結論テキスト
登録第6964874号商標の商標登録を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2025900251 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本件登録第6964874号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和7年5月20日に登録出願、第45類「葬儀の執行,埋葬美容師による死化粧の施術,火葬,埋葬,墓地又は納骨堂の提供」を指定役務として、同年8月5日に登録査定され、同年9月4日に設定登録されたものである。
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用した登録第6534080号商標(以下「引用商標」という。)は、「おくりびと」の文字を標準文字で表してなり、令和2年8月27日に登録出願、別掲2のとおりの役務を指定役務として、同4年3月25日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
本件商標は、その指定役務、第45類「全指定役務」(以下「本件申立役務」という場合がある。)について、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第16号に該当するから、同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証(証拠の表記にあたっては「甲○」と表記する。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標において、その構成中「おくりびと」の各文字の大きさは、その構成中「はね」の各文字よりも小さく表されている。また、文字数の多さもあって、本件商標の構成中「おくりびと」の文字部分の占める面積は、「はね」の文字部分の占める面積よりも広い印象を与えている。
さらに、「おくりびと」の「り」の文字は、「びと」の文字を囲むように右から左方向に大きく跳ねられており、これがデザイン的に「おくりびと」の文字部分と、「はね」の文字部分を分離して認識させる一要因になっている。
このように、本件商標には、「おくりびと」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき事情が存在する。
本件商標の構成中「おくりびと」の文字部分は、「オクリビト」の称呼を生じ、「送り人:見送りの人」あるいは「億り人:株式投資や暗号資産(仮想通貨)投資などによって億単位の(あるいは巨億の)資産を築くほど大もうけした人」の意味を有する。また、その構成中「はね」の文字部分は、「ハネ」の称呼を生じ、「鳥の全身を覆う羽毛。翼」の意味を有する。
イ 引用商標について
引用商標は、「おくりびと」の平仮名を標準文字により表してなり、これよりは、「オクリビト」の称呼を生じ、「送り人:見送りの人」あるいは「億り人:株式投資や暗号資産(仮想通貨)投資などによって億単位の(あるいは巨億の)資産を築くほど大もうけした人」の意味を有する。
なお、辞書に記載されている意味は、上記のとおりであるが、「おくりびと」と平仮名で表した場合は、葬儀の執行等に関する分野では、「高度な知識や優れた技術を有する納棺師」を意味する。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
本件商標と引用商標は、商標全体として比較したときに外観的には非類似であるとしても、本件商標はその構成中「おくりびと」の文字部分のみが独立して認識し得る態様で表されたものである。本件商標の構成中「おくりびと」の文字部分と引用商標「おくりびと」は、少なくとも同じ称呼及び同じ観念を有するので、本件商標と引用商標は類似する。
なお、分離観察において要部認定を行う場合、仮に本件商標の構成中の「はね」の文字部分が要部であるとしても、「おくりびと」の文字部分が要部ではないということにはならない。要部というのは、どちらがより目立つかという相対的な問題ではなく、識別力を発揮し得るかどうかという問題である。ちなみに、登録商標「おくりびと」はその指定役務(葬儀の執行等)について使用することにより、業務上の信用を得て、甲9に示すように取引件数も増加している。このことからも、本件商標の構成中「おくりびと」の文字部分が識別力を発揮し得ることは明白である。
したがって、本件商標の構成中「おくりびと」の文字部分と引用商標とは、称呼及び観念を共通にする類似の商標であり、また、その指定役務についても同一又は類似のものを含む。
したがって、本件商標登録は商標法第4条第1項第11号に違反してなされたものであるから、取り消されるべきである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
引用商標の商標権者の代表者(すなわち申立人の代表者)は、父親と共に映画「おくりびと」の制作に技術指導で参画している。このことは、テレビのドキュメンタリー番組などでも取り上げられた。また、Wikipediaのウェブサイトにおいて、映画おくりびとの項に、「スタッフ」の見出しの下、「納棺指導」として引用商標の商標権者の代表者の父親の名前が記載されている。
このような技術指導もあって、映画「おくりびと」は、観客に感動を与える映画となり、日本国内のみならず世界的にも有名になった。
申立人である「株式会社おくりびとアカデミー」は、国内唯一の納棺師育成学校として2013年に設立され、高度な知識や優れた技術を有する納棺師の育成に努めてきた(甲5)。この学校では、納棺に関するコースの受講終了者で、認定試験に合格した者に「納棺士」という認定資格を付与している。申立人の活動は多くのメディアに取り上げられ、申立人の会社名の主要部でもあり登録商標でもある「おくりびと」(登録第5716811号、登録第6534080号)の周知性獲得に寄与している(甲3、甲4)。
映画「おくりびと」が放映された、2008年頃は、国内の納棺師の人数は極めて少なく、また納棺技術にも大きなばらつきがあったが、申立人が納棺に関する知識や技術を習得する場を提供することにより、納棺技術が統一されると共に、一定のレベル以上の納棺技術を有する者が、葬儀の際に納棺を行うことが可能になった。
申立人は、2017年より葬儀の事業分野にも進出し、主に関係会社を通して、登録商標「おくりびと」の下で、葬儀の執行等の役務を提供している(甲6)。葬儀に際しては、認定資格を有する者のみが死化粧の施術や納棺などを行うことにより、役務の質を担保している。また、積極的にweb広告を行うことによって、葬儀の執行の分野においても、登録商標「おくりびと」の周知化を図っている(甲8)。
このように、申立人は、単に登録商標「おくりびと」の下で「葬儀の執行」等の役務を提供するのではなく、「技芸・スポーツ又は知識の教授」等の分野で(以下「葬儀の執行」及び「技芸・スポーツ又は知識の教授」等を「申立人主張役務」という。)、高度な知識や優れた技術を有する納棺師を自ら育成し、その者が納棺等の役務を提供することにより、質の高い葬儀を執行することを可能にしている(甲6)
換言すれば、需要者は、商標「おくりびと」に、質の高い納棺サービス(納棺の儀)を含む葬儀を期待し、申立人は、この期待に応え、また期待以上のサービスを提供できるような仕組み作りを行ってきた(甲7)。このように、申立人は、登録商標「おくりびと」により、葬儀の質を保証している。
申立人の努力があって、2017年から開始した葬儀の件数も年々増加している。認定資格を有する者のみが死化粧の施術や納棺等を行うため、急激に取引件数を増加させるのは難しいが、この多角的な事業活動により需要者の信用を得て葬儀の取扱い件数は着実に増加している(甲9)。
このような状況下、本件商標は、「おくりびと」の文字部分を分離観察可能な態様で表しているので、需要者は、申立人と経済的、資本的に何らかの関係があると誤認し、申立人の提供するサービスと同じ質のサービスが得られるという誤った期待をもつおそれがある。そうなると、本件商標は、引用商標の出所表示機能のみならず、品質(質)保証機能を阻害し、取引秩序を乱すことになる。
よって、本件商標は、申立人の業務に係る役務と混同を生じさせ、その結果、商標の品質(質)保証機能を阻害するおそれがあるので、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、取り消されるべきである。
(3)商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、「おくりびと」の文字部分が、分離観察可能な態様で表されている。また、本件商標の指定役務には、「埋葬美容師による死化粧の施術」が含まれる。
上述したように、甲3ないし甲8に示すような申立人の積極的な周知化活動から、需要者は、平仮名「おくりびと」から、「高度な知識や優れた技術を有する納棺師」を想起するものと考えられるので、死化粧の施術は、納棺師によって行われると認識する可能性が高い。しかしながら、本件商標の指定役務は、「埋葬美容師による死化粧の施術」であって、埋葬美容師なる者と納棺師との関係が不明確なため、納棺師による死化粧の施術を期待した需要者に対して、死化粧の施術について質の誤認を生ずるおそれがある。
よって、本件商標は、役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標であるので、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、取り消されるべきである。
(4)むすび
本件商標と引用商標とは、「おくりびと」の少なくとも称呼、観念を共通にする類似の商標であり、また、その指定役務についても同一又は類似のものを含む。よって、本件商標登録は商標法第4条第1項第11号に違反してなされたものであるから、取り消されるべきである。
また、本件商標は、申立人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標である。よって、本件商標登録は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、取り消されるべきである。
そして、本件商標は、役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標である。よって、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、取り消されるべきである。
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
(ア)申立人である「株式会社おくりびとアカデミー」は、国内唯一の納棺師育成学校として2013年に設立され、納棺師を育成し、納棺に関するコースの受講修了者で、認定試験に合格した者に「納棺士」という認定資格を付与している(甲5)。
(イ)申立人は、映画「おくりびと」の制作に技術指導で参画し(甲8)、また、「おくりびと」の語及び申立人の名称を含む記事がインターネット上に掲載されている(甲3、甲4)。
(ウ)申立人は、2017年より葬儀の事業分野にも進出し、主に関係会社を通して、「おくりびとのお葬式」の表示の下で、葬儀の執行等の役務を提供している。葬儀に際しては、認定資格を持った「認定納棺士」が葬儀の全てを担当するシステムを採用している(甲6)。
また、「おくりびとのお葬式」のウェブサイトにおいて、「おくりびとの納棺の儀」の動画を掲載したり(甲7)、中国における葬祭イベントで「おくりびと」の納棺の技術を実演する(甲8)などの宣伝、周知活動を行っている。
(エ)申立人によって提供された葬儀件数は、2017年は21件、2018年は114件と年々増加しており、2023年は4574件、2024年は7499件、2025年は7499件である(甲9)。
イ 上記(ア)及び(イ)によれば、申立人は、2013年より、納棺師育成学校として納棺師を育成している。
しかしながら、申立人が技術指導を行った映画「おくりびと」は、申立人の納棺師育成学校設立以前の2008年に公開されたものであり、また、そもそも「おくりびと」の文字は、「見送りの人」の意味で辞書にも掲載されている語である(「広辞苑第七版」岩波書店参照)。加えて、テレビで紹介された事例として提出された甲3及び甲4は、その内容が判然とせず、引用商標の使用態様、引用商標を使用した申立人主張役務に関する広告宣伝の方法、範囲、回数等、周知著名性を判断するための客観的な事実を量的に把握できないことから、これらの証拠をもって、「おくりびと」の文字が、申立人主張役務を表示するものとして使用されているとはいえない。
また、上記(ウ)及び(エ)によれば、申立人は、2017年より、葬儀の事業分野にも進出し、「おくりびと」の文字を含む「おくりびとのお葬式」の表示の下、葬儀の執行等の業務を行っており、当該業務の中で「おくりびとの納棺の儀」と称し役務を提供している。
しかしながら、その実績は、2024年の件数で7.5千件程度であるところ、職権で調査した日本における2024年の葬儀業取扱い件数は、約50万件(「経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」15.葬儀業」(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result-2.html))であるから、葬儀業界における市場占有率は極めて低く、これらの証拠をもって、「おくりびと」の文字が、本件申立役務を含む葬儀業界において、申立人主張役務を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されているとはいえない。
したがって、申立人の提出に係る証拠によっては、引用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時に、申立人主張役務を表すものとして、本件申立役務「葬儀の執行,埋葬美容師による死化粧の施術,火葬,埋葬,墓地又は納骨堂の提供」の需要者の間に広く認識されていたと認めることができない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、二重円の枠内に羽を表した図形の下に、「おくりびと」(「おくり」の文字を右寄りに、「びと」の文字を左寄りに表してなる。)及び「はね」の平仮名を行書体で、文字と文字とをつなぐように縦書きで表してなるところ、その図形部分と文字部分は、間隔を空けて、視覚上分離した態様で配置されているから、それぞれが独立して自他役務の出所識別標識として機能するものといえる。
そして、文字部分についてみるに、「おくりびと」と「はね」の文字は、その大きさは異なるものの、同じ書体で、右から左に表された「おくりびと」の文字部分と、その下方の「はね」の文字部分との横幅をそろえ、まとまりよく表されていることから、視覚上一体的に認識把握されるものといえ、全体から生じる「オクリビトハネ」の称呼も7音と一息で容易に称呼できる。
加えて、本件商標は、その構成部分の一部が取引者、需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである、あるいは出所識別標識としての称呼、観念が生じないといえるような特段の事情も見いだし得ないものであるから、本件商標の文字部分は、「おくりびとはね」で一体不可分の商標であると判断するのが相当である。
また、本件商標の構成中の「おくりびと」の文字は、本件商標の指定役務との関係から「見送りの人」の意味を、「はね」の文字は「鳥の全身に生えている羽毛」の意味(いずれも「広辞苑第七版」岩波書店参照)を有するものの、これらを一連とした「おくりびとはね」の文字は、我が国の一般的な辞書に載録のない語であるから、特定の意味合いを有しない一体不可分の造語である。
そうすると、本件商標は、「オクリビトハネ」の称呼を生じ、特定の観念を生じるものではない。
イ 引用商標について
引用商標は、上記2のとおり、「おくりびと」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応し「オクリビト」の称呼を生じ、「見送りの人」(前掲書参照)の観念を生じるものである。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
本件商標の文字部分と引用商標とを比較すると、外観においては、書体の相違に加えて、文字数の差異など構成文字全体として異なる語を表してなるから、判別は容易である。
また、称呼においては、「オクリビト」の構成音を含む点において共通するものの、語尾「ハネ」の構成音の有無により、全体としての語調、語感は明らかに異なるものになるから、聴別は容易である。
さらに、観念においては、本件商標から特定の観念が生じないのに対し、引用商標からは「見送りの人」の観念が生じるものであるから、両者は観念において相紛れるおそれはない。
また、本件商標の図形部分と引用商標を比較すると、外観、称呼及び観念においていずれも共通する部分がなく、相紛れるおそれはないものである。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれはないから、役務の出所について誤認混同を生じるおそれのない非類似の商標である。
したがって、本件申立役務と引用商標の指定役務とが同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
上記(1)のとおり、引用商標は、本件申立役務「葬儀の執行,埋葬美容師による死化粧の施術,火葬,埋葬,墓地又は納骨堂の提供」の需要者の間に、申立人主張役務を表すものとして広く認識されていると認められないものである。
また、「おくりびと」の文字は、「見送りの人」の意味を有する成語であるから、その独創性は高いとはいえない。
さらに、上記(2)のとおり本件商標は、引用商標と相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標というべきものであるから、その類似性の程度は極めて低いものである。
なお、申立人は、国内唯一の納棺師育成学校として納棺師の育成に努めているところ、その活動は多くのメディアに取り上げられ、会社名の主要部でもあり登録商標でもある「おくりびと」は周知性を獲得にしている旨、また、申立人は、登録商標「おくりびと」の下で、高度な知識や優れた技術を有する納棺師を自ら育成し、その者が納棺等の役務を提供することにより、質の高い葬儀を執行することを可能にしており、本件商標は、「おくりびと」を分離観察可能な態様で表しているので、需要者は、申立人と経済的、資本的に何らかの関係があると誤認し、申立人の提供するサービスと同じ質のサービスが得られるという誤った期待をもつおそれがある旨を主張する。
しかしながら、申立人の提出に係る証拠によっては、引用商標「おくりびと」が、本件申立役務を含む葬儀業界の需要者の間に、申立人主張役務を表すものとして広く認識されていたと認めることができないことは、上記(1)のとおりであるから、本件商標権者がこれを本件申立役務について使用しても、取引者、需要者をして引用商標等を連想又は想起させることはなく、その役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が引用商標等と出所の混同を生ずるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、上記(2)アのとおり、その文字部分全体をもって特定の意味合いを有しない一体不可分の造語とみるのが相当であるから、これを本件申立役務について使用したとしても、役務の質について誤認を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、本件申立役務について、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第16号に違反して登録されたものではなく、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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