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Trademark Appeal Case

先行意匠との類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024880004
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本件意匠登録第1693718号の意匠(以下「本件登録意匠」という。別紙第1参照。)は、令和3年2月8日に意匠登録出願(意願2021-2707)されたものであり、同年7月30日付けで登録査定がなされ、同年8月11日に意匠権の設定登録がなされ、同年8月30日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

令和6年 5月16日 審判請求書の提出

令和6年 8月27日 審判事件答弁書の提出

令和7年10月31日付け 審理事項通知

令和7年12月 5日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)

令和7年12月19日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)

令和8年 1月14日 口頭審理・書面審理通知(口頭)

令和8年 1月28日 上申書の提出(被請求人)

令和8年 2月12日 上申書の提出(請求人)

令和8年 3月13日付け 審理終結通知

第2 請求人の申し立て及び理由の要点

請求人は、請求の趣旨を、「登録第1693718号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由を、概ね以下のとおり主張した(「口頭審理陳述要領書」及び「上申書」の内容を含む。以下、下線は請求人による。)。

1 審判請求書における主張

「(3)意匠登録無効の理由の要点

本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

(4)本件意匠登録を無効とすべき理由

(4A)本件登録意匠の要旨

本件登録意匠は、意匠登録第1693718号が掲載された意匠公報に記載のとおり、意匠に係る物品を「カーテンレール枠材」とするものである。

本件登録意匠の形態は、意匠公報の[左側面図]を基準として、[意匠の説明]の記載を参照すると、基本的構成態様が、底部壁(下部壁)の幅方向の中央部が長手方向に開口した概略断面四角筒状の長尺材の形態を有しており;天井壁を、略板状であって、外面の幅方向の中央域に隣接する左右部を僅かに窪ませた板状とし;左右両側壁を、前記天井壁の両側端部よりも若干内側の位置から屈曲させて左右対称に垂直に垂下させ;底部壁を、前記両側壁の下端部から互いに近づく方向に延ばし;前記底部壁と前記側壁とのコーナー部に円弧状の孔部を形成したものである。

そして、各部の具体的構成態様は、前記天井壁の内面の幅方向の略中央部に長手方向に延びる細い溝を形成し;前記左右両側壁の上部の屈曲部を、天井壁から短い長さで下方(縦方向)に延ばした後、斜め下方向に延ばして形成して、前記天井壁の両端部と前記両側壁とを同じ線上に位置させ;前記両側壁の外面の高さ方向の略中央部に長手方向に延びる細い溝を形成し;前記底部壁の内面を、前記両側壁の内面から僅かに内側の位置から先端部までを下方に窪んだ略半円状に形成し、かつ先端部を斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の形態とし、外面を、斜め下の外方向に開口した円弧状の孔部から先端部に向けて直線的に平坦に形成したものである。

(4B)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明

甲第1号証:意匠登録第1550013号 意匠に係る物品「レール部材」

甲第1号証は、本件登録意匠の出願前、平成28年5月23日に発行された意匠公報に記載された「レール部材」の意匠であって、その形態は、[意匠の説明]の記載を参照し、本件意匠公報の[左側面図]に対応する[右側面図]を基準として説明すると、基本的構成態様が、底部壁の幅方向の中央部が長手方向に開口した概略断面四角筒状の長尺材の形態を有しており;天井壁を、略板状であって、外面の幅方向の中央域に隣接する左右部を僅かに窪ませた板状とし;左右両側壁を、前記天井壁の両側端部よりも若干内側の位置から屈曲させて左右対称に垂直に垂下させ;底部壁を、前記両側壁の下端部から互いに近づく方向に延ばし;前記底部壁と前記側壁とのコーナー部に円弧状の孔部を形成したものである。

そして、各部の具体的構成態様は、前記天井壁の内面の前記天井壁の外面の幅方向の中央域に対応した位置に長手方向に延びる幅広く浅い凹部を形成し;前記左右両側壁の上部の屈曲部を、天井壁から短い長さで下方(縦方向)に延ばして、短い長さで側方(横方向)に延ばして前記天井壁の両端部と同じ線上に位置させた後、斜め下方向に延ばして形成して、前記天井壁の両端部よりも前記両側壁を若干外側に位置させ;前記底部壁の内面を、前記両側壁の内面から僅かに内側の位置から先端部までを下方に窪んだ略半円状に形成し、かつ先端部を斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の形態とし、外面を、円弧状の孔部の下方面及び先端部近傍の下方面を略水平な同一平面とし、前記円弧状の孔部の下方面と前記先端部近傍の下方面との間の薄板長方形状の切欠部1(下図赤色部分)と、前記円弧状の孔部の斜め下の内方向の開口部から斜め下の内方向に直線的に延出する切欠部2(下図青色部分)とを連続した切欠部として形成したものである(以下,甲第1号証にかかる意匠を「甲1意匠」という。)。

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(4C)先行周辺意匠の摘示

本件登録意匠の意匠公報の[意匠に係る物品の説明]に記載された使用態様、並びに本件登録意匠の形態について、以下の先行意匠が存在し、本件登録意匠の出願前から公然知られている。

甲第2号証:岡田装飾金物株式会社が、2018年9月に発行したカタログ「OSエコレール(登録商標)」第43頁及び第55頁~第56頁に所載の「SGレール〈特殊アルミ〉」の意匠と部品の記載、

第43頁、第57頁~第58頁に所載の「HGレール〈アルミ〉」の意匠と部品の記載、

第43頁、第59頁~第60頁に所載の「D40レール〈ステンレス〉」の意匠と部品の記載、

第43頁、第61頁~第64頁に所載の「D40レール〈アルミ・スチール〉」の意匠と部品の記載、

第44頁、第67頁に所載の「D40隙間シートレール〈アルミ〉」の意匠と部品の記載、

第44頁、第69頁~第70頁に所載の「D30レール〈ステンレス〉」の意匠と部品の記載、

第44頁、第71頁~第74頁に所載の「D30レール〈アルミ・スチール〉」の意匠と部品の記載、

第44頁、第76頁に所載の「D30隙間シートレール〈アルミ〉」の意匠と部品の記載、

第44頁及び第83頁に所載の「D25レール〈アルミ〉」の意匠と部品の記載、

並びに第109頁に所載の「レールのジョイント」とその仕様形態

特に、[意匠の形態]について、前記甲第2号証に所載の「SGレール〈特殊アルミ〉」の意匠の形態は、前記天井壁の内面の幅方向の略中央部に長手方向に延びる細い溝及び前記左右両側壁の外面の高さ方向の略中央部に長手方向に延びる細い溝があることを除き、前記甲第1号証の[意匠の形態]と同じ形態である。

(4D)本件登録意匠と先行意匠との対比

(4D-1)[意匠に係る物品]について

本件登録意匠の[意匠に係る物品]が「カーテンレール枠材」であるのに対して、甲1意匠の[意匠に係る物品]は「レール部材」である。しかし、甲1意匠の「レール部材」は、[意匠に係る物品の説明][使用状態を示す参考斜視図]及び[使用状態を示す参考分解斜視図]から明らかなとおり、走行部材(ランナー)が走行可能な枠を形成する部材であるから「レール枠材」であるといって差支えない。また「カーテンレール枠材」は「レール部材」の下位概念に相当する物品である上、甲1意匠の[使用状態を示す参考分解斜視図]には、「レール部材」の下方に、略コ字状の部材でビス留めされることが予定された「レール部材」と略平行な薄布状の部材が記載されており、この薄布状の部材は「カーテン」であるといって差支えない(甲第2号証も参照)。加えて、本件登録意匠の「カーテンレール枠材」と甲1意匠の「レール部材」とは用途及び機能が共通する。従って、本件登録意匠及び甲1意匠の[意匠に係る物品]は、同一(少なくとも類似)物品である。

(4D-2)意匠の形態について

本件登録意匠及び甲1意匠の形態については、以下の共通点と差異点とが認められる。

すなわち、両意匠は、(1)底部壁の幅方向の中央部が長手方向に開口した概略断面四角筒状の長尺材の形態を有しており;(2)天井壁を、略板状であって、外面の幅方向の中央域に隣接する左右部を僅かに窪ませた板状とし;(3)左右両側壁を、前記天井壁の両側端部よりも若干内側の位置から屈曲させて左右対称に垂直に垂下させ;(4)前記底部壁を、前記両側壁の下端部から互いに近づく方向に延ばし;(5)前記底部壁と前記側壁とのコーナー部の同じ位置に円弧状の孔部を形成した基本的構成態様、及び各部の具体的構成態様につき、(6)前記底部壁の内面を、前記両側壁の内面から僅かに内側の位置から先端部までを下方に窪んだ略半円状に形成し、かつ先端部を斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の形態とした点で共通する。

一方、各部の具体的構成態様につき、両意匠は、以下の点で差異がある。

(イ)天井壁について、本件登録意匠は、前記天井壁の内面の幅方向の略中央部に長手方向に細い溝が延びているのに対し、甲1意匠は、前記天井壁の内面において、前記天井壁の外面の幅方向の中央域に対応した位置に長手方向に幅広く浅い凹部が延びている点

(ロ)前記左右両側壁の上部の屈曲部の形態について、本件登録意匠は、天井壁から短い長さで下方(縦方向)に延ばした後、斜め下方向に延ばし、前記天井壁の両端部と前記両側壁とを同じ線上に位置させているのに対して、甲1意匠は、天井壁から短い長さで下方に延ばし、短い長さで側方(横方向)に延ばして前記天井壁の両端部と同じ線上に位置させた後、斜め下方向に緩やかな角度で延ばして、前記天井壁の両端部よりも前記両側壁を若干外側に位置させている点

(ハ)左右両側壁について、本件登録意匠は、前記両側壁の外面の高さ方向の略中央部に長手方向に細い溝が延びているのに対して、甲1意匠は、前記両側壁の外面に溝が表されていない点

(ニ)底部壁の外面の形態について、本件登録意匠は、底部壁の外面を、斜め下の外方向に開口させた前記円弧状の孔部から先端部に向けて直線的に平坦に形成しているのに対して、甲1意匠は、底部壁の外面を、前記円弧状の孔部の下方及び先端部近傍の下方を略水平な同一平面と、前記円弧状の孔部の下方と前記先端部近傍の下方の間の薄板長方形状の切欠部1と円弧状の孔部の斜め下の内方向の開口部から斜め下の内方向に直線的に延出する切欠部2とが連続した切欠部とで形成している点

(4E)本件登録意匠と甲1意匠との類否

(4E-1)純粋なデザインの観点からの類否

まず、前記共通点と差異点について、本件登録意匠と甲1意匠とを、意匠審査基準に則って、意匠に係る物品の特性や取引形態などを考慮する前に、純粋なデザインとしての観点のみから、以下に示す本件登録意匠と甲1意匠との類否を評価する。

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本件登録意匠は、長尺状の略四角筒状の形態を有しているが、そのデザインとしての特徴は断面形状にある。そして、断面形状において、最も目立つ形状は、その基本的構成態様であり、とりわけ対向する左右底部壁の中央部に長手方向の開口(以下「中央開口部」という。)が形成されている点が最も目立つ大きな特徴である。そして、この中央開口部を形成する左右両底部壁の内面が、船先のような先端部が薄く鋭利な爪状の形状で、左右両側壁の下部の僅かに内側の位置から下方向に窪んだ略半円状に湾曲して延出していることも、本件登録意匠の目立つ大きな特徴であり、これにより、本件登録意匠は、他の直線状で厚みのある壁面とのコントラストを形成し、四角筒内の内側において、底部壁のみが、薄く鋭利な先端部に向けて、滑らかに曲線状に跳ね上がる印象を与える美感を呈している。このような美感をもたらす前記共通点(6)にかかる具体的構成態様は、甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態であり、本件登録意匠の印象を決定付ける特徴的な態様である。このことは、例えば、甲第2号証の第43頁及び第44頁に記載された、共通点(6)にかかる具体的構成態様を備えたSGレールの断面図と、これを備えない他のHGレール〈アルミ〉、D40レール〈ステンレス〉、D40レール〈アルミ・スチール〉、D40隙間シートレール〈アルミ〉、D30レール〈ステンレス〉、D30レール〈アルミ・スチール〉、D30隙間シートレール〈アルミ〉、D25レール〈アルミ〉とを比較すると一目瞭然に理解できる。

(4E-2)差異点についての考察

上記の本件登録意匠の特徴から受ける印象・美感は、甲1意匠も同一であり、かかる両意匠から受ける印象・美感が差異点(イ)~(ニ)によって変化することはない。

まず、差異点(イ)の天井壁の内面の幅方向の略中央部の相違については、本件登録意匠の天井壁の内面に表される溝は、意匠公報の[左側面図]において、殆ど認識できないほどの線として表されていることからも明らかなとおり、極めて幅が狭くて浅いものであり、そのためその印象も極めて薄く弱いものとならざるを得ず、全体として観た場合には天井壁の内面は平面であると言って差支えなく、その美感に与える影響は殆ど無きに等しい。しかも、天井壁の内面の幅方向の略中央部に長手方向に延びる細い溝を付すことは、甲第2号証の「SGレール〈特殊アルミ〉」「D30隙間シートレール〈アルミ〉」「D25レール〈アルミ〉」の断面図にも見られる公知の形状である。一方、甲1意匠の天井壁の内面に表される凹部も極めて浅い形状であるため、同じく全体として観た場合には天井壁の内面は平面であると言って差支えなく、やはり美感に与える影響は殆ど無い。そのため、天井壁の内面の略中央部に表された溝と凹部との違いは、需要者に注意を惹起するものとはなり得ない。したがって、差異点(イ)は、両意匠の共通点から受ける印象・美感を凌駕して、これに影響を与えるものとはなり得ない。

また、差異点(ロ)の左右両側壁の上部の屈曲部の形態等の相違についても、両意匠が左右両側壁を天井壁から短い長さで下方(縦方向)に延ばした後に斜め下方向に延ばしている限りでは共通していること、甲1意匠の左右両側壁を側方(横方向)に延ばした部分の長さが小さいこと、天井壁の両端部に対する左右両側壁の位置の差異も小さいこと、左右両側壁の上部の屈曲部の意匠全体に占める割合も小さいこと、甲第2号証の第43頁及び第44頁に照らせば、左右両側壁の上部の湾曲部を、天井壁から短い長さで下方(縦方向)に延ばした後に、〔1〕一旦側方(横方向)に延ばしてから斜め下方向に延ばして形成するか(SGレール〈特殊アルミ〉)、〔2〕側方(横方向)に延ばして形成するか(HGレール〈アルミ〉、D40レール〈アルミ・スチール〉、D40隙間シートレール〈アルミ〉、D30レール〈ステンレス〉、D30レール〈アルミ・スチール〉)、〔3〕斜め下方向に延ばして形成するか(D40レール〈ステンレス〉、D25レール〈アルミ〉)、また、左右両側壁の位置を、〔1〕天井壁の両端と同じ線上とするか(HGレール〈アルミ〉、D40レール〈ステンレス〉、D40レール〈アルミ・スチール〉、D40隙間シートレール〈アルミ〉、D30レール〈ステンレス〉、D30レール〈アルミ・スチール〉)、〔2〕天井壁の両端部より若干外側にするか(SGレール〈特殊アルミ〉、D25レール〈アルミ〉)は、いずれも代替可能な設計上の微差・バリエーションにすぎないことなどに照らせば、需要者に注意を惹起する部分であるとは言い難い。したがって、差異点(ロ)も、両意匠の共通点から受ける印象・美感を凌駕して、これに影響を与えるものとは言えない。

さらに、差異点(ハ)の左右両側壁の外面の高さ方向の略中央部に長手方向に延びる細い溝の有無については、本件登録意匠の両側壁の外面に表される溝は、意匠公報の[左側面図]において、殆ど認識できないほどの線として表されていることからも明らかなとおり、極めて幅が狭くて浅いものであり、そのためその印象も極めて薄く弱いものとならざるを得ず、全体として観た場合に両側壁の外面は平面であると言って差支えなく、その美感に与える影響は殆ど無きに等しい。しかも、左右両側壁の外面の高さ方向の略中央部に長手方向に延びる溝を付すことは、甲第2号証第43頁及び第44頁の「SGレール〈特殊アルミ〉」「HGレール〈アルミ〉」に係る意匠にも見られる公知の形状である。そのため、両側壁の外面の溝の有無は、需要者に注意を惹起するものとはなり得ない。したがって、差異点(ハ)は、両意匠の共通点から受ける印象・美感を凌駕して、これに影響を与えるものとはなり得ない。

加えて、差異点(ニ)の底部壁の外面の形態の相違は、両意匠に共通して見られる底部壁と側壁とのコーナー部の円弧状の孔部の開口方向に由来する、代替可能な設計上の微差・バリエーションにすぎない。すなわち、本件登録意匠では、円弧状の孔部が斜め下の外方向に開口しているため内方向への切欠部が存在しないが、甲1意匠では、円弧状の孔部が斜め下の内方向に開口しているため、略水平な同一平面上にある円弧状の孔部の下方部分と底部壁の内面の先端部近傍の下方部分との間に切欠部が形成されているにすぎず、かかる代替可能な設計上の微差・バリエーションが、需要者に注意を惹起する部分であるとは言い難い。

また、甲1意匠の底部壁の外面は、円弧状の孔部の下方面と底部壁の内面の先端部近傍の下方面が略水平な同一平面上にあり、かつその間の切欠部1が薄板長方形状であるため、なお、その最外面における直線的な印象を完全には脱しておらず,本件登録意匠の底部壁の外面とその形状を大きく異にするものではない。

翻って、両意匠の底部壁に着目した場合、両意匠は、円弧状の孔部が、底部壁と両側壁のコーナー部という同じ位置に左右対称に形成されていることに加えて、その内面が、両側壁の内面から僅かに内側の位置から先端部までが下方に窪んだ略半円形状に形成され、かつ先端部を斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の形態とされているという最も印象及び美感に寄与する部分の形状が同一である。一方で、本件登録意匠と甲1意匠とでは、円弧状の孔部の開口方向は異なるものの、この円弧状の孔部の開口は、両意匠全体の略四角筒形状における中央開口部と比較すると、極めて小さい口径である。そのため、需要者の注意は、底部壁の内面の両側壁の内面から僅かに内側の位置から下方に窪んだ後に斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の先端部が、大きな中央開口部を収束するように延びる先へと向かうものと考えられ、これとは逆方向である小さな円弧状の孔部の開口には向かない。

このように、(1)差異点(ニ)は底部壁の外面の形態にかかるものであるところ、底部壁においては需要者の注意は両意匠の最も特徴的な部分であるその内面の形態に向かい、とりわけ同内面の斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の先端部が底部壁の大きな中央開口部を収束するように延びる先に向かうこと、(2)一方で、〔1〕(当審注:原文は数字を丸囲み。当審では丸囲みを〔〕に変換して記載。以下同じ。)差異点(ニ)の底部壁の外面の形態の相違は、底部壁と側壁とのコーナー部の円弧状の孔部の開口方向に由来する代替可能な設計上の微差・バリエーションにすぎないこと、〔2〕差異点(ニ)の由来となる円弧状の孔部の開口は、底部壁の大きな中央開口部と比較すると極めて小さい口径であること、及び〔3〕需要者の注意が向かう内面の先端部の延びる先とは逆方向にあることなどに照らせば、需要者の注意は差異点(ニ)にかかる構成態様には向かわないこと、(3)円弧状の孔部について言えば、底部壁と両側壁とのコーナー部という同じ位置に左右対称に形成されていることは共通しており、(2)の傾向と相俟って、両意匠を離隔的に観察した需要者の印象は、円弧状の孔部が左右の下コーナーの同じ位置に左右対称に配置されているという程度にとどまること、(4)甲1意匠の底部壁の外面は、なお、その最外面における直線的な印象を完全には脱しておらず,本件登録意匠の底部壁の外面とその形状を大きく異にするものではないこと、などに鑑みれば、差異点(ニ)は、両意匠の共通点から受ける印象・美感を凌駕して、これに影響を与えるものとは言えない。

以上のとおり、上記差異点(イ)~(ニ)は、いずれも両意匠の共通点から受ける印象・美感に対して与える影響は微弱であり、これらの差異点を総合的に勘案しても、需要者にとって、両意匠は共通の美感を惹起するものである。特に、上記共通点(6)にかかる前記底部壁の内面の具体的構成態様は、先行意匠にはない斬新なデザインであり、甲1意匠において特徴的な形態であるところ、両意匠は、この特徴的な形態が共通しており、この共通する特徴的な形態は、意匠全体の基調をなしており、両意匠の印象・美感を決定づける要素というべきである。

(4E-3)意匠審査基準の観点からの類否

前述の通り、デザイン的な観点から、本件登録意匠と甲1意匠とは類似しているため、以下に示すように、意匠審査基準に則って類否を判断しても両意匠は類似している。すなわち、意匠審査基準の新規性における類否判断にかかる「2.2.2.6 対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価」では、両意匠の各共通点及び差異点における形状等に関し、審査官は(1)その形状等を

対比観察した場合に注意を引く部分

か否かの認定及びその注意を引く程度の評価と、(2)先行意匠群との対比に基づく注意を引く程度の評価を行うことが記載されている。そこで、対比観察における観察方法、注意を引く部分か否かの認定及び評価について検討する。

(A)観察方法について

(A1)観察方法に関する意匠審査基準の記載

まず、意匠審査基準の新規性における類否判断にかかる「2.2.2.5 対比する両意匠の形状等の認定及び形状等の共通点及び差異点の認定」には、「(2)観察方法」として「

類否判断は、意匠に係る物品等を観察する際に通常用いられる観察方法により行う。

例えば、購入の際にも使用時にも実際に手に持って視覚観察する筆記具の意匠の場合は、意匠全体を同じ比重で観察するが、通常の設置状態では背面及び底面を見ることのないテレビ受像機の意匠の場合は、審査官は主に正面、側面、平面方向に比重を置いて観察する。」と記載されている。

(A2)本件登録意匠及び先行意匠の観察方法

上記の審査基準の2例との対比で言えば、本件登録意匠及び先行意匠にかかる物品であるレール部材は、どちらかと言えばテレビ受像機の意匠の場合に近いと言える。

しかし、本件登録意匠及び甲第1号証の意匠にかかる物品であるレール部材は、その物品としての性質がテレビ受像機とは大きく異なり、その取引実態及び使用実態に照らせば、その観察方法もテレビ受像機の場合とは大きく異なってくる。

すなわち、テレビ受像機は、それ自体が独立した物品であって、物品の目的がテレビ受像機正面の表示面に映し出される映像の視聴にあり、その使用時には正面の表示面が注視されることになる。これに対して、レール部材は、甲第1号証の使用状態を示す参考分解斜視図にも示されているように、使用時の状態では、走行部材(又はランナー)及び開閉用部材(カーテン、間仕切りシートなど)と組み合わせて使用される物品であり、レール部材のみで独立した物品として使用・商取引されることは想定されていない。また、その物品自体の使用目的から視認し易い場所に設置されるテレビ受像機とは異なり、レール部材は使用時の状態では需要者の視線よりも高い位置に設置され、上記のとおり、四角筒状体内に走行部材が挿入され、走行部材に開閉用部材などが取り付けられる。

そして、これを需要者の注意を引く程度という観点からみると、レール部材及び走行部材に比べて、著しく大きな面積を占める開閉用部材(カーテンなど)が最も重要であることは明らかである。すなわち、テレビ受像機がそれだけで独立した物品であり、使用時に需要者の目に付きやすい正面形状などの意匠性が大きな意味を持つのに対して、レール部材は、使用時の状態では、需要者にとって視認し難い上方に設置される上に、設置場所及び機能の両面から、最も需要者の目につきやすい開閉用部材が意匠の中心となるため、レール部材自体として需要者の注意を引く程度は極めて小さくなる。

さらに、レール部材は、走行部材(ランナー)が四角筒状体の内部に挿入されて使用される物品(商品)である。そのため、需要者(取引者)の間では、レール部材は、甲第2号証の第43頁及び第44頁のように、常に、走行部材(ランナー)とセットであることが想定されて取り引きされるとともに、意匠に対する着目点についても、走行部材との関係で判断される傾向が強くなる。

例えば、「カーテンレール」について、甲第2号証の「OSエコレールの製品特長」として、「1.ワンタッチランナー 業界初、新タイプのランナー」の欄(第45頁左上欄)には、「フック部が上下左右自由に可動、シートの開閉がスムーズ」「ワンタッチでシートの取り付け取り外しが可能」「厚手のシートな補強ロープ仕様でもシートの取り付け取り外ししやすい」と記載され、「OSエコレール」が、走行部材を使用して、「シート」を開閉することが記載されている。

すなわち、需要者にとって、レール部材に係る意匠としては、走行部材との関係が重要であるため、走行部材を挿入するための四角筒状体の内部形状に目が行きがちとなる。特に、走行部材を走行させるためには、走行部材の車輪と接触する部位である左右底部壁の内面の形状は最も重要な部位となる。さらに、動きがあり、かつ目立つ開閉用部材と共に動く走行部材の方が、レール部材よりも需要者の注意を引く程度は大きい。そのため、走行部材との対比においても、レール部材の需要者が、使用時の状態においてレール部材単独の意匠に注目することは通常想定されない。

結局のところ、レール部材自体は、使用時の状態では需要者の注意を引く程度は極めて小さく、需要者がレール部材自体の意匠に注目するのは、むしろレール部材の取引時(取引時のカタログ等を含む。)であると言わざるを得ない。また、レール部材は、走行部材を内部に挿入して走行させることを目的とする物品であるため、自ずから、商取引において、需要者は、レール部材と密接に関連する走行部材との関係にも着目せざるを得ず、したがって、走行部材との関係が一目でわかる取引時(又は取引時のカタログ等)こそが重要であって、需要者がその意匠に注目するのも取引時となる。

加えて、実際の取引においては、レール部材は、長尺で重量が大きく、商品を陳列するのも困難であるため、その購入にあたってはカタログ等によって機能、材質及び形状等を確認するにとどまるのが通常であって、実際の商品を見て確認するケースは少なく、仮に実際の商品を確認する場合であっても、カタログも併せて参照することにより商品を選定するのが通常である。

以上に照らせば、レール部材自体の意匠は、視認し難い上方に設置され、目立つ開閉用部材等と組み合わされた使用時の状態よりも、走行部材との関係が一目でわかる取引時の状態(取引時のカタログ等を含む。)の方が重要であることは明らかである。したがって、本件登録意匠及び甲1意匠の類否判断における観察方法としては、使用時の状態よりも取引時の状態(又は取引時のカタログ等)を重視するのが相当というべきである。

(B)注意を引く部分か否かの認定及び評価について

(B1)注意を引く部分か否かの認定及び評価についての審査基準における考慮要素

審査基準の新規性における類否判断にかかる「2.2.2.6 対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価」には、「(1)対比観察した場合に注意を引く部分か否かの認定及び評価」の考慮要素として、(a)意匠全体に占める割合についての評価、(b)物品の大きさの違いについての評価、(c)物品の特性に基づき観察されやすい部分か否かの評価、(d)物品等の内部の形状等の評価及び(e)流通時にのみ視覚観察される形状等の評価が列記されている。

なお、前述のように、本件登録意匠と甲1意匠とは実質的に同一(少なくとも類似)物品であるため、両者の大きさは略同一であり、本件では、考慮要素(b)以外の考慮要素(a)(c)(d)及び(e)が、本件登録意匠及び先行意匠の注意を引く部分か否かの認定及び評価に関係する。

(B2)本件登録意匠及び甲第1号証の意匠における注意を引く部分か否かの認定及び評価について

(B2-1)考慮要素(a)について

考慮要素(a)については、「共通点あるいは差異点に係る部分について、その大きさが意匠に係る物品等全体に占める割合が大きい場合には、小さい場合と比較して、その部分が注意を引く程度も大きい。」と記載されているが、本件登録意匠と甲1意匠の共通点(1)~(5)の基本的構成態様及び共通点(6)の具体的構成態様は意匠に係る物品全体に占める割合が大きい一方、差異点(イ)~(ニ)の具体的構成態様が意匠に係る物品全体に占める割合は小さいと言える。したがって、考慮要素(a)について言えば、両意匠の共通点にかかる構成態様が需要者の注意を引く程度が大きいものと評価できる。

(B2-2)考慮要素(c)について

考慮要素(c)については、「観察されやすい部分は、意匠に係る物品等の用途(使用目的、使用状態等)及び機能、その大きさ等に基づいて、(1)意匠に係る物品等が選択・購入される際に見えやすい部位か否か、(2)需要者(取引者を含む)が関心を持って観察する部位か否かを認定することにより抽出する。」と記載されている。この点は、まさに上記観察方法(A2)に直接関連する事柄であり、上述のとおり、本件登録意匠及び甲1意匠の類否判断における観察方法としては、使用時の状態よりも取引時の状態(又は取引時のカタログ等)、とりわけその断面形状を重視するのが相当である。

そして、本件登録意匠及び先行意匠にかかる物品であるレール部材の用途及び機能は、まずもって開閉部材を装着した走行部材を内部に挿入して走行させることにある。

レール部材は、走行部材を内部に挿入して走行させる機能を果たすための長尺の棒状の部材であるが、甲第2号証のカタログの第43頁及び第44頁の記載では、レール部材の断面形状が特に図示によって強調されており、同カタログを見た需要者にとっては、この断面形状が強く印象に残る。なかでも、需要者の目は、走行部材との関係から、レール部材の断面形状のうち、走行部材を収容するためのレール部材の内部形状に向けられ、特に、レール部材における走行部材との接触部位(走行部材との関係が最も大きい両者の接触部)である左右底部壁の内面の形状に向けられることになる。すなわち、需要者がレール部材に求める機能は、重量や耐久性の他、走行部材が円滑に作動すること等であるところ、これらの機能のうち、レール部材のデザインと関係するのは、走行部材の円滑な作動性である。

従って、レール部材の需要者においては、レール部材の筒状内部形状のうち、走行部材との接触部位である左右両底部壁の内面の形状に関心を寄せるのが通常であり、かかる意味において、同部位の形状は、レール部材の需要者において関心をもって観察されやすい部位である。

これに対して、差異点(イ)及び(ロ)については、内部形状に若干の影響を及ぼすものの、差異点(イ)にかかる構成態様は、全体として見れば天井壁の内面は平面であると言って差支えない程度の極めて微細な溝及び極めて薄い凹部にすぎず、また、差異点(ロ)にかかる構成態様は、特段の機能的差異をもたらすものではなく、上記(4E-2)のとおり設計上の微差にすぎない上に、いずれも需要者の注目を最も引く走行部材との接触部位(底部壁)から遠く離れた部位である。そのため、差異点(イ)及び(ロ)にかかる構成態様は、レール部材の需要者において関心をもって観察されやすい部位とは言えない。

また、差異点(ハ)にかかる構成態様は、外部形状である上に、全体として見れば両側壁の外面は平面であると言って差支えない程度の極めて微細な溝にすぎないため、レール部材の需要者において関心をもって観察されやすい部位と言えないことは明らかである。

さらに、差異点(ニ)の円弧状の孔部も外部形状である。加えて、この円弧状の孔部は、本件登録意匠の意匠公報の[意匠に係る物品の説明]にも記載のように、ジョイントピン(甲第2号証の第56頁の右下欄に記載のSGステンジョイント、SGステンローレットジョイントなど)を差し込んで複数のレール部材を連結するための孔にすぎない(甲第2号証の第109頁)。しかも、レールの使用態様などを考慮して、円弧状の孔部を種々の方向に向けて開口させることは、甲第2号証の第43~44頁に記載されたレール部材から明らかなように、本件登録意匠の出願前から既に公知である。そのため、連結の位置や強度を規定する孔の位置や大きさに一定程度の関心が払われるとしても、その位置や大きさが同じであるならば、孔はいわば存在しさえすれば足りるのであって、機能面から孔の形状や開口の方向に需要者が注目することはなく、また、意匠として目立つ開閉用部材や需要者の関心を惹く走行部材とは何ら関係のない部位であるため、需要者の注目度は小さいと言わざるを得ない。

上記観察方法(A)を含め、以上で述べてきたレール部材の特性からは、筒内部形状(特に、走行部材との接触部位となる左右両底部壁の内面)こそが、(1)意匠に係る物品等が選択・購入される際に見えやすい部位であり、かつ(2)需要者(取引者を含む)が関心を持って観察する部位ということになる。

(B2-3)考慮要素(d)について

考慮要素(d)については、「類否判断においては、通常の使用状態において目にすることのない内部の形状等は、意匠の特徴として考慮しない。他方、通常の使用状態において内部の形状等を観察するものについては、使用時に目に付きやすい形状等が注意を引きやすい部分となる。」との記載があるが、上述のとおり、本件登録意匠及び先行意匠に係る物品であるレール部材においては、類否判断における観察方法としては、使用時の状態よりも取引時の状態(又は取引時のカタログ等)、とりわけその断面形状を重視するのが相当というべきであるから、使用時の観察を前提とする考慮要素(d)を重視することは相当ではない。

(B2-4)考慮要素(e)について

考慮要素(e)については、「使用時・設置時にはその一部が目に触れないような物品等の場合、流通時にのみ視覚観察される部位が注意を引く程度は、原則として、その他の部位よりも小さい。」と記載される一方で、「その他の部位における形状等が、ありふれた形状等であるなど意匠全体の美感に与える影響が小さいような場合には、相対的に、流通時にのみ視覚観察される部位の意匠全体の中での重要度が上がり、意匠全体での最終的な判断の際に類否を左右する場合もある。」との例外が記載されている。

上述のとおり、本件登録意匠及び先行意匠に係る物品であるレール部材において、類否判断における観察方法は、使用時の状態よりも取引時の状態(又は取引時のカタログ等)、とりわけその断面形状を重視するのが相当というべきである。この断面形状は使用時・設置時には視認し難い状態になるが、使用時・設置時におけるレール部材の断面形状以外の部位は、全体像としては、走行部材を内部に挿入して走行させる機能を果たすための長尺の筒状の部材にすぎず、ありふれた形状であり、また、視認し難い上方に設置されている上、需要者の注意を引く開閉用部材や走行部材を含めた全体の中で埋没してしまうため、意匠全体の美感に与える影響は小さいと言える。なお、本件登録意匠のレール部材の円弧状の孔部は外方向に開口しているため、使用時・設置時に視認可能ではあるものの、それ自体が極めて小さい部位であり、レール部材自体が視認し難い上方に設置されている上、円弧状の孔部がジョイントピンで塞がれた状態で他の部材を含めた全体の中で埋没してしまうため、意匠全体の印象・美感に与える影響は小さい。

すなわち、レール部材の断面形状以外の部位はいずれも意匠全体の美感に与える影響が小さいため、流通時に視覚観察される断面形状が、相対的に意匠全体の中で重要度が高まるという考慮要素(e)の例外に該当することは明らかである。

(B2-5)まとめ

以上のとおりであるため、考慮要素(a)及び(c)~(e)を総合すると、本件登録意匠と先行意匠の共通点である筒内部形状は、対比観察した場合に注意を引く部分であり、特に、左右両底部壁の内面の形状は最も注意を引く部分であると認定及び評価することができる一方で、差異点(イ)~(ニ)は、前述の理由により、需要者の注意を引く部分とは言えない。

従って、かかる認定及び評価を前提とすれば、本件登録意匠と甲1意匠との対比観察をした場合に注意を引く部分である筒内部形状の共通点が生じさせる印象・美感の共通性は、差異点により僅かに生じる印象・美感の差異を遙かに凌駕し、両意匠は全体としては類似するものと評価するのが相当である。

(4E-4)使用時の状態における本件登録意匠と先行意匠との類否

上述のとおり、本件登録意匠は、取引時の状態で美感が判断されるが、使用時(設置後)の状態においても、本件登録意匠と甲1意匠とは、以下の理由により、別異の美感を生じさせることはなく、やはり類似するものと評価するのが相当である。

例えば、本件登録意匠の左側面図について、強引に差異点(ニ)にかかる左右の円弧状の孔部のみに着目すると、同円弧状の孔部の開口方向が、本件登録意匠ではそれぞれ底部壁の中央開口部とは反対側に向いた斜め下方向であるのに対して、甲1意匠ではそれぞれ中央開口部側に向いた斜め下方向であるため、同円弧状の孔部の形状が異なるように見える。しかしながら、前述のように、走行部材及び開閉用部材と組み合わせて使用されている状態において、レール部材の円弧状の孔部のみに着目することはないのが通常である上に、実際の使用時には本件登録意匠の左側面図で表されるレール部材の左右の側面形状は認識(視認)できないことに留意する必要がある。すなわち、本件登録意匠の左側面図及び甲第1号証の右側面図及びA-A線断面図では、走行部材との関係を示す必要から、右側面図の断面が露出した状態の図面が記載されているが、実際のレール部材では、収容した走行部材がレール部材の端部から抜け出るのを防止することが必須であるため、甲第2号証の第55頁の上段に記載された写真のように、レール部材の両端(両側面)はキャップ・ストップ(甲第2号証の第56頁右中欄に記載のSGステンキャップストップ)で封止される。そのため、使用時には、レール部材の両端(両側面)は露出した態様では使用されず、需要者は、本件登録意匠の左側面図のような形状を視認することはできない。

さらに、そもそも使用時の状態では、需要者が下面側からレール部材を見ると、左右の円弧状の孔部の形状としては、レール部材の長手方向に延びる開口のみが狭い幅で見えるだけである。すなわち、本件登録意匠及び甲1意匠のいずれにおいても、使用時の状態では、左右の円弧状の孔部は、上方に目を凝らして見た場合であっても、レール部材の下端部の両側部において、レール長手方向に狭い幅で延びる長い開口部が認識できる程度であり、底面図からも明らかなように、孔内部の奥行き(内部の構造)や、左側面図で認識できる孔部の開口方向まで認識することは困難である。そのため、レール部材の下面側から見た際の左右の円弧状の孔部の形状について、本件登録意匠と甲1意匠とを比較しても、開口の位置が少しずれている程度の違いしか認識できない(孔内部の構造までは理解できる訳もなく、注意を引くこともない)。また、使用時の状態におけるレール部材においても、前述の通り、需要者の関心は主に開閉部材を備えた走行部材との関係にあるため、レール部材下端のジョイントピンで連結するための左右の円弧状の孔部自体に需要者の注意が向くこともない。

なお、差異点(イ)及び(ハ)については、使用時においても微差であることに変わりはなく、使用時の状態における差異点(ロ)については、前述の通り、端部がキャップ・ストップで覆われている上に、天井壁全体がカーテンレール枠材を固定するためのブラケットで覆われて視認できないこと(甲第2号証の第56頁左中欄に記載のブラケットの使用例として記載された図面参照)に加えて、下から見ると、そもそも視認自体が困難であるため、左右両側壁の上部の屈曲部の僅かな形状の差異がより識別困難になるのは明白であり、そもそもかかる屈曲部の形状の差異が需要者の注意を引くこともない。

したがって、使用時の状態から考慮したとしても、やはり差異点(イ)~(ニ)は両意匠の美感の共通性を凌駕するものではなく、両意匠は全体としては類似するものと評価するのが相当である。

(5)甲1意匠の関連意匠について

審判請求人は、甲1意匠(意匠登録第1550013号)の関連意匠として、意願2022-009511号及び意願2022-009513号の意匠登録出願を行った。両関連意匠登録出願の意匠(以下、両意匠をまとめて「甲1関連意匠」という)は、本件登録意匠において、底部壁と側壁とのコーナー部に形成された円弧状孔部の開口方向(斜め下の外方向)を、それぞれ反対の方向に略45度変化させ、下方向または横方向に変更した意匠である。すなわち、甲1関連意匠と本件登録意匠とは前記円弧状孔部の開口方向が異なるだけのバリエーションの意匠である。かかる甲1関連意匠と甲1意匠との類似関係が審判部で審理された結果、甲1関連意匠と甲1意匠とが類似することが認められ、甲1関連意匠出願はいずれも甲1意匠の関連意匠として登録された(意匠登録第1762599号、意匠登録第1762600号)。そのため、この審決は、甲1関連意匠のバリエーションの意匠である本件登録意匠も甲1意匠と類似であることを示している。すなわち、この審判における審理結果からも、本件登録意匠と甲1意匠の差異点(イ)~(ニ)が、両意匠の共通点から受ける印象・美感に対して与える影響は微弱であることは明らかであり、ひいては本件登録意匠と甲1意匠とが類似することが推認できる。

(6)むすび

従って、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。」

2 口頭審理陳述要領書における主張

「5. 陳述の要領

請求人は、令和6年8月27日付けで被請求人が提出した審判事件答弁書(以下「答弁書」と称する)における被請求人の主張に対して以下に意見を述べる。なお、本件登録意匠及び甲第1号証にかかる意匠(以下「甲1意匠」と称する)における各部の名称は、それぞれ答弁書第5頁及び第8頁の図面に記載された名称に準ずる。

(1) 本件登録意匠及び甲1意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様について

審判請求書と答弁書とでは、本件登録意匠及び甲1意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様の表現が異なるが、あくまで表現上の相違にとどまり、形状の把握自体についての実質的な差異はほとんどないといってよい。

もっとも、答弁書においては、基本的構成態様(C)及び(c)として、一対の孔部の位置を、本件登録意匠では「各下壁の下面と各側壁の外面とが成すコーナー部」として、甲1意匠では「各下壁の下面の各側壁寄り」と特定しているが、両意匠における一対の孔部の位置に基本的構成態様の差異と評価し得るほどの差異はないというべきであり、この点は具体的構成態様(G3)及び(g3)における差異として把握するべきである。

(2) 意匠の類否について

ア 被請求人の主張の概要

被請求人は縷々主張しているが、その主張は、概ね、

〔1〕 請求人が特徴的な部分として主張する孔部から突片に至る形状(以下「下壁内面及び船先形状」と称する)は、乙第3号証等にかかる意匠(以下「乙3意匠」等と称する)などの先行周辺意匠に記載されているため、請求人が主張するような斬新さを持った特徴ではなく、また、機能的必然性に基づく形状であるから、意匠の類否判断において重視すべきではない。

〔2〕 左右端面形状のみから受ける印象で見ても、甲1意匠が、切欠部及びそれに連通する孔部が存することによって、あたかも大きな口を開けて天上から舞い降りた2頭の龍神が相対峙するイメージ(以下「龍神相対峙のイメージ」という。)を彷彿させるのに対し、本件登録意匠は、その孔部の位置や開口方法の違い及び切欠部が存在しないことによって機能的で無機的なものとなっており、その印象は相当異なる。

〔3〕 本件登録意匠及び甲1意匠の観察方法としては、通常用いられる使用状態を中心にした観察方法によるべきであり、「レール部材」のような使用時に見上げて使用するような物品の場合には、正面、底面及び斜め下方からの観察こそが、通常用いられる観察方法である。

〔4〕 本件登録意匠及び甲1意匠における各孔部の開口の方向及び態様の差異は、底面視、正面視及び底面斜視の広い範囲において、物品の外観として表れる特徴的な形態であるから、意匠の類否判断においてはこの点を重視すべきである。

イ 被請求人の主張〔1〕について

(ア) まず、被請求人が主張する乙1号証ないし18号証の先行周辺意匠は、いずれも本件登録意匠及び甲1意匠に共通する基本的構成態様を全て具備するものではなく、その意匠の根本的な骨格を異にするものである(別表-A参照)。

また、同先行周辺意匠は、いずれも本件登録意匠及び甲1意匠における下壁内面及び船先形状にかかる被請求人主張の具体的構成態様、すなわち、各下壁の上面は、各側壁の下部内面から、〔1〕段部(被請求人は甲1意匠については「円弧状斜面」と称するが、いずれも各側壁の下部内面から円弧状の窪みへのアプローチ部分が存することを意味するものであるため、先行周辺意匠との対比においては、このアプローチ部分のことをもって、まとめて「段部」と称した。)を介して、〔2〕円弧状の窪み部を形成し、〔3〕窪み部の先端は斜め上方に向けて、〔4〕細く尖った突片を形成の〔1〕ないし〔4〕のいずれか又は複数の要素を欠くものである(別表-B参照)。

請求人が、審判請求書8頁において、本件登録意匠と甲1意匠において共通する下壁内面及び船先形状をもって「先行意匠にはない特異で斬新な形態であり、本件登録意匠の印象を決定付ける特徴的な態様である」と主張したのは、その前段において「断面形状において、最も目立つ形状は、その基本的構成態様であり、とりわけ対向する左右底部壁の中央部の長手方向の開口が形成されている点が最も目立つ大きな特徴である」と記載していることからも明らかなとおり、あくまでも、その基本的構成態様を前提とした同基本的構成態様との組み合わせにおいての主張であることに留意する必要がある。

そして、上記のとおり、先行周辺意匠がいずれも、本件登録意匠及び甲1意匠に共通する基本的構成態様を全て具備せず、かつ、下壁内面及び船先形状にかかる具体的構成態様を具備していないことに照らせば、下壁内面及び船先形状が、同基本的構成態様との組み合わせにおいて甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態であることに変わりはなく、むしろ、先行周辺意匠が被請求人主張のものにとどまることが、その特異性・斬新性を際立たせるものというべきである。

(イ) 被請求人は、乙3号証の底壁(底壁部)は「底壁部のみが、薄く鋭利な先端部に向けて、滑らかに曲線状に跳ね上がる印象を与える美感を呈して」おり、ジョイントピンが差し込み可能な孔部の開口形状及び切欠部も含め、甲1意匠とはそっくりであると主張する。

しかしながら、上述のとおり、乙3意匠は、甲1意匠の基本的構成態様bのうち「上壁の前後端の下方において屈曲形成してなる前後一対の肩部から垂下した前後一対の側壁」を欠き、また、ジョイントピンが差し込み可能な前後一対の孔部は、各下壁の下面からC字又は逆C字状に延出された部材によって形成されており、同基本的構成態様cのうち「各下壁の下面と各側壁の外面とが成すコーナー部」にあるとの構成態様を欠いており、その意匠の根本的な骨格を異にしている。このため、甲1意匠では、肩部の存する略正方形の外延形状の中で、窪み部及び孔部が形成され、全体として略正方形状であるのに対し、乙3意匠では、肩部のない略正方形状の外延形状を超過して、上壁の両端から上方向に略T状部が突出し、かつ下壁の下面から下方向にC字又は逆C字状に延出された部材により形成された孔部が突出しており、甲1意匠の断面図と乙3意匠の断面図とでは、全体観察した印象が著しく異なる。

また、乙3意匠の下壁内面及び船先形状を子細にみると、乙3意匠においては、各側壁の下部内面から円弧状の窪みへのアプローチ部分(段差部)がなく、各側壁から直接連続する態様で円弧状の窪み部が形成されていること、先端について重要視していないためか、記載が明瞭とは云えないが(乙3意匠の平面図、A-A線断面図、使用例に記載されている船先形状の先端(突片)は欠損された形状であり、先の尖った鋭利な形状ではない)、窪み部の先端の斜め上方に向けて細く尖った突片の尖りの度合いが鈍く、かつ向かい合う各突片同士の距離が遠いことに加え、下壁の下面から下方向にC字又は逆C字状に延出された部材により形成された孔部が突出していることも相まって、下壁内面及び船先形状のみに注目した場合であっても、乙3意匠から受ける印象は甲1意匠から受ける印象とは大きく異なる。

以上のとおりであるから、乙3意匠をもって、甲1意匠の下壁内面及び船先形状が、その基本的構成態様との組み合わせにおいて、あるいは、その具体的構成態様において、甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態であることに変わりはなく、上記のとおり、むしろ、先行周辺意匠が被請求人主張のものにとどまることが、その特異性・斬新性を際立たせるものというべきである。

(ウ) 仮に、甲1意匠の下壁内面及び船先形状が乙3の下壁内面及び船先形状と類似しているとしても、例えば、大阪地判令和元年12月17日(平成29年(ワ)第5108号)が「意匠に公知意匠にはない新規な構成があるときは,その部分は需要者の注意を引く度合いが強く,逆に公知意匠に類似した構成があるときは,その部分はありふれたものとして需要者の注意を引く度合いは弱いと考えられるから,その意味で,要部を認定するに当たり,公知意匠を参照する意義はある。しかしながら,この場合における要部の認定は,意匠の新規性を判断するのではなく,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するか否かを判断するために行うものであるから,公知意匠にはない新規な構成であっても,特に需要者の注意を引くものでなければ要部には当たらないというべきであるし,公知意匠と共通するいわばありふれた構成であっても,使用態様のいかんによっては需要者の注意を引き,要部とすべき場合もある。すなわち,公知意匠との関係で新規性が認められれば,当然に要部とされるものではないし,新規性が認められる部分のみが要部となるわけでもなく,需要者に与える美感を具体的に検討する以外にない。」と判示しているように、その一事をもって、下壁内面及び船先形状が甲1意匠の要部ではないと認定することは相当ではない。まして、本件においては、被請求人の挙げた先行周辺意匠の中で、乙3意匠のほかに甲1意匠の下壁内面及び船先形状と類似する形状を有する意匠は見当たらず、乙3意匠の存在だけで、甲1意匠の下壁内面及び船先形状がありふれた形状であるとみなすことはできないし、加えて、上記のとおり、乙3意匠は甲1意匠とその基本的構成態様を異にするのであるから、なおのこと、甲1意匠の下壁内面及び船先形状をもって意匠の要部と認定することの妨げになるものではない。

(エ) また、被請求人は、本件登録意匠及び甲1意匠の下壁内面及び船先形状は、断面楕円形の車輪形状のランナーとの接触部位の形状として、機能的必然性に基づく形状であるから、意匠的観点からは重視すべきでない旨主張している。

しかしながら、被請求人主張の先行周辺意匠の各窪み部の形状は、ランナーの接触部位としての機能に基づく形状であるといえるところ、同先行周辺意匠の壁内面及び船先形状は様々で、断面楕円形の車輪形状のランナーと用いられるものも含めていずれも、上記のとおり、本件登録意匠及び甲1意匠に共通する下壁内面及び船先形状にかかる具体的構成態様を具備していないのであるから、下壁内面及び船先形状が機能に基づく形状であるとしても、機能美的な観点から採用されるその形状や組合せは多種多様であり、本件登録意匠及び甲1意匠に共通する下壁内面及び船先形状が、機能的必然性に基づく形状であるなどとは到底いえない。

ウ 被請求人の主張〔2〕について

被請求人は、左右端面形状において、甲1意匠が、龍神相対峙のイメージを彷彿させるのに対し、本件登録意匠は、その孔部の位置や開口方法の違い及び切欠部が存在しないことによって機能的で無機的なものとなっており、その印象は相当異なると主張するが、甲1意匠と類似の範囲に収まるものとして登録された甲1関連意匠の下壁内面及び船先形状は、被請求人の主張する龍神相対峙のイメージを彷彿させる要素など全く含んでおらず、むしろ被請求人が本件登録意匠について言う「機能的で無機的なもの」というべき形状である。このことは、被請求人の主張〔2〕で指摘される本件登録意匠と甲1意匠の印象の差異が、全体観察としての意匠の類否判断にさしたる影響を及ぼさないことの証左というべきである。

エ 被請求人の主張〔3〕について

(ア) 被請求人は、本件登録意匠及び甲1意匠の観察における着目点としては、左右端面形状(断面形状)よりも、使用時に需要者の注意を惹く色や柄といったカーテン等の「開閉用部材」の意匠との親和性や設置場所との適合性などの観点から、あるいは、カーテン等の操作時には、カーテン等の「開閉用部材」を見るよりも、むしろレール部材を見上げて操作するのが通常であることから、使用時のレール部材の外観全体の印象を重視すべきであると主張する。

しかし、カーテン等の「開閉用部材」が目的や需要者の好みに応じて各種の素材及びデザインを選択し得る部材であるのに対して、本件登録意匠及び甲1意匠にかかるレール部材の使用時の外観は、ごくありふれた無機質な筒状にすぎないから、使用時には需要者の目がカーテンに向けられることは自明である。例えば、甲第2号証の43頁の最上段に記載されている断面略I字状のキャリーレールNEWは、ランナーがレール部材の内部に収容されないタイプのレール部材であるところ、このタイプのレール部材のように、レール部材の基本的な外観形状が無機質な筒状と大きく異なれば、需要者は、カーテンだけでなくレール部材に着目することがあり得ないわけではない。しかし、本件登録意匠及び甲1意匠の使用時の外観形状は、いずれもランナーを収容するタイプの断面略正方形のごくありふれた無機質な筒状であり、レール部材の内部構造を視認することはできない。そのため、需要者が使用時にレール部材の美感に着目する可能性は低く、たとえ使用時にレール部材を見上げて操作したとしても、カーテンに比べて需要者の美感に訴える要素は著しく小さい。

既に審判請求書でも主張しているところではあるが、この点に関連して、請求人が最も主張したいのは、レール部材という物品の意匠の美感において、その機能が与える重要性である。すなわち、レール部材は、ランナーと組み合わせることが前提の物品であり、その目的は、ランナーに吊り下げられるカーテンによって光などの遮蔽を行う点にある。そのため、このような機能を有するレール部材は、遮蔽の主役であるカーテンを天井や敷居に取り付けるランナーを収容するための部材であり、機能的な面も含めて、ランナーとの結びつきが強く、需要者の関心及び注目を引く部分は、機能に関係する断面形状となる。特に、断面形状の中でも、レール部材がランナーと接触する内部形状は、ランナーによる影響が大きく、レール部材毎に走行するランナーに応じて形状を変化させる部位であるため、需要者の注目を引きやすい。被請求人は、レール部材に対する需要者の断面形状に対する関心は、意匠的というより機能的な側面が大きいと指摘しているが、そもそも、レール部材自体が、意匠的な意味での関心が相対的に乏しい物品であり、特に、本件登録意匠及び甲1意匠のレール部材の使用時の外観は、ランナーを収容するだけの金属で形成されたごくありふれた無機質な筒状部材であるため、なおさら意匠的な意味での関心は乏しい。そのため、レール部材において、需要者の着目点は、自然とランナーとの関係に向き、需要者は、レールの断面形状、特に、ランナーによって種々の形態をとり得る下壁の内面形状を中心にして見ることとなる。一方、孔部は、レール部材を連結するためのジョイントピンとしての機能を有するだけであり、ランナーとは無関係で、その結果、意匠的に注目されるカーテン等の「開閉用部材」とも無関係であるため、需要者の目を強く引くとは考え難い。

請求人としても、本件登録意匠及び甲1意匠のレール部材の使用時の外観

に、一切の意匠的価値がないとまで主張するものではないが、以上のようなレール部材の特性から、使用時の外観への注目度は著しく低いとは言わざるを得ない。

以上のとおりであるから、本件登録意匠及び甲1意匠の類否判断においては、使用時の外観形状ではなく、取引時に観察される様々な特徴的なバリエーションのある左右端面形状(断面形状)が重視されるべきである。

(イ) なお、被請求人は、甲第2号証のカタログの各製品のトップに掲載された写真が、正面及び底面を含む形態が視認し得る斜め下方から見上げた写真であることをもって、取引時の状態においてもかかる観察方法が通常用いられる観察方法であることの証左であると主張するが、これらの写真は、その大半がありふれた無機質な筒状にすぎないレール部材の意匠的な側面を訴求することを目的とした写真ではなく、あくまでカタログに記載されたレール部材及びランナーその他の部材を組み合わせた後の状態を示すためのものにすぎないというべきである。一方、取引時におけるレール部材単体の意匠的な側面の把握及び訴求においてその断面形状が強調されていることは、甲第2号証のカタログの記載(例えば43頁及び44頁のラインナップ一覧の記載)などからも明らかである。

また、実際の取引時や使用時において、甲第2号証の斜め下方写真は、需要者が同写真からレール部材の意匠的な側面に着目する可能性は低い。まず、レール部材は、取引時にはランナーが装着されていない態様で取引され、使用時にはランナーにカーテンが装着された態様となる。そのため、甲第2号証の斜め下方写真は、取引後使用前の施工途中の段階において、ランナーにカーテンを取り付ける際に一瞬だけに現れる態様にすぎない。かかる取引時でも使用時でもない施工途中の段階に一時的に現れる甲第2号証の斜め下写真の態様が、意匠的な側面からみて、需要者の目に留まる態様でないことは明らかであろう。また、甲第2号証の斜め下方写真は、前述のようなレール部材という物品の特徴からも意匠的に重要な写真ではない。すなわち、レール部材がランナーとの組み合わせることを前提にしている商品であり、甲第2号証の斜め下方写真も全てランナーと組み合わせた写真として掲載されていることからも明らかなように、需要者にとって甲第2号証の斜め下方写真はランナーと組み合わせた全体図をイメージするための写真として機能している。例えば、被請求人が言及している甲第2号証の57頁には、HGレール〈アルミ〉について、斜め下方から見上げた写真が記載されているが、HGレール〈アルミ〉に各種のランナーを装着した写真が掲載され、その隣には、選択された1つのランナーの拡大した実寸大の写真が掲載され、その下に、レール部材であるHGレールの断面図が掲載されている。このようなカタログの記載全体の構成に照らせば、ランナーの実寸大の写真とHGレールの断面図が、それぞれランナーとレール部材の意匠的な特徴を需要者に訴求するものであり、斜め下方写真は、レール部材と様々な形状のランナーとの組み合わせた全体図をイメージするためのものであり、かつ、ランナーのバリエーションを意識している点においては、いわばランナーが主役の写真であると理解される。実際の取引時において、甲第2号証の斜め下方写真をもって、需要者がレール部材の意匠的な側面に着目する可能性は低いというべきである。

オ 被請求人の主張〔4〕について

(ア) 被請求人は、考慮要素(a)に関して、レール部材の通常の観察方法は主に正面、底面及び斜め下方向に比重を置くべきとの前提の下、本件登録意匠及び甲1意匠の底面図及び底面側斜視図を示した上で、孔部の開口方向と切欠部を含む大きさが底面全体に占める割合が大きいことに照らし、この点が需要者の注意を引く程度は大きいと主張する。

しかしながら、既に主張したとおり、レール部材の観察方法としては取引時における左右端面形状(断面形状)を重視すべきであり、少なくとも左右端面形状(断面形状)を全く無視して、底面だけに着目した上で、孔部の開口方向と切欠部を含む大きさが底面全体に占める割合を云々する議論は、あまりに恣意的であって失当であると言わざるを得ない。上記のとおり、レール部材の実際の使用状態においては、レール部材にはランナー及びカーテンが装着されているため、需要者が、実際に被請求人が示す底面側斜視図の方向からレール部材のみを観察することができるのは、レール部材を設置する工事における一瞬にすぎず、工事終了後は、レール部材にはランナー及びカーテンが取り付けられ、意匠的な主役はカーテンが担うこととなる。そして、カーテンが材質や模様などのバリエーションが多い部材であるのに対して、金属で形成され、ありふれた無機質な筒状の形状であるレール部材は、カーテンに比べて目につきにくく、レール部材表面の細かい凹凸形状などは需要者に注目されないことは自明である。さらに、カーテンを開けた状態では(外界側を遮蔽しない時)、需要者の視線は外界側に向き、レール部材は、需要者の視認性を邪魔しないように上方に取り付けられている。すなわち、このような使用目的からも、レール部材は、使用時には、カーテンを補助するだけの目立たない部材であり、その意匠性に需要者が着目する程度は小さいというべきである。

以上のとおりであるから、被請求人の主張する底面図及び底面側斜視図における孔部形状が、意匠全体に占める割合が大きく、注意を引く程度が大きいなどとは到底いえない。

(イ) 次に、被請求人は、考慮要素(c)に関して、甲1意匠における下壁内面及び船先形状が内部構造であり、使用時には見えない部位である上に、機能的必然性に基づく形状であると主張している。

しかし、甲1意匠における下壁内面及び船先形状の内部構造が機能的必然性に基づく形状でないこと及び甲1意匠のようなレール部材においては、取引時に現れる左右端面形状(断面形状)を意匠の類否判断上重視すべきことは、既に主張したとおりである。

(ウ) さらに、被請求人は、考慮要素(d)に関して、使用時及び購入時に内部を視覚観察する冷蔵庫でさえ、内部用形状よりも外観形状が重視されることをもってして、通常の状態では視認できないレール部材では外観形状が注意を引く程度が大きいと主張している。

しかし、取引時の販売店で扉を閉じた状態で陳列され、使用時も、扉を閉じた状態が需要者の目前にある冷蔵庫と、使用時に需要者の目前に注目を引きやすいカーテンが存在するレール部材とを同一視できないことは明らかである。

カ その他

(ア) 差異点G1-g1について

被請求人は、差異点G1-g1として、本件登録意匠には、側壁の下部内面から延びる下壁の内面において、甲1意匠にはない段部が形成されている旨主張している。

しかしながら、甲1意匠も、側壁の下部内面から延びる下壁の内面に段部に相当する円弧状斜面を備えており、各側壁の下部内面から円弧状の窪みへ向かうアプローチ部分が存する点で共通している。意匠の全体形状の観察においては、この共通点が存することが重要なのであって、そのアプローチ部分が略水平か若干斜めに形成されているかなどは設計上の微差であることが明らかである。

(イ) 甲1意匠の関連意匠について

なお、被請求人は、甲1意匠の関連意匠の登録は、バリエーションの意匠を厚く保護しようとする関連意匠制度の改正趣旨に沿ったものにすぎないから、これを本件登録意匠と甲1意匠の類似の根拠とするのは早計であると主張している。

しかしながら、意匠法が、関連意匠における類似を、新規性の審査における類似と異なる基準で審査することを規定していない以上、関連意匠における類似の判断も新規性と同一基準で判断すべきことは自明である。

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3 上申書における主張

「(1) 令和8年1月28日付け提出の上申書について

被請求人は、令和8年1月28日付けで上申書を提出し、本件意匠及び甲1意匠の各下壁の上面に形成されている円弧状の窪み部について、本件意匠では、下部内面から「段部」を介して形成されているのに対して、甲1意匠では、下部内面から「緩やかな凸の円弧状斜面(以下「円弧状凸部」と称する)」を介して形成されているため、両意匠の美感が異なる(具体的には、本件意匠では、くっきりとシャープな印象を受けるのに対し、甲1意匠では、丸みを帯びた柔らかな印象を受ける)と主張している。

しかし、本件意匠及び甲1意匠の断面形状に現れる「下壁内面及び船先形状」だけをみても、本件意匠の「段部」と甲1意匠の「円弧状凸部」との形状の差異は微小なものにすぎず、下壁内面及び船先形状全体の意匠の美感に大きな影響を与えるものではない。すなわち、本件意匠及び甲1意匠の「下壁内面及び船先形状」は、各側壁の下部内面からアプローチ部(段部又は円弧状凸部)を介して円弧状窪み部を形成し、先端で船先形状を形成する形状として共通している。また、このうちアプローチ部分である段部及び円弧状凸部も、いずれも同方向に突出する凸部としては共通しており、その形状が水平状か斜面状かの点で僅かに差異はあるものの、極めて軽微な設計事項的な差異にすぎない上、各側壁の下部内面から円弧状の窪み部への繋ぎの部分という決して目立たない箇所に存する差異にすぎず、その全体に占める割合も小さい。一方で、本件意匠と甲1意匠とで共通する、アプローチ部(段部又は円弧状凸部)に続く円弧状の窪み部及び船先形状は、既に主張したとおり、特異で斬新な最も目立つ部分であって、かつ、その全体に占める割合も大きい。したがって、本件意匠と甲1意匠とで共通するアプローチ部を除く円弧状の窪み部及び船先形状が、強く支配的な印象を与えることとなり、本件意匠の段部と甲1意匠の円弧状凸部という軽微な差異点による印象を凌駕することは明らかである。この点、被請求人は、甲1意匠を丸みを帯びた柔らかな印象と表現しているが、両意匠に共通する船先形状における先端部が薄く鋭利な爪状の形状は、下壁における大きな特徴的部位として、下壁内面及び船先形状全体にシャープな印象を与えることに大きく寄与しているため、甲1意匠における円弧状凸部の存在のみで、甲1意匠の美感が丸みを帯びた柔らかな印象とはなり得ない。段部と円弧状凸部とは、同方向に突出する微小な凸部としては共通しており、それぞれの凸部の頂部における微細な形状の差異によって、定形的な略四角形の断面形状の中で特異な船先形状に目が向いている需要者の視線を変える力がないことは明らかである。

次に、既に提出した審判請求書及び請求人が令和7年12月5日付けで提出した口頭審理陳述要領書(以下「請求人の口頭審理陳述要領書」と称する)で主張した通り、本件意匠及び甲1意匠の物品であるレール部材は、走行部材(ランナー)を収容してカーテンを吊るすための部材であって、主として、取引時はランナーが意匠の主役となる一方で、使用時はカーテンが主役となるため、需要者にとっては意匠的に重要視されることが少ない筒状の部材(無機質の材質で形成され、かつ定形的な略四角形の断面形状を有する筒状部材)にすぎない。

この点、需要者の注目度という観点からは、本件意匠及び甲1意匠の類否判断においては、取引時におけるランナーとの関係が重要となるところ、このランナーとの関係からも、上記のアプローチ部の形状の差異が美感に大きな影響を与えないことは明らかである。すなわち、段部と円弧状凸部は先端部の形状に微小な差異はあるものの、いずれも下壁の凸部として共通しており、この凸部を起点としてランナーの受け部として機能する円弧状窪み部が形成されるとともに、中央開口部を形成する円弧状窪み部の先端部では船先形状が形成され、断面における特徴的な美感(すなわち、定形的な略四角形状において、下壁のみが、薄く鋭利な先端に向けて、滑らかに曲線状に跳ね上がる印象を与える美感)を醸し出している。しかも、前述の通り、レール部材にとってランナーが重要な役割を有しているため、需要者の目は、自然とランナーとの接触部である円弧状窪み部を中心とする領域に向き、この部分が当然に本件意匠及び甲1意匠の要部となる。そして、上記のとおり、円弧状窪み部の中央開口部側の船先形状は、円弧状窪み部の側壁側のアプローチ部(段部又は円弧状凸部)に比べて、大きく特異で斬新な形状であることは明らかであり、凸部の形状に微小な差異があっても、本件意匠と甲1意匠とで下壁内面及び船先形状における美感が類似することは明らかである。このようにランナーとの関係からも、段部と円弧状凸部との微小な差異が本件意匠及び甲1意匠の類否に影響しないことは明らかである。

(2) 令和7年12月19日付け提出の口頭審理陳述要領書について

ア 被請求人は、令和7年12月19日付け提出の口頭審理陳述要領書(以下「被請求人の口頭審理陳述要領書」と称する)における「第2 本件意匠及び甲1意匠に係る物品等の需要者」の「(1)需要者について」の項及び「(3)本件意匠及び甲1意匠に係る物品等の使用時」の項において、本件意匠に係る物品は大型カーテンレール枠材と称され、大型カーテンは、工場や倉庫、店舗などの出入口や室内に設置される間仕切りカーテンであり、一般的にはビニールカーテン(透明なシート等)に過ぎない旨を主張している。

しかし、本件意匠の物品は「主として工場や倉庫、店舗などの出入口や室内に設置される仕切カーテン用のレール枠材」と記載されており、工場や倉庫、店舗に限定されていない。例えば、一般住宅で使用されるカーテン用のレール部材であれば、レール部材ではなくカーテンが室内インテリアの主役となる部材であることは明らかである。

なお、仮に工場などで利用される大型カーテンであっても、透明シートに限定される訳でなく、例えば、被請求人の口頭審理陳述要領書に添付されている乙第19号証の第2頁には、大型カーテンレールとして薄茶色又は橙色に着色され、かつ格子模様の大型カーテンが記載されている。さらに、大型カーテンの場合は、レール部材の位置も高所となるため、一般住宅のカーテンに比べてレール部材の視認もより困難となる。例えば、被請求人の口頭審理陳述要領書に添付されている乙23号証の第3頁には、工場(なお、実際には舞台装置や航空機格納の入口シート吊装置としても用いられる。)で取り付けられたと思しき大型カーテンの写真が記載されているが、高すぎてレール部材の詳細について視認困難であることは明らかである。そのため、大型カーテンにおいて、仮にカーテンを無視して斜め下方からレール部材を見たとしても、需要者の目には無機質な筒状部材として映るだけであり、斜め下方からの観察が本件意匠及び甲1意匠の美感に与える影響が小さいことは明らかである。

イ また、取引時において、需要者の目がランナーに向けられる点について、被請求人は、被請求人の口頭審理陳述要領書における「第1 請求人の口頭審理陳述要領書に対する意見」の「〔3〕イ(ウ)について」の項において、請求人の主張に対して、トレーニング機器事件の判示における「使用態様のいかん」も含めて何らの根拠も説明もないと主張している。

しかし、請求人は、審判請求書及び請求人の口頭審理陳述要領書において、レール部材は、その使用態様(カーテンが吊るされ、ランナーが挿入される使用態様)に照らして、使用時の意匠的な要素が乏しい物品であるため、ランナーとの関係及び機能が重要である点などについて充分に説明しているから、上記の被請求人の主張が失当であることは明らかである。」

4 証拠方法

請求人は、甲第1号証及び甲第2号証を審判請求書に添付して提出した。甲第1号証及び甲第2号証は、写しを原本として書証申出したものである。

(1)甲第1号証:意匠登録第1550013号公報

(2)甲第2号証:カタログ「OSエコレール(登録商標)」

第3 被請求人の答弁の趣旨及び理由

被請求人は、審判事件答弁書を提出し、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、概ね、以下のとおり主張した(「口頭審理陳述要領書」及び「上申書」の内容を含む。以下、下線は被請求人による。)。

1 審判事件答弁書における主張

「第1 はじめに

請求人は、本件登録意匠と甲第1号証に記載された意匠(以下、「甲1意匠」ともいう)との類否に関し、「(4E-1)純粋なデザインの観点からの類否」の項(請求書8頁2行~12頁21行)において、「意匠審査基準に則って、意匠に係る物品の特性や取引形態などを考慮する前に、純粋なデザインの観点のみから、以下に示す本件登録意匠と甲1意匠との類否を評価する。」などとし、彼此意匠の断面形状に固執した評価を展開する。

この種物品の意匠の類否判断において、断面形状(左側面図、右側面図)の対比が、類否判断の要素の1つとして重要であることは、被請求人も否定はしない。

しかしながら、かかる請求人の認定・評価は、請求人自身が発行するカタログである甲第2号証に記載された意匠のみを先行する意匠として自己に都合よく検討されたものであり、それ以前にも多数存在する周辺意匠を全く考慮しない主観的なものであって、この種物品の使用状況を含む特性や現実の需要者・取引者及び創作性の観点を軽視ないしは曲解した主張であるために失当である。

したがって、本件登録意匠と甲1意匠との類否判断を行う場合には、本件登録意匠と甲1意匠の特定は、先行周辺意匠との関係をも考慮して、以下のように特定・対比されるべきであり、両意匠の類否も判断されるべきである。

第2 本件登録意匠

本件登録意匠は、令和3年(2021年)2月8日に出願され(意願2021-2707)、同年8月11日に意匠権の設定の登録がなされた、意匠登録第1693718号の意匠であって、意匠に係る物品を「カーテンレール枠材」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形態」ともいう)は、願書の記載及び願書に添付した図面に表された次のとおりとしたものである(請求人の提出した参考資料)。

(1)基本的構成態様

(A)全体が、略四角形の断面形状を呈し、ランナーの吊下部が通過するスリットを下方に有して左右に連続する長尺な筒材であり、

(B)上壁と、上壁の前後端の下方において屈曲形成してなる前後一対の肩部から垂下した前後一対の側壁と、各側壁の下方から互いの先端が近づく内方に延出し、その上面がランナーの走行軌道となる前後一対の下壁と、を有し、

(C)各下壁の

下面と各側壁の外面とが成すコーナー部に

ジョイントピンが差し込み可能な前後一対の孔部を有した態様である。

(2)具体的構成態様

(D)上壁は、平板状とされ、その上面の

前後中央と前後端には僅かに隆起した三本の凸条を同じ幅寸法で

左右方向に沿って帯状に形成し、下面の前後中央には

「V」字状の溝を左右方向に沿って形成

したものである。

(E)各肩部は、上壁の前後端のやや内寄り下面から垂下した脚部と、

この脚部に連なる傾斜壁と

を有し、各側壁に連続したものである。

(F)各側壁は、

外面の上下方向中央に「V」字状の溝を左右方向に沿って形成

したものである。

(G1)各下壁の上面は、各側壁の下部内面から

段部を介して

円弧状の窪み部を形成し、窪み部の先端は斜め上方に向けて細く尖った突片を形成したものである。

(G2)各下壁の下面は、

凹凸の無い平坦面

として形成したものである。

(G3)各孔部は、各下壁の下面と各側壁の外面

とが成すコーナー部分を切り欠いて、斜め下方外側へ開口した「C」字状の溝

として形成し、その開口端縁が

長手方向に沿う鋭いエッジラインとして

底面視、正面視、及び底面斜視に表れる。

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75

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第3 甲第1号証の意匠

甲第1号証の意匠(意匠登録第1550013号)は、意匠に係る物品を「レール部材」とし、本件登録意匠の出願前の平成28年(2016年)5月23日に発行された意匠公報に表された次の意匠である。

(1)基本的構成態様

(a)全体が、略四角形の断面形状を呈し、ランナーの吊下部が通過するスリットを下方に有して左右に連続する長尺な筒材であり、

(b)上壁と、上壁の前後端の下方において屈曲形成してなる前後一対の肩部から垂下した前後一対の側壁と、各側壁の下方から互いの先端が近づく内方に延出し、その上面がランナーの走行軌道となる前後一対の下壁と、を有し、

(c)各下壁の

下面の各側壁寄りに

ジョイントピンが差し込み可能な前後一対の孔部を有した態様である。

(2)具体的構成態様

(d)上壁は、平板状とされ、その上面の

前後中央には僅かに隆起した一本の凸条と、前後端には前後中央の凸条の略1/2幅寸法で僅かに隆起した二本の凸条

を左右方向に沿って帯状に形成し、下面の前後中央には

上面中央の凸条と略同じ幅寸法で凹入した帯状の溝

を左右方向に沿って形成したものである。

(e)各肩部は、上壁の前後端のやや内寄り下面から垂下した脚部と、

この脚部から上壁の前後外側方で屈曲する延出部と、上壁の前後端よりも更に外側方に突出した傾斜壁と

を有し、各側壁に連続したものである。

(f)各側壁は、

上壁の前後端よりも更に外側方に突出した

外面を

凹凸の無い平坦面として形成

したものである。

(g1)各下壁の上面は、各側壁の下部内面から

分岐する緩やかな凸の円弧状斜面を介して

円弧状の窪み部

に連続

し、窪み部の先端は斜め上方に向けて細く尖った突片を形成したものである。

(g2)各下壁の下面は、

各突片の下方に平坦部と、この平坦部から上方に一段没入した段差部と、この段差部に続いて上面の窪み部の形状に倣った斜面を有する切欠部と、を形成

したものである。

(g3)各孔部は、

各側壁の下端から各下壁の下面を巻き込むように内側へ延出した円弧片の奥部に形成し、開口が切欠部に連通し、

開口端縁が

長手方向に沿って切欠部のラインと共に彫りの深い溝として

底面視に表れる。

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第4 本件登録意匠と甲1意匠との対比

(1)共通点

本件登録意匠の意匠に係る物品は「カーテンレール枠材」であり、甲1意匠の意匠に係る物品は「レール部材」であって、表記は異なるものの、共にカーテンの類を吊下するランナーが走行するレールであるから、両意匠に係る物品は共通する。

また、本件登録意匠と甲1意匠の形態を対比すると、両意匠の形態には、以下の共通点が認められる。

[基本的態様]

(A-a)全体が、略四角形の断面形状を呈し、ランナーの吊下部が通過するスリットを下方に有して左右に連続する長尺な筒材であり、

(B-b)上壁と、上壁の前後端の下方において屈曲形成してなる前後一対の肩部から垂下した前後一対の側壁と、各側壁の下方から互いの先端が近づく内方に延出し、その上面がランナーの走行軌道となる前後一対の下壁と、を有し、

(C-c)各下壁にはジョイントピンが差し込み可能な前後一対の孔部を有した態様である。

[具体的態様]

(D-d)上壁は、平板状とされ、その上面には僅かに隆起した三本の凸条を左右方向に沿って帯状に形成したものである。

(E-e)各肩部は、上壁の前後端のやや内寄り下面から垂下した脚部と、この脚部に連なる傾斜壁とを有し、各側壁に連続したものである。

(G1-g1)各下壁の上面は、各側壁の下部内面から円弧状の窪み部を形成し、窪み部の先端は斜め上方に向けて細く尖った突片を形成したものである。

(G3-g3)各孔部は、各下壁の下面に開口し、その開口端縁が少なくとも底面視に表れる。

(2)差異点

本件登録意匠と甲1意匠の形態を対比すると、両意匠の形態には、以下の差異点が認められる。

[基本的態様]

(C-c)本件登録意匠は、各下壁の

下面と各側壁の外面とが成すコーナー部に

ジョイントピンの差し込み用の孔部を有しているのに対し、

甲1意匠は、各下壁の下面の各側壁寄りにジョイントピンの差し込み用の孔部を有している点で、両者の孔部の位置が異なる。

[具体的態様]

(D-d)本件登録意匠の上壁は、上面の

三本の凸条が全て同じ幅寸法の帯状であり、下面の前後中央の溝が「V」字状

であるのに対し、

甲1意匠は、

前後端の2本の凸状の幅が中央の凸条の略1/2幅寸法

であり、下面の前後中央の溝が、

上面中央の凸条と略同じ幅寸法で凹入した帯状

に形成したものである点で異なる。

(E-e)本件登録意匠の各肩部は、

脚部に連なる傾斜壁が上壁の前後幅内で各側壁に連続

したものであるのに対し、

甲1意匠の各肩部は、

脚部から上壁の前後外側方で屈曲する延出部と、上壁の前後端よりも更に外側方に突出した傾斜壁と

を有し、各側壁に連続したものである点で異なる。

(F-f)本件登録意匠の各側壁は、

外面の上下方向中央に「V」字状の溝を左右方向に沿って形成

したものであるのに対し、

甲1意匠の各側壁は、

上壁の前後端よりも更に外側方に突出し、その外面が凹凸や溝の無い平坦面として形成

した点で異なる。

(G1-g1)本件登録意匠の各下壁の上面は、各側壁の下部内面から

段部を介して

円弧状の窪み部を形成しているのに対し、

甲1意匠の各下壁の上面は、各側壁の下部内面から

分岐する緩やかな凸の円弧状斜面を介して円弧状の窪み部に連続

している点で異なる。

(G2-g2)各下壁の下面は、

凹凸の無い平坦面

として形成したものであるのに対し、

甲1意匠の各下壁の下面は、

各突片の下方に平坦部と、この平坦部から上方に一段没入した段差部と、この段差部に続いて上面の窪み部の形状に倣った斜面を有する切欠部と、を形成

したものである点で異なる。

(G3-g3)本件登録意匠の各孔部は、各下壁の下面と各側壁の外面

とが成すコーナー部を切り欠いて、斜め下外側へ開口した「C」字状の溝

として形成し、その開口端縁が

長手方向に沿う鋭いエッジラインとして

底面視、正面視、及び底面斜視に表れるのに対し、

甲1意匠の各孔部は、

各側壁の下端から各下壁の下面を巻き込むように内側へ延出した円弧片の奥部に形成し、その開口が切欠部に連通し、さらにその開口端縁が長手方向に沿って切欠部のラインと共に彫りの深い溝として底面視に表れる

点で異なる。

第5 先行周辺意匠の摘示

請求人が、「(4C)先行周辺意匠の摘示」(請求書5頁)において挙げる先行周辺意匠は、上記したとおり、何れも請求人自身のカタログに掲載された「カーテンレール」を摘示したにすぎず、多数存在する他の先行周辺意匠を全く考慮したものではないから、この種物品の要部認定や類否判断の基礎とはできない。

1.意匠公報や特許公報等に掲載された先行周辺意匠

本件登録意匠及び甲1意匠の先行周辺意匠として、甲1意匠の出願前に公知の「カーテンレール」に係る意匠公報等に記載された意匠を例示すると、以下のとおりである。

なお、請求人の主張との平仄から、以下においては、断面形状にて例示するが、この種物品の意匠の特徴が、断面形状のみにより評価されるという趣旨ではない。

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2.先行周辺意匠からみた類似範囲

上記で例示した先行周辺意匠からみて、この種物品の意匠においては、以下のような事情が窺える。

(ア)上記表に例示する乙1~乙8号証は、何れも本件登録意匠及び甲1意匠と共通の基本的構成態様を備えるものである。

すなわち、

(A-a):全体が、略四角形の断面形状を呈し、ランナーの吊下部が通過するスリットを下方に有して左右に連続する長尺な筒材であり、

(B-b):上壁と、前後一対の側壁と、各側壁の下方から互いの先端が近づく内方に延出し、その上面がランナーの走行軌道となる前後一対の下壁とを有し、下壁の上面には、ランナーの車輪形状に合わせた形状の前後一対の走行軌道を有し、

(C-c):下壁には、ジョイントピンが差し込み可能な前後一対の孔部が設けられている。

また、ジョイントピンが差し込み可能な孔部は、乙4号証を除き、何れかの方向に開口している。

(イ)上記表に例示する乙1~乙3及び乙7~乙12号証は、何れも、請求人が、「先行意匠にはない特異で斬新な形態である。」と主張する、底壁部(底壁)の先端部が「薄く鋭利な爪状」とされた形状である。

特に、乙3号証の底壁(底壁部)は、「底壁部のみが、薄く鋭利な先端部に向けて、滑らかに曲線状に跳ね上がる印象を与える美感を呈して」おり、ジョイントピンが差し込み可能な孔部の開口形状及び切欠部も含め、甲1意匠とはそっくりである。

また、上記表に例示する乙3、乙8及び乙13~乙15号証の下壁の上面に形成された底壁部の内面(走行軌道)の形状は、何れも「滑らかに曲線状」である。

(ウ)上記表に例示する乙4、乙15、乙16及び乙17号証に表れる底壁部(底壁)内面の形状と、ランナーの車輪形状との関係からみて、底壁部(底壁)内面の形状が、平坦な凹形状であるか、円弧状の凹形状であるか、三角形の凹形状であるかは、何れも、ランナーの車輪形状に合わせ選択される機能的意味を持つ形状である。

以上より、この種物品の意匠の類似範囲は非常狭く、また、底壁部(底壁)の内面(上面)形状も要求される機能に応じて選択されるものにすぎないと言える。

第6 類否判断

1.請求人が主張する「純粋なデザインの観点」からの類否について

請求人は、「(4E-1)純粋なデザインの観点からの類否」(請求書8頁1行~12頁21行)において、「意匠に係る物品の特性や取引形態などを考慮する前に、純粋なデザインとしての観点のみから、...(中略)...本件登録意匠と甲1意匠との類否を評価する。」として、両意匠の左側面図と右側面図とを併記し、次の(ア)及び(イ)が本件登録意匠の特徴である旨を指摘し、これらを評価する(下線部は、被請求人が付記)。

(ア)「本件登録意匠は、長尺状の略四角筒状の形態を有しているが、そ

のデザインとしての特徴は断面形状にある

。...(中略)...

最も目立つ形状は

、その基本的構成態様であり、とりわけ対向する左右底部壁の中央部に長手方向の開口(以下

「中央開口部」という。)が形成されている点が最も目立つ大きな特徴

である。」(請求書8頁7行~11行)

(イ)「そして、この中央開口部を形成する左右両底部壁の内面が、

船先のような先端部が薄く鋭利な爪状の形状で、左右両側壁の下部の僅かに内側の位置から下方向に窪んだ略半円状に湾曲して延出していることも、本件登録意匠の目立つ大きな特徴

であり、...(中略)...

底部壁のみが、薄く鋭利な先端部に向けて滑らかに曲線状に跳ね上がる印象を与える美感を呈している

。このような美感をもたらす前記共通点(6)に

かかる具体的構成態様は、甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態

であり、本件登録意匠の印象を決定付ける特徴的な態様である。」(同11行~9頁1行)

(i)請求人の上記見解の当否

(ア)について

「カーテンレール」には、ランナーが、レール内部を走行する本件登録意匠や甲1意匠のような「C型」(角型を含む)の他に、レール外部を走行する「I型」のようなものも存在するが、「C型」の場合には、ランナーの吊下部が通過する開口部(スリット)が、左右底部壁(底壁)の中央に設けられるのが一般的である。

この点は、前記第5の1.にて例示した先行周辺意匠の乙第1~第18号証や、請求人が挙げた甲第2号証をみても明らかである。

従って、「中央開口部」(スリット)が形成されている点が、本件登録意匠及び甲1意匠において、「最も目立つ大きな特徴である」とする請求人の見解自体には異論はない。

(イ)について

まず、「下方向に窪んだ略半円状に湾曲して延出した形状」は、ランナーの車輪の形状に対応した形状にすぎないことは、上記したこの種物品の周辺先行意匠として例示した乙3、乙8及び乙13~15号証より明らかである。

すなわち、車輪の断面形状が、略楕円形の場合には甲1意匠や本件登録意匠のような円弧状の凹形状となり、算盤玉のような場合には乙16号証のような三角形の凹形状となり、長方形の場合には乙4号証のような平坦な凹形状に形成されるのであって、これらは使用するランナーの車輪形状に合わせた機能的な理由に基づく形態である。

そして、甲1意匠や本件登録意匠のような

滑らかに曲線状に跳ね上がる印象を与える美感は、乙3号証、乙8号証、乙13号証及び乙14号証のように、甲1意匠以外の先行意匠に普通に見受けられるものであって、請求人が主張するような特異で斬新な形態ではない。

また、

先端部が鋭利な爪状の形状にしても、乙3号証、乙8号証、乙7号証~乙12号証のように、甲1意匠以外の先行意匠にも多数見受けられるものである。

殊に、「船先のような先端部が薄く鋭利な爪状の形状」を含む甲1意匠の底壁部の形状は、甲1意匠の出願日よりも遙かに以前に公知である乙3号証の底壁部の形状とそっくりであることは前述のとおりであり、百歩譲って甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態であるとはいえない。

従って、

底部壁が、鋭利な先端部に向けて滑らかに曲線状に跳ね上がる印象を与える美感が、甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態であるとする請求人の見解は、明らかに誤りである。

(ii)純粋なデザインの観点のみからの類否について

請求人は、「(4E-2)差異点についての考察」(請求書9頁8行~12頁21行)において、請求人が抽出した、本件登録意匠と甲1意匠との差異点(イ)~(ニ)については、何れも「代替可能な設計上の微差・バリエーションにすぎない。」等と累々述べた上、共通点(6)にかかる底壁部の具体的構成態、すなわち、底壁部の内面を、側壁の内面から僅かに内側の位置から先端部までを下方に窪んだ略半円状に形成し、かつ先端部を斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の形態が意匠全体の基調をなし、「両意匠の印象・美感を決定づける要素というべきである。」と結論する。

しかしながら、第5の2.先行周辺意匠からみた類似範囲で確認したように、この種物品における意匠の基本的構成態様はもちろん、具体的構成態様についても近似したものが多数あり、この種物品の類似範囲は非常狭いところ、請求人が指摘する(イ)~(ニ)の差異点が、両意匠の印象・美感に与える影響が必ずしも小さいとは言えない。

しかも、請求人が、「両意匠の印象・美感を決定づける要素」とする、底壁部の具体的構成態でさえ、先行周辺意匠である乙3号証と共通するのであるから尚更である。

そうすると、請求人が差異点(ニ)として挙げる本件登録意匠における、孔部の位置やその開口方向の相違が、本件登録意匠と甲1意匠との類否にも大きな影響を与えることは言うまでもない。

(iii)デザインの相違から受ける両意匠のイメージ

請求人が、請求書8頁において併記した両意匠の左側面図と右側面図は、次のとおりである。

(当審注:前記第2 1(4E-1)に所載の図を参照。)

請求人が、甲1意匠に関し、「底壁部のみが薄く鋭利な先端部に向けて、滑らかに曲線状に跳ね上がる印象を与える美感を呈している。」と表現して、先行意匠にはない特異で斬新な形態であると主張する底壁部(底壁)の形状は、上記したように、乙3号証に極めて近似するものであるが、斯かる形状のみから物品の特性を離れて純粋に受ける印象は、あたかも「大きな口(切欠部及びそれに連通する孔部)を開けて、天上(上壁)から舞い降りた2頭の龍神が、相対峙するかのようなイメージ」を彷彿させる構図であるのに対し、本件登録意匠は、孔部の位置やその開口方向の違い、及び甲1意匠のような切欠部が存在しないこととも相俟って、機能的で無機質な印象のみ受けるものである。

このように、ジョイントピン挿入用の孔部とその位置、開口方向及び切欠部の有無といった相違により左右端面形状のみから受ける印象は、甲1意匠と本件登録意匠とで相当異なるだけでなく、これらの相違から正面、底面及び底面(側面)斜視から見た場合の、意匠全体の印象は著しく相違する。

2.意匠の類否判断の基準について

請求人は、「(4E-3)意匠審査基準の観点からの類否」の項(審判請求書12頁22行~25行)において、「デザイン的な観点から、本件登録意匠と甲1意匠とは類似しているため、以下に示すように、意匠審査基準に則って類否を判断しても両意匠は類似している。」などと飛躍した論理を展開する。

しかしながら、意匠審査基準の2.2.2.6 「対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価」に則って類否を判断しても、両意匠は、以下のとおり非類似である。

また、請求人は、両意匠の断面形状に固執するあまり、意匠審査基準の2.2.2.7「総合的な類否判断」を蔑ろにしていると言わざるを得ない。

(1)本件登録意匠及び先行意匠の観察方法について

請求人は、審査基準に記載された観察方法(意匠審査基準の2.2.2.5)に関し、テレビ受像機とは異なって、本件登録意匠のような「レール部材」は、使用時の状態では、走行部材(ランナー)及び開閉用部材(カーテン、間仕切りシートなど)と組み合わせて使用される物品であり、レール部材のみで独立した物品として使用・取引されることが想定されておらず、また、使用時の状態では需要者の視線よりも高い位置に設置されるようなものであるから、レール部材自体として需要者の注意を引く程度は極めて小さくなる旨主張する。

そして、レール部材自体の意匠は、視認し難い上方に設置され、目立つカーテン等の開閉用部材と組み合わされた使用時の状態よりも、走行部材(ランナー)との関係が一目で分かる取引時の状態(カタログ等を含む。)の方が重要であるから、本件登録意匠及び甲1意匠の類否判断における観察方法としては、使用時の状態よりも取引時の状態(または取引時のカタログ等)を重視すべきであるとする(請求書13頁4行~15頁19行)。

斯かる請求人の主張は、必ずしも「レール部材」のような他の構成要素と組み合わせて使用される、言わば部品に相当する物品の意匠的価値が低いと言っている訳でもないようであるが、使用時の状態よりも取引時の状態を重視すべきとする請求人の見解には直ちに首肯できない。

すなわち、請求人は、「需要者の注意を引く程度という観点からみると、レール部材及び走行部材に比べて、著しく大きな面積を占める開閉用部材(カーテンなど)が最も重要であることは明らかである。」等と指摘するが、そうであれば、着目点としては、

「レール部材」と「走行部材」との関係(断面形状)よりも、

むしろ色や柄といったカーテン等「開閉用部材」の意匠との親和性や設置場所の雰囲気に適合し得る

「レール部材」自体の外観全体の印象こそが重視されるべき

である。

そもそも、「レール部材」と「走行部材」との関係(断面形状)は、請求人が示す甲2号証のカタログ記載内容からも明らかなように、取引者・需要者の関心は、もっぱら「レール部材」の設置場所や用途、許容荷重等からみて、どのような素材で、どのような車輪形状のランナー(走行部材)が「レール部材」に適応するかといった問題にあり、断面形状に対する関心も、

意匠的というよりもその機能的な側面が重視されるというもの

である。

また、請求人は、レール部材は使用時の状態において需要者の視線よりも高い位置に設置されるから、走行部材との関係がわかる取引時の状態の方が重要であるとするが、実際にカーテン等を開閉操作する場合には、スムーズな開閉や確実な閉鎖の実現や開閉騒音等を考慮して、

カーテン等の「開閉用部材」を見るよりも、寧ろレール部材を見上げて操作するのが普通である。

従って、需要者等が取引時にカタログの記載等を考慮することは当然であるとしても、意匠の対比観察方法においては、意匠審査基準の2.2.2.5に記載のとおり、意匠に係る物品等を観察する際には、通常用いられる使用状態を中心にした観察方法により行うべきであり、「レール部材」のような使用時に見上げて使用するような物品の場合には、正面、底面及び斜め下方からの観察こそが、通常用いられる観察方法であると考えるべきである。

この点、取引時の状態(取引時のカタログ等を含む。)の方が重要であると主張する請求人が提出した請求人自身が発行する甲第2号証のカタログに掲載された写真、例えば、甲1意匠の実施品であると思われる55頁の「SGレール」の写真はもとより、その表紙、57頁以下の「HGレール」等の各製品のトップには、通常観察される方向であるところの正面及び底面を含む形態が視認し得る斜め下方から見上げた写真が(しかも、カーテン等の開閉部材が吊されていない状態で)大きく掲載されているのであるから、取引時の状態においても斯かる観察方法が通常用いられる観察方法であることの証左である。

(2)注意を引く部分か否かの認定及び評価について

請求人は、審査基準の新規性における類否判断にかかる「2.2.2.6 対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価」で一般例として挙げられた(a)~(e)の考慮要素中、「(a)(c)(d)及び(e)が、本件登録意匠及び先行意匠の注意を引く部分か否かの認定及び評価に関係する。」として、各考慮要素に基づいて両意匠の類否を検討している。(請求書16頁1行~4行)

上記の考慮要素が、本件登録意匠と甲1意匠等との認定及び評価に関係するという点に関しては、被請求人も異論は無い。

しかしながら、「具体的な評価方法及び評価結果は個別の意匠ごとに異なるが、・・・」と注記している審査基準の「なお書き」にも留意すべきであり、また、意匠は物品の美的外観に係るものであるところ、両意匠の形状等における各共通点および差異点についての個別評価のみならず、これらを総合的に観察した場合に、需要者に対して異なる美感を起こさせるか否かを判断すべきであるから、請求人が主張する認定・評価は、以下のとおり妥当ではない。

(i)考慮要素(a)「意匠全体に占める割合についての評価」について

請求人は、考慮要素(a)について、請求人の指摘する差異点(ニ)「本件登録意匠は、底部壁の外面を、斜め下の外方向に開口させた前記円弧状の孔部から先端部に向けて直線的に平坦に形成されているのに対して、甲1意匠は、底部壁の外面を、前記円弧状の孔部の下方及び先端部近傍の下方を略水平な同一平面と、前記円弧状の孔部の下方と前記先端部近傍の下方の間の薄板長方形状の切欠部1と円弧状の孔部の斜め下の内方向の開口部から斜め下の内方向に直線的に延出する切欠部2とが連続した切欠部とで形成している点」(被請求人の指摘する差異点(G2-g2)に相当)を含む差異点(イ)~(ニ)が物品全体に占める割合に比べ、同共通点(1)~(5)及び(6)の物品全体に占める割合よりも小さいから、両意匠の共通点にかかる構成態様が需要者の注意を引く程度が大きいものと評価できる旨を主張する(請求書16頁7~15行)。

しかしながら、請求人の指摘する共通点(1)~(5)は、前述したこの種物品の先行周辺意匠の全ての共通点であり、請求人の指摘する共通点(6)でさえ、乙3号証や乙8号証等と共通するものである。

ここで、考慮要素(a)の審査基準には、「出願された意匠と公知意匠の共通点あるいは差異点に係る部分について、その大きさが意匠に係る物品

全体に占める割合が大きい場合には、小さい場合と比較して、その部分が注意を引く程度は大きい。」(下線部は被請求人付記)と記載されており、「物品

全体」あるように、両者の差異点が顕著に表れる

底面全体に占める割合

を考慮することも妥当なはずである

そして、前述の観察方法で検討したとおり、この種物品の通常の観察方法は、主に正面、底面及び斜め下方向に比重を置いて観察されるものである。

そうすると、請求人も指摘する差異点(ニ)、すなわち、被請求人の指摘する差異点(G2-g2)に係る部分(孔部の開口方向と切欠部を含む大きさ)は、下図のように底面全体に占める割合の差異が相当大きく、注意を引く程度が大きいことはいうまでもなく、意匠全体の美感に相当大きな影響を与えていることに疑いの余地はない。

109

153

0001436238000009.jpg

(上記右下の写真は、甲1意匠公報に底面斜視図が無いので、甲1意匠の実施品であると思われる「SGレール」のサンプルを比較参考のために掲示したものである。)

(ii)考慮要素(c)「物品の特性に基づき観察されやすい部分か否かの評価」について

請求人は、考慮要素(c)について、「本件登録意匠及び先行意匠にかかる物品であるレール部材の用途及び機能は、まずもって開閉部材を装着した走行部材を内部に挿入して走行させることにある。...(中略)...需要者の目は、走行部材との関係から、レール部材の断面形状のうち、走行部材を収容するためのレール部材の内部形状に向けられ、特に、

レール部材における走行部材との接触部位(走行部材との関係が最も大きい両者の接触部)である左右底部壁の内面の形状

に向けられることになる。すなわち、需要者がレール部材に求める

機能は、重量や耐久性の他、走行部材が円滑に作動すること等である

ところ、

これらの機能のうち、レール部材のデザインと関係するのは、走行部材の円滑な作動性

である。...(中略)...従って、レール部材の需要者においては、レール部材の

筒状内部形状のうち、走行部材との接触部位である左右両底部壁の内面形状に関心を寄せる

のが通常であり、かかる意味において、同部位の形状は、レール部材の需要者において関心をもって観察されやすい部位である。」と主張する。(請求書16頁16行~17頁15行)

レール部材の需要者が、重量や耐久性の他、走行部材が円滑に作動するかといった機能上、自身が要求するスペックを満足するか否かの確認のために、その

判断要素の一つとしてレール部材と走行部材との接触部位の形状(ランナーの車輪の走行軌道形状)

に関心を寄せるのは当然である。

しかしながら、

当該部位の形状についての関心は、

ランナーの車輪形状や寸法、耐荷重に適合するかどうかといった

機能的な側面からの適合性の確認程度の視点であって、意匠的な美感の観点からの関心という点では、内部構造で使用時には見えない部位でもあることから外観に表れる形状に比べて低いと言わざるを得ない

請求人の上記主張は、本件登録意匠と甲1意匠との共通点であるとするレール部材と走行部材との接触部位の「下方に窪んだ略半円状」の形状が、需要者が関心を持って観察する部位であることを強調する意図であることは分かるが、「下方に窪んだ略半円状」(円弧状)の左右両底部壁の内面形状は、断面楕円形の車輪形状のランナーとの接触部位の形状として、機能的必然性のみに基づく形状とも言え、意匠的特徴という視点からは考慮され難いものである。

また、請求人が、「船先のような先端部」と表現する「中央開口部を形成する左右両底部壁の内面」も、吊下された開閉用部材(カーテン等)の前後揺れを許容せんがための形態であると考えるのが常識であるところ、斯かる形状も機能的必然性に基づく形状であるといえる。

なお、請求人が「船先のような先端部が鋭く鋭利な爪状の形状」、「滑らかに曲線上に跳ね上がる印象を与える美感」と表現する「左右底部壁」の形状は、この種物品の周辺先行意匠に既に認められる形状であって、「先行意匠にはない特異で斬新な形態」でないことは繰り返し述べたとおりである。

他方、請求人は、ジョイントピンが差し込み可能な孔部について、複数のレール部材を連結するための孔にすぎないとし、「孔はいわば存在すれば足りるのであって、機能面からの形状や開口の方向に需要者が注目することはなく、また、意匠として目立つ開閉用部材や需要者の関心を惹く走行部材とは何ら関係のない部位であるため、需要者の注目度は小さいと言わざるを得ない。」(請求書18頁8行~11行)とする。

確かに、孔部は、ジョイントピンの差し込み用であるという存在意義からすれば機能的部分であり、左右両端面(断面)から見た孔部のみの形状に徴すれば、意匠全体からみて小さな部分ともいえる。

しかしながら、上記した「下方に窪んだ略半円状」(円弧状)の左右両底部壁の内面形状のように、ローラーの車輪形状に適合させるという機能的必然性に基づく内部形状ではなく、甲1意匠についてみれば、その開口が切欠部に連続することで、左右両端面のみならず底面や底面斜視において彫りの深い大きな溝として表れるものであり、また、本件登録意匠についてみれば、斜め下方に向かって開いた開口が、底面や底面斜視において長手方向に沿った鋭いエッジラインとして左右両端面のみならず、正面及び底面を含む意匠全体に大きく影響するものであるから、需要者の注目度が決して小さいとは言えず、むしろ意匠全体の美感として表れるものであることは、前掲の底面斜視図の比較においても明らかである。

(iii)考慮要素(d)「物品等の内部の形状等の評価」について

請求人は、上記した観察方法に関する主張において、テレビ受像機の場合と比較して、「レール部材」の「意匠に対する着目点についても、走行部材との関係で判断される傾向が強くなる。」(請求書14頁14行~15行)、「すなわち、需要者にとって、レール部材に係る意匠としては、走行部材との関係が重要であるため、走行部材を挿入するための四角筒状体の

内部形状に目が行きがち

となる。」(請求書14頁22行~24行)とする。

その一方で、「実際のレール部材では、収容した走行部材の端部から抜け出るのを防止することが必須であるため、...(中略)...レール部材の両端(両端面)はキャップ・ストップ...で封止される。そのため、

使用時には、レール部材の両端(両端面)は露出した状態では使用されず、需要者は、本件登録意匠の左側面図のような形状を視認することはできない。

」(請求書20頁19行~25行)とする。(下線部は被請求人が付記)

このように、通常の使用状態では、需要者が、本件登録意匠の左側面図のような形状や内部形状を視認することはできないことは、請求人も認めている。

ところで、この考慮要素「(d)物品等の内部の形状等の評価」では、「通常の使用状態において内部の形状等を観察するものについては、使用時に目に付きやすい形状等が注意を引きやすい部分となる。例えば、冷蔵庫の意匠の場合、扉を開けた状態も使用時の形状等である一方、冷蔵庫の用途及び機能は、扉を閉めた状態で内部に食品等を冷却保管するものであるから、通常は、扉を閉めた状態で視覚観察されるものであるといえる。よって、このような場合は

扉を閉じた状態の外観が注意を引く程度は内部の形状等のそれよりも大きい

。」と説明されている。(下線部は被請求人が付記)

このように、冷蔵庫のような、購入時(又は取引時のカタログ等)に内部形状が考慮されるものであって、通常の使用時にも扉を開け閉めして

内部形状が常に視認し得るものでさえ、内部の形状等よりも外観形状の方が注意を引く程度が大きいとされる

のである。

そうであれば、「レール部材」のように、購入時(又は取引時のカタログの等)に、ランナー(走行部材)との関係で内部形状が考慮されるとしても、通常の使用状態では、需要者が内部形状を視認することはできないのであるから、

内部の形状等よりも外観形状が注意を引く程度が大きいといえる

(iv)考慮要素(e)「流通時にのみ視覚観察される形状等の評価」について

考慮要素(e)は、「流通時にのみ視覚観察される部位が注意を引く程度は、原則として、その他の部位よりも小さい。」というものであり、レール部材の左右端部(断面形状)は、請求人も請求書20頁19行~25行において認めるとおり、「キャップ・ストップ」で封止され、使用時・設置時には、視認観察できないのであるから、正にその他の部位よりも注意を引く程度は低いと言うべきである。

請求人は、「レール部材の断面形状以外の部位は、全体象としては、走行部材を内部に挿入して走行させる機能を果たすための長尺の筒状の部材にすぎず、ありふれた形状であり」等と「レール部材」の外観形状の美感を揶揄する(請求書19頁10行~12行)ようであるが、「レール部材」の先行周辺意匠として前記にて例示したように、断面形状を概括的に把握した場合には近似したものがある中においても、シンプルな機能物品であるが故に、時代や流行に応じて創作され、意匠全体としての美感の相違が評価された「レール部材」の意匠登録が多数なされている現実に鑑みれば、請求人の主張が誤っていることは明らかである。

そもそも、請求人は、断面形状に終始した主張しか行っておらず、意匠審査基準の「2.2.2.7 総合的な類否判断」について言及していないが、意匠は、本来、「両意匠の形状等における各共通点及び差異点についての個別評価に基づき、

意匠全体として

両意匠の全ての共通点及び差異点を

総合的に観察した場合に、需要者(取引者を含む)に対して異なる美感を起こさせるか否か

を判断されるものであり、断面図のみに着目して各共通点及び差異点を個別に評価するだけでは、類否を判断することはできないことは言うまでもない。

3.本件意匠と甲1意匠の類否

意匠審査基準の新規性に関する類否判断の手法に則って、本件登録意匠と甲1意匠との類否を判断すると、以下のとおり、両者は類似しない。

(1)共通点の評価

請求人が、本件登録意匠と甲1意匠との具体的構成態様における共通点(6)として挙げ、「甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態であり、本件登録意匠の印象を決定づける特徴的な態様である。」とする「底部壁の内面を、前記両側壁の内面から僅かに内側の位置から先端部までを下方に窪んだ略半円状に形成し、かつ先端部を斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の形態」(被請求人の対比における(G1-g1)に相当する形態)は、甲1意匠以前から公知の乙3号証や乙8号証にも見られるように、斬新で特異なものではなく、「下方に窪んだ半円状」も走行部材(ランナー)の車輪形状に適合させた機能的要請に由来する形状にすぎない上に、これらは、通常の使用状態(設置状態)では観察できない内部構造に係るものであるから、意匠の類否判断における相対的な評価は低いといえる。

(2)差異点の評価

一方、請求人も差異点として認める(ニ)「本件登録意匠は、底部壁の外面を斜め下の外方向に開口させた前記円弧状の孔部から先端部に向けて直線的に平坦に形成しているのに対して、甲1意匠は、底部壁の外面を、前記円弧状の孔部の下方と前記先端部近傍の下方の間の薄板長方形状の切欠部1と円弧状の孔部の斜め下の内方向の開口部から斜め下の内方向に直線的に延出する切欠部2とが連続した切欠部として形成している点」すなわち、被請求人の対比における(G3-g3)「本件登録意匠の各孔部は、各下壁の下面と各側壁の外面とが成すコーナー部を切り欠いて、斜め下外側へ開口した「C」字状の溝部として形成し、その開口端縁が長手方向に沿う鋭いエッジラインとして底面視、正面視、及び底面斜視に表れるのに対し、甲1意匠の各孔部は、各側壁の下端からその下面を巻き込むように内側方へ延出した円弧片の奥部に形成し、その開口が切欠部に連通し、さらにその開口端縁が長手方向に沿って切欠部のラインと共に彫りの深い溝として底面視に表れる点」は、物品の外観として表れる特徴的な形態として、通常の使用状態において底面視、正面視、及び底面斜視の広い範囲に視認し得る差異点であるから、差異点の相対的な評価は高いといえる。

(3)小 括

以上のように、側壁の下端から下壁を巻き込むように内側方へ延出した円弧片の形態と、上壁の前後端よりも更に外側方に突出した傾斜壁の形態とが相俟って、

全体として丸みを帯びた印象受ける甲1意匠

に対し、本件登録意匠では、先行意匠には見られない、下壁の下面と側壁の外面とが成すコーナー部にジョイントピン用の孔部が位置し、

斜め下外側へ開口した「C」字状の溝の開口端縁が長手方向に沿う鋭いエッジラインとして特徴的に表れることで、全体として角張ったシャープな印象を受ける点で甲1意匠の印象とは大きくかけ離れたもの

である。従って、本件登録意匠は、甲1意匠には類似しないことは明らかである。

(4)甲1意匠の関連意匠について

請求人は、甲1意匠の関連意匠として、意匠登録第1762599号及び1762600号の登録が認められたことを以て、孔部の開口方向が異なることが類否判断に影響しないことの根拠とするようである。

しかしながら、斯かる関連意匠の登録は、バリエーションの意匠を厚く保護しようとする関連意匠制度の改正趣旨に沿ったものであって、本件登録意匠と甲1意匠とが類似すること根拠するのは早計である。

第7 むすび

以上のとおり、本件登録意匠が、本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるとする請求人の主張は失当である。

したがって、本件意匠登録には、意匠法第48条第1項第1号の登録無効理由は存在しない。

よって、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」

2 口頭審理陳述要領書における主張

「5 陳述の要領

第1 請求人の口頭審理陳述要領書に対する意見

(1)「(1) 本件登録意匠及び甲1意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様について」に関して

請求人は、被請求人の主張する基本的構成態様(C)及び(c)について、評価し得るほどの差異はないとして、具体的構成態様(G3)(g3)として把握すべきと主張する。

しかし、基本的構成態様(C)(c)の差異は、後述する本件意匠に係る物品の観察方法との関係で重要な意味をなすものである。

(2)「イ 被請求人の主張〔1〕について」に関して

〔1〕イ(ア)について

請求人は、被請求人が提出した先行周辺意匠(乙1~18号証)は、本件意匠および甲1意匠と共通する基本的構成態様を全て具備するものではなく、本件意匠および甲1意匠における下壁内面や船先形状に係る具体的な特徴の何れか又は複数の要素を欠いているから、「下壁内面及び船先形状が、同基本的構成態様との組み合わせにおいて甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態である」と主張する。

しかしながら、被請求人が、先行周辺意匠として乙1~18号証を提示した趣旨は、この種物品には以前から多種多量の先行意匠が存在し、この種物品の新規な創作部分は、先行意匠に存在する構成を組み合わせ、全体として統一的な美観を起こさせる構成とした点にあることから、この種物品の類似範囲は極めて狭いことを主張するものであり、必ずしもこれらが甲1意匠に類似すると主張するものではない。

すなわち、請求人が本件意匠の印象を決定付ける特徴的な態様と主張する「底部壁の内面を、両側壁の内面から僅かに内側の位置から前端部までを下方に窪んだ略半円状に形成し、かつ先端部を斜め上方に跳ね上げた薄く鋭利な爪状の状態とした点にかかる具体的構成態様」は、先行意匠に普通に見受けられるものであって、甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態ではないことを主張したものである。

〔2〕イ(イ)について

請求人は、乙3意匠が、甲1意匠の基本的構成態様の一部を欠き、その孔部も略正方形状の外延形状の中で下壁の下面から下方向にC字状又は逆C字状に延出された部材により形成されているから全体観察した印象が著しく異なると主張する。

しかしながら、被請求人は、乙3号証に係る意匠が甲1意匠に類似すると主張したのではない。

すなわち、この種物品の下壁の端面(断面)形状において、”大きな口を開けた2頭の龍神が相対峙するようなイメージの形態”が既にあり、斯かる形態が、請求人の主張するような「甲1意匠以外の先行意匠にはない特異で斬新な形態」ではないことを主張したものである。

なお、請求人は、乙3意匠の孔部が、略正方形状の外延から下方向に延出された部材で形成されたと主張するが、各図の上壁と下壁との比率からみても孔部は略正方形状の外延内に収まっている。

以上のとおり、乙3意匠と甲1意匠との全体での類否を論難し、甲1意匠の下壁内面及び船先構成態様が先行意匠にはない特異で斬新な形態であるとする請求人の主張は失当である。

〔3〕イ(ウ)について

請求人は、いわゆる「トレーニング機器事件」(平成29年(ワ)第5108号)の判決の一部を抜粋して、甲1意匠の下壁内面及び船先形状が公知意匠である乙3意匠と共通するありふれた構成であっても要部と認定することの妨げにはならない旨主張する。

しかし、当該事件では「使用態様のいかんによっては需要者の注意を引き、要部とすべき場合もある」と判示したものであり、「使用態様のいかん」も含めて何らの根拠の説明もなく、甲1意匠の下壁内面及び船先形状を意匠の要部であるとする請求人の主張は説得力を欠く。

この点、この種物品の類否判断における需要者に関しては後述する。

〔4〕イ(エ)について

請求人は、先行意匠が本件意匠及び甲1意匠に共通する下壁内面及び船先形状にかかる具体的構成態様を具備していないとして、この「下壁内面及び船先形状」が機能的必然性に基づく形状とはいえないと主張する。

しかしながら、被請求人は、底壁部(底壁)内面の形状(「下方に窪んだ略半円状」(円弧状))は、あくまでそれぞれのレール部材に使用される走行部材(ランナー)の車輪形状に合わせて選択される機能的な形状に過ぎないことを主張しているのであって、これを全く無視した請求人の主張は理解し難い。

すなわち、答弁書26頁25行目以下には、次のとおり記載している。

『「下方に窪んだ略半円状」(円弧状)の左右両底部壁の内面形状は、断面楕円形の車輪形状のランナーとの接触部位の形状として、機能的必然性のみに基づく形状とも言え、意匠的特徴という視点からは考慮され難いものである。』

(3)「ウ 被請求人の主張〔2〕について」~「オ 被請求人の主張〔4〕について」に関して

請求人は、「ウ 被請求人の主張〔2〕について」以下において、概ね、

・甲1意匠の関連意匠には龍神相対峙のイメージ要素がない等として、これが本件意匠と甲1意匠の印象の差異が、全体観察としての意匠の類否判断に影響を及ぼさないことの理由であるとし、

・レール部材は、外観形状が筒状であり、使用時には内部構造が視認できないから外観の美観に着目する可能性が低く、主役であるカーテンに比べて意匠的な意味での関心が乏しい物品であり、

・甲第2号証の斜め下方写真は、需要者が同写真からレール部材の意匠的な側面に着目する可能性は低く、取引後使用前の施工途中の段階に一瞬だけに現れる態様にすぎないから、正面、底面及び斜め下方向から観察する方法は通常用いられる観察方法ではない、と主張するようである。

しかしながら、本件審判は、本件意匠の登録無効を請求するものであるから、本件意匠の要部がどこに有るかが検討されなければならないし、取引者の中で施工業者が重要であるとしても、取引者として先ず商品を選択するのは施工業者に依頼する使用者であるから、本件意匠や甲1意匠に係る物品の取引実態を踏まえた需要者像が検討されなければならない。

被請求人は、以下において、これらの点を整理主張する。

第2 本件意匠及び甲1意匠に係る物品等の需要者

(1)需要者について

本件意匠に係る物品は「カーテンレール枠材」であるところ、その流通においては一般的に「大型カーテンレール」と称されるものであって、本件意匠の意匠に係る物品の説明にも記載のとおり、「主として工場や倉庫、店舗などの出入口や室内に設置される仕切カーテン用のレール枠材」である。斯かる物品の説明は甲1意匠にはないが、その実施品であると思われる甲2号証のカタログの記載から同種のものであることが伺える。

そうすると、本件意匠や甲1意匠に係る物品の需要者は、個人消費者というより、主として、工場や倉庫、店舗などを運営する事業者や、施主である事業者から施工の依頼を受けた施工業者であると考えられる。

(2)本件意匠及び甲1意匠に係る物品等の取引実態

被請求人は、本件意匠等に係る物品における実際の取引実態に係る証拠として乙19号証乃至乙25号証を提出する。

乙19号証は、株式会社MonotaROが営む事業者向け間接資材調達用のインターネット販売サイトである「モノタロウ」での「大型カーテンレール」の販売ページである。

乙20号証は、楽天グループ株式会社の営むインターネット上の通信販売サイトである「楽天市場」での「大型カーテンレール」の販売ページであり、乙21号証~乙24号証も同様に「大型カーテンレール」を販売するECサイトの販売ページである。

なお、乙25号証は、請求人のホームページでの「大型カーテンレール」の掲載ページである。

乙19号証乃至乙25号証に掲載の「大型カーテンレール」は、そのほとんどが正面又は底面斜視からの写真を中心に掲載し、販売等を行っている。

従って、これらの広告宣伝手法からみても、この種の物品実際の取引時においては、

その「通常の観察方法」が、主に正面、底面及び斜め下方向からの観察である

ことは明らかである。

また、乙19号証乃至乙25号証に掲載のレールの断面を確認できる写真は、ランナー(走行部材)と組み合わせた使用状態を表すものがほとんどであり、このことは、被請求人が主張するとおり、断面形状に対する需要者の関心は、意匠的な美観を選択基準にするというよりも、せいぜいランナーの車輪形状が走行軌道の形状に適合するかといった機能的な側面が重視されることの証左である。

(3)本件意匠及び甲1意匠に係る物品等の使用時

請求人は、レール部材がランナーの装着されていない状態で取引され、使用時にはランナーにカーテンが装着された態様となるため、甲第2号証の斜め下方写真は、

取引後使用前の施工途中の段階において、一瞬だけに現れる態様にすぎないから

、甲第2号証の斜め下方写真(正面、底面及び斜め下方向からの態様)が、需要者の目に留まることはない旨主張する。

しかしながら、

取引後使用前の施工途中の段階において一瞬だけに現れる態様にすぎないのは、

レール部材の左右端面も同じである。

なお、請求人は、甲2号証の斜め下写真が全体をイメージするためのもので、レール部材という物品の特徴からも意匠的に重要な写真ではない旨主張するが、これらの斜め下写真は、使用時のイメージを訴求する写真であるからこそ、請求人の甲2号証の表紙や乙25のみならず、請求人以外の乙19号証~24号証でも採用されているのであり、この種の物品では、正面、底面及び斜め下方向からの態様が取引時はもとより使用時においも重要であることに疑いの余地はない。

また、請求人は、カーテンが材質や模様のバリエーションの多い部材であるのに対し、レール部材は金属製の筒状であるから、使用時には主役であるカーテンを補助するだけで、その意匠性に需要者が着目する程度は小さい旨主張する。

しかしながら、忘れてならないのは、本件意匠及び甲1意匠のレール部材は、本件意匠の物品の説明や甲2号証の記載からも明らかなように、工場や倉庫、店舗などの出入口や室内に設置される、室内外・室内内の「間仕切りカーテン用」の「大型カーテンレール」であり、

甲2号証の表紙の写真にもあるように、吊り下げられるカーテンは、一般的にはビニールカーテン(透明なシート等)に過ぎない。

従って、このような取引時の写真や使用状況をみても、透明なシートに過ぎない間仕切り用のカーテンに比べてレール部材の意匠性が乏しく、取引時・使用時においてもその外観について需要者が関心を抱く可能性が低いとの請求人の主張は失当である。

第3 本件意匠の要部

乙19号証乃至乙25号証によれば、本件意匠等に係る物品の需要者は、その導入にあたり、「耐荷重や耐候性といった丈夫さ」、「取り付けたい場所にそって施工できるか」、「取り付けた状態の外観がどのようであるか」などを考慮して商品の選択を行っている。

これらのうち、「耐荷重や耐候性といった丈夫さ」の観点では、物品全体の形状(基本的構成態様)や材質(例えば錆びにくいステンレスであるかやアルミの表面に被膜加工をしているか)が需要者の注意を強く惹く部分であることは明らかである。

また、「取り付けたい場所にそって施工できるか」という観点からは、基本的構成態様に加え、複数のレールを接続できるかといった観点からジョイント部(孔部、具体的構成態様G3-g3)が、需要者の注意を強く惹く部分であるといえる。

また、「取り付けた状態の外観がどのようであるか」という観点からは、物品の側面視(答弁書5頁及び8頁の正面図)、底面視(答弁書5頁及び8頁の底面図)、底面斜視(答弁書25頁の底面側斜視図)に着目するものであり、このため、基本的構成態様に加え、具体的構成態様(E-e)(F-f)(G2-g2)(G3-g3)が、需要者の注意を強く惹く部分であるといえる。

以上で確認したとおり、本件意匠等の需要者の取引実態(広告宣伝手法)と取引時及び使用時を含む看者の通常の観察方法に照らすと、本件意匠の要部は、本件意匠の形状及びその外形を特徴付ける部分の形態である基本的構成態様並びに具体的構成態様(E-e)(F-f)(G2-g2)(G3-g3)を組み合わせた部分、すなわち左右端面(断面)形状のみならず底面視、正面視、及び底面斜視から特徴的な外観として表れる点にあるといえる。

第4 本件意匠と甲1意匠の対比及び評価

請求人は、本件意匠の要部に関して直接的には言及していないが、彼此意匠の要部が左右端面(断面)に存すると考えているようである。

しかしながら、レール部材の左右端面は、長尺なレール部材の意匠全体の中で占める割合は小さく、かかる物品の特性に基づきランナーの車輪との接触部分の形状が観察されるとしても、当該車輪の形状と適合するか否か程度の関心に過ぎず、左右端面は使用時にはエンドキャップで閉じられてしまう内部形状であるから、それ自体では注意を引く程度は低い。

請求人は、「下壁内面及び船先形状」が本件意匠と甲1意匠において類似すると主張しているようであるが、両者の基本的構成態様(C-c)並びに具体的構成態様(E-e)(F-f)(G2-g2)(G3-g3)を組み合わせた部分の相違により、本件意匠と甲1意匠とは、明らかに非類似の意匠である。特に甲1意匠の各孔部が、各側壁の下端からその下面を巻き込むように内側方へ延出した円弧片の奥部に形成され、その開口が切欠部に連通し、さらにその開口端縁が長手方向に沿って切欠部のラインと共に彫りの深い溝として底面に表れる点で、甲1意匠は本件意匠のとは別異の美観を呈し、到底両者が類似するものとは言えない。

従って、甲1意匠の存在を理由に本件意匠を無効とすることはできない。」

3 上申書における主張

「第1 請求人主張の要部における本件意匠と甲1意匠の類否

請求人は、本件意匠及び甲1意匠に係る物品の類否判断における観察方法は、とりわけ断面形状を重視するとし、当該断面形状に現れる「下壁内面及び船先形状」が本件意匠等の要部であると主張する。

被請求人は、当該「下壁内面及び船先形状」は本件意匠及び甲1意匠の要部たり得ないことを、すでに審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書にて主張しているが、仮に、百歩譲って、請求人の主張する「下壁内面及び船先形状」のみが意匠の要部であったとしても、当該部分には、答弁書に記載の通りの差異(G1-g1、答弁書11頁4行目)があり、当該部分のみを比較した場合でも両意匠は非類似である。

すなわち、本件意匠の各下壁の上面は、各側壁の下部内面から段部を介して円弧状の窪み部を形成していることにより、くっきりとシャープな印象を受けるのに対し、甲1意匠の各下壁の上面は、各側壁の下部内面から分岐する緩やかな凸の円弧状斜面を介して円弧状の窪み部に連続していることにより、丸みを帯びた柔らかな印象を受ける点で、両意匠は、明らかに異なり、需要者が受ける美感を異にするものというべきである。」

4 証拠方法

被請求人は、乙第1号証から乙第18号証、乙第19号証から乙第25号証を、それぞれ、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書に添付して提出した。乙第1号証から乙第25号証は、全て写しを原本として書証申出したものである。

(1)乙第1号証:実開昭54-40220号公報

(2)乙第2号証:意匠登録第706807号公報

(3)乙第3号証:意匠登録第518627号公報

(4)乙第4号証:実開昭51-123115号公報

(5)乙第5号証:意匠登録第645140号公報

(6)乙第6号証:意匠登録第465183号公報

(7)乙第7号証:実開昭48-42820号公報

(8)乙第8号証:意匠登録第402064号公報

(9)乙第9号証:実開昭53-64016号公報

(10)乙第10号証:実開昭53-79118号公報

(11)乙第11号証:実開平3-48569号公報

(12)乙第12号証:特開平11-151159号公報

(13)乙第13号証:特開2001ー61642号公報

(14)乙第14号証:実開昭57-141583号公報

(15)乙第15号証:実開昭56-73373号公報

(16)乙第16号証:実開昭56-90188号公報

(17)乙第17号証:実開平5-72284号公報

(18)乙第18号証:意匠登録第226035号公報

(19)乙第19号証:EC販売サイト「モノタロウ」での「大型カーテンレール」の販売頁

(20)乙第20号証:EC販売サイト「楽天市場」での「大型カーテンレール」の販売頁

(21)乙第21号証:EC販売サイト「amazon」での「大型カーテンレール」の販売頁

(22)乙第22号証:EC販売サイト「YODOYA」での「大型カーテンレール」の販売頁

(23)乙第23号証:EC販売サイト「DIYショップResta」での「大型カーテンレール」の紹介・販売頁

(24)乙第24号証:EC販売サイト「スタイルダートプロ」での「大型カーテンレール」の紹介・販売頁

(25)乙第25号証:請求人のホームページでの「大型カーテンレール」の掲載頁

第4 口頭審理

本件審判について、当審は、令和7年10月31日付けで審理事項通知書を通知し、これに対して、被請求人は、同年12月5日に口頭審理陳述要領書を提出し、被請求人は、同年12月19日に口頭審理陳述要領書を提出し、令和8年1月14日に口頭審理を行った。

1 請求人の主張

請求人は、口頭審理陳述要領書(前記第2の2)に基づき、意見を述べた。

2 被請求人の主張

被請求人は、口頭審理陳述要領書(前記第3の2)に基づき、意見を述べた。

3 審判長

審判長は、甲第1号証及び甲第2号証、乙第1号証から乙第25号証について取り調べ、本件を、以後、書面審理とする旨通知した。

第5 当審の判断

1 本件登録意匠

本件登録意匠(意匠登録第1693718号、別紙第1参照)は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「カーテンレール枠材」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとし、「この意匠は、正面図において左右方向にのみ連続するものである。各図に表された形状線と連続しない途切れた線は、立体表面の形状を表すための線である。背面図は正面図と、右側面図は左側面図とそれぞれ同一にあらわれるので省略する。」としたものである。

(1)本件登録意匠の意匠に係る物品

本件登録意匠の意匠に係る物品は、主として工場や倉庫、店舗などの出入口や室内に設置される仕切カーテン用の「カーテンレール枠材」である。

(2)本件登録意匠の形状等

本件登録意匠の形状等は、その意匠登録出願の願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものであり、以下のとおり認定する。

ア 全体の態様について

全体が、正面視において、横倒しの略四角筒体で、下面中央に、ランナーの吊下部を通すための中央スリットが形成された、前後対称形とする、同一の断面形状が左右方向に連続する長尺材であって、側面視において、略水平板状の上壁と、上壁の両端寄りから垂下する側壁と、両側壁の下端から中央スリットに向かって略水平に延伸する下壁とから成り、側壁と下壁の角寄りに一対の小円孔が形成されている。

イ 具体的態様について

(ア)上壁

上壁は、略水平板状であって、その上面は、側面視において、僅かに隆起した帯状凸部を中央と両端の3か所にほぼ等幅で形成しており、下面は、中央に略V字状の細い溝を形成している。

(イ)側壁

側壁は、側面視において、上壁の両端のやや内寄りの下面位置から、短く垂下した後、屈曲する肩部を形成し、更に垂下して下端部まで略垂直壁を形成したもので、肩部は、短い垂下部の下端から外向きに屈曲して傾斜壁を形成し、下端で真下向きに屈曲したものとしている。側壁の外面の上下中央には、略V字状の細い溝を形成している。

(ウ)下壁

下壁は、側面視において、側壁の下端から中央スリットに向かって水平に約3分の1幅延伸した板状体であって、その上面は、側壁の内面下端寄りから小さな水平部を形成した後、円弧状の窪み部を形成し、先端部は斜め上方に向けて細く尖った突片を形成しており、下面は、ほぼ全面を平坦面とし、外側の端に小円孔に通じる細スリットを形成している。

(エ)中央スリット

中央スリットは、全幅の約3分の1幅を開口したもので、両縁面は奥の方(上方)に向かって狭まる傾斜面としている。

(オ)小円孔

小円孔は、ジョイントピンを差し込むためのものであり、側面視において、略C字状に一か所が開口した円弧状であって、開口部は外側斜め下方に向いており、側壁と下壁が交わる角を割るように形成した細スリットへ通じている。

2 無効理由の要点

請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由は、「本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠(意匠登録第1550013号、以下「甲1意匠」という。)に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。」というものである(以下「無効理由」という)。

3 甲1意匠

甲1意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成28年(2016年)5月23日に特許庁が発行した意匠公報に掲載された、意匠登録第1550013号の意匠であって、意匠公報の記載によれば、意匠に係る物品を「レール部材」とし、その形状等を、意匠公報の記載及び図面に表されたとおりとし、「この意匠は正面図において左右方向に連続するものである。背面図は正面図と同一にあらわれ、左側面図は右側面図と同一にあらわれるため省略する。」としたものである。(別紙第2参照)

(1)甲1意匠の意匠に係る物品

甲1意匠の意匠に係る物品は、意匠公報の記載によれば、縦方向又は横方向に配設され、走行部材(又はランナー)が走行可能な「レール部材」である。

(2)甲1意匠の形状等

ア 全体の態様について

全体が、正面視において、横倒しの略四角筒体で、下面中央に、ランナーの吊下部を通すための中央スリットが形成された、前後対称形とする、同一の断面形状が左右方向に連続する長尺材であって、側面視において、略水平板状の上壁と、上壁の両端寄りから垂下する側壁と、両側壁の下端から中央スリットに向かって略水平に延伸する下壁とから成り、側壁と下壁の角寄りに一対の小円孔が形成されている。

イ 具体的態様について

(ア)上壁

上壁は、略水平板状であって、その上面は、側面視において、僅かに隆起した帯状凸部を中央と両端の3か所に形成し、そのうち中央の帯状凸部の幅は他の帯状凸部の約2倍としており、下面は、中央に浅い帯状凹部を形成している。

(イ)側壁

側壁は、側面視において、上壁の両端のやや内寄りの下面位置から、短く垂下した後、屈曲する肩部を形成し、更に垂下して下端部まで略垂直壁を形成したもので、肩部は、短い垂下部の下端から外向きに屈曲して短い水平壁を形成し、さらに屈曲して傾斜壁を形成し、下端で真下向きに屈曲したものとしている。

(ウ)下壁

下壁は、側面視において、側壁の下端から中央スリットに向かって水平に約3分の1幅延伸した板状体であって、その上面は、側壁の内面下端寄りから小さな突円弧状面を形成した後、円弧状の窪み部を形成し、先端部は斜め上方に向けて細く尖った突片を形成しており、下面は、外側と内側(中央スリット側)の両端部を平坦面とし、その間を前記平坦面から段差状に内側(上方)へ一段没入させてその箇所に平坦面と傾斜面を形成し、傾斜面から延設して小円孔に通じる、細スリットを形成している。

(エ)中央スリット

中央スリットは、全幅の約3分の1幅を開口したもので、両縁面は奥の方(上方)に向かって狭まる傾斜面としている。

(オ)小円孔

小円孔は、ジョイントピンを差し込むためのものであり、略C字状に一か所が開口した円弧状であって、開口部は内側斜め下方に向いており、細スリットを介して下面の没入箇所へ通じている。また、これに伴い、側壁外面と下壁外面が交わる角部は角丸状に両壁外面をつなげている。

4 本件登録意匠と甲1意匠の対比

(1) 意匠に係る物品の対比

本件登録意匠と甲1意匠(以下、本件登録意匠と甲1意匠を合わせて「両意匠」という。)の意匠に係る物品を対比すると、本件登録意匠については、「カーテンレール枠材」、甲1意匠については、「レール部材」と、表記は異なるが、いずれも、主として工場、倉庫及び店舗などの出入口や室内に設置される仕切カーテンなどを吊り下げるために用いるカーテンレール枠材であって、両意匠の意匠に係る物品の用途及び機能は一致する。

(2) 両意匠の形状等の対比

両意匠の形状等を対比すると、主として、以下の共通点及び相違点が認められる。

ア 共通点

(ア)全体について、正面視において、横倒しの略四角筒体で、下面中央に、ランナーの吊下部を通すための中央スリットが形成された、前後対称形とする、同一の断面形状が左右方向に連続する長尺材であって、側面視において、略水平板状の上壁と、上壁の両端寄りから垂下する側壁と、両側壁の下端から中央スリットに向かって略水平に延伸する下壁とから成り、側壁と下壁の角寄りに一対の小円孔が形成されている点、

(イ)上壁は、略水平板状で、側面視において、上面に、僅かに隆起した帯状凸部を中央と両端の3か所に形成した点、

(ウ)側壁は、側面視において、上壁の両端のやや内寄りの下面位置から、短く垂下した後、屈曲する肩部を形成し、更に垂下して下端部まで略垂直壁を形成した点、

(エ)下壁は、側面視において、側壁の下端から中央スリットに向かって水平に約3分の1幅延伸した板状体であって、その上面に、円弧状の窪み部を形成し、先端部は斜め上方に向けて細く尖った突片を形成した点、

(オ)中央スリットは、全幅の約3分の1幅を開口したもので、両縁面は奥の方(上方)に向かって狭まる傾斜面としている点、

(カ)小円孔は、側面視において、略C字状に一か所が開口した円弧状とした点、

において、共通する。

イ 相違点

(ア)上壁について、本件登録意匠が、側面視において、上面の帯状凸部の幅を3本ともほぼ同幅とし、下面中央に略V字状の細い溝を形成しているのに対し、甲1意匠は、上面中央の帯状凸部の幅は両端の帯状凸部の約2倍とし、下面中央に、浅い帯状凹部を形成している点、

(イ)側壁について、本件登録意匠が、側面視において、肩部を、短い垂下部の下端から外向きに屈曲して傾斜壁を形成し、下端で真下向きに屈曲したものとし、側壁の外面の上下中央には、略V字状の細い溝を形成しているのに対し、甲1意匠は、肩部を、短い垂下部の下端から外向きに屈曲して短い水平壁を形成し、さらに屈曲して傾斜壁を形成し、下端で真下向きに屈曲したものとし、側壁の外面に細い溝はない点、

(ウ)下壁の上面について、側面視、側壁の内面下端寄りにつながる箇所において、本件登録意匠が、小さな水平部を形成しているのに対し、甲1意匠は、当該箇所に小さな突円弧状面を形成している点、

(エ)下壁の下面について、側面視において、本件登録意匠が、ほぼ全面を平坦面としているのに対し、甲1意匠は、外側と内側(中央スリット側)の両端部を平坦面とし、その間を前記平坦面から段差状に内側(上方)へ一段没入させてその箇所に平坦面と傾斜面を形成し、傾斜面から延設して小円孔に通じる、細スリットを形成している点、

(オ)小円孔について、側面視において、本件登録意匠が、略C字状とした円弧状の開口部は外側斜め下方に向いており、側壁と下壁が交わる角を割るように形成した細スリットへ通じているのに対し、甲1意匠は、開口部が内側斜め下方に向いており、細スリットを介して下面の没入箇所へ通じている。また、これに伴い、側壁外面と下壁下面が交わる角部は角丸状に両壁面をつなげている点、

において相違する。

5 類否判断

以上の共通点及び相違点について、両意匠の類否判断に与える影響を評価し、その上で、各部を総合して意匠全体として形状等を評価する。

(1)意匠に係る物品

両意匠の意匠に係る物品は、その用途及び機能が一致するから、同一である。

(2) 形状等

ア 両意匠の需要者及び観察方法

両意匠の意匠に係る物品である「カーテンレール枠材」は、一般的に「大型カーテンレール」と称され、主として工場や倉庫、店舗などの出入口や室内に設置される仕切りカーテン用のレール枠材であるところ、工場等の出入口等に取り付けられた後は、それらの構造物と調和するように設置されるものであり、機能としては、仕切りカーテン等の開閉用部材をランナーを介して吊り下げること、円滑な開閉操作を可能とすること等が求められるものであって、その需要者たる者は、工場や倉庫、店舗などを運営する事業者及び施主である事業者、並びに、前記事業者から施工の依頼を受けた施工業者であると考えられる。

そして、本件物品の取引において、需要者は、レール部材の耐荷重や耐久性の他、ランナーがレール内を円滑に走行するかといった観点から、左右側面形状(端面形状)に関心を持って観察し、さらに、本件物品を上記構造物に取り付けた場合の周囲との調和に関係する外観、すなわち、正面視ないし底面視の形状に着目して観察するものと考えられる。

したがって、両意匠の形状等の類否判断に当たり、まず、側面視に表れる構成態様を評価するとともに、正面視ないし底面視の外観に表れる構成態様を評価し、さらに、その他の部分に表れる構成態様の評価を加えた上で、それらを総合して意匠全体として形状等を評価することとする。

イ 共通点の評価

(共通点ア)の全体は、同種の物品において常套的な構成態様といえるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

(共通点イ)は、需要者の注意を引くとは認められない上壁にかかるものであって、略水平板の表面上にほんの僅かな凹凸が視認できるものにすぎず、格別の特徴とは認められないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

(共通点ウ)は、側壁の概括的な態様にかかるものといえ、同様のものが、本件登録意匠の意匠登録出願前の公知意匠に多数見られ(甲第2号証、乙第5号証、乙第9号証、乙第10号証、乙第13~第15号証)、格別の特徴とは認められないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

(共通点エ)は、下壁の上面において、ランナーの車輪が走行する窪み部及びランナーの吊下部を通す中央スリットに接続する部位にかかるものであって、施工後は、視認しづらくなる部位に係る形状であるが、開閉部材を吊り下げた際の荷重強度や円滑な開閉操作を可能とするかといった観点から、需要者が関心をもって観察する部分といえるから、両意匠の類否判断に与える影響は一定程度ある。

(共通点オ)は、ランナーの吊下部を通す中央スリットにかかるものであって、円滑な開閉操作を可能とするかといった観点から、需要者が関心をもって観察する部分といえ、両縁面に形成した奥に向かって狭まる傾斜面は、上記(共通点エ)と相まって下壁先端の突片形状を形成するものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は一定程度ある。

(共通点カ)は、この種の物品において、レール下面部にジョイントピン用の小円孔を設け、形状を略C字状に一か所が開口した円弧状としたものはありふれたものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

ウ 相違点の評価

(相違点ア)は、需要者の注意を引くとは認められない上壁にかかるものであって、略水平板の表面上にほんの僅かな凹凸が視認できるものにすぎず、格別の特徴とは認められないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

(相違点イ)は、肩部の面構成及び外面の細溝の態様において若干の相違が認められるが、部分的な相違である上、需要者がさほど注意をもって観察しない部分であるといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

(相違点ウ)は、下壁の上面にかかるものであって、需要者が関心を持つといえるランナーの車輪が走行する窪み部に隣接する部分ではあるが、直接に車輪と接触する部分ではなく、かつ、意匠全体の中では小さな部位における微差といえるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

(相違点エ)は、下壁の下面にかかるものであって、本件物品を室内上方に設置した後は、下から見上げるように観察した場合に視認できる主要な部分であり、設置場所の室内と調和するかといった観点から、需要者が関心をもって観察する部分といえるところ、下面のほぼ全面が平坦面であるか、両端部を除く中央に段差状の没入箇所が形成されているかの相違は、両意匠を下方ないし斜め下方から観察した場合の視覚的印象を大きく異ならせるものといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。

(相違点オ)は、小円孔の開口方向の相違に伴って、本件登録意匠は、外側斜め下方へ向いた開口部によって、側壁と下壁が交わる角を割るように細スリットが形成され、側壁と下壁が分離している様に観察されるのに対し、甲1意匠は、内側斜め下方へ向いた開口部によって、下壁下面の没入箇所へ通じており、側壁外面と下壁下面が交わる角部は角丸状に両壁面がつながって観察されるとの相違は、両意匠を下方ないし斜め下方から観察した場合の視覚的印象を大きく異ならせるものといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。

エ 両意匠の形状等の類否判断

以上の共通点及び相違点を総合して、意匠全体として観察すると、両意匠は、取引時において観察されやすい側面視に表れる構成態様において、(共通点エ)及び(共通点オ)に関わる、下壁先端の突片形状において共通の視覚的印象をもたらす効果が一定程度あるといえるが、それは部分的な共通点であるところ、(相違点ウ)及び(相違点エ)を加えて、下壁全体の構成態様を総合的に見た場合は、両意匠の側面視における視覚的印象は異なるものといえる。

次に、両意匠の設置後に観察されやすい、正面視ないし底面視に表れる構成態様については、(相違点エ)及び(相違点オ)に関する、下壁の下面及び側壁と下壁の角部の相違が目立つものであって、両意匠の正面視ないし底面視における視覚的印象は異なるものといえる。

そして、前記以外の両意匠の共通点及び相違点が、両意匠の類否判断に与える影響はいずれも小さいものであって、側面視及び正面視ないし底面視における両意匠の視覚的印象を左右しない。

そうすると、取引時及び設置後のいずれの観点からも、両意匠を観察した場合の視覚的印象は異なるものであって、これに対する共通点の影響は微弱なものであり、前記の印象を左右しない。したがって、両意匠を意匠全体として対比し観察した場合、両意匠の形状等は類似しない。

(3)両意匠の類否判断

以上を総合し、両意匠を意匠全体として観察し、判断すると、意匠に係る物品は同一であるが、形状等において類似しないから、本件登録意匠は、甲1意匠に類似しない。

(4)請求人の主張について

請求人は、本件意匠に係る物品「カーテンレール材」の意匠について、需要者(取引者)は、走行部材との関係を重視し、内部の形状に注目するのであり、取引時(取引時のカタログ等を含む)の形状等に注目するのであって、使用時の外観に着目する可能性は低い旨主張する。また、両意匠の孔部の開口の相違については、斜め下の外方向に開口しているか、内方向に開口しているかの、設計上の微差・バリエーションにすぎず、需要者の注意は向かない旨主張する。

上記請求人の主張について検討するに、上記(2)アに示したように、本件意匠に係る物品の需要者は、取引時において、レール部材の耐荷重や耐久性の他、ランナーがレール内を円滑に走行するかといった観点から、左右側面形状(端面形状)に関心を持って観察するものといえるが、室内等に取り付けられた後は、それらの構造物と調和するように設置されるものであり、そうした観点から、外観にかかる形状等にも関心を持って観察するものといえる。

その上で、両意匠の内部及び外観にかかる形状等の相違点を検討した場合、「設計上の微差・バリエーション」とはいえない、類否判断に大きな影響を与える相違であると判断されることは、上記(2)ウ及びエのとおりである。

したがって、上記請求人の主張は採用することができない。

6 小括

以上のとおり、本件登録意匠は、甲1意匠と類似する意匠ということはできず、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しないから、請求人が主張する無効理由によって、本件登録意匠の登録が、意匠法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とすべき理由はない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由に係る理由及び証拠方法によっては、本件登録意匠の登録は、無効とすることができない。

審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。

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