sokuhyo

Trademark Appeal Case

請求項減縮の可否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024800032
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第6811203号の特許請求の範囲を、令和6年9月17日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9、12~15〕について訂正することを認める。
特許第6811203号の請求項1~15に係る発明についての本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨

1 請求の趣旨

次を結論とする審決を求める。

(1)特許第6811203号の請求項1~15に係る発明についての特許を無効とする(第1回口頭審理の調書を参照。)。

(2)審判費用は被請求人の負担とする。

2 答弁の趣旨

次を結論とする審決を求める。

(1)本件審判請求は成り立たない。

(2)審判費用は請求人の負担とする。

第2 手続の経緯

特許第6811203号(以下「本件特許」という。)の請求項1~15に係る発明についての出願は、2009年(平成21年)10月15日(パリ条約による優先権主張 2008年10月16日 (EP)欧州特許庁、2008年10月16日 (US)アメリカ合衆国、2009年8月5日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日(以下「本件出願日」という。)とする特願2011-531494号の一部を平成26年2月28日に新たな出願(特願2014-39772号)とした一部を平成28年3月9日に新たな出願(特願2016-46077号)とした一部を平成30年4月25日に新たな出願(特願2018-83792号)としたものであって、令和2年12月16日に特許権の設定登録がされたものである。

これに対して、令和6年3月19日に特許無効審判請求がされた。その後の主な手続の経緯は次のとおりである。

令和6年 3月19日 審判請求書の提出

同年 4月17日 上申書の提出(請求人)

同年 9月17日 答弁書・訂正請求書の提出

令和7年 2月13日付け 審理事項通知書

同年 5月23日 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出

同年 5月23日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出

同年 6月 6日 第1回口頭審理

同年 6月13日 上申書(請求人)の提出

同年 7月18日 上申書(請求人)の提出

同年 7月18日 上申書(被請求人)の提出

第3 訂正請求について

1 訂正請求の趣旨

令和6年9月17日にされた訂正請求の趣旨は、「特許第6811203号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9、12~15について訂正することを求める。」というものである。以下、当該訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

2 訂正の内容

本件訂正の内容は、以下の(1)、(2)のとおりである。

(1)訂正事項1(請求項1に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項1における「代謝性疾患」との記載を「2型糖尿病」に訂正する。

(2)訂正事項2(請求項2に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項2における「代謝性疾患」との記載を「2型糖尿病」に訂正する。

なお、訂正前の請求項2~9、12~15は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

したがって、訂正前の請求項1~9、12~15は、特許法134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

3 訂正の適否の判断

(1)訂正の目的について

本件特許の明細書(以下「本件明細書」ともいう。)の【0034】には、以下のとおり記載されている(原文にない下線は、強調のために当審が付与した。以下同様。)。

「【0034】

経口抗糖尿病治療の二次無効を有する患者で本発明の治療を受けやすいこのような

代謝性疾患又は障害の例として、

1型糖尿病、

2型糖尿病

、不適なグルコーストレランス、インスリン耐性、高血糖症、高脂血症、高コレステロール血症、異常脂血症、メタボリック症候群X、肥満、高血圧、慢性全身性炎症、網膜症、神経障害、腎症、アテローム硬化症、内皮機能不全及び骨多孔症

が挙げられる

が、これらに限定されない。」

上記記載からも明らかなとおり、2型糖尿病は代謝性疾患の一例であるから、「代謝性疾患」を「2型糖尿病」に訂正するものである、訂正事項1及び2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。

(2)新規事項の追加について

上記(1)のとおり、本件明細書には、代謝性疾患として2型糖尿病が記載されているから、「代謝性疾患」を「2型糖尿病」に訂正する訂正事項1及び2は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)特許請求の範囲の拡張、変更について

上記(1)のとおり、訂正事項1、2は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について

本件においては、全ての請求項に対して特許無効審判が請求されているので、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される要件(独立特許要件)は適用されない。

4 訂正請求についてのまとめ

以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

よって、本件特許の特許請求の範囲を、令和6年9月17日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9、12~15〕について訂正することを認める。

第4 本件発明

上記第3のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は、令和6年9月17日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、これらの発明を、請求項の番号順にそれぞれ「本件発明1」~「本件発明15」ともいい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。

「【請求項1】

メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者の2型糖尿病の治療及び/又は予防のための、下記式のDPP-4阻害剤又はその医薬上許される塩を含む医薬組成物であって、

前記医薬組成物は、1日1回の経口投与用であり且つ5mgの前記DPP-4阻害剤を含むか、或いは

前記医薬組成物は、1日2回の経口投与用であり且つ2.5mgの前記DPP-4阻害剤を含む、前記医薬組成物。

34

87

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【請求項2】

経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者の2型糖尿病の治療及び/又は予防のための請求項1記載の医薬組成物であって、

前記経口抗糖尿病薬がメトホルミンである、前記医薬組成物。

【請求項3】

前記DPP-4阻害剤が前記通常の一種以上の抗糖尿病薬と組み合わせて使用される、請求項1又は2記載の医薬組成物。

【請求項4】

前記患者でHbA1c、FPG及び/又はPPGを改善し、グルコース変動幅を減少し、及び/又はインスリン分泌を改善するために用いられる、請求項1から3のいずれか1項記載の医薬組成物。

【請求項5】

インスリン治療の適応を有する患者の糖尿病の治療に用いられる、請求項1から4のいずれか1項記載の医薬組成物。

【請求項6】

前記患者がメトホルミンに対する非寛容性又は禁忌のために減少された用量のメトホルミン治療を要する患者、又は老人の患者である、請求項1から5のいずれか1項記載の医薬組成物。

【請求項7】

メトホルミンとの組み合わせにおける使用のための請求項1から6のいずれか1項記載の医薬組成物。

【請求項8】

前記DPP-4阻害剤が、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンである、請求項1から7のいずれか1項記載の医薬組成物。

【請求項9】

前記患者が、メトホルミン又は(基礎)インスリンを用いた単一治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者であるか、或いは

前記患者が、メトホルミン/(基礎)インスリンの組み合わせを用いた二重の組み合わせ治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者である、請求項1記載の医薬組成物。

【請求項10】

メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される1種の抗高血糖薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者における2型糖尿病を治療するための、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを含む医薬組成物であって、

前記医薬組成物は、前記抗高血糖薬と組み合わせての1日1回の経口投与用であり且つ5mgの1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを含むか、或いは

前記医薬組成物は、前記抗高血糖薬と組み合わせての1日2回の経口投与用であり且つ2.5mgの1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを含む、前記医薬組成物。

【請求項11】

メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される2種の抗高血糖薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者における2型糖尿病を治療するための、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを含む医薬組成物であって、

前記医薬組成物は、前記抗高血糖薬と組み合わせての1日1回の経口投与用であり且つ5mgの1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを含むか、或いは

前記医薬組成物は、前記抗高血糖薬と組み合わせての1日2回の経口投与用であり且つ2.5mgの1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを含む、前記医薬組成物。

【請求項12】

前記1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの投与された経口用量の10%未満又は7%以下が腎臓を介して排泄される、糖尿病患者の経口治療のための、請求項1から11のいずれか1項記載の医薬組成物。

【請求項13】

前記1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンが、主として胆汁を介して未変化で排泄される、請求項12記載の医薬組成物。

【請求項14】

前記1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの投与された経口用量の80%より多く、又は90%以上が親薬物として未変化で排泄される、請求項12又は13記載の医薬組成物。

【請求項15】

前記1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの主代謝産物が薬理学上不活性である、請求項12から14のいずれか1項記載の医薬組成物。」

第5 当事者の主張及び証拠方法

1 請求人の主張及び証拠方法

請求人は、証拠方法として甲第1号証、甲第2号証、甲第2号証の2~甲第2号証の4、甲第4号証~甲第10号証(以下、「甲1」のように略して記載する。)を提出するとともに、以下の無効理由1、2を主張する。

[無効理由1](実施可能要件)

特許第6811203号(以下「本件特許」という。)の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1~15に係る発明の医薬用途を裏付ける薬理試験結果がまったく記載されておらず、当業者が、本件特許の請求項1~15に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(第1回口頭審理の調書を参照。)。

[無効理由2](サポート要件)

本件特許の請求項1~15に係る発明の医薬用途は、本件特許の発明の詳細な説明の記載においてまったく裏付けられておらず、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載された技術的事項の範囲を超えることは明らかであり、本件特許の請求項1~15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(第1回口頭審理の調書を参照。)。

[証拠方法]

甲1:国際公開第2004/018468号公報

甲2:Drugs of the Future,2008,Vol.33,No.6,pp.473―477

(以上、審判請求書に添付。)

甲2の2:本件特許の審査過程で通知された平成31年3月25日付け拒絶理由通知書(甲2の2は、甲2が2008年6月に発行されたことを説明するための書類である。)

(以上、令和6年4月17日提出の上申書(請求人)に添付。)

甲2の3:Drugs of the Future,2008,Vol.33,No.6の表紙(甲2の3は、甲2が2008年6月に発行されたことを説明するための書類である。)

(以上、口頭審理陳述要領書(請求人)に添付。)

甲3:令和7年6月6日に行われた口頭審理で請求人が「請求人陳述要領」で使用したPower Pointの紙出力

(以上、令和6年6月13日提出の上申書(請求人)に添付。)

甲2の4:甲2の全文訳

甲4:Diabetic medicine,2006,Vol.23(Suppl.4),p.300(P821)

甲5:Diabetes,2007,Vol.56,Suppl.1,p.A156(586-P)

甲6:Diabetologia,2007,Vol.50,Suppl.1,p.S5,p.S367(0890)

甲7:Diabetes,2008 June,Vol.57,Suppl.1,pp.A158-A159(533-P,534-P)

甲8:Diabetologia,2007,Vol.50,Suppl.1,S367(0890)

甲9:臨床薬理,1999,Vol.30,No.3,pp.625-628,及びVol.30,No.6,pp.815-825

甲10:治療増刊号,2003,Vol.85,pp.(1141)541-(1143)543

(以上、令和7年7月18日提出の上申書(請求人)に添付。)

2 被請求人の主張及び証拠方法

被請求人は、証拠方法として乙第1号証、乙第1号証の2、乙第2号証~乙第8号証、乙第8-1号証、乙第9号証、乙第9-1号証、乙第10号証~乙第21号証、乙第21号証の2(以下、「乙1」のように略して記載する。)を提出するとともに、請求人が主張する無効理由1、2は、いずれも理由がないと主張する。

[証拠方法]

乙1:Am J Physiol Renal Physiol,2003,Vol.284,F1138-F1144

乙2:Cardiovasc Diabetol,2020,19:72,pp.1-15,https://doi.org/10.1186/s12933-020-01046-z

乙3:「胆汁排泄型選択的DPP-4阻害剤―2型糖尿病治療剤―リナグリプチン製剤 処方箋医薬品

注)

トラゼンタ

(R)

錠5mg Trazenta

(R)

Tablets 5mg」の添付文書、2023年4月改訂(第2版)、販売開始2011年9月(当審注:(R)は、丸の中にRを表す。)

(以上、答弁書に添付。)

乙4:Drugs,1998 Feb,55(2):pp.225-236

乙5:Current Medical Research and Opinion,2007,Vol.23,No.4,pp.945-952

乙6:Diabetic Medicine,1994,Vol.11,pp.794-801

乙7:Diabetes Care,1998,Vol.21,Supplement 3,pp.C35-C38

乙8:Januvia sitagliptin,SCIENTIFIC DISUSSION,2007,EMEA,pp.1/39-39/39

乙8-1:https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/januvia#assessment-history(乙8-1は、乙8の公開日が2007年3月26日であることを示す書類である。)

乙9:Galvus vidagliptin,SCIENTIFIC DISUSSION,2007,pp.1/34-34/34

乙9-1:https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/galvus#assessment-history(乙9-1は、乙9の公開日が2007年4月4日であることを示す書類である。)

乙10:Galvus FDA Approval Status,2024年11月13日出力,https://www.drugs.com/history/galvus.html

乙11:ILARJournal,2006,Vol.47,No.3,pp.186-198

乙12: DIABETES,1987 March,Vol.36,pp.341-347

乙13: Biosci.Biotechnol.Biochem.,2010,Vol.74,No.7,pp.1488-1490

(以上、口頭審理陳述要領書(被請求人)に添付。)

乙1の2:乙1の全文訳

乙14:Diabetes,Obesity and Metabolism,2009,Vol.11,pp.786-794

乙15:A Textbook of Clinical Pharmacy Practice,2004,Milap C Nahata,Published by Orient Longman Private Limited,p.309(https:/(books.google.de(books?id=FGDQZaqk91YC&pg=PA309&dq)

乙16: DRUG METABOLISM AND DISPOSITION,April 2010,Vol.38,No.4,pp.667-678

乙17: TRADJENTA

(R)

(linagliptin tablets),for oral use Initial U.S.Approval:2011,Revised:6/2023(当審注:(R)は丸の中にR)

乙18:MedGenMed,2004 Aug 26,Vol.6(3 Suppl):11.,

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1474824/

乙19: The American Journal of Medicine,2000,Vol.108(6A),pp.23S-32S

乙20: トラゼンタ

(R)

錠5mgの医薬品インタビューフォーム,2023年4月(改訂第19版)((R)は、丸の中にR)

乙21:Center for Drug Evaluation and Research,Application Number:201280Origls000,Pharmacology Review(s),p21

乙21の2:Drug Approval Package,Tradjenta(linagliptin)Tablets,https・://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2011/201280Origls000TOC.fm

(以上、令和7年7月18日提出の上申書(被請求人)に添付。)

第6 当審の判断

1 主な証拠の記載事項

主要な甲号証及び乙号証には、以下の事項が記載されている。外国語で記載された証拠については当審による日本語訳で記載する。また、原文にない下線は強調のために当審が付したものである。

(1)甲1の記載事項

甲1には、以下の事項が記載されている。

(甲1-a)「本発明は、以下の一般式Iで表される新規な置換されたキサンチン:

30

62

0001434906000002.jpg

その互変異性体、立体異性体、混合物、プロドラッグ及びその塩、特に無機又は有機の酸又は塩基との生理的に許容される塩に係り、これらは特に、酵素:

ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)の活性に及ぼす阻害作用

を含む薬理的に有益な諸特性を持ち、またこれらの製造、高いDPP-IV活性と関連した、又はこのDPP-IV活性を減じることによって予防若しくは軽減できる疾患又は状態、特にタイプI又は

タイプII真性糖尿病を予防若しくは治療するためのその使用

、一般式(I)の化合物又はその生理的に許容されるその塩を含む薬理組成物並びにその製法に関するものである。」(1頁3行~下から6行)

(甲1-b)「このDPP-IVアッセイは、以下のようにして行った:

・・・

134

153

0001434906000003.jpg

本発明によって製造される化合物は、例えば実施例2(80)の化合物10mg/kgを経口経路でラットに投与した場合にこの動物における如何なる挙動変化も検出されなかったことから十分に許容性をもつものである。

これら化合物のDPP-IV活性を阻害する能力

から、

本発明による一般式Iの化合物

及び対応する製薬上許容されるその塩

は、該DPP-IV活性の阻害によって影響される可能性のある全てのこれら状態又は疾病を治療するのに適したもの

である。従って、

本発明の化合物は

、疾患又は状態、例えばタイプI及び

タイプII真性糖尿病

、糖尿病性合併症(例えば、網膜症、ネフロパシー又はニューロパシー)、代謝性アシドーシス又はケトーシス、反応性低血糖、インシュリン耐性、代謝性症候群、様々な器官の脂肪異常、関節炎、アテローム性動脈硬化症及び関連疾患、肥満、同種移植片移植及びカルシトニン-誘発性オステオポローシス

の予防並びに治療のために適したものである

と予想される。」(34頁12行~36頁最下行、なお、原文では縦一列であった表を横二列に並べて表記した。)

(甲1-c)「最終的な化合物の製造:

実施例1

1,3-ジメチル-7-(2,6-ジシアノ-ベンジル)-8-(3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン

・・・

実施例2

1-(2-{2-[(エトキシカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-(3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン

1-(2-{2-[(エトキシカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-[3-(t-ブチルオキシカルボニルアミノ)-ピペリジン-1-イル]-キサンチン(209mg)の塩化メチレン(4ml)溶液を1mlのトリフルオロ酢酸と合わせて周囲温度にて半時間撹拌する。作業を完結するためにこの反応混合物を塩化メチレンで希釈し飽和炭酸カリウム溶液で洗浄する。得られる有機相を乾燥し蒸発させ塩化メチレン/メタノール(1:0~4:1)を溶離液として使用しシリカゲルカラムを通したクロマトグラフィー処理にかける。

収量:153mg(理論値の87%)

マススペクトル(ESI

+

):m/z=553[M+H]

+

以下の化合物を、実施例2と同様にして得る:

(1)1-(2-{2-[(アミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-(3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン:マススペクトル(ESI

+

):m/z=543[M+H]

+

・・・

(142)1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン

(塩化メチレン中で5-6Mのイソプロパノール性塩酸を使用して実施)

融点:198-202°C

マススペクトル(ESI

+

):m/z=473[M+H]

+

」(137頁15行~165頁24行)

(2)甲2の記載事項

(甲2-a)「BI-1356

ジペプチジル-ペプチターゼIV阻害剤

抗糖尿病薬

・・・

8-[3(R)-アミノピペリジン-1-イル]-7-(2-ブチニル)-3-メチル-1-(4-メチルキナゾリン-2-イルメチル)キサンチン」(473頁表題)

(甲2-b)「

44

84

0001434906000004.jpg

」(473頁左欄)

(甲2-c)「要約

BI-1356は、ジペプチジル-ペプチダーゼIV(DPP IV

、又はCD26)

阻害剤

であり、

2型糖尿病の治療

のためにベーリンガー・インゲルハイムにより開発された。BI-1356は、インビトロとインビボの両方で長期にわたるDPP IV阻害を実証した。インビトロでは、BI-1356はDPP-8及びDPP-9よりもDPP IVに対して、少なくとも10,000倍選択的であった。マウス及びラットにおいても、高い効力と長期持続する阻害効果がインビボで観察され、BI-1356によって誘導される阻害は、試験した他のDPP IV阻害剤によって誘導される阻害よりも長く持続した。BI-1356は、健康なボランティア及び2型糖尿病患者において非線形薬物動態を示した。BI-1356を1日1回経口投与すると、健康なボランティア及び2型糖尿病患者において忍容性が良好であることが証明された。

BI-1356による治療により、2型糖尿病患者のGLP-1濃度は増加し、グルコース濃度は低下し、糖尿病患者のHb1Acも有意に低下した

。第III相臨床試験が進行中である。」(473頁要約)

(甲2-d)「背景

・・・

現在までに、

2つのDPP IV阻害剤、ビルダグリプチン

(ノバルティス社)及び

シタグリプチン

(メルク社)

が、経口抗糖尿病薬として規制当局から承認を受けている

。2007年初頭には、欧州医薬品庁(EMEA)が、

ビルダグリプチン(Galvus

TM

、LAF-237)をメトホルミン、スルホニル尿素薬、チアゾリジンジオン系薬剤等の他の抗糖尿病薬との併用で2型糖尿病の治療に使用することを承認

し、米国食品医薬品局(FDA)はシタグリプチン(Januvia

TM

)を承認した。MK-0431(シタグリプチン)は2006年に、

シタグリプチンとメトホルミンの配合剤

(Janumet

TM

)は2007年に、2型糖尿病の治療薬として承認された。ビルダグリプチンとシタグリプチンの両方は、2型糖尿病患者を対象とした臨床試験において、有効性と良好な忍容性が確認された。従来の治療法と比較して、これらのDPP IV阻害剤は、低血糖のリスクが低く、体重増加を伴わずに、持続的なHbA1c(糖化ヘモグロビン)の低下をもたらした(9-11)。

現在、3つのDPP IV阻害剤、サキサグリプチン(BMS-477118;ブリストル・マイヤーズ スクイブ、アストラゼネカ)、アログリプチン(SYR-322;武田薬品工業)、及び

BI-1356

(ベーリンガーインゲルハイム)

が、後期臨床開発段階にある

(3、8、10-12)。

メトホルミン単独療法と比較して、サキサグリプチンとメトホルミンの併用療法は、2型糖尿病患者における血糖コントロールを第III相試験において有意に(p<0.0001)改善した

(13)。」(473頁右欄19行~475頁左欄3行)

(甲2-e)「薬物動態学及び代謝

・・・

BI-1356の薬物動態及び薬力学を、健康な男性被験者(21~65歳)を対象に、1日1回、12日間、BI-1356又はプラセボを単回漸増用量(2.5~600mg)にて投与し、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で評価した。BI-1356の薬物動態は3コンパートメントモデルに適合した。すなわち、曝露量は、1~10mgの用量範囲では比例関係より少なく、25~100mgの用量範囲では比例関係より多く、そして100~600mgの用量範囲では凡そ比例して、増加した。

BI-1356の腎排泄は低く、主要な排泄経路ではなかった

。BI-1356の血漿中濃度は、血漿中のDPP IV阻害活性と直接的に相関していた(18-20)。」(475頁右欄21行~下から14行)

(甲2-f)「

臨床研究

・・・

経口BI-1356の有効性は、BI-1356(2.5、5、10mg

、n=16)又はプラセボ(n=26)

を1日1回

、28日間

投与された2型糖尿病患者

77人

を対象

にさらに評価された。4週間後、

BI-1356による治療により、GLP-1の濃度は最大4倍、グルカゴンの濃度は最大24%増加した。ベースラインからのグルコース濃度の減少は最大105mg.h/dlであった。2.5、5、及び10mgの用量で、ベースライン(7.0%)からそれぞれ-0.31%、-0.37%、及び-0.28%というHbA1cの有意なプラセボ補正平均変化が観察

された(24)。」(476頁右欄1行~29行)

(3)甲4の記載事項

(甲4-a)「背景と目的:ジペプチジル ペプチダーゼ IV

(DPP-IV)阻害剤は、新しいクラスの経口糖尿病治療薬

である。

BI1356は、2型糖尿病の治療薬として臨床開発中

の、

新規で、経口投与可能な、選択的かつ強力な新規DPP-4阻害剤

である。

材料と方法:BI1356の安全性、忍容性、薬物動態及び薬力学は、二重盲検無作為化プラセボ対照単回漸増試験で評価された。21歳から65歳の健康男性ボランティア63名に,2.5~600mgのBI1356又はプラセボの単回経口投与した。

・・・

結果:BI1356は、低用量域ではクリアランス及び分布容積が増加する非線形の薬物動態を示し,100~600mgの用量範囲では用量比例性が観察された。

腎クリアランスは、マイナーな排泄経路であった

・・・

結論:要約すると、

BI1356

は健康な男性ボランティアにおいて

1日1回2.5~600mgの用量範囲

にわたって良好な忍容性を示した。

BI1356は、5mgの治療用量を基準

として、

100倍を超える広い治療域

を有している。薬物動態特性は、

1日1回の投与方法

と一致する。」(300頁右欄のP821の項)

(4)甲5の記載事項

(甲5-a)「21~65歳の健康男性ボランティアを対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照単回用量増量試験において、

BI1356を1日1回2.5~600mgの範囲の用量で投与

し、安全性、忍容性、薬物動態及び薬力学を検討した。

・・・

腎排泄量は少なく、BI1356の主な排泄経路ではない

・・・

要約すると、BI1356は忍容性が高く安全であった。単回投与後の薬物動態学的及び薬力学的プロファイルの結果は、BI1356の効力と完全な24時間作用持続時間を示している。

推定治療用量5mg

に基づくと、BI1356の治療域は100倍を超えると予想される。」(A156頁左欄の586-Pの項)

(5)甲6の記載事項

(甲6-a)「背景と目的:

BI1356は、2型糖尿病治療薬として開発中の経口投与可能な新規のDPP-IV選択的阻害剤

である。健康な男性(BI1356投与群47名、プラセボ投与群16名、平均年齢38.3歳、BMI24.8kg/m

2

)を対象とした単回投与漸増試験(SRD、2.5~600mg)、及び

2型糖尿病男性

(BI1356投与群35名、プラセボ投与群12名、年齢56.0歳、BMI28.6kg/m

2

、ベースラインHbAlc6.7%)を対象とした

1日1回

、12日間投与する反復投与漸増試験(MRD、

1~10mg

)において、BI1356の安全性と忍容性、薬物動態、薬力学を調査した。

・・・

結果:・・・

腎臓からの排泄は少なくBI1356の主な排泄経路ではない

・・・

結論:健康な男性における

BI1356の単回投与(最大600mg)

及び2型糖尿病患者における反復投与(最大10mg、12日間)は、忍容性及び安全性に優れていた。BI1356の血漿中濃度はDPP-IV活性とよく相関し、血漿中濃度5.3nmol/Lで>80%のDPP-IV阻害を達成した。この結果は、BI1356の高い効力、24時間の作用時間及び非常に広い(100倍より大きい)治療域を確認するものである。」(S367頁の0890の項)

(6)甲7の記載事項

(甲7-a)「この第Ila相無作為化二重盲検プラセボ対照反復投与試験は、72名の日本人

2型糖尿病患者(T2DM)を対象に、経ロジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害剤であるBI1356(0.5、2.5、又は10mg、28日)の安全性、忍容性、薬物動態及び薬力学を評価

したものである。

・・・

BI1356の薬物動態学的特徴(低い尿中排泄[最高用量群では、定常状態で7%未満

]、非線形の薬物動態、長い終末相半減期[223~260時間]、及び短い支配的半減期[約10~40時間])は、健康な日本人及び白人の被験者を対象とした過去の研究結果と一致していた。」(A158頁右欄下から11行~A159頁左欄5行、項目533-P)

(甲7-b)「この無作為化用量群内二重盲検プラセボ対照試験は、健康な日本人男性被験者(20~35歳)を対象に、BI1356の単回投与用量漸増試験(1、2.5、5、10mg;n=32)、及び

BI1356の反復投与用量漸増試験

(

2.5、5、10mg/日

を12日間;n=24)の安全性、忍容性、薬物動態、薬力学を評価したものである。

・・・

BI1356の尿中排泄量は投与量とともに増加し、すべての投与群で1日目から12日目まで増加した。しかし、

腎臓から排泄されるBI1356の量は、投与量に関係なく、定常状態で7%を超えることはなかった

・・・

結論として、1日1回10mgまでのBI1356の投与は、健康な日本人ボランティアにおいて12日間まで良好な忍容性を示した。DPP-4阻害作用が24時間持続し、GLP-1のトラフ濃度及びピーク濃度が上昇する薬力学的特性及び薬物動態は、

1日1回投与の抗糖尿病薬

として期待されるものと合致し、白人の集団で観察されたものと同様であった。」(A159頁左欄30行~下から12行、項目534-P)

(7)乙1の記載事項

(乙1-a)「db/dbマウスにおける糖尿病性腎疾患」(F1138頁表題)

(乙1-b)「

多数の糖尿病マウスモデルが同定

され、その腎臓疾患が様々な程度で特徴づけられている。おそらく、

最もよく特徴づけられており最も集中的に研究されているモデルは、db/dbマウス

である。」(F1138頁中央欄7行~10行)

(8)乙4の記載事項

(乙4-a)「経口抗糖尿病薬 選択ガイド」(225頁表題)

(乙4-b)「

105

153

0001434906000005.jpg

図1.2型糖尿病の経口薬治療の現在の状態:スルホニル尿素、メトホルミン、アカルボース及びチアゾリジンジオンの作用部位」(227頁Fig.1.)

(乙4-c)「2.2 併用療法

現在利用可能である4つのクラスの抗高血糖薬

(スルホニル尿素、ビグアナイド、α-グルコシダーゼ阻害剤及びチアゾリジンジオン)

は、異なる作用機序及び作用部位を有している

が(図1)、

これらはほとんどの患者に対してより理想的な血糖調節を提供するように段階的に組み合わせられ得る

[7-12,59]

最も一般的な併用療法は、スルホニル尿素とメトホルミンの組合せである。

[52,60]

」(232頁左欄「2.2 Combined Therapy」の項1行~9行)

(9)乙5の記載事項

(乙5-a)「2型糖尿病における経口抗糖尿病薬」(945頁表題)

(乙5-b)「背景

経口抗糖尿病薬は、作用機序、

ヘモグロビン-A

1c

低下効果、安全性、忍容性

が異なる

従来の薬剤は、

インスリン分泌を改善する薬剤(例、スルホニル尿素及びグリニド)

、インスリン感受性を改善する薬剤(例、メトホルミン

及びチアゾリジンジオン)、腸管炭水化物吸収を阻害する薬剤(例、α-グルコシダーゼ阻害剤)

で構成

される。

新しい経口薬剤には、インクレチングルカゴン様ペプチド1の活性を増強し、グルコース依存性インスリン分泌を促進するDPP-4阻害剤が含まれる

。」(945頁ABSTRACTの「Background」)

(乙5-c)「従来の主なカテゴリーには、インスリン分泌を刺激する薬剤(例、スルホニル尿素(SUs)及びグリニドなど)、

インスリン感受性を改善する薬剤(例、メトホルミン

及びチアゾリジンジオン(TZDs)など)、腸管炭水化物吸収を減らす薬剤(例、α-グルコシダーゼ阻害剤(AGIs)など)が含まれる。

経口ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤は、インクレチンホルモンであるグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の作用を増強することでグルコース恒常性を改善する新しいクラスの薬剤

であり、この作用により、β細胞からのインスリン分泌が改善され、α細胞からの不適切なグルカゴン放出が抑制され肝臓でのグルコース産生が減少する

3-6

。」(946頁左欄5行~17行)

(10)乙11の記載事項

(乙11-a)「2型糖尿病の動物モデル:臨床症状と人間の状態に対する病態生理学的関連性」(186頁表題)

(乙11-b)「T2Dの研究のために、心血管疾患の発症に加えてインスリン抵抗性、肥満、及び膵臓機能不全を発症するマウスモデルが、ヒトの状態において見られるそれらの状態を反映する。T1Dにおいてもそうであったように、ヒトの状態において観察される全ての状態を包含するT2Dに対する単一のマウスモデルはないように思われる。しかし、

ヒトの疾患に関連する非常に適切なマウスモデルがあるように思われる

(例:ob/ob[肥満]マウス及び

db/db[糖尿病]マウス

)。」(190頁左欄第3段落1行~9行)

(乙11-c)「

db/dbマウス

は、生後早期(2週間以内)に高インスリン血症を発症し、3~4週で肥満になる。高血糖が4~8週齢でβ細胞の機能不全に続いて現れる(Bates et al. 2005)。従って、このモデルの一連の出来事は、

ヒトのT2Dを模倣している

ように思われる。」(190頁右欄第1段落1行~6行。なお、「T2D」が「2型糖尿病」であることは、186頁左欄「Abstract」の項13行~14行に記載されている。)

(11)乙12の記載事項

(乙12-a)「遺伝性

糖尿病db/dbマウス

における膵臓プロインスリンmRNAの定量分析」(341頁標題)

(乙12-b)「要旨

C57BL/KsJ

db/dbマウスは、

過食性肥満、及び

ヒトにおける非インスリン依存性糖尿病に類似する非ケトン性糖尿病を発症する

。このマウスは初期に豊富なβ細胞質量及び高インスリン血症を示した後、明白なβ細胞喪失を示す。」(341頁左欄「SUMMARY」の項の1行~5行)

(12)乙13の記載事項

(乙13-a)「db/dbマウスの末梢白血球における炎症性サイトカインの遺伝子発現は糖尿病の進行とともに上昇した」(1488頁表題)

(乙13-b)「

14週齢のdb/dbマウスは、7週齢のマウスよりも血漿グルコースレベルが有意に高かった

。末梢白血球中のIL-1β及びS100a4/a6/a9のmRNAレベルは、7週齢のマウスよりも14週齢のマウスの方が高かった。これらを合わせると、末梢白血球中の炎症性サイトカイン/サイトカイン様因子のmRNAレベルは、db/dbマウスにおける糖尿病の進行と関連していた。」(1488頁左欄の要約)

(乙13-c)「

本研究では、db/dbマウスにおける糖尿病の段階的変化を比較した

。db/dbマウスは、レプチン受容体の欠損によるインスリン抵抗性により、糖尿病が重度に進行することが示された。

13)

表2に示すように、14週齢のdb/dbマウスの体重は、7週齢の1.48倍だった。2つの年齢群間で、空腹時血漿トリグリセリド又は遊離脂肪酸に有意な差は認められなかった。

マウスの血漿グルコース濃度は14週齢では7週齢よりも有意に高かった

14週齢のマウスの血漿インスリン濃度は7週齢のマウスよりも低くなる傾向があった

(p=0.07)(表2)。これらの結果は、

db/dbマウスでは7週齢から14週齢の間に糖尿病状態が悪化

し、膵臓β細胞のインスリン分泌能力が低下することを示している。」(1489頁左欄第2段落第1行~最終行)

(13)乙17の記載事項

(乙17-a)「11 性状

経口用トラゼンタ錠は、DPP-4酵素阻害剤であるリナグリプチンを含有する。

リナグリプチンの化合物名は、1H-プリン-2,6-ジオン、8-[(3R)-3-アミノ-1-ピペリジニル)-7-(2-ブチン-1-イル)-3,7-ジヒドロ-3-メチル-1-[(4-メチル-2-キナゾリニル)メチル]-である。

分子式は、C

25

H

28

N

8

O

2

、分子量は472.54g/molである。構造式は以下のとおりである。

30

79

0001434906000006.jpg

・・・」(5頁「11 性状」の項)

(乙17-b)「代謝

経口投与後、リナグリプチンの大部分(約90%)は、未変化体のまま排泄されることから、代謝は薬物消失経路としてはごく一部であることが示されている。吸収されたリナグリプチンのごく一部は、薬理活性を持たない代謝産物に代謝され、この代謝産物の定常状態での曝露量はリナグリプチンに対して13.3%である。」(6頁「Metabolism」の項)

(乙17-c)「排泄

健康な被験者に経口で[

14

C]-リナグリプチンを投与したところ、投与後4日以内に投与された放射能の約85%が、腸肝循環系(80%)又は尿(5%)を介して排泄された。」(6頁「Excretion」の項)

2 本件出願時の技術常識

上記1の記載から、本件出願当時、以下の技術常識が認められる。なお、以下では本件出願当時の技術常識を「技術常識」ともいう。

(1)db/dbマウスについて

ア 乙1は、db/dbマウスにおける糖尿病性腎疾患について記載された文献である(乙1-a)。そして、乙1には、多数の糖尿病マウスが同定されているが、最もよく特徴付けられており最も集中的に研究されているモデルは、db/dbマウスであると記載されている(乙1-b)。

乙11は、2型糖尿病の動物モデルについて記載された文献である(乙11-a)。そして、乙11には、db/dbマウスが、ヒトの2型糖尿病を模倣し、適切なマウスモデルであるように思われることが記載されている(乙11-b、乙11-c)。

乙12は、遺伝性糖尿病db/dbマウスにおける膵臓プロインスリンmRNAの定量分析について記載された文献である(乙12-a)。そして、乙12には、db/dbマウスが、ヒトにおける非インスリン依存性糖尿病に類似する非ケトン性糖尿病を発症することが記載されている(乙12-b)。

乙13は、db/dbマウスにおける糖尿病の段階的変化の比較について記載された文献である(乙13-a、乙13-c)。そして、乙13には、14週齢のdb/dbマウスは、7週齢のマウスよりも、血漿グルコースレベルが有意に高く、血漿インスリン濃度は低くなる傾向があり、7週齢から14週齢の間に糖尿病状態が悪化することが記載されている(乙13-b、乙13-c)。

イ 上記アによれば、本件出願当時、

db/dbマウスが2型糖尿病の動物モデルであることは技術常識

であったと認められる。

(2)DPP-4阻害剤、メトホルミン、インスリン、インスリン類似体の作用機序について

ア 乙5は、2型糖尿病における経口抗糖尿病薬について記載された文献である(乙5-a)。そして、乙5には、経口抗糖尿病薬は、それぞれ作用機序が異なり、従来の薬剤としては、メトホルミンなどのインスリン感受性を改善する薬剤があること、新しい経口薬剤には、インクレチングルカゴン様ペプチド1の活性を増強し、グルコース依存性インスリン分泌を促進するDPP-4阻害剤が含まれることが記載されている(乙5-b、乙5-c)。

イ 上記アによれば、本件出願当時、メトホルミンとDPP-4阻害剤の作用機序が異なることは技術常識であったと認められる。また、上記アのとおり、DPP-4阻害剤の作用機序は、インクレチングルカゴン様ペプチド1の活性を増強して、グルコース依存性インスリン分泌を促進するという、間接的にインスリンの作用を促進するものであるのに対し、インスリンやインスリン類似体の投与は、直接、インスリンの作用を促進するものであるから、DPP-4阻害剤と、インスリンやインスリン類似体との作用機序が異なることは明らかである。

したがって、本件出願当時、

DPP-4阻害剤が、メトホルミンやインスリン、インスリン類似体とは作用機序が異なることは技術常識

であったと認められる。

(3)作用機序の異なる経口抗糖尿病薬を組み合わせる併用療法について

ア 乙4は、経口抗糖尿病薬の選択ガイドについて記載された文献である(乙4-a)。そして、乙4には、「2.2 併用療法」として、「現在利用可能である4つのクラスの抗高血糖薬(スルホニル尿素、ビグアナイド、α-グルコシダーゼ阻害剤及びチアゾリジンジオン)は、異なる作用機序及び作用部位を有しているが(図1)、これらはほとんどの患者に対してより理想的な血糖調節を提供するように段階的に組み合わせられ得る」と記載されている(乙4-b、乙4-c)。

イ 上記アによれば、本件出願当時、

2型糖尿病治療薬の分野では、異なる作用機序の経口抗糖尿病薬を組み合わせる併用療法が広く行われていたことは技術常識

であったと認められる。

3 本件明細書の記載

本件明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【背景技術】

・・・

【0003】

こうして、多くの患者について、これらの

既存の薬物療法は

治療にもかかわらず

血糖調節の進行性の劣化をもたらし

、特に長期にわたって血糖を充分に調節せず、こうして進行性又は後期の2型糖尿病(

通常の経口又は非経口抗糖尿病薬にもかかわらず不適当な血糖調節の糖尿病

、薬物の二次無効及び/又はインスリンの適応を有する糖尿病を含む)

で代謝調節を得ること、かつ維持することが出来なくなる

・・・

【0005】

・・・それ故、進行性又は後期2型真性糖尿病のこれらの患者(

通常の経口及び/又は非経口の抗糖尿病薬、例えば、メトホルミン

、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド及び/又はα-グルコシダーゼ阻害剤、及び/又はGLP-1もしくはGLP-1類似体、及び/又は

インスリンもしくはインスリン類似体では不適な血糖調節の患者を含む)について有効な、安全かつ寛容し得る抗糖尿病治療薬を提供するようにとの要望が当業界で存する

・・・

【0006】

血糖調節中に、

HbA1cレベルの改善

に加えて、2型真性糖尿病患者に推奨されるその他の

治療目標

は正常又はできるだけ正常付近への

絶食血漿グルコース(FPG)レベル及び食後の血漿グルコース(PPG)レベルの改善

である。

・・・

【0007】

本発明の治療を受け易いかもしれない患者の具体例

として、通常のメトホルミン治療が適切ではない糖尿病患者、例えば、

メトホルミンに対する低下された寛容性、非寛容性もしくは禁忌のため

又は(軽度に)損なわれ/低下された腎臓機能のため

に低減された用量のメトホルミン治療を要する糖尿病患者

(例えば、60-65才以上の

老人の患者

を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。

・・・

本発明の意味内の経口抗糖尿病治療の二次無効を有する糖尿病患者の更なる具体例

は腎臓疾患、腎不全、又は、例えば、上昇した血清クレアチニンレベル(例えば、それらの年齢に正常の上限より上の血清クレアチニンレベル、例えば、男性で130-150μモル/l以上、又は1.5mg/dl以上(136μモル/l以上)、また女性で1.4mg/dl以上(124μモル/l以上))又は異常なクレアチニンクレアランス(例えば、30-60ml/分以下の糸球体濾過率(GFR))により示唆されるような

腎臓機能の不十分もしくは障害(軽度、中等度及び重度の腎臓障害を含む)を有する患者

を表す。

【0008】

・・・

酵素DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼIV)(またCD26として知られている)はそれらのN末端にプロリン又はアラニン残基を有する幾つかのタンパク質のN末端からのジペプチドの開裂をもたらすことが知られているセリンプロテアーゼである。この性質のために、

DPP-4阻害剤はペプチドGLP-1を含む生理活性ペプチドの血漿レベルに干渉し、真性糖尿病の治療に有望な薬物である

と考えられる。

例えば、

DPP-4阻害剤及びそれらの使用、特に代謝性(糖尿病性)疾患におけるそれらの使用が

、WO2002/068420,WO2004/018467,

WO2004/018468

,・・・

に開示されている

更なるDPP-4阻害剤として、下記の化合物が挙げられる

:

-下記の構造式Aを有する

シタグリプチン

(MK-0431)は(3R)-3-アミノ-・・・である。

【0009】

【化1】

35

69

0001434906000007.jpg

【0010】

・・・

シタグリプチンの錠剤製剤が商品名Januvia(登録商標)として市販されている。

シタグリプチン/メトホルミン組み合わせの錠剤製剤が商品名Janumet(登録商標)として市販されている

-下記の構造式Bを有する

ビルダグリプチン

(LAF-237)は(2S)-・・・である。

【0011】

【化2】

45

45

0001434906000008.jpg

【0012】

・・・

ビルダグリプチンの錠剤製剤が商品名Galvus(登録商標)として市販されていると予想される。

ビルダグリプチン/メトホルミン組み合わせの錠剤製剤が商品名Eucreas(登録商標)として市販

されている。

・・・

【0014】

・・・

-下記の構造式Eを有する

アログリプチン

(SYR-322)は2-・・・である。

【0015】

【化4】

59

53

0001434906000009.jpg

【0016】

・・・

アログリプチンとメトホルミン又はピオグリタゾンの製剤が夫々WO2008/093882又はWO2009/011451に記載されている

・・・

【課題を解決するための手段】

【0028】

本発明の範囲内で、

本明細書に特定されたDPP-4阻害剤

が進行性又は後期2型糖尿病患者(経口及び/又は非経口

抗糖尿病薬にもかかわらず不十分な血糖調節の患者

及び/又はインスリンの適応を有する患者を含む)

、代謝性疾患、

特に糖尿病(特に2型真性糖尿病)及びそれに関連する症状(例えば、糖尿病合併症)を治療及び/又は予防

(進行を防止もしくは遅延し、又は発症を遅延することを含む)するのにそれらを特に適するようにする、予期しない性質、特に有利な性質を有することが今驚くべきことにわかった。

こうして、

本発明はメトホルミン、

スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド及びα-グルコシダーゼ阻害剤

から選ばれた一種以上の通常の経口抗糖尿病薬による治療(単一薬物、二重又は三重薬物を含む)にもかかわらず不十分な血糖調節の患者の治療における使用のための本明細書に特定されたDPP-4阻害剤を提供する

・・・

【発明を実施するための形態】

【0030】

別の実施態様において、

本発明はメトホルミン

、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド、アルファ-グルコシダーゼブロッカー、GLP-1及びGLP-1類似体、並びに

インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種、2種又は3種の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬による治療(単一薬物、二重又は三重薬物を含む)にもかかわらず

、例えば、

メトホルミン

、スルホニル尿素、ピオグリタゾンもしくは(基底)

インスリンによる単一治療にもかかわらず

、又はメトホルミン/ピオグリタゾン、メトホルミン/スルホニル尿素、

メトホルミン/(基底)インスリン

、スルホニル尿素/ピオグリタゾン、スルホニル尿素/(基底)インスリンもしくはピオグリタゾン/(基底)インスリン組み合わせ

による二重組み合わせ治療にもかかわらず、不十分な血糖調節の患者の治療における使用のための本明細書に特定されたDPP-4阻害剤を提供

する。

・・・

【0035】

・・・

本発明の別の特別な実施態様はスルホニル尿素薬物(例えば、メトホルミンと一緒又は一緒ではないグリベンクラミド、グリピジド又はグリメプリド)による治療にもかかわらず

不十分な血糖調節の患者

(例えば、7.5%から10%まで、又は7.5%から11%までのHbA1cを有する)

でHbA1c及び/又はFPGを改善

し(例えば、基準線からの平均の減少)、

グルコース変動幅を減少し、かつ/又はインスリン分泌を改善する際の使用のためのDPP-4阻害剤

に関する。

【0036】

・・・

更に詳しくは、本発明の上記目的(特に損なわれた腎臓機能の患者)に特に適したDPP-4阻害剤はこのような経口投与されるDPP-4阻害剤であってもよく、これは比較的広い(例えば、>100倍)治療ウインドーを有し、かつ/又は以下の薬物動力学的性質(好ましくはその治療経口用量レベルにおける)の一つ以上を満足する:

-DPP-4阻害剤は実質的に、又は主として肝臓により排泄され(例えば、投与された経口用量の>80%又は更には>90%)、かつ/又は腎臓排泄が実質的な排除経路に相当せず、又はほんのわずかな排除経路に相当する(例えば、排除後に放射能標識炭素(

14

C)物質経口用量により測定して投与された経口用量の<10%、好ましくは<7%);

-

DPP-4阻害剤は親薬物として主として変化されないで排泄され

(例えば、放射能標識炭素(

14

C)物質の

経口投薬後に尿及び糞中の排泄放射能の

平均>70%、もしくは

>80%、又は、好ましくは90%

)、かつ/又は代謝により実質的にない程度又はほんのわずかな程度まで排除される(例えば、<30%、もしくは<20%、又は、好ましくは10%);

-

DPP-4阻害剤の一種以上の(主)代謝産物が薬理学上不活性である

。例えば、主代謝産物が標的酵素DPP-4に結合せず、必要により、それが親化合物と較べて迅速に排除される(例えば、≦20時間、又は、好ましくは≦約16時間、例えば、15.9時間の終末半減期で)。

・・・

【0038】

更に、本発明はまた代謝性疾患(特にメトホルミン治療がメトホルミンに対する非寛容性又は禁忌のために不適である患者、更に特別に腎臓疾患、腎不全又は腎臓障害の患者の2型真性糖尿病)の治療及び/又は予防における使用のためのDPP-4阻害剤に関するものであり、

前記

DPP-4阻害剤が主として親化合物として未変化で排泄

され(例えば、放射能標識炭素(

14

C)物質の

経口投薬後の尿及び糞中に排泄される放射能の

平均>70%、もしくは

>80%、又は、好ましくは90%

)、

前記DPP-4阻害剤が代謝により実質的な程度に排除されず、又はほんのわずかな程度に排除され、かつ/又は

前記

DPP-4阻害剤の主代謝産物が薬理学上不活性

であり、又は比較的広い治療ウインドーを有することを特徴とする。

・・・

【0042】

第一の実施態様(実施態様A)に関して、好ましいDPP-4阻害剤は下記の化合物及びそれらの医薬上許される塩

のいずれか又は全てである。

1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO2004/018468、実施例2(142)と比較のこと)

:

【0043】

【化14】

35

89

0001434906000010.jpg

・・・

【0055】

・・・

本発明の実施態様Aの上記DPP-4阻害剤の中の更に好ましいDPP-4阻害剤は1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン、特にその遊離塩基(これはまたBI 1356として知られている)である

・・・

【0058】

・・・

第一の実施態様(実施態様A)に関して、実施態様Aにおける本明細書に挙げられたDPP-4阻害剤の典型的に必要とされる用量は静脈内投与される場合には・・・であり、夫々の場合に1日1~4回投与される。こうして、例えば、

1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの用量は経口投与される場合には

1日当り患者当り0.5mg~10mg、

好ましくは1日当り

患者当り2.5mg~10mg又は

1mg~5mg

である。

実施態様Aにおける本明細書に挙げられたDPP-4阻害剤を含む医薬組成物で調製された投薬形態は0.1-100mgの用量範囲の活性成分を含む。こうして、例えば

、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの特別な用量は

0.5mg、1mg、

2.5mg、5mg

及び10mgである。

・・・

【0060】

・・・こうして、例えば、毎日の経口量5mgのBI 1356が毎日1回の投薬養生法(即ち、

毎日1回5mgのBI 1356

)で、又は毎日2回の投薬養生法(即ち、

毎日2回の2.5mgのBI 1356

)で食物と共に、又は一緒ではなく1日のいずれかの時間に投与し得る。

【0061】

本発明の意味内で強調すべき特に好ましいDPP-4阻害剤は1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(またBI 1356として知られている)である。・・・12日間にわたって

毎日1回

1,2.5,

5

or10

mgのBI 1356

の多くの

経口用量

を受ける

2型糖尿病の患者

では、

BI 1356は有利な薬力学的プロフィール及び薬物動態学的プロフィール

(下記の

表1

を参照のこと)・・・。・・・

治療経口用量レベルで、BI 1356は主として肝臓により排泄され、腎臓によりほんのわずかな程度(投与された経口用量の<7%)で排泄される

BI 1356は主として胆汁を介して未変化で排泄される

。・・・

表1: 定常状態(12日目)におけるBI 1356の薬物動態学的パラメーターの幾何平均(gMean)及び幾何変化率(gCV)

【0062】

【表1】

149

153

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【0063】

異なる代謝性機能障害がしばしば同時に生じるので、幾つかの異なる活性成分を互いに組み合わせることが実にしばしば適応される。こうして、診断された機能障害に応じて、

DPP-4阻害剤が夫々の障害に通例の活性物質、例えば、その他の抗糖尿病物質

、特に血糖レベル又は血液中の脂質レベルを低下し、血液中のHDLレベルを上昇し、血圧を低下し、又はアテローム硬化症もしくは肥満の治療に適応される活性物質の中から選ばれた一種以上の活性物質

と組み合わされる場合に改善された治療結果が得られる

かもしれない。

上記DPP-4阻害剤はまた、単一療法におけるそれらの使用の他に、その他の活性物質と連係して使用されてもよく、これらにより改善された治療結果が得られる

・・・

【0064】

抗糖尿病組み合わせパートナーの例はメトホルミン

;・・・;

インスリン及びインスリン類似体

;・・・;並びにその他のDPP IV阻害剤である。

・・・

【実施例】

【0070】

<動物モデル:>

グリベンクラミドのようなスルホニル尿素(SU)

は糖尿病治療に最も頻繁に使用される薬物の一種である。SUによる長期治療は上昇した基底インスリン分泌及び減少したグルコース刺激インスリン分泌を生じる。これらの特性は低血糖及び治療の二次無効の発生に重要な役割を果たすかもしれない。

Db/dbマウスは

インスリン耐性及び高レベルの血漿グルコースを示す

2型糖尿病の動物モデルに相当

する。加えて、動物の年齢と相関して、老化db/dbマウスの膵臓β-細胞が高められたインスリン分泌により高グルコース変動幅を保障することができない。それ故、このモデルはDPP-4阻害剤(例えば、BI 1356)と比較してグリベンクラミド誘発治療の二次無効を研究するのに適している。

<方法>

<動物及び収容>

生後5週の雌の

db/dbマウス

を、ドイツのチャールズ・リバーから得る。動物を温度及び湿度が制御された部屋に12:12L/Dサイクル(04:00AMに照明そして04:00PMに消灯)のもとに5-6匹の動物のグループで収容する。全ての動物が規則的なげっ歯類食物(アルトロミン規格#1324食物,デンマーク)及び随時の水に自由に接近する。

<生体内実験>

3mlのシリンジ(luer-lock

TM

,ベクトン)に連結された胃チューブを使用して、

化合物溶液を経口強制飼養

により実験日0-59に08.00AMに毎日投与する。12匹の動物のグループを使用する:ビヒクル、0.5%ナトロソール;

BI 1356 3mg/kg

;グリベンクラミド3mg/kg。体重、食物摂取及び水摂取を最初の2週について毎日、そして残りの期間について週2回記録する。54日目の実験時に血液グルコースレベル及びHbA1cレベルを半給餌状態で測定し、59日目にOGTT(2g/kg)を行なう。

<HbA1c、インスリン及び血液グルコースの監視(モニタリング)>

“給餌”血液グルコースレベル及びHbA1cレベルの測定のための血液サンプリングを54日目に10.00AMに行なう。その血液サンプリングの前に、動物を血液サンプリングの2時間前に食物のないきれいなケージに移す。59日目に、OGTT(2g/kg)を動物の一夜の絶食の後に行ない、インスリンをt=15分に検出する。

血液グルコース:夫々のデータ点につき、血液10μlを尾の先端からミクロキャピラリーチューブに抜き取り、バイオセンSライングルコースアナライザーを使用して測定する。インスリン:夫々のデータ点につき、血液100μlを尾の静脈から抜き取り、EDTAチューブに集める。マウス内分泌イムノアッセイパネル(LINCOplex

TM

)を使用してインスリンを測定し、Luminex100TMシステム(LincoResearch,ミズーリー,USA)を使用して分析する。

HbA1c:は、全自動アナライザー上の標準酵素アッセイキット(バイエル)を使用して測定される。

【0071】

<結果>

図1及び図2は示された化合物による生後5週の雌のdb/dbマウスの54日の治療後のHbA1c値及びグルコース値を示す。

DPP-4阻害剤BI 1356は対照と較べてHbA1c値だけでなく、グルコース値を改善する

。対照的に、3mg/kgの濃度のスルホニル尿素グリベンクラミドは対照及びBI 1356と較べてグルコース値だけでなく、HbA1c値を損なう。

図3はOGTT試験(経口的ブトウ糖負荷試験)中のインスリンの増加を示す。BI 1356で治療された動物のみがインスリンのアップレギュレーションで増大されたグルコースレベルに応答することができる。

図1(左のバー:ビヒクル;中間のバー:BI 1356;右のバー:グリベンクラミド):

図2(左のバー:ビヒクル;中間のバー:BI 1356;右のバー:グリベンクラミド):

図3(左のバー:ビヒクル;中間のバー:BI 1356;右のバー:グリベンクラミド):

【0072】

こうして、β-細胞及びSU誘発治療の二次無効に相当する動物では、

DPP-4阻害剤BI 1356はインスリン分泌並びにHbA1c及びグルコースの低下に関してグリベンクラミドより優れている

<臨床:>

臨床試験を使用して、本発明の目的のための本発明のDPP-4阻害剤の使用可能性を試験し得る。

例えば、ランダム化二重盲検偽薬対照平行グループ試験において、本発明の

DPP-4阻害剤(例えば、毎日1回経口投与されるBI 1356 5mg)

の安全性及び効力を一種又は二種の通常の抗高血糖薬、例えば、

スルホニル尿素薬による治療にもかかわらず不十分な血糖調節

(HbA1c7.0%から10%まで又は7.5%から10%もしくは11%まで)

の2型糖尿病の患者で試験する

スルホニル尿素薬による研究では、本発明のDPP-4阻害剤対スルホニル尿素のバックグラウンド治療に加えられた偽薬の効力及び安全性を調べる(2週の偽薬導入期;18週の二重盲検治療、続いて研究投薬終結後の1週のフォローアップ;スルホニル尿素薬によるバックグラウンド治療を全試験期間(未変化の用量における、偽薬導入期を含む)中に投与する)。

治療が成功したか否かは、初期値及び/又を偽薬グループの値と比較して、HbA1c値を求めることにより調べられる。初期値及び/又は偽薬値と比較されたHbA1c値の有意な変化がその治療についてのDPP-4阻害剤の効力を実証する。また、治療が成功したか否かは、初期値及び/又は偽薬グループの値と比較して、絶食血漿グルコース値を求めることにより調べられる。絶食グルコースレベルが有意に低下することにより、その治療の効力が実証される。また、目標応答(即ち、治療下のHbA1c<7%)に対する治療の発生により、治療の効力が実証される。

患者の状態及び基準線からの妥当な変化、例えば、不利なイベント(例えば、低血糖エピソード等)又は体重増加の発生及び強さを分析することにより、治療の安全性及び寛容性が調べられる。」

「【図1】

82

92

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【図2】

79

99

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【図3】

83

100

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4 無効理由1(実施可能要件)について

(1)判断の前提

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと定めるところ(いわゆる「実施可能要件」)、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作り、使用をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度のものでなければならない。

そして、医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に、有効量、投与方法等がある程度記載されていても、それだけでは、当業者は当該医薬が実際にその用途において使用をすることができるかどうかを予測することは困難であるから、医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明において、当該医薬が当該用途に使用できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして、当該医薬が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要がある。

以上を前提として、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明について実施可能要件を満たすものであるか検討する。

(2)本件発明1

ア 特許請求の範囲の記載

(ア)上記第4のとおり、本件発明1は、令和6年9月17日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである

「【請求項1】

メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者の2型糖尿病の治療及び/又は予防のための、下記式のDPP-4阻害剤又はその医薬上許される塩を含む医薬組成物であって、

前記医薬組成物は、1日1回の経口投与用であり且つ5mgの前記DPP-4阻害剤を含むか、或いは

前記医薬組成物は、1日2回の経口投与用であり且つ2.5mgの前記DPP-4阻害剤を含む、前記医薬組成物。

34

87

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(イ)本件発明1における下記式のDPP-IV阻害剤

35

89

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は、本件明細書中、「BI 1356」と称されているから(【0055】、【0070】~【0072】、【図1】~【図3】)、以下「BI1356」ともいう。

また、本件発明1の対象患者である「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」を、以下「本件発明1の患者群」ともいう。

そして、本件発明1における「1日1回の経口投与用であり且つ5mg」、或いは「1日2回の経口投与用であり且つ2.5mg」を、以下「本件発明1の用法用量」ともいう。

さらに、本件発明1における「2型糖尿病の治療及び/又は予防」を単に「2型糖尿病の治療」ともいう。

以上によれば、本件発明1は、「BI1356を含む医薬組成物」であって、「本件発明1の用法用量」により、「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物の発明ということができる。

(ウ)そして、本件発明1が医薬の用途発明であることは明らかであるから、本件発明1について実施可能要件を満たすというためには、本件発明1の医薬組成物を作ることができると当業者が理解できることに加え、本件発明1の医薬組成物を使用することができると当業者が理解できること、すなわち、発明の詳細な説明において薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして、「BI1356を含む医薬組成物」が、「本件発明1の用法用量」により「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」できることを当業者が理解できることが必要である。

イ 発明の詳細な説明の記載

上記3によれば、発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

(ア)既存の薬物療法は、治療にもかかわらず血糖調節の進行性の劣化をもたらすため(【0003】)、メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体では不適な血糖調節の患者に対して有効な抗糖尿病薬に対する要望があった(【0005】)。

(イ)DPP-4阻害剤は、GLP-1の血漿レベルに干渉し糖尿病の治療に有望であることが、WO2004/018468号(当審注:甲1)を含む本件出願当時公知の多数の文献に記載されている(【0008】)。

(ウ)本件発明は、例えば、メトホルミン、インスリン、インスリン類似体では血糖調節が十分ではない患者の治療における使用のためのDPP-4阻害剤を提供するものである(【0028】、【0030】)。

(エ)本発明の糖尿病患者の更なる具体例は、腎臓機能の不十分もしくは障害(軽度、中等度及び重度の腎臓障害を含む)を有する患者を表す(【0007】)。

(オ)特に好ましいDPP-4阻害剤としては、WO2004/018468号(甲1)に実施例2(142)として記載されたBI1356が挙げられる(【0042】~【0043】、【0055】)。

(カ)BI1356の好ましい投与量として1日あたり1~5mg、特別な用量として2.5mg、5mgが挙げられ、「毎日1回5mgのBI1356」又は「毎日2回の2.5mgのBI1356」が例示されている(【0058】、【0060】)。

(キ)2型糖尿病の患者にBI1356を経口投与した薬物動態学的パラメーターが【表1】に記載され、1日あたりの用量の一つとして5mgが記載されている(【0061】~【0062】)。

(ク)実施例において、2型糖尿病の動物モデルに相当するdb/dbマウスにBI1356を経口投与したところ2型糖尿病に対する治療効果を奏したことを示す薬理データが記載されている(【0070】~【0071】、【図1】~【図3】)。

(ケ)試験結果は記載されていないが、DPP-4阻害剤(例えば、毎日1回経口投与されるBI1356を5mg)の安全性及び効力をスルホニル尿素薬による治療にもかかわらず不十分な血糖調節の2型糖尿病の患者で試験をすることが記載されている(【0072】)。

なお、発明の詳細な説明には、本件発明1の「BI1356を含む医薬組成物」を「本件発明1の用法用量」で、「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」できることについて直接確認した薬理データは記載されていない。

ウ 本件発明1の医薬組成物を作ることができるかについて

上記イ(オ)のとおり、発明の詳細な説明には、BI1356が、本件出願当時公知の文献であるWO2004/018468号(甲1)に実施例2(142)として記載された化合物であると記載され、実際、甲1には、BI1356を製造したことが実施例2(142)として記載されているから(甲1-c)、本件出願当時、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、BI1356を作ることができると理解できる。

そうすると、「BI1356を含む医薬組成物」である本件発明1の医薬組成物は、本件出願当時、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて作ることができると当業者が理解できるものである。

エ 本件発明1の医薬組成物を使用することができるかについて

上記ア(ウ)のとおり、本件発明1の医薬組成物を使用することができるというためには、発明の詳細な説明において薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして、「BI1356を含む医薬組成物」が、「本件発明1の用法用量」により「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」できることを当業者が理解できることが必要である。

(ア)「BI1356を含む医薬組成物」が、「2型糖尿病の患者」における「2型糖尿病を治療」できることについて

上記イ(ク)のとおり、発明の詳細な説明には、BI1356をdb/dbマウスに経口投与して、2型糖尿病に対する治療効果を奏したことを示す薬理データが記載されている。そして、db/dbマウスが2型糖尿病の動物モデルであることは技術常識であるから(上記2(1))、上記薬理データから、当業者は、「BI1356を含む医薬組成物」により「2型糖尿病の患者」における「2型糖尿病を治療」できることを理解できる。

なお、「BI1356」は、その化学構造から、甲2に記載された「BI-1356」に相当するところ(甲2-a、甲2-b)、甲2には、「BI-1356」の2型尿病患者に対する有効性を確認したことが記載されている(甲2-c)。同様に、甲4、甲6、甲7にも、BI1356が2型糖尿病の治療薬であることが記載されている(甲4-a、甲6-a、甲7-a、甲7-b)。

そうすると、「BI1356を含む医薬組成物」により「2型糖尿病患者」における「2型糖尿病を治療」できることは、本件出願当時公知の甲2、甲4、甲6、甲7に記載されている事項と整合している。

(イ)「本件発明1の患者群」について

a 本件発明1のBI1356は、特許請求の範囲においてDPP-4阻害剤として記載され、発明の詳細な説明にも、BI1356は、本件出願当時公知の文献であるWO2004/018468号(甲1)に実施例2(142)として記載されたDPP-4阻害剤であると記載され(上記イ(オ))、甲1には、実施例2(142)の化合物(BI1356)がDPP-4阻害活性を有することが具体的に記載されている(甲1-b)。

そうすると、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1におけるBI1356がDPP-4阻害剤であることを、当業者は理解できる。

なお、「BI1356」は、その化学構造から、甲2に記載された「BI-1356」と称される「ジペプチジル-ペプチターゼIV阻害剤」(甲2-a、甲2-b、当審注:「ジペプチジル-ペプチターゼIV阻害剤」は、「DPP-4阻害剤」と同義である。)に相当し、甲4、甲6、甲7にも、BI1356はDPP-IV阻害剤であると記載されているから(甲4-a、甲6-a、甲7-a)、BI1356がDPP-4阻害剤であることは、本件出願当時公知の甲2、甲4、甲6、甲7に記載された事項と整合している。

b 上記イ(ア)、(ウ)のとおり、発明の詳細な説明には、既存の薬物療法は、治療にもかかわらず血糖調節の進行性の劣化をもたらすため、メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体では不適な血糖調節の患者に対して有効な抗糖尿病薬に対する要望があり、本件発明1は、メトホルミン、インスリン、インスリン類似体などの通常の抗糖尿病薬では血糖調節が十分ではない患者の治療における使用のためのDPP-4阻害剤を提供すると記載されている。

そして、DPP-4阻害剤がメトホルミンやインスリン、インスリン類似体とは作用機序が異なることは技術常識であるから(上記2(2))、メトホルミンやインスリン、インスリン類似体の作用機序では血糖調節が十分ではない患者であっても、メトホルミンやインスリン、インスリン類似体とは作用機序の異なるDPP-4阻害剤によれば「2型糖尿病を治療」できることを、当業者は理解すると認められる。

c 上記(ア)及びbによれば、発明の詳細な説明に記載された薬理データから、「BI1356を含む医薬組成物」により「2型糖尿病の患者」における「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解することができるとともに、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、メトホルミンやインスリン、インスリン類似体とは作用機序が異なるBI1356により、メトホルミンやインスリン、インスリン類似体の作用機序では血糖調節が十分ではない患者、すなわち、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有する患者」における「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解すると認められる。

そして、「BI1356を含む医薬組成物」により「2型糖尿病の患者」における「2型糖尿病を治療」できるにもかかわらず、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有する患者」に対しては「2型糖尿病を治療」できないとする理由、例えば、BI1356が有するDPP-4阻害作用が阻害され治療効果を奏しないことや、重篤な副作用等の不具合が生じ得ることは、証拠上確認できない。

d さらに、上記イ(エ)のとおり、発明の詳細な説明には、本件発明における糖尿病患者の更なる具体例は、腎臓機能の不十分もしくは障害(軽度、中等度及び重度の腎臓障害を含む)を有する患者を表すと記載されているところ、「腎臓障害を有する患者」を対象患者とした際に、「BI1356を含む医薬組成物」が「2型糖尿病を治療」できないとする理由、例えば、BI1356が有するDPP-4阻害作用が阻害され治療効果を奏しないことや、重篤な副作用等の不具合が生じ得ることも、証拠上確認できない。

e したがって、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」により「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有する患者」であって、かつ「腎臓障害を有する患者」、すなわち、「本件発明1の患者群」の「2型糖尿病を治療」できることを、当業者は理解すると認められる。

(ウ)「本件発明1の用法用量」について

a 「本件発明1の用法用量」は、有効成分である「BI1356」を「1日1回、5mg」又は「1日2回、2.5mg」の用量で「経口投与」する意味であると解されるところ、上記イ(ク)のとおり、発明の詳細な説明には、db/dbマウスにBI1356を「経口投与」して、2型糖尿病に対する治療効果を奏したことを示す薬理データが記載されている。

また、上記イ(カ)、(キ)、(ケ)のとおり、発明の詳細な説明には、「BI1356」の好ましい投与量として、1日あたり2.5mgと5mgを含む範囲が記載され、特別な用量として2.5mgと5mgが記載され、「毎日1回5mgのBI1356」又は「毎日2回の2.5mgのBI1356」が例示され、2型糖尿病の患者に経口投与した場合の薬物動態学的パラメーターの測定における、1日あたりの用量の一つとして5mgが記載され、毎日1回5mgの臨床試験を行うことが記載されている。

b 上記(ア)、(イ)及びaによれば、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」により「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解するとともに、発明の詳細な説明の記載に基づいて、有効成分である「BI1356」を「1日1回、5mg」又は「1日2回、2.5mg」の用量で「経口投与」しても「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解すると認められる。そして、「1日1回、5mg」又は「1日2回、2.5mg」の用量で「経口投与」すると、2型糖尿病を治療できないとする理由、例えば、BI1356が有するDPP-4阻害作用が阻害され治療効果を奏しないことや、重篤な副作用等の不具合が生じ得ることは、証拠上確認できない。

したがって、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」を、「1日1回、5mg」又は「1日2回、2.5mg」の用量で「経口投与」、すなわち、「本件発明1の用法用量」とすることで、「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」できることを、当業者は理解すると認められる。

なお、上記(ア)のとおり、「BI1356」は、甲2に記載の「BI-1356」に相当するところ、甲2には、「経口BI-1356」の2型尿病患者に対する有効性を確認した用量として1日1回の5mgや2.5mgが記載され(甲2-f)、甲4、甲5、甲7にも、BI1356について、1日1回の5mgの経口投与で試験したことが記載されているから(甲4-a、甲5-a、甲7-b)、「BI1356を含む医薬組成物」を「1日1回、5mg」又は「1日2回、2.5mg」の用量で「経口投与」することにより「2型糖尿病患者」における「2型糖尿病を治療」できることは、本件出願当時公知の甲2、甲4、甲5、甲7に記載された事項と整合している。

(エ)まとめ

上記(ア)のとおり、発明の詳細な説明には、BI1356を2型糖尿病の動物モデルであるdb/dbマウスに経口投与して2型糖尿病に対する治療効果を奏したことを示す薬理データが記載されているから、「BI1356を含む医薬組成物」により「2型糖尿病の患者」における「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解するとともに、上記(イ)、(ウ)のとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」が、「本件発明1の用法用量」により「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」するために使用することができることを、当業者は理解すると認められる。

したがって、本件発明1の医薬組成物は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、使用することができると当業者が理解できるものである。

オ 請求人の主張について

(ア)請求人は、本件発明1は、患者及び用法用量を特定した「医薬用途発明」であるから、そのように医薬用途を特定することで、どのような薬理効果の程度が達成されたのかは、薬理試験結果によらなければ的確に把握できないにもかかわらず、発明の詳細な説明には、患者及び用法用量を特定しての薬理試験結果がまったくないこと、医薬用途発明の有用性を裏付けるためには、発明の詳細な説明に薬理試験データが記載されている必要があることは、多くの知財高裁判決でも示されていることを挙げて、本件発明1には実施可能要件違反の無効理由があると主張する(審判請求書14頁14行~30頁最下行、口頭審理陳述要領書(請求人)3頁下から4行~6頁11行、7頁4行~13頁6行、14頁5行~18頁11行)。

しかしながら、発明の詳細な説明に、本件発明1の患者群及び本件発明1の用法用量について直接確認した薬理試験結果が記載されていなくとも、上記エのとおり、発明の詳細な説明には、BI1356を2型糖尿病の動物モデルであるdb/dbマウスに経口投与して2型糖尿病に対する治療効果を奏したことを示す薬理データが記載されており、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、本件発明1の患者群及び本件発明1の用法用量の医薬組成物が2型糖尿病の治療効果を奏するものと理解できる。

そして、BI1356が2型糖尿病に対して治療効果を奏するにもかかわらず、本件発明1の患者群及び本件発明1の用法用量とした場合に、「2型糖尿病を治療」できないという理由は、証拠上確認できない。

また、請求人が挙げる知財高裁判決については、それぞれの事件の事情のもとでは、医薬用途発明について直接確認した薬理試験結果がなければその有用性が理解できないものであったことを示すにすぎず、本件発明1においては、事情は異なり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、本件発明1の医薬組成物が2型糖尿病の治療効果を奏すると理解できるのであるから、本件発明1の患者群及び本件発明1の用法用量について直接確認した薬理試験結果が記載されていなくとも、実施可能要件を満たすといえる。

したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(イ)請求人は、本件出願当時、公知の技術に対する本件発明の位置づけを勘案すると、BI1356そのものは、本件出願当時公知であり、本件発明1は、公知技術及び周知技術の組合せの用途発明であるから、その用途に用いることによって得られる有用性の裏付けが必要であると主張する(審判請求書31頁1行~35頁1行)、口頭審理陳述要領書(請求人)13頁7行~14頁4行)。

しかしながら、BI1356そのものが本件出願当時公知であり、本件発明1が公知技術及び周知技術の組合せの用途発明であるとしても、本件発明1の患者群及び本件発明1の用法用量に用いるという用途を直接裏付ける薬理データがなければ本件発明の有用性が理解できないということはない。

そして、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載から、本件発明1の有用性とは、「BI1356を含む医薬組成物」を、本件発明1の患者群及び本件発明1の用法用量により2型糖尿病の治療に使用できることであると解されるところ、上記エのとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、上記有用性を当業者は理解できるといえる。

したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(ウ)なお、請求人は、「特許法29条1項違反による無効理由」及び「甲1に記載された発明及び優先日当時の技術常識又は周知技術に基づく特許法29条2項違反による無効理由」の職権審理を求めているが(口頭審理陳述要領書(請求人)27頁15行~28頁最下行の「3 特許法153条による審理の上申」の項目)、当審合議体は、請求人が求める職権審理を行わないと判断した(第1回口頭審理調書)。

(エ)よって、請求人の主張は、いずれも採用することができない。

カ 小括

以上のとおりであるから、本件発明1の医薬組成物は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、作ることができ、使用することができることを当業者が理解できるものである。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(3)本件発明2について

本件発明2は、本件発明1における「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬」の「経口又は非経口抗糖尿病薬」を、「経口抗糖尿病薬」に特定し、さらに、「経口抗糖尿病薬」を「メトホルミン」に特定する発明である。

そして、上記(2)エ(イ)bと同様に、メトホルミンの作用機序では血糖調節が十分ではない患者であっても、メトホルミンとは作用機序が異なるDPP-4阻害剤によれば「2型糖尿病を治療」できることを、当業者は理解すると認められる。

そして、その余の点は、上記(2)のとおりである。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(4)本件発明3について

ア 本件発明3は、本件発明1又は2のDPP-4阻害剤を「前記通常の一種以上の抗糖尿病薬と組み合わせて使用される」ものに特定する発明であるところ、「前記通常の一種以上の抗糖尿病薬」とは、請求項1の記載から「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬」であるから、本件発明3は、本件発明1又は2のDPP-4阻害剤を「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬と組み合わせて使用される」ものに特定する発明である。

イ そして、発明の詳細な説明には、上記(2)イ(ア)~(ケ)の事項に加え、以下の(コ)、(サ)の事項が記載されている。

(コ)DPP-4阻害剤であるシタグリプチンとビルダグリプチンについて、それぞれメトホルミンと組み合わせた製剤が市販されており、同じくDPP-4阻害剤であるアログリプチンについて、メトホルミン又はピオグリダゾンと組み合わせた製剤が、本件出願当時公知の文献に記載されている(【0008】~【0016】)。

(サ)DPP-4阻害剤は、その他の抗糖尿病物質と組み合わされると改善された治療効果が得られ(【0063】)、抗糖尿病組み合わせパートナーの例としてメトホルミンやインスリン及びインスリン類似体が挙げられる(【0064】)。

ウ 上記(コ)、(サ)のとおり、発明の詳細な説明には、本件出願当時、DPP-4阻害剤とメトホルミンなどを組み合わせた製剤が市販され、本件出願当時公知の文献にも記載されていたこと、DPP-4阻害剤を他の抗糖尿病物質と組み合わせると改善された治療効果が得られること、抗糖尿病組み合わせパートナーの例としてメトホルミンやインスリン及びインスリン類似体が記載されている。

また、2型糖尿病治療薬の分野では、異なる作用機序の経口抗糖尿病薬を組み合わせる併用療法が広く行われていたことは技術常識であり(上記2(3))、DPP-4阻害剤とメトホルミンやインスリン及びインスリン類似体が異なる作用機序の経口抗糖尿病薬であることも技術常識である(上記2(2))。

エ そうすると、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、DPP-4阻害剤であるBI1356を、DPP-4阻害剤とは作用機序が異なる経口血糖降下薬である「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬」と組み合わせても「2型糖尿病を治療」できると当業者は理解するということができ、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬」と組み合わせると、2型糖尿病を治療できないとする理由、例えば、BI1356が有するDPP-4阻害作用が阻害され治療効果を奏しないことや、重篤な副作用等の不具合が生じ得ることは、証拠上確認できない。

むしろ、本件出願当時公知の甲2には、DPP-IV阻害剤であるビルダグリプチンをメトホルミン等の他の抗糖尿病薬と併用して2型糖尿病の治療に使用することが欧州医薬品庁により承認され、シタグリプチンとメトホルミンの配合剤が2型糖尿病の治療薬として米国食品医薬品局に承認され、サキサグリプチンとメトホルミンの併用療法が第III相試験において2型糖尿病患者の血糖コントロールを有意に改善したと記載されていることから(甲2-d)、DPP-IV阻害剤とメトホルミンを組み合わせても2型糖尿病の治療ができることは、本件出願当時、公知の事項である。

オ そして、上記(2)のとおり、発明の詳細な説明にはBI1356の薬理データが記載されており、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件発明1のDPP-4阻害剤を、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬と組み合わせて使用される」ものに特定した本件発明3についても、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、本件発明3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(5)本件発明4について

本件発明4は、本件発明1~3を「前記患者でHbA1c、FPG及び/又はPPGを改善し、グルコース変動幅を減少し、及び/又はインスリン分泌を改善するために用いられる」ものに特定する発明である。

そして、発明の詳細な説明には、2型糖尿病患者の治療目標は、HbA1cレベルの改善に加えて、絶食血漿グルコース(FPG)レベル及び食後の血漿グルコース(PPG)レベルの改善であること(【0006】)、本発明の別の特別な実施態様は、HbA1c及び/又はFPGを改善し、グルコース変動幅を減少し、かつ/又はインスリン分泌を改善する際の使用のためのDPP-4阻害剤に関すること(【0035】)が記載されている。

すなわち、「HbA1c、FPG及び/又はPPGを改善し、グルコース変動幅を減少し、及び/又はインスリン分泌を改善する」ことは、2型糖尿病の治療を意味するところ、上記(2)のとおり、本件発明1は、「2型糖尿病を治療」することができ、使用することができると理解できるものであるから、同様に、「前記患者でHbA1c、FPG及び/又はPPGを改善し、グルコース変動幅を減少し、及び/又はインスリン分泌を改善するために用いられる」ものである本件発明4も、使用することができると理解できるものである。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(6)本件発明5について

本件発明5は、本件発明1~4を「インスリン治療の適応を有する患者の糖尿病の治療に用いられる」ものに特定する発明である。

「インスリン治療の適応を有する患者」とは、他の治療や薬剤(経口抗糖尿病薬)では血糖値が調節できないためにインスリン治療が必要となっている患者等を指すところ、本件発明1の患者群は、メトホルミン等を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有する患者であるから、「インスリン治療の適応を有する患者」に該当し、そうすると、本件発明1の患者群と同様に、「インスリン治療の適応を有する患者」についても、2型糖尿病の治療ができると当業者は理解すると認められ、「BI1356を含む医薬組成物」が2型糖尿病に対して治療効果を奏するにもかかわらず、「インスリン治療の適応を有する患者」の「2型糖尿病を治療」できないという理由は、証拠上確認できない。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(7)本件発明6について

ア 本件発明6は、本件発明1~5の患者を「メトホルミンに対する非寛容性又は禁忌のために減少された用量のメトホルミン治療を要する患者、又は老人の患者」に特定する発明である。

イ 発明の詳細な説明には、本件発明の治療を受けやすいかもしれない患者の具体例として、メトホルミンに対する非寛容性若しくは禁忌のために低減された用量のメトホルミン治療を要する糖尿病患者(老人の患者を含む)が挙げられると記載されている(【0007】)。

ウ そして、上記(2)エ(エ)のとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、「BI1356を含む医薬組成物」は、「本件発明1の用法用量」により「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」できるものと当業者は理解できるところ、本件発明1の患者群をさらに、「メトホルミンに対する非寛容性又は禁忌のために減少された用量のメトホルミン治療を要する患者、又は老人の患者」に特定した患者に対しては、「2型糖尿病を治療」できないとする理由、例えば、上記患者に投与すると、BI1356が有するDPP-4阻害作用が阻害され治療効果を奏しないことや、重篤な副作用等の不具合が生じ得ることは、証拠上確認できない。

エ したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(8)本件発明7について

本件発明7は、本件発明1~6を「メトホルミンとの組み合わせにおける使用のための」ものに特定する発明である。

上記(4)と同様に、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、DPP-4阻害剤であるBI1356を、DPP-4阻害剤とは作用機序が異なる経口血糖降下薬であるメトホルミンと組み合わせても2型糖尿病を治療できると当業者は理解するということができ、メトホルミンと組み合わせると、2型糖尿病を治療できないとする理由、例えば、BI1356が有するDPP-4阻害作用が阻害され治療効果を奏しないことや、重篤な副作用等の不具合が生じ得ることは、証拠上確認できず、むしろ、DPP-4阻害剤とメトホルミンを組み合わせても2型糖尿病の治療ができることは、本件出願当時公知の事項である。

そして、上記(2)のとおり、発明の詳細な説明にはBI1356の薬理データが記載されており、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件発明1を、「メトホルミンとの組み合わせにおける使用のための」ものに特定した本件発明7についても、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、本件発明7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(9)本件発明8について

本件発明8は、本件発明1~7のDPP-4阻害剤を「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン」に特定する発明である。

上記「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン」は、本件発明1における下記式の化合物

35

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を化合物名で表記したものであるから、本件発明8は、本件発明1と実質的に同じである。

したがって、上記(2)と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、本件発明8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(10)本件発明9について

本件発明9は、本件発明1の患者を、「メトホルミン又は(基礎)インスリンを用いた単一治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者であるか、或いは

前記患者が、メトホルミン/(基礎)インスリンの組み合わせを用いた二重の組み合わせ治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」に特定する発明である。

そして、上記(2)エ(イ)のとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」により、本件発明1の患者群である「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」の「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解するから、同様に、「メトホルミン又は(基礎)インスリンを用いた単一治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」であるか、或いは「メトホルミン/(基礎)インスリンの組み合わせを用いた二重の組み合わせ治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」の「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解すると認められる。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(11)本件発明10について

本件発明10の「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを含む医薬組成物」は、「BI1356を含む医薬組成物」であり、本件発明10の対象患者は、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される1種の抗高血糖薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」であり、本件発明10の用法用量は、本件発明1の用法用量と同じである。

そうすると、本件発明10は、本件発明1において、対象患者を「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される1種の抗高血糖薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」に特定し、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される1種の抗高血糖薬」と組み合わせることを特定する、「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物といえる。

そして、上記(2)エ(イ)のとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」により、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有する患者」であって、「腎臓障害を有する患者」の「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解するから、同様に、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される1種の抗高血糖薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有する患者」であって、「腎臓障害を有する患者」の「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解すると認められる。

また、本件発明1を、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される1種の抗高血糖薬と組み合わせて使用される」ものに特定することは、本件発明3と同様であるから、上記(4)と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、本件発明10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(12)本件発明11について

本件発明11の「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを含む医薬組成物」は、「BI1356を含む医薬組成物」であり、本件発明11の対象患者は、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される2種の抗高血糖薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」であり、本件発明11の用法用量は、本件発明1の用法用量と同じである。

そうすると、本件発明11は、本件発明1において、対象患者を「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される2種の抗高血糖薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」に特定し、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される2種の抗高血糖薬」と組み合わせることを特定する、「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物といえる。

そして、上記(2)エ(イ)のとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」により、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有する患者」であって、「腎臓障害を有する患者」の「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解するから、同様に、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される2種の抗高血糖薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有する患者」であって、「腎臓障害を有する患者」の「2型糖尿病を治療」できることを当業者は理解すると認められる。

また、本件発明1を、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選択される2種の抗高血糖薬」と組み合わせて使用されるものに特定することは、本件発明3と同様であるから、上記(4)と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、本件発明11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(13)本件発明12について

ア 本件発明12は、本件発明1~11を「前記1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの投与された経口用量の10%未満又は7%以下が腎臓を介して排泄される、糖尿病患者の経口治療のための」ものに特定した発明である。

この特定のうち、「糖尿病患者の経口治療のための」について検討すると、本件発明1~11は「経口投与用」であり、治療の対象となる患者は、「不十分な血糖調節を有する患者」、すなわち、「糖尿病患者」であるから、本件発明1~11を「糖尿病患者の経口治療のための」と特定しても、実質的に本件発明1~11と同じ発明である。

また、上記「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン」は、上記(9)のとおり、本件発明1における下記式の化合物

35

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を化合物名で表記したものであって、BI1356のことである。

以上によれば、本件発明12は、本件発明1~11を「BI1356の投与された経口用量の10%未満又は7%以下が腎臓を介して排泄される」ものに特定した発明といえる。

イ 発明の詳細な説明には、「治療経口用量レベルで、BI 1356 は主として肝臓により排泄され、腎臓によりほんのわずかな程度(投与された経口用量の<7%)で排泄される」と記載されている(【0061】)。上記記載によれば、BI1356が「投与された経口用量の10%未満又は7%以下が腎臓を介して排泄される」ことは、BI1356が備える性質であるから、「BI1356を含む医薬組成物」を作ることにより、自ずと、「BI1356の投与された経口用量の10%未満又は7%以下が腎臓を介して排泄される」「BI1356を含む医薬組成物」を作ることができると当業者は理解できる。

したがって、本件発明12の医薬組成物は、本件出願当時、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて作ることができると当業者が理解できるものである。

ウ さらに、上記(2)のとおり、「BI1356を含む医薬組成物」であって、「本件発明1の用法用量」により、「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物として使用することができると当業者が理解できるものであるから、「BI1356の投与された経口用量の10%未満又は7%以下が腎臓を介して排泄される」「BI1356を含む医薬組成物」についても同様に、「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物として使用することができると当業者が理解できるものである。

なお、上記(2)エ(イ)aのとおり、「BI1356」は、甲2に記載の「BI-1356」に相当するところ、甲2には、「BI-1356の腎排泄性は低く、主要な排泄経路ではなかった」と記載され(甲2-e)、甲4~甲6にも同様の記載があり(甲4-a、甲5-a、甲6-a)、甲7には、腎臓から排泄されるBI1356の量は7%を超えなかったことが記載されているから(甲7-a、甲7-b)、BI1356が「投与された経口用量の10%未満又は7%以下が腎臓を介して排泄される」ものであることは、本件出願当時公知の甲2、甲4~甲7に記載された事項と整合している。

オ したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(14)本件発明13について

本件発明13は、本件発明12の「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン」が、「主として胆汁を介して未変化で排泄される」ものであることを特定した発明である。

上記(13)のとおり、「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン」は「BI1356」のことであるから、本件発明13は、本件発明12のBI1356が、「主として胆汁を介して未変化で排泄される」ことを特定した発明といえる。

発明の詳細な説明には、「BI 1356は主として胆汁を介して未変化で排泄される」と記載されているから(【0061】)、BI1356が「主として胆汁を介して未変化で排泄される」ことは、BI1356が備える性質として発明の詳細な説明に記載されているといえる。

そうすると、上記(13)と同様に、「BI1356を含む医薬組成物」を作ることにより、自ずと、「BI1356が、主として胆汁を介して未変化で排泄される」ものを作ることができ、「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物として使用することができると当業者は理解できる。

なお、本件出願後に公開された乙17に記載されたリナグリプチンは、その化合物名、化学構造からみて、本件発明の「BI1356」に相当するところ(乙17-a)、乙17には、リナグリプチン(BI1356)の大部分(約90%)は、未変化体のまま排泄されること、80%が腸管循環系を介して排泄されること、すなわち、主として胆汁を介して未変化で排泄されることが記載されているから(乙17-b、c)、BI1356が、「主として胆汁を介して未変化で排泄される」という性質を備えるものであることは、本件出願後に公開された乙17に記載された事項と整合している。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明13の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(15)本件発明14について

本件発明14は、本件発明12又は13において、「前記1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの投与された経口用量の80%より多く、又は90%以上が親薬物として未変化で排泄される」ことを特定した発明である。

上記(13)のとおり、「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン」は「BI1356」のことであるから、本件発明14は、本件発明12又は13の「BI1356」を「投与された経口用量の80%より多く、又は90%以上が親薬物として未変化で排泄される」ものに特定した発明といえる。

発明の詳細な説明には、「DPP-4阻害剤は親化合物として主として変化されないで排泄」されると記載され、経口投薬後の尿及び糞中排泄量の例示として「>80%」、「好ましくは90%」が記載されているから(【0036】、【0038】)、「投与された経口用量の80%より多く、又は90%以上が親薬物として未変化で排泄される」ことは、DPP-4阻害剤が備える性質として発明の詳細な説明に記載されているといえる。

そうすると、上記(13)と同様に、DPP-4阻害剤である「BI1356を含む医薬組成物」を作ることにより、自ずと、「BI1356の投与された経口用量の80%より多く、又は90%以上が親薬物として未変化で排泄される」ものを作ることができ、「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物として使用することができると当業者は理解できる。

なお、上記(14)のとおり、乙17に記載されたリナグリプチンは、本件発明の「BI1356」に相当するところ、乙17には、リナグリプチン(BI1356)の大部分(約90%)は、経口投与後、未変化体、すなわち、親化合物のまま排泄されると記載されているから(乙17-b)、BI1356が、「投与された経口用量の80%より多く、又は90%以上が親薬物として未変化で排泄される」という性質を備えるものであることは、本件出願後に公開された乙17に記載された事項と整合している。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(16)本件発明15について

本件発明15は、本件発明12~14において、「前記1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの主代謝産物が薬理学上不活性である」ことを特定した発明である。

上記(13)のとおり、「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン」は「BI1356」のことであるから、本件発明15は、本件発明1のBI1356を「主代謝産物が薬理学上不活性である」ものに特定した発明といえる。

発明の詳細な説明には、「前記DPP-4阻害剤の主代謝産物が薬理学上不活性」であると記載されているから(【0036】、【0038】)、「主代謝産物が薬理学上不活性である」ことは、DPP-4阻害剤が備える性質として、発明の詳細な説明に記載されているといえる。

そうすると、上記(13)と同様に、DPP-4阻害剤である「BI1356を含む医薬組成物」を作ることにより、自ずと、「BI1356の主代謝産物が薬理学上不活性である」ものを作ることができ、「2型糖尿病を治療」するための医薬組成物として使用することができると当業者は理解できる。

なお、上記(14)のとおり、乙17に記載されたリナグリプチンは、本件発明の「BI1356」に相当するところ(乙17-a)、乙17には、リナグリプチン(BI1356)の大部分(約90%)は、未変化体のまま排泄され、代謝はごく一部であること、ごく一部の代謝産物は、薬理活性を持たないことが記載されているから(乙17-b)、BI1356は、「主代謝産物が薬理学上不活性である」という性質を備えるものであることは、本件出願後に公開された乙17に記載された事項と整合している。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明15の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(17)小括

以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明1~15の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合する。

したがって、無効理由1は、理由がない。

5 無効理由2(サポート要件)について

(1)判断の前提

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討して判断すべきものである。

以上を前提として、本件発明がサポート要件を満たすものであるか検討する。

(2)本件発明の解決しようとする課題

ア 本件明細書の発明の詳細な説明の【0028】、【0030】には、本件発明の課題に関連して以下の事項が記載されている。

「【0028】

本発明の範囲内で、

本明細書に特定されたDPP-4阻害剤が

進行性又は後期2型糖尿病患者(

経口

及び/又は非経口

抗糖尿病薬にもかかわらず不十分な血糖調節の患者

及び/又はインスリンの適応を有する患者を含む)

で、

代謝性疾患、

特に糖尿病(特に2型真性糖尿病)及びそれに関連する症状(例えば、糖尿病合併症)を治療及び/又は予防

(進行を防止もしくは遅延し、又は発症を遅延することを含む)するのにそれらを特に適するようにする、予期しない性質、特に有利な性質を有することが今驚くべきことにわかった。

こうして、

本発明はメトホルミン

、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド及びα-グルコシダーゼ阻害剤

から選ばれた一種以上の通常の経口抗糖尿病薬による治療(単一薬物、二重又は三重薬物を含む)にもかかわらず不十分な血糖調節の患者の治療における使用のための本明細書に特定されたDPP-4阻害剤を提供する

・・・

【0030】

別の実施態様において、

本発明はメトホルミン

、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド、アルファ-グルコシダーゼブロッカー、GLP-1及びGLP-1類似体、

並びにインスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種、2種又は3種の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬による治療

(単一薬物、二重又は三重薬物を含む)

にもかかわらず

、例えば、メトホルミン、スルホニル尿素、ピオグリタゾンもしくは(基底)インスリンによる単一治療にもかかわらず、又はメトホルミン/ピオグリタゾン、メトホルミン/スルホニル尿素、メトホルミン/(基底)インスリン、スルホニル尿素/ピオグリタゾン、スルホニル尿素/(基底)インスリンもしくはピオグリタゾン/(基底)インスリン組み合わせによる二重組み合わせ治療にもかかわらず、

不十分な血糖調節の患者の治療における使用のための本明細書に特定されたDPP-4阻害剤を提供する

。・・・」

イ 上記【0028】、【0030】の下線部分と、本件発明の特許請求の範囲の記載(上記患者が、さらに腎臓障害を有する患者であり、DPP-4阻害剤が、BI1356である発明)からみて、本件発明の解決しようとする課題は、以下のとおりであると認められる。

「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者の、2型糖尿病の治療及び/又は予防のための、下記式のDPP-4阻害剤又はその医薬上許される塩を含む医薬組成物を提供すること。

34

87

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(3)サポート要件の判断

上記4、特に、4(2)エのとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」が「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」における「2型糖尿病を治療」することができると理解するから、本件発明は、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者の、2型糖尿病の治療及び/又は予防のためのBI1356を含む医薬組成物を提供すること」ができ、本件発明の解決しようとする課題を解決することができると認識できる範囲のものと認められる。

したがって、本件発明は、サポート要件を満たすものである。

(4)請求人の主張について

請求人は、本件発明の解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の【0028】の記載からみて、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」に対し、「特に適するようにする、予期しない性質、特に有利な性質」を有するDPP-4阻害剤の「用法・用量」をもたらすことであるところ、発明の詳細な説明には、本件発明の医薬用途が薬理試験結果によってまったく裏付けられておらず、上記課題を解決できると当業者は認識できないから、サポート要件違反の無効理由があると主張する(審判請求書37頁8行~54頁8行、口頭審理陳述要領書(請求人)6頁12行~7頁3行、18頁12行~19頁7行、27頁2行~14行)。

しかしながら、発明の詳細な説明の【0028】に、「特に適するようにする、予期しない性質、特に有利な性質」と記載されていても、それが具体的にどのように適する、どのような性質なのかは記載されておらず、【0028】以外にも「特に適するようにする、予期しない性質、特に有利な性質」について、それ以上の説明は記載されていない。

そうすると、「特に適するようにする、予期しない性質、特に有利な性質」についての薬理試験結果が記載されていないからといって、サポート要件違反になるということはない。

また、「メトホルミン、インスリン及びインスリン類似体から選ばれた一種以上の通常の経口又は非経口抗糖尿病薬を用いた治療にもかかわらず不十分な血糖調節を有し且つ腎臓障害を有する患者」、すなわち、「本件発明1の患者群」に対する、DPP-4阻害剤の「用法・用量」をもたらすことも、本件発明の課題に含まれるとして検討しても、上記4、特に、4(2)エ(ウ)のとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、「BI1356を含む医薬組成物」が、「本件発明1の用法用量」により「本件発明1の患者群」における「2型糖尿病を治療」することができると理解するから、本件発明は、「本件発明1の患者群」に対する、DPP-4阻害剤の「用法用量」をもたらすものと認識できる範囲のものであり、サポート要件を満たすといえる。

したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(5)小括

以上のとおりであるから、本件発明1~15は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、本件発明1~15の解決しようとする課題を解決することができると当業者が認識できる範囲のものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。

したがって、無効理由2は、理由がない。

第7 むすび

以上のとおり、本件訂正後の請求項1~15に係る発明についての特許は、請求人が主張する無効理由1、2によって無効とすることはできないから、本件審判の請求は成り立たない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。

よって、結論のとおり審決する。

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