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Trademark Appeal Case

ポリエステルフィルム特許異議

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2026700139
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7726362号の請求項1~27に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7726362号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~27に係る特許についての出願は、令和6年12月20日(優先権主張 令和5年12月21日)の出願であって、令和7年8月12日にその特許権の設定登録(請求項の数27)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、令和8年2月17日に特許異議申立人 石川 竜郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~27)がされたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1~27に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。また、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~27に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】

一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下であり、積層セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる、ポリエステルフィルム。

【請求項2】

前記150°C、5分間の熱処理後における横方向の収縮率が1.5%以下である、請求項1記載のポリエステルフィルム。

【請求項3】

前記一方の表面が以下の(1)及び(2)を満足する、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

(1)算術平均高さ(Sa)が15nm以下。

(2)最大山高さ(Sp)が150nm以下。

【請求項4】

粒子を含み、前記粒子の含有量が、含有させる層に対して、質量割合で250ppm以上10000ppm以下である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項5】

粒子を含み、前記粒子の平均粒径が1μm以下である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項6】

粒子を含み、前記粒子のモース硬度が9以下である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項7】

粒子を含み、前記粒子は少なくとも粒子(a1)及び粒子(a2)を含み、前記粒子(a1)が、アルミナ粒子であり、前記粒子(a2)が、前記粒子(a1)以外の粒子である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項8】

前記一方の表面を形成する層が粒子を含み、前記粒子は少なくとも粒子(a1)及び粒子(a2)を含み、前記粒子(a1)及び(a2)のpH7におけるゼータ電位が、前記粒子(a1)が正の値であって前記粒子(a2)が負の値である、又は、前記粒子(a1)が負の値であって前記粒子(a2)が正の値である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項9】

前記pH7でのゼータ電位が正の値となる粒子の含有量が、前記一方の表面を形成する層に対して、質量割合で50ppm以上5000ppm以下である、請求項8記載のポリエステルフィルム。

【請求項10】

前記pH7でのゼータ電位が負の値となる粒子の含有量が、前記一方の表面を形成する層に対して、質量割合で100ppm以上8000ppm以下である、請求項8に記載のポリエステルフィルム。

【請求項11】

前記pH7でのゼータ電位が正の値となる粒子がアルミナ粒子である、請求項8に記載のポリエステルフィルム。

【請求項12】

前記pH7でのゼータ電位が負の値となる粒子がシリカ又は有機粒子である、請求項8に記載のポリエステルフィルム。

【請求項13】

前記一方の表面を形成する層が粒子を含み、前記一方の表面を形成する層に含まれる全粒子の含有量に対するモース硬度8以下の粒子の含有量の比(モース硬度8以下の粒子の含有量/全粒子の含有量)が、質量割合で、0.6以上0.95以下である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項14】

前記一方の表面を形成する層が粒子を含み、前記粒子の主成分がモース硬度8以下の粒子であり、前記モース硬度8以下の粒子の含有量が、前記一方の表面を形成する層に対して、質量割合で1800ppm未満である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項15】

前記(2)の最大山高さ(Sp)が100nm以下である、請求項3記載のポリエステルフィルム。

【請求項16】

面配向度(ΔP)が165以上である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項17】

前記一方の表面の算術平均高さ(Sa)と他方の表面の算術平均高さ(Sa)との比(他方の表面の算術平均高さ(Sa)/一方の表面の算術平均高さ(Sa))が、2以上18以下である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム(但し、他方の表面の算術平均高さ(Sa)>一方の表面の算術平均高さ(Sa))。

【請求項18】

少なくとも2層からなる、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項19】

3層からなる、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項20】

前記ポリエステルフィルムが、前記一方の表面を形成する表面層、及び他方の表面を形成する表面層を少なくとも備え、前記一方の表面を形成する表面層が粒子を含み、前記粒子の含有量が、前記一方の表面を形成する表面層に対して、質量割合で250ppm以上2800ppm以下である、請求項18記載のポリエステルフィルム。

【請求項21】

前記他方の表面を形成する表面層が粒子を含み、前記粒子の含有量が、前記他方の表面を形成する表面層に対して、質量割合で2000ppm以上8000ppm以下である、請求項20記載のポリエステルフィルム。

【請求項22】

前記ポリエステルフィルムが、前記一方の表面を形成する表面層、中間層、及び他方の表面を形成する表面層をこの順に備え、前記中間層の厚みが、前記各表面層の厚みよりも厚い、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項23】

前記ポリエステルフィルムが、前記一方の表面を形成する表面層、中間層、及び他方の表面を形成する表面層をこの順に備え、前記各層の厚みの比(表面層の厚み:中間層の厚み:表面層の厚み)が、1~10:10~35:1~5である、請求項1又は2記載のポリエステルフィルム。

【請求項24】

一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下であり、自動車用積層セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる、ポリエステルフィルム。

【請求項25】

一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下であるポリエステルフィルムの、積層セラミックコンデンサーの製造工程におけるセラミックグリーンシートの支持体としての使用。

【請求項26】

一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下であるポリエステルフィルムの、自動車用積層セラミックコンデンサーの製造工程におけるセラミックグリーンシートの支持体としての使用。

【請求項27】

一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下であるポリエステルフィルムの前記一方の表面に、セラミック成分を含むセラミックスラリーを塗工する工程を有する、セラミックグリーンシートの製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要等

令和8年2月17日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)

本件発明1~6及び14~27は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)

本件発明1~27は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(実施可能要件)

本件発明1~27についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

具体的理由は次のとおりである。

「本件特許発明の(要件a)(当審注:「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超」との要件)は、一方の表面の弾性変形仕事率(η

it

)が55%超であること規定する。

しかしながら、弾性変形仕事率(η

it

)は、「試料フィルムの表面(表面層A)について負荷―除荷試験を行い、下記式を用いて弾性変形仕事率(η

it

)を求めた・・・Wtotal=Wplast+Welast(N・m)

(Wtotal=全変形仕事量(N・m)、Wplast=塑性変形仕事量(N・m)、Welast=弾性変形仕事量(N・m))

η

it

=(Welast/Wtotal)×100(%)」(0135段)から得られる値であり、弾性変形仕事率(η

it

)は、圧子差し込み後の戻り率を見ている。すなわち、圧子差し込み後の戻りは最大で100%であり、(要件a)は、弾性変形仕事率(η

it

)は、55%を超え100%という広大な領域を規定するものである。

一方で、本件特許発明において、弾性変形仕事率(η

it

)の値が具体的に開示されるのは、55.2%(実施例7)~57.8%(実施例4)という、2.6%程度の弾性変形仕事率(η

it

)の範囲のみである。さらに、その実施例も、フィルムの厚みが25μmか31μm、特定の積層厚み、特定の粒子、特定の製造条件にて得られたフィルムである。

その弾性変形仕事率(η

it

)を得るための達成手段を参照すると、比較例1乃至5および8は、(要件a)を満たすための手段とされる、粒子径、粒子含有量、粒子種類を満たし、幅方向の延伸倍率が4.2~4.5倍、熱固定温度が215~230°Cを満たしているにもかかわらず、その(要件a)と同一の原料、同一の製造条件であっても、(要件a)を満たしておらず、具体的に記載された実施例以外に、どのようにすれば、(要件a)が得られるのか試行錯誤を要し、理解することができない。

以上から、弾性変形仕事率(η

it

)が57.8%を超え100%にかかる範囲について、出願時の技術常識を考慮しても、請求項にかかる発明に含まれる実施の形態以外の部分が実施可能に記載された発明ではない。」

4 申立理由4(サポート要件)

本件発明1~27についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

具体的理由は次のとおりである。

「本件特許発明の(要件a)は、一方の表面の弾性変形仕事率(η

it

)が55%超であることを規定する。上述したとおり、(要件a)の達成手段については、本件特許発明の明細書中、0016段および0024段において、粒子の選定、延伸条件の選定を条件としている。さらに、粒子量について、特に、表面層Aを達成するためには、0083段~0087段には、平均粒径は、0.01μm以上1μm以下、質量割合で200ppm以上2800ppm以下、モース硬度が8以下であること、0111段には、フィルムの製造条件として、通常70~120°C・・・延伸倍率は通常2.5~7倍、・・・延伸方向と直行する方向に延伸・・・通常70~170°C、延伸倍率は通常3~7倍・・・通常180~270°Cの温度で、緊張下又は30%以下の弛緩下で熱処理・・・熱処理時間は、・・・1~20秒であることが記載されている。

しかしながら、比較例1,3,5,8は上記を満たしている。なお、本件特許明細書の0113段には、「ポリエステルフィルムの製造工程中の一次延伸(縦延伸)における温度、熱固定工程における温度、延伸ロールの周速度等は弾性変形仕事率(η

it

)を制御する主要な要因であり、これらを適宜調整することによって弾性変形仕事率(η

it

)を向上させることができる」としているものの、比較例1,3(冷却ロール周速度:4.3m/分、延伸ロールの周速度15.1m)、比較例7(冷却ロール周速度:4m/分、延伸ロールの周速度14.1m)であり、それら比較例の冷却ロールの周速度と延伸ロールの周速は、実施例3,4,5(冷却ロール周速度4m/分、延伸ロールの周速度14.1m/分、m/分)と、実施例6,7(冷却ロール周速度5.1m/分、延伸ロールの周速度18.5m/分)の間に設定されている。

つまり、冷却ロールの周速度や延伸ロールの周速度は一定の連続した条件下では達成し得ないことが明らかである。してみれば、具体的に、請求項1をみたすための方法は記載されておらず、粒子種類や粒子径、製造条件が特定されていない本件請求項1の範囲まで、発明の詳細に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。請求項1を従属する請求項2乃至27も同様である。」

5 証拠方法

・甲第1号証:特開2017-217901号公報

・甲第2号証:特開平9-197709号公報

・甲第3号証:国際公開第00/53689号

・甲第4号証:特開2004-172338号公報

証拠の表記は特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」等という。

第4 当審の判断

当審は、申立人が申し立てた特許異議申立理由によって、本件発明1~27についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。

1 申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性)及び申立理由2(甲1を主たる証拠とする進歩性)について

(1)甲1に記載された事項等

ア 甲1に記載された事項

甲1には「離型用二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法」に関し、次の事項が記載されている(下線は当審が付したものと、予め付されたものである。)。

・「【請求項1】

2層以上からなるポリエステルフィルム

であって、少なくとも一方の最表層がアニオン性帯電防止剤および/または非イオン性帯電防止剤を含み、前記アニオン性帯電防止剤および/または非イオン性帯電防止剤を含む層の表面比抵抗値が1.0×10

8

Ω/□以上1.0×10

13

Ω/□以下であることを特徴とする離型用二軸配向ポリエステルフィルム。

【請求項2】

一方のフィルム表面の中心線粗さSRaが3nm以上10nm以下であり、もう一方のフィルム表面の中心線粗さが10nm以上50nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の離型用二軸配向ポリエステルフィルム。

・・・

【請求項6】

積層セラミックスコンデンサーを製造する工程においてグリーンシート成形の支持体に用いられることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の離型用二軸配向ポリエステルフィルム。

【請求項7】

ウェアラブル機器用積層セラミックスコンデンサーまたは

自動車用積層セラミックスコンデンサーを製造する工程においてグリーンシート成形の支持体に用いられることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の離型用二軸配向ポリエステルフィルム。

・「【0005】

近年、グリーンシート薄膜化が大きく進む中、薄膜化されたグリーンシートを多層に積層させる際の積層精度が、さらに高く要求されている。特に離型フィルム上でグリーンシートを切断する工程において、フィルムの支持体としてのコシやクッション性が足ないと、切断が正確に行われなかったり、切断面が安定化されず、グリーンシートの断面が裂けることがある。またグリーンシート切断後の積層工程において、均一に加熱が行き届かずに、積層が均一になされないこともある。

【0006】

本発明の目的は、スマートフォン向け、ウェアラブル他、多機能携帯端末および自動車に搭載される、

積層セラミックスコンデンサーを製造する際、薄膜グリーンシート成形時の、セラミックススラリーの塗工性および、グリーンシート打ち抜き性およびグリーンシート積層特性、特には積層前の剥離をスムーズに行える特性との、各種特性のバランスを適正化した、離型用二軸配向ポリエステルフィルム

およびその製造方法を提供することにある。」

・「【0018】

また、本発明の離型用二軸配向ポリエステルフィルムが、3層からなる積層フィルムの場合、A層は、離型層を設けた後に、セラミックススラリーを塗布する面を構成するのに好適な層であり、B層は離型層の反対面を構成するのに好適な層であり、C層は、A層とB層の中間に位置する層である。この際、最表層に含有する粒子量を制御することで、内層部(上記3層からなる積層フィルムの場合、C層)にフィルム表面の特性に悪影響を与えない範囲で、製膜工程で発生するエッジ部分の回収原料、あるいは他の製膜工程のリサイクル原料などを適時混合して使用することで、コストメリットを得ることが可能である。この際のC層の厚みは、全体の厚みの50%~95%であることが好ましい。」

・「【0026】

本発明の離型用二軸配向ポリエステルフィルムは、搬送や巻き取り時のハンドリング性を向上させる目的で、粒子を含有させても良い。」

・「【0028】

なお、体積形状係数fは粒子が球のとき、最大のπ/6(=0.52)をとる。また、必要に応じて濾過などを行うことにより、凝集粒子や粗大粒子などを除去することが好ましい。中でも、乳化重合法で等で合成された、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化チタン粒子等の粒子が好適に使用できるが、とくに架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン、さらに球状シリカなどは体積形状係数が真球に近く、粒径分布が極めて均一であり、均一にフィルム表面突起を形成する観点で好ましい。」

・「【0039】

本発明の離型用二軸配向ポリエステルフィルムは、長手方向および横方向の破断強度の和が500MPa以上600MPa以下であることが好ましく

、さらに好ましくは520MPa以上590MPa以下である。また、幅方向の破断強度が長手向の破断強度と同等以上が好ましく、その差は、0MPa以上90MPa以下であり、さらに、その差が40MPa以上80MPa以下の場合がさらに好ましい。

長手方向および横方向の破断強度の和が500MPaを下回ると、延伸工程に粒子周りのポリマーが粒子より剥離してなるボイド(空隙)構造が発現しづらくなり、所望の表面粗さや、クッション性が発現しない場合がある。

600MPaより上回る状態を達成する為には長手方向や幅方向への延伸を過度に実施する必要があり、延伸中に破断することがあるため好ましくない。」

・「【0045】

本発明におけるポリエステルフィルムにおいては、寸法変化率を適性にコントロールすることが、後加工、特に離型層を塗布した後の平面性を良好に保つ上で好ましく、製膜条件における弛緩処理等の公知の方法により適宜調整することにより達成出来る。150°Cにおける寸法変化率は長手方向で2%以下、幅方向で2.5%以下が好ましく、長手方向で0.5%以上1.7%以下、幅方向で1%以上2%以下がさらに好ましい。また、100°Cにおける寸法変化率は長手方向、幅方向ともに1%以下が好ましく、0.2%以上0.8%以下の範囲であるとさらに好ましい。該寸法変化率において上記範囲の下限を下回ると、離型層を塗布する際にタルミによる平面性不良が発生し、上限を上回ると、離型層を塗布する際に収縮によりトタン状に収縮斑が発生し平面性不良となり、いずれの場合も薄膜グリーンシートの塗布厚みに斑を生じさせることがあるため、好ましくない。」

・「【0052】

一方、本発明のポリエステルフィルムは、逐次延伸を用いて製造することもできる。

最初の長手方向の延伸は、傷の発生を抑制する上で重要であり、延伸温度は90°C以上130°C以下、好ましくは100°C以上120°C以下である。延伸温度が90°Cよりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が130°Cよりも高くなるとフィルム表面が熱ダメージを受けやすくなるため好ましくない。また、延伸ムラ、及びキズを防止する観点からは延伸は2段階以上に分けて行うことが好ましく、トータル倍率は長さ方向に3倍以上4.5倍以下、好ましくは3.5倍以上4.2倍以下であり、幅方向に3.2倍以上5倍以下、好ましくは3.6倍以上4.3倍以下である。目標とするフィルムの破断強度を達成するため、適時倍率を選択できるが、幅方向の破断強度を高くするため、幅方向の延伸倍率を長手方向よりも高めに設定することがさらに好ましい。かかる温度、倍率範囲をはずれると延伸ムラあるいはフィルム破断などの問題を引き起こし、本発明の特徴とするフィルムが得られにくいため好ましくない。再縦または横延伸した後、205°C以上240°C以下、好ましくは210°C以上230°C以下で0.5秒以上20秒以下、好ましくは1秒以上15秒以下熱固定を行う。特に熱固定温度が205°Cよりも低くなるとフィルムの結晶化が進まないために構造が安定せず、目標とする寸法変化率などの特性が得られず好ましくない。

【0053】

逐次延伸において、長手方向の延伸過程は、フィルムとロールの接触し、ロールの周速とフィルムの速度差による傷が発生しやすい工程につき、ロール周速がロール毎に個別に設定できる駆動方式が好ましい。」

・「【0070】

[実施例1]

(1)ポリエステルペレットの作成

(ポリエステルAの作製)

テレフタル酸86.5重量部とエチレングリコール37.1重量部を255°Cで、水を留出しながらエステル化反応を行う。エステル化反応終了後、トリメチルリン酸0.02重量部、酢酸マグネシウム0.06重量部、酢酸リチウム0.01重量部、三酸化アンチモン0.0085重量部を添加し、引き続いて、真空下、290°Cまで加熱、昇温して重縮合反応を行い、固有粘度0.63のポリエステルペレットを得た。

【0071】

(ポリエステルBおよびポリエステルCの作成)

上記と同様にポリエステルを製造するにあたり、エステル交換後、体積平均粒径0.06μm、体積形状係数f=0.51、体積平均粒径0.2μm、体積形状係数f=0.51の球状シリカをそれぞれ添加し、重縮合反応を行い、粒子をポリエステルに対し1重量%含有するシリカ含有マスターペレットを得た(ポリエステルB)、(ポリエステルC)。なお、ポリエステルBおよびポリエステルCで用いる球状シリカは、エタノールとエチルシリケートとの混合溶液を攪拌しながら、この混合溶液に、エタノール、純水、および塩基性触媒としてアンモニア水からなる混合溶液を添加し、得られた反応液を攪拌して、エチルシリケートの加水分解反応およびこの加水分解生成物の重縮合反応を行なった後に、反応後の攪拌を行い、単分散シリカ粒子を得た。

【0072】

(ポリエステルD、EおよびポリエステルFの作成)

さらに別に、モノマーを吸着させる方法によって得た体積平均粒径0.3μm、体積形状係数f=0.51のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子の水スラリーを、上記の実質的に粒子を含有しないホモポリエステルペレットに、ベント式二軸混練機を用いて含有させ、体積平均粒径0.3μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステルに対し1重量%含有するマスターペレットを得る(ポリエステルD)。

体積平均粒径0.5μm、0.8μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子含有マスターペレットは、ポリエステルに対しそれぞれ1重量%含有するマスターペレットを同様にして得た(それぞれポリエステルE、ポリエステルF)。

【0073】

(ポリエステルGの作製)

また、ポリエステルAを製造するにあたりエステル交換後、炭酸ガス法にて作成した体積平均粒径1.1μmの炭酸カルシウムをポリエステルに対し1重量%添加し炭酸カルシウム含有マスターペレットを得た。

【0074】

(ポリエステルHの作製)

ポリエステルA対し帯電防止剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を6重量%およびポリエチレングリコール(分子量:4000)を8.4重量%添加し、帯電防止剤含有マスターペレットを得た。

【0075】

詳しくは、ジメチルテレフタレート100重量%、エチレングリコール65重量%およびエステル交換反応触媒として酢酸カルシウム0.09重量%、重合触媒として三酸化アンチモン0.03重量%を加え、140~220°Cの間でほぼ理論量のメタノールを留出させポリエステルの低重合体物を得た。その後、トリメチルホスフェート0.04重量%(88ppm)を添加し、添加してから30分後にAV値0.04mgKOH/gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1重量%と分子量4000のポリエチレングリコール1重量%を添加した。次いで系内を徐々に減圧とし、1mmHgの減圧下で最終重合温度290°Cにて4時間重縮合反応を行い、ポリエチレンテレフタレートを得た。得られたポリエチレンテレフタレートの極限粘度は0.637、軟化点257°Cであった。

【0076】

(回収原料A)

下記処方のフィルムを製造した後のフィルムを回収し、ペレット化したものを回収原料Aとした。なお以下に記載する比率は、フィルム全体の重量に対する重量比(重量%)で表す。

ポリエステルA 93.4

ポリエステルD: 0.6

ポリエステルG: 6.0。

【0077】

(2)ポリエステルペレットの調合

A層、B層、C層それぞれの層の押出機に供給するポリエステルペレットは、以下の比率にて調合する。なお以下に記載する比率は、おのおのの層を構成するポリエステルペレットに対する重量比(単位:重量%)である。

【0078】

A層

ポリエステルA:92.0

ポリエステルB:8.0

B層

ポリエステルA:45.0

ポリエステルD:30.0

ポリエステルE: 5.0。

【0079】

ポリエステルH:20.0

C層

ポリエステルA:60.0

回収原料A :40.0

(3)二軸配向ポリエステルフィルムの製造

先述の、各層について調合した原料を、ブレンダー内で攪拌した後、A層およびB層の原料は、攪拌後の原料を、A層およびB層用のベント付き二軸押出機に供給し、C層の原料は160°Cで8時間減圧乾燥し、B層用の一軸押出機に供給した。275°Cで溶融押出し、3μm以上の異物を95%以上捕集する高精度なフィルターにて濾過した後、矩形の異種3層用合流ブロックで合流積層し、層A、層B、層Cからなる3層積層とした。その後、285°Cに保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印可キャスト法を用いて表面温度25°Cのキャスティングドラムに巻き付け冷却固化して未延伸積層フィルムを得た。

【0080】

この未延伸積層フィルムに逐次延伸(長手方向、幅方向)を実施した。まず長手方向の延伸を実施し、105°Cでテフロン(登録商標)ロールにて搬送した後に、長手方向に120°Cで4.0倍延伸して一軸延伸フィルムとした。

【0081】

この一軸延伸フィルムをステンター内で横方向に115°Cで4倍延伸し、続いて230°Cで熱固定し、その際幅方向に5%弛緩し搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後に巻き取り、厚さ31μmの二軸延伸フィルムの中間製品を得た。この中間製品をスリッターにてスリットし、厚さ31μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た(以下原反フィルムロールと呼ぶ)。この二軸配向ポリエステルフィルムの積層厚みを測定した結果、A層:6.5μm、B層:1.0μm、C層:23.5μmであった。

【0082】

(4)原反フィルム巻取性

中間製品をスリッターにてスリットした後の巻姿を観察、凸部と凹部の差を確認する。

・・・

【0084】

(5)離型層の塗布

次にこの二軸配向ポリエステルフィルムのA層の表面に、架橋プライマー層(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名BY24-846)を固形分1%に調整した塗布液を塗布/乾燥し、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコーターで塗布し、100°Cで20秒乾燥硬化した。その後1時間以内に付加反応型シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名LTC750A)100重量部、白金触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名SRX212)2重量部を固形分5%に調整した塗布液を、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコートで塗布し、120°Cで30秒乾燥硬化した後に巻き取り、離型フィルムを得た。

【0085】

(6)グリーンシートの成型(セラミックススラリーの塗布)

チタン酸バリウム(富士チタン工業(株)製商品名HPBT-1)100重量部、ポリビニルブチラール(積水化学(株)製商品名BL-1)10重量部、フタル酸ジブチル5重量部とトルエン-エタノール(重量比30:30)60重量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合・分散させた後、濾過してペースト状のセラミックスラリーを調整した。得られたセラミックスラリーを、離型フィルムの上に乾燥後の厚みが0.8μmとなるように、ダイコーターにて塗布し乾燥させ、巻き取り、グリーンシートを得た。

【0086】

(7)グリーンシートの塗布状態評価

上記で巻き取られたグリーンシートを、繰り出し、離型フィルムから剥がさない状態にて目視で観察し、ピンホールの有無や、シート表面および端部の塗布状態を確認する。なお観察する面積は幅300mm、長さ500mmである。

【0087】

a.ピンホール、凹みの有無

離型フィルムの上に成型されたグリーンシートについて、背面から1000ルクスのバックライトユニットで照らしながら、塗布抜けによるピンホールあるいは、離型フィルム背面の表面転写による凹み状態を観察する。

・・・

【0094】

実施例1においては、ピンホール、凹みの有無評価は、ピンホール、凹みとも無いため、評価を○とした。また、シート表面も端部も塗布斑が無いため、評価を○とした。

【0095】

(8)内部電極のパターンの形成

Ni粒子44.6重量部と、テルピネオール52重量部と、エチルセルロース3重量部と、ベンゾトリアゾール0.4重量部とを、混練し、スラリー化して内部電極層用塗料を得る。内部電極層用塗料を、グリーンシートの上に、スクリーン印刷法によって所定パターンで塗布し、内部電極パターンを有するセラミックグリーンシートを得た。乾燥温度は90°C、乾燥時間は5分である。

【0096】

(9)グリーンシートの打ち抜き性評価

上記の、離型フィルムの上に成形され、内部電極パターンを付与した、セラミックグリーンシートを繰り出し、離型フィルム上にてグリーンシートを100枚分切断し打ち抜く。切断には回転式の丸刃カッターを使用する。この際、グリーンシートを切断するための、回転式丸刃カッターの切り込み深さは、グリーンシート厚みプラス2μm~3μmに設定する。この際、グリーンシートの切断面を目視で確認する。なお評価においては、丸刃式カッターは1000枚切断後交換する。

まず目視にてグリーンシート上面より切断面の均一性を確認し、切断カスや欠落の有無や、離型フィルムからの剥離の有無を確認する。この際の評価指標は以下の通りとする。

◎:離型フィルムとグリーンシートとの剥離がきわめて安定的に行われる。

・・・

【0100】

実施例1において、グリーンシートの打ち抜き性評価を実施したところ、グリーンシート上面の切断面に切断カスや欠落が無く、離型フィルムとグリーンシートとの局部的な剥離が無いため,評価を○とした。

【0101】

(10)グリーンシート積層特性

上記の、離型フィルム上で打ち抜かれた後のグリーンシートを積層する。積層は、離型フィルム上にグリーンシートを保持したまま搬送後、グリーンシートを積層体に熱圧着した後に、離型フィルムを剥がす。この作業を100枚分繰り返し、セラミック積層体を得る。この際の積層状態を目視で確認して、グリーンシート積層特性を以下の基準にて評価する。

・・・

【0105】

実施例1においてグリーンシート積層特性を評価した結果、シート積層時にグリーンシート剥離不良が発生していないため○であった。

【0106】

[実施例2、3]

A層、B層に入れる粒子種を変更した以外は実施例1と同じ製法にて厚さ31μmの二軸延伸フィルムのロールを得た。離型層の塗布、グリーンシートの成型(セラミックススラリーの塗布)、内部電極のパターンの形成、グリーンシートの打ち抜き性評価、グリーンシート積層特性についても、実施例1と同様の方法で実施・評価した(以降、実施例、比較例とも同様な加工工程にて実施・評価する)。

【0107】

原反フィルム巻取性、スラリー塗布特性、グリーンシート打ち抜き性、グリーンシート積層特性ともに○で、良好であった。

【0108】

[実施例4]

A層、B層それぞれの層の押出機に供給するポリエステルペレットは、以下の比率にて調合する。なお以下に記載する比率は、おのおのの層を構成するポリエステルペレットに対する重量比(単位:重量%)である。

【0109】

A層

ポリエステルA:95.0

ポリエステルD:5.0

B層

ポリエステルA:30.0

ポリエステルD:5.0

ポリエステルG:45.0。

【0110】

ポリエステルH:20.0

上記の、各層について調合した原料を、ブレンダー内で攪拌した後、B層の原料は、攪拌後の原料をB層用のベント付き二軸押出機に供給し、A層の原料は160°Cで8時間減圧乾燥し、A層用の一軸押出機に供給した。275°Cで溶融押出し、3μm以上の異物を95%以上捕集する高精度なフィルターにて濾過した後、矩形の2層用合流ブロックで合流積層し、層A、層Bからなる2層積層とした。その後は実施例1と同じ製法にて厚さ31μmの二軸延伸フィルムのロールを得た。離型層の塗布、グリーンシートの成型(セラミックススラリーの塗布)、内部電極のパターンの形成、グリーンシートの打ち抜き性評価、グリーンシート積層特性についても、実施例1と同様の方法で実施・評価した(以降、実施例、比較例とも同様な加工工程にて実施・評価する)。

【0111】

原反フィルム巻取性、グリーンシート打ち抜き性、グリーンシート積層特性ともに○であったが、スラリー塗布特性はピンホールがないものの凹みが3個以上認められたため△であった。

【0112】

[実施例5]

B層に入れる帯電防止剤の添加率を変更した以外は、実施例1と同じ製法にて厚さ31μmの二軸延伸フィルムのロールを得た。離型層の塗布、グリーンシートの成型(セラミックススラリーの塗布)、内部電極のパターンの形成、グリーンシートの打ち抜き性評価、グリーンシート積層特性についても、実施例1と同様の方法で実施・評価した(以降、実施例、比較例とも同様な加工工程にて実施・評価する)。

【0113】

原反フィルムの巻取時に滑りやすく、わずかなズレが生じてしまい原反フィルム巻取性は△、スラリー塗布特性、グリーンシート打ち抜き性、グリーンシート積層特性ともに○であった。

【0114】

[実施例6]

A層に帯電防止剤を添加する変更以外は、実施例1と同じ製法にて厚さ31μmの二軸延伸フィルムのロールを得た。離型フィルムとグリーンシートとの剥離がきわめて安定的に行われたため、グリーンシート積層特性は◎とした。

[実施例7]

A層およびB層に帯電防止剤を添加する変更以外は、実施例1と同じ製法にて厚さ31μmの二軸延伸フィルムのロールを得た。原反フィルムの巻取時に、わずかなズレが生じてしまい、原反フィルム巻取性は△。離型フィルムとグリーンシートとの剥離がきわめて安定的に行われたため、グリーンシート積層特性は◎とした。」

・「【0124】

【表1】

100

104

0001435219000001.jpg

・「【産業上の利用可能性】

【0126】

本発明は二軸延伸ポリエステルフィルムをベースとする、離型用ベースフィルム、特に、セラミックスコンデンサーを構成するグリーンシートが薄膜化された際、薄膜グリーンシート成形時の、セラミックススラリーの塗工性および、グリーンシート打ち抜き性およびグリーンシート積層特性が良好となる

。」

イ 甲1に記載された発明

上記アの記載事項を、特に実施例1として製造されたポリエステルフィルムに関して整理すると、当該フィルムは、請求項1、6、【0006】、【0084】~【0101】等の記載からみて積層セラミックスコンデンサーを製造する工程においてグリーンシート成形の支持体に用いられるものといえるから、甲1には次の発明が記載されていると認められる。

「積層セラミックスコンデンサーを製造する工程においてグリーンシート成形の支持体に用いられる、表1の実施例1に示す層構成を有するポリエステルフィルムであって、

各層について調合した原料をブレンダー内で攪拌した後、A層およびB層の原料をベント付き二軸押出機に供給し、C層の原料を160°Cで8時間減圧乾燥して一軸押出機に供給して、それぞれ275°Cで溶融押出し、3μm以上の異物を95%以上捕集するフィルターにて濾過した後、矩形の異種3層用合流ブロックで合流積層して層A、層B、層Cからなる3層積層とし、285°Cに保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印可キャスト法を用いて表面温度25°Cのキャスティングドラムに巻き付け冷却固化して未延伸積層フィルムを得て、

前記未延伸積層フィルムを105°Cでテフロンロールにて搬送した後に、長手方向に120°Cで4.0倍延伸して一軸延伸フィルムとし、

前記一軸延伸フィルムをステンター内で横方向に115°Cで4倍延伸し、続いて230°Cで熱固定し、その際幅方向に5%弛緩し搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後に巻き取り、スリッターにてスリットして得た、

二軸配向ポリエステルフィルム。」(「表1の実施例1に示す層構成」については上記アを参照。以下、「甲1発明」という。)

また、甲1には甲1発明を積層セラミックスコンデンサーの製造工程においてグリーンシート成形の支持体としての使用、及び、甲1発明を用いたグリーンシートの製造方法も記載されているといえるから、甲1には以下の発明も記載されている。

「甲1発明の、積層セラミックスコンデンサーを製造する工程におけるグリーンシート成形の支持体としての使用。」(以下、「甲1方法発明」という。)

「甲1発明の表面に離型層を塗布して得た離型フィルムの上にペースト状のセラミックスラリーを塗布する工程を有する、グリーンシートの製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明は、「積層セラミックスコンデンサーを製造する工程においてグリーンシート成形の支持体に用いられる」「ポリエステルフィルム」であるから、本件発明1の「積層セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる、ポリエステルフィルム」との特定事項を満たす。

してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。

(一致点)

「積層セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる、ポリエステルフィルム。」

(相違点)

・相違点1

ポリエステルフィルムについて、本件発明1は「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、」と特定するのに対し、甲1発明はいずれの表面についても弾性変形仕事率が不明である点。

・相違点2

ポリエステルフィルムについて、本件発明1は「150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下であり、」と特定するのに対し、甲1発明は熱処理後における収縮率が不明である点。

イ 判断

相違点1について検討する。

甲1には、ポリエステルフィルムの表面の弾性変形仕事率について記載されておらず、相違点1は実質的な相違点である。また、甲1にはポリエステルフィルムの表面の弾性変形仕事率を所定値以上とすることを動機付ける記載はないし、他の証拠にもない。

そして、本件発明1は、積層セラミックコンデンサーの製造工程中、セラミックグリーンシートや剥離型層を形成する工程において、塗工斑や皺が発生し難く、かつ、セラミックグリーンシートの剥離不良を効果的に抑制できるという、顕著な効果を奏するものである。

よって、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。甲1の他の実施例に係るフィルムに基づいて甲1に記載された発明を認定した場合も同様に判断される。

ウ 申立人の主張について

申立人は、特許異議申立書15~25頁において、概略以下の点を指摘し、甲1発明が相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たす旨を主張している。

(ア)主張1(弾性変形仕事率の効果について)

甲1には、「本発明の離型用二軸配向ポリエステルフィルムは、長手方向および横方向の破断強度の和が500MPa以上600MPa以下であることが好ましく・・・延伸工程に粒子周りのポリマーが粒子より剥離してなるボイド(空隙)構造が発現しづらくなり、所望の表面粗さや、クッション性が発現しない場合がある。」(【0039】)との記載があるのに対し、本件発明の弾性変形仕事率は、フィルムへ圧子を押し込み除荷した後の戻り率を見ており、本件発明と甲1は、フィルムのクッション性を付与するという点で同一であり、その製造方法も同一である。

したがって、甲1の実施例1ないし7には、本件発明と同一の層構成、同一の原料、同一の製造方法で得られたフィルムが記載され、本件発明の効果についても実質的に開示されている。(特許異議申立書15頁8行~16頁14行)

(イ)主張2(弾性変形仕事率の達成手段について)

本件明細書に記載された要件a(相違点1に係る本件発明1の発明特定事項)の達成手段と、甲1の記載を対比すると、甲1の各実施例のポリエステル組成、粒子組成、成膜条件はいずれも本件明細書の【0016】、【0062】、【0066】~【0067】、【0071】~【0072】、【0111】に記載された好ましい範囲に合致しており、甲1の各実施例により製造されたフィルムが要件aを満たすことは自明である。(特許異議申立書16頁15行~25頁21行)

エ 申立人の主張についての判断

そこで、上記主張について検討する。

(ア)主張1について

本件明細書には、フィルムに含まれる粒子について「粒子のモース硬度が前記範囲よりも大きくなると、フィルム延伸時の追従性が低下してボイドが発生し、弾性変形仕事率(η

it

)を低下させる傾向がある。」(【0068】)との記載があり、ボイドの存在が弾性変形仕事率を低下させる旨が記載されているのに対し、甲1には、「延伸工程に粒子周りのポリマーが粒子より剥離してなるボイド(空隙)構造が発現しづらくなり、所望の表面粗さや、クッション性が発現しない場合がある。」(【0039】)との記載があり、ボイドの存在がフィルムの「クッション性」発現に好ましい旨が記載されている。そうすると、甲1におけるフィルムの「クッション性」は、本件発明の「弾性変形仕事率」と同義ではなくむしろ相反する性質を意味する用語といえる。そうすると、申立人が指摘する甲1の記載を参酌しても、甲1発明が相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとはいえないし、甲1発明においてフィルムの弾性変形仕事率を所定値以上とすることが動機付けられるともいえない。

よって、申立人の主張1は採用できない。

(イ)主張2について

弾性変形仕事率を制御する方法について、本件明細書には以下の記載がある(下線は当審で付与した。)。

「弾性変形仕事率(η

it

)及び収縮率(150°C、5分間熱)を両立させるためには、例えば、

製膜条件(特には縦延伸温度、横延伸倍率、熱固定温度、ロールの周速度、弛緩率等)、製膜原料等を適宜設定することにより、前記範囲に制御することができる。

」(【0024】)

「弾性変形仕事率(η

it

)及び特定の表面特性(算術平均高さ(Sa)、最大山高さ(Sp))は、例えば、粒子を配合する場合は、

粒子の種類

、具体的には、例えば、粒子の組成、平均粒径、粒度分布、硬度、含有させるポリエステルとの親和性等

を鑑み、含有量を調節することによって、所定の範囲に調整することができる。

また、

含有させるポリエステルの種類、例えば、組成、粘度、分子量、熱特性、共重合成分の有無等を鑑み、粒子の種類や含有量を調節することも、弾性変形仕事率(η

it

)及び表面特性の調整に有用である

粒子を2種類以上併用する場合は、使用する粒子やポリエステルの種類を鑑み、含有割合を調整することが好ましい。

」(【0050】)

「ポリエステルフィルムの製造工程中の一次延伸(縦延伸)における温度、熱固定工程における温度、延伸ロールの周速度等は弾性変形仕事率(η

it

)を制御する主要な要因であり、これらを

適宜調整することによって弾性変形仕事率(η

it

)を向上させることができる

一方、加熱処理後の収縮率が悪化する傾向があるため、

更に、例えば弛緩率等を適宜調整することにより、高い弾性変形仕事率(η

it

)と優れた耐熱変形性とを両立できるポリエステルフィルムを製造することが容易になる

。例えば、以下に限定されないが、一次延伸(縦延伸)における温度を80~90°C、78~88°C等の比較的低い温度条件に設定することが好ましく、また、熱固定工程における温度条件を200~240°C、200~230°C等の温度条件に設定することが好ましく、熱固定工程における熱処理時間を1~20秒間、2~16秒間、3~13秒間、4~10秒間等に設定することが好ましく、更に、冷却工程における弛緩率を例えば0~20%、0.5~15%、1~10%、1.5~8%等の

範囲で適宜設定することにより、弾性変形仕事率(η

it

)及び加熱処理後の熱収縮率の両方を所望の範囲に制御することが容易になる

。」(【0113】)

すなわち、本件明細書には、ポリエステルフィルムの弾性変形仕事率を制御するためには、その組成や成膜条件を所定範囲内で適宜に調整することを要する旨が記載されている。そして、本件明細書の実施例を参照すると、例えば比較例1、3及び8のフィルムは、上記の成膜条件を満たすものの弾性変形仕事率が55%以下となっている。そうすると、本件明細書の一般記載に示されたフィルムの組成や成膜条件は、本件発明の特定事項を満たしうる範囲を幅広く例示したものであって、その範囲を満たす条件で製造されたフィルムであれば必ず本件発明の特定事項を満たすものとはいえない。したがって、甲1発明のポリエステルフィルムの組成や成膜条件が本件明細書の一般記載に示された条件を満たすからといって、甲1発明が相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすということはできない。

よって、申立人の主張2は採用できない。

オ 本件発明1についてのまとめ

以上まとめると、相違点1は実質的な相違点であり、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1及び他の全ての証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明2~23について

本件発明2~23は、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記(2)と同様の理由により、本件発明2~6及び14~23は甲1発明ではなく、本件発明2~23は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明24について

本件発明24と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。

・相違点3

ポリエステルフィルムについて、本件発明24は「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、」と特定するのに対し、甲1発明はいずれの表面についても弾性変形仕事率が不明である点。

上記相違点3について検討すると、相違点3は相違点1と同じ内容の相違点であり、上記(2)イ~エと同様に判断される。

よって、本件発明24は甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)本件発明25について

本件発明25と甲1方法発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。

・相違点4

ポリエステルフィルムについて、本件発明25は「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、」と特定するのに対し、甲1方法発明はそのように特定されていない点。

上記相違点4について検討すると、相違点4は実質的に相違点1と同じ内容の相違点であり、上記(2)イ~エと同様に判断される。

よって、本件発明25は甲1方法発明ではなく、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(6)本件発明26について

本件発明26と甲1方法発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。

・相違点5

ポリエステルフィルムについて、本件発明26は「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、」と特定するのに対し、甲1方法発明はそのように特定されていない点。

上記相違点5について検討すると、相違点5は相違点4と同じ内容の相違点であり、上記(5)と同様に判断される。

よって、本件発明25は甲1方法発明ではなく、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(7)本件発明27について

本件発明27と甲1製法発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。

・相違点6

ポリエステルフィルムについて、本件発明27は「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、」と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点。

上記相違点6について検討すると、相違点6は実質的に相違点1と同じ内容の相違点であり、上記(2)イ~エと同様に判断される。

よって、本件発明27は甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(8)申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性)及び申立理由2(甲1を主たる証拠とする進歩性)についてのまとめ

以上のとおり、本件発明1~6及び14~27は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件発明1~27は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~27に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。

よって、申立理由1及び2によって本件特許の請求項1~27に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3(実施可能要件)について

(1)実施可能要件の判断手法

物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。

また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

さらに、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

(2)本件明細書の記載事項

本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。

発明が解決しようとする課題について、【0009】には「本発明は、前記事情に鑑みなされたものであり、離型フィルムからセラミックグリーンシートを剥離する工程における剥離性を向上させることができ、更に、塗工斑や皺の発生を抑制することもできるポリエステルフィルムを提供する。」と記載されている。

そして、当該課題を解決できるフィルムについて、【0014】には「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下の要件を満足するポリエステルフィルムである。」と記載され、さらに、弾性変形仕事率と収縮率の技術的意義について、【0017】には「本フィルムは、特定の弾性変形仕事率(η

it

)及び特定の耐熱変形性を備えており、例えば、セラミックグリーンシートの裁断時に生じる変形に対する復元力が高く、セラミックグリーンシートの剥離性に優れたものになると共に、離型層やセラミックグリーンシート等を形成する工程において塗工斑や皺の発生を効果的に抑制することができ、高度な品質信頼性を担保し得る離型フィルム等を提供できる点において非常に優れている。」と記載され、【0019】には「A面の弾性変形仕事率(η

it

)が55%超の特定範囲に制御することによって、例えば、薄膜化セラミックグリーンシートを用いたMLCCの製造工程において特に求められる高度な剥離性を実現することができ、剥離不良を効果的に抑制することができる。」と記載され、【0020】には「A面の弾性変形仕事率(η

it

)が55%超の特定範囲に制御された本フィルムを用いることによって、例えば、セラミックグリーンシートを剥離するために裁断刃を用いて裁断する際に、セラミックグリーンシートの端部が本フィルムから分離しやすく、両者の間に良好な隙間を形成することができる。この隙間を用いて本フィルムを把持し、セラミックグリーンシートと本フィルムとを分離することが容易になる。」と記載され、【0022】、【0023】には「本フィルムは、前述の塗工斑や皺を抑制する観点から、150°C、5分間熱処理したときの縦方向(MD)の収縮率が、好ましくは2.8%以下である。」「また、本フィルムの150°C、5分間熱処理したときの横方向(TD)の収縮率は、前述の塗工斑や皺を抑制する観点から、好ましくは2.8%以下である。」と記載されている。

そして、上記弾性変形仕事率及び収縮率を制御する方法に関して、【0024】には弾性変形仕事率と収縮率を両立させるために、製膜条件(特に縦延伸温度、横延伸倍率、熱固定温度、ロールの周速度、弛緩率等)、製膜原料を適宜設定することが記載され、フィルムに含まれる粒子について【0065】~【0066】には好ましい粒子の種類、【0068】には好ましいモース硬度の値、【0069】には好ましい含有量、【0088】には好ましくはpH7でのゼータ電位の正負が異なる2種以上の粒子を含むことがそれぞれ記載され、フィルム製造時の成膜条件について【0111】には一次延伸、二次延伸及び熱処理の好ましい条件の範囲が記載され、さらに、成膜条件の調整方法について【0113】には「ポリエステルフィルムの製造工程中の一次延伸(縦延伸)における温度、熱固定工程における温度、延伸ロールの周速度等は弾性変形仕事率(η

it

)を制御する主要な要因であり、これらを適宜調整することによって弾性変形仕事率(η

it

)を向上させることができる一方、加熱処理後の収縮率が悪化する傾向があるため、更に、例えば弛緩率等を適宜調整することにより、高い弾性変形仕事率(η

it

)と優れた耐熱変形性とを両立できるポリエステルフィルムを製造することが容易になる。例えば、以下に限定されないが、一次延伸(縦延伸)における温度を80~90°C、78~88°C等の比較的低い温度条件に設定することが好ましく、また、熱固定工程における温度条件を200~240°C、200~230°C等の温度条件に設定することが好ましく、熱固定工程における熱処理時間を1~20秒間、2~16秒間、3~13秒間、4~10秒間等に設定することが好ましく、更に、冷却工程における弛緩率を例えば0~20%、0.5~15%、1~10%、1.5~8%等の範囲で適宜設定することにより、弾性変形仕事率(η

it

)及び加熱処理後の熱収縮率の両方を所望の範囲に制御することが容易になる。」と記載されている。

また、ポリエステルフィルムの用途について、【0126】~【0128】には、積層セラミックコンデンサーの製造工程において、セラミックグリーンシートの支持体として好適に用いることができ、とりわけ、自動車用積層セラミックコンデンサーに用いるセラミックグリーンシート用支持体として好適であることが記載されている。

さらに、【0133】~【0158】には実施例が記載され、「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下であり、」との特定事項を満たす実施例1~7と、当該条件を満たさない比較例1~8に係るポリエステルフィルムの具体的な組成と成膜条件が示されている。そして、実施例及び比較例の考察として、【0159】には「表2に示すとおり、実施例1~7のポリエステルフィルムは、粒子の組成、平均粒径、粒度分布、硬度、及びポリエステルとの親和性等、ポリエステルの種類、並びに製膜条件等を調整して得られた特定のポリエステルフィルムであり、弾性変形仕事率(η

it

)及び熱処理後の収縮率が特定範囲に制御されている。具体的には、実施例1~7のポリエステルフィルムは、一方の表面の弾性変形仕事率(η

it

)が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が共に2.8%以下である。したがって、実施例1~7のポリエステルフィルムは、例えば、積層セラミックコンデンサーの製造工程中、セラミックグリーンシートや剥離型層を形成する工程において、塗工斑や皺が発生し難く、かつ、セラミックグリーンシートの剥離不良を効果的に抑制できることが分かる。」と記載され、【0161】には、「比較例1~5の結果から、熱固定処理における温度条件が弾性変形仕事率(η

it

)を制御するための主要な要因であることが示唆されるが、熱固定処理における温度条件を調整して弾性変形仕事率(η

it

)を向上させた場合、加熱処理後の収縮率が悪化する傾向があることが分かる。同様に、例えば、比較例6及び比較例7の結果から、延伸ロールの周速度が弾性変形仕事率(η

it

)を制御するための要因であることが示唆されるが、延伸ロールの周速度を調整して弾性変形仕事率(η

it

)を向上させた場合、加熱処理後の収縮率(TD方向)が悪化する傾向があることが分かる。また、加熱処理後の収縮率を低くするため、実施例5に比べて横延伸倍率を下げた比較例8は、弾性変形仕事率(η

it

)が55%に達しなかった。」と記載されている。

(3)実施可能要件についての判断

上記(2)の記載を参照することにより、当業者は、発明の詳細な説明の実施例に示されたポリエステルフィルムの組成及び成膜条件に基づいて実施例1~7に係るポリエステルフィルムを製造及び使用でき、さらに、一般記載に示された弾性変形仕事率(η

it

)及び加熱処理後の熱収縮率の調整方法に基づいて組成及び成膜条件を調整したポリエステルフィルムを製造及び使用できるから、発明の詳細な説明には、本件発明1及び24の発明特定事項を満たすフィルムを製造して使用でき、本件発明25及び26の発明特定事項を満たす方法を使用することができ、本件発明27を使用し、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明2~23についても同様の記載があるといえる。

よって、本件発明1~27に関する発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。

(4)申立人の主張について

申立人は、本件特許の実施可能要件に関して上記第3 3のように主張しているので、以下、検討する。

申立人の主張は、要するに、以下の2点を指摘し、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明のうち弾性変形仕事率が57.8%を超え100%にかかる範囲について実施可能に記載されたものではない、と主張するものである。

ア 主張1(実施例における弾性変形仕事率の範囲について)

本件発明の「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって」との特定事項(要件a)について、55%を超え100%という広大な領域を規定するのに対し、実施例では55.2~57.8%という、狭い数値範囲の例しか具体的に開示されていない。

イ 主張2(弾性変形仕事率の達成手段について)

比較例1ないし5及び8は発明の詳細な説明に示された条件を満たすにもかかわらず(要件a)を満たしていない。そうすると、実施例以外にどのようにすれば(要件a)が得られるのか試行錯誤を要し、理解することができない。

(5)申立人の主張についての判断

そこで、上記主張について検討する。

ア 主張1について

実施可能要件の判断手法は上記(1)のとおりであり、例えば物の発明においては、発明の詳細な説明に、当業者が、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。本件発明1に即していえば、発明の詳細な説明に、本件発明1の特定事項を満たすポリエステルフィルムを製造し使用することができる程度の記載があればよく、「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって」との特定事項の全範囲、すなわち弾性変形仕事率100%の範囲まで実施可能であることが示されていることを要するとまではいえない。本件発明1と同様の特定事項を有する本件発明2~27についても同様である。

イ 主張2について

上記(2)に記載したとおり、発明の詳細な説明の一般記載には、【0065】~【0069】、【0088】、【0111】等でフィルムの組成や成膜条件の好ましい範囲が例示され、さらに【0113】で弾性変形仕事率(η

it

)及び加熱処理後の熱収縮率の両方を所望の範囲に制御するための成膜条件の調整方法について記載されているところ、当業者であれば、実施例1~7として具体的に開示されたフィルムをもとに、上記一般記載を参照して成膜条件等を適宜に調整することにより、実施例として開示されたもの以外の組成及び成膜条件に基づくフィルムを製造し、使用することができる。そうすると、発明の詳細な説明の記載は、実施例以外の形態について本件発明を実施しようとした場合に当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験を要するものとまではいえない。

そして、申立人の主張は、実施例として具体的に開示された組成及び成膜条件に基づくフィルム以外の形態では本件発明を実施し得ないとする証拠を示すものでもない。

以上検討したとおり、申立人の主張は採用できない。

(6)申立理由3(実施可能要件)についてのまとめ

上記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~27を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

よって、申立理由3によって、本件特許の請求項1~27に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由4(サポート要件)について

(1)サポート要件の判断手法

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件発明の課題について

発明の詳細な説明の【0009】等の記載からみて、本件発明1~24の課題は「離型フィルムからセラミックグリーンシートを剥離する工程における剥離性を向上させることができ、更に、塗工斑や皺の発生を抑制することもできるポリエステルフィルムを提供すること。」にあり、本件発明25及び26の課題は当該ポリエステルフィルムを積層セラミックコンデンサーの製造工程におけるセラミックグリーンシートの支持体として使用することにあり、本件発明27の課題は当該ポリエステルフィルムを用いたセラミックグリーンシートの製造方法を提供することにあるものと認められる(以下、まとめて「発明の課題」という。)。

(3)発明の詳細な説明の記載について

発明の詳細な説明には、上記2(2)のとおりの記載がある。

(4)サポート要件の判断

上記2(2)の一般記載におけるポリエステルフィルムの組成及び成膜条件の好ましい範囲ならびに成膜条件の調整方法についての記載(【0024】、【0065】~【0069】、【0088】、【0111】、【0113】)と、実施例における具体的な組成及び成膜条件の記載(【0133】~【0159】、【0161】)、並びに、弾性変形仕事率及び熱処理後の収縮率の技術的意義についての記載(【0017】、【0019】~【0020】、【0022】~【0023】)を参酌すると、当業者は、「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって、150°C、5分間の熱処理後における縦方向及び横方向の収縮率が2.8%以下」との発明特定事項を満たすポリエステルフィルムであれば、セラミックグリーンシートを剥離する工程における剥離性を向上させ、塗工斑や皺の発生を抑制することができ、発明の課題を解決できるものと認識できる。

そして、本件発明1~27は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる発明特定事項の全てを含むものであるから、本件発明1~27は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(5)申立人の主張について

申立人は、本件特許のサポート要件に関して上記第3 4のように主張しているので、以下、検討する。

申立人の主張は、要するに、本件発明の「一方の表面の弾性変形仕事率が55%超であって」との特定事項(要件a)について、具体的にどのような組成及び成膜条件により製造されたフィルムであれば当該特定事項を満たすことができるのか、発明の詳細な説明には明確な記載がないところ、粒子種類や粒子径、製造条件が特定されていない本件発明1~27の範囲まで、発明の詳細に開示された内容を拡張ないし一般化できない、というものである。

しかしながら、上記2(3)及び2(5)で示した判断と同様に、発明の詳細な説明には実施例1~7として具体的に要件aを満たすことのできるフィルムの組成及び成膜条件が明記されており、さらに一般記載には、フィルムの組成や成膜条件について好ましい範囲が例示され、弾性変形仕事率(η

it

)及び加熱処理後の熱収縮率の両方を所望の範囲に制御するための成膜条件の調整方法も示されているところ、当業者であれば、実施例1~7として具体的に開示されたフィルムをもとに、上記一般記載を参照して成膜条件等を適宜に調整することにより、実施例として開示されたもの以外の組成及び成膜条件に基づくフィルムを製造し、使用することができる。

そうすると、発明の詳細な説明に接した当業者は、実施例1~7以外の組成及び成膜条件によっても本件発明1の特定事項を満たすポリエステルフィルムを得ることができ、発明の課題を解決できることを認識できるから、本件発明1に具体的な粒子種類や粒子径、製造条件が特定されていないからといって、本件発明1が発明の詳細な説明のサポート要件に違反するものとはいえない。本件発明2~27についても同様である。

以上のとおり、申立人の主張は採用できない。

(6)申立理由4(サポート要件)についてのまとめ

上記のとおり、本件発明1~27は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

よって、申立理由4によって、本件特許の請求項1~27に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび

以上のとおり、本件特許の請求項1~27に係る特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても、取り消すことはできない。

また、他に、本件特許の請求項1~27に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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