sokuhyo

Trademark Appeal Case

訂正の適否と新規事項

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025700520
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7584157号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7584157号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7584157号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年7月28日を出願日とする特許出願(特願2020-127383号)の一部を、令和4年11月24日に新たな特許出願としたものであり、令和6年11月7日にその特許権の設定登録がされ、令和6年11月15日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、特許異議申立人 砂川幸子(以下「申立人」という。)は、令和7年5月13日に特許異議の申立てを行った。

本件特許異議の申立てがされた以降の手続の経緯は、次のとおりである。

令和7年 5月13日 申立人による特許異議の申立て

令和7年 7月18日付け 取消理由通知書

令和7年 9月18日 意見書及び訂正請求書(特許権者)

令和7年10月20日付け 訂正請求があった旨の通知

なお、訂正請求があった旨の通知に対し、その指定期間内に申立人からの意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含み、」と記載されているのを、「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含み、前記塗工層がワックスを含む場合、前記塗工層はカルナバワックスを含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.5質量部以上10質量部以下であり、前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2に「熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上である」と記載されているのを、「熱可塑性樹脂100質量部に対し、2.5質量部以上10質量部以下である」に訂正する(請求項2を引用する請求項4~6も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3に「熱可塑性樹脂100質量部に対し、200質量部未満である」と記載されているのを、「熱可塑性樹脂100質量部に対し、80質量部以上150質量部以下である」に訂正する(請求項3を引用する請求項4~6も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項6に「前記塗工層が、カルナバワックスを含む」と記載されているのを、「前記塗工層が、ワックスとしてカルナバワックスのみを含む」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されている「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含」むことについて、「前記塗工層がワックスを含む場合、前記塗工層はカルナバワックスを含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.5質量部以上10質量部以下であり、前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であ」ることをさらに特定するものである。

また、訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載されている「熱可塑性樹脂100質量部に対」する「前記塗工層におけるワックスの配合量」の数値範囲が「1.2質量部以上である」ことについて、この範囲内の一部である「2.5質量部以上10質量部以下である」ことを特定するものであり、訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載されている「熱可塑性樹脂100質量部に対」する「前記塗工層における顔料の配合量」の数値範囲が「200質量部未満である」ことについて、この範囲内の一部である「80質量部以上150質量部以下である」ことを特定するものであり、訂正事項4は、訂正前の請求項6に記載されている「前記塗工層が、カルナバワックスを含む」ことについて、「前記塗工層が、ワックスとしてカルナバワックスのみを含む」ことを特定し、カルナバワックス以外のワックスを排除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項1に関し、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)において、塗工層がカルナバワックスを含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.5質量部以上10質量部以下であるとの事項については、段落【0021】、【0022】に記載されており、塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であることについては、段落【0020】に記載されているといえるから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものである。

また、本件特許明細書において、訂正事項2に対応する事項については、段落【0022】に、訂正事項3に対応する事項については、段落【0020】に、訂正事項4に対応する事項については、段落【0021】、【0033】、【0034】に、それぞれ記載されているといえるから、訂正事項2~4も、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものである。

よって、訂正事項1~4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合している。

(3)訂正事項1~4は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合している。

3 独立特許要件について

本件特許異議の申立ては、請求項1~6を対象とするものであるから、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

4 一群の請求項について

訂正前の請求項1~6のうち請求項2~5は、請求項1を引用しており、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

5 小括

以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。

したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】

紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、

前記紙基材の坪量が、20g/m2以上600g/m2以下であり、

前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含み、

前記塗工層がワックスを含む場合、前記塗工層はカルナバワックスを含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.5質量部以上10質量部以下であり、

前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であり、

前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂を含むことを特徴とするヒートシール紙(ただし、前記塗工層がロジン誘導体を含むものを除く)。

【請求項2】

前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、

2.5

質量部以上

10質量部以下

であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。

【請求項3】

前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、

80質量部以上150

質量部

以下

であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。

【請求項4】

アンチブロッキング剤として、ワックスと顔料との両方を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のヒートシール紙。

【請求項5】

前記塗工層が、ガラス転移温度が100°C以下の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のヒートシール紙。

【請求項6】

前記塗工層が、

ワックスとして

カルナバワックス

のみ

を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のヒートシール紙。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要

訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和7年7月18日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)(進歩性)本件特許の請求項1~6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲1に記載された発明並びに同甲5及び甲6に記載された発明(周知技術)、又は同甲2に記載された発明並びに同甲1、甲3、甲6及び甲8に記載された発明(周知技術)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲1:特表2003-529624号公報

甲2:安井慶宜,ザイクセン及び水系エマルジョンの機能紙への展開とその応用,機能紙研究会誌,No.55、p.31~36

甲3:ペーパー・セールス・エンジエアリング・シリーズ(5) 特殊機能紙,紙業タイムス社,1997年7月1日発行

甲5:国際公開第2019/089113号

甲6:接着便覧 第12版,株式会社高分子刊行会,1980年9月20日発行

甲8:特開昭55-21456号公報

(2)(サポート要件)請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題として、良好なブロッキング耐性とヒートシール適性を兼ね備えたヒートシール紙を提供することが記載されていると認められるが、請求項1に係る発明には、当該課題を解決し得ない場合が含まれており、また、請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されている他の何らかの課題を解決し得るものとは認められず、請求項2~6に係る発明も同様であるから、請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。

2 甲1の記載、甲1発明

(1)甲1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。

「【0001】

(発明の分野)

本発明は、酸分が少なくメルトフローインデックス(MFI)が低いエチレン-アクリル酸(EAA)コポリマーを含有する、低温でヒートシール可能な改良されたコーティング組成物に関する。このコーティング組成物は、可撓性包装用基材等の基材ポリマーフィルムをコーティングするのに特に好適である。

【0002】

(発明の背景)

エチレン-酸コポリマーおよびアイオノマーの水性分散液には幾つかの利点があり、そのため、多くの用途でエチレン-コポリマーそのものよりも好んで用いられる。その利点として、分散液は重くて高価な加工設備(例えば押出し機)を使用する必要がなく、プロセス要件が緩いこと、溶融ポリマー塗布における薄さの限界値である数十ミクロンどころか、わずか数ミクロンのコーティングのような薄いコーティング膜の塗工ができること、さらに、分散液は水系であるため、環境に優しいことなどが挙げられる。

【0003】

さらに、通常、この分散液は塗布後に乾燥され、それに伴なって水が蒸発するため、エチレン-酸コポリマーまたはアイオノマーの典型的な性質を有する。分散液は膜形成性およびシーリング性に優れており、箔、金属、紙、ポリマーまたは織物のコーティングや接着剤用途に用いることができる。これらはさらに、塗料またはインク中の改質剤または添加剤、不織材料用のバインダー、防錆用水性コーティングまたは帯電防止用コーティング材料として、架橋性および優れた接着力を示す。この分散液は、基材およびその適用で得ようとする効果に応じて各種プロセスで適用することができ、そのプロセスとして、例えば、浸漬、噴霧およびコーター具(エアナイフ、ブレード、グラビアロール、メータリングロッドコーター等)の使用が挙げられる。」

「【0018】

(発明の概要)

本発明は、メルトフローインデックスMFIが低く(すなわち、ASTM D1238に従い190°C、2.16kgで測定した値が100g/10分未満)、しかも酸分も少ない(例えば20重量%未満)、特定のエチレン-酸コポリマーを用いることにより、温度が100°C未満、大気圧下、かつ低攪拌速度という穏やかな分散プロセス条件下でも、単一種の塩基中、直接水性媒質(すなわち他の溶媒が存在しない)中で安定な水性分散液が得られ、非分散性物質を1重量%未満とすることが可能であるという洞察に基づいている。」

「【0041】

さらなる態様によれば、

本発明によるコーティング組成物を用いて基材ポリマーフィルムをコーティングする。

このフィルムとして、例えば、ポリオレフィン(特にポリプロピレン、中でも二軸延伸ポリプロピレン)フィルム等の可撓性包装用フィルムが挙げられる。他の好適なポリマーフィルムは、ポリプロピレン以外のポリオレフィン、例えばポリエチレン、ならびにポリエステルおよびポリアミドフィルムから構成されるものである。これは、例えば、当業者に知られている、

、板紙、金属箔

を含むが、それだけに限らない、他の種類の可撓性包装基材にも用いることができる。

「【0048】

実施例2

酸分が18重量%

、MFIが60(g/10分:90°C、2.16kg)

のエチレン-アクリル酸コポリマーのペレット112.5gと、脱塩水337.5gと、水酸化アンモニウム(29.5重量%、濃アンモニア水)32.9gとをガラス製反応容器内に同時に仕込んだ。

分散プロセスは、実施例1に記載したものと同様にした。

得られた分散液

は非常に粘性が高かった。

この分散液に水112.5gを加え、この混合物を室温下で1時間攪拌した。

この分散液を0.5mmのふるいでろ過したところ、フィルタ上に残留した残留物は2重量%未満であった。このことは、分散液の収率が高いことを示す。

得られた分散液

は固形分20重量%のやや白色がかった半透明の液体で、

コポリマー酸基の200%がアンモニウムで中和されていた。

この分散液は調製後1カ月経過しても安定であった。

【0049】

コポリマーの分子分析の結果、隣接率は3.2%、M

n

値は22679g/モル、M

w

値は117498g/モルで多分散度は5.2、分岐パラメータ(g’)は0.70であった。融点は82°Cであり、結晶化度は43.7J/gであった。

【0050】

この分散液はAquaseal(登録商標)1211と称される。

「【0061】

実施例8

実施例2に従って調製した固形分20重量%の微細分散液(Aquaseal

(登録商標)

1211)に、量を変化させた水酸化ナトリウム(NaOH)、

パラメルト(Paramelt)よりAquaseal(登録商標)1205として販売されている

高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)を加えることによりコーティング組成物を調製した。

ゼネカレジンズ(Zeneca Resins)から市販の平均粒径が3μmのDiakon(登録商標)API1には試料11から14を使用した。

【0062】

さらに、実施例1の分散液およびマイケルマン(Michelman)よりPrimacor(登録商標)4983として販売されている、エチレン80重量%、アクリル酸20重量%のコポリマーのアンモニア塩を25重量%含有する水溶液または微細分散液に、量を変化させた水酸化ナトリウム(NaOH)、マイケルマンより41540Paraloid(登録商標)として販売されている、平均サイズが約0.12から0.2μmのミクロクリスタリンワックス、およびSyloid72として販売されている平均粒径が3から5μmのヒュームドシリカを加えることによりコーティング組成物を調製した。

【0063】

表1にさらに詳細を示す。

【0064】

【表1】

125

102

0001434168000001.jpg

【0065】

米国特許第5,419,960号の教示内容と比較するため、中和を実施した。特にこの文書は、エチレン/アクリル酸コポリマーのアンモニウム塩を中和することを教示している。

【0066】

次いで水を加え、固形分約13%(12から14%の間)の最終組成物とした。各組成物を、全体の厚さが約30μmの、共押出しされた3層の二軸延伸ポリプロピレンフィルム試料の片面に塗布した。

このフィルムのコア層のポリマーはポリプロピレンホモポリマーであり、外側層のポリマーはポリプロピレンとエチレンとのランダムコポリマーであった。

【0067】

標準的なグラビアコーティング用の器具と技法、すなわちDixonコーター164Mk2型を用いてコーティングを塗布した。コーティング前に、フィルムの両面を放電処理し、処理された面に下塗りを施す処理を行った。フィルム乾燥後のコーティング全体の重量はフィルム1m

2

当たり約0.7から1.0gであった。

【0068】

実施例9

実施例8のフィルムに関し、ヒートシール

、ホットタック、24時間後と水浸後のシール

について試験を行った。

Qシーラーを用いて、5psi(0.35kg/cm2)および2秒間の停留時間で、温度を50°Cから120°Cまで変化させて作製したシールについて、Qプラー(Q puller)を用いてヒートシール強度を測定した。

【0069】

MST-200g/25mmシール強度に達する温度(°C)

ヒートシール閾値300g/25mm:300g/25mmシール強度に達する温度(°C)

ヒートシール閾値400g/25mm:400g/25mmシール強度に達する温度(°C)

DELTA-シール強度を200から400g/25mmに上昇させる温度

SS-100、110、および120°Cで測定したシール強度の平均値

【0070】

ホットタック

ホットタックは以下の条件下で試験した。

ホットタック試験機であるThellerにて、0.5秒、15PSI(1.05kg/cm2)(ピーク)

0.5秒、5PSI(0.35kg/cm2)、120gスプリング、両チャック加熱

【0071】

以下のデータは、Thellerホットタックに関する記述である。

MHHT-ホットタック強度が200g/25mmに達する温度(°C)

HTS-110、120、および130°Cで測定したホットタック強度の平均値

【0072】

以下のデータはスプリングホットタックに関する記述である。

RANGE-ホットタックの結果が、開口10%未満となる温度範囲

【0073】

試験を実施したすべての試料は、同等かつ許容範囲内のスリップ性、乾燥時のブロッキング性、湿時のブロッキング性、ヘイズ、および透明性を示した。得られたホットタックおよびヒートシールの測定値は表2に示す。これらの結果は、

本発明によるコーティング組成物が

良好なホットタック性を示しながら、

非常に低いヒートシール温度を維持する

ことを示し、一方、従来技術による組成物(実施例1から4)は、水酸化ナトリウムで中和すると最低ヒートシール温度が上昇することを示す。」

(2)甲1の「実施例2」及び「実施例8」についての記載によれば、「実施例8」は、酸分が18重量%のエチレン-アクリル酸コポリマーのペレット112.5gと、脱塩水337.5gと、水酸化アンモニウム(29.5重量%、濃アンモニア水)32.9gとをガラス製反応容器内に同時に仕込み、得られた分散液に水112.5gを加え、この混合物を室温下で1時間攪拌して得られた、コポリマー酸基の200%がアンモニウムで中和された固形分20重量%の微細分散液に、水酸化ナトリウム、高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)を加えることによりコーティング組成物を調製し、次いで水を加え、固形分約13%(12から14%の間)とした最終組成物を、その片面に塗布した、二軸延伸ポリプロピレンフィルムであることが理解できる。

さらに、「実施例9」についての記載によれば、当該フィルムにおけるコーティング組成物のヒートシール温度は非常に低いことが理解できる。

(3)よって、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「酸分が18重量%のエチレン-アクリル酸コポリマーのペレット112.5gと、脱塩水337.5gと、水酸化アンモニウム(29.5重量%、濃アンモニア水)32.9gとをガラス製反応容器内に同時に仕込み、得られた分散液に水112.5gを加え、この混合物を室温下で1時間攪拌して得られた、コポリマー酸基の200%がアンモニウムで中和された固形分20重量%の微細分散液に、水酸化ナトリウム、高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)を加えることによりコーティング組成物を調製し、次いで水を加え、固形分約13%(12から14%の間)とした最終組成物を、その片面に塗布した、コーティング組成物のヒートシール温度が非常に低い、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」

3 甲2の記載、甲2発明

(1)甲2には、次の事項が記載されている(一部、原文の丸囲みの数字を、括弧書きの数字で置き換えて表記した箇所がある。)。

なお、J-STAGEウェブサイトには、甲2についての記載がある(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/kinoushi/55/0/_contents/-char/ja)ところ、その記載によれば、甲2は、少なくとも2017年10月4日以降に公開されていたものと認められる。

「3.ザイクセンのグレードとその特徴

3.1 総論

ザイクセンは

,カルボキシル基を有するポリオレフィンを,独自の乳化技術により自己乳化した水系ディスパージョンであり,

ヒートシール剤

,コーティング剤,インキ及び塗料のバインダー並びに他のエマルジョンの改質剤等

に使用される。

ザイクセンは現在7グレードを上市しているが,使用する中和剤種により大きく3つのタイプに分類することができる。中和剤種を異にすることにより,それぞれ異なる機能性を付与することができる。なお,代表的な4グレードを表1に示す。

3.2 各論

(1)1Aタイプ

Aタイプは中和剤としてアンモニアを使用したグレードである。同タイプを加熱し,成膜させればアンモニアが揮発し,塗工表面にオレフィン系のコーティング皮膜を形成させることができる。同皮膜はカルボキシル基を有する

ため、他のグレードに比して基材への密着性に優れるだけでなく,耐水性及び耐薬品性に優れる。

なお,

AC-HW-10はAグレードの特徴を維持しながら耐ブロッキング性を向上させたグレードであり,

ザイクセンを塗工した基材のブロッキング性に問題が認められたケースにおいて使用されている。同タイプには

ワックス系のブロッキング防止剤が添加されているため,各種基材とのヒートシール強度は

Aグレードより

向上している。

」(31頁右欄~32頁左欄)

「4.ザイクセンの展開と機能紙への応用

ザイクセンは前述の特徴を活かし,様々な分野で使用されている。代表的なザイクセンの展開例を表2に示す。

4.1 接着分野

ザイクセンは,各種

基材

(

,フィルム(特にポリエチレン),不織布,金属,アルミ)

との密着性に優れているため,基材に塗工後,ヒートシール接着

や,アルミ等の基材に塗工し,紙と貼り合わせるウェットラミネート接着

に使用することができる。

」(33頁右欄~34頁左欄)

(2)上記(1)の記載から、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「ヒートシール剤に使用され、中和剤としてアンモニアを使用した、加熱し、成膜させればアンモニアが揮発し、塗工表面にカルボキシル基を有するオレフィン系のコーティング皮膜を形成させることができるAグレードの特徴を維持しながら耐ブロッキング性を向上させたグレードであり、

ワックス系のブロッキング防止剤が添加されているため、各種基材とのヒートシール強度が向上しており、

基材である紙との密着性に優れているため、基材に塗工後,ヒートシール接着に使用する、グレードがAC-HW-10のザイクセン。」

4 甲1発明との対比、判断

(1)本件発明1について

ア 対比

(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明の「最終組成物を、その片面に塗布した、コーティング組成物のヒートシール温度が非常に低い、二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、基材を構成する「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の一方の面上に、「最終組成物」を「塗布」、すなわち塗工したものであるから、「最終組成物」は塗工層を構成しているといえる。

また、甲1発明において、「コーティング組成物のヒートシール温度が非常に低い」ことは、「最終組成物」に含まれる「コーティング組成物」の「調整」に用いられた「エチレン-アクリル酸コポリマー」の熱可塑性樹脂としての性質を利用したものであることは明らかである。

よって、甲1発明の「最終組成物を、その片面に塗布した、コーティング組成物のヒートシール温度が非常に低い、二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」する「ヒートシール紙」とは、「基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」する点で共通する。

また、甲1発明の「エチレン-アクリル酸コポリマー」は、本件発明1の「エチレンアクリル酸共重合樹脂」に相当し、このことから、甲1発明と本件発明1とは、「前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂を含む」点で一致する。

b 甲1発明の「最終組成物」は、これに含まれる「コーティング組成物」の「調整」が、「高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)を加えることにより」行われたものであるから、甲1発明における上記aの塗工層は、「高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)」含むものであり、このことは、本件発明1の「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含」むことに相当する。

c 甲1発明における上記aの塗工層がロジン誘導体を含むものではないことは、甲1の記載から明らかであり、甲1発明の「最終組成物を、その片面に塗布した、コーティング組成物のヒートシール温度が非常に低い、二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と、本件発明1の「ヒートシール紙(ただし、前記塗工層がロジン誘導体を含むものを除く)」とは、「ヒートシール性を有する部材(ただし、前記塗工層がロジン誘導体を含むものを除く)」という点で共通する。

(イ)上記(ア)から、本件発明1と甲1発明とは次の点で一致する。

(一致点)

「基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、

前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含み、

前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂を含むヒートシール性を有する部材(ただし、前記塗工層がロジン誘導体を含むものを除く)。」

(ウ)また、本件発明1と甲1発明とは次の点で相違する。

(相違点1)

「基材」について、本件発明1では、「坪量が、20g/m

2

以上600g/m

2

以下」の「紙基材」であるのに対して、甲1発明では、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」である点。

(相違点2)

本件発明1は、「前記塗工層がワックスを含む場合、前記塗工層はカルナバワックスを含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.5質量部以上10質量部以下であり、前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であ」るのに対して、甲1発明では、「水酸化ナトリウム、高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)」を含むものである点。

(相違点3)

「ヒートシール性を有する部材」が、本件発明1では「ヒートシール紙」であるのに対して、甲1発明では、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」に「最終組成物を、その片面に塗布した」ものであって、ヒートシール紙を構成するものではない点。

イ 判断

事案に鑑みて、まず相違点2について検討する。

アンチブロッキング剤として、カルナバワックスは、例えば甲5(5頁18行~6頁3行等参照。訳文として、甲5のパテントファミリー文献である特表2021-501247号公報(【0016】等)を参照)、甲6(130頁等参照)に示されているように周知のものである。

しかしながら、甲1発明は、「コポリマー酸基の200%がアンモニウムで中和された固形分20重量%の微細分散液に、水酸化ナトリウム、高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)を加えることによりコーティング組成物を調製し、次いで水を加え、固形分約13%(12から14%の間)とした最終組成物」を、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」に「塗布」するものであるところ、甲5又は甲6は、カルナバワックスが当該「最終組成物」に適合するアンチブロッキング剤であることを開示するものではなく、技術常識に照らして自明ともいえないから、甲1発明において、アンチブロッキング剤としてカルナバワックスを適用する動機付けがあるとはいえない。

また、本件発明1には、「前記塗工層がワックスを含む場合」に該当しない場合も含まれるところ、甲1発明において、「高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス」を除去して、本件発明1における「前記塗工層がワックスを含む場合」に非該当かつ「前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であ」るものとすることが当業者とって容易に想到し得るといえる根拠は見いだせない。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2~6について

本件発明2~6は、本件発明1を減縮した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 甲2発明との対比、判断

(1)本件発明1について

ア 対比

(ア)本件発明1と甲2発明とを対比する。

a 甲2発明の「AC-HW-10のザイクセン」は、「基材である紙との密着性に優れているため、基材に塗工後、ヒートシール接着に使用する」ものであり、「塗工」が「基材」の少なくとも一方の面上に行われることは明らかであるから、甲2発明は、「基材である紙」の少なくとも一方の面上に、「AC-HW-10のザイクセン」を「塗工」した層すなわち塗工層を有する、「ヒートシール接着に使用する」「紙」という概念を含むものといえる。

b 甲8における「一般に感熱接着紙とは、紙に熱軟化性の樹脂を塗布乾燥し、樹脂の被着面同志を重ね合わせその背面から熱圧締して得られるものである」(1頁左下欄~右下欄)、「実施例1 下記組成からなる接着剤を、常法により原紙(80g/m

2

)の片面に80g/m

2

の割に塗布して所望する感熱接着紙を得た。」(2頁左上欄)、及び「(組成)エチレン-アクリル酸共重合樹脂(商品名ザイクセンA)」(同右上欄)の各記載から、「ザイクセンA」は、熱可塑性樹脂を含むものであり、ここで、「ザイクセンA」と甲2発明の「Aグレード」とは、同じものを指していると解されるから、甲2発明の「Aグレードの特徴を維持しながら耐ブロッキング性を向上させたグレード」であり、「ワックス系のブロッキング防止剤が添加され」た「AC-HW-10のザイクセン」は、熱可塑性樹脂である「エチレン-アクリル酸共重合樹脂」を含むものと理解できる。

c 上記a、bから、本件発明1の「ヒートシール紙」と、甲2発明の「ヒートシール接着に使用する」「紙」とは、「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」する点、及び「前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂を含む」点で一致する。

d 上記bによれば、上記aの塗工層は、「ワックス系のブロッキング防止剤」を含むものであり、このことは、本件発明1の「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含」むことに含まれる。

e 甲2発明の「ワックス系のブロッキング防止剤が添加され」た「AC-HW-10のザイクセン」は、ロジン誘導体を含まないものと解されることから、上記aの塗工層もロジン誘導体を含むものではなく、よって、上記aにおける甲2発明の「ヒートシール接着に使用する」「紙」は、後述する相違点を除き、本件発明1の「ヒートシール紙(ただし、前記塗工層がロジン誘導体を含むものを除く)」に相当する。

(イ)上記(ア)から、本件発明1と甲2発明とは次の点で一致する。

(一致点)

「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、

前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含み、

前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂を含むヒートシール紙(ただし、前記塗工層がロジン誘導体を含むものを除く)。」

(ウ)また、本件発明1と甲2発明とは次の点で相違する。

(相違点4)

「紙基材」について、本件発明1では、「坪量が、20g/m

2

以上600g/m

2

以下」であるのに対して、甲2発明では、具体的な坪量が特定されるものではない点。

(相違点5)

本件発明1は、「前記塗工層がワックスを含む場合、前記塗工層はカルナバワックスを含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.5質量部以上10質量部以下であり、前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であ」るのに対して、甲2発明では、「ワックス系のブロッキング防止剤」を含むものである点。

イ 判断

事案に鑑みて、まず相違点5について検討する。

アンチブロッキング剤として、カルナバワックスは、例えば甲5(5頁18行~6頁3行等参照。訳文として、甲5のパテントファミリー文献である特表2021-501247号公報(【0016】等)を参照)、甲6(130頁等参照)に示されているように周知のものである。

しかしながら、甲2発明の「AC-HW-10のザイクセン」は、「塗工表面にカルボキシル基を有するオレフィン系のコーティング皮膜を形成させる」ものであるところ、甲5又は甲6は、カルナバワックスがそのようなコーティング皮膜に適合するアンチブロッキング剤であることを開示するものではなく、技術常識に照らして自明ともいえないから、甲2発明において、アンチブロッキング剤としてカルナバワックスを適用する動機付けがあるとはいえない。

また、本件発明1には、「前記塗工層がワックスを含む場合」に該当しない場合も含まれるところ、甲2発明において、「ワックス系のブロッキング防止剤」を除去して、本件発明1における「前記塗工層がワックスを含む場合」に非該当かつ「前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であ」るものとすることが当業者とって容易に想到し得るといえる根拠は見いだせない。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2~6について

本件発明2~6は、本件発明1を減縮した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 サポート要件について

(1)サポート要件の判断基準

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるべきものである。

(2)当審の判断

ア 発明の詳細な説明に記載されている発明が解決しようとする課題

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、ヒートシール紙、特に包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有するヒートシール紙に関する。」との記載があり(【0001】)、また、「塗工によって塗工層を積層する際の塗料乾燥工程、また紙製の包装材料を食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材などに成形する際には熱を与える必要があ」り、「この時、各工程後に熱が残っていた(熱可塑性樹脂が軟化したままだった)場合、ブロッキングが発生し製品不良となる問題がある」等から、「良好なブロッキング耐性とヒートシール適性を兼ね備えた包装紙の提供が必要である」旨の記載(【0002】~【0003】)がある。

よって、発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題として、良好なブロッキング耐性とヒートシール適性を兼ね備えたヒートシール紙を提供することが記載されていると認められる。

イ 請求項1について

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、顔料及びワックスのそれぞれの配合量についての記載があり(【0020】、【0022】)、さらに、表1とともに、実施例1~6及び比較例1~3についての記載がある(【0037】、【0038】)ところ、これらの記載によれば、ヒートシール紙の塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含んでいても、顔料の配合量が熱可塑性樹脂100質量部に対し200質量部である比較例2や、ワックスの配合量が熱可塑性樹脂100質量部に対し1.1質量部である比較例3においては上記アの課題を解決し得ないことが理解できる。

これに対し、本件発明1は、「前記塗工層がワックスを含む場合、前記塗工層はカルナバワックスを含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.5質量部以上10質量部以下であり、前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であ」ることが特定されているから、比較例2及び比較例3を含むものではない。

そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえない。

本件発明2~6についても、本件発明1を減縮した発明であることから同様である。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 申立人が主張する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、サポート要件違反についての複数の項目のうちの一部(上記第4の1(2)を除く部分)であり、概略、以下のとおりである(各理由を、以下、それぞれ「理由1」~「理由6」という。)。

(1)理由1

本件発明1は、「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層」を有するものであるが、塗工層の塗工量については何ら規定されておらず、塗工量が極度に少ないような場合であっても発明の効果であるヒートシール適性を有するものとは考え難いから、塗工量を限定しない範囲にまで、拡張ないし一般化できるものではない。

(2)理由2

本件発明1は、「塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックス又は顔料から選ばれる1種以上を含む」ことを規定するが、塗工層中のワックス又は顔料については何ら規定されておらず、ワックスの含有量又は顔料の含有量が極度に少ないような場合又は多いような場合であっても、発明の効果であるブロッキング耐性が良好な又はヒートシール適性を有するヒートシール紙が得られるとは考え難いから、ワックス又は顔料の含有量を限定しない範囲にまで、拡張ないし一般化できるものではない。

(3)理由3

本件発明2は、「ワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上である」ことを規定する。

ここで、上記規定の下限値である「1.2質量部」は、比較例3の「1.1質量部」に極めて近い値であるから、熱可塑性樹脂100質量部に対して、ワックス配合量が1.2質量部の場合に、本件発明の効果が得られるものであるのか不明である。

また、ワックスの配合量の上限は規定されておらず、ワックスの配合量が極めて多い場合には、ヒートシール適性に劣ることは、当業者の技術常識であり、本件発明の効果が得られるものであるとは考え難いから、「1.2質量部」の臨界的意義はいずれも把握し得ず、ゆえにこの値を境界値として認識することは不可能である。

すなわち、出願時に技術常識に照らしても、ワックスの含有量が1.2質量部以上の全ての範囲において、課題が解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されているとはいえず、したがって、請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(4)理由4

本件発明3は、「顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、200質量部未満である」ことを規定する。

ここで、上記規定の上限値である「200質量部未満で」は、比較例2の「200質量部」に極めて近い値であるから、熱可塑性樹脂100質量部に対して、ワックス配合量が199質量部の場合に、本件発明の効果が得られるものであるのか不明である。

また、顔料の配合量の下限は規定されておらず、顔料の配合量が極めて少ない場合には、ブロッキング耐性に劣ることは、当業者の技術常識であり、本件発明の効果が得られるものであるとは考え難いから、「200質量部」の臨界的意義はいずれも把握し得ず、ゆえにこの値を境界値として認識することは不可能である。

すなわち、出願時に技術常識に照らしても、顔料の配合量が200質量部未満での全ての範囲において、課題が解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されているとはいえず、したがって、請求項3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(5)理由5

本件発明4は、「アンチブロッキング剤として、ワックスと顔料との両方を含むこと」を規定する。

しかし、本件発明4では、ワックス及び顔料の含有量について何ら規定されていないところ、比較例2で示されているように、顔料の含有量が多い場合には、ヒートシール適性が不良であり、顔料の配合量が過度である場合にも、発明の効果が奏されるとは考え難く、同様に、比較例3で示されているように、ワックスの含有量が少ない場合には、プロッキング適性に劣り、ワックスの配合量が微量である場合にも発明の効果が奏されるとは考え難い。

したがって、請求項4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(6)理由6

本件発明5は、「塗工層が、ガラス転移温度が100°C以下の熱可塑性樹脂を含む」ことを規定するが、本件特許明細書では、実施例1~実施例6で使用した熱可塑性樹脂である「Michelman社製MICHEM PRIME 498345N.S」のガラス転移温度が記載されていない。

すなわち、本件発明5に記載されている事項が、実施例でサポートされていない。

2 しかしながら、各理由については以下のとおりであるから、いずれも採用することができないものである。

(1)理由1

本件発明1は、「ヒートシール紙」であることが特定されており、塗工量が極度に少ないためにヒートシール適性を有しないものが実質的に排除されているといえる。

(2)理由2

本件訂正の結果、本件発明1は、「前記塗工層がワックスを含む場合、前記塗工層はカルナバワックスを含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.5質量部以上10質量部以下であり、前記塗工層が顔料を含む場合、前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下であ」ることが特定されるものとなり、これにより、ワックスの含有量又は顔料の含有量が極度に少ないような場合又は多いような場合が排除されている。

(3)理由3

本件訂正の結果、本件発明2は、「前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、2.5質量部以上10質量部以下である」ことが特定されるものとなり、これにより、本件特許明細書に記載されている比較例3に極めて近い場合や、ワックスの配合量が極めて多い場合が排除されている。

(4)理由4

本件訂正の結果、本件発明3は、「前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、80質量部以上150質量部以下である」ことが特定されるものとなり、これにより、本件特許明細書に記載されている比較例2に極めて近い場合や、顔料の配合量が極めて少ない場合が排除されている。

(5)理由5

請求項4は請求項1~3のいずれかを引用しているところ、本件訂正の結果、本件発明1~3は、それぞれ上記(2)~(4)で述べた事項が特定されるものとなり、これにより、本件発明4は、ヒートシール適性が不良となるほどに顔料の含有量が多い場合等が排除されている。

(6)理由6

本件特許明細書の「本発明で使用する熱可塑性樹脂は、製紙分野においてヒートシール層の形成に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、ガラス転移温度が100°C以下であるものを用いることができる。」(【0018】)との記載によれば、各実施例における熱可塑性樹脂のガラス転移温度についての記載の有無は、請求項5の記載がサポート要件を満足するか否かと無関係といえる。

第6 むすび

以上のとおり、請求項1~6に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、取り消すことができない。

また、他に、請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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