結論テキスト
本件審判の請求は、成り立たない。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2023020501 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本願は、平成26年7月11日(パリ条約による優先権主張 2013年7月12日 米国)を国際出願日とする特願2016-525827号の一部を新たな特許出願として平成31年4月4日に出願された特願2019-72287号の一部を、さらに新たな特許出願として令和3年12月2日に出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年11月 8日付け 拒絶理由通知書
令和5年 5月15日 意見書、手続補正書の提出
同年 7月28日付け 拒絶査定
同年12月 1日 審判請求書の提出
令和6年 1月10日 手続補正書(補正対象書類は審判請求書)の
提出
本願の請求項1に係る発明は、令和5年5月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 AAVに結合する抗体を、測定及び定量するための方法において、以下:
(a)組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子を用意するステップであって、
(i)前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み、前記リポータトランスジーンが、ルシフェラーゼ遺伝子を含み、一本鎖ゲノムを含むと共に、(ii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている、ステップ;
(b)最初の解凍後の継代数が25継代までのHEK-293細胞を用意するステップ;
(c)(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させるか、又はインキュベートし、これによって得られる混合物(M)を生成するステップ;
(d)得られた混合物(M)と(b)のHEK-293細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記HEK-293細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ;
(e)前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ;並びに
(f)(e)の前記リポータトランスジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照のリポータトランスジーン発現と比較するステップであって、これによって、前記生体サンプル中のAAVに結合する抗体を測定及び定量するステップ
を含む方法。」(以下、「本願発明」という。)
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:Gene Therapy, vol.20, pp.417-424 (2012.7.12 オンライン発行)
引用文献2:Nature Medicine, vol.12, pp.342-347 (2006)
引用文献3:Nature Genetics, vol.24, pp.257-261 (2000)
引用文献8(周知例):国際公開第2012/061529号
引用文献10(周知例):国際公開第2012/042684号
(1)引用文献1(Gene Therapy, vol.20, pp.417-424 (2012.7.12 オンライン発行))
原査定の拒絶の理由において引用された、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1は、「滑膜組織への遺伝子導入におけるAVVベクターに対する液性免疫の優勢と薬理学的変調」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(翻訳及び下線は当審による。以下、(2)~(5)についても同様である。)
ア 「アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する抗体は、ヒトにおいて非常に多く存在する。前臨床研究および臨床研究の両方で、AAVに対する抗体は、低力価であっても、特にベクターが血中に導入された場合には、トランスダクションを阻害することが示されている。ここでは、
関節リウマチ患者の血清中及びマッチした滑液(SF)中のAAV血清型2、5、6、8に対する中和抗体(NAb)の力価を測定した
。」(第417頁要約第1~4行)
イ 「次に、血清のNAb価を測定し、SFサンプルをAAV2、AAV5、AAV6、AAV8にマッチングさせた。
NAb力価は、β-ガラクトシダーゼリポータジーンの残留活性を、NAbによるAAVベクター中和のサロゲートとして測定する、先に記載したin vitroアッセイ
12
を用いて決定した
。」(結果の項。第418頁左欄第13~18行)
ウ 「抗AAV抗体判定
抗AAV2、5、6及び8NAb力価は、in vitro中和アッセイを使用して、前述12と同様に決定された。このアッセイでは、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼを発現する一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)、
またはニワトリβ-アクチンプロモーターの制御下でレニラルシフェラーゼリポータジーンを発現する自己相補ベクター
20、21
(scAAV-Luc)の2種類
のAAVベクター構築物が用いられた。AAVベクターのin vitroでの導入効率を上げるため、誘導性プロモーターの制御下でアデノウイルス遺伝子E4を発現する2V6.11細胞(ATCC、Manassas,VA、USA)を使用した。細胞を96ウェルプレートに1.25×10
4
細胞/ウェルの密度で播種し、培地にポナステロンA(Invitrogen、Grand Island、NY、USA)の1:1000希釈液を加え、E4の発現を誘導した。アッセイ当日、熱不活性化血清サンプルの連続半ログ希釈液をウイルスを含む培地と混合した。
ssAAV-LacZベクターの場合、アッセイに使用したウイルス濃度は、AAV2については~1×10
10
vgml
-1
、AAV5、6又は8については~5.5×10
10
vgml
-1
だった。scAAV-Lucベクターの場合、アッセイでのウイルス濃度は~50倍から150倍低い。
リポータジーンの残存活性は、比色アッセイ(ssAAV-LacZ
)またはルミノメーター(scAAV-Luc)のいずれか
を使用して測定した。
」(材料と方法の項。第422頁右欄第28~46行)
エ 「ウイルスの生産
AAV2末端逆位反復配列で挟まれたβ-ガラクトシダーゼカセット(ssAAV-LacZ)
、およびレニラルシフェラーゼ発現のための自己相補性カセット(scAAV-Luc)
は、AAV2、5、6又は8血清型のいずれかのキャプシドにパッケージされた。
」(材料と方法の項。第422頁右欄第61~65行)
(2)引用文献2(Nature Medicine, vol.12, pp.342-347 (2006))
引用文献1が参照する「文献12」である引用文献2には、次の事項が記載されている。
「AAVに対する中和抗体アッセイ
AAV-2特異的NAB力価は、以前に記載されたように決定された
6
。」(第346頁右側欄下から第19行~下から第18行)
(3)引用文献3(Nature Genetics, vol.24, pp.257-261 (2000))
引用文献2が参照する「文献6」である引用文献3には、次の事項が記載されている。
「抗体アッセイ
lacZを発現するAAVベクターを連続希釈した患者血清とインキュベートすることにより、AAV中和抗体価を決定し、この混合物をHEK293細胞に導入した。24時間後に細胞を溶解し、ONPGアッセイ
16
を用いて酵素活性を測定した。
サンプルは、β-ガラクトシダーゼ活性を測定するためにOD420で読み取った。
OD420がrAAV-lacZが陰性対照マウス血清とプレインキュベートされたときに観察される値の50%以下であった場合、血清はAAV抗体を中和するための陽性としてスコア付けされた。
陽性サンプルは力価を測定した、AAV中和抗体の力価はONPGアッセイに基づいて50%でrAAV-LacZの感染を阻害する希釈物として示される。」(第260頁右側欄下から第20行~下から第11行)
(4)引用文献8(国際公開第2012/061529号)
「[00461]実施例41. 安定した細胞株
細胞質中でまたは分泌型として本発明のOgLuc変異体を発現する、頑強で安定した細胞株の特定は、ルシフェラーゼの明るいシグナルおよび小サイズのOgLuc遺伝子によって容易となり得る。比較的小さな遺伝子配列は、外来DNA組込みによってもたらされる遺伝的不安定性の可能性を減少させるはずである。
[00462] 本発明のOgLuc変異体を用いて安定な細胞株を作製するために、OgLuc変異体および選択マーカー遺伝子、例えば、ネオマイシン、ハイグロマイシン、またはピューロマイシンのヌクレオチド配列を含むプラスミドDNAを、目的の細胞株、例えば、
HEK293細胞の形質移入に使用する。初期継代数、例えば10継代未満の細胞
を、T25(1×10
6
)またはT75(3×10
6
)組織培養フラスコに播種し、一晩増殖させて、およそ75%コンフルエントにする。次に、細胞を、上記プラスミドDNAおよび適切な形質移入試薬、例えば、TRANSIT(登録商標)-LT1またはFUGENE(登録商標)HDを用いて形質移入する。形質移入の48時間後、培地を、細胞上で、選択薬剤、例えば、G418、ハイグロマイシンまたはピューロマイシンを、未形質移入細胞を死滅させるのに予め決定された濃度で含有する選択培地で置き換える。プラスミドDNAを含有する細胞の選択は2~4週間かけて行われる。この期間中、細胞を、選択培地中で種々の濃度で、T25またはT75組織培養フラスコのいずれかに再播種する。再播種された細胞上の培地は、2~3週間、3~4日毎に、新しい選択培地と取り換える。フラスコは生細胞コロニーの情報を求めてモニターされる。最終的に、フラスコは、多くの大コロニーを含むが、死細胞はほとんど含まない。
[00463] フラスコ中の安定したコロニーのプールから、単一コロニーを単離し、1枚の24ウェル組織培養プレート中に増殖させる。簡潔に説明すると、細胞をトリプシン/EDTA法を用いて回収する。すなわち、培地を除去し、Ca
2+
およびMg
2+
を含有しないPBSで洗い、トリプシン/EDTAで処理することにより剥離して、細胞を回収する。細胞を、血球計数器を用いて計数し、完全培地中で1×10
5
に希釈する。次に、細胞を、完全培地中で100細胞/mL、33細胞/mL、10細胞/mL、および3.3細胞/mLに希釈する。100μLの各希釈物を、96ウェル組織培養プレートの全ウェルに播種し(各希釈に対し1プレート)、4~5日間増殖させて、その後、50μLの選択培地を細胞に加える。播種からおよそ1週間後、細胞を、コロニー増殖を求めて目視で選別し、別の50μLの選択培地を加える。単一コロニーがウェルの面積の40~60%を占めるまで、細胞を継続的にモニターする。コロニーが増殖および選別できる状態であるとき、トリプシン/EDTA法を用いてコロニーを回収する。各コロニーを以下のように選択培地に移す:1)機能アッセイ、例えば発光検出用に、1:10に希釈して、96ウェルアッセイプレートの6ウェルに移す;2)細胞生存率アッセイ、例えば細胞TITER-GLO(登録商標)発光細胞生存率アッセイ(プロメガ社)用に、1:10に希釈して、透明底96ウェルアッセイプレートの3ウェルに移す;並びに3)増殖用に、1:10に希釈し、24ウェル組織培養プレートに移す。次に、機能アッセイおよび細胞生存率アッセイ用のプレート中の細胞を2~3日間増殖させて、機能アッセイおよび細胞生存率アッセイを行う。24ウェルプレート中の陽性クローンを、機能アッセイおよび細胞生存率アッセイを用いてさらに試験し、さらに、
少なくとも20継代の間の発現および応答の安定性、正常な増殖率形態を試験し、将来での使用のために可能な限り早期の継代で凍結する
。」
(5)引用文献10(国際公開第2012/042684号)
「[0078](実施例1)
キメラGαサブユニットとしてGi/olf13を具備する、キメラGタンパク質が採用された。カリウムイオンチャネルとしては、変異型カリウムイオンチャネルKir3.1(F137S)が採用された。化学物質受容体としては、β1アドレナリン受容体が採用された。
[0078] (キメラGタンパク質発現細胞の調製)
HEK293T細胞に、plasmid(βAR)、plasmidKir3.1(F137S)、およびplasmid(Gi/olf13)を発現させた。当該発現の手順が以下に示される。
約80%コンフルエントに培養したHEK293T細胞を回収し、新たな培養シャーレに蒔いた。使用した細胞の継代数は10代以内であった。
DMEM(10%FBS(fetal bovine serum)、ストレプトマイシン)が用いられた。24時間培養後、トランスフェクション試薬を用いて当該細胞にプラスミドが導入された。当該細胞はプラスミド導入後48時間培養され、キメラGタンパク質発現細胞が調製された。」
(6)周知例(「改訂 培養細胞実験ハンドブック」(2009年1月1日羊土社発行)第42~48頁)
「細胞は生物である。30億年の歴史を経て、脈々と受け継がれてきた生物である。人間はさまざまな感染症に悩まされているし、長く生きていると遺伝子変異が蓄積して癌などの病気を発症する。細胞も同じである。
長期間培養された細胞に変異が蓄積することは不可避なことである。それ故、細胞バンクでは、継代数(パッセージ数)を極力増やさない工夫と努力をしている。提供後の細胞も20~30パッセージ以内で使用を完了し、それを超えた場合には新たに細胞バンクから入手し直すことを推奨したい
。」(第48頁左欄第6~15行)
引用文献1には、関節リウマチ患者の血清中のAAVに対する中和抗体(NAb)の力価を、2種類のAAVベクター構築物を用いて、参照文献12に記載されたin vitroアッセイ法により、測定したことが記載されている(上記1(1)ア~エ)。ここで、AAVベクター構築物の1つは、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼリポータジーンを発現する発現カセットを有する一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)であって、発現カセットはAAV2末端逆位反復配列で挟まれており、AAVのキャプシドにパッケージされて使用されたことが記載されている(上記1(1)イ~エ)。そして、アッセイ法については参照文献12を引用しており、詳細には記載されていないものの、アデノウイルス遺伝子E4を発現する2V6.11細胞を用いること、血清サンプルをウイルスを含む培地と混合すること、及び、リポータジーンの残存活性を測定することが記載され(上記1(1)ウ)、ここで血清サンプルと混合されるウイルスとは、AAVベクター構築物をパッケージしたAAVのキャプシドのことと解されるから、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。
「AAVに対する中和抗体の力価を測定するための方法であって、
サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼリポータジーンを発現する発現カセットをAAV2末端逆位反復配列で挟まれた形で有する一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)をパッケージしたAAVキャプシドを用意するステップ;
2V6.11細胞を用意するステップ;
上記AAVキャプシドを含む培地と関節リウマチ患者からの血清サンプルを混合するステップ;
リポータジーンの残存活性を測定するステップ;並びに
AAVに対する中和抗体の力価を、参照文献12に記載されたin vitroアッセイにより決定するステップ;
を含む方法。」(以下、「引用発明」という。)
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「上記AAVキャプシドを含む培地と関節リウマチ患者からの血清サンプルを混合するステップ」、「リポータジーンの残存活性を測定するステップ」及び「AAVに対する中和抗体の力価を」「決定するステップ」は、それぞれ、本願発明の「(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させるか、又はインキュベートし、これによって得られる混合物(M)を生成するステップ」、「前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ」及び「前記生体サンプル中のAAVに結合する抗体を測定及び定量するステップ」に該当する。また、引用発明の「一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)をパッケージしたAAVキャプシド」及び「サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼリポータジーンを発現する発現カセットをAAV2末端逆位反復配列で挟まれた形で有する一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)」は、本願発明の「組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子」及び「前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み」「一本鎖ゲノムを含むと共に、(ii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている」に該当する。さらに、引用発明の「2V6.11細胞」は、本願明細書(段落【0110】)に記載され、細胞株保存機関のリスト(例えば、https://www.cellosaurus.
org/CVCL_6355)にも掲載されているとおり、アデノウイルスのE4遺伝子を安定的に発現するHEK-293細胞であるから、本願発明の「HEK-293細胞」に該当するから、本願発明と引用発明は、
「AAVに結合する抗体を、測定及び定量するための方法において、以下:
(a)組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子を用意するステップであって、
(i)前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み、一本鎖ゲノムを含むと共に、(ii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている、ステップ;
(b)HEK-293細胞を用意するステップ;
(c)(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させるか、又はインキュベートし、これによって得られる混合物(M)を生成するステップ;
(e)前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ;並びに
(f)前記生体サンプル中のAAVに結合する抗体を測定及び定量するステップ
を含む方法。」
である点で一致し、次の3点で相違する。
相違点1:本願発明では、「(d)得られた混合物(M)と(b)のHEK-293細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記HEK-293細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ」及び「(f)(e)の前記リポータトランスジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照のリポータトランスジーン発現と比較するステップ」を含むことが特定されているのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。
相違点2:「リポータトランスジーン」が、本願発明では「ルシフェラーゼ遺伝子を含」むのに対して、引用発明では「β-ガラクトシダーゼリポータージーン」である点。
相違点3:「HEK-293細胞」の「最初の解凍後の継代数」が、本願発明では「25継代まで」と特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。
(1)相違点1について
引用文献1においては、アッセイ法について参照文献12(引用文献2)を引用しており(上記1(1)イ)、詳細には記載されていないため、当該参照文献12(引用文献2)を参照すると、アッセイ法の詳細は記載されておらず、さらに参照文献6(引用文献3)が引用されている(上記1(2)
)。そして、当該参照文献6(引用文献3)には、抗体アッセイは、lacZを発現するAAVベクターを患者血清とインキュベートしてなる混合物をHEK-293細胞に導入してβ-ガラクトシダーゼ活性を測定することにより行うこと、及び、患者血清のβ-ガラクトシダーゼ活性を、陰性対照マウス血清の値に対する割合として測定及び定量することが記載されている(上記1(3))。ここで、β-ガラクトシダーゼはlacZの発現産物であることが周知だから、参照文献6(引用文献3)に記載された抗体アッセイは、リポータジーンであるlacZを含むAAVベクターを患者血清と接触させることによって得られる混合物を、HEK-293細胞に感染してこれを発現させることを可能にする条件下で接触させるステップを含むものであるといえる。また、参照文献6(引用文献3)における陰性対照マウス血清は、AAVに結合する抗体を含まないことが明らかだから、参照文献6(引用文献3)に記載された抗体アッセイは、患者血清のリポータジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照マウス血清のリポータジーン発現と比較するステップを含むものであるといえる。
したがって、引用文献1が直接又は間接的に引用する参照文献12(引用文献2)及び参照文献6(引用文献3)の記載を参照すれば、引用発明は、上記相違点1に係る構成を備えていると認められるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
(2)相違点2について
本願発明で用いられるルシフェラーゼ遺伝子は、視覚的に識別可能な汎用性の高いレポータジーンとして周知であって、例えば、引用文献1(上記1(1)ウ)や引用文献8(上記1(4))でも用いられているとおりである。引用発明で用いられるβ-ガラクトシダーゼリポータージーンを、それと同様に視覚的に識別可能な周知のルシフェラーゼ遺伝子に置換することは、当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。
(3)相違点3について
一般に、培養細胞は、継代を重ねると変異が蓄積して機能等が変化して、それを用いた実験結果の信頼性に悪影響を与えるため、20~30継代以内のものを使用することが、本願優先日当時、周知技術であった(例えば、上記1(6)。通常、細胞は凍結保存されていることから、当該継代数は最初の解凍後の継代数を意味する。)。HEK-293細胞についても、当該周知技術が当てはまることは、引用文献8(上記1(4))や引用文献10(上記1(5))からも明らかである。
そうすると、引用発明で用いるHEK-293細胞の最初の解凍後の継代数を20~30継代以内、例えば25継代までとすることは当業者が容易に推考しうる程度のことにすぎない。
(4)効果について
明細書には、HEK293細胞(2V6.11細胞)の継代数とレポーターであるルシフェラーゼシグナル強度との関係を検討した実験として実施例4(【0135】~【0137】、図1、2)が記載されている。
ここで、ルシフェラーゼシグナルは、周知技術どおりアッセイバッファーを添加してルミノメータで測定しており、本願発明の方法において相違点2に係るレポータジーンが顕著な効果を発揮すると認める余地はない。
また、相違点3に係るHEK-293細胞の最初の解凍後の継代数に関しては、「決して25回超継代しなかった」(【0136】)と記載されているとおり、いずれも25継代までしか実験が行われていないため、「最初の解凍後の継代数が25継代までのHEK-293細胞」を用いる本願発明が、26継代以降の細胞を用いる場合と比較して格別顕著な効果を奏すると認めることはできない。
(5)請求人の主張について
請求人が、令和6年1月10日提出の手続補正書により補正された審判請求の理由において次のア及びイの点を主張する。
ア 引用文献1には、AAV導入遺伝子発現カセットをβ-ガラクトシダーゼを発現する一本鎖ゲノム(ssAAV-LacZ)からルシフェラーゼリポータトランスジーンを発現する自己相補的なゲノム(scAAV-Luc)に切り替えることにより、細胞培養アッセイにおける中和抗体の検出感度を向上させたことが記載されているから、当業者は、AAV抗体を定量するためにルシフェラーゼとともに用いるゲノムを自己相補的AAVから一本鎖ゲノムに変更することには動機付けられなかった。
イ HEK-293細胞は継代数を20継代未満とすることが本願優先日前の当業者の技術常識であった(甲1、2)のに対して、本願発明によれば、25継代まではAAV中和抗体力価のアッセイ結果に影響を与えないという当業者が予期し得なかった顕著な効果が得られ、従来よりも多くの回数にわたって継代された細胞を用いることができるため、細胞の購入費用や解凍後の培養のために要する時間を節約できる。本願発明においては、継代数の上限を25継代までと定めたことに技術的意義があり、下限を定めていないことにより左右されるものではない。
これらについての合議体の判断は次のとおりである。
主張アについて
請求人の主張アは、ルシフェラーゼリポータトランスジーンを発現する自己相補的AAV(scAAV-Luc)を用いる場合を引用発明とすることを前提としている。しかし、原査定における拒絶の理由は、引用文献1の記載事項として、ルシフェラーゼリポータトランスジーンを発現する自己相補的AAV(scAAV-Luc)を用いる場合のみならず、β-ガラクトシダーゼリポータージーンを発現する一本鎖AAV(ssAAV-LacZ)を用いる場合も明示的に指摘して、それに基づく容易想到性を判断したものであるから、請求人の主張アは前提において誤りがあり、採用することはできない。
主張イについて
請求人は、本願発明は、継代数の上限を25継代までと定めたことに技術的意義があり、下限を定めていないことにより左右されない旨主張するが、下限が限定されていない以上、本願発明には20継代未満の場合も包含されるのだから、請求人が主張する効果は本願発明特有の効果であるとは認められない。
なお、請求人が提出した甲1(「What the HEK? A Beginner’s Guide to HEK293 Cells」と題するウェブページのプリントアウト。2021年9月27日)及び甲2(「HEK293 Cells: Background,Applications,Protocols, and More」と題するウェブページのプリントアウト。Copyright2021)は、いずれも本願優先日よりも後に公知となったものではあるが、念のため内容を検討すると、甲1には「もし細胞株が20継代以上培養されている場合、新しいストックを解凍し、もう一度始めるのが最善である。」(第2頁下から第3~1行)、甲2には「正確な最大継代数については議論があるが、一般に20継代以下が最良と考えられている。」(第6頁下から第4~3行)と記載され、いずれも20継代程度までに使用を完了することが好ましいことを示すにとどまっており、HEK-293細胞には、20~30継代以内で使用を完了することを推奨するという上記周知技術(上記(3))は当てはまらず、20継代以上の使用を阻害する事情があるとまでは認めることができない。
(6)小括
上記(1)~(4)のとおり、本願発明は、引用文献1、それが直接又は間接的に引用する引用文献2、3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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