sokuhyo

Trademark Appeal Case

著名人氏名の商標登録

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025900219
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
登録第6956650号商標の商標登録を維持する。

理由テキスト

理 由

1 本件商標

本件登録第6956650号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、第33類「アルコール飲料(ビールを除く。)」を指定商品として、令和7年1月24日に登録出願、同年8月1日に登録査定、同月12日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立人が引用する商標

登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は、以下のとおりである。

(1)メキシコ人画家フリーダ・カーロの氏名である「Frida Kahlo」の文字からなる商標(以下「引用商標1」という。)

(2)同氏のファーストネームである「Frida」の文字からなる商標(以下「引用商標2」という。)

(3)同氏の愛称である「Fridu」の文字からなる商標(以下「引用商標3」という。)

以下、引用商標1及び3をまとめて「引用商標」という場合がある。

3 登録異議の申立ての理由

申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第50号証(以下「甲○」(○は数字)という。)を提出した。

(1)申立人について

申立人は、世界的に周知著名なメキシコ人画家フリーダ・カーロ(以下「フリーダ」という。)に関する商標を管理する法人である(甲2、甲3)。フリーダは、1954年に遺言を残さずに亡くなったため、彼女の財産権は、メキシコの財産法に基づき、彼女の最も近親の生存親族である姪のイゾルダ・ピネダ・カーロ(以下「イゾルダ」という。)に相続された(甲3、甲5)。イゾルダ、その娘のマラ・クリスティナ・テレサ・ロメオ・ピネド(以下「マラ・クリスティナ」という。)及びマラ・クリスティナの娘のマラ・デ・アンダ・ロメオ(以下「マラ・デ・アンダ」という。)は、フリーダに関する商標を世界的に展開するために、2004年12月14日に、申立人の代表を務めるカルロス・ドラドと共に、申立人を設立するとともに、申立人にフリーダに関する商標についての権利を譲渡した(甲3、甲4)。このことは、イゾルダらを代表者とするFRIKAHLO DE MEXICO S.A.de C.Vとカルロス・ドラドを代表者とするCASABLANCA DISTRIBUTORS C.A.との間で締結された独占的提携契約にて合意されたものであり、当該契約において、フリーダに関する商標について、イゾルダらが既に有している、また、将来有し得る、全世界の全ての権利を申立人に譲渡することが規定された(甲5)。米国特許商標庁やカナダ知的財産庁のデータベース上の記録から、イゾルダが保有していたフリーダに関する商標権が申立人に譲渡されたことが分かる(甲6~甲8)。

以降、申立人は、フリーダに関する商標を世界各国で登録・管理し、使用してきた(甲9~甲12)。申立人の取扱商品は、被服、鞄、スマートフォン用カバー、時計、文房具、香水等、多岐に渡り、本件商標の指定商品「アルコール飲料(ビールを除く。)」に含まれるテキーラも販売されている(以下これらの商品を「申立人商品」という。)(甲13)。

日本においても、申立人は、登録第6017488号、登録第6218379号、登録第6540952号、登録第6605455号、登録第6781254号及び登録第6982837号のように、フリーダに関する商標権を保有しており、これらの登録商標が付された商品を販売している(甲14)。

以上のことから、申立人が、フリーダに関する商標の使用・登録をする正当な権利者であることは明白である。

この点、申立人は、パナマ及びメキシコにおけるマラ・クリスティナとの訴訟において勝訴しているところ、これらを報じる複数の記事において、申立人がフリーダに関する商標の権利者である旨の言及がなされている(甲15~甲17)。

フリーダは、単に画家として知られているにとどまらず、世界的な文化的象徴としても広く認識されている。2002年には、彼女の人生を描いた伝記映画「Frida」が公開され、同作は、全世界で約5,630万ドル(約90億円)の興行収入を記録したほか、第75回アカデミー賞において6部門にノミネートされ、2部門で受賞した(甲18)。この映画の公開を契機に、彼女の認知度は世界的に一層高まるとともに、彼女の人生や思想、芸術観がより広く共有されるようになった。そして、ミュージシャンやファッションデザイナー、さらには政治活動家に至るまで、多様な分野の人々が、彼女を、自分らしさ、強さ、そして非同調性の象徴として用いてきた(甲19、甲24)。

その結果、フリーダの氏名や、つながった眉・花冠といった特徴が、特定の価値観を象徴するイメージとして広く共有されるようになり、芸術の分野にとどまらず、社会全体で共有される象徴となった。

このようにして、フリーダは、文化的象徴として、被服、雑貨、化粧品など多様な商品に用いられるようになった(甲16、甲20、甲21、甲25)。現に、フリーダは、「カーロは今やエルヴィスやマリリン・モンローに匹敵する世界的なポップカルチャーの地位を得ています。しかし、彼女が学術界や国際的な美術界、そしてメキシコで新たな国民的象徴として注目を集めていることこそが、彼女を物質文化の象徴として唯一無二の存在にしているのです。」と評されるほどである(甲21)。

2025年11月20日には、フリーダの作品が、5470万ドル(約86億円)で落札され、女性アーティストの作品としてオークション最高落札額を大きく更新した(甲22、甲23)。また、2026年1月19日~5月17日にはヒューストン美術館で、その後ロンドンのテート・モダンで、巡回展「Frida: The Making of an Icon」が開催予定である(甲23~甲25)。ヒューストン美術館は、「彼女に対する観客の認知度と熱狂的な支持は、ゴッホやピカソのような伝脱的な芸術家に匹敵する」と評している(甲25)。このように、フリーダの名声と影響力は現在も世界的に高まり続けており、それに伴って経済的な価値も大きくなっている。

こうした状況の中で、申立人は、フリーダの氏名・イメージの無秩序な利用やその名声の毀損を防ぎ、彼女のブランドを適切に管理・保護すべく活動を行っている。

(2)本件商標権者について

マラ・クリスティナは、本件商標権者の株主であることが、米国特許商標庁に提出された宣誓書から分かる(甲26)。

上述のとおり、申立人が、フリーダに関する商標を使用・登録する権利を正式に継承し、フリーダに関する商標についての正当な権利者であるにもかかわらず、マラ・クリスティナは、申立人の承諾なく、フリーダの名声に便乗した事業や活動を行い(甲27)、また、各国でフリーダに関する商標について自己名義、もしくは、本件商標権者名義で商標登録出願を行っている。

本件商標権者のウェブページには、本件商標が付されたお酒(以下「本件商品」という。)が掲載されているところ、フリーダの生涯に触発を受けたブランドである旨明記されている(甲28)。そして、当該ウェブページから、商品パッケージにはフリーダの写真が使用され、本件商品がフリーダをイメージして作られたお酒であることが分かる。また、当該ウェブページの最下に、「C2020 Maria Cristina Teresa Romeo Pinedo」(合議体注:「C」の文字部分は○の中にCの文字が記載されている著作権マーク。)と記載されていることから、マラ・クリスティナが本件商品に深く関与していることが分かる。

さらに、本件商品を紹介した記事では、本件商品がフリーダの生涯と作品に敬意を表したものであること、マラ・デ・アンダ及びフリーダの親族マーラ・カーロが本件商品の開発に協力したこと、及び、本件商標の由来がフリーダの愛称「Fridu」であることが言及されている(甲29)。

以上のことから、本件商標権者は、フリーダに関する商標の登録を受ける権利を有することなく、フリーダの名声に便乗する目的で、フリーダの愛称に由来する本件商標を登録出願しようとしたことが明らかである。

(3)本件商標について

本件商標は、上段に「Fridu」の欧文字を手書き風の筆記体で大きく顕著に表し、下段に小さく「by Bakua」の欧文字を同様に手書き風の筆記体で表してなるところ、「Fridu」の文字部分は、外観上、取引者・需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与え、分離して看取されるものである。よって、本件商標からは、「Fridu」の欧文字が要部として抽出される。

ところで、本件商標の由来はフリーダの愛称「Fridu」であるところ、「Fridu」の語は、フリーダの愛称として世界的に知られているものである。フリーダ自身が「Fridu」と署名した手紙や書類が複数残されており、これらの写真が、フリーダに関する複数の書籍や記事で紹介されている(甲30、甲33)。

そして、スペイン、ポルトガル、ラテンアメリカ及びカリブ地域の学術誌La colmenaに掲載されたフリーダに関する記事において、フリーダの名前が「Frida、Friducha、Fridu」等、様々な形をとることが記されており(甲31)、日本においても、NHKラジオのスペイン語講座で、「Fridu」がフリーダの愛称であることが紹介されている(甲32)。

マラ・クリスティナも、申立人が、マラ・クリスティナが出願した商標「FRIDU」に対して欧州連合知的財産庁に行った異議申立ての審理において、フリーダが「Fridu」としても知られている旨の言及をしており(甲33、甲34)、欧州連合知的財産庁の審判部は、「FRIDU」が、フリーダの愛称もしくは呼称として認識されているから、相当数の需要者が「Frida Kahlo」と「FRIDU」との間に関連性を見いだすことができると認め、「Frida Kahlo」と「FRIDU」とが観念上同一であるとして、申立人の先行商標「Frida Kahlo」を理由に、マラ・クリスティナの出願に係る「FRIDU」を拒絶する決定をなした(甲33、甲34)。

さらに、本件商標は、手書き風の筆記体で表されているところ、この書体はフリーダの署名の筆跡と明らかに酷似している(甲35、甲36)。

画家は、自身の作品に、当該作品が自身のものであることを示すために、自身の署名を記すことが一般的であり、絵画の取引者・需要者・鑑賞者は、その絵画の作者を特定するにあたり、取り引き時・鑑賞時に、作品中に記された署名に注目するものである。絵画の分野において、署名は、作者の証明と作品の真正性・価値を保証する重要な要素であるとともに、作品の評価や市場価値に大きな影響を及ぼすものであるから、画家の署名は、当該画家の愛好家であれば当然に認識されているものである(甲37、甲38)。

そうすると、フリーダの愛称「Fridu」を、フリーダの署名と酷似した書体で表した本件商標を見た取引者・需要者は、本件商標の要部である「Fridu」部分をより強くフリーダと結び付けるといえる。

実際に、申立人は、コロンビアにおいても、本件商標権者による本件商標と同様の出願に対して異議申立てを行い、当該異議決定において、同商標はフリーダの署名と類似し、需要者が同商標を誤ってフリーダと関連付けるおそれがあると判断されている(甲39)。

(4)本件商標と引用商標との比較

申立人は、フリーダに関する商標を使用・登録する権利を有するところ、彼女の氏名である「Frida Kahlo」(引用商標1)、彼女のファーストネームである「Frida」(引用商標2)及び彼女の愛称である「Fridu」(引用商標3)は、フリーダに関する商標として認識され、また、申立人の業務に係る商品・役務に使用されるものである。

ア 本件商標と引用商標1との比較

本件商標の要部「Fridu」と引用商標1とを比較した場合、強く印象される語頭文字「Frid」、及び、語頭音「フリー」を共通にするため、全体として、取引者・需要者に外観及び称呼上近似した印象を与える。

そして、フリーダの周知の愛称「Fridu」の語からなる本件商標の要部、及び、世界的に周知著名なフリーダの氏名「Frida Kahlo」からなる引用商標1の双方からは、フリーダが想起され、同一の観念が生じ得る。双方からは、同一の世界的に周知著名な人物が想起されることから、両商標は、取引者・需要者に同一の出所を表示したものと認識させるおそれがあるというべきである。

よって、本件商標と引用商標1とは、相紛れるおそれのある、類似の商標といえる。この点、欧州連合知的財産庁の審判部は、「Frida Kahlo」と「FRIDU」とが観念上同一であり、混同のおそれが生じると判示し、申立人の先行商標「Frida Kahlo」を理由に、マラ・クリスティナの出願にかかる「FRIDU」を拒絶する決定をなしている。

また、メキシコにおいても、本件商標権者による本件商標と同様の出願に対して、当該商標が、申立人の先行商標「FRIDA KAHLO」と類似するとの判断がなされ、拒絶の決定がなされている(甲40)。

イ 本件商標と引用商標2との比較

本件商標の要部「Fridu」と引用商標2とを比較した場合、構成文字数は共に5文字と一致し、そのうち、強く印象される語頭4文字「Frid」を共通にし、語尾の1字「U」と「a」とで異なるに過ぎない。異なる語尾の1字においても、本件商標が手書き風の筆記体で書されているところ、筆記体にすればなおさら、語尾の文字「u」と「a」との差異は、上部が僅かに開放されているか否かの差異にすぎないものとなる。すなわち、両商標は、外観上相紛らわしいものといえる。

次いで、本件商標の要部「Fridu」からは「フリードゥ」の称呼が、引用商標2からは「フリーダ」の称呼がそれぞれ生じるところ、両称呼は、識別上重要な要素を占める語頭部分の「フリー」を共通にするため、取引者・需要者が耳にしたときに聞き誤るおそれがある。さらに、差異音である語尾部分の「ドゥ」と「ダ」とは、子音を共通にする近似音であることから、全体として、語調、語感が近似したものとなり、称呼上相紛れるおそれがあるものといえる。

そして、フリーダの周知の愛称「Fridu」の語からなる本件商標の要部、及び、世界的に周知著名なフリーダのファーストネーム「Frida」からなる引用商標2の双方からは、フリーダが想起され、観念上同一といえる。

よって、本件商標と引用商標2とは、外観・称呼・観念のいずれにおいても相紛れるおそれのある、類似の商標といえる。

ウ 本件商標と引用商標3との比較

本件商標の要部「Fridu」と引用商標3は、同じ構成文字からなり、双方からは、同一の称呼「フリードゥ」が生じる。また、フリーダの周知の愛称「Fridu」の語からなる本件商標の要部及び引用商標3の双方からは、フリーダが想起され、観念上同一といえる。

よって、本件商標と引用商標3とは、外観・称呼・観念のいずれにおいても相紛れるおそれのある、類似の商標といえる。

(5)商標法第4条第1項第19号該当性について

ア 商標の同一類似性について

上記(4)のとおり、本件商標は、引用商標1~3と相紛れるおそれのある類似の商標といえる。

イ 引用商標1~3の周知性について

フリーダは、欧州連合知的財産庁の審判部で周知著名な画家であることが認められており(甲33、甲34)、少なくとも欧州においてフリーダが画家として周知であることは明らかである。

また、フリーダの母国メキシコでは、フリーダ・カーロ美術館がある他、フリーダが描かれたバスが走っており、フリーダをモチーフにした商品が多くの店で販売されている(甲41~甲44)。また、2007年には、フリーダの生誕100周年にちなみ、メキシコシティの国立芸術宮殿で大規模な回顧展「Frida Kahlo. Homenaje Nacional 1907-2007」が開催され、オープニング・レセプションにはメキシコ大統領も参列している(甲45)ことから、メキシコにおいてフリーダが非常に身近で親しまれた存在であることがうかがえる。

そして、フリーダは、アメリカでも高い評価を受け、アメリカで個展を催すなどの活動を行っており、今でもアメリカの多くの美術館でフリーダの作品が展示されている(甲46)。また、アメリカの著名なシンガーソングライターであるビヨンセがフリーダの仮装をしたり、フリーダの生誕110年の際には、フリーダの仮装をした1,000人以上の人々がアメリカのダラス美術館に集まったりするなどしている(甲20、甲47)。さらに、2002年にはフリーダの伝記映画「Frida」が製作・公開され、2026年1月からは、ヒューストン美術館で巡回展が開催される予定であることから、アメリカにおいても、フリーダが、高い認知度を有し、広く親しまれていることがうかがえる。

日本においても、2003年にフリーダの伝記映画「Frida」の日本語吹替版が公開されたり(甲48)、2003年~2004年にかけて、展覧会「フリーダ・カーロとその時代-メキシコの女性シュルレアリストたち」が、東京・大阪・名古屋・高知で開催されたり(甲49)するなど、フリーダが一定の周知性を有していることがうかがえる。

以上のように、フリーダは、メキシコ・アメリカ・欧州を始めとし、世界的に周知著名であり、広く親しまれた存在であるといえることから、その氏名やファーストネームである「Frida」、また、その愛称である「Fridu」が、これらの地域を含む全世界で、本件商標の出願時にフリーダを称するものとして広く知られるに至っていることは明らかである。とりわけ、「Fridu」に関して、欧州連合知的財産庁の審判部において、フリーダの愛称もしくは呼称として認識されている旨の判示がなされていることがその証左である。

また、本件商標は、フリーダの名声に依拠し、フリーダの愛称「Fridu」ないしフリーダの署名の筆跡に由来するものであるところ、本件商品は、主にフリーダの名声を知る者やフリーダの作品の愛好家、フリーダを支持する者をターゲット(需要者)として販売されるものである。

さらに、フリーダは画家であるところ、本件商標の指定商品は絵画ではないが、フリーダは文化的象徴として、芸術の分野を超えて広く一般に認識されており、多様な商品に用いられている。そのような商品には、本件商標の指定商品「アルコール飲料(ビールを除く。)」も含まれており(甲50)、引用商標1が付されたテキーラも販売されていることから(甲13)、需要者が、本件商品をフリーダと関連付けることは容易に推測される。

ところで、引用商標1~3が、それぞれ、フリーダの氏名、ファーストネーム、愛称であることは、フリーダの名声を知る者やその作品の愛好家、フリーダを支持する者であれば、当然の如く認知可能である。

よって、引用商標1~3は、いずれも、メキシコ・アメリカ・欧州を始めとする世界各国において、本件商標を表示する商品に接する需要者の間で、本件商標の出願時において広く知られるに至っていたものであって、その事実は現在も継続しているというべきである。

ウ 不正の目的について

マーラ・カーロが、本件商標の由来がフリーダの愛称である旨の説明を行っている(甲29)ことから、本件商標の採択にフリーダの親族が深く関わっていることは明らかである。そして、彼女らは、フリーダの名声に便乗した事業・活動を行っている。

本件商標の書体は、フリーダの署名の筆跡と酷似しているところ、フリーダの名声に便乗した事業・活動を行うフリーダの親族が、フリーダの署名の筆跡を知らないはずがなく、本件商標の採択にあたり、フリーダの署名を意図的に模倣したものと推測される。

よって、本件商標権者は、フリーダに関する商標を使用・登録する権利を有する申立人の承諾を得ることなく、世界的に周知著名なフリーダの顧客吸引力にフリーライドする不正の目的で、フリーダの愛称を由来とし、フリーダの署名を模してなる「Fridu」部分をその構成の要部とする本件商標を登録出願しようとしたものである。

エ 小括

以上より、本件商標は、申立人が使用・登録する権利を有し、世界的に広く認識されている、引用商標1~3と類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであり、その登録は取り消されるべきである。

(6)商標法第4条第1項第7号について

フリーダは、芸術の分野にとどまらず、社会全体で共有される象徴となっており、世界各国で広く親しまれた存在である。そのようなフリーダの愛称である「Fridu」をフリーダの署名の筆跡に模してなる部分をその構成の要部とする本件商標を、彼女の商標を使用・登録する権利を有しない本件商標権者が、自己の商標として、その指定商品に独占使用をすることは、社会公共の利益に反するおそれがあるといえる。

また、申立人は、フリーダの氏名・イメージの無秩序な利用やその名声の毀損を防ぎ、彼女のブランドを適切に管理・保護すべく活動を行っているところ、本件商標の登録は、フリーダの名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、申立人の活動を不当に阻害するものであって、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公の秩序又は善良の風俗を害するものといわざるを得ない。

実際に、コロンビアにおける本件商標権者による本件商標と同様の出願に対する異議決定において、同商標が、メキシコ人芸術家であり、メキシコ文化の世界的象徴であるフリーダの同一性及び名声を害するものであると判断され、同商標は拒絶されている(甲39)。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであり、その登録は取り消されるべきである。

4 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第19号該当性について

ア 引用商標の周知著名性について

申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。

(ア)申立人は、世界的に周知著名なメキシコ人画家フリーダに関する商標を管理する法人であり、フリーダの財産権は、「FRIKAHLO DE MEXICO S.A.de C.V」と「CASABLANCA DISTRIBUTORS C.A.」との間で締結された独占的提携契約において、フリーダに関する商標について、彼女の姪のイゾルダらが既に有している、また、将来有し得る、全世界の全ての権利を申立人に譲渡することが規定されている(甲2~甲5)。

(イ)各種ウェブサイトには、「被服、鞄、スマートフォン用カバー、時計、文房具、香水、テキーラ」等の申立人商品が掲載されるとともに、引用商標1及び引用商標2が使用されている(甲10~甲13)。

(ウ)パナマ及びメキシコにおけるマラ・クリスティナとの訴訟に関する記事において、申立人がフリーダに関する商標の権利者である旨の言及がなされている(甲15~甲17)。

(エ)フリーダの人生を描いた伝記映画「Frida」は、全世界で約5,630万ドル(約90億円)の興行収入、第75回アカデミー賞で6部門にノミネート、2部門で受賞している(甲18)。その後、フリーダは、被服、雑貨、化粧品など多様な商品に用いられている(甲16、甲20、甲21、甲25)。

(オ)フリーダの作品は、2025年11月に、5,470万ドル(約86億円)で落札され、女性アーティストの作品としてオークション最高落札額を更新し、また、ヒューストン美術館等において、巡回展「Frida:The Making of an Icon」が開催予定である(甲22~甲25)。

(カ)マラ・クリスティナは、本件商標権者の株主であり(甲26)、本件商標権者のウェブページには、本件商品が掲載され、フリーダの生涯に触発を受けたブランドである旨が明記されており、本件商品を紹介した記事では、本件商品がフリーダの生涯と作品に敬意を表したものであること、マラ・デ・アンダ及びマーラ・カーロが本件商品の開発に協力したこと、及び、本件商標の由来がフリーダの愛称「Fridu」であることを言及している(甲28、甲29)。

(キ)フリーダ自身が「Fridu」と署名した手紙や書類の写真が、書籍や記事で紹介されており(甲30、甲33)、学術誌「La colmena」に掲載されたフリーダに関する記事では、フリーダの名前が「Frida、Friducha、Fridu」等、様々な形をとること(甲31)、NHKラジオのスペイン語講座で「Fridu」がフリーダの愛称であることが紹介されており(甲32)、また、欧州連合知的財産庁での異議申立ての審理においては、マラ・クリスティナ自身もフリーダが「Fridu」としても知られていると述べている(甲34)。

(ク)フリーダは、欧州連合知的財産庁の審判部で周知著名な画家であると認められており(甲33、甲34)、メキシコには、フリーダ・カーロ美術館があり、フリーダの各種グッズが売られており(甲41~甲45)、アメリカにおいては、フリーダの個展が催されたり、多くの美術館でフリーダの作品が展示されており(甲46)、日本においても、フリーダの伝記映画「Frida」の日本語吹替版が公開されている(甲48)。

以上の事実によれば、画家フリーダは、諸外国において一定程度は知られている存在であると認められるものの、引用商標1及び引用商標2を付した申立人商品が、紹介又は販売されているウェブサイト等の掲載例は僅かであり、引用商標3を付した申立人商品は確認できず、その他に我が国又は外国における申立人商品に対する需要者の認識を判断するための、申立人商品の販売数量、売上額、市場シェア、広告宣伝の方法や範囲等を示す証拠の提出はされていない。

そうすると、引用商標1及び引用商標2は、画家フリーダと関わりがあるものだと認識できたとしても、具体的に何れの者の業務に係る商品を表示する商標であるのかまでは判断できないし、また、下記(3)のとおり、引用商標3である「Fridu」の語から、画家フリーダの愛称を常に想起させるとはいえない。

その他、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。

そうすると、申立人商品について、引用商標1及び引用商標2が使用されており、画家フリーダが一定程度知られているとしても、申立人の提出に係る証拠及び同人の主張のみによっては、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商品について、申立人あるいは何れの者の商標として、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたとは認めることができない。

イ 本件商標と引用商標の類否について

(ア)本件商標について

本件商標は、別掲のとおり、顕著に大きく書された「Fridu」の欧文字と小さく書された「by Bakua」の欧文字とを上下二段に筆記体で横書きしてなるところ、「Fridu」及び「by Bakua」の各構成文字は、大きさの違いがあり、二段に表されているものの、同じ筆記体の書体を用いて、かつ、「Fridu」の文字の構成中の「idu」の下に生じた隙間に「by Bakua」の文字が収まるように近接して配し、上下の高さ及び横幅をそろえるようにまとまりよく表された構成からすれば、本件商標は、全体として外観上まとまりよく一体的に看取されるものである。

また、本件商標の構成中の「by」の文字は、「...によって,による」等(出典:「新英和中辞典第7版」株式会社研究社)の意味を有する平易な英語であり、「A by B」と表示される場合、「BによるA」ほどの意味合いにおいて「by」の前後を関連づけるための語として一般によく知られているから、本件商標は、その構成文字全体をもって看取されるものである。

さらに、構成中の「Fridu」及び「Bakua」の文字は、一般の辞書に載録のない語であるから、全体として「BakuaによるFridu」ほどの意味合いを認識させるものの、これよりは特定の観念が生じるものではない。

そして、本件商標の構成全体から生じる「フリデュバイバクア」の称呼も、無理なく一連に称呼し得るものである。

してみれば、本件商標のかかる構成及び称呼等においては、これに接する取引者、需要者が、殊更「Fridu」の文字部分のみに着目するというより、むしろ構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが自然である。

そうすると、本件商標は、その構成文字全体に相応して、「フリデュバイバクア」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じるものではない。

(イ)引用商標1について

引用商標1は、「Frida Kahlo」の文字を書してなるところ、該文字は「メキシコの女性画家。」等(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)を意味する語であり、上記アのとおり、画家フリーダを認識させるものであるから、その構成文字に相応して、「フリーダカーロ」の称呼を生じ、「画家のフリーダ」ほどの観念を生じるものである。

(ウ)引用商標2について

引用商標2は、「Frida」の文字を書してなるところ、上記ア及びイ(イ)のとおり、該文字は、画家フリーダを認識させるものであるから、その構成文字に相応して、「フリーダ」の称呼を生じ、「画家のフリーダ」ほどの観念を生じるものである。

(エ)引用商標3について

引用商標3は、「Fridu」の文字を横書きしてなるところ、該文字は、一般の辞書に載録のない語であるところ、下記(3)のとおり、申立人の提出に係る証拠及び同人の主張のみでは、「Fridu」の語から、画家であるフリーダの愛称を常に想起させるとは認められないから、その構成文字に相応して、「フリデュ」の称呼を生じ、特定の観念を生じるものではない。

(オ)本件商標と引用商標の比較について

本件商標と引用商標を比較すると、本件商標と引用商標は上記(ア)ないし(エ)のとおりの構成よりなるところ、外観について、本件商標と引用商標1とは、本件商標が「by Bakua」の文字を有し、引用商標1が「Kahlo」の文字を有することの差異に加え、本件商標の構成中「Fridu」と引用商標1の構成中「Frida」の語尾の「u」と「a」の差異がある。

本件商標と引用商標2とは、「by Bakua」の文字の有無の差異や、本件商標の構成中「Fridu」と引用商標2の「Frida」の語尾の「u」と「a」の差異がある。

本件商標と引用商標3とは、「by Bakua」の文字の有無の差異がある。

そうすると、これらの差異が看者に与える影響は、決して小さいものとはいえないから、本件商標と引用商標は、外観上、明確に区別し得るものである。

次に、称呼について、本件商標から生じる「フリデュバイバクア」と引用商標1から生じる「フリーダカーロ」、引用商標2から生じる「フリーダ」及び引用商標3から生じる「フリデュ」とは、語調、語感等が異なり、明瞭に聴別できるものである。

さらに、観念について、本件商標と引用商標1及び2とは、本件商標は、特定の観念を生じないのに対し、引用商標1及び2は、「画家のフリーダ」ほどの観念を生じ得るものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。

本件商標と引用商標3とは、いずれも特定の観念を生じないものであるから、両者は、比較することはできない。

以上よりすると、本件商標と引用商標1及び2は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのないものであるから、これらが需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

また、本件商標と引用商標3は、観念において比較できないとしても、外観において明確に区別し得るものであり、称呼においても明瞭に聴別できるから、これらが需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

ウ 不正の目的について

引用商標は、上記アのとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、その申立人商品を表示するものとして我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものとは認められず、また、上記イのとおり、本件商標と引用商標とは類似する商標ではないから、申立人の主張は一部前提を欠くものであり、申立人主張に基づき、本件商標の登録出願の目的を推し測ることはできない。

その他、申立人は、本件商標の登録出願の目的及び経緯から不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)があることを具体的に裏付ける証拠を提出していない。

そうすると、本件商標は、申立人の提出に係る証拠によっては、不正の目的をもって使用をするものとは認められない。

エ 小括

以上のとおり、本件商標は、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものではなく、引用商標と類似する商標でもなく、不正の目的をもって使用をするものとはいえないから、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

(2)商標法第4条第1項第7号該当性について

本件商標は、申立人の提出に係る証拠及び当審における職権調査をもってしても、本件商標の権利者が、引用商標が登録されていないことを奇貨として、剽窃的に本件商標の登録を得る意図をもって出願したというように、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠く等の事実を見いだすことはできない。

また、本件商標をその指定商品について使用することが、社会の一般道徳観念に反するものともいえず、その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標であると認めるに足りる証拠の提出はない。

してみると、本件商標は、引用商標の周知性にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできず、また、本件商標が国際信義に反し、また、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないというべき事情は見いだせないものであるから、本件商標権者が、本件商標の登録出願をし、登録を受ける行為が「公の秩序や善良の風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

(3)申立人の主張について

申立人は、本件商標の書体が、フリーダの署名の筆跡と酷似しているところ、フリーダの親族が、フリーダの署名の筆跡を知らないはずがなく、本件商標の採択にあたり、フリーダの署名を意図的に模倣したものと推測され、また、フリーダの愛称である「Fridu」をフリーダの署名の筆跡に模してなる部分をその構成の要部とする本件商標を、彼女の商標を使用・登録する権利を有しない本件商標権者が、自己の商標として、その指定商品に独占使用をすることは、社会公共の利益に反するおそれがあり、本件商標の登録は、フリーダの名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、異議申立人の活動を不当に阻害するものであって、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公の秩序又は善良の風俗を害するものといわざるを得ない旨主張している。

しかしながら、申立人の提出に係る証拠及び当人の主張からは、本件商標権者が、「Fridu」の語を画家フリーダの愛称と知りながら、本件商標の登録出願をしたという可能性があるとしても、それだけでは本件商標の登録出願の目的は明らかではなく、その出願経緯に不正があったと直ちに認めることはできないし、「Fridu」の語が、画家フリーダの署名に使われていたことが認められるとしても、アルコール飲料等の商品における取引者、需要者にとって、画家であるフリーダの愛称を想起させるとまでいえない。

また、本件商標の手書き風の筆記体の書体の署名の態様が、ごく一般的な筆記体の書体であり、特徴的なものともいえず、また、この署名の書体が、需要者等に画家フリーダの署名と認識させるということを認めるに足りる証拠の提出はないから、申立人の当該主張は採用することができない。

(4)むすび

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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