結論テキスト
特許第7667951号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7667951号の請求項1~4、6~8に係る特許を維持する。
特許第7667951号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2025701015 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7667951号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2024年(令和6年)8月15日(優先権主張 令和5年8月25日)を国際出願日とする出願であって、令和7年4月16日にその特許権の設定登録がされ、同年4月24日に特許掲載公報が発行され、同年10月21日に特許異議申立人 村上 兄(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
その後、当審は、同年12月22日付けで取消理由を通知し(発送は同年同月25日)、この取消理由通知に対し、特許権者は、その指定期間内である令和8年1月13日に訂正請求書・意見書を提出した。
なお、当審から同年1月21日付けで、申立人に対して意見書提出の期間を指定して、訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行ったが、当該期間内に申立人から意見書の提出はなかった。
令和8年1月13日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第7667951号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める」ものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維であって、前記撥水剤の水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であることを特徴とする、撥水吸湿性繊維。」と記載されているのを、「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維であって、
前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有しており、
前記撥水剤の水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であることを特徴とする、撥水吸湿性繊維。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項1~
4,6,
7のいずれかに記載の」に訂正する。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1~8について、請求項2~8はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1に「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維であって、前記撥水剤の水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であることを特徴とする、撥水吸湿性繊維。」と記載されているのを、「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維であって、
前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有しており、
前記撥水剤の水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であることを特徴とする、撥水吸湿性繊維。」に限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1の構成を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求項の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
請求項1の訂正により請求項1に追加された「前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有しており、」という事項は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項5の「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維が、2~9mmol/gカルボキシル基を含有していること」という記載に基づいている。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項5の削除に伴い、請求項8において、「請求項1~7のいずれかに記載の」を「請求項1~
4,6,
7のいずれかに記載の」に訂正して、引用する請求項を減らすものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
本件訂正請求により訂正された請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維であって、前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有しており、前記撥水剤の水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であることを特徴とする、撥水吸湿性繊維。
【請求項2】
撥水剤が、該撥水剤を固形分濃度0.1重量%かつpH10である水分散液としたときに、20mV以上のゼータ電位を示すものであることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項3】
撥水剤がフッ素原子を含有していないことを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項4】
撥水剤の付着量が、カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に対して0.05~5重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維がアクリレート系繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項7】
20°C、相対湿度65%雰囲気下における飽和吸湿率が10~50%であることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項8】
請求項1~4,6,7のいずれかに記載の撥水吸湿繊維を含有する繊維構造物。」
申立人は、次の甲第1号証~甲第9号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲9」という。)を証拠として提出している。
甲第1号証(甲1):「NKガード S-0671」カタログ、日華化学株式会社、2016年8月10日発行
甲第2号証(甲2):垣内弘、新・基礎高分子化学、昭和54年5月20日、第138頁~第141頁
甲第3号証(甲3):特開2021-42488号公報
甲第4号証(甲4):国際公開第2017/217484号
甲第5号証(甲5):「AG-E082」のカタログ、AGC株式会社、2018年10月
甲第6号証(甲6):特開2021-134474号公報
甲第7号証(甲7):特開2019-130633号公報
甲第8号証(甲8):インターネットアーカイブ(The wayback machine)が保存している協和界面科学株式会社のウェプサイトにおける「滑落角とは?」のページhttps://web.archive.org/web/20210213115133/https://www.face-kyowa.co.jp/science/theory/what_sliding_angle.html、2021年2月13日
甲第9号証(甲9):特開2020-116487号公報
令和7年12月22日付け取消理由通知の取消理由の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件)
本件特許は、請求項1~4、6~8の記載において「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維」のカルボキシル基量が何ら特定されておらず、発明が解決しようとする課題を解決できないものを含む点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2(新規性)
本件発明1~4、8は、甲1、甲3、甲6または甲7に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~4、8は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(進歩性)
本件発明1~4、8は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が甲1、甲3、甲6または甲7に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4、8は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件発明1は、上記第3に記載したとおりのものであり、本件訂正により、「前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有して」いることが特定された。これにより、本件発明1は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載ものであると認められる。また、本件発明2~4、6~8も同様である。
よって、サポート要件についての取消理由1は解消された。
(1)甲号証の記載及び甲号証に記載された発明等
ア 甲1の記載と甲1発明
(ア) 甲1の記載
甲1には以下の記載がある。
「
NKガード S-0671は、
優れた洗濯耐久撥水性と初期の良好な水弾き性を持つPFOA-freeの
フッ素系撥水撥油剤です。
」
「特徴
1.
合繊
(ポリエステル、
ナイロン
)
に対して、優れた洗濯耐久撥水撥油性と柔軟性を付与します。
」
「使用方法
1.
最適使用量
:被処理物の種類、組織、目付、機械装置により異なりますが、
パッド処理: 3~8%soln.を基準とします
。
※
pick-up率 50~70%想定
2.
推奨処方例
:合繊(加工機械:マングル)
NKガード S-0671 5%soln.
メラミン樹脂/メラミン触媒 0.3/0.1%soln.」
(イ)甲1発明
上記(ア)の記載によれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
[甲1発明]
優れた洗濯耐久撥水撥油性と柔軟性を付与するフッ素系撥水撥油剤であるNKガード S-0671が使用された合繊(ナイロン)であって、
最適使用量として、pick-up率50~70%想定でパッド処理: 3~8%soln.を基準とし、推奨処方例として、5%soln.とする、NKガード S-0671が使用された合繊(ナイロン)。
イ 甲2の記載と甲2記載事項
(ア)甲2の記載
甲2には以下の記載がある。
「7・1・5 ラクタムの開環重合
ラクタムは重合すればポリアミドとなり、7員環のカプロラクタムは、ナイロン-6になる。
22
90
0001437405000001.jpg
」(第139頁第17行~第21行)
「(a)
加水分解重合
・・・(中略)・・・
22
111
0001437405000002.jpg
」(第140頁第4行~第13行)
(イ)甲2記載事項
上記(ア)によれば、甲2には、式(7・33)の左式で示される7員環のカプロラクタムが重合すると、式(7・33)の右式で示されるナイロン-6が生成され、7員環のカプロラクタムが加水分解重合すると、式(7・36)の右式で示されるアミド基(CONH)と、カルボキシル基(COOH)を有するナイロン-6が生成されることが記載されているといえる。
そうすると、甲2には、次の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されている。
[甲2記載事項]
加水分解重合により生成されたナイロン-6は、アミド基及びカルボキシル基を有する。
ウ 甲3の記載と甲3発明
(ア)甲3の記載
甲3には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の従来技術に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、高い撥水性と洗濯耐久性を有する撥水性布帛、並びに有機溶媒の使用を低減した該撥水性布帛の製造方法を提供することである。」
「【発明を実施するための形態】
・・・(中略)・・・
【0012】
図1に示すように、
撥水性布帛1は、布帛を構成する繊維2、及び繊維2の表面に形成された被膜3からなる。被膜3は、親水性粒子4と、これを覆う撥水剤5とバインダー樹脂6の混合物から構成される。
尚、撥水剤5とバインダー樹脂6の混合物が親水性粒子4を全て覆うことが望ましいが、覆われていない部分が僅かに存在していたとしても構わない。被膜3の表面には、親水性粒子5の立体構造に起因する凹凸形状が形成されため、布帛を構成する繊維2の表面上に緻密な凹凸を有する撥水性被膜が形成され、蓮の葉効果が発現することで、高い撥水性が発現する。尚、被膜3は繊維2の表面全てを被覆していることが望ましいが、局所的に被膜が形成されていない部分がある場合にも高い撥水性が発現する。
・・・(中略)・・・
【0015】
撥水剤5としては、繊維表面に疎水性の被膜を形成することが可能であるものであれば特に制限されず
、例えば、フッ素系撥水剤、
長鎖アルキル系撥水剤
、シリコーン系撥水剤、アクリル系撥水剤、ウレタン系撥水剤、パラフィンワックス等
が挙げられる
。これらの内、フッ素共重合物、長鎖アルキル共重合物、シリコーン共重合物からなる群から選択される少なくとも1つ以上を主成分とする撥水剤が望ましい。これらの市販品として、フッ素共重合物を主成分とする撥水剤としては、「AsahiGuard E-SERIES AG-E082」(明成化学工業株式会社製)、
長鎖アルキル共重合物を主成分とする撥水剤としては、
「メイシールドZ-1」、「メイシールドP-350K」(以上、明成化学工業株式会社製)、「
ネオシードNR-7080
」、「ネオシードNR-7200」(以上、日華化学株式会社製)、シリコーン共重合物を主成分とする撥水剤としては、「ネオシードNR-8000」(日華化学株式会社製)
が例示できる
。尚、複数種類の撥水剤を混合したものを用いてもよい。
・・・(中略)・・・
【0020】
本実施形態の
撥水性布帛を構成する撥水処理が施される繊維の種類は
、所望の効果を生じる限り特に制限されず、
ナイロン
、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン等の合成繊維、綿、麻、絹、ウール等の天然繊維、これらを組み合わせた繊維
を挙げることができる。
また、本実施形態の撥水性布帛は、繊維から構成されるものである限り、特に制限はないが、編物、織物、不織布等を挙げることができる。尚、本発明においては、ナイロン薄地織物において特に優れた撥水性を発現させることができる。
・・・(中略)・・・
【
実施例
】
・・・(中略)・・・
【0024】
[
実施例1
]
ナイロン6仮撚加工糸からなる織物を基材とし
、フッ素系共重合物を主成分とする撥水剤(AsahiGuard E-SERIES AG-E082(明成化学工業株式会社製))5部、ケイ素化合物とアルミニウム化合物の複合物を主成分とする平均一次粒子径40nmの親水性粒子(スノーテックスST-AK-L(日産化学株式会社製))0.5部、並びにブロックドイソシアネートを主成分とするバインダー樹脂(メイカネートFM-1(明成化学工業株式会社製))1部の混合水分散体を、基材にパディングし、2本のゴムローラーでニップ(ピックアップ率67%)し、100°Cにて90秒間乾燥させた後、180°Cにて90秒間キュアを行うことにより、撥水性布帛を作製した。」
(イ)甲3発明
上記(ア)によれば、甲3には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
[甲3発明]
布帛を構成する繊維2、及び繊維2の表面に形成された被膜3からなる撥水性布帛1であって、
被膜3は、親水性粒子4と、これを覆う撥水剤5とバインダー樹脂6の混合物から構成され、
撥水剤5としては、繊維表面に疎水性の被膜を形成することが可能であるものであり、長鎖アルキル系撥水剤が挙げられ、
長鎖アルキル共重合物を主成分とする撥水剤としては、ネオシードNR-7080が例示でき、
撥水性布帛を構成する撥水処理が施される繊維の種類は、ナイロンを挙げることができる、撥水性布帛1。
エ 甲4の記載と甲4記載事項
(ア)甲4の記載
甲4には以下の記載がある。
「[0121]
(実施例3)
処方2に示す組成の水溶液の代わりに下記処方3に示す組成の水溶液を使用して撥水加工を行ったこと以外は、実施例1と同条件で、撥水性織編物(経糸密度197本/2.54cm、緯糸密度144本/2.54cm、カバーファクター(CF)2720)を得た。
<処方3>
炭化水素系撥水剤(非フッ素系撥水剤):日華化学株式会社製「ネオシードNR
-7080(商品名)固形分30質量%」 100g/L
架橋剤:DIC株式会社製、メラミン樹脂「ベッカミンM-3(商品名)」 7g/L
触媒:DIC株式会社製「キャタリストACX(商品名)固形分35質量%」 5g/L」
(イ)甲4記載事項
上記(ア)によれば、甲4には、ネオシードNR-7080が非フッ素系撥水剤である、すなわち、フッ素原子を含有していないことが記載されているといえる。
そうすると、甲4には、次の事項(以下「甲4記載事項」という。)が記載されている。
[甲4記載事項]
ネオシードNR-7080は、フッ素原子を含有していない。
オ 甲5の記載と甲5記載事項
(ア)甲5の記載
甲5(「AG-E082」のカタログ)には以下の記載がある。
「
AG-E082
・・・(中略)・・・
性状
・・・(中略)・・・
・
固形分: 20%
」
(イ)甲5記載事項
上記(ア)によれば、甲5には、次の事項(以下「甲5記載事項」という。)が記載されている。
[甲5記載事項]
AG-E082の固形分は20%である。
カ 甲6の記載と甲6発明
(ア)甲6の記載
甲6には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
・・・(中略)・・・
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、対象物に涼感を与えることができ、洗濯することによって繰り返し使用することができ、かつ、濡れていたとしてもドライ感が感じられる布帛および衣料を提供することを目的とする。」
「【実施例】
・・・(中略)・・・
【0068】
(実施例3)
厚み0.58mmで目付154g/m
2
の
ナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%織物を用いて以下の加工を実施した。
【0069】
<
撥水加工工程
>
下記条件でフラットスクリーン捺染機を使用して
捺染糊
(粘度20000mPa・s)
を片面の表面にのみ印捺処理した。
スクリーン版のメッシュ数は300メッシュ/2.54cmとし、捺染糊塗布量を30g/m2に設定した。印捺処理後の布帛を120°Cで1分乾燥し、その後160°Cで1分間、乾熱処理をした。その後、オープンソーパーで不要な固形物を洗い落した。
(
捺染糊処方
)
アクリル系撥水剤(*5) 6.0質量%
ウレタン系架橋剤(*6) 1.0質量%
CMC系増粘剤(*7) 8.0質量%
水 85.0質量%
合計 100.0質量%
(*5)
商品名:
ネオシードNR-7080
、日華化学(株)製
(*6)商品名:NKアシストNY-50、日華化学(株)製
(*7)商品名:サンローズPN20L、日本製紙(株)製」
(イ)甲6発明
上記(ア)によれば、甲6には次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているといえる。
[甲6発明]
撥水加工が実施されたナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%織物であって、
前記撥水加工は、捺染糊を片面の表面にのみ印捺処理し、
捺染糊は、アクリル系撥水剤を6.0質量%含み、
前記アクリル系撥水剤は、ネオシードNR-7080である、織物。
キ 甲7の記載と甲7発明
(ア)甲7の記載
甲7には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記従来技術の背景に鑑み、シリコンベアウエハ、ガラス、化合物半導体基板およびハードディスク基板等において良好な鏡面を形成するために使用される研磨布であって、研磨速度が高く、目詰まりが起きにくく寿命が長い研磨布を提供することを課題とする。」
「【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の研磨布は不織布および高分子弾性体を主成分とする。主成分という量を定義するならば、研磨布に対して80質量%以上、さらに90質量%以上、またさらに95質量%以上である。
【0009】
本発明での
不織布は、不織布に含まれている繊維が絡合しており、前記絡合されている繊維は平均単繊維径が3.0~8.0μmの極細繊維の束である。
・・・(中略)・・・
【0020】
本発明で用いられる
極細繊維を与えるポリマーとしては、
例えば、ポリエステル、
ポリアミド
、ポリオレフィンおよびポリフェニレンスルフィド(略称「PPS」)等
を挙げることができる。
ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、耐熱性に優れており好ましく用いられる。ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(略称「PET」)、ポリブチレンテレフタレートおよびポチトリメチレンテレフタレート等を挙げることができる。また、
ポリアミドの具体例としては、ナイロン6
、ナイロン66およびナイロン12等
を挙げることができる。
・・・(中略)・・・
【0034】
本発明の研磨布の表の面は、水の接触角が100度以上の撥水性表面であることが必要である。高分子弾性体を不織布に付与したそのもの、必要に応じて起毛処理したもの、さらに必要に応じて、毛落ち防止処理したもの、いずれかの研磨布用材料の表の面に撥水処理をおこなうことで、この特性を得ることができる。
撥水処理の方法として、撥水剤の溶液を不織布材料の表の面に塗布
して、乾燥させる方法や、撥水機能を有する低分子化合物を蒸気で研磨布材料の表の面に接触させながらプラズマ放電をして、繊維絡合体表面に撥水機能を有する重合物を堆積させる方法が例示される。
溶液上の撥水剤として、フッ素系撥水剤
、シリコーン系撥水剤、脂肪族炭化水素系撥水剤等
がある
。これらの中で、水の接触角で100度以上を実現できやすいという点で、フッ素系撥水剤が好ましい。
フッ素系撥水剤としては
、旭硝子(株)製の“アサヒガード”(登録商標)AG-E061、AG-E081、AG-E082やダイキン工業(株)製の“ユニダイン”(登録商標)TG-4571、TG-5541、TG-5546や日華化学(株)の“
NKガード
”(登録商標)S-07、S-11、S-750、
S-0671
等
があげられる。
」
(イ)甲7発明
上記(ア)によれば、甲7には次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているといえる。
[甲7発明]
極細繊維の束を含む不織布であって、
極細繊維を与えるポリマーとしては、ポリアミドを挙げることができ、
ポリアミドの具体例としては、ナイロン6を挙げることができ、
不織布材料は、撥水処理としてその表の面に撥水剤の溶液が塗布され、
溶液上の撥水剤として、フッ素系撥水剤があり、
フッ素系撥水剤としては、NKガードS-0671があげられる、不織布。
(2)甲1を主引例とする取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「合繊(ナイロン)」と本件発明1の「吸湿性繊維」とは、「繊維」である点で共通する。
(イ)甲1発明の「NKガード S-0671」は、「フッ素系撥水撥油剤」であるから、本件発明1と「撥水剤」である点で共通する。
(ウ)甲1発明の「NKガード S-0671」が使用された「合繊(ナイロン)」は、「優れた洗濯耐久撥水撥油性と柔軟性」が付与されていることから、「撥水性繊維」であるといえる。また、「合繊(ナイロン)」に「フッ素系撥水撥油剤であるNKガード S-0671」が使用されることにより、合繊(ナイロン)にフッ素系撥水撥油剤が付着していることは明らかである。したがって、甲1発明の「フッ素系撥水撥油剤であるNKガード S-0671」が使用された「合繊(ナイロン)」は、本件発明1の「吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維」と、「繊維に撥水剤が付着してなる撥水性繊維」である点で共通する。
(エ) 上記(ア)~(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点1~3を有する。
[一致点]
繊維に撥水剤が付着してなる撥水性繊維。
[相違点1]
本件発明1では、「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維」に撥水剤を付着させて「撥水吸湿性繊維」としているのに対し、甲1発明では、「合繊(ナイロン)」にフッ素系撥水撥油剤であるNKガード S-0671を使用して「NKガード S-0671が使用された合繊(ナイロン)」としている点。
[相違点2]
撥水剤について、本件発明1では、「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下である」のに対し、甲1発明では、このような特定がされていない点。
[相違点3]
本件発明1では、「前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有して」いるのに対し、甲1発明では、このような特定がされていない点。
イ 判断
相違点1について検討する。
甲1発明の「合繊(ナイロン)」は、ナイロン-6を含む概念であり、加水分解重合により生成されたナイロン-6は、甲2記載事項のとおり、アミド基及びカルボキシル基を有するものであるところ、アミド基やカルボキシル基により、吸湿性が発現することは技術常識であるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
次に、相違点2について検討する。
甲1発明の「S-0671」は、本件特許の実施例2で使われているもので、付着エネルギーは10mJ/m
2
以下であるといえるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
次に、相違点3について検討する。
甲1発明は、上記(1)ア(イ)のとおりであるところ、甲1発明の「合繊(ナイロン)」は、カルボキシル基の含有量について特定されておらず、また、甲1発明の「合繊(ナイロン)」のカルボキシル基の含有量が「2~9mmol/g」であることが自明であるともいえないから、相違点3は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1発明ではない。
また、甲1発明の「合繊(ナイロン)」は、カルボキシル基の含有量について特定されていないから、甲1発明の「合繊(ナイロン)」において、カルボキシル基の含有量を「2~9mmol/g」とする動機付けはない。
さらに、甲2~甲7に記載された事項は、上記(1)イ~キのとおりであるところ、いずれの記載事項も、相違点3の構成を開示するものではなく、甲8、甲9にも、相違点3の構成は開示されていない。
したがって、甲1発明に、甲2~甲9に記載された事項を組み合わせる動機付けはないし、たとえ組み合わせることができたとしても、本件発明1の構成に至ることはなく、他に相違点3に係る構成が周知技術であったということもできないから、甲1発明において、相違点3の構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
以上によれば、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、周知技術を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2、4、8は、本件発明1を限定した発明であり、甲1発明と対比すると、少なくとも、上記ア(エ)の[相違点3]を有することから、本件発明1と同様に、本件発明2、4、8は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、周知技術を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)甲3を主引例とする取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
ア 対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
(ア)甲3発明の「ナイロン」は、「繊維」であるから、本件発明1の「吸湿性繊維」とは、「繊維」である点で共通する。
(イ)甲3発明の「ネオシードNR-7080」は、「撥水剤」であるから、本件発明1と「撥水剤」である点で共通する。
(ウ)甲3発明の「親水性粒子4と、これを覆う撥水剤5とバインダー樹脂6の混合物から構成され」る「被膜3」が「表面に形成され」、「撥水剤」である「ネオシードNR-7080」により「繊維表面に疎水性の被膜」が形成される「繊維2」は、本件発明1の「吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維」と、「繊維に撥水剤が付着してなる撥水性繊維」である点で共通する。
(エ)上記(ア)~(ウ)によれば、本件発明1と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点4~6を有する。
[一致点]
繊維に撥水剤が付着してなる撥水性繊維。
[相違点4]
本件発明1では、「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維」に撥水剤を付着させて「撥水吸湿性繊維」としているのに対し、甲3発明では、「繊維」である「ナイロン」に撥水剤であるネオシードNR-7080により繊維表面に疎水性の被膜が形成された「撥水処理が施される繊維」としている点。
[相違点5]
撥水剤について、本件発明1では、「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下である」のに対し、甲3発明では、このような特定がされていない点。
[相違点6]
本件発明1では、「前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有して」いるのに対し、甲3発明では、このような特定がされていない点。
イ 判断
相違点4について検討する。
甲3発明の「ナイロン」は、ナイロン-6を含む概念であり、また、上記(1)ウ(ア)の段落【0024】に記載のように、甲3の実施例においてもナイロン-6が使用されており、加水分解重合により生成されたナイロン-6は、甲2記載事項のとおり、アミド基及びカルボキシル基を有するものであるところ、アミド基やカルボキシル基により、吸湿性が発現することは技術常識であるから、上記相違点4は実質的な相違点ではない。
次に、相違点5について検討する。
甲3発明の「ネオシードNR-7080」は、本件特許の実施例1で使われているもので、付着エネルギーは10mJ/m
2
以下であるといえるから、上記相違点5は実質的な相違点ではない。
次に、相違点6について検討する。
甲3発明は、上記(1)ウ(イ)のとおりであるところ、甲3発明の「繊維」は、カルボキシル基の含有量について特定されておらず、また、甲3発明の「繊維」のカルボキシル基の含有量が「2~9mmol/g」であることが自明であるともいえないから、相違点6は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲3発明ではない。
また、甲3発明の「繊維」は、カルボキシル基の含有量について特定されていないから、甲3発明の「繊維」において、カルボキシル基の含有量を「2~9mmol/g」とする動機付けはない。
さらに、甲1、2、4~7に記載された事項は、上記(1)ア、イ、エ~キのとおりであるところ、いずれの記載事項も、相違点6の構成を開示するものではなく、甲8、甲9にも、相違点6の構成は開示されていない。
したがって、甲3発明に、甲1、2、4~9に記載された事項を組み合わせる動機付けはないし、たとえ組み合わせることができたとしても、本件発明1の構成に至ることはなく、他に相違点6に係る構成が周知技術であったということもできないから、甲3発明において、相違点6の構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
以上によれば、本件発明1は、甲3発明ではなく、また、甲3発明及び甲1、2、4~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、周知技術を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2~4、8は、本件発明1を限定した発明であり、甲3発明と対比すると、少なくとも、上記ア(エ)の[相違点6]を有することから、本件発明1と同様に、本件発明2~4、8は、甲3発明ではなく、また、甲3発明及び甲1、2、4~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、周知技術を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)甲6を主引例とする取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
ア 対比
本件発明1と甲6発明を対比する。
(ア)甲6発明の「ナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」と本件発明1の「吸湿性繊維」とは、「繊維」である点で共通する。
(イ)甲6発明の「ネオシードNR-7080」は、「アクリル系撥水剤」であるから、本件発明1と「撥水剤」である点で共通する。
(ウ)甲6発明の「ナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」は「撥水加工が実施された」ものであり、「前記撥水加工は、捺染糊を片面の表面にのみ印捺処理し、捺染糊は、」「ネオシードNR-7080」である「アクリル系撥水剤を6.0質量%含」むとされている。印捺処理によって繊維に捺染糊の含有成分が付着することは明らかであるから、甲6発明の「撥水加工が実施されたナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」は、本件発明1の「吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維」と、「繊維に撥水剤が付着してなる撥水性繊維」である点で共通する。
(エ)上記(ア)~(ウ)によれば、本件発明1と甲6発明とは、以下の一致点及び相違点7~9を有する。
[一致点]
繊維に撥水剤が付着してなる撥水性繊維。
[相違点7]
本件発明1では、「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維」に撥水剤を付着させて「撥水吸湿性繊維」としているのに対し、甲6発明では、「ナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」にアクリル系撥水剤であるネオシードNR-7080を含む捺染糊を片面の表面にのみ印捺処理した「撥水加工が実施されたナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」としている点。
[相違点8]
撥水剤について、本件発明1では、「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下である」のに対し、甲6発明では、このような特定がされていない点。
[相違点9]
本件発明1では、「前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有して」いるのに対し、甲6発明では、このような特定がされていない点。
イ 判断
相違点7について検討する。
甲6発明の「ナイロン繊維」は、ナイロン-6を含む概念であり、加水分解重合により生成されたナイロン-6は、甲2記載事項のとおり、アミド基及びカルボキシル基を有するものであるところ、アミド基やカルボキシル基により、吸湿性が発現することは技術常識であるから、上記相違点7は実質的な相違点ではない。
次に、相違点8について検討する。
甲6発明の「ネオシードNR-7080」は、本件特許の実施例1で使われているもので、付着エネルギーは10mJ/m2以下であるといえるから、上記相違点8は実質的な相違点ではない。
次に、相違点9について検討する。
甲6発明は、上記(1)カ(イ)のとおりであるところ、甲6発明の「ナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」は、カルボキシル基の含有量について特定されておらず、また、甲6発明の「ナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」のカルボキシル基の含有量が「2~9mmol/g」であることが自明であるともいえないから、相違点9は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲6発明ではない。
また、甲6発明の「ナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」は、カルボキシル基の含有量について特定されていないから、甲6発明の「ナイロン繊維80%、ポリエステル繊維20%」において、カルボキシル基の含有量を「2~9mmol/g」とする動機付けはない。
さらに、甲1~5、7に記載された事項は、上記(1)ア~オ、キのとおりであるところ、いずれの記載事項も、相違点9の構成を開示するものではなく、甲8、甲9にも、相違点9の構成は開示されていない。
したがって、甲6発明に、甲1~5、7~9に記載された事項を組み合わせる動機付けはないし、たとえ組み合わせることができたとしても、本件発明1の構成に至ることはなく、他に相違点9に係る構成が周知技術であったということもできないから、甲6発明において、相違点9の構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
以上によれば、本件発明1は、甲6発明ではなく、また、甲6発明及び甲1~5、7~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、周知技術を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2、3、8は、本件発明1を限定した発明であり、甲6発明と対比すると、少なくとも、上記ア(エ)の[相違点9]を有することから、本件発明1と同様に、本件発明2、3、8は、甲6発明ではなく、また、甲6発明及び甲1~5、7~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、周知技術を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)甲7を主引例とする取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
ア 対比
本件発明1と甲7発明を対比する。
(ア)甲7発明の「極細繊維」と本件発明1の「吸湿性繊維」とは、「繊維」である点で共通する。
(イ)甲7発明の「NKガードS-0671」は、「フッ素系撥水剤」であるから、本件発明1と「撥水剤」である点で共通する。
(ウ)甲7発明の「不織布材料」は、「撥水処理としてその表の面に」「NKガードS-0671」である「撥水剤の溶液が塗布され」たものであるから、「不織布」に含まれる「極細繊維」に撥水剤が付着していることは明らかである。したがって、甲7発明の「撥水処理としてその表の面に」「NKガードS-0671」である「撥水剤の溶液が塗布され」た「不織布材料」に含まれる「極細繊維」は、本件発明1の「吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維」と、「繊維に撥水剤が付着してなる撥水性繊維」である点で共通する。
(エ)上記(ア)~(ウ)によれば、本件発明1と甲7発明とは、以下の一致点及び相違点10~12を有する。
[一致点]
繊維に撥水剤が付着してなる撥水性繊維。
[相違点10]
本件発明1では、「カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維」に撥水剤を付着させて「撥水吸湿性繊維」としているのに対し、甲7発明では、「極細繊維」である「ナイロン6」にフッ素系撥水剤であるNKガードS-0671を塗布して、「撥水処理」された「極細繊維」としている点。
[相違点11]
撥水剤について、本件発明1では、「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下である」のに対し、甲7発明では、このような特定がされていない点。
[相違点12]
本件発明1では、「前記吸湿性繊維が2~9mmol/gのカルボキシル基を含有して」いるのに対し、甲7発明では、このような特定がされていない点。
イ 判断
相違点10について検討する。
甲7発明の「ナイロン6」について、加水分解重合により生成されたナイロン-6は、甲2記載事項のとおり、アミド基及びカルボキシル基を有するものであるところ、アミド基やカルボキシル基により、吸湿性が発現することは技術常識であるから、上記相違点10は実質的な相違点ではない。
次に、相違点11について検討する。
甲7発明の「NKガードS-0671」は、本件特許の実施例2で使われているもので、付着エネルギーは10mJ/m
2
以下であるといえるから、上記相違点11は実質的な相違点ではない。
次に、相違点12について検討する。
甲7発明は、上記(1)キ(イ)のとおりであるところ、甲7発明の「極細繊維」は、カルボキシル基の含有量について特定されておらず、また、甲7発明の「極細繊維」のカルボキシル基の含有量が「2~9mmol/g」であることが自明であるともいえないから、相違点12は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲7発明ではない。
また、甲7発明の「極細繊維」は、カルボキシル基の含有量について特定されていないから、甲7発明の「極細繊維」において、カルボキシル基の含有量を「2~9mmol/g」とする動機付けはない。
さらに、甲1~6に記載された事項は、上記(1)ア~カのとおりであるところ、いずれの記載事項も、相違点12の構成を開示するものではなく、甲8、甲9にも、相違点12の構成は開示されていない。
したがって、甲7発明に、甲1~6、8、9に記載された事項を組み合わせる動機付けはないし、たとえ組み合わせることができたとしても、本件発明1の構成に至ることはなく、他に相違点12に係る構成が周知技術であったということもできないから、甲7発明において、相違点12の構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
以上によれば、本件発明1は、甲7発明ではなく、また、甲7発明及び甲1~6、8、9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、周知技術を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2、8は、本件発明1を限定した発明であり、甲7発明と対比すると、少なくとも、上記ア(エ)の[相違点12]を有することから、本件発明1と同様に、本件発明2、8は、甲7発明ではなく、また、甲7発明及び甲1~6、8、9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、周知技術を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)小括
上記(2)~(5)によれば、本件発明1~4、8は、甲1発明、甲3発明、甲6発明または甲7発明ではなく、また、甲1発明、甲3発明、甲6発明または甲7発明及び甲1~9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、新規性についての取消理由2及び進歩性についての取消理由3は解消された。
申立人が特許異議申立書で主張する理由のうち、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由(以下、「申立理由」という。)は、概略、次のとおりである。
(1)申立理由2A~2C(進歩性違反)
本件発明7は、甲1、甲3または甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)申立理由3(実施可能要件違反)
発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。
(3)申立理由4(サポート要件違反)
本件発明1~8は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
(4)申立理由5(明確性要件違反)
本件発明1~8は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)申立理由2A~2C(進歩性違反)についての当審の判断
申立人は、特許異議申立書19頁下から7行~20頁1行、22頁下から8行~同頁最終行及び25頁5行~同頁13行において、本件発明7は、甲1発明、甲3発明または甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
しかしながら、本件発明7は、本件発明1を限定した発明であり、上記第4の4(2)イ、上記第4の4(3)イ及び上記第4の4(4)イで検討したように、本件発明1は、甲1発明、甲3発明または甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1と同様に、本件発明7は、甲1発明、甲3発明または甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(2)申立理由3(実施可能要件違反)についての当審の判断
ア 申立人は、特許異議申立書27頁下から7行~28頁下から10行において、発明の詳細な説明は、「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であること」という結果を得るための具体的な手段が開示されておらず、また、カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維において、なぜ撥水剤単体の水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であることによって、あらゆる吸湿性繊維において撥水剤の脱落抑制の効果を奏するのかについて作用機序にかかる技術的説明も欠落しているため、当業者は、本件発明における効果との関係において、撥水剤そのものの性質として規定された水の付着エネルギーの技術的意義を理解することができず、実施可能要件を満たさない旨、主張している。
しかしながら、水の付着エネルギーの測定方法は本件特許明細書の【0028】に記載されており、当該測定方法を用いて公知の撥水剤を測定することにより、「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下である」撥水剤を特定することは可能である。
また、本件特許明細書の【0010】の「撥水剤の水の付着エネルギーが大きいほど、すなわち撥水剤と水との親和性が高いほど、撥水処理後の水洗によって、固着不十分の撥水剤が繊維から水洗水に脱落しやすくなる。」との記載から、撥水剤の水の付着エネルギーが小さいほど、撥水剤の脱落抑制の効果を奏するものと理解でき、本件特許明細書の【0010】の「該撥水剤が前記撥水吸湿性繊維から脱落することを抑止するため、水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であり」との記載、及び、本件特許明細書の【0036】の【表1】に示される実施例1、2、比較例1の測定結果から、「撥水剤」の「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下であ」ることにより、「該撥水剤が前記撥水吸湿性繊維から脱落することを抑止する」ことができることが理解でき、本件特許明細書の【0010】に記載のように「撥水剤の水の付着エネルギー」とは、「該撥水剤からなる層の表面上における水の付着エネルギーを指」すことから、撥水剤が付着する吸湿性繊維の材質によらずに、撥水剤の脱落抑制の効果を奏するものと理解できる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
イ 申立人は、特許異議申立書28頁下から8行~29頁6行において、本件特許明細書には、どのような撥水剤であれば水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下になるかについての説明がなされておらず、そのため、当業者が本件発明1を実施しようとする場合、市販の撥水剤を複数入手して、各撥水剤について水の付着エネルギーを一つずつ測定し、10mJ/m
2
以下となっているか否かを検討することを要し、本件発明1を実施するためには、当業者は期待し得る程度を超える試行錯誤を強いられることになるから、実施可能要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、上記アで検討したとおり、水の付着エネルギーの測定方法は本件特許明細書の【0028】に記載されており、当該測定方法を用いて公知の撥水剤を測定することにより、「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下である」撥水剤を特定することは可能である。そして、本件特許明細書の【0028】の測定方法については、下記(4)イのとおり測定条件は特殊なものではないから、当業者は期待し得る程度を超える試行錯誤を強いられることになるとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(3)申立理由4(サポート要件違反)についての当審の判断
申立人は、特許異議申立書29頁8行~同頁21行において、本件特許明細書の実施例1、2の記載によれば、課題を解決する具体的な手段として、カルボキシル基量が3.3mmol/gからなる吸湿性架橋アクリレート系繊維に対して、水の付着エネルギーが6.7mJ/m
2
又は7.3mJ/m
2
、並びにゼータ電位が34.7mV又は36.3mVである撥水剤を浸漬処理した例のみが記載されているところ、発明の詳細な説明を参酌しても、上記構成でない場合、例えばアクリレート系繊維でない場合や、カルボキシル基量が上記値以外の場合においても効果を奏する旨の技術的根拠が記載されておらず、また、そのような技術常識があるともいえず、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1は、サポート要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、上記(2)アで検討したように、撥水剤の脱落抑制の効果は、「撥水剤」の「水の付着エネルギー」について「10mJ/m
2
以下」としたことにより奏されるものであり、撥水剤が付着する吸湿性繊維の材質によらないものと理解できる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(4)申立理由5(明確性要件違反)についての当審の判断
ア 申立人は、特許異議申立書29頁下から7行~同頁最終行において、本件発明1では、撥水剤の水の付着エネルギーが0mJ/m
2
の場合、すなわち撥水性が無限に大きい場合も含まれ、本件発明1は、このような上限だけを示すような数値範囲の限定がある結果、発明の範囲が不明確となっているため、明確性要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、本件特許明細書の【0028】には「本発明において水の付着エネルギーは低い値であるほど好ましいため、下限については特に限定されない。」と記載されているところ、技術常識を考慮すれば、現実に存在しうる数値を含むものと理解することができ、本件発明1は明確である。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
イ 申立人は、特許異議申立書30頁1行~同頁14行において、本件発明1には、水の付着エネルギーの測定条件は何ら規定されておらず、本件特許明細書の【0028】にも、どのような温度及び湿度等の環境下で測定した値であるかの記載がなく、出願当時の技術常識を参酌しても、当業者はどのような構成のものが本件発明1に含まれるのかを認識できないから、本件発明1は、明確性要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、本件特許明細書の【0028】には、「水の付着エネルギーの測定方法」を、特殊な環境下で行う旨の記載はなく、また、特殊な環境下で行うことが技術常識であるともいえないから、本件発明1の「水の付着エネルギー」の測定は、通常の環境下、すなわち、常温・常湿にて行われているものといえる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
ウ 申立人は、特許異議申立書30頁16行~同頁23行において、本件発明1に規定されている「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下」であるとの発明特定事項は、撥水剤の具体的な化学構造、組成、物性等の技術的構成を特定するものではなく、単に達成すべき結果・課題を記載したに過ぎないものであり、達成すべき「結果」や「課題」そのもの(すなわち、水との親和性が低いこと)を言い換えたにすぎない本件特許発明の特定は、発明の技術的範囲を不明確にするものであるから、本件発明1は、明確性要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、上記(2)アで検討したように、撥水剤の脱落抑制の効果は、「撥水剤」の「水の付着エネルギー」について「10mJ/m
2
以下」としたことにより奏されるものであり、「水の付着エネルギーが10mJ/m
2
以下」であることが、達成すべき結果・課題であるとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~4、6~8を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4、6~8を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項5は削除されたから、請求項5に係る特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しなくなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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