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Trademark Appeal Case

特許訂正の適否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023700133
審判種別記載はありません。
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

結 論
特許第7116269号の請求項1~4に係る特許を取り消す。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本件特許異議申立に係る特許第7116269号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る出願は、令和4年3月15日に出願され、同年8月1日にその特許権の設定登録がされ、同月9日に特許掲載公報が発行された。

本件特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。

令和5年 2月 8日 :特許異議申立人高橋愛佳(以下「申立人A」

という。)による請求項1ないし4に係る特

許に対する特許異議の申立て

同月 9日 :特許異議申立人河原田隆(以下「申立人B」

という。)による特許異議の申立て

同年 7月 3日付け:取消理由通知書

同年 9月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

令和6年 2月 8日 :申立人Aによる意見書の提出

同月13日 :申立人Bによる意見書の提出

同年 8月30日付け:訂正拒絶理由通知

同年10月 2日 :特許権者による意見書、及び、令和5年9月

5日に提出された訂正請求書の手続補正書の

提出

令和7年 6月19日付け:取消理由通知書(決定の予告)

同年 8月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

同年 9月 4日付け:手続補正指令書(方式)

同年10月 3日 :令和7年8月26日に提出された訂正請求書

の手続補正書(方式)

同月20日付け:手続補正指令書(方式)

同年11月 5日 :令和7年10月3日に提出された手続補正書

の手続補正書(方式)

同年12月 5日付け:訂正拒絶理由通知

令和8年 1月 9日 :特許権者による意見書、及び、令和7年8月

26日に提出された訂正請求書の手続補正書

の提出

なお、令和5年9月5日提出の訂正請求書による訂正の請求は、令和7年8月26日に新たな訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。

第2 訂正の適否

1 令和7年8月26日提出の訂正請求書による訂正の内容

特許権者は、令和7年11月5日及び令和7年10月3日に提出された手続補正書(方式)により補正された令和7年8月26日に提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)により、訂正を請求しているところ、その趣旨は、「特許第7116269号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものであり、本訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「同一構面内」と記載されているのを、「

前記骨組と前記ブレースがある同じ

構面内」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3,4も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1に「D/t<10.90・・・式(5)」と記載されているのを、「

8.0≦

D/t<

10.50

・・・式(5)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3,4も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項2を削除する。(請求項2の記載を引用する請求項3,4も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項3における引用において「を特徴とする請求項1又は2に記載の」と記載されているのを、「を特徴とする請求項

1

に記載の」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項4における引用において「を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の」と記載されているのを、「を特徴とする請求項1

又は3

に記載の」に訂正する。

(6)訂正事項6

明細書の段落【0013】に「同一構面内」と記載されているのを、「

前記骨組と前記ブレースがある同じ

構面内」に訂正する。

(7)訂正事項7

明細書の段落【0013】,【0043】に「D/t<10.90・・・式(5)」と記載されているのを、それぞれ「

8.0≦

D/t<

10.50

・・・式(5)」に訂正する。

(8)訂正事項8

明細書の段落【0014】を削除する。

(9)訂正事項9

明細書の段落【0016】に「第1発明又は第2発明において、」と記載されているのを「第1発明において、」に訂正する。

(10)訂正事項10

明細書の段落【0017】に「第1発明ないし第3発明のいずれかにおいて、」と記載されているのを「第1発明

又は第3発明

において、」に訂正する。

(11)訂正事項11

明細書の段落【0043】,【0049】,【0050】に、幅厚比D/tに関して「10.90」と記載されているのを、それぞれ「

10.50

」に訂正する。

(12)訂正事項12

明細書の段落【0047】の【表2】を差し替えて訂正する。

(13)訂正事項13

明細書の段落【0048】の【表3】を差し替えて訂正する。

(14)明細書の訂正と関係する請求項についての説明

訂正事項6~13のそれぞれは、明細書の訂正に係る請求項1~4の全てについて行うものである。

(15)一群の請求項について

訂正前の請求項3、4は、直接的または間接的に引用する請求項1の記載を訂正する訂正事項1及び2によって連動して訂正されるから、請求項1、3及び4は、一群の請求項である。

また、訂正前の請求項3、4は、直接的または間接的に引用する請求項2の記載を訂正する訂正事項3によって連動して訂正されるから、請求項2、3及び4は、一群の請求項である。

よって、共通する請求項3及び4を有する上記2つの「一群の請求項」は、組み合わされて、一つの「一群の請求項1~4」となる。

したがって、本件訂正は、一群の請求項1~4についてするものである。

2 訂正拒絶理由の概要

令和7年12月5日付け訂正拒絶理由通知書により特許権者に通知した訂正拒絶理由は、概略、以下のとおりである。

訂正事項2、7、11~13に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書各号所定のいずれの目的にも該当せず、また、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合しないから、訂正事項2、7、11~13に係る訂正を認めることができない。

そして、訂正事項7及び11~13は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項〔1-4〕の全てについて行うものであり、訂正事項2は、請求項1について行うものであるから、これらを含む一群の請求項〔1-4〕についてする本件訂正を認めることはできない。

3 令和8年1月9日提出の手続補正書による手続補正について

本件訂正に関し、手続の経緯は、上記第1において記載されたとおりであり、令和8年1月9日提出の手続補正書による手続補正(以下、単に「手続補正」という。」)は、令和7年8月26日提出の訂正請求書、訂正特許請求の範囲及び訂正明細書の全文(なお、これらは、令和7年11月5日及び令和7年10月3日に提出された手続補正書(方式)により補正されている。)を、上記手続補正書に添付した訂正請求書及び訂正明細書のとおり補正するものである。

そして、手続補正の内容は、訂正事項1~13のうち、訂正事項12及び訂正事項13を削除するものであるから、訂正請求書の要旨を変更しないものである(審判便覧67-05.3の4.(3)イ参照)。

よって、上記手続補正を認める。

4 訂正についての当審の判断

事案に鑑み、訂正事項11について検討し、その次に、訂正事項2、7について検討する。

(1)訂正事項11について

ア 新規事項の有無について

(ア)訂正事項11に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」といい、同願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面を総称して「本件明細書等」という。)の【0050】における、訂正前の「10.90」との記載を、訂正後の「10.50」に訂正することを含むものである。

そこで、本件明細書の訂正前の【0050】をみると、「・・・、鉄骨梁400N級(F=235N/mm

2

)のときのD/tとD/B(B:梁幅)の関係は、図6のグラフとなり、幅厚比D/tの10.90が臨界的な意義を有することが分かる。」と記載されている。

上記箇所には、「幅厚比D/t」について、「10.90が臨界的な意義を有すること」が示されている。

しかしながら、「幅厚比D/t」について、「10.50」が臨界的な意義を有していることは、上記【0050】だけでなく、本件明細書等全体をみても記載も示唆もされていない。

なお、訂正前の【0050】において、図6のグラフから、「幅厚比D/t」の「臨界的な意義」が「10.90」であることが分かる旨述べているが、図6のグラフは、何ら訂正されていないにもかかわらず、同図から、「臨界的な意義」を有する数値として、「10.90」とは異なる数値(10.50)を導くことができるというのは合理的でない。

また、本件明細書等を総合しても、「10.50が臨界的な意義を有すること」、すなわち、「幅厚比D/t」の上限が「10.50」未満であることに臨界的な意義を有することを示す記載や示唆はなく、そのようなことを導出し得る技術常識があるとはいえない。

よって、明細書の【0050】において、訂正前の「10.90」との記載を、訂正後の「10.50」との記載に訂正することは、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

(イ)訂正前の明細書の【0043】には、「幅厚比D/tが10.50以上となると建物全体の変形性能の確保が難しくなること」は記載も示唆もされていない。また、訂正前の明細書の【0049】には、「幅厚比D/tが10.50以上となると建物全体の変形性能の確保が難しくなること」や、「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の幅厚比D/tは、10.50未満とすることが好ましい」ことは、記載がされていない。

また、本件明細書等を総合しても、「幅厚比D/tが10.50以上となると建物全体の変形性能の確保が難しくなること」や、「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の幅厚比D/tは、10.50未満とすることが好ましい」ことが導出される根拠を示すものがあるとはいえず、示唆されるともいえず、そのようなことが導出される技術常識があるともいえない。

よって、明細書の【0043】及び【0049】において、訂正前の「10.90」との記載を、訂正後の「10.50」との記載に訂正することは、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

(ウ)特許権者の主張

a 主張の概要

特許権者は、令和8年1月9日付け意見書で次の主張を行っている。

(a)主張a(特許権者の令和8年1月9日付け意見書3頁8行~4頁23行)

「本件明細書の【0046】、【0038】及び【0039】の記載をふまえて、「式(1)~(4)を全て満たす必要があり(本件明細書の段落【0037】~【0042】参照)。」、その上、本件明細書の【0049】の記載をふまえると、「α及びγが1.0超であり、且つ、β及びδが1.3超であることがノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の梁端接合部の降伏が鉄骨梁3の降伏に先行せずに好ましいことを示して」おり、これらを考慮すると、「本件明細書の【0047】の表2のγとαとδとβのすべてが1.0以上となるとともに、好ましくは、α及びγが1.0超であり、且つ、β及びδが1.3超である条件において、No.4、No.10、No.16、No.22、No.28、No.34、No.40 では、γが1より小さくなっており、この条件を満たしていないことが見て取れる」ことから、「表2にて、No.4、No.10、No.16、No.22、No.28、No.34、No.40の判定は、OKとなっているが、NGの誤記であることがわかる。」同様に、「表3にて、No.4、No.10、No.16、No.22、No.28、No.34、No.40の判定は、OKとなっているが、NGの誤記であることがわか」り、「【0047】の表2のγとαとδとβのすべてが1.0以上となるとともに、好ましくは、α及びγが1.0超であり、且つ、β及びδが1.3超である条件において、最も大きいD/tは、No.22の「10.86」ではなく、No.23の「10.50」になることがわかり、【0048】の表3のγとαとδとβのすべてが1.0以上となるとともに、好ましくは、α及びγが1.0超であり、且つ、β及びδが1.3超である条件において、最も大きいD/tは、No.22の「10.86」ではなく、No.23の「10.50」になることがわかる。」

(b)主張b(特許権者の令和8年1月9日付け意見書4頁23~32行)

「実際の建物を再現した実験や、有限要素解析等の計算を実行できる能力のある当業者であれば、本件明細書の【0012】及び請求項1に記載したように、『骨組とブレースがある同じ構面内の角形鋼管柱と梁との接合部』のあるブレース構造の同一構面において『オーバースペックとならずに経済的に・・・全ての柱梁接合部をノンダイアフラム形式の接合部とすることができるノンダイアフラムブレース構造を提供する』ことを課題とすれば、上記条件を満たし、構造安全性が確保できる「幅厚比D/t」の「臨界的な意義」が、「10.90」ではなく、「10.50」であることがわかる。」

b 主張についての見解

(a)主張aについて

(a-1)主張aは、本来、本件明細書の「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の幅厚比D/tは、10.50未満とすることが好ましい」(【0049】)等の記載が正しいことを主張するために、【表2】及び【表3】それぞれの、No.4、No.10、No.16、No.22、No.28、No.34、No.40の「判定」の欄の「OK」が、いずれも「NG」と記載すべきところの誤記であって、「幅厚比D/t」が採用しうる値の上限値として「10.50」が妥当であると主張していると解して検討する。

本件明細書の【0046】には、「(ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の幅厚比D/tによる構造計算の合否判定)」とのあとに、「接合部係数α=jMy/bMy=1.0、接合部係数β=jcMp/bcMp=1.3のときに鉄骨梁に軸力(軸力比0.3)が作用する場合を考慮して構造計算上合格(OK)か否かを計算したものを次表2,次表3に示す。」との記載がある。

この記載によれば、表2及び表3の「構造計算の合否判定」に係る記載、すなわち、表2(【0047】)、表3(【0048】)における「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管」それぞれに対する「判定」の欄において、「OK」(合格)または「NG」(不合格)との記載は、「接合部係数α=jMy/bMy=1.0、接合部係数β=jcMp/bcMp=1.3のときに鉄骨梁に軸力(軸力比0.3)が作用する場合」を考慮して、「構造計算」を実施した結果に基づき、「構造計算上合格(OK)か否か」を判定し、そのいずれかを示すものであることまでは理解できる。

(a-2)しかしながら、「接合部係数α=jMy/bMy=1.0、接合部係数β=jcMp/bcMp=1.3のときに鉄骨梁に軸力(軸力比0.3)が作用する場合」を考慮する「構造計算」が具体的にどのようにして実施できるかについて示されておらず、また、計算結果に対して、どのような基準で合格とするか否かを判定することについても何ら示されていない。

したがって、本件明細書等の記載から、「表2にて、No.4、No.10、No.16、No.22、No.28、No.34、No.40の判定」のそれぞれについて、「OK」であることが誤記であって、「NG」が本来その意であることを検証するに必要な根拠を見いだすことはできない。そして、技術常識を参酌しても同様である。

(a-3)また、本件明細書等をみても、「α及びγが1.0超であり、且つ、β及びδが1.3超である条件」を満たすことで、「構造計算上合格(OK)か否か」の合否が決まることは記載されておらず、上記(a-2)に示したのと同様に、「構造計算上」「合格」との判定結果を示す基準が、「α及びγが1.0超であり、且つ、β及びδが1.3超である」ことは示唆しておらず、技術常識ともいえない。

(a-4)したがって、主張aにより、本件明細書等において、本来「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の幅厚比D/tは、10.50未満とすることが好ましい」(【0049】)等の記載が正しいことが、根拠をもって示されたとはいえない。

(b)主張bについて

上記(a)に示したのと同様に、主張bには、「構造計算上」「合格」との判定結果を示す基準や具体的な構造計算の根拠が示されていない以上、本件明細書等において、本来「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の幅厚比D/tは、10.50未満とすることが好ましい」等の記載が正しいことが、根拠をもって示されたとはいえない。

なお、本件訂正の判断を左右するものではないが、主張bに示す「実際の建物を再現した実験や、有限要素解析等の計算を実行できる能力のある当業者であれば、本件明細書の【0012】及び請求項1に記載したように、『骨組とブレースがある同じ構面内の角形鋼管柱と梁との接合部』のあるブレース構造の同一構面において『オーバースペックとならずに経済的に・・・全ての柱梁接合部をノンダイアフラム形式の接合部とすることができるノンダイアフラムブレース構造を提供する』ことを課題とすれば、上記条件を満たし、構造安全性が確保できる「幅厚比D/t」の「臨界的な意義」が、「10.90」ではなく、「10.50」であることがわかる。」ことが事実であるのならば、本件特許の請求項1に記載された「ブレース構造」であれば、「式(5)」における数値範囲の上限を適宜に設定できることを理解できることが、当業者において周知の事実ということを主張するものと理解することができる。

なお、上記(ア)に関して、特許権者は、令和8年1月9日付け意見書において、図6のグラフから、「臨界的な意義」が「10.50」であることが合理的に分かることについての主張等を行っていない。

(エ)小括

以上のとおり、訂正事項11に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合しない。

(2)訂正事項2及び訂正事項7について

ア 特許権者は、令和7年8月26日付け訂正請求書において、訂正事項2に係る訂正のうち、D/tの上限値の「10.90」との数値を「10.50」との数値に変更する訂正については、本件明細書の【0047】の【表2】及び【0048】の【表3】のそれぞれにおいて、No.4、No.10、No.16、No.22、No.28、No.34、No.40の「判定」の欄の「OK」が、いずれも「NG」と記載すべきところの誤記であることを前提にして、最も大きい「D/t」(5列目)が、「10.50」になることに基づいて主張するものと理解できる。

しかしながら、上記(1)のとおり、本願明細書等の記載から、上記【表2】及び【表3】の各No.4、No.10、No.16、No.22、No.28、No.34、No.40の「判定」の欄の「OK」との記載が「NG」と記載すべきところの誤記であるとはいえないから、「D/t」の上限値が「10.50」であることも導出することができない。

よって、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合しない。

イ また、訂正事項7に係る訂正は、訂正事項2に係る訂正と同様の内容を含むものであるから、訂正事項7に係る訂正についての判断は、訂正事項2に係る訂正と同様である。

(3)訂正の適否についてのまとめ

以上のとおり、訂正事項2、7及び11は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合しないから、訂正事項2、7及び11に係る訂正を認めることができない。

そして、上記1(15)のとおり、本件訂正は、一群の請求項1~4についてするものと認められる。

そうすると、訂正事項1、3~6、8~10は、一群の請求項〔1-4〕についてするものであるから、訂正事項2、7及び11に係る訂正が認められない以上、訂正事項1、3~6、8~10に係る訂正も認められない。

よって、一群の請求項である請求項〔1-4〕について訂正を認めない。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認められないから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」等という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】

角形鋼管柱と鉄骨の梁を剛結したラーメン構造の骨組に加え、斜材であるブレースを設けて水平力を負担させるブレース構造において、

同一構面内の前記角形鋼管柱と前記梁との接合部は、全て前記角形鋼管柱の他の部位より厚肉な中空断面の角形鋼管からなるノンダイアフラム厚肉角形鋼管であり、

且つ、前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管は、ブレースが接続される接合部も、ブレースが接続されない接合部も、いずれも同一断面形状であり、

前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の外径Dと肉厚tとの幅厚比D/tは、次式(5)を満たすこと

を特徴とするノンダイアフラムブレース構造。

D/t<10.90・・・式(5)

【請求項2】

角形鋼管柱と鉄骨の梁を剛結したラーメン構造の骨組に加え、斜材であるブレースを設けて水平力を負担させるブレース構造において、

同一構面内の前記角形鋼管柱と前記梁との接合部は、全て前記角形鋼管柱の他の部位より厚肉な中空断面の角形鋼管からなるノンダイアフラム厚肉角形鋼管であり、

前記梁から作用する軸力を考慮した場合の前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の梁端接合部の降伏曲げ耐力jcMyは、次式(1)を満たし、

前記梁から作用する軸力を考慮した場合の前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の梁端接合部の全塑性曲げ耐力jcMpは、次式(2)を満たすとともに、

前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の梁端接合部の降伏曲げ耐力jMyは、次式(3)を満たし、

前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の梁端接合部の全塑性曲げ耐力jMpは、次式(4)を満たし、

前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の外径Dと肉厚tとの幅厚比D/tは、次式(5)を満たすこと

を特徴とするノンダイアフラムブレース構造。

jcMy≧α×bcMy・・・式(1)

jcMp≧β×bcMp・・・式(2)

jMy≧γ×bMy・・・式(3)

jMp≧δ×bMp・・・式(4)

jcMy:ノンダイアフラム梁端接合部の降伏曲げ耐力(梁から作用する軸力を考慮したもの)

jcMp:ノンダイアフラム梁端接合部の全塑性曲げ耐力(梁から作用する軸力を考慮したもの)

bcMy:梁の降伏曲げ耐力(梁に作用する軸力を考慮したもの)

bcMp:梁の全塑性曲げ耐力(梁に作用する軸力を考慮したもの)

jMy:ノンダイアフラム梁端接合部の降伏曲げ耐力

jMp:ノンダイアフラム梁端接合部の全塑性曲げ耐力

bMy:梁の降伏曲げ耐力

bMp:梁の全塑性曲げ耐力

α:接合部係数1.0以上

β:接合部係数1.0以上

γ:接合部係数1.0以上

δ:接合部係数1.0以上

D/t<10.90・・・式(5)

【請求項3】

前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の断面形状は、入隅に近づく程厚くなるように内面にテーパー面が形成されていること

を特徴とする請求項1又は2に記載のノンダイアフラムブレース構造。

【請求項4】

前記角形鋼管柱の柱せん断スパン比(

c

L/2

c

D)は、2.5以上であり、

且つ、前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の長さLは、1500mm以下であること

を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のノンダイアフラムブレース構造。

ここで、

c

L:前記角形鋼管柱の長さ、

c

D:前記角形鋼管柱の外径」

第4 特許権者に通知した取消理由及び引用刊行物について

1 取消理由通知について

令和5年7月3日付け取消理由通知書において、請求項1~4に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおり。

(1)取消理由の概要

ア (明確性要件)

本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消すべきものである。

イ (実施可能要件)

本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消すべきものである。

ウ (サポート要件)

本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消すべきものである。

エ (進歩性)

本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)引用刊行物

取消理由で引用した刊行物は次のとおり。

刊行物1:特開2019-60192号公報(申立人Aの甲第4号証、申

立人Bの甲第9号証)

刊行物2:「鋼構造接合部設計指針」,第4版,一般財団法人日本建築学

会,2021年2月15日,p.126-129,140-145,174-

189(申立人Bの甲第7号証)

刊行物3:「KH-コラムジョイント公報の設計・施工指針」,

[online],2016年11月,株式会社駒井ハルテック,イ

ンターネット

<URL:https://www.komaihaltec.co.jp/steel/products/pdf/dc_guide

lines.pdf>(申立人Bの甲第10A号証)

刊行物4:特開2014-190045号公報(申立人Aの甲第6号証)

2 取消理由通知(決定の予告)について

令和7年6月19日付け取消理由通知書(決定の予告)において、令和6年10月2に提出された手続補正書(方式)により補正された令和5年9月5日に提出の訂正請求書により訂正された請求項1~4に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおり。

(1)取消理由(決定の予告)の概要

ア (実施可能要件)

本件特許の請求項2~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消すべきものである。

イ (サポート要件)

本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消すべきものである。

ウ (進歩性欠如)

本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)引用刊行物

取消理由(決定の予告)で引用した刊行物は、上記1(2)に示した刊行物1~4、及び、以下のものである。

刊行物5A:「熱間成形角形鋼管を用いたノンダイアフラム構法 Hot

Structure 設計の手引き」,ナカジマ鋼管株式会社(申立

人Bの甲第3A号証)

刊行物5B:「Hot Structure」と記載された販促資料,ナ

カジマ鋼管株式会社,2009年7月 (申立人Bの甲第3

B号証)

刊行物6 :中野英行 外2名、「厚肉角形鋼管部材を用いたノンダイア

フラム形式の柱梁接合部の力学性能に関する実験研究」日本

建築学会大会学術講演梗概集,2011年8月,p.1089-

1090(申立人Bの甲第8号証)

刊行物7 :登録実用新案第3232594号公報(申立人Bの甲第4号

証)

刊行物8 :「鋼構造塑性設計指針」,第3版,一般社団法人日本建築学

会,2017年2月25日,p.29-47(特許権者が提出した

乙第3号証)

刊行物9 :特開平4-366257号公報(当審において職権探知した

文献)

刊行物10:特開2006-161445号公報(当審において職権探知

した文献)

第5 刊行物について

1 刊行物

(1)刊行物1

ア 刊行物1の記載

刊行物1には、以下の記載がある(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。

(ア)「【0001】

本発明は、角形鋼管柱と鉄骨梁の接合部に配設される鋼製コラムコアと、鋼製コラムコアに角形鋼管柱と鉄骨梁が接合されている柱梁接合部構造に関する。」

(イ)「【0008】

前記目的を達成すべく、本発明による鋼製コラムコアの一態様は、角形鋼管柱と鉄骨梁の接合部に配設される、ノンダイアフラム形式の鋼製コラムコアであって、

前記鋼製コラムコアは、四枚の鋼製プレートが溶接部を介して相互に接合され、

延伸方向に直交する断面形状が矩形

を呈し、

前記鋼製プレートの厚みが前記角形鋼管柱の厚みよりも厚いことを特徴とする。

【0009】

本態様によれば、四枚の鋼製プレートが溶接部を介して相互に接合されてパネルゾーンを成す鋼製コラムコアが形成されていることから、製造が容易であり、多様な形状及び寸法の要求に対して、当該要求に応じた鋼製プレートを溶接することにより、製造コストを増加させることなく多様な形状及び寸法バリエーションの鋼製コラムコアが得られる。また、鋼製プレートの厚みが角形鋼管柱の厚みよりも厚いことから、角形鋼管柱からの軸力や曲げを高剛性の鋼製コラムコアに有効に伝達することができる。

【0010】

また、本発明による鋼製コラムコアの他の態様は、前記鋼製コラムコアの成が前記鉄骨梁の梁成よりも高いことを特徴とする。

本態様によれば、鋼製コラムコアの成が鉄骨梁の梁成よりも高いこと、言い換えれば、鋼製コラムコアの上下端と鉄骨梁の間に所定の余長部があることにより、鋼製コラムコアと鉄骨梁の接合部を剛接合とすることができる。また、鉄骨架構内に耐震補強ブレース(もしくは座屈拘束ブレース)が存在する場合に、この耐震補強ブレースを余長部に接続することができる。仮に余長部がない場合は、耐震補強ブレースを例えば角形鋼管柱に接合し、角形鋼管柱の当該接合箇所に補強対策を講じる必要が生じ得る。」

(ウ)「【0024】

[実施形態]

<鋼製コラムコア>

はじめに、図1及び図2を用いて、実施形態に係る鋼製コラムコアの一例を説明する。ここで、図1は、鋼製コラムコアの一例の斜視図であり、図2は、図1のII方向の矢視図である。

鋼製コラムコア10は、幅の異なる二枚ずつの合計四枚の鋼製プレート1,2から形成されている

。相対的に短幅の鋼製プレート2の両端部には、テーパー状で傾斜角度が30乃至50度程度の開先2aが鋼製プレート2の延伸方向に亘って形成されている。長幅の鋼製プレート1と短幅の鋼製プレート2を図1に示すように配設し、四隅内側には短幅の鋼製プレート2に沿うように裏当て金4が配設された状態で開先2aに溶接部3が形成され、中空で四角柱状の鋼製コラムコア10が形成される。

【0025】

図2に示すように、鋼製コラムコア10の平面形状は、一辺の長さがDpの正方形である。ただし、鋼製コラムコア10に接合される上柱や下柱の断面形状に応じて、正方形以外の形状、例えば長方形の平面視形状の鋼製コラムコアであってもよい。そして、鋼製プレート1,2の厚みtpは、通常のダイアフラムを備えているコラムコアに比べて厚い。この厚みtpに関しては以下に詳説する。

【0026】

溶接部3は、アークスポット、アークスタッド、ガスシールドアーク、プラズマ溶接等の他のアーク溶接方法や、エレクトロスラグ溶接、電子ビーム溶接、レーザービーム溶接など、多様な溶接法にて形成できるが、中でも、製造効率性と品質性の双方に最も優れているサブマージアーク溶接にて形成されたサブマージアーク溶接部3である。サブマージアーク溶接法は、粒状のフラックスを溶接線に沿って散布しておき、その中にソリッドワイヤを連続的に供給し、フラックスに覆われた状態で母材とワイヤ間にアークを発生させて双方を溶融させて接続する方法である。サブマージアーク溶接法によれば、太径ワイヤに大電流を流すことから、通常の手溶接に比べて十数倍程度も効率がよい。また、一般に深くまで溶込み、溶接品質が安定し、ビード外観は均一で美しく、継手信頼性の高い溶接部を形成できる。例えば、図1に示す鋼製コラムコア10の十数倍程度の長さのものを製作し、切断加工して図1に示す鋼製コラムコア10を連続的に製造することもでき、この製造方法によればより一層製造効率よく鋼製コラムコア10を製造することが可能になる。

【0027】

板厚の厚い四枚の鋼製プレート1,2が相互にサブマージアーク溶接部3にて接合されてなる、

平面視正方形の中空の四角柱体の鋼製コラムコア10は、ノンダイアフラム形式であり

ながら、剛性が極めて高く、かつ、製造効率の良好なコラムコアとなる。また、鋼製プレート1,2の幅や長さ、厚みを所望に調整することにより、多様な形状及び寸法のコラムコアが得られる。

【0028】

また、鋼製コラムコア10が内部にダイアフラムを備えていないことから、例えば鋼製コラムコア10内にコンクリートを充填して剛性をより一層高めるような措置を講じる場合にも、コンクリートの充填を容易に行うことができる。

【0029】

なお、図示を省略するが、一種類の鋼製プレートを四枚使用し、各鋼製プレートは一端にのみ開先を備えていて、開先を隣接する鋼製プレートの側面に当接して溶接部を介して接合することにより、図1に示す鋼製コラムコア10と同形状および同寸法の鋼製コラムコアを得ることができる。」

(エ)「【0030】

<柱梁接合部構造>

次に、図3乃至図5を用いて、実施形態に係る柱梁接合部構造について説明する。ここで、図3は、柱梁接合部構造の一例の斜視図であり、図4,5はそれぞれ、図3のIV方向の矢視図であり、図3のV-V断面図である。

柱梁接合部構造100は、パネルゾーンを形成する鋼製コラムコア10の各鋼製プレート1,2に対して、H型鋼からなる鉄骨梁30,40が接合され、鋼製コラムコア10の上下端にはそれぞれ、上柱と下柱となる同断面形状の角形鋼管柱20が接合されている

。なお、図示を省略するが、

鉄骨梁30,40の各ウエブおよびフランジは各鋼製プレート1,2に対して完全溶け込み溶接にて接続されている。

また、角形鋼管柱20も各鋼製プレート1,2の端面に対して完全溶け込み溶接にて接続されている。柱梁接合部構造100はノンダイアフラム形式の構造であることから、ダイアフラムを有する場合に要していた、鉄骨梁のウエブの端部上下に開設されているスカラップを不要にできる。

【0031】

図4に示すように、

鋼製コラムコア10と角形鋼管柱20の双方の平面寸法の関係において

、鋼製コラムコア10の断面内に角形鋼管柱20の断面が完全に収容されるように、双方の全体寸法や、

鋼製プレート1,2の板厚tp及び角形鋼管柱20の厚みtcが設定される。

より詳細には、鋼製プレート1,2の板厚tpは、角形鋼管柱20の断面が完全に収容される厚みであると同時に、以下で詳説するように、鋼製コラムコア10が降伏線理論を用いた終局耐力を満たすような厚みとなる。

【0032】

図4に示すように、角形鋼管柱20は四隅に曲率半径rの曲率部(R部)を備え、一辺の辺長がDpの平面視正方形の鋼管柱である。鋼製プレート1,2の板厚tpが角形鋼管柱20の厚みtcよりも大きいことは前提となるが、角形鋼管柱20の断面全体が鋼製コラムコア10の断面内に完全に収容されるには、四隅の曲率部が鋼製コラムコア10の断面内に完全に収容される条件を規定する必要がある。

【0033】

角形鋼管柱20としては、建築構造用冷間成形角形鋼管である、BCR(Box Column Roll 建築構造用冷間ロール成形角形鋼管、登録商標)やBCP(Box Column Press建築構造用冷間プレス成形角形鋼管、登録商標)が使用される。

これらはSN材(建築構造用鋼材)をベースとした一般社団法人日本鉄鋼連盟製の角形鋼管である。

【0034】

図4において、四隅の角部にて角形鋼管柱20のR部が鋼製コラムコア10の断面内に収容されるには、以下の式(1)を満たす必要があることより、tpは、変数r、tcを用いた以下の式(2)を満たす必要がある。

【0035】

【数3】

26

87

0001435145000001.jpg

従って、

BCRを適用する場合は以下の式(3)を満たすように、また、BCPを適用する場合は以下の式(4)を満たすように鋼製プレート1,2の板厚tp及び角形鋼管柱20の厚みtcが設定される

【0036】

【数4】

33

73

0001435145000002.jpg

このように、BCRとBCPでtpの数値範囲は相違する。

【0037】

なお、鋼製コラムコア10の一辺の長さをDp、鉄骨梁20,30の幅をBとした際に、以下の式(5)を満たす必要があることより、角形鋼管柱20の厚みtcの上限値は以下の式(6)にて規定できる。

【0038】

【数5】

32

62

0001435145000003.jpg

このように、角形鋼管柱20の厚みtcの上限値は、鋼製コラムコア10の平面寸法と鉄骨梁20,30の幅寸法で変化する。

【0039】

一方、角形鋼管柱20として、JIS G 3466(一般構造用角形鋼管)に基づくJIS製品である、STKR400やSTKR490を使用する場合は、BCRと同様にrは3.0tc以下となることより、上式(3)にて鋼製プレート1,2の板厚tp及び角形鋼管柱20の厚みtcが設定される。

【0040】

四隅にR部を備えた一般的な形態の角形鋼管柱20の断面全体が、鋼製コラムコア10の断面内に完全に収容されていることにより、角形鋼管柱20からの軸力や曲げ等を鋼製コラムコア10に有効に伝達することができる。

【0041】

図5に示すように、柱梁接合部構造100は、梁成の異なる二種類の段差梁、鉄骨梁30,40を有している。図示例では、鋼製コラムコア10の左側に相対的に高い梁成H3の鉄骨梁40が配設され、右側に相対的に低い梁成H2の鉄骨梁30が配設されている。鋼製コラムコア10の高さH1は、梁成H2,H3よりも高く設定されている。

鉄骨梁40は鋼製コラムコア10の高さ中央位置に取付けられており、

図示例は

上下に同じ余長lpの余長部50を備え

ている。一方、

鉄骨梁30は、上方に余長lpの余長部50を備え、下方には余長部50

長い余長lp'の余長部60を備えている

。なお、鉄骨梁40が鋼製コラムコア10の高さ中央位置ではない位置に取付けられ、従って上下の余長部の余長が異なる形態であってもよい。

【0042】

このように、

鋼製コラムコア10と鉄骨梁30、40の間に余長lp、lp'がある

場合に、これらlp、lp'が以下で詳説する、降伏線理論に基づいた降伏曲げ耐力式を満たすことにより、鋼製コラムコア10と各鉄骨梁30,40の接合部を剛接合とすることができる。さらに、余長lp、lp'があることにより、余長が無い場合と比べて鋼製コラムコア10の厚みを相対的に薄くすることも可能になる。

【0043】

また、図示を省略するが、

鉄骨架構内に耐震補強ブレース

(座屈拘束ブレース)

が存在する場合に、この耐震補強ブレースを余長部50,60に接続することができる

ため、余長部50,60が存在しない場合に耐震補強ブレースを角形鋼管柱20に接続しつつ、角形鋼管柱20に補強対策を講じるといった措置を不要にできる。

【0044】

なお、鋼製コラムコア10をパネルゾーンとする柱梁接合部構造は、全ての梁成が同じ段差梁の無い複数の鉄骨梁を有する構造であってもよいし、上柱と下柱の角形鋼管柱が共に全断面が鋼製コラムコア10の内部に収容されることを前提として、相互に寸法の異なる鋼管柱であってもよい。

【0045】

<降伏線理論に基づいた鋼製コラムコアの板厚の設定方法>

鋼製コラムコア10の板厚の設定方法については、第一の方法は上記する式(3)、(4)による方法にて設定することができる。しかしながら、実際には、ノンダイアフラム形式を適用していることより、

鋼製コラムコアと鉄骨梁の接合部との間で降伏耐力等により、鋼製コラムコアの板厚を設定することが肝要である

。より具体的には、

条件1として降伏耐力の条件を満たすこと、条件2として全塑性耐力の条件を満たすこと、条件3として最大耐力の条件を満たすこと、の三つの条件を全て満たす板厚を求め、算定された板厚以上の厚みの板厚にすることとする

。これら三つの条件を求めるに当たり、降伏線理論に基づく計算を実行する。ここで、図6は、面外曲げ降伏メカニズムを説明する図であり、図6(a)は鉄骨梁側から鋼製コラムコアを見た正面図であり、図6(b)は、鋼製コラムコアを上方から見た平面図であり、図6(c)は、鋼製コラムコアを側方から見た側面図である。以下の表1に、図6中の記号や以下で示す式中の記号の説明を記す。

【0046】

【表1】

108

75

0001435145000004.jpg

図6と表1を参照しながら、上記する各条件を満たす鋼製コラムコアの板厚を検証する。

【0047】

(

条件1

:降伏耐力の条件)

降伏耐力の条件は、以下の式(7)を満たす

必要があることより、式(7)の右辺および左辺を具体的に表すことにより、式(8)の条件式が得られる。

【0048】

【数6】

27

102

0001435145000005.jpg

(合議体注:式中の下線は、申立人Aによるもの。以下同様。)

式(8)を満たすtpの範囲が、降伏耐力の条件から規定されるtpの範囲となる。

【0049】

(

条件2

:全塑性耐力の条件)

全塑性耐力の条件は、以下の式(9)を満たす

必要があることより、式(9)の右辺および左辺を具体的に表すことにより、式(10)の条件式が得られる。

【0050】

【数7】

24

94

0001435145000006.jpg

式(10)を満たすtpの範囲が、全塑性耐力の条件から規定されるtpの範囲となる。

【0051】

(条件3:最大耐力の条件)

最大耐力の条件は、以下の式(11)を満たす必要があることより、式(11)の右辺および左辺を具体的に表すことにより、式(12)の条件式が得られる。

【0052】

【数8】

25

95

0001435145000007.jpg

式(12)を満たすtpの範囲が、最大耐力の条件から規定されるtpの範囲となる。

【0053】

上記式(8)、(10)、(12)の左辺に、鋼製コラムコア10の板厚(厚み)tpがあり、これら3式を全て満たす板厚tpを求め、鋼製コラムコア10の厚みを設定する。

【0054】

より詳細には、上式(3)もしくは(4)を満たし、かつ、式(8)、(10)、(12)の全てを満たす鋼製コラムコア10の厚みの下限値を算定し、鋼製コラムコア10の厚みをこの算定された下限値以上に設定することにより、接合される角形鋼管柱20の断面を完全に鋼製コラムコア10の厚み内に収容でき、かつ、ノンダイアフラム形式において必要十分な耐力を有する鋼製コラムコア10を提供することができる。」

(オ)【図3】

85

57

0001435145000008.jpg

(カ)【図4】

56

52

0001435145000009.jpg

(キ)【図5】

77

68

0001435145000010.jpg

上記(エ)の段落【0041】の記載をふまえると、上記図5から、

鉄骨梁30が、上方に余長lpの余長部50を備え、下方には余長部50よりも長い余長lp'の余長部60を備えている

点が看取できる。

(ク)【図6】

109

88

0001435145000011.jpg

イ 刊行物1発明

上記アより、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1発明>

「パネルゾーンを形成する鋼製コラムコア10の各鋼製プレート1,2に対して、H型鋼からなる鉄骨梁30,40が接合され、鋼製コラムコア10の上下端にはそれぞれ、上柱と下柱となる同断面形状の角形鋼管柱20が接合されている柱梁接合部構造100であり(【0030】)、

鉄骨梁30,40の各ウエブおよびフランジは各鋼製プレート1,2に対して完全溶け込み溶接にて接続されており(【0030】)、

鉄骨梁40は鋼製コラムコア10の高さ中央位置に取付けられており、上下に同じ余長lpの余長部50を備えており、鉄骨梁30は、上方に余長lpの余長部50を備え、下方には余長部50よりも長い余長lp'の余長部60を備えていて、鋼製コラムコア10の上下端と鉄骨梁30,40の間に余長lp,lp’があり、鉄骨架構内に耐震補強ブレースが存在する場合に、この耐震補強ブレースを余長部50,60に接続することができ(【0041】~【0043】、上記(キ))、

鋼製コラムコア10は、幅の異なる二枚ずつの合計四枚の鋼製プレート1,2から形成され、延伸方向に直交する断面形状が矩形であって、ノンダイアフラム形式であり(【0008】,【0024】,【0027】)、

角形鋼管柱20としては、建築構造用冷間成形角形鋼管である、BCR(Box Column Roll 建築構造用冷間ロール成形角形鋼管、登録商標)やBCP(Box Column Press建築構造用冷間プレス成形角形鋼管、登録商標)が使用され、鋼製コラムコア10と角形鋼管柱20の双方の平面寸法の関係において、鋼製プレート1,2の板厚tp及び角形鋼管柱20の厚みtcが設定されており(【0033】)、

BCRを適用する場合は以下の式(3)を満たすように、また、BCPを適用する場合は以下の式(4)を満たすように鋼製プレート1,2の板厚tp及び角形鋼管柱20の厚みtcが設定され(【0035】)、

18

38

0001435145000012.jpg

(【0036】)

鋼製コラムコアと10鉄骨梁30,40の接合部との間で降伏耐力等により、鋼製コラムコアの板厚を設定することが肝要であって、条件1として降伏耐力の条件を満たすこと、条件2として全塑性耐力の条件を満たすこと、条件3として最大耐力の条件を満たすこと、の三つの条件を全て満たす板厚を求め、算定された板厚以上の厚みの板厚にするものであり(【0045】)、

条件1の降伏耐力の条件は、以下の式(7)を満たし(【0047】)、

7

34

0001435145000013.jpg

(【0048】)

条件2の全塑性耐力の条件は、以下の式(9)を満たす(【0049】)、

7

33

0001435145000014.jpg

(【0050】)

柱梁接合部構造100(【0030】)。」

(2)刊行物2

ア 刊行物2の記載

刊行物2には以下の記載がある。

(ア)127頁の「4.1柱梁接合部の設計方針」

「・・・

(3) 梁端部を柱梁接合部で剛接合とし,終局限界状態での梁の塑性変形を利用する場合,梁端接合部は梁に要求される塑性変形能力を確保するのに必要な耐力を保有するように設計する.必要に応じて鋼材,接合詳細,施工方法の条件を指定し,梁端接合部の最大曲げ耐力は(4.1)式を満たすものとする.

j

M

u

≧α・

b

M

p

記号

j

M

u

:梁端接合部の最大曲げ耐力

b

M

p

:梁の全塑性モーメント

α:梁端の接合部係数,個別に検討を行わない場合は表4.1の値とする。

46

85

0001435145000015.jpg

(イ)140頁の「4.2.1 梁端を剛接合する柱梁接合部の耐力」

「・・・

(2)接合部の設計

・・・

2)梁端接合部は,(4)に規定する降伏曲げ耐力

j

M

y

が・・・梁の許容曲げモーメントを上回るように設計する.」

(ウ)144頁の「【解 説】(1)梁端接合部の設計」

「・・・

H形断面梁の梁端接合部は梁フランジ接合部と梁ウェブ接合部で構成され,梁の応力の伝達は次の分担によるものを原則とする.

・・・

iii)

軸力は通常,設計応力としない.ただし,軸力が存在する場合には,存在軸力とそれ以外の応力の組合わせ応力に対して設計する.

イ 刊行物2記載の技術事項

上記ア(ウ)をふまえると、刊行物2には、次の技術事項(以下「刊行物2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

(刊行物2記載の技術事項)

「梁端接合部の設計について、軸力は通常,設計応力としない。ただし,軸力が存在する場合には,存在軸力とそれ以外の応力の組合わせ応力に対して設計すること。」

(3)刊行物3

ア 刊行物3の記載

刊行物3には以下の記載がある。(下記マーカーは、申立人Bによるもの。)

(ア)1頁 「1.適用範囲」の「表1」、「図1」及び「図2」

59

86

0001435145000016.jpg

61

104

0001435145000017.jpg

上記表1に示されたコラムジョイントのうち、KHC600の断面寸法は、「606×606×65」である。外径は606mm、板厚は、65mmである。そうすると、

外径/板厚の比は、およそ9.32

である。

上記図1から、KH-コラムジョイントは、コラム柱と梁の接合部に適用され、コラムジョイントの厚さは、コラム柱より厚肉で形成されている点が看取できる。

(イ)4頁「4.KH-コラムジョイントの適用方法」

99

115

0001435145000018.jpg

(4)刊行物4

ア 刊行物4の記載

刊行物4には以下の記載がある。

(ア)「【0003】

また、ダイアフラムを設けずに短尺の厚肉角形鋼管からなる

柱梁接合部コア

を用いてその管壁面にH形鋼梁を直接溶接可能にした

ノンダイアフラム形式の柱梁接合構造

も採用されている(特許文献1~3)。

この種の柱梁接合部コアとして、例えば

図9に示すように

、2つの熱間圧延溝形鋼を対向させフランジ先端部どうしを突合せ溶接して角形断面にする溝形鋼二丁合わせ溶接方式の

柱梁接合部コア1がある

。図で上下2辺の外側の突起は突合せ溶接部の余盛りを示す。なお、突起状の余盛りは、必要であれば切削又は研削して削除する。」

(イ)「【0022】

・・・

【図9】ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアに用いる短尺厚肉角形鋼管の

断面形状

の一例を示す図である。

・・・」

(ウ)「【0025】

図示例の柱梁接合部コア22は、図9で説明した

柱梁接合部コア1

と同様に、2つの熱間圧延溝形鋼の二丁合わせ溶接による厚肉角形鋼管を用いており、その

角形断面の2辺の内面が平面視でテーパ状をなしている

。したがって、前記水平面材23の対応する2辺の部分はそのテーパ形状に合わせて開先を形成している。なお、前記裏当て金24の外側輪郭も前記テーパ形状に合わせた形状としている。」

(エ)図9

72

55

0001435145000019.jpg

上記図9から、

柱梁接合部コア1において、入隅に近づく程厚くなるように内面にテーパー面が形成されていること

が看取できる。

イ 刊行物4記載の技術事項

上記アをふまえると、刊行物4には、次の技術事項(以下「刊行物4記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

(刊行物4記載の技術事項)

「ノンダイアフラム形式の柱梁接合構造に用いられる柱梁接合部コア1の断面形状において、入隅に近づく程厚くなるように内面にテーパー面が形成されること。」

(5)刊行物5A及び5B

ア 刊行物5Aの記載

(ア)1頁「はじめに」

a 下段

「・・・熱間成形角形鋼管を用いたノンダイアフラム構法(SHC-ND SYSTEM)設計の手引きを発刊することになりました。・・・実務者の利便に資することを目的としたものです。新しい鉄骨造の構法へ挑戦し、その工程短縮、品質向上、工事費削減の効果を実感いただくように切に願うものです。」

b 末尾

「平成21年5月」

(イ)5頁 「1.1ノンダイアフラムの構成」の図1.1.1(

ノンダイアフラム構法

概要)

114

94

0001435145000020.jpg

上記図1.1.1から、シャフト部と梁が接合される部位において、中空角形のパネル部が配置されている点が看取できる。

(ウ)8~9頁「1.4規格と組合せ」

a「(1)規格」の表1.4.1

31

97

0001435145000021.jpg

(a)上記表1.4.1から、使用部位が「パネル部」、種類が「スーパーホットコラム」、材質が「SHCK490B SHCK490C」であるものについて、断面寸法として、「パネル外径Bp」が710mm、「板厚tp」が70mmのものが存在していると認められる。

(b)上記(イ)の図面を参酌すると、シャフト部と梁が接合される部位において配置される中空角形のパネル部は、ダイアフラムを有していない構造体と認められる。また、「パネル外径Bp」は、中空角形のパネル部の外径であり、「板厚tp」は、中空角形のパネル部を構成する板部材の板厚であると認められる。(c)上記(a)の数値をふまえると、中空角形のパネル部において、

外径/板厚の比が、およそ10.14

のものが存在していると認められる。

b 「(2)組み合わせ」の表1.4.4(a)パネル部とシャフト部の組み合わせ

74

95

0001435145000022.jpg

上記(イ)の説明をふまえると、上記表から以下の点が認められる。

特定の寸法のシャフト外形Bのシャフト部に対して、特定の寸法のパネル部外形Bpのパネル部のものが組み合わされること。

例えば、5段目の「シリーズ600」において、シャフト外形Bが600mmのシャフト部に対して、パネル部外形Bpが610mmのパネル部が組み合わされること。

(エ)51頁 「3.2.2 ノンダイアフラムの場合」の「(2)部材断面」の表3.3.8(a)

48

71

0001435145000023.jpg

上記表から以下の点が看取できる。

a 1階から4階まで各階に設置されるパネル部のパネル板厚(45mm)の方が、対応する柱の厚み(40mm,40mm,32mm,25mm)より、厚くなるように設定された点。

b 1階から4階まで各階に設置されたパネル部のパネル板厚がいずれも同じ45mmである点。

c 上記(イ)の説明、上記(ウ)bで認められる事項、及び、上記bの点をふまえれば、上記表において、1階から4階まで各階に設置されたパネル部、パネル部外形Bpが610mmであり、パネル板厚が45mmである同一断面形状のものであること。

イ 刊行物5A記載の技術事項

上記アをふまえると、刊行物5Aには、次の技術事項(以下「刊行物5A記載の技術事項」が記載されていると認められる。

(刊行物5A記載の技術事項)

「ノンダイアフラム構法により構築される建物内に用いられ、シャフト部と梁が接合される部位において配置される中空角形のパネル部が、同一断面形状であること。(上記アの(イ)、(エ)c)」

ウ 刊行物5Bの記載

(ア)1枚目の左側下

「09-07-3000」

(イ)3枚目の右側の頁

a 上段

「熱間成形角形鋼管を用いたノンダイアフラム構法

Hot Structure 設計シリーズ」

b 中段の右側

140

81

0001435145000024.jpg

エ 刊行物5Aの公知日について

刊行物5Bの上記bには、刊行物5Aと同じ題名と発行者が看取でき、また、刊行物5Bは、2009年7月に発行されていることからみて、少なくとも刊行物5Aが頒布された日は、本件特許の出願日(令和4年(2022年)3月15日)よりも前であると推認できる。

(6)刊行物6

ア 刊行物6の記載

(ア)1099頁

a 左側中段

47

86

0001435145000025.jpg

b 下段の表1

43

111

0001435145000026.jpg

試験体名「5 M300S」は、コアの幅が300mm、板厚が29.0mmであることから、その

(幅)/(板厚)は、およそ10.34

である。

また、コアの板厚は、適用される柱の板厚19.0mmよりも厚肉である。

(イ)1090頁左欄9~11行

「一般部 一般部は、柱梁接合部を対象としており、梁フランジ片側のコア余長を25mmとし角形鋼管柱を完全溶け込み溶接した試験体である。」

(7)刊行物7

ア 刊行物7の記載

(ア)「【0002】

角形鋼管柱とH形鋼梁との柱梁接合部は、ラーメン構造であるため従来ブレースを取り付ける例は少なかったが、近年、構造物の変形を抑制する目的で、例えば特許文献1に記載されているように

ラーメン構造で

あっても

ブレースを用いる

例が増えてきている。鉄骨造の上層階では積載荷重が小さいため、耐力上は柱形を小さくすることが可能であるが、それによって層剛性が小さくなるため、変形防止のために上層階のみにブレースを取り付ける場合もある。」

(イ)「【0010】

(第1の実施形態)

図1は、本考案の第1の実施形態に係る接合構造を示す図である。本実施形態に係る接合構造は、角形鋼管柱1、H形鋼梁21,22およびブレース3の間に形成される。角形鋼管柱1は、断面が全体として矩形状の鋼管、具体的には例えば冷間ロール成形角形鋼管で形成される。H形鋼梁21,22は圧延H形鋼、または溶接組立H形鋼で形成され、それぞれ上フランジ21A,22A、下フランジ21B,22Bおよびウェブ21C,22Cを含む。

ブレース3は、角形鋼管柱1とH形鋼梁21,22を含む柱梁構造の対角線方向に架設され、引張力を伝達することによって柱梁構造の変形を防止する補強材である。ブレース3は、例えば各種の形鋼材や鋼管等で形成される。

・・・

【0012】

本実施形態において、

H形鋼梁21,22およびブレース3は、角形鋼管柱1の端部に溶接された厚肉鋼管4に接合される

厚肉鋼管4はいわゆるノンダイアフラム形式の柱梁接合部に用いられる

ものであり、H形鋼梁21,22の上フランジ21A,22Aおよび下フランジ21B,22Bは、いずれも厚肉鋼管4の側面に溶接される。H形鋼梁21,22のウェブ21C,22Cも、例えばシアプレート(図示せず)を介して厚肉鋼管4に接合されてもよい。

H形鋼梁21の下フランジ21Bおよび厚肉鋼管4にはガセットプレート5が溶接され、ブレース3は例えば溶接またはボルト接合によってガセットプレート5に接合される。

【0013】

上記の接合構造では、厚肉鋼管4にリブ41が、H形鋼梁21の下フランジ21Bにリブ61がそれぞれ溶接され、ガセットプレート5は側端部でリブ41およびリブ61にそれぞれ溶接される。さらに、H形鋼梁21では、リブ61に対応する位置で下フランジ21B、ウェブ21Cおよび上フランジ21Aにスティフナー62が溶接される。これらのリブ41、リブ61およびスティフナー62は、ガセットプレート5およびH形鋼梁21の補強のために必要に応じて配置され、省略することも可能である。」

(ウ)「【0019】

本考案の実施形態は、上記で説明された例のように両方のH形鋼梁が傾斜梁である場合に限らず、

H形鋼梁のいずれかまたは両方が角形鋼管柱に対して垂直に配置される場合にも適用可能である。

その場合にもダイアフラムを配置しないことによって工程が簡略化される。また、本考案の実施形態は、柱頭部、すなわち建物全体の柱の最上端に配置された角形鋼管柱の端部に厚肉鋼管が接合される場合には限られず、

柱の中間部にも適用可能である。

この場合、建物全体の柱の一部を構成する角形鋼管柱の上端部に厚肉鋼管が接合され、この厚肉鋼管の上にさらに別の角形鋼管柱の下端部が接合される。

ダイアフラムを配置しないことによって工程が簡略化される効果は、柱頭部でも柱の中間部でも同様に得られる。

また、ブレースは必ずしもガセットプレートを介してH形鋼梁および厚肉鋼管に接合されなくてもよく、例えばブレースの端部を加工して形成された取付部材が厚肉鋼管およびH形鋼梁に接合されてもよい。」

(エ)【図1】

88

86

0001435145000027.jpg

イ 刊行物7記載の技術事項

上記アをふまえると、刊行物7には、次の技術事項(以下、「刊行物7記載の技術事項という。)が記載されていると認められる。

(刊行物7記載の技術事項)

「ブレースを用いたラーメン構造において(【0002】)、

ブレース3は、角形鋼管柱1とH形鋼梁21,22を含む柱梁構造の対角線方向に架設され、引張力を伝達することによって柱梁構造の変形を防止する補強材であって、各種の形鋼材や鋼管等で形成され(【0010】)、

H形鋼梁21,22およびブレース3は、角形鋼管柱1の端部に溶接された厚肉鋼管4に接合され、厚肉鋼管4はいわゆるノンダイアフラム形式の柱梁接合部に用いられ、H形鋼梁21の下フランジ21Bおよび厚肉鋼管4にはガセットプレート5が溶接され、ブレース3は例えば溶接またはボルト接合によってガセットプレート5に接合され(【0010】、【0012】)、

H形鋼梁のいずれかまたは両方が角形鋼管柱に対して垂直に配置される場合にも適用可能であり、柱の中間部にも適用可能であり(【0019】)、

ダイアフラムを配置しないことによって工程が簡略化される効果は、柱頭部でも柱の中間部でも同様に得られること(【0019】)。」

(8)刊行物8

ア 刊行物8の記載

(ア)29頁1~4行(「3章 全塑性モーメント」の「3.1 塑性断面係数と形状係数」)

「・・・

全塑性モーメントM

P

は塑性設計における最も重要な因子の1つ

であり,その値が正確なものでないと崩壊荷重や,場合によっては、崩壊機構も異なったものになる。・・・」

(イ)33頁11行~40頁18行(「3.3 軸力と曲げモーメントを受ける断面の全塑性モーメント」)

a「

曲げモーメントと同時に軸力を受ける場合には,軸力の大きさによって全塑性モーメントの値は減少する

。また,中立軸の位置も,3.1,3.2節で取り扱った曲げモーメントのみを受ける場合とは異なったものとなる.本節では,こうした

軸力の影響を考えてみる

.」(34頁1~2行)

b 34~35頁の枠内には、H形断面、矩形中空断面、円形中空断面について、軸力と曲げを受ける断面の全塑性相関式に基づく全塑性モーメントを算定する式が示されている。また、34頁下から5行~40頁18行には、長方形断面、H形断面、矩形中空断面、円形中空断面について、ぞれぞれ、全塑性モーメントM

pc

を算定する式に加えて、「N/N

γ

」と「M

pc

/M

p

」との相関関係を示す図が示されている。なお、「N」は「作用軸力」、「N

γ」

は「降伏軸力」、「M

pc

」は「軸力を受けるときの全塑性モーメント」、「M

p

」は全塑性モーメントである(p34の記号の説明参照)。

(9)刊行物9

ア 刊行物9の記載

(ア)「【0019】パラメータは柱軸力(N/N

y

=0~0.3)及び柱幅(D=300~700mm)である。その他、はり寸法は次のようにおいた(図5参照)。

H=1.5D、B

f

=0.7D、T

f

=0.03H、L

c

=4000mm

ここに、

N : 柱軸力

N

y

: 柱降伏軸力

L

c

: 階高

D : 柱幅

H : はりせい

B

f

: はりフランジ幅

T

f

: はりフランジ厚

設計式は鋼構造塑性設計指針の下式(数式1)を用いた

【0020】

【数1】

17

71

0001435145000028.jpg

【0021】ここに、

N

cr

: 柱の座屈強度の小さい方の値

N

E

: オイラー座屈強度

C

M

: 曲げモーメント分布により決まる係数(この場合は1とする)

M

1

: 柱の両側に作用する曲げモーメントの大きい方の値(

はりの全塑性モーメント

=B

f

・T

f

・H・σ

y

)

M

PC

:

軸力を考慮した柱の全塑性曲げモーメント

M

P

: 柱の全塑性曲げモーメント

図6に計算結果を示す。縦軸は本実施例によるボックス柱の板厚

H

T

C

と、従来のSS41鋼を用いたボックス柱の板厚T

C

の比(

H

T

C

/T

C

)を、横軸はボックス柱の幅Dを示す。本実施例による異種鋼材ボックス柱は幅D、軸力比(N/N

y

)によらず、従来に比べ概ね30%程度の重量軽減が見込まれる。」

(10)刊行物10

ア 刊行物10の記載

(ア)「【0001】

本発明は、

建築構造物

において使用されるブレース

に係り、特に曲げ及びせん断で抵抗するようにした曲げせん断ブレースに関するものである。」

(イ)「【0019】

つぎに、

曲げせん断ブレース10の

具体的な

設計例

を説明する。

曲げせん断ブレース10の各部には、図5(a)の曲げモーメント図のように曲げモーメントM1~M3が発生する。なお、各部の寸法につき、ブレース取付部1;I

1

、曲げ抵抗部2;I

2

、ブレース軸部3;I

3

とし、曲げせん断ブレース10に対して引張り荷重あるいは圧縮荷重が作用するものとする(図5(b),(c))。また、曲げ抵抗部2の端部には、塑性ヒンジ4A,4Bが発生する。

【0020】

前述したブレース軸部3及びブレース取付部1は弾性状態を維持し、かつ曲げ抵抗部2のみ曲げ降伏する条件は、つぎの(1)式で与えられる。

Pu<P

cr1

, Pu<P

cr3

M

pc2

<M

pc1

, M

pc2

<M

pc3

(1)

【0021】

(1)式において、P

u

;ブレースの終局耐力、P

cr1

,P

cr3

;ブレース取付部1、ブレース軸部3の限界圧縮力であり、つぎの(2)式、(3)式で与えられる。P

cr1

2

EI

1

/(2l

1

)

2

(2)

なお、EI

1

;ブレース取付部1の曲げ剛性である。

P

cr3

/N

y3

+(P

cr3

・l

2

/2)/{M

y3

(1-P

cr3

/P

E3

)}=1 (3)

【0022】

(2)式及び(3)式において図6をも参照して、N

y3

;ブレース軸部3の降伏軸力、P

E3

;ブレース軸部3のオイラー荷重、M

y3

;ブレース軸部3の降伏モーメントあり、また、

M

pc1

~M

pc3

;

軸力を考慮したブレース取付部1、曲げ抵抗部2及びブレース軸部3の全塑性モーメント

である。

なお、曲げ抵抗部2の材長が短くなると、せん断で抵抗するようになり、せん断降伏する。せん断降伏する場合においても、曲げ降伏する場合に準じた設計式を用いることができる。」

(ウ)【図3】

50

72

0001435145000029.jpg

(11)周知技術

ア 刊行物3に記載されたKH-コラムジョイント、刊行物5Aに記載されたパネル部、及び、刊行物6に記載されたコアは、いずれも柱と梁の接合部に適用されるダイアフラムを有していない角形鋼管であって、接続される柱よりも厚みが大きいものであり、外径Dと肉厚tとの幅厚比D/tは、それぞれ、「9.32」、「10.14」、「10.34」である(上記(3)ア(ア)、(5)ア(ウ)、(6)ア(ア)参照。)。

よって、ノンダイアフラムの厚肉角形鋼管において、外径Dと肉厚tとの幅厚比D/tが、「D/t<10.90」の条件にあてはまるものは周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。

イ 刊行物2には、軸力が存在する場合に、存在軸力とそれ以外の応力の組合わせ応力に対して設計することが記載されている。

刊行物8には、鋼構造物を設計する際に、全塑性モーメントは、重要な因子であって、部材が軸力を受ける場合、全塑性モーメントの値は減少することが記載されている。

刊行物9には、鋼構造物のはりと柱の接合部について、部材(柱)に作用する軸力を考慮した部材(柱)の全塑性曲げモーメントをふまえて設計することが示唆されている。

刊行物10には、建築構造物に使用される部材であるブレースを設計する場合に、軸力を考慮した全塑性モーメントをふまえて設計することが記載されている。

以上のことをふまえると、鋼構造物を設計する場合に、部材に働く軸力を考慮した全塑性モーメントを用いて設計することは、周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。

第6 当審の判断

1 取消理由1(明確性要件)について

(1)明確性要件の判断基準

特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

そこで、以下、この判断基準に照らして検討する。

(2)明確性要件の判断

ア 請求項1及び請求項2には、「同一構面内の前記角形鋼管柱と前記梁との接合部」との記載がある。

しかしながら、例えば、複数の「構面」を有する構造物を対象とした場合、「同一構面」という用語が、複数の「構面」を表すことなのか、単に一つの「構面」を表すことなのか等の複数の意味が考えられるところ、本件明細書及び図面において、「同一構面」についての具体的な説明がないので、請求項1及び2に記載された各構成との関係において「同一構面」がどのようなものを表すかが不明であり、また、「同一構面内」の「接合部」とは、請求項1及び2に記載された構成のいずれの位置の「接合部」を指しているのかが不明である。

イ 請求項1には、「同一断面形状」との記載がある。

しかしながら、上記「断面」とは、どの方向に切った断面であるのか特定がなく不明確であり、また、断面形状が「同一」であるとは、形状が同一(相似関係)であるのか、「外径D」、「肉厚t」等の寸法までもが一致していることなのか、あるいはこれらとは別のことを意味しているのかが特定されていないので不明確である。

ウ 請求項2には、「前記梁から作用する軸力を考慮した場合」及び「(梁から作用する軸力を考慮したもの)」との記載がある。

しかしながら、本件明細書及び図面において、「軸力を考慮」することについての具体的な説明がなく、一義的にその「考慮」の仕方が定まるともいえないため、「軸力を考慮」が表す技術的内容が不明である。

エ 上記ア~ウにおいて指摘した点は、請求項1及び2を引用して記載する請求項3及び4についても同様に不明確である。

(3)取消理由1についてのまとめ

上記(2)アないしエのとおり、本件発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は取り消すべきものである。

2 取消理由2(実施可能要件)について

(1)実施可能要件の判断基準

上記第3のとおり、本件発明2ないし4は、物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。

そこで、この判断基準に照らして、以下、検討する。

(2)実施可能要件についての判断

請求項2には、

「角形鋼管柱と鉄骨の梁を剛結したラーメン構造の骨組に加え、斜材であるブレースを設けて水平力を負担させるブレース構造において、」

「 jcMy≧α×bcMy・・・式(1)

jcMp≧β×bcMp・・・式(2)」

「 jcMy:ノンダイアフラム梁端接合部の降伏曲げ耐力(梁から作用する軸力を考慮したもの)

jcMp:ノンダイアフラム梁端接合部の全塑性曲げ耐力(梁から作用する軸力を考慮したもの)

bcMy:梁の降伏曲げ耐力(梁に作用する軸力を考慮したもの)

bcMp:梁の全塑性曲げ耐力(梁に作用する軸力を考慮したもの)」

「 α:接合部係数1.0以上

β:接合部係数1.0以上 」

の条件を満たす「ノンダイアフラムブレース構造」が記載されている。

しかしながら、発明の詳細な説明には、「jcMy」(ノンダイアフラム梁端接合部の降伏曲げ耐力(梁から作用する軸力を考慮したもの))、「bcMy」(梁の降伏曲げ耐力(梁に作用する軸力を考慮したもの))、「jcMp」(ノンダイアフラム梁端接合部の全塑性曲げ耐力(梁から作用する軸力を考慮したもの))及び「bcMp」(梁の全塑性曲げ耐力(梁に作用する軸力を考慮したもの))、それぞれの具体的な算出手法は示されておらず、特に「梁に作用する軸力」や「梁から作用する軸力」を考慮することに関して、刊行物8~10に記載された「軸力を考慮する」計算手法を適用するものか、それとも他の特殊な計算手法を用いるのか否か不明である。

また、上記式(1)及び(2)を満たす、上記「jcMy」、「bcMy」、「jcMp」及び「bcMp」の数値は、1組も例示されていないから、どのような耐力を有する「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管」及び「梁」を用いれば、請求項2に記載のノンダイアフラムブレース構造を実施できるのか不明である。

よって、発明の詳細な説明の記載が、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2について、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載であるとはいえない。

そして、本件発明3及び4についても、本件発明2と同用の構成を有するから、同様に、発明の詳細な説明の記載が、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明3及び4について、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載であるとはいえない。

(3)特許権者の主張について

特許権者は、令和7年8月26日付け意見書において、取消理由2(実施可能要件)については、本件発明2を削除した(令和8年1月9付け手続補正書(方式)により補正された訂正請求書の訂正事項3)ことにより、解消した旨を主張している。

しかしながら、上記主張の根拠となる訂正請求書の訂正事項3による本件発明2の削除は、上記第2の4のとおり認められず、また、本件発明2については、上記(2)のとおりである。

よって、申立人の主張を採用することはできない。

(4)取消理由2のまとめ

したがって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことから、本件特許の請求項2、及び請求項2を引用する請求項3及び4に係る特許は取り消すべきものである。

3 取消理由3(サポート要件)について

(1)サポート要件の判断基準

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又は示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する。

そこで、この判断基準に照らして、以下、検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載

本件明細書の発明の詳細な説明に次の記載がある。

ア 「【0019】

【図1】図1(a)は、第1実施形態に係る右下がり形のノンダイアフラムブレース構造の構面を模式的に示す立面図であり、図1(b)は、ノンダイアフラム形式と従来形式(通しダイアフラム形式又は内ダイアフラム形式)の仕口が混在する従来の右下がり形のブレース構造の構面を模式的に示す立面図である。

【図2】図2は、図1(a)の仕口A付近を拡大して示す部分拡大立面図である。

【図3】図3は、図1(a)の仕口B付近を拡大して示す部分拡大立面図である。

・・・

【図6】図6は、鉄骨梁400N級(F=235N/mm

2

)のときのD/tとD/B(B:梁幅)の関係を表すグラフである。

・・・」

イ 【0021】

[第1実施形態]

図1~図6を用いて、本発明の第1実施形態に係るノンダイアフラムブレース構造11について説明する。図1(a)は、第1実施形態に係る右下がり形のノンダイアフラムブレース構造11の構面を模式的に示す立面図であり、図1(b)は、ノンダイアフラム形式と従来形式(通しダイアフラム形式又は内ダイアフラム形式)の仕口が混在する従来の右下がり形のブレース構造の構面を模式的に示す立面図である。また、図2は、図1(a)の仕口A付近を拡大して示す部分拡大立面図であり、図3は、図1(a)の仕口B付近を拡大して示す部分拡大立面図である。

【0022】

図1(a)に示すように、本発明の第1実施形態に係るノンダイアフラムブレース構造11(以下、単に「ノンダイアフラムブレース構造11」ともいう。)

は、左右一対の角形鋼管柱2,2と、上下一対の鉄骨梁3,3とが、剛結された矩形枠状のラーメン構造の骨組に、右下がりの斜材である1本のブレース4を設けて水平力を負担させる右下がり形のブレース構造である。

・・・

【0029】

(ブレース)

ブレース4は、鉄骨梁3と同様に、一般構造用圧延鋼材、溶接構造用圧延鋼材、建築構造用圧延鋼材、溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材などからなるH形鋼である(図2参照)。但し、本発明に係るブレースは、H形鋼に限られず、山形鋼などの他の形鋼としてもよいことは云うまでもない。要するに、本発明に係るブレースは、ブラケット、ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1、又は鉄骨梁3に接合可能な鋼材であればよい。

【0030】

図2に示すように、このブレース4は、ガセットプレート5を介して、ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1及び鉄骨梁3に溶接より一体化されて接合され、剛結(剛接合)されている。図示形態では、ブレース4とガセットプレート5に溶接されて一体化されたものを例示したが、スプライスプレートを介して角度変形不能にボルト接合されていても構わない。また、ブレース4は、スプライスプレートを介して分割されていても構わない。」

ウ「【0043】

さらに、後述の表2、表3に示す計算結果から幅厚比D/tが10.90以上となると建物全体の変形性能の確保が難しくなることから、ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の幅厚比D/tは、次式(5)を満たすことが好ましい。なお、幅厚比D/tの下限値の現実的な値は、表2、表3から8.00以上と考えれる。

D/t<10.90・・・式(5) 」

エ「【0046】

(ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の幅厚比D/tによる構造計算の合否判定)

次に、前述のノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の外径Dが、一般的な使用範囲である152mm~402mmの範囲内において、肉厚tを種々変化させて、前述の式(1)~(4)を利用し、接合部係数α=jMy/bMy=1.0、接合部係数β=jcMp/bcMp=1.3のときに鉄骨梁に軸力(軸力比0.3)が作用する場合を考慮して構造計算上合格(OK)か否かを計算したものを次表2,次表3に示す。表2は、鉄骨梁が400N(F=235N/mm

2

)のときの計算例(α=1.0、β=1.3、γ=1.0、δ=1.3)であり、表3は、鉄骨梁が490N(F=325N/mm

2

)のときの計算例(α=1.0、β=1.3、γ=1.0、δ=1.3)である。表の中の新規という記載が合格となった本発明の実施形態である。」

オ 【0047】の【表2】(以下、「【表2】」という。)及び段落【0048】の【表3】(以下、「【表3】」という。)の「D/t」(左から5列目)、「判定」(左から12列目)、「判定」(左から17列目)の欄の記載について(以下、列を示すときは左から数えた数字で示す。)

【表2】の「D/t」の欄には、各「No.」の4列目の「径D」の数値を、3列目の「板厚t」の数値で割った値が示され、また、12列目の「判定」及び17列目の「判定」の欄には、「NG」又は「OK」のいずれかが記載されている(令和5年9月5日付けの意見書に添付された「拡大表2(カラー版)」及び「拡大表3(カラー版)」も念のため参照した。)。

カ 【表2】の「軸力なしγ」(10列目)及び「軸力ありα」(11列目)並びに「軸力なしδ」及び「軸力ありβ」の欄の記載について

【表2】において、「軸力なしγ」の欄には、0.54~1.36の数値、「軸力ありα」の欄には、0.63~1.58の数値、「軸力なしδ」には、0.73~1.82の数値、そして、「軸力ありβ」には、0.83~2.08の数値が記載されている。

キ 【表3】について

【表3】にも、【表2】と同様の欄があり、「判定」の欄には、「NG」又は「OK」のいずれかが記載され、また、「軸力なしγ」の欄には、0.53~1.33の数値、「軸力ありα」の欄には、0.62~1.55の数値、「軸力なしδ」には、0.71~1.72の数値、そして、「軸力ありβ」には、0.81~2.03の数値が記載されている。

ク 「【0049】

表2及び表3のNo.23とNo.24を比較すると、接合部係数αとγが1.00以下、βとδが1.30以下となっている。これは、ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の梁端接合部の降伏が鉄骨梁3の降伏に先行することを示しており、鉄骨梁3の変形性能を十分に発揮できないことを示している。また、外径Dが異なる場合についても同様の傾向となっている。よって、表2、表3に示す計算結果から幅厚比D/tが10.90以上となると建物全体の変形性能の確保が難しくなることから、ノンダイアフラム厚肉角形鋼管1の幅厚比D/tは、10.90未満とすることが好ましい。

【0050】

また、表2の結果をグラフにすると、即ち、鉄骨梁400N級(F=235N/mm

2

)のときのD/tとD/B(B:梁幅)の関係は、図6のグラフとなり、幅厚比D/tの10.90が臨界的な意義を有することが分かる。」

ケ 【図1】(a)

63

82

0001435145000030.jpg

コ 【図2】

61

79

0001435145000031.jpg

サ 【図3】

64

84

0001435145000032.jpg

シ 【図6】

73

81

0001435145000033.jpg

(3)本件発明の課題について

本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0043】(上記(2)ウ)の記載から、「建物全体の変形性能の確保」であると認められる。

(4)サポート要件についての判断

ア 本件発明1について

(ア)発明の詳細な説明の【0043】には、「表2、表3に示す計算結果から幅厚比D/tが10.90以上となると建物全体の変形性能の確保が難しくなる」及び「幅厚比D/tの下限値の現実的な値は、表2、表3から8.00以上と考えれる」との記載がある。

しかしながら、【表2】及び【表3】に示される計算結果を参酌しても、請求項1及び2に記載の「D/t<10.90・・・式(5)」を満たすことで、「建物全体の変形性能の確保」という課題が解決されることを理解できない。

以下詳述する。

(イ)【表2】及び【表3】に基づいて「建物全体の変形性能」を評価することについて

a 【表2】及び【表3】は、発明の詳細な説明の【0021】~【0050】の「[第1実施形態]」中において示された表であるから、【表2】及び【表3】に示された結果は、「[第1実施形態]」である、【図1】(a)、【図2】及び【図3】(上記(2)ケ~サ)の「ノンダイアフラムブレース構造」に基づいて解析条件を設定し、その解析条件を前提にして計算した結果であると推察できる。

しかしながら、【表2】及び【表3】には、「ND」(板厚t、径D)、「梁幅B」、「梁サイズ」、「梁σy」、「柱サイズ」、「柱σy」、「NDσy」の条件は示されているものの、梁に作用する軸力に関する条件、特に「ブレース」に関する条件は示されていない。

よって、ノンダイアフラムブレース構造に関する構造計算に用いた解析条件は明らかでない。

b また、本件明細書の段落【0046】には「・・・構造計算上合格(OK)か否かを計算したものを次表2、次表3に示す。」と記載されていることから、【表2】に示されたNo.1~No.42、及び【表3】に示されたNo.1~No.42の「ND」のうち、「構造計算」の結果、「判定」欄には、合格になったものに対して「OK」を記載し、不合格になったものに対して「NG」を記載したものと、一応、理解できる。

しかしながら、「構造計算」の結果が、所定の基準等に基づき、どのような数値等が算出されれば、「OK」あるいは「NG」(合格あるいは不合格)となるのかについて、本件明細書等に何ら記載や示唆がされていない。

また、仮に、所定の基準等に基づいて、特定の「No.」「構造計算」の結果が「OK」とされることが理解できるものとした場合において、当該「No.」のものが「OK」となることが、「建物全体」の構成にかからわず、「

建物全体

の変形性能」が確保されることになるかについては、本件明細書及び図面の記載をみても不明である。

c 上記a及びbのとおり、【表2】及び【表3】に構造計算の結果を示しているものの、ノンダイアフラムブレース構造に関する構造計算自体が明らかでなく、また、「判定」の判断の基準等が不明であり、その「判定」の「結果」が「OK」であることと「

建物全体

の変形性能」が確保されることとの関係も不明であるから、【表2】及び【表3】をみて、「ノンダイアフラムブレース構造」に対する「建物全体の変形性能」の観点での客観的な評価をすることができない。

(ウ)【図6】に基づいて「幅厚比D/t」の臨界的な意義を判断することについて

発明の詳細な説明の段落【0050】には、「D/t」と「D/B」の関係を示すグラフである【図6】から、「幅厚比D/tの10.90が臨界的な意義を有することが分かる」との記載があるが、発明の詳細な説明及び図面には、【図6】中の「●」や「△」についての説明は一切無く、また、【図6】から、どのような傾向等を把握することにより、臨界的な意義を有する、すなわち、「建物全体の変形性能」の確保に貢献する構成といえるのかが、理解できない。

(エ)「建物全体の変形性能」についての技術常識

「柱」と「梁」を剛結したラーメン構造の骨組みに、「ブレース」を設け、柱と梁の接合部において「ND」(ノンダイアフラム厚肉角形鋼管)を使用した建物について、その「建物全体の変形性能」は、「ND」における「径D」の「板厚t」に対する比である「幅厚比D/t」の条件だけで定まるものでなく、「ND」の長さやσy等、さらには、建物に使用されている「柱」、「梁」及び「ブレース」の各種寸法や材質等の条件、並びに「柱」、「梁」及び「ブレース」相互の結合の態様等によって、変わるのが技術常識である。

よって、請求項1に記載されたブレース構造のものにおいて、「幅厚比D/t」の値が、「D/t<10.90」の範囲にあるというだけで、「建物全体の変形性能」を確保しているということができない。

そして、本件発明1の構成において、「幅厚比D/tの10.90が臨界的な意義を有することが分かる」ことが、「建物全体の変形性能」の確保に貢献することが技術常識ともいえない。

(オ)まとめ

以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明、特にブレース構造のものにおいて、「幅厚比D/t」の値が、「D/t<10.90」の範囲となることが、発明の詳細な説明の記載又は示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

イ 本件発明2~4について

また、本件発明2は、上記「式(5)」の条件だけでなく、「式(1)」~「式(4)」の条件も課されているが、上記アに示したとおり、式(5)が本件明細書等において、「建物全体の変形性能」の確保に貢献することについて記載や示唆がされているとはいえない以上、本件明細書等に記載された「式(1)」~「式(4)」を付加した場合を検討しても、その判断を変更するものではないことは、明らかである。

また、本件発明3及び4で特定された構成を付加しても同様に、課題が解決するとはいえない。

よって、特許請求の範囲の請求項2~4の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載又は示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

ウ 付言

(ア)本件明細書の段落【0046】には、上記(2)エのとおり、「

表2は

、鉄骨梁が400N(F=235N/mm

2

)のときの計算例(

α=1.0、β=1.3、γ=1.0、δ=1.3

)であり、

表3は

、鉄骨梁が490N(F=325N/mm

2

)のときの計算例(

α=1.0、β=1.3、γ=1.0、δ=1.3

)である。」と記載されている。

これに対して、【表2】において、例えば「No.」が「4」のデータ(判定で「OK」とされている。)をみると、左から11列目の「軸力ありα」の欄に「1.01」、16列目の「軸力ありβ」の欄に「1.33」、10列目の「軸力なしγ」の欄に「0.87」、15列目の「軸力なしδ」の欄に「1.17」と記載されている。これらの数値が、順にα、β、γ、δの数値を意味するものであれば、本件明細書の段落【0046】の記載と【表2】との間で、α、β、γ、δについての数値が整合しないこととなる。他の「No.」の「軸力ありα」等も、上記段落【0046】のα等と完全に一致していない。

段落【0046】の記載と【表3】との間でも同様のことがいえる。

(イ)【表2】の「No.」が「4」のデータの左から10列目の「軸力なしγ」の欄に「0.87」と記載され、また、この事例に対して「判定」の結果を「OK」としている。

しかしながら、このような判定は、本願明細書の段落【0040】の「jMy≧γ×bMy・・・式(3)」「γ:接合部係数1.0以上」との記載には、整合しない。

よって、「No.」が「4」のものに対する判定結果の「OK」の妥当性が疑わしい。また、判定結果に「OK」が記載された「No.」のものの「D/t」の数値をふまえて、課題を解決できるとする「D/t」の数値範囲の妥当性を評価できる根拠を見いだすことができない。

(5)特許権者の主張について

特許権者は、令和7年8月26日付け意見書において、同日付けの訂正請求書の訂正事項1,3~6により、解消した旨を主張する。(前記訂正事項1、3、4、5、6は、令和8年1月9付け手続補正書(方式)により補正された訂正請求書の訂正事項2、7、11、12、13にそれぞれ対応するところ、後者の訂正事項12及び13、前記手続補正書(方式)において削除された。)

しかしながら、上記手続補正書(方式)により補正された訂正請求書の訂正事項2、7、11は、第2の5のとおり認められないから、特許権者の主張の根拠となる記載は存在しない。

よって、申立人の主張を採用することはできない。

(6)取消理由3についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件発明1~4は、発明の詳細な説明の記載又は示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。

よって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は取り消すべきものである。

4 取消理由4(進歩性)について

(1)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と刊行物1発明とを対比する。

(ア)刊行物1発明の「角形鋼管柱20」、「鉄骨梁30,40」及び「耐震補強ブレース」は、本件発明1の「角形鋼管柱」、「鉄骨の梁」及び「ブレース」に、それぞれ相当する。

刊行物1発明の「柱梁接合部構造100」は、「鋼製コラムコア10の各鋼製プレート1,2に対して、H型鋼からなる鉄骨梁30,40が接合され、鋼製コラムコア10の上下端にはそれぞれ」、「角形鋼管柱20が接合されて」おり、「鉄骨梁30,40の各ウエブおよびフランジは各鋼製プレート1,2に対して完全溶け込み溶接にて接続されて」いることから、「角形鋼管柱20」と「鉄骨梁30,40」は、「鋼製コラムコア10」を介して剛結されているといえる。そうすると、刊行物1発明の前記「柱梁接合部構造100」は、本件発明1の「角形鋼管柱と鉄骨の梁を剛結したラーメン構造の骨組」に相当する。

また、刊行物1発明の「ブレース」は、斜材であって、水平力を負担していることは明らかである。

そうすると、刊行物1発明の「柱梁接合部構造100」に「ブレース」を設けた構造体は、本件発明1の「角形鋼管柱と鉄骨の梁を剛結したラーメン構造の骨組に加え、斜材であるブレースを設けて水平力を負担させるブレース構造」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「柱梁接合部構造100」は、「鋼製コラムコア10の各鋼製プレート1,2に対して、H型鋼からなる鉄骨梁30,40が接合され、鋼製コラムコア10の上下端にはそれぞれ、上柱と下柱となる同断面形状の角形鋼管柱20が接合されている」ことから、「鉄骨梁30,40」と「角形鋼管柱20」を接合する部位に、「鋼製コラムコア10」が存在している。

よって、刊行物1発明の「鋼製コラムコア10」は、本件発明1の「前記角形鋼管柱と前記梁との接合部」に相当する。

刊行物1発明の「角形鋼管柱20」の厚みは「tc」で示され、「鋼製コラムコア10」を形成する「鋼製プレート1,2」の板厚は「tp」で示されていて、両者の関係は、式(3)「1.6tc≦tp」、又は、式(4)「1.9tc≦tp」(当審注:「≦」のうちの「=」部分は、「-」で表記されている。以下同様)により設定されている。式(3)及び(4)のいずれにおいても、刊行物1発明の「鋼製コラムコア10」は、「角形鋼管柱20」よりも厚肉に形成されているといえる。

また、上記式(3)及び(4)は、同じ構造体の中に存在する「角形鋼管柱20」の厚みと、「鋼製コラムコア10」を形成する「鋼製プレート1,2」の板厚の一般的な関係を特定したものと理解できるから、「鋼製コラムコア10」を形成する「鋼製プレート1,2」の板厚は、同じ構造体の中に存在する、すべての「角形鋼管柱20」の厚みよりも厚肉であると理解できる。

以上のことをふまえると、刊行物1発明の「ノンダイアフラム形式」の上記「鋼製コラムコア10」は、本件発明1の「同一構面内の前記角形鋼管柱と前記梁との接合部は、全て前記角形鋼管柱の他の部位より厚肉な中空断面の角形鋼管からなるノンダイアフラム厚肉角形鋼管」に相当する。

(ウ)本件発明1において、「・・・接続部は、・・・ノンダイアフラム厚肉角形鋼管であり、」とあることから、「接続部」は、「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管」であると解される。

そうすると、本件発明1の「前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管は、ブレースが接続される接合部も、ブレースが接続されない接合部も、いずれも同一断面形状であり、」については、「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管」についての特定した箇所であって、ブレースが接続される接合部である

ノンダイアフラム厚肉角形鋼管

も、ブレースが接続されない接合部である

ノンダイアフラム厚肉角形鋼管

も同一断面形状であると理解できる。

上記理解に基づいて、以下検討する。

刊行物1発明は、「鉄骨架構内に耐震補強ブレースが存在する場合に、この耐震補強ブレースを余長部に接続する」ものであることから、「鉄骨架構内」の柱と梁の接合部において配置された「鋼製コラムコア10」は、それぞれ余長部を備えつつも、配置される場所により「鋼製コラムコア10」の余長部に「耐震補強ブレース」が接続されるものと、「耐震補強ブレース」が接続されないものがあると考えるのが自然である。

よって、刊行物1発明の「鋼製コラムコア10」は、「鉄骨架構内」において、「耐震補強ブレースが接続される接続部」に存在しているだけでなく、「耐震補強ブレースが接続されない接続部」にも存在しているといえる。

そうすると、刊行物1発明の「鋼製コラムコア10」が、「鉄骨架構内」において、「耐震補強ブレースが接続される接続部」にも、また、「耐震補強ブレースが接続されない接続部」にも存在していることと、本件発明1の「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管は、ブレースが接続される接合部も、ブレースが接続されない接合部も、いずれも同一断面形状」であることとは、「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管は、ブレースが接続される接合部」にも、「ブレースが接続されない接合部」にも存在している点で共通する。

(エ)刊行物1発明の「ノンダイアフラム形式」の「鋼製コラムコア10」を有する「柱梁接合部構造100」に「ブレース」を設けた構造体は、本件発明1の「ノンダイアフラムブレース構造」に相当する。

そうすると、本件発明1と刊行物1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)

「角形鋼管柱と鉄骨の梁を剛結したラーメン構造の骨組に加え、斜材であるブレースを設けて水平力を負担させるブレース構造において、

同一構面内の前記角形鋼管柱と前記梁との接合部は、全て前記角形鋼管柱の他の部位より厚肉な中空断面の角形鋼管からなるノンダイアフラム厚肉角形鋼管であり、

且つ、前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管は、ブレースが接続される接合部も、ブレースが接続されない接合部も、角形である、

ノンダイアフラムブレース構造。」

(相違点1)

本件発明1では、「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の外径Dと肉厚tとの幅厚比D/t」について、「D/t<10.90・・・式(5)」を満たすのに対して、刊行物1発明では、そのような特定がされていない点。

(相違点2)

「ブレースが接続される接合部」及び「ブレースが接続されない接合部」に存在している「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管」について、本件発明1では、「いずれも同一断面形状」であるのに対して、刊行物1発明では、そのような特定がされていない点。

イ 判断

相違点について検討する。

(ア)上記相違点1について

前記3(4)ア(ウ)に示したとおり、本件明細書の記載をみても、ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の外径Dと肉厚tとの幅厚比D/tは、次式(5)を満たすこと(D/t<10.90・・・式(5))とした点について、「建物全体の変形性能を確保する」という課題を解決する点からみて、その数値範囲に特段の臨界的意義は見出せない。

一方、建物を造るにあたって、建物全体の変形性能を確保することは、当然に考慮すべき事項であるから、当業者であれば、部材の寸法等を選定する場合において、建物の変形性能を確保できるものを選定することは当然のことである。

そして、上記第5の1(11)アに示したとおり、ノンダイアフラム厚肉角形鋼管において、外径Dと肉厚tとの幅厚比D/tが、「D/t<10.90」を満たすものは、周知技術1である。

よって、刊行物1発明に、上記周知技術1を適用し、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(イ)上記相違点2について

本願明細書には、「同一断面形状」であることの技術的意義に関する特段の記載も示唆もない。

一方、刊行物5A記載の技術事項には、ノンダイアフラム構法により構築される建物内に用いられるパネル部が、同一断面形状である点が記載されている。

刊行物5Aに記載された「パネル部」は、ノンダイアフラム構法において用いられ、刊行物5Aの記載から、角形であって、シャフト部(柱)よりも板厚が厚いから、本件発明1の「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管」に相当する。

刊行物1発明と刊行物5A記載の技術事項とは、ノンダイアフラム角形鋼管を採用した構造である点で共通し、また、刊行物1発明のみならず、構成の共通化、工程短縮、品質向上は、建築分野のみならず広く知られる課題である。

そうすると、刊行物1発明において、構成の共通化、工程短縮、又は品質向上のために、刊行物5A記載の技術事項を適用する動機付けが存在するから、刊行物1発明において、刊行物5A記載の技術事項を適用し、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)また、本件発明1が奏する作用効果は、刊行物1発明、刊行物5A記載の技術事項及び周知技術1から、予測しうる範囲内のものである。

エ 小括

したがって、本件発明1は、刊行物1発明,刊行物5A記載の技術事項及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について

ア 対比・判断

本件発明2と刊行物1発明とを対比する。

上記(1)ア(ア)及び(イ)で述べたことに加えて、

(ア)刊行物1発明の「式(7)」の「

b

M

y

」は、刊行物1の段落【0046】の【表1】(上記2(1)ア(エ)参照)のとおり、鉄骨梁の「降伏モーメント」を意味していることから、本件発明2の「式(3)」の「bMy」(梁の降伏曲げ耐力)に相当する。

刊行物1発明の「式(7)」の「

j

M

y

」は、鋼製コラムコアの板厚を検証するために立てられた降伏耐力の条件式に係る「モーメント」であり、刊行物2では、「

j

M

y

」という記号が、「梁端接合部」についての「降伏曲げ耐力」(上記第3・・(2)ア(イ)「接合部の設計」に関する記載を参照)を示していることは明らかである。これらのことをふまえれば、刊行物1発明の「式(7)」の「

j

M

y

」は、鋼製コラムコアにおいて、梁端が接合する部位の降伏曲げ耐力であると理解できる。

そうすると、刊行物1発明の「式(7)」の「

j

M

y

」は、本件発明2の「式(3)」の「jMy」(ノンダイアフラム梁端接合部の降伏曲げ耐力)に相当する。

また、本件発明2の「γ:接合部係数」は、1.0を含んでいる。

以上のことから、刊行物1発明における「

j

M

y

b

M

y

・・・(7)」は、本件発明2の「jMy≧γ×bMy・・・式(3)」「jMy:ノンダイアフラム梁端接合部の降伏曲げ耐力」、「bMy:梁の降伏曲げ耐力」、「γ:接合部係数1.0以上」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「式(9)」の「

b

M

p

」は、刊行物1の段落【0046】の【表1】(上記2(1)ア(エ)参照)のとおり、鉄骨梁の「全塑性モーメント」を意味していることから、本件発明2の「式(4)」の「bMp」(梁の全塑性曲げ耐力)に相当する。

刊行物1発明の「式(9)」の「

j

M

p

」は、鋼製コラムコアの板厚を検証するために立てられた全塑性耐力の条件式に係る「モーメント」である。また、刊行物3では、「

j

M

y

」という記号が、「KH-コラムジョイントの局部曲げ全塑性耐力」(上記第3・・(3)ア(ア)を参照)を示している。これらのことをふまえれば、刊行物1発明の「式(7)」の「

j

M

p

」は、鋼製コラムコアにおいて、梁端が接合する部位の全塑性曲げ耐力であると理解できる。

そうすると、刊行物1発明の「式(9)」の「

j

M

p

」は、本件発明2の「式(4)」の「jMp」(ノンダイアフラム梁端接合部の全塑性曲げ耐力)に相当する。

また、本件発明2の「δ:接合部係数」は、1.0を含んでいる。

以上のことから、刊行物1発明における「

j

M

p

b

M

p

・・・(9)」は、本件発明2の「jMp≧δ×bMp・・・式(4)」「jMp:ノンダイアフラム梁端接合部の全塑性曲げ耐力」、「bMp:梁の全塑性曲げ耐力」、「δ:接合部係数1.0以上」に相当する。

そうすると、本件発明2と刊行物1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)

「角形鋼管柱と鉄骨の梁を剛結したラーメン構造の骨組に加え、斜材であるブレースを設けて水平力を負担させるブレース構造において、

同一構面内の前記角形鋼管柱と前記梁との接合部は、全て前記角形鋼管柱の他の部位より厚肉な中空断面の角形鋼管からなるノンダイアフラム厚肉角形鋼管であり、

前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の梁端接合部の降伏曲げ耐力jMyは、次式(3)を満たし、

前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の梁端接合部の全塑性曲げ耐力jMpは、次式(4)を満たす、

ノンダイアフラムブレース構造。

jMy≧γ×bMy・・・式(3)

jMp≧δ×bMp・・・式(4)

jMy:ノンダイアフラム梁端接合部の降伏曲げ耐力

jMp:ノンダイアフラム梁端接合部の全塑性曲げ耐力

bMy:梁の降伏曲げ耐力

bMp:梁の全塑性曲げ耐力

γ:接合部係数1.0以上

δ:接合部係数1.0以上 」

(相違点3)

本件発明2は、

前記梁から作用する軸力を考慮した場合の前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の梁端接合部の降伏曲げ耐力jcMyは、次式(1)を満たし、

前記梁から作用する軸力を考慮した場合の前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の梁端接合部の全塑性曲げ耐力jcMpは、次式(2)を満たすのに対して、刊行物1発明では、そのような特定がされていない点。

jcMy≧α×bcMy・・・式(1)

jcMp≧β×bcMp・・・式(2)

jcMy:ノンダイアフラム梁端接合部の降伏曲げ耐力(梁から作用する軸力を考慮したもの)

jcMp:ノンダイアフラム梁端接合部の全塑性曲げ耐力(梁から作用する軸力を考慮したもの)

bcMy:梁の降伏曲げ耐力(梁に作用する軸力を考慮したもの)

bcMp:梁の全塑性曲げ耐力(梁に作用する軸力を考慮したもの)

α:接合部係数1.0以上

β:接合部係数1.0以上

(相違点4)

本件発明2では、「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の外径Dと肉厚tとの幅厚比D/t」について、「D/t<10.90・・・式(5)」を満たすのに対して、刊行物1発明では、そのような特定がされていない点。

イ 判断

相違点について検討する。

(ア)相違点3について

上記第5の2(11)イに示したとおり、鋼構造物を設計する場合に、部材に働く軸力を考慮した全塑性曲げモーメントを用いて設計することは、周知技術2である。

上記周知技術2を参酌すれば、刊行物1発明において、「鋼製コラムコア10」(ノンダイアフラム厚肉角形鋼管)や、「鉄骨梁30、40」(鉄骨の梁)に働く軸力を考慮した耐力をふまえて設計することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

また、「鋼製コラムコア10」の耐力を、「鉄骨梁30、40」の耐力と同じか、「鉄骨梁30、40」の耐力よりも大きい耐力とすることは、刊行物1に記載されているから、軸力を考慮する技術思想を導入した際に、刊行物1発明の式(7)、式(9)に加えて、軸力を考慮した同様の関係式も成立するようにすること、すなわち、相違点3に係る本件発明2のように構成することは、当業者であれば容易に想到しうることである。

(イ)相違点4について

相違点4は相違点1と同様であり、上記(1)イ(ア)で検討したとおりである。

(ウ)また、本件発明2が奏する作用効果は、刊行物1発明、周知技術1及び周知技術2から、予測しうる範囲内のものである。

ウ 小括

したがって、本件発明2は、刊行物1発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について

ア 対比・判断

本件発明3と刊行物1発明とを対比すると、

本件発明3と刊行物1発明とは、上記相違点1及び2に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点5)

本件発明3は、「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の断面形状は、入隅に近づく程厚くなるように内面にテーパー面が形成されている」のに対して、刊行物1発明は、そのような特定がされていない点。

相違点について検討する

相違点1及び2については、上記(1)イで検討したとおりである。

相違点5について検討する。

刊行物4記載の技術事項の「ノンダイアフラム形式の柱梁接合構造に用いられる柱梁接合部コア1の断面形状」について「入隅に近づく程厚くなるように内面にテーパー面が形成され」ていることは、本件発明3の「ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の断面形状は、入隅に近づく程厚くなるように内面にテーパー面が形成されている」ことに相当する。

刊行物1発明と刊行物4記載の技術事項は、いずれもノンダイアフラム形式の柱梁接合構造に関するものであり、ノンダイアフラム形式の柱梁接合構造において、鋼製コラムコア(厚肉角形鋼管)を補剛することは周知の課題である。

したがって、刊行物1発明の鋼製コラムコア10(ノンダイアフラム厚肉角形鋼管)を補剛するために、刊行物4記載の技術事項を適用して、相違点5に係る本件発明3の構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

また、本件発明3が奏する作用効果は、刊行物1発明、刊行物5A記載の技術事項、周知技術1及び刊行物4記載の技術事項から、予測しうる範囲内のものである。

イ 小括

したがって、本件発明3は、刊行物1発明、刊行物5A記載の技術事項、周知技術1及び刊行物4記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について

ア 対比・判断

本件発明4と刊行物1発明とを対比すると、

本件発明4と刊行物1発明とは、上記相違点1及び2に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点6)

本件発明4は、

「角形鋼管柱の柱せん断スパン比(

c

L/2

c

D)は、2.5以上であり、且つ、前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の長さLは、1500mm以下である、ここで、

c

L:前記角形鋼管柱の長さ、

c

D:前記角形鋼管柱の外径」であるのに対して、

刊行物1発明は、そのような特定がされていない点。

上記相違点について検討する。

相違点1及び2については、上記(1)イのとおりである。

相違点6について検討する。

本件明細書の記載をみても、「角形鋼管柱の柱せん断スパン比(

c

L/2

c

D)は、2.5以上であり、且つ、前記ノンダイアフラム厚肉角形鋼管の長さLは、1500mm以下である、ここで、

c

L:前記角形鋼管柱の長さ、

c

D:前記角形鋼管柱の外径」とした点について、その数値範囲に臨界的意義は見出せない。

よって、本件発明4における上記限定事項は、当業者の通常の創作能力の発揮である数値範囲の最適化又は好適化に過ぎない。

また、本件発明4が奏する作用効果は、刊行物1発明、刊行物5A記載の技術事項及び周知技術1から、予測しうる範囲内のものである。

イ 小括

したがって、本件発明4は、刊行物1発明、刊行物5A記載の技術事項及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)特許権者の主張について

特許権者は、本件発明1について、刊行物1発明の「柱梁接合部構造100」に「ブレース」を設けた構造体は、本件発明1の「角形鋼管柱と鉄骨の梁を剛結したラーメン構造の骨組に加え、斜材であるブレースを設けて水平力を負担させるブレース構造」に相当する、との認定は、余長部に関する構造計算が示されていないことから、引用適格性に欠き、妥当でない旨主張する。(令和6年10月2日に提出された意見書の13頁28行~14頁6行、15頁20~27行、17頁32~36行)

しかしながら、刊行物1発明は、刊行物1に、「鉄骨架構内に耐震補強ブレースが存在する場合に、この耐震補強ブレースを余長部50,60に接続することができ」と記載されていて、「鋼製コラムコア10」の余長部に「耐震補強ブレース」を設けることが示唆されていることに基づいて認定したものである。そして、余長部に関する構造計算が示されていないからといって、認定できないものではなく、本件発明1は、余長部に関する構造計算に基づく具体的な構成が特定されていないから、本件発明1との差異を示すものではない。

なお、ノンダイアフラムの厚肉角形鋼管において、余長部をブレースの接続箇所とすることは、刊行物7にも記載されているとおり、自然なことであるから、刊行物1発明の認定に誤りはない。

よって、特許権者の主張は、上記の判断を左右するものではなく、採用することはできない。

(6)取消理由4についてのまとめ

本件発明1ないし4は、刊行物1発明、刊行物5A記載の技術事項、刊行物4記載の技術事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

第7 まとめ

以上のとおり、本件発明2~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、本件発明1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満していない特許出願に対してされたものである。

したがって、本件発明1~4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

また、本件発明1~4に係る特許は、刊行物1発明、刊行物5A記載の技術事項、刊行物4記載の技術事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

したがって、本件発明1~4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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