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Trademark Appeal Case

特許訂正の適否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023701053
審判種別記載はありません。
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

結 論
特許第7251850号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12、14、16、18〕、〔13、15、17、19〕について訂正することを認める。
特許第7251850号の請求項1~11に係る特許を取り消す。
特許第7251850号の請求項12~19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7251850号(以下「本件特許」という。)の請求項1~19に係る特許についての出願は、令和4年3月16日の出願であって、令和5年3月27日に特許権の設定登録がされ、同年4月4日に特許掲載公報が発行された。その後、同年10月3日に特許異議申立人 森田 悠介(以下「申立人A」という。)により、請求項1~19に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、同年同月同日に特許異議申立人 田中 和幸(以下「申立人B」という。)により、請求項1~19に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

その後の主な経緯は、以下のとおりである。

令和5年12月27日付け 取消理由通知

令和6年 3月 4日 訂正請求書及び意見書の提出

同年 4月11日付け 訂正請求があった旨の通知

同年 5月14日 意見書提出(申立人B)

同年 同月15日 意見書提出(申立人A)

同年 8月21日付け 取消理由通知(決定の予告)(以下「決定の

予告1」という。)

同年10月28日 訂正請求書及び意見書の提出

同年11月20日付け 訂正請求があった旨の通知

同年12月23日 意見書提出(申立人B)

同年12月24日 意見書提出(申立人A)

令和7年 4月30日付け 取消理由通知(決定の予告)(以下「決定の

予告2」という。)

同年 7月 4日 訂正請求書及び意見書の提出

同年 7月29日付け 訂正請求があった旨の通知

同年 8月29日 意見書提出(申立人B)

令和7年7月29日付けの通知書に対し、申立人Aから意見書の提出はなかった。

なお、令和7年7月4日に訂正請求書が提出されたため、令和6年3月4日、及び、令和6年10月28日提出の訂正請求書による訂正は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

令和7年7月4日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次の訂正事項を含む。(下線は訂正箇所を示す。)

(1) 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に、

「流動点FAを有する脂肪酸エステル(A)と、FA以下の流動点FBを有する脂肪酸エステル(B)とを含み、流動点FTがFA未満である混合物であって、脂肪酸エステル(A)の水酸基価HA及び脂肪酸エステル(B)の水酸基価HBがいずれも45以下である、混合物。」と記載されているのを、

「流動点FAを有する脂肪酸エステル(A)と、FA以下の流動点FBを有する脂肪酸エステル(B)

のみからなる

、流動点FTがFA未満である混合物であって、

脂肪酸エステル(A)が1種であり、

脂肪酸エステル(B)が1~3種であり、

脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールが1種であり、

脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが1種であり、

脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが、脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールと異なるアルコールであり、

脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸が一価であり、

脂肪酸エステル(B)を構成する脂肪酸が一価であり、

脂肪酸エステル(A)の水酸基価HA

が36.8以下であり、

脂肪酸エステル(B)の水酸基価HBが

36

以下であ

り、

FAとFBとの差が25°C以下であり、

FTがFB未満であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが36以下、FAとFBとの差が25°C以下、及びFTがFB未満を充足す

る、混合物。」

に訂正する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2に、

「HA及HBがいずれも42以下である、請求項1記載の混合物。」と記載されているのを、

「HA及

HBがいずれも

36

以下であ

り、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが36以下を充足す

る、請求項1記載の混合物。」

に訂正する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3に、

「HAとHBとの差の絶対値が40以下である、請求項1又は2記載の混合物。」と記載されているのを、

「HAとHBとの差の絶対値が

35

以下であ

り、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HAとHBとの差の絶対値が35以下を充足す

る、請求項1又は2記載の混合物。」

に訂正する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項4に、

「総水酸基価HTが40以下である、請求項1~3のいずれかに記載の混合物。」と記載されているのを、

「総水酸基価HTが

35

以下である、請求項1~3のいずれかに記載の混合物。」に訂正する。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項5に、

「FAとFBとの差が32°C以下である、請求項1~4のいずれかに記載の混合物。」と記載されているのを、

「FAとFBとの差が

15

°C以下であ

り、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、FAとFBとの差が15°C以下を充足す

る、請求項1~4のいずれかに記載の混合物。」

に訂正する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項6に、

「脂肪酸エステル(A)及び脂肪酸エステル(B)の総ヒドロキシ数が5以上である、請求項1~5のいずれかに記載の混合物。」と記載されているのを、

流動点FAを有する脂肪酸エステル(A)と、FA以下の流動点FBを有する脂肪酸エステル(B)のみからなる、流動点FTがFA未満である混合物であって、

脂肪酸エステル(A)が1種であり、

脂肪酸エステル(B)が1~3種であり、

脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールが1種であり、

脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが1種であり、

脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが、脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールと異なるアルコールであり、

脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸が一価であり、

脂肪酸エステル(B)を構成する脂肪酸が一価であり、

脂肪酸エステル(A)の水酸基価HAが36.8以下であり、

肪酸エステル(B)の水酸基価HBが36以下であり、

FAとFBとの差が25°C以下であり、

FTがFB未満であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが36以下、FAとFBとの差が25°C以下、及びFTがFB未満を充足し、

脂肪酸エステル(A)及び脂肪酸エステル(B)の総ヒドロキシ数が5以上である

、混

合物。」

に訂正する。

(7)訂正事項7

特許請求の範囲の請求項7に、

「FTがFB未満である、請求項1~6のいずれかに記載の混合物。」と記載されているのを、

FBとFTとの差が0.5°C以上

であ

り、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、FBとFTとの差が0.5°C以上を充足す

る、請求項1~6のいずれかに記載の混合物。」に訂正する。

(8)訂正事項8

特許請求の範囲の請求項9に、

「HA及HBがいずれも35以下、

HAとHBとの差の絶対値が30以下、

総水酸基価HTが25以下、

FAとFBとの差が30°C以下、

脂肪酸エステル(A)及び脂肪酸エステル(B)の総ヒドロキシ数が5以上、

FBとFTとの差が1°C以上、

FAとFTとの差が2°C以上、である、請求項1~8のいずれかに記載の混合物。」と記載されているのを、

「HA及

HBがいずれも35以下、

HAとHBとの差の絶対値が30以下、

総水酸基価HTが25以下

肪酸エステル(A)及び脂肪酸エステル(B)の総ヒドロキシ数が5以上、

FBとFTとの差が1°C以上、

FAとFTとの差が2°C以上、であ

り、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが35以下、HAとHBとの差の絶対値が30以下、及びFBとFTとの差が1°C以上を充足す

る、請求項1~8のいずれかに記載の混合物。」

に訂正する。

(9)訂正事項9

特許請求の範囲の請求項10に、

「HA及HBがいずれも25以下、総水酸基価HTが15以下、FAとFBとの差が25°C以下である、請求項1~9のいずれかに記載の混合物。」と記載されているのを、

「HA及

HBがいずれも25以下、総水酸基価HTが15以

下で

り、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが25以下を充足す

る、請求項1~9のいずれかに記載の混合物。」

に訂正する。

(10)訂正事項10

特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(11)訂正事項11

特許請求の範囲の請求項13を削除する。

(12)訂正事項12

特許請求の範囲の請求項14を削除する。

(13)訂正事項13

特許請求の範囲の請求項15を削除する。

(14)訂正事項14

特許請求の範囲の請求項16を削除する。

(15)訂正事項15

特許請求の範囲の請求項17を削除する。

(16)訂正事項16

特許請求の範囲の請求項18を削除する。

(17)訂正事項17

特許請求の範囲の請求項19を削除する。

2 一群の請求項について

訂正前の請求項1~11について、請求項2~11は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

訂正前の請求項12、14、16、18について、請求項14、16、18は請求項12を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項10によって記載が訂正される請求項12に連動して訂正されるものである。

また、訂正前の請求項13、15、17、19について、請求項15、17、19は請求項13を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項11によって記載が訂正される請求項13に連動して訂正されるものである。

したがって、訂正前の請求項1~11、訂正前の請求項12、14、16及び18、並びに、訂正前の請求項13、15、17及び19についての訂正は、いずれも、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 訂正事項1

訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の混合物に関し、混合物を構成する流動点FAを有する脂肪酸エステル(A)について、1種であり、構成するアルコールが1種であり、脂肪酸が一価で、水酸基価HAが36.8以下であること、流動点FBを有する脂肪酸エステル(B)について、1~3種であり、構成するアルコールが1種で脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールと異なり、脂肪酸が一価で、水酸基価HBが36以下であること、FAとFBとの差が25°C以下であること、FTがFB未満であること、混合物が脂肪酸エステル(A)と脂肪酸エステル(B)のみからなるものであること、及び、脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが36以下、FAとFBとの差が25°C以下、及びFTがFB未満を充足することを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

当該訂正は、願書に添付した請求項7、明細書の【0011】【0016】【0019】【0021】【0034】【0036】【0046】【0048】【0061】【0065】【0066】【0081】等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(2) 訂正事項2

訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2の「及」を「及び」とする誤記の正を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。また、訂正事項2は、混合物のHAとHBの差の上限値、及び、脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが36以下であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、当該訂正は、願書に添付した明細書の【0019】等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(3)訂正事項3

訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項3のHAとHBの差の絶対値の上限値、及び、脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HAとHBとの差が絶対値で35以下を充足することを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

これらの訂正は、願書に添付した明細書の【0022】【0024】等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(4) 訂正事項4

訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項4の総水酸基価HTの上限を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項4よる訂正は、願書に添付した明細書の【0026】等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(5) 訂正事項5

訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項5にFAとFBの差の上限値、及び、脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、FAとFBの差が15°C以下であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、当該訂正は、願書に添付した明細書の【0034】【0036】等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(6) 訂正事項6

訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項6に、前記(1)の訂正事項1と同様の訂正を加え、引用形式で記載された請求項6の記載を独立形式に改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、当該訂正は、前記(1)のとおり願書に添付した明細書等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(7) 訂正事項7

訂正事項7による訂正は、訂正前の請求項7のFBとFTとの差の下限値、及び、脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、FBとFTとの差が0.5°C以上を充足することを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

これらの訂正は、願書に添付した明細書の【0047】【0048】等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(8) 訂正事項8

訂正事項8による訂正は、訂正前の請求項9の「及」を「及び」とする誤記の訂正を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。また、訂正事項8は、脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが35以下、HAとHBとの差の絶対値が30以下、及び、FAとFBとの差が1°C以上を充足することを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、当該訂正は、願書に添付した明細書の【0021】【0024】【0034】【0048】等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(9) 訂正事項9

訂正事項9は、訂正前の請求項10の「及」を「及び」とする誤記の訂正を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。また、訂正後の請求項10が、「FAとFBとの差が25°C以下」を特定事項とする訂正後の請求項1及び6を引用することに伴い、「FAとFBとの差が25°C以下」との記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。加えて、訂正事項9は、脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが25以下を充足することを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、当該訂正は、願書に添付した明細書の【0021】【0034】等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(10) 訂正事項10~17

訂正事項10~17は、訂正前の請求項12~19を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

4 独立特許要件について

本件においては、訂正前の全ての請求項1~19について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~19に係る訂正事項1~17に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項のいわゆる独立特許要件は課されない。

5 訂正についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

また、本件訂正について、別の訂正単位とする求めはない。

よって、特許請求の範囲を、令和7年7月4日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12、14、16、18〕、〔13、15、17、19〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

前記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~19に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等といい、それらを合わせて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】

流動点FAを有する脂肪酸エステル(A)と、FA以下の流動点FBを有する脂肪酸エステル(B)のみからなる、流動点FTがFA未満である混合物であって、

脂肪酸エステル(A)が1種であり、

脂肪酸エステル(B)が1~3種であり、

脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールが1種であり、

脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが1種であり、

脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが、脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールと異なるアルコールであり、

脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸が一価であり、

脂肪酸エステル(B)を構成する脂肪酸が一価であり、

脂肪酸エステル(A)の水酸基価HAが36.8以下であり、脂肪酸エステル(B)の水酸基価HBが36以下であり、FAとFBとの差が25°C以下であり、

FTがFB未満であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが36以下、FAとFBとの差が25°C以下、及びFTがFB未満を充足する、混合物。

【請求項2】

HA及びHBがいずれも36以下であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが36以下を充足する、請求項1記載の混合物。

【請求項3】

HAとHBとの差の絶対値が35以下であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HAとHBとの差の絶対値が35以下を充足する、請求項1又は2記載の混合物。

【請求項4】

総水酸基価HTが35以下である、請求項1~3のいずれかに記載の混合物。

【請求項5】

FAとFBとの差が15°C以下であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、FAとFBとの差が15°C以下を充足する、請求項1~4のいずれかに記載の混合物。

【請求項6】

流動点FAを有する脂肪酸エステル(A)と、FA以下の流動点FBを有する脂肪酸エステル(B)のみからなる、流動点FTがFA未満である混合物であって、

脂肪酸エステル(A)が1種であり、

脂肪酸エステル(B)が1~3種であり、

脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールが1種であり、

脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが1種であり、

脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが、脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールと異なるアルコールであり、

脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸が一価であり、

肪酸エステル(B)を構成する脂肪酸が一価であり、

脂肪酸エステル(A)の水酸基価HAが36.8以下であり、脂肪酸エステル(B)の水酸基価HBが36以下であり、

FAとFBとの差が25°C以下であり、

FTがFB未満であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが36以下、FAとFBとの差が25°C以下、及びFTがFB未満を充足し、

脂肪酸エステル(A)及び脂肪酸エステル(B)の総ヒドロキシ数が5以上である、混合物。

【請求項7】

FBとFTとの差が0.5°C以上であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、FBとFTとの差が0.5°C以上を充足する、請求項1~6のいずれかに記載の混合物。

【請求項8】

FAとFTとの差が1°C以上である請求項1~7のいずれかに記載の混合物。

【請求項9】

HA及びHBがいずれも35以下、HAとHBとの差の絶対値が30以下、総水酸基価HTが25以下、

脂肪酸エステル(A)及び脂肪酸エステル(B)の総ヒドロキシ数が5以上、 FBとFTとの差が1°C以上、

FAとFTとの差が2°C以上、であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが35以下、HAとHBとの差の絶対値が30以下、及びFBとFTとの差が1°C以上を充足する、請求項1~8のいずれかに記載の混合物。

【請求項10】

HA及びHBがいずれも25以下、総水酸基価HTが15以下であり、

脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、すべての脂肪酸エステル(B)が、HBが25以下を充足する、請求項1~9のいずれかに記載の混合物。

【請求項11】

潤滑油である、請求項1~10のいずれかに記載の混合物。

【請求項12】

(削除)

【請求項13】

(削除)

【請求項14】

(削除)

【請求項15】

(削除)

【請求項16】

(削除)

【請求項17】

(削除)

【請求項18】

(削除)

【請求項19】

(削除)」

第4 異議申立の概要

1 申立人Aによる特許異議の申立ての概要

申立人Aは、下記(2)の証拠方法により、下記(1)を申立ての理由とする特許異議の申立てをしている。以下、申立人Aの提示した甲第1号証を「甲A1」などという。

(1)申立ての理由

ア 本件発明1~19は、甲A1~A9に記載された発明であるか、甲A1~A9に記載された発明と甲A1~A9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~19に係る特許は、同法113条2号に該当する。

イ 本件特許明細書の記載は、下記の理由から、当業者が本件発明1~19の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件発明1~19に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。

本件特許明細書には、脂肪酸エステル(A)及び(B)の水酸基価が特定の値であれば流動点FTがFA未満となる原理は具体的に記載されておらず、ましてや、水酸基価が特定の値であればFTがFB未満であることが明らかとはいえない。また、混合脂肪酸のエステル反応では、ホモエステルやヘテロエステルが生成し、複数エステルの混在物となり、混合脂肪酸のエステルの流動点は、真の脂肪酸エステルの流動点ではないにもかかわらず、実施例において、アルコールと複数の脂肪酸とのエステルが流動点FAを有する脂肪酸エステル(A)又はFA以下の流動点FBを有する脂肪酸エステル(B)として用いられている。

(2)証拠方法

甲A1:特開2021-123632号公報

甲A2:特開2012-102046号公報

甲A3:国際公開第96/40848号

甲A4:特開昭63-310502号公報

甲A5:特開2004-67957号公報

甲A6:特開2000-1681号公報

甲A7:特開2008-291149号公報

甲A8:特開平7-224289号公報

甲A9:特開2011-137089号公報

甲A10:特開2005-232470号公報

甲A11:特開平5-70789号公報

甲A12:特開2012-62361号公報

甲A13:特開2018-95840号公報

甲A14:特開2006-328274号公報

2 申立人Bによる特許異議の申立ての概要

申立人Bは、下記(2)の証拠方法により、下記(1)を申立ての理由とする特許異議の申立てをしている。以下、申立人Bの提示した甲第1号証を「甲B1」などという。

(1)申立ての理由

本件発明1~19は、甲B1~B2に記載された発明であるか、甲B1~B3に記載された発明と甲B1~B5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~19に係る特許は、同法113条2号に該当する。

(2)証拠方法

甲B1:特開2008-214380号公報

甲B2:特開昭54-20266号公報

甲B3:特開2008-291149号公報(前記「甲A7」と同一文献。)

甲B4:特開2004-91524号公報

甲B5:国際公開第2006/040888号

第5 取消理由通知、取消理由通知(決定の予告1)及び取消理由通知(決定予告2)の概要

1 令和5年12月27日付け取消理由通知の概要

請求項1~19に係る発明について、甲A1~甲A6、甲A9、甲B1又は甲B2を主たる引用例とした、新規性及び進歩性欠如(前記第4 1(1)ア及び2(1)に対応)。

2 令和6年8月21日付け取消理由(決定の予告1)の概要

(1)令和6年3月4日提出の訂正請求書により訂正された請求項1~19に係る発明について

ア 甲A1、甲A2、甲A4、甲A5、甲B1又は甲B2を主たる引用例とした新規性欠如(前記第4 1(1)ア及び2(1)に対応)。

イ 甲A1、甲A2、甲A4、甲A5、甲B1又は甲B2及び周知技術に基づく進歩性欠如。

(2)令和6年3月4日提出の訂正請求書により訂正された請求項6~11、16~19に係る発明について、以下の理由による実施可能要件違反(前記第4 1(1)イに対応)。

流動点FTがFBよりも低下したことが本件明細書に具体的に開示される特定の組み合わせ以外の混合物の中から、当業者が過度な実験を要することなく上記請求項に係る混合物を得ることができるとはいえない。

3 令和7年4月30日付け取消理由通知(決定の予告2)の概要

(1)令和6年10月28日提出の訂正請求書により訂正された請求項1~19に係る発明について、以下の理由による明確性要件違反。

「脂肪酸エステル(B)」、「流動点FB」及び「水酸基価HB」が多義的なため、「脂肪酸エステル(B)」、「流動点FB」、「水酸基価HB」、「FAとFBとの差が25°C以下である」及び「FTがFB」を特定事項とする請求項1に係る発明は、明確でない。請求項2~19に係る発明も、同様の理由から明確でない。

(2)令和6年10月28日提出の訂正請求書により訂正された請求項1~19に係る発明について、以下の理由による実施可能要件違反(前記第4 1(1)イに対応)。

本件特許明細書の記載から、どのような条件(指標)であれば、混合物の流動点がいずれのエステルよりも低くなるかが明らかとはいえず、本件特許明細書に脂肪酸エステル(B)として記載されるエステル自体が混合物である等、本件特許明細書には本件特許発明に対応する十分な実施例等の記載はなく、当業者は、本件特許明細書の実施例に具体的に記載される脂肪酸エステル混合物以外に、本件発明1の特定事項を満たす混合物を製造できるとはいえない。請求項2~19に係る発明も、同様の理由から実施可能要件を満たさない。

(3)令和6年10月28日提出の訂正請求書により訂正された請求項1~19に係る発明について、以下の理由によるサポート要件違反。

本件特許明細書の記載から、どのような条件(指標)であれば、混合物の流動点がいずれのエステルよりも低くなるかが明らかとはいえず、本件特許明細書に脂肪酸エステル(B)として記載されるエステル自体が混合物である等、本件特許明細書には本件特許発明に対応する十分な実施例等の記載はなく、実施例等に記載される混合物以外の非常に多様な混合物をも包含する本件発明1が、発明の詳細な説明に十分な裏付けをもって記載されているとはいえない。請求項2~19に係る発明も、同様の理由からサポート要件を満たさない。

第6 文献等の記載

1 甲A1

「【請求項1】

脂肪酸とネオペンチルグリコールとのエステルを含む、金属加工油用基油であって、

前記脂肪酸が、デカン酸とドデカン酸を含み、前記デカン酸と前記ドデカン酸のモル比(デカン酸/ドデカン酸)が、30/70以上70/30以下である、

金属加工油用基油。」

「【0008】

本発明は、高い引火点と室温付近での低い粘度を両立し、更に低温での流動性を有する、不水溶性金属加工油組成物に配合される金属加工油用基油、及び前記金属加工油用基油を含有する不水溶性金属加工油組成物を提供することを目的と

する。」

「【0035】

実施例1/

攪拌機、温度計、窒素吹き込み管および冷却管を備えた1リットルの4つ口フラスコに、脂肪酸として、デカン酸374.67g(2.17モル)、ドデカン酸261.02g(1.30モル)を加えて混合脂肪酸を調製し、さらに、ネオペンチルグリコール150.80g(1.45モル)を添加した。なお、脂肪酸の添加量は、ネオペンチルグリコールの水酸基1当量に対して脂肪酸の総カルボキシ基が1.2当量になるようにした。

次に、フラスコ内に、窒素ガスを吹き込み、攪拌しながら250°Cまで昇温し、18時間250°Cを維持し、留出する水分を冷却管を用いてフラスコ外へ除去した。反応終了後、0.13kPaの減圧下で過剰の脂肪酸を留去し、0.13kPaの減圧下で1時間スチーミングを行い、吸着剤(商品名:キョーワード500SH、協和化学工業株式会社製)に残存している脂肪酸を吸着させた後、濾過を行い、縮合エステルを得た。得られた縮合エステルは、酸価が0.1mgKOH/g未満、水酸基価が1.0mgKOH/g未満であり、ネオペンチルグリコールのモノエステル、未反応の脂肪酸、未反応のネオペンチルグリコールのいずれも実質的に含まないことを確認した。得られた縮合エステルは、ネオペンチルグリコールのジエステルが実質的に100%であった。

得られた縮合エステルは、デカン酸のジエステル、ドデカン酸のジエステル、及びデカン酸とドデカン酸のジエステルを含む混合物である。すなわち、得られた縮合エステルは、デカン酸とドデカン酸の混合脂肪酸とネオペンチルグリコールとのジエステルを含む混合物である。縮合エステルの調製に用いた混合脂肪酸の脂肪酸組成がジエステルに反映されるので、得られた縮合エステルを構成する脂肪酸組成は、デカン酸とドデカン酸のモル比(デカン酸/ドデカン酸)が62.5/37.5である。

【0036】

実施例2及び3、比較例1~4

表1に示したデカン酸とドデカン酸のモル比に変えた以外は実施例1と同様の方法で他の縮合エステルを調製した。

【0037】

実施例4

比較例1の縮合エステルと比較例4の縮合エステルを等モルの比率で混合し、デカン酸のジエステルとドデカン酸のジエステルの混合物〔デカン酸とドデカン酸のモル比(デカン酸/ドデカン酸)が50/50〕を調製した。すなわち、調製したジエステルの混合物は、デカン酸とドデカン酸の混合脂肪酸とネオペンチルグリコールとのジエステルを実質的に含まない混合物である。」

「【0039】

<流動点の評価>

流動点の評価は、JIS K2269に従った測定方法により流動点(°C)を測定した。」

「【0041】

246

83

0001435146000001.jpg

【0042】

表1から、デカン酸とドデカン酸のモル比(デカン酸/ドデカン酸)が、30/70以上70/30以下である実施例1~4の縮合エステルは、40°C動粘度が14(mm

2

/s)以下、かつ引火点が250°C以上であり、高い引火点と室温付近での低い粘度を両立するものであることがわかる。また、実施例1~4の縮合エステルは、流動点が-10°C以下であり、低温での流動性に優れるものである。一方、デカン酸とドデカン酸のモル比(デカン酸/ドデカン酸)が、30/70以上70/30以下を満たさない比較例1~4の縮合エステルは、40°C動粘度が14(mm

2

/s)を超えるか、あるいは引火点が250°C未満であり、高い引火点と室温付近での低い粘度を両立することができない。」

2 甲A2

66

124

0001435146000002.jpg

「【0007】

本発明は、潤滑性、低温流動性及び耐熱性に優れるエステル化合物と、これを用いた潤滑油を提供する」

「【0013】

本発明では、低温流動性向上の観点から、エステル(A)とエステル(B)との重量比(エステル(A)/エステル(B))が0.60~3.00であり、0.75~1.50が好ましく、0.80~1.25がより好ましい。」

「【0021】

本発明のエステル化合物を潤滑油基油に使用する際、例えば、金属部材表面に接触させ且つ該金属部材表面を腐食させない潤滑油基油に用いる場合は、金属部材表面の腐食を抑制する観点から、エステル化合物の酸価は、好ましくは0.5mgKOH/g以下であり、より好ましくは0.1mgKOH/g以下であり、更に好ましくは0.05mgKOH/g以下である。また、本発明のエステル化合物を、劣化が少なく長期間使用可能な潤滑油基油に用いる場合は、その水酸基価は、好ましくは4.0mgKOH/g以下であり、より好ましくは2.5mgKOH/g以下であり、更に好ましくは1.5mgKOH/g以下である。同様に、前記エステル(A)及び前記エステル(B)は、いずれも酸価と水酸基価が前記と同様の値であることが好ましい。」

「【0038】

(エステル(A)の調製)

2Lの4つ口フラスコに、攪拌機、温度計、窒素ガス吹き込み管及び冷却管を取り付けた。このフラスコに、アルキルカルボン酸として、イソステアリン酸68.2重量%を含む混合カルボン酸(uniqema社製、商品名:プリソリン3501)1431gを添加し、更にペンタエリスリトール(広栄パーストープ社製、商品名:ペンタリットT)150gを添加した。この際、ペンタエリスリトールの水酸基1当量に対して前記アルキルカルボン酸のカルボキシル基が1.1当量になるよう設定した。次に、フラスコ内に、窒素ガスを吹き込みながら250°Cで10時間反応させ、留出する水を除去した。反応終了後、過剰のカルボン酸を除去するために250°C、0.13kPaで5時間減圧脱酸を行い、引き続き0.67kPaの減圧下で12時間スチーミング脱酸を行った。その後、残存する微量なカルボン酸を除去するため、反応液を80°Cまで冷却し酸吸着剤(協和化学工業社製、商品名:キョーワード500SH)を16g添加して0.13kPaで2時間吸着処理し、ろ過を行った。次いで、酸吸着剤中の金属イオンと残存カルボン酸とから生成される油溶性カルボン酸塩を除去するためにろ液に活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製、商品名:カルボラフィン3)を16g添加して0.13kPaで2時間吸着処理し、ろ過を行ってエステル(A)を得た。当該エステルの酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.50mgKOH/gであった。なお、前記酸価は、JISK0070 3.1に基づいて求めた。また、前記水酸基価は、JISK00707.2に基づいて求めた。以下に記載された酸価及び水酸基価も同様に求めた。

【0039】

(エステル(B)の調製)

2Lの4つ口フラスコに、攪拌機、温度計、窒素ガス吹き込み管及び冷却管を取り付けた。このフラスコに、アルキルカルボン酸として、前記脂肪酸(I)に該当する炭素数16(x=8、y=6)、炭素数18(x=9、y=7)及び炭素数20(x=10、y=8)の脂肪酸の混合物(サソール社製、商品名:ISOCARB18T、各脂肪酸の重量比率;炭素数16の脂肪酸:炭素数18の脂肪酸:炭素数20の脂肪酸=16:52:32)1308gを添加し、更に、ペンタエリスリトール(広栄パーストープ社製、商品名:ペンタリットT)140gと、チタン触媒(日本曹達社製、商品名:テトライソプロポキシチタンA-1)1.4gを添加した。この際、ペンタエリスリトールの水酸基1当量に対して前記アルキルカルボン酸のカルボキシル基が1.1当量になるよう設定した。次に、フラスコ内に、窒素ガスを吹き込みながら230°Cで10時間反応させ、留出する水を除去した。反応終了後、230°C、0.13kPaの減圧下で8時間、過剰のカルボン酸を減圧脱酸した。次に、チタン触媒を失活させるため、80°Cまで液温を冷却し、水を20mL添加して1時間攪拌した後、減圧脱水を行った。次いで、残余のカルボン酸を除去するために230°C、0.67kPaの減圧下で10時間スチーミング脱酸を行った。その後、残存する微量なカルボン酸を除去するため、反応液を80°Cまで冷却し、酸吸着剤(協和化学工業社製、商品名:キョーワード500SH)を16g添加して0.13kPaで2時間吸着処理し、ろ過を行った。引き続き、酸吸着剤中の金属イオンと残存カルボン酸とから生成される油溶性カルボン酸塩及び触媒残渣を除去するため、ろ液に活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製、商品名:カルボラフィン3)を16g添加して80°C、0.13kPaで2時間吸着処理し、ろ過を行って、エステル(B)を得た。当該エステルの酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は1.50mgKOH/gであった。」

「【0044】

(実施例1)

210mLのコレクションバイアル管にエステル(A)40gとエステル(B)60gを秤取し、磁石式攪拌子をセットした後、キャップを閉め、スターラー付きホットプレート(コーニング社製、商品名:PC-420D)を用いて90°C、300回転/分で1時間混合し、実施例1の潤滑油基油を得た。」

「【0046】

(比較例1及び比較例2)

前記で得られたエステル(A)及びエステル(B)を、それぞれ比較例1及び比較例2の潤滑油基油として用いた。」

「【0057】

192

111

0001435146000003.jpg

【0058】

表2に示すように、実施例1~5は、いずれの評価項目についても良好な結果が得られた。一方、比較例1~10は、少なくとも1つの評価項目について、実施例1~5に比べ顕著に劣る結果となった。この結果から、本発明によれば、潤滑性、低温流動性及び耐熱性に優れるエステル化合物(潤滑油基油)を提供できることが確認された。」

3 甲A4

(1)第1頁 2.特許請求の範囲

「【特許請求の範囲】

(1) A)ジペンタエリスリトールと炭素数7~12の脂肪酸とからなるエステル単独か、またはこれと

B)その他のネオペンチルポリオールと炭素数7~12の脂肪酸とからなるエステルとの混合物からなる、その引火点が250°C以上、流動点が-30°C以下である電気絶縁油。」

(2)第2頁右上欄5~16行

「[問題点を解決するための手段]

本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、従来用いられたことのない特定のネオペンチルポリオールエステルとしてジペンタエリスリトールの脂肪酸エステルを単独で用いるか、あるいはこれとその他のネオペンチルポリオールの脂肪酸エステルと混合して用いることにより、引火点か高くかつ流動点が低いうえに、電気特性に優れ(比誘電率4.0以上)、しかも環境汚染の恐れの少ない難燃性電気絶縁油が得られるものであることを知り、本発明を完成するに至った。」

(3)第3頁右上欄第20行~第4頁左上欄第17行

「実施例

つぎの第1表に示すA成分のエステル(A

l

~A

6

)またはこれとつぎの第2表に示すB成分のエステル(B

1

~B

6

)とを用いて、第3表に示す組成からなる試料番号1~10の本発明の電気絶縁油を調製した。

なお、試料番号1,8の電気絶縁油の調製は、下記の<試料番号1の調製>にて例示されるように、A成分のエステルとB成分のエステルとを同一反応系内で同時に合成する方式で行った。また、試料番号2,4~7,9の電気絶縁油の調製は、下記の<試料番号2の調製>にて例示されるように、A成分のエステルとB成分のエステルとをそれぞれ別々に合成したのち、両者を混合する方式で行った。さらに、試料番号3,10の電気絶縁油は、下記の<試料番号2の調製>におけるA成分のエステルを合成する方法に準じて相当する上記エステルを合成し、これをそれ単独で電気絶縁油としたものである。

<試料番号1の調製>

還流装置付きの1lのガラス反応器に、ジペンタエリスリトール154.7g (0.609モル)、ペンタエリスリトール14.6g(0.107モル)およびエナント酸557.2g(4.29モル)を入れ、0.3重量%のメタンスルホン酸を加えて窒素気流下130°Cで8時間反応し、アルカリ脱酸、水洗、脱水、ろ過の工程を経て酸価0.03の混合エステル、つまり第1表に示されるエステルA

1

と第2表に示されるエステルB

4

との重量比9:1の混合物からなる試料番号1の電気絶縁油を得た。

<試料番号2の調製>

還流装置付きの1lのガラス反応器にジペンタエリスリトール162.4g(0.639モル)、エナント酸392.6g(3.02モル)およびイソオクタン酸145.0g(1.01モル)を入れ、0.3重量%の塩化第一スズを加えて窒素ガス気流下220°Cで10時間反応し、アルカリ脱酸、水洗、脱水、ろ過の工程を経て酸価0.04のエステル、つまり第1表に示されるエステルA

2

を得た。

これとは別に、還流装置付きの11のガラス反応器に、ペンタエリスリトール117.4g(0.863モル)、2-エチルへキサン酸410.1g(2.848モル)およびラウリン酸172.6g(0.863モル)を入れ、0.3重量%の塩化第一スズを加えて窒素気流下220°Cで10時間反応し、アルカリ脱酸、水洗、脱水、ろ過の工程を経て酸価0.03のエステル、つまり第2表に示されるエステルB

5

を得た。

上記のエステルA

2

と上記のエステルB

5

とを重量比が8:2となるように混合して、試料番号2の電気絶縁油を得た。

比較例

つぎの第1表に示すA成分のエステル(A

2

,A

6

)、つぎの第2表に示すB成分のエステル(B

1

、B

6

)および従来公知の電気絶縁油成分を用いて、第3表に示す組成からなる試料番号11~18の比較用の電気絶縁油を得た。」

(4)第4頁 第1表、第2表

66

122

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(5)第5頁 第3表

71

136

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4 甲A5

「【請求項1】

直鎖一価脂肪酸と三価アルコールとで構成されるポリオールエステルから成る第1の基油と、炭素数10の直鎖二価脂肪酸と炭素数4の一価アルコールとで構成されるジエステルから成る第2の基油から構成された潤滑油において、第1の基油に対する第2の基油の混合率が5乃至50重量%であることを特徴とする潤滑油。」

「【0007】

このような潤滑油の低温流動性を改善する方法として、特開2000-63860公報では、モノエステルである流動点0°CのMB-816(日本油脂社製のユニスターシリーズ)に、ジエステルである流動点-60°Cのセバシン酸ジオクチル(以下DOSと述べる。)を混合し、混合物の流動点を0°C以下に低下させている。つまり、低温流動性に劣るMB-816に対して、低温流動性に優れたDOSを混合することによって、相対的にMB-816の低温流動性を改善しようとしている。

・・・

【0009】

【課題を解決するための手段】

本発明は、従来の課題に鑑み、第1の基油に対して第2の基油を混合して低温流動点を改善する場合において、第1の基油の特徴を生かしつつ、低温流動性を良化させることを目的とする。」

「【0015】

はじめに本発明の請求項1乃至請求項3について説明する。表1は第1の基油に第2の基油を混合した混合物すなわち潤滑油の流動点についての検討結果を示す。潤滑油は第1の基油であるポリオールエステルに第2の基油であるジエステルを混合率50wt%の条件で混合、攪拌し調整した。なお、ここではポリオールエステルとして直鎖一価脂肪酸と三価アルコールとから成るH-310、直鎖一価脂肪酸と二価アルコールとから成るHP-281R(日本油脂社製のユニスターシリーズ)、またジエステルとして炭素数10の直鎖二価脂肪酸と炭素数4の一価アルコールとから成るセバシン酸ジブチル(以下、DBSとする。)、DOS、炭素数6の直鎖二価脂肪酸と炭素数4の一価アルコールとから成るDIBAを用いた。また、基油の混合は全重量が40gとなるよう電子天秤を用いて基油を量りとり、室温で混合した。流動点はJIS-K2269に準じて測定を行った。

【0016】

【表1】

55

117

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【0017】

さまざまな組合せの中、実施例1及び実施例2の場合に限り、混合物の流動点が第1及び第2の基油それぞれの流動点よりも低下した。残りの組合せにおいては、混合物の流動点が第1及び第2の基油の流動点よりも低下することはなかった。これら、特定の組合せの基油を混合することによって、混合物の流動点を第1及び第2の基油それぞれよりも低下することができる。このように混合物の流動点が第1及び第2の基油それぞれよりも低下した理由は不明であるが、特定の組合せにすることによって、異なる構造のエステル分子が特殊な状態で混在することとなり、単一な系に対して系全体が複雑化し、低温において分子の結晶化が起こりにくく、流動点が低下するものと考えられる。」

「【図面の簡単な説明】

【図1】第1の基油であるポリオールエステル(HP-281R)と第2の基油であるジエステル(DIBA)の混合率に対する流動点及び粘度指数の影響を示す説明図」

71

110

0001435146000007.jpg

5 甲A9

「【請求項1】

一分子中に2種類以上の異なるアシル基をもつ分子(ヘテロエステル)のモル分率が40%以上であることを特徴とする多価アルコールの脂肪酸エステルからなる潤滑油基油。」

「【0008】

本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、低温流動性に優れると共に、高い粘度指数を特長とする潤滑油基材を提供する。

【課題を解決するための手段】

【0009】

前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、

<1>一分子中に2種類以上の異なるアシル基をもつ分子(ヘテロエステル)のモル分率が40%以上であることを特徴とする多価アルコールの脂肪酸エステルからなる潤滑油基油である。

<2>前記多価アルコールが、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの少なくともいずれかである前記<1>記載の潤滑油基油である。

<3>前記脂肪酸のアシル基が、(1)炭素数が6から10の飽和直鎖アシル基と、(2)炭素数が12の飽和直鎖アシル基または/および炭素数18の不飽和直鎖アシル基である前記<1>、<2>のいずれかに記載の潤滑油基油である。

<4>前記<1>から<3>のいずれかに記載の潤滑油基油を含有する潤滑油である。」

「【0020】

本発明の実施例および比較例では下記の原料を使用した。

<原料>

・トリメチロールプロパン:三菱ガス化学株式会社製

・カプリル酸メチル: ライオンケミカル株式会社製 パステルM-08

・カプリン酸メチル: ライオンケミカル株式会社製 パステルM-10

・ラウリン酸メチル: ライオンケミカル株式会社製 パステルM-12

・オレイン酸メチル: ライオンケミカル株式会社製 パステルM-181

・炭酸水素ナトリウム:関東化学株式会社製特級試薬

【0021】

(実施例1)

攪拌機、冷却管、温度計をつけたガラス製反応器に、トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製、分子量134.18)465.8g(3.47モル)、カプリル酸メチル(パステルM-08、ライオン株式会社製、分子量158.24)988.8g(6.25モル)、オレイン酸メチル(パステルM-181、分子量296.49)1852.7g(6.25モル)、及び触媒の炭酸水素ナトリウム 14.9gを入れ、220°Cの温度条件下、常圧で窒素を吹き込み、生成するメタノールを除去しながら、20時間反応させた。残留するカプリル酸メチルとオレイン酸メチルを単蒸留で除去した後、炭酸水素ナトリウムをろ過で除去し、生成物のトリメチロールプロパン脂肪酸エステルを得た。」

「【0023】

以上の方法で調製した潤滑油基油について、JIS K2283の試験方法に従い、40°Cおよび100°Cにおける動粘度を測定し、粘度指数を算出した。40°Cにおける動粘度は35.9mm

2

/sで、目標とする40mm

2

/s以下に適合する良好な価だった。粘度指数は182で、目標の140を上回り、高温における粘度低下が小さい良好な性能であることがわかった。

また、JIS K2269の試験方法に従って測定した流動点は-40°Cであり、実施例1の潤滑油基油は低温流動性が良好であることがわかった。

【0024】

実施例1と同様の方法で、脂肪酸メチルエステルの比率を変更した各種のトリメチロールプロパン脂肪酸エステルを合成し、ヘテロエステルのモル分率の分析と物性値の測定を行い、実施例2~3とした。結果を表2に示した。

【0025】

(比較例1)

実施例1と同様の方法で、トリメチロールプロパン261.7g(1.95モル)とカプリル酸メチル1110.9g(7.02モル)を原料として、トリメチロールプロパントリカプリル酸エステルを合成した。また、同様にトリメチロールプロパン144.7g(1.08モル)とオレイン酸メチル1150.8g(3.88モル)を原料として、トリメチロールプロパントリオレイン酸エステルを合成した。

トリメチロールプロパントリカプリル酸エステル358.9g(0.7モル)、トリメチロールプロパントリオレイン酸エステル278.3g(0.3モル)を室温で混合し、アシル基の異なるトリメチロールプロパントリ脂肪酸エステルの混合物を調製した。

調製した試料は、3つのエステル結合でアシル基がすべて同じ「ホモエステル」の混合物であり、アシル基が異なる「ヘテロエステル」は含まれない。

実施例1と同様に、得られた生成物について、40°Cおよび100°Cにおける動粘度を測定し、粘度指数を算出した。結果を表3に示した。

比較例1の潤滑油基油は、動粘度や粘度指数が実施例同様に良好な価であるが、流動点は-27.5°Cであり、低温流動性が劣る結果だった。

【0026】

同様の方法により、比較例2~6の潤滑油基油を調製し、物性の測定を行った。結果を表3に示した。

比較例2、4、5、6の潤滑油基油はいずれも流動点が-30°Cよりも高く、低温における流動性に問題のあることがわかった。一方、比較例3の潤滑油基油は、流動点が低く、定温における流動性は良好だが、40°Cにおける動粘度が低く、また、粘度指数も低いため、潤滑油としての性能が低いことが分かった。

【表2】

62

91

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65

117

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6 甲B1

「【請求項1】

ペンタエリスリトールとカルボン酸とを反応させて得られる合成エステルを含有してなる潤滑油基油であって、前記カルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、n-ヘプタン酸及びn-オクタン酸を合計含有量で95~100重量%含有してなり、かつ、カルボン酸中、2-エチルヘキサン酸の含有量が15~35重量%であり、n-ヘプタン酸とn-オクタン酸との合計含有量が65~85重量%である、潤滑油基油。」

「【0038】

実施例1

2リットルの4つ口フラスコに、攪拌機、温度計、窒素ガス吹き込み管および冷却管を取り付けた。このフラスコに、カルボン酸(脂肪酸)として、2-エチルヘキサン酸379g、n-ヘプタン酸568g、n-オクタン酸316gを入れ、これにペンタエリスリトール250gを添加した。なお、n-ヘプタン酸:n-オクタン酸:2-エチルヘキサン酸の割合(重量比)は、30:45:25、であり、ペンタエリスリトールの水酸基1当量に対して前記カルボン酸のカルボキシル基は1.25当量になるよう設定した。

【0039】

次に、フラスコ内に、窒素ガスを吹き込みながら230°Cで14時間反応させ、留出する水を除去した。反応終了後、0.13kPaの減圧下で過剰のカルボン酸を除去し、0.67kPaの減圧下で1時間スチーミングを行い、吸着剤(協和化学工業(株)製、商品名:キョーワード500SH)で残存しているカルボン酸を吸着した後、ろ過を行い、エステルを得た。当該エステルの酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.50mgKOH/gであった。当該エステルを潤滑油基油として用いた。また、当該エステルは潤滑油としても使用でき、揮発量、流動点及び40°Cの動粘度は、潤滑油の指標ともなる。以下の実施例2~4及び比較例1~10も、同様に、潤滑油基油としての評価であると共に、潤滑油としての評価でもある。

【0040】

実施例2~4、比較例1~10

実施例1において、用いたカルボン酸(脂肪酸)の種類および割合を、表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして、エステルを合成した。当該エステルを潤滑油基油として用いた。

【0041】

比較例11

比較例4、比較例5および比較例6で得られた各エステルを、比較例4:比較例5:比較例6の割合(重量比)が、45:25:30、となるように配合して、混合エステルを調製した。当該混合エステルを潤滑油基油として用いた。

【0042】

<評価>

上記実施例および比較例で得られた潤滑油基油について下記評価を行った。結果を表1に示す。」

「【0044】

(2)流動点:JIS K2269により流動点(°C)を求めた。」

「【0046】

(4)酸価および水酸基価:酸価は、JIS K0070 3.1により酸価を求めた。水酸基価は、JIS K0070 7.2により水酸基価を求める。」

「【表1】

187

68

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【0049】

表1中、nC7はn-ヘプタン酸である。キョーワノイックGH(協和発酵(株)製)は、製品全量中、2-エチルペンタン酸(17重量%)、2-メチルヘキサン酸(62重量%)、2-エチルヘキサン酸(21重量%)を主成分とする混合物である。nC8はn-オクタン酸である。2EHは2-エチルヘキサン酸である。iC9酸は3,5,5-トリメチルヘキサン酸である。エマゾール874(エメリー製)は、製品全量中、イソステアリン酸、イソパルミチン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、環状オクタデカン酸の合計量が90重量%以上の混合物である。なお、表1の比較例1乃至3が、特開2006-124429号公報の実施例1乃至3に相当する。」

7 甲B2

(1)第1頁 2.特許請求の範囲

77

63

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11

81

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(2)第2頁左下欄第1行~15行

「本発明者等は特にこれらの点に着目し、改良すべく鋭意研究した結果、1(○内に1)α―位側鎖脂肪酸30~70重量%含む脂肪族飽和モノカルボン酸とネオペンチルポリオールとのエステル(以下エステルIと略す)及び2(○内に2)更に1(○内に1)で用いたカルボン酸に脂肪族飽和ジカルボン酸を混合したものとネオペンチルポリオールとのエステル(以下エステルIIと略す)の両者を適宜混合するか又はエステルIを単独使用する事によって、従来のネオペンチル系エステルに比較し、更に低温流動性、潤滑性及び熱酸化安定性の改良を見い出した。本発明のこれらの特徴を生かした用途としては、エンジン用潤滑油以外に、油圧作動油、低温、高温用グリース、圧延油更にその他の工業用潤滑油がある。」

(3)第2頁右下欄下から7行~第3頁左上欄第2行

「一方上記エステルI及びエステルIIに供する多価アルコールとしては、その分子中のβ位炭素に水素原子を持たない2~6価のネオペンチルポリオールであり、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、・・・ジペンタエリスリトール等である。」

(4)第4頁左上欄下から2行~第6頁表-2

「製造例A エステルIの製造:エステル化装置として、窒素気流管、スターラー、温度計、検水管、還流冷却器を取付けた2l容量の四つ口反応フラスコに、一般式(1)で示される直鎖状飽和モノカルボン酸(但し、R

1

は炭素数10~13からなる混合脂肪酸残基)と、一般式(2)で示されるα-側鎖飽和モノカルボン酸(但し、R

2

は炭素数5~12、R

3

は炭素数1~6からなる混合脂肪酸残基)との混合比率が30:70の直鎖、側鎖混合モノカルホン酸の990重量部、トリメチロールプロパン211重量部及び塩化第一スズ2水塩6重量部を仕込み、攪拌し、窒素気流下180~200°Cで8時間エステル化反応を行なつた。粗エステルの酸価は1.4であつた。この後、活性白土1重量%にて吸着脱色後、濾過精製した。得られたエステルの酸価は0.4水酸基価1.2であつた。

製造例B エステルIIの製造

複合エステル化の装置として、製造例Aと同様な反応装置を用い、モノカルボン酸として、製造Aと同組成のものを440重量部、一般式(3)の脂肪族飽和ジカルボン酸としてアゼライン酸(式中のn=7)188重量郡、ネオペンチルグリコール229重量部、テトラブトキシチタン(触媒)3.2重量部、及び共沸溶媒としてキシレン126重量部を仕込み還流温度にて約9時間反応を行なつた。粗複合エステルの酸価は1.2であつた。脱溶剤後、活性剤白土1.0%にて吸着脱色後、濾過精製を行なつた。得られた複合エステルの酸価は0.3、水酸基価0.8であつた。

製造例C

製造例Aで得たエステルI及び製造例Bで得たエステルIIにつき、エステルI:エステルII=45:55重量部の混合比率で常温にて均一混合せしめた。

これらの製造例によつて得られた本発明の特徴等は後述する。

上記、製造例A~Cに従つて、本発明エステル数種を製造した。その内容を表-1に示した。

74

112

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前記表-1に記載した本発明エステル油を市販の自動車用エンジン油(鉱油系)と比較した場合の特長を以下の実施例によつて説明する。

実施例I

表-中に記載の本発明エステル油A~Iにつき、それらの低温流動性、潤滑性、粘度~温度特性を各々、流動点(°C)、耐荷重能(Kg/cm)、粘度指数(VI

E

)によつて求めた。また、市販の自動車エンジン油として、鉱油系エンジン油SAE-30、JIS-K-2216記載の陸用内燃機用量滑油2種2号及び市販の油脂系脂肪酸であるカプリン酸のトリメチロールプロパントリエステルを用いて、比較した。それらの結果を表-2に示す。

表-2の結果から明らかなように、本発明エステル油は、市販エンジン油に比較し流動点が低く、高粘度指数、高耐荷重能を示し、エンジン油として、すぐれた特性を示した。

なお、試験は各々下記の方法で行なつた。

1).流動点(°C):JIS-K-2269

(石油製品流動点試験法)による。

2).動粘度(CST):JIS-K-2283

(石油製品動粘度試験法)による。

3).粘度指数(VI

E

):JIS-K-2284

(石油製品粘度指数算出法)による。

4).耐荷重能(Kg/cm):シエル式高速四球摩擦試験機にて、

試料油温度150°C、立軸回転数

1200r.p.m.のもとで焼付

荷重(Kg/cm)を測定。

136

105

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第7 当合議体の判断

取消理由1(明確性要件)(前記第5 3(1)に対応)

本件発明1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。

取消理由2(実施可能要件)(前記第5 3(2)に対応)

本件発明1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。

取消理由3(サポート要件)(前記第5 3(3)に対応)

本件発明1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定る要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。

以下、下線は合議体による。

1 本件特許明細書等の記載

「【0002】

流動点降下剤は、エステル系基油を含む潤滑油組成物において、流動点を低下させ、潤滑油組成物の適用温度範囲を広げるものであることが知られている(例えば特許文献1参照)。しかし、脂肪酸エステルに流動点降下剤を添加することで流動点を降下させる方法においては、流動点以外の性能に悪影響を与える可能性及び、流動点降下剤が他の添加剤と反応しスラッジを生成する恐れがあり、基油によって添加剤を使い分ける必要があった。

・・・

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

本発明の目的は、

新規な脂肪酸エステル混合物等を提供すること

にある。

【課題を解決するための手段】

【0005】

本発明者らは、上記課題を解決するために、多数の試行錯誤を繰り返し、鋭意研究を重ねた結果、混合する脂肪酸エステルを特定の条件(指標)に基づいて選択することにより、混合物における流動点を低下(少なくとも最大の流動点を有する脂肪酸エステルの流動点よりも低下)しうること等を見出し、さらに鋭意研究を重ね、本発明を完成させた。」

「【0010】

[脂肪酸エステル混合物(組成物)]

本発明の脂肪酸エステル混合物(以下、単に混合物等ということがある)は、脂肪酸エステル(A)と、脂肪酸エステル(B)とを含む。

【0011】

ここで、

脂肪酸エステル(A)は、1種の脂肪酸エステル

であって、

その流動点(以下、FA等という)が、脂肪酸エステル混合物に含まれる脂肪酸エステルの中で最も高い脂肪酸エステル

(通常、1種の脂肪酸エステル)である。

【0012】

一方、

脂肪酸エステル(B)は、脂肪酸エステル(A)とは異なる脂肪酸エステル

である。なお、

脂肪酸エステル(B)の流動点(以下、FB等という)は、脂肪酸エステル(A)の流動点が最大となればよく

(すなわち、FM以下であればよく)、後述のように、さらに、FAとの関係において特定の流動点を示すものであってもよい。」

「【0018】

まず、混合物において、通常、脂肪酸エステル(A)の水酸基価(以下、HA等という)及び脂肪酸エステル(B)の水酸基価(以下、HB等という)を特定のものとしてもよい。なお、水酸基価は、試料1g中の水酸基に相当する水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)とされている。

【0019】

例えば、HA及びHBは

、いずれも45以下(HAが45以下、かつHBが45以下)]であってもよい。このような場合、HA及びHBは、いずれも(それぞれ)、45以下であればよく、43以下(例えば、42以下)、好ましくは40以下(例えば、38以下、37以下)、さらに好ましくは36以下(例えば、35以下)であってもよく、32以下(例えば、30以下、28以下、27以下、26以下、25以下、22以下、20以下、18以下、16以下、15以下、13以下、12以下、10以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下)

等とすることもできる

。」

「【0022】

脂肪酸エステル(A)及び(B)は、水酸価においてあまり差の無いものを選択してもよい。このような場合、

HAとHBとの差(HA-HB)の絶対値は、例えば

、44以下(例えば、43以下、42以下)、好ましくは40以下(例えば、38以下、37以下、36以下)、さらに好ましくは35以下(例えば、33以下、32以下)であってもよく、30以下(例えば、30以下、28以下、27以下、26以下、25以下、22以下、20以下、18以下、16以下、15以下、13以下、12以下、10以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下)

等とすることもできる

。」

「【0031】

上記のような水酸基価となるよう、脂肪酸エステル(A)及び(B)を組み合わせることにより、混合物の流動点を効率よく低いものとしやすい。この理由は定かではないが、例えば、水素結合の影響を小さくしやすく(ひいては結晶化も抑制しやすく、流動点低下に与える影響を小さくできる)こともその要因であると考えられる。

【0032】

混合物(脂肪酸エステル(A)、脂肪酸エステル(B))は、水酸基価とは異なる別の条件において、特定の範囲(値)を充足してもよい。

【0033】

特に、上記のような水酸基価を充足する場合(例えば、少なくとも、HA及びHBがそれぞれ特定値以下である場合)に加えて、このような特定の範囲を充足することで、

より一層効率よく流動点を低下

[例えば、混合物の流動点をFA未満にするのみならず、FB以下(特にFB未満)にまで低下]

しうる場合がある

【0034】

例えば

、混合物において、

脂肪酸エステル(A)の流動点FAと、脂肪酸エステル(B)の流動点FBとの差(FA-FB)は

、50°C以下(例えば、48°C、45°C以下、42°C以下等)程度の範囲から選択してもよく、40°C以下(例えば、38°C以下)、好ましくは36°C以下(例えば、35°C以下、35°C未満、34°C以下、33°C以下)、さらに好ましくは32°C以下(例えば、31°C以下以下)であってもよく、30°C以下(例えば、28°C以下、26°C以下、25°C以下、24°C以下、23°C以下、22°C以下、21°C以下、20°C以下、19°C以下、18°C以下、17°C以下、16°C以下、15°C以下、14°C以下、13°C以下、12°C以下、11°C以下、10°C以下、9°C以下、8°C以下、7°C以下、6°C以下、5°C以下等)

であってもよい

【0035】

FA-FBの下限値は、特に限定されず、0°C(すなわち、脂肪酸エステル(A)と(B)の流動点が同じ)であってもよく、有限値(例えば、0.05°C、0.1°C、0.2°C、0.3°C、0.5°C、1.0°C、1.2°C、1.5°C、1.8°C、2°C、2.5°C、3°C、3.5°C、4°C、4.5°C、5°C、5.5°C、6°C、6.5°C、7°C等)であってもよい。

【0036】

なお、

脂肪酸エステル(B)が、2種以上である場合

、いずれか1種の脂肪酸エステル(B)又はすべての脂肪酸エステル(B)の流動点(FA-FBとの差)が、上記の範囲を充足してもよい。混合物における脂肪酸エステル(B)の割合等にもよるが、好ましくは

すべての脂肪酸エステル(B)の流動点FBが上記の範囲を充足してもよい

。」

「【0046】

FTは

、上記のように

通常FA未満

であるが、本発明では、特に、脂肪酸エステル(B)の

流動点FB以下(特にFB未満)を充足することも可能である

・・・

【0048】

なお、

脂肪酸エステル(B)が、2種以上である場合

、いずれか1種の脂肪酸エステル(B)又はすべての脂肪酸エステル(B)の流動点(FB-FTとの差)が、上記の範囲を充足してもよい。混合物における脂肪酸エステル(B)の割合等にもよるが、

好ましくはすべての脂肪酸エステル(B)の流動点FBが上記の範囲を充足してもよい

。」

「【0095】

1.脂肪酸エステルの原料

脂肪酸エステルの製造に用いた原料は下記の通りである。

(アルコール)

2-エチルヘキサノール(2EH);商品名:2-エチルヘキサノール;三菱ケミカル株式会社製

ネオペンチルグリコール(NPG);三菱ガス化学株式会社製

トリメチロールプロパン(TMP);三菱ガス化学株式会社製

ペンタエリスリトール(PE);Perstorp社製

ジペンタエリスリトール(DiPE);Perstorp社製

グリセリン(GL);阪本薬品工業株式会社製

ポリエチレングリコール(PEG);青木油脂工業株式会社製

(脂肪酸)

ヘプタン酸(C7);商品名:OLERIS(登録商標) n-heptanoic acid;アルケマ株式会社製

オクタン酸(C8);商品名:ルナック8-98;花王株式会社製

イソノナン酸(iC9);商品名:キョーワノイックN;KHネオケム株式会社製

デカン酸(C10);商品名:ルナック10-98;花王株式会社製

ステアリン酸(C18); 商品名:STEARIC ACID 98% ;ミヨシ油脂株式会社製

イソステアリン酸(iC18);イソステアリン酸は、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、トール油脂肪酸、或はトール油脂肪酸などの不飽和脂肪酸の重合により副生したモノマー酸(例えば、TFA-45、築野食品工業株式会社製)中に含有される分岐脂肪酸を分離して得られる。

オレイン酸(OL);商品名:SINAR-OL;SOCI MAS社製

TFA-47;築野食品工業株式会社製

NAS-125N;築野食品工業株式会社製

ダイマー酸;商品名:Td216;築野食品工業株式会社製

トリマー酸;商品名:Td346;築野食品工業株式会社製

・・・

【0098】

4.脂肪酸エステルの製造

脂肪酸エステルは、次のようにして製造した。

【0099】

[脂肪酸エステルA]

攪拌器、温度計、冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、イソステアリン酸569g(2.00モル)、ネオペンチルグリコール91g(0.87モル)、及び触媒として、酸化スズを総量に対し0.05重量%仕込み、窒素雰囲気下で230°Cまで昇温した。230°C到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。水酸基価が5.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、エステル化粗物に対してそれぞれ0.2重量%の活性炭と活性白土を投入し、80°Cで30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去した。次いで、得られたエステル化ろ過物の過剰の酸と低沸点成分を薄膜蒸留器により留去してエステルAを得た。

・・・

【0103】

[脂肪酸エステルE]

ネオペンチルグリコールの代わりにペンタエリスリトール101g(0.75モル)、イソステアリン酸の代わりにオクタン酸324g(2.24モル)、デカン酸215g(1.25モル)を使用した以外は、エステルAと同様の方法により、エステルEを得た。

【0104】

[脂肪酸エステルF]

ネオペンチルグリコールの代わりにジペンタエリスリトール134g(0.53モル)、イソステアリン酸の代わりにヘプタン酸37g(0.29モル)、オクタン酸33g(0.23モル)、イソノナン酸469g(2.97モル)、デカン酸41g(0.24モル)を使用した以外は、エステルAと同様の方法により、エステルFを得た。

【0105】

[脂肪酸エステルG]

ネオペンチルグリコールの代わりにペンタエリスリトール110g(0.81モル)、イソステアリン酸の代わりにオクタン酸198g(1.37モル)、イソノナン酸164g(1.04モル)、デカン酸237g(1.38モル)を使用した以外は、エステルAと同様の方法により、エステルGを得た。

・・・

【0117】

5.脂肪酸エステル

脂肪酸エステルの水酸基価、流動点及び構成するアルコールのヒドロキシ基の数(ヒドロキシ数)をまとめたものを下記表に示す。

【0118】

【表1】

69

104

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【0119】

5.混合物(脂肪酸エステル混合物)

下記表に示す質量割合にて、脂肪酸エステルを混合し、混合物(脂肪酸エステル混合物)を得た。この混合物について、流動点等を含めた結果を下記表に示す。なお、表には、参考のため各脂肪酸エステル(混合していないもの)についても記載している。

【0120】

なお、表において「エステル」は、混合した脂肪酸エステルの種類と質量比(混合割合)に対応しており、例えば、「A/B=25/75」とは、エステルAとエステルBを質量比25/75で混合した混合物であることを示す。

また、表において、最大水酸基価とは、脂肪酸エステルのうち、最も高い水酸基価であることを示す。

さらに、脂肪酸エステルの数が3以上(脂肪酸エステル(B)が2以上)である場合、表において、水酸基価の差の絶対値及び流動点の差は、すべての脂肪酸エステル(B)について記載している。

【0121】

【表2】

77

95

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【0122】

【表3】

91

104

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【0123】

【表4】

90

104

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【0124】

【表5】

73

104

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【0125】

上記表の結果から明らかなように、特定の指標(条件)により、脂肪酸エステルを選択することにより、混合物における流動点を効率よく低下することができた。

【0126】

例えば、脂肪酸エステル(A)及び(B)の水酸基価をいずれも特定の値(例えば、45以下)とすることにより、混合物の流動点FTを脂肪酸エステル(A)の流動点FAよりも低くすることができた。

【0127】

特に、この指標(条件)に加えて、脂肪酸エステル(A)の流動点の差(FA-FB)を特定の値とする、総水酸基価を特定の値とする等の別の指標(条件)を組み合わせて充足するように脂肪酸エステルを選択することにより、より一層、効率よく混合物の流動点FTを低くする[例えば、脂肪酸エステル(B)の流動点FBよりも低くする]ことができた。

【0128】

一方、脂肪酸エステル(A)及び(B)のいずれか一方の水酸基価が特定の値(例えば、45)よりも十分に大きくなると、その混合割合によっては、混合物の流動点FTを脂肪酸エステル(A)の流動点FAよりも低くできない場合が生じる等、効率よく流動点を低下できなくなる場合があることがわかった。」

2 取消理由1(明確性要件)について

(1) 前提

特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。

(2) 検討

本件発明1は、脂肪酸エステル(A)及び脂肪酸エステル(B)それぞれについて、本件訂正前の請求項1~19において特定事項ではなかった脂肪酸エステル(化合物)の種類の数を特定するものであり、1種の脂肪酸エステルである「脂肪酸エステル(A)」と、

1~3種の「脂肪酸エステル(B)

のみ

からなる混合物であって、脂肪酸エステル(B)の流動点FBは、脂肪酸エステル(A)の流動点FA以下であり、「脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、

すべての脂肪酸エステル(B)

が、HBが36以下、FAとFBの差が25°C以下、及びFTがFB未満を充足する」ことを特定事項とするものである。

すなわち、請求項1の記載は、脂肪酸エステル(化合物)の種類の数を特定したことにより、脂肪酸エステル(化合物)をその種類毎に区別し、混合物に含まれる流動点が最も高い1種の脂肪酸エステルが「脂肪酸エステル(A)」となり、混合物に含まれるそれ以外の脂肪酸エステルは、異なる化合物であるにもかかわらず、全て「脂肪酸エステル(B)」と呼称することを特定するものと解される。その上で、脂肪酸エステル(B)と呼称される全ての各種脂肪酸エステルについて、個々のHBが36以下であり、FAとFBの差が25°C以下であり、FTがFB未満であることを特定事項とするものである。

この点に関し、本件特許明細書【0036】にも「

脂肪酸エステル(B)が、2種以上である場合

、いずれか1種の脂肪酸エステル(B)又はすべての脂肪酸エステル(B)の流動点(FA-FBとの差)が、上記の範囲を充足してもよい。混合物における脂肪酸エステル(B)の割合等にもよるが、

好ましくはすべての脂肪酸エステル(B)の流動点FBが上記の範囲を充足

してもよい。」と記載されている。

一方、同【0098】~【0128】には、前記1のとおり、【表1】に記載されるエステルA~エステルRを、エステル(A)またはエステル(B)とみなして扱うような記載がなされている。しかしながら、【表1】のとおり、エステルE、エステルF、エステルG、エステルK、エステルL及びエステルN等は、エステルを構成する脂肪酸が複数種あることに加え、アルコールが複数の水酸基を有すること等からも、それ自体が複数種の脂肪酸エステルの混合物であることは、後記(4)アでも述べるように技術常識から理解されるものであるから、これら複数種の脂肪酸エステルの混合物を1種の脂肪酸エステルとみなして扱うような本件特許明細書の記載は、前記したような脂肪酸エステル(化合物)を種類毎に区別する扱いとは相容れないものであり、本件発明1を不明確にするものである。

したがって、本件発明1は明確でない。

本件発明6、並びに、請求項1または6の引用形式等で記載される本件発明2~5及び7~11も、上記同様の理由から、明確でない。

(3) 令和7年7月4日提出の意見書における特許権者の主張

ア 混酸エステルである脂肪酸エステル(B)は、アルコールと2種以上の脂肪酸とのエステルだが、単純に、アルコールと各脂肪酸とのエステルを混合したものでないから、2種以上の脂肪酸エステルの混合物ではなく、1種のエステルである(少なくとも本件特許発明・明細書では、混酸エステルを1種の脂肪酸エステルとしている。)。本件特許明細書の【表1】でも、混酸エステルである脂肪酸エステルF、G、K、L、N等について、独立したものとしてHB、HA-HB等の値を記載しており、本件特許明細書は、2種以上の脂肪酸エステル(B)に含まれる混酸エステルを独立するものとした場合(【表5】のQ/F/GやR/Q/F/G)まで記載している。

イ 混酸エステルを1種の(独立した、まとまった)脂肪酸エステルとして位置付ける(解釈する)ことは、技術常識に照らしてもごく当然のことで何らおかしいことではない。例えば、甲A2は、混酸エステルについて流動点等の物性値を開示する(【0038】【0039】、【表2】の実施例1~5、比較例1、2等)。例えば、甲A1(表1等)、甲A4(第1~3表)、甲A6(第1~2表等)、甲A9(表2~3等)、甲B1(表1等)、甲B2(表1~2等)においても、混酸エステルを構成する脂肪酸エステルに分離することなく一体のものとして位置づけている。

ウ 脂肪酸エステル(A)についても、前記同様に、混酸エステルは1種の脂肪酸エステルであるから、本件発明1は明確である。

(4) 前記(3)の特許権者の主張について

ア 前記(3)アの主張について

脂肪酸エステルの混合物である混酸エステルを1種の脂肪酸エステルと称するのであれば、脂肪酸の種類や結合様式が異なるエステル群を、個別のエステルごとに複数種と解することも、エステル群として1種と解することも可能となり、一義的に特定することができないから、このような本件特許明細書の記載が、本件発明1~11の技術的事項を不明確なものとすることは、前記(2)で検討したとおりである。

例えば、本件特許明細書【表1】のエステルEを例に挙げて検討すると(【0099】【0105】)、エステルEは、ペンタエリスリトール(分子内に水酸基を4つ有する)0.75モルと、オクタン酸(C8)2.24モル及びデカン酸(C10)1.25モルを触媒反応させて製造された脂肪酸エステルであるから、少なくとも、ペンタエリスリトールの水酸基が4つともオクタン酸によりエステル化された脂肪酸エステルや、水酸基の3つがオクタン酸によりエステル化され、1つがデカン酸によりエステル化された脂肪酸エステル等を含むものであり、これらの脂肪酸エステルは、化合物として異なるものであって、流動点FB等の物性も異なることは、技術常識から明らかである。

そうしてみると、複数種の脂肪酸エステルの混合物を1種としてみなして扱うような本件特許明細書の記載は、前記(2)で検討したとおり、本件発明1~11を不明確とするものであるから、特許権者の主張は採用できない。

イ 前記(3)イの主張について

混酸エステルをまとまった脂肪酸エステルとして解釈すること自体が行われていることは、特許権者も主張するとおりであり、特定の製造方法で製造された混酸エステルの水酸基価や流動点等の物性を測定して表記すること自体を否定するものではない。

しかしながら、本件発明は、前記(2)のとおり、本件訂正前の請求項1~19においては特定事項ではなかった、脂肪酸エステルの種類の数を特定事項とするものであり、脂肪酸エステル(A)が1種であり、脂肪酸エステル(B)が1~3種であり、混合物は脂肪酸エステル(A)と脂肪酸エステル(B)のみからなるという、「

混合物」である本件発明に含まれる脂肪酸エステル(化合物)が2~4種であること

を特定事項とするものである。そうすると、このような本件発明において、技術常識から複数種の脂肪酸エステル(化合物)の混合物であることが明らかな混酸エステルについては1種の脂肪酸エステルとみなして扱うことは、前記アでも述べたとおり、本件発明を不明確にするものであるから、特許権者の主張は採用できない。

ウ 前記(3)ウの主張について

前記ア及びイで検討したとおりの理由から、脂肪酸エステル(A)に関する前記特許権者の主張も、採用できない。本件特許明細書の段落【0011】の脂肪酸エステル(A)に関する「その流動点(以下、FA等という)が、脂肪酸エステル混合物に含まれる脂肪酸エステルの中で最も高い脂肪酸エステル(

通常、1種

の脂肪酸エステル)」との記載も、本件発明を不明確にするものである。

(5) 小括

よって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。

3 取消理由2(実施可能要件)について

(1) 前提

本件特許明細書の記載が実施可能要件に適合するか否かは、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。

そして、発明の詳細な説明が実施可能要件に適合するといえるためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の「混合物」を製造することができ、かつ、当該「混合物」を使用することができることが、発明の詳細な説明において、明確かつ十分に記載されている必要がある。

(2) 検討

ア 本件発明1は、1種の脂肪酸エステルである「脂肪酸エステル(A)」と、

1~3種の「脂肪酸エステル(B)

のみ

からなる混合物であって、脂肪酸エステル(B)の流動点FBは、脂肪酸エステル(A)の流動点FA以下であり、エステル(A)及びエステル(B)を構成する脂肪酸はいずれも一価であり、脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが、脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールと異なるアルコールであり、「脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、

すべての脂肪酸エステル(B)

が、HBが36以下、FAとFBの差が25°C以下、及び

FTがFB未満

を充足する」ことを特定事項とするものである。

イ 本件特許明細書の段落【0031】~【0033】には、「上記のような水酸基価となるよう、脂肪酸エステル(A)及び(B)を組み合わせることにより、混合物の流動点を効率よく低いものとしやすい。・・・特に、

上記のような水酸基価を充足する場合(例えば、少なくとも、HA及びHBがそれぞれ特定値以下である場合)に加えて、このような特定の範囲を充足することで

、より一層効率よく流動点を低下[例えば、混合物の流動点をFA未満にするのみならず、FB以下(特にFB未満)にまで低下]

しうる場合がある

」と記載されている。ここでいう「上記のような水酸基価」とは、同【0019】の「例えば、HA及びHBは、いずれも45以下・・・さらに好ましくは36以下・・・等とすることもできる。」との記載から、45以下または36以下といった値であることが、また、「このような特定の範囲」とは、同【0022】や【0023】の記載から、HAとHBの差を意図するものと思われるが、そもそも本件発明1、2、4~8及び11はHAとHBの差を特定事項とするものではなく、本件特許明細書には、HA、HB、及び、両者の差が前記のとおりの一定以下である脂肪酸エステルの組み合わせであれば、FTがFB未満になるメカニズム等の具体的な記載は、何らなされておらず、HA、HB、及び、両者の差が一定の範囲であれば、脂肪酸エステルの混合物のFTがFB未満となることを、本件特許明細書の記載に接した当業者が理解できるとはいえない。また、同【0034】~【0036】等には、

FAとFBの差

についての記載もあるが、これらの記載も、FAとFBの差が一定以下であればFB>FTとなるメカニズム等を具体的に説明するものではないから、当該記載をもって、FAとFBの差が一定以下であれば、脂肪酸エステルの混合物のFTがFB未満となることを、本件特許明細書の記載に接した当業者が理解できるとはいえない。

ウ ここで、脂肪酸エステルの混合物の流動点が混合前の脂肪酸エステルの高い方の流動点よりも低くなる場合があることは、本件出願時の技術常識(要すれば、前記第5 2の決定の予告1において引用された甲A1、甲A2、甲A4、甲B1、甲B2等参照)を備えた当業者であれば理解し得るといえる。一方、甲A1及び甲A2等の記載からも明らかなように、本件発明1の脂肪酸エステル(A)と脂肪酸エステル(B)の水酸基価は、いずれも、潤滑油分野で通常用いられる各種脂肪酸エステルが広く充足する値であると認められるところ、例えば、甲A1の実施例4には、デカン酸とネオペンチルグリコールとのエステルと、ドデカン酸とネオペンチルグリコールとのエステルの混合物が記載され、甲A1の【表1】及び【0035】【0036】から当該混合物のHA、HB、及び、FAとFBの差は本件発明1で特定される範囲と認められるものの、FTがFB未満とならないことが開示されているように、HAとHBが一定以下であり、FAとFBの差が一定以下であれば、FTがFB未満となることが、本件出願時の技術常識から明らかともいえない。

エ 本件特許明細書には実施例として、【表1】の脂肪酸エステルA~Rの2~4種からなる脂肪酸エステル混合物(【表2】~【表5】)が記載されているが、これらの混合物と本件発明1の関係は、以下のとおりである。

(ア)【表2】に記載される混合物は、いずれもFTがFB未満でないから、本件発明1の特定事項を満たすものではない。

(イ)【表3】~【表4】のA/B、C/B、B/F及びB/Kは、エステルBを構成する脂肪酸が1価でなく、J/Lは、エステルLを構成する脂肪酸が1価でないから、本件発明1の特定事項を満たすものではない。

(ウ)【表3】~【表4】のC/D、G/J及びH/Fは、エステル(A)とエステル(B)のアルコールが同じであるから、本件発明1の特定事項を満たすものではない。

(エ)【表3】~【表4】のD/E、D/G、D/F、E/F及びG/Fについて、流動点の関係から脂肪酸エステル(A)に該当するエステルE及びGは、いずれもPE(分子内に水酸基を4つ有するペンタエリスリトール)と2種または3種の脂肪酸から製造されたものであり(【表1】【0103】【0105】)、同じく脂肪酸エステル(A)に該当するエステルFはDiPE(分子内に水酸基を6個有するジペンタエリスリトール)と4種の脂肪酸から製造されたものであるから(【表1】【0104】)、いずれの脂肪酸エステル(A)も3種を超える脂肪酸エステルを含むものと認められる。したがって、これらの混合物は、本件発明1の特定事項を満たすものではない。

(オ)【表4】のG/Hは、エステルGが、PE(ペンタエリスリトール)と3種の脂肪酸から製造されたものであるから(【表1】【0105】)、3種を超える脂肪酸エステルを含むものと認められるから、本件発明1の特定事項を満たすものではない。

(カ)【表5】のQ/F/G及びR/Q/F/Gは、いずれも脂肪酸エステル(A)に該当するエステルFが前記(エ)のとおり3種を超える脂肪酸エステルを含むものと認められるから、本件発明1の特定事項を満たすものではない。さらに、Q/F/Gはエステル(B)としてQに加えGを含むものであり、前記(オ)のとおりGは3種を超える脂肪酸エステルを含むことから、Q/F/Gはこの観点からも本件発明1の特定事項を満たさない。エステル(B)としてさらにエステルRを含むR/Q/F/Gも同様の理由から、本件発明1の特定事項を満たさない。

(キ) 以上のとおりであるから、本件特許明細書には、本件発明1の発明特定事項を全て満たす実施例は記載されていないといわざるを得ず、そもそも、混酸エステルに含まれる各脂肪酸エステルの流動点が不明である以上、混酸エステルを含む混合物においては、いずれの脂肪酸エステルが脂肪酸エステル(A)に該当するかを理解することもできない。

オ 本件特許明細書の【表3】~【表5】に記載される混合物(混酸エステルを1種の脂肪酸エステルとしている時点で、本件発明1の実施例でないことは、前記エのとおりである。なお、仮に、特許権者が主張するとおり、【表1】に記載されるエステルA~Rを1種の脂肪酸エステルとみなして扱うと、D/E、D/G、D/F、E/F、G/F、Q/F/G及びR/Q/F/Gという特定の8種の組み合わせが実施例相当とも解される。)が、本件発明1で特定されるFA、FB、FA-FBを満たすとしても、前記イのとおり、本件特許明細書には、本件発明1で特定されるFA、FB、FA-FBを満たすエステルの混合物であれば、FTがFB未満となるメカニズム等に関する具体的な記載はなされておらず、前記ウのとおり、このような特定事項を満たすエステルの混合物のFTが、必ずFB未満となるものではないことが技術常識である以上、本件特許明細書の【0031】~【0033】や【0034】~【0036】等のその他の記載を考慮しても、どのような脂肪酸エステル(A)と脂肪酸エステル(B)を組み合わせることにより、FTがFB未満になるかを、当業者が理解できたとはいえない。

したがって、これらの記載をもって、非常に様々な脂肪酸エステルの組み合わせをも包含する本件発明1の混合物を、当業者が過度な実験を要することなく製造できたとはいえない。

カ そうしてみると、本件特許明細書の記載をもって、本件特許出願時の技術常識を備えた当業者が、過度な実験を要することなく、本件発明1の特定事項を満たす混合物を製造できるとはいえない。

本件発明6、並びに、請求項1又は6の引用形式で記載される本件発明2~5及び7~11についても、同様の理由から、本件特許出願時の技術常識を備えた当業者が、過度な実験を要することなく、本件発明2~11の特定事項を満たす混合物を製造できるとはいえない。

(3) 令和7年7月4日提出の意見書における特許権者の主張

ア 本件特許明細書には、FTをFA未満にするための指標として、水酸基価(HA、HB)を選択すべきこと(【0018】【0019】)が記載され、さらにFB未満まで低下させるための指標として、例えばFA-FBを特定の範囲とするという指標を記載している(【0032】~【0035】等)。

本件特許明細書には、水酸基が46.6や52.1といった大きい脂肪酸エステルを組み合わせると、FTをFA未満にすら出来ない例(O/P、O/N)や、FA-FBが35.5°Cや45.0°Cのように大きいと、FTをFB未満にできない例(A/I、B/M、C/M)も記載されている。

イ 表3~5に記載の脂肪酸エステル(A)と、脂肪酸エステル(B)とのすべての組み合わせにおいて、本件発明の特定事項を充足する。例えば、【表3】のA/Bは、エステルA(水酸基価2.8、流動点-45.0°C)が脂肪酸エステル(A)に、エステルB(水酸基価0.1、流動点-47.5°C、FAとFBの差が2.5°C)が脂肪酸エステル(B)に該当し、混合物の流動点がエステルA、Bより低く、C/Bは、エステルB(同上)及びエステルC(水酸基価2.2、流動点-47.5°C)のいずれか一方が脂肪酸エステル(A)、他方が脂肪酸エステル(B)に該当し、混合物の流動点がエステルB、Cよりも低くなっている。

ウ 本件特許明細書の【表2】と【表3】~【表5】を比較すると、混合物の流動点をFB以下(特にFB未満)にまで低下させるための指標として、水酸基価(HA、HB)がそれぞれ特定値以下であることに加え、例えば、特定のFAとFBとの差という指標が妥当なことを合理的に認識でき、このような指標で脂肪酸エステル(A)と(B)の組み合わせを選択して混合物を得るために、過度な実験は必要でない。

(4) 前記(3)の特許権者の主張についての検討

ア 前記(3)アの主張について

本件特許明細書【0018】【0019】【0032】~【0035】の記載は、前記1のとおりである。本件発明の発明特定事項である脂肪酸エステル(B)の水酸基価(HB)が36以下であることは、【0019】に他の上限値と共に記載されるにすぎず、FAとFBとの差が25°C以下との特定も、【0034】に他の上限値と共に記載されるにすぎず、これらの記載及び本件特許出願時の技術常識から、脂肪酸エステル(A)の水酸基価HAが36.8以下で、脂肪酸エステル(B)の水酸基価HBが36以下であり、FAとFBの差が25°C以下の脂肪酸エステルの混合物の流動点FTがFBより低いことが明らかとはいえない。O/P、O/N、A/I、B/M、C/Mの記載も、脂肪酸エステル(A)の水酸基価HAが36.8以下で、脂肪酸エステル(B)の水酸基価HBが36以下であり、FAとFBの差が25°C以下の脂肪酸エステルの混合物の流動点FTが、FBより低いことを示すものではない。

イ 前記(3)イの主張について

表3~5に記載の脂肪酸エステル(A)と、脂肪酸エステル(B)とのすべての組み合わせにおいて、本件発明の特定事項を充足するものではないことは、前記(2)で検討したとおりである。エステルBはダイマー酸エステルのため、A/B及びC/Bは、本件発明の特定事項を充足するものではない。仮に、A/B及びC/Bの記載を参酌しても、エステルA、B及びCの水酸基価は0.1~2.8と、36又は36.8よりも格段に低いものであり、本件発明は水酸基価が2.8以下等と特定するものでもないため、特許権者の主張は、水酸基価が36以下又は36.8以下であることを特定事項とする本件発明に係る混合物を当業者が過度な実験を要することなく製造できることが発明の詳細な説明に開示されていたことに関する主張ではない。

ウ 前記(3)ウの主張について

前記ア及びイ、並びに、(2)において検討したとおり、【表2】~【表5】の記載は、水酸基価HAが36.8以下で、脂肪酸エステル(B)の水酸基価HBが36以下であり、FAとFBの差が25°C以下の脂肪酸エステルの混合物の流動点FTが、FBより低いことを示すものではない。

(5) 小括

以上のとおりであるから、本件特許明細書は、当業者が本件発明1~11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件発明1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してなされたものである。

4 取消理由3(サポート要件)について

(1) 前提

特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2) 検討

ア 本件発明1は、1種の脂肪酸エステルである「脂肪酸エステル(A)」と、

1~3種の「脂肪酸エステル(B)

のみ

からなる混合物であって、脂肪酸エステル(B)の流動点FBは、脂肪酸エステル(A)の流動点FA以下であり、エステル(A)及びエステル(B)を構成する脂肪酸はいずれも一価であり、脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが、脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールと異なるアルコールであり、「脂肪酸エステル(B)が2~3種である場合、

すべての脂肪酸エステル(B)

が、HBが36以下、FAとFBの差が25°C以下、及び

FTがFB未満

を充足する」ことを特定事項とするものであり、非常に多様な組成からなる混合物を包含し得るものである。

イ 本件特許明細書には前記3(2)ア、イ及びエで検討したとおりの記載がなされるのみである。脂肪酸エステルの混合物の流動点が混合前の脂肪酸エステルの高い方の流動点よりも低くなる場合があることは、前記3(2)ウのとおり本件出願時の技術常識を備えた当業者であれば本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識(要すれば、前記第5 2の決定の予告1において引用された甲A1、甲A2、甲A4、甲B1、甲B2等参照)から理解できるとしても、本件特許明細書の記載から、1種の脂肪酸エステルである「脂肪酸エステル(A)」と、

1~3種の「脂肪酸エステル(B)

のみ

からなる混合物であって、脂肪酸エステル(B)の流動点FBが、脂肪酸エステル(A)の流動点FA以下であり、エステル(A)及びエステル(B)を構成する脂肪酸はいずれも一価であり、脂肪酸エステル(B)を構成するアルコールが、脂肪酸エステル(A)を構成するアルコールと異なるアルコールであり、1~3種の脂肪酸エステル(B)がすべて、HB36以下、FAとFBの差が25°C以下であれば、混合物の流動点がいずれの脂肪酸エステルの流動点よりも低下すると当業者が理解できるとはいえないことは、前記3で検討したとおりである。

ウ 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、エステル系基油を含む潤滑油組成物において、流動点を低下させ、潤滑油組成物の適用温度範囲を広げる流動点降下剤は、流動点以外の性能に悪影響を与える可能性がある(【0002】)との背景技術の下、本件発明は

新規な脂肪酸エステル混合物等を提供

すること(【0004】)を解決しようとする課題とすることが記載されている。その上で、課題を解決するための手段として、「混合する脂肪酸エステルを

特定の条件(指標)に基づいて選択することにより

、混合物における

流動点を低下(少なくとも最大の流動点を有する脂肪酸エステルの流動点よりも低下)しうる

こと等を見出し」(【0005】)たと記載されている。

しかしながら、前記【0005】でいう「特定の条件(指標)」とはいかなる条件であるか、本件特許明細書の記載から明らかとはいえず、本件特許明細書の記載及び技術常識から、水酸基価HA、HBの値、HAとHBの差、及び、流動点FAとFBの差等が一定の値であれば、FT<FBとなることが明らかとはいえないことも、前記3で検討したとおりであって、FAとFBの差やHAとHBの差等の特定事項と、混合物の流動点(FT)との技術的関連性について当業者が理解することもできない。

エ このように、本件特許明細書等の記載によっては、「FTがFB未満」以外の本件発明の特定事項を満たす脂肪酸エステルの混合物の流動点(FT)が、FB未満となるメカニズムが不明であり、技術常識を考慮しても、FAとFBの差やHAとHBの差等の「FTがFB未満」以外の本件発明の発明特定事項と、混合物のFTがFB未満となることの技術的関連性が不明である以上、「FTがFB未満であり」との文言の記載によって、本件特許明細書に具体的に記載されていない非常に様々なFTがFB未満となる脂肪酸エステルの混合物をも包含する本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に十分な裏付けをもって記載されていたといえるものではない。

オ 以上のとおりであるから、非常に多様な混合物を包含する本件発明1は、その全体にわたり発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。本件発明6、並びに、請求項1又は6の引用形式等で記載される本件発明2~5及び7~11も、前記同様の理由から、発明の詳細な説明に記載されたものでない。

(3)令和7年7月4日提出の意見書における特許権者の主張について

ア 本件発明の課題は、混合物における流動点を効率よく低くすること、具体的には少なくとも最大の流動点を有する脂肪酸エステルの流動点よりも低くする(つまり、FTをFA未満にする)ことであり、FTをFB未満にすることを課題の大前提とするものではない。

イ 合議体が指摘する技術常識は、専ら、本件特許異議申立てで本件特許の取消理由(新規性、進歩性欠如等)を導くために提出された証拠に依拠するものであるから、サポート要件の判断の根拠として不適当である。

ウ 本件発明の課題は、FTをFA未満にすることであり、本件特許明細書には、「水酸基価」(HA、HB)がこの課題・課題の解決に関連していること(【0019】等)を記載し、このことを十分に裏付ける脂肪酸エステル(A)及び(B)の多種多様な組み合わせを、表2の「P」「N」として、水酸基価が大きいと、FTがFA未満にならなくなる組み合わせを含む形で具体的に開示している。

また、表3~表5は、いずれもFTがFBとなる(合議体注:「FB未満となる」の誤記と認める。)多種多様な脂肪酸エステルの組み合わせであり、FTがFB未満となる混合物は、水酸基価の調整とともに、FAとFBとの差を調整した脂肪酸エステルの組み合わせにより実現できると合理的に認識できる。

(4) 前記(3)の特許権者の主張についての検討

ア 前記(3)アの主張について

本件発明は、「FTがFB未満を充足する」ことを特定事項とするものであるから、本件発明が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるというためには、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、水酸基価HAが36.8以下で、脂肪酸エステル(B)の水酸基価HBが36以下であり、FAとFBの差が25°C以下の脂肪酸エステルの混合物の流動点FTが、FBより低いことが記載されている必要があることは明らかである。

イ 前記(3)イの主張について

特許異議の申立ての立証趣旨の相違により、各文献から把握される技術的事項が異なるとはいえない。潤滑油分野で通常使用される脂肪酸エステルである脂肪酸エステル(流動点FX)と脂肪酸エステルY(流動点FY、但しFX>FY)の混合物Z(流動点Z)について、FX>FZ>FYとなる場合が多くみられることは、特許権者が令和6年3月4日に提出した訂正請求書による訂正において、先行技術に開示されると認めた、甲A1~甲A6、甲A9、甲B1及び甲B2に記載される多くの混合物を特許請求の範囲から除く訂正を行っていることからも明らかである。

ウ 前記(3)ウの主張について

表2は、本件発明の特定事項であるFTがFB未満である混合物を開示するものではない。また、表3~表5がいずれもFTがFB未満の本件発明の特定事項を満たす混合物を開示するものでないことは、前記(2)及び前記3(2)においても検討したとおりであり、表2~表5の記載をもって、非常に多様な脂肪酸エステルの混合物を包含する本件発明が、その全体にわたり発明の詳細な説明に記載された発明であったということはできない。

(5) 小括

以上のとおりであるから、本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載された発明でなく、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。

第8 むすび

前記第7のとおり、請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同条同項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

また、請求項12~19に係る特許は、前記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項12~19に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

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