結論テキスト
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024890052 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本件登録第6211070号商標(以下「本件商標」という。)は、「アグリリクルート」の文字を標準文字で表してなり、平成31年3月22日に登録出願、第35類「広告業,経営の診断又は経営に関する助言,事業の管理,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,輸出入に関する事務の代理又は代行,広告用具の貸与,求人情報の提供,飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,食肉の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,野菜及び果実の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,牛乳の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、令和元年12月4日に登録査定、同月27日に設定登録されたものである。
請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する登録第5746324号商標(以下「引用商標」という。)は、「RECRUIT」の文字を標準文字で表してなり、平成25年12月12日に登録出願、第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、同27年3月6日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書、審判事件弁駁書及び令和8年2月5日付け上申書において要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第109号証を提出した(枝番号を含む。なお、以下、証拠の記載にあたっては、「甲第○号証」を「甲○」、「乙第○号証」を「乙○」のように表記する。)。
(1)本件商標については、商標法第4条第1項第8号、同項第11号及び同項第15号に該当するため、無効事由がある。
(2)具体的理由
ア 請求人について
請求人は、1960年(昭和35年)3月に「大学新聞広告社」として創業後、1963年(昭和38年)に、株式会社日本リクルートセンターを設立して以来、その商号には一貫して「リクルート」の文言を使用している。請求人は、1984年(昭和59年)に、株式会社リクルートに商号変更するも、その後、2012年に現在の商号である株式会社リクルートホールディングスに社名変更をした(甲3)。また、2018年4月、請求人の関連会社であった株式会社リクルートアドミニストレーションを株式会社リクルートに商号変更し、請求人の関連会社が株式会社リクルートの商号を引き続き利用している。その後、株式会社リクルートは、2021年4月、事業会社7社(株式会社リクルートキャリア、株式会社リクルートジョブズ、株式会社リクルート住まいカンパニー、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ、株式会社リクルートライフスタイル、株式会社リクルートコミュニケーションズ、株式会社リクルートテクノロジーズ)を吸収合併し(甲4)、現在に至っている。
請求人の企業規模は、資本金400億円、連結売上収益は3兆4164億円(令和5年度)、グループ従業員数5万1373人(令和6年3月31日時点)であり、名実ともに我が国を代表する企業の一角を占めている(甲5)。さらに、その高い名声は日本のみならず海外にも広く知れ渡っている。すなわち、請求人及び請求人の関連会社(以下これらを合わせて「請求人グループ」という。)は、オーストラリア、フィンランド、ドイツ、イタリア、オランダ、スイス、トルコ、イギリス、シンガポール、インド、ベトナム、インドネシア、マレーシア、台湾、タイ、アメリカ、香港、中国に至るまで、子会社、関連会社を含む海外拠点を設けることにより、常にグローバルマーケットを視野において事業を展開しており、請求人は日本国内のみならず外国においても取引者、需要者の間に広く知れ渡っている。
イ 引用商標及び「リクルート」の表示の著名性について
請求人は、1963年に「株式会社日本リクルートセンター」を設立して以来現在に至るまで、その商号には一貫して、「リクルート」の文言を使用している。加えて、請求人グループは、「リクルート」、「RECRUIT」及び「Recruit」の表示(以下これらを合わせて「リクルート表示」という。)を使用して、日本全国で発行される情報誌等を多数出版するとともに、インターネット上のウェブサイトを通じて、求人情報をはじめとする様々な情報提供サービスを展開し、さらには莫大な広告宣伝費をかけて、全国紙やテレビ、ラジオ等による積極的な広告宣伝活動を行っている。そして、請求人は、かかるリクルート表示に関して多数の登録商標を保有しており、引用商標はその一つであるが、当該引用商標は、請求人グループによる長年の使用の結果、極めて広範囲な分野で広く認識され、少なくとも求人、就職関係等の情報誌発行事業との関係において全国的に著名となっていることは明らかである。
(ア)引用商標及びリクルート表示の使用期間及び請求人グループの売上げ
請求人は、1963年に「株式会社日本リクルートセンター」という商号に社名変更をして以来、現在に至るまで60年間にわたり、その商号には一貫して、「リクルート」との文言及び引用商標を使用している。また、請求人グループも、リクルートエージェントやリクルートスタッフィング等の自社の事業において、「リクルート」や引用商標を使用してきた(甲6)。
請求人グループの2023年3月期の日本国内の連結業績における売上収益は、3兆4295億円以上であり(甲7)、2016年3月期は1兆9419億円であるものの、2017年3月期以降は、毎年2兆円以上となっている(甲8)。
(イ)請求人の市場における地位
請求人グループは、民間調査会社の人材業界のリサーチによれば、2018年度3月期の日本国内の人材業界の総合サービス部門の売上高のランキングで第1位とされている(甲9)。
(ウ)宣伝広告活動
請求人グループは、莫大な広告宣伝費をかけて、全国紙やテレビ、ラジオ等による積極的な広告宣伝活動を行っている。かかる活動の結果、引用商標及びリクルート表示は、特に求人、就職関係等の情報誌発行事業との関係では、全国的に著名となっている。以下に、人材関連事業における宣伝広告活動の一例を挙げる。
a 請求人グループは、請求人の事業について、テレビコマーシャルを継続的に行っている。このテレビCMは、複数の種類が存在しているが、いずれにおいても引用商標及びリクルート表示が使用され、全国的に放送されている(甲10~甲31)。
b 請求人グループは、屋外広告においても積極的に宣伝広告を行っている(甲32~甲39)。
当該広告は、鉄道、駅構内等の複数の場所に複数の種類が存在しているが、いずれにおいても引用商標及びリクルート表示が使用されている。
c 請求人グループは、いわゆる全国紙や地方紙問わず、請求人の事業について定期的に新聞や雑誌へ広告を掲載してきた(甲40~甲45)。
(エ)請求人グループは、リクルート表示が含まれる名称にて各種の表彰を受けている(甲46~甲49)。
(オ)請求人グループは、いわゆる全国紙や地方紙問わず、請求人の活動について定期的に新聞等に取り上げられてきた(甲50~甲54)。
(カ)各種展示会やイベントヘの出展・開催に関する資料
請求人グループは、各種の展示会やイベントを開催したり、これらに積極的に参加している(甲55~甲57)。
(キ)小括
以上のように、請求人グループは引用商標及びリクルート表示を使用して日本全国で多数の広告宣伝を行っているほか、各種イベント等においてもこれらの表示が取り上げられていることから、引用商標及びリクルート表示は、請求人グループを想起させるものとして、極めて高い知名度と認識を獲得しているといえ、その著名性が裏付けられている。
ウ 商標法第4条第1項第8号について
(ア)引用商標が著名な略称であること
上記イのとおり、リクルート表示は請求人グループの略称であり、少なくとも求人、就職関係等の情報誌発行事業との関係で全国的に著名となっていることは、明白である。
(イ)本件商標が著名な略称を含むこと
本件商標は、「アグリ」の片仮名文字と「リクルート」の片仮名文字を結合してなり、著名な略称であるリクルート表示をそのまま構成に含む。
(ウ)過去の審決例
例えば、過去の審決例において、花王株式会社の略称である「花王」の著名性を認め、商標「紅花王/ルージュ ファ ワン」(登録第5631188号)は商標法第4条第1項第8号に該当すると判断したものがある(無効2016-890003)。かかる審決例も踏まえると、本件商標は請求人グループの著名な略称であるリクルート表示を含み、同号に該当する。
(エ)小括
以上より、本件商標は、他人の著名な略称を含み、また、請求人から承諾を得ているものでもないため、商標法第4条第1項第8号に該当し、商標登録を受けることができない。
エ 商標法第4条第1項第11号について
(ア)本件商標と引用商標の類否
a 本件商標について
本件商標は、「アグリリクルート」の片仮名文字を横書きしてなる。「農業」は英語で「agriculture」と表記するが、「agri」部分は他の語と結合して、「農業の~」「農作物の~」という意味で用いられることが多く(甲58の1及び2)、「アグリ○○」や「あぐり○○」といった使用例は多い(甲59~甲68)。
したがって、「アグリ」部分は「農業の~」「農作物の~」という一般的意味を有する。一方、「リクルート」の文字部分は、本来的には「募集、採用」を意味する既存語であるものの、特に本件商標の指定役務との関係では、請求人グループの著名ブランドを想起させる。そのため、本件商標のうち、「リクルート」の文字部分が出所表示標識として強く支配的な印象を与え、要部として分離して認識される。
そうすると、本件商標からは、「アグリリクルート」のほか、「リクルート」の称呼も生じる。また、本件商標全体からは、「農業分野における人材の採用・求人」といった観念が生じ得るが、それと同時に、「リクルート」の部分から請求人グループの著名ブランドを想起させる。
b 引用商標について
引用商標は、「RECRUIT」の欧文字を標準文字で横書きしてなり、「リクルート」の称呼が生じ、請求人グループの著名ブランドを想起させる。
c 本件商標と引用商標との類否
(a)本件商標は「アグリリクルート」の片仮名文字からなり、「アグリ」の文字の有無において引用商標とは外観が相違する。
(b)本件商標のうち「リクルート」の部分と引用商標は称呼が共通する。
(c)本件商標のうち「リクルート」の部分と引用商標は、ともに請求人グループの著名ブランドを想起させる点で観念が共通する。
以上によれば、本件商標は、引用商標と「アグリ」部分で相違するとしても、かかる相違は、本件商標と引用商標の称呼及び観念の共通性を凌駕するものではなく、本件商標と引用商標とは、その外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、類似するものである。
d 特許庁の審査基準
特許庁発行の「商標審査基準〔改訂第16版〕」(以下「審査基準」という。)において、結合商標の類否判断に関し、「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする」と規定されている。
前述イのとおり、引用商標及びリクルート表示は、請求人グループを想起させるものとして、高い知名度と認識を獲得しているといえ、著名性を有している。
そして、本件商標は著名な引用商標の片仮名表記と「アグリ」の片仮名表記が結合したものであることから、審査基準の規定にも該当する。
e 過去の審査例
例えば、過去の審査例において、「リクルート」の英語表記である「Recruit」を含む商標「RecruitBank」(商願2014-069032)は、引用商標と類似するとして拒絶査定となっている。この過去の審査例においても、商標の構成のうち、「Recruit」が要部と認定され、需要者の間に広く認識された引用商標と他の文字又は図形等と結合した商標であり、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上のつながりがあるとしても、引用商標と類似すると判断されたものと考えられる。
(イ)本件商標の指定商品・役務と引用商標の指定商品・役務の類否
本件商標の指定役務は、いずれも引用商標の指定役務「広告業,経営の診断又は経営に関する助言,事業の管理,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,輸出入に関する事務の代理又は代行,広告用具の貸与,求人情報の提供,飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,食肉の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,野菜及び果実の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,牛乳の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と同一である。
(ウ)小括
本件商標と引用商標とは、少なくとも称呼及び観念が共通し、審査基準、及び過去の審査例を考慮しても、両者は類似し、同一の役務について使用されるものである。
オ 商標法第4条第1項第15号について
(ア)本件商標と引用商標との類似性の程度について
a 本件商標について
本件商標は、「アグリ」の片仮名文字と「リクルート」の片仮名文字を横書きしてなるものである。上記のとおり、本件商標は、「リクルート」の文字部分が、出所表示標識として強く支配的な印象を与えるため、要部として分離して認識され、「リクルート」の称呼も生じ、請求人グループの著名ブランドを想起させるものである。
b 引用商標について
引用商標は、「RECRUIT」の欧文字を標準文字で横書きしてなり、「リクルート」の称呼が生じ、請求人グループの著名ブランドを想起させるものである。
c 本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標は、少なくとも称呼及び観念が共通するため、類似性の程度は極めて高いものといえる。
(イ)引用商標の周知著名性及び独創性の程度について
引用商標は、請求人グループの長年の使用の結果、特に求人、就職関係等の情報誌発行事業との関係では、全国的に著名となっている。
(ウ)本件商標の指定役務と請求人グループの業務に係る役務との関連性の程度について
請求人グループは、特に、求人、就職関係等の情報誌発行事業等の分野で長期にわたってリクルート表示を使用しているが、そもそも求人、就職については、分野を問わず、ありとあらゆる分野の求人、就職についで情報提供等を行ってきているものであり、極めて広範囲の分野との関連性がある。
のみならず、請求人グループは、求人、就職関係等の情報誌発行事業以外にも、住宅、飲食、美容、旅行、結婚・出産、自動車、教育、小売企業を始めとする各種企業に対する会計や決済関連の分野における業務・経営支援等の極めて広範な分野でリクルート表示を使用してきた実績を有する。
さらに、上述のように、請求人グループは、これらの各事業において、株式会社リクルートキャリア、株式会社リクルートジョブズ、株式会社リクルート住まいカンパニー、株式会社リクルートマーケテイングパートナーズ、株式会社リクルートライフスタイル、株式会社リクルートコミュニケーションズ、株式会社リクルートテクノロジーズなどのように、「リクルート」の語を含んだ商号を用いて様々な事業を営んできた実績を有している。また、株式会社リクルートは、2013年3月から2024年6月までの10年以上にわたって、ファッション、家具、食品、おもちゃ、家電、日用雑貨、書籍、ペット用品、車・バイク用品など、幅広いラインナップを揃えたオンライン通販サイト「ポンパレモール」を運営し、小売業務を行ってきた(甲69~甲76)。
そして、現在も、株式会社リクルートMUFGビジネス(甲77)、株式会社リクルートエグゼクティブエージェント(甲78)、株式会社リクルートオフィスサポート(甲79)、株式会社リクルートカーセンサー(甲80)、株式会社リクルートキャリアコンサルティング(甲81)、株式会社リクルートゼクシィなび(甲82)、株式会社リクルートペイメント(甲83)、株式会社リクルートメディカルキャリア(甲84)、株式会社リクルートライフスタイル沖縄(甲85)、株式会社リクルートスタッフィング(甲86)などのように、「リクルート」の語を含んだ商号を多数用いて幅広い事業を営んでいる。
以上のように、請求人グループの営む事業の性質に加えて、請求人グループが経営の多角化を推進し、極めて広範な領域において事業を営んでいることに鑑みると、本件商標の指定役務と請求人グループの業務に係る役務とは広い範囲で関連性を有している。
(エ)需要者の共通性
請求人グループの営む事業の性質に加えて、請求人グループは経営の多角化を推進し、極めて広範な領域において事業を営んでいることから、請求人グループの需要者は本件商標の需要者を包含する関係にあるといえ、その範囲で両者の需要者は共通する。
(オ)小括
本件商標と引用商標の類似性が極めて高いことや、引用商標が著名であること、請求人グループの営む事業の性質に加えて、請求人グループは上述のように「リクルート」の語を含んだ商号を多数用いて幅広い事業を営んでいる等の事情を総合的に考慮すれば、本件商標に接する需要者・取引者は、本件商標に係る役務が請求人グループの子会社や系列会社等の営業主の業務に係る役務であると誤信される可能性が高く、出所について混同するおそれが高いものであることは明らかである。
カ むすび
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同項第11号及び同項第15号に基づき、無効である。
(1)リクルート表示の著名性について
東京地方裁判所平成5年3月24日判決(平2(ワ)16538号)は、請求人が「株式会社日本リクルートセンター」から「株式会社リクルート」への商号変更する前の1980年(昭和55年)8月時点で、既に「リクルート」の営業表示としての全国的な著名性を認定している。これは、請求人自ら「リクルート」と称していたほか、新聞や雑誌記事等においても「リクルート」や「リクルート社」などと称されており、「リクルート」の表示が広く需要者に浸透していたためである。
また、同判決では、原告(株式会社リクルート)が同判決時において資本金27億2022万円、1991年(平成3年)度の総売上高は3637億2100万円に達し、関係会社40数社、総従業員数7800名余を擁している、と認定されている。近時の請求人の企業規模は、資本金400億円、連結売上収益は3兆5574億円(令和6年度)、グループ従業員数5万1373人(令和6年3月31日時点)となっており、同判決当時を大幅に上回る規模に拡大している。さらに、上記のとおり同判決時点での関係会社は40数社であったのに対し、現在連結子会社は223社、関連会社は8社(2025年3月31日時点)となっており、請求人グループに含まれる企業数も大幅に拡大している(甲87)。
さらに遡って、本件商標の登録の前後10年間(2013年3月期~2022年3月期)の株式会社リクルートホールディングスの収益(連結)の推移を見ても、一貫して成長していることが分かる(甲88~甲97)。また、人材派遣業界で、請求人の売上高は国内で圧倒的な首位となっている(甲98)。
さらに、旧東証一部における上場企業の時価総額ランキングでも、請求人の順位は、2016年8月に41位(甲99)、2017年8月に27位(甲100)、2018年8月に12位(甲101)、2019年8月に13位(甲102)、2020年8月に9位(甲103)、2021年8月に4位(甲104)と大幅に上昇している。
このように、請求人の事業規模は上記判決時点と比較しても大幅に拡大しており、同判決時点で著名であった「リクルート」の表示は更に著名となったと評価することも十分可能である。しかるに、被請求人は「リクルート」の表示が平成2年時点で著名であったと評価されるにすぎないかのごとく主張しており、実体に即していない。また、被請求人は「リクルート」の表示の著名性は「該事件との関係において」認定されたにすぎないと主張しているが、「リクルート」の表示が全国に広く認識されていたことは、一般的・客観的事実であり、特定の事件に限られるような性質のものではない。したがって、「リクルート」の表示の著名性は本件商標の出願時、登録査定時においても変わらず存在していた事実といえる。
また、リクルート表示には片仮名、欧文字の差異などがあるとしても、商標の構成文字を同一の称呼の生じる範囲内で文字種を相互に変換して表記することが我が国において一般的に行われることからすると、これらは単にそれぞれの文字を置き換えたものとして取引者、需要者に認識されるものであるから、この文字種の相違が出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとはいえない。したがって、「リクルート」の片仮名表記のみならず、「RECRUIT」及び「Recruit」を含むリクルート表示は等しく著名性を有するというべきである。
さらに、被請求人は請求人の提出に係る証拠中で、「リクルート」の表示に他の語を加えた使用例が複数存在している点を問題視しているが、「ホールディングス」は単に会社の種別を、「グループ」は単に「リクルートのグループ会社」程度の意味を、「キャリア」、「ジョブズ」、「スタッフィング」はそれぞれ単に「経歴」、「仕事」、「人材の配置」という人材や採用関連の役務との関係では極めて一般的な意味を有する語にすぎない。したがって、これらの語においてもあくまで要部は著名な表示である「リクルート」部分にあるから、需要者はこれらの語に接した際、リクルートの持株会社やリクルートのグループ会社であると認識することは明らかである。また、後述するように、請求人は傘下に「リクルート」と他の語を結合させた語からなる子会社等を多数有しているという事実を考慮すれば、なおさら、需要者が「リクルート○○」のような語に接した際、請求人グループ又は請求人グループと何らかの関連を有する企業や事業を意味すると理解する可能性が高いといえる。また、被請求人はリクルート表示が使用されているとしても、請求人提出に係る証拠中では他の文字や図形が結合した態様で使用されている例が複数存在することを問題視している。しかし、前記判決のとおり「リクルート」の表示は遅くとも昭和55年8月には全国的に広く認識されていたものである。また、これまでに述べてきた請求人及び請求人グループの業歴、規模、事業実績に鑑みれば、欧文字の「RECRUIT」及び「Recruit」を加えたリクルート表示全体についても、同時期、又はそれに近接する時期に既に十分な著名性を獲得していたことは明らかである。
これに対し被請求人は、あたかも被請求人がリクルート表示を他の文字や図形を付した態様の商標しか使用しておらず、「リクルート」や「RECRUIT」単独では著名なものとなっていないかのように主張している。しかし、被請求人は既に著名性を獲得しているリクルート表示について、状況に応じて他の文字や図形を付した態様でも使用しているにすぎない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
被請求人は、本件商標について、「アグリ」部分と「リクルート」部分に軽重はなく、本件商標全体をもって一体不可分の商標を表したと理解するのが相当である、として、「アグリリクルート」と引用商標を比較した上で非類似と主張している。しかし、リクルート表示は請求人グループを示す著名な表示であり、特に人材領域においては請求人グループを示す表示として極めて著名な表示といえる。引用商標が人事、求人等の分野を指定役務に含みながらも登録査定を受けているのは、リクルート表示の請求人グループにおける著名性ゆえといえる。したがって、「リクルート」部分を、単に「農業の~」、「農作物の~」などの一般的意味を有するにすぎない「アグリ」部分と同等の自他商品・役務識別力と評価することは妥当でない。なお、被請求人は接頭辞の定義についての記載を証拠として提出しているが(乙10)、「agri-」は、「un-」、「re-」、「pre-」等のような接頭辞とは本質的に性質を異にするも、被請求人の提出するインターネット上のWeb辞典における[接頭]という表示だけではその意義は不明であるところ、権威ある英語辞典において、「agri-」は「combining form(結合形)」と記載されている(甲105~甲108)。結合形は、それ自体としては特段の意味を有しない接頭辞と異なり、元の語に由来し、語義を保持しているものである。
「agri-」も元の語が「agriculture(農業)」であって「農業の~」、「農作物の~」という語義を保持している。被請求人が引用した乙10における接頭辞の説明は、本件には妥当しない。
したがって、「agri-」部分が上述のような接頭辞である旨の被請求人の主張に理由はなく、本件商標においては「リクルート」の文字部分が出所表示標識として強く支配的な印象を与え、要部として分離して認識されるものである。そして、本件商標における「リクルート」部分と引用商標を比較すると、称呼及び観念において共通し、取引者に与える印象、記憶、連想等に鑑みると両者は類似するものである。
また、「リクルート」が本件商標における指定役務の需要者の間で広く認識されていることは前述のとおりであるから、審査基準からも本件商標と引用商標が類似することは明らかである。
被請求人は、「RecruitBank」が引用商標と類似するとして拒絶査定となった例につき、本件とは事案を異にすると述べるものの、当該商標は、請求人の著名なリクルート表示が含まれている点や、他の一般的な語と結合している点で本件商標と近似した構成を有しているから、本件においても十分参酌されるべきものである。
また、請求人はこのようにリクルート表示を含み請求人の登録商標と類似する商標に対しては、随時無効審判請求を行っており、既に複数の件で商標権者が登録商標の抹消、登録商標の使用の中止に合意している。
さらに、請求人はリクルート表示を含み請求人の登録商標と類似する商標を実際に使用している者に対しては、警告書を送付し商標権侵害等を理由とする商標の使用の中止、ドメイン名の使用の中止等を要求している。これらについても、既に複数の件において、商標の使用者は商標やドメイン名の使用の中止等に合意している。
(3)商標法第4条第1項第8号について
被請求人は、「請求人グループは「請求人及び請求人の関連会社」から構成され、それ自体「人格権」をもつ「他人」には該当しない。」と述べている。しかし、被請求人も述べるとおり、商標法第4条第1項第8号に規定する「他人」には、法人も含まれている。そして、請求人、請求人の関連会社のいずれもこのような人格的利益の享有主体たる法人であるため、請求人グループが商標法第4条第1項第8号の「他人」に該当することは明らかである。
また、被請求人は、リクルート表示の著名性に疑義を呈しているが、リクルート表示が著名であることは、審判請求書及び上記より明らかである。
加えて被請求人は、国税庁法人番号公表サイト(乙12)によれば、請求人及び請求人グループに属する企業及び被請求人の他、「リクルート」の語を含む商号が多数存在する旨述べており、そのような使用例が複数存在する事実をもって、被請求人の商標登録も商標法上の規定に違反してなされたものではないことの根拠としているようにうかがえる。しかし、そもそも商標と商号は異なる概念であり、仮に商号として「リクルート」が請求人グループ以外の第三者に使用されている事実が存在するとしても、そのような事実は本件商標が商標法第4条第1項第8号に違反して登録された点に影響を与えるものではない。また、乙12に記載の法人には、請求人グループの法人も含まれる。したがって、そもそも乙12の記載をもって、請求人グループと無関係の第三者が多数「リクルート」の表示を商号に使用していると述べることは不適切である。
さらに、請求人グループに属さないにもかかわらずリクルート表示を含んだ法人に対しては、リクルート表示の使用態様やその商標登録の状況に応じ、請求人グループは随時、警告書の送付、及び無効審判請求を行っている。
以上のとおり、被請求人は単に請求人グループを含め「リクルート」の語を含む商号が一定数存在するという事実を提示しているにすぎないから、本件商標が商標法第4条第1項第8号に違反して登録された点に何ら影響はない。
また、無効2016-890003について、被請求人は本件と事案を異にする旨述べている。しかし、商標法第4条第1項第8号の審査基準では、同規定の解釈として「他人の名称等を「含む」商標であるかは、当該部分が他人の名称等として客観的に把握され、当該他人を想起・連想させるものであるか否かにより判断する。」としており、当該他人の名称等が造語であることなどは要求されていない。すなわち、審査基準の要点は、問題となっている商標に接した際に、その商標が他人の名称等を想起されるものか否かという点にある。このような観点から考えると、リクルート表示は極めて著名であることから、本件商標は、本件商標に接した者に対して請求人グループを想起・連想させるものである。
(4)商標法第4条第1項第15号について
被請求人は、請求人グループの法人名として「リクルート」の後ろに他の語が結合している例が多いのに対して、本件商標は「リクルート」の前に他の語が結合しているため、需要者は請求人グループの提供に係る役務との誤認混同を生じることはないとしている。しかし、本件商標はわずか8文字と短い上、そのうち5文字を請求人グループの表示として著名な「リクルート」が占めていること、またその他の3文字「アグリ」部分は単に「農業の~」、「農作物の~」という一般的な意味を有するにすぎない語であることからすると、被請求人が本件商標を用いて役務を提供すれば、需要者は請求人グループの提供に係る役務との誤認混同を生じることは明らかである。この点、審査基準においても、著名商標が他の語とどのような位置関係で結合されるかは問題としていない。したがって、「リクルート」の前後いずれに他の語が結合しているかという点は、両者の誤認混同の有無に影響を与えるものではない。
また、被請求人は、主として農業分野における人材派遣等を営んでいる旨やその営業活動範囲が北海道にとどまるため、需要者が重複しない旨を主張している。しかし、本件商標に係る指定役務は、単に第35類「職業のあっせん,求人情報の提供」等と記載されており、農業分野に限定されていない。仮に、被請求人が現時点では本件商標を農業分野にのみ使用しているとしても、請求人グループは人材、採用分野における国内トップ企業としてあらゆる分野の人材、採用関連業務を取り扱っており、農業関連の求人等も多数扱っている。例えば、新卒採用において使用されるリクナビ(2026年版)では、「農業系」の就職で309件がヒットする(甲109)。また、請求人グループは経営の多角化により、多種多様なメディア関連事業、ソリューション事業、デジタル領域の事業などを営んでいる(甲88~甲95「企業集団の状況」及び「経営方針」参照)。加えて、請求人は日本全国のみならず、世界各地で事業を展開しており、北海道についても当然その営業活動範囲となっている。したがって、請求人、被請求人の役務、営業活動範囲は広く重複している。
また、被請求人は、「リクルート」の文字は本来「求人」や「人材募集」を意味する語であるから、そのような語を含む商標の登録や使用が制限されることは企業の営業活動を阻害し、企業が蓄積した業務上の信用を不当に害する、と述べている。しかし、請求人は、「リクルート」の表示が単に「求人」や「人材募集」といった一般的な意味で使用されること自体を制限する意図は一切有していない。請求人が問題としているのは、あくまで「リクルート」の表示が商標として使用され、その使用態様が請求人の登録商標と同一または類似である場合や、商標法の規定に反して登録された商標に対してのみである。単なる一般的な用語ではなく、請求人グループの著名な表示であるリクルート表示がこのような態様で使用ないし登録されることこそ、まさに請求人グループの営業活動を阻害し、請求人グループが蓄積した業務上の信用を不当に害するものである。
(1) リクルート表示の著名性について
ア 被請求人は、東京地方裁判所平成5年3月24日判決につき、1980年(昭和55年)8月時点において「リクルート」が当該事件の原告である株式会社リクルートの営業表示として著名であったことを判示するにとどまるものであり、それ以上でもそれ以下でもないと述べている。
しかし、当該事件の原告は、その後、組織再編による持株会社体制への移行を経て、請求人すなわち現在の株式会社リクルートホールディングスとなり、請求人は、現在、ホールディングカンパニーとして、請求人グループを統括する立場にある。この点、1980年当時ですら、当時の請求人の営業表示として「リクルート」との表示が著名性を認められていたことに徴するならば、それから25年以上にわたり、組織再編等を行いながらも、「リクルート」の表示を使用し続けて、事業拡大、発展をしている現在、「リクルート」との表示が、請求人グループを表示するものとして極めて高い著名性を有していることは明らかであって、被請求人の主張には全く理由がない。
イ 請求人グループに属する各会社の実績が、リクルート表示の著名性の証拠とならない旨の被請求人の主張は、全く理解し得るところではない。請求人グループの表示としての著名性を判断するに際して、請求人グループに属する各会社の実績等を検討しなければならないことはいうまでもない。
また、請求人グループに属する各会社が、その商号に「リクルート」を冠していたり、その事業に「リクルート」の表示を広く使用していること、それらの各グループ会社が高い売上げを上げ、多額の宣伝広告等を行っていることは、審判請求書において主張立証したとおりであり、かかる事実から、「リクルート」との表示が、請求人グループを示すものとして著名であることは明らかである。
(2) 商標法第4条第1項第11号について
上述のとおり、リクルート表示は請求人グループを示す表示として著名なものであるから、出所識別力が極めて高いものであることは明らかであって、「リクルート」と他の語からなる結合商標において、「リクルート」の文字部分は出所表示標識として強く支配的な印象を与え、要部として分離して認識されるというべきである。
したがって、本件商標と引用商標は類似し、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3) 商標法第4条第1項第8号について
請求人グループに属する各会社は、一丸となって人材サービス事業を始めとする各種事業を「リクルート」の語を用いて継続的に行っているものであって、請求人グループ全体として需要者に我が国を代表する企業と認識されているものである。したがって、上記判決同様、「他人の名称の著名な略称」の「他人」が複数存在しているものの、それらの略称としてリクルート表示が著名なものになっているといえる。
以上より、本件商標は、他人の著名な略称を含み、また、請求人から承諾を得ているものでもないため、商標法第4条第1項第8号に該当する。
(4) 商標法第4条第1項第15号について
前述のとおり、リクルート表示は請求人グループを示す表示として著名なものである。また、請求人が我が国を代表する企業の一つであり、請求人グループの商号、商標にリクルート表示を長年にわたって数多く使用してきたことに鑑みれば、商標中に「リクルート」の文字が存在することで需要者が請求人グループを想起することは難くない。まして、本件商標は「職業のあっせん」、「求人情報の提供」等、請求人グループの祖業かつコアビジネスである就職・人材関連の役務を指定役務として含んでいることから、需要者に請求人グループとの混同を生じさせるおそれは大きい。
なお、被請求人は、「リクルート」の語が商標のどの位置に置かれるかにより需要者に与える印象は全く異なる旨述べているが、かかる主張には何の根拠もなく、また、被請求人は本件商標が短い音構成である点についても言及しているが、短い音構成であるからこそ、商標全体における「リクルート」部分が際立ち、結果として他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれも高まるというべきである。
以上により、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標といえるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を審判事件答弁書、令和7年2月13日付け上申書及び同年12月16日付け上申書において要旨以下のように述べ、証拠方法として乙1ないし乙12を提出した。
(1)本件商標「アグリリクルート」は日本で広く使用されている採用を意味する英単語の既存語「リクルート」と、造語の「アグリ」を組み合わせた造語として商標を取得したものである。
本件商標は既存語からなる造語であり、引用商標との関連性はない。
既存語のリクルートが日本で広く使われている根拠として、特許庁のWebサイトの求人ページにも「RECRUIT」の表記が使用されている(乙1)。
このように日本で採用を意味する既存語として「リクルート」が広く使用されている事から、本件商標の「アグリリクルート」は引用商標「RECRUIT」との関連性はない。
(2)本件商標「アグリリクルート」と引用商標「RECRUIT」において外見上の一致はないから、本件商標と引用商標の類似性はない。
また、本無効審判の引用商標は欧文字からなる「RECRUIT」であるにもかかわらず、請求人は「リクルート」の片仮名文字による主張を繰り返しているのは誤りである。
請求人は、片仮名文字からなる「リクルート」(登録第824624号)の商標を取得しているので、仮に本件商標に対して、無効審判を請求するのであれば、外見が一致する当該商標を引用商標として請求するべきである。
(3)本件商標に接する需要者、取引者が、請求人リクルートホールディングスとの関連性を誤認しないことについて
ア 令和元年創業のアグリリクルート株式会社は、創業当時から北海道での農家、農業法人から、北海道の酪農家が新規に立ち上げた北海道の人材会社として広く注目され、北海道新聞、日本農業新聞、酪農情報誌デーリイジャパンに掲載(乙2~乙4)されたことから、北海道の農家や農業法人から「アグリリクルート」は広く認知されており、また乙2ないし乙4による各メディア記事内容でも、アグリリクルートは北海道の酪農家が農業の人手不足解消を目的に新しく立ち上げた組織と具体的に説明されている。
このことから本件商標の需要者、取引者が、請求人のリクルートホールディングスとの子会社や系列会社と誤認することはない。
イ アグリリクルート株式会社は日本最北端で、日本の端である北海道稚内市に本社を置く令和元年創業の資本金2000万円の小企業である。
アグリリクルートの本社が稚内市であること、資本金が2000万円であること、創業が令和元年創業の新しい会社であることは、アグリリクルート株式会社公式Webサイトに記載され(乙5)、このことからも本件商標アグリリクルートの需要者、取引者が、請求人のリクルートホールディングスとの子会社や系列会社と誤認することはない。
ウ 請求人の事業所は、東京都千代田区に2拠点、東京都港区に1拠点の東京都内に3拠点のみである(乙6)。このことから、リクルートホールディングスは首都圏で活動している企業であると考えられるが、北海道は札幌市にすら事業所すら置いていない、首都圏で主に活動している企業である。
一方の本件商標のアグリリクルート株式会社は、日本の端であり北海道の端でもある稚内市に本社を置き、北海道で活動している企業であり、本件商標と引用商標では、需要者・取引者は異なるアグリリクルート株式会社の本社が稚内であること、資本金が2000万円の小企業であることは、メディア掲載記事や本件商標公式webサイトに載っているため(乙2~乙4、乙6)、本件商標の需要者・取引者から請求人のリクルートホールディングスとの関連性を誤認されることはない。
エ 本件商標「アグリリクルート」のアグリ部分は農業を意味するAGRICULTUREから意味をなすことから、本件商標からは農業分野が想起されるが、請求人のリクルートホールディングスは農業分野での活動がほぼないことについて
被請求人は、農業の人手不足解消を目的とした会社である。このことはメディア掲載記事や被請求人の公式Webサイト(乙2~乙5)によって本件商標の需要者・取引者から認知されている。
一方の請求人は、幅広い分野での活動実績を主張しているが、実際は農業分野での活動はほぼない。
請求人は、商標「AGRI-LINK」(登録第6239320号)を登録しており、農業分野での活動も考えたようではあるが、AGRI-LINKの公式webサイトでは、ニュースの更新は2020年3月が最後の更新、ブログは2019年2月が最後の更新となっており(乙7、乙8)、数年にわたり更新されておらず、農業分野での活動がほぼないといえ、このことから、請求人の農業分野で事業活動の認知度は極めて低いと考えられる。
よって、本件商標の需要者・取引者である農家・農業法人から、請求人のとの関連性を誤認されることはない。
オ 請求人の主張についての答弁
(ア)商標法第4条第1項第8号について
a 本無効審判の引用商標は欧文字表記の「RECRUIT」であり、片仮名文字からなるリクルート表記ではない。
本件商標は片仮名文字からなる「アグリリクルート」であり、引用商標と本件商標で外見の一致はひとつもなく、表記が異なることから、引用商標の著名な略称は含まれず、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
b 次に本件商標は、広く使われている英単語の既存語「リクルート」と農業を意味するAGRICULTUREを短縮させ、片仮名表記に変更したうえで組み合わせ、「アグリリクルート」という造語から商標を取得したものである。
本件商標は、既存語の「リクルート」と、造語の「アグリ」を組み合わせた「アグリリクルート」という造語からなる商標であることから、引用商標の「RECRUIT」との関係は一切なく、また欧文字と片仮名文字で外見も異なる。
以上のことより、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
c 過去の審決例
請求人は過去の審決例(「紅花王」)を挙げているが、「花王」は既存語として存在せず、花王株式会社による占有性が考えられるが、引用商標「RECRUIT」については、英語の単語で採用を意味する既存語が存在し、既存語としてのRECRUIT表記は、特許庁のWebサイトの求人情報のページでもRECRUITの文字からなる既存語が使用される事などから(乙1)、RECRUITはこのように既存語としてのかなり広く使われており、かなり認知度が高いといえる。
このことから、既存語が存在しない「花王」と、広く使われている既存語である「リクルート」では商標審判における条件が異なり、本無効審判とは関連性が極めて低い。
d 小括
以上より、本件商標は他人の著名な略称を含まず、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(イ)商標法第4条第1項第11号について
a 本件商標と引用商標の類似について
(a)本件商標について
本件商標「アグリリクルート」は片仮名であり、引用商標は欧文字「RECRUIT」であり外見上異なるので類似していない。
また、称呼においてはアグリリクルートの“リクルート”の部分と、「RECRUIT」の部分で一部、称呼は一致しているが、本件商標のリクルートは、募集、採用の意味を持つ既存の英単語のリクルートからの概念をなす文字である。
よって、本件商標は既存語から意味をなす造語であるので、引用商標の略称には該当しない。
請求人は「リクルート」の文字から、請求人グループを想起させると述べているが、「リクルート」は既存語として特許庁のWebサイトの採用ページでも使われるほど(乙1)、主に採用の意味を持つ文字として「リクルート」は既存語として広く使われている。このことから「アグリリクルート」から想起されるのは、既存英単語のリクルートであり、引用商標の「RECRUIT」を想起させることはない。
以上、本件商標は既存語のリクルートから意味をなす造語であり、引用商標のRECRUITと本件商標の概念の類似はない。
(b)引用商標について
引用商標から生じる「リクルート」の称呼からは、広く使われている採用を意味する既存語の英単語のリクルートが想起される。
RECRUITがどの程度広く使われているかは、特許庁webサイトの求人ページでも使用されている程である(乙1)。このことから引用商標の称呼から想起されるのは、既存英単語のリクルートであり、引用商標は想起されない。
(c)本件商標と引用商標の類似
本件商標は片仮名文字の「アグリリクルート」であり、引用商標は欧文字からなる「RECRUIT」であり、外観上の類似はない。
また、本件商標は既存語の採用を意味する「リクルート」と、造語の「アグリ」の組み合わせから成る造語であり、引用商標のRECRUITとは観念が異なる。
また、「採用」を意味するリクルートは、特許庁のWebサイトでも使用される既存語として多く使用されているので(乙1)、既存語「リクルート」の称呼から、引用商標のRECRUITを想起させることはない。
(d)過去の審査例
過去の審査例としてRecruitBankが挙げられているが、これと引用商標のRECRUITでは、欧文字であるという類似性があるが本件商標は片仮名文字の「アグリリクルート」であり、引用商標の欧文字のRECRUITとは外観上の類似性はひとつもなく、本件の無効審判と、今回用いられた欧文字同士という類似性がある審査例とは事例が異なるので、本無効審判の参考にはならない。
また、Bankの部分も、銀行の意味を持つ既存語であり、RecruitBankは採用の意味を持つ既存英語のRecruitと、既存語Bankの、ただ既存語同士を合わせただけの文字列であり、本件商標は既存語のagricultureを短縮させたうえで、片仮名文字の「アグリ」に変更させた造語から成る、造語を用いた文字列であり、「RecruitBank」審査例とは、本件商標では事例が異なるので、過去の審査例として、本無効審判の基準にならない。
c 小括
既存語のリクルートから意味をなす本件商標は引用商標と概念が異なり、過去の審査例も本無効審判とは事例が異なる。このことから、両者の類似性はない。
(ウ)商標法第4条第1項第15号について
a 本件商標と引用商標の類似性の程度について
(a)本件商標について
本件商標はアグリリクルートであり、リクルートアグリにしなかったのは、農業をより強調する為にアグリの部分の印象を強く与えたいため、アグリの部分を文字の先にする、アグリリクルートの文字列に至った。このことから出所表示標識として強く支配的な印象を与えるのは先に来ているアグリの部分である。
また、称呼のリクルートから想起されるのは、日本で広く使われている既存語のリクルートであり、引用商標のRECRUITが想起されることはない。
また、被請求人は、商願2019-041633(登録第6211071号)において「アグリク」の商標も取得し、「アグリ」つまり農業を強調した活動を行っている。
このことから、アグリリクルート株式会社は「アグリ」と「リクルート」の部分において強く印象を与える出所表示標識は「アグリ」の部分であり、アグリリクルート株式会社は「アグリク」の商標を取得し「アグリ(農業)」を強く意識した活動を行っていることからも、アグリリクルートからは「アグリ」が強く印象される為「リクルート」の部分が強く支配的な印象をされることはない。
(b)引用商標について
引用商標の欧文字と本件商標の片仮名文字は、外見が異なることから、本件商標から引用商標が想起されることはない。
本件商標の称呼は「アグリリクルート」であり、引用商標の称呼は「リクルート」であって、称呼が異なることから、本件商標から引用商標が想起されることはない。
(c)本件商標と引用商標の類否
a 前述のとおり、本件商標と引用商標には類似性はない。
b 引用商標の周知性及び独創性の程度について
請求人グループは、商標「AGRI-LINK」を取得しており、「アグリリンク」のwebサイトを公開しているが、ブログとニュースのそれぞれのページは2020年と2019年を最後に更新が一切されていない(乙7、乙8)。
このことから請求人は農業分野での活動をほぼ行っておらず、農業分野での請求人の周知性は極めて低いといえる。
c 本件商標の指定役務と請求人グループの業務に係る役務との関連性の程度について
引用商標は「RECRUIT」であるので、請求人は片仮名文字の「リクルート」ではなく、「RECRUIT」表示についての意見を述べるべきである。
また片仮名文字のリクルート表記による無効審判請求を行うのであれば、請求人グループで取得している商標「リクルート」があるので(登録第824624号)、片仮名表記の当該商標を引用商標としての無効審判請求を行うべきであり、欧文字「RECRUIT」からなる引用商標に対して、片仮名文字からなる「アグリリクルート」を本件商標とした本無効審判請求は成り立たない。
また、請求人は農業以外の他分野についての活動を証拠として挙げているが、農業分野においては前述のとおり、農業分野での事業活動はほぼない。
d 需要者の共通性について
本件商標「アグリリクルート」は、「アグリ」の称呼が生ずることから、農業分野の農家や農業法人が需要者である。
本件商標が農家や農業法人に認知されていることは、各メディア掲載記事から証明される(乙2~乙4)。
請求人は、前述のとおり、農業分野での活動がほぼない。このことから、請求人グループの需要者には農家や農業法人がいないといえる。
よって、本件商標と引用商標の範囲内での需要者の共通性はない。
e 小括
本件商標と引用商標では類似性はなく、「リクルート」は著名な既存語であるので、本件商標と引用商標とで関連性もない。請求人グループは農業分野での事業活動はほぼなく、本件商標の農業事業については、北海道新聞、日本農業新聞、酪農専門誌において北海道の農家・農業法人に認知されている(乙2~乙4)。これら事情から考慮すれば、本件商標と引用商標に接する需要者・取引者が、請求人グループ役務と誤信される可能性はなく、出所について混同されることがないことは明らかである。
カ むすび
以上より、本件商標は商標法第4条第1項第8号、同項第11号及び同項第15号に該当しない。
(1) 引用商標及び「リクルート」の表示の著名性について
甲5及び甲7には、引用商標を構成する文字単独ではなく、商標登録第5633343号及び同第5710492号として登録された図形と文字の組み合わせからなるコーポレートロゴ(「RECRUIT」が使用されている(以下、「コーポレートロゴ」という)。
甲9には、「リクルートホールディングス」、「リクルートグループ」、「リクルートキャリア」、「リクルートジョブズ」及び「リクルートスタッフィング」の各文字は表れているが、引用商標及び「リクルート」の文字単独での記載はない。また、甲9は、請求人の略称が「リクルートホールディングス」と認識されていることを示唆する。
甲10、甲13、甲17、甲21、甲24及び甲28は、請求人グループが提供するサービスの放送CMの画像であるが、すべて、CMの最後にコーポレートロゴが表れるのみであり、引用商標及び「リクルート」の文字単独の使用はない。
甲32ないし甲38、甲40及び甲41ないし甲45についても、コーポレートロゴの使用は確認できるものの、引用商標及び「リクルート」の文字単独の使用はない。
甲39の1及び2には、「リクナビNEXT」の文字は表れるが、引用商標及び「リクルート」の使用はない。
甲46には、「奨励賞」の箇所に、請求人名称の「株式会社リクルートホールディングス」が表れるのみである。
甲47には、「プロフェッショナル部門」の箇所に、請求人グループの「株式会社リクルートキャリア」の名称が表れるのみである。
甲48には、コーポレートロゴの使用の他、文中に「リクルート」の文言は確認できるが、株式会社リクルートの略称として使用されている。
甲49には、「株式会社リクルートオフィスサポート」の他、コーポレートロゴの使用は確認できるが、引用商標及び「リクルート」の文字単独の使用はない。
甲50ないし甲55には、それぞれ「リクルートキャリア」「リクルートホールディングス」「リクルートジョブス」「株式会社リクルートジョブズ」の文字はあるが、引用商標及び「リクルート」の文字単独の使用はない。
甲56には、「リクルート」の文字単独の使用があるが、何の略称として使用されているかは明らかでない。なお、講師プロフィールにおける「リクルート」は、1988年当時の株式会社リクルートであると推測される。
甲57には、「リクルート」の文字単独の使用があるが、何の略称として使用されているかは明らかでない。また、ロゴマークの使用もあるが、引用商標単独の使用はない。
上述のとおり、請求人グループのリクルート表示の使用を立証することを趣旨とした書証のほとんどに引用商標及び「リクルート」の文字は表れておらず、「RECRUIT」の文字が表れるとしても「図形」を結合させたコーポレートロゴである。
そうとすると、これらの使用例は、外観において引用商標及び「リクルート」と同一の商標が使用されているとはいえず、引用商標及び「リクルート」が請求人グループ各社の出所を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとはいえない。
なお、請求人は、引用商標が、「請求人グループによる長年の使用の結果、極めて広範囲な分野で広く認識され、少なくとも求人、就職関係等の情報雑誌発行事業との関係において全国的に著名となっている」ことを客観的に裏付ける証左として、東京地裁平成2年(ワ)16538号を示すが、該事件は平成2年当時の株式会社リクルートの営業表示としての著名性を、該事件との関係において認定したものにすぎず、本件商標の出願時及び査定時における請求人グループの著名性を裏付けるには足りない。
(2)商標法第4条第1項第11号の該当性について
本件商標は「アグリリクルート」の文字からなるところ、これを構成する各文字は標準文字にて一連に記載され、外観上まとまりよく一体的に看取し得るものであり、これから生じる「アグリリクルート」の称呼も格別冗長というべきものでもなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。そして、本件商標の構成中「アグリ」(agri)は、「農業の~。農作物の~。」を意味する接頭辞(乙9)、すなわち、「それ自身単独で発話されることがなく,常に語根や自立語(または自立語に音形も意味も似た形態素)に前接して全体で一語を形成し,その語根や単語に語義的特徴ないしは文法的特徴を加える役割を果す言語形式」(乙10)であり、請求人提出の甲59ないし甲68は「アグリ」(agri)の接頭辞としての性質を示す証左である。加えて、本件商標については、「アグリ」に後接する「リクルート」が「求人。人材募集。」という意味で親しまれる英語「RECRUIT」の欧文字を想起させるものであるから、「アグリ」と「リクルート」に軽重はなく、本件商標の全体として「農業分野における求人。人材募集。」といった一つの完成された意味合いが生じる。
そうとすると、本件商標は「アグリリクルート」の全体をもって一体不可分の商標を表したと理解するのが相当であり、本件商標から「リクルート」の文字が抽出されて単独で認識されるものではない。したがって、本件商標は、構成全体が一体不可分に認識され、「アグリリクルート」の称呼を常に生じさせるものである。
この点につき、本件商標は上述のとおり、その全体が不可分的に結合している一種の造語として成立しているため、本件商標についての分離観察は許されないというべきである。
これに対して、引用商標はこれを構成する文字に応じて「リクルート」の称呼を生じさせ得るものである。
本件商標の称呼「アグリリクルート」と引用商標の称呼「リクルート」とは本件商標の称呼に存する「アグリ」により、両者は明瞭に聴取することができる。さらに、本件商標と引用商標は、観念及び外観においても顕著に相違し、それぞれ相紛れることはない。
また、本件商標と引用商標の抵触類似群コードについて、「リクルート」の称呼を含む多数の商標が、引用商標とそれぞれ併存して登録されている(乙11の1~6)。なお、請求人は、「RecruitBank」が引用商標に類似すると判断されたことをもって、本件商標と引用商標の類似が肯定されるべき旨主張するが、本件とは事案を異にする。
したがって、本件商標は引用商標と類似しないから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第8号の該当性について
請求人は「リクルート」が請求人グループの著名な略称である旨を主張するが、そもそも、請求人グループは「請求人及び請求人の関連会社」から構成され、それ自体「人格権」をもつ「他人」には該当しない。そして、請求人の提出にかかる各書証をもっては、引用商標及び「リクルート」が、請求人自身の略称又は請求人の各関連会社の個別の略称として世間一般に認識されていたものではない。
さらに、国税庁法人番号公表サイトによれば、請求人及び請求人グループに属する企業及び被請求人の他「リクルート」の語を含む商号が多数存在する(乙12)。
すなわち、本件商標がその構成中に「リクルート」の語を含むとしても、当該語は「他人の著名な略称」と認識するに足る事情はなく、さらには、本件商標は、上記のとおり、構成全体をもって一体不可分の商標を表したと理解されるものであること、「リクルート」の語が「求人。人材募集。」を意味する語として一般的に使用されている語であることを勘案すれば、本件商標から「リクルート」の文字部分のみを分離、抽出し、本件商標が「他人の著名な略称」を含む商標であるとする請求人の主張は失当である。
なお、請求人は、本件商標の商標法第4条第1項第8号の該当性の根拠のひとつとして、無効2016-890003を挙げるが、該事件において著名性が認定された「花王」は造語であり、独創性が強い語である一方、引用商標及び「リクルート」は「求人。人材募集。」を意味する語として一般的に使用されるものであるから、本件とは全く事案を異にする。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第15号の該当性について
ア 本件商標と引用商標及び「リクルート」の類否
上述のとおり、本件商標は「アグリリクルート」の全体をもって一体不可分の商標として認識されるものであり、引用商標及び「リクルート」とは称呼・観念及び外観のいずれにおいても識別可能な非類似の商標である。
イ 引用商標及び「リクルート」の著名性及び独創性の程度
請求人が提出の書証に表れるほとんどが「Recruit」の文字と図形が結合したロゴマークであり、当該書証によっては、引用商標及び「リクルート」単体がそれぞれ著名性を獲得しているものではない。さらに、「リクルート」なる語が「人材。求人募集。」といった意味合いで使用される一般的な語であり、独創性も低いことは、「リクルート」の語を含む商号が多数存在し(乙12)、「リクルート」の語を含む商標が登録されていること(乙11の1~6)に鑑みても首肯できる。
ウ 本件商標の指定役務と請求人グループの業務に係る役務との関連性
請求人グループの各社が「リクルート」の語を含んだ商号を多数用いて幅広い事業を営んでいる点については、これら商号のほとんどが「リクルート」の後に他の語を結合させたものであり、本件商標のように「リクルート」の前に他の語を結合させた態様のものはない。すなわち、「リクルート」を商号の前に配することで、これに接する需要者は、請求人の関連会社であることを認知できるのであって、「リクルート」の前に他の語が結合された場合は、請求人の関連会社であると誤認混同するおそれはない。
エ 需要者の共通性
答弁書でも述べたとおり、被請求人は農業の人手不足解消を目的に、2019年(令和元年)5月1日に北海道稚内市で設立された法人である(乙5)。被請求人代表である石垣一郎は牧場経営に携わる中で直面した人手不足の問題を解消し、酪農業及び農業を盛り上げるために、外国人就労制度である「特定技能制度」を活用した人材派遣の会社を立ち上げることとし(乙2~乙4)、その社名を、「農業」を想起させる「アグリ」と「求人。人材募集。」を意味する「リクルート」を結合した「アグリリクルート」なる語を造り「アグリリクルート株式会社」とした。被請求人の営業活動範囲は北海道にとどまり、かつ、農業及び酪農分野での特定技能制度を活用したニッチサービスである。
請求人グループの各事業と本件商標の指定役務が重なる部分があるとしても、上述のとおり、請求人が実際に提供する役務の特殊性を考慮すれば、両者の需要者が重なるとはいえない。
なお、被請求人においては、2019年の設立時に、これから展開する事業活動に支障がないように本件商標を出願、登録し、その後順調に業績を伸ばし、地元メディア、専門紙などに紹介されるまでに成長しているが(乙2~乙4)、この間、請求人グループと誤認混同されたといった事実はない。
オ 「リクルート」の文字の独占適応性
引用商標及び「リクルート」の文字が「求人。人材募集。」を意味する語として商号又は商標の一部にありふれて採択されているという事情が存在する中で、商標の構成中に「リクルート」の文字を含むことのみを根拠とし、その商標の登録及び使用を制限することは、「リクルート」の文字を商号または商標の一部に採用する企業の営業活動を阻害するおそれがあり、これらの企業が蓄積した業務上の信用を不当に害することになりかねない。
仮に、引用商標及び「リクルート」が請求人及び請求人グループ各社の業務に係る商品又は役務を表示するものとして周知著名であるとしても、ありふれた語である「リクルート」を含むことのみをもって、商標全体として観察した場合に識別可能な態様の商標の登録及び使用を排除することは、商標法の「競業秩序の維持」といった目的に反するものである。
カ 小括
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(1)リクルート表示の著名性について
請求人が「リクルート」表示の著名性の根拠のひとつとして提出する東京地方裁判所平成5年3月24日判決(平2(ワ)16538号)は、原告である「株式会社リクルート」の営業表示として、1980年(昭和55年)8月時点において「リクルート」が著名であったことを判示するにとどまるものであり、それ以上でもそれ以下でもない。
加えて、請求人は、その2013年から2022年の収益推移及び上場企業の時価総額ランキングを提出するが、請求人は2012年に会社分割を行い、名称を「株式会社リクルートホールディングス」と変更、持株会社となったものであり、それ自体事業を行うものではないため、上記実績は請求人を構成する各グループ会社の実績に帰すうする。そして、各グループ会社の名称に「リクルート〇〇」といったものが存在するが、請求人又は各グループ会社が「リクルート」と略称され、広く知られている資料は提出されていないため、請求人によるところの「リクルート」表示の著名性はない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
請求人は「リクルート」の著名性を前提とした上で、「リクルート」と他の語の結合商標について「リクルート」を要部認定とすべきと主張する。しかしながら、「リクルート」表示の著名性がない以上、本件商標から「リクルート」部分を分離抽出して類否判断する合理的理由はない。
なお、請求人は「リクルート」表示を含む商標に対して、2024年から2025年にかけて、本件の他に10件の商標登録無効審判を請求し、そのうち複数の件で商標権者が商標登録の抹消、登録商標の使用の中止に合意している旨提出するが、この事実は本件商標権者は与り知らぬところであり、かつ、個別の案件における当事者間の合意が、本件商標登録の有効性の判断において参酌される事情となるべきではない。
(3)商標法第4条第1項第8号
商標法第4条第1項第8号の他人に「法人」が含まれるとは承知するところであるが、その上で、「リクルート」は、法人である請求人「株式会社リクルートホールディングス」又は各グループ会社の著名な略称ではない。
(4)商標法第4条第1項第15号
同様に、「リクルート」が請求人「株式会社リクルートホールディングス」又はグループ会社の著名な略称とはいえないため、請求人の主張は失当である。さらに申し述べるとすれば、「リクルート」の語が商標のどの位置に置かれているかにより、需要者に与える印象は全く異なる。「リクルート」を前半部に置く商標においては「リクルート」の部分が強調され、かつ、「リクルートホールディングス」のグループ会社の名称としてそのような態様のものが非常に多く採用されていることからすれば、前半部に「リクルート」を配置した場合には「リクルートホールディングス」のグループ会社であると誤認される可能性があるかもしれないが、後半部に「リクルート」を置き、かつ、本件商標のごとく全体としてひとつの意味合いが生じ、かつ、短い音構成よるなる場合には、その全体として一連一体に認識されると同時に「リクルート」が持つ本来的な意味である「求人、人材募集」に関連する商品又は役務であることを示唆するにとどまると認識される。
以下、本案に入って審理する。
(1)請求人の主張及び同人の提出した証拠によれば、以下のとおりである。
ア 請求人は、昭和35年(1960年)に、大学新聞専門の広告代理店「大学新聞広告社」として創業、その後昭和38年(1963年)に「株式会社日本リクルートセンター」を設立し、2012年に現在の商号に変更された(甲3、甲5)。
イ 請求人及び請求人の関連会社(請求人グループ)は、求人情報提供や人材紹介等の人材関連事業を主な事業としており、請求人の関連会社には、例えば、株式会社リクルートキャリア、株式会社リクルートジョブズ、株式会社リクルートスタッフィング、株式会社リクルートライフスタイル等がある(甲91~甲95ほか)。
ウ 請求人及び請求人の関連会社(請求人グループ)の日本国内の連結業績における売上収益は、2016年3月期は1兆9419億円であり、2017年3月期から2019年3月期にかけては、毎期いずれも2兆円を超えている(甲8)。
また、民間調査会社による人材業界のリサーチによれば、2018年度3月期の日本国内の人材業界の総合サービス部門において、請求人グループが売上高ランキングの1位とされている(甲9)。
さらに、2017年10月5日付けのインターネット記事(PRESIDENT Online)によれば、請求人が人材派遣業界で国内トップ企業とされている(甲98)。
エ 請求人グループの行う求人情報提供や人材紹介等の事業(以下「請求人事業」という場合がある。)について、2016年から2019年頃にかけて、複数のバージョンのテレビコマーシャルが全国的に放送されており、いずれも「RECRUIT」の文字が表示されている(甲10~甲31)。
オ 請求人事業について、鉄道や駅等の屋外広告が行われ、「RECRUIT」の文字が表示されている(甲32~甲38)。
カ 請求人事業について、2018年から2019年頃にかけて、全国紙や雑誌において広告が掲載され、「RECRUIT」の文字が表示されている(甲39~甲45)。
キ 請求人グループは、人材採用や就業支援等の事業に関して、2018年に、国内の複数の賞を受賞している(甲46~甲49)。
(2)上記(1)によれば、請求人は、昭和38年(1963年)の創業以来、求人情報提供や人材紹介等を主な事業として行っており、請求人グループは、自らの行う事業について、少なくとも2016年から2019年頃にかけて、「RECRUIT」の文字を使用して、テレビ、新聞、雑誌等において、幅広く宣伝広告を行っていること、請求人グループは、2018年に人材業界における売上高ランキング1位を獲得していること等の事実を鑑みれば、「RECRUIT」の文字からなる引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、請求人グループの業務に係る「求人情報の提供,人材紹介」を表すものとして、我が国における当該役務の取引者、需要者の間においては、広く認識されていたとみるのが相当である。
なお、請求人は、引用商標に「Recruit」の文字や「リクルート」の文字を加えたリクルート表示についても著名である旨主張しているが、「リクルート」の文字が、請求人グループのうち、複数の会社の商号に含まれていることは確認できるとしても、請求人の提出に係る証拠によれば、請求人事業について、主に宣伝広告に使用されているのは「RECRUIT」の文字であり、「Recruit」の文字や「リクルート」の文字を使用した、請求人グループに係る宣伝広告の規模等も明らかでないから、これら「Recruit」の文字や「リクルート」の文字が、請求人事業を表すものとして、取引者、需要者の間に広く知られているものと直ちにいうことはできない。
(1)本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり「アグリリクルート」の文字を標準文字で表してなるところ、これは、同じ大きさ、同じ書体で、間隔を空けることなく、まとまりよく一連に表されているものであり、当該文字から生じる「アグリリクルート」の称呼も、よどみなく一連に称呼できるものである。
そして、当該文字は、辞書類に掲載されている語ではなく、直ちに特定の意味合いを想起させるともいい難いから、造語として看取されるものである。
そうすると、本件商標は、構成全体をもって一体不可分の造語として認識し把握されるとみるのが自然であり、その構成文字に相応して「アグリリクルート」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
(2)引用商標について
引用商標は、上記第2のとおり「RECRUIT」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字に相応して「リクルート」の称呼を生じる。
また、引用商標を構成する「RECRUIT」の文字は、「募集する」(新英和中辞典第7版 研究社)等の意味を表す英語として一般に親しまれている語であるとともに、上記2のとおり、「求人情報の提供,人材紹介」の需要者の間においては、請求人グループに係る業務を表すものとして広く認識されている商標でもあるから、引用商標からは、「募集する」の観念を生じるほか、「(請求人グループのブランドとしての)RECRUIT」の観念を生じる場合がある。
(3)本件商標と引用商標の類否について
本件商標と引用商標を比較するに、本件商標は、「アグリリクルート」の文字からなるのに対し、引用商標は、「RECRUIT」の文字からなるものであるから、両商標は、構成文字及び文字種が異なり、外観上、相紛れるおそれはない。
また、称呼においては、本件商標から生じる「アグリリクルート」の称呼と、引用商標から生じる「リクルート」の称呼は、その構成音及び構成音数において明らかな差異を有するから、明瞭に聴別できる。
そして、観念においては、本件商標は、特定の観念を生じないものであるのに対し、引用商標は、「募集する」の観念、又は「(請求人グループのブランドとしての)RECRUIT」の観念を生じるものであるから、観念においても相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、相紛れるおそれのない、非類似の商標である。
(4)請求人の主張について
請求人は、本件商標について、構成中の「アグリ」の文字部分が「農業の」等の意味を有する一方、「リクルート」の文字部分は、本来的には「募集、採用」を意味する既存語であるが、特に本件商標の指定役務との関係では、請求人グループの著名ブランドを理解させるから、当該「リクルート」の文字部分が出所表示標識として強く支配的な印象を与え、要部として分離して認識されることから、「リクルート」の称呼及び請求人グループの著名ブランドを想起させる旨主張する。
しかしながら、本件商標の構成中の「リクルート」の文字部分は、請求人も述べているように、そもそも、「募集する」等の意味を有する成語であり、本件商標の指定役務、特に「求人情報の提供,人材紹介」との関係においては、元来、自他役務識別力の弱い語であるといえる。
そうすると、本件商標の上記のとおりの構成や称呼も相まって、本件商標は、構成全体で一体不可分の造語として看取されるものというのが相当であり、本件商標をその指定役務に使用した場合に、殊更、構成中の「リクルート」の文字のみが独立して認識されるとはいい難い。
したがって、請求人の上記の主張は採用することができない。
(5)小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標とは類似する商標ではないから、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務が同一又は類似の役務であるとしても、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(1)引用商標の周知性について
引用商標である「RECRUIT」は、上記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、役務「求人情報の提供,人材紹介」との関係においては、我が国の需要者の間に広く認識されている商標である。
(2)本件商標と引用商標の類似性の程度について
本件商標と引用商標は、上記3のとおり、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標といえるから、類似性の程度は低い。
(3)引用商標の独創性について
引用商標の構成文字「RECRUIT」は、上記3のとおり、「募集する」等を意味する英語として一般に親しまれている成語であるから、独創性の程度は低い。
(4)役務の関連性、需要者の共通性について
本件商標の指定役務と、引用商標の指定役務とは、同一又は類似の役務を含むものであるから、その需要者は共通する場合がある。
(5)出所の混同のおそれについて
以上によれば、引用商標は、「求人情報の提供,人材紹介」の需要者の間においては広く認識されているといえるものの、本件商標と引用商標は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、類似性の程度は低いものであること、また、引用商標の独創性も低いものであることを踏まえれば、本件商標との指定役務と引用商標の指定役務の需要者が共通する場合があるとしても、本件商標をその指定役務に使用した場合に、これに接する取引者、需要者が、直ちに引用商標を連想又は想起するとは考えにくい。そうすると、本件商標がその指定役務に使用された場合、これが請求人又は請求人グループと経済若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であると誤認し、役務の出所について混同を生じるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
請求人は、「リクルート」「RECRUIT」及び「Recruit」の表示(リクルート表示)が、請求人グループの略称として、就職関係等の情報誌発行事業との関係で全国的に著名となっていること、本件商標がリクルート表示を構成中に含むことを挙げ、本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当する旨主張する。
しかしながら、本件商標は、上記3(1)のとおり、その構成全体をもって一体不可分の造語と認識、把握されるものというべきであって、構成中の「リクルート」の文字部分が看者の注意を引くような構成ではない。
また、引用商標が、上記2のとおり、「求人情報の提供,人材紹介」の役務との関係において、取引者、需要者の間に広く知られているとしても、提出された証拠からは、リクルート表示が、請求人グループの略称として広く認識されていたものとまでは認めることができない。
さらに、「リクルート(RECRUIT、Recruit)」の文字が、「求人、人材募集、募集する」等の意味を有する語として一般に用いられているものであることをあわせて考慮すれば、当該文字が、請求人グループの略称を表すものとして広く認識されているとはいい難い。
そうすると、本件商標は、他人(請求人グループ)の著名な略称を含むものとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号、同項第11号及び同項第15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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