結論テキスト
登録第6940773号商標の商標登録を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2025900180 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本件登録第6940773号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、令和6年8月27日に登録出願、第15類「ヴァイオリン,楽器並びにその部品及び付属品,バイオリン用肩当て,バイオリン用あご当て,バイオリン用あご当て用パッド,バイオリン用あご当て用カバー,楽譜台,指揮棒,楽器用ケース及びバッグ」を指定商品として、令和7年5月27日に登録査定され、同年6月23日に設定登録されたものである。
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において引用する登録第5406581号商標(以下「引用商標」という。)は、「MAESTRO」の文字を標準文字で表してなり、平成22年10月7日に登録出願、第9類「楽器及びアンプリファイアー接続用ケーブル」及び第15類「ギター並びにその部品及び付属品,ギター用ピック,ギター用ストラップ,ギター用ケース及びバッグ,ギター用スタンド,ギター用ハンガー,ギター用ペダル,楽器用ディストーション,電気又は電子楽器用フェイザー,楽器用コーラス,楽器用エフェクター,楽器用チューナー,楽器並びにその部品及び付属品,演奏補助品,音さ」を指定商品として、平成23年4月15日に設定登録され、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第26号証(以下「甲○」と記載する。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、イタリア語の定冠詞である「Il」の文字とイタリア語で「先生、師匠」を意味する「Maestro」の語をスペースをあけ、横一段書きに書してなるものである(甲3、甲4)。定冠詞は、これに続く名詞を限定するものであり、表記や称呼を略することもある。よって、本件商標全体として「イルマエストロ」、「マエストロ」の称呼が生じる。
引用商標は「MAESTRO」の文字からなり、「マエストロ」の称呼を生じる。
したがって、本件商標と引用商標とは、共に「マエストロ」の称呼を共通にするものである。
そして、本件商標中「Il」部分はイタリア語の男性名詞につく定冠詞で英語の「the」に該当する。「Il」は様々な語の略称として掲載され、特定の意味を有しないものと理解されると思われる。「maestro」はイタリア語で「先生、師匠」という意味である(甲3)。音楽の世界では「指揮者」という意味でも用いられることがある。また、英和辞書によると、「マエストロ、偉大な音楽家[作曲家]、〔芸術の〕巨匠」の意味を表す(甲4)。よって、本件商標全体として「先生、師匠、 偉大な音楽家」と理解される。
これに対し引用商標は、「MAESTRO」の文字を横一段書きにしてなるものであり、「先生、師匠、偉大な音楽家[作曲家]」の観念を生じる。
したがって、本件商標と引用商標の観念は共通する。
そして、本件商標は、「Il Maestro」のアルファベットで構成されている。他方、引用商標は「MAESTRO」と表示して構成されており、大文字と小文字の差はあるものの「Maestro」と「MAESTRO」部分のアルファベットが共通していることから外観上も近似する。
そして、本件商標の全指定商品「第15類 ヴァイオリン,楽器並びにその部品及び付属品,バイオリン用肩当て,バイオリン用あご当て,バイオリン用あご当て用パッド,バイオリン用あご当て用カバー,楽譜台,指揮棒,楽器用ケース及びバッグ」と引用商標の指定商品中「第15類 ギター並びにその部品及び付属品,ギター用ピック,ギター用ストラップ,ギター用ケース及びバッグ,ギター用スタンド,ギター用ハンガー,ギター用ペダル,楽器用ディストーション,電気又は電子楽器用フェイザー,楽器用コーラス,楽器用エフェクター,楽器用チューナー,楽器並びにその部品及び付属品,演奏補助品,音さ」は、同一又は類似する。
したがって、外観、称呼、観念等を総合的に判断して、本件商標と引用商標は混同が生じる程度に近似しており、類似する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
申立人であるギブソン社は、1894年に設立され、テネシー州ナッシュビルに本社を置く世界で著名なギターブランドである(甲5)。
申立人の製造販売するMAESTROブランドのペダル(楽器の音量を調整するためのペダル)やエフェクター(楽器の様々な音色を作り出す機器)は、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」のイントロに始まり、数十年にわたって世界最高のプロデューサーやミュージシャンたちの作曲活動で使用されている(甲6)。
申立人は1950年代初頭に親会社シカゴ・ミュージカル・インストゥルメンツの傘下にあった(甲6)。申立人はこの時すでにアコーディオンやアコーディオン用アンプ、そして伝説の名器エコープレックス・テープ・ディレイにMaestroという商標を使用していた。申立人は1950年代後半から1960年代にかけて、自社のカタログで商標「MAESTRO」を付したアンプの広告を掲載した(甲7)。申立人製のMAESTROブランドのアンプは、現在でも中古市場で取引されており、音楽史における地位の高さから、高額で取引されることも少なくない(甲8、甲9)。
申立人によるMAESTROブランドの商品として重要なものは1961年に発明されたMaestro Fuzz Tone FZ-1(エフェクター。以下「FZ-1」という。)である(甲10、甲11)。1965年10月19日、米国特許商標庁で「電気的に増幅された電気機械的に生成された音楽音のための音調変調器」に関する特許第3,213,181号が登録された(甲13)。
1962年に発売された際にはMAESTROブランドのFZ-1は、ほとんど注目されていなかった。1965年になって初めて、MAESTROブランドのFZ-1は「60年代のサウンド」という愛称を獲得し、申立人は「エフェクトの創始者」という称号を得た(甲14)。
申立人の親会社であるノーリン・コーポレーションは、1979年にMAESTROブランドのエフェクトペダルの製造を中止した(甲6)。ノーリン・コーポレーションは財政難に陥り、1985年に破産を申請した。申立人の新しい親会社は、象徴的なMAESTROブランドのFZ-1Aファズトーンペダルを含む、厳選されたMAESTROブランドのエフェクトペダルを1990年代に復活させた。1990年代は限定発売で、現在ではコレクターズアイテムとして高い人気を誇っている。MAESTROブランドのエフェクトペダルの大規模な復刻版は、2001年から2009年にかけて発売された。これらのMAESTROブランドのエフェクトペダルは、現在でも中古市場で入手可能である(甲15)。
申立人がECHOPLEXにMAESTRO商標を初めて使用したのは1962年のことで1979年頃までECHOPLEX商標と共にMAESTRO商標を使用していた(甲12)。約20年の販売期間中、申立人はMAESTRO商標のもと、5機種を発売した。MAESTRO商標が付されたビンテージのEchoplexは今でも中古市場で高値で取引されている(甲8、甲9)。
申立人は2005年に音楽教育を支援するギブソン・ボールドウィン音楽教育プログラムを設立した。これに関連して申立人によって販売された初心者向けのギターにMAESTRO商標が再び使用された。アメリカ合衆国アーカンソー州に本部を置く世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマート、アメリカミネソタ州ミネアポリスに本社を置く世界最大の家電量販店ベストバイなどの大型デパートで販売された。MAESTRO by Gibsonギターシリーズは、2005年から2009年まで販売され、アコースティックギターとエレキギターの両方が含まれていた。これらのギターは今でも中古市場で見つけることができる(甲17、甲18)。また、MAESTRO商標の下で、ギターが復刻され、販売されている。(甲19、甲20)。
2022年1月、ギブソンはエフェクトペダルにMAESTRO商標の使用を再開した(甲6、甲21)。申立人のMAESTROエフェクトペダルの再販売は多くのメディアで取り上げられ、好評を博した(甲21~甲25)。
この初期の成功を基に、ギブソンはさらに5つのMAESTROブランドのエフェクト・ペダルを発売した(甲22、甲24~甲26)。2022年後半までに、MAESTROブランドの10ペダルのフルラインナップが世界中で発売され、現在も販売が続いている。
申立人は2022年のMAESTROブランドの復活にあたり、世界各地でMAESTRO商標を出願し、登録を取得した。
このように申立人による広告、販売、報道、および音楽史におけるMAESTRO商標の使用の結果、MAESTRO商標はエフェクトペダルやギター等について著名となり、楽器や機材の出所が申立人であることを消費者に示すものとして世界中で認知されるに至っている。
したがって、本件指定商品の分野の需要者は、「Il Maestro」の図形からなる本件商標が、本件指定商品について使用された場合には、申立人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
(1)引用商標の周知著名性について
申立人が提出した証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 申立人は、1894年に設立され、現在は米国テネシー州に本社を置く、エレクトリックギター等を製造販売するメーカーである(甲5)。
「Maestro」の文字が付されたアンプが1962年の英語の広告に掲載されている(甲7)。
1960年代及び1970年代製造の「Maestro」ブランドのエフェクター、「Maestro by Gibson」シリーズのギター及び1961年製仕様の「Maestro Vibrola」の復刻版ギターが2025年(令和7年)11月時点において我が国の中古市場で取引されている(甲8~11、甲17、甲18、甲20)。なお、2001年から2009年にかけて発売された復刻版のエフェクターの中古市場での取引の証拠として示されたものには「Maestra」の文字が付されており、「MAESTRA FUZZ-TONE」と紹介されている(甲15)。
申立人は、2022年(令和4年)に「Maestro」の文字を付したエフェクターの取り扱いを再開し、オンライン販売及び日本国内の正規販売店での販売を行っている(甲22、甲24~26)。また、この再販売について、申立人日本法人のウェブサイト、「ギターマガジン」ウェブサイト、「note Sparkplug.tokyo」ウェブサイト及び「イシバシ楽器」ウェブサイトにおいて紹介がある(甲21~甲25)。
イ 上記からすると、「Maestro」の文字からなる商標が、少なくとも1962年以降、米国において申立人によりアンプ、エフェクター、ギター等に使用され、それらの商品が2025年(令和7年)11月時点において我が国の中古市場において取引されていることが認められる。また、2022年(令和4年)以降、「Maestro」の文字からなる商標を使用したエフェクターが我が国においてオンライン販売及び国内正規販売店において販売され、一部の音楽関係又は楽器店のウェブサイトでその旨が紹介されていることが認められる。
しかしながら、引用商標が使用された商品の我が国における市場シェア、売上高などの販売実績、広告宣伝の規模等が不明であることから、一部の音楽愛好家の間では一定程度知られている可能性があるとしても、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、引用商標が、申請人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間において周知、著名となり、広く知られるに至っていたと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は、別掲のとおり、「Il Maestro」の欧文字を表してなるところ、構成各文字は、同じ書体の筆記体によるレタリングを施した統一感のあるデザインからなり、「Il」と「Maestro」の文字は分かれているものの、両者の間隔はごく僅かであり、外観上、両者が近接してまとまりよく一体的に配されているものである。
また、本件商標の構成文字から生じる「イルマエストロ」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。
そして、「Il」の文字は、フランス語では「彼は、それは」の意味を有する主語として用いられる語であり、イタリア語では「その、あの」の意味を有する定冠詞として用いられる語であって、「Maestro」の文字はフランス語、イタリア語、英語等で「巨匠」等の意味を有する語である(小学館「伊和中辞典」第2版、三省堂「クラウン仏和辞典」第7版、小学館「ランダムハウス英和大辞典」第2版)ところ、「Il」がイタリア語の定冠詞であるとしても、我が国の取引者、需要者が必ずしもイタリア語における意味合い及び品詞の別を認識するとは言えず、これを定冠詞として称呼等を略すると認めるに足りる事情は見いだせない。
そうすると、本件商標に接する取引者、需要者は、殊更「Maestro」の文字部分のみに着目するというより、むしろ構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握するとみるのが自然であり、「Il Maestro」の一連の構成からは、「イルマエストロ」の称呼のみを生じるものであり、当該文字部分から、特定の意味合いを理解させるものとは言えないから、特定の観念を生じない。
イ 引用商標
引用商標は、「MAESTRO」の欧文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して、「マエストロ」の称呼を生じ、「巨匠」程の観念を生じる。
ウ 本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標の外観を比較すると、本件商標の構成中「Maestro」の文字部分と引用商標の「MAESTRO」の文字は綴りを同じくするものの、「Il」の文字部分の有無及び文字書体の相違により、外観上、明確に区別できる。
また、称呼においては、本件商標から生じる「イルマエストロ」の称呼と、引用商標から生じる「マエストロ」の称呼とは、語頭の「イル」の音の有無に顕著な差異があり、両称呼は聞き誤るおそれはなく、明瞭に聴別し得る。
さらに、観念においては、本件商標は特定の観念を生じず、引用商標は「巨匠」程の観念を生じるものであるから、相紛れるおそれはない。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観上明らかに相違し、称呼において聞き誤るおそれがなく、観念上相紛れるおそれもないことから、両者の外観、称呼、観念によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は類似する商標とは認められない。
エ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件商標の指定商品が引用商標の指定商品と同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標の周知著名性について
上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間において周知、著名となり、広く知られるに至っていたものではない。
イ 本件商標と引用商標の類似性の程度について
上記(2)のとおり、本件商標と引用商標は、非類似の商標であるから、類似性の程度は低い。
ウ 出所の混同のおそれについて
上記ア及びイのとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人らの業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間において周知、著名となり、広く知られるに至っていたものではなく、かつ、本件商標と引用商標は、類似性の程度が低いものである。
エ 小括
そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号の規定のいずれにも該当せず、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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