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Trademark Appeal Case

特許明細書の記載要件

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023008844
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本願は、平成30年 6月 5日(パリ条約による優先権主張 2017年 6月 6日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和 5年 1月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和 5年 5月30日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は、以下のとおりである。

令和 7年 3月27日付け 拒絶理由通知書

同年 9月30日 意見書、手続補正書の提出

(以下、令和7年9月30日提出の手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明

本願の特許請求の範囲は、本件補正により補正された、請求項1~2からなるものであって、このうち請求項1は、次のとおりのものである。(下線は補正箇所である。また、以下、請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)

「 【請求項1】

ヒト

対象における

ガレクチン-1(GAL-1)の

BTN1A1との結合を阻害するための医薬品の製造のための

、分

子の使用

であって、該分子がBTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片を含む、前記使用

。」

第3 当審で通知した拒絶理由の概要

令和 7年 3月27日付けの拒絶理由通知書で当審が本件補正前の請求項1~39に係る発明に対して通知した拒絶理由の理由2、3の概要は、次のとおりのものである。

1 理由2(サポート要件)

GAL-1、GAL-9、NRP-2、BTLAがBTN1A1にリガンドとして結合すること、またそれにより生じるT細胞の機能抑制等の下流の事象は観察、確認されておらず本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から当業者は認識することができないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由3(実施可能要件)

BTN1A1のリガンドとして機能する分子が明細書に開示されているとはいえず、BTN1A1とそのリガンドとの結合を阻害する分子を当業者が容易に得られるとはいえない。また、GAL-1、GAL-9、NRP-2、BTLAがBTN1A1のリガンドとして機能し得るとしても、上記の阻害機能を有する分子を得るにあたって、当業者は過度の試行錯誤を要するものといえるから、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明の詳細な説明の記載

この出願の願書に添付した明細書及び図面(以下、これらを総称して「本願明細書」という。)には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。)。

本ア 分野、背景及び概要(【0003】~【0047】)

「【0003】

(1.分野)

本発明は、全体として、癌免疫学及び分子生物学の分野に関する。本明細書に提供されるのは、

抗BTN1A1抗体又は抗BTN1A1リガンド抗体又はBTN1A1もしくはBTN1A1リガンドに免疫特異的に結合する抗原結合断片を有する他の分子を用いて癌を治療する方法である。いくつかの実施態様において、抗BTN1A1抗体又は抗BTN1A1リガンド抗体は、BTN1A1-BTN1A1リガンド相互作用を破壊することができる。いくつかの実施態様において、抗BTN1A1リガンド抗体には、抗ガレクチン1(GAL-1)抗体、抗ガレクチン9(GAL-9)抗体、抗ニューロピリン-2(NRP-2)抗体、又は抗B及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)抗体が含まれる。

【背景技術】

【0004】

(2.背景)

ヒト及び他の哺乳動物の免疫系は、それらを感染及び疾患から防御する。いくつかの刺激性及び抑制性のリガンド及び受容体は、感染に対する免疫応答を最大化すると同時に、自己免疫を制限する厳格な制御系を提供する。

最近、抗PD1抗体又は抗PDL1抗体などの、免疫応答を調節する治療法が、一部の癌治療において有効であることが見出された。しかしながら、免疫系を調節することにより疾患を安全かつ効果的に治療する新しい治療法の開発は、とりわけ、抗PD1療法又は抗PD-L1療法抵抗性又は不応性癌にとって、差し迫ったニーズであり続けている。

本明細書に記載される方法は、これらのニーズを満たし、かつ他の関連する利点を提供する。

【発明の概要】

【0005】

(概要)

一態様において、本明細書に提供されるのは、

BTN1A1に免疫特異的に結合する抗原結合断片を含む分子であり、ここで、該分子は、BTN1A1リガンド、例えば、ガレクチン-1(GAL-1)、ガレクチン-9(GAL-9)、NRP-2(Nrp-2)、又はB及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)とBTN1A1との結合を阻害する。

【0006】

いくつかの実施態様において、

該抗原結合断片は、BTN1A1に免疫特異的に結合し、該分子は、BTN1A1とGAL-1との結合を阻害する。

...

【0011】

いくつかの実施態様において、

該抗原結合断片は、BTN1A1の細胞外ドメイン(ECD)に免疫特異的に結合する。

【0012】

別の態様において、本明細書に提供されるのは、

BTN1A1リガンド、例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAに免疫特異的に結合する抗原結合断片を含む分子であり、ここで、該分子は、該BTN1A1リガンドとBTN1A1との結合を阻害する。

...

【0017】

いくつかの実施態様において、

該分子は、BTN1A1の活性もしくはシグナル伝達又はBTN1A1とBTN1A1リガンド、例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、もしくはBTLAの複合体の活性もしくはシグナル伝達を調節する。

...

【0020】

いくつかの実施態様において、

該分子は、T細胞活性を調節することができる。

【0021】

いくつかの実施態様において、

該T細胞は、CD8+細胞である

【0022】

いくつかの実施態様において、

該分子は、T細胞活性化又はT細胞増殖を増大させることができる。

【0023】

いくつかの実施態様において、

該分子は、T細胞アポトーシスを阻害することができる

。...

【0041】

別の態様において、本明細書に提供されるのは、

T細胞を活性化する方法であって、該T細胞を本明細書に提供される分子の有効量と接触させることを含み、ここで、該T細胞がBTN1A1に対するBTN1A1リガンド結合の阻害を通じて活性化される、方法

である。

【0042】

別の態様において、本明細書に提供されるのは、

BTN1A1リガンドとT細胞によって発現されるBTN1A1との結合を阻害する方法であって、該T細胞を本明細書に提供される分子の有効量と接触させ、それにより、該BTN1A1リガンドと該T細胞との結合を阻害することを含む、方法

である。

【0043】

いくつかの実施態様において、

該T細胞は、CD8+細胞である

【0044】

いくつかの実施態様において、

T細胞活性化は、(i)T細胞増殖を増大させること、(ii)T細胞アポトーシスを減少させること、又は(iii)サイトカイン産生を増大させることを含む。

【0045】

いくつかの実施態様において、

該サイトカインは、IFNγ又はIL-2である。

【0046】

別の態様において、本明細書に提供されるのは、

対象の癌を治療する方法であって、該対象に、本明細書に提供される分子又は本明細書に提供される医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該分子が該対象におけるBTN1A1リガンドとBTN1A1との結合を阻害する、方法である。

【0047】

別の態様において、本明細書に提供されるのは、

BTN1A1に対するBTN1A1リガンド結合を阻害する方法であって、該対象に、本明細書に提供される分子又は本明細書に提供される医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該分子が該対象におけるBTN1A1リガンドとBTN1A1との結合を阻害する、前記方法。

本イ 図面の簡単な説明(【0057】~【0063】)

「【図面の簡単な説明】

【0057】

(4.図面の簡単な説明)

以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の実施態様をさらに示すために含まれる。本発明は、これらの図面のうちの1つ又は複数を、本明細書に提示される具体的な実施態様の詳細な説明と組み合わせて参照することにより、より良く理解することができる。

【0058】

【図1】

図1-BTN1A1バインダーとしてのガレクチン-1、ガレクチン-2、及びニューロピリン-2の同定。図1は、ガレクチン-1(GAL-1、「LGALS1」)、ガレクチン-2(GAL-2、「LGALS9」)、及びニューロピリン-2(NRP-2)をBTN1A1リガンドと再確認するための例示的な形質膜タンパク質アレイ実験の結果を示した画像を示している。表示された発現タンパク質の発現ベクターを2枚のスライド(「rep1」、「rep2」)の各々に2連でスポットし、HEK293T細胞にリバーストランスフェクトした。その後、トランスフェクトされた細胞を固定し、CTLA-4-Fc、BTN1A1-2NQ-Fc(非グリコシル化)、BTN1A1-Fc(グリコシル化)、又は二次抗体のみ(CD86/ZsGreen1陽性対照ベクターを発現する細胞)でプロービングした。

プローブタンパク質と発現タンパク質との結合を、蛍光標識二次抗体の添加後、蛍光イメージングを用いて検出した。

【0059】

【図2】

図2A~C-免疫沈降によるBTN1A1リガンドとしてのGAL-1及びGAL-9の妥当性の確認。図2Aは、免疫沈降に使用されたBTN1A1及びBTN1A1-リガンド(GAL-1又はGAL-9)タンパク質コンストラクトの略図を示している。BTN1A1は、細胞外ドメイン(ECD)、膜貫通ドメイン(TM)、細胞質ゾルタンパク質ドメイン(CPD)、及びFlag-タグを含んでいた。BTN1A1-リガンドは、Myc-及びFlag-タグを含んでいた。

図2Bは、免疫沈降実験を示したグラフを示している。

BTN1A1又はBTN1A1-リガンドを、抗BTN1A1抗体又は抗Myc抗体がコーティングされたビーズを用いて、HEK293T細胞溶解物からプルダウンした。図2Cは、免疫沈降後のウェスタンブロットの画像を示している。アステリスクは、BTN1A1バンド(*)又はBTN1A1-リガンドバンド(**)を示している。

【0060】

【図3】

図3A~D-表面プラズモン共鳴(SPR)によるBTN1A1-GAL-1相互作用の解析。図3A~Dは、例示的なSPRアッセイのセンサーグラムを示している。GAL-1タンパク質を、グリコシル化野生型BTN1A1-Fc(図3A)、非グリコシル化BTN1A1-2NQ-Fc(図3B)、グリコシル化野生型BTN2A1(図3C)、又はグリコシル化野生型BTN3A2(図3D)が固定されたセンサーチップ上に注入した。

...

【0063】

【図6】

図6A及び6B-表面プラズモン共鳴(SPR)によるBTN1A1-BTLA相互作用の解析。図6Aは、GAL-1、BTLA、又は対照タンパク質(対照1、対照2、もしくは対照3)を、グリコシル化野生型BTN1A1-Fcが3.2μMの単一濃度で固定されたセンサーチップ上に注入した、SPRアッセイのセンサーグラムを示している。

図6Bは、BTLAを、グリコシル化野生型BTN1A1-Fcが表示された濃度で固定されたセンサーチップ上に注入した、SPRアッセイのセンサーグラムを示している。」

本ウ 発明を実施するための形態(【0065】~【0068】)

「【発明を実施するための形態】

【0065】

(詳細な説明)

B7ファミリーの共刺激分子は、免疫細胞の活性化及び阻害を推進することができる。関連ファミリーの分子-ブリロフィリン(buryrophilin)-も、B7ファミリーメンバーと同様の免疫調節機能を有する。ブチロフィリン、サブファミリー1、メンバーA1(「BTN1A1」)は、I型膜糖タンパク質かつ乳脂肪球皮膜の主要成分であり、B7ファミリーとの構造的類似性を有する。

BTN1A1は、乳中の脂肪滴の形成を調節する主要なタンパク質として知られる(Oggらの文献、PNAS, 101(27):10084-10089(2004))。BTN1A1は、T細胞を含む免疫細胞で発現される。組換えBTN1A1による処理は、T細胞活性化を阻害し、EAEの動物モデルを防御することが見出された(Stefferlらの文献、J. Immunol. 165(5):2859-65(2000))

【0066】

BTN1A1は、癌細胞でも特異的かつ高度に発現される。癌細胞で発現されるBTN1A1は、通常、グリコシル化されている。BTN1A1の発現を用いて、癌診断を助けるだけでなく、癌治療の有効性を評価することもできる。

【0067】

本開示は、少なくとも一部は、GAL-1、GAL-9、NRP-2、及びBTLAがBTN1A1リガンドとして作用することができるという発見に基づいている。例えば、実施例1及び2を参照されたい。任意の具体的な理論に限定されるものではないが、

既に形成されたBTN1A1とBTN1A1リガンド、例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAとの複合体の破壊を含む、BTN1A1とのGAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLA複合体形成の阻害は、BTLA活性又はシグナル伝達を調節することができると考えられる。このBTLA活性又はシグナル伝達の調節は、例えば、T細胞増殖を促進するか、T細胞アポトーシスを阻害するか、又はサイトカイン分泌(例えば、IFNγもしくはIL2)を誘導することにより、T細胞、例えば、CD8+ T細胞を活性化することができるとさらに考えられる。T細胞活性化は、癌を治療又は予防するのに有用である抗癌免疫応答をもたらすことができる。

【0068】

本明細書に提供されるのは、抗BTN1A1抗体、抗BTN1A1リガンド(例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLA)抗体、及びBTN1A1又はBTN1A1リガンド(例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、もしくはBTLA)に免疫特異的に結合し、かつBTN1A-BTN1リガンド複合体を阻害することができる他の分子を用いて、癌を治療する方法である。また提供されるのは、そのような抗BTN1A1抗体又は抗BTN1A1リガンド抗体及びBTN1A1又はBTN1A1リガンドに免疫特異的に結合することができる他の分子を用いて、癌を診断する方法及び患者を選択する方法である。」

本エ 【0168】~【0188】

「【0168】

(5.2 BTN1A1又はBTN1A1リガンドに免疫特異的に結合する抗原結合断片を有する分子)

本明細書に提供されるのは、

BTN1A1又はBTN1A1リガンド、例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、もしくはBTLAに免疫特異的に結合する抗原結合断片を有する分子であり、ここで、該分子は、該BTN1A1リガンドとBTN1A1との結合を阻害することができる。

いくつかの実施態様において、該分子は、BTN1A1-BTN1A1リガンド複合体(例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAとBTN1A1とを含む複合体)の形成を阻害することができる。いくつかの実施態様において、該分子は、形成されたBTN1A1-BTN1A1リガンド複合体(例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAとBTN1A1とを含む複合体)を破壊することができる。いくつかの実施態様において、該分子は、抗BTN1A1抗体、抗GAL-1抗体、抗GAL-9抗体、抗NRP-2抗体、又は抗BTLA抗体を含む、抗体である。いくつかの実施態様において、BTN1A1又はBTN1A1リガンド(例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、もしくはBTLA)に免疫特異的に結合する抗原結合断片は、BTN1A1又はBTN1A1リガンドの断片又はエピトープに結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、BTN1A1二量体に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、

BTN1A1、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAエピトープは、線状エピトープであることができる。

いくつかの実施態様において、

BTN1A1、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAエピトープは、立体構造エピトープであることができる。

いくつかの実施態様において、BTN1A1エピトープは、BTN1A1二量体に見られ、BTN1A1単量体に見られない。いくつかの実施態様において、BTN1A1、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAに免疫特異的に結合する抗原結合断片を有する本明細書に提供される分子は、BTN1A1又はBTN1A1-BTN1A1リガンド複合体の免疫抑制機能を阻害する。

【0169】

いくつかの実施態様において、

該分子は、抗グリコシル化BTN1A1抗体であるか、又は抗グリコシル化BTN1A1抗体の抗原結合断片を含む。

いくつかの実施態様において、該分子は、抗BTN1A1二量体抗体であるか、又は抗BTN1A1二量体抗体の抗原結合断片を含む。いくつかの実施態様において、

該分子は、例えば、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、国際特許出願PCT/US2016/064436号(2016年12月1日出願)、米国仮出願第62/513389号(2017年5月31日出願)、又は米国仮出願第62/513393号(2017年5月31日出願)に記載されている、BTN1A1に免疫特異的に結合する抗原結合断片を有する分子である。

いくつかの実施態様において、

該分子には、例えば、国際特許出願PCT/US2016/064436号、米国仮出願第62/513389号、又は米国仮出願第62/513393号に記載されている、抗BTN1A1抗体STC703、STC810、STC820、STC1011、STC1012、もしくはSTC1029、又はこれらのヒト化変異体の抗原結合断片、又はVH、VL、もしくはCDR配列が含まれる。

...

【0176】

いくつかの実施態様において、

該分子は、抗BTN1A1抗体であるか、又は抗BTN1A1抗体の抗原結合断片を含む。

いくつかの実施態様において、

該分子は、抗BTN1A1抗体であるか、又は例えば、引用により完全に本明細書中に組み込まれる国際特許出願PCT/US2016/064436号(2016年12月1日出願)に記載されている抗BTN1A1抗体の抗原結合断片を含む。

【0177】

一態様において、本明細書に提供されるのは、

BTN1A1に免疫特異的に結合する抗原結合断片を含む分子であり、ここで、該分子は、BTN1A1リガンド、例えば、ガレクチン-1(GAL-1)、ガレクチン-9(GAL-9)、NRP-2(Nrp-2)、又はB及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)とBTN1A1との結合を阻害することができる。いくつかの実施態様において、該分子は、BTN1A1とGAL-1との結合を阻害することができる。

...

【0179】

いくつかの実施態様において、

該分子は、BTN1A1の細胞外ドメイン(ECD)に結合する抗原結合ドメインを含む。

...

【0182】

いくつかの実施態様において、

該分子は、BTN1A1の活性もしくはシグナル伝達又はBTN1A1とBTN1A1リガンド、例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAの複合体の活性もしくはシグナル伝達を調節することができる。

【0183】

いくつかの実施態様において、

該分子は、T細胞活性を調節することができる。いくつかの実施態様において、該T細胞は、CD8+細胞である。いくつかの実施態様において、該分子は、T細胞活性化又はT細胞増殖を増大させることができる。いくつかの実施態様において、該分子は、T細胞アポトーシスを阻害することができる。

【0184】

N-グリコシル化は、小胞体(ER)で開始され、その後、ゴルジでプロセシングされる翻訳後修飾である(Schwarz及びAebiの文献、Curr. Opin. Struc. Bio., 21(5): 576-582(2011)。このタイプの修飾は、オリゴ糖から構成される予め形成されたグリカンを、NXTモチーフ(-Asn-X-Ser/Thr-)の内部に位置するアスパラギン(Asn)側鎖アクセプターに転移する膜関連型オリゴサッカリルトランスフェラーゼ(OST)複合体によってまず触媒される(Cheung及びReithmeierの文献、Methods, 41: 451-459 2007); Helenius及びAebiの文献、Science, 291(5512):2364-9(2001)。予め形成されたグリカンからのサッカリドの付加又は除去は、それぞれ、N-グリコシル化カスケードを細胞及び位置依存的な形で厳密に調節する一群のグリコシルトランスフェラーゼ及びグリコシダーゼによって媒介される。

【0185】

いくつかの実施態様において、

該分子は、BTN1A1の1以上のグリコシル化モチーフに選択的に結合する抗原結合断片を有する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、グリコシル化モチーフを有する糖ペプチド及び隣接するペプチドに免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、3次元でグリコシル化モチーフのうちの1つ又は複数の近くに位置するペプチド配列に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、BTN1A1単量体の1以上のグリコシル化モチーフよりもBTN1A1二量体の1以上のグリコシル化モチーフに選択的に結合する。

...

【0187】

特定のBTN1A1アイソフォーム又は変異体の特異的グリコシル化部位は、その特定のBTN1A1アイソフォーム又は変異体の位置55、215、又は449のアミノ酸と様々であり得る。これらの状況において、当業者であれば、配列アラインメント及び当技術分野における他の共通の知識に基づいて、上で例示されているヒトBTN1A1のN55、N215、及びN449に対応する任意の特定のBTN1A1アイソフォーム又は変異体のグリコシル化部位を決定することができるであろう。したがって、

本明細書に提供されるのは、非グリコシル化BTN1A1アイソフォーム又は変異体と比べてグリコシル化形態のBTN1A1アイソフォーム又は変異体に免疫特異的に結合する抗原結合断片を有する分子でもある。BTN1A1アイソフォーム又は変異体のグリコシル化部位は、上で提供されているヒトBTN1A1配列のN55、N215、及びN449の対応する部位であることができる。

【0188】

いくつかの実施態様において、

該分子は、グリコシル化BTN1A1(例えば、グリコシル化BTN1A1二量体)に免疫特異的に結合する抗原結合断片を有する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、位置N55、N215、及び/又はN449でグリコシル化されているBTN1A1に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、位置N55でグリコシル化されているBTN1A1に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、位置N215でグリコシル化されているBTN1A1に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、位置N449でグリコシル化されているBTN1A1に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、1以上のグリコシル化モチーフに免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、位置N55及びN215でグリコシル化されているBTN1A1に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、位置N215及びN449でグリコシル化されているBTN1A1に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、位置N55及びN449でグリコシル化されているBTN1A1に免疫特異的に結合する。いくつかの実施態様において、該抗原結合断片は、位置N55、N215、及びN449でグリコシル化されているBTN1A1に免疫特異的に結合する。

本オ 【0533】~【0538】

「【0533】

(6.1 実施例1: BTN1A1リガンドとしてのガレクチン-1、ガレクチン-9、及びニューロピリン-2の同定)

BTN1A1リガンドを同定するために、Retrogenix(商標)細胞マイクロアレイ技術(Whaley Bridge, United Kingdom)を用いて、形質膜タンパク質アレイをスクリーニングした。

【0534】

簡潔に述べると、形質膜タンパク質をコードする発現ベクターをスライド上にアレイ化し、

HEK293細胞にリバーストランスフェクトして、候補BTN1A1リガンドを発現する細胞のマイクロアレイを作出した。BTN1A1-Fcと候補BTN1A1リガンドとの結合を蛍光イメージングにより検出した。同じ細胞マイクロアレイ技術並びに共免疫沈降及び表面プラズモン共鳴アッセイ(Biacore(商標))を含む第二のアッセイを用いて、同定されたBTN1A1リガンドを確認した。

【0535】

(一次スクリーン及び再確認)

全長ヒト形質膜タンパク質を各々コードする4550種の発現ベクターを13枚のマイクロアレイスライド(「スライドセット))にわたって2連でアレイ化した。アレイ化した発現ベクターのうちの3500種よりも多くが固有の遺伝子をコードしていた。

1つの発現ベクター対照(pIRES-hEGFR-IRES-ZsGreen1)を各々のスライドに4連でスポットして、トランスフェクション効率の最小閾値が各々のスライドで達成されている又は超過している(pIRES-EGFR-ZsGreenベクターからの平均ZsGreenシグナルが1.5のバックグラウンドを超えている)ことを確認した。

ヒトHEK293細胞をリバーストランスフェクション及びタンパク質発現に使用した。細胞を固定した後、BTN1A1-ECD-Fcを試験リガンドとして20μg/mlの最終濃度で各々のスライドに添加した。抗IgG抗体及び蛍光イメージングを用いて、BTN1A1リガンドを発現するHEK293細胞又は陰性対照細胞に対するBTN1A1-Fc結合を検出した。

2枚の複製スライドを一次スクリーンスライドセットの13枚のマイクロアレイスライドの各々についてスクリーニングした。ImageQuantソフトウェア(GE)を用いて、蛍光画像を解析し、(トランスフェクション効率について)定量した。一次「ヒット」をバックグラウンドレベルと比べて増大したシグナルを示すマイクロアレイスライド上の2連のスポットと定義した。一次ヒットをImageQuantソフトウェアによってグリッドが挿入された画像の目視検査により同定した。

一次ヒットを、2連のスポットの蛍光強度に基づいて、「強」、「中」、「弱」、又は「極弱」に分類した。

【0536】

一次ヒットを細胞マイクロアレイアッセイで再確認した。一次ヒットをコードするベクターを複数のスライドセット上にアレイ化した。確認アッセイの各々のスライドには、CD86陽性対照及びEGFR陰性対照も含まれた。候補BTN1A1-リガンドをHEK293細胞で発現させ、細胞を固定した。その後、異なるスライドを、20μg/ml BTN1A1-Fc、20μg/ml CTLA4-Fc、又はリガンドなし(検出抗体のみ)で処理した(1処理当たりn=2枚のスライド)。

【0537】

2μg/ml、5μg/ml、又は20μg/mlで試験したとき、BTN1A1-Fcは、通常、トランスフェクトしていない固定されたHEK293スライドに対して低いバックグラウンド結合しか示さなかった。合計40枚のスライドを一次スクリーン(26枚のスライド)及び二次確認アッセイ(14枚のスライド)でスクリーニングした。トランスフェクション効率は、目標トランスフェクション効率閾値を超えた。

一次スクリーンにおいて、11の重複ヒット(発現ベクタークローン)を同定した。11の一次ヒットは、極弱から強までの様々なスポット強度(シグナル対バックグラウンド)に及んでいた。同定されたベクターをシークエンシングして、候補BTN1A1リガンドが何であるかを確認した。11のヒット、CD86/ZsGreen1(陽性対照)、又はEGFR/ZsGreen1(陰性対照)をコードするベクターを二次確認アッセイで試験した。

【0538】

図1は、例示的な再確認アッセイの結果を示した画像を示している。強い結合シグナルがCTLA4-hFc(可溶性リガンド)とCD86(細胞膜タンパク質)との陽性対照相互作用について観察され、これにより、アッセイ条件の妥当性が確認された。3つの一次ヒットであるガレクチン-1(Gal-1)、ガレクチン-9(Gal-9)、及びニューロピリン-2(NRP-2)は、再確認アッセイでBTN1A1-Fcとの特異的結合を示したが、陰性対照との特異的結合を示さなかった。したがって、Gal-1、Gal-9、及びNrp2は、BTN1A1-リガンドと確認された。

本カ 【0539】

「【0539】

(共免疫沈降)

Gal-1及びGal-9のBTN1A1リガンドとしての妥当性を共免疫沈降(共IP)によりさらに確認した。BTN1A1-Flagを単独で又はMyc及びFlagで二重にタグ化されたGal-1もしくはGal-9と組み合わせてHEK293T細胞で発現させた(図2A)。その後、免疫沈降(プルダウン)を抗Myc又は抗BTN1A1抗体を用いて実施した(図2B)。免疫沈降物をSDS-PAGEにより解析して、BTN1A1とGal-1又はGal-9の相互作用を調べた(図2C)。抗Myc抗体を用いたMycタグ化Gal-1及びGal-9のプルダウンにより、Flagタグ化BTN1A1の共IPが結果として生じた(図2C)。BTN1A1-Gal-1及びBTN1A1-Gal9相互作用の特異性をさらに確認するために、BTN1A1特異的抗体STC810を用いて、BTN1A1をプルダウンした。STC810を用いたBTN1A1プルダウンにより、Gal-1及びGal-9の共IPが結果として生じた(図2C)。これらの結果から、BTN1A1の正真正銘のリガンドとしてのGal-1及びGal-9の妥当性がさらに確認された。

本キ 【0540】

「【0540】

(表面プラズモン共鳴)

BTN1A1-Gal-1相互作用を表面プラズモン共鳴(Biacore(商標))結合アッセイでさらに解析した。BTN1A1-Fc融合タンパク質をプロテインAがコーティングされたCM5チップ上で捕捉し、Gal-1リガンドを該CM5チップ上に5以上の異なる濃度で注入した。図3A~Dは、グリコシル化BTN1A1野生型(BTN1A1、図3A)、非グリコシル化BTN1A1突然変異体(BTN1A1-2NQ)、又はBTN1A1ファミリーの他のメンバー(BTN2A1-図3C; BTN3A2-図3D)に対するGal-1結合を示した例示的なBIAcoreセンサーグラムを示している。Gal-1は、非グリコシル化BTN1A1-2NQ突然変異体タンパク質に検出可能な程度に結合することが見出されず(図3B)、Gal-1が糖特異的な様式でBTN1A1に結合することを示している。さらに、Gal-1は、BTN2A1(図3C)又はBTN3A2(図3D)などのBTN1A1ファミリーの他のメンバーに検出可能な程度に結合することが見出されず、Gal-1がBTN1A1ファミリー内のBTN1A1の選択的リガンドであることを示している。

本ク 【0544】

「【0544】

(表面プラズモン共鳴)

BTN1A1とBTLAの相互作用をBiacore(商標)アッセイでさらに解析した。BTN1A1-Fc融合タンパク質をプロテインAがコーティングされたCM5チップ上で捕捉し、BTLA又はGal-1を該チップ上に3.2μMで注入した。図6Aは、BTN1A1-Fcに対するGal-1及びBTLA結合を示したセンサーグラムを示している。Gal-1結合は、センサーグラム中の正の応答シグナルによって示される。Biacore(商標)チップ上での固定されたBTN1A1-Fcに対するBTLA結合は、センサーグラム中の応答シグナルの低下(負のシグナル)をもたらした。図6Bは、BTN1A1-Fcが0.4μM、0.8μM、1.6μM、3.2μM、又は6.4μMで固定されたBiacore(商標)チップ上にBTLAを注入したときに観察された応答シグナルの用量依存的減少を示したセンサーグラムを示している。特定の理論に束縛されるものではないが、BTN1A1に対するBTLA結合に起因する観察されたSPRシグナルの減少は、例えば、BTN1A1-BTLA複合体形成時のBTN1A1の立体構造変化を示すと考えられる。

本ケ 【図1】、【図2A-B】、【図2C】、【図3】、【図6】

113

143

0001436428000001.jpg

」(【図1】)

104

118

0001436428000002.jpg

」(【図2A-B】)

121

82

0001436428000003.jpg

」(【図2C】)

111

115

0001436428000004.jpg

」(【図3】)

68

153

0001436428000005.jpg

」(【図6】)

第5 当審の判断

1 理由2(サポート要件)の検討

(1)特許法36条6項1号所定の要件(サポート要件)の判断規範について

知的財産高等裁判所は、知財高判平22・4・27(平21(行ケ)10296号)において、「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、サポート要件の存在は、特許出願人又は特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。」と説示している。

(2)本願発明が解決しようとする課題

本願の発明の詳細な説明には【発明が解決しようとする課題】の項目は存在しない。

そこで、本ア及び本ウに摘記した、【背景技術】、【発明の概要】及び【発明を実施するための形態】の記載より、本願発明が解決しようとする課題を検討すると、【背景技術】欄の【0004】には、「しかしながら、免疫系を調節することにより疾患を安全かつ効果的に治療する新しい治療法の開発は、とりわけ、抗PD1療法又は抗PD-L1療法抵抗性又は不応性癌にとって、差し迫ったニーズであり続けている。」と記載されている。そして、【発明の概要】欄の【0005】、【0047】には、それぞれ、「一態様において、本明細書に提供されるのは、BTN1A1に免疫特異的に結合する抗原結合断片を含む分子であり、ここで、該分子は、BTN1A1リガンド、例えば、ガレクチン-1(GAL-1)、ガレクチン-9(GAL-9)、NRP-2(Nrp-2)、又はB及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)とBTN1A1との結合を阻害する。」、「別の態様において、本明細書に提供されるのは、BTN1A1に対するBTN1A1リガンド結合を阻害する方法であって、該対象に、本明細書に提供される分子又は本明細書に提供される医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該分子が該対象におけるBTN1A1リガンドとBTN1A1との結合を阻害する、前記方法。」と記載されている。そして、【発明を実施するための形態】として、【0067】には、「任意の具体的な理論に限定されるものではないが、既に形成されたBTN1A1とBTN1A1リガンド、例えば、GAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLAとの複合体の破壊を含む、BTN1A1とのGAL-1、GAL-9、NRP-2、又はBTLA複合体形成の阻害は、BTLA活性又はシグナル伝達を調節することができると考えられる。このBTLA活性又はシグナル伝達の調節は、例えば、T細胞増殖を促進するか、T細胞アポトーシスを阻害するか、又はサイトカイン分泌(例えば、IFNγもしくはIL2)を誘導することにより、T細胞、例えば、CD8+ T細胞を活性化することができるとさらに考えられる。T細胞活性化は、癌を治療又は予防するのに有用である抗癌免疫応答をもたらすことができる。」と記載されている。

これらの記載から、本願発明は、BTN1A1とBTN1A1リガンドとの結合を阻害することで、T細胞を活性化させ、癌を治療又は予防するのに有用な抗癌免疫応答をもたらすという作用機序に基づき、免疫系を調節することにより疾患を安全かつ効果的に治療する新しい治療法を提供することを企図したものと解される。

したがって、本願発明が解決しようとする課題は、「免疫系を調節することにより疾患を安全かつ効果的に治療する新しい治療法を提供すること」であると認められる。

(3)参考文献の記載事項

当審による令和7年3月27日付けの拒絶理由通知書で、文献11として引用された「Journal of Immunology, 2010, Vol.184, Issue 7, pp.3514-3525」(以下、「文献11」という。)、文献12として引用された「Journal of Immunology, 2016, Vol.196, Issue 1_supplement, p.199.1」(以下、「文献12」という。)、文献13として引用された「国際公開第2017/096051号」(以下、「文献13」という。)、及び文献14として引用された「Nature Immunology, 2013, Vol.14, No.9, pp.908-916」には、それぞれ、以下のア~エに示す事項が記載されている。また、当審で本願出願時の技術常識を示す文献として新たに引用する「Journal of Biomedical Science, 2005, Vol.12, pp.13-29」(以下、「文献16」という。)には、以下のオに示す事項が記載されている。なお、いずれの文献も原文は英語のため、文献11~12、14、16については当審による訳文を、文献13については、対応する国内公表公報である特表2019-505477号公報の記載事項及び摘記箇所をそれぞれ示す。また、下線は当審で付した。

ア 文献11の記載事項

(ア-1)表題

「乳腺ブチロフィリンである BTN1A1 と BTN2A2 は、いずれも T 細胞活性化の阻害因子である」

(ア-2)要約

「Butyrophilin(BTN)遺伝子は、関連するタンパク質群をコードする遺伝子である。マウスの研究により、このうち BTN1A1 は授乳期における乳脂質の分泌に必須である一方、butyrophilin-like 2 は T 細胞活性化の共阻害因子であることが示されている。BTN のこれら異なる機能を理解するため、まずマウス Btn1a1 と Btn2a2 の発現および機能を比較した。

Btn1a1 の転写産物は授乳期の乳腺組織に限定されず、未経産の乳腺組織に加えて、興味深いことに脾臓および胸腺でも検出された。

このことを裏付けるように、胸腺上皮細胞において BTN1A1 タンパク質が検出された。これに対して、Btn2a2 の転写産物およびタンパク質は広く発現していた。B7 ファミリー分子である programmed death ligand 1 と同様に、T 細胞が活性化されると細胞表面の BTN2A2 タンパク質は発現が増加した。次に、BTN1A1 および BTN2A2 が T 細胞と相互作用する可能性を検討した。マウス BTN2A2、そして驚くべきことに BTN1A1 の組換え Fc 融合タンパク質は、活性化 T 細胞に結合し、これらの細胞に一つ以上の受容体が存在することを示唆した。

固定化した BTN-Fc 融合タンパク質は、MOG-Fc タンパク質とは異なり、抗 CD3 により活性化された CD4 および CD8 T 細胞の増殖を阻害した。

BTN1A1 および BTN2A2 は、T 細胞の代謝、IL-2 および IFN-γ の分泌も阻害した。増殖抑制は外因性 IL-2 によっては解除されなかったが、高濃度の抗 CD28 抗体による共刺激では克服された。これらのデータは、授乳期の乳腺や乳脂肪滴に発現する BTN1A1 を含むマウス BTN が共阻害因子として機能するという見解と一致するものである。」

イ 文献12の記載事項

(イ-1)表題

「ブチロフィリン1A1(BTN1A1)による免疫調節」

(イ-2)要約

「ブチロフィリンは、B7様のT細胞共制御分子である。これらの分子は、免疫チェックポイント制御因子の新たなサブセットを構成する可能性があることから、がん免疫療法において関心が高まりつつある。本研究では、C末端に6-Hisタグを付加したヒトブチロフィリン1A1の細胞外ドメイン(BTN1A1)を、NSOマウス骨髄腫細胞株において発現させ、精製した組換えBTN1A1タンパク質の生物学的機能をin vitroで解析した。ヒトT細胞に対し、固相化抗CD3抗体およびBTN1A1を処理した。R&D Systems Proteome Profile

TM

Human Cytokine Arrayを用いて培養上清中の複数サイトカインを測定し、さらにサイトカイン特異的Quantikine○R(当審注:○Rは、Rを○で囲んだ記号である。) ELISAキットにより個別のサイトカインを確認した。

BTN1A1は、IL-2、IL-21、IL-25、CD40L、C5a といったT細胞由来サイトカインを有意に減少させたが、IFN-γには影響を及ぼさなかった。また、BTN1A1は抗CD3刺激誘導ヒトT細胞増殖を用量依存的に著明に抑制した。

さらに、

BTN1A1は静止T細胞ではなく、抗CD3で活性化されたT細胞に結合することが示された。加えて、組換えヒトBTN1A1は p38 MAPK、CREB、TOR のリン酸化を阻害し、BTN1A1がp38 MAPキナーゼ、CREB、TOR経路を介してTCRシグナル伝達を調節することが示唆された。

総合すると、

本研究の結果は、BTN1A1がT細胞表面上の未知の受容体を介してT細胞を調節する共抑制分子として作用することを示唆するものである。BTN1A1は治療目的における免疫チェックポイント分子の潜在的標的となり得る。

ウ 文献13の記載事項

(ウ-1)実施例1(【0404】~【0406】)

「【0404】

(6.1 実施例1:癌療法の標的としてのBTN1A1の同定)

放射線は、腫瘍細胞がストレスを生き延びる機構を活性化することができるように、腫瘍細胞をストレス条件下に置くことができ、そのような条件下で活性化される分子は、独立した療法又は放射線との組合せ療法のいずれかの標的としての役割を果たすことができる。BTN1A1は、そのような条件下で過剰発現する標的として同定された。未感作T細胞を非腫瘍担持マウスから単離し、96ウェルプレートに入れた。目的のshRNAを含むレンチウイルスベクターを用いて、T細胞に感染させることにより、未感作のT細胞を、ノックダウンされる目的の特定遺伝子を含むように改変した。特定の候補遺伝子のノックダウンを1度に1ウェルずつ行った。

【0405】

安定な表現型を獲得した後、shRNA処理したT細胞を、2組のサプレッサー細胞:(1)放射線照射された動物から単離されたサプレッサー細胞;及び(2)放射線照射されていない動物から単離されたサプレッサー細胞を用いて、抗原又は抗CD3+抗CD28の存在下で、サプレッサー細胞とともにインキュベートした。その後、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、Dolcettiらの文献、Current Protocols in Immunlogy, 14.17.1-14.17.25(2010)に記載されている手順と実質的に同様の手順を用いて、3[H]-チミジン取込みをモニタリングすることにより、T細胞増殖を個々のウェルで評価した。

【0406】

放射線照射された動物から単離されたT細胞の応答と放射線照射されていない動物から単離されたT細胞の応答を同じインビトロ抑制アッセイで比較した。増殖は、非標的対照shRNAで処理したT細胞で抑制されたのに対し、免疫応答を負に調節する(阻害する)標的遺伝子の不活性化は、応答の増強(抑制の低下)をもたらした。顕著により良好なT細胞増殖(すなわち、T細胞抑制の低下)がBTN1A1のノックダウンを含む試料で観察され、放射線照射された動物から単離されたサプレッサー細胞と組み合わせたとき、BTN1A1がT細胞応答の阻害に関与することを裏付けた。したがって、BTN1A1を、癌療法の標的として、特に、その阻害が、ストレスを受けた癌細胞による免疫抑制効果を解除することにより、患者自身の免疫系を活性化することができる標的として同定した。さらに、BTN1A1の阻害は、腫瘍を放射線療法などの追加の療法に対して感受性にすると予想される。

(ウ-2)実施例5(【0422】)

「【0422】

(6.5 実施例5:抗CD3/CD28刺激によるマウスT細胞における細胞表面BTN1A1の誘導)

未感作マウスT細胞を、2日間、模擬刺激するか(左)又は抗CD3(5ug/ml)及び抗CD28(5ug/ml)で刺激し、フローサイトメトリー解析に供した。図7Aと図7Bの両方に示されているように、模擬処理細胞と比較して、CD3/CD28刺激細胞における細胞表面BTN1A1の高い誘導が観察され、

CD3/CD28によって刺激されたT細胞の活性化がBTN1A1の発現の増大をもたらすことができることを示している。

(ウ-3)実施例6(【0423】)

「【0423】

(6.6 実施例6: B16-Ova黒色腫細胞におけるBTN1A1発現の誘導)

B16-Ova細胞における細胞外BTN1A1を抗体のみの対照又はFITC-BTN1A1抗体で染色することにより検出し、BTN1A1発現レベルをフローサイトメトリーを用いて調べた。図8に示されているように、

骨髄細胞は、B16-ova黒色腫細胞における細胞外BTN1A1の発現を誘導した。

(ウ-4)実施例7(【0424】~【0426】)

「【0424】

(6.7 実施例7:マウス抗ヒトBTN1A1抗体の産生及び特徴付け)

BTN1A1に対する抗体産生ハイブリドーマを、SP2/0マウス骨髄腫細胞と、標準プロトコルに従ってBTN1A1免疫BALB/cマウスから単離された脾細胞との融合によって取得した。融合前に、FACSを用いて、マウス由来の血清を免疫原との結合について検証した。計68種のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(mAb)を作製した。...

【0426】

モノクローナル抗BTN1A1抗体の糖特異性をドットプロット解析によって特徴付けた。各々の抗BTN1A1 mAb(0.5μg/ウェルで充填)をグリコシル化BTN1A1(PNGaseF「-」)又は脱グリコシル化BTN1A1(PNGaseF「+」)との結合について試験した。非特異的抗体対照(「IgG」、 0.25μg/ウェルで充填)もアッセイに含めた。図9A~9Bに示されているように、グリコシル化BTN1A1タンパク質と非グリコシル化BTN1A1(PNGアーゼFで処理したBTN1A1タンパク質)の両方を固相にコーティングし、mAbと抗原の結合親和性について試験した。

試験された13種全てのmAb(STC703、STC709、STC710、STC713、STC715、STC717、STC725、STC738、STC810、STC819、STC820、STC822、及びSTC838)は、より高いバンド強度によって示されているように、非グリコシル化BTN1A1タンパク質(PNGアーゼF処理タンパク質)と比較して、より高いグリコシル化BTN1A1タンパク質との親和性を示した。モノクローナル抗BTN1A1抗体の糖特異性をFACS解析によっても特徴付けた。BTN1A1 WT(完全にグリコシル化されているもの)及び2NQ(完全に非グリコシル化されているもの)を過剰発現する293T細胞をBTN1A1に対する一次抗体とともにインキュベートし、FITCとコンジュゲートされた二次抗体でさらに洗浄した。洗浄後、蛍光強度(MFI)を測定して、抗体の膜結合型グリコシル化又は非グリコシル化BTN1A1に対する相対的結合を評価した。非グリコシル化BTN1A1よりもグリコシル化BTN1A1に対して有意により高いMFIを示す抗体を糖特異的抗体として同定した。例えば、STC810(STC838と同じ抗体)は、非グリコシル化BTN1A1よりもグリコシル化BTN1A1に対して少なくとも5倍高いMFIを示した。

8種のモノクローナル抗BTN1A1抗体(STC702、STC810、STC819、STC820、STC821、STC822、STC838、及びSTC839)をFACSでさらに試験し(図10)、BTN1A1に結合するその能力及びグリコシル化特異性を検証した。」

(ウ-5)実施例9(【0430】~【0434】)

「【0430】

(6.9 実施例9: STC810のエピトープマッピング)

マウス抗ヒトBTN1A1モノクローナル抗体STC810のエピトープマッピングを、Ag-Ab架橋を用いる高質量MALDI分析によって実施した。表3は、nLC-オービトラップMS/MSによって分析されたBTN1A1-FcとSTC810の架橋ペプチドをまとめたものである。重水素化d0 d12を含む抗体/抗原架橋複合体のプロテアーゼ消化の後、nLC-オービトラップMS/MS分析により、BTN1A1(ECD)-Fc抗原とSTC810抗体の3つの架橋ペプチドを検出することが可能になった。これらの架橋ペプチドは、XquestとStavroxソフトウェアの両方で検出された。図12は、STC810のBTN1A1(ECD)-Fc抗原のエピトープを示している:...

【0431】

図12に示されているように、

STC810と架橋されたBTN1A1(ECD)-Fcのアミノ酸残基には、R41、K42、K43、T185、及びK188が含まれる。

【0432】

表4は、nLC-オービトラップMS/MSによって分析されたBTN1A1-HisとSTC810の架橋ペプチドをまとめたものである。重水素化d0 d12を含む抗体/抗原架橋複合体のプロテアーゼ消化の後、nLC-オービトラップMS/MS分析により、BTN1A1(ECD)-His抗原とSTC810抗体の3つの架橋ペプチドを検出することが可能になった。これらの架橋ペプチドは、XquestとStavroxソフトウェアの両方で検出された。図13は、STC810のBTN1A1(ECD)-His抗原のエピトープを示している...

【0433】

図13に示されているように、

STC810と架橋されたBTN1A1(ECD)-Hisのアミノ酸残基には、R68、K78、T175、S179、及びT185が含まれる。

【0434】

図12~13及び上の表6及び7に示されているSTC810と架橋されたBTN1A1のペプチドを、このようにして、モノクローナル抗体STC810についてのBTN1A1上の結合部位として同定した。

(ウ-6)実施例10(【0435】~【0436】)

「【0435】

(6.10 実施例10: STC810の特徴付け)

STC810とBTN1A1 WT及びその非グリコシル化BTN1A1変異体の免疫特異的結合をウェスタンブロットによって試験し、共焦点顕微鏡法によっても試験した。HEK293T細胞に、野生型BTN1A1並びにN55Q、N215Q、及び2NQ(すなわち、N55QとN215Q)を含む突然変異体BTN1A1の発現ベクターを一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後のウェスタンブロット解析において、全細胞溶解物を調製し、タンパク質を未変性SDS-PAGEで分離した。ゲルをSTC810に対する抗体を用いる免疫ブロット解析に供した。STC810によって検出された野生型BTN1A1及び突然変異体BTN1A1の発現は、図14に提供されている。図14(上のパネル)に示されているように、

STC810によって検出可能なBTN1A1 N55Q突然変異体及び突然変異体N215Qの発現はBTN1A1と比較して低下し、BTN1A1 2NQ突然変異体の発現はさらに有意に低下した。

【0436】

HEK293T細胞における野生型BTN1A1(BTN1A1 WT)及び突然変異体BTN1A1(BTN1A1-2NQ(すなわち、N55QとN215Q))の発現を、STC810で染色することにより、共焦点顕微鏡でも観察した。図15に示されているように、

BTN1A1 WTは、HEK293T細胞で、大部分は細胞表面で、STC810によって陽性に染色され;かつBTN1A1 2NQも染色されたが、STC810によって検出可能な発現は、BTN1A1 WTと比較してはるかに弱かった。

(ウ-7)実施例12(【0439】~【0440】)

「【0439】

(6.12 実施例12:抗BTN1A1抗体による癌細胞のアポトーシス活性化及び増殖阻害)

抗BTN1A1抗体STC810の機能をアポトーシスアッセイ及び細胞増殖アッセイで解析した。図18A~Bに示されているように、STC810は、活性化T細胞で処理したhBTN1A1過剰発現前立腺癌細胞(PC3細胞)でアポトーシスをもたらした。図18Aは、グリーンカスパーゼ3/7蛍光PC3細胞とともに染色されたアポトーシス細胞を示している。図18Bは、抗体による処理から120時間後のPC3細胞の相対的アポトーシスの計算を示している。示されているように、

STC810は、PC3細胞のT細胞依存的アポトーシスを用量依存的な様式で有意に増大させた。PC3細胞の相対的アポトーシスは5μg/mlのSTC810で処理したときに増大し;細胞を50μg/mlのSTC810で処理したときに少なくとも2倍になった。

【0440】

図18C~Dに示されているように、

STC810は、活性化T細胞で処理したhBTN1A1過剰発現前立腺癌細胞(PC3細胞)の細胞増殖も阻害した。

図18Cは、プレート上のPC3細胞の密集度によってモニタリングしたときの前立腺癌細胞の増殖を示している。図18Dは、抗体による処理から120時間後のPC3細胞の相対的増殖の計算を示している。示されているように、

STC810は、PC3細胞の増殖を用量依存的な様式で有意に阻害した。PC3細胞の増殖の割合は、該細胞を50μg/mlのSTC810で処理したとき、約50%低下した。これらのデータは、抗BTN1A1抗体がアポトーシス増強し、かつ前立腺癌細胞などの癌細胞の増殖を低下させることができることを示した。

エ 文献14の記載事項

(エ-1)表題

「Butyrophilin 3A1はリン酸化抗原に結合し、ヒトγδT細胞を活性化する」

(エ-2)要約

「ヒトT細胞のうち、g鎖可変領域9およびd鎖可変領域2(Vγ9Vδ2)を含むT細胞抗原受容体(TCR)を発現するものは、抗原提示細胞の存在下でリン酸化プレニル代謝産物を抗原として認識するが、その際、主要組織適合複合体(MHC)、MHCクラスI関連分子MR1、また抗原提示分子CD1の関与を必要としない。本研究では、遺伝学的手法を用いてリン酸化抗原を結合・提示する分子を同定した。その結果、

ブチロフィリンBTN3A1がリン酸化抗原と低親和性かつ1対1の化学量論で結合し、さらにヒトVγ9Vδ2 TCRをトランスジェニック発現させたマウスT細胞を刺激することを見出した。宿主由来または微生物由来のリン酸化抗原と複合体を形成したBTN3A1遠位ドメインの構造は免疫グロブリン様フォールドを示し、抗原は浅いポケットに結合していた。可溶性Vγ9Vδ2 TCRはBTN3A1-抗原複合体と特異的に相互作用した。したがって、BTN3A1はVγ9Vδ2 T細胞の活性化に必須の抗原提示分子である。

(エ-3)図2

70

151

0001436428000006.jpg

(エ-4)図2の説明文

「図2 BTN3A1はリン酸化抗原のVγ9Vδ2 T細胞への提示に必須である。

(a,b) 非標的コントロールsiRNA(Ctrl)またはBTN2A1、BTN2A2、あるいはBTN3転写産物3種すべてに共通する領域(BTN3)を標的とするsiRNA(a)、あるいはBTN3A1またはBTN3A2を標的とするsiRNA(b)をトランスフェクトしたA375細胞によって提示されたHMBPPで刺激したヒトG2B9 Vγ9Vδ2 T細胞からの腫瘍壊死因子(TNF)分泌。(c) A375、A375-BTN3A1またはA375-BTN3A2細胞の存在下で、HMBPP、IPPまたはCD3に対するモノクローナル抗体により刺激したG2B9細胞からのTNF分泌。

(d) A375またはA375-BTN3A1細胞とともに50 μM HMBPP存在下(HMBPP)または非存在下(No Ag)で培養した野生型マウスT細胞(WT;CD3

+

細胞にゲート)およびγδトランスジェニック細胞(γδ-TG;Vδ2

+

T細胞にゲート)におけるCD25およびCD69発現(象限中の数値はFig. 1a-cと同様)。

(e) A375またはA375-BTN3A1細胞とともに50 μM HMBPP存在下(+Ag)または非存在下で培養した野生型およびγδトランスジェニックマウスT細胞からのIFN-γ放出。

*P < 0.0001(対応なし両側Studentのt検定)。データは3回の独立した実験の代表例であり(a-c,e)、平均値と標準偏差(s.d.)を示す。」

(エ-5)図3

78

149

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(エ-6)図3の説明文

「BTN3A1の免疫グロブリンV様領域(組換え体)はγδトランスジェニック細胞を刺激する。

(a) 野生型脾細胞(対照;CD3陽性細胞でゲーティング)またはプレート固相化したeBTN3A1Vあるいは組換えCD1d(同一細胞型で発現させた対照タンパク質)とインキュベートしたγδトランスジェニック細胞におけるCD25およびCD69の発現。50 μMのIPPまたは50 μMのHMBPPの有無の条件で解析した(象限内の数値は図1a-cと同様である)。(b) aと同様に処理した野生型細胞またはγδトランスジェニック細胞によるIFN-γの分泌。

*P = 0.0130、**P = 0.0065(対応のない両側スチューデントのt検定)。データは5回の独立した実験を代表する(bは三重測定の平均値および標準偏差)。」

オ 文献16の記載事項

(オ-1)表題

「異なる細胞型におけるガレクチン-1受容体」

(オ-2)要約

「ガレクチンは、糖鎖認識ドメインにおける共通のアミノ酸配列と、β-ガラクトシドに対する親和性という二つの性質によって定義される、動物レクチンのファミリーである。ガレクチンは、発生、分化、形態形成、腫瘍転移、アポトーシス、RNAスプライシング、免疫調節機能など、きわめて多様な生物学的現象に関与している。本総説では、ガレクチン-1受容体に焦点を当て、このレクチンが異なる細胞型に影響を及ぼす機構のいくつかを論じる。

取り上げるガレクチン-1受容体には、CD45、CD7、CD43、CD2、CD3、CD4、CD107、CEA、アクチン、ラミニンやフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質、グリコサミノグリカン、インテグリン、β-ラクトサミン糖脂質、ガングリオシドGM1、ポリペプチドHBGp82、糖タンパク質90K/MAC-2BP、CA125腫瘍抗原、そしてプレB細胞受容体が含まれる。

(オ-3)14頁右欄12行~16頁左欄10行

「異なる細胞型におけるガレクチン-1の多面的な生物学的機能

多様な生物学的現象がガレクチン-1に関連することが示されており、具体的には、細胞接着、増殖、アポトーシス、T 細胞受容体カウンタースティミュレーション、免疫調節作用、細胞周期停止、プレ B 細胞におけるシグナル伝達、RNA スプライシング、ならびに H-Ras の膜係留の促進が挙げられる[19-22](表 1)

。ガレクチン-1は、腫瘍浸潤・転移、炎症、器官発生といった過程における細胞―細胞および細胞―マトリックス接着に関与する。ガレクチン-1は、ラミニンやフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質に由来するポリ N-アセチルラクトサミン(PL)鎖に結合し、細胞接着を正にも負にも調節する[26, 39, 43-45]。また、ガレクチン-1は腫瘍細胞と内皮細胞の相互作用にも影響を及ぼし、これは浸潤および転移において重要である[19]。乳癌細胞と内皮の接触部位にはガレクチン-1の集積が認められ、腫瘍細胞上にはガレクチン-1が、内皮細胞上にはガレクチン-3が優先的に局在することから、これらレクチンが接着において異なる役割を担うことが示唆される。甲状腺、子宮内膜、頭頸部、胸腺、膀胱、膵、大腸に由来する多様なヒト癌、さらに胆管癌や神経膠腫において、ガレクチン-1発現の増加が報告されている[46, 47]。

免疫系において、ガレクチン-1は胸腺、脾臓、リンパ節、骨髄、肝臓、ならびに免疫特権部位に発現する[35, 48]。

ガレクチン-1は、CD43 および CD45 など胸腺細胞表面糖タンパク質上の糖鎖に結合することで、リンパ芽球様細胞の胸腺上皮細胞への接着にも関与する。ヒト胸腺上皮細胞由来のガレクチン-1は、未熟な皮質胸腺細胞上のコア 2 型 O-糖鎖に結合し、胸腺細胞の成熟過程においてアポトーシスを誘導する。未熟な皮質胸腺細胞は、成熟した髄質胸腺細胞よりも多くのガレクチン-1を結合する[49]。このアポトーシス誘導効果は用量依存的であり、糖鎖特異的で、Fas 非依存性、ステロイド非依存性、ならびに CD3 非依存性である。さらに、内皮細胞に発現するガレクチン-1は、付着した T 細胞に対して糖鎖依存的にアポトーシスを誘導しうる[34, 50]。

(オ-4)16頁右欄20~41行

「本総説では、ガレクチン-1の受容体と、このレクチンが異なる細胞型に影響を及ぼす機構のいくつかを論じる。

ガレクチン-1は、最小オリゴ糖構造として N-アセチルラクトサミン(LacNAc)を認識するが、この配列は多様で複雑な糖鎖構造を有する複数の糖タンパク質や糖脂質に存在する。したがって、特定の細胞型がガレクチン-1にどのように応答するかは、糖転移酵素および/またはグリコシダーゼの活性の変動によっても制御される。現時点で、糖―レクチン(糖―タンパク質)相互作用、あるいはタンパク質―レクチン(タンパク質―タンパク質)相互作用を仲介する複数の受容体が同定されている。これらには、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質(ラミニン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオポンチン)、コンドロイチン硫酸 B などのグリコサミノグリカン(GAG)、インテグリン、CD45、CD43、CD7、CD2、CD3、CD4、CD107、CEA、アクチン、β-ラクトサミン糖脂質、ガングリオシド GM1、ポリペプチド HBGp82、糖タンパク質 90K/MAC-2BP、CA125 腫瘍抗原、ならびにプレ B 細胞受容体が含まれる(表 2)。

(オ-5)表1

140

151

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(4)当審の判断

特許請求の範囲の請求項1には、上記第2に記載したとおり、「ヒト対象におけるガレクチン-1(GAL-1)のBTN1A1との結合を阻害するための医薬品の製造のための、分子の使用であって、該分子がBTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片を含む、前記使用。」が記載されている。

請求項1に係る発明は、BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片を含む分子の使用により、ヒト対象におけるガレクチン-1(GAL-1)のBTN1A1との結合を阻害するための医薬品を製造するというものであり、該分子がBTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害することを利用するものであるから、このような請求項1の記載がサポート要件を満たすためには、「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子が発明の詳細な説明に記載されるとともに、当該分子がGAL-1とBTN1A1との結合を阻害して薬理活性を発揮することによりヒトを対象とする医薬品を製造することができ、上記(1)で認定した課題を解決できることを、当業者が発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて認識できることが必要である。以下、この観点から検討する。また、以下、抗原結合断片を含む分子を単に「抗体等分子」ともいう。

ア 「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子について

本願明細書には(本オ~ク)、GAL-1がBTN1A1の細胞外ドメイン(ECD)に糖鎖依存的に結合することまでは理解できる記載が存在するとしても、両者の結合を阻害する抗体等分子を取得したことに関しては具体的な記載がない。

また、本願明細書には、GAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗体等分子に関する説明として、BTN1A1に結合する抗体等分子を説明する記載が一応存在するが(本エ)、当該記載は、該分子の認識するエピトープが線状エピトープであるのか立体構造エピトープであるのか、該分子がグリコシル化モチーフを認識するのかその隣接するペプチドや三次元的に近傍に位置するペプチドを含めて認識するのか、BTN1A1上のいずれのグリコシル化部位を認識するのかといった分子の取り得る特性を選択的に列挙するにとどまるものであって(【0168】、【0185】、【0188】)、技術文献としての客観性や裏付けを欠くものである。

さらに、本願明細書には、他の出願に開示された抗体を引用する記載も存在するが(【0169】、【0171】、【0176】)、これらの抗体がGAL-1とBTN1A1との間の結合を阻害するかは、これらの出願に対応する国際公開及び本願明細書の記載をみても不明である。特に、上記出願のうち国際特許出願PCT/US/2016/064436号は文献13(国際公開第2017/096051号)に対応する出願であるが、文献13にSTC810として記載される抗体は、非グリコシル化(2NQ)のBTN1A1よりもグリコシル化BTN1A1に対して強く結合する抗体であるところ((3)ウ(ウ-2))、当該抗体は、本願において、BTN1A1とGAL-1との共免疫沈降試験の際にBTN1A1のプルダウンに用いられた抗体でもある(本カ)。すなわち、本願の共免疫沈降試験では、グリコシル化BTN1A1に特異的な抗体であるSTC810と、BTN1A1及びGAL-1との三者複合体が検出されており、グリコシル化BTN1A1に特異的な抗体、すなわち、BTN1A1の糖鎖近傍をエピトープとすることが窺われる抗体であっても、BTN1A1とGAL-1との間の糖鎖依存的な結合を完全には遮断しないことが示されているとすらいえる。

ここで、文献16に記載されるように((3)オ(オ-4))、GAL-1の糖鎖に対する結合はN-アセチルラクトサミンを有する糖鎖自体への結合であって一般的なタンパク質-タンパク質間相互作用とは結合部位や結合様式の異なるものであるところ、そのような糖タンパク質-糖鎖間の結合を阻害する抗体等分子がどのようなものであるのか、本願明細書に具体的な開示がなくとも当業者が理解できるといえるほどの技術常識が本願出願時に存在していたとは認めることができない。また、上述したように、BTN1A1の糖鎖近傍をエピトープとすることが窺われる抗体であっても、BTN1A1とGAL-1との間の糖鎖依存的な結合を完全には遮断しないという本願明細書の記載及び本願が引用する特許出願の開示内容から把握される事項は、上記抗体等分子がどのようなものであるかを理解することを一層困難にしている。

したがって、「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子は、出願時の技術常識を考慮しても本願明細書の発明の詳細な説明に実質的に開示されているとはいえない。

イ 「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子が薬理活性を発揮することについて

上記アで述べたとおり、「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子は、本願明細書に実質的に開示のないものであるが、そのような分子が存在すると仮定した場合においても、当該分子が薬理活性を発揮することを本願明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて理解できるかという点について、以下検討する。

本願明細書には、BTN1A1がT細胞を含む免疫細胞で発現されることや、組換えBTN1A1による処理がT細胞活性化を阻害することが先行研究として紹介されるとともに、BTN1A1とBTN1A1リガンドとの複合体形成を阻害することで、BTLA活性又はシグナル伝達を調節し、それにより、T細胞増殖を促進するか、T細胞アポトーシスを阻害するか、又はサイトカイン分泌(例えば、IFNγもしくはIL2)を誘導し、T細胞を活性化することができると考えられることや、T細胞活性化が癌を治療又は予防するのに有用である抗免疫応答をもたらすことができるとの記載がされている(本ウ)。一方、本願明細書には、BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗体等分子が薬理活性を発揮する作用機序として、T細胞活性化以外の作用機序に関する記載はなく、そのT細胞活性化に関する記載も、上記のように、生じる可能性のある事象を選択的に列挙するにとどまるものであり、具体的な根拠を伴った記載ではない。

そこで、本願出願時の技術常識を踏まえることにより、本願明細書に上記分子が免疫系を調節して薬理活性を発揮する作用機序として一応記載されたものであるT細胞活性化が、GAL-1とBTN1A1との結合を阻害することによって実際に生じると理解できるかという観点で検討する。

まず、文献14において((3)エ(エ-2)~(エ-6))、BTN1A1と同じブチロフィリンファミリーに属するBTN3A1がリン酸化プレニル代謝物を提示し、T細胞上のV

γ

9V

δ

2のリガンドの一部として作用することを示すにあたり、BTN3A1とV

γ

9V

δ

2の物理的な結合のみならず、当該結合の下流でTNFやIFN-γの産生が増加することを確認しているように、あるタンパク質のリガンド(又はレセプター)として機能する分子の同定にあたっては、分子同士の物理的な結合を示すだけではなく、当該結合によって生じる下流の現象を確認することで、当該結合の生理学的意味を明らかにするということが一般的に行われている。

しかしながら、本願明細書には、GAL-1がBTN1A1の細胞外ドメイン(ECD)に糖鎖依存的に結合することまでは理解できるような記載があるとしても、当該結合によって生じる下流の現象(例えば、上記のように明細書に列挙されている、T細胞増殖の促進、T細胞アポトーシスの阻害、サイトカイン分泌の誘導等)を確認したことは具体的に記載されておらず、当該結合の生理学的意味は、本願明細書の記載からは不明である。

そこで、両者の結合の生理学的意味を理解するために、まず、BTN1A1に関する文献11~13を参酌すると、文献11、12の記載から((3)ア(ア-2)、イ(イ-2))、BTN1A1の発現は授乳中の乳腺組織に限定されず、未授乳の乳腺組織や、脾臓、胸腺等でも観察されること、BTN1A1は、T細胞上の何らかの受容体を介して、CD3によって活性化されたT細胞の増殖やサイトカイン産生等の機能を抑制する性質を有すること等が知られていたといえる。また、本願優先日後、出願日前に公開された文献13には((3)ウ(ウ-1)~(ウ-7))、T細胞でBTN1A1をノックダウンすると、サプレッサー細胞とインキュベートした際の免疫抑制効果が解除されること(実施例1等)、抗CD3/CD8刺激によってT細胞でBTN1A1の発現が誘導されること(実施例5等)、癌細胞においてBTN1A1の発現が誘導されること(実施例6等)、BTN1A1に対するラットモノクローナル抗体(STC810等)を作製し、そのBTN1A1上の結合位置を特定したこと(実施例7、9~10)、STC810は、T細胞依存的に癌細胞のアポトーシス活性化及び増殖阻害を誘導したこと(実施例12)等が記載されている。

次に、GAL-1に関する文献16を参酌すると、文献16には、GAL-1は最小オリゴ糖構造として N-アセチルラクトサミン(LacNAc)を認識し、多様な糖タンパク質、糖脂質に作用すること((3)オ(オ-4))、それにより、細胞接着、増殖、アポトーシス、T細胞受容体カウンタースティミュレーション、免疫調節作用、細胞周期停止、プレB細胞におけるシグナル伝達、RNAスプライシング、H-Rasの膜係留といった多面的な生物学的機能を発揮すること((3)オ(オ-3)、(オ-5))が知られており、特に、免疫系においては、CD43、CD45等の糖鎖に結合し、細胞への接着に関与することや、T細胞のアポトーシスを誘導することが知られていた((3)オ(オ-3)、(オ-5))。

つまり、文献11~13の開示内容から、本願出願日時点において、BTN1A1が癌細胞やT細胞で発現し得ること、BTN1A1によりT細胞の少なくとも一部の機能が阻害されること、抗BTN1A1抗体によって、T細胞依存的に癌細胞の増殖抑制等が可能となることなどが知られていたといえ、文献16の開示内容から、GAL-1は多様な糖タンパク質や糖脂質の糖鎖に結合することで多面的な生物学的機能を発揮し、そのような機能の一つとして、CD43、CD45等のT細胞上の糖タンパク質に結合することでT細胞のアポトーシスを誘導する機能を有することが知られていたといえる。

すなわち、BTN1A1とGAL-1とはいずれもT細胞の機能の抑制に関わることが知られていたものの、BTN1A1についてはどのような分子との結合がT細胞の機能の抑制をもたらすのかは知られておらず、GAL-1については、むしろ他の糖タンパク質との結合がT細胞の機能の抑制をもたらすことが知られていた。

ここで、BTN1A1とGAL-1との結合がBTN1A1下流のシグナル伝達を誘導し得る唯一の経路であると本願出願日時点で推認できるような特別な事情が存在すれば、T細胞の機能の抑制がBTN1A1とGAL-1との結合により生じると理解する余地もあるが、本願明細書にも、BTN1A1のリガンドの候補としてGAL-1、GAL-9、NRP-2、BTLAと複数のリガンド候補が記載されている上に(本ア)、これらのリガンド候補を特定するに当たってスクリーニングに用いられた細胞マイクロアレイが(本オ)、ほかにBTN1A1のリガンドとなるような分子が存在し得ないといえるほどの網羅性と検出感度を有するものであるかも不明である。

したがって、本願出願時の技術常識を踏まえても、GAL-1とBTN1A1との結合が、BTN1A1がN-アセチルラクトサミンを含む糖鎖を含有するという物理化学的意味を有するだけでなく、両者の結合によって下流にシグナルが伝達され、T細胞の機能の抑制を誘導するという生理学的意味を有するとは本願明細書の記載から理解することができない。

また、生体のシグナル伝達は冗長性とクロストークを有するため、単一経路の阻害のみでは他経路による補償が生じ、期待した薬理効果に至らない可能性があるというのが本願出願時における技術常識であるところ、GAL-1は他の経路を通じてT細胞アポトーシスの誘導のようなT細胞の機能の抑制に関わることが既に知られているのであるから、仮に、GAL-1とBTN1A1との結合がT細胞の機能の抑制を誘導するとしても、両結合の阻害によって新しい治療法の提供につながるといえるほどのT細胞の活性化が生じるとは、理解することができない。

よって、「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子が存在すると仮定したとしても、当該分子が免疫系を調節して薬理活性を発揮することを本願明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて当業者が理解することはできない。

(5)審判請求人の主張について

審判請求人は、令和7年9月30日提出の意見書において、以下のように主張している。

「本件出願人は、・・・先の請求項33において、「BTN1A1リガンドとBTN1A1との結合」との記載を「ガレクチン-1(GAL-1)のBTN1A1との結合」に補正し・・・補正後請求項1・・・は、T細胞の機能抑制に関する記載を含まないものとなった。補正後請求項1・・・はT細胞に関する記載はなく、BTN1AとGAL-1との間の結合に焦点を当てているから、T細胞の機能抑制に関するサポート要件欠如のご指摘はもはや関係がない。さらに、本願は、GAL-1が生理的条件において体内に存在するBTN1A1の形態であるグリコシル化BTN1A1と特異的に結合することを支持する多数のデータを提供し・・・本願明細書中に記載された様々なアッセイからのデータの全ては、GAL-1に関する限りにおいて一貫してGAL-1と生理的に関連性の高い野生型のグリコシル化BTN1A1との特異的結合を支持するものである。」

しかしながら、GAL-1がグリコシル化BTN1A1と結合することは、請求人が主張するとおり本願明細書の記載から理解することができるとしても、(4)の冒頭で述べたように、本願の請求項1の記載がサポート要件を満たすといえるためには、「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子が発明の詳細な説明に記載されるとともに、当該分子が免疫系を調節して薬理活性を発揮することにより、上記(1)で認定した「免疫系を調節することにより疾患を安全かつ効果的に治療する新しい治療法を提供すること」という課題を解決できることを、当業者が発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて認識できることが必要であるところ、(4)アで検討したように、本願明細書には、「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子が実質的に開示されておらず、かつ、(4)イで検討したように、そのような分子が存在したと仮定しても、当該分子が免疫系を調節して薬理活性を発揮するとは理解できないのであるから、単にGAL-1がグリコシル化BTN1A1と結合することをもって、上記課題が解決できることを当業者が認識できるものとはいえない。

また、本願明細書には、T細胞の機能抑制の阻害以外に、GAL-1とBTN1A1との結合の阻害がヒトを対象とする医薬品を製造することができるに足るその他の何らかの具体的な薬理活性の発揮につながると理解できるような作用機序は何ら記載されておらず、本願出願日前に技術常識であったと認めるに足る根拠もないところ、特許請求の範囲からT細胞の機能抑制に関する記載を削除したことをもって、上記課題が解決できることを当業者が認識できるものとは到底いえないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

(6)小括

以上のとおり、本願出願時の技術常識に照らしても、本願発明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものとは認められないから、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものとは認められず、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由3(実施可能要件)の検討

理由2について検討したように(1(4)ア)、本願明細書には「BTN1A1の細胞外ドメインに免疫特異的に結合し、かつGAL-1とBTN1A1との結合を阻害する抗原結合断片」を含む分子の実質的な開示がなく、そのような分子を実際に取得し得るか不明であるし、取得し得るとしても、免疫原の選定やスクリーニングには、当業者に過度の試行錯誤を要するものといえる。

また、本願発明は、「ヒト対象におけるガレクチン-1(GAL-1)のBTN1A1との結合を阻害するための医薬品の製造のための、分子の使用」であるから、「ヒト対象におけるガレクチン-1(GAL-1)のBTN1A1との結合を阻害するための医薬品」を生産する方法であるといえる。

物を生産する方法の発明における発明の実施とは、物を生産する方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為をいうから(特許法2条3項3号)、同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その方法により生産した物を使用できることであり、物を生産する方法の発明については、明細書にその物を生産する方法及びその方法により生産した物を使用する方法についての具体的な記載が必要である。

さらに、ここでいう「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど、少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することができることを要する。(同趣旨の判決として 知財高判平26年2月22日(平成26年(行ケ)10238号))

本願発明に係る「ヒト対象におけるガレクチン-1(GAL-1)のBTN1A1との結合を阻害するための医薬品の製造のための、分子の使用」によって生産される「ヒト対象におけるガレクチン-1(GAL-1)のBTN1A1との結合を阻害するための医薬品」の機能及び用途に関連して、本願の発明の詳細な説明には、「T細胞の機能抑制の阻害」に用いることしか記載されていない。

しかしながら、「T細胞の機能抑制の阻害」に用いることができないことは、理由2について述べたとおりである(1(4)イ)。

そして、その他にヒト対象におけるガレクチン-1(GAL-1)のBTN1A1との結合を阻害することが何らかの医薬品として供することができるであろうという漠然とした一般的推測だけでは、当業者は本願発明を何らかの技術上の意義のある態様で使用することができず、本願発明を容易に実施することができない。

したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび

以上のとおり、本願は、請求項1について、特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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