sokuhyo

Trademark Appeal Case

熱中症判定特許有効性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025701115
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7687918号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7687918号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和3年9月17日の出願であって、令和7年5月26日にその特許権の設定登録がされ、令和7年6月3日に特許掲載公報が発行された。

本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。

令和 7年12月 3日 :特許異議申立人柏木里実(以下「申立人」

という。)による請求項1~8に係る特許

に対する特許異議の申立て

第2 本件発明

本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」等という。)は、次に示す特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】

対象者の生体情報を取得する生体情報取得部と、

前記生体情報に基づいて前記対象者の熱中症発症リスクを判定する熱中症発症リスク判定部と、

警告報知部と、

を備え、

前記熱中症発症リスク判定部は、

前記生体情報と、生体情報閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記生体情報閾値を継続して超過する第1継続時間を算出し、

前記第1継続時間が第1継続時間閾値を超え、かつ、前記対象者を対象としたWBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定し、

前記警告報知部は、前記熱中症発症リスクが高い旨を前記対象者に報知し、

前記熱中症発症リスク判定部は、さらに、

前記生体情報と、回復閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、

前記第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、

前記警告報知部は、さらに、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する

ことを特徴とする熱中症発症リスク判定システム。

【請求項2】

前記熱中症発症リスク判定部は、

前記生体情報が前記生体情報閾値を超過する時点である第1基準時を判定し、

前記所定時間は、前記第1基準時から前記第1継続時間閾値の間である

ことを特徴とする請求項1に記載の熱中症発症リスク判定システム。

【請求項3】

前記熱中症発症リスク判定システムは、さらに、

温度データを取得する温度情報取得部と、

湿度データを取得する湿度情報取得部と、

前記対象者を対象としたWBGTを、前記温度情報取得部で取得された温度データと、前記湿度情報取得部で取得された湿度データと、に基づいて算出するWBGT算出部と、

を備える

ことを特徴とする請求項1または2に記載の熱中症発症リスク判定システム。

【請求項4】

前記熱中症発症リスク判定システムは、さらに、

複数の前記温度情報取得部と、

複数の前記湿度情報取得部と、

前記対象者の現在位置を取得する位置情報取得部と、

を備え、

前記WBGT算出部は、

前記位置情報取得部で取得された前記対象者の現在位置に基づいて、複数の前記温度情報取得部で取得された複数の温度データと、複数の前記湿度情報取得部で取得された複数の湿度データと、から、WBGTの算出に用いる温度データ及び湿度データを選択する

ことを特徴とする請求項3に記載の熱中症発症リスク判定システム。

【請求項5】

前記熱中症発症リスク判定システムは、さらに、

前記生体情報閾値を算出する生体情報閾値算出部を備え、

前記生体情報閾値算出部は、

前記生体情報から生体情報分布を作成し、前記生体情報分布における確率密度の総和を100%としたとき、前記生体情報分布における上位X%と下位(100-X)%との境界値を、前記生体情報閾値として算出する

ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の熱中症発症リスク判定システム。

【請求項6】

前記生体情報は、脈拍数であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の熱中症発症リスク判定システム。

【請求項7】

対象者の生体情報を取得する生体情報取得部と、

前記生体情報に基づいて前記対象者の熱中症発症リスクを判定する熱中症発症リスク判定部と、

警告報知部と、

を備え、

前記熱中症発症リスク判定部は、

前記生体情報と、生体情報閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記生体情報閾値を継続して超過する第1継続時間を算出し、

前記第1継続時間が第1継続時間閾値を超え、かつ、前記対象者を対象としたWBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定し、

前記警告報知部は、前記熱中症発症リスクが高い旨を前記対象者に報知し、

前記熱中症発症リスク判定部は、さらに、

前記生体情報と、回復閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、

前記第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、

前記警告報知部は、さらに、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する

ことを特徴とする熱中症発症リスク判定装置。

【請求項8】

コンピュータに、

生体情報取得手段によって取得された対象者の生体情報に基づいて、前記対象者の熱中症発症リスクを判定する熱中症発症リスク判定手段と、

警告報知手段と、

を実行させ、

前記熱中症発症リスク判定手段は、

前記生体情報と、生体情報閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記生体情報閾値を継続して超過する第1継続時間を算出し、

前記第1継続時間が第1継続時間閾値を超え、かつ、前記対象者を対象としたWBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定し、

前記警告報知手段は、前記熱中症発症リスクが高い旨を前記対象者に報知し、

前記熱中症発症リスク判定手段は、さらに、

前記生体情報と、回復閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、

前記第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、

前記警告報知手段は、さらに、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する

ことを特徴とする熱中症発症リスク判定プログラム。」

第3 申立理由の概要

申立人は、主たる証拠として甲第1号証を提出し、さらに、従たる証拠として甲第2~9号証を提出した上で、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している(以下、証拠番号を表記する際は「第」及び「号証」を略する。)。

甲1:特開2018-116584号公報

甲2:特開2013-220236号公報

甲3:特開2016-87115号公報

甲4:特開2018-43029号公報

甲5:特開2018-130531号公報

甲6:特開2020-113117号公報

甲7:特開2005-334021号公報

甲8:特開2021-23534号公報

甲9:特開2018-175840号公報

第4 文献の記載

1 甲1に記載された事項及び甲1発明の認定

(1) 甲1に記載された事項

本件特許の出願前に発行された甲1には、以下の事項が記載されている(下線は、当合議体で付与したものである。以下同じ。)。

「【技術分野】

【0001】

本発明は熱中症予防システム、熱中症予防方法及びプログラムに関し、特に人の活動状態及び環境状態をモニタリングし、熱中症に関するリスクを予測し、熱中症の予防に必要な情報提供を行う技術に関する。

【背景技術】

【0002】

毎年、熱中症による事故が報告されている。平成27年度の熱中症による救急搬送者は5万人を超えており、その13%強を7歳以上18歳以下の若年層が占めている。若年層における熱中症の発生原因は、主に授業やクラブ活動等の教育活動である。

【0003】

一般に、熱中症の発生リスクは個体能力(体力、身体の大きさ、筋量、体温の恒常性を保つ身体機能等)、環境(気温、湿度、日照、風速等)及び運動量の影響を受ける。特に発育途上にある若年層では、このうちの個体能力、例えば体温の恒常性を保つ身体機能等における個人差が大きい。そのため、例えば複数人が同じ環境で同じ運動を行うとき、ある者にとっては問題のない運動強度であっても、ある者にとっては熱中症リスクが顕在化しかねない過度な運動強度となることがある。したがって、個人毎の個体能力の相違等に対応した熱中症対策が求められている。」

「【発明の効果】

【0017】

本発明により、人の活動状態及び環境状態をモニタリングし、熱中症に関するリスクを予測し、熱中症の予防に必要な情報提供を行うことが可能な熱中症予防システム、熱中症予防方法及びプログラムを提供することができる。」

「【0019】

以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず、図1を用いて、本発明の実施の形態にかかる熱中症予防システム10の構成について説明する。

熱中症予防システム10は、身体状態センサ110、環境状態センサ120、受信機130、熱中症予防装置210、管理者端末310を含む

【0020】

身体状態センサ110は、人の身体及び運動の状態を測定する装置である

。身体状態センサ110は、例えば心拍計、体温計、9軸センサ等により、心拍、体温、加速度、角速度、地磁気等を測定して、測定値を出力する。」

「【図1】

74

129

0001434198000001.jpg

「【0021】

図2乃至図5に、身体状態センサ110の一例を示す。この身体状態センサ110は、人の身体に装着可能な装置(ウェアラブルデバイス)であり、体温測定部111、心拍測定部112、9軸センサ117、通信ユニット118を有する。加えて、稼動状態表示部113、充電状態表示部114、充電用端子115,充電器用固定みぞ116等を備えていても良い。図3及び図4は、身体状態センサ110を衣服の一部に固定したり、装着具を用いたりすることによって人に装着する方法の一例を示している。図3は、身体状態センサ110をウェストベルトに固定することにより人に装着した例である。図4は、身体状態センサ110を帽子の裏側に固定することにより、人の額にセンサ部分が位置するよう身体状態センサ110装着した例である。身体状態センサ110を人の頭部に固定するため、帽子のほか、バンダナ、ヘッドバンド等の任意の手段を用いることができる。図5は、身体状態センサ110を腕章型の装着具を介して人に装着した例である。これらの例のほか、例えばリストバンド等の任意の手段を用いて身体状態センサ110を装着できる。」

「【図2】

88

132

0001434198000002.jpg

【図3】

109

43

0001434198000003.jpg

【図4】

82

141

0001434198000004.jpg

【図5】

92

77

0001434198000005.jpg

「【0022】

体温測定部111は、人の体温(体表温度)を測定するセンサである。心拍測定部111は、人の心拍を測定するセンサである。これにより、身体状態センサ110は、体温と心拍との両方を同時に測定できる。好ましくは、この例のように体温測定部111及び心拍測定部112が人の身体表面に面する向きに身体状態センサ110を装着する。9軸センサ117は、加速度、角速度、地磁気方向等を検出するセンサである。稼動状態表示部113及び充電状態表示部114は、身体状態センサ110が動作中又は充電中であることを示す表示部である。典型的には、所定の色又はパターン等でLED等のランプを駆動することにより上記表示を行う。充電用端子115は、図示しない充電器の給電端子と接触して内蔵バッテリに電力を供給する。充電器用固定みぞ116は、図示しない充電器の一部と嵌合し、充電用端子115と充電器の給電端子とを接触させた状態で、身体状態センサ110と充電器とを固定する。通信ユニット118は、受信機130と通信して測定データ等を送信する。通信ユニット118と受信機130とが用いる通信規格は、状況に応じて適宜選択できる。例えば、運動場や体育館など、通信ユニット118と受信機130との間に遮蔽物が少なく距離も限定された状況で用いる場合は、Bluetooth(登録商標)等の消費電力の少ない近距離無線通信規格を使用できる。あるいは、無線LAN、特定小電力無線、任意の移動体通信方式等を用いても良い。あるいは、身体状態センサ110は、熱中症予防装置310と直接通信して測定データ等を送信しても良い。

【0023】

環境状態センサ120は、気温計(乾球温度計)、湿球温度計、黒球温度計、湿度計、日照計、風速計等により、気温、湿度、日照、風速、WBGT(暑さ指数:Wet-Bulb Globe Temperature)等を計測して、測定値を出力する

。好ましくは、環境状態センサ120は、身体状態センサ110を装着する人が活動する場所の近傍に設置され、その人の活動環境の状態を測定する。また、好ましくは、環境状態センサ120も通信ユニット118と同様の通信ユニット(図示しない)を備え、受信機130と通信して測定データ等を送信する。あるいは、環境状態センサ120は、熱中症予防装置310と直接通信して測定データ等を送信しても良い。なお、環境状態センサ120は、身体状態センサ111と一体であっても良い。あるいは、環境状態センサ120を備える代わりに、公知の気象情報提供サービス等から熱中症予防装置130に対し気温、湿度、日照、風速、WBGT等の情報が送信されるよう構成しても良い。

【0024】

受信機130は、身体状態センサ110及び環境状態センサ120とそれぞれ通信し、測定データを受信する

。例えば、受信機130は、BluetoothLEのポーリング機能を用いて、上記センサから測定データを収集する。これにより、多人数の測定データを一括でモニタリングできる。また、受信機130は熱中症予防装置210と通信可能に接続されており、身体状態センサ110及び環境状態センサ120から受信した測定データを熱中症予防装置210に送信する。典型的には、受信機130と熱中症予防装置210との間の通信はインターネットを経由する。

【0025】

熱中症予防装置210は、身体状態データ取得部211、環境状態データ取得部212、予測部213、関係データ記憶部214、出力部215を含む

。熱中症予防装置210は、典型的にはインターネット等のネットワーク上に公開されたサーバである。例えば、熱中症予防装置210は、1又は複数の物理サーバ又は仮想サーバを用いて実現され、ネットワークを介して本発明にかかる各種サービスを提供する。

【0026】

身体状態データ取得部211は、受信機130又は身体状態センサ110と通信し、身体状態センサ110装着者の身体及び運動の状態の測定データを受信する。環境状態データ取得部212は、受信機130又は環境状態センサ120と通信し、環境状態センサ120の測定データを受信する。

【0027】

予測部213は、身体状態データ取得部211から取得した測定データと、環境状態データ取得部212から測定データと、関係データ記憶部214に記憶されている関係データとに基づき、熱中症の発生リスクを予測する

。ここで、関係データとは、身体状態の測定データ(心拍、体温、加速度、角速度、地磁気等)及び環境状態の測定データ(気温、湿度、日照、風速等)と、熱中症の発生リスクとの関係を定義したデータであり、例えば条件式やテーブル等の形態で関係データ214に記憶される。図6に、関係データの例を示す。この図は、「測定指標」が「条件」に該当する場合には、警告すべきレベルの熱中症発生リスクが存在することを示している。予測部213は、身体状態及び環境状態の測定データから、必要に応じ「測定指標」にあたる値を生成し、生成した値と「条件」とを比較する。生成した値が「条件」に合致する場合、予測部213は、熱中症発生リスクを警告すべきレベルと判定する。一方、合致しない場合は、熱中症発生リスクは存在しない又は低いものと判定する。

【0028】

一例として、関係データとして基準Dを用いる場合の予測部213の動作について具体的に説明する。予測部213は、身体状態の測定データのうち心拍を一定時間毎に取得する。心拍が120以上である間、予測部213は以下の処理を実行し、心拍が120以下となったなら以下の処理の実行を中断する。予測部213は、一定時間毎に運動量を繰り返し算出し、算出結果を一定期間にわたり保存する。運動量は、身体状態の測定データのうち加速度や角速度に基づき、任意の公知の手法を用いて算出することが可能である。予測部213は、保存された一定期間の運動量に基づき、運動量が漸減傾向にあるか否かを判定する。運動量が漸減傾向にある場合、予測部213はタイマを起動し、1分後の心拍を取得する。1分後の心拍が120以上である場合、予測部213は、熱中症発生リスクを警告すべきレベルと判定する。

【0029】

測定部213は、複数の基準の論理的な組み合わせを関係データとして用いることもできる。例えば測定部213は、基準Eを満たし、かつ、基準F又は基準Gを満たす場合に、熱中症リスクありと判定することとしても良い。予測部213は、基準Eによる判定を行うため、一定時間ごとに、身体状態センサ110から心拍数を、環境状態センサ120からWBGTをそれぞれ取得する。また、予測部213は、基準F又は基準Gによる判定を行うため、一定時間ごとに、身体状態センサ110から皮膚温度を取得する。そして、

予測部213は、心拍数が最大心拍の85%以上かつWBGTが25以上の状態が30分以上継続し(基準E)、かつ、皮膚温度が36.02以上又は37以上である場合(基準F又は基準G)、熱中症発生リスクを警告すべきと判定する

。ここで、最大心拍は、基準A又は基準Bにより計算できる。

【0030】

このように、複数の基準を組み合わせることにより、熱中症リスクがより高い蓋然性で存在することを推定できる。基準Eによれば、人が長時間の運動により汗が出切ったような状態にあることを推定できる。基準F又は基準Gによれば、人が臓器にダメージを受け得る状態にあることを推定できる。体温には体の中心部の温度(深層体温)と外側の温度(皮膚温度)とがあり、熱中症において問題となるのは、主に深部体温の上昇による臓器へのダメージである。通常、運動時には皮膚からの放射及び輻射、並びに発汗により皮膚温度が下がり、深層体温も維持される。しかし、何らかの理由で放熱が滞れば、深層体温が皮膚温度とともに上昇し始める。したがって、皮膚温度をモニタリングすることによって、深層体温の異常を推定し、身体の恒常性が崩れたことを検知できる。基準Eを満たし、かつ、基準F又は基準Gを満たしている場合は、長時間の運動により汗が出切り、深層体温が高い状態で、さらに運動を続けていることになるから、熱中症リスクは相当程度高いと推定できる。

【0031】

関係データ記憶部214は、身体状態の測定データ(心拍、体温、加速度、角速度、地磁気等)及び環境状態の測定データ(気温、湿度、日照、風速等)と、熱中症の発生リスクとの関係を定義した関係データを記憶する記憶領域である。関係データ記憶部214は、例えば図6に示すような関係データを、条件式やテーブル等の形態で記憶する。あるいは、関係データ記憶部214は、身体状態の測定データ及び環境状態の測定データを入力データとして入力すると、熱中症の発生リスクを出力するよう学習させた学習モデルを関係データとして記憶しても良い。このような学習モデルは、例えば、身体状態の測定データ及び環境状態の測定データを入力データ、熱中症の発生事例を教師データとする教師あり学習により生成することができるが、本発明は特定の学習方法に限定されるものでなく、他の公知の学習方法を任意に用い得る。

【0032】

出力部215は、予測部213が算出した熱中症発生リスク等を、管理者端末210に対して出力する。典型的には、出力部215と管理者端末310とはインターネット等のネットワークを介して通信可能に接続される。たとえ幅、予測部213が熱中症発生リスクを警告すべきレベルと判定した場合、

出力部215は、管理者端末310としてのモバイル端末等に対し、身体状態センサ110又はその装着者を識別可能な情報と、熱中症発生リスクの内容を示す情報とをプッシュ配信又はメール配信等により通知する

ことができる。また、出力部215は、管理者端末310としてのモニタリング端末等に対し、身体状態センサ110又はその装着者を識別可能な情報と、身体状態の測定データや環境状態の測定データとを随時配信することもできる。

【0033】

管理者端末310は、モバイル端末やパーソナルコンピュータ等の端末装置であり、熱中症予防装置210から送信される情報を受信して、管理者に対し出力する。例えば、管

理者端末310は、特定の身体状態センサ110の装着者が、熱中症発生リスクが警告レベルとなった旨のプッシュ通知を受信すると、受信した情報を画面表示する

。この際、例えば「誰々は基準Dを超えた運動をしています」等の

警告メッセージを表示しても良い

これにより、管理者は当該装着者を休憩させたり、水分補給を指導したりといった対応を取ることが可能となる

。また、管理者端末310は、身体状態の測定データや環境状態の測定データを随時受信し、これらの情報をリアルタイムに表示したり、蓄積したりすることもできる。これにより、管理者は装着者の運動内容等を個別に分析し、熱中症予防のための指導を行うことが可能となる。」

「【0041】

また、上述の実施の形態では、予測部213が熱中症リスクをある/なしの2値で判断する例を示したが、本発明はこれに限定されるものでなく、例えば関係データ(基準)毎に熱中症リスクの警告レベルを変えても良い。例えば、基準Aは「非常に危険」、基準Bは「危険」、基準Cは「注意」といったように、複数の警告レベルのうち任意のものを任意の基準に対応付けて設定することができる。同様に、複数の基準を組み合わせたものに対しても、それぞれ任意の警告レベルを設定することができる。」

「【0043】

また、上述の実施の形態において、特定の装置に備えることとされた機能の一部又は全部を、当該装置に加えて又は当該装置に代えて、他の装置に備えさせることも可能である。例えば、熱中症予防装置210が備える予測部213や関係データ記憶部214と同様又はその一部の機能を、身体状態センサ110に備えさせることとしても良い。この場合、身体状態センサ110は、測定値を用いて自ら熱中症リスクを判定する。判定結果は、例えば稼動状態表示部113又は図示しない他の表示部を特定の色又はパターンで点灯することで外部に通知しても良い。この場合、熱中症予防システム10から受信機130、熱中症予防装置210、管理者端末310を削除することもできる。あるいは、例えば管理者端末310と同様の機能を身体状態センサ110に備えさせることとしても良い。この場合、身体状態センサ110は、熱中症予防装置210から熱中症発生リスクに関する通知を受け取ってそれを外部に出力する。」

(2) 甲1発明の認定

上記(1)の甲1に記載された事項から、甲1には、発明を実施するための形態の熱中症予防システムについて次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(なお、括弧内は認定の根拠とした段落番号などを参考までに示す。以下同じ。)。

<甲1発明>

「身体状態センサ110、環境状態センサ120、受信機130、熱中症予防装置210、管理者端末310を含み、(【0019】)

身体状態センサ110は、人の身体及び運動の状態を測定する装置であり、(【0020】)

環境状態センサ120は、気温計(乾球温度計)、湿球温度計、黒球温度計、湿度計、日照計、風速計等により、気温、湿度、日照、風速、WBGT(暑さ指数:Wet-Bulb Globe Temperature)等を計測して、測定値を出力し、(【0023】)

受信機130は、身体状態センサ110及び環境状態センサ120とそれぞれ通信し、測定データを受信し、(【0024】)

熱中症予防装置210は、身体状態データ取得部211、環境状態データ取得部212、予測部213、関係データ記憶部214、出力部215を含み、(【0025】)

予測部213は、身体状態データ取得部211から取得した測定データと、環境状態データ取得部212から測定データと、関係データ記憶部214に記憶されている関係データとに基づき、熱中症の発生リスクを予測し、(【0027】)

予測部213は、心拍数が最大心拍の85%以上かつWBGTが25以上の状態が30分以上継続し(基準E)、かつ、皮膚温度が36.02以上又は37以上である場合(基準F又は基準G)、熱中症発生リスクを警告すべきと判定し、(【0029】)

出力部215は、管理者端末310としてのモバイル端末等に対し、身体状態センサ110又はその装着者を識別可能な情報と、熱中症発生リスクの内容を示す情報とをプッシュ配信又はメール配信等により通知し、(【0032】)

管理者端末310は、特定の身体状態センサ110の装着者が、熱中症発生リスクが警告レベルとなった旨のプッシュ通知を受信すると、受信した情報を画面表示し、警告メッセージを表示され、これにより、管理者は当該装着者を休憩させたり、水分補給を指導したりといった対応を取ることが可能となる(【0033】)

熱中症予防システム10。」

2 甲2~9に記載された事項の認定

(1) 甲2に記載された技術事項

本件特許の出願前に発行された甲2には、以下の技術事項が記載されている。

「ユーザーの運動量Xを取得する運動量取得手段と、湿球黒球温度演算手段の演算によって求めた湿球黒球温度Wを、運動量取得手段によって取得された運動量Xに基づいて補正するために、湿球黒球温度演算手段が演算した湿球黒球温度W及び運動量取得手段によって取得された運動量Xから所定の演算を行って、補正湿球黒球温度Wbを求める補正湿球黒球温度演算手段とを設け、補正湿球黒球温度演算手段で湿球黒球温度Wを運動量Xに応じて補正し、(【0010】)

危険度判定手段34は、予め複数の段階に設定された熱中症の危険レベルのうち、どの危険レベルに相当するかを、補正湿球黒球温度演算手段33が求めた補正湿球黒球温度Wbに基づいて判定するものであり、ここで、熱中症の危険レベルとしては、4段階の危険レベルが設定され、(【0029】)

判定結果が「注意」レベルである場合、判定結果報知手段35は、緑色LED22Bを点灯させるとともに、所定の時間が経過する毎に、「注意」レベルに応じた比較的音量が大きく、且つ、短い報知音をスピーカ23から出力するようになっており、判定結果が「警報」レベルである場合、判定結果報知手段35は、黄色LED22Cを点灯させるとともに、「警報」レベルに応じた比較的音量の大きい警報音を、判定結果が「注意」レベル以下に戻るまで継続してスピーカ23から出力するようになっており、(【0031】)

判定結果が「厳重警報」レベルである場合、判定結果報知手段35は、桃色LED22Dを点灯させるとともに、「厳重警報」レベルに応じた比較的騒がしい警報音を、判定結果が「警報」レベル以下に戻るまで継続してスピーカ23から出力するようになっており、判定結果が「危険」レベルである場合、判定結果報知手段35は、赤色LED22Dを点灯させるとともに、「危険」レベルに応じた騒がしく警報音を、判定結果が「厳重警報」レベル以下に戻るまで継続してスピーカ23から出力するようになっていること。(【0032】)」

(2) 甲3に記載された技術事項

本件特許の出願前に発行された甲3には、以下の技術事項が記載されている。

「補正血流量とは、皮膚血流量から、運動により増加したと推定される皮膚血流量を差し引いた、推定される安静時の皮膚血流量のことであり、(【0045】)

推定される安静時の皮膚血流量(補正血流量)を求め、推定される安静時の皮膚血流量が増加傾向にあるとき、判定部13により、熱中症の疑いがあると判定し、電子機器1は、運動により皮膚血流量が増加したことに起因して、皮膚血流量が増加しているとき、熱中症の疑いがないと判定し、(【0079】)

制御部10は、算出した増加率が所定の増加率以上であるか否かを判定し、制御部10は、判定処理により、補正血流量の増加率が所定の増加率以上であると判定したとき、熱中症の疑いがあることを示す情報を表示部に出力し、表示部30は、熱中症の疑いがあることを示す情報が入力されると、熱中症の疑いがあることを示す情報を表示し、(【0113】)

制御部10は、補正血流量の増加率が所定の増加率未満のとき、熱中症の疑いがあることを示す情報を非表示にする命令を表示部30に出力し、表示部30は、熱中症の疑いがあることを示す情報を非表示にする命令が入力されると、熱中症の疑いがあることを示す情報を非表示にすること。(【0114】)」

(3) 甲4に記載された技術事項

本件特許の出願前に発行された甲4には、以下の技術事項が記載されている。

「体調判定装置Aは、対象者の生体拍数を測定する測定部1と、覚醒時の生体拍数データが記憶されている記憶部2と、記憶部2に記憶されている覚醒時の生体拍数データから測定部1で測定された生体拍数を減じた値が予め設定された第一閾値を超えた場合に対象者に疲労及び/又は眠気が生じていると判定する体調判定部3とを備え、(【0011】)

体調判定部3は、対象者に疲労若しくは眠気の何れか一方又は双方が生じていることを示す警告信号を出力モジュール46に出力し、対象者に疲労若しくは眠気の何れか一方又は双方が生じていることを警告して休息が必要であることを対象者に知らせ、(【0040】)

覚醒生体拍数差分は、第一閾値以下であると、体調判定部3は、対象者に疲労及び眠気は生じていないと判断し、対象者に対する警告を停止すること。(【0042】)」

(4) 甲5に記載された技術事項

本件特許の出願前に発行された甲5には、以下の技術事項が記載されている。

「熱中症リスク判定部22は、作業者10の安静時に取得された生体情報である安静時データを基に、熱中症発症リスクが高まったかどうかを判定するための閾値を生成し、作業中の生体情報である作業時データと当該閾値を比較することで作業者10の熱中症発症リスクを判断し、(【0031】)

携帯端末12が、警告情報を受信した場合には、携帯端末12は警告報知部としての機能を発揮して、音声、画面表示、ランプの点灯/点滅、振動などの手段を用いて、作業者10に熱中症発症リスクが高まっていることを報知し、(【0057】)

クラウドサーバ21は、作業者10の携帯端末12、監督者30の情報機器31の少なくともいずれか一方から、作業者10が熱中症の対策を講じたことの通知を受けて、熱中症発症リスクの判断動作を終了することができ、また、クラウドサーバ21は、熱中症リスクを低減する対策を執るべきと判断した後に、作業者10の生体情報が安静時の状態に戻ったことを検出することによって、熱中症発症リスクの判断動作を終了することができること。(【0079】)」

(5) 甲6に記載された技術事項

本件特許の出願前に発行された甲6には、以下の技術事項が記載されている。

「測定装置が、前記対象者が身につけた心拍データを検出する心拍センサと加速度データを検出する加速度センサとを備える生体センサであり、(【請求項9】)

被評価者が装着する測定装置が備える心拍検出手段によって検出された被評価者の心拍データと、三次元の加速度センサにより取得された加速度データとに基づいて被評価者の行った作業の強度を示す作業負担指数を算出し、また、測定装置から得られた被評価者の服内温度と、被評価者が作業している現場の環境温度とに基づいて、被評価者の暑熱負荷指数を算出し、そして、これら算出された作業負担指数と暑熱負荷指数とに基づいて、熱中症を発症するリスクを示す熱中症発症リスク指数を算出する熱中症発症リスク評価方法であって、(【0066】)

熱中症発症リスク評価システムにおける熱中症発症リスク指数は、作業負担指数と暑熱負荷指数との線形和として判断でき、このため、熱中症発症リスク指数の値が大きいほど、当該作業者が熱中症を発症するリスクが高くなり、熱中症発症リスク指数の大きさを領域として規定することで、熱中症発症リスクが、高い(=危険)な状態にあるのか、やや高い(=注意)な状態にあるのか、それとも低い(=安全)な状態にあるのかをランク付けすることができ、このため、評価判定部22で算出された熱中症発症リスク指数のランクに応じて、作業者10自身が、または、監督者である現場監督30が、作業を停止して休憩し、(【0102】)

熱中症発症リスク指数Rの指数移動平均値が1以上の状態が30分以上続いた場合には、熱中症を発症するリスクが極めて高い状態であると判断されて、作業者に休憩を促すなどの熱中症を発症しないように対応策を採り、(【0149】)

ウェアラブルの生体センサを用いて作業者の心拍数を随時把握することで、当該作業者の核心温を推定し、(【0163】)

作業者は、休憩を取り、安静時の心拍数と評価される80bpmに下がり、核心温が平常状態の37°Cまで下がること。(【0185】)」

(6) 甲7に記載された技術事項

本件特許の出願前に発行された甲7には、以下の技術事項が記載されている。

「携帯端末装置10は、(1)GPS受信器12、温度センサ13、圧力センサ14、脈拍センサ15及び電気抵抗センサ16から、現在地点データ及び各生体データを入力する機能、(2)入力した現在地点データ及び各生体データを、監視装置30へ送信する機能、(3)監視装置30から警告データを受信し、この警告データをユーザへ報知する機能を有し、(【0021】)

監視装置30は、(1)携帯端末装置10から現在地点データ及び各生体データを受信するとともに、環境温度観測装置20からWBGTデータを受信する機能、(2)現在地点データの示すユーザの現在地点に最も近い地点の環境温度観測装置20を検索し、この環境温度観測装置20のWBGTデータの示すWBGTに基づき警告データを送信するか否かを判断する機能、(3)生体データに基づき警告データを送信するか否かを判断する機能、(4)警告データを前記携帯端末装置へ送信する機能、(5)警告データを携帯端末装置10へ送信した後に、引き続き携帯端末装置10から生体データを受信し、この生体データに好転が認められなければ救急救命センタ50又は緊急時連絡先60へ連絡する機能、(6).救急救命センタ50又は緊急時連絡先60へ連絡する際に、ユーザについて予め登録されたデータ及び取得された生体データを送信する機能を有し、(【0025】)

監視装置30は、常時送信されてくる測定データの変化を記録し、アラームの設定時間を越えて異常値が確認されると、携帯端末装置10へ警告を送信し、携帯端末装置10は、警告を受けモニタに警告を表示するとともにアラームを鳴動し、ユーザが警告を確認し携帯端末装置10でアラームクリアボタンを押下すると、警告は解除されること。(【0037】)」

(7) 甲8に記載された技術事項

本件特許の出願前に発行された甲8には、以下の技術事項が記載されている。

「クラウドシステム10は、各対象作業者Mtの特定された心拍数データ及び作業者識別IDと、記憶されている心拍数基準値テーブルとに基づいて、当該対象作業者Mt毎の熱中症危険性を評価し、(【0070】)

また、このとき、各対象作業者Mtが作業していると特定された作業エリアAの中継器5から送信された作業エリア識別IDと、当該作業エリア識別IDと同じ作業エリア識別IDが付帯されているWBGTデータと、クラウドシステム10に記憶されているWBGT基準値テーブルと、に基づいて当該対象作業者が作業している作業エリアAにおける熱中症危険性を評価すること。(【0071】)」

(8) 甲9に記載された技術事項

本件特許の出願前に発行された甲9には、以下の技術事項が記載されている。

「対象者のバイタル情報を判定する際には、バイタル平均値μ、第1のバイタル標準偏差σが算出され、続いて、判定基準設定手段17が、以下の式(1)又は式(2)で表される値を、判定基準情報18として利用し、(【0171】)

μ-nσ・・・式(1)

μ+mσ・・・式(2)

ここでn、mは0より大きい数であり、(【0172】)

下限値及び上限値として、上記の式(1)及び式(2)について、μ±2σを採用し、(【0176】)

バイタル情報が正規分布することを前提とすれば、このμ±2σの範囲には、対象者のバイタル情報のうち、全体の約95%強のバイタル情報が分布し、下限値以下又は上限値以上の約5%程度の分布に入るバイタル情報であれば、同バイタル情報を測定した際の対象者は、個体内変動を踏まえても「異常な値」と判定できる状態であると考えられ、このように、上記の式(1)及び式(2)について、μ±2σを採用して、統計的に判定の精度を解析することもできること。(【0177】)」

第5 当審の判断

1 本件発明1について

(1) 本件発明1と甲1発明の対比

ア 本件発明1の「対象者の生体情報を取得する生体情報取得部と、」「を備え、」の特定事項について

甲1発明の「身体状態センサ110」は、本件発明1の「生体情報取得部」に、相当する。

そして、甲1発明の「身体状態センサ110」は、「人の身体及び運動の状態を測定する装置であ[る]」から、本件発明1の「対象者の生体情報を取得する生体情報取得部」に相当する。

したがって、甲1発明は、上記特定事項を備える。

イ 本件発明1の「前記生体情報に基づいて前記対象者の熱中症発症リスクを判定する熱中症発症リスク判定部と、」「を備え、」の特定事項について

甲1発明の「熱中症予防装置210」は、「熱中症の発生リスクを予測」する「予測部213」を含むものである。そうすると、甲1発明の「熱中症予防装置210」は、本件発明1の「熱中症発症リスク判定部」に相当する。

そして、甲1発明の「熱中症予防装置210」は、「身体状態データ取得部211、」「予測部213」「を含み、」「予測部213は、身体状態データ取得部211から取得した測定データと、環境状態データ取得部212から測定データと、関係データ記憶部214に記憶されている関係データとに基づき、熱中症の発生リスクを予測[する]」ものであるから、本件発明1の「前記生体情報に基づいて前記対象者の熱中症発症リスクを判定する熱中症発症リスク判定部」に相当する。

したがって、甲1発明は、上記特定事項を備える。

ウ 本件発明1の「警告報知部と、」「を備え、」の特定事項について

甲1発明の「警告メッセージを表示され[る]」「管理者端末310」は、本件発明1の「警告報知部」に相当する。

したがって、甲1発明は、上記特定事項を備える。

エ 本件発明1の「前記熱中症発症リスク判定部は、前記生体情報と、生体情報閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記生体情報閾値を継続して超過する第1継続時間を算出し、前記第1継続時間が第1継続時間閾値を超え、かつ、前記対象者を対象としたWBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定し、前記警告報知部は、前記熱中症発症リスクが高い旨を前記対象者に報知し、」の特定事項について

(ア) 甲1発明の「熱中症予防装置210」が含む「予測部213」は、「身体状態データ取得部211から取得した測定データ」と「心拍数が最大心拍の85%以上かつWBGTが25以上の状態が30分以上継続し(基準E)、かつ、皮膚温度が36.02以上又は37以上である場合(基準F又は基準G)、熱中症発生リスクを警告すべきと判定」していることから、甲1発明の「熱中症予防装置210」は、本件発明1の「前記生体情報と、生体情報閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記生体情報閾値を継続して超過する第1継続時間を算出し、前記第1継続時間が第1継続時間閾値を超え、かつ、前記対象者を対象としたWBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定」する「熱中症発症リスク判定部」に相当する。

(イ) 甲1発明の「特定の身体状態センサ110の装着者が、熱中症発生リスクが警告レベルとなった旨のプッシュ通知を受信すると、受信した情報を画面表示し、警告メッセージを表示[する]」「管理者端末310」は、本件発明1の「前記熱中症発症リスクが高い旨を前記対象者に報知[する]」「警告報知部」と、「前記熱中症発症リスクが高い旨を」「報知[する]」「警告報知部」の点で一致する。

(ウ) 以上の検討結果を踏まえると、本件発明1と甲1発明の前記特定事項の観点における一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。

a 前記特定事項の観点における一致点

「前記熱中症発症リスク判定部は、前記生体情報と、生体情報閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記生体情報閾値を継続して超過する第1継続時間を算出し、前記第1継続時間が第1継続時間閾値を超え、かつ、前記対象者を対象としたWBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定し、前記警告報知部は、前記熱中症発症リスクが高い旨を」「報知[する]」点。

b 前記特定事項の観点における相違点

警報報知部が報知する対象は、

本件発明1においては、

「対象者」であるのに対して、

甲1発明においては、

「管理者」である点。

オ 本件発明1の「前記熱中症発症リスク判定部は、さらに、前記生体情報と、回復閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、前記第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、前記警告報知部は、さらに、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止することを特徴とする」の特定事項について

甲1発明は、本件発明1の前記特定事項に相当する構成を備えていないから、本件発明1と引用発明は、次の点において相違する。

「前記熱中症発症リスク判定部は、さらに、前記生体情報と、回復閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、前記第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、前記警告報知部は、さらに、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する」点。

カ 本件発明1の「熱中症発症リスク判定システム」の特定事項について

甲1発明の「熱中症予防システム10」は、本件発明の「熱中症発症リスク判定システム」に相当する。

したがって、甲1発明は、上記特定事項を備える。

(2) 一致点及び相違点

上記(1)から、本件発明1と甲1発明は以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

ア 一致点

「対象者の生体情報を取得する生体情報取得部と、

前記生体情報に基づいて前記対象者の熱中症発症リスクを判定する熱中症発症リスク判定部と、

警告報知部と、

を備え、

前記熱中症発症リスク判定部は、

前記生体情報と、生体情報閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記生体情報閾値を継続して超過する第1継続時間を算出し、

前記第1継続時間が第1継続時間閾値を超え、かつ、前記対象者を対象としたWBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定し、

前記警告報知部は、前記熱中症発症リスクが高い旨を報知する

熱中症発症リスク判定システム。」である点。

イ 相違点

(ア) 相違点1

警報報知部が報知する対象は、本件発明1においては、「対象者」であるのに対して、甲1発明においては、「管理者」である点。

(イ) 相違点2

本件発明1は、「前記熱中症発症リスク判定部は、さらに、前記生体情報と、回復閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、前記第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、前記警告報知部は、さらに、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する」のに対し、甲1発明はそのようなものか明らかでない点。

(3) 判断

ア 上記相違点について検討する。

事案に鑑み、相違点2について検討する。

(ア) 以下で検討するとおり、甲1発明において、「前記熱中症発症リスク判定部は、さらに、前記生体情報と、回復閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、前記第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、前記警告報知部は、さらに、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する」こと、すなわち、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、甲1発明及び甲2~9技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(イ) まず、本件発明1の「熱中症発症リスク判定部」は、「前記生体情報と、生体情報閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記生体情報閾値を継続して超過する第1継続時間を算出し、前記第1継続時間が第1継続時間閾値を超え、かつ、前記対象者を対象としたWBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定し、前記警告報知部は、前記熱中症発症リスクが高い旨を前記対象者に報知し、前記熱中症発症リスク判定部は、さらに、前記生体情報と、回復閾値と、に基づいて、前記生体情報が前記回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、前記第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、前記警告報知部は、さらに、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する」ものであるから、

生体情報が生体情報閾値を継続して超過し、WBGTが所定時間継続してWBGT閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが高い旨を判定し、警告報知部は、熱中症発症リスクが高い旨を前記対象者に報知し、その後、生体情報が生体情報閾値未満となっても、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止するまで、前記熱中症発症リスクが高い旨を前記対象者に報知し続け、さらに、回復閾値を継続して超過する第2継続時間を算出し、第2継続時間が第2継続時間閾値を超える場合に、前記対象者の熱中症発症リスクが十分に低まった旨を判定し、前記警告報知部は、前記対象者に対する、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止するものといえる。

(ウ)a そして、甲2に記載された技術事項から、「注意」、「警報」、「厳重警報」及び「危険」の4段階に熱中症の危険レベルを設定し、「注意」、「警報」、「厳重警報」及び「危険」レベルにあったLEDの点灯、警報音を出力するものが把握でき、

甲3に記載された技術事項から、補正血流量の増加率が所定の増加率以上であると判定したとき、表示部30は、熱中症の疑いがあることを示す情報を表示し、補正血流量の増加率が所定の増加率未満のとき、熱中症の疑いがあることを示す情報を非表示にするものが把握でき、

甲4に記載された技術事項から、体調判定部3は、対象者に疲労若しくは眠気の何れか一方又は双方が生じていることを示す警告信号を出力モジュール46に出力し、対象者に疲労若しくは眠気の何れか一方又は双方が生じていることを警告して休息が必要であることを対象者に知らせ、覚醒生体拍数差分は、第一閾値以下であると、体調判定部3は、対象者に疲労及び眠気は生じていないと判断し、対象者に対する警告を停止することが把握でき、

甲2~4に記載された技術事項から、熱中症発症リスクが高い旨を対象者に報知した後に熱中症発症リスクが低まった旨の判断がされた際に、熱中症発症するリスクが高い旨の報知を停止することが、周知技術として把握できたとしても、

熱中症予防システムにおいて、2つの閾値を設け、特定の閾値を超えると、熱中症発症リスクが高い旨を報知し、その後、特定の閾値未満となっても、前記熱中症発症リスクが高い旨を報知し続け、さらに、特定の閾値とは異なる閾値を下回ったときに、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する技術は、甲2~4に記載された技術事項及び周知技術において、記載も示唆もされていない。

b また、甲5に記載された技術事項から、クラウドサーバ21は、熱中症リスクを低減する対策を執るべきと判断した後に、作業者10の生体情報が安静時の状態に戻ったことを検出することによって、熱中症発症リスクの判断動作を終了することができることが把握でき、

甲6に記載された技術事項から、熱中症発症リスク指数Rの指数移動平均値が1以上の状態が30分以上続いた場合には、熱中症を発症するリスクが極めて高い状態であると判断されて、作業者に休憩を促すなどの熱中症を発症しないように対応策を採り、ウェアラブルの生体センサを用いて作業者の心拍数を随時把握することで、当該作業者の核心温を推定し、作業者は、休憩を取り、安静時の心拍数と評価される80bpmに下がり、核心温が平常状態の37°Cまで下がることが把握でき、

甲5及び6に記載された技術事項から、対象者の心拍数が所定の回復閾値以下となったことを熱中症の発症リスクが十分低まった判断基準とすることが、周知技術として把握できたとしても、

熱中症予防システムにおいて、2つの閾値を設け、特定の閾値を超えると、熱中症発症リスクが高い旨を報知し、その後、特定の閾値未満となっても、前記熱中症発症リスクが高い旨を報知し続け、さらに、特定の閾値とは異なる閾値を下回ったときに、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する技術は、甲5及び6に記載された技術事項及び周知技術において、記載も示唆もされていない。

c さらに、熱中症予防システムにおいて、2つの閾値を設け、特定の閾値を超えると、熱中症発症リスクが高い旨を報知し、その後、特定の閾値未満となっても、前記熱中症発症リスクが高い旨を報知し続け、さらに、特定の閾値とは異なる閾値を下回ったときに、前記熱中症発症リスクが高い旨の報知を停止する技術は、甲1発明及び甲7~9に記載された技術事項においても、記載も示唆もされていない。

(エ) したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された技術事項に、記載も示唆もされておらず、甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された技術事項に基づいて、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

そして、甲1に記載されたいずれの発明を引用発明として認定しても、上記判断を左右するものはないし、甲1~9の全記載をみても、上記判断を左右するものはない。

イ 小括

以上のとおりであるから、相違点1を判断するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) 申立人の主張について

申立人は、甲1発明に、熱中症発症リスクが高い旨を対象者に報知した後に熱中症発症リスクが低まった旨の判断がされた際に、熱中症発症するリスクが高い旨の報知を停止することは、甲2~4で例示されているように周知技術(周知技術1)であり、対象者の心拍数が所定の回復閾値以下となったことを熱中症の発症リスクが十分低まった判断基準とすることは周知技術(周知技術2)であるから、甲1発明に周知技術1、周知技術2を組み合わせることで、本件発明1の構成なすことは、当業者が容易に想到できたことである旨主張している。

しかしながら、当業者が、甲1発明に甲2~6技術事項から導かれる周知技術を適用しても、本件発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到することはできないことは、前記(3)で説示したとおりである。

したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

2 本件発明2~8について

本件発明2~6は、本件発明1に従属するものであり、さらに請求項2~6のそれぞれの記載により特定される発明特定事項を追加したものであるから、前記1に示した理由と同様の理由により、本件発明2~6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲1~9に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、本件発明7及び8は、本件発明1の「熱中症発症リスク判定システム」を「熱中症発症リスク判定装置」及び「熱中症発症リスク判定プログラム」と単にカテゴリーを換えたものであるから、前記1に示した理由と同様の理由により、本件発明7及び8に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲1~9に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に、本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

Next Action

次の一手につながるサービス

類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。

次の一歩へ

商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。