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Trademark Appeal Case

称呼類似と役務の混同

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025890014
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 本件商標

本件登録第6870320号商標(以下「本件商標」という。)は、「ヒカリヲ」の片仮名を標準文字で表してなり、令和6年5月29日に登録出願、第35類「事業の経営に関する指導・助言及び情報の提供,税務書類の作成に関する指導・助言及び情報の提供,会計処理に関する指導・助言及び情報の提供,会計帳簿の記帳代行,財務書類の作成又は監査若しくは証明,財政補助金の申請事務の代行」、第36類「財政補助金に関する助言及び指導,保険契約の締結の代理又は媒介」、第41類「会計業務及び税務に関する講演会・講習会・セミナーの企画・運営又は開催」を指定役務として、同年11月15日に登録査定、同月28日に設定登録されたものである。

第2 請求人が引用する商標及び使用標章

1 商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標

請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第11号に該当するものとして引用する登録商標(以下の商標をまとめて「引用商標」という場合がある。)は、以下のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。

(1)登録第5363270号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲1のとおり、「ひかり」の平仮名をやや丸みをおびた書体で書してなり、平成17年11月17日に登録出願、第35類「財務書類の作成又は監査若しくは証明」を指定役務として、同22年10月22日に設定登録されたものである。

(2)登録第4954427号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおり、「ひかり税理士法人」の文字をやや丸みをおびた書体で書してなり、平成17年11月17日に登録出願、「税務相談,税務代理,預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,割賦購入のあっせん,慈善のための募金,生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出」を含む第36類に属する商標登録原簿に記載の役務を指定役務として、同18年5月19日に設定登録されたものである。

(3)登録第5799000号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲3のとおり、「ひかり」の平仮名をやや丸みをおびた書体で書してなり、平成27年5月25日に登録出願、第36類「税務相談,税務代理」を指定役務として、同年10月9日に設定登録されたものである。

2 商標法第4条第1項第10号に該当するとして引用する使用標章

請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第10号に該当するとして引用する標章(以下「使用標章」という。)は、「ひかり」の文字からなるものであって、請求人が税務相談、税務代理を含む税理士業務において使用していると主張するものである。

3 商標法第4条第1項第15号に該当する旨の主張

仮に本件商標が、商標法第4条第1項第10号、同項第11号に該当しないとしても、本件商標は、請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標であると、請求人は主張するものである。

第3 請求人の主張

本件商標の商標登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書において要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第32号証(枝番号を含む。)を提出した。

なお、以下、証拠の記載に当たっては、「甲(乙)第○号証」を「甲(乙)○」のように省略して記載する場合がある(枝番号の全てを示すときは、枝番号を省略して記載する)。

1 無効事由

本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当し、また、仮に同項第10号及び第11号に該当しないとしても、同項第15号に該当するため、同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。

2 利害関係

請求人は2024年4月中旬にインターネット上で登録第6870320号商標の出願人(被請求人。以下、「被請求人」という。)が代表社員である税理士法人ヒカリヲが運営する事務所のサイト(甲4)を発見し、請求人が使用しており、かつ、商標権を有している引用商標2及び引用商標3に極めて類似する標章が請求人の主たる業務に係る役務であって、当該引用商標2及び引用商標3の指定役務に含まれる役務に関して使用されていることを発見した。そこで請求人は4月17日、被請求人に対して、被請求人が代表社員である「税理士法人ヒカリヲ」なる名称の使用は、引用商標の商標権を侵害していることから、「税理士法人ヒカリヲ」の名称使用を停止する旨の申し入れを主な内容とする電子メールを送った(甲5)。

それに対し、被請求人からは何の回答も無く、その後、被請求人は本件商標を商標登録出願し、今般、商標登録されるに至ったが、本件商標が登録されることにより、請求人及びその代表社員であるA氏が所有し、使用する商標(引用商標1、引用商標2及び引用商標3)に極めて類似する商標が請求人の業務に係る役務と同一又は類似する役務について使用されることにより、一般需要者の間に誤認混同が生じ、請求人の積み上げてきた信用が毀損される。

以上のとおり、請求人は商標法第46条第2項の利害関係人である。

3 無効原因

(1)本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当すること

ア 本件商標と引用商標1の類似性

本件商標は「ヒカリオ」の称呼のみが生じ、それ以外の称呼は生じない。一方、引用商標1は「ヒカリ」の称呼のみが生じ、それ以外の称呼は生じない。

両者は称呼上、語尾の「オ」音の有無のみの相違となるが、それらの前音「リ」はその子音(r音)及び母音「イ」音により明瞭に発音されるのに対し、その直後の「オ」音は、声帯の振動のみによって発せられる柔らかい音であり、その差異が称呼上比較的影響の少ない語尾に位置することとも相まって、これらを一連に称呼するときは、全体としての語調、語感が近似し、かれこれ聴き誤るおそれがあるものというべきである(異議2002-90731の商標決定公報参照。甲6)。したがって、称呼上、本件商標と引用商標1は類似する。

本件商標の文字「ヒカリヲ」は日本語として1つの単語としては存在しない。しかし、「ヒカリ」なる成語は存在し、語尾の「ヲ」は対格の格助詞「を」表すことは明白であるから、本件商標からは直ちに「光を」なる観念が導出される。「光をあてる」あるいは「世の中に光を」等と動詞や対象語が付加されていれば別であるが、単に「光を」でしかない本件商標からは、「光」の観念のみが導出される。

一方、引用商標1からも直ちに「光」の観念が導出される。

そうすると、両者は観念上同一である。

本件商標と引用商標1は、片仮名と平仮名の違いはあるものの、普通の日本人であれば片仮名と平仮名の違いは無意識に吸収して同一視するため、両者は4文字のうち前半3文字は同一であることになる。また、語尾の「ヲ」は前記のとおり格助詞であり、それ自体は意味を持たないために、同様に無意識に無視される。したがって、両者の外観上の差異は普通の日本人の心裡において吸収されてしまい、一瞬にして外観上もほぼ同一と観取される。

以上のとおり、本件商標と引用商標1は称呼上も観念上も外観上もほぼ同一又は類似するものであり、全体として両者は類似と判断される。仮に心裡的に外観上の差異が残るとしても、称呼及び観念上の本件商標と引用商標1の類似性は非常に高いものであることから、本件商標と引用商標1は商標として類似である。

本件商標の指定役務は引用商標1の指定役務と同一又は類似のものを含む。

なお、本件商標に係る指定役務中、第35類「事業の経営に関する指導・助言及び情報の提供」(類似群コード35B01)、「会計帳簿の記帳代行」(類似群コード35G03)、「財政補助金の申請事務の代行」(類似群コード35G03)(以下、まとめて「請求に係る第35類役務」という。)及び第41類「会計業務及び税務に関する講演会・講習会・セミナーの企画・運営又は開催」(類似群コード41A03)(以下「請求に係る第41類役務」という。)について、引用商標1の指定役務と類似群が同一ではないものの、類似と考えられる役務である。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。

イ 本件商標と引用商標2の類似性

引用商標2のうち「税理士法人」の部分は、その指定役務「税務相談,税務代理」に関しては、税理士法第52条((税理士業務の制限)税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。)によりその業務の独占を認められている者を表す部分であり、それ以外の者が当該役務を行うことができないことから、当該役務に関しては出所識別力がない。したがって、引用商標2は「税務相談,税務代理」及びそれに関連する役務について使用する場合には、引用商標1と同一であると考えられる。

なお、本件商標の指定役務中、第36類「財政補助金に関する助言及び指導」(類似群コード36A01 36K01)は、引用商標2の指定役務中、第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,割賦購入のあっせん」及び「慈善のための募金」(以下「引例2の抵触役務A」という。)の類似群コードと同一である。

そして、本件商標の指定役務中、第36類「保険契約の締結の代理又は媒介」は、引用商標2の指定役務中の第36類「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出」(以下「引例2の抵触役務B」という。)と同一又は類似である。したがって、本件商標の指定役務には、引用商標2の指定役務と同一又は類似のものが含まれる。

また、本件商標の指定役務中、「請求に係る第41類役務」は、「講演会・講習会・セミナーの企画・運営又は開催」自体は「セミナーの企画・運営又は開催」(類似群コード41A03)なる役務と同一又は類似であるものの、その内容・対象が「会計業務及び税務」に関するものである場合、当然に「会計業務及び税務」に関する主要役務である、引用商標2の「税務相談、税務代理」(類似群コード36J01)に類似する。

そうすると、本件商標は引用商標2とも類似するものとなり、本件商標はこの点においても商標法第4条第1項第11号に該当する。

ウ 本件商標及び引用商標3の類似性

引用商標3は、引用商標1と同一の商標であり、前記アの議論がそのままあてはまる。

そして、前記イのとおり、本件商標の指定役務中、「請求に係る第41類役務」は、その内容・対象が「会計業務及び税務」に関するものである場合、当然に引用商標3の「税務相談、税務代理」(類似群コード36J01)に類似する。

そうすると、本件商標は引用商標3とも類似するものとなり、本件商標はこの点においても商標法第4条第1項第11号に該当する。

(2)本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当すること(使用標章について)

請求人は、平成15年1月の設立(甲7)以来、現在まで21年以上、「ひかり税理士法人」の名称で税務相談、税務代理を含む税理士業務において活動を行い、北は札幌から西は福岡まで全国8都市(札幌市、東京都千代田区、滋賀県草津市、大津市、京都市、大阪市、広島市、福岡市)に事務所を構えて、全国的に幅広く税理士法人としての活動を展開している(甲8)。全国的に流通している著名な経済誌「週刊東洋経済 2022年11月5日【特大号】」によると、その拠点数は全国18位とランキングされている(甲9)。

そして、これら全国各地の事務所における顧客に対する直接的なサービスの提供にとどまらず、請求人は税務や経営コンサルティング、事業承継、相続対策等に関して一般市民に対する啓発活動も活発に行い、潜在的需要者に対して広く知られるところとなっている。

すなわち、請求人は自身の他、ひかり監査法人、ひかり司法書士法人、ひかり社会保険労務士法人等をメンバーとする「ひかりアドバイザーグループ」の主軸として活動しており、それらのグループの総合力を結集することにより様々な分野の顧客に対して多様なサービス(役務)を提供している。その多様なサービスの一端を、それらの活動で使用するパンフレット等(「ひかり税理士法人Corporate Profile」(甲10)、「HAGひかりアドバイザーグループ」(甲11)、「相続対策 相続税申告 事業承継Service Guide」(甲12)、「ひかり戦略パートナーズ株式会社CORPORATE PROFILE」(甲13)、「ひかりのDXコンサルティング」(甲14)、「ひかりのDX化コンサルティング」(甲15)、「ひかりの人事ソリューション」(甲16))により示す。これらの多様なサービスにおいて請求人の主たる業務である税務相談及び税務代理が根幹を成していることは、各パンフレット等を見れば一目瞭然である。

特に、税務相談、税務代理サービスが主要業務となる相続に関しては、請求人は一般社団法人ひかり相続センターを設立し、該一般社団法人ひかり相続センターが、一般社団法人日本相続知財センター本部(東京都渋谷区)が運営する日本相続知財センター(登録商標)の活動に参画し、同法人の京都支部、大阪北支部として機能することにより、需要者の間に相続税務専門家として広く知られるようになっている(「相続の不安は公正証書遺言で解決 愛する家族へ最後のラブレターを残しませんか?」(甲17)、「人生100年時代の強い味方任意後見制度のご紹介」(甲18))。

ここで注意すべきは、これらのパンフレット等においては、請求人自身を専ら単に「ひかり」と呼称していることである。例えば、「3本の矢より「7色のひかり」」(甲11)、「経営の羅針盤として一歩先を照らす「ひかり」でありたい。」(甲13)、「ひかりのDXコンサルティング」(甲14)、「ひかりのDX化コンサルティング」(甲15)、「ひかりの人事ソリューション」「人事のことならなんでもひかりの人事の専門家にご相談ください!」「ひかりの人事労務ソリューションの3つの特徴」(甲16)等。

また、税理士に非常に近い専門家である公認会計士(実際、多くの公認会計士が税理士として活動している)・監査法人の分野では、ひかりアドバイザーグループの一員であるひかり監査法人が、全国的に流通している著名な経済誌「週刊ダイヤモンド 2024年3月23日号」において、監査証明業務売上高の増収率で全国31位、非監査証明業務売上高の増収率で全国36位にランキングされている(甲19)。同誌では会計士1人当たり売上高ランキングにおいてもひかり監査法人(単に「ひかり」と表記)が全国103位にランキングされている(甲19)。これらにおいて、ひかり監査法人が単に「ひかり」と表記されていることにも注意されたい。

また、税理士、公認会計士等のいわゆる士業者を相手にコンサルティングを行う株式会社アックスコンサルティング(東京都渋谷区)が発行する「士業業界ランキング500 2023年完全版」(甲20の1)では、「ひかり税理士法人」が会計事務所の従業員数ランキングにおいて83位(甲20の2)に表示され、そして請求人代表者であるA氏が士業業界に影響を与えた100人のNo.32に選ばれている(甲20の2)。

このような顕著な活動及び実績により、ひかり監査法人は2024年5月13日付で「上場会社等監査人登録審査会」において上場会社等監査人として正式に登録が承認された(甲31、甲32)。

また、請求人代表者であるA氏は、その専門的知識を生かした活動により多くの一般雑誌や有力インターネットサイトの記事に採り上げられている(甲21ないし甲28)。

以上のとおり、請求人は「ひかり税理士法人」なる名称(標章)により税務代理、税務相談を含む税理士業務に関する役務において広く知られているが、前述のとおり、「税理士法人」の部分はその役務に関してほとんど識別力の無い部分であり、通常、その部分まで呼称されることはなく、単に「ひかり」又は「ひかりさん」として呼称されるのが実情である。実際、甲第9号証、甲第19号証等の全国誌では単に「ひかり」として参照されている。

また、前述のとおり、請求人自身が税務代理、税務相談を含む多様な業務(役務)において自身を単に「ひかり」として呼称し、宣伝・広告を行っている。

これらのことから、「ひかり」(これが使用標章である)は、税務代理、税務相談の役務について、請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標である。

本件商標と使用標章が商標として類似していることについては、使用標章と同一の引用商標1について先に述べたとおりである。

このように、請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標「ひかり」(使用標章)が存在するにもかかわらず、それに類似する本件商標は、使用標章が使用される役務と同一又は類似の役務について使用をするものとして出願・登録されたものである。これは商標法第4条第1項第10号に反して登録されたものである。

なお、前記のとおり、請求人は全国経済誌にも採り上げられるほどの知名度を有しており、少なくとも当業界の人間であれば、請求人が「ひかり税理士法人」及び「ひかり」の名称で活動していることを知らないはずはない。あるいは、少なくとも、そのような名称の税理士法人が存在することを知らないはずはない。そのような事情を知りつつ、あえて観念、称呼において非常に近い本件商標を採択するのは、公正な商取引社会の実現も一つの大きな倫理課題である税理士の行動として首をかしげざるを得ない。

また、請求人のホームページでは、代表者(A氏)が時事折々の話題について話す「CEOコラム」を定期的に掲出している。2020年2月に該ホームページをリニューアルしたことに伴い、「CEOコラム」を「CEOコラム[もっと光を]」として再発足させた(甲29の1)。再発足した2020年2月10日をvol.1として、直近(2025年1月6日)のvol.257(甲29の2)まで、ほぼ週1回の頻度で掲出している。このように、請求人自身が「光を」なる語を継続的に使用し、請求人の需要者を始め、一般の多くの人々に税務相談・税務代理を含む様々な話題について話しかけているという状況の中で、本件商標を同一又は類似の役務について使用すれば、役務提供主体の出所混同を招くことは必定である。この点からも、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するといわざるを得ない。

(3)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当すること

仮に本件商標が商標法第4条第1項第10号、第11号に該当しないとしても、本件商標が請求人以外の税理士事務所又は税理士法人の名称として使用された場合、前記(2)で詳述したような請求人及び請求人代表(A氏)の税務・会計分野における全国的な業務、活動による請求人名称の知名度に鑑みた場合、請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあることは必定である。したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。

第4 被請求人の答弁

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第19号証を提出した。

1 請求人の主張の要旨

請求人は審判請求書の「6請求の理由」において、概ね次の主張を展開している。

(1)本件商標と引用商標1とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても同一又は少なくとも類似する。指定役務も、主として本件商標の指定役務のうち第35類「税務書類の作成に関する指導・助言及び情報の提供,会計処理に関する指導・助言及び情報の提供,財務書類の作成又は監査若しくは証明」と引用商標1の「財務書類の作成又は監査若しくは証明」とが同一又は類似である。したがって商標法第4条第1項第11号に該当する。

(2)本件商標と引用商標2とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても同一又は少なくとも類似する。指定役務も、主として本件商標の第36類「財政補助金に関する助言及び指導」及び「保険契約の締結の代理又は媒介」と、引用商標2の指定役務中、「引例2の抵触役務A」及び「引例2の抵触役務B」がそれぞれ同一又は類似である。したがって商標法第4条第1項第11号に該当する。

(3)本件商標と引用商標3とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても同一又は少なくとも類似する。指定役務も、本件商標の第41類「会計業務及び税務に関する講演会・講習会・セミナーの企画・運営又は開催」と引用商標3の第36類「税務相談,税務代理」とが同一又は類似である。したがって商標法第4条第1項第11号に該当する。

(4)本件商標は請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている使用標章に類似する。したがって、商標法第4条第1項第10号に該当する。

(5)本件商標が商標法第4条第1項第10号、第11号に該当しないとしても、請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に該当する。

2 被請求人の主張の要旨

本件商標は引用商標及び使用標章のいずれにも類似していない。請求人の上記1(1)ないし1(4)の主張は、いずれも本件商標と引用商標又は使用標章との類似を前提としていることから、これらの主張はすべて成り立たない。

また、上記1(5)に関して、請求人名称は識別力が相対的に低く、多少の同一部分があっても区別は容易であるし、請求人の知名度も証明されていない。したがって、請求人の業務に係る役務と混同が生じるおそれは存在しない。

以下、請求人が展開する「請求の理由」を分析しながら、本件審判請求が成り立たず、本件商標の登録が維持されるべき根拠を詳細に述べる。

3 審判請求書の「6請求の理由」の分析

(1)本件商標と引用商標1との比較(上記1(1)の分析)

ア 本件商標は標準文字にて「ヒカリヲ」と書してなる態様であり、上記第1のとおり、第35類、第36類及び第41類の役務を指定役務として令和6年5月29日に出願され、同年11月28日に登録された。参考までに特許庁では称呼として「ヒカリオ」のみを採用しており、「ヒカリ」と「オ」とを分離する称呼は採用していない。

これに対して引用商標1は、ゴシック体に近似しているが、垂直方向の文字の上端が三角形であり、文字の下側をいくらか膨らませた独特の態様にて「ひかり」と書してなり、第35類「財務書類の作成又は監査若しくは証明」を指定役務として平成17年11月17日に出願され、平成22年10月22日に登録された。参考までに特許庁では称呼として「ヒカリ」のみを採用している。

イ 最初に称呼について分析する。

請求人は審判請求書の「6.5 無効原因」に記載の「本件商標と引用商標1との類似性」において、「・・・前音「リ」はその子音(r音)及び母音「イ」音により明瞭に発音されるのに対し、その直後の「オ」音は、声帯の振動のみによって発せられる柔らかい音であり、その差異が称呼上比較的影響の少ない語尾に位置することとも相まって、これらを一連に称呼するときは、全体としての語調、語感が近似し、かれこれ聞き誤るおそれがある」(審判請求書第9頁第7行ないし第12行目)と述べ、甲第6号証として異議2002-90731の商標決定公報を提出している。

しかし、甲第6号証は4音で構成される「カプリッチ」と5音で構成される「カプリッチオ」とを対比した事例である。これと比較して本件は3音で構成される「ヒカリ」と4音で構成される「ヒカリオ」との対比であり、構成音が1音少ない。このように少ない構成音の場合には、その中で1音が相違すれば、全体の語感が大きく異なってくる。

また、甲第6号証で重要な点は「チ」を含めて全体に強くはじく音よりなることであり、これは「カプ」の音のみならず、「リ(ッ)」音も促音「ッ」によって強くはじく音になり、結果的に「カプリッチ」すべてが強くはじく音になっていることも留意すべきである。すなわち甲第6号証における「カプリッチオ」は「カプリッチ」の4音すべてが連続して強く発音されることから、結果的に末尾の「オ」音が埋没しているのである。

ここで引用商標1の称呼「ヒカリ」を分析すると、あえて強い音といえるのは「カ」だけである。「リ」の子音「r」は請求人の主張と異なり、たしかにはじき音であるがそれほど強くない「歯茎はじき音」である。すなわち「ヒカリ」の3音中、最も強く発音されるのは「カ」であり、「ヒ」と「リ」は、「カ」と比較すれば弱い発音となる。この結果、引用商標1は中間の「カ」音が比較的目立つことから、「ヒ」「カ」「リ」と3音が歯切れ良く発音される。もっとも、全体の構成音が3音と短くまとまっており、また、後述するが「光」というまとまった観念もあるために、「ヒカリ」と一気に称呼される。

次に本件商標の称呼「ヒカリオ」を分析する。前掲の「カプリッチオ」の「チ」音と異なり、本件商標の「リ」音はそれほど強く発音されないことから、末尾の「オ」音はその前の「リ」音に埋没せず、「リ」音と「オ」音とは明確に分離される。したがって本件商標は「ヒ」「カ」「リ」「オ」の4音すべてが歯切れ良く発音される。もっとも、本件商標についても全体の構成音が4音と短くまとまっていることから、「ヒ」「カ」「リ」と「オ」との間で一呼吸置くこと(すなわち「ヒカリ」と「オ」とで分離して称呼されること)はなく、「ヒカリオ」と一気に称呼される。また、上述したように、特許庁の参考情報による称呼でも、本件商標に採用されている称呼は「ヒカリオ」のみである。

請求人が「6.5 無効原因」の「本件商標と引用商標1との類似性」で述べている「・・・「オ」音は、声帯の振動のみによって発せられる柔らかい音であり、その差異が称呼上比較的影響の少ない語尾に位置することとも相まって、これらを一連に称呼するときは、全体としての語調、語感が近似し、かれこれ聞き誤るおそれがある」(審判請求書第9頁第9行ないし第12行目)という部分は甲第6号証の丸写しであるが、請求人は上述したように、構成音の数、強く発音される部分など、甲第6号証における2つの商標の対比と、本件商標と引用商標1との対比との間に、本質的な違いがあることをまったく理解していない。

ここで本件商標と引用商標1とを比較すると、上述したことから明らかなように、本件商標は「ヒ」「カ」「リ」「オ」のすべての音が歯切れ良く、かつ「ヒカリオ」と一気に称呼され、その一方で引用商標1は「ヒ」「カ」「リ」すべての音が歯切れ良く、かつ「ヒカリ」と一気に称呼される。ここで本件商標における「オ」音の存在感は大きく、この「オ」音によって、本件商標と引用商標1とは容易に区別することが可能である。すなわち本件商標と引用商標1とは称呼が非類似である。

ウ 次に観念について分析する。

請求人は「6.5 無効原因」の「本件商標と引用商標1との類似性」において更に、「本件商標の文字「ヒカリオ」は日本語として1つの単語としては存在しない。しかし、「ヒカリ」なる成語は存在し、語尾の「ヲ」は対格の格助詞「を」を表すことは明白であるから、本件商標からは直ちに「光を」なる観念が導出される。・・・動詞や対象語が付加されていれば別であるが、単に「光を」でしかない本件商標からは、「光」の観念のみが導出される」(審判請求書第9頁第15行ないし第20行目)と主張している。

しかし「光を」の観念=「光」の観念、という論理の展開には無理があり、無視することができない。

請求人が図らずも認めているように、本件商標「ヒカリヲ」は日本語の1つの単語として存在しない。すなわち単語として捉えた場合には、特定の意味を持たない造語となる。

また、単語ではなく、「光を」という言葉(名詞句)として捉えた場合には、動詞句又は対象語を伴わなければ意味が完結しない。「光を」だけでは、光を当てるのか、照射ポイントを絞るのか、暗くするのか、物理的な光なのか、心理的な光なのか、自分を対象とするのか、他人を対象とするのか、まったく不明である。すなわち「光を」という言葉で捉えた場合であっても、特定の意味を持たないことになる。

ちなみに「光を」という言葉から、18世紀から19世紀にかけてドイツで活躍した、詩人・科学者・政治家など多彩な肩書きを有するヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(以下「ゲーテ」と称する。)の臨終の言葉と伝えられている、「もっと光を(Mehr licht:英訳すると「More light」)」が連想されるが、この言葉自体も正確な意味は明らかにされていない。哲学的な意味があるように感じられるが、一説では単に「部屋が暗いから窓を開けてくれ」(乙1)という程度の意味であったとも言われている。このようにゲーテの著名な言葉とされる「もっと光を」であっても、その正確な意味は不明なのである。

実際のところ本件商標「ヒカリヲ」の中には「ヒカリ」の文字が含まれており、これは「光」のイメージを有するが、それによって本件商標「ヒカリヲ」が直接的に「光」のみを意味するわけではない。

ここで本件商標の特徴的な構成として、「ヒカリヲ」とすべて片仮名で表記されている点を強調しておく。請求人は「ヲ」の部分が格助詞であると主張するが、格助詞を片仮名で表記するのは普通とはいえない。それどころか本件商標「ヒカリヲ」は、すべて片仮名で表記されており、また4文字という少ない構成であることから、「ヒカリ」と「ヲ」とで分離されず、「ヒカリヲ」という一体感のあるまとまった言葉として常に認識される。

すなわち本件商標「ヒカリヲ」は、「光」のイメージを含むとはいえ、これ自体は特定の意味を持たない造語である。しかし請求人は本件商標を「光」と同一の意味であると主張しており、論理の飛躍といわざるを得ない。

これに対して引用商標1「ひかり」は、「東海道・山陽新幹線で運行されている特別急行列車の愛称」「目に明るさを感じさせるもの」「心に希望や光明などを起こさせる物事」「山口県南東部、周防灘に面する市」(乙2)などの意味を有する、一般的に親しまれている単語であり、明確な観念を有している。このように本件商標と引用商標1とは、観念が大きく異なる。

このように引用商標1は明確な意味を有しており、かつ一般的に親しまれている単語であるが、その一方で本件商標「ヒカリヲ」は、「光」のイメージを含むとはいえ、これ自体は特別の意味を持たない造語であるから、本件商標と引用商標1との観念上の区別は容易である。

また引用商標1「ひかり」はありふれた日本語であり、おそらく言葉を最初に覚えた幼児でも口にする平易な単語である。このようにありふれた単語は相対的に自他役務の識別力が弱くなり、本件商標との観念上の区別は更に容易になる。

エ 次に外観について分析する。本件商標と引用商標1とを比較した場合、称呼及び観念が大きく異なることはこれまで説明してきたが、実際のところ、本件商標と引用商標1との間で最も際立った相違点は外観であり、具体的には本件商標における片仮名「ヲ」の存在である。

請求人は「6.5 無効原因」の「本件商標と引用商標1との類似性」において更に、「本件商標と引用商標1は、片仮名と平仮名の違いはあるものの、普通の日本人であれば片仮名と平仮名の違いは無意識に吸収して同一視する」(審判請求書第9頁第24行ないし第26行目)と述べているが、実際にはその反対である。普通の日本人であれば、片仮名と平仮名との違いは意識している。一般的に平仮名は「和風、柔らかい、温厚」なイメージがあり、片仮名は「洋風、少々固め、クール」なイメージがある。

例えば、日本語の挨拶言葉「こんにちは」を「コンニチハ」と片仮名で表記した場合には、外国人がぎこちない日本語で挨拶しているイメージが浮かぶ。その反対に、外来語「ラーメン」を「らーめん」と平仮名で表記した場合には、和風に仕立てられた優しい味わいのラーメンというイメージが浮かぶ。このように普通の日本人であれば、平仮名と片仮名との違いは意識しているのである。

更に、通常であれば使用頻度が低い文字を使用した場合、その文字は際立った存在感を示す。本件商標における片仮名「ヲ」がこれに該当する。

請求人は本件商標における「ヲ」に関して、「語尾の「ヲ」は...格助詞であり、それ自体は意味を持たないため、同様に無意識に吸収される」(審判請求書第9頁第26行ないし第28行目)と述べている。しかし本件商標「ヒカリヲ」は、上記ウで述べたように全体として一体感のあるまとまった造語であるから、「ヲ」を格助詞と断定すること自体が筋違いである。したがって「ヲ」の文字が無意識に吸収されることはあり得ない。

本件商標は「ヒカリヲ」という外観上もまとまった構成であり、片仮名のみで表現され、その中でも特に片仮名「ヲ」は使用頻度が低い文字であることから、際立った部分として外観上の注目を集める。これに対して引用商標1は、ゴシック体に近似しているが、垂直方向の文字の上端が三角形であり、文字の下側をいくらか膨らませた独特の態様にて「ひかり」と書してなるものであり、平仮名のみで表現され、本件商標の外観で際立った部分である片仮名「ヲ」の文字が存在していないことから、外観上も大きく異なる。

このように本件商標における「ヲ」の存在は、本件商標の外観において最も特徴的なものであり、称呼及び観念の相違と相まって、引用商標1から容易に区別することが可能である。

オ 実際のところ、「ひかり」に対して「ヒカリヲ」などが非類似として商標登録されている例はいくつか存在する。

例えば、類似群コード42N01(「建築物の設計」等)について、次の商標が登録されている。

「ひかり」(登録第4056270号:東海旅客鉄道株式会社)(乙3)

「ヒカリヲ」(登録第6689801号:株式会社オーエフ)(乙4)

また、類似群コード36D01(「建物の管理」等)について、次の商標が登録されている。

「ひかり」(登録第3219913号:東海旅客鉄道株式会社)(乙5)

「大曲ヒカリオ」(登録第5683773号:大曲通町地区市街地再開発組合)(乙6)

「大曲ヒカリオ」のうち「大曲」は秋田県大仙市大曲地域(旧秋田県大曲市)を指す地名であり、実際のところ商標権者は大曲通町地区市街地再開発組合となっている。したがってこの商標における要部は「ヒカリオ」である。

また、引用商標1と同一の類似群コード35C01(「財務書類の作成又は監査若しくは証明」)を指定役務として、次の商標も登録されている。

「HIKARIBB/ヒカリビービー」(登録第4805574号:ソフトバンク株式会社)(乙7)

「N・光」(登録第6860833号:アイティオール株式会社)(乙8)

「ヒカリヲ」のみならず、「大曲ヒカリオ」「HIKARIBB/ヒカリビービー」「N・光」などの商標も「光」のイメージを有しているが、いずれも「ひかり」とは非類似として登録されている。補足すれば乙第7号証は引用商標1に対して先願・先登録であるから、引用商標1は「HIKARIBB/ヒカリビービー」に対して後願でありながら、非類似として登録されているのである。

これらの登録例と同様に、本件商標も審査において、引用商標1とは称呼・観念・外観のいずれも非類似と判断され、登録に至ったものであり、本件商標の登録査定は至極当然のものといえる。

また上記ウでも述べたが、「ひかり」はありふれた日本語であり、おそらく言葉を覚え始めた幼児でも口にするであろう平易な単語である。このような単語は相対的に自他役務の識別力が弱くなり、多少の同一部分があっても非類似商標と判断される可能性は高くなる。「ひかり」に対して「ヒカリヲ」「大曲ヒカリオ」「HIKARIBB/ヒカリビービー」「N・光」などが非類似として登録されている事実は、これを裏付けるものといえる。

カ 請求人は、本件商標の指定役務のうち第35類「税務書類の作成に関する指導・助言及び情報の提供,会計処理に関する指導・助言及び情報の提供,財務書類の作成又は監査若しくは証明」と、引用商標1の「財務書類の作成又は監査若しくは証明」とが同一類似群コードであるために類似すると主張している。これらの類似群コードは35C01と考えられるので、この主張には反論しない。

しかし、いずれにしても、上述したように商標自体の称呼・観念・外観が非類似であるから、それぞれの指定役務が類似しているとしても、本件商標と引用商標1とが非類似であることに変わりはない。

他方、請求人は、「請求に係る第35類役務」及び「請求に係る第41類役務」について、「類似群が同一ではないものの、類似と考えられる役務」(審判請求書第10頁第7行目)と述べて、引用商標1の指定役務と類似するものとみなしている。引用商標1の指定役務の類似群コードは35C01である。たしかに、類似群コードは商品・役務の類否関係を「推定」するものにすぎず、異なる類似群コード間で商品・役務が類似と判断されるケースも存在するが、それは例外的なケースである。そのような例外的なケースを主張するのであれば、現実に出所が混同する状況など、納得できる理由及び具体例を示すべきである。しかし請求人は単純に「類似と考えられる」と漠然と主張しているだけであり、理由及び具体例をまったく述べていない。

このような請求人の漠然とした主張は、自ら分析することなく、被請求人の負担だけを増大させる無責任なものである。現段階で被請求人は、本件商標の指定役務のうち、「請求に係る第35類役務」及び「請求に係る第41類役務」が引用商標1の指定役務とは非類似であると確信しているが、仮に、請求人がこれらの指定役務が互いに類似するものと実際に考えているのであれば、適切な理由及び具体例を示す必要がある。そのような理由及び具体例が示されない限り、被請求人もこれ以上の分析は不可能である。

ただし、これらの類否関係が不明である指定役務についても同様に、商標自体の称呼・観念・外観が非類似であるから、それぞれの指定役務が類似しているとしても、本件商標と引用商標1とが非類似であることに変わりはない。

(2)本件商標と引用商標2との比較(上記1(2)の分析)

ア 引用商標2は、引用商標1と基本的に同一の独特の書体で「ひかり税理士法人」と書してなる態様であり、上記第2(2)のとおり、第36類「税務相談,税務代理」等を指定役務として、平成17年11月17日に出願され、平成18年5月19日に登録された。参考までに特許庁では称呼として「ヒカリゼーリシホージン」「ヒカリゼーリシ」「ヒカリ」を採用している。

イ 最初に称呼について分析する。

引用商標2のうち「税理士法人(称呼:ゼーリシホージン)」の部分は、税理士法第48条の2以降の規定に基づく税理士法人を意味しており、同法第53条第2項の規定に基づき、税理士法人でない者は税理士法人又はこれに類似する名称を用いることができず、したがって税理士法人であることを表すにすぎない名称であるから、自他役務の識別力を有していない。

すなわち、引用商標2において自他役務識別力を有しており取引の対象とされる部分(要部)は「ひかり」である。これは引用商標1と同様に「ヒカリ」のみの称呼が生じる。

引用商標2の要部「ひかり」は引用商標1と同様に「ヒ」「カ」「リ」と3音が歯切れ良く発音され、全体の構成音が3音と短くまとまっており、「光」というまとまった観念もあるために、「ヒカリ」と一気に称呼される。

これに対して本件商標は引用商標1でも述べたように「ヒ」「カ」「リ」「オ」の4音すべてが歯切れ良く発音され、全体の構成音が4音と短くまとまっていることから「ヒカリオ」と一気に称呼される。

したがって本件商標と引用商標2の要部とを比較した場合においても、本件商標は「ヒ」「カ」「リ」「オ」のすべての音が歯切れ良く、かつ「ヒカリオ」と一気に称呼され、その一方で引用商標2の要部は「ヒ」「カ」「リ」すべての音が歯切れ良く、かつ「ヒカリ」と一気に称呼される。ここで本件商標における「オ」音の存在感は大きく、この「オ」音によって、本件商標と引用商標2の要部とは容易に区別することが可能であり、本件商標と引用商標2の要部とは称呼が非類似である。

ウ 次に観念について分析する。

観念についても引用商標1の分析と同様に、本件商標「ヒカリヲ」は「光」のイメージを含むとはいえ、それ自体は特定の意味を持たない造語である。これに対して引用商標2の要部「ひかり」は、「東海道・山陽新幹線で運行されている特別急行列車の愛称」「目に明るさを感じさせるもの」「心に希望や光明などを起こさせる物事」「山口県南東部、周防灘に面する市」(乙2)などの明確な意味を有する単語である。このように本件商標と引用商標2の要部とは、観念が大きく異なる。

また、引用商標2の要部「ひかり」はありふれた日本語であり、おそらく言葉を覚え始めた幼児でも口にするであろう平易な単語であることから、相対的に自他役務の識別力が弱くなる。これによって本件商標と引用商標2との観念上の区別は更に容易になる。

エ 次に外観について分析する。

外観についても引用商標1の分析と同様に、本件商標は「ヒカリヲ」という外観上もまとまった構成であり、片仮名のみで表現され、その中でも特に片仮名「ヲ」は使用頻度が低い文字であることから、際立った部分として外観上の注目を集める。これに対して引用商標2の要部は、ゴシック体に近似しているが、垂直方向の文字の上端が三角形であり、文字の下側をいくらか膨らませた独特の態様にて平仮名で「ひかり」と書してなるものであり、本件商標の外観で際立った部分である片仮名「ヲ」の文字が存在していないことから、外観上も大きく異なる。

本件商標における「ヲ」の存在は、本件商標の外観において最も特徴的なものであり、称呼及び観念の相違と相まって、引用商標2から容易に区別することが可能である。

オ 上述したように本件商標と引用商標2の要部とは、称呼、観念、外観が異なる。更に、引用商標2の要部「ひかり」はありふれた日本語であって相対的に自他役務の識別力が弱くなり、多少の同一部分があっても非類似商標と判断される可能性は高くなる。引用商標1の分析で述べた類似群コード42N01(「建築物の設計」等)についての「ひかり」「ヒカリヲ」の登録例、類似群コード36D01(「建物の管理」等)についての「ひかり」「大曲ヒカリオ」の登録例、類似群コード35C01(「財務書類の作成又は監査若しくは証明」)についての「ひかり」「HIKARIBB/ヒカリビービー」「N・光」の登録例などは、これを裏付けるものといえる。

カ 請求人の主張に関して、本件商標の指定役務のうち第36類「財政補助金に関する助言及び指導,保険契約の締結の代理又は媒介」と「引例2の抵触役務A」及び「引例2の抵触役務B」とが同一類似群コードであるために類似すると主張している。これらの類似群コードは36A01、36C01、36K01と考えられるので、この主張には反論しない。

しかし、いずれにしても、上述したように商標自体の称呼・観念・外観が非類似であるから、それぞれの指定役務が類似しているとしても、本件商標と引用商標2とが非類似であることに変わりはない。

他方、請求人は、本件商標の「請求に係る第41類役務」(類似群コード41A03)が「会計業務及び税務」に関するものである場合、引用商標2の「税務相談、税務代理」(類似群コード36J01)に類似すると主張している(審判請求書第11頁第6行~第12行目)。

類似群コード41A03の「セミナーの企画・運営又は開催」は、その対象分野を問わず、セミナーの運営組織が、いわば裏方として提供する役務であり、セミナーの主役である講師自身が提供する役務ではない。セミナーの講師自身が提供する役務は「技芸・スポーツ又は知識の教授」(類似群コード41A01)である。

これに対して類似群コード36J01「税務相談、税務代理」は、税理士がいわば主役として提供する役務である。すなわち両者の役務は裏方的なものと主役的なもので、真逆の性格を有している。

したがって、双方の役務に「税務」が含まれているからといって、これらの役務が類似するものとみなすのは早計であって、適切なものといえない。

引用商標1の役務について分析した上記(1)カでも述べたが、異なる類似群コード間で商品・役務が類似と判断されるケースは例外的であり、そのような例外的なケースに該当することを主張するのであれば、現実に出所が混同する状況など、納得できる理由及び具体例を示すべきである。

しかし請求人の主張には、単純に「会計業務及び税務」という言葉が一致しているという理由だけが示されており、その詳細な分析、具体例などがまったく示されていない。このような漠然とした理由だけでは、例外的なケースに該当する主張の根拠には到底なり得ない。

また、仮にこれらの役務が類似するとしても、上述したように商標の称呼・観念・外観が非類似であるから、本件商標と引用商標2とが非類似であることに変わりはない。

(3)本件商標と引用商標3との比較(上記1(3)の分析)

ア 引用商標3は、引用商標1「ひかり」と実質的に同一の態様であり、第36類「税務相談,税務代理」を指定役務として平成27年5月25日に出願され、平成27年10月9日に登録された。参考までに特許庁では称呼として「ヒカリ」を採用している。

イ 引用商標3は、引用商標1と実質的に同一の態様であり、上記(1)で述べたように、称呼・観念・外観は引用商標1と同様に本件商標とは非類似である。

ウ 請求人は引用商標3の指定役務「税務相談,税務代理」(類似群コード36J01)が、本件商標の「請求に係る第41類役務」(類似群コード41A03)と類似すると主張している。

ここでも引用商標2の場合と同様に、本件商標の指定役務の類似群コード41A03と、引用商標3の指定役務の類似群コード36J01とは、裏方的なものと主役的なもので、真逆の性格を有している。

したがって、双方の役務に「税務」が含まれているからといって、これらの役務が類似するものとみなすのは早計であって、適切なものといえない。

更に、引用商標2の役務について分析した上記(2)カでも述べたように、類似群コードが異なる場合における役務の類似という例外的なケースを主張するのであれば、現実に出所が混同する状況など、納得できる理由及び具体例を示すべきである。しかし、引用商標3についても、単純に「会計業務及び税務」という言葉が一致しているという理由だけが示されており、その詳細な分析、具体例などがまったく示されていない。このような漠然とした理由だけでは、例外的なケースに該当する主張の根拠には到底なり得ない。

また、仮にこれらの役務が類似するとしても、上述したように商標の称呼・観念・外観が非類似であるから、本件商標と引用商標3とが非類似であることに変わりはない。

(4)本件商標と使用標章との比較(上記1(4)の分析)

ア 請求人が上記1(4)において根拠条文として商標法第4条第1項第10号を引用している理由は、おそらく引用商標1ないし引用商標3が登録商標であるとはいえ、その書体がいくらか特殊なものであることから、商標の書体又は態様に限定されることなく、また引用商標1ないし引用商標3の指定役務に含まれていない業務(例えば、会計帳簿の記帳代行)までも使用標章でカバーすることが目的であると理解する。

商標法第4条第1項第10号は未登録商標を前提とする規定であることから、この規定の趣旨に沿い、あくまでも「未登録商標」としての使用標章と本件商標との比較を行う。

イ まず本件商標と使用標章との間で、称呼及び観念は上述した引用商標1ないし引用商標3の分析と実質的に同一であるため、ここでは詳しく述べない。いずれにしても使用標章の称呼及び観念は本件商標と大きく異なり、その区別は容易である。

ウ 次に外観であるが、使用標章は書体又は態様にとらわれず、平仮名で「ひかり」、又は希にアルファベットで「HIKARI」と表現された商標であるものと理解する。すなわち片仮名で「ヒカリ」と表現された商標は含まれない。

ここで「HIKARI」を含めた理由であるが、被請求人は念のため甲第7号証ないし甲第28号証を精査した結果、第13号証でアルファベット「HIKARI」と表現されていたからである。これ以外の証拠では、すべて平仮名で「ひかり」と表現されていた。他方、片仮名で「ヒカリ」と表現されている証拠は見当たらなかった。

また、甲第29号証では「光」と漢字で表現されているが、甲第29号証は「もっと光を」というコラムの題名を紹介し、それがゲーテの著名な言葉云々と説明しているだけであり、使用標章「ひかり」「HIKARI」の使用を裏付けるものといえず、証拠としてほとんど意味を成さない。

なお、上記(1)ウでも述べたが、ゲーテの「もっと光を」の意味は明らかでなく、観念上の類似を主張する根拠にもなり得ない。

したがって外観に関しては、片仮名のみで表現された本件商標「ヒカリヲ」と、平仮名「ひかり」又は希にアルファベット「HIKARI」で表現された使用標章「ひかり」とを比較することになる。

この場合にも引用商標1ないし引用商標3の分析と同様に、本件商標「ヒカリヲ」は外観上もまとまった構成であり、片仮名のみで表現され、その中でも特に片仮名「ヲ」は使用頻度が低い文字であることから、際立った部分として外観上の注目を集める。これに対して使用標章は平仮名「ひかり」又は希にアルファベット「HIKARI」で表現され、本件商標の外観で際立った存在である片仮名「ヲ」の文字が存在していないことから、外観上も大きく異なる。

このように本件商標における「ヲ」の存在は、本件商標の外観において最も特徴的なものであり、称呼及び観念の相違と相まって、使用標章から容易に区別することが可能である。

エ 上述したように本件商標は、称呼、観念、外観のいずれも使用標章と大きく異なり、使用標章とは非類似の商標である。したがって商標法第4条第1項第10号を適用するための前提条件である「類似する商標」に該当しない。

また、上記(1)オ及び(2)オで述べたように、使用標章「ひかり」はありふれた日本語であって相対的に自他役務の識別力が弱くなり、多少の同一部分があっても非類似商標と判断される可能性は高くなる。これは「ひかり」に対して「ヒカリヲ」「大曲ヒカリオ」「HIKARIBB/ヒカリビービー」「N・光」などが登録されている例から理解することができる。

オ 請求人は使用標章「ひかり」が、請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間で広く認識されている(すなわち周知である)と主張しているので、使用標章の周知性に関して分析する。

甲第7号証ないし甲第28号証では請求人が広範囲で積極的な活動を展開し、使用標章「ひかり」が周知となった旨が主張されている。被請求人と比較して、請求人が大手企業であることは否定しないが、使用標章の周知性が認められる程度まで、請求人が大規模に使用標章を使用しているのか否かについては疑問が残る。

(ア)請求人が提出した甲第7号証ないし甲第28号証は、請求人又はそのグループ会社が発行しているパンフレット類、ウェブサイト、業界紙の紹介記事などである。

商標審査基準「九、第4条第1項第10号(他人の周知商標)」によると、周知性の判断には、基準第2(第3条第2項)の2.(2)及び(3)を準用するとある。その詳細については省略するが、証拠方法は大きく2種類に分けられ、1つは出願人による広告物や業界紙の記事などのイメージ的な証拠、もう1つは取引書類やアンケート結果報告書などの数値的な証拠である。

請求人が提出した証拠は、ほとんどがイメージ的なものであり、数値的な証拠はほとんど存在していない。したがって、これらの証拠は、使用標章の周知性が認められる程度まで、請求人が大規模に使用標章を使用していることを証明するものとはいい難い。

すなわち、甲第7号証から甲第29号証は、いずれも単なる雑誌記事、請求人又はそのグループ会社のホームページ、パンフレットなどであり、その雑誌記事がどのような反響を呼んだのか、ホームページの閲覧者数がどの程度なのか、パンフレットがどの程度の規模で頒布されているのか、まったく明らかにされていない。

まず、甲第7号証、甲第8号証はホームぺージの抜粋であるが、この種のホームページへの掲載は企業活動の一環として普通に行われるものであり、どの程度の取引者・需要者がアクセスして視認したかは不明であり、使用標章の周知性を直接証明するものとはいえない。

また、甲第9号証は他社発行の雑誌の抜粋であり、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

また、甲第10号証ないし甲第14号証は請求人又はそのグループ会社のパンフレットのようであるが、この種のパンフレットの発行は企業活動の一環として普通に行われるものであり、発行時期、発行部数、頒布地域、頒布方法などが不明であり、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

また、甲第15号証ないし甲第18号証は請求人又はそのグループ会社のチラシのようであるが、この種のチラシの発行も企業活動の一環として普通に行われるものであり、発行時期、発行部数、頒布地域、頒布方法などが不明であり、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

また、甲第19号証は他社発行の雑誌から単に増収率のランキングを抜粋したものにすぎず、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

また、甲第20号証の1及び甲第20号証の2は、他社発行の雑誌を紹介するホームページ及びその雑誌記事を抜粋したものであり、ホームページはどの程度の取引者・需要者がアクセスして視認したかは不明であり、また雑誌記事も単なる従業員数のランキングにすぎず、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

甲第21号証の1ないし甲第21号証の3は「アカウンタンツマガジン」という名称からも明らかなように、いわゆる「業界の内輪向け」の雑誌及びそれに附帯するホームページの抜粋であり、例えば税理士事務所の顧客を読者層とするものではない。したがって、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

甲第22号証の1及び甲第22号証の2も同様に「業界の内輪向け」の雑誌及びそれに附帯するホームページの抜粋であり、例えば税理士事務所の顧客層を対象とするものといえず、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

また、甲第22号証の3は甲第22号証の1及び甲第22号証の2を紹介する請求人又はそのグループ会社のホームぺージの抜粋であり、記事内容が業界の内輪向けであるから、例えば、税理士事務所の顧客がどの程度の関心を持ってアクセスしたのかは不明であり、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

また、甲第23号証ないし甲第26号証は他社ホームページ又は雑誌の抜粋であるが、これまでの証拠と同様に「業界の内輪向け」の記事であり、例えば、税理士事務所の顧客を読者層とするものではなく、また、ホームページのアクセス状況も不明であるから、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

また、甲第27号証の1及び甲第27号証の2は他社ホームページの抜粋及びその附帯記事であり、同様に業界の内輪向けの記事であるから、例えば、税理士事務所の顧客がどの程度の関心を持ってアクセスしたのかは不明であり、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

甲第28号証、甲第29号証の1、甲第29号証の2は請求人又はそのグループ会社のホームぺージの抜粋であり、どの程度の取引者・需要者がアクセスして視認したかは不明であり、使用標章の周知性を直接証明するものではない。

更に、例えば甲第9号証の記載によると、「拠点数」ではトップの「辻・本郷」が80拠点であるのに対して請求人は8拠点、甲第19号証の増収率及び会計士1人あたりの売上高もトップの10%程度、甲第20号証の従業員数でもトップの10%程度である。また、甲第9号証の記事では「業界の勢力図を描くには職員数が近道で、200人以上の税理士法人を4つに分類している」と述べているが、職員数ランキングを見ると請求人の職員数は200人に達していない。これらのデータを見る限り、使用標章の周知性が認められる程度まで、請求人の事業が大規模なものとはいい難い。

また、請求人は審判請求書で書籍の発行について述べているが(審判請求書第16頁第28行ないし第21頁第30行目)、これらの書籍の発行部数や売上高などの数値的な証拠に関して、請求人は取引書類やアンケート結果報告などを一切提出していないことから、その分析は不可能である。

また、請求人は、「このような顕著な活動及び実績により、ひかり監査法人は・・・上場会社等監査人として正式に登録が承認された」と主張し(審判請求書第13頁第27行~第29行)、その証拠として甲第31号証及び甲第32号証を添付している。

この主張及び証拠を採用した理由について被請求人は真意を測りかねる。上場会社等監査人として登録されるための判断基準として、その監査人の周知性、売上高、職員数などが考慮されるとは考えられない。被請求人は念のため日本公認会計士協会のウェブサイトや「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」(乙16)などを簡単に調べてみたが、適格性として品質重視、職業倫理、独立性などは挙げられているが、周知性、売上高、職員数などが考慮されている事実は発見されなかった。したがって、甲第31号証及び甲第32号証は周知性の証拠としてまったく意味をなさない。

総括すると、請求人が提出した甲第7号証ないし甲第28号証、並びに甲第31号証及び甲第32号証は、イメージ的なものに関しては使用標章の周知性を証明するものといえない。また数値的なものに関しては証拠自体が存在しておらず、周知性の判断は不可能である。

(イ)更に、使用標章の使用主体である税理士法人に特有の業務環境も、周知性に大きな影響を与える。請求人が提出した甲第9号証の記事の冒頭では「全国には約5000の税理士法人と約5.6万の税理士が登録されている。10人以下の事務所が圧倒的・・・」(甲9)と述べている。税理士に会計処理を委託したことがある人であれば理解できるものと考えられるが、日本国内の納税者の大半を占める個人、零細企業、中小企業であれば、大規模な税理士法人に委託するのではなく、近所の知り合いを通じて小規模の税理士事務所に委託することが一般的である。実際のところ、税理士業界最大手の「辻・本郷税理士法人」代表であるB氏は2021年2月1日付の「ダイヤモンド・オンライン」の記事において、「業界の市場規模は約2兆円なんていわれていますが、うちは税理士法人の売り上げが約130億円ですから、シェアでいうと0.6%程度・・・」(乙9)と述べており、税理士法人が関与する市場はきわめて細分化されている。

たしかに、請求人が提出した証拠をみると、例えば、甲第12号証ないし甲第14号証、甲第17号証及び甲第18号証など、中小企業や個人向けのサービスも存在している模様であるが、税理士法人には「地元密着型の小規模事務所」が依然として根強く残っている。そのような状況で税理士法人を利用する顧客は、組織名で「○○事務所にお願いする」のではなく、個人名で「税理士の○○先生にお願いする」という基準で選ぶこともある。

すなわち税理士法人に特有の「地域密着型」「○○先生にお願いする」という業務環境ゆえに、請求人のように個人名を排除した名称は、製造業や小売業など他の業界と比較すれば、それほど普及していない。事実、上述した税理士業界最大手の「辻・本郷税理士法人」も個人名を採用している。このように個人名を残す傾向は、法律事務所、特許事務所など、いわゆる「士業」にも多く見受けられる。このような業務環境も、使用標章「ひかり」の周知性が高くならない一因である。

請求人は審判請求書で「単に「ひかり」又は「ひかりさん」として称呼される」(審判請求書第22頁第2行目)と述べている。たしかに使用標章「ひかり」は親しみやすい言葉であり、「ひかり」「ひかりさん」と称呼することも自然であるが、それは請求人による商標の使用だけが理由ではない。それ以外でも、おそらく言葉を覚え始めた幼児でも口にするであろう「ひかり」という単語は、それ自体がありふれており、単に親しみやすい言葉であった、という理由も大きく影響していることに留意すべきである。

(ウ)このように甲第7号証ないし甲第28号証並びに甲第31号証及び甲第32号証を見る限り、使用標章の周知性が認められる程度まで、請求人が大規模に使用標章を使用しているものとはいえない。

繰り返すが、本件商標「ヒカリヲ」と使用標章「ひかり」とは非類似である。したがって、仮に使用標章が周知であったとしても、最初から非類似の商標について周知性を主張しても無意味である。すなわち使用標章の周知性は最初から考察するに値しない。

カ 本件商標と、未登録商標とされる使用標章とが非類似であるという主張に追記すると、商標以外でも、使用標章「ひかり」のように3音で構成される、明確かつ平易な意味を有する言葉と、本件商標「ヒカリヲ」のように、それに1音を付加した言葉(特に造語)との間で、容易に区別可能な例はいくつか存在する。

例えば、兵庫県の南西部の地名である「播磨(ハリマ)」(乙10)と、冒険活劇の主人公として知られおり、実在の人物「谷豊」の通称でもあった「ハリマオ」(乙11)とは容易に区別することができる。なお、「ハリマオ」はマレー語で「虎」を意味するが、日本語圏では造語と受け取られるのが一般的である。

また、約12キロメートルの距離を意味する「三里(サンリ)」と、キャラクターグッズの企業名「サンリオ」との区別も容易である。「サンリオ-この社名はスペイン語のSan Rioに由来」(乙12)しているようであるが、創業者が説明しなければ、一般の日本人は造語と認識するのが自然であり、実際のところウィキペディアでは「社名「サンリオ」の由来については諸説ある」(乙13)と述べている。

これらの言葉が容易に区別可能であるという事実は、使用標章「ひかり」と本件商標「ヒカリヲ」とが容易に区別可能であることを、更に裏付けるものといえる。

(5)本件商標と引用商標及び使用標章との比較のまとめ(上記1(1)ないし1(4)の分析のまとめ)

以上の分析から明らかなように、本件商標は引用商標及び使用標章と、称呼、観念、外観のいずれも非類似であり、特に、本件商標における片仮名「ヲ」の存在が、外観上の差異を際立たせている。

また、請求人が提出した甲第7号証ないし甲第28号証、甲第31号証及び甲第32号証は、使用標章の周知性を証明するものといえない。そもそも使用標章は本件商標と非類似であり、周知性は最初から考察するに値しない。

したがって、請求人の主張は成り立たず、本件商標は引用商標及び使用標章とは非類似として登録が維持されるべきである。

(6)商標法第4条第1項第15号について(上記1(5)の分析)

請求人は審判請求書の末尾で、請求人名称の知名度のみを理由として混同が生じるおそれがあると漠然と述べているだけであり、具体的な根拠がまったく示されていない。特に問題とされる「請求人名称」とは何であるのか定義されておらず、被請求人としては何を対象として答弁を展開して良いのか判断に苦しむ。推測の域にとどまるが、おそらく「請求人名称」とは「ひかり」を指すものと考えられる。

しかし、上記(1)ウ及び(1)オでも述べたように、「ひかり」はありふれた日本語であり、おそらく言葉を最初に覚えた幼児でも口にする平易な単語である。このようにありふれた単語は相対的に自他役務の識別力が弱くなることから、多少の同一部分があっても区別は容易である。したがって、これを名称とする請求人の業務に係る役務と、本件商標の業務に係る役務との間で混同が生じるおそれは低い。

また、上記(4)オ(イ)でも述べたが、請求人が「単に「ひかり」又は「ひかりさん」として称呼される」という主張についても、これは請求人名称の使用だけが理由ではなく、おそらく言葉を覚え始めた幼児でも口にするであろう「ひかり」という単語は、それ自体がありふれており、単に親しみやすい言葉であった、という理由も大きく影響していることに留意すべきである。

実際のところ、上記(1)オで例示した東海旅客鉄道株式会社の「ひかり」は東海道新幹線の開業から60年以上使用されており、現在では「のぞみ」が主流になっているとはいえ、依然として新幹線鉄道の代名詞ともいえる名称であり、日本のみならず世界規模で高い知名度を有している。それにもかかわらず、この「ひかり」に対して「ヒカリヲ」「大曲ヒカリオ」が登録され、実際に出所の混同は生じておらず、東海旅客鉄道が何らかの異論を唱えたという記録もない。これは東海旅客鉄道の「ひかり」のきわめて高い知名度にもかかわらず、「ひかり」が平易な単語であり、識別力が相対的に低く、多少の同一部分があっても区別は容易であることが理由と考えられる。

乙第3号証「ひかり」と乙第4号証「ヒカリヲ」とで一致する類似群コードは42N01(「建築物の設計」等)、乙5号証「ひかり」と乙第6号証「大曲ヒカリオ」とで一致する類似群コードは36D01(「建物の管理」等)であって、いずれも東海旅客鉄道の「ひかり」の最も重要な役務ではないかもしれないが、鉄道業務には駅施設や車両基地など附帯する建築物が多数あることから、その設計及び管理も行うのは自然であり、決して軽視できない役務である。このような役務において出所の混同が生じていないことは注目すべきである。

更に、東海旅客鉄道は、「ひかり」の最も重要な役務である「旅客車による輸送」(類似群コード39A01)について商標登録第3005705号「ひかり」を所有しているが(乙17)、これと実質的に同一の役務である「鉄道による輸送」(類似群コード39A01)について、KDDI株式会社が所有する商標登録第4788667号「光プラス」(乙18)、嵯峨野観光鉄道株式会社が所有する商標登録第6680535号「光の幻想列車」(乙19)などが併存している。このような商標が併存している理由は、きわめて著名な新幹線「ひかり」の最も重要な役務である「旅客車による輸送」と実質的に同一の役務「鉄道による輸送」においても、「ひかり」という言葉の識別力が相対的に低く、多少の同一部分があっても区別は容易であるためと考えられる。

請求人名称と考えられる「ひかり」が、東海旅客鉄道の「ひかり」を上回る知名度を有しているのであればともかく、そうでなければ請求人名称も、本件商標との間で混同が生じるおそれがないことは至極当然である。

4 甲第5号証について

最後に、商標の類否判断と直接関係しないが、甲第5号証(2024年4月17日付電子メール)の最終段落の記載と、被請求人が受信した2024年4月17日付電子メール(乙14)の最終段落の記載が一致していない点について言及する。これは被請求人が心理的な圧迫を覚え、本審判事件の発端の1つにもなった重要な部分である。

請求人は甲第5号証として、2024年4月17日に請求人が被請求人に送付した電子メールの写しを提出している。

しかし実際に被請求人が受信した電子メールの内容は、この甲第5号証の内容と異なる(乙14)。

甲第5号証の最終段落:

「末筆ながら、当法人の代表である光田は公認会計士でもあり、貴法人の社員お二人も公認会計士であることから、徒に商標権をめぐる紛争に発展させること

は望んでいないこともお含み置きいただいた上で

貴法人の今後の対応についてのご回答をお待ちしております」(被請求人が下線を付記)。

乙第14号証の最終段落:

「末筆ながら、当法人の代表である光田は公認会計士でもあり、貴法人の社員お二人も公認会計士であることから、徒に商標権をめぐる紛争に発展させることは

望んでおらず、今後さらに競争が激化する業界の中で共に手を携えて協業できる方途があるのであれば、前向きなお話し合いに臨むことは厭わないと申しておりますので、そのこともお含み置きいただいた上で

貴法人の今後の対応についてのご回答をお待ちしております」(被請求人が下線を付記)。

甲第5号証の送信日時は2024年4月17日の19時22分36秒であり、乙第14号証の送信日時は2024年4月17日の19時23分である。更に宛先のメールアドレスも一致している。差出人のメールアドレスが甲第5号証では黒塗りされているが、あえて調査する必要もないと考えられる。この2つの電子メールは同一の人物が、同一時刻に、同一の宛先に送信したものである。しかし、その内容が一致していない。

甲第5号証の「望んでいないことも」の「いない」は乙第14号証には存在していないことから、甲第5号証の一部が、偶然にも何らかの手違いで単に削除されただけとは考えられず、「いない」という表現は請求人が意図的に加筆したのではないかという疑義が生じる。

乙第14号証には存在する「今後さらに競争が激化する業界の中で共に手を携えて協業できる方途があるのであれば、前向きなお話し合いに臨むことは厭わない」の部分(以下「不一致部分」という。)は、友好的解決を望むようにも感じられるが、経営規模が請求人と比較してきわめて小さな被請求人にしてみると、請求人との何らかの経営上の統合を意味するのではないかと心理的な圧迫を覚えた。実際のところ、それが理由になって被請求人は「本当に回答しても大丈夫であろうか」と不安になり、審判請求書の「6.4 利害関係」でいう「それに対し、出願人からは何の回答も無かった」という反応を示したのである(乙15)。すなわち、この不一致部分は、本審判事件の発端の1つにもなった重要な部分である。

特に甲第5号証は、ヘッダ(例えば乙第14号証の最上段に現れるメールアドレス)又はフッタ(例えばプリントアウト時の最下段に付されるタイムスタンプ)などが存在していない。メール用ソフトウェアによってはフッタが存在していない場合もあるが、少なくともヘッダが存在していないことには不自然さを感じる。

これは本件商標と引用商標1ないし3との類似判断とは無関係であるが、本審判事件の発端の1つにもなった重要な部分であることから、例えば、請求人から弁駁書などで、甲第5号証が被請求人に送信した電子メールの真正な記録である旨の説明を希望する。

5 むすび

繰り返しになるが、本件商標は引用商標又は使用標章と、称呼、観念、外観のいずれも非類似であり、特に本件商標では、使用頻度が低い片仮名「ヲ」が外観において際立った存在であることから、引用商標又は使用標章との区別は容易である。

また、請求人が提出した甲第7号証ないし甲第29号証並びに甲第31号証及び甲第32号証は、使用標章の周知性を証明するものといえない。そもそも使用標章は本件商標と非類似であり、周知性は最初から考察するに値しない。

更に、1(5)の主張に関して、「請求人名称」と考えられる「ひかり」は識別力が相対的に低く、多少の同一部分があっても区別は容易である。また請求人の知名度も証明されていない。したがって請求人の業務に係る役務と混同が生じるおそれは存在しない。

したがって本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

第5 当審の判断

請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。

以下、本案に入って審理する。

1 商標法第4条第1項第11号該当性について

(1)商標法第4条第1項第11号について

商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の役務に使用された場合に、役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその役務の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日判決参照)。

また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは、原則として許されないが、その場合であっても、商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し、役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じない場合などには、商標の構成部分の一部だけを取り出して、他人の商標と比較し、その類否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日判決、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日判決、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日判決参照)。

(2)商標法第4条第1項第11号該当性

ア 本件商標

本件商標は、上記第1のとおり、「ヒカリヲ」の片仮名を標準文字で表してなるところ、当該文字は、辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合いを認識させるものではない。

なお、請求人は、本件商標が日本語として1つの単語としては存在しないが、「ヒカリ」なる成語は存在し、語尾の「ヲ」は対格の格助詞「を」を表すことは明白であるから、本件商標からは直ちに「光を」なる観念が導出され、単に「光を」でしかない本件商標からは、「光」の観念のみが導出される旨主張する。

たしかに、本件商標は、我が国でよく親しまれている「光」を片仮名で表した「ヒカリ」の文字が含まれているものである。しかしながら、本件商標「ヒカリヲ」は、すべての文字が同書、同大、等間隔で外観上まとまりよく表されており、また、構成全体から生じる「ヒカリオ」の称呼も冗長ではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。さらに、我が国において、「ひかり(光)」と「を(助詞)」を結合した「ひかり(光)を」を表示する際に、「ヒカリヲ」と片仮名で表されることが一般的に行われているとはいい難いことから、本件商標に接する一般の需要者は、これを「光」を表す「ヒカリ」なる成語と格助詞「を」表す「ヲ」を結合したものと認識するというよりは、「ヒカリヲ」という一般の辞書等に掲載されていない4文字で構成された造語であって、特定の観念を生じさせないものであると認識するというのが相当である。

したがって、本件商標は、その構成文字に相応して「ヒカリオ」の称呼が生じ、特定の観念が生じないものである。

イ 引用商標

(ア)引用商標1及び3

引用商標1及び3は、別掲1及び3のとおり、「ひかり」の平仮名をやや丸みをおびた書体で書してなるところ、「ひかり」の文字は、「光(光ること、光るもの)」(岩波書店「広辞苑第七版」。以下、単に「広辞苑」という。)の意味を有する語であるから、その構成中の文字に相応して、「光」の観念及び「ヒカリ」の称呼を生ずるものである。

(イ)引用商標2

引用商標2は、別掲2のとおり、「ひかり税理士法人」の文字をやや丸みをおびた書体で書してなるところ、これらの文字は、同書、同大、等間隔で、外観上まとまりよく一体に表されており、その構成文字に相応して生じる「ヒカリゼイリシホウジン」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。

そして、引用商標2の構成中「ひかり」の文字部分は、上記(ア)と同様に「光(光ること、光るもの)」(広辞苑)の意味を有する語であり、「税理士法人」の文字部分は、税理士法第48条の9の規定等により、税理士業務を組織的に行うことを目的として、税理士が共同して設立の登記をすることによって成立した法人を意味する語(国税庁ホームページ参照)である。

ところで、税理士法人においては、その名称中に「税理士法人」という文字を使用しなければならないことが定められており(税理士法第48条の3)、実際に税理士業務を扱う分野において、例えば「○○税理士法人」又は「税理士法人○○」(「○○」は任意の語)のように、税理士法人の名称の一部として一般的に使用されている実情があることからすると、「ひかり税理士法人」の文字は、構成全体として「特定の税理士法人の名称(「ひかり」という税理士法人)」を表したものと把握されるというのが相当である。

また、上記第2の1(2)のとおり、引用商標2の指定役務中、本件商標の指定役務と抵触する指定役務(つまり、「引例2の抵触役務A」及び「引例2の抵触役務B」)には、税理士又は税理士法人以外の者が行うことができない「税務相談,税務代理」が含まれていない。

そうすると、引用商標2は、本件商標の指定役務と抵触する指定役務との関係において、その構成全体をもって取引に資されるというのが相当であるから、その構成文字全体に相応して「ヒカリゼイリシホウジン」の称呼を生じ、「特定の税理士法人の名称(「ひかり」という税理士法人)」の観念を生じるものである。

ウ 本件商標と引用商標の類否について

(ア)本件商標と引用商標1及び3の類否

本件商標の「ヒカリヲ」の文字と引用商標1及び3の「ひかり」の文字を比較するに、外観においては、片仮名と平仮名の文字種の違いのほか、その構成文字数及び構成態様が明らかに異なり、全体の外観において異なるものである。

次に、称呼においては、本件商標から生じる「ヒカリオ」の称呼と引用商標1及び3から生じる「ヒカリ」の称呼とは、「ヒカリ」の称呼の部分を共通にするものの、その後に続く「オ」の音の有無に違いがあり、両称呼の3音と4音という短い音構成の中では、この違いが称呼全体に与える影響は大きいものといえ、それぞれを一連に称呼しても互いに聞き誤るおそれはない。

そして、観念においては、引用商標1及び3は、「光」の観念を生じるが、本件商標は、特定の観念を生じないため、相紛れるおそれはない。

そうすると、本件商標と引用商標1及び3とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない、非類似の商標というのが相当である。

(イ)本件商標と引用商標2の類否

本件商標の「ヒカリヲ」の文字と引用商標2の「ひかり税理士法人」の文字を比較するに、外観においては、片仮名と平仮名及び漢字の文字種の違いのほか、その構成文字数及び構成態様が明らかに異なり、全体の外観において異なるものである。

次に、称呼においては、本件商標から生じる「ヒカリオ」の称呼と引用商標2から生じる「ヒカリゼイリシホウジン」の称呼とは、一部「ヒカリ」の称呼を共通にするものの、その後に続く「オ」と「ゼイリシホウジン」の音に違いがあるなど、音数及び音構成において明らかに異なり、互いに聞き誤るおそれはない。

そして、観念においては、引用商標2は、「特定の税理士法人の名称(「ひかり」という税理士法人)」の観念を生じるが、本件商標は、特定の観念を生じないため、相紛れるおそれはない。

そうすると、本件商標の「ヒカリヲ」の文字と引用商標2の「ひかり税理士法人」とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれはない。

したがって、本件商標と引用商標2とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない、非類似の商標というのが相当である。

(ウ)小括

上記のとおり、本件商標と引用商標とは相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務が類似する場合があるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

なお、請求人は、上記第3の3(1)アのとおり、「請求に係る第35類役務」について、引用商標1の指定役務と類似群が同一ではないものの、類似と考えられる旨、さらに、上記第3の3(1)イ及びウのとおり、本件商標の指定役務中、「請求に係る第41類役務」は、「講演会・講習会・セミナーの企画・運営又は開催」自体は「セミナーの企画・運営又は開催」なる役務と同一又は類似であるものの、その内容・対象が「会計業務及び税務」に関するものである場合、当然に「会計業務及び税務」に関する主要役務である引用商標2及び3の「税務相談、税務代理」に類似する旨述べているが、その主張を裏付ける証拠の提出は一切なくその主張を採用することはできない。

2 商標法第4条第1項第10号該当性について

(1)商標法第4条第1項第10号における周知性について

商標法第4条第1項第10号は、先使用未登録商標に他の商標登録出願を排除する効力を認めるものであるから、同号にいう「広く認識されている」に該当するといえるための地理的範囲としては、必ずしも全国的に知られている必要まではないが、1都道府県内で知られているだけでは足りず、少なくとも、例えば、関西一円などの数県にわたる相当広い範囲で、取引者・需要者に知られていることを要するというべきである。また、「広く認識されている」といえるための取引者・需要者の範囲としても、同様の趣旨から、すべての取引者・需要者に知られている必要まではないが、相当程度の取引者・需要者に知られていることを要すると解すべきである(知的財産高等裁判所平成26年(行ケ)第10118号同年9月3日判決)。

また、同号の規定を適用するために引用される使用標章は、本件商標の出願時においても、我が国内の需要者の間に広く認識されていなければならない(商標法第4条第3項)。

(2)使用標章の周知性について

ア 税務代理、税務相談等の税理士業務に係る需要者について

税理士業務は、税理士法第2条において、他人の求めに応じ、租税に関して、税務代理、税務書類の作成、税務相談等を行うことを業とするものであるから、その需要者は、納税義務者となり得る法人及び広く一般の需要者を含むものである。

イ 使用標章について

上記第2の2のとおり、請求人が税務代理、税務相談を含む役務において使用し、請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていると主張する使用標章は、「ひかり」の文字からなるものである。

ウ 使用標章の使用について

請求人の提出証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。

(ア)請求人は、平成15年1月の設立以来、税務相談、税務代理を含む税理士業務において「ひかり税理士法人」の名称で、全国8都市(札幌市、東京都千代田区、滋賀県草津市、大津市、京都市、大阪市、広島市、福岡市)に事務所を構えて、税理士法人としての活動を展開しており(甲7、甲8、甲10)、2022年11月5日号の経済誌によれば、その拠点数は全国18位タイと記載されている(甲9)。

(イ)請求人は、ひかり監査法人、ひかり司法書士法人、ひかり社会保険労務士法人等をメンバーとする「ひかりアドバイザーグループ」として活動しており、それらのグループ内において、税務業務、司法書士業務、各種許認可の代理申請業務、企業会計・監査業務、相続対策、事業承継など多様なサービス(役務)を提供している(甲10ないし甲16)。

(ウ)請求人及びひかりアドバイザーグループのサービスに関するパンフレット等において、例えば、「3本の矢より「7色のひかり」」(甲11)、「経営の羅針盤として一歩先を照らす「ひかり」でありたい。」(甲13)、「ひかりのDXコンサルティング」(甲14)、「ひかりのDX化コンサルティング」(甲15)、「ひかりの人事ソリューション」「人事のことならなんでもひかりの人事の専門家にご相談ください!」「ひかりの人事労務ソリューションの3つの特徴」(甲16)等、「ひかり」の文字が使用されている。

(エ)「日本相続知財センター」の名称で、京都市と大阪市に支部を置いて、相続・税務業務を行っている旨のチラシが作成されており、そこには「ひかりアドバイザーグループ」、「一般社団法人ひかり相続センター」及び「ひかり税理士法人」(請求人)の記載がある(甲17、甲18)。

(オ)ひかりアドバイザーグループの1メンバーであるひかり監査法人が、2024年3月23日号の経済誌において、監査証明業務売上高の増収率で全国31位、非監査証明業務売上高の増収率で全国36位にランキングされており、同誌では会計士1人当たり売上高ランキングにおいてもひかり監査法人(各ランキング表の「監査法人名」の欄には、単に「ひかり」と表記されている)が全国103位に記載されている(甲19)。

(カ)「士業業界ランキング500(2023年完全版)」(株式会社アックスコンサルティング発行)の「会計事務所従業員数ランキング」において、83位タイとして「ひかり税理士法人」(請求人)の記載及び従業員人数が114人との記載がある(甲20の1)。

(キ)「士業業界ランキング500(2023年完全版)」において、請求人代表者であるA氏が「士業業界に影響を与えた100人」に選ばれており(甲20の2)、また、同氏や請求人の社員が、「ひかり税理士法人」の名称とともに一般雑誌やインターネットサイトの記事に複数回取り上げられている(甲21ないし甲26)。

(ク)請求人(連名のものを含む。)は、税務・会計・経営・相続などに関する書籍を執筆している旨の記載がある(甲28)。

(ケ)2023年6月23日付けのfreee株式会社(以下「freee社」という。)のウェブサイトには、freee社と請求人が、クラウド会計ソフト等を利用した福岡・札幌エリアのスモールビジネスの業務効率化・生産性向上のため、その導入の提案から活用サポートを「freee導入プロジェクト」と称して開始した旨の記事が掲載されているとともに(甲27の1)、freee社の製品におけるクラウド給与計算のシェアが40%(2016年3月)、クラウド会計のシェアが55%(2019年10月)と記載されている(甲27の2)。

エ 使用標章の周知性

請求人は、平成15年1月の設立以来、「ひかり税理士法人」の名称を用いて、関西を中心に全国8都市に事務所を構えて税理士業務を行っており、当該業務におけるその拠点数は8事務所で18位タイ(2022年)、会計事務所における従業員数は、114人で83位タイであって、請求人や請求人の社員(代表者を含む。)についても、士業を特集した雑誌やインターネットの記事に複数回取り上げられるなど、税理士業務を行う税理士の間で「ひかり税理士法人」の名称が知られていることが認められる。

しかしながら、使用標章は「ひかり」の語であるところ、請求人を「ひかり」と称しているものは、請求人作成によるパンフレットやチラシがほとんどであり、また、「ひかりアドバイザーグループ」やそのメンバー(ひかり監査法人)(以下、まとめて「ひかりアドバイザーグループ等」という。)を「ひかり」と称しているものも、「ひかりアドバイザーグループ」等が作成したパンフレット等がほとんどであるうえ、そのパンフレット等の配布部数、配布期間、配布地域等については明らかではないことから、本件商標の出願時(令和6年5月29日)及び査定時(同年11月15日)(以下、まとめて「本件商標の出願時等」という場合がある。)において、使用標章がどの程度の数の需要者の目に触れたのかなどを推し量ることはできない。

また、第三者が発行している雑誌等のランキングにおいて、第三者が請求人やひかりアドバイザーグループ等を「ひかり」と掲載しているものが認められるが、その掲載もランクインしている多くの法人等の一つとして取り上げられているにすぎず、その他、請求人又はひかりアドバイザーグループ等が、「ひかり」と一般的に称されていることがうかがえるような記載も確認できない。

さらに、請求人は、税務・会計・経営・相続などに関する書籍を執筆していることが認められるものの、発行部数等は不明であるうえ、請求人が「ひかり」と称されていることがうかがえる記載は確認できない。

その他、freee社と請求人が、「freee導入プロジェクト」において利用しているクラウド会計ソフトに関するシェアについても、そのプロジェクトの推進やクラウド会計ソフトの販売等において「ひかり」の語についての使用は確認できないことから、それが使用標章の周知性の向上にどの程度寄与したか明らかではない。

このような実情に加え、税務相談、税務代理等の税理士業務に関する需要者は、法人及び広く一般の需要者を含むものであって、例えば、関西地域における一般の需要者は相当な数に及ぶことも併せて考慮すると、使用標章が相当程度の需要者の目に触れ、請求人又はひかりアドバイザーグループ等を表すものとして記憶されていたと認めることはできないことから、上記の請求人の主張及び立証からは、本件商標の出願時等において、使用標章のみをもって、例えば、関西一円などの数県にわたる相当広い範囲で、それが請求人又はひかりアドバイザーグループ等に係る役務を表示するものであると需要者に知られていたとは認められない。

オ 小括

以上のとおり、使用標章「ひかり」の語は、請求人及びひかりアドバイザーグループ等の使用によっても、本件商標の出願時等に、関西一円などの数県にわたる相当広い範囲において、請求人又はひかりアドバイザーグループ等の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものであるとは認められない。

(3)商標法第4条第1項第10号該当性

上記2(2)のとおり、使用標章は、請求人又はひかりアドバイザーグループ等の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたと認めることができないものである。

また、上記1(2)ウ(ア)で述べたとおり、本件商標「ヒカリヲ」と使用標章「ひかり」とは、非類似の商標である。

したがって、他の要件を判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ないから、同号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第15号に該当性について

請求人は、仮に本件商標が、商標法第4条第1項第10号及び同項11号に該当しないとしても、同項15号に該当する旨主張している。

しかしながら、請求人は、「他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標」を特定していないため、上記2(2)イと同様、税務代理、税務相談を含む役務について使用している標章「ひかり」ととらえて判断する。

上記2(2)のとおり、使用標章は、請求人又はひかりアドバイザーグループ等の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたと認めることができないものであり、また、上記1(2)ウ(ア)のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であって別異の商標というべきものである。

そうすると、本件商標を商標権者がその指定役務に使用した場合、これに接する取引者、需要者が、使用標章を連想又は想起することは考えにくく,また、その役務が他人(請求人)あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。

その他,本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。

4 むすび

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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