結論テキスト
特許第7465714号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7465714号の請求項1~6に係る特許を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024700994 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7465714号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年4月30日を出願日とする出願(特願2020-80428号)であって、令和6年4月3日に特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許に対し、令和6年10月10日に、特許異議申立人である平位 和也(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~6)がされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和7年 1月23日付け 取消理由通知
同年 3月28日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 4月25日付け 訂正拒絶理由通知
同年 5月29日 意見書及び手続補正書の提出(特許権者)
同年 7月29日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 9月 8日 応対記録(初回応対日)
同年 同月30日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年10月27日付け 手続補正指令書(方式)
同年11月13日 手続補正書(方式)の提出(特許権者)
同年12月11日付け 通知書
令和8年 1月14日 意見書の提出(申立人)
上記手続補正書(方式)は、令和7年9月30日提出の訂正請求書の「6 請求の趣旨」の欄において、「特許第7465714号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」と記載されていたものを、「特許第7465714号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」と補正するものである。
ここで、上記訂正請求書の7(2)イには、願書に添付した明細書の段落【0041】の記載を訂正することが記載され、上記訂正請求書と同時に訂正明細書を添付していたものである。
そうすると、上記訂正請求書の「6 請求の趣旨」の欄には明らかな誤記があったものといえ、これを補正することは、訂正請求書の要旨を変更するものでないから、上記補正を認める。
本件訂正請求の趣旨は、特許第7465714号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める、というものである。
令和7年9月30日に提出された訂正請求(以下「本件訂正」という。)について、以下の訂正を行うものである。当審により、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1において、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材と、を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
前記(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂を含み、
前記(C)硬化促進剤がイミダゾール系化合物を含む、半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」とあるのを、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材と、を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
前記(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂
であり
、
前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、
前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であり、
21
91
0001435165000001.jpg
前記(B)硬化剤はビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含み、
前記(C)硬化促進剤がイミダゾール系化合物を含
み
、
前記(D)無機充填材は、(d-1)平均粒子径が2μm以上100μm以下のアルミナ粉末と、(d-2)平均粒子径が0.01μm以上2μm未満のアルミナ粉末と、を含み、
前記(d-1)アルミナ粉末と前記(d-2)アルミナ粉末の質量含有比は、95:5~70:30である、
半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。
(2)訂正事項2について
願書に添付した明細書の段落【0041】に記載された「(d-2)微細球状シリカ粉末」を「(d-2)微細球状
アルミナ
粉末」に訂正する。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は請求項1を引用しており、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正がされるから、請求項1~6は一群の請求項である。
したがって、本件訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、一群の請求項である。
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正前の請求項1において、「(A)エポキシ樹脂」が「4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であ」ること、及び「4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂」が一般式(1)(当審注:一般式(1)は省略する。以下同様。)で表されることを限定し、「(D)無機充填材」が粒径の異なる2種のアルミナ粉末であって、かつそれらの質量含有比を特定して限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
本件の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、「(A)エポキシ樹脂」が一般式(1)で表される構造を含むこと(【0023】)、エポキシ樹脂を4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂とテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂を組み合わせて良いこと(【0024】)、4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂とテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂を1:1である混合物の市販品として、三菱ケミカル(株)製のYL6121、同YL7979H等が挙げられること(【0026】)、実施例3、4で上記市販品を用いた半導体封止用エポキシ樹脂組成物が記載されていることから、「(A)エポキシ樹脂」として、その構造とともに2つのビフェニル型エポキシ樹脂に限定したものであって、新規事項の追加に該当しない。
そして、本件明細書には、「(D)無機充填材」が高熱伝導性を高める観点から、(d-1)球状アルミナ粉末や(d-2)微細球状アルミナ粉末を用いること(【0038】)、これらを併用する場合、訂正事項2を踏まえると、(d-1)球状アルミナ粉末の平均粒子径が2μm以上100μm以下、(d-2)微細球状アルミナ粉末の平均粒子径が0.01μm以上2μm未満であること、それらの質量含有比が(d-1)球状アルミナ粉末:(d-2)微細球状アルミナ粉末が95:5~70:30であること(【0041】)が記載されていることから、2種のアルミナ粉末の平均粒子径及び質量含有比を限定したものであって、新規事項の追加に該当しない。
また、特許請求の範囲を減縮しているから、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に該当しない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と、明細書の記載との整合性を図るためのものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2は、本件明細書の段落【0041】において、「(d-2)微細球状シリカ粉末」を「(d-2)微細球状アルミナ粉末」に訂正するものであるところ、同【0038】には、「高熱伝導性を高める観点から、アルミナが好ましい。なかでも(d-1)球状アルミナ粉末や、(d-2)微細球状アルミナ粉末を用いると高熱伝導性が得られるため好ましい。」と記載されており、「(d-1)」及び「(d-2)」がいずれもアルミナ粉末であることが理解できる。
そして、訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、新規事項の追加に該当しない。
したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)独立特許要件について
訂正前の請求項1~6の全てについて特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第4~6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、順に「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材と、を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
前記(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であり、
前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、
前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であり、
20
89
0001435165000002.jpg
前記(B)硬化剤はビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含み、
前記(C)硬化促進剤がイミダゾール系化合物を含み、
前記(D)無機充填材は、(d-1)平均粒子径が2μm以上100μm以下のアルミナ粉末と、(d-2)平均粒子径が0.01μm以上2μm未満のアルミナ粉末と、を含み、
前記(d-1)アルミナ粉末と前記(d-2)アルミナ粉末の質量含有比は、95:5~70:30である、
半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂と前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂との質量比が、20:80~80:20である、請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩素含有量が200ppm以下である、請求項1又は2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)無機充填材の熱伝導率が、20W/m・K以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物により、半導体素子が封止される、半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置が、AP(App1ication Processor:アプリケーションプロセッサ)又はGPU(Graphics Processing Unit:グラフィックスプロセッシングユニット)を含む、半導体装置。」
(1)申立理由1-1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
本件の請求項1、2、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1、2、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2(甲第2号証に基づく新規性欠如)
本件の請求項1、2、5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1、2、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由1-3(甲第5号証に基づく新規性欠如)
本件の請求項1、2、5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1、2、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)
本件の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~7号証に記載された事項に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由2-2(甲第2号証に基づく進歩性欠如)
本件の請求項1~6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3~7号証に記載された事項に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由2-3(甲第3号証に基づく進歩性欠如)
本件の請求項1~6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2、4~7号証に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由2-4(甲第4号証に基づく進歩性欠如)
本件の請求項1~6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1~3、5~7号証に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(8)申立理由2-5(甲第5号証に基づく進歩性欠如)
本件の請求項1~6に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1~4、6、7号証に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(9)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
理由の概要は以下のとおり。
ア 本件明細書の実施例1~3と比較例1とを比較すると、エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であることで、熱伝導性が高いことが示されているが、この実施例及び比較例で用いているエポキシ樹脂は、ビフェニル型エポキシ樹脂のみである。そうすると、本件発明の課題を達成できるのは特定の構造を有するビフェニル型エポキシ樹脂のみの場合だけであり、どのようなエポキシ樹脂を用いた場合であっても、本件発明の課題を達成できる程度に本件明細書において裏付けられていない。
イ 実施例1~3では、エポキシ樹脂の塩素含有量が500ppmである実施例3よりも、エポキシ樹脂の塩素含有量が20ppmである実施例1、同400ppmの実施例2の方が、熱伝導率が低いことが示されていることから、200ppm以下とすることで、本件発明の効果が高められていることが、本件明細書において裏付けられていない。
ウ エポキシ樹脂(A)の塩素含有量が600ppm以下であれば、本件発明の課題が達成できること、さらには、その塩素含有量を200ppm以下にすることで、よりその効果が高められることまでは、本件明細書において裏付けられていない。
(1)申立書に添付した証拠方法
・甲第1号証:特開2003-286328号公報
・甲第2号証:特開2009-286843号公報
・甲第3号証:特開2009-120813号公報
・甲第4号証:特開2006-77096号公報
・甲第5号証:特開2014-34629号公報
・甲第6号証:特開2019-65224号公報
・甲第7号証:パナソニック電工技報(Vol.56 No.4)
・参考資料1:“基礎からわかるGPU性能・特徴や選び方のポイント NTTコミュニケーションズ 法人のお客様“ [令和6年8月26日検索] [online]、インターネット<https://www.ntt.com/business/sdpf/knowledge/archive_05.html>
以下「甲第1号証」、「参考資料1」等を、番号にしたがって「甲1」、「参1」等という。
(2)特許権者が令和7年3月28日及び同年5月29日提出の意見書に添付した証拠方法
・乙第1号証:実験成績証明書
(3)特許権者が令和7年9月30日提出の意見書に添付した証拠方法
・乙第1号証:実験成績証明書(再度添付)
・乙第2号証:エポキシ製品案内(三菱ケミカル株式会社)
・乙第3号証:エポキシ樹脂のご紹介(三菱ケミカル株式会社)
・乙第4号証:実験成績証明書
以下「乙第1号証」等を、「乙1」等という。
(4)当審において職権調査で発見した証拠方法
・引用文献A:特開2015-3972号公報
以下「引用文献A」を、「引A」という。
(5)申立人が令和8年1月14日提出の意見書に添付した証拠方法
・参考資料1:特開2019-176023号公報
・参考資料2:特開2019-44006号公報
以下、申立人による「参考資料1」等を、「申立参1」等という。
当審において通知された取消理由通知(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(新規性欠如)
本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項4~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明並びに甲6、甲7及び引Aに基いて本件特許の出願前に容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)取消理由3(サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
理由の概要は以下のとおり。
本件明細書の実施例1~3によれば、半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関し、本件発明の課題を達成できることが実現されているのは、特定の構造を有するビフェニル型エポキシ樹脂のみを使用した場合だけであるのに対し、どのようなエポキシ樹脂を用いた場合であっても、本件発明の課題を達成できることは本件明細書において裏付けられているとはいえない。
また、実施例1~3では、エポキシ樹脂の塩素含有量が500ppmである実施例3よりも、エポキシ樹脂の塩素含有量が20ppmである実施例1及び塩素含有量が400ppmである実施例2の方が熱伝導性が低いことが示されていることから、本件発明において、エポキシ樹脂の塩素含有量を低減させること、具体的には200ppm以下とすることによって、本件発明の効果が高められていることは、本件明細書において裏付けられているとまではいえない。
以下に述べるように、当審において通知した取消理由、及び、申立書に記載された申立理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
取消理由1(甲2に基づく新規性欠如)及び取消理由2(甲2に基づく進歩性欠如)を検討するにあたり、第4の1の(2)申立理由1-2及び(5)申立理由2-2も取消理由1及び取消理由2と同じ甲2に基づくものであるから、これらを併せて検討する。
(1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤および無機充填材を必須成分として含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記エポキシ樹脂は、次式(1)
21
61
0001435165000003.jpg
で表される構造のビスフェノールF型エポキシ樹脂を含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化体で半導体素子が封止されていることを特徴とする半導体装置。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記ブロッキング問題は封止材料の粉体加工性および作業性を著しく悪化させるため、安定生産性の観点から低粘度樹脂組成物の開発を困難なものにしている。
【0004】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、低粘度かつ耐ブロッキング性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置を提供することを課題としている。」
「【0017】
本発明において使用される硬化剤は、エポキシ樹脂と反応するフェノール性水酸基を有する樹脂であれば特に限定されない。具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のナフタレン骨格含有フェノール樹脂等、各種の多価フェノール化合物やナフトール化合物が例示される。これらは1種に限定されず、複数種を組み合わせて使用してもよい。フェノール性水酸基を有する樹脂の含有量は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂とフェノール性水酸基を有する樹脂との当量比(OH当量/エポキシ当量)が0.5~1.5の範囲、好ましくは0.8~1.2の範囲となるように配合することができる。当量比が0.5~1.5の範囲外であると、エポキシ樹脂組成物の硬化特性が低下したり、成形後の硬化物の耐湿性が低下する場合がある。」
「【0018】
本発明に使用される無機充填材としては、一般的に半導体封止用として使用されるものであればよく、その種類は特に限定されない。例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。無機充填材の含有量も特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂組成物全量に対して80~93質量%とすることができる。これによってエポキシ樹脂組成物の吸湿性を効果的に低下させ、耐リフロークラック性を向上させることができる。無機充填材の配合量が過少であると、熱伝導性、熱膨張率等の特性が低下する場合がある。逆に過剰であると、成形時の流動性と金型充填性が低下する場合がある。」
「【0019】
また本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂の硬化反応を促進させるために硬化促進剤を含有することが望ましい。硬化促進剤としては、エポキシ基とフェノール性水酸基の反応を促進するものであれば特に限定されない。例えば、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートやトリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、ジアザビシクロウンデセン等の三級アミン類、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類が挙げられる。これらは1種に限定されず、複数種を組み合わせて使用してもよい。」
「【実施例】
【0024】
<実施例1~5および比較例1~4>
表1に示す配合量で各成分を配合し、ブレンダーで30分間混合して均一化した後、80°Cに加熱した2本ロールで混練溶融させて押し出し、冷却した後、粉砕機で所定粒度に粉砕して粉粒状(パウダー状)の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0025】
なお、表1におけるエポキシ樹脂組成物の配合材料としては、下記のものを用いた。
エポキシ樹脂1:前記式(1)で表される構造のビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成(株) YSLV-80XY)
エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株) YX4000H) エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株) YL-6121H)
エポキシ樹脂4:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株) YL-6810)
硬化剤1:フェノールノボラック樹脂(明和化成(株)製 DL92)
硬化剤2:フェノールノボラック樹脂(明和化成(株)製 DL65)
硬化剤3:ビフェニルアラルキル樹脂(明和化成(株) MEH7851SS)
無機充填材:溶融シリカ(電気化学工業(株)製、FB940)
カップリング剤:信越化学工業(株)製、KBM8020
離型剤:カルナバワックス(大日化学(株)製、F1-100)
着色剤:カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA600MJ)
硬化促進剤1:明和化成(株)製 KXM
硬化促進剤2:四国化成(株)製 2P4MHZ
上記粉粒状の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の評価方法は下記のとおりである。
<スリット粘度(Pa・s)の測定>
矩形粘度測定機(松下電工(株)製)を用いてスリット粘度を測定した。幅W、厚さDの長尺スリットの上流側と下流側にそれぞれ圧力センサS
1
、S
2
を設け(センサ間距離L)、金型温度を175°Cとして注入圧:10MPa、注入速度Q:1.3mm/s、ポット保持時間:10sの条件で圧力センサS
1
の上流 からスリット内に半導体封止用エポキシ樹脂組成物を注入してスリット内を通過させ、圧力センサS
1
、S
2
により圧力損失ΔPを測定し、下記式からスリット 粘度η(Pa・s)を求めた。
【0026】
ΔP=(12η/WD
3
)QL
<ブロッキング性評価>
上記粉粒状の半導体封止用エポキシ樹脂組成物3kgを25°C(シリカゲル入り)環境下で24h放置し、その後ブロッキング量を計量し、試験に供した半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対するブロッキング量からブロッキング率(%)を求めた。
【0027】
結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
55
69
0001435165000004.jpg
【0029】
表1にみられるように、前記式(1)で表される構造のビスフェノールF型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、硬化剤および無機充填材を必須成分として含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物(実施例1~5)は、低粘度でかつ耐ブロッキング性に優れていることが確認できた。 【0030】
他方、前記式(1)で表される構造のビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いていない半導体封止用エポキシ樹脂組成物(比較例1~4)は、低粘度化および耐ブロッキング性のうちの少なくともいずれかを実現することができないことが確認できた。」
イ 甲2に記載された発明
甲2の表1における比較例1に着目すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
「配合材料として、
エポキシ樹脂3: 6.3質量部、
硬化剤1: 2.3質量部、
硬化剤2: 0.7質量部、
硬化剤3: 0.6質量部、
無機充填材: 88.0質量部、
カップリング剤: 0.4質量部、
離型剤: 0.3質量部、
着色剤: 0.2質量部、
硬化促進剤1: 1.0質量部、
硬化促進剤2: 0.2質量部、
からなる合計100質量部を、ブレンダーで30分間混合して均一化した後、80°Cに加熱した2本ロールで混練溶融させて押し出し、冷却した後、粉砕機で所定粒度に粉砕して得た、粉粒状(パウダー状)の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
ここで、配合材料の詳細は以下のとおり。
・エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株) YL-6121H)
・硬化剤1:フェノールノボラック樹脂(明和化成(株)製 DL92)
・硬化剤2:フェノールノボラック樹脂(明和化成(株)製 DL65)
・硬化剤3:ビフェニルアラルキル樹脂(明和化成(株) MEH7851SS)
・無機充填材:溶融シリカ(電気化学工業(株)製、FB940)
・カップリング剤:信越化学工業(株)製、KBM8020
・離型剤:カルナバワックス(大日化学(株)製、F1-100)
・着色剤:カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA600MJ)
・硬化促進剤1:明和化成(株)製 KXM
・硬化促進剤2:四国化成(株)製 2P4MHZ」(以下「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「エポキシ樹脂3」は、「ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)YL-6121H)」であるところ、該「YL-6121H」は、本件明細書の段落【0026】において、現在の三菱ケミカル(株)製の「YL6121H(エポキシ当量172、塩素含有量500ppm、R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
が水素原子である構造とR
2
、R
3
、R
6
及びR
7
がメチル基である構造が1:1の混合物 )」と記載されたエポキシ樹脂と同じものである。ここで、上記「R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
」は、本件明細書の段落【0023】に示された一般式(I)で表される構造における置換基である。
そうすると、甲2発明の「エポキシ樹脂3」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」であって、「(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であり、前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂」に相当する。
(イ)甲2発明の「硬化剤3」は、「ビフェニルアラルキル樹脂(明和化成(株) MEH7851SS)」であり、甲2の段落【0017】において、「硬化剤は、エポキシ樹脂と反応するフェノール性水酸基を有する樹脂であれば特に限定されない。具体的には、・・・、ビフェニルアラルキル樹脂、・・・、各種の多価フェノール化合物・・・が例示される。」ことが記載されている。
他方、本件明細書の段落【0067】には、「硬化剤」として「・(b-1) MEHC-7851SS:ビスフェニルアラルキル型フェノール樹脂、・・・、 明和化成(株)製、商品名」と記載されており、甲2発明の「硬化剤3」とは少し表記が異なるが、製造会社、番号が同じであることから、甲2発明の「硬化剤3」は、本件発明1の「ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含」む「(B)硬化剤」に相当する。
(ウ)甲2発明の「硬化促進剤2」は、「四国化成(株)製 2P4MHZ」であって、本件明細書の段落【0068】には、「・(c-1)2P4MHZ:四国化成工業(株)、商品名」と記載されており、両者は同じ商品名であることから、甲2発明の「硬化促進剤2」は、本件発明1の「(C)硬化促進剤」に相当する。
そして、四国化成工業(株)のウェブサイト(https://kagaku.shikoku.co.jp/product s/resin-additive/resin-additive-p5/#001)には、「イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤 キュアゾール」の「硬化性一覧」という表中に「2P4MHZ」が記載されていることから、甲2発明の「四国化成(株)製 2P4MHZ」は 、イミダゾール化合物であって、本件発明1の「イミダゾール系化合物を含」む「(C)硬化促進剤」に相当する。
(エ)甲2発明の「無機充填材」は、本件発明1の「(D)無機充填材」に相当する。
(オ)甲2発明の「半導体封止用エポキシ樹脂組成物」は、本件発明1の「半導体封止用エポキシ樹脂組成物」に相当する。
以上から、本件発明1と甲2発明とは、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材と、を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
前記(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であり、
前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、
前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であり、
(一般式(1)は省略する。)
前記(B)硬化剤はビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含み、
前記(C)硬化促進剤がイミダゾール系化合物を含む、
半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
無機充填材に関し、本件発明1は「(d-1)平均粒子径が2μm以上100μm以下のアルミナ粉末と、(d-2)平均粒子径が0.01μm以上2μm未満のアルミナ粉末と、を含み、前記(d-1)アルミナ粉末と前記(d-2)アルミナ粉末の質量含有比は、95:5~70:30である」のに対し、甲2発明は溶融シリカである点
イ 検討
(ア)新規性について
甲2発明では、無機充填材が溶融シリカを1種用いるものであり、平均粒子径の異なる2種のアルミナ粉末を有さないから、相違点2-1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲2発明であるとはいえない。
(イ)進歩性について
甲2は、低粘度かつ耐ブロッキング性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置を提供することを課題とすること(【0004】)、無機充填材として一般的に半導体封止用として使用されるもの、例えば溶融シリカ、アルミナなどが挙げられ、エポキシ樹脂組成物全量に対して80~93質量%とすること(【0018】)が記載されている。
これらの記載によると、甲2には、無機充填材を2種以上併用すること、及びそれぞれの平均粒子径を特定の数値範囲にすることが記載されていないため、甲2発明の無機充填材である溶融シリカを、平均粒子径が異なる2種のアルミナ粉末にすることは動機付けられない。
そして、甲2発明は、甲2における比較例1に基づくものであるところ、甲2はビスフェノールF型エポキシ樹脂(ビフェニル型エポキシ樹脂ではない)を用いて低粘度かつ耐ブロッキング性を改良することを目的とするものであるから、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いていない甲2発明において、溶融シリカに代えて平均粒子径の異なる2種のアルミナ粉末を採用することなど、当業者であっても想定しえない。
さらに、甲1、甲3~甲7をみても、エポキシ樹脂の塩素含有量が低いエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物に平均粒子径の異なる2種のアルミナ粉末を含有すること、及びそうすることにより、熱伝導性、流動性、及び成形性に優れることを教示する記載はないから、甲2発明において、溶融シリカに代えて平均粒子径の異なる2種のアルミナ粉末を採用することを当業者が想到し得ないものである。
したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、熱伝導性、流動性に優れ、ガラス転移温度が高く、反りの小さい半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することであると認められる(【0008】)。
このような効果は、エポキシ樹脂中の塩素含有量を特定の範囲に規定することにより、高熱伝導性を有し、高流動性で、反りの小さい樹脂組成物が得られることを見出したこと(【0007】)、エポキシ樹脂として、4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂を用いて流動性、熱伝導率を高くすること(【0024】)、硬化促進剤として、イミダゾール系化合物を用いて耐熱性及び適度な流動性が得られること(【0035】)、その際にエポキシ樹脂の塩素含有量を600ppm以下とすることで、イミダゾール系化合物がエポキシ樹脂に与える弊害を抑えて、熱伝導率を高くすること(【0025】)により達成されている。
そして、実施例3、4は、本件発明1である半導体封止用エポキシ樹脂組成物であるところ、スパイラルフロー(流動性)、熱伝導性(ホッドディスク法)、ガラス転移温度、反り(パッケージ)、狭部充填性(パッケージ)において、いずれも良好であることが示されている。
また、乙4には、本件明細書の実施例1において、(d-1)成分及び(d-2)成分の配合量の全量を(d-1)成分又は(d-2)成分とする以外、実施例1と同様の方法で製造した比較例1A、比較例2Aにおいて、同様の評価をすると、(d-1)成分と(d-2)成分を単独で使用するときには、粘度が高く流動性が無いため成形体を製造することができなかったことが記載されていることから、平均粒子径が異なる2種のアルミナ粉末を用いることにより、粘度が低く、流動性が良好で成形体を製造できる半導体封止用エポキシ樹脂組成物となることが理解できる。
そうすると、エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響することに着目していない甲2発明では、該エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響を与えることを想定し得ないものであって、本件発明1の効果を予測することはできない。
(エ)申立人の意見書における主張について
申立人は、意見書において、参考資料1及び2(申立参1及び2)に見られるように、半導体封止用樹脂組成物に互いに異なる平均粒子径を有する2種類のアルミナ粉末を配合することは周知の技術的手段であり、その平均粒子径を2μm以上100μm以下及び0.01μm以上2μm未満とし、かつその質量含有比を95:5~70:30とすることは当業者が適宜なしうる設計的事項に過ぎないし、甲2発明は比較例1に基づくものであるが、必ずしも実用的でない組成物を示すものではなく、甲2発明の性能改善のために参考資料1及び2に記載の周知技術を適用することは当業者であればなし得ることである旨主張している。
しかしながら、上記(イ)に示したように、甲2には、無機充填材を2種以上併用することが記載されていない上、低粘度かつ耐ブロッキング性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することを目的として、エポキシ樹脂としてビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いるものであるところ、該ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いない比較例1に基づく甲2発明において、さらに無機充填材(溶融シリカ)を平均粒子径が異なる2種のアルミナ粉末に代えることは、当業者が申立参1及び2に接したとしても容易になし得ることとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(オ)小括
本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~甲7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(2)と同様の理由により、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~甲7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
本件発明1~6は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~甲7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
申立理由3は、取消理由3(サポート要件違反)と同旨であるので、併せて検討する。
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の段落【0006】によると、本件発明が解決しようとする課題は、熱伝導性、流動性に優れ、ガラス転移温度が高く、反りの小さい半導体封止用エポキシ樹脂組成物、並びに該半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いた半導体装置を提供することであると認められる(以下「本件発明の課題」という。)。
(3)本件発明1について
本件明細書には、エポキシ樹脂中の塩素含有量を特定の範囲に規定することにより、高熱伝導性を有し、高流動性で、反りの小さい樹脂組成物が得られることを見出し、本発明が(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材とを含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、前記(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、前記(C)硬化促進剤がイミダゾール化合物を含むこと(【0007】)、エポキシ樹脂として、4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂を用いることで流動性、熱伝導率が高くなること(【0024】)、エポキシ樹脂の塩素含有量を600ppm以下とすることで、イミダゾール系化合物を用いてもエポキシ樹脂の結晶性又はメソゲンの配列に影響を与えることなく、熱伝導率を高くできること(【0025】)、フェノール系硬化剤として、成形時における流動性を適切に調整できる点でビフェニルアラルキル型フェノール樹脂が好ましいこと(【0031】)、硬化促進剤として、イミダゾール系化合物を用いることで耐熱性及び適度な流動性が得られること(【0035】)、イミダゾール系化合物として、吸湿性が低く、耐リフロー性に優れ、保管ライフが長く、反りが小さく、硬度が良好な半導体装置を得る観点から、フェニルイミダゾール系化合物が好ましいこと(【0036】)が記載されている。
これらの記載によると、(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材とを含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、前記(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、前記(C)硬化促進剤がイミダゾール化合物を含むこと(以下「技術的事項」という。)で、本件発明の課題を解決できることが認識できる。
次いで実施例を見てみると、実施例3、4は、上記技術的事項を有する(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物とすることで、スパイラルフロー(流動性)、熱伝導性(ホッドディスク法)、ガラス転移温度、反り(パッケージ)、狭部充填性(パッケージ)において、いずれも良好であることが示されている。
そして、本件発明1は、上記技術的事項を有するものである。
したがって、本件明細書は、本件発明1が本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されており、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすといえる。
(4)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(3)で述べたと同様の理由により、本件明細書は、本件発明2~6が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、本件明細書の実施例及び比較例では、無機充填材の組成は全て同一であり、この組成をもって、(d-1)平均粒子径が2μm以上100μm以下のアルミナ粉末と、(d-2)平均粒子径が0.01μm以上2μm未満のアルミナ粉末と、を含み、前記(d-1)アルミナ粉末と前記(d-2)アルミナ粉末の質量含有比は、95:5~70:30であることまで拡張ないし一般化できないし、(d-1)粉末の平均粒子径が2μmかつ(d-2)粉末の平均粒子径が1.9μmであるときにも、本件発明の効果が得られることを本件明細書の記載及び技術常識から理解できない旨主張している。
そこで検討する。
上記(3)に示したように、上記技術的事項とすることで、熱伝導性、流動性に優れ、ガラス転移温度が高く、反りを小さくすることが理解でき、実施例において、本件発明の課題を解決することが示されている。
そうすると、本件発明1に係る半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、本件発明の課題を解決できると認識される上記技術的事項をすべて含んだ上で、さらに(D)無機充填材を(d-1)及び(d-2)に係る発明特定事項により限定したものであるから、上記(d-1)及び(d-2)に係る発明特定事項はサポート要件の判断を左右しない。
したがって、当該主張は妥当でなく、採用できない。
(6)小括
本件発明1~6は、特許法第36条第6項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、取消理由3によって取り消すことはできない。
(1)申立理由1-1及び2-1(甲1に基づく新規性、進歩性欠如)について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、硬化促進剤を必須成分として含有し、半導体素子が搭載された基板の片面にトランスファー成形で封止成形するために用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物であること(請求項1)、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を用いること(請求項7)、エポキシ樹脂の少なくとも一部として、化学式(A)、化学式(B)、化学式(C)、化学式(D)で表されるエポキシ樹脂から一つ以上選ばれるものを用い、且つ硬化剤として化学式(E)、化学式(F)、化学式(G)で表されるフェノール系樹脂から一つ以上選ばれるものを用いること
30
64
0001435165000005.jpg
・・・
28
62
0001435165000006.jpg
(・・・化学式(D)のエポキシ樹脂は、化学式D1と化学式D2のものを等質量混合したものである。)
・・・
26
62
0001435165000007.jpg
26
47
0001435165000008.jpg
(・・・化学式(F)においてnは1~4の整数である。化学式(G)においてnは0~3の整数である。)(請求項8)、化学式(A)で表されるエポキシ樹脂と、化学式(B)~(D)で表されるエポキシ樹脂から一つ以上選ばれるエポキシ樹脂とを併用すること(請求項9)、半導体素子が搭載された基板の片面に、上記エポキシ樹脂組成物をトランスファー成形して封止して成る片面封止型半導体装置であること(請求項11)、実施例7(表1-1)で化学式(A)のエポキシ樹脂、化学式(D)のエポキシ樹脂、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、溶融シリカを含むエポキシ樹脂組成物が記載されている。
そこで、上記実施例7(表1-1)に着目し、段落【0043】に記載された各成分を同【0042】に記載された調製方法で得られたエポキシ樹脂組成物として整理すると、以下に示す発明が記載されていると認める。
「化学式(A)のエポキシ樹脂 6.9質量部、
化学式(D)のエポキシ樹脂 4.6質量部、
化学式(F)のフェノール系樹脂 1.6質量部、
化学式(G)のフェノール系樹脂 3.8質量部、
2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール 0.5質量部、
2-フェニルイミダゾール 0.15質量部、
カルナバワックス 0.3質量部、
溶融シリカ 81質量部、
カップリング剤 0.3質量部、
をミキサーで十分均一になるまで混合した後、加熱ロールで5分間混練し、混練物を冷却固化した後に粉砕機で粉砕して調製したエポキシ樹脂組成物。
各成分の詳細は以下のとおり。
・化学式(A)のエポキシ樹脂:三井化学社製「VG3101L」
・化学式(D)のエポキシ樹脂:ジャパンエポキシ社製「YL6121H」
・化学式(F)のフェノール系樹脂:明和化成社製「MEH7851SS」
・化学式(G)のフェノール系樹脂:明和化成社製「DL92」
・2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール:四国化成社製「2PHZ」
・2-フェニルイミダゾール:四国化成社製「2PZ」
・溶融シリカ:平均粒径15μm
・カップリング剤:γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン」(以下「甲1発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
a 甲1発明の「化学式(D)のエポキシ樹脂」は、ジャパンエポキシ社製「YL6121H」であるところ、該「YL-6121H」は、本件明細書の段落【0026】において、現在の三菱ケミカル(株)製の「YL6121H(エポキシ当量172、塩素含有量500ppm、R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
が水素原子である構造とR
2
、R
3
、R
6
及びR
7
がメチル基である構造が1:1の混合物 )」と記載されたエポキシ樹脂と同じものである。ここで、上記「R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
」は、本件明細書の段落【0023】に示された一般式(I)で表される構造における置換基である。
そうすると、甲1発明の「化学式(D)のエポキシ樹脂」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」に相当する。
そして、甲1発明は、「エポキシ樹脂」として「化学式(A)のエポキシ樹脂」、「化学式(D)のエポキシ樹脂」を含むものであるから、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」と甲1発明の「エポキシ樹脂」は、「エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂」を含み、「前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であ」る限りにおいて一致する。
b 甲1発明の「化学式(F)のフェノール系樹脂硬化剤」は、明和化成社製「MEH7851SS」であるところ、甲1の請求項8には硬化剤として化学式(F)で表されるビフェニルアラルキル型フェノール系樹脂を用いることが記載されている。
そうすると、甲1発明の「化学式(F)のフェノール系樹脂硬化剤」は、本件発明1の「ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含」む「(B)硬化剤」に相当する。
c 甲1発明の「2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール」、「2-フェニルイミダゾール」は、イミダゾール化合物であるところ、甲1の請求項7には硬化促進剤としてイミダゾール化合物を用いることが記載されている。
そうすると、甲1発明の「2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール」、「2-フェニルイミダゾール」は、本件発明1の「イミダゾール系化合物を含」む「(C)硬化促進剤」に相当する。
d 甲1発明の「溶融シリカ」は、本件発明1の「(D)無機充填材」に相当する。
e 甲1発明の「エポキシ樹脂組成物」は、甲1の請求項1によると、半導体封止用エポキシ樹脂組成物であることから、本件発明1の「半導体封止用エポキシ樹脂組成物」に相当する。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材と、を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂を含み、
前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、
前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であり、
(一般式(1)は省略する。)
前記(B)硬化剤はビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含み、
前記(C)硬化促進剤がイミダゾール系化合物を含む、
半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
エポキシ樹脂に関し、本件発明1は「4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であ」るのに対し、甲1発明は「化学式(D)のエポキシ樹脂(4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂)」と「化学式(A)のエポキシ樹脂」である点
<相違点1-2>
エポキシ樹脂の塩素含有量に関し、本件発明1は「(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下である」のに対し、甲1発明では不明である点
<相違点1-3>
無機充填材に関し、本件発明1は「(d-1)平均粒子径が2μm以上100μm以下のアルミナ粉末と、(d-2)平均粒子径が0.01μm以上2μm未満のアルミナ粉末と、を含み、前記(d-1)アルミナ粉末と前記(d-2)アルミナ粉末の質量含有比は、95:5~70:30である」のに対し、甲1発明は溶融シリカである点
(イ)検討
a 新規性について
(a)相違点1-1及び1-2について
相違点1-1及び1-2は、エポキシ樹脂に関するものであるから、併せて検討する。
甲1発明の「化学式(A)のエポキシ樹脂は、三井化学社製「VG3101L」であるところ、該「VG3101L」は現在のエアウォーター社の製品であり、エアウォーター社のウェブサイト(https://products.awi.co.jp/ja/chemical/business/electronic-materials/id002100)から、その化学式は
31
36
0001435165000009.jpg
であり、「基本特性」の表から、塩素含有量が0.1%(1000ppm)であることが分かる。
そうすると、甲1発明は、4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂以外に、さらにもう1種のエポキシ樹脂を含むものであるから、3種のエポキシ樹脂を使用するものである。
そして、甲1発明の3種のエポキシ樹脂の塩素含有量は、加重平均をとると800ppm(=(1000×6.9+500×4.6)/(6.9+4.6))である。
以上から、甲1発明は、エポキシ樹脂を3種含むものであり、その塩素含有量が600ppm以下でないことから、相違点1-1及び1-2は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
b 進歩性について
甲1は、エアーベントに流れ出す樹脂によって基板の表面の外部接続端子を被覆するようなおそれなく、トランスファー成形で封止成形を行なうことができる半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とするものであり、また反り変形が少なく、耐リフロー性が高く、金ワイヤーの変形が少ない片面封止型半導体装置を得ることができる片面封止用エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とし(【0011】)、エポキシ樹脂として化学式(A)で表されるエポキシ樹脂が必須で更に化学式(D)で表されるエポキシ樹脂等であること(請求項9、実施例の表1-1及び1-2)が記載されている。
これらの記載によると、甲1には、エアーベントにエポキシ樹脂組成物が流れ出すことなく、トランスファー成形で封止成形を行うことができ、反り変形が少なく、耐リフロー性が高いエポキシ樹脂組成物を得るために、特定のエポキシ樹脂として化学式(A)で表されるエポキシ樹脂と化学式(D)で表されるエポキシ樹脂等を併用していることが理解できる。
しかしながら、甲1には、化学式(D)で表されるエポキシ樹脂(4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂)を単独で使用し、エポキシ樹脂の塩素含有量を低くしようとすることを想起させる記載も示唆もないから、甲1発明を出発点として、相違点1-1及び1-2に係る構成とすることには動機付けがない。
また、甲2~甲7をみても、特定の組合せの2種のエポキシ樹脂を用い、かつ、その塩素含有量が600ppm以下とすることを教示する記載は見当たらない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1及び1-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
c 本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、熱伝導性、流動性に優れ、ガラス転移温度が高く、反りの小さい半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することであると認められる(【0008】)。
このような効果は、上記1(2)イ(ウ)に示したとおりである。
そうすると、エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響することに着目していない甲1発明では、該エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響を与えることを想定し得ないものであって、本件発明1の効果を予測することはできない。
d 小括
以上から、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1~6は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲2~甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記イと同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲2~甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ まとめ
本件発明1~6は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲2~甲7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)申立理由1-3及び2-5(甲5に基づく新規性、進歩性欠如)について
ア 甲5に記載された発明
甲5には、成分(A):下記式(1)で表されるエポキシ樹脂及び成分(B):フェノール系硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物であること
58
72
0001435165000010.jpg
(上記式(1)において、Aは上記式(2)で表される化学構造を含み、Rは水素原子又は上記式(3)で表される基であり、nは繰り返し数の平均値であり0以上150以下である。上記式(2)において、R
1
~R
4
はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基である。)(請求項1)、前記成分(B)が、・・・、ビフェニルアラルキル樹脂、・・・から選ばれる少なくとも1種のフェノール系硬化剤であること(請求項5)、更にエポキシ樹脂組成物中に無機充填材が70~95重量%含まれること(請求項11)、上記エポキシ樹脂組成物からなる半導体封止材であること(請求項13)、成分(A)及び成分(A’)は、特に電気・電子部品に用いる場合、全塩素含有量が0.2重量%以下であること、全塩素含有量が0.2重量%以下であると、アルミニウム等の金属材料と共に用いた際の金属の腐食が発生しにくくなるために好ましいこと(【0046】)、エポキシ樹脂の全塩素含有量を低減する必要がある場合には再処理して十分に全塩素含有量が低下した精製エポキシ樹脂を得ることができること(【0059】)、実施例12(表2)で製造例1のエポキシ樹脂、他のエポキシ樹脂a-5、成分(B)としてb-6、硬化促進剤、無機充填材、離型剤、カップリング剤を含むエポキシ樹脂組成物が記載されている。
そこで、上記実施例12(表2)に着目し、段落【0131】、【0142】~【0147】に記載された各成分を、同【0141】に記載された製造方法で得られたエポキシ樹脂組成物として整理すると、以下に示す発明が記載されていると認める。
「成分(A)製造例1のエポキシ樹脂:80重量部、
他のエポキシ樹脂a-5:20重量部、
成分(B)b-6:68重量部、
硬化促進剤c-1:1重量部、
無機充填材d-1:686重量部、
離型剤e-1:1重量部、
カップリング剤f-1:1重量部、
を配合し、配合物にミキシングロールを用いて70~120°Cの温度で5分間溶融混練し、得られた溶融混練物は薄板状に取り出し冷却した後、粉砕して得たエポキシ樹脂組成物。
各成分の詳細は以下のとおり。
・成分(A)製造例1のエポキシ樹脂:
温度計、撹拌装置、冷却管を備えた内容量3Lの四口フラスコに1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン(前記式(4)(当審注:式(4)は省略する。)で表されるフェノール化合物であり、R
1’
及びR
2’
及びR
3’
及びR
4’
が水素原子であり、シクロドデシレン基に1、1位で結合しているもの。)228g、エピクロルヒドリン837g、イソプロピルアルコール326gを仕込み、40°Cに昇温して均一に溶解させた後、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液124gを90分かけて滴下した。その間に徐々に昇温し、滴下終了後には系内が65°Cになるようにした。その後、65°Cで30分保持し反応を完了させ、水洗により副生塩及び過剰の水酸化ナトリウムを除去した。ついで、生成物から減圧下で過剰のエピクロルヒドリンとイソプロピルアルコールを留去して、粗製エポキシ樹脂を得た。この粗製エポキシ樹脂をメチルイソブチルケトン450gに溶解させ、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液6gを加え、65°Cの温度で1時間再び反応させた。その後、反応液にリン酸二水素ナトリウム水溶液を加えて、過剰の水酸化ナトリウムを中和し、水洗して副生塩を除去した。次いで、減圧下でメチルイソブチルケトンを完全に除去して、目的のエポキシ樹脂276gを得た。
・他のエポキシ樹脂a-5:ビフェニル型エポキシ樹脂 (三菱化学社製 商品名 jER(登録商標)YL6121H(エポキシ当量:175g/当量))
・成分(B)b-6:フェノール・ベンズアルデヒド・キシリレンジメトキサイド重縮合物 (エアウォーター社製 商品名 HE510-05(水酸基当量:156g/当量)、軟化点73°C))
・硬化促進剤c-1:トリフェニルホスフィン(東京化成工業株式会社製 商品名 トリフェニルホスフィン)
・無機充填材d-1:溶融シリカ粉末(電気化学工業社製 商品名 球状シリカ(平均粒子径:25μm))
・離型剤e-1:カルナバワックス(セラリカ野田社製 商品名 精製カルナバワックスNo.1)
・カップリング剤f-1:エポキシシラン(信越化学工業社製 商品名 KBM-403)」(以下「甲5発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲5発明を対比する。
a 甲5発明の「他のエポキシ樹脂a-5」は、ビフェニル型エポキシ樹脂 (三菱化学社製 商品名 jER(登録商標)YL6121Hであるところ、該「YL-6121H」は、本件明細書の段落【0026】において、現在の三菱ケミカル(株)製の「YL6121H(エポキシ当量172、塩素含有量500ppm、R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
が水素原子である構造とR
2
、R
3
、R
6
及びR
7
がメチル基である構造が1:1の混合物 )」と記載されたエポキシ樹脂と同じものである。ここで、上記「R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
」は、本件明細書の段落【0023】に示された一般式(I)で表される構造における置換基である。
そうすると、甲5発明の「他のエポキシ樹脂a-5」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」に相当する。
そして、甲5発明は、エポキシ樹脂として「成分(A)製造例1のエポキシ樹脂」、「他のエポキシ樹脂a-5」を含むものであるから、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」と甲5発明の「エポキシ樹脂」は、「エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂」を含み、「前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であ」る限りにおいて一致する。
b 甲5発明の「成分(B)b-6」は、甲5の請求項1によるとフェノール系硬化剤であるから、本件発明1の「(B)硬化剤」に相当する。
c 甲5発明の「硬化促進剤c-1」は、本件発明1の「(C)硬化促進剤」に相当する。
d 甲5発明の「無機充填材d-1」は、本件発明1の「(D)無機充填材」に相当する。
e 甲5発明の「エポキシ樹脂組成物」は、甲5の請求項13によると、半導体封止材であるから、本件発明1の「半導体封止用エポキシ樹脂組成物」に相当する。
以上から、本件発明1と甲5発明とは、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材と、を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
前記(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂を含み、
前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、
前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂である、
(一般式(1)は省略する。)
半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点5-1>
エポキシ樹脂に関し、本件発明1は「4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であ」るのに対し、甲5発明は「成分(A)製造例1のエポキシ樹脂」と「他のエポキシ樹脂a-5(4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂)」である点
<相違点5-2>
エポキシ樹脂の塩素含有量に関し、本件発明1は「(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下である」のに対し、甲5発明は不明である点
<相違点5-3>
硬化剤に関し、本件発明1は「ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含」むのに対し、甲5発明は「フェノール・ベンズアルデヒド・キシリレンジメトキサイド重縮合物 (エアウォーター社製 商品名 HE510-05(水酸基当量:156g/当量)、軟化点73°C))」である点
<相違点5-4>
硬化促進剤に関し、本件発明1は「イミダゾール系化合物を含」むのに対し、甲5発明は「トリフェニルホスフィン(東京化成工業株式会社製 商品名 トリフェニルホスフィン)」である点
<相違点5-5>
無機充填材に関し、本件発明1は「(d-1)平均粒子径が2μm以上100μm以下のアルミナ粉末と、(d-2)平均粒子径が0.01μm以上2μm未満のアルミナ粉末と、を含み、前記(d-1)アルミナ粉末と前記(d-2)アルミナ粉末の質量含有比は、95:5~70:30である」のに対し、甲5発明は溶融シリカである点
(イ)検討
事案に鑑みて、相違点5-4について検討する。
a 本件発明の技術的意義について
本件発明1は、硬化促進剤としてイミダゾール系を用いるとメソゲン基の配列を乱し熱伝導性が下がるため、リン系の硬化促進剤を用いることが一般的であったこと(【0003】)、(A)成分のエポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm超であると、硬化促進剤としてイミダゾール系化合物を用いた場合には結晶性又はメソゲンの配列を乱しやすくなり熱伝導率が低くなるが、(A)エポキシ樹脂の塩素含有量を600ppm以下とすることで、結晶性が増し、硬化促進剤としてイミダゾール系化合物を用いても熱伝導性を高くできること(【0025】)が記載されている。
これらの記載によると、これまで硬化促進剤としてイミダゾール系化合物を用いたときには熱伝導性を低下させていたところ、(A)成分のエポキシ樹脂の塩素含有量を600ppm以下にすることで、イミダゾール系硬化促進剤を用いても熱伝導性を高くできるという、技術的意義を有するものである。
b 新規性について
甲5発明は、硬化促進剤として、トリフェニルホスフィンを使用するものであるから、相違点5-4は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲5発明であるとはいえない。
c 進歩性について
甲5には、エポキシ樹脂組成物を硬化物としたときに耐熱性、耐応力性、耐吸湿性、難燃性等の諸物性においてバランスの優れたものを与えることのできるエポキシ樹脂組成物、及び硬化物を提供することを目的とすること(【0006】)、硬化促進剤として有機ホスフィン類、ホスホニウム塩、イミダゾール類、第3級アミン等が挙げられること(【0107】)、硬化促進剤として使用可能な化合物としては、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等が例示されること(【0108】)が記載されている。
ここで、本件発明1は、上記aに示したように、(A)成分のエポキシ樹脂の塩素含有量を600ppm以下にすることで、イミダゾール系硬化促進剤を用いても熱伝導性を高くできるという、技術的意義を有するところ、甲5には、エポキシ樹脂の塩素含有量とイミダゾール系硬化促進剤の関係について記載も示唆もされていないから、甲5発明の硬化促進剤であるトリフェニルホスフィンとともにイミダゾール化合物が同列に記載されていたとしても、甲5発明の硬化促進剤であるトリフェニルホスフィンに代えてイミダゾール化合物を用いることを動機付けることができない。
そして、甲1~甲4、甲6、甲7をみても、特定の組合せの2種のエポキシ樹脂を用い、かつ、その塩素含有量が600ppm以下であるときに、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を用いることを教示する記載は見当たらない。
したがって、甲5発明において、相違点5-4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
d 本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、熱伝導性、流動性に優れ、ガラス転移温度が高く、反りの小さい半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することであると認められる(【0008】)。
このような効果は、上記1(2)イ(ウ)に示したとおりである。
そして、本件明細書の実施例では、比較例2~4において、イミダゾール系化合物に代えてトリフェニルホスフィン(当審注:甲5発明に相当する。)を用いると、ガラス転移温度が低く、反りが生じており、イミダゾール系化合物(本件発明1)を用いることの優位性が把握できる。
。
そうすると、エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響することに着目していない甲5発明では、該エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響を与えることを想定し得ないものであって、本件発明1の効果を予測することはできない。
e 小括
以上から、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明ではないし、甲5に記載された発明及び甲1~甲4、甲6、甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記イと同様の理由により、甲5に記載された発明ではないし、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ まとめ
本件発明1~6は、甲5に記載された発明ではないし、甲5に記載された発明及び甲1~甲4、甲6、甲7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)申立理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)について
ア 甲3に記載された発明
甲3には、(A)下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(a1)及び/又は下記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂(a2)を含むエポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂系硬化剤、(C)・・・、並びに(D)・・・)、を含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物であること
21
89
0001435165000011.jpg
(ただし、上記一般式(1)において、R1は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていても良い。n1の平均値は0又は5以下の正数である。)
20
89
0001435165000012.jpg
(ただし、上記一般式(2)において、R2は水素又は炭素数4以下の炭化水素基で、それらは互いに同じであっても異なっていても良い。n2の平均値は0又は5以下の正数である。)(請求項1)、上記半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されてなる半導体装置であること(請求項8)、実施例13(表2)にはエポキシ樹脂4、フェノール樹脂系硬化剤1、硬化促進剤1、無機質充填材1を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物が記載されている。
そこで、上記実施例13(表2)に着目し、段落【0060】に記載されているように配合割合が重量部であることを踏まえて、段落【0062】~【0064】、【0072】に記載された各成分を用いて製造された半導体封止用エポキシ樹脂組成物として整理すると、以下に示す発明が記載されていると認める。
「エポキシ樹脂4:5.46重量部、
フェノール樹脂系硬化剤1:6.44重量部、
C1-1:0.20重量部、
離型剤1:0.20重量部、
硬化促進剤1:0.20重量部、
無機質充填材1:87.00重量部、
シランカップリング剤1:0.2重量部、
着色剤1:0.30重量部、
をミキサーを用いて混合した後、表面温度が95°Cと25°Cの2軸ロールを用いて20回混練し、得られた混練物シートを冷却後粉砕して得られた、半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
各成分の詳細は以下のとおり。
・エポキシ樹脂4:下記式(5)で表される化合物及び下記式(8)で表される化合物を主成分とするエポキシ樹脂(ビフェニル型エポキシ樹脂)[ジャバンエポキシレジン(株)製、jER(登録商標)YL6121H。エポキシ当量172。]
23
84
0001435165000013.jpg
21
85
0001435165000014.jpg
・フェノール樹脂系硬化剤1:下記式(3)で表されるフェノール樹脂系硬化剤(ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂)[明和化成(株)製、MEH-7851SS。軟化点67°C。水酸基当量203。下記式(3)において、n3の平均値は3.5。]
20
84
0001435165000015.jpg
・C1-1:カルボキシル基を両末端に有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体(宇部興産(株)製、CTBN-1008SP。下記一般式(4)において、i=0.82、j=0.18、kの平均値は62。数平均分子量3550、カルボキシル基当量2200g/eq。ナトリウムイオン量5ppm、塩素イオン量200ppm。)
15
85
0001435165000016.jpg
・離型剤1:ペンタエリスリトールテトラモンタン酸エステル(クラリアントジャパン(株)製、リコモント(登録商標)ET141。滴点76°C。酸価25mgKOH/g。)
・硬化促進剤1:1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7
無機質充填材1:球状溶融シリカ(平均粒径30μm)
シランカップリング剤1:0.2重量部
着色剤1:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」(以下「甲3発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
a 甲3発明の「エポキシ樹脂4」は、ジャパンエポキシレジン(株)製、jER(登録商標)YL6121Hであり、式(5)であるテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂及び式(8)である4,4‘-ビフェニル型エポキシ樹脂からなるものであるところ、該「YL-6121H」は、本件明細書の段落【0026】において、現在の三菱ケミカル(株)製の「YL6121H(エポキシ当量172、塩素含有量500ppm、R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
が水素原子である構造とR
2
、R
3
、R
6
及びR
7
がメチル基である構造が1:1の混合物 )」と記載されたエポキシ樹脂と同じものである。ここで、上記「R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
」は、本件明細書の段落【0023】に示された一般式(I)で表される構造における置換基である。
そうすると、甲3発明の「エポキシ樹脂4」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」であって、「(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であり、前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂」に相当する。
b 甲3発明の「フェノール樹脂系硬化剤1」は、「ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂」であるから、本件発明1の「ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含」む「(B)硬化剤」に相当する。
c 甲3発明の「硬化促進剤1」は、本件発明1の「(C)硬化促進剤」に相当する。
d 甲3発明の「無機充填材」は、本件発明1の「(D)無機充填材」に相当する。
e 甲3発明の「半導体封止用エポキシ樹脂組成物」は、本件発明1の「半導体封止用エポキシ樹脂組成物」に相当する。
以上から、本件発明1と甲3発明とは、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材と、を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
前記(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であり、
前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、
前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であり、
(一般式(1)は省略する。)
前記(B)硬化剤はビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含む、
半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点3-1>
硬化促進剤に関し、本件発明1は「イミダゾール系化合物を含」むのに対し、甲3発明は「1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7」である点
<相違点3-2>
無機充填材に関し、本件発明1は「(d-1)平均粒子径が2μm以上100μm以下のアルミナ粉末と、(d-2)平均粒子径が0.01μm以上2μm未満のアルミナ粉末と、を含み、前記(d-1)アルミナ粉末と前記(d-2)アルミナ粉末の質量含有比は、95:5~70:30である」のに対し、甲3発明は溶融シリカである点
(イ)検討
a 相違点3-1について
甲3には、流動性、離型性、連続成形性に優れ、かつ低吸湿性、低応力性、金属系部材との密着力に優れた特性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた耐半田リフロー性に優れた半導体装置を提供することを目的とすること(【0005】)、硬化促進剤としてエポキシ樹脂のエポキシ基とフェノール樹脂系硬化剤のフェノール性水酸基との硬化反応を促進させるものであればよく、一般に封止材料に使用するものを用いることができること、例えば、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等のジアザビシクロアルケン及びその誘導体;2-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物等が挙げられること(【0049】)が記載されている。
ここで、本件発明1は、上記(2)イ(イ)aに示したように、(A)成分のエポキシ樹脂の塩素含有量を600ppm以下にすることで、イミダゾール系硬化促進剤を用いても熱伝導性を高くできるという、技術的意義を有するところ、甲3には、エポキシ樹脂の塩素含有量とイミダゾール系硬化促進剤の関係については記載も示唆もされていないから、甲3発明の硬化促進剤である1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7とともにイミダゾール化合物が同列に記載されていたとしても、甲3発明の硬化促進剤である1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7に代えてイミダゾール化合物を用いることを動機付けることができない。
そして、甲1、甲2、甲4~甲7をみても、特定の組合せの2種のエポキシ樹脂を用い、かつ、その塩素含有量が600ppm以下であるときに、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を用いることを教示する記載は見当たらない。
したがって、甲3発明において、相違点3-1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
b 本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、熱伝導性、流動性に優れ、ガラス転移温度が高く、反りの小さい半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することであると認められる(【0008】)。
このような効果は、上記1(2)イ(ウ)に示したとおりである。
また、乙1には、本件明細書の実施例3において、(C)成分の硬化促進剤となる(c-1)2P4MHZ(イミダゾール系化合物)の代わりに(c-3)1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7を用いた以外、実施例3と同様の方法で製造した追加比較例5において、同様の評価をすると、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を用いると、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7を用いるよりも、熱伝導性及び流動性が向上し、ガラス転移温度が上がって耐熱性を向上し、反りが小さくなることが記載されているから、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を用いることにより、熱伝導性、流動性に優れ、ガラス転移温度が高く、反りの小さい半導体封止用エポキシ樹脂組成物となることが理解できる。
そうすると、エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響することに着目していない甲3発明では、該エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響を与えることを想定し得ないものであって、本件発明1の効果を予測することはできない。
c 小括
以上から、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲1、甲2、甲4~甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記イと同様の理由により、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ まとめ
本件発明1~6は、甲3に記載された発明及び甲1、甲2、甲4~甲7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(4)申立理由2-4(甲4に基づく進歩性欠如)について
ア 甲4に記載された発明
甲4には、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機充填剤を含有し、(A)成分にヒドロキシナフタレン及びジヒドロキシナフタレンの少なくともいずれかの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂、並びにオルソ位に置換基を有する2官能以上のエポキシ樹脂を含み、(C)成分が成形材料全体の70重量%以上88重量%以下である封止用エポキシ樹脂成形材料であること(請求項1)、更に(D)硬化促進剤を含有すること(請求項4)、上記封止用エポキシ樹脂成形材料により封止された素子を備えた電子部品装置であること(請求項5)、比較例2(表2)には、エポキシ樹脂1、エポキシ樹脂3、硬化剤1、硬化促進剤、無機充填剤を含む封止用エポキシ樹脂成形材料が記載されている。
そこで、上記比較例2(表2)に着目し、段落【0026】に記載されている成分を用いて製造された封止用エポキシ樹脂成形材料として整理すると、以下に示す発明が記載されていると認める。
「エポキシ樹脂1:80重量部、
エポキシ樹脂3:20重量部、
硬化剤1:120重量部、
硬化促進剤:5重量部、
無機質充填剤:1000重量部、
酸化ポリエチレン:2重量部、
カップリング剤:3重量部、
着色剤:3重量部、
を配合し、混練温度80°C、混練時間10分の条件でロール混練を行って作成した封止用エポキシ樹脂成形材料。
各成分の詳細は以下のとおり。
・エポキシ樹脂1:ジヒドロキシナフタレン2量体のエポキシ化物を主成分とするエポキシ樹脂((A1)成分、エポキシ当量163、軟化点85°C、大日本インキ化学工業株式会社製商品名HP-4700)
・エポキシ樹脂3:下記一般式(I)でR
1
~R
8
がすべて水素、n=0を主成分とするビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名エピコートYL-6121H)
15
87
0001435165000017.jpg
(一般式(I)で、R
1
~R
8
は水素原子及び炭素数1~10の置換又は非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0~3の整数を示す。)
・硬化剤1:水酸基当量200、軟化点65°Cのビフェニル・アラルキル型フェノール樹脂(明和化成株式会社製商品名MEH-7851)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィンとp-ベンゾキノンとの付加反応物
・無機充填剤:平均粒径17.5μm、比表面積3.8m
2
/gの球状溶融シリカ
・カップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(エポキシシラン)
・着色剤:カーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA-100)」(以下「甲4発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明を対比する。
a 甲4発明の「エポキシ樹脂3」の説明に、「下記一般式(I)でR
1
~R
8
がすべて水素、n=0を主成分とするビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名エピコートYL-6121H)」と記載されているが、該「YL-6121H」は、本件明細書の段落【0026】において、現在の三菱ケミカル(株)製の「YL6121H(エポキシ当量172、塩素含有量500ppm、R
2
、R
3
、R
6
及びR
7
が水素原子である構造とR
2
、R
3
、R
6
及びR
7
がメチル基である構造が1:1の混合物 )」と記載されたエポキシ樹脂であることから、上記説明の「下記一般式(I)でR
1
~R
8
がすべて水素、n=0を主成分とするビフェニル型エポキシ樹脂」は誤記であって、「エポキシ樹脂2」である「ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名エピコートYX-4000H」の説明と推察される。
そのため、甲4発明の「エポキシ樹脂3」は、「ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名エピコートYL-6121H」であるとして以下検討する。
甲4発明の「エポキシ樹脂3」である「YL-6121H」は、上述のとおり、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」に相当する。
そして、甲4発明は、エポキシ樹脂として「エポキシ樹脂1」、「エポキシ樹脂3」を含むものであるから、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」と甲4発明の「エポキシ樹脂」は、「エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂」を含み、「前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であ」る限りにおいて一致する。
b 甲4発明の「硬化剤1」は、「ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂」であるから、本件発明1の「ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含」む「(B)硬化剤」に相当する。
c 甲4発明の「硬化促進剤」は、本件発明1の「(C)硬化促進剤」に相当する。
d 甲4発明の「無機充填剤」は、本件発明1の「(D)無機充填材」に相当する。
e 甲4発明の「封止用エポキシ樹脂成形材料」は、甲4の請求項5に該封止用エポキシ樹脂成形材料により封止された素子を備えた電子部品装置が記載されていることから、本件発明1の「半導体封止用エポキシ樹脂組成物」に相当する。
以上から、本件発明1と甲4発明とは、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)硬化促進剤と、(D)無機充填材と、を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
前記(A)エポキシ樹脂は4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂を含み、
前記4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
1
~R
8
が水素原子である樹脂であり、
前記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)においてR
2
~R
3
及びR
6
~R
7
がメチル基かつR
1
、R
4
~R
5
及びR
8
が水素原子である樹脂であり、
(一般式(1)は省略する。)
前記(B)硬化剤はビフェニルアラルキル型フェノール樹脂を含む、
半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-1>
エポキシ樹脂に関し、本件発明1は「4,4’-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂であ」るのに対し、甲4発明は「化学式(D)のエポキシ樹脂(4,4‘-ビフェニル型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂)」と「化学式(A)のエポキシ樹脂」である点
<相違点4-2>
エポキシ樹脂の塩素含有量に関し、本件発明1は「(A)エポキシ樹脂の塩素含有量が600ppm以下である」のに対し、甲4発明は不明である点
<相違点4-3>
硬化促進剤に関し、本件発明1は「イミダゾール系化合物を含」むのに対し、甲4発明は「トリフェニルホスフィンとp-ベンゾキノンとの付加反応物」である点
<相違点4-4>
無機充填材に関し、本件発明1は「(d-1)平均粒子径が2μm以上100μm以下のアルミナ粉末と、(d-2)平均粒子径が0.01μm以上2μm未満のアルミナ粉末と、を含み、前記(d-1)アルミナ粉末と前記(d-2)アルミナ粉末の質量含有比は、95:5~70:30である」のに対し、甲4発明は溶融シリカである点
(イ)検討
a 相違点4-3について
事案に鑑みて、相違点4-3について検討する。
甲4には、高いガラス転移点を有しながらクロルイオン等の不純物を低減し、銅リードフレームに近い熱膨張係数においてハロゲン化樹脂やアンチモン化合物を実質的に用いることなく良好な難燃性を実現し、耐熱性や耐湿性、耐冷熱サイクル性等の信頼性に優れる封止用エポキシ樹脂成形材料、及びこれにより封止した素子を備えた電子部品装置を提供すること(【0005】)、封止用エポキシ樹脂成形材料に一般に用いられる硬化促進剤を特に制限なく用いることが可能であるが、信頼性や成形性の点からは有機リン系硬化促進剤を用いることが好ましいこと、有機リン系硬化促進剤を例示すると、例えば、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン、及びこれらの有機ホスフィンに無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物等の有機リン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N-メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩及びこれらの誘導体などが挙げられること(【0016】)が記載されている。
ここで、甲4には、甲4発明の硬化促進剤であるトリフェニルホスフィンとp-ベンゾキノンとの付加反応物とともに2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレートが同列に記載されているが、該2-エチルー4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレートは本件明細書の硬化促進剤(イミダゾール系化合物)として記載されていない。
そして、本件発明1は、上記(2)イ(イ)aに示したように、(A)成分のエポキシ樹脂の塩素含有量を600ppm以下にすることで、イミダゾール系硬化促進剤を用いても熱伝導性を高くできるという、技術的意義を有するところ、甲4には、エポキシ樹脂の塩素含有量とイミダゾール系硬化促進剤の関係については記載も示唆もされていないから、上記2-エチルー4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレートがイミダゾール系化合物であったとしても、甲4発明の硬化促進剤であるトリフェニルホスフィンとp-ベンゾキノンとの付加反応物に代えて2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレートを用いることは動機付けられない。
さらに、甲4の実施例ではエポキシ樹脂1(ビフェニル型エポキシ樹脂ではない)を主成分に用いて難燃性、耐熱性、耐湿性、及び耐冷熱サイクル性を改良したことを示しているのに対し、甲4発明は甲4における比較例2(ビフェニル型エポキシ樹脂)に基づくものであり、特に耐湿性に劣ることが示されているが、この甲4発明(比較例2)において、さらに硬化促進剤をイミダゾール系化合物に代える理由がない。
また、甲1~甲3、甲5~甲7をみても、特定の組合せの2種のエポキシ樹脂を用い、かつ、その塩素含有量が600ppm以下であるときに、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を用いることを教示する記載は見当たらない。
したがって、甲4発明において、相違点4-3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
b 本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、熱伝導性、流動性に優れ、ガラス転移温度が高く、反りの小さい半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することであると認められる(【0008】)。
このような効果は、上記1(2)イ(ウ)に示したとおりである。
そうすると、エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響することに着目していない甲4発明では、該エポキシ樹脂の塩素含有量が熱伝導性、流動性、反りに影響を与えることを想定し得ないものであって、本件発明1の効果を予測することはできない。
c 小括
以上から、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲1~甲3、甲5~甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記イと同様の理由により、甲4に記載された発明及び甲1~甲3、甲5~甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ まとめ
本件発明1~6は、甲4に記載された発明及び甲1~甲3、甲5~甲7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
以上のとおり、本件特許の請求項1~6に係る特許は、当審において通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。