上記(2)の主張についても、本件訂正では、「単層」との用語が使用されていないため理由はないといえるが、本件訂正における「一体型非対称細孔構造」が多層の構造ではないという点で、上記(2)の主張が該当する可能性があるので、念のため検討する。
まず、新規事項の追加であるか否かの判断は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かで判断するところ、「一体型非対称細孔構造」の記載は、上記2(3)で述べたように、本件明細書の【0022】、【0023】の記載から導かれるものであるから、新規事項の追加には該当しない。
異議申立人の「当業者であれば、ポリマーが「相分離」して「多層」のフィルムが形成されることが容易に想到されるところ、それが仮にポリマーが「相分離」して「単層」のフィルムが形成されるとするならば、どのようにすれば「相分離」して「単層」のフィルムが形成されるのか不明である。」の主張は、「単層」(一体型非対称細孔構造)の製造方法が不明であるという点で、新規事項の追加における主張とはいえない。
しかも、この主張は、「当業者であれば、ポリマーが「相分離」して「多層」のフィルムが形成されることが容易に想到される」ということを前提としているが、本件明細書に記載される「相分離」とは、「相」とあるとおり、「液相」と「固相」の分離のことで、押出温度で溶媒に溶解していた高密度ポリエチレンポリマーが、温度が低下することにより、固相として析出し、液相である溶媒と分離することを意味するもので、「層」が分離することではないから、「当業者であれば、ポリマーが「相分離」して「多層」のフィルムが形成されることが容易に想到される」ということはない。
そうすると、上記(2)の主張は、その前提に誤りがある。
以上のとおりであるから、上記意見書における、異議申立人の訂正要件違反に関する主張を、採用することはできない。
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~3〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~3に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
粒子の濾過プロセスの間に流体の全量が通過する2つの対向する側面、及び2つの対向する側面の間の厚さを有し、細孔が厚さ全体に存在し、細孔が非対称細孔構造を有する多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムを調製する方法であって、
高密度
ポリエチレンポリマー
と、高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒及び高密度ポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む
溶媒
とから本質的になる
加熱されたポリマー溶液を押出温度で押出し、押出されたポリマーフィルムを形成すること、並びに
押出されたポリマーフィルムの温度を下げ
て、一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、
流延された多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムを形成すること
を含み、
一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、
流延された多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムが、0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有し、
一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、
流延された多孔質
高密度
ポリエチレンフィルムが、HFE-7200液状流体を使用して25°Cの温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する、
方法。
【請求項2】
ポリマー溶液が、ポリマー溶液の全重量に対して
15~35重量パーセントの
高密度
ポリエチレンポリマー、及び
65~85重量パーセントの溶媒
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】(削除)」
・特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)
本件特許は、先の訂正後の請求項1、2の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由1」という。)。
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記5に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それら特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(下記5に記載の甲第2号証を参考にする。以下、「取消理由2」という。)。
(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記5に記載の甲第1号証に記載された発明及び下記5に記載の甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由3」という。)。
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記5に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それら特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(下記5に記載の甲第2号証を参考にする。以下、「取消理由4」という。)。
(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記5に記載の甲第1号証に記載された発明及び下記5に記載の甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由5」という。)。
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記5に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それら特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(下記5に記載の甲第2号証を参考にする。以下、「申立理由1」という。)。
(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記5に記載の甲第1号証に記載された発明及び下記5に記載の甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2」という。)。
甲第1号証:特表2012-523320号公報
甲第2号証:国際公開第2006/069307号(訳文添付)
甲第3号証:特表2017-536232号公報
甲第4号証:「FEATURES 特性 UHMW-PE(超高分子量ポリエチレン)」と題する三井化学株式会社のホームページの出力物、出力日2025年7月2日(URL:https://jp.mitsuichemicals.com/jp/special/uhmw-pe/features/)
(以下、甲第1号証を略して「甲1」などという。)
当審は、上記取消理由1~5及び申立理由1、2のいずれにも理由がないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
(1)取消理由1について
ア 取消理由1の概要
(ア)明確性要件の判断手法と先の訂正後の請求項1(請求項2)の記載における明確性要件の検討点について
特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断するとされている。
ここで、先の訂正により訂正された請求項1は、上記第2の3で述べた訂正事項3により訂正された「非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルム」との記載があるので、この「単層」の記載が明確性要件に適合するか否かを、上述の観点に従って、以下検討する。
(イ)本件明細書の記載
本件明細書には、「単層」に関する直接の記載はないが、関連するものとして、以下の記載がある。
「【0022】
細孔は膜の厚さ全体に分布し、非対称細孔構造を示すように配列する。本記載の文脈の範囲内では、「非対称」膜は、膜の2つの側面に異なるサイズの細孔を含む膜である。非対称膜は、例えば図2Aに示されるように、比較的小さな細孔を含む第1の側面(一部の場合では「密封」側面または「保持」側面と称される)、および例えば図2Bに示されるように、比較的大きな細孔を含む第2の側面(「開放」側面または「支持」側面)を含む。2つの側面の間では、膜は徐々に変化する中間サイズの細孔を含む。
【0023】
全体の厚さおよび非対称膜の両方の側面は、同じポリマー材料から形成され、単一の形成工程により
一体型の膜として一緒に形成される
。したがって、非対称膜は、
「一体型非対称」と称される
場合もある。
一体型非対称膜とは対照的に、任意選択で非対称であってもよい他の種類の膜は、非一体型でありうる。一部の場合で多層または「複合」膜と称される他の膜は、それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層を組み合わせるまたは接着させることにより調製される
。複合膜は、1つの形成工程で形成され、第1の(例えば、より大きな細孔サイズ)形態を有する第1の多孔質層と、第1の多孔質層を形成する工程とは異なる第2の形成工程で形成される第2の多孔質層を組み合わせることにより形成される多層構造を含んでもよい。複数の工程により形成されるこの種類の
多層または「複合」膜構造は、「一体型」膜または「一体型非対称」とみなされない
。」
(ウ)明確性要件の判断
a 先の訂正後の請求項1に記載される「単層」自体の意味は、通常は、単一の層といった程度の意味であるが、本件明細書には、「単層」に関する直接の定義やその意味の説明の記載はない。
ここで、本件明細書の【0023】には、上記(イ)で摘記したような記載があるが、この段落の記載によれば、先の訂正後の請求項1に係る発明の「流延された多孔質ポリエチレンフィルム」は、「一体型非対称」であるところ、「多層または「複合」膜構造は、「一体型」膜または「一体型非対称」とみなされない」とされていることから、「一体型非対称」である先の訂正後の請求項1に係る発明の「流延された多孔質ポリエチレンフィルム」は、「多層」でないものとして、「単層」と解されるものである。
そして、「多層」については、「多層または「複合」膜と称される他の膜は、それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層を組み合わせるまたは接着させることにより調製される」との記載によれば、「それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層を組み合わせるまたは接着させることにより調製される」膜とされているから、そうでないものが「単層」の膜ということになるところ、「それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層」が、「明確な境界」をもって接している場合等は、明確に「多層または「複合」膜」であることが理解でき、膜の中に「明確な境界」を持っていないものとして「単層」の意味を理解できる。
しかしながら、「それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層」において、それぞれが異なる形態であったとしても、層の間においてその形態が連続的に変化し、層の間の境界を明確に認識できない場合に、これを「多層」といえるのか明らかでなく、結果として、「多層」でないものとしての「単層」についても、このような場合が、「単層」に含まれるものであるのか否かが明らかでない。
b 例えば、甲2(国際公開第2006/069307号)には、後記2(2)イに記載するように以下の記載がある。
「14重量%のUHMW-PE粉末、21.5重量%のDBSおよび64.5重量%のMOからなるスラリー混合物を、二軸混練押し出し機の中に計量送入し、UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し、この押し出しラインの種々の域の温度を220°C~270°Cで設定し、溶液流れを2ポート共押し出しフィードブロックに前面層としてフィードし、
15重量%のUHMW-PE粉末、72.3重量%のDBSおよび12.7重量%のMOからなるスラリー混合物を、二軸混練押し出し機の中に計量送入し、UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し、この押し出しラインの種々の域の温度を200°C~260°Cで設定し、溶液流れを2ポート共押し出しフィードブロックに背面層としてフィードし、
2つの溶液流れを2つの投入ポート付きの共押し出しフィードブロックから二層溶液構造として接合し、二層化構造を
単一の層溶液シート
として押し出し、冷却ロール上でこの押し出されたシートを急冷し、急冷したフィルムからDBSとMOを抽出するために、過剰量のハロゲン化炭化水素溶剤混合物中に入れる二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法。」
このような「共押し出し」により製造された膜は、2つの層が押し出しされる場面では、各層における樹脂は溶融し溶媒和しているから、2つの層の間で材料の混合が生じ、明確な境界は生じないし、「一体化」されたものであるといえる。しかも、上記甲2の記載でも、膜は、「単一の層溶液シート」として押し出されることが記載されている。
そうすると、甲2に記載されるような、「一体型非対称」であるといえ「共押し出しによる」膜は、「多層」の膜であるのか否か、さらには、「多層」の膜ではないという点で、先の訂正後の請求項1に係る発明における「単層」の膜に含まれるものであるのか否かが明らかでない。
(エ)小括
上記(ウ)での検討によれば、先の訂正後の請求項1の「非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルム」における「単層」の記載は、本件明細書の記載及び当業者の技術常識を考慮したとしても、その範囲に含まれる技術的事項が一義的に定まるものではなく、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえるものであるから、この記載を含む先の訂正後の請求項1及び請求項1を引用する請求項2の記載は、明確性要件に適合しているとはいえない。
イ 取消理由1に対する当審の判断
本件訂正で、「非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルム」は、「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、流延された多孔質高密度ポリエチレンフィルム」となり、明確性要件違反の原因となっていた「単層」の記載がないものとなったので、上記取消理由1は、理由がないものとなったが、念のため、「非対称細孔構造を有する・・・単層の」の記載に対応する本件訂正後の「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない」との記載についての明確性についても判断する。
まず、「一体型非対称細孔構造」について、上記ア(イ)で摘示した【0022】の「細孔は膜の厚さ全体に分布し、
非対称細孔構造
を示すように配列する。本記載の文脈の範囲内では、「非対称」膜は、膜の2つの側面に異なるサイズの細孔を含む膜である。」との記載によれば、「非対称細孔構造」とは、細孔は膜の厚さ全体に分布し、膜の2つの側面に異なるサイズの細孔を含む構造であることが理解できる。
そして、同じく、上記ア(1)ア(イ)で摘示した【0023】の「全体の厚さおよび非対称膜の両方の側面は、同じポリマー材料から形成され、単一の形成工程により
一体型の膜として一緒に形成される
。したがって、非対称膜は、
「一体型非対称」と称される
場合もある。
一体型非対称膜とは対照的に、任意選択で非対称であってもよい他の種類の膜は、非一体型でありうる。一部の場合で多層または「複合」膜と称される他の膜は、それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層を組み合わせるまたは接着させることにより調製される
。」との記載によれば、「一体型」とは、全体の厚さおよび非対称膜の両方の側面は、同じポリマー材料から形成され、単一の形成工程により一緒に形成されるものであって、それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層を組み合わせるまたは接着させることにより調製されたものではないもの、すなわち、同じポリマー材料から形成され、明確な境界がないものとして理解できる。
そうすると、「一体型非対称細孔構造」とは、細孔は膜の厚さ全体に分布し、膜の2つの側面に異なるサイズの細孔を含む構造であって、同じポリマー材料から形成され、明確な境界がないものとして理解できる。
そして、上記ア(ウ)bで述べたように、「単層」の記載では、その範囲に含まれるのか否かが明らかでなかった、「共押し出し」により製造されるフィルムが、本件訂正後には、「共押し出しされたものではない」として、「一体型非対称細孔構造」に含まれないことも明確になった。
以上によれば、「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない」との特定は、細孔は膜の厚さ全体に分布し、膜の2つの側面に異なるサイズの細孔を含む構造であって、同じポリマー材料から形成され、明確な境界がないものであり、共押し出しされたものではないもの、として、明確にその技術的範囲を理解できる。
これらのことを、上記ア(ア)で述べた「明確性要件の判断手法」に即して判断すると、「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない」との記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえるものではないから、上記の記載を含む特許請求の範囲の記載は、明確性要件に適合するといえる。
(2)異議申立人が令和7年7月8日に提出した意見書における明確性要件違反に関する主張について
ア 異議申立人の主張の概要
(ア)「高密度」について
先の訂正後の請求項1における「高密度ポリエチレンポリマー」、「高密度ポリエチレンフィルム」との記載について、どの程度の密度のポリエチレンポリマー又はフィルムが、「高密度」に相当するのか、不明である。
また、【0019】には「本記載の目的では、「比較的高い密度」を示すポリエチレン材料は、一部の場合で「高密度ポリエチレン」または「HDPE」と称されるポリエチレンポリマーを含むが、これらの用語の意味の範囲内になくてもよいポリエチレンポリマーを含んでもよい」との記載がなされているところ、「これらの用語の意味の範囲内になくてもよいポリエチレンポリマーを含んでもよい」とは、結局どの程度の密度のポリエチレンポリマーが、先の訂正後の請求項1に記載の「高密度」に相当するのか、不明である。
(イ)押出温度で「あまり可溶型でない弱溶媒」について
先の訂正後の請求項1における「押出温度であまり可溶型でない弱溶媒」との記載について、「あまり可溶型でない」とは、溶けるのか(可溶)、溶けないのか(不溶)、もしくはその両者ではないとするならば、どの程度の可溶型なのか、不明である。
また、先の訂正後の請求項1における「高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒」について、強溶媒が「可溶型である」との記載から、弱溶媒について、それを否定するように記載された「可溶型ではない」こととは、「不溶」であると解釈せざるを得ないが、これに「あまり」が修飾された「あまり可溶型ではない」弱溶媒とは、結局どの程度の可溶型であるのか、不明である。
(ウ)「本質的になる」加熱されたポリマー溶液について
先の訂正後の請求項1における「高密度ポリエチレンポリマーと、高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒及び高密度ポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む溶媒とから本質的になる加熱されたポリマー溶液」との記載について、「本質的になる」加熱されたポリマー溶液とは、例えば、高密度ポリエチレンポリマーと、溶媒とからなるものか、それ以外の成分を含むものか、不明である。
(エ)単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成する工程について
先の訂正後の請求項1における「押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成する」工程について、本件明細書の【0046】には、「加熱されたポリマー溶液をダイに通し、押出温度よりはるかに低い温度、すなわち「冷却温度」にある成形表面上に分配する。押出されたとき、加熱されたポリマー溶液は、より低温の成形表面と接触し、ポリマーおよび加熱されたポリマー溶液の溶媒が、ポリマーが本明細書に記載される多孔質フィルター膜へと形成される様態で1つまたは複数の相分離を経る」との記載があるので、当業者であれば、ポリマーが「相分離」して「多層」のフィルムが形成されることが容易に想到されるところ、先の訂正後の請求項1について、「押出されたポリマーフィルムの温度を下げ」ることで、どのようにすれば「非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成する」ことが可能となるのか、不明である。
イ 上記アの異議申立人の主張に対する当審の判断
(ア)上記ア(ア)の主張について
本件明細書の【0037】には、「ポリエチレン材料は、一般的に1立方センチメートル当たり約1.0グラム未満の密度、例えば1立方センチメートル当たり0.94~0.97グラムの範囲の密度を有してもよい。この範囲内で・・・「高密度ポリエチレン」(「HDPE」)は、一部の場合で1立方センチメートル当たり0.941~0.965グラムの範囲の密度を有するとみなされる。」との記載があり、「高密度ポリエチレン」の「高密度」とは、「1立方センチメートル当たり0.941~0.965グラムの範囲の密度」であると理解でき、特に、どの程度の密度が、「高密度」に相当するのか不明である、ということはない。
また、【0019】の「本記載の目的では、「比較的高い密度」を示すポリエチレン材料は、一部の場合で「高密度ポリエチレン」または「HDPE」と称されるポリエチレンポリマーを含むが、これらの用語の意味の範囲内になくてもよいポリエチレンポリマーを含んでもよい」との記載は、「比較的高い密度」(「高密度」とはいっていない。)のポリエチレン材料は、「高密度ポリエチレン」または「HDPE」を含むが、(「比較的高い」という範囲の中に)「高密度ポリエチレン」または「HDPE」以外のポリエチレン材料を含んでもよい、ということを意味しているといえ、「これらの用語の意味の範囲内になくてもよいポリエチレンポリマーを含んでもよい」とは、「比較的高い密度」の記載に対応するもので、「高密度」の記載に対応するものではないから、上記の記載によって、「高密度」の記載が不明確になるということはない。
(イ)上記ア(イ)の主張について
「弱溶媒」については、本件発明1に「高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒及び高密度ポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む溶媒」とあるとおり、「高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒」との関係で、その内容を理解すべきである。
強溶媒について、本件明細書の【0048】には、「強溶媒は、ポリマーを加熱されたポリマー溶液へと実質的に溶解することができる。有用な強溶媒の例として、本明細書に記載されるポリエチレンポリマーが押出温度で高度に可溶型であり、かつポリエチレンポリマーが冷却温度で低い溶解度を有する有機液体が挙げられる。有用な強溶媒の例として、鉱物油および灯油が挙げられる。」との記載があり、弱溶媒について、【0049】には、「弱溶媒もまた、強溶媒より低い程度までであるが、ポリマーを加熱されたポリマー溶液へと実質的に溶解することができる。弱溶媒は、強溶媒と混和性である。弱溶媒の特定の例として、フタル酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジオクチル、アジピン酸ジ-(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジブチル、テトラリン、n-デカノール、1-ドデカノール、ジフェニルメタンおよびこれらの混合物が挙げられる。」との記載がある。
これらの記載によれば、「強溶媒」は、「ポリエチレンポリマーが押出温度で高度に可溶型であり、かつポリエチレンポリマーが冷却温度で低い溶解度を有する」もので、「鉱物油および灯油」などが挙げられるのに対し、「弱溶媒」は、「強溶媒より低い程度までであるが、ポリマーを加熱されたポリマー溶液へと実質的に溶解することができる」もので、「フタル酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジオクチル、アジピン酸ジ-(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジブチル、テトラリン、n-デカノール、1-ドデカノール、ジフェニルメタンおよびこれらの混合物」が挙げられるとされていることから、「弱溶媒」は、「強溶媒より低い程度までであるが、ポリマーを加熱されたポリマー溶液へと実質的に溶解することができる」ものとして理解できる。
そして、この(押出温度で)「強溶媒より低い程度」までポリエチレンを溶解することができる溶媒とは、例示されている「フタル酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジオクチル、アジピン酸ジ-(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジブチル、テトラリン、n-デカノール、1-ドデカノール、ジフェニルメタンおよびこれらの混合物」のものが該当することはまず、理解できると共に、強溶媒として例示されている「鉱物油および灯油」には到らない程度であって、すくなくとも、押出温度で、ポリエチレンを溶解できるものであるとして理解できる。
そうすると、本件発明1における「押出温度であまり可溶型でない」とは、本件明細書の記載を参照することにより、どの程度の可溶型であるのかを理解できるから、この記載が不明確であるとはいえない。
(ウ)上記ア(ウ)の主張について
「本質的になる」との記載について、本件明細書の【0034】に「本明細書で使用される場合、特定の成分または指定の成分の組合せ「から本質的になる」と記載される組成物(例えば、モノマー組成物)は、成分または指定の成分の組合せ、および少量またはわずかな量以下の他の材料、例えば3、2、1、0.5、0.1または0.05重量パーセント以下の任意の他の成分または成分の組合せを含有する組成物である。」との記載があり、この記載を参照すれば、本件発明1の「高密度ポリエチレンポリマーと、高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒及び高密度ポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む溶媒とから本質的になる加熱されたポリマー溶液」との記載における「本質的になる」とは、「高密度ポリエチレンポリマー」と、「溶媒」に加えて、少量またはわずかな量以下の他の材料を含むことが理解できる。
そうすると、請求項1における「本質的になる」との記載が不明確であるとはいえない。
(エ)上記ア(エ)の主張について
本件訂正では、「単層」との用語が使用されていないため上記の主張には理由がないといえるが、本件訂正における「一体型非対称細孔構造」が多層の構造ではないという点で、上記の主張が該当する可能性があるので、念のため検討する。
まず、先の訂正後の「押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成する」工程に対応する、本件訂正後の「押出されたポリマーフィルムの温度を下げて、一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない、流延された多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成する」との記載は、この記載からその内容を明確に理解することができ、記載上特に不明確な点はなく、明確性要件に違反するものではない。
異議申立人の「当業者であれば、ポリマーが「相分離」して「多層」のフィルムが形成されることが容易に想到されるところ・・・どのようにすれば「非対称細孔構造を有する流延された単層の多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成する」ことが可能となるのか、不明である。」との主張は、「単層」(一体型非対称細孔構造)の製造方法が不明であるという点で、明確性要件違反における主張とはいえない。
しかも、この主張は、「当業者であれば、ポリマーが「相分離」して「多層」のフィルムが形成されることが容易に想到される」ということを前提としているが、本件明細書に記載される「相分離」とは、「相」とあるとおり、「液相」と「固相」の分離のことで、押出温度で溶媒に溶解していた高密度ポリエチレンポリマーが、温度が低下することにより、固相として析出し、液相である溶媒と分離することを意味するもので、「層」が分離することではないから、「当業者であれば、ポリマーが「相分離」して「多層」のフィルムが形成されることが容易に想到される」ということはない。
そうすると、上記上記ア(エ)の主張は、その前提に誤りがある。
(オ)上記(ア)~(エ)で述べたとおり、異議申立人の上記意見書における明確性要件違反に関する主張は、いずれも採用することができない。
(3)明確性要件違反に関する取消理由1についてのまとめ
上記(1)及び(2)で述べたとおり、取消理由1には、理由がない。
取消理由2~5、申立理由1、2は、いずれも甲1を主引用例とする理由であるのでまとめて判断する。
(1)甲1~甲3に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
(ア)「【0025】
液体からの粒子の濾過に用いられている従来のひとつの微孔膜に、平均実測バブルポイントベースで粒度精度が10nm~50nmなどの対称UPE(UPEは超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とも呼ばれる)微孔膜がある。これらの微孔膜には、粒度精度が実測バブルポイントベースで100nmなどの微孔膜に比して孔径が小さいことで、流れすなわち流下時間の高さに若干の制約がある。粒度精度が小さめの微孔膜の流れの制約を相殺するために、流動損失を減らして高い粒子保持率を保つ非対称の孔径または粒度精度分布を有するUPE微孔膜が開発されている。非対称微孔膜は、膜の大きめの孔や開放部分での液体の流れを改善しつつ、膜の小さめで締まった孔の部分で粒子を除去する。これらの非対称微孔膜では、液体流からの良好な25ナノメートル粒子除去効率が得られる。」
(イ)「【0049】
本発明のいくつかの態様における微孔膜は、微孔UPE膜のレース状の空洞細孔構造を含む形態を有することが可能であり、あるいはいくつかの態様では、膜が微孔PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜のストリングおよびノード形態を含む。いくつかの態様では、微孔膜の形態がレース状の開放構造である。微孔膜は、イソプロピルアルコールまたは3M(商標)HFE-7200中でバブルポイント測定によって判断される粒度精度が0.1ミクロン未満であり得る。いくつかの態様では、イソプロピルアルコールまたは3M(商標)HFE-7200中でのバブルポイント測定によって判断される微孔膜の粒度精度が0.005ミクロン~0.25ミクロンである。本発明の他の態様では、微孔膜は、イソプロピルアルコールまたは3M(商標)HFE-7200中でのバブルポイント測定によって判断される粒度精度が約0.005ミクロン~約0.05ミクロンである。本発明のさらに他の態様では、微孔膜は、イソプロピルアルコールまたは3M(商標)HFE-7200中でのバブルポイント測定によって判断される粒度精度が約0.003ミクロン~約0.05ミクロンであり得る。本発明のさらに別の態様では、イソプロピルアルコールまたは3M(商標)HFE-7200中でのバブルポイント測定によって判断される微孔膜の粒度精度が、約0.001ミクロン~約0.05ミクロンであり得る。
【0050】
本発明の態様における微孔膜は、対称または非対称として説明可能である。対称微孔膜は、平均サイズが膜全体で実質的に同一の孔によって特徴付けられる孔のサイズ分布を有する多孔質構造を有する。非対称微孔膜では、膜全体で孔のサイズがまちまちであり、通常、締まった側の片面から膜の他の表面すなわち開放側に向かってサイズが大きくなる。本発明のいくつかの態様では、微孔膜が、膜のスキムされた側が液体透過性であるスキムされた膜であってもよい。他のタイプの非対称性も周知である。たとえば、膜の厚さ内の位置で細孔径が最小細孔径になる(砂時計形)。非対称微孔膜は、同一の規定細孔径および厚さの対称微孔膜に比してフラックスが高めの傾向にある。また、孔の大きな側が濾過される流体流と対向し、事前濾過作用が生じる非対称微孔膜を使用することが可能である。本発明の態様における微孔膜は、対称、非対称、砂時計からなる群から選択される孔構造を有し得る。本発明のいくつかの態様では、微孔膜の孔構造が非対称である。ナノ繊維層は、非対称膜の締まった側または開放側のどちら側にも積層可能である。本発明のいくつかの態様では、非対称膜を用いる場合、細孔径が最大の微孔膜側すなわち開放側が、重なっているナノ繊維層と対向またはこれと接触する。本発明の他の態様では、微孔膜の孔構造が非対称であり、細孔径が最小の微孔膜側すなわち締まった側が、重なっているナノ繊維層と対向またはこれと接触する。本発明のいくつかの態様では、
微孔膜の孔構造が非対称であり、粒度精度約0.001ミクロン~約0.01ミクロン(測定されたバブルポイントは75~150psiである)で孔が最小になる側を持ち,孔が大きめの微孔膜である開放側が、下にあるナノ繊維層と接触する
。
【0051】
本発明のいくつかの態様では、微孔膜が、PES、ポリ(テトラフルオロエチレン-co-パーフルオロアルキルビニルエーテル)、(PFA)のように熱可塑性であってもよく、アルキルは、プロピル、メチルまたはこれらの混合物、ポリアミド、ナイロン6またはポリオレフィンである。他の態様では、膜はフルオロポリマーまたはパーフルオロポリマー(PTFEなど)であってもよい。本発明のいくつかの態様では、微孔膜が超高分子量ポリエチレンである。超高分子量ポリエチレンは、極めて長い鎖を有する熱可塑性ポリエチレンの態様であり、分子量数が百万単位、たとえば100万またはそれより多くの単位で、通常は200~600万である。本発明のいくつかの態様では、微孔膜がUPEを含むか、これからなる。
・・・
【0053】
本発明の態様では、微孔膜は、3M(商標)からの液体HFE-7200中での平均バブルポイントが75psi~90psi、場合によっては平均バブルポイントが約85psi(586,054Pa)である。本発明のいくつかの態様では、微孔膜は、3M(商標)からの液体HFE-7200中での平均バブルポイントが95psi~110psi、場合によっては平均バブルポイントが約100psi(689,476Pa)である。本発明のいくつかの態様では、微孔膜は、3M(商標)からの液体HFE-7200中での平均バブルポイントが
15psi~125psi、場合によってはバブルポイント平均が約120psi(827,371Pa)である。本発明のさらに他の態様では、3M(商標)からの液体HFE-7200中での非対称膜の平均バブルポイントが140psi~160psiである。微孔膜は対称であっても非対称微孔膜であってもよい。」
(ウ)「【0060】
バブルポイントとは、空気流ポロシメータを用いる平均IPAバブルポイントを示す。場合によっては、微孔膜バブルポイントとは、HFE-7200(3M(商標)、St.Paul,MNから入手可能)中で測定した平均バブルポイントを示す。HFE 7200測定バブルポイントに1.5または約1.5を乗じることで、HFE-7200バブルポイントをIPAバブルポイント値に変換可能である。3M(商標)HFE-7200は、エトキシ-ノナフルオロブタンであり、報告された表面張力は25°Cで13.6mN/mである。
【0061】
ナノメートルサイズの蛍光ポリスチレンラテックス(PSL)ビーズを使用して、「Sub-30 nm Particle Retention Test by Fluorescence Spectroscopy」, Yaowu, Xiao, et al, Semicon China, March 19~20,2009, Shanghi, China(その内容全体を本明細書に援用する(米国仮特許出願第61/168,776号明細書(その全体を参照により本明細書に援用する))も参照のこと)に記載された方法および材料で、本発明のフィルタ部材および微孔膜を特徴付けることが可能である。本発明のいくつかの態様では、蛍光ナノ粒子が、25ナノメートルでの粒子の公称直径を一覧にしたDuke Scientificによって流通しているG25粒子である。しかしながら、20ナノメートル~30ナノメートル、場合によっては21ナノメートル~24ナノメートルの範囲の粒子も使用可能である。フィルタ部材の評価に用いられる蛍光粒子単層膜の被覆率は、1%~30%であり得るが、これより低いか高い他の被覆率も使用できる。」
(エ)「【0073】
非対称UPE膜は、発明の名称MULTILAYER POROUS MEMBRANE AND PROCESS OF MANUFACTURE(その開示内容全体を参照により本明細書に援用する)で(国際公開2006/069307)中、YenおよびPatelが開示した方法および材料で製造可能である。」
(オ)「【0081】
実施例2
この実施例は、界面活性剤の存在下、10%単層膜(ML)粒子カバレッジ、20%単層膜粒子カバレッジ、30%ML粒子カバレッジでのフィルタ部材クーポン試料上の25ナノメートルの蛍光粒子保持能ならびに、ポリアミドナノ繊維層、さまざまなサイズ規定のUPE微孔膜、ポリアミドナノ繊維層と微孔UPE膜との組み合わせのバブルポイントおよびイソプロピルアルコール流下時間を比較する。
【0082】
微孔UPE膜クーポンは粒子保持能試験に単独で、あるいは、フィルタ部材クーポンを作るためにポリアミドナノ繊維層と組み合わせての試料。Entegris(Chaska,MN)から微孔UPE膜を得た。この実施例で評価したUPE微孔膜試料として、0.01ミクロン規定(3M(商標)HFE-7200中でのバブルポイント70psi~83psi)、0.02ミクロン規定(3M(商標)HFE-7200中でのバブルポイント55psi~64psi)、0.03ミクロン規定(IPA中でのバブルポイント68psi~83psi)、0.05ミクロン規定(IPA中でのバブルポイント50psi~63psi)UPE膜があげられる。Finetexによってナノ繊維層を作製し、これはポリアミドであった。微孔膜クーポン試料は、90ミリメートルのディスクであった。Duke Scientificから製品番号「G25」で得られる約25ナノメートルの蛍光PSLビーズを使用した。粒子保持能試験のために、0.27ppmのPSLビーズを0.3%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)界面活性剤中に含有し、合計容量30mLの溶液で、膜試料に3回負荷をかけて、10%MLカバレッジを達成した。界面活性剤を使用すると、ナイロン材料の非ふるい作用が最小限になり、粒子保持能試験でのふるい条件または本質的にふるい条件が得られる。この試験スタンドを図6に示す。試験圧力は0.04MPa/0.10MPa(0.01ミクロンUPE)とした。これらの試験の結果を図3、図4、図5に示す。
・・・
【0085】
【表2】
144
144
0001434110000001.jpg
」
(カ)「【0092】
実施例3
この実施例は、非対称微孔UPE膜のみまたはナイロン不織支持体上のナイロンナノ繊維と同一の非対称微孔UPE膜との組み合わせのいずれかで作製した3つの4インチのOptimizer(登録商標)D規定のフィルタカートリッジ装置で圧力降下、粒子離脱試験、粒子保持能を測定するものである。Optimizer(登録商標)Dフィルタは、Entegris(Chaska, MN)製である。この実施例用に作製した当該フィルタカートリッジ装置を、圧力降下試験、粒子保持能試験、粒子離脱試験で評価した。あるフィルタカートリッジ装置(Optimizer(登録商標)D Asy5nm)をEntegrisの5ナノメートルの非対称UPE膜で用意したが、他の2つの装置(Optimizer(登録商標)D Asy5nm SP)については5nmの非対称UPE膜と0.2um規定のナイロンナノ繊維の層(NNF1+UPEまたはNNF2+UPEと略記)で用意した。
【0093】
フィルタカートリッジ装置についての別の情報を表3にまとめておく。
【0094】
【表3】
42
142
0001434110000002.jpg
・・・
【0097】
5ナノメートルの非対称UPE微孔膜だけを有するフィルタ装置では、ナイロンナノ繊維および非対称の5ナノメートルのUPE微孔膜で作製した装置での場合よりも圧力降下が大きかった。
【0098】
使用したG25粒子は、25ナノメートルでの粒子の公称直径を一覧にしたDuke Scientific(Thermo Fisher Scientific Inc.,(Waltham,MA))によって流通しているものであったが、実験室での測定では、Brookhaven Instrument Corporation製の動的光散乱機器、モデルBI-2005Mで約21ナノメートル~24ナノメートルの粒子径が示される。
・・・
【0110】
フィルタカートリッジ装置に、DI水中のG25蛍光粒子で負荷をかけた。フィルタの上流に、粒子を45分間注入し、粒子分析用の試料をフィルタの上流と下流で5分ごとに回収した。次に、試料を蛍光分光計で測定した。45分間の粒子注入の結果から、どのフィルタ(NNF1+UPE、NNF2+UPEおよびUPEのみ)も界面活性剤なしでpH6(図10)およびpH7(図9)での粒子保持能が極めて良好かつ同程度であることがわかる。pH8で界面活性剤を使用しない(図11)と、すべてのフィルタの保持能が低下するが、NNF1+UPEおよびNNF2+UPEフィルタ部材はUPEのみのフィルタより保持能が大きいことから、これらの高pH条件での非ふるい条件下ですら、NNF1+UPEおよびNNF2+UPEのフィルタ部材では比較的大きなサイズの規定ナイロンナノ繊維層を用いた場合にすらもふるい保持能が良好であることが示される。図10では、ポイントが本質的に互いに重なるため、わかりやすくするためにトレンドラインを割愛してある。」
(キ)「【図3】
105
116
0001434110000003.jpg
」
(ク)「【図9】
83
112
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【図10】
84
111
0001434110000005.jpg
」
イ 甲2に記載された事項(甲2は外国語で記載された文献であるところ、摘示は、甲2における記載箇所と、それに対応する異議申立人が提出した訳文のみを記載した。)
(ア)「21頁26行~23頁15行、24頁1~9行、[Example 1]、[Example 2]」
(実施例1
材料
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)(240SU、Mitsui Chemical)
鉱物油(MO)(Britol 35USP、Witco Corp.)
セバシン酸ジブチル(DBS) (A0167-R、BrandNu Lab)
ハロゲン化炭化水素溶剤混合物(AccuFlushII、MicroCare Corp.)
膜の製造
2つの別々の二軸押し出しラインから異なる配合の2つのUHMW-PE溶液流れ(1および2)を同時に共押し出することにより、
二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜
を調製した。2つの押し出しラインを押し出しフィードブロックとフラットシートダイにより連結し、2つの溶液層を1つとして合わせ、その後押し出し、そして急冷した。
溶液流れ1
14重量%のUHMW-PE粉末、21.5重量%のDBSおよび64.5重量%のMOからなるスラリー混合物を
室温で調製した。この混合物を攪拌し、FMIポンプ(Fluid Metering、モデルV200)により一対の逆回転型スクリュー(L/D=7/1)を設けた
二軸混練
(compounding)
押し出し機
(Brabender、モデルD6/2)
の中に計量送入し
た。押し出し機の下流にZenithギアポンプ(Parker HannifinモデルPepII、1.8cc/回転)とスタチックミキサー(Dynisco、直径2.5cm×長さ23cm)も取り付けて、第1の押し出しラインを形成した。
UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し
た。
この押し出しラインの種々の域の温度を220°C~270°Cで設定し
た。使用した押し出し機スクリュー速度は50rpmであり、そしてギアポンプ速度は4rpmであった。この
溶液流れを2ポート共押し出しフィードブロックに前面層としてフィードし
た。
溶液流れ2
15重量%のUHMW-PE粉末、72.3重量%のDBSおよび12.7重量%のMOからなるスラリー混合物を
室温で調製した。この混合物を攪拌し、FMIポンプ(Fluid Metering、モデルV100)により
二軸混練押し出し機
(Baker-Perkins、モデルMPC/V-30、L/D=13)
の中に計量送入し
た。押し出し機の下流にZenithギアポンプ(Parkin Hannifin、モデルHPB、1.2cc/回転)も取り付けて、第2の押し出しラインを形成した。
UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し
た。
この押し出しラインの種々の域の温度を200°C~260°Cで設定し
た。使用した押し出し機スクリュー速度は200rpmであり、そしてギアポンプ速度は40rpmであった。この
溶液流れを2ポート共押し出しフィードブロックに背面層としてフィードし
た。
上記からの
2つの溶液流れを2つの投入ポート付きの共押し出しフィードブロックから二層溶液構造として接合し
た。次に、
二層化構造を
幅18cmとギャップ厚さ0.05cmの開口付きのフラットシートダイから
単一の層溶液シートとして押し出し
た。ダイ温度を175°Cで維持した。一定温度の流体を60°Cで再循環することにより温度制御し、回転するクロムメッキした
冷却ロール上でこの押し出されたシートを急冷し
た。2層化フィルムの前面層(溶液流れ1)をこの操作時に冷却ロール表面と直接接触させた。モーター駆動のフィルム巻き取り機により急冷したゲルフィルム(厚さ約75μ)をロールで巻き取った。
半透明な外観の
急冷したフィルムからDBSとMOを抽出するために
、フィルムの長手を2つの開放中心の矩形の金属枠の間に載せ、クランプし、そして
過剰量のハロゲン化炭化水素溶剤混合物
(AccuFlush II)
中に
16時間
入れた
。溶剤混合物をこの抽出時間の間に一度新しい量に変えた。なお拘束されている試料を室温で乾燥した後、これは白色の外観に変わった。次に、温度を125°C に設定したオーブン中に拘束されたフィルムを15分間入れて、試験前に膜を更にヒートセットした。
実施例2
次の差異を除いて実施例1で述べたような共押し出し方法により、二重層UHMW-PE膜を調製した。
溶液流れ1
使用したスラリー混合物は、17重量% のUHMW-PE粉末、41.5重量%のDBSおよび41.5重量%のMOからなる。使用したギアポンプ速度は8rpmであった。
溶液流れ2
使用したスラリー混合物は、15重量%のUHMW-PE粉末、72.2重量%のDBSおよび12.8重量%のMOからなる。使用したギアポンプ速度は40rpmであった。)
(イ)「21頁7~8行」
(多層膜の有効細孔寸法は、使用される層のポリマー/細孔形成剤組成物と、多層押し出し物に施される冷却速度に応じる。)
(ウ)「13頁9~12行、「Generally~40b.」の部分」
(一般に、速い冷却速度により、冷却表面と直接接触する多孔質膜層、ここでは層40aの平均細孔寸法は、冷却表面と接触しない膜層、ここでは層40bの平均細孔寸法よりも小さい。)
ウ 甲3に記載された事項
(ア)「【請求項1】
エトキシ-ノナフルオロブタンバブルポイント試験により決定したときに約78psiから160psiのバブルポイントを有し、膜の1つ又は複数の表面にグラフト化された1つ又は複数の中性基又はイオン交換基を有するグラフト化非対称多孔性超高分子量ポリエチレン膜であって、
前記膜は、エトキシ-ノナフルオロブタンバブルポイント試験により試験し、決定したときに約78psiから約160psiのバブルポイントを有する非グラフト化非対称多孔性超高分子量ポリエチレン膜の水流量の少なくとも50%の水流量を有し、
前記膜は、水中で10秒間以内に湿潤化する、
膜。」
(イ)「【0140】
ホルダー内に乾燥膜試料の47mmディスクを、膜の緊密な側(例えば非対称膜中のより小さい孔を有する)を下に向けて据え付けることにより、試験を行った。ホルダーは、操作者が小体積の液体を膜の上流側に置くことができるように設計されている。膜の乾燥空気流量を、最初に膜の上流側で空気圧を150psiまで増大させることにより測定する。その後、圧力を解放して大気圧に戻し、小体積のエトキシ-ノナフルオロブタン(HFE7200として入手可能、3M Specialty Materials、St.Paul、Minnesota、USA)を膜の上流側に置き、膜を湿潤化する。その後、圧力を再び150psiまで増大させることにより、湿潤空気流量を測定する。HFE湿潤化膜の孔からHFEを排するのに必要な圧力から、膜のバブルポイントを測定する。この臨界圧力点を、湿潤空気流の最初の非直線性増大が流量計により検出される圧力として定義する。
【0141】
本明細書で説明するプロセスにより創出した膜の観察されたバブルポイントの範囲は、78psiから135psiである。」
(2)甲1に記載された発明及び甲2に記載された製造方法
ア 甲1に記載された発明
甲1の上記(1)ア(イ)の【0050】の「微孔膜の孔構造が非対称であり、粒度精度約0.001ミクロン~約0.01ミクロン(測定されたバブルポイントは75~150psiである)で孔が最小になる側を持ち,孔が大きめの微孔膜である開放側が、下にあるナノ繊維層と接触する。」との記載によれば、甲1には、「
孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持ち、粒度精度が約0.001ミクロン~約0.01ミクロン(測定されたバブルポイントは75~150psiである)微孔膜。
」が記載されているといえる。
ここで、甲1の前提技術に関する同(ア)の【0025】の「液体からの粒子の濾過に用いられている従来のひとつの微孔膜に、平均実測バブルポイントベースで粒度精度が10nm~50nmなどの対称UPE(UPEは超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とも呼ばれる)微孔膜がある。・・・粒度精度が小さめの微孔膜の流れの制約を相殺するために、流動損失を減らして高い粒子保持率を保つ非対称の孔径または粒度精度分布を有するUPE微孔膜が開発されている。非対称微孔膜は、膜の大きめの孔や開放部分での液体の流れを改善しつつ、膜の小さめで締まった孔の部分で粒子を除去する。これらの非対称微孔膜では、液体流からの良好な25ナノメートル粒子除去効率が得られる。」との記載によれば、甲1に記載される微孔膜は、「
液体からの粒子の濾過に用いられる
」ものであることが理解できる。
そして、上記【0025】の記載、同(イ)の【0049】の「本発明のいくつかの態様における微孔膜は、微孔UPE膜のレース状の空洞細孔構造を含む形態を有することが可能であり」との記載、同(イ)の【0051】の「本発明のいくつかの態様では、微孔膜が超高分子量ポリエチレンである。超高分子量ポリエチレンは、極めて長い鎖を有する熱可塑性ポリエチレンの態様であり、分子量数が百万単位、たとえば100万またはそれより多くの単位で、通常は200~600万である。本発明のいくつかの態様では、微孔膜がUPEを含むか、これからなる。」との記載によれば、甲1に記載される「微孔膜」は、「
超高分子量ポリエチレンからなる
」ものであることが理解できる。
また、同(エ)の【0073】の「非対称UPE膜は、発明の名称MULTILAYER POROUS MEMBRANE AND PROCESS OF MANUFACTURE(その開示内容全体を参照により本明細書に援用する)で(国際公開2006/069307)中、YenおよびPatelが開示した方法および材料で製造可能である。」との記載によれば、甲1に記載される「微孔膜」は、その開示内容全体を参照により本明細書に援用するとされている「
国際公開2006/069307に開示された方法で製造する
」ことが理解できる。
さらに、上述のように、甲1に記載される「微孔膜」は、国際公開2006/069307に開示された方法で製造することが理解できるのであるから、「微孔膜」の製造の側面に着目すれば、甲1には、甲1の
「微孔膜」を国際公開2006/069307に開示された方法で製造する製造方法
の発明も記載されているといえる。
以上によれば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「液体からの粒子の濾過に用いられ、超高分子量ポリエチレンからなるものであり、孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持ち、粒度精度が約0.001ミクロン~約0.01ミクロン(測定されたバブルポイントは75~150psiである)微孔膜を、国際公開2006/069307に開示された方法で製造する製造方法。」
イ 甲2に記載された製造方法
甲2の上記(1)イ(ア)には、「二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜」が記載されているといえるところ、同(ア)には、その「二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜」の製造方法が記載されているといえるから、下線を付した要部をまとめると以下の 「二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜」の製造方法が記載されているといえる。
「14重量%のUHMW-PE粉末、21.5重量%のDBSおよび64.5重量%のMOからなるスラリー混合物を、二軸混練押し出し機の中に計量送入し、UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し、この押し出しラインの種々の域の温度を220°C~270°Cで設定し、溶液流れを2ポート共押し出しフィードブロックに前面層としてフィードし、
15重量%のUHMW-PE粉末、72.3重量%のDBSおよび12.7重量%のMOからなるスラリー混合物を、二軸混練押し出し機の中に計量送入し、UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し、この押し出しラインの種々の域の温度を200°C~260°Cで設定し、溶液流れを2ポート共押し出しフィードブロックに背面層としてフィードし、
2つの溶液流れを2つの投入ポート付きの共押し出しフィードブロックから二層溶液構造として接合し、二層化構造を単一の層溶液シートとして押し出し、冷却ロール上でこの押し出されたシートを急冷し、急冷したフィルムからDBSとMOを抽出するために、過剰量のハロゲン化炭化水素溶剤混合物中に入れる二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法。」
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「液体」、「超高分子量ポリエチレン」、「微孔」及び「膜」は、それぞれ、本件発明1の「流体」、「ポリエチレン」、「細孔」及び「フィルム」に相当し、甲1発明の「超高分子量ポリエチレンからなる」「微孔膜」は、本件発明1の「多孔質」「ポリエチレンフィルム」に相当する。
そして、甲1発明の「孔構造」とは、微孔の構造であることから、甲1発明の「非対称であ」る「孔構造」は、本件発明1の「非対称細孔構造」に相当する。
また、本件発明1において、「多孔質高密度ポリエチレンフィルムを調製する」とは、所定の多孔質高密度ポリエチレンフィルムを製造することに他ならないから、甲1発明の「製造方法」は、本件発明1の「調製する方法」に相当する。
さらに、甲1発明において、微孔膜は、「孔が最小になる側」及び「孔が大きめの微孔膜である開放側」という2つの対向する側面を有するものであると共に、2つの対向する側面の間には、全体に微孔が存在する微孔膜の内部が存在することになるし、微孔膜は、「液体からの粒子の濾過に用いられ」るものであるから、液体から粒子を濾過する際には、「孔が最小になる側」及び「孔が大きめの微孔膜である開放側」間を液体が通過するといえる。
そうすると、甲1発明の「液体からの粒子の濾過に用いられ、超高分子量ポリエチレンからなるものであり、孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つ「微孔膜を、国際公開2006/069307に開示された方法で製造する製造方法」は、本件発明1の「粒子の濾過プロセスの間に流体の全量が通過する2つの対向する側面、及び2つの対向する側面の間の厚さを有し、細孔が厚さ全体に存在し、細孔が非対称細孔構造を有する多孔質」「ポリエチレンフィルムを調製する方法」に相当する。
(イ)甲1発明の「粒度精度が約0.001ミクロン~約0.01ミクロン(測定されたバブルポイントは75~150psiである)微孔膜」の「バブルポイント」は、甲1の上記(1)ア(イ)の【0049】の「微孔膜は、イソプロピルアルコールまたは3M(商標)HFE-7200中でバブルポイント測定によって判断される粒度精度が0.1ミクロン未満であり得る。」等の記載によれば、イソプロピルアルコールまたはHFE-7200のどちらかを用いて測定されたものであるといえ、同(ウ)の【0060】の「HFE 7200測定バブルポイントに1.5または約1.5を乗じることで、HFE-7200バブルポイントをIPAバブルポイント値に変換可能である。」との記載によれば、イソプロピルアルコールまたはHFE-7200のどちらかを用いるかによって、バブルポイントの値は異なることになる。
ここで、甲1発明の「微孔膜」において、微孔の孔径に対応するといえる粒度精度が大きいほどバブルポイントが小さくなることは明らかであるから、上記の微孔膜で、約0.01ミクロンの粒度精度の場合が、75psiのバブルポイントに対応しているといえる。
そして、同(オ)の【0082】に「実施例で評価したUPE微孔膜試料として、0.01ミクロン規定(3M(商標)HFE-7200中でのバブルポイント70psi~83psi)」と記載されるように、甲1発明の「微孔膜」が約0.01ミクロン程度の粒度精度である場合の75psiであるバブルポイントと、粒度精度が同じである微孔膜のHFE-7200を用いて測定されたバブルポイントが同程度であることを考慮すると、甲1発明の「微孔膜」の「75~150psiである」バブルポイントは、HFE-7200を用いて測定されたものであるといえる。
また、同【0082】の「3M(商標)HFE-7200は、エトキシ-ノナフルオロブタンであり、報告された表面張力は25°Cで13.6mN/mである。」との記載によれば、HFE-7200に関連した評価は、25°Cで行われているといえる。
さらに、甲1発明の「微孔膜」のバブルポイントの範囲は、本件発明1の平均バブルポイントの範囲と重複しているし、バブルポイントの測定の際に、微孔膜の一方の側から他方の側に空気を流動させて測定を行うことは明らかである。
そうすると、甲1発明の「粒度精度が約0.001ミクロン~約0.01ミクロン(測定されたバブルポイントは75~150psiである)微孔膜」は、本件発明1の「HFE-7200液状流体を使用して25°Cの温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する」「多孔質」「ポリエチレンフィルム」との構成を満たす。
(ウ)以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「粒子の濾過プロセスの間に流体の全量が通過する2つの対向する側面、及び2つの対向する側面の間の厚さを有し、細孔が厚さ全体に存在し、細孔が非対称細孔構造を有する多孔質ポリエチレンフィルムを調製する方法であって、
多孔質ポリエチレンフィルムが、HFE-7200液状流体を使用して25°Cの温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する、
方法。」の点で一致し、以下の点で、相違しているといえる。
<相違点1>
調製される多孔質ポリエチレンフィルムが、本件発明1では、「多孔質高密度ポリエチレンフィルム」であるのに対し、甲1発明では、「超高分子量ポリエチレン」からなる「微孔膜」である点。
<相違点2>
多孔質ポリエチレンフィルムを調製する方法において、本件発明1は、「高密度ポリエチレンポリマーと、高密度ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒及び高密度ポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む溶媒とから本質的になる加熱されたポリマー溶液を押出温度で押出し、押出されたポリマーフィルムを形成すること、並びに
押出されたポリマーフィルムの温度を下げて、一体型非対称細孔構造を有し、共押出しされたものではない、流延された多孔質高密度ポリエチレンフィルムを形成することを含」んでいるのに対し、甲1発明は、「国際公開2006/069307に開示された方法で製造する」とされている点。
<相違点3>
平均バブルポイント等で特定される多孔質ポリエチレンフィルムについて、本件発明1では、「一体型非対称細孔構造を有し、共押出しされたものではな」く「流延された」ものとされていると共に、さらに、「0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有」するものであるのに対し、甲1発明では、これらの点が明らかでない点。
イ 相違点に対する判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲1発明では、「孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つ「微孔膜」を、「国際公開2006/069307に開示された方法で製造する」とされているので、「国際公開2006/069307」(甲2)を参照すると、甲2には、上記(2)イに記載した以下の事項が記載されている。
「14重量%のUHMW-PE粉末、21.5重量%のDBSおよび64.5重量%のMOからなるスラリー混合物を、二軸混練押し出し機の中に計量送入し、UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し、この押し出しラインの種々の域の温度を220°C~270°Cで設定し、溶液流れを2ポート共押し出しフィードブロックに前面層としてフィードし、
15重量%のUHMW-PE粉末、72.3重量%のDBSおよび12.7重量%のMOからなるスラリー混合物を、二軸混練押し出し機の中に計量送入し、UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し、この押し出しラインの種々の域の温度を200°C~260°Cで設定し、溶液流れを2ポート共押し出しフィードブロックに背面層としてフィードし、
2つの溶液流れを2つの投入ポート付きの共押し出しフィードブロックから二層溶液構造として接合し、二層化構造を単一の層溶液シートとして押し出し、冷却ロール上でこの押し出されたシートを急冷し、急冷したフィルムからDBSとMOを抽出するために、過剰量のハロゲン化炭化水素溶剤混合物中に入れる二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法。」
ここで、この製造方法によれば、前面層及び背面層の2つの溶液流れを2つの投入ポート付きの共押し出しフィードブロックから二層溶液構造として接合し、二層化構造を単一の層溶液シートとして押し出すことにより、前面層及び背面層で性質の異なる二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜を製造することができるものである。
そして、甲1発明は、「孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つものであるから、甲1発明は、「微孔膜を、国際公開2006/069307に開示された方法で製造する」と引用することにより、「孔が最小になる側」と「孔が大きめの微孔膜である開放側」を前面層及び背面層として共押し出しで製造することにより孔径が膜の両側で異なる微孔膜を製造しているものであるといえる。
そうすると、上記相違点2において、甲1発明は、「孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つものとするのに、「孔が最小になる側」と「孔が大きめの微孔膜である開放側」を前面層及び背面層として共押し出しで製造することを前提とするもの、すなわち、甲1発明は、共押し出しでの製造を必須とするものであるといえる。
これに対し、本件発明1は、上記相違点2に係る構成として、「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない」としているから、「共押し出しでの製造」を除外している。
これによれば、少なくともこの点で、本件発明1は、甲1発明と相違しているし、共押し出しでの製造を必須とする甲1発明において、この共押し出しでの製造をそうでないものに変更することは、甲1発明における「孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つものという構造を損なうものであるといえるから、このような変更を行うことには阻害要因があるというべきである。
そうすると、「一体型非対称細孔構造を有し、共押し出しされたものではない」との構成を含む上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
(イ)上記(ア)で述べたように、共押し出しでの製造を必須とする甲1発明において、この共押し出しでの製造をそうでないものに変更することには、阻害要因があるのであるから、他の甲号証の存在は、上記相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性の判断を左右するものとはならないが、念のため、甲3の上記(1)ウの摘示を参照しても、甲3には、上記相違点2に係る本件発明1の構成は記載されていないから、甲3を参照したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到できるものであるとはいえない。
(ウ)なお、上記(ア)で述べた二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法は、2つの二軸押し出しラインから異なる配合の2つのUHMW-PE溶液流れを同時に共押し出しすることにより、二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜を調製するものであるが、上記の製造方法の中で、前面層又は背面層それぞれに着目すれば、それぞれの層に対応して、単一のミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法、すなわち、「UHMW-PE粉末、DBSおよびMO等所定のスラリー混合物を、二軸混練押し出し機の中に計量送入し、UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し、この押し出しラインの種々の域の温度を所定の温度で設定し、溶液流れを押し出しフィードブロックから層溶液シートとして押し出し、冷却ロール上でこの押し出されたシートを急冷し、急冷したフィルムからDBSとMOを抽出するために、過剰量のハロゲン化炭化水素溶剤混合物中に入れるミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法。」としても認識できる余地があるといえる。
しかしながら、この場合は、膜の両側で膜の性質が異なる「二重層」である「ミクロ多孔質UHMW-PE膜」の製造方法ではないから、「孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つ甲1発明が引用する製造方法であるとはいえないし、このような「ミクロ多孔質UHMW-PE膜」の製造方法を甲1発明に適用したとしても、「孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つ構造が得られるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、上記相違点2は、実質的な相違点であるし、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点1、3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2も、同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)異議申立人が令和7年7月8日に提出した意見書における新規性欠如及び進歩性欠如に関する主張について
上記(3)ア(ウ)で述べたとおり、本件発明1と甲1発明との間には、複数の相違点があるところ、上記(3)イで述べたように少なくとも上記相違点2に係る本件発明1の構成、特に、本件発明1の「一体型非対称細孔構造を有し、共押出しされたものではない」との構成は、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項から、当業者が容易に想到し得るものではないと判断し、このことにより、本件発明1は、新規性欠如及び進歩性欠如にあたるものではないとしたため、この点に関連する異議申立人の以下の主張について検討する。
ア 共押出しに関する異議申立人の主張
特許権者が、令和7年5月30日に提出した意見書で、「甲2では、ポリマー溶液の押出しが2種以上のポリマー溶液を共押し出しすることによって行われる」として、甲2は、本件発明1の構成に該当するものではない旨主張していることに対して、甲2では、実施例1、2において、それぞれ溶液流れ1、2を共に押し出しているものの、そもそも、実施例1、2において、溶液流れ1のみ(または溶液流れ2のみ)で、「高密度ポリエチレンポリマー(UHMW-PE粉末)と、強溶媒(MO)と及び弱溶媒(DBS)を含む溶媒と、からなり、加熱されたポリマー溶液」が、製造されていることから、溶液流れ1に、溶液流れ2を共に押し出していたとしても、少なくとも溶液流れ1を押し出してポリマーフィルムを形成していることには変わりはなく、仮にそうでなかったとしても、当業者であれば、例えば製造工程の簡略化や低コスト等のために溶液流れ2(または溶液流れ1)を省略して一つの溶液流れで押し出しを行うことは、容易に想到できる。
そうすると、「甲2では、ポリマー溶液の押出しが2種以上のポリマー溶液を共押出しすることによって行われる」として、甲2は、本件発明1の構成に該当するものではない、ということにはならない(「4 意見の内容」の(3)ア(イ))。
イ 上記アの主張に対する当審の判断
上記(3)イ(ウ)で述べたように、同(3)イ(ア)に記載される、甲2の共押し出しによる二重層ミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法を、異議申立人が主張するように、例えば溶液流れ1(溶液流れ2)のみに着目し、「UHMW-PE粉末、DBSおよびMO等所定のスラリー混合物を、二軸混練押し出し機の中に計量送入し、UHMWPE樹脂を溶融し、この押し出しライン内でDBS/MO溶剤混合物中で溶媒和し、この押し出しラインの種々の域の温度を所定の温度で設定し、溶液流れを押し出しフィードブロックから層溶液シートとして押し出し、冷却ロール上でこの押し出されたシートを急冷し、急冷したフィルムからDBSとMOを抽出するために、過剰量のハロゲン化炭化水素溶剤混合物中に入れるミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法。」としても認識できる余地はあるといえる。
しかしながら、この認識による「ミクロ多孔質UHMW-PE膜の製造方法」は、同(3)イ(ウ)で述べたように、膜の両側で膜の性質が異なる「二重層」である「ミクロ多孔質UHMW-PE膜」の製造方法ではないから、「孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つ甲1発明が引用する製造方法であるとはいえないし、このような「ミクロ多孔質UHMW-PE膜」の製造方法を甲1発明に適用したとしても、「孔構造が非対称であり、孔が最小になる側及び孔が大きめの微孔膜である開放側を持」つ構造が得られるとはいえない。
そうすると、甲2を引用する甲1発明の製造方法としては、共押し出しによる製造方法しか認識することはできないから、上記アの異議申立人の主張は、採用することができない。
(6)新規性欠如、進歩性欠如に関する取消理由2~5、申立理由1、2についてのまとめ
上記(3)~(5)で述べたとおり、取消理由2~5、申立理由1、2には、理由がない。
上記第5で検討したとおり、本件特許1、2は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1~5及び上記申立理由1、2では、本件特許1、2を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、2を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許3は、本件訂正により削除され、本件特許3に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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