結論テキスト
特許第7595072号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第7595072号の請求項1~4に係る特許を維持する。
Trademark Appeal Case
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| 審判番号 | 2025700594 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本件特許に係る出願は、2021年(令和3年)4月5日(優先権主張 令和2年4月15日 (JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、令和6年11月27日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年6月5日に特許異議申立人である本間 賢一(以下、「申立人」という。)により、その請求項1~4に係る特許について特許異議の申立てがされたものであり、当審は、同年9月2日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年10月28日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行い、当審は、特許権者から訂正請求があったことを、同年11月27日付けで申立人に通知し、申立人は、その指定期間内である同年12月26日に意見書を提出したものである。
本件訂正請求は、請求の趣旨を「特許第7595072号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものである。
本件訂正は、以下の訂正事項からなる。訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「フッ素樹脂と無機充填材とを含み」と記載されているのを、「フッ素樹脂と無機充填材と
のみからなり
」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する)。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、一群の請求項である訂正前の請求項1~4についてされたものであるから、特許法120条の5第4項の規定に適合する。
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明では、「フッ素樹脂と無機充填材とを含」むとして、シール材が、フッ素樹脂および無機充填材以外の成分を含み得ることを特定していた。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、当該シール材が、フッ素樹脂と無機充填材とのみからなることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 新規事項の有無
訂正事項1は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。
このシール材に係る説明として、段落【0029】には、「本シール材は、前記フッ素樹脂および無機充填材(のみ)からなるシール材であってもよく、・・・(略)・・・」との記載がなされており、当該シール材を用いる作用効果も、段落【0013】に記載されたとおりのものであるから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。
エ 独立特許要件
本件においては、訂正前の全ての請求項1~4について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~4に係る発明は、令和7年10月28日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」等、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。
「【請求項1】
フッ素樹脂と無機充填材とのみからなり、
前記フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり、
前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である、
シール材。
【請求項2】
前記無機充填材の平均粒径が1~30μmである、請求項1に記載のシール材。
【請求項3】
前記無機充填材が、平均粒径が異なる2種以上の粒子を含む、請求項1または2に記載のシール材。
【請求項4】
前記シール材がガスケットである、請求項1~3のいずれか1項に記載のシール材。」
理由1(明確性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、以下の理由から、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(1)請求項1の「フッ素樹脂の結晶化度」は、以下のとおり、測定方法(測定装置)、用いるΔHbの値、及び、シール材に含まれる成分に応じて変わり得るものであるから、請求項1及びその引用形式等で記載される請求項2~4に係る発明は、明確でない。
ア 本件明細書の段落【0062】~【0064】には、「シール材中のフッ素樹脂の結晶化度」の測定方法、及び、結晶化度は「結晶化度(%)=ΔH×100/(ΔHb×w)」の式で求められることが記載されている(異議申立書の第15ページ第17~27行)。
イ ΔHbについて
「ΔHb」に関しては、段落【0063】に「前記ΔHbは、用いた原料のフッ素樹脂の融解熱量を、前記シール材の融解熱量を測定する方法と同様にして測定することができるが、シール材に含まれるフッ素樹脂がPTFEの場合、本発明では、ΔHbとして、54.8mJ/mgの値を採用し、シール材に含まれるフッ素樹脂が変性PTFEである場合、本発明では、ΔHbとして、50.0mJ/mgの値を採用する」とも記載されている。
このように、シール材に含まれるフッ素樹脂が「PTFE」の場合、「ΔHb」として、「54.8mJ/mg」又は「用いた原料のフッ素樹脂の融解熱量を、前記シール材の融解熱量を測定する方法と同様にして測定」して算出された値が用いられると認められる。
一般に、同一の測定装置を用いた場合であっても一定範囲の測定誤差が生じることは自明であり、装置が異なれば同じ実験条件でも測定値にずれが生じることも自明であるから、「用いた原料のフッ素樹脂の融解熱量を、前記シール材の融解熱量を測定する方法と同様にして測定」した時の値が、「54.8mJ/mg」となるのか不明である。また、61号証の第5 8頁には、市販のPTFEについて、「結晶融解熱(4Hf)の値については、StarkweatherはLauらの値(17.1Ca1/g)より大きい22.2cal/g
65,88
>が妥当なものと考えている(従来よく引用されてきたΔHf=l3.7cal/g
87
)は小さすぎる。)」と記載されており、lcal=4.184J、22.2cal/gとして換算すると、ΔHf=22.2cal/g=92.9J/gとなり、一義的に定まらない(異議申立書の第15ページ第28行~第17ページ第14行)。
ウ 「w」について
本件明細書の段落【0064】に、「前記シール材中のフッ素樹脂含有量wは、具体的には、熱重量分析装置(TG)を用い、下記条件で測定した場合における、420~645°C付近にみられる重量減少散から算出することができる。」と記載されている。
本件訂正前の請求項1は「フッ素樹脂と無機充填材とを含み」とオープン形式で記載され、本件明細書の段落【0029】には「テルペン樹脂、テルペンーフェノール樹脂、クマロン樹脂、クマロンーインデン樹脂、ロジンなどの粘着性付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、顔料などの着色剤、PPS等の樹脂の粉体、アラミド繊維等の有機繊維」等がシール材に含まれてもよいことが記載されている。例えば、アラミド繊維であるKevlar(米国デュポン社の登録商標)の窒素中(本件明細書の段落【0064】参照)での熱分解温度は、甲第2号証の第1頁に記載されているとおり約538°Cである。また、甲第4号証の段落【0019】に示すように、キナクリドン系の顔料はシール材に含まれる顔料として公知であるところ、甲第5号証の「要旨」に記載のとおり、窒素中の熱分解温度は390~575°Cである。このように、前記段落【0029】には、420~645°C付近で重量減少する成分が含まれていることは明らかであるから、フッ素樹脂以外に420~645°C付近で熱分解する成分を含む場合、「w」を測定できない(異議申立書の第17ページ第15行~第18ページ第11行)。
エ 二種以上のフッ素樹脂で構成される場合
本件明細書の段落【0015】の記載から、請求項1の「フッ素樹脂」は2種以上のフッ素樹脂で構成される態様を包含するものであるが、その場合、フッ素樹脂の結晶化度とは、2種以上の全体の値を意味するのか、結晶化度が50%以上のフッ素樹脂が含まれれば良いことを意味するか不明である。また、本件明細書には、シール材に含まれる異なる2種類以上のフッ素樹脂のそれぞれの「w」の測定方法は記載されておらず、異なる2種類のフッ素樹脂のそれぞれの「w」を測定できない(異議申立書の第14ページ第3行~第15ページ第16行、第18ページ第12~18行)。
(2)請求項1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」との記載は、以下の理由から不明確なため、請求項1及びその引用形式等で記載される請求項2~4は不明確である。
本件明細書の段落【0028】にも記載されているとおり、本件特許発明1の「フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」との発明特定事項は、「シール材中」の「フッ素樹脂の合計体積」と「無機充填材の合計体積」の比である。
ところで、実施例の記載からみて、本件特許発明の「シール材」は、原料をニーダーで混合、熟成、押出、圧延、焼成することで製造されているから、製造された「シール材」に含まれる「無機充填材」は、各々の粒子が完全に分離してフッ素樹脂中に分散している態様に加え、粒子が凝集して粒子間にわずかに空気を含む塊として分散する態様をも包含するものである。
先ず、本件特許発明1の「無機充填材の合計体積」の「合計体積」とは、「シール材」に含まれる「無機充填材の各々の粒子のみの体積」の合計を意味するのか、又は、「わずかな空気を含めた無機充填材粒子の塊が占める体積」の合計を意味するのか、不明である。
シール材中の「フッ素樹脂」は溶融して一体化していると考えられるが、実施例では粒子状のフッ素樹脂を原料にしており、「フッ素樹脂の体積」ではなく「フッ素樹脂の合計体積」と記載することにより、溶融せずに粒子として残っているフッ素樹脂粒子の体積を含むことを、又は、別の技術的事項を意味しているのかも不明である。
また、本件明細書には、原料をニーダーで混合、熟成、押出、圧延、焼成することで形成した「シール材」中の「フッ素樹脂の合計体積」や「シール材」に含まれる「無機充填材の合計体積」をどの様に測定するのか何ら記載されていない。実施例においても、例えば実施例1では「このシール材におけるフッ素樹脂と無機充填材との体積比(フッ素樹脂/無機充填材)は51/49であった。」と単に数値が記載されているに過ぎず、当該数値をどの様に測定したのか何ら記載されておらず、どのように測定されたものであるかが明らかとはいえない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」との発明特定事項の技術的意義は不明確であると言わざるを得ない(異議申立書の第19ページ第4行~第20ページ第11行)。
理由2(実施可能要件)本件特許の請求項1~4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)フッ素樹脂の結晶化度について
前記「理由1」の(1)ア~エと同様の理由から、出願時の技術常識等を考慮しても、当業者が「シール材」中の「フッ素樹脂の結晶化度が50%以上」であることを確認できる程度に本件明細書は記載されていない。
(2)請求項1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」について
前記「理由1」の(2)と同様の理由から、請求項1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」との発明特定事項は、出願時の技術常識等を考慮しても当業者が当該発明特定事項を確認できる程度に本件明細書は記載されていない。
理由3(サポート要件)本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)フッ素樹脂の結晶化度について
前記「理由1」の(1)と同様の理由から、出願時の技術常識等を考慮しても、当業者が「シール材」中の「フッ素樹脂の結晶化度が50%以上」との発明特定事項は、本件特許明細書にサポートされていない。
(2)請求項1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」について
前記「理由1」の(2)と同様の理由から、請求項1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」との発明特定事項は、本件特許明細書にサポートされていない。
理由4(新規性)本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第6号証又は甲第8号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由5(進歩性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証、甲第6号証~甲第8号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
甲第1号証:ふっ素樹脂ハンドブック、里川孝臣編、日刊工業株式会社、初版第1刷、1990年11月30日、第58、59、106、107、760、761ページ
甲第2号証:Kevlar
(R)
繊維の熱特性
甲第3号/証:甲第2号証の“Wayback Machine"による検索結果
甲第4号証:特開2008-273199号公報
甲第5号証:「有機顔料の耐熱性(III)」,色材,55[1],1982年,第2~12ページ
甲第6号証:特開2011-122001号公報
甲第7号証:ふっ素樹脂 デュポ
TM
テフロン
(R)
実用ハンドブック、三井・デュポン フロロケミカル株式会社、2015年(平成27年)3月改訂、第30、31ページ
甲第8号証:特開2014-196779号公報
(当審注:「(R)」は○の中にR)
理由1(明確性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。(前記 1「理由1」(1)に対応)
本件特許発明1は「フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり」なる特定を有している。
ここで、本件特許明細書の【0017】には「本明細書におけるフッ素樹脂の結晶化度は、具体的には下記実施例に記載の方法で測定することができる。」と記載され、【0062】には「結晶化度(%)=ΔH×100/(ΔHb×w)」と記載され、【0064】には、「前記シール材中のフッ素樹脂含有量wは、具体的には、熱重量分析装置(TG)を用い、下記条件で測定した場合における、420~645°C付近にみられる重量減少量から算出するすることができる。」と記載されているとおり、wは「420~645°C付近」の重量減少量である。
一方、本件特許明細書の【0029】には「<その他の成分>
本シール材は、前記フッ素樹脂および無機充填材(のみ)からなるシール材であってもよく、前記フッ素樹脂および無機充填材以外に、シール材に用いられてきた従来公知のその他の成分を、本発明の目的が阻害されない範囲内で含んでいてもよい。」と記載され、本件特許発明1は、フッ素樹脂および無機充填材のみからなるシール材に加え、前記フッ素樹脂および無機充填材以外に、シール材に用いられてきた従来公知のその他の成分を含むシール材を包含する。
ここで、フッ素樹脂および無機充填材のみからなるシール材については、熱重量分析装置(TG)を用いて重量減少量を測定すれば、重量減少量はフッ素樹脂のものであるから、シール材のフッ素樹脂のwが算出でき、前記式によりフッ素樹脂自体の結晶化が求められるが、その他の成分を含むシール材については、その他の成分の分解温度範囲がフッ素樹脂の分解温度範囲と重複する場合、熱重量分析装置(TG)を用いて重量減少量を測定しても、重量減少量のうちその他の成分のものとフッ素樹脂のものとの内訳までは特定できず、その結果、シール材のフッ素樹脂のwを算出できず、前記式によりフッ素樹脂自体の結晶化が正確に求められるとはいえない。
そうすると、本件特許発明1は、フッ素樹脂および無機充填材以外に、シール材に用いられてきた従来公知のその他の成分を含み得るためwを算出できないことから、前記【0062】の式で定義されるフッ素樹脂の結晶化度が正確に求められず、本件特許発明1の「フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり」なる特定は、技術的に不明なものとなっているから、その結果、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2~4の「フッ素樹脂の結晶化度が5%以上であり」との発明特定事項は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
理由2(サポート要件)本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(前記1 「理由3」(1) に対応)
本件特許発明1は、シール材に要求される耐クリープ性を維持しつつ、シール性が向上したシール材を提供することを解決しようとする課題とするものと認められる(【0006】参照)。
前記第2のとおり、本件特許発明1は、フッ素樹脂および無機充填材以外に、シール材に用いられてきた従来公知のその他の成分を含むシール材をもその態様として包含するものであり、そのような態様ではwが算出できず、【0062】の式で定義されるフッ素化樹脂の結晶化度を正確に求められず、そのような態様の組成物が、実施例に記載されるフッ素樹脂および無機充填材のみからなるシール材のフッ素樹脂の結晶化度が50%以上である組成物と同様に前記課題を解決できるとは理解できない。
また、その他の成分の分解温度範囲がフッ素樹脂の分解温度範囲と重複せず、【0062】の式によりフッ素樹脂の結晶化度が正確に求められる場合であっても、他の成分が、フッ素樹脂および無機充填材に対して多量に含まれている場合は、前記実施例に記載のようなフッ素樹脂および無機充填材のみからなるシール材のフッ素樹脂の結晶化度が50%以上であるものと同様に前記課題を解決できることは理解できず、フッ素樹脂および無機充填材がごくわずかでも含まれていれば、前記課題を解決できることのメカニズムについて本件特許明細書に記載はなく、そのような出願時の技術常識もない。
そうすると、前記フッ素樹脂および無機充填材以外に、シール材に用いられてきた従来公知のその他の成分を含む態様をも包含する本件特許発明1が、前記課題を解決できることはいえない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
(1)検討
本件訂正により、本件特許発明1のシール材はフッ素樹脂および無機充填材のみからなるものとなり、フッ素樹脂および無機充填材のみからなるシール材については、熱重量分析装置(TG)を用いて重量減少量を測定すれば、重量減少量はフッ素樹脂の減少量に対応し、シール材のフッ素樹脂のwを算出して前記【0062】の式によりフッ素樹脂自体の結晶化が求めることが可能である。
したがって、本件特許発明1の「フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり」なる特定は、技術的に明確であり、その結果、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2~4の「フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり」との発明特定事項は明確である。
(2) 申立人の主張
申立人は、令和7年12月26日提出の意見書及び異議申立書において、「結晶化度(%)=ΔH×100/(ΔHb×w)」の式の「ΔHb」について、本件明細書には、実測値でもよいし、所定の値を採用してもよいことが記載されており、「ΔHb」としてどの値を採用するのかによって、「前記フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり」との技術的範囲は変わり得ること、及び、
フッ素樹脂が2種類以上含まれる場合、「w」が、シール材中に含まれるそれぞれの種類のフッ素樹脂の値であるのか、或いは、フッ素樹脂全体の値であるのか不明であり、その結果、結晶化度の値も変わり得る旨主張する。
(3)申立人の主張についての検討
本件特許明細書【0063】に、ΔHbは、用いた原料のフッ素樹脂の融解熱量であり、シール材の融解熱量を測定する方法と同様にして測定することができることが記載され、【0062】には、装置の種類や昇温速度等を含め、シール材の融解熱量を測定する具体的な方法が記載されている。
したがって、本件特許明細書【0063】のフッ素樹脂がPTFEやPTFEの場合の記載をもって、ΔHb等に基づき算出される「フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり」との特定事項が不明確とはいえない。
また、本件特許明細書【0062】の「wはシール材中のフッ素樹脂の含有量(質量%)である。」との記載から、「w」がシール材中に含まれるフッ素樹脂全体の値であることは明らかであり、【0062】及び【0063】の記載から、2種類以上のフッ素樹脂を含むものであっても、フッ素樹脂全体の値としてΔHbが求められることは明らかであるから、フッ素樹脂が2種類以上含まれる場合であっても、ΔHbやwに基づき【0062】の式で算出される結晶化度が不明確とはいえない。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。
(1) 検討
本件特許発明1が解決しようとする課題は、前記第4 3の理由2のとおりである。
本件訂正により、本件特許発明1のシール材はフッ素樹脂および無機充填材のみからなるものとなり、前記1で検討したとおり、本件訂正により、フッ素樹脂の結晶化度が一義的に求められることとなったフッ素樹脂および無機充填材のみからなるシール材のフッ素樹脂の結晶化度が50%以上であるものが前記課題を解決できることは、前記第4 3の理由2で検討したとおりである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2~4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(2) 申立人の主張について
申立人は、令和7年12月26日提出の意見書において、前記1(2)と同じ主張をしているが、前記1(3)で検討したとおりであるから、申立人の前記主張は採用できない。
本件特許発明1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」について
申立人は、本件特許発明1の「シール材」には、「無機充填材」がフッ素樹脂中に分散している態様に加え、凝集して粒子間にわずかに空気を含む塊として分散する態様をも包含するものであるから、本件特許発明1の「無機充填材の合計体積」の「合計体積」が、「シール材」に含まれる「無機充填材の各々の粒子のみの体積」の合計を意味するのか、又は、「わずかな空気を含めた無機充填材粒子の塊が占める体積」の合計を意味するのか、不明であること(以下「主張1」という。)、
本件特許発明1のシール材中の「フッ素樹脂の合計体積」は、溶融せずに粒子として残っているフッ素樹脂粒子の体積を含むか、又は、別の技術的事項を意味しているのか不明であること(以下「主張2」という。)、及び、
本件明細書には、「シール材」中の「フッ素樹脂の合計体積」や「シール材」に含まれる「無機充填材の合計体積」の測定方法が記載されておらず、どのように測定されたものであるか不明なため、「フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積」が明確でない旨(以下「主張3」という。)主張する。
「フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積」について、本件特許明細書の段落【0028】には、シール性及び耐クリープ性との関係で前記比率が一定の範囲であることが好ましいことが記載されており、その比率の技術的意義に関しては技術常識を踏まえた当業者が理解できるところである。本件特許明細書には、「フッ素樹脂の体積」及び「無機充填材の体積」について、技術常識とは異なる定義等がなされているものではなく、「フッ素樹脂の体積」が「フッ素樹脂」の「体積」であり、「無機充填材の体積」が「無機充填材」の「体積」であることは、明らかであるから、前記主張1及び2をもって、本件特許発明が不明確とはいえない。また、前記主張3の「測定方法」に関する主張も、「フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積」が不明確であることを何ら指摘するものではない。
申立人は、令和7年12月26日提出の意見書において、依然として「合計体積」が何を意味するのか不明確であり、且つ、本件明細書にはどのように「合計体積」を測定するのか何ら記載されていないと主張するが、前記同様の理由から、申立人の前記主張は採用できない。
(1)フッ素樹脂の結晶化度について
前記第5(1)で検討したとおり、本件特許の請求項1の記載から、「シール材に含まれているフッ素樹脂の結晶化度が50%以上である」と解されるから、本件特許発明が、フッ素樹脂の体積及び無機充填材からなるものであれば、2種類以上のフッ素樹脂を含むものであっても、本願明細書【0062】及び【0063】の記載から、その全体のwとΔHとともに結晶化度は求められ、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、「シール材に含まれているフッ素樹脂の結晶化度が50%以上である」シール材を製造し、かつ、使用できるといえるから、本件特許は、実施可能要件を満たすものである。
(2)本件特許発明1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」について
前記1で検討したとおり、「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」との発明特定事項の技術的意義は明確である。また、本件特許明細書に前記体積の測定方法が具体的に記載されていないとしても、たとえば、フッ素樹脂及び無機充填材の重量と密度に基づき算出する等、技術常識を備えた当業者であれば、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30であるシール材を製造し、かつ、使用できるといえるから、本件特許は、実施可能要件を満たすものである。
本件特許発明が解決しようとする課題は、【0006】の記載からみて、シール材に要求される耐クリープ性を維持しつつ、シール性が向上したシール材を提供することにあると求められる。
前記1で検討したとおり、「フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積」は明確であり、本件特許明細書には、段落【0028】の「フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積」が一定の範囲であることによりシール性と耐クリープ性が維持されるとの記載に続き、各実施例の記載がなされており、これらの記載に接した当業者は、結晶化度が50%以上であるフッ素樹脂全体を含み、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30であるものが前記課題を解決できることを理解できる。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえ、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
申立人は、令和7年12月26日提出の意見書において、前記1(2)と同じ主張をしているが、前記1(3)で検討したとおりであるから、申立人の前記主張は採用できない。
(1) 甲号証について
甲第1号証:ふっ素樹脂ハンドブック、里川孝臣編、日刊工業株式会社、初版第1刷、1990年11月30日、第58、59、106、107、760、761ページ
甲第6号証:特開2011-122001号公報
甲第7号証:ふっ素樹脂 デュポ
TM
テフロン
(R)
実用ハンドブック、三井・デュポン フロロケミカル株式会社、2015年(平成27年)3月改訂、第30、31ページ
(当審注:「(R)」は○の中にR)
甲第8号証:特開2014-196779号公報
(2) 甲号証の記載について
ア 甲第1号証(以下、「甲1」という。)
「
40
65
0001436193000001.jpg
」
(第107ページ、表II.1.29、第2~4行)
イ 甲第6号証(以下、「甲6」という。)
「【請求項1】
フッ素樹脂(A)、充填材(B)、加工助剤(C)、ならびに、フェノール樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂およびジアリルフタレート樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂(D)を含有するシート形成用樹脂組成物を予備成形し、得られたプリフォームを40~80°Cのロール温度で圧延し、その後焼成することを特徴とする充填材入りフッ素樹脂シートの製造方法。
・・・
【請求項6】
フッ素樹脂(A)、充填材(B)、ならびに、フェノール樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂およびジアリルフタレート樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂(D)を含有し、下記の特性(a)~(c)を充足することを特徴とする充填材入りフッ素樹脂シート;
特性(a):JIS R3453に準拠して測定された引張り強さが12MPa以上である、
特性(b):該充填材入りフッ素樹脂シートから作成したφ48mm×φ67mm×厚さ1.5mmの試験片に対して面圧19.6MPa、窒素ガス内圧0.98MPaとして気密試験を行った場合の漏洩量が8.0×10-5Pa・m3/s以下である、
特性(c):JIS R3453に準拠して(但し、加熱温度のみ100°Cから200
°Cに変更する)測定された応力緩和率が39%以下である。
【請求項7】
上記請求項1~5の何れかに記載の充填材入りフッ素樹脂シートの製造方法で製造されたこと特徴とする請求項6に記載の充填材入りフッ素樹脂シート。」
「【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された、従来のフッ素樹脂シートには、機械的強度の点でさらなる改善の余地があった。
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、応力緩和性、特に高温での応力緩和性、気密性および機械的強度に優れた充填材入りフッ素樹脂シートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
「【0014】
<フッ素樹脂(A)>
前記フッ素樹脂(A)としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、変性PTFE、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、四フッ化エチレン-エチレン共重合樹脂(ETFE)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレンエチレン共重合樹脂(FEP)および四フッ化エチレン-パーフロロアルキル共重合樹脂(PFA)など、従来より公知のフッ素樹脂をいずれも好ましく用いることができる。これらの中でも、押出成形、圧延などを行う際の加工性の面で、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)が好ましく、乳化重合によって得られたPTFEが特に好ましい。」
「【0016】
<充填材(B)>
前記充填材(B)としては、目的に応じて、黒鉛、カーボンブラック、膨張黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ等の炭素系充填材;タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、シリコンカーバイド、アルミナ、シリカ等の無機充填材;またはPPS等の樹脂の粉体;等が用いられる。また、炭素繊維、アラミド繊維、ロックウール等からなる繊維長10mm以下の繊維材を充填材(B)として用いても良い。」
「【0039】
<焼成工程>
焼成工程では、乾燥後シートをフッ素樹脂の融点以上の温度で加熱し、焼結させる。加熱温度としては、シート全体を均一に焼成する必要があること、および、過度の高温ではフッ素系有害ガスが発生することなどを考慮すると、フッ素樹脂の種類によっても多少異なるが、たとえば340~370°Cが適当である。
この焼成工程では、乾燥後のシートを340~370°Cで焼成すればよいが、具体的には、3~7時間かけて340~370°Cまで昇温し、その後、1~5時間当該温度で維持し、最後に徐冷するようなプログラムで焼成することが好ましい。」
「【0042】
このような本発明の充填材入りフッ素樹脂シートは、ガスケットに用いることができ、本発明の充填材入りフッ素樹脂シートからなるガスケットは、高温下(たとえば200°C以上)で長期に渡って使用できる。
前記ガスケットは、本発明の充填材入りフッ素樹脂シートを所望の形状に切り抜くことにより容易に製造できる。」
「【0048】
[実施例1]
PTFEファインパウダー(CD-1、旭硝子(株)製)400g、
NK-300(微粉末クレー、昭和KDE(株)製)600g、
アイソパーC(炭化水素系有機溶剤、分留温度:97~104°C、エクソンモービル(有))125g、
アイソパーG(炭化水素系有機溶剤、分留温度:158~175°C、エクソンモービル(有))125g、および
フェノール樹脂1364A(未硬化タイプの粉末状フェノール樹脂、DIC製)4g
をニーダーで5分間混合した後、室温(25°C)で16時間放置することにより熟成させ、シート形成用組成物を調製した。
この組成物を、室温(25°C)で、口金300mm×20mmの押出機で押出し、プリフォームを作成した。
【0049】
このプリフォームを、ロール径700mm、ロール間隔20mm、ロール速度6m/分
、ロール温度40°Cの条件下で二軸ロールにより圧延した。この圧延の直後に、得られたシートを、ロール間隔を10mmとして再度圧延した。さらに、この圧延の直後に、得られたシートを、ロール間隔を5mmとして再度圧延した。最後に、この圧延の直後に、得られたシートを、ロール間隔を1.5mmとして再度圧延し、厚さ1.5mmのシートが得られた。
【0050】
このシートを室温(25°C)で24時間放置し溶剤を除去した後、電気炉内350°Cで3時間焼成し、充填材入りフッ素樹脂シートを得た。
この充填材入りフッ素樹脂シートの漏洩量(気密性)は4.8×10
-5
Pa・m
3
/s、引張り強さは16MPa、応力緩和率は38%であった。
・・・
【0056】
【表1】
117
57
0001436193000002.jpg
」
ウ 甲第7号証(以下、「甲7」という。)
「
39
58
0001436193000003.jpg
」(第31ページ第9~16行、表19)
エ 甲第8号証(以下、「甲8」という。)
「【請求項1】
フッ素樹脂と炭化ケイ素粒子およびα-アルミナ粒子からなる群より選ばれた少なくとも1種の無機粒子を含有してなり、フッ素樹脂と無機粒子との体積比(フッ素樹脂/無機粒子)が40/60~55/45であることを特徴とする配管シール用フッ素樹脂製ガスケット。」
「【0012】
本発明において、無機充填材として、炭化ケイ素粒子およびα-アルミナ粒子からなる群より選ばれた少なくとも1種の無機粒子が用いられる。
【0013】
炭化ケイ素粒子として、2種類の異なる平均粒子径を有する炭化ケイ素粒子を併用することが好ましい。このように2種類の異なる平均粒子径を有する炭化ケイ素粒子を併用したとき、当該2種類の異なる平均粒子径を有する炭化ケイ素粒子をそれぞれ単独で用いた場合と対比して、両者併用による相乗効果により、高温時における圧縮率をより一層低くすることができる。2種類の異なる平均粒子径を有する炭化ケイ素粒子を併用する場合、高温時における圧縮率を低くする観点から、一方の炭化ケイ素粒子Aの平均粒子径は7~12μmであり、他方の炭化ケイ素粒子Bの平均粒子径は1~5μmであることが好ましい。」
「【0030】
実施例1
フッ素樹脂粉末〔旭硝子(株)製、ポリテトラフルオロエチレン粉末、品番:CD-1、密度:2200kg/m
3
〕1000g、炭化ケイ素粒子〔信濃電気製錬(株)製、品番:#1200、平均粒径:9.5μm、密度:3200kg/m
3
〕1400g、助剤A〔エクソンモービル(有)製、商品名:アイソパーC、分留温度:97~104°C〕125gおよび助剤B〔エクソンモービル(有)製、商品名:アイソパーG、分留温度:158~175°C〕125gをニーダーで5分間混合した後、室温(25°C)で16時間放置することにより熟成させ、シート形成用組成物を調製した。
【0031】
前記で得られたシート形成用組成物を室温(25°C)で、口金300mm×20mmの押出機で押出し、プリフォームを作製した。前記で得られたプリフォームをロール径700mm、ロール間隔20mm、ロール速度6m/min、ロール温度40°Cの条件下にて二軸ロールで圧延した。この圧延されたシートをロール間隔が10mmである二軸ロールで再度圧延し、さらにこの圧延されたシートを、ロール間隔が5mmである二軸ロールで再度圧延し、最後にこの圧延されたシートをロール間隔が1.5mmである二軸ロールで圧延することにより、厚さが1.5mmのシートを得た。
【0032】
前記で得られたシートを室温(25°C)で24時間放置し、助剤を除去した後、電気炉内で350°Cの温度で3時間焼成することにより、シートガスケットを得た。このシートガスケットにおけるフッ素樹脂と無機粒子との体積比(フッ素樹脂/無機粒子)は51/49であった。
・・・
【0047】
比較例1
実施例1において、炭化ケイ素粒子〔信濃電気製錬(株)製、品番:#1200、平均粒径:9.5μm、密度:3200kg/m
3
〕1400gの代わりに、クレー粒子〔昭和KDE(株)製、品番:NK-300、平均粒径:9.5μm、密度:2600kg/m
3
〕1200gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシートガスケットを得た。このシートガスケットにおけるフッ素樹脂と無機粒子との体積比(フッ素樹脂/無機粒子)は50/50であった。」
(3) 甲号証に記載された発明
ア 甲6に記載された発明
甲6には、【0039】、【0042】、【0048】~【0050】を参照すると、実施例1の充填材入りフッ素樹脂シートとして「PTFEファインパウダー(CD-1、旭硝子(株)製)400g、
NK-300(微粉末クレー、昭和KDE(株)製)600g、
アイソパーC(炭化水素系有機溶剤、分留温度:97~104°C、エクソンモービル(有))125g、
アイソパーG(炭化水素系有機溶剤、分留温度:158~175°C、エクソンモービル(有))125g、および
フェノール樹脂1364A(未硬化タイプの粉末状フェノール樹脂、DIC製)4gをニーダーで5分間混合した後、室温(25°C)で16時間放置することにより熟成させ、シート形成用組成物から得られたシートをシートを室温(25°C)で24時間放置し溶剤を除去した後、電気炉内350°Cで3時間焼成し、徐冷して得た、ガスケットに用いることができる充填材入りフッ素樹脂シート。」の発明「以下、「甲6発明」という。」が記載されているといえる。
イ 甲8に記載された発明
甲8には、【0030】~【0032】を参照すると、実施例1のシートガスケットとして「フッ素樹脂粉末〔旭硝子(株)製、ポリテトラフルオロエチレン粉末、品番:CD-1、密度:2200kg/m
3
〕1000g、炭化ケイ素粒子〔信濃電気製錬(株)製、品番:#1200、平均粒径:9.5μm、密度:3200kg/m
3
〕1400g、助剤A〔エクソンモービル(有)製、商品名:アイソパーC、分留温度:97~104°C〕125gおよび助剤B〔エクソンモービル(有)製、商品名:アイソパーG、分留温度:158~175°C〕125gをニーダーで5分間混合した後、室温(25°C)で16時間放置することにより熟成させ、調製したシート形成用組成物から得たシートを室温(25°C)で24時間放置し、助剤を除去した後、電気炉内で350°Cの温度で3時間焼成することにより得た、フッ素樹脂と無機粒子との体積比(フッ素樹脂/無機粒子)は51/49であるシートガスケット。」の発明「以下、「甲8発明」という。」が記載されているといえる。
(4) 甲6発明を主引用発明とする場合。
ア 本件特許発明1
(ア)対比
甲6発明の「PTFEファインパウダー(CD-1、旭硝子(株)製)」は本件特許発明1の「フッ素樹脂」に相当する(甲6の【0014】参照。)。
甲6発明の「NK-300(微粉末クレー、昭和KDE(株)製)」は本件特許発明1の「無機充填材」に相当する(甲6の【0016】参照。)。
甲6発明の「ガスケットに用いることができる充填材入りフッ素樹脂シート」は本件特許発明1の「シール材」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲6発明は、「フッ素樹脂と無機充填材とを含む、シール材。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点6-1>
シール材が、本件特許発明1はフッ素樹脂と無機充填材のみからなるのに対し、甲6発明はフェノール樹脂1364A(未硬化タイプの粉末状フェノール樹脂、DIC製)を含む点。
<相違点6-2>
本件特許発明1はフッ素樹脂の結晶化度が50%以上であるのに対し、甲6発明はフッ素樹脂の結晶化度が不明である点。
<相違点6-3>
本件特許発明1は、無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30であるのに対し、甲6発明は、無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が不明である点。
(イ) 検討
相違点6-1が実質的な相違点であることは明らかであるから、本件特許発明1は甲6に記載された発明ではない。
以下、相違点について検討する。
<相違点6-1>
甲6は、応力緩和性、特に高温での応力緩和性、気密性および機械的強度に優れた充填材入りフッ素樹脂シートを提供することを目的とするものであり(【0006】)、甲6には、フェノール樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂およびジアリルフタレート樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂(D)を含有することが記載されると共に(【請求項1】、【請求項6】、【請求項7】参照。)、実施例は全てフェノール樹脂を含有するものである(【0056】)。
熱硬化性樹脂は、耐熱性、耐酸・アルカリ性に優れており、後述する焼成工程にて、分解、焼失、炭化等せず、得られる充填材入りフッ素樹脂シートの内部がポーラスにならないものであるから(【0022】)、甲6発明において、前記のとおり、気密性および機械的強度に優れたフッ素樹脂シートを提供するために、熱可塑性樹脂であるフェノール樹脂を含まないものとすることを当業者が動機付けられたとはいえない。
また、他の証拠も、甲6発明において、フッ素樹脂と無機充填材のみからなるものとすることを動機付けるものではない。
<相違点6-2>
甲6には、焼成工程では、乾燥後のシートを340~370°Cで焼成すればよいが、具体的には、3~7時間かけて340~370°Cまで昇温し、その後、1~5時間当該温度で維持し、最後に徐冷することが記載されている(【0039】参照。)が、これらの記載から、甲6発明のフッ素樹脂の結晶化度が50%以上であることが明らかとはいえない。また、冷却速度と結晶化度の関係については、甲1に、PTFEを350°Cで3時間焼成して50°C/hrで徐冷すると、結晶度が62%であったことが(前記3(1)参照。)、甲7に、結晶化度はPTFEの融点以上の領域から約200度までの冷却速度によって決まることが(前記3(3)参照。)、それぞれ記載されている。これらの記載から、当業者は、甲6発明について、製造工程で徐冷することによりフッ素樹脂の結晶化度が高められることを理解するといえる。
しかしながら、甲6は、応力緩和性、特に高温での応力緩和性、気密性および機械的強度に優れた充填材入りフッ素樹脂シートを提供することを目的とするものであるのに対し(【0006】参照。)、甲1には徐冷によりPTFEの引張強さが低下することが記載されているから(前記2(1)参照。)、甲6発明において、引張強さの低下をもたらすようなフッ素樹脂の製造方法を採用し、フッ素樹脂の結晶化度を50%以上とすることを当業者が動機付けられたとはいえない。
また、他の証拠も、甲6発明において、フッ素樹脂の結晶化度を50%以上とすることを動機付けるものではない。
そして、本件特許発明1は、従来の充填材入りフッ素樹脂シートと同程度のシール材に要求される耐クリープ性を維持しつつ、従来の充填材入りフッ素樹脂シートよりシール性が向上するという効果を奏するものであり、そのような効果は本件特許発明1の構成から当業者が予測できた範囲を超えるものとえいえる。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和7年12月26日提出の意見書において「本件訂正発明1の「前記フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり」との技術的範囲は変わり得るものであり、「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」との発明特定事項は、その技術的意味と測定方法は不明であり、甲第6号証には、シートを製造する際の焼成工程において、最後に徐冷するようなプログラムで焼成することが記載されていると主張する。
しかしながら、前記1及び第5 1のとおり前記特定事項は明確であり、また、甲第6号証の記載等から、甲6発明の「フッ素樹脂の結晶化度」を「50%以上」とすることを動機付けられるとはいえないことは、前記(イ)で検討したとおりである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(エ)小括
したがって、本件特許発明1は、<相違点6-3>について検討するまでもなく、甲6に記載された発明ではなく、また、甲6に記載された発明及び甲1、甲6及び甲7等の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。
イ 本件特許発明2~4
本件特許の請求項2~4は、請求項1の引用形式で記載されるものであるから、前記ア同様に、本件特許発明2~4は、少なくとも前記<相違点6-1>~<相違点6-3>において、甲6発明と相違するものである。
したがって、前記ア同様の理由から、本件特許発明2~4は、甲6に記載された発明ではなく、また、甲6に記載された発明及び甲1、甲6及び甲7等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。
(5)甲8発明を主引用発明とする場合。
ア 本件特許発明1
(ア)甲8発明との対比
甲8発明の「フッ素樹脂粉末〔旭硝子(株)製、ポリテトラフルオロエチレン粉末、品番:CD-1、密度:2200kg/m
3
〕」は本件特許発明1の「フッ素樹脂」に相当する。
甲8発明の「炭化ケイ素粒子〔信濃電気製錬(株)製、品番:#1200、平均粒径:9.5μm、密度:3200kg/m
3
〕」は本件特許発明1の「無機充填材」に相当する。
甲8発明の「フッ素樹脂と無機粒子との体積比(フッ素樹脂/無機粒子)は51/49である」は本件特許発明1の「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」を充足する。
甲8発明の「シートガスケット」は本件特許発明1の「シール材」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲8発明は、「フッ素樹脂と無機充填材のみからなり、
前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である、
シール材。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点8>
本件特許発明1はフッ素樹脂の結晶化度が50%以上であるのに対し、甲8発明はフッ素樹脂の結晶化度が不明である点。
(イ)検討
甲8の記載に加え技術常識等を勘案しても、甲8発明のフッ素樹脂の結晶化度が50%以上であるとは認められないから、本件特許発明1は、甲8に記載された発明ではない。
以下、相違点8について検討する。
甲1、甲6及び甲7の記載は、前記アで検討したとおりであるが、甲8には、焼成したシートガスケットを徐冷することについて記載も示唆もない以上、甲8発明において、シートガスケットを徐冷したものとする動機付けがあるとはいえず、また、フッ素樹脂の結晶化度を50%以上とする動機付けがあるともいえない。また、他の証拠も、甲8発明において、フッ素樹脂の結晶化度を50%以上とすることを動機付けるものではない。
そして、本件特許発明1は、従来の充填材入りフッ素樹脂シートが有していたのと同程度のシール材に要求される耐クリープ性を維持しつつ、従来の充填材入りフッ素樹脂シートよりシール性が向上するという効果を奏するものであり、そのような効果は本件特許発明1の構成から当業者が予測できた範囲を超えるものとえいえる。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和7年12月26日提出の意見書において「本件訂正発明1の「前記フッ素樹脂の結晶化度が50%以上であり」との技術的範囲は変わり得るものであり、「前記無機充填材の合計体積に対する前記フッ素樹脂の合計体積の比である、フッ素樹脂の体積/無機充填材の体積が40/60~70/30である」との発明特定事項は、その技術的意味と測定方法は不明であると主張するが、前記(4)、1及び第5 1で検討したとおり、当該発明特定事項の技術的意義と測定方法は明確であるから、本件特許発明1は、甲8発明、並びに、甲1、6及び7の記載等に基づいて、当業者が想到し得たものとはいえない。
(エ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲8に記載された発明ではなく、また、甲8に記載された発明、並びに、甲1、甲6及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。
イ 本件特許発明2~4
本件の請求項2~4は請求項1の引用形式で記載されるものであり、本件特許発明2~4は、前記<相違点8>において甲8と相違するものであるから、本件特許発明2~4は、甲8に記載された発明ではなく、甲8に記載された発明、並びに、甲1、6及び7の記載等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。
以上のとおりであるから、令和7年9月30日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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