sokuhyo

Trademark Appeal Case

請求項訂正の適法性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025700746
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7617964号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを認める。
特許第7617964号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7617964号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、令和5年2月6日を出願日とする出願であって、令和7年1月9日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月22日に特許異議申立人 新井 誠一(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされ、同年10月1日に特許異議申立人から手続補正書(方式)が提出され、同年11月21日付けで取消理由が通知され、同年12月15日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月19日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対して特許異議申立人から何ら応答がなかったものである。

第2 本件訂正について

1 訂正の内容

令和7年12月15日に提出された訂正請求書でされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。

<訂正事項>

特許請求の範囲の請求項3に「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.45~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し」と記載されているのを「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.

5

~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し」に訂正する。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項による請求項3についての訂正は、「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 本件訂正についてのむすび

以上のとおり、訂正事項による請求項3についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正事項による請求項3についての訂正は、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。

また、特許異議申立人からの特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし3に対してされているので、請求項3についての訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】

乳成分とコーヒー脂質とを含有する、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料であって、以下(i)~(iv)を満たすコーヒー飲料:

(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである、

(ii)さらに食品添加物としてのマグネシウム塩を含む無機塩を含む、

(iii)飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである、

(iv)飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである。

【請求項2】

更に、以下(v)及び(vi)の少なくとも1つを満たす、請求項1に記載のコーヒー飲料:

(v)無機塩がさらにカリウム塩を含み、飲料中のカリウム含有量が30~150mg/100gである、

(vi)無機塩がさらに塩化物を含み、飲料中の塩化物イオン含有量が5~50mg/100gである。

【請求項3】

乳成分と、食品添加物であるマグネシウム塩を含む無機塩とを、コーヒー抽出液に添加する工程、及び

加熱殺菌する工程

を含む加熱殺菌済みのコーヒー飲料の製造方法であって、

最終的に得られるコーヒー飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gとなるようにコーヒー抽出液の量を調整し、

最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し、かつ

最終的に得られるコーヒー飲料中のたんぱく含有量が0.1~2.0g/100gとなるように、乳成分の量を調整する、

ことをさらに含む、上記方法。」

第4 特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要等

令和7年10月1日に特許異議申立人から提出された手続補正書(方式)により補正された同年7月22日に提出された特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証及び甲第2号証に基づく進歩性)

本件特許発明1及び3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第1号証及び甲第3号証に基づく進歩性)

本件特許発明1ないし3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第4号証に基づく進歩性)

本件特許発明1ないし3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(サポート要件)

本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

請求項1の「乳成分」について本件特許明細書【0014】には、大豆乳、アーモンドミルク等の植物乳を含む、広範な乳成分が挙げられている。

一方、本件特許明細書の実施例において具体的に試験されているものは牛乳及び/又は脱脂粉乳に限られる。

ここで、乳成分の加熱劣化臭の要因に、ホエイタンパク質の含硫アミノ酸(システイン及びメチオニン)から生じる硫化水素、ジメチルサルファイド及びメルカプタン(揮発性硫黄化合物)があることは技術常識である(甲第8号証)。

また、乳成分の加熱劣化臭には含硫アミノ酸に加えて不飽和脂肪酸も要因となっており、不飽和脂肪酸が多いほどラジカル化された過酸化脂質が多く発生し加熱劣化臭が強くなることもよく知られている(甲第9号証)。

牛乳と植物乳における不飽和脂肪酸含有量が大きく異なることは技術常識である。牛乳の不飽和脂肪酸含有量は、ラジカル化されやすい多価の不飽和脂肪酸量が0.12mg/100g(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年(https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_032.xlsx)の「13 乳類」シート、9行目「普通牛乳」を参照。)である。一方、例えば豆乳中の多価不飽和脂肪酸含有量は同1.55mg/100g(同「4 豆類」の82行目「豆乳」を参照。)であり、牛乳の12.9倍である。

また、牛乳と植物乳における含硫アミノ酸含有量が大きく異なることも技術常識である(甲第10号証)。例えば、牛乳中のメチオニン含有量は2.1%であるが、オーツ麦では0.1%、大豆で0.3%であり、牛乳のメチオニン含有量はオーツ麦の21倍、大豆の7倍である。

82

143

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乳入リコーヒー飲料の加熱劣化臭には、飲料中のたんぱく質含有量に加えて、たんぱく質中の含硫アミノ酸含有量も影響し、さらに飲料中の不飽和脂肪酸含有量も影響するから、牛乳及び/又は脱脂粉乳を用いたコーヒー飲料での試験結果を、牛乳等とはたんぱく質中の含硫アミノ酸含有量及び飲料中の不飽和脂肪酸含有量が大きく異なる植物乳を用いたコーヒー飲料にまで拡張して解釈することはできない。

したがって、「乳成分とコーヒー脂質を含有しながらも加熱劣化臭が低減された、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料を提供する」という課題(本件特許明細書【0007】)が、全ての「乳成分」(同【0014】)について必ず解決され得ると当業者が合理的に推認することはできない。

よって、請求項1及び請求項3、並びに請求項1に従属する請求項2は、サポート要件を満たさない。

5 証拠方法

甲第1号証:特許第6329551号公報

甲第2号証:特開2012-170415号公報

甲第3号証:特開2007-215451号公報

甲第4号証:特開2019-58188号公報

甲第5号証:"Variability of some diterpene esters in coffee beverages as influenced by brewing procedures",Moeenfard et al.,J Food Sci Technol (November 2016) 53(11):3916-3927、2016年11月7日(オンライン公開)、学術誌J Food Sci Technol

甲第6号証:「乳と乳製品のQ&A」、「無脂乳固形分とは何ですか?」(https://nyukyou.jp/dairyqa/2107_018_468/)、2025年7月22日

甲第7号証の1:"Concentrated Milk Proteins Standard"(Version 1.0) 、2015 年7月28日、American Dairy Products Institute(ADPI)

甲第7号証の2:"Concentrated Milk Proteins Standard"(Version 2.1)、2023 年10月5日、American Dairy Products Institute(ADPI)

甲第7号証の3:“Reference Manual for U.S. Milk Powders and Microfiltered Ingredients”(https://www.thinkusadairy.org/assets/documents/Customer%20Site/C3-Using%20Dairy/C3.7-Resources%20and%20Insights/02-Product%20Resources/US-Milk-Powders-and-Microfiltered-Ingredients.pdf)、出力日:2025年9月25日、情報掲載:2018年

甲第8号証:特開2021-30号公報

甲第9号証:特開2008-295335号公報

甲第10号証:"Protein content and amino acid composition of commercially available plant-based protein isolates", Gorissen et. al.,Amino Acids (2018) 50:1685-1695、2018年8月30日、学術誌Amino Acids

証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。

第5 取消理由の概要

令和7年11月21日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。

取消理由(新規事項)

本件特許の請求項3に係る特許は、下記の点で特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し取り消すべきものである。

本件特許の請求項3は令和6年9月20日に提出された手続補正書による補正により追加されたものである。

本件特許発明3の「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.45~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し」という発明特定事項中の「コーヒー飲料中のマグネシウム含有量」に関して、「コーヒー飲料中のマグネシウム含有量」として「0.45~8.0mg/100g」という数値範囲は本件特許の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)には記載されていない。

また、当初明細書等の発明の詳細な説明の【0045】ないし【0069】に記載された実験例において、「コーヒー飲料中のマグネシウム含有量」が「0.45mg/100g」であるコーヒー飲料が記載されている訳でもない。

さらに、「コーヒー飲料中のマグネシウム含有量」として「0.45~8.0mg/100g」という数値範囲が当初明細書等の記載から当業者に自明な事項であったともいえない。

したがって、令和6年9月20日に提出された手続補正書による補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、新規事項を追加する補正である。

第6 取消理由(新規事項)についての当審の判断

1 新規事項の判断基準

補正が当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否かを判断する。

2 判断

本件特許の請求項3の記載は上記第3のとおりである。

取消理由は令和6年9月20日に提出された手続補正書による補正により追加された本件訂正前の請求項3に「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.45~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し」という記載があったことに起因するものであるところ、本件訂正により上記記載は「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し」という記載に訂正された。

そして、本件特許発明3の「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し」という発明特定事項中の「コーヒー飲料中のマグネシウム含有量」に関して、当初明細書等の【0009】には「すなわち、本発明は以下に関する。・・・(略)・・・(ii)さらにマグネシウム塩を含む無機塩を含み、

飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである。

」と記載され、同【0024】には「上記マグネシウム塩は、

本発明のコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5mg/100g以上となるように添加する。

マグネシウム塩の含有量に応じて本発明の加熱劣化臭低減効果が発現することから、マグネシウム塩は好ましくは0.6mg/100g以上、より好ましくは0.7mg/100g以上、さらに好ましくは0.8mg/100g以上、特に好ましくは0.9mg/100g以上、ことさらに好ましくは1.0mg/100g以上となるように添加する。

マグネシウム塩の含有量が8.0mg/100gを超えると、本発明の加熱劣化臭低減効果が頭打ちとなり、コストが上昇するため好ましくない。また、過剰なマグネシウム塩の添加は、コーヒー飲料の香味に影響を及ぼすことがある。飲料中のマグネシウム含有量の上限は、8.0mg/100g以下であり

、好ましくは6.0mg/100g以下、より好ましくは5.0mg/100g以下、さらに好ましくは4.0mg/100g以下、特に好ましくは3.0mg/100g以下、ことさらに好ましくは2.5mg/100g以下である。」と記載されている(下線は当審で付したものである。)。

そうすると、本件特許発明3における「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し」という発明特定事項は当初明細書等に記載されているといえる。

また、本件特許発明3における「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整し」という発明特定事項以外の発明特定事項については、当初明細書等に記載されていることは明らかである。

したがって、本件訂正により、取消理由は解消したものといえる。

3 取消理由についてのむすび

したがって、本件特許の請求項3に係る特許は、特許法第113条第1号に該当せず、取消理由によっては取り消すことはできない。

第7 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由について

取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由は次のとおりである。

・申立理由1(甲1及び2に基づく進歩性)

・申立理由2(甲1及び3に基づく進歩性)

・申立理由3(甲4に基づく進歩性)

・申立理由4(サポート要件)

以下、順に検討する。なお、申立理由1(甲1及び2に基づく進歩性)及び申立理由2(甲1及び3に基づく進歩性)は、いずれも甲1を主引用文献とする理由なので、併せて検討する。

1 申立理由1(甲1及び2に基づく進歩性)及び申立理由2(甲1及び3に基づく進歩性)について

(1)甲1ないし3に記載された事項等

ア 甲1に記載された事項等

(ア)甲1に記載された事項

甲1には、「コーヒー脂質含量の少ない乳入りコーヒー飲料」に関しておおむね次のとおり記載されている。下線は予め付されたものと当審で付したものである。他の証拠についても同様。

・「【請求項1】

(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有する、高温殺菌済のコーヒー飲料であって、

飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、乳成分の含有量が0.1~10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である、上記コーヒー飲料。

・「【請求項5】

(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有するコーヒー飲料の製造方法であって、

飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、乳成分の含有量が0.1~10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である調合液を調製する工程を含む、上記方法。

・「【技術分野】

【0001】

本発明は、加熱臭が低減された乳入りコーヒー飲料に関する。

【背景技術】

【0002】

乳入りコーヒー飲料は、一年を通して飲用される嗜好性の高い飲料であり、長期にわたって常温保存可能な容器詰め乳入りコーヒー飲料が多数流通されている。容器詰め乳入りコーヒー飲料は、通常、コーヒー豆抽出液、インスタントコーヒー等のコーヒー原料(本明細書中、コーヒー分とも表記する)に、牛乳、濃縮乳、全脂乳又は全脂粉乳、脱脂乳又は脱脂粉乳、練乳、クリーム、或いは乳タンパク質等のミルク成分を含有する乳原料(本明細書中、乳分とも表記する)などを混合溶解して調合液を得、保存容器に充填される前、または充填された後のいずれかに、高温殺菌をして製造されている。このように高温殺菌を経て製造される乳入りコーヒー飲料では、乳成分が熱変性し、乳加熱臭、具体的には、乳独特の劣化臭(すえ臭)や乳独特のむれっぽい味を発生させ、コク(クリーミー感)が消失して、乳入り飲料の品質を低下させることが知られている。」

・「【発明が解決しようとする課題】

【0006】

上記のとおり、容器詰め乳入りコーヒー飲料の高温殺菌時における香味劣化の抑制方法が種々開発されているが、未だ十分に満足できるものではなかった。

本発明の目的は、乳入りコーヒー飲料の高温殺菌時に発生する乳加熱臭を抑制した、ドリンカビリティの高いコーヒー飲料を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0007】

本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、

乳成分とコーヒー脂質が混合された状態で高温殺菌を行うと、加熱臭が顕著に強くなることを見出した。そして、コーヒー脂質が低減されたコーヒー原料を用い、これを乳原料と混合して高温殺菌を行えば、乳加熱臭が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。

【0008】

すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下を包含する。

1. (A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有し、前記パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量[(A)+(B)]が0.5mg/kg以上6.5mg/kg以下あり、高温殺菌して製造される乳入りコーヒー飲料。

2. パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの割合[(A)/(B)]が、1.90以上である、上記1に記載の乳入りコーヒー飲料。

3. 糖類の含有量が飲料100mLあたり5g以下である、上記1又は2に記載の乳入りコーヒー飲料。

【発明の効果】

【0009】

本発明により、高温殺菌、長期間の保存および冬季の製品ウォーマーでの加熱にも香味の観点から品質的に耐えうる、乳入りコーヒー飲料が得られる。本発明の乳入りコーヒー飲料は、乳入り飲料のオフフレーバー(乳加熱臭や酸化臭)が低減され、乳成分のコクが付与されたドリンカビリティの高い飲料である。」

・「【0012】

本明細書中、乳成分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造されるコーヒー飲料を、「乳入りコーヒー飲料」と表す。ここで、乳成分とは、コーヒー飲料に乳風味や乳感を付与するために添加される成分を指し、主に哺乳動物の乳、牛乳及び乳製品のことをいい、例えば、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料などが挙げられ、乳製品としては、クリーム、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、調整粉乳などが挙げられる。

特に、本発明の効果は、乳成分として牛乳を用いたときに発生する加熱臭の抑制に効果的であるから、牛乳を含む飲料は本発明の好ましい態様の一つである。本発明の乳入り飲料における乳成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは固形分換算で0.1~10質量%である。

ここでいう固形分とは、乳分を一般的な乾燥法(凍結乾燥、蒸発乾固等)を用いて乾燥させて水分を除いた後の、乾固物のことをいう。」

・「【0026】

[実施例1]

(1)

コーヒー原料の製造

起源の異なる複数の焙煎コーヒー豆から、常法により

コーヒー抽出液を得た

(Drip1,2)。また、焙煎コーヒー豆の粉砕物を積層させたカラムに、焙煎コーヒー豆の加圧抽出液を通液して、コーヒー脂質を低減したコーヒーエキスを得た(Ext1~6)。それぞれをBrixが1.5 ゚となるように水で希釈したコーヒー原料(液)について、コーヒー脂質である(A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストールの含量を、LC-MS/MSを使用し、MRMモードにて測定した。」

・「【0031】

(2)容器詰め乳入りコーヒー飲料の製造

上記(1)で製造したコーヒー原料(Drip,Ext)をそれぞれ任意の割合で混合し、種々のコーヒー脂質含量となるコーヒー液を得た。これに、牛乳5質量%、砂糖2質量%、アセスルファムカリウム0.01質量%、乳化剤(ショ糖シュガーエステル)0.04質量%、重曹を添加して全量が100%となるように加水して、スチール製容器に190gずつ充填し、

120~125°C、約25分の殺菌を行い(レトルト殺菌)

、容器詰め乳入りコーヒー飲料(Bx5.1、カフェイン含量65mg/100mL、pH6.3、微糖タイプ)を製造した。これらの飲料について、(1)と同様にしてコーヒー脂質含量を測定した。また、比較として市販の乳入りコーヒー飲料について同様の測定を行った。さらに各種コーヒー飲料について、専門パネルによる官能評価を実施した。」

(イ)甲1に記載された発明

甲1に記載された事項を、特に請求項1、請求項5、【0026】及び【0031】に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1物発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1物発明>

「(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有する、高温殺菌済のコーヒー飲料であって、

飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、乳成分の含有量が0.1~10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である、上記コーヒー飲料。」

<甲1製法発明>

「(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有するコーヒー飲料の製造方法であって、

飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、乳成分の含有量が0.1~10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である調合液を調製する工程、

高温殺菌する工程

を含む、上記方法。」

イ 甲2に記載された事項

甲2には、「無脂乳固形分含有水中油型乳化物」に関しておおむね次のとおり記載されている。

・「【請求項1】

油脂、無脂乳固形分及び水を含む水中油型乳化物であって、無脂乳固形分が3~20重量%であり、マグネシウム塩及びカリウム塩を添加してなる、無脂乳固形分含有水中油型乳化物。

【請求項2】

マグネシウム塩由来のマグネシウムの含有量が、水中油型乳化物全体に対して0.01~0.3重量%である、請求項1記載の無脂乳固形分含有水中油型乳化物。」

・「【技術分野】

【0001】

本発明は、牛乳や濃縮乳の代替として使用でき、製菓製パン、調理、レトルト食品等の練り込み用に適した無脂乳固形分含有水中油型乳化物に関する。」

・「【発明が解決しようとする課題】

【0005】

本発明の目的は、牛乳や濃縮乳の代替として使用できる無脂乳固形分含有水中油型乳化物であって、牛乳の自然な風味を有し、且つ耐酸性、耐塩性、耐熱性を有し、レトルト殺菌等過酷な条件下でも風味、性状に優れた無脂乳固形分含有水中油型乳化物を提供する事にある。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明者らは鋭意研究を行った結果、無脂乳固形分含有水中油型乳化物にマグネシウム塩及びカリウム塩を使用することにより、無脂乳固形分を3~20重量%と少ない配合であっても、無脂乳固形分の配合量を超える牛乳的及び/又は濃縮乳的な自然な風味を有することを見出した。またこの水中油型乳化物は、耐酸性、耐塩性、耐熱性を有することも確認し、本発明を完成するに至った。」

・「【0023】

・・・(略)・・・

E レトルト殺菌評価

水中油型乳化物を水で3倍に希釈し、希釈した水中油型乳化物をレトルト殺菌用のパウチに60g充填し、レトルト殺菌をした。条件は、120°Cで30分殺菌後、20°Cで10分、20°Cで5分の二段冷却を行った。室温にて一日放置後に性状を観察した。性状は、凝集物や離水が見られない状態を最も良い状態とし、優れている順に「A」、「B」、「C」の三段階にて評価を行った。「A」は凝集物や離水が見られない、「B」はやや凝集物や離水が見られるが許容範囲、「C」は凝集物や離水が見られて不可という評価とする。尚、この実験はレトルト殺菌をされるレトルト食品に無脂乳固形分含有水中油型乳化物を練り込んで使用される場合を想定した実験である。

またレトルト殺菌後の水中油型乳化物の風味評価を行った。風味評価は、優れている順に「5」、「4」、「3」、「2」、「1」の五段階にて評価を行い、平均化した評価を結果とした。風味の評価は専門パネラー20名により官能評価を実施した。「5」は非常に良好、「4」は良好、「3」は許容範囲、「2」はやや不可、「1」は不可という評価とする。」

ウ 甲3に記載された事項

甲3には、「塩類添加飲料及び飲料の風味改善方法」に関しておおむね次のとおり記載されている。

・「【請求項1】

乳製品及び添加された塩類を含む飲料であって、添加された塩類の含有量が飲料全量に対して0.0005~0.1質量%であることを特徴とする飲料。

・・・(略)・・・

【請求項3】

塩類が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の飲料。

・・・(略)・・・

【請求項8】

コーヒー又は紅茶である請求項1~7のいずれか1項記載の飲料。」

・「【発明が解決しようとする課題】

【0004】

本発明の目的とするところは、乳製品を含有する飲料において、乳製品含量が少ないにもかかわらず、乳様の濃厚感が付与された飲料を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0005】

本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、検討を行った結果、乳製品を含む飲料に塩類を添加することで、乳製品特有の風味を損なわずにコク味及び旨味を付与できることを見出した。また、乳製品及びデキストリンを含む飲料に塩類を添加することで、さらにコク味及び旨味が増強されることを見出し、本発明に到達した。」

・「【実施例】

【0011】

実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。

実施例1

表1の乳飲料処方(単位:g)(飲料全量に対する乳固形分含有量4.2質量%)に従い、コーヒー豆を10倍の熱水にて85°C5分間抽出し、冷却後ろ過しコーヒー抽出液を調製した。抽出液に他の原料をあわせ60°Cまで加温したものを200kg/cm

2

の圧力でホモゲナイズ処理した。出来上がった乳飲料を缶詰後、レトルト殺菌機にて、125°C20分間の条件で殺菌し、比較例1~2と本発明1~6の製品試料を得た。

【0012】

【表1】

54

147

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*松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#2

【0013】

得られた比較例1~2及び本発明1~6の製品試料を、パネラー5名に試飲させ官能評価を行った。各パネラーが、比較例1のコク味と旨味の強さを1としたときのコク味及び旨味についてそれぞれの強さの順に加点して順位付けをし、それらを平均して順位を決定した(すなわち、数値が大きいほど順位が高いことを示す)。この乳飲料官能試験結果を表2に示す。」

・「【0021】

実施例4

表7のミルクティー処方(単位:g)(飲料全量に対する乳固形分含有量2.8質量%)に従い茶葉を30倍で85°C5分の熱水で抽出し、冷却後ろ過し紅茶抽出液を調製した後、実施例1と同様に比較例11と本発明16~19の製品試料を製造した。

【0022】

【表7】

74

153

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*松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#2

得られた比較例11と本発明16~19のミルクティーを、パネラー5名に試飲させ官能試験を行った。すなわち、比較例11のコク味、旨味、塩味の強さをそれぞれ1として、実施例1と同様に評価した。このミルクティー官能試験結果を表8に示す。

【0023】

【表8】

38

145

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表8の結果より、本発明で得られた塩類添加ミルクティー試料(本発明品16~19)は、塩類無添加の比較例11と比較し、コク味、旨味共に強化されていることが判った。」

(2)本件特許発明1について

ア 対比

本件特許発明1と甲1物発明とを対比する。

甲1物発明における「(C)乳成分」は、本件特許発明1における「乳成分」に相当する。

甲1物発明における「(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール」は、本件特許発明1における「コーヒー脂質」及び「(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり」に相当する。

甲1物発明における「飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下」は、本件特許発明1における「飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである」に包含される。

甲1物発明における「乳成分を含有する、高温殺菌済のコーヒー飲料」は、本件特許発明1における「加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「乳成分とコーヒー脂質とを含有する、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料であって、以下(i)を満たすコーヒー飲料;

(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点1-1a>

本件特許発明1においては「(ii)さらに食品添加物としてのマグネシウム塩を含む無機塩を含む、

(iii)飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである」を「満たす」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点1-1b>

本件特許発明1においては「(iv)飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである」を「満たす」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。

なお、特許異議申立人は、本件特許発明1における「(iv)飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである」という発明特定事項は甲1物発明との間で実質的な相違点ではない旨主張する(特許異議申立書第25及び26ページ)が、甲1物発明の認定の根拠となった甲1の請求項1を含め、甲1には「飲料中のたんぱく質含有量」に関する事項は直接的には記載されていないことから、甲1物発明が上記発明特定事項を有しているとは直ちにはいえないので、上記主張は採用できない。

イ 判断

相違点1-1aについて検討する。

甲1には、甲1物発明において、食品添加物としてのマグネシウム塩を含む無機塩を含ませた上で、飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gであるようにする動機付けとなる記載はないし、甲2及び甲3並びに他の証拠にもない。

そうすると、甲1ないし3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1物発明において、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

そして、本件特許発明1の奏する「加熱劣化臭が効果的に低減され、コーヒーと乳の自然な味わいや香りを有する、長期保存可能な乳入りコーヒー飲料の提供が可能となる。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0010】)という効果は、甲1物発明並びに甲1ないし3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

なお、特許異議申立人は、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲2発明又は甲3発明を適用することで当業者が容易に想到し得たものである旨主張する(特許異議申立書第26ないし29ページ)。

そこで、検討するに、甲2に記載された発明の解決しようとする課題は「牛乳や濃縮乳の代替として使用できる無脂乳固形分含有水中油型乳化物であって、牛乳の自然な風味を有し、且つ耐酸性、耐塩性、耐熱性を有し、レトルト殺菌等過酷な条件下でも風味、性状に優れた無脂乳固形分含有水中油型乳化物を提供する事」(甲2の【0005】)であり、甲3に記載された発明の解決しようとする課題は「乳製品を含有する飲料において、乳製品含量が少ないにもかかわらず、乳様の濃厚感が付与された飲料を提供すること」(甲3の【0004】)であり、いずれも、甲1物発明の解決しようとする課題である「乳入りコーヒー飲料の高温殺菌時に発生する乳加熱臭を抑制した、ドリンカビリティの高いコーヒー飲料を提供すること」(甲1の【0006】)とは異なるものであるから、甲1物発明に甲2又は3に記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえないし、相違点1-1aに係る本件特許発明1の「飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである」という具体的な数値範囲を採用する動機付けがあるともいえない。

したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ まとめ

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1物発明並びに甲1ないし3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2について

本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1物発明並びに甲1ないし3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明3について

ア 対比

本件特許発明3と甲1製法発明とを対比する。

両者の間には、本件特許発明1と甲1物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。

甲1製法発明における「調合液を調製する工程」は、本件特許発明3における「乳成分」「を」「コーヒー抽出液に添加する工程」に相当する。

甲1製法発明における「高温殺菌する工程」は、本件特許発明3における「加熱殺菌する工程」に相当する。

上記相当関係を踏まえると、甲1製法発明における「(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有するコーヒー飲料の製造方法」は、本件特許発明3における「加熱殺菌済みのコーヒー飲料の製造方法」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「乳成分を、コーヒー抽出液に添加する工程、及び

加熱殺菌する工程

を含む加熱殺菌済みのコーヒー飲料の製造方法であって、

最終的に得られるコーヒー飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gとなるようにコーヒー抽出液の量を調整することをさらに含む、上記方法。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点1-3a>

本件特許発明3においては「食品添加物であるマグネシウム塩を含む無機塩とを」「添加する」と特定された上で「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整」「することをさらに含む」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点1-3b>

本件特許発明3においては「最終的に得られるコーヒー飲料中のたんぱく含有量が0.1~2.0g/100gとなるように、乳成分の量を調整」「することをさらに含む」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。

イ 判断

相違点1-3aについて検討する。

相違点1-3aは相違点1-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、甲1ないし3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1製法発明において、相違点1-3aに係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

そして、本件特許発明3の奏する「加熱劣化臭が効果的に低減され、コーヒーと乳の自然な味わいや香りを有する、長期保存可能な乳入りコーヒー飲料」の「製造方法」の提供が可能となる(発明の詳細な説明の【0010】)という効果は、甲1製法発明並びに甲1ないし3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明3の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲1製法発明並びに甲1ないし3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由1及び2についてのむすび

したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1及び2によっては取り消すことはできない。

2 申立理由3(甲4に基づく進歩性)について

(1)甲4に記載された事項等

ア 甲4に記載された事項

甲4には、「乳化組成物および乳飲料」に関しておおむね次のとおり記載されている。

・「【技術分野】

【0001】

本発明は乳製品および乳化剤を含む乳化組成物であって、詳しくはさらにマグネシウム材料を含む乳化組成物に関する。」

・「【発明が解決しようとする課題】

【0007】

しかし、これら従来の技術は、乳成分、特にフレッシュチーズなど、全固形分が多く、かつ全固形分中の脂肪分の割合が高い乳製品を用いた乳化組成物及びそれを用いた乳飲料に適用した場合、乳本来のコクや自然な乳風味を再現するのは、未だ困難であった。

【0008】

本発明は、フレッシュチーズなどの乳製品を用いた乳化組成物及びそれを用いた乳飲料において、コクや乳風味などの味質を改善することを課題とする。」

・「【0092】

予め、カゼインナトリウム8g、ショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数=16および18、モノエステル含量=77質量%)10g、ポリグリセリン脂肪酸エステル(リョートー(登録商標)ポリグリエステルSWA-10D、三菱化学フーズ社製)5g及びコハク酸モノグリセリド(脂肪酸の炭素数=16および18)1.5gを分散させた水相300gを65°Cに加熱した後、脱脂粉乳15g、乳糖9g、MPC(Milk Protein Concentrate)45g、砂糖6gを加え、さらに乳と生クリームを原料とする非発酵型のクリームチーズ(全固形分量:61質量%、乳脂肪分含有量:51質量%)190gを投入し、ホモミキサーを用い、回転数8000rpmで5分間予備乳化した。更に水を加えて全量を1000gに調整し、高圧ホモジナイザーで65°C、20MPaにて2回均質化後、90°Cで15分間殺菌処理して、組成物3(乳脂肪分含有量:9.7質量%)を得た。

得られた組成物3を5gと、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および水を混合し、全量が15gとなるように、本発明の乳化組成物を調製した。得られた乳化組成物15gと、インスタントコーヒー1.5質量%水溶液15gを混合し、コーヒー飲料(乳飲料)を調製した。

コーヒー飲料における、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムの濃度と、乳化組成物およびコーヒー飲料、各々におけるマグネシウム、ナトリウム、カリウムの脂肪分に対する質量比率を、表5に示す。

当該乳化組成物と、コーヒー飲料を、3名で試飲し、実施例5~12及び実施例14~21、比較例7~13と同様の基準で評価を行った。結果を表5に示す。

当該コーヒー飲料を、3名で試飲し、実施例5~12及び実施例14~21、比較例7~13と同様の基準で評価を行った。結果を表5に示す。表中の%は質量%を表す。

いずれも、マグネシウム材料が好適な範囲にあるため、良好な乳風味をもった乳化組成物またはコーヒー飲料であるが、特にコーヒー飲料において、コーヒーに由来するカリウム分の影響を受け、カリウム材料を過剰にいれると、カリウムに起因する異味が強くなってしまう傾向があるため、カリウム材料を最適な量にすることが好適であることが分かった。

【0093】

【表5】

76

147

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・「【0095】

<実施例35>

コーヒー抽出液(Bx2.9)480gに、予め熱水で溶解した重曹を加えpH調整後、エリスリトール7.0g、アセスルファムK0.15g、ステビア0.08g、製造例1で得られた組成物1(クリームチーズを60質量%含有)2.6g、多糖類1を0.3g、乳清ミネラル0.1g、バターミルクパウダー0.05g、香料1を0.05g及び水を適量加えた材料を、混合、溶解し、さらに水を加え全量を1000gとした。

この時の当該材料に含まれる脂肪分とマグネシウムの質量比率は、Mg/脂肪分:0.00033であった。本液を65°Cに昇温し、高圧ホモジナイザーにて20MPaの圧力で均質化後、缶容器に充填し、121°C、30分間の

レトルト殺菌を行い、缶入りミルクコーヒー(乳飲料)を調製した。

殺菌後の乳飲料のpHは6.0であった。

得られた缶入りミルクコーヒーを、上記殺菌後、5°Cで1日保存後に開缶し、パネラー4名で試飲し、実施例1と同様の基準で評価した。また、添加した各成分の熱量から、100mlあたりの総カロリーを計算すると共に、用いた原材料の構成成分から計算にて、乳固形分中の無脂乳固形分の割合を求めた。結果を表6に示す。」

イ 甲4に記載された発明

甲4に記載された事項を、特に実施例30に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4物発明」及び「甲4製法発明」という。)が記載されていると認める。

<甲4物発明>

「カゼインナトリウム8g、ショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数=16および18、モノエステル含量=77質量%)10g、ポリグリセリン脂肪酸エステル(リョートー(登録商標)ポリグリエステルSWA-10D、三菱化学フーズ社製)5g及びコハク酸モノグリセリド(脂肪酸の炭素数=16および18)1.5gを分散させた水相300gを65°Cに加熱した後、脱脂粉乳15g、乳糖9g、MPC(Milk Protein Concentrate)45g、砂糖6gを加え、さらに乳と生クリームを原料とする非発酵型のクリームチーズ(全固形分量:61質量%、乳脂肪分含有量:51質量%)190gを投入し、ホモミキサーを用い、回転数8000rpmで5分間予備乳化し、更に水を加えて全量を1000gに調整し、高圧ホモジナイザーで65°C、20MPaにて2回均質化後、90°Cで15分間殺菌処理して、組成物3(乳脂肪分含有量:9.7質量%)を得、得られた組成物3を5gと、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および水を混合し、全量が15gとなるように、乳化組成物を調製し、得られた乳化組成物15gと、インスタントコーヒー1.5質量%水溶液15gを混合し、調製した、コーヒー飲料における質量比率が塩化マグネシウム0.017%、塩化ナトリウム0.033%、塩化カリウム0.067%である、コーヒー飲料(乳飲料)。」

<甲4製法発明>

「カゼインナトリウム8g、ショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数=16および18、モノエステル含量=77質量%)10g、ポリグリセリン脂肪酸エステル(リョートー(登録商標)ポリグリエステルSWA-10D、三菱化学フーズ社製)5g及びコハク酸モノグリセリド(脂肪酸の炭素数=16および18)1.5gを分散させた水相300gを65°Cに加熱した後、脱脂粉乳15g、乳糖9g、MPC(Milk Protein Concentrate)45g、砂糖6gを加え、さらに乳と生クリームを原料とする非発酵型のクリームチーズ(全固形分量:61質量%、乳脂肪分含有量:51質量%)190gを投入し、ホモミキサーを用い、回転数8000rpmで5分間予備乳化し、更に水を加えて全量を1000gに調整し、高圧ホモジナイザーで65°C、20MPaにて2回均質化後、90°Cで15分間殺菌処理して、組成物3(乳脂肪分含有量:9.7質量%)を得、得られた組成物3を5gと、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および水を混合し、全量が15gとなるように、乳化組成物を調製し、得られた乳化組成物15gと、インスタントコーヒー1.5質量%水溶液15gを混合し、コーヒー飲料における質量比率が塩化マグネシウム0.017%、塩化ナトリウム0.033%、塩化カリウム0.067%となるように、コーヒー飲料(乳飲料)を調製する方法。」

(2)本件特許発明1について

ア 対比

本件特許発明1と甲4物発明とを対比する。

甲4物発明における「カゼインナトリウム8g、ショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数=16および18、モノエステル含量=77質量%)10g、ポリグリセリン脂肪酸エステル(リョートー(登録商標)ポリグリエステルSWA-10D、三菱化学フーズ社製)5g及びコハク酸モノグリセリド(脂肪酸の炭素数=16および18)1.5gを分散させた水相300gを65°Cに加熱した後、脱脂粉乳15g、乳糖9g、MPC(Milk Protein Concentrate)45g、砂糖6gを加え、さらに乳と生クリームを原料とする非発酵型のクリームチーズ(全固形分量:61質量%、乳脂肪分含有量:51質量%)190gを投入し、ホモミキサーを用い、回転数8000rpmで5分間予備乳化し、更に水を加えて全量を1000gに調整し、高圧ホモジナイザーで65°C、20MPaにて2回均質化後、90°Cで15分間殺菌処理して」「得られた」「組成物3(乳脂肪分含有量:9.7質量%)」は、本件特許発明1における「乳成分」に相当する。

甲4物発明における「塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム」は、本件特許発明1における「食品添加物としてのマグネシウム塩を含む無機塩」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「乳成分を含有する、乳入りコーヒー飲料であって、以下(ii)を満たすコーヒー飲料:

(ii)さらに食品添加物としてのマグネシウム塩を含む無機塩を含む。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点4-1a>

本件特許発明1においては「加熱殺菌済み」と特定されているのに対し、甲4物発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点4-1b>

本件特許発明1においては「コーヒー脂質とを含有する」と特定された上で「(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである」「を満たす」と特定されているのに対し、甲4物発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点4-1c>

本件特許発明1においては「(iii)飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである」「を満たす」と特定されているのに対し、甲4物発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点4-1d>

本件特許発明1においては「(iv)飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである」「を満たす」と特定されているのに対し、甲4物発明においてはそのようには特定されていない点。

なお、特許異議申立人は、本件特許発明1における「(iii)飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである」及び「(iv)飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである」という発明特定事項は甲4物発明との間で実質的な相違点ではない旨主張する(特許異議申立書第30及び31ページ)が、甲4物発明の認定の根拠となった甲4の実施例30に関する記載を含め、甲4には「(iii)飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである」こと及び「iv)飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである」ことは直接的には記載されていないことから、甲4物発明が上記発明特定事項を有しているとは直ちにはいえないので、上記主張は採用できない。

イ 判断

事案に鑑み、相違点4-1bについて検討する。

甲4には、甲4物発明において、コーヒー脂質を含有するとしたで、コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gとする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。

そうすると、甲4及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲4発明において、相違点4-1bに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

そして、本件特許発明1の奏する「加熱劣化臭が効果的に低減され、コーヒーと乳の自然な味わいや香りを有する、長期保存可能な乳入りコーヒー飲料の提供が可能となる。」という効果は、甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

なお、特許異議申立人は、相違点4-1bに係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲5に記載された技術常識を適用することで当業者が容易に想到し得たものである旨主張する(特許異議申立書第31及び32ページ)。

そこで、検討するに、甲5には、甲5において使用した市販のインスタントコーヒー粉末2gを沸騰させた蒸留水150mlで抽出し、分析した結果、カフェストールエステル濃度が1.3±0.1mg/L、カーウェオールエステル濃度が2.1±0.03mg/Lであることが記載されているが、甲4物発明における「インスタントコーヒー」が甲5に記載された市販のインスタントコーヒーと同じものであるという証拠はないから、甲4物発明における「インスタントコーヒー」のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの数値として、甲5に記載された市販のインスタントコーヒーの数値を適用する動機付けがあるとはいえない。

したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ まとめ

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2について

本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4物発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明3について

ア 対比

本件特許発明3と甲4製法発明とを対比する。

両者の間には、本件特許発明1と甲4物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。

甲4製法発明における「カゼインナトリウム8g、ショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数=16および18、モノエステル含量=77質量%)10g、ポリグリセリン脂肪酸エステル(リョートー(登録商標)ポリグリエステルSWA-10D、三菱化学フーズ社製)5g及びコハク酸モノグリセリド(脂肪酸の炭素数=16および18)1.5gを分散させた水相300gを65°Cに加熱した後、脱脂粉乳15g、乳糖9g、MPC(Milk Protein Concentrate)45g、砂糖6gを加え、さらに乳と生クリームを原料とする非発酵型のクリームチーズ(全固形分量:61質量%、乳脂肪分含有量:51質量%)190gを投入し、ホモミキサーを用い、回転数8000rpmで5分間予備乳化し、更に水を加えて全量を1000gに調整し、高圧ホモジナイザーで65°C、20MPaにて2回均質化後、90°Cで15分間殺菌処理して、組成物3(乳脂肪分含有量:9.7質量%)を得、得られた組成物3を5gと、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および水を混合し、全量が15gとなるように、乳化組成物を調製し、得られた乳化組成物15gと、インスタントコーヒー1.5質量%水溶液15gを混合し」は、本件特許発明3における「乳成分と、食品添加物であるマグネシウム塩を含む無機塩とを、コーヒー抽出液に添加する工程」に相当する。

甲4製法発明における「コーヒー飲料(乳飲料)を調製する方法」は、本件特許発明3における「コーヒー飲料の製造方法」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「乳成分と、食品添加物であるマグネシウム塩を含む無機塩とを、コーヒー抽出液に添加する工程、

を含むコーヒー飲料の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点4-3a>

本件特許発明3においては「加熱殺菌する工程」「を含む」と特定されているのに対し、甲4製法発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点4-3b>

本件特許発明3においては「最終的に得られるコーヒー飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gとなるようにコーヒー抽出液の量を調整」「することをさらに含む」と特定されているのに対し、甲4製法発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点4-3c>

本件特許発明3においては「最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整」「することをさらに含む」と特定されているのに対し、甲4製法発明においてはそのようには特定されていない点。

<相違点4-3d>

本件特許発明3においては「最終的に得られるコーヒー飲料中のたんぱく含有量が0.1~2.0g/100gとなるように、乳成分の量を調整」「することをさらに含む」と特定されているのに対し、甲4製法発明においてはそのようには特定されていない点。

イ 判断

事案に鑑み、相違点4-3bについて検討する。

相違点4-3bは相違点4-1bと実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、甲4及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲4製法発明において、相違点4-3bに係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

そして、本件特許発明3の奏する「加熱劣化臭が効果的に低減され、コーヒーと乳の自然な味わいや香りを有する、長期保存可能な乳入りコーヒー飲料」の「製造方法」の提供が可能となるという効果は、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明3の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由3についてのむすび

したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由3によっては取り消すことはできない。

3 申立理由4(サポート要件)について

(1)サポート要件の判断基準

特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

そこで、検討する。

(2)サポート要件の判断

本件特許の特許請求の範囲(以下、「特許請求の範囲」という。)の記載は上記第3のとおりである。

発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明1及び2の解決しようとする課題は「乳成分とコーヒー脂質を含有しながらも加熱劣化臭が低減された、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料」を提供することであり、本件特許発明3の解決しようとする課題は「乳成分とコーヒー脂質を含有しながらも加熱劣化臭が低減された、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料」の「製造方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。

発明の詳細な説明の【0008】には「本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、少量のマグネシウム塩を含む無機塩を含有させることで、コーヒー脂質を含有する加熱殺菌済み乳入りコーヒー飲料の加熱劣化臭を低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されている。

発明の詳細な説明の【0009】には「すなわち、本発明は以下に関する。

[1]乳成分とコーヒー脂質とを含有する、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料であって、以下(i)及び(ii)を満たすコーヒー飲料:

(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである、

(ii)さらにマグネシウム塩を含む無機塩を含み、飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである。

[2]更に、以下(iii)及び(iv)の少なくとも1つを満たす、[1]に記載のコーヒー飲料:

(iii)無機塩がさらにカリウム塩を含み、飲料中のカリウム含有量が30~150mg/100gである、

(iv)無機塩がさらに塩化物を含み、飲料中の塩化物イオン含有量が5~50mg/100gである。

[3]飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである、[1]又は[2]に記載のコーヒー飲料。」と記載され、本件特許発明1及び2に対応する記載があるといえ、同【0034】には「本発明は、別の観点から言えば、飲料にマグネシウム塩を含む無機塩(好ましくはさらにカリウム塩含む無機塩であり、及び/又は塩化物を含む無機塩である)を添加することを含む、加熱劣化臭が低減された乳入りコーヒー飲料の製造方法であるとも言える。無機塩は、飲料の加熱殺菌を行う前であればいずれの段階で添加してもよい。飲料に無機塩を添加する際には、飲料中のマグネシウム含有量(好ましくはさらにカリウム含有量及び/又は塩化物イオン含有量)が上述した範囲内となるように添加する。これにより、無機塩が添加されていない場合に比べて、加熱劣化臭が低減された、乳入りコーヒー飲料を提供することができる。」と記載され、上記【0009】の記載と合わせれば、本件特許発明3に対応する記載があるといえる。

発明の詳細な説明の【0011】には「本明細書でいう「コーヒー飲料」とは、コーヒー分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造される飲料製品のことをいう。」と記載されている。

発明の詳細な説明の【0015】には「本発明の乳入りコーヒー飲料は、乳成分由来のたんぱく質を含有する。・・・(略)・・・本発明の飲料中のたんぱく質含有量は、0.1g/100g以上であることが好ましく、・・・(略)・・・飲料中のたんぱく質含有量が高過ぎると、本発明の効果を奏しにくくなることから、飲料中のたんぱく質含有量は、2.0g/100g以下であることが好ましく」と記載されている。

発明の詳細な説明の【0018】には「本発明のコーヒー飲料は、コーヒー脂質を含有する。ここで、本明細書でいう「コーヒー脂質」とは、後述する実施例に記載の方法で測定されるカーウェオールとカフェストールにパルミチン酸がエステル結合した、(A)パルミチン酸カーウェオール(略記:KwO-pal)と(B)パルミチン酸カフェストール(略記:CfO-pal)をいい、飲料中のコーヒー脂質の含有量をいう場合には、これらの合計量[(A)+(B)]をいう。これらのコーヒー脂質は、アロマオイルと呼ばれることもあるほどコーヒーの味わいや香りに影響を与え、コーヒーをリッチで優しい口当たりにする効果がある。本発明では、飲料にコーヒー脂質を含有させることで、コーヒーと乳とがそれぞれの良さを引き立て合う乳入りコーヒー飲料となる。本発明のコーヒー飲料中のコーヒー脂質含有量は、0.01~1.30mg/100g、好ましくは0.02~1.20mg/100g、より好ましくは0.03~1.10mg/100gである。」と記載されている。

発明の詳細な説明の【0022】には「本発明で使用する「無機塩」とは、無機酸と無機塩基からなる塩をいう。本発明では、無機塩として、少なくとも1種類のマグネシウム塩を含有し、好ましくは更に少なくとも1種類のカリウム塩及び/又は少なくとも1種類の塩化物塩を含有する。」と記載され、同【0023】には「本発明におけるマグネシウム塩の好ましい具体例としては、例えば、食品添加物として使用され得る塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、L-グルタミン酸マグネシウム等が挙げられるが、これらに限定されない。」と記載され、同【0024】には「上記マグネシウム塩は、本発明のコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5mg/100g以上となるように添加する。マグネシウム塩の含有量に応じて本発明の加熱劣化臭低減効果が発現する・・・(略)・・・マグネシウム塩の含有量が8.0mg/100gを超えると、本発明の加熱劣化臭低減効果が頭打ちとなり、コストが上昇するため好ましくない。また、過剰なマグネシウム塩の添加は、コーヒー飲料の香味に影響を及ぼすことがある。飲料中のマグネシウム含有量の上限は、8.0mg/100g以下であり、・・・(略)・・・」と記載されている。

発明の詳細な説明の【0040】ないし【0068】において、「乳成分とコーヒー脂質とを含有する、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料であって、以下(i)~(iii)を満たすコーヒー飲料:

(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである、

(ii)さらに食品添加物としてのマグネシウム塩を含む無機塩を含む、

(iii)飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである」という条件を満たすコーヒー飲料が上記条件を満たさないコーヒー飲料よりも加熱劣化臭が低減されたことを確認している。

そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「乳成分とコーヒー脂質とを含有する、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料であって、以下(i)~(iii)を満たすコーヒー飲料:

(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである、

(ii)さらに食品添加物としてのマグネシウム塩を含む無機塩を含む、

(iii)飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである」及び「乳成分と、食品添加物であるマグネシウム塩を含む無機塩とを、コーヒー抽出液に添加する工程、及び

加熱殺菌する工程

を含む加熱殺菌済みのコーヒー飲料の製造方法であって、

最終的に得られるコーヒー飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gとなるようにコーヒー抽出液の量を調整し、

最終的に得られるコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gとなるように、添加する前記食品添加物の量を調整する、ことを含む、上記方法」は発明の課題を解決できると認識できる。

そして、本件特許発明1及び2は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「コーヒー飲料」をさらに限定したものであり、本件特許発明3は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「コーヒー飲料の製造方法」をさらに限定したものである。

したがって、本件特許発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし3に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(3)特許異議申立人の主張について

特許異議申立人の上記第4 4における主張について検討する。

仮に、特許異議申立人が主張するように、「牛乳と植物乳における不飽和脂肪酸含有量が大きく異なること」及び「牛乳と植物乳における含硫アミノ酸含有量が大きく異なること」が技術常識であり、「乳入リコーヒー飲料の加熱劣化臭には、飲料中のたんぱく質含有量に加えて、たんぱく質中の含硫アミノ酸含有量も影響し、さらに飲料中の不飽和脂肪酸含有量も影響」するとしても、「植物乳」にも「牛乳」と同じ成分(不飽和脂肪酸や含硫アミノ酸)が、その含有量に違いがあるとしても、含有されていることには変わりはないから、「乳」として「牛乳」を用いた場合に発明の課題を解決できる以上、「植物乳」を用いた場合でも、程度の差はあれ、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。

また、本件特許発明1ないし3において特定された発明特定事項を有していても発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠が提示されている訳でもない。

したがって、特許異議申立人の上記第4 4における主張は採用できない。

(4)申立理由4についてのむすび

したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。

第8 結語

上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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