結論テキスト
登録第6899070号商標の商標登録を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2025900093 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本件登録第6899070号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和6年6月14日に登録出願、第18類「かばん類,袋物,皮革製包装用容器,ペット用被服類,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ」及び第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,靴保護具,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服(「水上スポーツ用特殊衣服」を除く。)」を指定商品として、同7年1月16日に登録査定、同年2月20日に設定登録されたものである。
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は、以下の(1)及び(2)のとおりである(以下、これらをまとめていうときは「引用商標」という。)。
(1)使用に係る商標
別掲2及び別掲3の構成からなる商標(以下、前者を引用商標1の1、後者を引用商標1の2といい、これらをまとめていうときは「引用商標1」という。)であって、申立人が商品「紳士服,婦人服,スポーツウェア,子供服,ベルト,靴,かばん類,袋物,香水,時計,アイウェア」等に遅くとも平成14年から日本を含む全世界で使用中と主張するものである。
(2)登録商標
以下のアないしオのとおりであり、その商標権はいずれも現に有効に存続している。
ア 登録第4868551号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成 別掲4のとおり
指定商品 第24類ないし第26類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成13年10月24日
設定登録日 平成17年6月3日
イ 国際登録第808033号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成 別掲5のとおり
指定商品・役務 第3類、第5類、第9類、第14類、第16類、第18類、第24類、第28類、第35類、第38類及び第41類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
国際商標登録出願日 2003年(平成15年)5月6日
優先権主張日 2002年(平成14年)12月18日(France)
設定登録日 平成18年1月13日
ウ 国際登録第1457650号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成 別掲6のとおり
指定商品 第3類、第18類、第25類及び第26類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品
国際商標登録出願日(事後指定) 2021年(令和3年)12月20日
設定登録日 令和5年7月14日
エ 登録第6176226号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成 別掲7のとおり
指定商品 第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成30年9月4日
設定登録日 令和元年8月30日
オ 国際登録第1459184号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成 別掲8のとおり
(ア)指定商品・役務 第9類、第14類、第18類、第24類、第25類及び第35類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
国際商標登録出願日(事後指定) 2022年(令和4年)2月8日
設定登録日 令和5年8月10日
(イ)指定商品・役務 第9類、第14類、第18類、第24類、第25類及び第35類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
国際商標登録出願日(事後指定) 2022年(令和4年)8月12日
設定登録日 令和6年6月28日
(ウ)指定商品・役務 第3類、第9類、第14類、第18類、第24類、第25類及び第35類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
国際商標登録出願日(事後指定) 2022年(令和4年)8月18日
設定登録日 令和5年11月10日
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により、取り消されるべきである旨申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第56号証(枝番号を含む。但し、甲45は欠落。なお、枝番号を有する証拠において、特に必要がない限り枝番号の記載は省略する。)を提出した。
(1)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて
ア 申立人の引用商標について
申立人は、ルネ・ラコステ氏によって1933年に設立されたフランスのファッションデザイン会社である(甲7~甲10)。申立人は、同社を象徴するブランドとして、同氏の「ワニのラコステ」なるニックネームに由来する「ワニ」のロゴマークを採択し、世界で初めてポロシャツのワンポイントマークとして使用して、爆発的な人気と支持を得た。以後、申立人は「LACOSTE」の名称とともに、「ワニ」のマークを全面に出した宣伝広告、販促活動を積極的に行っており、今日では、ポロシャツその他の被服に統一的に使用されているほか、鞄、靴、時計、香水、アイウェアなどにも使用され(甲7、甲8)、世界98カ国で1,100の直営店を展開している(甲11)。
日本では1964年から事業を開始し、2014年に50周年、2025年に60周年を迎えた(甲9、甲10、甲12)。日本での事業は、申立人傘下の「株式会社ラコステジャパン」によって展開され、引用商標を付した「被服」や「靴」、「かばん類」等の商品(以下、これらの商品を「申立人商品」という。)が販売され、ライセンス事業が展開されている。同社が運営する国内の販売店は、東京、名古屋など主要都市の直営店及び全国各地の百貨店内の販売店等を合わせると、現在127店舗にのぼる(甲13)。また、自社の公式オンラインストアのほか(甲14)、AmazonやZOZOTOWN等の各種通販サイト、セレクトショップ等を通じた販売も活発に行われている。
申立人の「ワニ」のマークは90年以上の歴史があり、アパレル業界を代表する老舗ブランドとなっている。申立人の「ワニ」マークを使用した商品の世界総売上高は、2011年に約1,700億円(16億ユーロ)、2012年に約1,900億円(18億ユーロ)、2016年には約2,640億円(20億ユーロ)を記録した(甲15~甲17)。当時、日本での売上高は世界総売上高の約5%であり(甲15)、2011年は約85億円、2012年は約95億円であったと推定される。その後も、日本での売上高は順調に伸び、「2016年の国内売上高は120億円超」(甲18)、2023年3月には「前期、過去最高の売上高を記録」と報じられている(甲19)。
申立人の日本における宣伝広告活動は、従来から展開している屋外広告や雑誌広告のほか、近年は若年層への訴求を強めており、例えば、雑誌については、従来の顧客層であった男性向けの雑誌のみでなく、女性向けの各種ファッション誌やカルチャー誌等にも積極的に広告を掲載し、また、渋谷駅構内やスクランブル交差点、原宿駅周辺など、ファッションに敏感な若者が多く集う地域や、品川駅や羽田空港等の旅行者が多く利用する拠点での屋外広告や車内広告にも力を入れている(甲20、甲21)。さらに、著名なプロテニスプレーヤーや、世界的に人気のK-POPガールグループをブランドアンバサダーに起用した大々的な広告キャンペーンを一斉展開するなど、広告の規模も年々拡大している(甲22~甲26)。その他、近年はインターネット広告にも裾野を拡げ、デジタルメディアを活用した広告も積極的に行っている(甲27)。
これらに加え、直営店やセレクトショップ、スポーツ大会などでも継続的に販促イベントが実施され、ニュースリリースも随時発信されている(甲28~甲39)。このように、我が国での申立人の「ワニ」マークの露出はますます増加しており、老若男女を問わず幅広い層に認知されている。
イ 引用商標の周知・著名性について
申立人は創業以来、一貫して「ワニ」のロゴマークを使用し、いまや「ラコステ」といえば「ワニ」を、「ワニ」といえば「ラコステ」を想起するほど、その繋がりは強い。
1970年代以降、申立人が主に使用しているロゴとして引用商標を示す。
引用商標1は、申立人が遅くとも2002年から日本を含む全世界で使用しているロゴである(甲40)。また、引用商標2ないし引用商標6は、申立人が遅くとも1970年代から継続して使用しているロゴであり(甲8、甲41など)、引用商標5について、防護標章登録を有している(甲42)。
申立人は、創業当時からあらゆる機会を利用して引用商標、すなわち「ワニ」のロゴマークの訴求・浸透に努めている。例えば、申立人の商品には、常に「ワニ」のロゴマークがワンポイントや織ネームの形で表示されているほか(甲14、甲43)、商品に取り付ける紙ラベルや包装箱、ショッピングバッグなどにも必ず表示されており、全世界で流通する全ての申立人商品に引用商標が表示されている。また、店頭でも、店舗看板は勿論のこと、ハンガー、什器、その他の様々なディスプレイに引用商標が表示されている。このように、申立人による引用商標の「ワニ」及び「LACOSTE」のロゴを使用したマーケティング手法は、全世界的に統一され、徹底しており、我が国でも被服に興味を持つ者であれば、誰でも一度は申立人の「ワニ」のマークを目にし、記憶している。
このような引用商標の使用状況に加え、前述の売上高、店舗数、広告費、使用期間等を総合すると、引用商標は、遅くとも、本件商標の出願時において、申立人の取扱いに係る商品を表示する商標として、日本を含む全世界で周知著名になっており、その著名性は現在に至るまで継続している。
ウ 本件商標と引用商標の類似性の程度について
(ア)本件商標の構成
本件商標は、「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」を緑色で表した構成よりなるものであり、全体としてずんぐりとした胴体と太い尻尾を持ち、大きく開いた口に複数の小さな牙を備え、胴体の下部には短い前脚と後脚が一つずつ描かれている。また、体全体に白い線で幾何学模様が描かれている。
(イ)引用商標の構成
これに対し、引用商標1も、「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」をモチーフにした図形からなり、全体としてずんぐりとした胴体とたくましく太い尻尾を持ち、大きく開いた口には複数の小さな牙が並び、胴体の下部には短い前脚と後脚が一つずつ描かれている。また、特に、引用商標1の2(決定注:「引用商標1の1」をいうものと思料する。)は、体全体を緑色で表すとともに、背中から尻尾にかけて白い幾何学模様が描かれている。
また、引用商標2及び引用商標3は、引用商標1とほぼ同じ特徴を持つワニの図形からなるものであり、申立人の元祖「ワニ」のロゴマークとして、引用商標1と共に現在も申立人によって使用されている。
また、引用商標4は、申立人がポロシャツやその他の被服、履物、かばん類などにワンポイントマークとして継続的に使用しているマークであり、やはり「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」をモチーフとし、全体としてずんぐりとした胴体とたくましく太い尻尾を持ち、大きく開いた口には複数の小さな牙が並び、胴体の下部には短い前脚と後脚が一つずつ描かれているという特徴を備えている。また、体全体を緑色で表すとともに、胴体の中央に黒いギザギザ模様が描かれている。
さらに、引用商標5は、引用商標4のアウトラインを描いた図形であり、引用商標6はそこから胴体中央のギザギザ模様を取り除き、「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」という申立人の定番ロゴの特徴と形状を際立たせた構成となっている。
(ウ)対比
本件商標と引用商標1とは、いずれも、「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」の図形であること、全体としてずんぐりとした胴体と太い尻尾を持っていること、大きく開いた口に複数の小さな牙があること、胴体の下部に短い前脚と後脚が一つずつ描かれていることなど、引用商標1の主要な特徴がすべて共通しており、体の色も緑色で一致している。
この点、本件商標と引用商標1とは、体に描かれた模様の形状や尻尾の形状、口の中が赤いかどうかといった細部における違いはあるものの、両者は全体としてワニの形状(フォルム)が酷似し、右向きで緑色という特徴も同一であって、さらに、口の開き具合や牙の表現方法、頭部と胴体の比率(バランス)、胴体と尻尾の太さ、目の位置、脚の本数に至るまで、極めて多くの共通点がある。両者は、これらの共通点が強く印象づけられる結果、全体として似通った印象を与えるものであり、両者の類似性の程度は高いというべきである。
また、引用商標2及び引用商標3は、引用商標1と同じ特徴を有する「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」の図形を黒色で表したものであり、本件商標とは、色彩こそ違えど、引用商標1と同様に全体の形状及び頭の向き、頭部と胴体の比率(バランス)、胴体と尻尾の大きさ・太さ、口の開き具合及びその表現方法、目の位置や脚の本数など多くの共通点があることによって、やはり似通った印象を与えるものであり、本件商標との類似性の程度は高いというべきである。
さらに、引用商標4ないし引用商標6も、引用商標1ないし引用商標3の「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」のアウトラインを描き、これらのワニの主要な特徴を際立たせたものであって、本件商標とは全体の形状及び頭の向き、頭部と胴体の比率(バランス)、胴体と尻尾の大きさ・太さ、口の開き具合及びその表現方法、目の位置や脚の本数など多くの共通点がある。さらに、両者はシンプルな単線によって抽象的な図形として描かれており、その点でも似通った印象を与えるため、類似性の程度は高いというべきである。
エ 引用商標の独創性
引用商標は、申立人の創業者のプレイスタイルやニックネームに因んで採択されたものであり、試行錯誤を重ねて辿り着いたデザインであって、その独創性は極めて高い。
オ 商品の関連性並びに取引者・需要者の共通性
本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品は、いずれも、アパレルメーカーが一般に取り扱う被服や履物、かばん類及びその他の皮革製品などの商品であることから、その取引者及び需要者は共通する。
カ その他取引の実情について
申立人は、長年にわたり引用商標の「ワニ」を申立人の象徴として大規模に使用し、その高い識別力と独自性を維持し続けてきた。その一方で、申立人は、「ワニ」のデザインを多様に展開し、商品や広告等で幅広く使用してきた実績がある。たとえば、アーティストとのコラボレーションによるユーモラスなワニや、立体的な造形、ピクセルアート風、線画や手書き風、さらには色彩やパターンを大胆に変えたバリエーションなど、アレンジの表現手法は極めて多岐にわたる(甲36、甲38、甲44~甲53)。
申立人の「ワニ」のバリエーションは、いずれも、「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」という基本的な構図や全体のフォルム、口の開き方、胴体と尻尾のバランス、特徴的な目や脚の配置など、引用商標の「ワニ」に共通する特徴を備えており、取引者及び需要者は、申立人の「ワニ」のデザインがどれほど変化しても、これらの特徴を手がかりに「ラコステのワニ」と直感することができる。
申立人の「ワニ」のマークは、今や単なる「ロゴマーク」としてではなく、ブランドのクリエイティビティや遊び心、時代性を体現する象徴として広く我が国に浸透しており、「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」という主要な特徴が維持されている限り、その表現形式が斬新であったり、細部の形状が異なる場合であっても、そのようなマークが被服やかばん類に使用された場合には「ラコステのワニの新しいバリエーション」と受け止められる土壌が形成されている。
これに対し、本件商標は、幾何学的なデザインが施されているものの、申立人の「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」という主たる特徴がそのまま踏襲されており、全体のフォルムや各部位のバランスも維持されているため、申立人の「ワニ」のマークのバリエーションであると誤認される可能性が高いといえる。
キ 裁判例及び審決例
上記主張は、過去の裁判例及び審決例によっても裏付けられる。例えば、平成24年(行ケ)第10454号では、文字部分の構成や称呼、図形部分の動物の種類などに差異があったとしても「共通する構成から生じる共通の印象から・・・全体として離隔的に観察した場合には、看者に外観上酷似した印象を与える」と認定し、需要者は顕著に表された著名商標の特徴を想起させる部分に注目し、著名商標を連想、想起するから出所混同が生じるとして商標法第4条第1項第15号違反を認定している(甲54)。
また、特許庁の審決(無効2007-890003)においても、図形商標について特徴を認定した上で、ディズニー社の「ミッキーマウス」等のキャラクターと「特徴的部分において共通する点を多々含む」ことから同キャラクターをそう表現したものとの印象を与え、同社の商品と出所混同を生じるおそれがあると判断している(甲55)。
ク 小括
以上のとおり、引用商標は、本件商標の出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る被服等を表示するものとして我が国における取引者、需要者の間に広く認識されていた。そして、本件商標と引用商標とは、主たる特徴が共通しており、類似性の程度が高い。また、引用商標は、申立人が独自に創作したマークであり、申立人を象徴するマークとして我が国でも長年使用され、これと同じ「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」をモチーフにした図形商標は、少なくともファッション関連の商品分野では存在しておらず、独創性も高い。さらに、申立人は、他者とのコラボレーション等を通じて、単色・線画・刺繍・シルエットなど多様な表現形式で「ワニ」のマークを自らアレンジし、商品や広告等で使用しているという取引の実情がある。そうすると、本件商標に接した需要者は、申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の需要者が商品の出所について混同するおそれがある。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
(2)本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当することについて
本件商標と引用商標2ないし引用商標6とは、前述のとおり、商標同士を比較した場合、「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」という主要な特徴が共通していることに加え、口の開き具合や牙の表現、頭部・胴体・尻尾の比率(バランス)、胴体や尻尾の大きさ・太さ、目の位置、脚の本数に至るまで、細部にわたり多くの共通点があることから、全体として似通った印象を与える。よって、両商標は外観上類似する。また、本件商標は、引用商標2ないし引用商標6と同一又は類似の商品を指定商品とするものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当することについて
前記(1)ア及びイで述べたとおり、引用商標は、本件商標の出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る被服等を表示するものとして我が国及び外国における取引者、需要者の間に広く認識されていたものである。
また、前記(1)ウで述べたとおり、本件商標と引用商標とは、「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」という主要な特徴のみならず、全体のフォルムや各部位のバランス、配置など細部に至るまで似通っており、本件商標に接した需要者は、本件商標から申立人の周知・著名な「ラコステのワニ」を容易に想起する。
ここで、本件商標の出願人は、ネットショップで本件商標を使用したTシャツを販売しており、当該Tシャツの胸元に本件商標を大きく表示したり、袖口にワンポイントマークとして表示したりしている(甲56)。本件商標の出願人がTシャツのこのような位置にこのような大きさで「右を向いて大きく口を開けた腹ばいのワニ」のマークを表示する行為は、申立人が一貫して「ワニ」のマークをポロシャツ等の胸元や襟口に表示してきたことと完全に一致している。
また、前述のとおり、申立人はコラボレーションや共同ブランドプロジェクトを多数行っており、これらのプロジェクトには、商品上に様々な形態やバリエーションの「ワニ」が描かれており、その中には、漫画風のワニや擬人化されたワニ、異なる色や質感のワニが含まれている。これらのワニは、申立人の引用商標と第三者の名称・ブランドとが併記され、訴求されてきたことから、申立人のワニのバリエーションとして認知されている。このような取引の実情から、本件商標も、申立人による新たなコラボレーションプロジェクトや、特定又は季節限定商品の新しいラインと見なされる可能性がある。
そして、上記のような使用を行う本件商標の出願人が、アパレル分野で周知・著名となっている引用商標の存在を知らない筈がなく、出願人に周知・著名な引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的があることは明らかである。
以上より、本件商標は、我が国及び外国における取引者、需要者の間で周知・著名な引用商標と類似するものであり、また、引用商標の顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で採択・出願したものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。
(1)引用商標の周知著名性について
申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
申立人は、1933年に設立されたフランスのアパレルメーカーであり、創業当時からワニをモチーフとした図形を使用し、世界約100カ国で1,000超の店舗を展開、ブランド「ラコステ」に係る商品の世界総売上高は、2011年に約1,700億円(16億ユーロ)、2016年には約2,640億円(20億ユーロ)と報じられている(甲7~甲11、甲15、甲17)。
そして、我が国においては、1964年から事業を開始し、以降2025年には60周年を迎え(甲9、甲10、甲12)、「LACOSTE」の文字のほか、引用商標における細部について変更を加えつつこれを使用した「かばん」、「被服」や「靴」等の商品を販売してきたこと(甲14、甲40、甲41、甲43)、国内の店舗は2025年7月時点で約130店舗(甲13)、2016年の国内売上高は約120億円であり2023年3月には「ラコステ事業は前記、過去最高の売上高を記録した」と報じられていること(甲18、甲19)、引用商標と同視し得る図形(色彩が異なるものを含む。但し、引用商標2及び引用商標6については必ずしも視認することができない。)を使用した申立人の商品及びその広告が、本件商標の登録出願前の各種雑誌に多数掲載されていること(甲20)、駅や空港などにおける屋外広告やプロテニスプレーヤーなどを起用したキャンペーンを実施したこと(甲21~甲26)、申立人や同人に係る商品についてのニュースリリースが発信されていること(甲28~甲36 ほか)などを総合勘案すれば、引用商標は、本件商標の登録出願時には、申立人の業務に係る商品を表示する商標として、我が国及び外国における取引者、需要者の間において広く認識され、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、その全体を黄緑色とし、白抜きの直線を配することにより幾何模様で表した図形と印象づけられるものであって、右向きで口を開け、太い胴体に前足と後足を有し、長い尾をやや湾曲させながら後ろに向かって伸ばした状態を描いたものである。
そして、本件商標は、上記構成態様によって何らかの爬虫類を表すものとは看取されるとしても、特定の事物を理解させるとまではいい難いことから、特定の称呼及び観念を生じないものである。
イ 引用商標2ないし引用商標6について
引用商標2及び引用商標3は、別掲4及び別掲5のとおりの構成からなるところ、いずれも、白抜きで背面の鱗を明確に描き(鱗の配される位置については相違がある)、大きく開いた口、振り上げた長い尾、足の形状等から、その全体が右向きのワニを忠実に描いたものとして看取される。
また、引用商標4ないし引用商標6は、別掲6ないし別掲8のとおりの構成からなるところ、色彩や胴体の中央に配された波状の線の有無に差異を有するものの、いずれも、大きく開いた口、振り上げた長い尾、足の形状等から、その全体が右向きのワニを簡略にして描いたものとして看取される。
そして、前記(1)のとおり、引用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されていると認められることからすれば、引用商標2ないし引用商標6からは、ラコステのブランドの観念を生じるものの、特定の称呼は生じない。
ウ 本件商標と引用商標2ないし引用商標6との類否
本件商標と引用商標2ないし引用商標6を比較すると、まず外観において、両商標はいずれも、口を開け、足及び長い尾を有する点において共通するが、他方で、本件商標が、白抜きの直線を配することにより幾何模様で表した図形と印象づけられるものであって何らかの爬虫類を表すものと看取される程度に止まる態様であるのに対し、上記各引用商標は、いずれもワニを描いたものとして看取される程度に表現されたものである点、また、本件商標が長い尾を後ろに伸ばしているのに対し、上記各引用商標は長い尾を振り上げているという点において相違するから、それぞれの構成態様に照らし、外観上、判然と区別し得る差異を有するものである。
次に、観念においては、本件商標からは特定の観念を生じないのに対し、上記各引用商標からは、ラコステのブランドの観念を生じるから、観念上、両商標は区別し得るものである。
そして、称呼においては、本件商標及び上記各引用商標からは互いに特定の称呼を生じないから、比較することができない。
以上によれば、本件商標と引用商標2ないし引用商標6は、称呼において比較することができないとしても、外観及び観念において区別し得るものであるから、非類似の商標というべきである。
エ 小括
したがって、本件商標の指定商品と引用商標2ないし引用商標6の指定商品とが同一又は類似するものを含むとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
前記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていると認められる。
しかしながら、前記(2)のとおり、本件商標と引用商標2ないし引用商標6とは、非類似の商標であるから、引用商標3と酷似する態様からなる引用商標1を含めた引用商標との対比においても、本件商標と引用商標は非類似の商標であるというのが相当であり、両商標の類似性の程度は高いとはいえない。
そうすると、たとえ本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品との関連性があり、その需要者を共通にする場合があるとしても、本件商標に接する取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起することはないというのが相当である。
してみれば、本件商標は、その権利者が本件商標をその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
前記(3)のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標である。
そして、本件商標権者が引用商標の存在を知ってその周知性にただ乗りするなど不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる証拠の提出はなく、本件商標権者が、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものではなく、その他、同法第43条の2の各号に該当するというべき事情は見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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