結論テキスト
特許第7468752号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第7468752号の請求項1、2に係る特許を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024700964 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本件の特許第7468752号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願(特願2023-79959号。以下、「本願」という。)は、令和 3年10月18日に出願された特願2021-170203号の一部を令和 5年 5月15日に新たな特許出願としたものであって、令和 6年 4月 8日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月16日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 6年10月 3日に、その請求項1、2(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である伊藤 賢一(以下、「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月15日に、その請求項1、2(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である松山 徳子(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 6年10月 3日提出 特許異議申立書(申立人1)
同年10月15日提出 特許異議申立書(申立人2)
令和 7年 2月28日付け 取消理由通知書
同年 4月10日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 5月12日付け 手続補正指令書(方式)
同年 5月29日提出 手続補正書(方式)(特許権者)
同年 9月 8日付け 訂正請求があった旨の通知書
同年10月 6日提出 意見書(申立人1)
なお、申立人2からの意見書の提出はなかった。
令和 7年 4月10日に提出され、同年 5月29日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求めるものである。
そして、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。また、「...」は記載の省略を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「(i)...成分(B)マレイン酸系重合体中の以下の滴定分析によるカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体、を含有し、...金属防食処理剤。」を、「(i)...成分(B)マレイン酸系重合体中の以下の滴定分析によるカルボキシル基含有量が
12.7
mmol/g以上であるマレイン酸系重合体、を含有し、...金属防食処理剤。」に、及び、「(ii)...成分(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体を含む金属防食用第二剤を含む、...金属防食処理剤キット。」を、「(ii)...成分(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が
12.7
mmol/g以上であるマレイン酸系重合体を含む金属防食用第二剤を含む、...金属防食処理剤キット。」に、訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」を、「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)
×
0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」に、訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0091】の「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」を、「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)
×
0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」に、訂正する。
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「成分(B)マレイン酸系重合体中の以下の滴定分析によるカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」を、「成分(B)マレイン酸系重合体中の以下の滴定分析によるカルボキシル基含有量が
12.7
mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」に訂正し、上記「カルボキシル基含有量」の数値範囲を限縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)で述べたとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)新規事項追加の有無
訂正事項1に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0093】【表1】に記載の「実施例1-2(サンプル5)」のカルボキシル基含有量(mmol/g)である「12.7」を根拠とするものであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
イ 訂正事項2、3
(ア)訂正の目的
a(a)訂正事項2、3に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び本件明細書の段落【0091】にそれぞれ記載の「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」(以下、「算出式」という。)を、「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」に訂正するものである。
(b)ここで、訂正事項2、3に係る訂正は、令和 7年 2月28日付け取消理由通知書において、「(3)ここで、上記算出式の単位に着目すると、右辺の単位は、(((mL)÷(mol/L))÷(g))=(((mL)÷(mmol/mL))÷(g))=((mL)
2
/(mmol×g))となり、左辺の単位の(mmol/g)と一致しないことが分かる。」「(4)そうすると、請求項1及び発明の詳細な説明に記載の、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の算出式が誤っており、正しいカルボキシル基含有量を得ることができないといえる。」(「第4の1取消理由1」参照)と指摘されたことを受けて、上記算出式における左辺と右辺の単位を一致させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
b(a)また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」と記載されていたから、上記算出式の左辺の単位である(mmol/g)は正しく、右辺の単位の(((mL)÷(mol/L))÷(g))=(((mL)÷(mmol/mL))÷(g))=((mL)
2
/(mmol×g))が誤りであることは明らかである。
(b)そこで、「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」の技術的意義について改めて検討すると、本件明細書の【0091】には、「<試験1:マレイン酸系重合体(サンプル1~5)中のカルボキシル基含有量の滴定分析>」の「<手法>」として、「滴定分析にはTitrando (Metorom)を用いた。マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、Titrandoにセットし、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定した。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこからマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出した。算出式は以下のとおりである。」と記載されている。
(c)上記(b)の記載は、要するに、分析対象の水溶液(ポリマー1gが溶解)中にカルボキシル基が何mol存在するのかを算出するために、NaOH水溶液(濃度:0.5mol/L)を用いて、ポリマー1g中のカルボキシル基とNaOHとを1:1のモル比で中和させ、中和に要したNaOH量からカルボキシル基含有量を算出することを開示している。そして、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、ポリマー、すなわちマレイン酸系重合体1g中のカルボキシル基含有量(mmol/g)を中和させるために使ったNaOHのモル数は、NaOH水溶液量A(mL)×NaOH水溶液モル濃度0.5(mol/L)=0.5A(mmoL)で求めることができるが、このようなモル数の計算式は化学分野の当業者にとって自明なものである。
(d)そうすると、上記算出式の右辺について、本件訂正前の「(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」との記載が誤りで、本件訂正後の「(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」との記載が正しいことが、本件明細書若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて本件訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえるから、訂正事項2、3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものにも該当する。
(e)申立人1は、令和 7年10月 6日提出の意見書において、訂正事項2、3に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものには該当しない旨(第21頁下から11行~第23頁第8行)主張しているが、上記のとおりであり、採用できない。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
a 訂正事項2、3に係る訂正は、上記(ア)で述べたとおり、明瞭でない記載の釈明及び誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、上記(ア)bで検討したとおり、本件訂正前の式の記載が誤りで、本件訂正後の式の記載が正しいことが、本件明細書若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
b 申立人1は、令和 7年10月 6日提出の意見書において、訂正事項2、3に係る訂正は、特許請求の範囲を変更するものである旨(第22頁下から11行~下から6行)主張しているが、上記のとおりであり、採用できない。
(ウ)新規事項追加の有無
a 訂正事項2、3に係る訂正は、上記(ア)で述べたとおり、明瞭でない記載の釈明及び誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
b 上記aのうち、前者の目的については、上記(ア)bで検討したとおり、本件訂正前の式の記載が誤りで、本件訂正後の式の記載が正しいことが、本件明細書若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかであるから、訂正事項2、3に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
c また、上記aのうち、後者の目的については、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の【0091】には、本件明細書の【0091】の記載と同じ記載があるところ、当初明細書等の記載についても、上記(ア)bで検討したのと同様の理由により、「(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」との記載が誤りで、「(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」との記載が正しいことが、当初明細書等の記載又は当業者の技術常識から明らかであるから、訂正事項2、3に係る訂正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
d 以上によれば、訂正事項2、3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1、2について、本件訂正前の請求項2は、請求項1を直接引用するものであって、訂正事項1、2による請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、2は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項〔1、2〕についてするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1、2〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(4)明細書の訂正に関係する請求項
訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に対応する明細書の段落【0091】を訂正するものであり、本件訂正前の請求項2は、請求項1を直接引用するものであるから、訂正事項3と関係する請求項は、本件訂正前の請求項1、2である。
そうすると、本件訂正請求は、上記(3)で述べたとおり、訂正事項3と関係する請求項の全てを請求の対象としているから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号から第3号までに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。なお、以下において、請求項1、2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、総称して「本件発明」ということがある。
「【請求項1】
下記の(i)金属防食処理剤又は(ii)金属防食処理剤キット。
(i)成分(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体、及び、成分(B)マレイン酸系重合体中の以下の滴定分析によるカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体、を含有し、
前記成分(A):前記成分(B)の質量含有割合が、1:9~7:3である、金属防食処理剤。
(ii)成分(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体を含む金属防食用第一剤、及び、成分(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体を含む金属防食用第二剤を含む、
水系に前記成分(A)及び前記成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、金属防食処理剤キット。
<マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析>
マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。
マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)
【請求項2】
請求項1に記載の金属防食処理剤又は金属防食処理剤キットを使用する、水系の金属防食処理方法。」
1-1 申立人1は、証拠方法として、下記(11)の甲第1号証~甲第22号証を提出し、以下の理由により、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(1)申立理由1-1-1(新規性;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-1-2(新規性;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由1-1-3(新規性;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第19号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由1-2-1(進歩性;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3、11~17、20号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由1-2-2(進歩性;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1~3、11~17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由1-2-3(進歩性;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第19号証に記載された発明及び甲第1~4、11~17、20号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由1-3-1(実施可能要件及び明確性要件;取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1及び発明の詳細な説明に記載の、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を計算する式が誤っており、正しいカルボキシル基含有量を得ることができない。
よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであり、また、本件特許の本件訂正前の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(8)申立理由1-3-2(実施可能要件及び明確性要件;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1及び発明の詳細な説明に記載の、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を測定する方法が不明確であり、カルボキシル基含有量を正しく得ることができない。
よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであり、また、本件特許の本件訂正前の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(9)申立理由1-3-3(実施可能要件及び明確性要件;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2の記載及び発明の詳細な説明において、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を11.5mmol/g以上とするためのマレイン酸系重合体の原料組成や製造方法などの具体的手段が何ら示されていないため、本件訂正前の請求項1、2に係る発明のマレイン酸系重合体を継続して安定的に得ることができない。
よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであり、また、本件特許の本件訂正前の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(10)申立理由1-4(サポート要件及び実施可能要件;取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1、2に記載の「カルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」には、実施例の記載内容から本件訂正前の請求項1、2に係る発明課題を解決できないマレイン酸系重合体が含まれているから、特許を受けようとする発明が本件訂正前の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。また、カルボキシル基含有量が11.5mmol/gであるマレイン酸系重合体を用いた場合、上記課題を解決することはできないから、本件訂正前の発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1、2に係る発明に係る水系の金属防食処理を実施できるように記載されていない。
よって、本件特許の本件訂正前の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が本件訂正前の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであり、また、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(11)証拠方法
甲第1号証:特開2004-68080号公報
甲第2号証:特許第2964154号公報
甲第3号証:社団法人日本化学会、改訂5版化学便覧基礎編II、丸善株式会社、平成16年2月20日、748頁、754頁
甲第4号証:特開2004-68065号公報
甲第5号証:特開2017-2351号公報
甲第6号証:Angelique N. Hess et al., “Physical and chemical characteristics of poly(maleic acid), a synthetic organic colloid analog”, Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, 1996年, Volume 107, p.141,143-145
甲第7号証:高木行雄、外1名、“テロメリゼーション”、有機合成化学、社団法人有機合成化学協会、1961年、第19巻、第3号、172-187頁
甲第7号証の2:甲第7号証の発行者(社団法人有機合成化学協会)が記載された書類
甲第8号証:上垣外正己、外1名、“ラジカル重合”、ネットワークポリマー、合成樹脂工業協会、2009年、第30巻、第5号、234-249頁
甲第8号証の2:甲第8号証の発行者(合成樹脂工業協会)が記載された書類
甲第9号証:米国特許第9290850号明細書及び訳文
甲第10号証:村井達生、“滴定とその基本的な原理-高校化学での扱いを中心に-”、化学と教育、公益社団法人日本化学会、2015年、第63巻、第5号、242-245頁
甲第10号証の2:甲第10号証の発行者(公益社団法人日本化学会)が記載された書類
甲第11号証:BELCLENE 200 MATERIAL SAFETY DATA SHEET, BWA Water Additives US LLC, 2011年1月14日
甲第12号証:MAXINOL PM 200 Data Sheet, Aquapharm Chemicals Pvt. Limited, 2011年4月1日
甲第13号証:安全データシート(SDS)(Belclen 200LA)、イタルマッチジャパン株式会社、2020年 1月 1日
甲第14号証:IR-HPMA Safety Data Sheet, Shandong IRO Water Treatment Co.,Ltd, 2016年3月12日
甲第15号証:OPTIDOSE
TM
4210(当審注:TMは、「商標マーク」である。), ROHM and HAAS, 2008年
甲第16号証:Klin Rodrigues et al., “Can Hydrophobic Modifications to Polymers Achieve Better Carbonate Scale Control?”, the Analyst, Akzo Nobel Surface Chemistry LLC, 2019年, Volume 26, Number 1, p.35-36,40,42-49及び訳文
甲第17号証:特公昭53-20475号公報
甲第18号証:米国特許第5518630号明細書及び訳文
甲第19号証:特開2008-249285号公報
甲第20号証:分析・試験報告書、株式会社東ソー分析センター、2024年7月25日
甲第21号証:David Cartmell及び訳文, Chemical & Engineering, 2012年6月4日
甲第21号証の2:甲第21号証の発行者(Chemical & Engineering)が記載された書類
甲第22号証:PRESS RELEASE及び訳文, Italmatch Chemicals, 2018年12月10日
1-2 申立人2は、以下の理由により、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(1)申立理由2-1(実施可能要件及び明確性要件;取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1及び発明の詳細な説明に記載の、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の算出式が誤っており、正しいカルボキシル基含有量を得ることができない。
よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであり、また、本件特許の本件訂正前の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2-2(サポート要件;取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明に関し、本件訂正前の発明の詳細な説明において本件訂正前の請求項1、2に係る発明の課題を解決できるものとして開示されているマレイン酸系重合体は、「滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmo1/g以上であるマレイン酸系重合体」であるから、上記課題を解決できるものとして認識し得ない「滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5~12.7mmo1/g末満のマレイン酸系重合体」を含む本件訂正前の請求項1、2に係る発明が、本件訂正前の発明の詳細な説明において上記課題を解決できるものとして開示されている範囲を超えるものであることは明らかである。
よって、本件特許の本件訂正前の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が本件訂正前の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由2-3(実施可能要件;取消理由として採用)
サポート要件に関し、上記(2)で指摘した点を踏まえると、「滴定分析による」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」が11.5mmol/g以上であっても、11.5mmol/g近傍であるマレイン酸系重合体を用いた場合に、本件訂正前の請求項1、2に係る発明の課題を解決できないということは、水系の金属を防食できないことを意味するから、本件訂正前の発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1に係る発明に係る「金属防食処理剤又は金属防食処理剤キット」を使用できるように、すなわち実施できるように記載されているとはいえない。
よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由2-4(サポート要件及び実施可能要件;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明に関し、本件訂正前の発明の詳細な説明において本件訂正前の請求項1、2に係る発明の課題を解決できるものとして開示されている「金属防食処理剤、金属防食処理剤キット及び水系の金属防食処理方法」は、カルシウム硬度が100~500mg/L as CaCO
3
である水系におけるものであるから、カルシウム硬度が特定されていない水系を処理対象として含む本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、上記課題を解決できるものとして認識し得ない範囲を含み、本件訂正前の発明の詳細な説明において上記課題を解決できるものとして開示されている範囲を超えるものである。
また、上記課題を解決できないということは、水系の金属を防食できないことを意味するから、本件訂正前の発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1に係る発明に係る「金属防食処理剤又は金属防食処理剤キット」を使用できるように、すなわち実施できるように記載されているとはいえない。
よって、本件特許の本件訂正前の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が本件訂正前の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであり、また、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
当合議体は、上記1の各申立理由のうち、申立理由1-3-1、1-4及び申立理由2-1、2-2、2-3を採用し、令和 7年 2月28日付けで以下の取消理由1~3を通知した。
(1)取消理由1(実施可能要件及び明確性要件)
上記1の1-1(7)の申立理由1-3-1(実施可能要件及び明確性要件)及び上記1の1-2(1)の申立理由2-1(実施可能要件及び明確性要件)と同旨
(2)取消理由2(サポート要件)
上記1の1-1(10)の申立理由1-4(サポート要件及び実施可能要件)の一部及び上記1の1-2(2)の申立理由2-2(サポート要件)と同旨
(3)取消理由3(実施可能要件)
上記1の1-1(10)の申立理由1-4(サポート要件及び実施可能要件)の一部及び上記1の1-2(3)の申立理由2-3(実施可能要件)と同旨
以下に述べるとおり、申立人1による特許異議申立書に記載された申立理由1-1-1~1-4及び申立人2による特許異議申立書に記載された申立理由2-1~2-4並びに取消理由通知書に記載した取消理由1~3によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
(1)甲1、2の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、「水系の金属腐食抑制方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
190nmにおける吸光係数が0.09~0.2(dm
3
/mg・cm)である水溶性マレイン酸重合体と、(B)(メタ)アクリル酸及びその水溶性塩の1種以上を40~90重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体を10~60重量%含む水溶性共重合体を同時に使用することを特徴とする水系の金属腐食抑制方法。
【請求項2】
モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
、2-メタアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-メタクロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、3-メタクロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、1,3-ブタジエンのスルホン化物、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンのスルホン化物から選択される1種以上
である請求項1又は2記載の水系の金属腐食抑制方法。
【請求項3】
(A)と(B)を90:10~30:70(重量比)で用いる請求項1~3のいずれか記載の水系の金属腐食抑制方法。
」
(イ)「【0016】
本発明のマレイン酸重合体は芳香族系溶剤中で重合して得られるもので、公知の方法、例えば特許2964154号公報に準じて行われる。
具体的には、芳香族系溶媒に対して、2~10重量%の無水マレイン酸を入れて加熱・溶解し、重合開始剤を無水マレイン酸に対して5~12重量%添加して、通常100~200°Cの温度で重合を行なう。重合終了後に芳香族系溶媒をデカンテーションや減圧蒸留等で分離除去し固形状あるいは粉体状のマレイン酸重合体として得る、あるいは、重合終了後に水および水酸化ナトリウム等を加えて加水分解を行い、水溶性マレイン酸重合体として得ることができる。無水マレイン酸に対する重合開始剤の比率や芳香族系溶媒に対する無水マレイン酸の重量比が、これらの範囲を外れると、所定の吸光度を有するマレイン酸重合体を得ることができない。
【0017】
本発明に使用される芳香族系溶媒としては、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、キシレン異性体の混合物、エチルベンゼン、トルエン、キュメン、トリメチルベンゼンの各異性体、テトラメチルベンゼンの各異性体等が使用できるが、好ましくはo-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、キシレン異性体の混合物である。
【0018】
重合開始剤は、特に限定されるものではなく、通常のジtert-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルヒドロパーオキシド等が使用できる。
【0019】
本発明のマレイン酸重合体の重量平均分子量は300~800であり、好ましくは400~700である。重量平均分子量が300未満では、本発明の効果が得られないことがある。一方、重量平均分子量が800を越えると、本発明の効果が得られないことがあるだけでなく、重合体自身がカルシウム塩として析出しやすくなり本発明の効果が得られないことがある。
【0020】
重量平均分子量の測定は、例えばゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーを用いて分子量既知の標準物質を対照にして測定され、市販の分子量計算用コンピュータソフトウェア、例えば、日立製作所(株)製の「D-2520型GPCデータ処理システム」(商品名)を用いて重量平均分子量が計算される。
【0021】
また、
本発明のマレイン酸重合体には、市販の製品、例えばグレイトレイクス社の「Belclene200LA」〔商品名、190nmにおける吸光係数が0.09~0.2(dm
3
/mg・cm)〕を使用することもできる。
」
(ウ)「【0043】
【実施例】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(水溶性マレイン酸重合体:A-1の調製)
ガラス還流管、窒素通気管、攪拌器付きの4ッ口セパラブルフラスコに無水マレイン酸10gとo-キシレン90gを入れ、140°Cに昇温して攪拌溶解した。窒素ガス通気下で140°Cを維持しながら、ジ-tert-ブチルパーオキシド0.3gをキシレン10gに溶解した開始剤溶液を15分かけて滴下した。滴下終了後、窒素ガス通気下で140°Cを90分間維持した。フラスコ底部にポリマーが沈澱したならば、デカンテーションにより上澄み液を取り除いた後、水100mlを加え、透明なポリマー溶液を得た。ポリマー溶液をロータリーエバポレーターに入れ、減圧下50°Cで加熱してキシレンを留去して、マレイン酸重合体の30重量%水溶液:55gを得た。共重合体A-1の重量平均分子量は約400であった。
【0045】
以下、同様にして表1に記載の配合割合で各マレイン酸重合体を合成した。
【0046】
【表1】
91
137
0001434127000001.jpg
【0047】
(水溶性アクリル酸系共重合体)
・B-1:4ッ口セパラブルフラスコに水80g入れ、80°Cに加熱した。窒素ガス通気し攪拌下、80°Cを維持しながら、アクリル酸45gと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の40重量%水溶液12.5gの混合液と、水25gに過硫酸ナトリウム2gを溶解した液をそれぞれ180分かけて滴下した。滴下終了後、窒素ガス通気下で80°Cを60分間維持した。冷却後、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比90:10重量%)の共重合体(重量平均分子量約20,000)の30重量%水溶液164gを得た。
・B-2:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(共重合比70:30重量%)の共重合体(重量平均分子量約15,000)の30重量%水溶液。
・B-3:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比50:50重量%)の共重合体(重量平均分子量約6,000)の30重量%水溶液。
・B-4:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比40:60重量%)の共重合体(重量平均分子量約5,000)の30重量%水溶液。
・B-5:アクリル酸と3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム(共重合比50:50重量%)の共重合体(重量平均分子量約5,000)の30重量%水溶液。
・B-6:アクリル酸と3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸ナトリウム(共重合比50:50重量%)の共重合体(重量平均分子量約5,000)の30重量%水溶液。
・B-7:アクリル酸と3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸ナトリウム(共重合比50:50重量%)の共重合体(重量平均分子量約5,000)の30重量%水溶液。
・B-8(比較例):アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比30:70重量%)の共重合体(重量平均分子量は約12,000)の30重量%水溶液。
・B-9(比較例):アクリル酸重合体(重量平均分子量約2,000)
・B-10(比較例):2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸重合体(重量平均分子量約10,000)
(その他)
C-1:硝酸亜鉛
C-2:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸
(腐食抑制試験1)
JISK0100-1990工業用水腐食試験方法(回転法)に従って、寸法50×30×1mm、表面積0.316dm
2
の低炭素鋼(JISG3141SPCC-SB)試験片をアセトンで脱脂し、乾燥して重量を測定した。
次に純水に水溶性マレイン酸重合体A-1及び水溶性アクリル酸系共重合体B-1を各々有効分として10(mg/L)になるように添加し、更にpH:8.3、Mアルカリ度:150ppm、カルシウム硬度:150ppm、塩化物イオン:106ppm、リツナー指数:5.9に調整して試験液とした。
JISK0100-1990工業用水腐食試験方法(回転法)に従って、該試験液500mLを還流冷却管、攪拌器付きフラスコに入れて40°Cの恒温槽にて保温し、試験片を該試験方法に規定する腐食試験装置のモーター回転軸の保持器に取り付けて、40°Cの試験液の入ったフラスコ中に浸漬し、線速度0.3m/secで3日間、連続で試験片を回転させた。3日後に試験片を取り出し、表面に付着した腐食性生成物やスケール付着物を流水下、ブラシで除去し、乾燥させて試験片の重量を測定し、次式で腐食速度(mdd)を計算した。
腐食速度(mdd)
=(試験片の重量減:mg)/〔(試験片表面積:dm
2
)×(試験日数:日)〕
同様にして、水溶性マレイン酸重合体A-1~7及び水溶性アクリル酸系共重合体B-1~10の組み合わせで腐食試験を行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
202
153
0001434127000002.jpg
【0049】
本発明の方法は、マレイン酸重合体単独またはアクリル酸系共重合体単独使用した場合と比較して、金属の腐食防止効果が著しく改善された。さらに亜鉛-マレイン酸重合体、亜鉛-アクリル酸系共重合体と比較しても金属の腐食抑制効果が高いことがわかる。」
イ 甲1に記載された発明
上記ア(ウ)に摘記した甲1の【0048】【表2】に記載の実施例5(【0046】【表1】に記載の水溶性マレイン酸重合体A-2及び【0047】に記載の水溶性アクリル酸系共重合体B-1の組合せ)に着目し、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲の記載に倣って整理した上で、「水系の金属腐食抑制方法」に用いられる「金属腐食抑制剤」が記載されていると解すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「(A)190nmにおける吸光係数が0.12(dm
3
/mg・cm)である水溶性マレイン酸重合体と、(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を90重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を10重量%含む水溶性共重合体を、50:50(重量比)で同時に使用する水系の金属腐食抑制剤。」
(以下、「甲1発明」という。)
ウ 甲2の記載事項
甲2には、「無水マレイン酸の重合法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「(課題を解決するための手段、発明の効果)
本発明者は今、驚くべきことに、オルトキシレンまたは置換オルトキシレン中の無水マレイン酸の溶液を使用しかつ低い水準で開始剤を用いて重合を行なうと、良好な収量の生成物が得られ、これは狭い分子量分布を有しかつ公知のポリカルボン酸スケール抑制剤と比較して優れたスケール抑制剤としての活性を示すことを見い出した。該生成物は、所望により単離することができかつ加水分解して対応する新規ポリカルボン酸またはその水溶性塩を与えることができるところの新規の無水ポリカルボン酸を含むものである。該新規材料は驚くべきことにスケール抑制剤として高い活性を有する。
従って、本発明は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)による450ないし800の重量平均分子量および1.0ないし1.15の多分散度を有する無水ポリマレイン酸を提供するものである。
多分散度は比Mw/Mn(式中、Mwは重量平均分子量を表わしかつMnは数平均分子量を表わす。)を表わす。
本発明の無水ポリマレイン酸は、無水マレイン酸の10重量%より多くはない量の過酸化物開始剤を使用して、主として式I
36
80
0001434127000003.jpg
(式中、R
1
,R
2
,R
3
およびR
4
は各々独立して水素原子、炭素原子数1ないし4のアルキル基またはカルボキシル基を表わし、R
5
およびR
6
は各々独立して水素原子またはメチル基を表わすか、またはR
5
およびR
6
は一緒になってメチレン基またはエチレン基を表わす。)で表わされるo-キシレンの溶媒中で無水マレイン酸を重合し、この際無水マレイン酸の溶媒との重量比は1:3より大きくしないことにより、最も好ましくは1:4より大きくしないことにより、製造することができる。
過酸化物開始剤の量は、無水マレイン酸に基づいて、1ないし10重量%、好ましくは4ないし8重量%でありうる。開始剤は公知の過酸化物開始剤より選択することができる。例えば、ジベンゾイルペルオキシド、第三ブチルペルベンゾエート、ジクミルペルオキシド、第三ブチルヒドロペルオキシドまたは、好ましくはジ第三ブチルペルオキシドがある。
無水マレイン酸と溶媒の重量比は、1:3ないし1:9、好ましくは1:3ないし1:6そして特に1:4ないし1:6でありうる。この重量比は、最終比が1:3より大きくならないように無水マレイン酸を反応の間に加えることを条件として、重合反応の開始にて、より高く、例えば1:2と同程度にしてよい。
重合は、回分式でまたは連続的に行なうことができるが、100ないし200°Cの温度で、好ましくは溶媒の還流温度またはその近くで行なうことができる。実際の還流温度は通常120ないし160°C、例えば120ないし146°Cの範囲内である。反応時間は反応温度および使用する開始剤の性質に従って変更することができる。還流するo-キシレン中のジ第三ブチルペルオキシドを使用して重合を行なう場合、反応時間は普通2ないし5時間である。
溶媒は好ましくは少なくとも90重量%の一種またはそれ以上の式Iの化合物、より好ましくは95重量%より多い、最も好ましくな少なくとも97重量%の該化合物を含む。溶媒は少量の他のキシレン異性体およびエチルベンゼンを含むことができる。
以上記載したところの重合は結果として、単離可能な新規無水ポリカルボン酸を、通常他の無水ポリカルボン酸との混合で含む無水ポリマレイン酸生成物を生じる。従って、本発明はまた、式II
43
100
0001434127000004.jpg
(式中、R
1
,R
2
,R
3
,R
4
,R
5
およびR
6
は上記に定義したのを表わし、xは1,2または3を表わしそしてyは1,2または3を表わし、但しxおよびyはともに1を表わさない。)で表わされる無水ポリカルボン酸を提供する。
式IIの酸無水物は通常、重合プロセスの結果として、式III
43
102
0001434127000005.jpg
(式中、R
1
,R
2
,R
3
,R
4
,R
5
およびR
6
は上記に定義したのを表わし、aおよびbは各々0または1を表わしかつa+bの合計は1または2である。)で表わされる無水ポリカルボン酸との新規混合物の形態で得られる。重合生成物はまた少量の式Iの未反応化合物を含むものでもよい。
混合物は一般に少なくとも50%の式IIの酸無水物を含む。もしより可溶な成分を除去する手順を用いて重合生成物を仕上げるならば、混合物中の式IIの酸無水物の百分率量は増大する。」(第3頁第6欄第35行~第5頁第9欄第20行)
(イ)「(実施例)
本発明を以下の実施例により説明する。百分率は特に記述しない限り重量百分率を表わし、分子量値MwおよびMnはGPCにより得たものである。実施例において言及する速原子衝撃質量分析法(Fast atom bombardment mass spectrometry)(FAB-MS)の結果は、無水ポリマレイン酸生成物について熱水中の溶解により酸形態に変換した後に得たものである。実施例において言及するガスクロマトグラフィー-質量分析法の結果は、無水ポリマレイン酸のトリメチルシリルエステルより得たものである。
実施例1:
無水マレイン酸50gおよびo-キシレン290gを還流するまで加熱しそしてジ第三ブチルペルオキシド3gを1回の添加で15分かけて加えた。反応を3.5時間続行しそしてポリマーを溶液より分離することができた。反応混合物を室温にまで冷却しそして液をデカントして出す。ポリマー44gを得た(無水マレイン酸に基いて、88%の収率)。更なる精製は必要でなかった。得られたポリマーはMw=550そしてMn=520を有し、Mw/Mn=1.058を与えた。GPC分析は4成分を示した。FAB-MSにより主生成物はR
1
ないしR
6
が各々Hを表わし、x=1そしてy=2であるところの式IIの化合物([M+H]+=455)およびR
1
ないしR
6
が各々Hを表わし、x=1そしてy=3であるところの式IIの化合物([M+H]+=571)であると同定された。
トリメチルシリルエステルのガスクロマトグラフィー-質量分析法により、残りの生成物はR
1
ないしR
6
が各々Hを表わし、a=0,b=1であるところの式IIIの化合物(M+=366)およびR
1
ないしR
6
が各々Hを表わし、a=0そしてb=1であるところの式IIIの化合物(M+=626)であると同定された。
」(第6頁第12欄第27行~第7頁第13欄第8行)
(2)本件発明1について
本件発明1には、(i)金属防食処理剤に関する発明(以下、「本件発明1i」という。)と、(ii)金属防食処理剤キットに関する発明(以下、「本件発明1ii」という。)が含まれているところ、事案に鑑み、まず、(i)金属防食処理剤に関する本件発明1iについて検討し、次に、(ii)金属防食処理剤キットに関する本件発明1iiについて検討することとする。
なお、申立理由1-1-2(新規性)、申立理由1-2-2(進歩性)、申立理由1-1-3(新規性)、申立理由1-2-3(進歩性)についても、同様である。
ア 本件発明1iと甲1発明との対比
本件発明1iと甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を90重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を10重量%含む水溶性共重合体」と本件発明1iにおける「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」とは、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である限りにおいて共通する。
(イ)甲1発明における「(A)190nmにおける吸光係数が0.12(dm
3
/mg・cm)である水溶性マレイン酸重合体」と本件発明1iにおける「成分(B)」「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」「<マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析>」「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」とは、「マレイン酸系重合体」である限りにおいて共通する。
(ウ)a 上記(ア)、(イ)を踏まえると、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である点で、甲1発明における「(B)」は本件発明1iにおける「成分(A)」に相当し、「マレイン酸系重合体」である点で、甲1発明における「(A)」は本件発明1iにおける「成分(B)」に相当する。
b また、甲1発明の「金属腐食抑制剤」が、本件発明1iの「金属防食処理剤」に相当することは、技術常識に照らして明らかである。
c したがって、甲1発明における「(A)」「水溶性マレイン酸重合体と、(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸」「と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を」「含む水溶性共重合体を、50:50(重量比)で同時に使用する水系の金属腐食抑制剤。」は、本件発明1iにおける「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」「及び、成分(B)」「マレイン酸系重合体、を含有し、」「前記成分(A):前記成分(B)の質量含有割合が、1:9~7:3である、金属防食処理剤。」に相当する。
(エ)そうすると、本件発明1iと甲1発明とは、「成分(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体、及び、成分(B)マレイン酸系重合体、を含有し、前記成分(A):前記成分(B)の質量使用割合が、1:9~7:3である、金属防食処理剤。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1iにおける「成分(A)」は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との「モル比率が97:3~70:30」である共重合体であるのに対し、甲1発明における「(B)」は、(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を「90重量%」と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を「10重量%」含む水溶性共重合体である点。
<相違点1-2>
本件発明1iにおける「成分(B)」の「マレイン酸系重合体」は、「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であり、当該滴定分析が「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」というものであるのに対し、甲1発明の「(A)」の「水溶性マレイン酸重合体」は、上記「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であるのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点1-2について検討する。
(イ)a 申立人1は、特許異議申立書において、「相違点1(合議体注:相違点1-2に対応。)の検討(分子構造からの計算に基づく)」として、「甲1発明の明細書には,「本発明のマレイン酸重合体は芳香族系溶剤中で重合して得られるもので,公知の方法,例えば特許2964154号公報に準じて行われる。」(明細書第0016欄)ことが記載されている。ここで,特許2964154号公報は,甲第2号証(以下,甲2発明とする。)として採用したものである。」(第76頁下から6行~下から2行)と述べた上で、「ここで,甲2発明の実施例1の化合物は,o-キシレン/無水マレイン酸比=6,DTBP(ジ第三ブチルペルオキシド)添加量(wt%対無水マレイン酸)=6%,であるが,甲1発明の実施例の表1の化合物A-2は,o-キシレン/無水マレイン酸比=6,DTBP/無水マレイン酸比=0.06であるから,甲2発明の実施例1と全く同じ製造条件である。そうすると,甲1発明の化合物A-2も,甲2発明の実施例1と同じo-キシレン1分子に対して3ないし4分子の無水マレイン酸が付加重合した無水マレイン酸重合体が製造されるから,甲1発明の実施例1のマレイン酸系重合体のカルボキシル基含有量は13.2~14.0mmol/gとなり、11.5mmol/g以上であることは明白である。」(第78頁下から10行~下から1行)と主張している。
b そこで、上記aの主張について検討すると、甲1の【0046】【表1】に記載の重合体A-2(以下、「甲1重合体」という。)と甲2の実施例1に記載のポリマー(以下、「甲2ポリマー」という。)とは、無水マレイン酸とo-キシレンとを、重合開始剤であるジ-tert-ブチルパーオキシド(ジ第三ブチルペルオキシド)の存在下で重合させて得られるものである点では共通している。
c しかしながら、上記(1)ア(ウ)と上記(1)ウ(イ)の記載内容を比較すると明らかなように、甲1重合体と甲2ポリマーとの間には、原料組成、製造方法及び重量平均分子量について以下の違いが存在する。
(a)o-キシレン/無水マレイン酸比について、甲1重合体は6であるのに対し、甲2ポリマーは5.8(=290g/50g)である。
(b)重合反応時間について、甲1重合体は90分であるのに対し、甲2ポリマーは3.5時間である。なお、上記(1)ア(ウ)に記載されているのは、重合体A-1の重合反応時間であるため、甲1重合体(重合体A-2)の重合反応時間は90分でない可能性があるが、3.5時間であると解する根拠も見いだせない。
(c)重量平均分子量について、甲1重合体は510であるのに対し、甲2ポリマーは550である。なお、甲2ポリマーは、上記(1)ウ(イ)に摘記したとおり、「主生成物は」「x=1そしてy=2であるところの式IIの化合物」「および」「x=1そしてy=3であるところの式IIの化合物」であっても、「残りの生成物は」「a=0,b=1であるところの式IIIの化合物(M+=366)および」「a=0そしてb=1であるところの式IIIの化合物(M+=626)」であるため、その全てが「o-キシレン1分子に対して3ないし4分子の無水マレイン酸が付加重合した無水マレイン酸重合体である」とはいえない。
d そうすると、甲1重合体と甲2ポリマーとは、原料、製造方法及び生成物のいずれにおいても違いが存在するから、「甲1発明の実施例の表1の化合物A-2は,」「甲2発明の実施例1と同じ原料組成と製造方法である」とはいえないし、「甲1発明の化合物A-2も,甲2発明の実施例1と同じo-キシレン1分子に対して3ないし4分子の無水マレイン酸が付加重合した無水マレイン酸重合体であることは明白である」ともいえない。
e 以上、b~dにて検討したとおり、上記aの主張は採用することができない。
f 申立人1は、特許異議申立書において、上記aの主張を前提として、甲1発明の水溶性マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であることを証明しようとしているが、上記eのとおり上記aの主張を採用することはできないから、申立人1の上記証明は前提において誤っており、妥当であると認めることはできない。
g また、申立人1は、特許異議申立書において、「相違点1(合議体注:相違点1-2に相当。)の検討(滴定分析に基づく)」として、「甲1発明の明細書の第0021欄には、「本発明のマレイン酸重合体には,例えばグレートレイクス社の「Belclene200LA」〔商品名,190nmにおける吸光係数が0.09~0.2(dm
3
/mg・cm)〕を使用することもできる。」と記載されている。」(第84頁第2行~第5行)と述べた上で、「甲20の分析・試験報告書は,Belclene200LAのカルボキシル基含有量を,本件特許発明1の滴定分析の方法より測定した実験報告書である。」(第84頁第6行~第8行)、「すなわち、甲20よりBelclene200LAのカルボキシル基含有量は、...12.9mmol/gとなる。」(第86頁下から5行~下から6行)、「そうすると,甲1発明にはカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体が記載されているから,上記相違点1は実質的な相違点ではない。」(第87頁第2行~第4行)と主張している。
h そこで、上記gの主張についても検討すると、甲1の【0021】の記載はあくまで「使用することもできる」との記載に留まっており、甲1に実際に「Belclene200LA」を使用する水系の金属腐食抑制方法に用いられる金属腐食抑制剤(例えば、甲1発明において、甲1重合体に替えて、「Belclene200LA」を使用した発明)が記載されていたとまではいえない。また、分析・試験報告書(甲20)において、カルボキシル基含有量が「12.9mmol/g」であるとされた試料Bについては、「Belclene200LAの滴定曲線の初期pHは2.08とほぼpH2以下であり、塩酸を加える必要はないと判断した。」(第85頁下から6行~下から5行)とのことであり、「塩酸を用いてpHを2以下まで下げ」ていない点で、本件発明1iのとおりに滴定分析が行われたとはいえないから、上記gの主張も採用することができない。
i したがって、上記相違点1-2は、実質的な相違点であるといえる。
j よって、本件発明1iは、甲1発明であるとはいえない。
(ウ)a 次に、上記相違点1-2の容易想到性について検討すると、甲1に、上記相違点1-2に係る「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」を「12.7mmol/g以上」とすることは記載も示唆もされていないから、甲1発明において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
b また、上記(イ)hにて検討したとおり、甲1の【0021】の記載は「Belclene200LA」を「使用することもできる」ことに留まっており、甲1の実施例5に着目して認定した甲1発明において、甲1重合体に替えて、あえて「Belclene200LA」を用いる動機付けがあるとはいえない。
c 仮に、甲1発明において、甲1の【0021】の記載に基づいて、甲1重合体に替えて「Belclene200LA」を用いることができたとしても、上記(イ)hにて検討したとおり、分析・試験報告書(甲20)において、「塩酸を用いてpHを2以下まで下げ」ていない点で、本件発明1iのとおりに滴定分析が行われたとはいえない試料B(試料+イオン交換水(20ml))の結果(12.9mmol/g)に基づいて、「Belclene200LA」の本件発明1iの滴定分析によるカルボキシル基含有量が「12.7mmol/g以上」であるとはいえない。また、分析・試験報告書(甲20)の表1において、「塩酸を用いてpHを2以下まで下げ」て滴定分析が行われたと解される試料A(試料+イオン交換水(20ml)+1N-HCl *測定時、pH1.0に調整)のカルボキシル基含有量は「-
注)
」となっており、表1枠外に「注)塩酸の当量点(Vb)が不明瞭なため、算出不可。」とあるとおり、「Belclene200LA」の本件発明1iの滴定分析によるカルボキシル基含有量は不明であって、「12.7mmol/g以上」であるということはできない。
d そして、甲2、3、11~17、20に記載された事項を考慮しても、上記a~cの判断に変わりはない。
e したがって、甲1発明において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
f よって、上記相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1iは、甲1発明及び甲2、3、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)a なお、申立人1は、令和 7年10月 6日提出の意見書において、「「甲1におけるマレイン酸重合体の重合は、甲2に記載の方法に準じて行われる」と記載されていますから(甲1の第0016欄,本件特許異議申立書の76頁),甲1には,甲2の実施例1(甲2の第12欄右~第13欄左)におけるカルボキシル基含有量が13.2と14.0mmol/gのマレイン酸重合体(本件特許異議申立書の77頁~78頁)を含むのが当然と理解されます。さらには,前述のように甲1に使用されるマレイン酸重合体のBELCLENE 200LAは,訂正された本件特許発明の測定分析によるカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上です。そうしますと,...甲1は本件特許発明1,2と相違点を見い出せませんから,訂正された本件特許発明1,2は,甲1に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に適合します。」(第10頁第1行~第13行)と主張している。
b しかしながら、「甲2に記載の方法に準じて行われる」との記載は、「準じて」とあるとおり、あくまで同等の方法で製造されることが記載されているに留まり、あらゆる条件を甲2の実施例1と同様にして製造することが記載されていたとはいえない。現に、「甲2に記載の方法に準じて行われる」と記載された甲1の実施例において製造された甲1重合体は、上記(ウ)cにて検討したとおり、甲2の実施例1の甲2ポリマーとは種々の点で違いが存在している。また、上記(ウ)hにて検討したとおり、「BELCLENE 200LA」は甲1において「使用することができる」との記載に留まるものであり、これを使用する水系の金属腐食抑制方法に用いられる金属腐食抑制剤が記載されていたとまではいえない。
c よって、上記aの主張は採用することができない。
d また、申立人1は、令和 7年10月 6日提出の意見書において、「カルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上のマレイン酸系重合体を用いることは甲2より公知であり,さらには甲1におけるマレイン酸重合体の重合は,甲2に記載の方法に準じて行われると記載されていますから,甲1のマレイン酸重合体としてカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上のマレイン酸系重合体を用いることは当業者であれば容易になしえるものです。」、「また、甲17において,滴定によりマレイン酸系重合体としてカルボキシル基含有量を求めることは公知ですから,甲2,甲17の公知技術を組み合わせて,甲1のマレイン酸系重合体の滴定分析によるカルボキシル基含有量の基準値を12.7mmol/g以上に設定することは,当業者の通常業務においてなしうる程度のことです。」と主張している。
e しかしながら、上記dの前者の主張は、上記bに記載したのと同様、甲1にはあくまで甲2に記載の方法に「準じて」行われることが記載されていたに留まり、甲1の実施例5に着目して認定した甲1発明において、甲1重合体に替えて、あえて甲2実施例1の甲2ポリマーをそのまま用いる動機付けは存在しない。
f また、上記dの後者の主張について、申立人1は、特許異議申立書の申立理由1-2-1において、甲17に関しては「甲17には,本件特許発明1の滴定分析によりマレイン酸重合体のカルボキシル基含有量を算出する方法が記載されている。そうすると本件発明1は,甲1発明に公知技術である滴定分析を付け加えたに過ぎないから,設計的事項である。」(第89頁下から12行~下から9行)と記載するに留まっており、甲1に甲2,甲17の公知技術を組み合わせることについては何ら主張していないから、当該主張は実質的に新たな申立理由を主張するものであると認められ、特許異議申立書の要旨を変更するものであるから、採用することはできない(特許法第115条第2項)。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1iは、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1iは、甲1に記載された発明及び甲2、3、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明1iiと甲1発明との対比、判断
本件発明1iiは、本件発明1iの成分(A)を金属防食用第1剤、成分(B)を金属防食用第2剤として、水系に成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる金属防食処理剤キットであり、本件発明1iの金属防食処理剤をその水系での使用前において2液型としたものであるといえるから、本件発明1iiは、2液型のキットとしたこと以外は、本件発明1iと同様の特定事項を備えるものである。
本件発明1iiと甲1発明とを対比すると、上記アと同様に、両者は、少なくとも、相違点1-2と同様の相違点で相違するところ、この相違点については、上記イで述べたのと同様の理由により、実質的な相違点であり、また、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1iiは、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明及び甲2、3、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2、3、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)オのとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明及び甲2、3、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明及び甲2、3、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)申立理由1-1-1(新規性)、申立理由1-2-1(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1-1によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-2-1によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
(1)甲4の記載事項及び甲4に記載された発明
ア 甲4の記載事項
甲4には、「水系の金属腐食抑制方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無水マレイン酸、マレイン酸及びその水溶性塩の1種以上を70~90重量%(無水マレイン酸換算)と、非イオン性モノエチレン系不飽和単量体を10~30重量%含む水溶性共重合体と、(B)(メタ)アクリル酸及びその水溶性塩の1種以上を40~90重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体を10~60重量%含む水溶性共重合体を同時に用いることを特徴とする水系の金属腐食抑制方法
。
【請求項2】
非イオン性モノエチレン系不飽和単量体が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、イソブチレン、1-ペンテン、スチレン、メチルスチレン、酢酸ビニルから選択される1種以上である請求項1記載の水系の金属腐食抑制方法。
【請求項3】
モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
、2-メタアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-メタクロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、3-メタクロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、1,3-ブタジエンのスルホン化物、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンのスルホン化物
から選択される1種以上である請求項1又は2記載の水系の金属腐食抑制方法。
【請求項4】
(A)と(B)を90:10~30:70(重量比)で用いる請求項1~3のいずれか記載の水系の金属腐食抑制方法。
」
(イ)「【0015】
本発明の(A)成分は、(a-1)無水マレイン酸、マレイン酸及びその水溶性塩の1種以上を70~90重量%(無水マレイン酸換算)と、(a-2)非イオン性モノエチレン系不飽和単量体を10~30重量%として含む水溶性共重合体(以下、「(A)水溶性マレイン酸系共重合体」とする。)であり、該共重合体のマレイン酸単位部分が部分中和塩あるいは完全中和塩である水溶性共重合体である。部分中和塩あるいは完全中和塩を構成する陽イオン原子としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等があり、これらの1種あるいは2種以上である。
...
【0027】
本発明の(B)成分は、(b-1)アクリル酸、メタクリル酸及びその水溶性塩の1種以上を40~90重量%と、(b-2)モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体及びその水溶性塩の1種以上を10~60重量%含む水溶性共重合体(以下、「(B)水溶性アクリル酸系共重合体」とする。)である。該水溶性共重合体の(メタ)アクリル酸単位部分および/又はスルホン酸単位部分は、部分中和塩あるいは完全中和塩であり、部分中和塩あるいは完全中和塩を構成する陽イオン原子としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等があり、これらの1種あるいは2種以上である。
...
【0037】
本発明の(A)水溶性マレイン酸系共重合体と(B)水溶性アクリル酸系共重合体は、それぞれを別々に添加しても、あるいは両者を一つの溶液にして添加してもよい。本発明の(A)水溶性マレイン酸系共重合体と(B)水溶性アクリル酸系共重合体の使用比率(重量%)は、90:10~30:70、より好ましくは70:30~40:60の範囲である。
」
(ウ)「【0045】
【実施例】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(水溶性マレイン酸系共重合体:A-1の調製)
ガラス還流管、窒素通気管、攪拌器付きの4ッ口セパラブルフラスコに無水マレイン酸36gとスチレン4gとキシレン90mlを入れ、140°Cに昇温して攪拌溶解した。窒素ガス通気下で140°Cを維持しながら、ジ-tert-ブチルパーオキシド2gをキシレン50mlに溶解した開始剤溶液を110分かけて滴下した。滴下終了後、窒素ガス通気下で140°Cを90分間維持した。フラスコ底部にポリマーが沈澱したならば、デカンテーションにより上澄み液を取り除いた後、水120mlと48%水酸化ナトリウム65gを加え、透明なポリマー溶液を得た。ポリマー溶液をロータリーエバポレーターに入れ、減圧下50°Cで加熱してキシレンを留去して、マレイン酸-スチレン(共重合比90:10重量%)共重合体ナトリウム塩の30%水溶液209gを得た。共重合体:A-1の重量平均分子量は約800であった。
...
【0057】
(水溶性アクリル酸系共重合体:B-3の調製)
水50g、アクリル酸25gと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の40%水溶液62.5gの混合液とした以外は、水溶性アクリル酸系共重合体:B-1と同様の方法により合成して、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比50:50重量%)の30%共重合体水溶液164gを得た。水溶性アクリル酸系共重合体:B-3の重量平均分子量は約6,000であった。
...
【0064】
【表1】
118
153
0001434127000006.jpg
【0066】
本発明のマレイン酸系共重合体とアクリル酸系共重合体を用いた方法は、マレイン酸共重合体またはアクリル酸共重合体をそれぞれ単独で使用した場合と比較して、腐食抑制効果が著しく改善されることがわかる。」
イ 甲4に記載された発明
上記ア(ウ)に摘記した甲4の【0064】【表1】に記載の実施例1(【0045】に記載の水溶性マレイン酸系共重合体A-1及び【0057】に記載の水溶性アクリル酸系共重合体B-3の組合せ)に着目し、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲の記載に倣って整理した上で、「水系の金属腐食抑制方法」に用いられる「金属腐食抑制剤」が記載されていると解すると、甲4には、次の発明が記載されていると認められる。
「(A)マレイン酸を90重量%と、非イオン性モノエチレン系不飽和単量体であるスチレンを10重量%含む水溶性共重合体と、(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を50重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を50重量%含む水溶性共重合体を、(A)と(B)を50:50(重量比)で同時に用いる水系の金属腐食抑制剤。」
(以下、「甲4発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 本件発明1iと甲4発明との対比
本件発明1iと甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明における「(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を50重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を50重量%含む水溶性共重合体」と本件発明1iにおける「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」とは、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である限りにおいて共通する。
(イ)甲4発明における「(A)マレイン酸を90重量%と、非イオン性モノエチレン系不飽和単量体であるスチレンを10重量%含む水溶性共重合体」は、共重合比からみて「マレイン酸系重合体」であるといえる。そうすると、甲4発明における当該「水溶性共重合体」は、本件発明1iにおける「成分(B)」「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」「<マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析>」「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」と、「マレイン酸系重合体」である限りにおいて共通する。
(ウ)a 上記(ア)、(イ)を踏まえると、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である点で、甲4発明における「(B)」は本件発明1iにおける「成分(A)」に相当し、「マレイン酸系重合体」である点で、甲4発明における「(A)」は本件発明1iにおける「成分(B)」に相当する。
b また、甲4発明の「金属腐食抑制剤」が、本件発明1iの「金属防食処理剤」に相当することは、技術常識に照らして明らかである。
c したがって、甲4発明における「(A)」「マレイン酸を90重量%」「含む水溶性共重合体と、(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を50重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を50重量%含む水溶性共重合体を、(A)と(B)を50:50(重量比)で同時に用いる水系の金属腐食抑制剤。」は、本件発明1iにおける「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」「及び、成分(B)」「マレイン酸系重合体、を含有し、」「前記成分(A):前記成分(B)の質量含有割合が、1:9~7:3である、金属防食処理剤。」に相当する。
(エ)そうすると、本件発明1iと甲4発明とは、「成分(A)(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体、及び、成分(B)マレイン酸系重合体、を含有し、前記成分(A):前記成分(B)の質量使用割合が、1:9~7:3である、金属防食処理剤。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1iにおける「成分(A)」は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との「モル比率が97:3~70:30」である共重合体であるのに対し、甲4発明における「(B)」は、(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を「50重量%」と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を「50重量%」含む水溶性共重合体である点。
<相違点2-2>
本件発明1iにおける「成分(B)」の「マレイン酸系重合体」は、「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であり、当該滴定分析が「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」というものであるのに対し、甲4発明の「(A)」の「水溶性共重合体」は、上記「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であるのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点2-2について検討する。
(イ)a 申立人1は、特許異議申立書において、「相違点3(合議体注:相違点2-2に対応。)の検討」として、「甲4発明の実施例におけるマレイン酸共重合体A-1~A-8の製造方法において、過酸化物開始剤としてジ-tert-ブチルパーオキシド(DTBP)が用いられ,溶媒としてo-キシレンが用いられており,単量体に対するo-キシレンの比は,(90+50)/40=3.5であり,単量体に対するDTBPの比は,2/40=0.05であるから,甲1発明や甲2発明の実施例のマレイン酸重合体の製造方法と変わらない。そうすると,「a)甲1発明のマレイン酸重合体の製造について」で述べたように,甲4発明は甲1発明と同様に,o-キシレンの1分子に対して複数個のマレイン酸ならびに非イオン性モノエチレン系不飽和単量体が付加重合したマレイン酸系共重合体が得られる。」(第95頁第5行~第14行)と述べた上で、これを前提として「甲4発明の分子量が1,000のマレイン酸と非イオン性モノエチレン系不飽和単量体の共重合体のカルボキシル基含有量を,(viii)式にもとづき計算すると表6のようになり,マレイン酸の共重合比が75質量%以上のときカルボキシル基含有量は11.5mmol/gを超えていた。」(第95頁下から4行~下から1行)と主張している。
b そこで上記aの主張について検討すると、甲1や甲2の実施例では、甲4発明において用いられている非イオン性モノエチレン系不飽和単量体をそもそも含んでいないから、甲4発明の実施例における水溶性共重合体の製造方法が、「甲1発明や甲2発明の実施例のマレイン酸重合体の製造方法と変わらない。」とはいえない。
また、上述した単量体の違いの他、重合開始剤の滴下時間や得られた重合体の重量平均分子量等も異なっていることから、甲4発明の実施例における水溶性共重合体が、「o-キシレンの1分子に対して複数個のマレイン酸ならびに非イオン性モノエチレン系不飽和単量体が付加重合したマレイン酸系共重合体」であるともいえない。
c したがって、上記aの主張は採用することができず、上記相違点2-2は、実質的な相違点であるといえる。
d よって、本件発明1iは、甲4発明であるとはいえない。
(ウ)a 次に、上記相違点2-2の容易想到性について検討すると、甲4に、上記相違点2-2に係る「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」を「12.7mmol/g以上」とすることは記載も示唆もされていないから、甲4発明において、上記相違点2-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
b そして、甲1~3、11~17に記載された事項を考慮しても、上記aの判断に変わりはない。
c したがって、甲4発明において、上記相違点2-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
d よって、上記相違点2-1について検討するまでもなく、本件発明1iは、甲4発明及び甲1~3、11~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1iは、甲4に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1iは、甲4に記載された発明及び甲1~3、11~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明1iiと甲4発明との対比、判断
本件発明1iiは、本件発明1iの成分(A)を金属防食用第1剤、成分(B)を金属防食用第2剤として、水系に成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる金属防食処理剤キットであり、本件発明1iの金属防食処理剤をその水系での使用前において2液型としたものであるといえるから、本件発明1iiは、2液型のキットとしたこと以外は、本件発明1iと同様の特定事項を備えるものである。
本件発明1iiと甲4発明とを対比すると、上記アと同様に、両者は、少なくとも、相違点2-2と同様の相違点で相違するところ、この相違点については、上記イで述べたのと同様の理由により、実質的な相違点であり、また、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1iiは、甲4に記載された発明であるとはいえないし、甲4に記載された発明及び甲1~3、11~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲1~3、11~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)オのとおり、本件発明1が、甲4に記載された発明であるとはいえず、甲4に記載された発明及び甲1~3、11~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2も同様に、甲4に記載された発明であるとはいえないし、甲4に記載された発明及び甲1~3、11~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)申立理由1-1-2(新規性)、申立理由1-2-2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1-2によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-2-2によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
(1)甲19の記載事項及び甲19に記載された発明
ア 甲19の記載事項
甲19には、「開放循環式冷却水系の水処理方法及び開放循環式冷却水系用水処理剤」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却塔で循環冷却水と外気とを接触させて該循環冷却水を冷却する開放循環式冷却水系の水処理方法において、
前記循環冷却水に水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと、炭酸カルシウムの結晶成長を抑制する
スレッショルド抑制剤とを添加することを特徴とする循環冷却水の水処理方法。
...
【請求項5】
スレッショルド抑制剤は、
有機ホスホン酸及びその塩、ホスフィノポリカルボン酸及びその塩、ホスホノカルボン酸及びその塩、
マレイン酸系重合体及びその塩、スルホン酸基を有するモノエチレン性不飽和単量体と(メタ)アクリル酸との共重合体及びその塩、からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の開放循環式冷却水系の水処理方法。
【請求項6】
水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと、炭酸カルシウムの結晶成長を抑制するスレッショルド抑制剤とを有効成分として含有する開放循環式冷却水用水処理剤。
【請求項7】
循環冷却水に対するスレッショルド抑制剤の添加量が0.5~200mg/Lの範囲とされていることを特徴とする請求項6記載の開放循環式冷却水用水処理剤。
」
(イ)「【0009】
本発明は、重金属類を使用することがなく、金属腐食を抑制し、スケール付着を抑制することのできる開放循環式冷却水系の水処理方法及び開放循環式冷却水用水処理剤を提供することを課題とする。
...
【0035】
またスレッショルド抑制剤は、有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸及びマレイン酸系重合体から選択される1種以上と、アクリル酸とモノエチレン性不飽和スルホン酸との共重合体とを含む組成物が好ましい。
この場合の組成物のアクリル酸とモノエチレン性不飽和スルホン酸の比率は通常10:90~90:10であり、好ましくは20:80~80:20である。
さらに好ましいのは、スレッショルド抑制剤が、有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸及びマレイン酸系重合体から選択される1種以上と、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)の共重合体、及びアクリル酸と3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸(AHPS)の共重合体から選択される1種以上とを含む組成物である。この場合の組成物の比率は通常、10:90~90:10であり、好ましくは30:70~70:30である。
」
(ウ)「【実施例】
【0044】
以下に本発明を具体化した実施例を比較例と比較しつつ説明する。
...
【0045】
(スレッショルド抑制剤として用いた有機ホスホン酸)
HEDP:1-ヒドロキシエチリデン-1、1-ジホスホン酸ナトリウム塩
PBTC:2-ホスホノブタン-1、2、4-トリカルボン酸ナトリウム塩(スレッショルド抑制剤として用いた共重合体)
AA-AMPS:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体のナトリウム塩〔重合比(重量)60:40、重量平均分子量10,000〕
AA-AHPS:アクリル酸と3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸の共重合体のナトリウム塩〔重合比(重量)50:50、重量平均分子量5,000〕
PMA:ポリマレイン酸ナトリウム塩「BELCLENE200LA」(商品名、BWA社製)、〔活性分50%〕
AMP:アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体(モル比2:1:1)のナトリウム塩
【0046】
(実施例1~6及び比較例1~9)
実施例1~6の開放循環式冷却水用水処理剤の組成及び比較例1~9の水処理剤の組成を表1に示す。...
【表1】
110
151
0001434127000007.jpg
」
イ 甲19に記載された発明
上記ア(ウ)に摘記した甲4の【0046】【表1】に記載の実施例1(スレッショルド抑制剤として、【0045】に記載のポリマレイン酸ナトリウム塩「BELCLENE200LA」5重量%及びアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体のナトリウム塩〔重合比(重量)60:40、重量平均分子量10,000〕5重量%の組合せを用いた例)に着目し、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲の記載に倣って整理し、かつ上記ア(イ)の【0009】に記載したとおり、「開放循環式冷却水用水処理剤」は「金属腐食を抑制し、スケール付着を抑制することのできる」ものであることを踏まえると、甲19には、次の発明が記載されていると認められる。
「水酸化カルシウムと、炭酸カルシウムの結晶成長を抑制するスレッショルド抑制剤として、ポリマレイン酸ナトリウム塩「BELCLENE200LA」5重量%と、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体のナトリウム塩〔重合比(重量)60:40、重量平均分子量10,000〕5重量%とを有効成分として含有する、金属腐食を抑制し、スケール付着を抑制することのできる、開放循環式冷却水用水処理剤。」
(以下、「甲19発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 本件発明1iと甲19発明との対比
本件発明1iと甲19発明とを対比する。
(ア)甲19発明における「アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体のナトリウム塩〔重合比(重量)60:40、重量平均分子量10,000〕」と本件発明1iにおける「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」とは、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である限りにおいて共通する。
(イ)甲19発明における「ポリマレイン酸ナトリウム塩「BELCLENE200LA」」は、本件発明1iにおける「成分(B)」「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」「<マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析>」「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」と、「マレイン酸系重合体」である限りにおいて共通する。
(ウ)a 上記(ア)、(イ)を踏まえると、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である点で、甲19発明における「アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体のナトリウム塩〔重合比(重量)60:40、重量平均分子量10,000〕」は本件発明1iにおける「成分(A)」に相当し、「マレイン酸系重合体」である点で、甲19発明における「ポリマレイン酸ナトリウム塩「BELCLENE200LA」」は本件発明1iにおける「成分(B)」に相当する。
b また、甲19発明の「金属腐食を抑制し、スケール付着を抑制することのできる、開放循環式冷却水用水処理剤」が、本件発明1iの「金属防食処理剤」に相当することは、技術常識に照らして明らかである。
c したがって、甲19発明における「アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体のナトリウム塩〔重合比(重量)60:40、重量平均分子量10,000〕5重量%と」「ポリマレイン酸ナトリウム塩「BELCLENE200LA」5重量%と」「を有効成分として含有する、金属腐食を抑制し、スケール付着を抑制することのできる、開放循環式冷却水用水処理剤」は、本件発明1iにおける「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」「及び、成分(B)」「マレイン酸系重合体、を含有し、」「前記成分(A):前記成分(B)の質量含有割合が、1:9~7:3である、金属防食処理剤。」に相当する。
(エ)そうすると、本件発明1iと甲19発明とは、「成分(A)(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体、及び、成分(B)マレイン酸系重合体、を含有し、前記成分(A):前記成分(B)の質量使用割合が、1:9~7:3である、金属防食処理剤。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3-1>
本件発明1iにおける「成分(A)」は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との「モル比率が97:3~70:30」である共重合体であるのに対し、甲19発明における「アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体のナトリウム塩」は、「重合比(重量)60:40」の共重合体である点。
<相違点3-2>
本件発明1iにおける「成分(B)」の「マレイン酸系重合体」は、「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であり、当該滴定分析が「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」というものであるのに対し、甲19発明の「ポリマレイン酸ナトリウム塩「BELCLENE200LA」」は、上記「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であるのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点3-2について検討する。
(イ)a 申立人1は、特許異議申立書において、「相違点5(合議体注:相違点3-2に対応。)の検討」として、「甲20の分析・試験報告書は、Belclene200LAのカルボキシル基含有量を,本件特許発明1の測定分析の方法より測定した実験報告書であり,Belclene200LAのカルボキシル基含有量が,12.9mmol/gであることが示されている。そうすると,甲19発明にはカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体が記載されているから,上記相違点5は実質的な相違点ではない。」(第101頁下から2行~第102頁第6行)と主張している。
b そこで上記aの主張について検討すると、上記1(2)イ(ウ)cにて検討したのと同様に、分析・試験報告書(甲20)において、「塩酸を用いてpHを2以下まで下げ」ていない点で、本件発明1iのとおりに滴定分析が行われたとはいえない試料B(試料+イオン交換水(20ml))の結果(12.9mmol/g)に基づいて、「Belclene200LA」の本件発明1iの滴定分析によるカルボキシル基含有量が「12.7mmol/g以上」であるとはいえない。また、分析・試験報告書(甲20)の表1において、「塩酸を用いてpHを2以下まで下げ」て滴定分析が行われたと解される試料A(試料+イオン交換水(20ml)+1N-HCl *測定時、pH1.0に調整)のカルボキシル基含有量は「-
注)
」となっており、表1枠外に「注)塩酸の当量点(Vb)が不明瞭なため、算出不可。」とあるとおり、「Belclene200LA」の本件発明1iの方法によるカルボキシル基含有量は不明であって、「12.7mmol/g以上」であるということはできない。
c したがって、上記aの主張は採用することができず、上記相違点3-2は、実質的な相違点であるといえる。
d よって、本件発明1iは、甲19発明であるとはいえない。
(ウ)a 次に、上記相違点3-2の容易想到性について検討すると、甲19に、上記相違点3-2に係る「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」を「12.7mmol/g以上」とすることは記載も示唆もされていないから、甲19発明において、上記相違点3-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
b そして、甲1~4、11~17、20に記載された事項を考慮しても、上記aの判断に変わりはない。
c したがって、甲19発明において、上記相違点3-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
d よって、上記相違点3-1について検討するまでもなく、本件発明1iは、甲19発明及び甲1~4、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1iは、甲19に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1iは、甲19に記載された発明及び甲1~4、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明1iiと甲19発明との対比、判断
本件発明1iiは、本件発明1iの成分(A)を金属防食用第1剤、成分(B)を金属防食用第2剤として、水系に成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる金属防食処理剤キットであり、本件発明1iの金属防食処理剤をその水系での使用前において2液型としたものであるといえるから、本件発明1iiは、2液型のキットとしたこと以外は、本件発明1iと同様の特定事項を備えるものである。
本件発明1iiと甲19発明とを対比すると、上記アと同様に、両者は、少なくとも、相違点3-2と同様の相違点で相違するところ、この相違点については、上記イで述べたのと同様の理由により、実質的な相違点であり、また、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1iiは、甲19に記載された発明であるとはいえないし、甲19に記載された発明及び甲1~4、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲19に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲19に記載された発明及び甲1~4、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)オのとおり、本件発明1iが、甲19に記載された発明であるとはいえず、甲4に記載された発明及び甲1~4、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2も同様に、甲19に記載された発明であるとはいえないし、甲19に記載された発明及び甲1~4、11~17、20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)申立理由1-1-3(新規性)、申立理由1-2-3(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1-3によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-2-3によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項1には、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の算出式について、「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」と記載されており、本件訂正によって正しい算出式となった。
また、本件明細書の【0091】についても同様である。
よって、申立理由1-3-1、申立理由2-1及び取消理由1によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
(1)上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項1には、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析について、「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。」と記載されている(本件明細書の【0091】にも同様の記載がある。)。
(2)a 申立人1は、特許異議申立書において、「理由1:滴定分析における塩酸の中和点が存在せず,マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を求めることができない。」(第106頁下から9行~下から8行)として、「甲20は,本件特許発明1に記載の滴定分析の方法に従って,BELCLENE200LAのカルボキシル基含有量を測定した実験報告書である。ここで,BELCLENE200LAはイタルマッチ製のマレイン酸重合体であるが,甲1発明の明細書の第0021欄と甲19発明の第0045欄には,使用可能なマレイン酸重合体としてBELCLENE200LAが記載されている。本件特許発明1には,「塩酸を用いてpH2を2以下まで下げたのち,0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。」と記載されているが,BELCLENE200LA2g(固形分1gに相当)を20mLのイオン交換水に溶解した滴定開始時のpHは2.08であったので,塩酸を加えてpH1.0とした試料Aと塩酸無添加の試料Bの2通りの方法の滴定分析を実施した。...試料Aの滴定曲線と微分曲線を図-III,試料Bの滴定曲線と微分曲線を図-IVに示す。...本件特許発明1によれば,「塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から,マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し」と記載されているから,本来であれば微分曲線のピークは塩酸の中和点とマレイン酸系ポリマーの中和点の2つあるはずであるが,図-IIIの試料A(塩酸添加)の微分曲線のピークは40.69mLにおける1点のみであり,塩酸の中和点(当量点)に相当するピークは存在せず,両者の滴定曲線の形に顕著な差はなかった。...そうすると,本件特許発明の滴定分析では塩酸の中和点は存在せず,「塩酸の中和点まで滴下したNaOH量」を求めることができないから,「塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOHとの差」を求めることができず,むしろ塩酸の添加量だけマレイン酸系ポリマーの中和点に要するNaOH量を増加させるため,正しいカルボキシル基含有量を求めることができない。」(第107頁第10行~第109頁第4行)と主張している。
b そこで、上記aの主張について検討すると、「BELCLENE200LA」において、塩酸でpHを1.0まで下げた場合に塩酸の中和点までに滴下したNaOH量を求めることができないとしても、それは「BELCLENE200LA」が本件発明1の滴定分析によって「カルボキシル基含有量」が定義できないマレイン酸系重合体であることを示すのみであり、当該一例のみをもって、本願実施例で示された製品等を含む、他のマレイン酸系重合体においても同様に「滴定分析における塩酸の中和点が存在せず,マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を求めることができない」とまではいえない。
c したがって、上記aの主張を採用することはできない。
d この点について、申立人1は、令和 7年10月 6日提出の意見書において、新たに参考資料1としてクレストガード550の滴定分析の結果や、参考資料2として「緩衝液のイロハ」なる技術資料を示しつつ、「マレイン酸系重合体の存在下で塩酸の中和点が不明確となることは,甲20におけるBELCLENE200LAに限定される現象ではなく,全てのマレイン酸系重合体に当て嵌まる普遍的現象であることを示すために,別のマレイン酸系重合体のクレストガード550の滴定分析の結果を参考例として示します。」(第12頁第10行~第14行)とも主張している。
e しかし、申立人1は、特許異議申立書において、申立理由1-3-2に関し、BELCLENE200LA以外の例は示しておらず、マレイン酸系重合体の存在下で塩酸の中和点が不明確となることが全てのマレイン酸系重合体に当て嵌まる普遍的現象であることは主張していない。したがって、上記dの主張は実質的に新たな申立理由を主張するものであると認められるから、特許異議申立書の要旨を変更するものであり、採用することはできない(特許法第115条第2項)。
f なお付言するに、クレストガード550は参考試料1の添付資料2によれば「初期pH 1.77pH」であるから、クレストガード550はそもそも「塩酸を用いてpHを2以下まで下げ」る操作が不要なマレイン酸系重合体である。したがって、本件発明1の滴定分析によって「カルボキシル基含有量」が定義できないマレイン酸系重合体としては、依然として「BELCLENE200LA」の1例が示されているのみである。
(3)a また、申立人1は、特許異議申立書において、「理由2:本件発明の滴定分析ではマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を選択的に測定することができない」(第111頁下から9行~下から8行)として、「甲16の表1が示すとおり,マレイン酸系重合体には未反応のマレイン酸単量体が1~2万ppm程度残留するから,滴定分析ではマレイン酸系重合体中のカルボキシル基と未反応のマレイン酸モノマー中のカルボキシル基とを区別できず,マレイン酸系重合体とマレイン酸モノマーの両方のカルボキシル基含有量の合計として求められる。さらには,本件発明のマレイン酸系重合体の製造時に,カルボキシル基以外にもスルホン酸基,ホスホン酸基,ホスフィン酸基,リン酸,重亜硫酸などの酸成分が測定値に関与するから,測定分析値のみからマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を求めることができない」(第111頁下から7行~第112頁第2行)とも主張している。
b そこで、上記aの主張について検討すると、上記主張における「スルホン酸基,ホスホン酸基,ホスフィン酸基,リン酸,重亜硫酸などの酸成分」が具体的にどのような成分であるのかは不明であるが、もしそのような成分が存在するのであれば、カルボキシル基含有量の測定結果を不正確にすることが明らかであるこれらの成分を除去するために精製するか、又はこれらを含まないマレイン酸系重合体を採用することは当然である。
また、マレイン酸重合体に不可避的にマレイン酸モノマーが含まれるのであれば、本件発明1の滴定分析では、それらを含めたカルボキシル基含有量を「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」と称していると解するのが自然である。
c したがって、上記aの主張を採用することはできない。
d この点について、申立人1は、令和 7年10月 6日提出の意見書において、「滴定分析の前に精製を行った場合,本件特許発明のように塩酸を添加する必要はありませんから,本件特許発明は,未精製のまま滴定を行うことを前提にしていることは明白ですから,滴定分析の前に分析対象のマレイン酸系重合体を精製すると解するのが自然であるとは,到底いえないのであります。」(第20頁下から8行~下から4行)と主張している。
e しかし、上記aで摘記したように、申立人1が想定する「スルホン酸基,ホスホン酸基,ホスフィン酸基,リン酸,重亜硫酸などの酸成分」を含む場合においては、当該成分が具体的にどのような成分であるかは不明であるものの、通常は塩酸を添加しても「酸成分」は除去されない。してみれば、塩酸の添加と「酸成分」の除去のための精製は無関係であり、塩酸を添加することが記載されているからといって、本件発明が「未精製のまま滴定を行うことを前提にしていることは明白」であるとはいえない。したがって、上記dの主張は採用することができない。
(4)よって、申立理由1-3-2によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
(1)上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項1には、「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」と記載されている。
(2)a 申立人1は、特許異議申立書において、「本件特許発明1~2ならびに発明の詳細な説明において、マレイン酸系重合体のカルボキシル基含有量を11.5mmol/g以上とするためのマレイン酸系重合体の組成や構造や製造方法などの具体的手段が何ら示されていないため、本件特許発明のマレイン酸系重合体を継続して安定的に得ることができない。」(第112頁第10行~第16行)と主張している。
b そこで、上記aの主張について検討すると、「成分(B)マレイン酸系重合体」の重合方法については、本件明細書の【0038】に「前記成分(B)マレイン酸系重合体は、特に限定されず、有機溶媒系重合方法又は水系重合法による重合体の何れでもよく、当該重合方法は、適宜、公知の技術を採用して行うことができ、市販品を用いてもよい。当該重合体中のカルボキシル基含有量が、例えば11.5mmol/g以上等と所定以上の高さになるように重合することができる方法を適宜採用することができる。」と記載されるのみであり、具体的な製造方法が記載されていないことはそのとおりである。
しかしながら、「カルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」が目的の成分であることが分かっている以上、自身で重合する場合でも、技術常識に照らして、当該マレイン酸系重合体を得るために多少の試行錯誤は必要であるとしても、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があるとは認められない。また、本件明細書の【0038】には、上記のとおり、市販品を用いてもよいことが記載されているところ、本件明細書の【0093】【表1】には、市販品として、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が13.4mmol/gのサンプル4と12.7mmol/gのサンプル5が記載されており、同【0092】には、上記サンプル4、5のメーカーも記載されているため、これらのメーカーに依頼すれば、カルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体を安定的に継続して入手することができるといえる。
c したがって、上記aの主張を採用することはできない。
(3)よって、申立理由1-3-3によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
本件明細書には、以下の記載がある。
ア「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水系の水質と防食効果の関係性についてはよく知られており、炭酸カルシウムが析出しやすい水質においては、比較的良好な防食効果が得られることが知られていた。一方で、硬度の低い水質は、炭酸カルシウムの析出が起こりにくいため、水自身の防食効果が減少する。
そのような硬度の低い水質に対してリン化合物の良好な防食効果を利用できない非リンの防食剤を使用すると、水と接触する金属部材に対する防食効果が不十分となることが、本発明者らの研究により従来技術の問題点として見出された。
【0007】
そこで、本発明者らは、高硬度水質だけでなく低硬度水質においても良好な防食効果を発揮できるという、低硬度水質にまでも防食効果がより強化され、さらに防食用のリン化合物の使用を大幅に低減できる又は非リン系でもよい防食処理の技術を検討することした。
【0008】
本発明は、富栄養化の原因物質となるリン化合物を金属防食剤として利用しなくとも良好な防食効果を発揮することができるとともに、高硬度水質だけでなく低硬度水質においても良好な防食効果を発揮することのできる、水系の金属防食処理の技術を提供することを主な目的とする。
」
イ「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、当初、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量に着目した。しかしながら、水系に添加する薬剤に含まれる重合体中のカルボキシル基含有量が高いと、水中のカルシウムイオンと結合し不溶化物を形成しやすく、実際に、後記〔実施例〕にて示したように、重合体中のカルボキシル基含有量が高いマレイン酸系重合体の単独使用では、低硬度水質の水であっても不溶化物を形成しやすく、良好な防食効果が得られなかった。一方で、本発明者らは、共重合体の使用による防食効果について鋭意検討していたが、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体の単独使用では、防食効果が非常に良くなかった。
【0010】
しかしながら、本発明者らは、鋭意検討した結果、良好な防食効果が得られていない2成分の組み合わせ、つまり、
成分(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体と、成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上に高いマレイン酸系重合体とを併用しつつかつこれら成分(A)及び成分(B)の質量使用割合を所定の範囲内にすることで、水系中の不溶化物の形成がより良好に抑制でき、さらに各単独使用よりも非常に良好な防食効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。」
ウ「【0036】
1-2.成分(B)マレイン酸系重合体
本発明に用いる成分(B)マレイン酸系重合体は、当該重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上であることが、前記成分(A)及び前記成分(B)の併用効果によるより良好な防食効果発揮の観点から、好適であり、当該所定の含有量は、所定以上、例えば11.5mmol/g以上が好適である。
」
エ「【0044】
<成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量>
成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量は、ホモポリマー又はコポリマーに関わらず、また、単量体由来に関わらず、当該重合体中のカルボキシル基の合計の含有量である。
当該重合体中のカルボキシル基含有量は、好適な下限値として、好ましくは11.5mmol/g以上、より好ましくは11.7mmol/g以上、さらに好ましくは12mmol/g以上、より好ましくは12.5mmol/g以上、より好ましくは13mmol/g以上であり
、また、好適な上限値として、特に限定されず、理論上17.2mmol/gとなり、製造可能な範囲内で設定することができ、例えば、17、16、又は15mmol/g以下等にすることができる。前記成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量は、後記〔実施例〕における<試験1:マレイン酸系重合体(サンプル1~5)中のカルボキシル基含有量の滴定分析>に従って、求めることができる。本実施形態であれば、前記成分(A)共重合体と併用することで、前記成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を所定以上の高さにしても水系での前記成分(B)のゲル化をより良好に抑制できるとともにより良好に分散できるので、前記成分(B)における重合体中のカルボキシル基含有量の高含有化によって向上した防食効果を、より良好に発揮させることができる。」
オ「【実施例】
【0090】
以下の実施例及び比較例等を挙げて、本発明の実施形態等について説明をする。なお、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0091】
<試験1:マレイン酸系重合体(サンプル1~5)中のカルボキシル基含有量の滴定分析>
<手法>
滴定分析にはTitrando(Metorom)を用いた。マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、Titrandoにセットし、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定した。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこからマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出した。算出式は以下のとおりである。
マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)
【0092】
サンプル1~5は、市販品を使用し、
サンプル1:イソバンKPS-3(無水マレイン酸:クラレ製)、サンプル2:ベルクレン288(イタルマッチ製)、サンプル3:ベルクレン272(イタルマッチ製)、
サンプル4:クレストガード559(クレストウォーター製)、サンプル5:HPMA-S常州市東納化工有限公司(Changzhou Dongna Chemical Co., Ltd.)製であった。
サンプル1~3、5は有機溶媒系による重合、サンプル4は水系による重合であった。また、マレイン酸系重合体の原料として無水マレイン酸が一般的に用いられており、例えばサンプル1の原料として無水マレイン酸が使用されている。
【0093】
【表1】
72
140
0001434127000008.jpg
【0094】
<結果>
滴定分析を実施したマレイン酸系重合体(サンプル1~5)とそのカルボキシル基含有量について表1に示す。サンプル4~5は他のマレイン酸系ポリマーよりカルボキシル基含有量が多いことが共通している。
サンプル3とサンプル4から、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量11.5mmol/g以上のマレイン酸系重合体を、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上に高いマレイン酸系重合体と設定した。
<ポリマーの重量平均分子量のGPC分析>
各ポリマーの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)法により測定することができ、GPC法による標準ポリアクリル酸換算の値である。
...
【0103】
<試験4>
<手法>
(メタ)アクリル酸とスルホン酸からなる共重合体の分散能力により、マレイン酸系重合体のゲル化の抑制効果ができないか確認するため耐ゲル化能評価試験を行った。(メタ)アクリル酸とスルホン酸からなる共重合体としてAA/AMPS-1(モル比率80:20)を、マレイン酸系重合体としてサンプル4を用いた。
500mL容ネジ口瓶に、超純水、各ポリマー溶液、カルシウム硬度溶液を都度攪拌しながら添加し、総量500mLとした。各ポリマー溶液、カルシウム硬度溶液が所定の濃度となるように、超純水は総量500mLとなるように添加した。NaOHやH
2
SO
4
等でpH8.5となるように調整を行い、ネジ口瓶のふたを締め、90°Cで1時間静置した。1時間経過後、分光光度計にて、λ=380nm、50mmセルで濁度を測定した。ポリマーの着色が吸光度に影響する場合があるため、カルシウム硬度無添加の条件の吸光度も同時に測定し、それぞれの値からこれを差し引いた。吸光度の補正値が小さいほど、ゲル化が生じておらず、良好であることを示す。
【0104】
<結果>
試験条件及び吸光度の測定結果を表4に示した。重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上のマレイン酸系重合体としてサンプル4のみを添加した条件3及び4の場合にはゲル化が生じた。これに対し、AA/AMPS-1とサンプル4を併用すると、ゲル化は起こらなかった。
このことから、重合体中のカルボキシル基含有量が高いマレイン酸系ポリマーとAA/AMPS-1ポリマーとの併用により、水中のカルシウムイオンと重合体中のカルボキシル基含有量が高いマレイン酸系ポリマーとのゲル化を抑制可能であることが示された。
また、
カルシウム硬度0mg/LasCaCO
3
のときの実施例4-1及び実施例4-2を、数日間放置しても濁りがなく透明であったので、(メタ)アクリル酸とスルホン酸からなる共重合体と、重合体中のカルボキシル基含有量が高いマレイン酸系重合体とは、一液型薬剤及び多液型薬剤(薬剤キット)の何れにも適用できることが示された。
【0105】
【表4】
88
140
0001434127000009.jpg
【0106】
<試験5>
<手法>
(メタ)アクリル酸とスルホン酸との共重合体及びマレイン酸系重合体の併用効果において、最適マレイン酸系重合体の特徴を確認するために、腐食試験を実施した。(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体(第一薬剤)として試験2のAA/AMPS-1を、マレイン酸系重合体(第二薬剤)として表1中のサンプル1~5の各ポリマーを用いた。
防食効果評価のための運転条件は、水温30°C、試験期間3日間、回転数150rpmである。使用した原水の水質条件は、カルシウム硬度100mg/LasCaCO
3
、酸消費量(pH4.8)100mg/LasCaCO
3
、マグネシウム硬度50mg/L、シリカ20mg/L、塩化物イオン濃度150mg/L、硫酸イオン濃度150mg/L、pH8.2、AA/AMPS-16mg/L、マレイン酸系重合体6mg/Lである。試験に使用した材料は、SPCC製のテストピース(30mm×50mm×1mm)である。1Lの試験水に対し、1枚のテストピースを浸漬し、上記運転条件にて、スターラーで撹拌した。試験結果の評価は、テストピースの試験前後における重量差から腐食減量を求め、以下の式に基づき腐食速度(mdd)を算出して行った。
腐食速度(mdd)=腐食減量(mg)/テストピースの表面積(dm
2
)/試験期間(day)
【0107】
<結果>
腐食試験に用いた薬剤の添加濃度及び腐食速度の測定結果を表5に示す。カルボキシル基高含有のマレイン酸系重合体としてサンプル4及びサンプル5を用いた場合に、良好な防食効果が確認できた。表1のカルボキシル基含有量と比較すると、サンプル4とサンプル5の重合体中のカルボキシル基含有量が最も高いことから、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上のマレイン酸系重合体は、良好な防食効果に寄与していると考えられた。
【0108】
【表5】
69
140
0001434127000010.jpg
」
(2)本件発明の課題
上記(1)アに摘記した本件明細書の【0008】の記載からすると、本件発明が解決しようとする課題は、「富栄養化の原因物質となるリン化合物を金属防食剤として利用しなくとも良好な防食効果を発揮することができるとともに、高硬度水質だけでなく低硬度水質においても良好な防食効果を発揮することのできる、水系の金属防食処理の技術を提供すること」にあると認められる。
(3)検討
ア 上記(2)の課題を解決するための手段として、上記(1)イに摘記した本件明細書の【0010】には、「成分(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体と、成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上に高いマレイン酸系重合体とを併用しつつかつこれら成分(A)及び成分(B)の質量使用割合を所定の範囲内にすることで、水系中の不溶化物の形成がより良好に抑制でき、さらに各単独使用よりも非常に良好な防食効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。」と記載されている。
イ ここで、上記アの「成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上に高いマレイン酸系重合体」における「所定以上に高い」について、上記(1)ウ、エの摘記事項には、例示として「11.5mmol/g以上」が記載されている。
ウ そして、上記(1)オの摘記事項によると、本件明細書の【0091】~【0094】の試験例1には、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.4mmol/g以下のサンプル1~3は比較例である一方、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上のサンプル4、5は実施例であることが記載されており、同【0106】~【0108】の試験例5には、「カルボキシル基高含有のマレイン酸系重合体としてサンプル4及びサンプル5を用いた場合に、良好な防食効果が確認できた」ことが記載されている。
エ そうすると、「成分(B)」が「カルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」である本件訂正後の本件発明は、上記(2)の課題が解決できることを当業者が認識できるものであると認められる。
オ よって、申立理由1-4の一部、申立理由2-2、取消理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
(1)上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項1には、「水系に、下記の成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。」と記載されるのみであり、本件発明1において、水系のカルシウム硬度は特定されていない。
(2)a 申立人2は、特許異議申立書において、「(エ)そうすると、本件発明1、2に関し、発明の詳細な説明において本件発明の課題を解決できるものとして開示されている「金属防食剤、金属防食剤キット、及び、金属防食処理方法」は、カルシウム硬度が100~500mg/L(asCaCO
3
)である水系の金属防食処理方法である。よって、カルシウム硬度が特定されていない水系を処理対象として含む、本件発明1及び2は、本件発明の課題を解決できるものとして認識し得ない範囲を含み、発明の詳細な説明において本件発明の課題を解決できるものとして開示されている範囲を超えるものである。」(第29頁下から13行~下から6行)と主張している。
b そこで、上記aの主張について検討すると、上記7(1)アに摘記したとおり、本件明細書の【0006】には、「水系の水質と防食効果の関係性についてはよく知られており、炭酸カルシウムが析出しやすい水質においては、比較的良好な防食効果が得られることが知られていた。」と記載されており、水系のカルシウム硬度が高くても防食効果の面で特段の問題は生じないと解されるから、本件発明は、カルシウム硬度が500mg/L(asCaCO
3
)超の水系においても、上記7(2)の課題が解決できることを当業者が認識できるものであると認められる。
c また、上記7(1)オに摘記したとおり、本件明細書の【0103】~【0105】の試験4には、「成分(B)」として本件発明のマレイン酸系重合体を用いた実施例4-1、4-2は、カルシウム硬度が0mg/L(asCaCO
3
)の水系でもゲル化しないことが記載されている。
そうすると、本件発明は、成分(A)及び成分(B)の併用効果により、従来技術と比較して相対的に良好な防食効果を発揮するものであると解されるから、カルシウム硬度が100mg/L(asCaCO
3
)未満の水系においても、上記7(2)の課題が解決できることを当業者が認識できるものであると認められる。
d したがって、上記aの主張を採用することはできない。
(3)よって、申立理由2-4によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
(1)申立理由1-4の一部、申立理由2-3、及び取消理由3(実施可能要件)は、実質的に申立理由1-4の一部、申立理由2-2、及び取消理由2(サポート要件)の主張を、条文を変更して繰り返すものであると認められる。
(2)そして、申立理由1-4の一部、申立理由2-2、取消理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできないことは、上記7(3)のとおりである。
(3)よって、申立理由1-4の一部、申立理由2-3、取消理由3(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
以上のとおり、申立人1による特許異議申立書に記載された申立理由1-1-1~1-4及び申立人2による特許異議申立書に記載された申立理由2-1~2-4並びに取消理由通知書に記載した取消理由1~3のいずれによっても、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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