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Trademark Appeal Case

請求項削除の適否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025700553
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7589801号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10~12について訂正することを認める。
特許第7589801号の請求項1~9に係る特許を維持する。
特許第7589801号の請求項10~12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯及び証拠方法

1. 手続の経緯

特許第7589801号の請求項1~12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和4年3月29日を国際出願日とする出願であって、令和6年11月18日にその特許権の設定登録がされ、同年11月26日に特許掲載公報が発行された。

その後、本件特許の請求項1~12に係る特許に対し、令和7年5月26日に特許異議申立人鈴木佐知子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

令和7年 8月27日付け 取消理由通知書

同年10月23日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)

同年11月26日付け 取消理由通知書

令和8年 1月29日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)

なお、本件申立てに係る審理は、請求項1~12、すなわち、全請求項を審理対象とし、審理対象でない請求項は存しない。

2. 証拠方法

申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:国際公開2020/251799号

甲第1号証の2:特表2022-536651号公報

甲第2号証:Biotechnol J., 2021,16,2000048,1-10及びSupporting Information A, B

甲第3号証:国際公開2020/027163号

甲第4号証:特表2016-501026号公報

甲第5号証:東京医科歯科大学のウェブページ、2002年4月8日(更新日)

https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textbook/profile.htm

甲第5号証の2:甲第5号証の書誌事項,2025年5月26日(出力日)

甲第6号証:国際公開2020/004571号

甲第7号証:ワケンビーテック株式会社のウェブページ,ワケンビーテック株式会社,2019年1 月11日(公開日)https://www.wakenbtech.co.jp/topics/post-9910

甲第8号証:cytivaのカタログ、2025年5月26日(出力日)https://www.cytivalifesciences.co.jp/catalog/0832.html#link02

甲第9号証:cytivaのウェブページ、2025年5月26日(出力日)https://cdn.cytivalifesciences.com/api/public/content/digi-12160-original

甲第10号証:コーニングのウェブページ、2025年5月26日(出力日)https://www.corning.com/jp/jp/products/life-sciences/resources/stories/at-the-bench/cell-suspension-culture-or-adherent-surface-which-is-right-foryour-lab.html

甲第11号証:月刊ファームステージ,2018,Vol.18,No.4, 2018 年7月15日(発行日)

(以下、「甲第1号証」~「甲第11号証」を「甲1」~「甲11」という。)

第2 訂正の適否

1. 訂正の内容

上記第1の1.手続の経緯のとおり、令和8年1月29日に訂正請求がされたので、令和7年10月23日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

そして、令和8年1月29日提出の訂正請求書による訂正請求の趣旨は、

「特許第7589801号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10~12について訂正することを求める。」

というものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項12を削除する。

2. 訂正の適否についての判断

(1)一群の請求項について

本件訂正前の請求項11、12は、請求項10を直接引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項10に連動して訂正されるものである。

したがって、訂正前の請求項10~12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1、2及び3による訂正は、訂正前の請求項10~12を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)独立特許要件について

訂正事項1~3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、本件においては訂正前の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1~12に係る訂正事項1、2及び3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)小括

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10~12について、訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~12に係る発明は、令和8年1月29日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」~「本件発明12」という。また、訂正前の請求項10~12に係る発明を、請求項の番号に従って「訂正前本件発明10」~「訂正前本件発明12」という。本件特許の設定登録時の明細書を「本件特許明細書」という。)

「【請求項1】

接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置させること、

前記可溶性培養担体の表面に配置された前記接着性細胞を、培地中で浮遊培養すること、

前記浮遊培養中の前記可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び

前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含む、

培養物の製造方法。

【請求項2】

前記可溶性培養担体は、多糖類、タンパク質、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の培養物の製造方法。

【請求項3】

前記可溶性培養担体は、デキストラン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、ポリガラクツロン酸、アルギン酸、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の培養物の製造方法。

【請求項4】

前記可溶性培養担体は多孔質である、請求項1から3のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。

【請求項5】

前記変性処理は、前記可溶性培養担体を表面変性剤によって変性することを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。

【請求項6】

前記接着性細胞と前記変性処理済可溶性培養担体とを分離装置を用いて分離する、請求項1から5のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。

【請求項7】

前記分離装置は、20~50μmの孔径を有する、請求項6に記載の培養物の製造方法。

【請求項8】

前記変性処理済可溶性培養担体の大きさは、最小直径が50μmを超える、請求項1から7のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。

【請求項9】

前記変性処理は、表面変性剤を用いて行われ、前記表面変性剤は、可溶性培養担体の溶解剤又は分解剤である、請求項1から8のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。

【請求項10】

(削除)

【請求項11】

(削除)

【請求項12】

(削除)」

第4 取消理由の概要

1. 令和7年8月27日付け取消理由通知に記載した取消理由について

令和7年10月23日にされた訂正請求は特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされたものであるところ、本件訂正前の請求項1~12に係る特許(特許権の設定登録時の特許)に対して、当審が令和7年8月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりのものである。

(1)特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項(甲2に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)

請求項10~12に係る発明は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。よって、請求項10~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。また、請求項10~12に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2)特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項(甲3に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)

請求項10~12に係る発明は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。よって、請求項10~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。また、請求項10~12に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2. 令和7年11月26日付け取消理由通知に記載した取消理由について

特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた令和7年10月23日にされた訂正請求による請求項1~12に係る特許に対して、当審が令和7年11月26日付け取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由は、次のとおりのものである。

(1)第29条第2項(甲2に基づく進歩性欠如)

請求項11~12に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2)第29条第2項(甲3に基づく進歩性欠如)

請求項11~12に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

なお、請求項11~12に係る発明について、(1)(2)で述べた理由と同様の、甲1に基づく進歩性欠如の取消理由及び甲4に基づく進歩性欠如の取消理由が存在した。

3. 小括

当審で通知した上記1、2に示すとおりの取消理由は、いずれも本件訂正により削除された請求項10~12に係る発明に対するもののみであって、理由はないから、当該取消理由で本件特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について

申立人が申立てた特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要は以下のとおりである。

1 申立理由1 (明確性)

本件発明1~9、訂正前本件発明10~12は、「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」、「変性」及び「大きさの差に基づいて分離して回収すること」の技術的意義乃至意味が不明である。

よって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 申立理由2 (サポート要件)

本件発明1~9、訂正前本件発明10~12について、「前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収する」ことを可能とするためには、接着性細胞が変性剤によって可溶性培養担体から剥離されなければならないところ、課題解決に必要な手段が適切に規定されていない。また、可溶性培養担体と変性処理剤の材料や処理条件は、膨大な組み合わせが考えられ、その変性の程度も異なるところ、材料や処理条件、濃度等について何ら規定されておらず、本件明細書の実施例の結果を一般化できない。

よって、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 申立理由3 (実施可能要件)

本件発明1~9、訂正前本件発明10~12について、「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」、「変性」及び「大きさの差に基づいて分離して回収すること」の技術的意義乃至意味が不明であり、当業者も理解することができない、本件発明1ではマイクロキャリアと変性処理剤の材料や処理条件、濃度等について何ら規定されておらず、本件明細書の実施例の結果を一般化できないにもかかわらず、細胞培養、細胞回収、表面変性剤の条件を当業者も理解することができない。

よって、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 申立理由4-1,4-2(新規性・進歩性)

本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、甲1に記載されたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5 申立理由5-1,5-2(新規性・進歩性)

本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、甲2に記載されたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

6 申立理由6-1,6-2(新規性・進歩性)

本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、甲3に記載されたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

7 申立理由7-1,7-2(新規性・進歩性)

本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、甲4に記載されたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第6 当審の判断

当審は、申立人が主張する上記の申立理由1~申立理由7は、いずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1~9に係る発明は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきものと判断する。

1.申立理由1(明確性要件)の検討

(1)異議申立理由の具体的内容

以下に述べるア~ウの点で、本件発明1、本件発明1を引用する本件発明2~9、訂正前本件発明10、及び、訂正前本件発明10を引用する訂正前本件発明11~12は不明確である。

よって、本件発明1~9に係る特許、及び、訂正前本件発明10~12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 本件発明1、訂正前本件発明10について、(i)「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」るものが何であるのか、(ii)どのような目的のために「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」るのか、(iii)どの程度の細胞回収率、細胞生存率、溶残留物の混入率を満たす結果が得られれば「前記可溶性培養担体の種に応じて選択され」るものを選んだといえるのか、(iv)単に「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」るというだけで、どのような組み合わせをさすのか、当業者は理解できない。

よって、本件発明1、訂正前本件発明10に規定された「前記浮遊培養中の前記可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと」の「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」という規定の技術的意味乃至意義は不明である。

イ 「変性」という語は「溶解」や「分解」を含むが、それらとは区別される「変性」がどのような意味であるのか、本件明細書に記載はない。本件発明の課題解決原理からすると、単に「変性」するだけで培養物を分離して回収できるとは考え難く、「溶解剤」又は「分解剤」としての性質を有することが必須であるが、かかる規定では「一部を変性する変性処理」という文言からなる権利の外延が不明確である。よって、本件発明1、5、訂正前本件発明10に規定する「変性」の意義を理解できないほどに不明確である。

ウ 本件発明1、訂正前本件発明10では、接着性細胞が変性処理済可溶性培養担体から乖離することは規定されていないところ、単に表面の一部が変性されたに過ぎない変性処理済可溶性培養担体に対して、どのようにして「前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収すること」ができるのか不明であり、「大きさの差に基づいて分離して回収すること」がいかなることを意味するのか、当業者といえども理解することができない。

(2)判断

アについて

本件発明1、訂正前本件発明10に規定された「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」る対象は「変性処理」であることは日本語上明らかである。

また、本件発明1、訂正前本件発明10にて「前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収する」と規定されているから、変性処理後の大きさに基づく分離回収が可能となるように変性処理を「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択」することは当業者にとって明らかといえ、また、選択された変性処理は、可溶性培養担体より接着性細胞を離脱可能とすればよいと解されるのであって(段落【0039】)、細胞回収率等の数値的な基準に基づいて、本件発明1、訂正前本件発明10において「前記可溶性担体の種類に応じて選択され」たか否かが判断されるわけではない。

そして、本件特許明細書の例えば段落【0046】には、可溶性培養担体と表面変性剤の組み合わせの例示がなされ、段落【0047】には、「変性処理の後において、可溶性培養担体の大きさが細胞よりも大きくなる変性処理の条件は、例えば、表面変性剤の種類、表面変性剤の濃度、変性処理温度、変性処理の時間等を調節するとよい。」として、可溶性培養担体の大きさが細胞よりも大きくなる変性処理の条件の調節方法も説明されているように、「前記可溶性担体の種類に応じて選択され」る「変性処理」は、「大きさの差に基づいて分離して回収する」ことができるように、表面処理剤の種類、濃度、変性処理温度、変性処理時間等を適宜設定してなされるものであると理解できるから、申立人が主張するように、特定の変性処理剤の組み合わせを指すわけではない。

以上検討したように、「前記可溶性担体の種類に応じて選択され」の技術的意味ないし意義は、当業者にとって明確といえる。

イについて

本件特許明細書には、変性処理について、「変性処理は、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、例えば細胞の足場としての機能を損なわせて、接着性細胞を離脱可能にする処理であればよく、可溶性培養担体の種類、大きさ、形状等によって適宜選択できる。変性処理は、温度変化などによって行ってよく、表面変性剤を用いて行ってもよい。」(段落【0039】)と記載され、変性処理とは、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、接着性細胞を離脱可能にする処理であればよく、表面変性剤や温度変化などによることが記載されている。

よって、本件発明1、5、訂正前本件発明10の「変性」とは、本件発明9に規定する「溶解剤」又は「分解剤」による化学的な処理による変性や、温度変化などによる変性を含む語であって、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、接着性細胞を離脱可能にする処理を指す語であることは明確である。

ウについて

本件発明1では、接着性細胞が変性処理済可溶性培養担体から「乖離」することは、文言上規定されていない。

しかし、本件特許明細書に「変性処理は、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、例えば細胞の足場としての機能を損なわせて、接着性細胞を離脱可能にする処理であればよく」と記載されるように(段落【0039】)、「変性処理」とは「接着性細胞を離脱可能にする処理」であるところ、本件発明1では、当該「変性処理」「の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収する」と規定されているのだから、変性処理によって接着性細胞が可溶性培養担体より離脱し、変性処理後に接着性細胞より大きい変性処理済可溶性培養担体と接着性細胞とを大きさの差に基づいて分離して回収することを意味することは、自明である。

エ 小括

よって、本件発明1、本件発明1を引用する本件発明2~9、訂正前本件発明10、及び、訂正前本件発明10を引用する訂正前本件発明11~12の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから、申立理由1は、理由がない。

2.申立理由2(サポート要件)の検討

(1)異議申立理由の具体的内容

以下に述べるア、イの点で、本件発明1、本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2~9、訂正前本件発明10、及び、訂正前本件発明10を引用する訂正前本件発明11~12は、サポート要件を満たしていない。

よって、本件発明1~9、及び、訂正前本件発明10~12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 本件発明1において「前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収する」ことを可能とするためには、接着性細胞が変性剤によって可溶性培養担体から剥離されなければならないところ、訂正前本件発明1はそのような構成を欠いているのであるから、本件発明に規定する技術的手段(課題解決手段に関する規定)のみでその課題解決を図れると認識し得ない。

よって、本件発明1においてその課題解決に必要な課題解決手段が適切に規定されていないからサポート要件を満たしていない。

イ 本件発明1、訂正前本件発明10は、可溶性培養担体と変性処理剤の材料や処理条件は、膨大な組み合わせが考えられ、その変性の程度も異なるところ、本件発明1、訂正前本件発明10では材料や処理条件、濃度等について規定されておらず、本件特許明細書の実施例の結果を一般化できるものでない。

また、(1) 変性処理剤の濃度、(2)「表面変性剤」の種類やそれらの組み合わせ、(3)温度等、その他の処理条件(細胞回収における条件)、(4)可溶性培養担体が表面変性剤と接している時間、(5)培養物製造方法の諸条件、に関して何らの規定も有しないから、本件発明は課題を解決しない態様を含み、サポート要件を欠く。

(2)判断

アについて

本件発明1の課題は、「不純物の混入が少なく接着性細胞の純度が高い培養物の製造方法の提供にあると認められる(段落【0004】)。

本件発明1は「前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと」という発明特定事項を有するところ、「変性処理」は、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、接着性細胞を離脱可能にする処理であるから(段落【0039】)、可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理とは、接着性細胞を離脱可能とし、ひいては、少なくとも一部の接着性細胞が可溶性培養担体より離脱するものとする処理である。本件発明1においては、「前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと」と規定されていることで、接着性細胞が離脱し分離可能とすることが規定されているといえ、申立人が主張するように、接着性細胞が変性剤によって可溶性培養担体から剥離されることが規定されていないからサポート要件を満たしていないとはいえない。

イについて

可溶性培養担体と変性処理剤の材料や処理条件は、様々な組み合わせが考えられるが、本件特許明細書の例えば段落【0046】には、可溶性培養担体と表面変性剤の組み合わせの例示がなされ、段落【0047】には、「変性処理の後において、可溶性培養担体の大きさが細胞よりも大きくなる変性処理の条件は、例えば、表面変性剤の種類、表面変性剤の濃度、変性処理温度、変性処理の時間等を調節するとよい。」として、可溶性培養担体の大きさが細胞よりも大きくなる変性処理の条件の調節方法も説明されているから、当業者であれば、これらの記載を参考にし、実施例の開示を本件発明1、訂正前本件発明10全般にまで一般化できるであろうと認識できる。

また、本件発明1、訂正前本件発明10は、「前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収する」という発明特定事項を備えているから、当該発明特定事項によって、上記課題を解決できる範囲に特定されているものである。よって、本件発明1、訂正前本件発明10において、(1)~(5)が特定されていないからといって、本件発明1、訂正前本件発明10は課題を解決しない態様を含むとはいえないので、この点でサポート要件を満たしていないとは認められない。

ウ 小括

よって、本件発明1、本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2~9、訂正前本件発明10、及び、訂正前本件発明10を引用する訂正前本件発明11~12は、サポート要件を満たしていないとはいえないから、申立理由2は、理由がない。

3.申立理由3(実施可能要件)の検討

(1)異議申立理由の具体的内容

以下に述べるア、イの点で、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。

よって、本件発明1~9、訂正前本件発明10~12に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 本件発明1、訂正前本件発明10に規定する「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」の意義、本件発明1、5、訂正前本件発明10に規定する「変性する」、「変性処理」といった「変性」の意義、本件発明1、訂正前本件発明10に規定する大きさの差に基づいて「分離して回収すること」の意義がいずれも不明であり、当業者も理解することができないから、過度な試行錯誤を要することなく本件発明1~9、訂正前本件発明10~12の実施をすることができるとは認められない。

イ マイクロキャリアと変性処理剤の材料や処理条件は、膨大な組み合わせが考えられその変性の程度も異なるところ、本件発明1、訂正前本件発明10は材料や処理条件、濃度等について何ら規定されておらず、本件明細書の実施例の結果を一般化できない。(1)どのような条件で細胞培養を行い、(2)どのような条件で細胞回収を行い、(3)どのような(種類、濃度、組み合わせ等の)表面変性剤を用いれば、所望の細胞回収率、残留物回収率が得られ、または少なくとも課題を解決できるのか、当業者も理解することができず、過度な試行錯誤を要することなく本件発明1~9、訂正前本件発明10~12の実施をすることができるとは認められない。

(2)判断

アについて

本件発明1、訂正前本件発明10に規定する「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され」の意義ないし意味、本件発明1、5、訂正前本件発明10に規定する「変性する」、「変性処理」といった「変性」の意義ないし意味、本件発明1、訂正前本件発明10に規定する大きさの差に基づいて「分離して回収すること」の意義ないし意味が不明とはいえないことは第6.1(2)で述べたとおりであるから、当該意義ないし意味が不明であることを根拠とした実施可能要件違反の理由はない。

イについて

本件特許明細書には、「細胞培養方法は、特に限定されず、それぞれの細胞に適した方法を用いればよい。」(段落【0035】)とあるように、細胞の培養方法は特に限定されないこと、変性処理前の可溶性培養担体の大きさ(段落【0026】)、表面変性方法(段落【0044】~【0048】)、変性処理後の可溶性培養担体の大きさ(段落【0041】~【0043】)、細胞回収方法(段落【0056】~【0060】)等の諸条件について、発明の詳細な説明に説明されて記載されている。

さらに、本件特許明細書には、可溶性培養担体と表面変性剤の組み合わせの例示がなされ(段落【0046】)、「変性処理の後において、可溶性培養担体の大きさが細胞よりも大きくなる変性処理の条件は、例えば、表面変性剤の種類、表面変性剤の濃度、変性処理温度、変性処理の時間等を調節するとよい。例えば、細胞懸濁液への表面変性剤の濃度を完全溶解のための濃度より低くすること、変性処理時間を完全溶解のための時間よりも短くすること、変性処理温度を完全溶解のための温度よりも低く又は高くすること、又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。表面変性剤による変性処理は、可溶性培養担体を完全溶解させるための条件よりも緩和した条件とすることにより、接着性細胞に対して過度が負荷を与えることなく、変性処理を行うことができる。」(段落【0047】)と、可溶性培養担体の大きさが細胞よりも大きくなる変性処理の条件設定についても説明されているから、これらの記載を参照しながら、可溶性培養担体を選択し、それに応じた変性処理の種類や処理条件を設定することは、当業者であれば過度の実験を要することなく行い得たことと認められる。

ウ 小括

よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されており、申立理由3は、理由がない。

4.申立理由4~7(新規性・進歩性)の検討

(1)甲1~11の記載事項 下線は当審において付与した。

ア 甲1(国際公開2020/251799号)の記載事項

甲1は英語で記載されているため、甲1の対応する日本語による公表公報である甲1の2を参照して、摘記する。

(甲1-1)「【請求項1】溶解性基質から培養細胞を採取する方法であって、該方法が、

前記基質を(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって前記基質を消化することにより、前記基質から前記培養細胞を分離するステップであって、前記分離によって採取溶液がもたらされる、ステップ;及び

前記分離するステップの後に、採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを実行するステップ

を含み、

前記基質が、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の表面上の接着ポリマーとを含む、

方法。

・・・

【請求項4】

消化後、前記接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。」(請求項1、4)

(甲1-2)「【背景技術】

【0004】

マイクロキャリアは

、治療用途の制御されたバイオリアクタにおける効率的な細胞スケールアップを可能にする。

接着細胞が高いコンフルエンスに達し

、したがって細胞間接触阻害によって細胞増殖が制限されうる平坦な表面での細胞培養とは対照的に、

高い表面積/体積の比率を有する球形のマイクロキャリアは、効率的な細胞培養のスケールアップ又は増殖のための魅力的なプラットフォームを提供し、採取した細胞又は馴化培地のいずれかを所望の製品にすることができる。

・・・

【0007】マイクロキャリアからの効果的な細胞回収には、多くの場合、濃縮酵素の使用、処理時間の延長、及び連続的な遠心分離/濾過サイクルが必要であり、これらは、細胞の健康状態及び回収率に悪影響を与える可能性がある。さらには、

マイクロキャリアの消化に由来する可能性のある副産物、及びそのような副産物が細胞の健康状態及び回収率に及ぼしうる影響についての課題が存在する。

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0008】

上記を考慮すれば、

規定された消化副産物を有するマイクロキャリアを含む細胞増殖表面、並びに、消化副産物を制御しつつ、細胞を効果的に培養し、増殖表面から採取する方法を提供すること

は、有利であろう。」(段落【0004】~【0008】)

(甲1-3)「【0044】

マイクロキャリアビーズは、

球状であるか、又は実質的に球状であってよく、

10~500マイクロメートルの範囲

、例えば、10、20、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、又は500マイクロメートル(前述の値のいずれかの間の範囲を含む)の平均直径を有する。」(段落【0044】)

(甲1-4)「【0048】

ビーズの消化

マイクロキャリアの消化、細胞の採取、又はその両方に適した非タンパク質分解酵素には、ペクチン質を加水分解する関連酵素の異種グループである、ペクチン分解酵素又はペクチナーゼが含まれる。

【0049】

細胞採取は、細胞を含んだマイクロキャリアを、ペクチナーゼ分解酵素又はペクチナーゼと二価カチオンキレート化剤との混合物を含む溶液と接触させることを包含する。

【0050】

培養細胞を採取するための例となる方法は、

本明細書に開示されるマイクロキャリアの表面上で細胞を培養するステップ

、及び培養細胞をペクチナーゼとキレート剤との混合物と接触させて細胞をマイクロキャリアから分離するステップを含む。」(段落【0048】~【0050】)

(甲1-5)「【0055】

消化時間、温度、及び添加されるペクチン分解酵素の量に応じて、ビーズの消化の程度を選択又は事前に決定することができる。

ビーズが完全に消化される前に、細胞がマイクロキャリア表面から分離する

ことが観察されている。したがって、ビーズの完全な消化の有無にかかわらず、細胞を採取することが可能である。

細胞が部分的に消化されたマイクロキャリアから採取される実施形態では、残ったマイクロキャリアからの細胞の分離は、濾過、デカンテーション、遠心分離、及び同様の処理のうちの1つ以上によって行うことができる。

」(段落【0055】)

(甲1-6)「【0164】

方法

・・

【0168】

溶解したマイクロキャリアから細胞を採取するために、各スピナーフラスコの内容物を

50mLの

コニカルチューブに移し、ビーズを沈降させた。上清を除去し、培養物を

20mLのDPBSで2回

洗浄した。1×TrypLEと1:1で混合したDPBS中の50U/mLのペクチナーゼ(Sigma社、カタログ番号P2611)/5mM EDTA(Corning、カタログ番号46-034-CI)からなる消化溶液を

、最終濃度が10cm

2

/mLになるように

添加した。マイクロキャリア消化

を、10分後に顕微鏡で確認した。次に、

チューブを259×gで5分間、遠心分離した。

遠心分離後、上清の75%を除去し、UV-Vis分光光度計(Laxco UV-vis、モデル番号:Alpha-1106)で測定した。サンプルの吸光度は、希釈せずに測定するか、又は3000μlのDPBS中に100μl(30×希釈)、又は300μl(10×希釈)を加えて希釈し、検出限界内で正確に測定できることを確保した。DPBSは、希釈培地とベースラインの両方に使用した。すべてのサンプルを、200nmから500nmまでスキャンした。次に、同量のDPBSを使用して、残りの液体(モックサンプル)又は

細胞ペレットを再懸濁し、再度遠心分離した。このプロセスを、合計4回のDPBS洗浄/遠心分離ステップについて繰り返した。

」(段落【0164】 ~【0168】)

イ 甲2(Biotechnol J., 2021,16,2000048,1-10及びSupporting Information A, B)の記載事項

甲2は英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。

(甲2-1)「間葉系間質細胞の増殖と培養のための液滴マイクロ流体力学によって生成された可溶性ゼラチンベースのマイクロキャリア」(タイトル)

(甲2-2)「マイクロキャリアは、主に表面積対体積比を増加させることにより、効率的な物理的体積で増殖を促進するために、バイオリアクターを用いた定着依存性細胞の製造に使用される合成粒子である。

間葉系間質細胞(MSCs)は接着性の細胞であり、

自家および同種細胞治療の多くの臨床試験に使用されているため、効率的に少量かつ低コストで細胞を大量生産する手段が必要とされている。

ここでは、MSCの増殖のために、溶解可能なゼラチンベースのマイクロキャリアを開発した。この新規マイクロキャリアは、いくつかの市販マイクロキャリアと比較して、同等の細胞接着効率と増殖率を示すが、マイクロキャリア粒子が直接溶解するため、細胞採取ステップでの細胞損失が減少し、より高い採取収率を示す。

さらに、遺伝子発現とinvitro分化から、ゼラチンマイクロキャリア上で培養したMSCは、2次元平面ポリスチレン組織培養フラスコ上で培養したMSCと比較して、同程度の脂肪分化効率と、より高い軟骨分化効率および骨形成分化効率で三系列分化を維持することが示唆された。

これらの結果は、このゼラチンマイクロキャリアがMSCの培養と増殖に適していることを示唆しており

、また、他のタイプのアンカレジ依存性細胞にも拡張できる可能性がある。」(要約全文)

(甲2-3)「そこで、

マイクロキャリア(MC)技術は、バイオリアクター容器内でアンカレッジ依存性細胞が接着し増殖するための接着面を提供するために開発された。

マイクロキャリア培養の利点としては、表面積対体積比が高いため、培養容積当たりにより多くの細胞を接着させることができること、並行処理が可能なスケーラビリティ、攪拌されたマイクロキャリア懸濁培養における均質な環境条件の実現、マイクロキャリアが攪拌培養において自由に移動するため細胞に対する剪断応力が最小であることなどが挙げられる。現在までに、様々なタイプのマイクロキャリアが開発され、市販されている。

マイクロキャリア

は一般的に、最大で高い表面積対体積比を有する球体の形態をとり、マクロポーラス(例えば、CultiSphere-S)、マイクロポーラス(例えば、Cytodex-1および

Cytodex-3

) またはノンポーラス(例えば、SoloHill Collagen Coated (Sartorius [Cl021521]) およびSynthemax)とすることができる。」(2頁左欄13行~27行)

(甲2-4)「商品化された各マイクロキャリアの規格によると、Cytodex-1の粒子径は131-220μm、

Cytodex-3の粒子径は133-215μm

、ソロヒルコラーゲンの粒子径は125-212μmである。」(2頁右欄下から2行目~3頁左欄3行)

(甲2-5)「2.2.マイクロキャリア上での間葉系間質細胞増殖

・・・

製造者の説明によると、

Cytodex-3

とソロヒルコラーゲン

は変性コラーゲンの微小層でコーティングされており、したがって同じく変性コラーゲンであるゼラチンと同様の性質を共有するはずである。

我々はまず、24時間の断続的攪拌

接種後、異なるタイプのマイクロキャリアへの間葉系間質細胞の付着効率を調べた。間葉系間質細胞のマイクロキャリアへの細胞接着効率は概ね95%以上であった

(Cytodex-1:97.52±0.29%、

Cytodex-3:97.41±0.16%

、ソロヒルコラーゲン:96.84±0.16%、ゼラチン:95.62±0.18%) (図2a)。

・・・

増殖速度曲線を得るために、

スピナーフラスコで間葉系間質細胞とマイクロキャリアの動的培養を行い、

これらの異なるマイクロキャリア上での細胞増殖性能を調べた。4つの異なるタイプのマイクロキャリア上での間葉系間質細胞の増殖(図2d) から、Cytodex-1とゼラチンマイクロキャリアは、細胞増殖(proliferation) を促進するという点で同様の性能を示し、Cytodex-3 とソロヒルコラーゲンマイクロキャリア上での細胞増殖は比較的遅いことが示された(TABLE1)。」(3頁左欄9行~右欄最終行)

(甲2-6)「2.3.間葉系間質細胞採取と細胞

回収

細胞製造の下流工程では、細胞膨張後の細胞採取が行われる。様々なグループが、トリプシン、TrypLE、コラゲナーゼなど、異なる酵素溶液の使用を報告している。

我々は、いくつかの酵素溶液をテストし、Pronase(Sigma) がマイクロキャリアから間葉系間質細胞を剥離するのに最も良い性能を示すことを観察した

(参考情報B2)。

・・・

40万個の

間葉系間質細胞

及び、総表面積50cm

2

マイクロキャリアを24ウェル超低接着ウェルプレート(Corning社製)に播種し、37°C、5%CO

2

インキュベーター内で一晩培養した。

最初の24時間の細胞増殖は最小限であったため、細胞採取工程で酵素剥離を行い、濾過ステップでマイクロキャリアと細胞を分離した場合に、マイクロキャリアから採取できた細胞の総数を概算することができる。

すべての条件において、

プロナーゼとのインキュベーション時間は30分に固定され、剥離された細胞はすべて70μmのセルストレイナーに通され、マイクロキャリア粒子または細胞凝集体が濾過され取り除かれた。総合的な細胞採取効率は、

Cytodex-1、

Cytodex-3

、ソロヒルコラーゲン、ゼラチン

マイクロキャリア培養から採取された間葉系間質細胞について

、それぞれ60.55±8.25%、

58.75±5.74%

、68.41±7.48%、92.95±3.56%であった。」(5頁左欄1行~右欄16行)

(甲2-7)「

21

83

0001437376000001.jpg

・・・

f)

7日目における、異なるマイクロキャリア粒子タイプ上での間葉系間質細胞培養の明視野画像。

スケールバー200μm。・・・」(図2f)

(甲2-8) 「

37

80

0001437376000002.jpg

図3.a)プロナーゼ酵素溶液を用いた間葉系間質細胞の回収効率(30分インキュベーション)。・・・」 (図3a)

(甲2-9)「

71

67

0001437376000003.jpg

図5.マイクロキャリアの比較。マイクロキャリア上での間葉系間質細胞増殖が、試験や細胞治療への応用のために、増殖した細胞を回収するためのプラットフォームであることを示す概略図。」(図5)

(甲2-10)「

プロナーゼは、

Streptomyces griseusから得られた

タンパク質分解酵素であり

、他の潜在的試薬と比較して、マイクロキャリア粒子からの良好な細胞放出速度と効率を示した(参考情報B2)。」(参考情報A6頁12行~14行)

(甲2-11)「2.4. マイクロキャリア培養からの間葉系間質細胞採取

マイクロキャリア上で培養した間葉系間質細胞をスプナーフラスコ内で沈降させた後、50mLのチューブに移した。

マイクロキャリアをチューブの底に沈澱させてから上清を除去し、50mLのPBSを加えて粒子と細胞を一度洗浄してから、50mLのプロナーゼを加えた。プロナーゼによる間葉系間質細胞の遊離は、37°Cのインキュベーター内で30分間行われた

(5分ごとに10秒間、500rpmに設定したボルテックスミキサーで手動撹拌)。・・・。

その後、懸濁液全体を70μmのセルストレイナー(SPL Life Science 社製)で濾過し、マイクロキャリアから細胞を分離した。

」(参考情報A、7頁8行~18行)

ウ 甲3(国際公開2020/027163号)の記載事項

(甲3-1)「[発明の名称] 歯髄由来細胞の製造方法」(発明の名称)

(甲3-2)「[請求項1]

多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞の製造方法であって,

(a)歯髄をプロテアーゼで消化して歯髄の懸濁物を調製するステップと,

(b)該懸濁物を培養して,該懸濁物に含まれる多能性幹細胞を増殖させるステップと,

(c)該増殖させた多能性幹細胞を,第1の凍結保存液に懸濁させた状態にして凍結させるステップと,

(d)該凍結させた多能性幹細胞を解凍させるステップと,

(e)該解凍させた多能性幹細胞を,担体粒子の表面に接着させた状態で培養して,該担体粒子の表面で多能性幹細胞を増殖させるステップと,

(f)該担体粒子をプロテアーゼと接触させて,該担体粒子の表面に接着した多能性幹細胞を該担体粒子から分離させるステップと,

(g)分離させた多能性幹細胞の懸濁物を調製するステップと,

を含んでなるものである,製造方法。」(請求項1)

(甲3-3)「[発明が解決しようとする課題]

[0010]

本発明の一目的は,脳梗塞の治療などに有用な,ヒトに投与することのできる新規な歯髄由来の多能性幹細胞製剤を提供することである。

本発明の他の目的は,

かかる多能性幹細胞を市場に十分な量で安定供給できるよう,

歯髄由来の多能性幹細胞を効率よく製造するための方法を提供することである。

また本発明の更なる目的は,当該細胞を,流通や保管に適した安定性が維持できる形で製造することである。」(段落[0010])

(甲3-4)「[0172]

中間体細胞は,これを解凍したときに,溶液中,例えば培地中に浮遊させた状態での直径の平均が,好ましくは20μm以下

,18μm以下であり,例えば,10~20μm,10~18μm,12~20μm,14~20μm,16~20μmである。」(段落[0172])

(甲3-5)「[0178]

生産培養において,バイオリアクターを用いて,細胞をマイクロキャリア上で培養する場合,細胞を接着させたマイクロキャリアを,バイオリアクターに投入し,培地中でマイクロキャリアを撹拌させて細胞を培養する。マイクロキャリアは,細胞が接着することのできる素材の粒子(小粒子)であり,その表面上(多孔性のものにあっては孔内の表面を含む)で細胞を培養するために用いるものである。その意味で,マイクロキャリアは担体粒子又は担体小粒子ということもできる。」(段落[0178])

(甲3-6)「[0193]

〔製剤の製造〕

生産培養終了後,マイクロキャリアは,細胞が接着した状態で回収され,その状態で洗浄される。このときマイクロキャリアを洗浄するための洗浄液として用いることのできる溶液には,細胞に障害を与えず,且つ,セリンプロテアーゼ及びメタロプロテアーゼ,特にトリプシンの酵素活性を阻害することがないものである限り特に限定はないが,生理食塩水,PBS,DMEM Low Glucose培地(血清不含),表4に示す組成を有する洗浄溶液が好適であり,例えば,DMEM Low Glucose培地(血清不含)を用いることができる。

[0194]

洗浄後のマイクロキャリアは,プロテアーゼにより処理される。このとき用いられるプロテアーゼには,蛋白質性の細胞接着分子を分解できるものである限り特に限定はないが,セリンプロテアーゼ,メタロプロテアーゼ又はその混合物が好ましく,セリンプロテアーゼとしてはトリプシンが好適なものの一つであり,メタロプロテアーゼとしてはゼラチナーゼが好適なものの一つである。

プロテアーゼ処理することにより,細胞がマイクロキャリアから遊離する。また,マイクロキャリアの素材がゼラチン等の蛋白質である場合は,プロテアーゼ処理により,マイクロキャリア自体が分解される。

このときマイクロキャリアが多孔性であれば,孔内の表面に固着した細胞もマイクロキャリアから遊離する。多孔性のゼラチンマトリックスのマイクロキャリアである場合,プロテアーゼで処理することにより,ゼラチンが分解されて,遊離した細胞とゼラチンの分解物を含む懸濁液が得られる。この場合,プロテアーゼとしてはトリプシン,ゼラチナーゼ,又はその混合物が特に好適である。」(段落[0193]~[0194])

(甲3-7)「[0306]

〔実施例7:歯髄由来細胞(中間体細胞)の凍結〕

実施例6で調製した細胞の沈殿に洗浄溶液と細胞保護液を加えて,細胞濃度が11×10

6

個/mL(±5%)となるよう細胞を懸濁させた。こうして得られた細胞懸濁液を凍結保存用バイアル(素材:Cyclic olefin copolymer, Sterile Closed Vial,Aseptic Technologies社)に充填して密封した。この細胞懸濁液を

中間体細胞懸濁液

とした。中間体細胞懸濁液の溶液部分(中間体細胞用凍結保存液)に含まれる成分を表13に示す。

中間体細胞懸濁液を,プログラムフリーザーを用いて凍結させてから,液体窒素保存容器内に移して保存した。この凍結させた中間体細胞懸濁液を,中間体細胞凍結品とした。

・・・

[0308]

〔実施例8:

歯髄由来細胞(中間体細胞)の解凍

実施例7で調製した歯髄由来細胞(中間体細胞)を充填したバイアルを液体窒素保存容器から取り出し,36.5~37.5°Cのウォーターバス内で加温して解凍した。解凍した細胞懸濁液を遠心管に移し,30 mLのDMEM(10% FBS)培地を加えて懸濁させた。遠心(300 X g, 5分)して細胞を沈殿させ,上清を除去した。次いで,DMEM(10% FBS)培地を20 mL添加して中間体細胞を懸濁させた。

[0309]

〔実施例9:歯髄由来細胞の生産培養(前培養)〕

実施例8で調製した細胞懸濁液に含まれる中間体細胞の生細胞数を測定した後,20000 細胞/cm

2

以下の密度となるように,

細胞培養プレートに細胞を播種し,5% CO

2

存在下,37°Cで培養を開始した。

・・・

[0313]

細胞がコンフルエントとなった細胞培養プレートの培地を除き,トリプシン-EDTA溶液を添加した。37°Cで5~60分間静置し,細胞を剥離させた。次いで,DMEM(10% FBS)培地を細胞培養プレートに添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁させた。

この細胞懸濁液を容器に回収した。

回収した細胞を遠心して沈殿させ,上清を除去した。DMEM(10% FBS)培地を500 mL~600 mL添加して細胞を懸濁させた後,再度遠心して細胞を沈殿させ,上清を除去した。DMEM(10% FBS)培地を500 mL~600 mL添加して細胞を再度懸濁させた。

[0314]

〔実施例10:歯髄由来細胞の生産培養(バイオリアクターの準備)〕

電子天秤でマイクロキャリアを50 g(±1.0 g)量りとって試薬瓶に入れ,PBSを2000 mLを添加した後にオートクレーブで滅菌した。なお,

マイクロキャリアは,粒径が130~180 μm(水和時)である,細胞培養用のゼラチン素材のマイクロキャリアであり

,オートクレーブで滅菌処理が可能なように耐熱性を持たせたものを用いた。

[0315]

バイオリアクターに

リアクター用50Lバッグ,ベントフィルター,及びセンサーループをセッティングし,更に温度センサー,pHメーターと溶存酸素計を設置した。バイオリアクター内(のバッグ)に10 LのDMEM(10% FBS)培地と50 g(乾重量)の

マイクロキャリアを加えて,撹拌しながら37°Cで加温した。

なお撹拌は,同装置に設けられたインペラーを用いて行った。

[0316]

〔実施例11:歯髄由来細胞の生産培養(

細胞のマイクロキャリアへの接着工程

)〕

実施例9で調製した

細胞懸濁液

に含まれる生細胞数を測定した後,1000~5000細胞/cm

3

の密度となるように

バイオリアクター内に添加した

。リアクター内を数分間撹拌した後,撹拌を停止させて1時間以上静置した。この撹拌と静置を繰り返して行い,

細胞をマイクロキャリアへ接着させた。

[0317]

〔実施例12:歯髄由来細胞の

生産培養

(細胞培養工程)〕

接着工程終了後に,バイオリアクター内を撹拌して培養を開始した。培養中にバイオリアクター内を定期的に観察し,リアクターの底部にマイクロキャリアが沈降していた場合には,リアクター内の撹拌回転数を上げて,マイクロキャリアが培地中に浮遊状態になるようにした。

[0318]

生産培養は,実施例13に記載の測定により,生細胞数が5×10

9

個以上となるまで細胞が増殖するまで行った。

マイクロキャリアでの培養期間中の細胞の分裂回数は2~3回であり,細胞の平均倍化時間は,概ね3~6日であった。生産培養を経た細胞は,in vitro環境下で少なくとも23回の細胞分裂をしたものであり,23~27回の細胞分裂をしたものである。

[0319]

〔実施例13:歯髄由来細胞の生産培養(細胞数の測定)〕

マイクロキャリアを含む培養液をリアクター内から30~40 mL採取して遠心管に移し,5分以上静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除いた。PBSを25 mL加えて細胞を懸濁させ,5分以上静置した後に上清を除いた。この操作を更に1回行った。上清を除去後,マイクロキャリアに

トリプシン-EDTA溶液を添加した。

37°Cのウォーターバス内で5~10分間振とうした後,

トリプシン-EDTA溶液

と同量のDMEM(10% FBS)培地を添加して

反応を停止させるとともに細胞を懸濁させた。

この細胞懸濁液を遠心(300 X g, 5分)して細胞を沈殿させ,上清を除去した。DMEM(10% FBS)培地を1~5 mL添加して細胞を懸濁させた後,細胞懸濁液に含まれる生細胞数を測定した。」(段落[0306]~[0319])

(甲3-8)「[0321]

〔実施例15:生産培養で得た歯髄由来細胞の回収〕

所定の細胞数まで細胞が増殖したことを確認後

,リアクターおよびセンサーループの撹拌を停止し,10分以上

静置してマイクロキャリアを沈降させた。可能な限りの量の上清を除去した後,残存する培地で細胞を懸濁させた。

細胞懸濁液を10 Lバッグ(Thermo Fisher Scientific社)内に回収し,5分以上静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除いた。

[0322]

DMEM Low Glucoseを加えてマイクロキャリアを懸濁させ,5分以上静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除いた。この操作を数回繰り返して行った。次いで,上清を除去後のマイクロキャリアにトリプシン-EDTA溶液を添加した。トリプシン-EDTA溶液を添加後,37°Cのウォーターバス内で30~60分間振とうすることにより,細胞をマイクロキャリアから剥離させるとともに,マイクロキャリアを分解した。

[0323]

細胞懸濁液に残存するマイクロキャリアの断片,細胞塊等を除去するため,回収したろ液を孔径20~35μmのフィルターに通過させて,細胞をフィルターのろ液中に回収した。

回収したろ液を遠心して細胞を沈殿させて,上清を除去した。細胞を洗浄するため,実施例1で調製した洗浄溶液を添加して細胞を懸濁させ,再度遠心して細胞を沈殿させて上清を除去した。この洗浄操作を,繰り返して行い,最終的に,遠心後の沈殿として細胞を回収した。」(段落[0321]~[0323])

(甲3-9)「[0328]

〔実施例18:歯髄由来細胞製剤の性状(粒子径)〕

実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,それぞれD-PBS(-)溶液で希釈し,約5×10

6

個/mLの細胞希釈液を調製した。細胞粒子径は,生死細胞オートアナライザー(Vi-CellXR,ベックマン・コールター社)を用いた画像解析法により計測した。生死細胞オートアナライザーを用いた画像解析法について,以下に概略する。細胞希釈液にトリパンブルーを加えて細胞を染色し,この細胞希釈液を送液して細長い流路を通過させ,流路の顕微鏡拡大画像を複数枚撮影する。死細胞ではトリパンブルーが細胞膜を透過し染色されるため,それぞれの画像において,色付きの粒子として観察される細胞を死細胞,透明な粒子として観察される細胞を生細胞として計測する。細胞粒子径は,その画像上において計測される一の粒子の直径と,顕微鏡の拡大倍率とを用いて算出される。撮影した全ての画像における粒子径の値から平均値が求められる。

[0329]

(結果)

細胞粒子径(細胞の直径)の平均値は,中間体細胞凍結細胞を解凍したものでは17.36μm±1.40μm(平均値±SD,n=3),歯髄由来細胞製剤を解凍したものでは16.98±1.23μm(平均値±SD,n=3)であった(図1)。

」(段落[0328]~[0329])

エ 甲4(特表2016-501026号公報)の記載事項

(甲4-1)「【請求項4】

単離された臍帯組織由来細胞を培養する方法であって、

a.アミノ酸類、ビタミン類、塩類、ヌクレオシド類、リポ酸/チオクト酸、エタノールアミン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウムを含む培養培地におけるマイクロキャリア上に播種された臍帯組織由来細胞を増殖させる工程であって、該培養培地は、該細胞が所望の初期個体群密度に達することが可能な十分な期間にわたって、血清が補充される、工程と、

b.該細胞が該所望の初期個体群密度に達した後、無血清培養液を添加する工程であって、該無血清培養液は、アミノ酸類、ビタミン類、塩類、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、リポ酸/チオクト酸、亜セレン酸ナトリウムを含む、工程と、

c.該細胞が所望の最終個体群密度に達することが可能な十分な期間にわたって該細胞を増殖させる工程と、を含み、

該臍帯組織由来細胞は、実質的に血液を含んでいないヒト臍帯組織から単離され、培養中の自己再生及び自己増殖が可能であり、分化する潜在能力を有し、CD13、CD90、HLA-ABCを発現し、CD34、CD117、及びHLA-DRを発現しない、方法。

【請求項5】

前記方法は、前記マイクロキャリア上に前記細胞を播種する工程を更に含む、請求項4に記載の方法。

【請求項6】

前記方法は、工程cの後に前記細胞を単離する工程を更に含む、請求項4に記載の方法。」(請求項4~6)

(甲4-2)「【技術分野】

【0001】

本出願は、例えば、

臍帯組織由来細胞などの付着依存性細胞の増殖のための栄養強化培地に関する。

【0002】

同種細胞療法(allogeneic cell therapy)用製品のために、細胞又は組織がドナーか ら採取され、採取物は患者への投与の前に更に処理される。一般的に、非相同性細胞療法 (non-homologous cell therapy)用製品の製造プロセスは、以下の、細胞バンクバイア ルを解凍し、細胞を増殖させて生産容器に接種する工程と、生産容器内で細胞を産生する工程と、血清及びトリプシンなど、細胞の産生中に使用される不要な不純物を除去する工 程と、細胞を濃縮する工程と、細胞を最終処方緩衝液内へ処方する工程と、細胞を凍結させる工程と、を含む。かかる製造プロセスは、大変複雑で費用が高い。例えば、細胞療法用途の細胞は、一般的に、血清が補充された増殖培地において培養及び増殖される。プロセスにおいて使用される血清、培地、及びその他の消耗品が高コストであるために細胞療法の製品のコストは非常に高い。栄養的な制約、培養中の細胞副産物の蓄積、物理的環境 などを含む多様な因子により、細胞が高密度に増殖することが制限される場合がある。したがって、

細胞を高細胞密度に増殖することによって生産容器から産生される細胞の体積を増加させることが望まれている。

【0003】

以前、例えば、

ヒト臍帯組織由来細胞(hUTC)などの付着依存性細胞

は、15%のウシ胎児血清(FBS)を含有する細胞増殖培地を連続稼動第3日目に交換することによって高細胞密度に増殖されることが示された。・・・

【0004】

細胞増殖培地の交換が不要であり、商業的に実現可能である、細胞を増殖する新しい方法

が必要とされている。」(段落【0001】 ~【0004】)

(甲4-3)「【0133】

C.マイクロキャリア

マイクロキャリア培養は、例えば、付着依存性分娩後細胞などの付着依存性細胞の培養の実用的な高収率培養を可能にする技術である。マイクロキャリアは、哺乳類の分娩後細胞など、培養容積が数ミリリットルから1000リットル超までの範囲に及ぶ細胞の培養用に特別に開発された。マイクロキャリアは、生物学的に不活性であり、撹拌式マイクロキャリア培養に対して強度があるが非剛性である基質を提供する。マイクロキャリアは、透明であってもよく、付着した細胞の顕微鏡検査が可能である。

Cytodex(登録商標)3

(GE Healthcare Life Sciences(Piscataway N.J.))

は、架橋デキストランのマトリックスに化学的に連結した変性コラーゲンの薄層からなる。Cytodex(登録商標)3の変性コラーゲン層は、トリプシン及びコラゲナーゼを含む、種々のプロテアーゼにより消化されやすく、

最大の細胞生存率、機能及び、完全性を維持しながらマイクロキャリアから細胞を除去することができる。」(段落【0133】)

(甲4-4)「【0184】

採取

6日目に全てのフラスコを採取した。

採取のために、

マイクロキャリアを重力で沈殿させ、マイクロキャリアを一切取り出さないで出来るだけ多くの培地を除去した。事前に37°Cで加温された250~300mLの

TrypLE(商標)をフラスコに添加し、

37°Cのインキュベーター内のスピナープラットフォーム上に設置した。30分後に撹拌を停止し、フラスコから25mLのサンプルを除去し、40μmフィルタで濾過した。フィルタ上に留まったマイクロキャリアは廃棄し、サンプルを直接CEDEXにかけてサンプルの細胞計数を行った。添加したTrypLE(商標)の体積及び得られた細胞計数を基に、容器内の全細胞数を算出し、細胞密度(細胞/cm2)を算出した。」(段落【0184】)

(甲4-5)「【0300】

(実施例11)

インペラスピナーフラスコリアクター内のマイクロキャリ上でのUTCの

増殖

材料及び方法

細胞。CBATロット番号050604B継代数8細胞からの細胞を解凍し、1つの継代の間、T225フラスコ内で増殖させた。

【0301】

マイクロキャリア。Cytodex(登録商標)3

(GE Healthcare Life Sciences、カタログ番号17-0485)のマイクロキャリアビーズをPBS内で少なくとも3時間水和させ、高圧滅菌した。

・・・

【0305】

接種及び培養

細胞は、

トリプシンによってT225フラスコから採取され、4.0E

+06

細胞の分取物は、40mLの培地を含有する100mLインペラ又はガラス棒付きスピナーフラスコ内の300mgの

マイクロキャリアビーズに添加された。

インキュベーションの前に、フラスコを5% CO

2

ガスで1分間フラッシングした。接種材料の速度-頻度は、8時間にわたって30分毎に2分間、30rpmであった。8時間目に、培地の容積は、100mLに増加し、スピナー速度は、

45rpmの連続回転に設定され、37°Cでインキュベートした。

・・・

【0310】

細胞採取

。スピナーフラスコからマイクロキャリアを採取し、

PBSで3回洗浄し、

2つの50mL円錐遠心管の間に均等に配分した。各遠心管を25mLの

トリプシン

で37°Cにおいて10分間

インキュベートした。

遠心管をPBSで50mLの容量にし、マイクロキャリアを重力で沈殿させた。細胞を含有する上清を吸引によって回収し、2.5mLのFBSが事前に充填してある50mL円錐遠心管に移した(

結果として5% FBS溶液をもたらしトリプトシンを不活性化した

)。このプロセスを4回繰り返し、各々の画分を別々に回収した。全ての採取した細胞を遠心分離し、血清を含有する増殖培地中に再懸濁させ、Guava PCA機器の使用によって細胞を計数した。」(段落【0300】~【0310】 )

オ 甲5(東京医科歯科大学のウェブページ、2002年4月8日(更新日))の記載事項

(甲5-1)「大部分の細胞の大きさは、20μm前後で、肉眼で見ることはできない。」(甲5の2 2頁目2~3行)

カ 甲6(国際公開2020/004571号)の記載事項

(甲6-1)「[0042]

(4)

撹拌による浮遊細胞培養は

、培養器材として、シングルユースバイオリアクター30mL容量(エイブル株式会社(ABLE Corporation)、BWV-S03A)と5mL容量(エイブル株式会社(ABLE Corporation)、S-1467)を用いて行った。

30mLスケールの浮遊培養には、30mL容量のバイオリアクターに、10μMのRho結合キナーゼ阻害剤(Y-27632)(富士フィルム和光純薬株式会社、034-24024)を含有する培地30mLを添加し、5mLスケールの浮遊培養には、5mL容量のバイオリアクターに10μMのRho結合キナーゼ阻害剤(Y-27632)を含有する培地5mLを添加し、シングルセル化したhiPSCを添加して、37°C、5体積%二酸化炭素の条件下で、各実施例に記載の回転数にて撹拌培養を行った。

2日目以降には培地交換を行った。培地交換は、各実施例に記載の量の培地上清を抜き取り、500G、5min遠心分離し、上清を除去後、同量の新しい培地を添加し、

ペレットを懸濁後バイオリアクターに添加して行った。

」(段落[0042])

キ 甲7(ワケンビーテック株式会社のウェブページ,ワケンビーテック株式会社,2019年1 月11日(公開日))の記載事項

(甲7-1)「2.2.2浮遊培養

・・・スピンナーフラスコ」(「2.2.2.」の項)

ク 甲8(cytivaのカタログ、2025年5月26日(出力日))の記載事項

(甲8-1)「Cytodex

TM

3

・・・

●マトリックス表面は酸変性コラーゲン層でコーティング」(1頁目)

ケ 甲9(cytivaのウェブページ、2025年5月26日(出力日))の記載事項

甲9は英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。

(甲9-1)「変性コラーゲンの薄層を架橋デキストラン・マトリックスに化学的に結合させることによって形成されるCytodex 3は、試験管内での培養が困難な細胞、特に上皮様形態を持つ細胞に選択されるマイクロキャリアである。」(2頁左欄18~21行)

(甲9-2)「

46

153

0001437376000004.jpg

」(2頁図2)

コ 甲10(コーニングのウェブページ、2025年5月26日(出力日))の記載事項

(甲10-1)「浮遊培養法は、三角フラスコやスピナーフラスコなど小スケール用の容器から、大スケール用の撹拌槽型バイオリアクターまで多岐に渡ります。この培養法の価値は単純明快です。それは終了のスケールを変更できる点です。しかも大きく変更できます。」(2頁「浮遊培養法の利点」の項)

サ 甲11(月刊ファームステージ,2018,Vol.18,No.4, 2018 年7 月15日(発行日))の記載事項

(甲11-1)「

141

107

0001437376000005.jpg

」(3頁図2)

(甲11-2)「2.2 可溶性マイクロキャリアの溶解

培養後はペクチナーゼとEDTAを用いてマイクロキャリア自体を溶解するためマイクロキャリアの分離が不要で,細胞の回収ステップを簡略化することが可能となる(図2)。」(3頁左欄23行~右欄3行)

(2)申立理由4-1(新規性)・申立理由4-2(進歩性)の検討

ア 主引例となる甲1に記載された発明

甲1-1より、甲1には、以下の発明が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。

「溶解性基質から培養細胞を採取する方法であって、該方法が、

前記基質を(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって前記基質を消化することにより、前記基質から前記培養細胞を分離するステップであって、前記分離によって採取溶液がもたらされる、ステップ;及び

前記分離するステップの後に、採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを実行するステップ

を含み、

前記基質が、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の表面上の接着ポリマーとを含み、

消化後、前記接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になる、

方法。」

イ 本件発明1について

(ア) 対比・判断

本件発明1と甲1発明とを対比する。

マイクロキャリアは、接着細胞の細胞培養に用いられるものである(甲1-2、段落【0004】)ところ、甲1発明の「培養細胞」は、溶解性基質よりキレート化剤及び/又は酵素に曝露して消化することで分離され、マイクロキャリアの表面上で培養されるものであるから(甲1-4、段落【0050】)、本件発明1の「接着性細胞」に相当し、甲1発明の「ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の表面上の接着ポリマーとを含」む「溶解性基質」は、本件発明1の「可溶性培養担体」に相当する。

甲1発明は「前記基質が、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の表面上の接着ポリマーとを含み、」と基質が特定され、さらに、「基質を(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって前記基質を消化することにより、前記基質から前記培養細胞を分離する」と、当該基質を特定の要素(i)~(iii)にて消化することで、基質から培養細胞を分離することが特定されているから、甲1発明の「溶解性基質」を「(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって前記基質を消化」することは、本件発明1の「可溶性培養担体の種類に応じて選択され」る「変性処理」に相当する。そして、本件特許明細書の「変性処理は、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、例えば細胞の足場としての機能を損なわせて、接着性細胞を離脱可能にする処理であればよく、」という(段落【0039】)、「変性処理」とは接着性細胞を離脱可能にする処理であればよいとの記載を踏まえると、甲1発明の「前記基質を(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって前記基質を消化することにより、前記基質から前記培養細胞を分離」し「前記分離によって採取溶液がもたらされ」「消化後、前記接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になる」ことは、本件発明1の「前記可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行う」ことに相当し、甲1発明の「基質から前記培養細胞を分離する」ステップは、本件発明1の「変性処理」のステップに相当する。

甲1発明は、「前記分離するステップの後に、採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを実行するステップ」を含むものであり、本件発明1は、これに対応するステップを備えているものではないが、本件発明1の「・・・分離して回収すること

を含む

、培養物の製造方法。」という、さらなる工程を包含することを許容する記載によれば、甲1発明が前記ステップを含むことは、本件発明1との対比において、相違点とはならない。

よって、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>

「可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び

前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、変性処理済可溶性培養担体から、分離して回収することを含む、培養物の製造方法。」である点。

<相違点1-1>

本件発明1は、「接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置させること、前記可溶性培養担体の表面に配置された前記接着性細胞を、培地中で浮遊培養すること、」という工程を備えているのに対し、甲1発明は、そのような工程を備えていない点。

<相違点1-2>

変性処理が、本件発明1では、浮遊培養中の可溶性培養担体に対してなされるのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。

<相違点1-3>

接着性細胞の分離回収が、本件発明1は、接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいてなされるのに対し、甲1発明は、採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを実行するステップによってなされている点。

相違点1-2について検討する。

甲1には、マイクロキャリアからの細胞を分離するタイミングについて特段の説明はなされていないところ、実施の態様に係る「方法」の項目には(甲1-6、段落【0168】)、溶解したマイクロキャリアから細胞を採取するために、スピナーフラスコの内容物をコニカルチューブに移し、ビーズを沈降させ、上清を除去し、培養物を洗浄した後、消化溶液を添加したことが記載されている。

しかし、甲1には、「浮遊培養中」のマイクロキャリアに対して、消化溶液を添加することで、マイクロキャリアから細胞を剥離させるという点について、記載も示唆もなされておらず、甲1において、消化溶液の添加のタイミングを工夫することについての言及は何らなされていないから、甲1においてスピナーフラスコの内容物をコニカルチューブに移し、ビーズを沈降させ、上清を除去し、培養物を洗浄した後、消化溶液を添加して変性処理することにかえて、「浮遊培養中」に変性処理することの動機付けがない。

なお、甲2~11には、浮遊培養中に可溶性培養担体を変性処理して細胞を離脱させることは記載されておらず、これらを考慮しても、甲1に記載される如く培養後の溶解性基質を洗浄してから変性処理することによる細胞剥離にかえて、「浮遊培養中」に変性処理することは、当業者が容易に想到し得たとは認められない。

次に、相違点1-3について検討する。

甲1には、マイクロキャリアビーズは、その大きさに関し10~500マイクロメートルの範囲という広範な範囲が記載されているところ(甲1-3)、甲1で培養対象とされる細胞の一般的な大きさである20μm前後よりも(甲5-1)、特に大きいマイクロキャリアビーズを選択して用いることは記載されていない。

また、甲1には、細胞が部分的に消化されたマイクロキャリアから採取される実施形態についても言及され、残ったマイクロキャリアからの細胞の分離は、濾過、デカンテーション、遠心分離、及び同様の処理のうちの1つ以上によって行うことができることも記載されている(甲1-5)。

しかしながら、培養細胞よりも大きいマイクロキャリア(「可溶性培養担体」に相当)を培養担体として選択し、それに培養細胞を接着培養すること、マイクロキャリアより培養細胞を分離するにあたり、培養細胞よりもマイクロキャリア(「処理済可溶性培養担体」に相当)の方が大きいという関係を維持できる程度に消化を行い、かつ、消化後に、細胞が相対的に小さくマイクロキャリアが大きいという両者の大きさの差を利用して、培養細胞の分離回収を行うことは、甲1に記載も示唆もされていない。甲1に記載されているのは、遠心分離による細胞回収の代替手段としての濾過にすぎず(甲1-1、甲1-5)、濾過が、沈殿物を容器の底に沈ませた後に上澄み液だけを除去する手法を意味するデカンテーションや、遠心分離と択一的に選択できる手法として列挙されていることを踏まえると、当該「濾過」の記載から認識されるのは、固体である細胞を、溶液から分取することといえ、分離対象の細胞の大きさが相対的に小さく除去対象である培養担体が大きいことを利用して接着性細胞の純度が高い培養物を製造するという課題を解決する、本件発明1に至るための動機づけがあるとはいないから、相違点1-3について、当業者が容易に想到し得たとはいえない。なお、甲2及び甲3より、濾過により濾液に細胞を回収し、マイクロキャリア粒子や細胞凝集体等の不要物を除去するという技術は公知であったとはいえるものの(甲2-6、甲3-8[0323])、甲1に、細胞よりも処理済みマイクロキャリアの方が大きいという関係にあることについて何らの記載もないところ、甲1の引用発明の構成である「採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクル」を、甲2、甲3に記載される如く、濾液側に細胞を回収しマイクロキャリア粒子や細胞凝集体等の不要物を除去する技術に置換する動機付けはない。

したがって、本件発明1は、相違点1-1について検討するまでもなく、甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ) 申立人の主張について

申立人は、請求項1、4、5、段落【0044】、【0046】、【0055】、【0056】などを中心に検討すると、甲1には

<申立人甲1発明>

「約50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、又は500マイクロメートル(前述の値のいずれかの間の範囲を含む)の平均直径を有するマイクロキャリアビーズからなる溶解性基質から、懸濁させることで培養細胞を採取する方法であって、該方法が、

前記基質を(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって前記基質を消化することにより、前記接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になり、前記基質から前記培養細胞を分離するステップであって、前記分離は濾過や遠心分離によって行われ、前記分離によって採取溶液がもたらされる、ステップ;及び

前記分離するステップの後に、採取溶液の成分の一連の洗浄及び/ 又は遠心分離サイクルを実行するステップを含み、

前記採取溶液にプロテアーゼを加えることによって前記接着ポリマーの不溶性部分を除去するステップをさらに含み、

前記基質が、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の表面上の接着ポリマーとを含む、

培養細胞を採取する方法。」

が記載されており、甲1に記載された発明と本件発明1との間に相違点は存在しないと主張し、仮に何らかの相違があるとしても甲1に記載された発明を基に容易に想到し得たものに過ぎないと主張している。

しかし、甲1には、マイクロキャリアビーズの平均直径について、「10~5000μメートル」「例えば、10、20、25、50・・・マイクロメートル」という、細胞よりも小さい範囲をも含めた範囲が記載されているのであって、細胞よりも大きい平均直径にあたる「約50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、又は500マイクロメートル」のものを選択して用いる点は記載されていない。また、甲1には、基質を消化することにより基質から培養細胞を分離するステップにおける「分離」が「濾過や遠心分離によって行われ」ることは記載されていない。よって、申立人甲1発明が、甲1に記載されているとはいえないから、申立人甲1発明が記載されていることを前提とした新規性欠如の主張は採用できない。

また、本件発明の課題解決は、「接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置させ」、接着性細胞の分離回収が、「接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいてなされる」ところ、甲1~11を参照しても、そのような課題解決原理が周知慣用であると認めることはできない。

よって、申立人の主張について採用することはできない。

ウ 本件発明2~9について

本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 訂正前本件発明10~12について

訂正前本件発明10は、本件発明1と少なくとも「接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを含み、前記接着性細胞が前記可溶性培養担体の表面に配置され、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収すること」を同じくする方法であるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

訂正前本件発明11、12に対する申立理由は、第4 2.のなお書きで述べたとおりの取消理由と同じであるから、さらなる検討を要しない。

オ 小括

よって、本件発明1~9、訂正前本件発明10についての、異議申立理由4-1、4-2は、理由がない。

(3)申立理由5-1(新規性)・申立理由5-2(進歩性)の検討

ア 主引例となる甲2に記載された発明

甲2には、間葉系間質細胞及びマイクロキャリアCytodex-3を24ウェル超低接着ウェルプレートに播種し、37°C、5%CO

2

インキュベーター内で一晩培養し、プロナーゼを用いて30分処理し、剥離した細胞を全て70μmのセルストレイナーに通してマイクロキャリア粒子又は細胞凝集体を濾過して取り除いたところ、Cytodex-3マイクロキャリア培養から採取された間葉系間質細胞の全体的な細胞採取パフォーマンスは58.75±5.74%であったことが記載されており(甲2-6)、当該実験の材料と方法を補足した摘記事項(甲2-11)には、マイクロキャリアをチューブの底に沈澱させてから上清を除去し、50mLのPBSを加えて粒子と細胞を一度洗浄してから、50mLのプロナーゼを加え、プロナーゼによる間葉系間質細胞の遊離は、37°Cのインキュベーター内で30分間行われ、その後、懸濁液全体を70μmのセルストレイナー(SPL Life Science社製)で濾過し、マイクロキャリアから細胞を分離したと説明されている。

そして、マイクロキャリアCytodex-3への間葉系間質細胞の付着効率は97.41±0.16%であるとされるから(甲2-5)、間葉系間質細胞及び、マイクロキャリアCytodex-3を24ウェル超低接着ウェルプレートに播種し、37°C、5%CO

2

インキュベーター内で一晩培養することにより間葉系間質細胞が付着したCytodex-3が生じているといえる。

さらに、マイクロキャリアの付着効率を調べた後、スピナーフラスコで間葉系間質細胞とマイクロキャリアの動的培養を行い、マイクロキャリア上での細胞増殖性能を調べたことも記載されている(甲2-5)。

よって、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「Cytodex-3に間葉系間質細胞を付着させ、

Cytodex-3に付着した間葉系間質細胞を動的培養し、

粒子と細胞を洗浄し、

間葉系間質細胞が付着したCytodex-3にプロナーゼを加え、インキュベーションすることにより間葉系間質細胞をCytodex-3から剥離し、70μmのセルストレイナーで濾過してマイクロキャリア粒子を取り除くことにより間葉系間質細胞を回収することを含む、培養物の製造方法。」(以下、「甲2発明」という。)

イ 本件発明1について

(ア)対比・判断

本件発明1と、甲2発明とを対比する。

甲2発明の間葉系間質細胞は接着性細胞であるから(甲2-2)、甲2発明の「間葉系間質細胞」は、本件発明1の「接着性細胞」に相当する。

次に、甲2発明のCytodex-3は、変性コラーゲンの微小層でコーティングされている細胞が接着し増殖するための接着面を提供するためのものであって(甲2-3、甲2-5)、そのコラーゲン層は様々なタンパク質分解酵素で消化できるものであるところ(甲2-6)、本件発明1における「可溶性培養担体」についての記載「

可溶性培養担体は、酵素

、熱等の手段

によって分解可能である材料から構成される培養担体を意味する。

」(段落【0019】)を踏まえると、甲2発明の「Cytodex-3」は、本件発明1の「可溶性培養担体」に相当する。

さらに、甲2発明における間葉系間質細胞を接種して付着させる対象であるCytodex-3は、その粒子径が133-215μmである(甲2-4)一方、培養7日目の画像によれば(甲2-7)、200μm前後の粒子上に小さな斑点が認められるところ、当該斑点は細胞であると理解されること、及び、それを示す概略図を踏まえると(甲2-9)、間葉系間質細胞とCytodex-3の接触時において、Cytodex-3の大きさは間葉系間質細胞の大きさよりも大きいものであったと認められるから、両者の関係は、本件発明1の「前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体」という条件を満たすものである。

よって、甲2発明の「Cytodex-3に間葉系間質細胞を付着させ」という工程は、本件発明1の「接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置させ」る工程に相当する。

また、甲2発明の「Cytodex-3に付着した間葉系間質細胞」は、本件発明1の「前記可溶性培養担体の表面に配置された前記接着性細胞」に相当し、甲2発明の「動的培養」は、本件発明1の「培地中で浮遊培養」に相当する。

プロナーゼは、タンパク質分解酵素であるので(甲2-10)、Cytodex-3上の変性コラーゲンを分解する機能を有するものであるところ、本件発明1における「変性処理」とは、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、接着性細胞を離脱可能にする処理であるから(段落【0039】)、甲2発明の「間葉系間質細胞が付着したCytodex-3にプロナーゼを加え」て「インキュベーションすることにより間葉系間質細胞をCytodex-3から剥離」することは、本件発明1の「前記可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理」を行うことに相当すると認められる。

また、甲2発明の70μmのセルストレイナーで濾過することによる、間葉系間質細胞の回収は、回収された細胞が70μmよりも小さいものである一方、間葉系間質細胞を接種して付着させる対象であるCytodex-3は、細胞を剥離した後においても、概ね大きさが維持されていることから(甲2-8、甲2-9)、甲2発明の「70μmのセルストレイナーで濾過してマイクロキャリア粒子を取り除くことにより間葉系間質細胞を回収」は、本件発明1の「前記接着性細胞を、前記接着細胞の大きさよりも大きい変性処理済み可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収すること」に相当する。

よって、両者の一致点・相違点は以下のとおりである。

<一致点>

「接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置させること、

前記可溶性培養担体の表面に配置された前記接着性細胞を、培地中で浮遊培養すること、

前記可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び

前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含む、

培養物の製造方法」である点。

<相違点2-1>

変性処理を、本件発明1は「浮遊培養中」の可溶性培養担体に対して行うのに対し、甲2発明は、洗浄した後に行う点。

相違点2-1について検討する。

甲2は、「間葉系間質細胞の増殖と培養のための液滴マイクロ流体力学によって生成された可溶性ゼラチンベースのマイクロキャリア」と題する(甲2-1)、新たな可溶性ゼラチンベースのマイクロキャリアに関する報告であって、当該可溶性ゼラチンベースのマイクロキャリアは、Cytodex-3といった市販のマイクロキャリアと比較して、マイクロキャリア粒子が直接溶解するため、細胞採取ステップでの細胞損失が減少し、より高い採取収率を示すことが記載されている(甲2-2)。甲2発明を構成するCytodex-3は、甲2で新たに提供される可溶性ゼラチンベースのマイクロキャリアの比較対象として使用されている従来例にすぎないところ、甲2には、比較対象にすぎないCytodex-3について、プロナーゼ処理のタイミングの変更についての記載も示唆もなく、浮遊培養中の可溶性培養担体に対して行うとする動機づけがあるとはいえない。よって、相違点2-1は、甲2の記載から、当業者が容易に想到し得たとはいえない。なお、甲1、3~11の記載を考慮しても、甲2には、Cytodex-3について、プロナーゼ処理のタイミングの変更についての示唆がないから、相違点2-1は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえないし、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)申立人の主張について

申立人は、p.3、「2.2」の章の1~4行目、6行目「2.3」の章の2~6行目、右欄の10行目、p.4のFig.2f、p.5のFig3aなどから甲2には、

<申立人甲2発明>

「MCS(間葉系間質細胞)をCytodex-3、Solohill等のMC(マイクロキャリア)へ細胞接着させ、

スピナーフラスコでMSCとMCの動的培養を行い、

プロナーゼ、トリプシン、TrypLE、コラゲナーゼなど、種々の酵素溶液から選ばれる酵素溶液によって、

表面を溶解させることによって前記MCから前記MSCを剥離し

剥離された細胞はすべて70μmのセルストレイナーに通され、MC粒子または細胞凝集体が濾過される、

細胞の培養方法。」

が記載されており、甲2に記載された発明と本件発明1との間に相違点は存在しないと主張し、仮に何らかの相違があるとしても甲2に記載された発明を基に容易に想到し得た旨主張している。

しかし、甲2には、プロナーゼを用いた例において、剥離された細胞が全て70μmのセルストレイナーに通されたことは記載されているものの、その他の酵素(例えばコラゲナーゼ)を用いた例において、70μmのセルストレイナーに通されたことは記載されていないから、申立人甲2発明が、甲2に記載されているとはいえない。よって、申立人甲2発明が記載されていることを前提とした新規性欠如の主張は採用できない。

なお、申立人甲2発明が甲2に記載されていると認めたとしても、申立人甲2発明は、プロナーゼ等による酵素処理が、動的培養中に行われること、すなわち、本件発明1における、変性処理を「浮遊培養中」の可溶性培養担体に対して行うという構成を備えていないから、申立人甲2発明によって、本件発明の新規性を否定することはできない。

また、甲2発明に係る、比較対象にすぎないCytodex-3について、プロナーゼ処理のタイミングの変更について記載も示唆もなく、浮遊培養中の可溶性培養担体に対して行うとする動機づけがあるとはいえないし、甲1~11の記載を考慮しても、変性処理を、浮遊培養中の可溶性培養担体に対して行う点が周知慣用技術であるとは認められない。

よって、申立人の主張は採用できない。

ウ 本件発明2~9、訂正前本件発明10~12について

本件発明2~9は、本件発明1と直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明とはいえないし、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

訂正前本件発明10~12に対する申立理由は、上記第4で述べた取消理由と同じであるから、さらなる検討を要しない。

エ 小括

よって、本件発明1~9についての、異議申立理由5-1、5-2は、理由がない。

(4)申立理由6-1(新規性)・申立理由6-2(進歩性)の検討

ア 主引例となる甲3に記載された発明

甲3には、歯髄由来細胞(中間体細胞)を解凍し(甲3-7、段落[0308])、細胞培養プレートに歯髄由来細胞(中間体細胞)を播種、培養し(甲3-7、段落[0309])、回収したこと(甲3-7、段落[0313])、粒径が130~180μm(水和時)である、細胞培養用のゼラチン素材のマイクロキャリア(甲3-7、段落[0314])を加えたバイオリアクターに回収した細胞を添加して細胞をマイクロキャリアに接着させたこと(甲3-7、段落[0315]、[0316])、接着工程終了後に、バイオリアクター内で浮遊状態になるようにして生産培養したこと(甲3-7段落[0317])、静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除き、DMEM Low Glucose を加えてマイクロキャリアを懸濁させ、静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除き、次いで、上清を除去後のマイクロキャリアにトリプシン-EDTA溶液を添加し、細胞をマイクロキャリアから剥離させたこと(甲3-8、段落[0321]-[0322])、細胞懸濁液に残存するマイクロキャリアの断片、細胞塊等を除去するため、回収したろ液を孔径20~35μmのフィルターに通過させて、細胞をフィルターのろ液中に回収したこと(甲3-8、段落[0323])が記載されている。

したがって、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。

「粒径が130~180μmである細胞培養用のゼラチン素材のマイクロキャリアに、歯髄由来細胞を接着させ、

バイオリアクター内で歯髄由来細胞を接着させたマイクロキャリアを浮遊状態になるようにして生産培養し、

静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除き、

DMEM Low Glucoseを加えてマイクロキャリアを懸濁させ、

静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除き、

次いで上清を除去後のマイクロキャリアにトリプシン-EDTA溶液を添加し、細胞をマイクロキャリアから剥離させ、

細胞懸濁液に残存するマイクロキャリアの断片を除去するため、孔径20~35μmのフィルターに通過させて、細胞をフィルターのろ液中に回収することを含む、歯髄由来細胞の製造方法。」(以下、「甲3発明」という。)

イ 本件発明1について

(ア)対比・判断

本件発明1と甲3発明とを対比する。

甲3発明の「歯髄由来細胞」とは、マイクロキャリアに接着するものであるから、本件発明1の「接着性細胞」に相当し、また、本件発明1における「可溶性培養担体」についての発明の詳細な説明の記載「

可溶性培養担体は、酵素

、熱等の手段

によって分解可能である材料から構成される培養担体を意味する。

」(段落【0019】)、及び、タンパク質であるゼラチンが、タンパク質分解酵素であるトリプシンにより分解されるものであることを踏まえると、甲3発明の「細胞培養用のゼラチン素材のマイクロキャリア」とは、本件発明1の「可溶性培養担体」に相当する。

また、接着性細胞である歯髄由来細胞の粒子径は、孔径20~35μmのフィルターを通過したものであるから、35μmよりは小さいといえることから、甲3発明の「粒径が130~180μmである細胞培養用のゼラチン素材のマイクロキャリア」は、本件発明1の「前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体」に相当する。よって、甲3発明の「粒径が130~180μmである細胞培養用のゼラチン素材のマイクロキャリアに、歯髄由来細胞を接着させ」ることは、本件発明1の「接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置すること」に相当する。

また、甲3発明のバイオリアクター内での浮遊状態での培養は、培地中での浮遊培養であることは明らかであるから、甲3発明の「バイオリアクター内で歯髄由来細胞を接着させたマイクロキャリアを浮遊状態になるようにして生産培養」することは、本件発明1の「前記可溶性培養担体の表面に配置された前記接着性細胞を、培地中で浮遊培養すること」に相当する。

さらに、甲3発明のトリプシンとは、タンパク質分解酵素であって、タンパク質であるゼラチンを分解するものであるところ、本件発明1における「変性処理」とは、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、接着性細胞を離脱可能にする処理であるから(段落【0039】)、甲3発明の「トリプシン-EDTA溶液を添加し、細胞をマイクロキャリアから剥離」させることは、本件発明1の「前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理」することに相当する。

また、甲3発明の「フィルターを通過させ」る処理は、細胞がろ液中に回収され、マイクロキャリアの断片が除去される対象物であることから、甲3発明の除去する対象である「細胞懸濁液に残存するマイクロキャリアの断片」は、本件発明1の「前記接着細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体」に相当するものであるといえ、よって、甲3発明の「細胞懸濁液に残存するマイクロキャリアの断片を除去するため、孔径20~35μmのフィルターに通過させて、細胞をフィルターのろ液中に回収する」ことは、本件発明1の「前記細胞懸濁液中の前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収する」ことに相当する。

よって、両者の一致点・相違点は以下のとおりである。

<一致点>

「接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置させること、

前記可溶性培養担体の表面に配置された前記接着性細胞を、培地中で浮遊培養すること、

前記可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び

前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含む、培養物の製造方法」である点。

<相違点3-1>

変性処理を、本件発明1は「浮遊培養中」の可溶性培養担体に対して行うのに対し、甲3発明は、静置してマイクロキャリアを沈降させDMEM Low Glucoseで洗浄した後に行う点。

相違点3-1について検討する。

甲3は、「歯髄由来細胞の製造方法」という発明の名称の(甲3-1)歯髄由来細胞の製造に係る特許文献であって、その発明の特徴は、請求項1に規定されるとおりのものであるところ(甲3-2)、当該発明の解決しようとする課題の一つは、歯髄由来の多能性幹細胞を効率よく製造するための方法を提供することにあると認められる(甲3-3)。そして、マイクロキャリアに歯髄由来細胞を付着させて培養した後に、洗浄してから続くトリプシン-EDTA溶液を添加することによって、細胞をマイクロキャリアから剥離させる方法が開示されている(甲3-7、3-8)。

しかし、甲3には、浮遊培養中のマイクロキャリアに対して、トリプシン-EDTA溶液を添加することで、ゼラチン素材マイクロキャリアから歯髄細胞を剥離させるという点について、記載も示唆もなされておらず、浮遊培養中の可溶性培養担体に対して剥離処理を行うとする動機づけがあるとはいえない。よって、相違点3-1は、甲3の記載から、当業者が容易に想到し得たとはいえない。なお、甲1、2、4~11の記載を考慮しても、甲3には、ゼラチン素材マイクロキャリアについて、トリプシン-EDTA処理のタイミングの変更についての示唆がないから、相違点3-1は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明とはいえないし、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)申立人の主張について

申立人は、請求項1、15、17、段落【0178】、【0194】、【0196】などを中心に検討すると、甲3には

<申立人甲3発明>

「多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞の製造方法であって、

(a)歯髄をプロテアーゼで消化して歯髄の懸濁物を調製するステップと、

(b)該懸濁物を培養して、該懸濁物に含まれる多能性幹細胞を増殖させるステップと、

(c)該増殖させた多能性幹細胞を、第1の凍結保存液に懸濁させた状態にして凍結させるステップと、

(d)該凍結させた多能性幹細胞を解凍させるステップと、

(e)該解凍させた多能性幹細胞を、膨潤状態において80~300μmの直径を有する略球形の形状を有すマイクロキャリアであって、ゼラチンを含んでなるものである、担体粒子の表面に接着させた状態で、バイオリアクターに投入し、培地内で攪拌させて培養して、該担体粒子の表面で多能性幹細胞を増殖させるステップと、

(f)該担体粒子をプロテアーゼと接触させて、該担体粒子の表面に接着した多能性幹細胞を該担体粒子から分離させるステップと、

(g)膜ろ過等の手段により、分離させた多能性幹細胞の懸濁物を調製するステップと、

を含んでなるものである、歯髄由来細胞の製造方法。」

が記載されており、甲3に記載された発明と本件発明1との間に相違点は存在しないと主張し、仮に何らかの相違があるとしても甲3に記載された発明を基に容易に想到し得たものにすぎず、それにより予測できない顕著な作用効果を奏するものではないから、進歩性を有しない旨主張している。

しかし、甲3には、プロテアーゼにより担体粒子の表面に接着した多能性幹細胞を該担体粒子から分離させた後に、遠心分離による回収と洗浄液による懸濁を繰り返して洗浄すること、プロテアーゼによる処理後に遠心分離と膜ろ過を行う場合があること、洗浄後の回収細胞が凍結保存液に懸濁した状態にされることは記載されているものの、申立人甲3発明の「膜ろ過等の手段」という「膜ろ過」の上位概念である何らかの「手段」によって「分離させた多能性幹細胞の懸濁物を調製する」点は、記載されているとはいえない。よって、申立人甲3発明が、甲3に記載されているとはいえず、申立人甲3発明が記載されていることを前提とした新規性欠如の主張は採用できない。

仮に、申立人甲3発明が記載されていると認めたとしても、申立人甲3発明は、(f)のプロテアーゼと接触させる処理が「浮遊培養中」の担体粒子に対して行うという構成を備えていないから、申立人甲3発明によって、本件発明の新規性を否定することはできない。さらに、申立人甲3発明の「(g)膜ろ過等の手段により、分離させた多能性幹細胞の懸濁物を調製するステップ」が、本件発明の「接着性細胞を、接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済み可溶性培養担体から」「分離して回収する」ことに相当するとは、その発明特定事項からみて認めることができないから、この点でも、申立人甲3発明によって、本件発明の新規性を否定することはできない。

また、甲3発明に係る、ゼラチン素材マイクロキャリアについて、プロテアーゼに包含されるトリプシン処理のタイミングの変更について記載も示唆もなく、浮遊培養中の可溶性培養担体に対して行うとする動機づけがあるとはいえないし、甲1、2、4~11の記載を考慮しても、変性処理を、浮遊培養中の可溶性培養担体に対して行う点が周知慣用技術であるとは認められない。

よって、申立人の主張は採用できない。

ウ 本件発明2~9、訂正前本件発明10~12について

本件発明2~9は、本件発明1と直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明とはいえないし、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

訂正前本件発明10~12に対する申立理由は、上記第4で述べた取消理由と同じであるから、さらなる検討を要しない。

エ 小括

よって、本件発明1~9についての、異議申立理由6-1、6-2は、理由がない。

(5)申立理由7-1(新規性)・申立理由7-2(進歩性)の検討

ア 主引例となる甲4に記載された発明

甲4には、臍帯組織由来細胞などの付着依存性細胞の増殖のための栄養強化培地に関する発明であることが記載されているところ(甲4-2、段落【0001】)、当該発明の特徴は、単離された臍帯組織由来細胞を培養する方法であって、培養培地の成分に特徴を有するものである(甲4-1)。

よって、甲4には、以下の発明が記載されているといえる。

「a.アミノ酸類、ビタミン類、塩類、ヌクレオシド類、リポ酸/チオクト酸、エタノールアミン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウムを含む培養培地におけるマイクロキャリア上に播種された臍帯組織由来細胞を増殖させる工程であって、該培養培地は、該細胞が所望の初期個体群密度に達することが可能な十分な期間にわたって、血清が補充される、工程と、

b.該細胞が該所望の初期個体群密度に達した後、無血清培養液を添加する工程であって、該無血清培養液は、アミノ酸類、ビタミン類、塩類、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、リポ酸/チオクト酸、亜セレン酸ナトリウムを含む、工程と、

c.該細胞が所望の最終個体群密度に達することが可能な十分な期間にわたって該細胞を増殖させる工程と、を含み、

該臍帯組織由来細胞は、実質的に血液を含んでいないヒト臍帯組織から単離され、培養中の自己再生及び自己増殖が可能であり、分化する潜在能力を有し、CD13、CD90、HLA-ABCを発現し、CD34、CD117、及びHLA-DRを発現しない、方法

であって、

前記方法は、前記マイクロキャリア上に前記細胞を播種する工程を更に含み、

工程cの後に前記細胞を単離する工程を更に含む、方法。」(以下、「甲4発明」という。)

イ 本件発明1について

(ア)対比・判断

本件発明1と甲4発明とを対比する。

甲4発明の「実質的に血液を含んでいないヒト臍帯組織から単離され、培養中の自己再生及び自己増殖が可能であり、分化する潜在能力を有し、CD13、CD90、HLA-ABCを発現し、CD34、CD117、及びHLA-DRを発現しない」「臍帯組織由来細胞」とは、付着性細胞であってマイクロキャリア上に播種されて増殖するものであるから(甲4-2段落【0003】)、本件発明1の「接着性細胞」に相当し、甲4発明の「マイクロキャリア」とは、本件発明1の「培養担体」に相当する。甲4発明の「マイクロキャリア上に播種された臍帯組織由来細胞を増殖させる工程」及び「c.該細胞が所望の最終個体群密度に達することが可能な十分な期間にわたって該細胞を増殖させる工程」は、本件発明1の「培養担体の表面に配置された前記接着細胞を」「培地中で」「培養する工程」に相当し、甲4発明の「マイクロキャリア上に前記細胞を播種する工程」は、本件発明1の「接着性細胞と」「培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記」「培養担体の表面に配置させること」に相当する。甲4発明の「アミノ酸類、ビタミン類、塩類、ヌクレオシド類、リポ酸/チオクト酸、エタノールアミン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウムを含む」「該細胞が所望の初期個体群密度に達することが可能な十分な期間にわたって、血清が補充される」「培養培地」は、本件発明1の「培地」に相当する。甲4発明の「細胞を単離する工程」は、本件発明1の「培養担体」から「分離して回収すること」に相当する。

甲4発明は、「b.該細胞が該所望の初期個体群密度に達した後、無血清培養液を添加する工程であって、該無血清培養液は、アミノ酸類、ビタミン類、塩類、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、リポ酸/チオクト酸、亜セレン酸ナトリウムを含む、工程」を含むものであり、本件発明1は、これに対応する工程を備えているものではないが、本件発明1の「・・・分離して回収すること

を含む

、培養物の製造方法。」という、さらなる工程を包含することを許容する記載によれば、甲4発明の前記工程を含むことは、本件発明1との対比において、相違点とはならない。

よって、両者の一致点・相違点は以下のとおりである。

<一致点>

「接着性細胞と培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を培養担体の表面に配置させること、

前記培養担体の表面に配置された前記接着性細胞を、培地中で培養すること、

前記接着細胞を分離して回収することを含む、培養物の製造方法。」である点。

<相違点4-1>

本件発明1は、「前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性」培養担体とを接触させるのに対し、甲4発明は、そのような構成を備えていない点。

<相違点4-2>

本件発明1は、培養方法が「浮遊培養」であるのに対し、甲4発明は、そのような構成を備えていない点。

<相違点4-3>

本件発明1は、「前記浮遊培養中の前記可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び

前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて」分離して回収するのに対し、甲4発明は、そのような構成を備えていない点。

相違点4-3について検討する。

甲4には、実施例11に、マイクロキャリアとしてCytodex(登録商標)3を用いこれに細胞を接種して培養を行ったこと、細胞採取にあたり、マイクロキャリアを洗浄してから、トリプシンを添加してインキュベートしたことが記載されている(甲4-4)。ここで、Cytodex(登録商標)3とは、架橋デキストランのマトリックスに化学的に連結した変性コラーゲンの薄層からなり、その変性コラーゲン層は、トリプシン及びコラゲナーゼを含む、種々のプロテアーゼにより消化されやすいものである(甲4-3)。

よって、甲4の「マイクロキャリア」に包含されるCytodex(登録商標)3は本件発明1の「可溶性培養担体」に相当し、甲4のCytodex(登録商標)3に接種して培養した後のマイクロキャリアのトリプシン処理は、本件発明1の「可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理」に相当するところ、甲4発明に対し、甲4の実施例11に記載される如く、マイクロキャリアとしてCytodex(登録商標)3を選択し、それに臍帯組織由来細胞を接種し培養し、トリプシン処理によって担体を変性することで細胞を剥離することは当業者が適宜なし得たものといえる。

しかしながら、甲4には、トリプシン処理を「浮遊培養中」の可溶性培養担体に対して行うことや、「前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて」分離回収することは、記載も示唆もされていないから、相違点4-3は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。なお、相違点4-3は、甲1~3、5~11を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲4に記載された発明とはいえないし、また、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、相違点4-1、4-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明とはいえないし、また、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ) 申立人の主張について

申立人は、請求項4、5、6、段落【0133】、【0145】、【0184】などを中心に検討すると、甲4には

<申立人甲4発明>

「単離された臍帯組織由来細胞を培養する方法であって、

a.アミノ酸類、ビタミン類、塩類、ヌクレオシド類、リポ酸/チオクト酸、エタノールアミン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウムを含む培養培地におけるマイクロキャリア上に播種された臍帯組織由来細胞を増殖させる工程であって、該培養培地は、該細胞が所望の初期個体群密度に達することが可能な十分な期間にわたって、血清が補充される、工程、

b.該細胞が該所望の初期個体群密度に達した後、無血清培養液を添加する工程であって、該無血清培養液は、アミノ酸類、ビタミン類、塩類、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、リポ酸/チオクト酸、亜セレン酸ナトリウムを含む、工程と、

c.スピナーフラスコ培養システムにおいて行われる、

前記マイクロキャリア上に前記細胞を播種する工程と、

該細胞が所望の最終個体群密度に達することが可能な十分な期間にわたって該細胞を増殖させる工程と、

該マイクロキャリアをトリプシン及びコラゲナーゼを含む種々のプロテアーゼにより消化させ、マイクロキャリアから細胞を除去して、前記細胞をフィルタ等によってろ過する工程を含み、

該臍帯組織由来細胞は、実質的に血液を含んでいないヒト臍帯組織から単離され、培養中の自己再生及び自己増殖が可能であり、分化する潜在能力を有し、CD13、CD90、HLA-ABCを発現し、CD34、CDll7、及びHLA-DRを発現しない、

臍帯組織由来細胞を培養する方法。」

が記載されており、甲4に記載された発明と本件発明1との間に相違点は存在しないと主張し、仮に何らかの相違があるとしても甲4に記載された発明を基に容易に想到し得たものに過ぎないと主張している。

しかし、甲4には、TrypLE(商標)をマイクロキャリアからの細胞の「採取」に用いることは記載され(甲4-4)、マイクロキャリアの説明として、Cytodex(登録商標)3のコラーゲン層が、トリプシン及びコラゲナーゼを含む種々のプロテアーゼにより消化されやすいことは記載されているものの(甲4-3)、申立人甲4発明の「該マイクロキャリアをトリプシン及びコラゲナーゼを含む種々のプロテアーゼにより消化させ」という点は、記載されているとは認められない。さらに、甲4には、TrypLE(商標)をフラスコに添加し撹拌後に得られたサンプルをフィルタでろ過したことは記載されているものの(甲4-4)、フィルタに限られない「フィルタ等」によってろ過することは記載されているとは認められない。よって、申立人甲4発明が、甲4に記載されているとは認められないから、申立人甲4発明が記載されていることを前提とした新規性欠如の主張は採用できない。

仮に、申立人甲4発明が記載されていると認めたとしても、申立人甲4発明の「前記細胞をフィルタ等によってろ過する工程を含み」という発明特定事項が、本件発明の「接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から」「分離して回収すること」に相当するとはいえないから、申立人甲4発明によって,新規性を否定することはできない。

また、申立人甲4発明に係るマイクロキャリアについて、酵素であるトリプシン処理のタイミングの変更について記載も示唆もなく、浮遊培養中のマイクロキャリアに対して行うとする動機づけがあるとはいえないし、甲1~3、5~11の記載を考慮しても、酵素処理を、浮遊培養中のマイクロキャリアに対して行う点が周知慣用技術であるとは認められない。

よって、申立人の主張は採用できない。

ウ 本件発明2~9について

本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲4に記載された発明とはいえないし、また、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 訂正前本件発明10~12について

訂正前本件発明10は、本件発明1と少なくとも「接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを含み、前記接着性細胞が前記可溶性培養担体の表面に配置され、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収すること」を同じくする方法であるから、本件発明1と同様の理由により、甲4に記載された発明とはいえないし、また、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

訂正前本件発明11、12に対する申立理由は、第4 2.のなお書きで述べたとおりの取消理由と同じであるから、さらなる検討を要しない。

オ 小括

よって、本件発明1~9、訂正前本件発明10についての、異議申立理由7-1、7-2は、理由がない。

第7 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立の理由によっては、本件特許1~9に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、訂正前請求項10~12に係る特許は、上記第2のとおり、本件訂正により削除されたので、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

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