sokuhyo

Trademark Appeal Case

「含む」から「構成される」補正

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023019479
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本願は、平成30年12月13日(パリ条約による優先権主張 2017年12月13日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 4年10月14日付け :拒絶理由通知

令和 5年 4月19日 :意見書及び手続補正書の提出

令和 5年 7月12日付け :拒絶査定

令和 5年11月17日 :審判請求書及び手続補正書の提出

第2 令和5年11月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和5年11月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について(補正の内容)

(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「【請求項1】

以下の配列

から構成される

ペプチド:

X

1

X

2

X

3

X

4

X

5

X

6

PX

7

YX

8

X

9

VX

10

X

11

X

12

(配列番号75)、ここで、

X

1

は、S、P、Aから選択される;

X

2

は、T、S、Aから選択される;

X

3

は、A、Tから選択される;

X

4

は、A、T、I、Sから選択される;

X

5

は、C、S、Fから選択される;

X

6

は、Pである;

X

7

は、Sである;

X

8

は、E、D、Yから選択される;

X

9

は、S、Rから選択される;

X

10

は、T、A、E、Dから選択され、Tはリン

化されていてもよい;

X

11

は、K、Rから選択され;及び

X

12

は、P、A、Gから選択される。

ここで、X

1

、X

2

、X

3

、X

4

、X

10

、X

11

、又はそれらの組み合わせは、アシル化されている。」

(2) 本件補正前の特許請求の範囲

本件補正前の、令和5年4月19日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】

以下の配列を含むペプチド::

X

1

X

2

X

3

X

4

X

5

X

6

PX

7

YX

8

X

9

VX

10

X

11

X

12

(配列番号75)、ここで、

X

1

は、S、P、Aから選択される;

X

2

は、T、S、Aから選択される;

X

3

は、A、Tから選択される;

X

4

は、A、T、I、Sから選択される;

X

5

は、C、S、Fから選択される;

X

6

は、Pである;

X

7

は、Sである;

X

8

は、E、D、Yから選択される;

X

9

は、S、Rから選択される;

X

10

は、T、A、E、Dから選択され、Tはリン

化されていてもよい;

X

11

は、K、Rから選択され;及び

X

12

は、P、A、Gから選択される。

ここで、X

1

、X

2

、X

3

、X

4

、X

10

、X

11

、又はそれらの組み合わせは、アシル化されている。」

2 補正の適否

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ペプチド」の内容について、「以下の配列を含む」とあったものを、「以下の配列から構成される」とし、「ペプチドの配列」の限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 本件補正発明が解決しようとする課題

発明の詳細な説明における、「被験者の疼痛感受性を増加又は減少させるために、Nav1.8チャネルに作用する薬剤の開発が引き続き必要とされている。」(【0004】段落)との記載及び「本発明は疼痛を治療し、無痛覚(鎮痛)を誘発し、又は疼痛感受性を増加させるためのペプチド、組成物、及び、これらのペプチド及び/又は組成物を使用する方法を提供する。」(【0005】段落)との記載から、「Nav1.8チャネルに作用することにより、疼痛を治療し、無痛覚(鎮痛)を誘発し、又は疼痛感受性を増加させるためのペプチドを提供すること」が、本件補正発明が解決しようとする課題であると認められる。

(2) 発明の詳細な説明に記載された内容

発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている(原文にない下線は当審にて付記したものである。以下同様。)。

「【0046】

好ましい実施形態では、前記ペプチドは、表1又は表2の配列のいずれか1つを有する。

【0047】

[表1]:ヒトのペプチド

195

91

0001434505000001.jpg

ここで、下線を引いた残基はミリストイル化されており、「^」は、「^」の直前のTがリン化されていることを示す。

【0048】

[表2]:ラットのペプチド

[表2]

222

103

0001434505000002.jpg

ここで、下線を引いた残基はミリストイル化されており、「^」は、「^」の直前のTがリン化されていることを示す。」

「【0050】

表1の配列は、ナトリウムチャネルSCN1A、SCN2A、SCN3A、SCN5A、SCN8A、SCN9A、SCN10AにおけるWW結合ドメインに由来し、さらに修飾されていた(例えば、アシル化)

。配列番号1~14のペプチドは、配列の最後から3番目のアミノ酸としてトレオニンを使用する。トレオニンはリン酸化され、脱リン酸化されることができる。配列番号15~21のペプチドにおいて、アラニンがトレオニンに代わる(効力を制限する可能性のあるペプチドの推定されるインビボリン酸化を、打ち消す)。配列番号22~28のペプチドにおいて、グルタミン酸がトレオニンに代わる。配列番号29~35のペプチドにおいて、アスパラギン酸がグルタミン酸に代わる。グルタミン酸とアスパラギン酸はそれぞれ、永久的にリン酸化されたトレオニン(内因性ホスファターゼ作用に抵抗性)を模倣する。グルタミン酸もアスパラギン酸も実際にはリン酸化されない。いかなる特定の理論にも束縛されることを意図するものではないが、これらのペプチドは、ホスファターゼ作用に耐性のあるこのアミノ酸部位に保持された負電荷のために、より長い作用を提供し得る。」

「【0088】

[実施例1]

本実施例は、本開示のペプチド及びその使用の説明を提供する。」

「【0098】

ペプチドを模倣するPYモチーフは、Nav1.8輸送、DRGニューロン興奮性及び疼痛行動を調節する。

PDZ媒介相互作用は、Slack/Magi-1相互作用の絶対的要件であることが実証された(図1D)。Nav1.8チャネルは、複数の内部推定PDZ結合モチーフを含み、PDZドメイン含有タンパク質Pdzd2に結合することが報告された。しかし、Pdzd2ノックアウトマウスでは疼痛行動に変化は認められなかった。一方、Nav1.8チャネルはまた、それらのC末端側にPYモチーフ(PPXY(配列番号76))を含み(図13)、このモチーフは、標的タンパク質分解のためのNedd4-2ユビキチンリガーゼとの相互作用を調節すると仮定された。興味深いことに、Nedd4-2のWWドメインは、Magi-1のWWドメインと高い配列相同性を共有する。さらに、Magiタンパク質は、WW相互作用による分解からNedd4-2標的タンパク質を保護することが示されている。従って、細胞浸透性PYモチーフペプチド模倣物を用いて、Nav1.8のWWドメイン結合を競合オフすることが選択された。Nav1.8 WW結合モチーフに基づいて、同一配列の2つのペプチドを操作した(ペプチドの1つがリン酸化された(チャネル内のThr1926)ことを除いて)。これは、PhosphoSitePlus

(登録商標)

翻訳後修飾資源ツールを用いてNav1.8をスキャンすることにより、PPXY(配列番号76)ドメインに隣接する4個目のアミノ酸であるThr1926が、推定上リン酸化されることが明らかになったために行われた(図13)。次いで、一次DRGニューロンを、

10μMの非リン酸化ペプチド(PY、ミリストイル-SATSFPPSYDSVTRG(配列番号77))

、又は

リン酸化ペプチド(ホスホ-PY、ミリストイル-SATSFPPSYDSV[pT]RG(配列番号77、ここで、Tはリン酸化されている))

で処理して、Nav1.8チャネルWWドメイン結合を打ち負かした。

PYペプチドに24時間暴露したニューロンは、総I

Na

のほぼ完全な損失をもたらした

が、対照的に、

ホスホ-PYペプチドは、ピークI

Na

を強く増加させた

。PY及びホスホ-PYペプチドは、それぞれ、I

Na

の時間依存性の減少又は増加(6時間及び24時間)を示した(図9A、B)。

PYペプチド処理(24時間)は、AP発火をほぼ完全に消失させた

が(11ニューロンのうち10)、

ホスホ-PYは、対照的な反復AP発火を生させた

(12のうち7)(図9B)。

PYペプチドによる処理後のNav1.8チャネルの表面発現を評価したところ、細胞膜でのNav1.8チャネルの実質的な減少が見出された

が、

ホスホ-PYペプチドを用いるとNav1.8膜発現の有意な増加が見出された

(図9C)。さらに、

PYペプチドとのインキュベーション後、総Nav1.8タンパク質の実質的な減少が観察され

、Nav1.8タンパク質の安定性が、このWW結合モチーフに依存することを示唆した。これらの結果は、

競合Nav1.8 PYモチーフペプチドのリン酸化状態が、Nav1.8チャネルの安定化に必須である

ことを示す。さらに、これらのデータは、

他のナトリウムチャネルがPYモチーフ相互作用によって潜在的に調節されることを示唆する

(図9A、B)。

【0099】

疼痛行動に対する、ナトリウムチャネル膜局在化の破壊による潜在的な鎮痛効果を評価するために、炎症性疼痛ホルマリンモデルにおいて、競合ペプチドの影響を検討した。マウスの右後足に、同じ足へ5%ホルマリンを注射する24時間前に、PY、ホスホ-PY、又はスクランブルPYペプチド(100μM、20μl)のいずれかの単回i.pl注射を行った。

PYペプチドによる前処理は、第II相急性炎症性疼痛を有意に減少させ、ホスホ-PYペプチド前処理マウスは、スクランブルペプチド処理マウスと比較した場合、第II相反応の対照的な増加を示した(図9D)。

これらのデータは、インビトロ実験の間に観察されたことを裏付け、PYモチーフに基づくペプチド模倣物を使用して、神経膜の内外にNav1.8チャネルをルーティングする能力を実証する。さらに、これらのデータは、Thr1926のリン酸化状態が、Nav1.8チャネル輸送、ニューロン興奮性、及び急性疼痛行動を決定することを示唆する。」

「【0101】

イオンチャネルをニューロン膜に局在させることに加えて、これらの知見は、Magi-1がイオンチャネルタンパク質の安定性にも重要であることを示す最初の知見である。実際、他のスキャホールド・タンパク質とは異なり、タンパク質のMagiファミリーは、タンパク質を分解から保護するより広い機能を果たし得る。例えば、そのWWドメインを通り抜ける非UL YAP1タンパク質が、Nedd4-2媒介タンパク質分解に対して保護されることが示された。続いて、Magi-2は、デンドリン中の保存されたPYモチーフとのWWドメイン相互作用を介して、Nedd4-2媒介ユビキチン化からもタンパク質デンドリンを保護することが報告された。デンドリンと同様に、Nav1.8は進化的に保存されたPYモチーフを有し、これはNedd4-2の結合部位であることが証明されており、Nav1.8を後続のプロテアソーム分解の標的とする。延長されたインビボMagi-1ノックダウンの間、免疫ブロットによって決定されるように、Nav1.8免疫標識及びタンパク質発現の実質的かつ統計的に有意な減少が観察された(図8A、B)。同様に、

DRGニューロン中でのPYペプチドインキュベーションの24時間後、Nav1.8発現のほぼ完全な喪失が観察された。実際、I

Na

密度は、わずか6時間後に50%減少し、これは、TTX-抵抗性及びTTX-感受性Navチャネル膜発現の両方が、PYモチーフに依存することを示唆する。

しかしながら、その後のNav1.7タンパク質の免疫ブロット分析は、長期間のインビボMagi-1 shRNAノックダウンの間にいくらかのタンパク質減少が観察されたが、表面Nav1.7タンパク質レベルはペプチド模倣物処理後に変化しなかったことを示した(図16)。胚性DRGニューロンはまた、WW結合ドメインを含むNav1.3チャネルを発現することに留意すべきである(図13)。したがって、我々が観察したTTX感受性チャネルに対するインビトロの効果のいくつかは、このチャネルに起因している可能性がある。それにもかかわらず、これらのデータは、スキャホールド及びタンパク質安定性(Magi-1による)に対するNa

V

アイソフォームの感受性に差があることを示唆する。さらに、アミノ酸12~15(-PPRY-(配列番号78))にてそのN末端側に推定PYモチーフを有するSlick K

Na

サブユニットが、Magi-1と組換え発現された場合、サブユニット単独で発現された場合に比べて、Slickチャネルタンパク質レベルの上昇を伴って、約5倍大きい電流を生成したことが観察された(図2)。これは、そのN末端にこのPYモチーフが存在しないSlack-Bサブユニットとは対照的であった;膜電流はより少ない程度(2倍)に増加し、Slack-Bタンパク質発現の増加は観察されなかった。実際、異種発現系におけるSlackチャネルと比較したSlickチャネルの発現困難性は、このWW結合モチーフ及びUL依存性分解に対する感受性に起因し得る。したがって、これらの結果は、膜に加えてMagi-1を標的とすることが、イオンチャネルを分解経路から保護しており、実際、Magi-1を標的とすることが、イオンチャネルのレベルと機能に影響を与える新しい薬理学的アプローチであることを示唆している。

【0102】

Magi-1ノックダウンと

PYペプチド

の両方

が、I

Na

の低下、Nav1.8チャネルの安定性の低下、及び疼痛行動の減少を引き起こした

が、

ホスホ-PYペプチドによって生じる逆の効果、特にI

Na

の上昇、反復発火の増加、及び侵害防御反応の増悪

は予想外であった。PhosphoSitePlus

(登録商標)

からオンラインで入手可能なホスホプロテオミクスデータは、Nav1.8チャネルにおけるThr1926が推定上リン酸化されることを決定した。Thr1926は、PYモチーフの下流の4つ目のアミノ酸であるので、本発明者らは、この情報を用いて第2のペプチドを設計した(図13)。Scansite(MIT)のウェブベースのソフトウェアを用いると、Thr1926は、カゼインIIキナーゼ又はGSK-3βキナーゼ共通リン酸化部位のいずれかであると予測される。どちらのキナーゼも恒常的に活性なキナーゼであることから、Thr1926が基本的にリン酸化されている可能性が高いことが示唆される。いかなる特定の理論にも拘束されることを意図するものではないが、ホスホ-PYペプチドは、ULにおいてリン酸化されたNav1.8チャネルと競合し、かなりの割合のNav1.8チャネルがユビキチン化され、細胞質ゾル内に保持されることを妨げると推測される(図9E)。さらに、24時間にわたってNav1.8タンパク質のインプットレベルの統計的に有意な増加は観察されず、これは、少なくともこの時間窓の間に、内部に局在化したチャネルの大部分がモノユビキチン化状態にある可能性が高いことを示す。いかなる特定の理論にも束縛されることを意図しないが、脱リン酸化Thr1926が、Magi-1に対してより高い親和性を有することがさらに推測され、これは競合するPYペプチドが、Nav1.8チャネル膜発現の欠損を引き起こした理由を説明する。この場合、総Nav1.8チャネルタンパク質レベルの実質的な減少が観察され、24時間以内に、チャネルの最終的な運命が分解であったことを示唆した。それにもかかわらず、これらの結果は、PYモチーフがNav1.8チャネル輸送の主要な決定因子であり、そしてMagi-1がDRGニューロンにおけるナトリウムシグナロソームの重要な構成要素であることを強く示唆する(図9E)。

【0103】

PYペプチド模倣物の単回皮内注射が、投与の24時間後に有意な鎮痛を生じた

ことが、本明細書において実証される(図9D)。

PYペプチドは、局所長期持続鎮痛薬として作用し、長期にわたる鎮痛を必要とする侵襲的処置のため及び/又は術後オピオイドの必要性を減少させるための治療的価値を有する可能性がある

。対照的に、

ホスホ-PYペプチドは、Nav1.8チャネルをDRGニューロン膜に駆動し、侵害防御行動を悪化させ、それゆえ、疼痛非感受性関連疾患に対して潜在的価値を有する

。ミリストイル化は、ペプチドが膜を通って分配することを可能にするが(おそらくはフリップ-フロップ機構によって)、ペプチドの大部分は膜の内表面に繋ぎ止められたままである。この膜で区切られた特徴は、ペプチドがそれらの模倣効果を発揮する能力を増強し得る(特に膜関連タンパク質について)。細胞透過性及び内側リン脂質二重層内へのペプチドの固定を引き起こすことに加えて、ペプチドのミリストイル化及びそれらの固有の疎水性は、ペプチドが注射部位に局在化されることを確実にする可能性が高い。さらに、これらのペプチドの代謝は、おそらくインビボでのそれらの長期持続効果に寄与するリン脂質膜代謝回転を必要とする。TRPA1-TRPV1複合体に重要なT-mem100タンパク質に対するペプチド模倣物の同様の皮内注射アプローチを用いた従前の研究は、パクリタキセル誘発慢性疼痛の鎮痛効果を示した。従って、ミリストイル化細胞透過性ペプチドの使用は、神経終末活動を操作するための潜在的な治療アプローチを提供する。」

(3) サポート要件についての判断規範

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書に記載された発明で、明細書の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である 。

(4) サポート要件についての判断

本件補正発明であるペプチドは、請求項1に規定されるアミノ酸残基を38880通りの組み合わせで有するアミノ酸配列からなるペプチドを包含するものであり、極めて多種多様なペプチドを包含するといえる。

発明の詳細な説明において、Nav1.8チャネルに作用することにより、疼痛を治療し、無痛覚(鎮痛)を誘発し、又は疼痛感受性を増加させる作用が具体的に確認されているのは、「配列番号77で表されるアミノ酸配列からなるPYペプチド」及び配列番号77におけるX

10

に該当するTがリン酸化された「リン酸化PYペプチド」のみである(【0098】、【0099】、【0101】、【0102】、【0103】段落)。

ここで、ペプチドの性質や機能は、ペプチドを構成する個々のアミノ酸側鎖の極性、電荷、嵩高さ等の組み合わせから生じる立体構造や他の分子と結合する際の特異性や安定性に強く依存するものであり、一般に、本件補正発明のような比較的短いアミノ酸配列からなるペプチドでは、僅かなアミノ酸置換であっても所望の性質や機能が保持されない蓋然性が特に高いことが、本願出願時における技術常識である。そうすると、ペプチドを構成するアミノ酸側鎖の極性、電荷、嵩高さ等の組み合わせが個々に異なる本願発明の38880通りのペプチドの全てが上記課題を解決することができることを当業者が認識し得るとはいえない。

また、本件補正発明であるペプチドには、ナトリウムチャネルSCN1A、SCN2A、SCN3A、SCN5A、SCN8A、SCN9A、又はSCN10AにおけるWW結合ドメインに由来するもの、及びさらに修飾されたものが含まれる(【0046】、【0047】、【0048】、【0050】段落)。前記「PYペプチド」及び前記「リン酸化PYペプチド」はSCN10AにおけるWW結合ドメインに由来するものであるから、SCN10Aに由来するペプチドに関しては一定の効果を奏することが推認できる。しかし、ナトリウムチャネルにおけるWW結合ドメインに由来するペプチドであれば全て同等の作用効果を奏すると推認できる根拠は見いだせないから、その他のナトリウムチャネルに由来するペプチドに関しては、上記課題を解決することができることを当業者が認識し得るとはいえない。

例えば、ヒトのナトリウムチャネルSCN1Aに由来する配列番号1からなるペプチド(【0047】段落)は、前記「PYペプチド」と比較すると、「PPSY」モチーフを除く11アミノ酸のうち7アミノ酸が変異している。そして、その変異は、令和5年4月19日提出の意見書に添付された実成績証明書において用いられたペプチドとも異なっている。そうすると、配列番号1からなるペプチドは、SCN10A(Nav1.8)に対して、実施例及び前記実験成績証明書において用いられたペプチドと同様に相互作用し、同様の機能を奏すると推認することはできず、SCN10A(Nav1.8)の発現を調節することによって「疼痛を治療し、無痛覚(鎮痛)を誘発し、又は疼痛感受性を増加させる」ことができるとは認められない。また、上記ペプチドが上記課題を解決できることについて、具体例をもって示さなくても、出願時の技術常識に照らし当業者が認識できると認めるに足る、格別の事情も見いだせない。

以上のとおり、発明の詳細な説明に、本件補正発明であるペプチドの全てが上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえず、本願発明が発明の詳細な説明に記載したものであると認めることはできない。

また、請求項1にはペプチドの機能を特定する記載がなく、本件補正発明であるペプチドは、その機能が特定されていない。

発明の詳細な説明においては前記「PYペプチド」がI

Na

の低下、Nav1.8チャネルの安定性の低下、及び疼痛行動の減少を引き起こすこと、及び前記「リン酸化PYペプチド」がI

Na

の上昇、反復発火の増加、及び侵害防御反応の増悪を引き起こすことが示されている(【0098】、【0102】段落)。

ここで、元のペプチドと高いアミノ酸配列同一性を示すペプチドであっても、同一性を示さない箇所が、元のペプチドの作用・性質にとって重要な箇所であった場合は、元のペプチドと同様の作用・性質を有する蓋然性は、必ずしも高いとはいえないことが、本願出願時における技術常識である。そして、発明の詳細な説明において、本件補正発明であるペプチドが共通して有するアミノ酸配列PPSYのみがペプチドの作用・性質にとって重要な箇所であり、その他のアミノ酸残基の影響を受けることはないということが示されているともいえないし、そのことが出願時の技術常識に照らし当業者が認識できると認めるに足る、格別の事情も見いだせない。

そうすると、本件補正発明のペプチドは、前記「PYペプチド」及び「リン酸化PYペプチド」との配列同一性が低いもののみならず、配列同一性が高いものであったとしても、前記「PYペプチド」及び「リン酸化PYペプチド」と同様の機能を示さないものも包含されていると認められる。そして、前記「PYペプチド」及び「リン酸化PYペプチド」と同様の機能を示さないペプチドに関しては、上記課題を解決することができることを当業者が認識し得るとはいえない。

以上のとおり、発明の詳細な説明に、本件補正発明であるペプチドの全てが上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえず、本願発明が発明の詳細な説明に記載したものであると認めることはできない。

(5) 審判請求人の主張に対して

審判請求人が、審判請求書においてしたサポート要件に関する主張とそれらに対する合議体の判断は次のとおりである。

(ア) 審判請求人の主張

(I)拒絶査定書において、『請求項1に係る発明の全体にわたって、本願発明の課題を解決することができると推認することはできない』とのご指摘を受けましたが、出願人は上記見解には承服できません。

出願人は、令和5年4月19日付の意見書において、本願明細書の実施例でその機能が実証されている非リン酸化PYペプチド(配列番号77又は42)やリン酸化PYペプチド(配列番号49)以外のペプチドであって、請求項1の配列番号75に包含される他のペプチド(例えば、配列番号21、配列番号39、配列番号56、配列番号114~116のペプチド)の機能性を実証するための実験成績証明書を提出しております。

(II)ご参考のため、上記意見書に記載した実験成績証明書を本書の末尾に転記します。

実験成績証明書に示されるように、実験したすべてのペプチドが、痛覚ニューロンの活動電位に対して有意な阻害を示しました。このように、配列番号75の配列において、様々な位置(X

2

、X

8

、X

10

及びX

12

)にてアミノ酸が変更されたにも関わらず、これらのペプチドは共通する機能を示しました。このことは、配列番号75が「PPSY」モチーフを含む場合、他の位置のアミノ酸が、請求項1に規定されているように置換されても、機能を保持できることを示唆しております。例えば、X

2

とX

8

は2つの異なる置換(X

2

については、SとA:X

8

についてはEとD)で機能を維持し、X

10

とX

12

は3種のアミノ酸で機能を維持しました。このように「PPSY」モチーフを含む配列番号75のペプチドは、その変異体間で十分な相同性を提供し、生物学的機能性を有すると期待できることが、本明細書の実施例及び上記実験成績証明書によって証明されております。

(III)また、本願の当初明細書の段落[0098]には、「Nav1.8チャネルはまた、それらのC末端側にPYモチーフ(PPXY(配列番号 76))を含み(図13)、・・・・

このモチーフは、標的タンパク質分解のためのNedd4-2ユビキチンリガーゼとの相互作用を調節すると仮定された。・・・・

細胞浸透性PYモチーフペプチド模倣物を用いて、Nav1.8のWWドメイン結合を競合オフすることが選択された。・・・・

PhosphoSitePlus(登録商標)翻訳後修飾資源ツールを用いてNav1.8をスキャンすることにより、PPXY(配列番号76)ドメインに隣接する4個目のアミノ酸であるThr1926が、推定上リン酸化されることが明らかになったために行われた(図13)。次いで、一次DRGニューロンを、10μMの非リン酸化ペプチド(PY、ミリストイル-SATSFPPSYDSVTRG(配列番号77))、又はリン酸化ペプチド(ホスホ-PY、ミリストイル-SATSFPPSYDSV[pT]RG(配列番号77、ここで、Tはリン酸化されている))で処理して、Nav1.8チャネルWWドメイン結合を打ち負かした。」と記載されており、PPSYモチーフがペプチドの機能に重要であることが示されております。

(IV)さらに、上述した補正により、請求項1に係るペプチドは、配列番号75を含むペプチドから、配列番号75から構成されるペプチドに限縮されております。

(V)上述の理由により、補正後の請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2~6、8~24に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、サポート要件を満たしていると確信します。

(イ) 合議体の判断

まず、審判請求人は、前記実験成績証明書を提示し、X

2

、X

8

、X

10

及びX

12

の位置においてアミノ酸を変更した6つのペプチドのいずれも、痛覚ニューロンの活動電位に対して有意な阻害を示したことに基づいて、配列番号75が「PPSY」モチーフを含む場合、他の位置のアミノ酸が請求項1に規定されているように置換されても機能を保持できることを示唆していると主張している((1)(I)(II))。

しかしながら、(3)に記載したとおり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書に記載された発明で、明細書の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、明細書に記載されていなかった、「配列番号77で表されるアミノ酸配列からなるPYペプチド」及び配列番号77におけるX

10

に該当するTがリン酸化された「リン酸化PYペプチド」以外のペプチドがNav1.8チャネルに作用することにより、疼痛を治療し、無痛覚(鎮痛)を誘発し、又は疼痛感受性を増加させる作用を有する可能性を、当業者が理解できるか否かを検討して判断するにあたり、本願出願後に提出された実験成績証明書を参酌することはそもそも許されない。

さらに、ここで、前記実験成績証明書における「痛覚ニューロンの活動電位」がどのような実験系で測定されたものであるかが明らかにされていないものの、本願明細書における前記「PYペプチド」及び前記「リン酸化PYペプチド」と同様の機能が確認されていると仮定して、以下、検討する。X

2

については、配列番号77におけるAに加え、配列番号39ではSでも機能が保持されたことが確認されているものの、Tの場合については確認されていない。X

8

については、配列番号77におけるDに加え、配列番号21、115ではEでも機能が保持されたことが確認されているものの、Yの場合については確認されていない。X

10

については、配列番号77におけるTに加え、配列番号21、56、114、116ではAでも機能が保持されたことが確認されているものの、E及又はDの場合については確認されていない。X

12

については、配列番号77におけるGに加え、配列番号39ではA、配列番号114ではPでも機能が保持されたことが確認されている。さらに、X

1

においてP又はA、X

3

においてA、X

4

においてA、T又はI、X

5

においてC又はS、X

9

においてR、X

11

においてRを選択した場合について、機能が保持されるかどうかは確認されていない。また、各アミノ酸位置における選択肢が、理化学的性質の類似したアミノ酸で構成されている等、機能が保持されると推認できる根拠も見いだせない。

さらに、前記実験成績証明書において用いられたペプチドは、配列番号77と比較して最大でも2カ所のアミノ酸が変更されているにとどまるが、請求項1は、X

1

~X

5

及びX

8

~X

12

という、最大で10カ所のアミノ酸が変更されているペプチドを包含するものであるから、実施例及び前記実験成績証明書においてその機能が確認されたペプチドは、本件補正発明であるペプチドのごく一部分に該当するにすぎない。

次に、審判請求人は、【0098】段落の記載に基づいて、「PPSY」モチーフがペプチドの機能に重要であることが示されているとも主張している((1)(III))。

しかし、【0098】段落の記載は、Nav1.8チャネルがC末端側に有するPYモチーフ(PPXY(配列番号76))が、標的タンパク質分解のためのNedd4-2ユビキチンリガーゼとの相互作用を調節すると仮定されたことに基づいて、PYモチーフをNav1.8のWWドメイン結合を競合オフするためのペプチド模倣物が有する配列モチーフとして選択したこと、PPXY(配列番号76)ドメインに隣接する4個目のアミノ酸であるThr1926がリン酸化されるとの推定に基づいてX

10

に該当するTがリン酸化されている又はされていないペプチドを用いたことが記載されているにとどまり、「PPXY」及びX

10

のT以外のアミノ酸が、請求項1に規定されているように置換されても機能を保持できることを説明しているとはいえず、審判請求人の主張を採用することはできない。

そうすると、審判請求人の主張を検討しても、本件補正発明であるペプチドの全てについて、前記「PYペプチド」及び前記「リン酸化PYペプチド」と同様の機能を保持していると推認することはできない。

(6) 小括

このとおり、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められないから、特許法第36条第6項第1号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび

よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

令和5年11月17日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし25に係る発明は、令和5年4月19日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由1は、この出願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない、というものを含むものである。

3 対比・判断

本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の以下の配列「から構成される」という限定事項を削除し、以下の配列「を含む」としたものであるから、本願発明は本件補正発明を包含するものであることは明らかである。

そうすると、本願発明の発明特定事項である以下の配列「を含む」ものに含まれる、以下の配列「から構成される」ものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)~(6)に記載したとおり、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件補正発明を含む本願発明も、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない。

第4 むすび

以上のとおり、本願は、請求項1について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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