結論テキスト
本件審判の請求は、成り立たない。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024002176 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特願2020-550420号(以下、「本件出願」という。)は、2019年(令和1年) 9月30日(優先権主張が2件あり、いずれも平成30年10月 3日)を国際出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和5年 5月10日付け:拒絶理由通知書
同年 9月14日提出:意見書、手続補正書
同年11月 8日付け:拒絶査定
令和6年 2月 7日提出:審判請求書、手続補正書
同年 3月26日提出:手続補正書(方式)
令和7年12月12日付け:審尋
令和8年 2月 5日提出:回答書
同年 2月13日提出:刊行物等提出書
[補正の却下の決定の結論]
令和6年2月7日にされた手続補正を却下する。
[理由]
令和6年2月7日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の記載を、下記(1)に示すものから下記(2)に示すものに補正するものである。なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。
(1)本件補正前(すなわち、令和5年9月14日にされた手続補正後)の特許請求の範囲
「【請求項1】
少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSmが20μm以上29μm以下であり、以下(1)~(3)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層同士を100°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が0.1N/15mm以上5N/15mm以下
(2)ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(3)全層を含んだフィルムの密度が1.20以上1.39未満
【請求項2】
少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSmが20μm以上29μm以下であり、以下(4)~(6)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルム。
(4)ヒートシール層同士を120°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が4N/15mm以上15N/15mm以下
(5)ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(6)ヒートシール層において、X線電子分光法(ESCA)で求めた酸素原子の存在比率が26.6%以上31.0%以下
【請求項3】
ヒートシール面同士の動摩擦係数が0.30以上0.80以下である請求項1又は2に記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項4】
フィルムを構成する成分が、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる請求項1~3のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項5】
ヒートシール層を構成するポリエステル系成分を構成するモノマーのうち、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分がネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1つ以上である請求項1~4のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項6】
80°C温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上10%以下である請求項1~5のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のシーラントフィルムを少なくとも1層は含むことを特徴とする積層体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載のシーラントフィルム、又は請求項7に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSmが20μm以上29μm以下であり、以下(1)~(4)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層同士を100°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が0.1N/15mm以上5N/15mm以下
(2)ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(3)全層を含んだフィルムの密度が1.20以上1.39未満
(4)ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上である
【請求項2】
ヒートシール面同士の動摩擦係数が0.30以上0.80以下である請求項1
に
記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項3】
フィルムを構成する成分が、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる請求項1
又は2
に記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項4】
ヒートシール層を構成するポリエステル系成分を構成するモノマーのうち、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分がネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1つ以上である請求項1~
3
のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項5】
80°C温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上10%以下である請求項1~
4
のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項6】
請求項1~
5
のいずれかに記載のシーラントフィルムを少なくとも1層は含むことを特徴とする積層体。
【請求項7】
請求項1~
5
のいずれかに記載のシーラントフィルム、又は請求項6に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。」
新規事項の追加(特許法第17条の2第3項)の有無について検討する。
(1)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項
当初明細書等には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。すなわち、種々の有機化合物からなる成分が吸着しにくく、140°Cのヒートシール性に優れるシーラントフィルム(A)を提供するものである。
本願第一の発明は、100°Cヒートシール強度が低く包装袋として使用して内容物をお湯で茹でて温めようとした際もヒートシール層同士が粘着しにくい前記(A)のシーラントフィルムを提供するものである
。
本願第二の発明は、低温の120°Cヒートシール性にも優れるため、高速自動充填包装でも十分なヒートシール強度を有する前記(A)のシーラントフィルムを提供するものである
。
また、本発明は、前記の本願第一の発明又は本願第二の発明のシーラントフィルムを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋を提供しようとするものである。」
・「【発明の効果】
【0008】
本発明のシーラントフィルムは、種々の有機化合物を吸着しにくいため、化成品、医薬品、食品といった油分や香料を含む物品を衛生的に包装することができると共に、140°Cのヒートシール性に優れる。
本願第一の発明のシーラントフィルムは、100°Cヒートシール強度が低いため、包装袋として使用して内容物をお湯で茹でて温めようとした際に、最内層のヒートシール層同士が粘着しにくい
。
本願第二の発明は、140°Cのヒートシール性に優れ、さらに低温の120°Cヒートシール性にも優れるため、高速自動充填包装でも十分なヒートシール強度を有するシーラントフィルムを提供できる
。
さらに、前記の本願第一の発明又は第二の発明のシーラントフィルムを少なくとも一層として含む積層体と、それを用いた包装袋を提供できる。」
・「【発明を実施するための形態】
【0009】
本願第一の発明のシーラントフィルムは、少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、以下(1)~(3)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルムである。
(1)ヒートシール層同士を100°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が0N/15mm以上5N/15mm以下
(2)ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(3)全層を含んだフィルムの密度が1.20以上1.39未満
以下、本発明のシーラントフィルムの特性、層構成、層比率、シーラントフィルムを構成する原料、シーラントフィルムの製造方法、内容物の種類、及び包装体の構成、製袋方法について詳述する。
【0010】
1.シーラントフィルムの特性
1.1.100°Cヒートシール強度
本願第一の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層同士を温度100°C、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が0N/15mm以上5N/15mm以下である必要がある。
100°Cヒートシール強度が5N/15mmを超えると、包装袋として使用して内容物を温めようとした際に、最内層のヒートシール層同士が粘着しやすく、開封性が損なわれるため、包装袋として適さない。100°Cヒートシール強度は4.5N/15mm以下であるとより好ましく、4.0N/15mm以下であるとさらに好ましい。
【0011】
1.2.120°Cヒートシール強度
本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層同士を温度120°C、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が4N/15mm以上15N/15mm以下である必要がある。
120°Cヒートシール強度が4N/15mm未満であると、高速自動充填包装時にヒートシール強度が不足するため、包装袋の生産性を高めることができない。120°Cヒートシール強度は大きいことが好ましいが、本発明の技術水準では現状得られる上限は15N/15mm程度であるが、実用上は十分である。120°Cヒートシール強度は5N/15mm以上であるとより好ましく、6N/15mm以上であるとさらに好ましい。
【0012】
1.3.140°Cヒートシール強度
本発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層同士を温度140°C、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下である必要がある。
140°Cヒートシール強度が8N/15mm未満であると、シール部分が容易に剥離されるため、包装袋として用いることが困難である。140°Cヒートシール強度は大きいことが好ましいが、本発明の技術水準では現状得られる上限は30N/15mm程度である。140°Cヒートシール強度は9N/15mm以上であるとより好ましく、10N/15mm以上であるとさらに好ましい。」
・「【0016】
1.7.ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率
本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層において、X線電子分光法(ESCA)で求めた酸素原子の存在比率が26.6%以上31.0%以下である必要がある
。
非特許文献1には表面処理で酸素含有基を導入することで、電荷密度の偏りが大きくなって分子間力や強くなり、接着力を向上させられることが紹介されている
。これは、プラスチックを中心とした接着は分子間力による結合により起こるとされているためである。
本発明のシーラントフィルムにおいても、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が高いほど電荷密度の偏りも大きくなるため、120°Cヒートシール強度も強くなると考えられる
。そのため、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が26.6%未満であると、120°Cヒートシール強度が小さくなり、高速自動充填包装時にヒートシール強度が不足する。また、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が31.0%を超えると、電荷密度の偏りが大きく常温下で密着しやすくなるため、ロールに巻き取ったフィルム同士がブロッキングし、フィルムをスムーズに巻きだせなくなる。ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率の範囲は26.7%以上30.5%以下であるとより好ましく、26.8%以上30.0%以下であるとさらに好ましい。
【0017】
1.8.ヒートシール層表面のぬれ張力
本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上55mN/m以下であることが好ましい
。
ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が高いほどヒートシール層表面のぬれ張力も高くなり、120°Cヒートシール強度が大きくなる
。ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m未満であると、120°Cヒートシール強度が小さくなり、高速自動充填包装時にヒートシール強度が不足する。一方、ヒートシール層表面のぬれ張力が55mN/mを超えると、ロールに巻き取ったフィルム同士がブロッキングし、フィルムをスムーズに巻きだせなくなる。ヒートシール層表面のぬれ張力の範囲は39mN/m以上54mN/m以下であるとより好ましく、40mN/m以上53mN/m以下であるとさらに好ましい。」
・「【0023】
2.3.ヒートシール層の表面処理
本願第一の発明のシーラントフィルムは
、ヒートシール層、それ以外の層に関わらず、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることが可能であり、無機物の蒸着等を行っても構わない。ただし、
コロナ処理やプラズマ処理は100°Cヒートシール強度が5N/15mm以上となる懸念があるため、ヒートシール層には実施しないのが好ましい
。
本願第二の発明のシーラントフィルムは
、ヒートシール層、それ以外の層に関わらず、
コロナ処理やプラズマ処理
、コーティング処理、火炎処理
などを施した層を設けることが可能であり
、無機物の蒸着等を行っても構わない。
コロナ処理とプラズマ処理は表面の酸素原子の存在比率を高めることが可能なため、ヒートシール層表面に実施するのが好ましい
。特にコロナ処理が好ましい。」
・「【0055】
4.6.コロナ処理
本願第二の発明において
、冷却後はコロナ処理装置により、
ヒートシール層表面をコロナ処理することが好ましい
。コロナ処理度は、シーラントフィルムのライン速度やコロナ処理電圧、ロール温度によって決まる。そのため、これらの好ましい条件範囲を一義的に決めることはできないが、
コロナ処理後のヒートシール層表面のぬれ張力を38mN/m以上とすることで、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率を26.5%よりも高くすることができる
。また、コロナ処理は空気中で行うのが好ましい。」
・「【実施例】
【0061】
・・・
【0076】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280°Cで26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル(A)の組成を表1に示す。
【0077】
[合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(G)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、EGはエチレングリコール、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(G)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、B:0.73dl/g,C:0.69dl/g,D:0.73dl/g,E:0.74dl/g,F:0.80dl/g、G:0.75dl/gであった。ポリエステル(B)~(G)の組成を表1に示す。
【0078】
【表1】
54
145
0001435544000001.jpg
【0079】
[実施例1、7]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比10:60:24:6で混合し、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比51:37:6:6で混合した。
ヒートシール層及び耐熱層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270°Cで溶融させた。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30°Cに設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムは片側がヒートシール層、もう片側が耐熱層(ヒートシール層/耐熱層の2種2層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、ヒートシール層と耐熱層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整した。
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が80°Cになるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸した。縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで90°Cに設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25°Cに設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0080】
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が95°Cになるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過した
フィルムを最終熱処理ゾーンに導き、180°Cで5秒間熱処理した
。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。
このフィルムを実施例1とした
。
【0081】
また、
前記最終熱処理ゾーンを通過後のフィルムを冷却し
、インラインの
コロナ処理装置(春日電機株式会社製)により、ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上となるように室温でコロナ放電処理を施した
。その際のコロナ処理電力は1.8kWであった。その後、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。
このフィルムを実施例7とした
。
得られたフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件および評価結果を表2及び表3に示す。
【0082】
[実施例2~5、比較例1、2]
実施例2~5
、比較例1、2
も実施例1と同様の方法でヒートシール層と耐熱層を積層させ、原料の配合比率、最終熱処理条件を種々変更したポリエステル系シーラントを製膜し、評価した
。
各実施例および比較例のフィルム製造条件と評価結果を表2に示す
。」
・「【0093】
【表2】
218
120
0001435544000002.jpg
【0094】
【表3】
202
122
0001435544000003.jpg
」
(2)新規事項の追加の有無についての検討
本件補正後の請求項1に係る発明における新規事項の追加の有無について検討する。
ア 当審の判断
本件補正により請求項1に「(4)ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上である」という特定事項が追加された。
この点に関し、当初明細書等には、「第二の発明」に関し「本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上55mN/m以下であることが好ましい。ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が高いほどヒートシール層表面のぬれ張力も高くなり、120°Cヒートシール強度が大きくなる」(【0017】)こと、「本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層、それ以外の層に関わらず、コロナ処理やプラズマ処理、コーティング処理、火炎処理などを施した層を設けることが可能であり、無機物の蒸着等を行っても構わない。コロナ処理とプラズマ処理は表面の酸素原子の存在比率を高めることが可能なため、ヒートシール層表面に実施するのが好ましい。特にコロナ処理が好ましい」(【0023】)こと、「本願第二の発明において、冷却後はコロナ処理装置により、ヒートシール層表面をコロナ処理することが好ましい。コロナ処理度は、シーラントフィルムのライン速度やコロナ処理電圧、ロール温度によって決まる。そのため、これらの好ましい条件範囲を一義的に決めることはできないが、コロナ処理後のヒートシール層表面のぬれ張力を38mN/m以上とすることで、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率を26.5%よりも高くすることができる。また、コロナ処理は空気中で行うのが好ましい」(【0055】)ことが記載される一方、「第一の発明」については、ヒートシール層表面のぬれ張力についての記載はなく、「本願第一の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層、それ以外の層に関わらず、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることが可能であり、無機物の蒸着等を行っても構わない。ただし、コロナ処理やプラズマ処理は100°Cヒートシール強度が5N/15mm以上となる懸念があるため、ヒートシール層には実施しないのが好ましい」(【0023】)ことが記載されており、実施例における検討においても、「第二の発明」の実施例にあたる表3(【0094】)においては「コロナ処理電力」とともに「ヒートシール層表面のぬれ張力」の測定がなされているものの、「第一の発明」の実施例にあたる表2(【0093】)においては、「コロナ処理電力」、「ヒートシール層表面のぬれ張力」のいずれについても記載がない。
そして、「本願第一の発明のシーラントフィルムは、・・・コロナ処理やプラズマ処理は100°Cヒートシール強度が5N/15mm以上となる懸念があるため、ヒートシール層には実施しないのが好ましい」(【0023】)との記載からみても、「第一の発明」においては「100°Cヒートシール強度が5N/15mm以上」とならないようにすることが指向されているものと理解できるところ、「ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が高いほどヒートシール層表面のぬれ張力も高くなり、120°Cヒートシール強度が大きくなる」(【0017】)との記載も踏まえると、「第一の発明」においてヒートシール層表面のぬれ張力も小さいものが指向されていると理解できる。
してみると、当初明細書等における全ての記載及び当該技術分野における出願時の技術常識を踏まえても、「第一の発明」において「ヒートシール層表面のぬれ張力」を「38mN/m以上」、即ち、「第二の発明」における「ヒートシール層表面のぬれ張力」の範囲の下限値以上とすることが、当業者が理解できるかたちで当初明細書等に記載されていたということはできない。
(そもそも、「第一の発明」において「ヒートシール層表面のぬれ張力」を「38mN/m以上」とすることは、「第二の発明」におけるヒートシール層表面のぬれ張力と同等かそれ以上のものとすることを特定するものであり、当初明細書等の【0023】の記載と矛盾することにもなる。)
以上のとおりであるから、請求項1において、「(4)ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上である」と特定する補正は、当初明細書等における全ての記載及び出願時の技術常識を総合することにより導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
イ 令和8年2月5日提出の回答書における請求人の主張について
請求人は、令和8年2月5日提出の回答書(以下、「回答書」という。)において、以下の(ア)及び(イ)の主張をしている。
(ア)本願明細書の【0023】の記載は、本願の請求項1に係る発明においてヒートシール層にコロナ処理をしないことは規定しておらず、ヒートシール層のコロナ処理を排除するものではない。
(イ)本願の実施例7は、第二の発明に該当するのみならず、本願の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て満たすものであり、本願の第一の発明と第二の発明は、重複する内容を含んでいる。
しかし、明細書の【0023】には、第一の発明のシーラントフィルムについて、コロナ処理やプラズマ処理はヒートシール層には実施しないのが好ましいと明示的に記載されており、積極的にこれを実施する理由も見当たらないのであるから、第一の発明のシーラントフィルムについて、ヒートシール層にコロナ処理やプラズマ処理を実施することが当初明細書等の記載から導出できるとはいえない。そして、仮に、実施例7のシーラントフィルムが請求項1に係る発明の発明特定事項を全て満たすものであるとしても、実施例7は、第二の発明の実施例にあたる表3(【0094】)に記載され、「コロナ処理電力」とともに「ヒートシール層表面のぬれ張力」の測定がなされており、第一の発明の実施例にあたる表2(【0093】)に記載された「ヒートシール層同士を100°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度」は測定されていないのであるから、第二の発明の実施例として記載された実施例7が、たまたま第一の発明の発明特定事項を全て満たしていただけであると解することが妥当であって、そのことをもって本願の請求項1に係る発明である第一の発明のシーラントフィルムにおいて「ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上である」とする技術思想が当初明細書等に開示されていたとすることはできない。
よって、回答書における請求人の主張は採用することができない。
ウ 新規事項の追加の有無に関するまとめ
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえない。
(3)補正の適否についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、本件補正は、請求項1に記載した事項について、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本願発明1」のようにいう。)は、上記第2 1(1)に示した本件補正前の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
原査定の拒絶の理由は、令和5年5月10日付け拒絶理由通知により通知された次の理由を含むものである。
(1)本願発明1は、引用文献1(国際公開第2018/150997号)に記載された発明であるか、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない(以下、「引用文献1を主たる証拠とする新規性・進歩性」という。)。
(2)この出願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない(以下、「発明の単一性」という。)。
3.原査定の拒絶の理由について
(1)引用文献1(国際公開第2018/150997号)を主たる証拠とする新規性・進歩性(特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項)について
ア 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2018/150997号には、「ポリエステル系シーラントフィルム、積層体及び包装袋」について次の記載がある。
記載(1-1)
「技術分野
[0001] 本発明は、ヒートシール強度に優れたポリエステル系のシーラントに関するものであり、特にカールがなく、折れ性に優れたポリエステル系のシーラント、及びそれを用いた積層体、並びにそれらを用いた包装袋に関する。」
記載(1-2)
「発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを課題とするものである。すなわち、本発明の課題は、内容物の成分を吸着が少なく、低温域で高いヒートシール強度を有するのみならず、ヒートシール時に穴あきが発生しない、さらに、積層に起因したカールが少なく、優れた折れ性を有したポリエステル系シーラントを提供することにある。同時に、本発明の課題は、前記のポリエステル系シーラントを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋を提供するものである。」
記載(1-3)
「実施例
[0038] 次に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
フィルムの評価方法は以下の通りである。なお、フィルムの面積が小さいなどの理由で長手方向と幅方向が直ちに特定できない場合は、仮に長手方向と幅方向を定めて測定すればよく、仮に定めた長手方向と幅方向が真の方向に対して90度違っているからといって、とくに問題を生ずることはない。
[0039] <フィルムの評価方法>
[ヒートシール強度]
JIS Z1707に準拠してヒートシール強度を測定した。具体的な手順を簡単に示す。ヒートシーラーにて、サンプルのコート処理やコロナ処理等を実施していないヒートシール面同士を接着した。ヒートシール条件は、上バー温度140°C、下バー温度30°C、圧力0.2MPa、時間2秒とした。接着サンプルは、シール幅が15mmとなるように切り出した。剥離強度は、万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で測定した。剥離強度は、15mmあたりの強度(N/15mm)で示す。
・・・
[0043][温湯熱収縮率]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、80±0.5°Cの温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して収縮させた後、25°C±0.5°Cの水中に10秒間浸漬し、水中から出した。その後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式3にしたがって各方向の収縮率を求めた。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) (式3)
[0044][ヘイズ]
JIS-K-7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
・・・
[0047][吸着性]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、フィルムの重さを測定した。次に、リモネン(ナカライテスク株式会社製)、メントール(ナカライテスク株式会社製)をそれぞれ濃度30%となるようにエタノールを加えて調製した溶液500mlを入れた容器中にフィルムを浸透させ、1週間後に取り出した。取り出したフィルムはベンコットで押さえて溶液をとり、温度23°C・湿度60%RHの部屋で1日乾燥させた。乾燥後、フィルムの重さを測定し、下式4より求められたフィルム重さの差を吸着量とした。
吸着量= 浸透後のフィルム重さ- 浸透前のフィルム重さ・・・(式4)
この吸着量は以下のように判定した。
判定○ 0mg以上5mg以下
判定△ 5mgより高く、10mg以下
判定× 10mgより高い」
記載(1-4)
「[0048] <ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280°Cで26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル(A)の組成を表1に示す。
[0049] [合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(F)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(F)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。ポリエステル(B)~(F)の組成を表1に示す。
[0050][表1]
169
62
0001435544000004.jpg
[0051][実施例1]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルEとポリエステルFを質量比10:60:24:6で混合し、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルEとポリエステルFを質量比57:31:6:6で混合した。
ヒートシール層及び耐熱層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270°Cで溶融させた。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30°Cに設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムは片側がヒートシール層、もう片側が耐熱層(ヒートシール層/耐熱層の2種2層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、ヒートシール層と耐熱層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整した。
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が78°Cになるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸した。縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで100°Cに設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25°Cに設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が105°Cになるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、200°Cで5秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを30°Cの冷却風で5秒間冷却した。このとき、テンター出口のフィルム実温度は35°Cであった。両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[0052][実施例2~8、比較例1~3]
実施例2~8、比較例1~3も実施例1と同様の方法でヒートシール層と耐熱層を積層させ、原料の配合比率、縦延伸、長手方向へのリラックス、横延伸、最終熱処理、冷却条件を種々変更したポリエステル系シーラントを製膜し、評価した。各実施例のフィルム製造条件と特性を表2、3に示す。
[0053][比較例4]
比較例4は、東洋紡株式会社製パイレンフィルム-CT(登録商標)P1128-30μmを使用した。評価結果を表3に示す。
[0054]
[表2]
182
105
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[0055]
[表3]
201
50
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」
記載(1-5)
「請求の範囲
[請求項1] ヒートシール層と耐熱層の各層を少なくとも1層以上有しており、各層ともエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系成分からなり、以下の(1)~(6)を満たすことを特徴とするポリエステル系シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が8N/15mm以上20N/15mm以下
(2)ヒートシール層を温度変調DSCによって測定したとき、ガラス転移開始温度から140°Cまでの可逆熱容量差(ΔCp)が0.5J/g/K以上1.1J/g/K以下
(3)耐熱層を温度変調DSCによって測定したときのΔCpが0.1J/g/K以上0.6J/g/K未満
(4)折りたたみ保持角度が20度以上60度以下
(5)長手方向、幅方向いずれか小さい方の曲率半径が50mm以上300mm以下(6)80°C温湯中に10秒間浸漬した後の収縮率が、長手方向、幅方向ともに-5%以上5%以下
[請求項2] 前記ヒートシール層と前記耐熱層を構成する各ポリエステル系成分を構成するモノマー成分中、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分がネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系シーラントフィルム。
[請求項3] 前記ヒートシール層と前記耐熱層を構成する各ポリエステル系成分の全モノマー成分中、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分含有量が以下の(1)~(3)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル系シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層において30モル%以上50モル%以下
(2)耐熱層において9モル%以上20モル%以下
(3)ヒートシール層と耐熱層との含有量の差が20モル%以上35モル%以下
[請求項4] 請求項1~3のいずれかに記載のポリエステル系シーラントフィルムを少なくとも1層有していることを特徴とする積層体。
[請求項5] 請求項1~3のいずれかに記載のポリエステル系シーラントフィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
[請求項6] 請求項4に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。」
(イ)引用文献1に記載された発明
上記記載(1-4)に記載された事項を、特に実施例5のシーラントフィルムについて整理すると、実施例5のシーラントフィルムは、実施例1と同様の方法でヒートシール層と耐熱層を積層させ、原料の配合比率や製膜条件等を変更して製膜したものであるから(引用文献1の[0052])、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
引用発明1
「ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルDとポリエステルEとポリエステルFを質量比26:48:20:6で混合し、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルDとポリエステルEとポリエステルFを質量比47:41:6:6で混合し、
ヒートシール層及び耐熱層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270°Cで溶融させ、それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30°Cに設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得、前記積層フィルムは片側がヒートシール層、もう片側が耐熱層(ヒートシール層/耐熱層の2種2層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、ヒートシール層と耐熱層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整して得たものであり、
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が82°Cになるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸し、縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで100°Cに設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った後、縦延伸したフィルムを、表面温度25°Cに設定された冷却ロールによって強制的に冷却し、
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が110°Cになるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸し、横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させ、なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断し、
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、200°Cで5秒間熱処理し、このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行い、最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを30°Cの冷却風で5秒間冷却し(このとき、テンター出口のフィルム実温度は35°Cであった。)、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造して得られた、ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が9.2N/15mmであり、80°C温湯収縮率が長手方向0.7、幅方向0.9であり、ヘイズが4.1であり、リモネン、メントールをそれぞれ濃度30%となるようにエタノールを加えて調製した溶液に1週間フィルムを浸透させた後の吸着量が0mg以上5mg以下である、実施例5のフィルム。」
イ 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1は「ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルDとポリエステルEとポリエステルFを質量比26:48:20:6で混合し」たものを用いて、「ヒートシール層と耐熱層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整して得た」ものであるから、引用発明1は、本願発明1の「少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており」という発明特定事項を満たす。そして、引用発明1のフィルムは、ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が9.2N/15mmであるから、引用発明1は、本願発明1の「ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下」という発明特定事項を満たす。さらに、引用発明1のフィルムは、ヒートシール層と耐熱層を積層したものであり、「ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が9.2N/15mm」であるから「シーラントフィルム」であるといえ、「リモネン、メントールをそれぞれ濃度30%となるようにエタノールを加えて調製した溶液に1週間フィルムを浸透させた後の吸着量が0mg以上5mg以下である」から、「低吸着性」であるといえる。
そうすると、両者は、
「少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、以下の(2)を満たす、低吸着性シーラントフィルム。
(2)ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下」である点で一致し、以下の相違点1ないし3において相違する。
<相違点1>
本願発明1は、「三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSmが18μm以上29μm以下であり」と特定するのに対し、引用発明1では、そのように特定していない点。
<相違点2>
本願発明1は、「(1)ヒートシール層同士を100°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が0.1N/15mm以上5N/15mm以下」を満たすものであるのに対し、引用発明1では、そのように特定していない点。
<相違点3>
本願発明1は、「(3)全層を含んだフィルムの密度が1.20以上1.39未満」を満たすものであるのに対し、引用発明1では、そのように特定していない点。
ウ 判断
(ア)相違点1について
a 引用発明1のフィルムと本願明細書の実施例4のフィルムの対比
上記相違点1について検討するにあたり、本願明細書に記載された実施例4のシーラントフィルムは、引用発明1のフィルムと各層の原料組成、層構成及びフィルムの複数の特性値が同一であり、その製造条件が極めて類似しているので、まず両者の対比をすることとする。
(a)ポリエステル原料
引用文献1の[0048]に記載された、引用発明1で用いるポリエステルAの製造方法([合成例1])は、本願明細書の【0076】に記載されたポリエステル(A)の製造方法([合成例1])と、モノマー成分の種類と量比、エステル交換触媒の種類と使用量、重合触媒の種類と使用量、重合温度、重合時の圧力が同一であり、得られたポリエステルの固有粘度も同一であるから、引用発明1における「ポリエステルA」は、本願の実施例4における「ポリエステル(A)」に相当する。そして、引用発明1における「ポリエステルD」、「ポリエステルE」及び「ポリエステルF」は、それぞれ、ポリエステルAと同様の手順でモノマーを変更して得られたものであるのに対し(引用文献1の[0049])、本願の実施例4における「ポリエステル(D)」、「ポリエステル(F)」及び「ポリエステル(G)」は、それぞれ、ポリエステル(A)と同様の手順でモノマーを変更して得られたものであり(本願明細書の【0077】)、引用発明1における「ポリエステルD」、「ポリエステルE」及び「ポリエステルF」は([0050]の[表1])、それぞれ、本願の実施例4における「ポリエステル(D)」、「ポリエステル(F)」及び「ポリエステル(G)」と(本願明細書の【0078】の【表1】)、ポリエステル原料の組成が同一である。そうすると、引用発明1における「ポリエステルD」、「ポリエステルE」及び「ポリエステルF」は、それぞれ、本願の実施例4における「ポリエステル(D)」、「ポリエステル(F)」及び「ポリエステル(G)」とその製造方法及びポリエステル原料の組成が同一であるから、本願の実施例4における「ポリエステル(D)」、「ポリエステル(F)」及び「ポリエステル(G)」に相当する。
(b)ヒートシール層の原料組成
引用発明1は、ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルDとポリエステルEとポリエステルFを質量比26:48:20:6で混合するのに対し、本願の実施例4は、ヒートシール層の原料としてポリエステル(A)とポリエステル(D)とポリエステル(F)とポリエステル(G)を質量比26:48:20:6で混合するものであるから(本願明細書の【0093】の【表2】)、両者はヒートシール層の原料組成が同一である。
(c)耐熱層の原料組成
引用発明1は、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルDとポリエステルEとポリエステルFを質量比47:41:6:6で混合するのに対し、本願の実施例4は、耐熱層の原料としてポリエステル(A)とポリエステル(D)とポリエステル(F)とポリエステル(G)を質量比47:41:6:6で混合するものであるから(本願明細書の【0093】の【表2】)、両者は耐熱層の原料組成が同一である。
(d)フィルムの製造方法
本願の実施例4のフィルムは、実施例1と同様の方法でヒートシール層と耐熱層を積層させ、原料の配合比率、最終熱処理条件を変更して製膜したものであるから(本願明細書の【0082】)、引用発明1のフィルムの製造方法と、本願の実施例4のフィルムの製造方法とを、本願明細書の【0079】~【0081】に記載された実施例1のフィルムの製造方法を参照しつつ、対比すると、両者は
「ヒートシール層及び耐熱層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270°Cで溶融させ、それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30°Cに設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得、前記積層フィルムは片側がヒートシール層、もう片側が耐熱層(ヒートシール層/耐熱層の2種2層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、ヒートシール層と耐熱層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整して得たものであり、
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した
縦延伸機へ導き、予熱ロール上で予備加熱した後に4.1倍に延伸し
、
縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで温度設定された加熱炉へ通し
、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った後、縦延伸したフィルムを、表面温度25°Cに設定された冷却ロールによって強制的に冷却し、
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸し
、横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させ、なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断し、
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、200°Cで5秒間熱処理し、このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行い、最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した」ものである点で一致し、以下の点で相違する(当審注:上記一致点における下線は、下記相違点(a)~(c)に対応する箇所を示すために、当審において付したものである。)。
<相違点a>
フィルムを縦延伸機に導いて、予熱ロール上でフィルム温度が、本願の実施例4では80°Cになるまで予備加熱するのに対し、引用発明1では82°Cになるまで予備加熱する点。
<相違点b>
縦延伸直後のフィルムを通す加熱炉の設定温度が、本願の実施例4では90°Cであるのに対し、引用発明1では100°Cである点。
<相違点c>
フィルムを横延伸機に導いて表面温度が、本願の実施例4では95°Cになるまで予備加熱するのに対し、引用発明1では110°Cになるまで予備加熱する点。
(e)フィルムの特性
引用発明1のシーラントフィルムは、厚みが30μmであり(引用文献1の[0054]の[表2])、ヘイズが4.1%であり、140°Cでシールしたときのヒートシール強度が9.2N/15mmであり、80°C温湯収縮率が、長手方向が0.7%で、幅方向が0.9%である(引用文献1の[0055]の[表3])点も本願の実施例4(本願明細書の【0093】の【表2】)と一致しており、比較可能な他の物性値で数値が異なるものはない。
b 上記相違点aないしcについての検討
本願明細書の【0044】には、縦延伸について「予熱ロールでフィルム温度が65°C~90°Cになるまで予備加熱することが好ましい」と記載され、同【0045】には「長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65°C~100°C以下の温度で加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる」と記載されている。また、本願明細書の【0047】には、横延伸について「横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75°C~120°Cになるまで行うとよい」と記載されている。
そうすると、上記相違点aないしcに係る引用発明1の製造条件は、いずれも本願明細書で好ましいとされる温度範囲内である。
c 相違点1についての当審の判断
引用発明1のフィルムは、上記a(a)~(c)において検討したとおり、ヒートシール層及び耐熱層の原料組成が本願の実施例4のフィルムと同一である。そして、引用発明1のフィルムの製造方法は、上記a(d)において検討したとおり、上記相違点aないしcの点を除き、本願の実施例4のフィルムの製造方法と同一である。さらに、引用発明1のフィルムは、上記a(e)において検討したとおり、フィルムの厚み、ヘイズ、140°Cでシールしたときのヒートシール強度並びに縦方向及び横方向の80°C温湯収縮率が、本願の実施例4のフィルムと一致しており、比較可能な他の物性値で数値が異なるものは存在しない。加えて、上記相違点aないしcに係る引用発明1の製造条件は、いずれも本願明細書で好ましいとされる温度範囲内であることは、上記bで検討したとおりである。
そうすると、引用発明1のフィルムの「三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSm」(以下、「RSm」という。)は、ヒートシール層及び耐熱層の原料組成が同一であり、フィルムの製造方法が極めて類似し、得られたフィルムの複数の物性値が同一である、本願の実施例4のフィルムのRSmである23μmと同一であるか、同一ではないとしても同程度の値になる蓋然性が高いといえるから、引用発明1のフィルムは、「三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSmが20μm以上29μm以下であ」るという本願発明1の発明特定事項を満たす蓋然性が高い。
また、引用発明1のフィルムは、ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が9.2N/15mmで本願発明1の発明特定事項を満たしており、本願明細書の【0014】には「RSmが18μm未満であると、ヒートシール面同士の接触面積が極端に小さくなるため、140°Cシール強度が低くなり、シーラントフィルムとして適さない。」と記載されていることからみて、引用発明1のフィルムは少なくともRSmが18μm以上であるといえ、引用発明1のフィルムは「三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSmが20μm以上29μm以下であ」る蓋然性が高いという上記判断と整合する。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
(イ)相違点2について
引用発明1のフィルムは、上記(ア)a(a)~(c)において検討したとおり、ヒートシール層及び耐熱層の原料組成が本願の実施例4のフィルムと同一である。そして、引用発明1のフィルムの製造方法は、上記(ア)a(d)において検討したとおり、上記相違点aないしcの点を除き、本願の実施例4のフィルムの製造方法と同一である。さらに、引用発明1のフィルムは、上記(ア)a(e)において検討したとおり、フィルムの厚み、ヘイズ、140°Cでシールしたときのヒートシール強度並びに縦方向及び横方向の80°C温湯収縮率が、本願の実施例4のフィルムと一致しており、比較可能な他の物性値で数値が異なるものは存在しない。加えて、上記相違点aないしcに係る引用発明1の製造条件は、いずれも本願明細書で好ましいとされる温度範囲内であることは、上記(ア)bで検討したとおりである。
そうすると、引用発明1のフィルムの「ヒートシール層同士を100°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度」(以下、「100°Cヒートシール強度」という。)は、ヒートシール層及び耐熱層の原料組成が同一であり、フィルムの製造方法が極めて類似し、得られたフィルムの複数の物性値が同一である、本願の実施例4のフィルムの100°Cヒートシール強度である0.1N/15mmと同一であるか、同一ではないとしても同程度の値になる蓋然性が高いといえるから、引用発明1のフィルムは、「ヒートシール層同士を100°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が0.1N/15mm以上5N/15mm以下」という本願発明1の発明特定事項を満たす蓋然性が高い。
また、本願明細書の【0014】には「
RSmは、100°Cヒートシール強度
及びヒートシール面同士の動摩擦係数
と相関している
。ヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmが長いほど、ヒートシール面の凹凸が少なくなり平滑化するため、接触面積が大きくなって100°Cヒートシール強度が高くなり、ヒートシール面同士の動摩擦係数も高くなる。
ヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmが29μm以上であると、100°Cヒートシール強度が高くなり
包装袋として使用して内容物を温めようとした際に、最内層のヒートシール層同士が粘着しやすく、開封性が損なわれるため、
包装袋として適さない
。一方、
表面粗さの要素の平均長さRSmが18μm未満であると、
ヒートシール面同士の接触面積が極端に小さくなるため、
140°Cシール強度が低くなり、シーラントフィルムとして適さない。
」と記載されており(当審注:下線は当審が付したものである。)、RSmは100°Cヒートシール強度と相関しており、RSmが29μm以上であると、100°Cヒートシール強度が高くなり包装袋として適さず、RSmが18μm未満であると、140°Cシール強度が低くなり、シーラントフィルムとして適さない、といえる。そして、上記(ア)で検討したとおり、引用発明1のフィルムのRSmは、20μm以上29μm以下である蓋然性が高い。
そうすると、引用発明1のフィルムは、RSmが20μm以上29μm以下である蓋然性が高いのであるから、RSmと相関する100°Cヒートシール強度についても本願発明1の発明特定事項を満たす蓋然性が高いといえる。
以上のとおりであるから、引用発明1のフィルムは、本願発明1の「(1)ヒートシール層同士を100°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が0.1N/15mm以上5N/15mm以下」という発明特定事項を満たす蓋然性が高い。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
(ウ)相違点3について
引用発明1のフィルムは、上記(ア)a(a)~(c)において検討したとおり、ヒートシール層及び耐熱層の原料組成が本願の実施例4のフィルムと同一である。そして、引用発明1のフィルムの製造方法は、上記(ア)a(d)において検討したとおり、上記相違点aないしcの点を除き、本願の実施例4のフィルムの製造方法と同一である。さらに、引用発明1のフィルムは、上記(ア)a(e)において検討したとおり、フィルムの厚み、ヘイズ、140°Cでシールしたときのヒートシール強度並びに縦方向及び横方向の80°C温湯収縮率が、本願の実施例4のフィルムと一致しており、比較可能な他の物性値で数値が異なるものは存在しない。加えて、上記相違点aないしcに係る引用発明1の製造条件は、いずれも本願明細書で好ましいとされる温度範囲内であることは、上記(ア)bで検討したとおりである。
そして、本願明細書に記載された実施例1のフィルムの密度と、実施例1とヒートシール層及び耐熱層の原料組成が同一であり、最終熱処理温度が異なる比較例1(実施例1は180°C、比較例1は160°C)のフィルムの密度を比較すると、実施例1のフィルムは密度が1.328であるのに対し、比較例1のフィルムの密度は1.323であり、両者の差はわずか0.005であり、ヒートシール層及び耐熱層の原料組成が同一であれば、フィルムを製造する際の加熱条件が多少変化したとしても密度は大きく変わらないことがうかがえる。
そうすると、引用発明1のフィルムの密度は、ヒートシール層及び耐熱層の原料組成が同一であり、フィルムの製造方法が極めて類似し、得られたフィルムの複数の物性値が同一である、本願の実施例4の密度である1.340と同一であるか、同一ではないとしても同程度の値になる蓋然性が高いといえるから、引用発明1のフィルムは「密度が1.20以上1.39未満」という本願発明1の発明特定事項を満たす蓋然性が高い。
また、引用発明1のフィルムは、ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が9.2N/15mmで本願発明1の発明特定事項を満たしており、本願明細書の【0013】には「密度が1.39以上となると、低吸着性や耐熱性には優れるが、140°Cシール性が損なわれるため、シーラントフィルムとして適さない。」と記載されていることからみて、引用発明1のフィルムは少なくとも密度が1.39未満であるといえ、引用発明1のフィルムは「密度が1.20以上1.39未満」という特定事項を満たす蓋然性が高いという上記判断と整合する。
したがって、上記相違点3は実質的な相違点ではない。
エ 審判請求人の主張について
当審は、令和7年12月12日付け審尋において、本件補正が、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものとは認められないという当審の暫定的な見解を示した上で、原査定に記載した理由2(引用文献1を主たる証拠とする新規性)及び理由3(引用文献1を主たる証拠とする進歩性)における相違点(a)~(c)(それぞれ、上記相違点1ないし3に相当する。)について、引用文献1の実施例5に記載されたシーラントフィルムが、上記相違点(a)~(c)に係る数値範囲を満たさない理由があれば、具体的に説明するように求めた。
これに対し、請求人は、回答書において、本件補正が新規事項の追加でないと主張するとともに(回答書1~2頁)、原査定における引用文献1に記載された発明との相違については、令和6年3月26日提出の手続補正書(方式)により補正された、令和6年2月7日提出の審判請求書(以下、「審判請求書」という。)の「(4)本願発明が特許されるべき理由(ii)拒絶査定自由に対する反論(a)拒絶査定の理由2(特許法第29条第1項第3号)、理由3(特許法第29条第2項)に対する反論」に記載した理由により、本願発明は進歩性を具備するものであると主張する(回答書3頁)、すなわち、本件補正が適法であることを前提とし、本件補正により生じた相違点について、引用文献1には記載されておらず、その作用効果及び達成手段も引用文献1には記載されていないので新規性及び進歩性を具備すると主張するのみで、原査定における相違点(a)~(c)については、何ら具体的な説明をしていない。
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本件補正を前提とする請求人の主張は採用することができない。そして、請求人は回答書において、原査定における相違点(a)~(c)については、何ら具体的な説明をしていないので、拒絶査定の理由が解消したと解する理由を見いだすことができない。
よって、請求人の主張は受け入れられない。
オ 引用文献1を主たる証拠とする新規性・進歩性についてのまとめ
上記ア~エに示したとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(2)発明の単一性(特許法第37条)について
特許法第37条は、「二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。」と規定しており、二以上の発明が、発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しないときは、同一の特許出願とすることができないところ、特許法施行規則第25条の8第1項は「特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。」、同条第2項は「前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。」と定めている。これらの規定に照らして検討するに、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明と、
「少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、三次元粗さ計から求めた表面粗さの平均長さRSmが20μm以上29μm以下であり、ヒートシール層同士を140°C、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下である低吸着性シーラントフィルム。」
という共通の技術的特徴を有している。
しかしながら、当該技術的特徴は、上記のとおり、引用文献1の開示内容に照らして、先行技術に対する貢献をもたらすものではないから、特別な技術的特徴であるとはいえない。
また、請求項2に係る発明と、補正後の請求項1に係る発明との間に、他に同一の又は対応する特別な技術的特徴は存在しない。
以上のとおりであるから、本願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
(3)原査定の拒絶の理由についてのまとめ
上記(1)及び(2)に示したとおり、本願発明は、原査定の拒絶の理由のうち、引用文献1を主たる証拠とする新規性・進歩性、並びに、発明の単一性により、特許を受けることができない。
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
また、本願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
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