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Trademark Appeal Case

立体商標の類否と周知性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023890045
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 本件商標

本件登録第6118205号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなる立体商標であり、平成28年12月16日に登録出願、第21類及び第45類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成30年11月13日に登録審決、同31年2月1日に設定登録されたものである。

第2 請求人が引用する商標(商品)

本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は、請求人が販売する別掲3の構成からなる商品(開運祈願用道具)であって、本件商標と同様の直方体の立体形状からなり、図形、模様、文字、上面(蓋部材)及び左側面の表現形態などが酷似し、かつ、2011年以前に我が国で周知であったと主張するものである(以下、上記商品を「引用商標」という。)。

第3 請求人の主張

請求人は、本件商標の商標登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書、令和5年12月21日付け上申書、同6年1月16日提出の上申書、同年4月4日付け上申書(1)及び(2)、同年10月11日付け上申書(2)及び令和6年1月5日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)に対する同年12月13日付け審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)において、要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第33号証(枝番号を含む。以下「甲第1号証」を「甲1」のように記載し、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。

本件商標に関する商標登録は、商標法第3条第1項第2号、同項第3号及び同項第6号に違反してなされたものである。

また、仮に、本件商標に関する商標登録が商標法第3条第1項第2号、同項第3号及び同項第6号に違反してされたものでなかったとしても、同法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反してされたものである。

さらに、本件商標に関する商標登録が、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものではないとしても、同項第15号、同項第16号及び同項第19号に違反してされたものである。

1 本件商標

(1)本件商標の形状

本件商標は立体商標であり(甲2)、その全体形状は直方体である。本件商標は、その指定商品を鑑みると、有底の収納部材(以下「本体」ということがある。)と蓋部材とから構成されている箱状の立体である。

(2)上面(蓋部材)

本件商標の上面には、八角形の方位盤を示す図(包装容器である収納箱の蓋の大きさに収まるように簡略化された方位盤、方位盤に様々な態様がある。甲3)が朱色で表され、「東」の文字が本体にかかるように黒色で書されている。

(3)本体の左側面

本件商標の本体の左側面には、朱色の団扇紋(羽団扇紋、団扇紋に様々な態様がある。甲4)と、上記羽団扇紋に重ねて、黒色の「祝詞師」及び「敬白」なる文字が書されている(「祝詞師」及び「敬白」の意味については甲5の1、2を参照。)。

(4)本体右側面

本件商標の本体の右側面には、黒色で「土金兼備祭」及び「祭主」の文字が書されている。

(5)本体の正面、背面及び底面

本件商標の本体の正面、背面及び底面には、模様又は文字はいずれも書されていない。

2 引用商標(請求人の販売している商品)

請求人は、開運祈願用道具(以下「術具」ということがある。)を2011年以前から販売している(甲6の1~3)。術具は商取引の目的たり得べきものであるから、商標法上の「商品」に該当する。この商品(開運祈願用道具)は、「収納箱・お守り札・麻紐・布・金粉・球体を一組とした道具セット」であるから、本件商標の指定商品と同一の構成である。以下に請求人の販売している商品を引用商標として、本件商標との異同を検討する。

(1)形状

引用商標は、お守り札、麻紐、布、金粉、金属の球体が収納箱に収められたものである(甲6の1、甲8の1~7)。上記収納箱の全体形状は、本件商標と同様に直方体であり、有底の収納部材(本体)と蓋部材とから構成されている。

埋金法において用いられる収納箱は、ひのきか桐で造られた1辺59mmの立方体であることが古法で定められている(甲6の5~7)。甲第6号証の7は2003年に発行された書籍であるが、埋金法では蓋と本体とからなる1辺50mmのひのき又は桐材の箱を使用することが記載されている。そうすると、この箱の形状は、埋金法においては普通に用いられる形状ということになる。このため、2003年の時点で、埋金法及びそれに使用する術具が知られていたことに疑いはない。

(2)上面(蓋部材)

引用商標の上面には、八角形の方位盤が朱色で、及び「東」の文字が黒色で本体にかかるように書されており(甲6の1、甲8の1~7)、これらは本件商標と酷似している。そして、方位盤は一般的に使用されているものではなく、包装容器である収納箱の蓋の大きさに収まるように簡略化されたものである(甲3)。

この簡略化した方位盤を付した箱を含む、「埋金法」の実行に際して使用される術具のセット(以下「埋金セット」という。)は、2010年2月には市販されており(甲8の1)、請求人も2011年4月13日以前から埋金法の術具として販売していたことは明らかである(甲6の1)。そして、埼玉県川口市所在であった専章堂(以下「専章堂」という。)が完全閉店すると聞いたため、師匠であるM氏とともに専章堂を訪ね、2011年7月25日に購入し(甲6の2、3)、請求人のブログに2011年7月29日にその写真を掲載している(甲6の4)。請求人はまた、2012年10月10日付けのブログ(甲8の7)、2013年8月27日付けのブログ(甲8の10)、2014年8月13日付けのブログ(甲8の12)にも埋金セットの画像を掲載している。

さらに、埋金セットは、2014年5月26日付けの気学館のブログに掲載されており(甲8の4)、2015年4月3日付けのヒーリングストーンjade・気学宗家直門こはく館のブログにも掲載されていた(甲8の5)。また、2016年2月24日付けの東京銀座の占い師隆之介公式ホームページにも掲載されていた。

以上から、上記埋金セットは2010年以前から術具として販売されており、請求人も遅くとも2011年から術具として販売していた。そして、2013年には請求人以外の者が販売しており、2014年以降には、複数の者が術具として販売していたことは明らかである。

(3)本体の左側面

請求人の販売している商品(引用商標)の左側面には、朱色の扇状の図形(羽団扇紋、甲4)、黒色の「祝詞師」の文言(甲5の1)、及び「敬白」の文言(甲5の2)が書されており(甲6の1、甲8の1~7)、これらは本件商標と酷似している。羽団扇紋は信仰的な意味合いがある紋としても知られる周知の紋であり、珍しい紋というわけではない。また、これらは祈祷、願文等に通常用いられる文言である(甲5の1、2)。

(4)本体の右側面

引用商標の右側面における模様又は文字については、甲第8号証の1に示されている。現在術具として販売している商品の右側面には「土金兼備祭」及び「祭主」の文字が記載されている。ここで、「祭主」は祭事を主宰する人という意味である(甲5の4)。

五行思想において「土」と「金」とは、お互いを生かし合い、運気を強めていく関係(相生(そうじょう))にある(甲5の5)。この2つを併せて祭る「土金兼備祭」は、「土金祭」が地を清浄にするのに最上の方法であること、不幸や病災、短命、火盗等といった難を除き、大将軍(大鬼神(甲5の3の3)、暦の吉凶 方位神 歳事暦(saijigoyomi.com))の位置する方位その他の凶神がいる方位に家の普請、転居、土を動かす等のことを行う際に生じる災厄を除き、開運、吉祥、長寿、富貴等を招来するものと記載されている(甲5の3の1、2)。

(5)本体の正面、背面及び底面

引用商標の正面及び背面には、模様又は文字はいずれも書されていない(甲6の1、甲8の1~7)。なお、底面に模様又は文字は書されていないことについては示されていない。

以上のような文字(甲5の1~4)を選択し、簡略化した方位盤の図形(甲3)を作成し、最終的に現在請求人が埋金法に使用する道具として販売している商品の形、すなわち、引用商標にまとめ上げた術具は、遅くとも2010年には販売されており、本件商標の出願前に、埋金法に使用されることが複数の者によって周知されていたことに疑いはない。

3 本件商標と引用商標(標章)との対比

(1)両商標の類否

両商標の類否の判断は、本件商標の立体的形状と埋金法に使用する道具セットの包装容器である引用商標とを対比することになる。両商標を対比すると、朱色で図形が、また、黒色で文字が書されており、かつ、それらの模様及び文字も酷似しており、さらに、蓋部材の上面及び本体の左側面の表現態様が酷似している。

ア 「標章」と「商標」について

ここで、「商標」について述べる。そもそも「商標」は「自己の商品・役務と他人の商品・役務とを区別する標識であり、商品や役務の出所を示す標識」である(甲7の1)。このため、商標の最も基本的な機能は識別機能であり、商標にとって識別力があるということは、その存在にとっても本質的なものである(甲7の2)。すなわち、自他商品・役務を区別することができない標識は、「商標」とはいえないのである。商標の中でも需要者の目を引き付け、自他商品の区別に用いられる部分、すなわち識別性の高い部分を「要部」ということは、当業者には周知の事実である。

イ 「要部」について

本件商標の場合には、要部は蓋に示されている方位盤の図形に加えて、左側面に示された羽団扇の紋章(甲4)と「祝詞師」及び「敬白」の文字(甲5の1、2)を重ね合わせたこれらの組合せであると考えられる。

そうすると、本件商標と引用商標とは酷似しているといわざるを得ない。

ウ 請求人による引用商標の販売開始時期

請求人による引用商標の販売開始時期については、本件商標の出願日である平成28年(2016年)年12月16日よりもかなり前である。

(2)本件商標と要部が同一又は酷似している埋金開運法に使用する道具の提供者について

ア 開運鑑定士紫央による引用商標の販売

2010年2月20日には本件商標と酷似し、かつ、埋金に使用する道具セットが開運鑑定士紫央のブログに掲載されていた(甲8の1)。このブログの記載から、この術具が遅くとも2010年には販売されていたことが明らかである。

イ 専章堂による製造と卸売

また、この道具セットは、本件商標の出願日である平成28年(2016年)12月16日よりも前の平成23年(2011年)7月25日の時点において、専章堂が製造し、卸売を行っていた(甲6の2、3)。専章堂は、その後閉店すること、及びこの道具セット(引用商標)を平成23年(2011年)7月25日に専章堂より購入したことを、請求人は2011年7月29日付けの自らのブログに掲載している(甲6の4)。

請求人は、この購入の時に、専章堂は他者に事業を引き継ぐことなく完全閉店すると聞いていた。

このため、請求人は専章堂から仕入れたこの道具セットと同じものの作製について、2011年10月頃から数社に打診をして打合せを行い、最終的にゼスト株式会社に製作を依頼することを決定した。そして、2012年5月下旬頃に専章堂から仕入れていたこの道具セットを渡して、同年6月21日にゼスト株式会社からの見積書及び箱の版下を得ている(甲9の1、2)。なお、1ロットの最低発注数が多かったため、保存期間中に錆が生じないように、請求人は専章堂が販売していた道具セットでは紙に包まれていた球(甲6の4)をポリエチレン製の袋に変更している(甲8の5)。

ウ 株式会社プラスワンによる販売

また、2013年4月16日の時点では、広島県広島市所在の株式会社プラスワンが本件商標と同一の埋金開運法に使用する道具セットを販売していた(甲8の2)。この雑誌に掲載されたことを、請求人は2013年5月9日付けの自らのブログに記載している(甲8の3)。

エ 気学館による販売

2015年には佐賀県佐賀市所在の気学館も本件商標と同一の埋金開運法に使用する道具セットを販売していた(甲8の4)。

オ こはく館による販売

2015年4月3日には佐賀県唐津市に所在の気学宗家直門こはく館も本件商標と同一の埋金開運法に使用する道具セットを販売していた(甲8の5)。

カ 銀座の占い師隆之介による販売

2016年2月24日の時点では、銀座の占い師隆之介が本件商標と同一の埋金開運法に使用する道具セットを販売していた(甲8の6)。

キ 請求人による引用商標の術具としての販売

請求人自身も、2011年11月10日付けのブログ(甲8の7)、2013年4月17日付けのブログ(甲8の8)、同年5月7日付けのブログ(甲8の9)、同年8月27日付けのブログ(甲8の10)、2014年4月26日付けのブログ(甲8の11)、同年8月13日付けのブログ(甲8の12)、同年12月23日付けのブログ(甲8の13)に示すとおり、引用商標を術具として販売を続けてきており、請求人の使用によっても本件商標の出願前に引用商標は周知となっている。

なお、請求人の師匠であり、高名な占い師であるM氏も上記埋金セットを数多く販売してきているが、その記録は数年前に廃棄したため残っていないとのことである。

ク 小括

以上から、本件商標と同一の道具セットは、本件商標の出願前から複数の販売元によって、埋金開運法に使用する道具(術具)として販売されていたことは明らかである。このことは、本件商標が埋金法に使用する道具セットを表示するものとして埋金法を行う需要者にとっては慣用されていたことを示すものであり、実際に複数の出所から流出していたことも、この道具セットを示すものとしては自他商品識別力を有しないことを裏付けるものである。また、本件商標が自他商品識別力を有しない以上、出所表示機能、品質・質保証機能、広告宣伝機能をも有しないことはいうまでもない(甲7の1、2)。

そうすると、本件商標は需要者に対して、出所の混同を生じさせるものであるはずがないのである。「標章」ではあっても商標法上の「商標」とはいえない本件商標は「その商品又は役務について慣用されている商標」に該当するから、本件商標は商標法第3条第1項第2号の要件を満たす。

仮に、本件商標が商標法第3条第1項第2号に該当しないとしても、本件商標は上述したように本件商標の構成態様からみても、その商品の「埋金法」という使用方法、その役務の提供の用に供する物(埋金法に使用する道具セット)、「埋金」という用途その他の特徴を、普通に用いられる態様で表示する標章のみからなる商標にすぎない。そして、商品等の形状は、商品等の通常の機能又は美感とは関わりがなく、これを普通に用いられる方法で表示するものではない特異な形状あるいは装飾的な形状であると認められる場合に限り、自他商品の識別標識となり得るものと解すべきである(東京高裁平成15年(行ケ)第102号、甲8の14)。

そうすると、本件商標は「その商品の用途、・・・その役務の用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」という商標法第3条第1項第3号に規定される要件を全て充足する。

さらに、上述したように、本件商標の出願前から、引用商標は複数の提供元から術具として販売されており、その登録の際にも販売されていたから、引用商標の需要者は本件商標を「埋金法に使用する術具」として認識していた。このため、本件商標は、商標法第3条第1項第6号の「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」に該当する。

4 指定商品等について

(1)埋金法について

「埋金法」には幾つかのやり方はあるものの、請求人は、例えば「埋金玉と呼ばれる金属の玉に金粉をかけて、所定の形式に従って札に願いを書き、所定の日時にその札と共に箱に入れ、布で包んで紐で縛り、吉方位の地中に埋める」という方法(甲8の2、3、甲10の1)を採用しており、その際に使用する術具は甲第10号証の2に示すとおりである。被請求人も請求人と同様の方法を採用している。

(2)本件商標の指定商品と「埋金法」の実行に際して使用される術具とは同一又は類似である

本件商標の第21類の指定商品は、その記載から「埋金法」の実行に際して使用される商品を含んでいることが明らかである。一方、甲第12号証の4及び甲第13号証の1に示される商品は、「埋金法」の実行に際して使用される術具(埋金セット)である。そうすると、本件商標の第21類の指定商品と、甲第12号証の4及び甲第13号証の1に示される商品は同一又は類似である。

また、本件商標の第45類の指定役務は、その記載から「埋金法」の実行ための指導、助言等の役務を含んでいる。これに対して、請求人が提供する役務は「埋金法」の実行のための指導、助言等の役務である。そうすると、本件商標の第45類の指定役務も、請求人が提供する役務と同一又は類似の役務を含むと考えられる。

引用商標は「埋金法」に使用する術具の包装の形状と酷似しており、この術具は「埋金法」以外で使用されることはないものである(甲6の1、甲8の1~6)。

(3)引用商標の周知性

ア 2011年以前に引用商標は周知であったこと

本件商標の出願前である2011年以前に、占い師として高名なM氏及びM氏からの伝授を受けたM氏一門が実施する埋金開運法という分野では、引用商標は周知であった。そして、その使用の結果、引用商標は本件商標の登録の際にも埋金法の需要者層においては周知となっていた(甲6の1、4、甲8の7~13)。

イ 請求人は2011年には引用商標を販売していたこと

請求人(株式会社ORUFF)の代表取締役である瀬山(旧姓:堀田)亜希は、2006年に「パワーストーンカフェPEACOCK」をオープンして個人事業主として占い鑑定、パワーストーン等の販売を行っており(甲11)、2011年3月に株式会社ORUFFを設立した(甲12の1)。「埋金」の方法の指導と「埋金」に使用する「埋金セット」を製造販売するための個人事業の開業届を2014年10月16日に提出している(甲12の2)。請求人は、2011年6月までは、引用商標を師匠のM氏から仕入れて販売していたが、専章堂が完全閉店するとの連絡を受けて、2011年7月25日に引用商標を専章堂より購入した(甲6の2~4)。

ウ 専章堂の閉店に伴い製造業者を選定したこと

その後、家相鑑定等の依頼を受けたときに、専章堂より購入した引用商標を用いて埋金法を実施していたが、専章堂は完全閉店したと聞いており、在庫数が少なくなったため2011年10月頃から製造委託先を探し、複数の業者とコンタクトした。そして、同年の5月に最終的に株式会社ゼストに依頼することとして2012年6月21日に見積書を術具の包装容器の版下とともに受領した(甲9の1~3)。

エ 新たに選定した製造業者から引用商標を仕入れて販売していたこと

請求人は、主として自ら設立した「パワーストーンカフェPEACOCK」(甲6の1)にて埋金セットを販売するとともに、そして、その際に顆客にチラシを手渡している。このチラシは、2012年1月より変更はされておらず、甲第10号証の2に示す画像と同じである(甲13の1、2)。また、請求人は、2012年8月26日に「ehouya.jp」のドメインを取得し(甲12の3)、現在もこのドメインを使用して埋金セットの卸売販売も行っている(甲12の4)。

したがって、請求人は、本件商標の出願前(記録が残っているのは2011年4月13日以降)から登録審決後(実際には現在)まで、引用商標を使用しつつ埋金セットの商品の小売及び「埋金法」の実行のための指導、助言等の役務を提供しており(甲6の1、甲8の3、7~12)、現在も継続中である。

オ 請求人の引用商標は本件商標の登録時に周知であったこと

請求人が引用商標を使用しつつ販売した埋金セットの数量は、当該登録商標の出願以前の2012年1月ないし12月で38個、及び2013年1月ないし同年10月31日で50個であった(甲14、甲15)。

また、本件商標の出願時である2016年ないし2022年の卸売による販売個数は、平均して約170個である(甲17)。

「埋金法」の実施に際して用いられる術具は、お菓子その他の一般的な商品とは異なって、末端の需要者に広く流布する商品ではなく、埋金関連の市場規模は決して大きくはない。このため、これらの販売数量は引用商標が埋金分野において周知性を獲得するので十分であったといえる。

なお、甲第6号証の1、4、甲第8号証の7ないし13、甲第10号証の2に示されるように、請求人が一貫して使用してきており、かつ、本件商標と同一又は類似の標章は、2011年以前に高名なM氏及びM氏からの伝授を受けたM氏一門が実施する埋金開運法の実施に際して使用される術具の標章として、周知であった。本件商標と同一又は類似の標章は「埋金開運法」の実行のために使用され、その指導、助言等の役務の提供に際して使用されてきたものである。このため、引用商標が使用された埋金セットの数量は、上述した請求人による販売数量を上回る数量である。

また、引用商標が使用された埋金セットは、占い等を含む記事が多く掲載され(甲8の2)、かつ、占い関連の分野で著名であった雑誌に、本件商標の出願前に掲載され、埋金法に関する取材協力先として、「パワーストーンカフェPEACOCK」が記載されている。この取材に際して、株式会社プラスワンでも販売することとなった(甲8の2)。

上記より、本件商標と引用商標とは同一又は類似の標章であり、本件商標の指定商品及び指定役務は、請求人が引用商標を付した商品及びその商品と関連して提供する役務と同一又は類似である。そして、引用商標は、本件商標の出願時及び登録審決時の双方において、本件商標の保有者以外の者が使用する商標として周知であったのである。

(4)引用商標に不正競争の目的はないこと

被請求人が出願した2016年12月16日の数年前から、請求人は引用商標を埋金法において術具として使用しており、また、本件商標の出願前に、複数の第三者、すなわち「他人」が引用商標を埋金法において術具として使用していた。このため、引用商標の使用に不正競争の目的がないことは明らかである。

(5)本件商標は「悪意の出願」に該当すること

このような「術具」は、そもそも日用品のように一般需要者に広く出回るものでもなく、「埋金法」についても一般需要者に広く知られるものではない。また、この術具にはその用途を示す複数の標章が付されているが、これらはその術具の出所を示すものではない。そして、埋金法は古くから行われてきた開運法の1つであり(甲6の5~7)、M氏一門が使用してきた引用商標と同一又は類似の術具について立体商標の商標登録出願をする者がいるということは、請求人をはじめ上述した第三者の誰もが全く想定していなかったことである。

こうした状況の下では、引用商標があるにもかかわらず、本件商標を出願した被請求人の意図は、引用商標を使用している他人を排除しようとしたものと考えるほかなく、知的財産権の排他的権利の行使にほかならないから、本件商標は「悪意の出願」に該当する、剽窃的な出願(甲7の3)といわざると得ない。

(6)小括

「悪意の出願」自体は、商標法が明文で禁止していないが、その行為態様によっては信義則ひいては社会公共の利益・社会一般の同義観念に反することもあり、健全な商標制度の維持のためにも拒絶されるべきであった(甲7の3)。

以上より、本件商標は商標法第4条第1項第7号に規定される要件をすべて充足する。

5 本件商標は未登録周知商標と同一又は類似であり、その指定商品又は指定役務も同一又は類似であること

引用商標は、不正競争の目的ではなく使用され、開運を望む需要者の間で周知となっており、被請求人以外の者は「他人」である。そして、上述のように本件商標は引用商標と酷似しているから、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」に該当し、さらに、本件商標の指定商品又は指定役務は、「その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品又は役務について使用をするもの」に該当するから、商標法第4条第1項第10号に規定される要件を充足する。また、上記引用商標の使用について、請求人は本件商標に対して商標法第32条第1項に規定する先使用権を有するものである。

仮に商標法第4条第1項第10号に該当しないとしても、本件商標はその出願時及び登録審決時の双方において、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当することは論を待たない。そうすると、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の要件をすべて満たす。

6 本件商標の指定役務には役務の質の誤認を生ずるおそれのある役務が含まれていること

本件商標の第21類の指定商品の開運祈願用具を用いて提供できる役務は、「気学・遁甲術の方位学を用いて埋めるまたは水中に投げる開運祈願用道具を用いた開運方法に関する占いの指導・助言・相談並びにこれらに関する情報の提供,金属の球体からなる開運祈願用お守り・祈願文書・収納箱・お守り札・麻紐・布・金粉・球体を一組とした開運祈願用道具を用いた開運方法に関する占いの指導・助言・相談並びにこれらに関する情報の提供」のみとなるはずであり、これら以外の指定役務について本件商標を使用すると、役務の質を誤認させるものとなる。

このため、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。

7 本件商標は不正の目的をもってなされたものであること

本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内で需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であり、「他人に損害を加える目的」を持って被請求人が使用している。ここでいう他人には、請求人の他、現在引用商標を販売している第三者も含まれる(甲8の1~6)。そして、工業所有権逐条解説には「不正の目的があるとして本号が適用される具体的な想定例」として「(3)その他日本国内で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願した場合」が挙げられている。

被請求人は、本件商標の商標権に基づいて、請求人に対して差止請求訴訟を提起しており、これのような訴訟の提起をしたこと自体が「不正の目的で出願した」ことを示すものにほかならない。このため、本件商標は「不正の目的をもってなされた」ものであることに疑いの余地はない。

そうすると、本件商標は、商標法第4条第1項第19号の要件を満たす。

8 弁駁書における主張

(1)答弁書に記載された事項についての反論

ア 識別力についての本件商標の構成について

(ア)被請求人は、「全体形状が立方体の立体商標として登録を受けたものである」と述べながら、「・・・、蓋部材は直方体のうち上面に該当する部分を有し、本体部材は直方体のうち上面を除く他の5面に該当する部分を外側に有する。」と主張している。

ここで、蓋部材として落とし蓋を採用した場合には、本体部材の外形形状は、立体商標の全体形状と同様となるはずである。このため、本件商標の全体形状が立方体のみであるのか、立方体概念を含む直方体であるかが不明確である。ある意味では、本件商標の全体形状が直方体という立方体よりも広い概念のものであることを自認しているともいえる。

(イ)被請求人は、「埋金の収納箱は、・・・通常の蓋であれば、上面の全体を覆うような蓋を収納箱本体にかぶせ、収納箱本体内側に別の板を付けた上で蓋のずれを防ぐ印籠蓋、蓋の下面の四方に桟を付ける四方桟蓋とすることが一般的である。」と主張しているが、根拠となる証拠を提出していない。

請求人は、この点については、甲第18号証の1及び2を提出する。桐箱の蓋の形状は様々であり、用途に応じて適宜選択されるものであるため、「収納箱本体内側に別の板を付けた上で蓋のずれを防ぐ印籠蓋、蓋の下面の四方に桟を付ける四方桟蓋とすることが一般的」とはいえない。そもそも桐箱は、重要な物(例えば、印鑑、貴金属、念珠、呉服、骨董品となる書画や陶磁器等)を収容するために使用されることが多い。

書画や呉服等は湿気を嫌うため、箱の蓋と本体(「身」という。)とが、隙間なくぴたりと合致する印籠蓋が採用されることが多い。印籠蓋は、薬を携帯したときに、容器の外にこぼれないようにするために作られたものであり、身と蓋とはぴたりと合うように作られる。このため、手間がかかりコストも高くなる。一方で、ぴたりと合うような箱は、蓋を身から外しにくいため、陶磁器などの骨董品を収納する場合には、二方桟又は四方桟の蓋が採用されることが多い。四方桟は、印籠蓋ほどではないものの身のうちのりと合うように蓋の裏側に桟をぐるりとめぐらす。このため、やはり手間がかかる。また、桐の米櫃の場合には、開け閉めする頻度が高いため、載せ蓋が採用されている。すなわち、桐箱は収納する物の特性(湿気を嫌うか、内容物を取り出す頻度が高いか等)に応じて蓋の形状が選択されるため、収納する物を無視して「印籠蓋・・・四方桟蓋とすることが一般的である」と主張することには根拠がない。

(ウ)被請求人は「埋金の機能や美感」が何を指すのかを定義していない。そもそも商標は、自他商品・役務の識別をするための標識であるから、「埋金の機能や美感」が本件商標とどのようにかかわりがあるのかを説明すべきである。

また、「専章堂の時代から続くオリジナルの埋金収納箱のデザインを採用し」たとして、独創性がないことを自認しているから、本件商標は被請求人によって創作されたものではない。

さらに、被請求人は、「あえて蓋を落とし蓋とし」た理由について何ら説明もしていない。本件商標の収納箱は、土に埋めるため、再度蓋を開けることはない。また、収納物に対して箱代があまりに高くなることは避ける必要もある。そうすると、印籠蓋や四方桟蓋を採用する必然性がない。また、一度蓋をした後に再度開け閉めすることはないため、蓋の取りはずしやすさを考える必要もない。さらに、蓋に表された方位盤にかかるように「東」の文字が表されているため、本体と蓋とが合うようにするには、落し蓋とする方が都合が良く、かつコストも安かったために採用されたにすぎない。

さらにまた、被請求人は、「古くからの埋金法で使用される直方体の収納箱ではなく、立方体としている。」と主張するが、この主張は上記(ア)における被請求人の主張との関係で矛盾する。

(エ)被請求人は、「専章堂については、被請求人らがK氏から事業を引き継いでいる。この際に、被請求人らは専章堂で使用していた印鑑を引き継いだ。」と主張しているが、実印や契約書の類は何一つ証拠として提出していない。

被請求人は、「被請求人らが事業を引き継いだことを告知する挨拶状を、・・・専章堂の顧客らに対して送付している。」と主張しているが、専章堂が閉店すると聞いた請求人はM氏とともに数十個の術具セットを購入した大口の顧客である(甲6の4)にもかかわらず、大口の顧客である請求人及びM氏には、この挨拶状は送付されてきていない。被請求人が送付したというのであれば、発送記録その他の送付したことを示す証拠を提出すべきである。

(オ)被請求人は、「本件商標を使用した埋金は、被請求人が専章堂から事業を譲渡され、本件商標を利用した事業を開始する前は、専章堂において遅くとも1968年頃から販売されていた。」との主張をしているが、そのことを示す証拠を一切提出していない。このため、「被請求人が専章堂から事業を譲渡され」た事実、及び「専章堂において遅くとも1968年頃から販売されていた」事実を確認することができない。

被請求人は、「埋金の需要者において、あえて立方体の形状にして、蓋としての利用のしにくくなる落とし蓋を採用することは、埋金の需要者といえども予測が困難な形状の変化である」と述べているが、上述したように一旦収納した後に再度蓋を開けることはないこと等から、落とし蓋を採用したことは、「埋金の需要者といえども予測が困難な形状の変化」とはいえない。このため、被請求人の上記主張は根拠のないものであり、本件商標は識別力がない。

(カ)本件商標は、「埋金法で使用される術具の形状そのものの範囲を出ない形状」である。「埋金」とは、神道に端を発する開運法であり、有体物ではないから、被請求人の言う「埋金の形状」という文言が意味するところは不明である。

イ 商品等の機能又は美感を発揮させるための形状について

(ア)被請求人は、「商品等の形状への装飾等が独創的でその商品の分野においてほかに例を見ないものであるときは、そのような意匠的形状は、自他商品識別機能を発揮しているものとして積極的に保護されるべきものである。」と述べているが、立体商標導入の趣旨は、それまで種々の立体的形状について、これを平面図形にした形で商標登録されている事例も少なくなく、保護のニーズが現実にあること、国際的な趨勢でもあること等によるもの(甲19の1)であり、意匠的な形状の保護を図るものではない。

被請求人が言及している審決取消訴訟の判決(甲19の2(乙2))は、本件商標とは前提が異なるから、この主張は失当である。具体的には、指定商品であるチョコレート自体をマーブル模様の魚介類の形状とし、それらを横一列に台の上に並べたものを立体商標として出願したものである(甲19の2~4)。このような「商品等への装飾等」は、それまでになかったものであるから「独創的でその商品の分野において例をみないもの」といえること、また、「一私人に独占を認めたとしても何ら問題はない」といえるため、裁判所は、「商品等への装飾等が独創的」であること、及び「その商品の分野において例をみないもの」であるという2つの前提を置いた上で、「そのような意匠的形状は、自他商品識別機能を発揮しているものとして積極的に保護されるべき」と述べたのである。

これに対し、本件商標に付されている文言は、広辞苑に掲載されている「祝詞師」、「敬白」、「御璽」(「みしるし」と読む)(甲5の1~2、甲20の1、2、4)及び「東」という識別性のない文字又は文字列、及び神道において重要とされ、古くから使用されてきている「土金兼備」という文字列を含む「土金兼備祭」(甲5の3の1、2、甲21の1~4)、並びにこれも古くから寺紋・社紋等として使われてきた羽団扇紋(棕櫚紋)(甲4)であり、いずれも識別性はない。方位盤の図形は、被請求人以外が遅くとも2011年以前に作成したものであり、被請求人が作成したものではないから被請求人の創作でもなく、識別性がないことは被請求人自身が自認している。これらの「商品等への装飾等」は「独創的」でもなければ、「その商品の分野において例をみないもの」にも該当しないから、「自他商品識別機能を発揮しているものとして積極的に保護されるべき意匠的形状」には該当しない。

(イ)被請求人は、「チョコレート菓子の実際の取引においては、需要者は商品の形状の全体を一体的に認識して商品を購入するという、この種の商品の取引の実情を無視するもの」であると判旨を述べているが、これは一般論ではなく、甲第19号証の3に示す巻貝等の形及びマーブルの模様をした「チョコレート菓子の実際の取引」についての実情である。そして、「この種の商品の取引の実情を無視するもの」と結論付けているから、購入の際に、「使用方法についての説明が必要な商品」を購入するときとは「取引の実情」が異なることは明らかである。したがって、被請求人の主張は的外れである。

(ウ)被請求人は、「いずれか任意の面についての模様又は文字にのみ着目し、全体の形状についての個別具体的な検討を欠くことは許されず、埋金法の実際の取引において、需要者は商品の形状の「全体を一体的に認識して」商品を購入するという商品の取引の実情を無視してはならない」と主張しているが、被請求人が運営者となっているまいきん堂のホームページを見ても、本件商標の形状はすべての面について示されている訳ではない。むしろ、本件商標の左側面(羽団扇紋と御璽、祝詞師、敬白が示された面)及び蓋が示されているだけである(甲27の1、2)。このことは、被請求人がこの「術具」を購入する手掛かりとして左側面及び蓋を示せば十分であると認識していたことを示すものであり、裏を返せば、「需要者は商品の形状の「全体を一体的に認識して」商品を購入する」のではないということを示すものである。

請求人は、「全体の形状についての個別具体的な検討を欠く」ことはしていないし、「商品の取引の実情を無視した」訳でもない。むしろ、「商品の取引の実情を無視して」いるのは、被請求人である。

(エ)被請求人は、「立体部分のうち「上面、左側面、右側面」の3面が一体となって立体商標としての美感、独創性を表出することで、本件商標は自他商品識別機能を発揮するものである。そのような意匠的形状(美感を発揮させるための商品等の形状)は自他商品識別機能を発揮しているものと捉えるのが妥当」であると主張するが、「答弁書」で「本件商標の形状は、埋金の機能又は美感に資する目的のために採用されたわけではなく」と主張しているから、本件商標は「そのような意匠的形状(美感を発揮させるための商品等の形状)」には該当しない。

(オ)被請求人は、「被請求人は専章堂から埋金に関する事業を譲渡され、これに伴い埋金の仕入先、顧客、印鑑、道具セット等、専章堂の事業の一切を受け継いだ者である。」と証拠を示すことなく根拠のない主張を繰り返している。さらに、被請求人は、「答弁書」で「ここで記載された模様及び文字は、被請求人が本件商標を受継する前の専章堂で創作されたもの」であると証拠を示すことなく主張しているが、これらは専章堂で創作されたものではない。

したがって、「本件商標の模様及び文字の組合せは、専章堂オリジナルの開運祈願のための言葉や図の結晶であり、専章堂の埋金製品のメルクマールとなっていた。」という被請求人の主張も根拠がない。

(カ)被請求人は、「上面に表示されている方位盤の模様及び「東」の文字も、およそ一般的に使用されるものから大きく逸脱するものではないと思われる。次に、団扇紋の模様及び「祝詞師」及び「敬白」の文字もまた、一般的に使用されるものであり、およそ一般的に使用されるものから大きく逸脱するものではない。」と、これらの文言に識別性がないことを自認している。なお、中国の思想である風水は神道ともつながりが深い(甲22)から、これらの文言及び図形は、神道、風水及び九星気学の分野においても一般的に使用されるものである。

(キ)被請求人は、「「土金兼備祭」及び「祭主」の文字については、風水や九星気学の分野で一般的に使用されているとまでいえるか否かは、請求人の提示する証拠からは判断できない。」と主張し、さらに、「確かに、甲第5号証の3には「土金兼備祭」という言葉が風水の分野で使用されていることが示されているが、これは使用例の一つを示すにすぎず、例えばインターネットで「土金兼備祭」という言葉を検索しても、風水の分野で一般に使用されている例は全く発見できない(Goog1e検索、乙4)。」と主張する。

請求人は、審判請求書の「6.請求の理由」の「(2)本件商標を無効とすべき理由」の項に、「九星気学」という文言は存在していないため、審判請求書の「理由の要点」の「九星気学における開運法」を「開運法」に訂正する。

被請求人は、上記の「土金兼備祭」及び「祭主」という2つの文言について、あえて「風水や九星気学の分野」に限って調査をしているため、「全く発見できなかった」ものと推察される。

風水と神道とのかかわりは深い(甲22)。そして、神道は、古代日本に起源をたどることができるとされる宗教であり、「土金兼備祭」のうち、「土金」については、吉田神道及び垂加神道において重要と考えられている伝えであり(甲21の1~4)、遅くとも享保10年(1725年)5月には「土金の伝」として伝わっていた(甲21の8)。

日本思想体系 近世神道論 前記国学 神代巻講義には「金は土に兼ねてあるなり、土金は相離れぬ物也。」との記載がある(甲21の2)。ここでいう「神代巻」とは日本書紀の神代巻である。また、「土金祭行事」については、大正3年(1914年)12月9日発行の新撰神道祈祷全書(甲21の3)にも記載されている。

天保8年(1837年)に発行された「土金兼備麒麟之巻」(佐久間 純重 松泉館)には、「土金兼備祭」及び「祭主」と記載した桐箱を祭祀の道具として使用することが明記されている(甲21の1)。ここで、佐久間 純重は「家相家の佐久間家」の人間であり、松泉館は会津に存在していたため、福島県史料情報56号にも「伝授内容は、(中略)土金兼備行事」という記載がある(甲21の4)。その他の書籍もある(甲21の5~8)。

「土金」「土金祭」「土金兼備」「土金兼備祭」という文言は、いわゆる現代の「風水」から発したものではなく、祭祀・祈祷に由来するものであることは、「祝詞師」「敬白」及び「御璽」(「みしるし」と読む。)という文言からも明白である。請求人は、甲第5号証の3が「風水の分野で使用されている」等と述べたことはない。

上述したように、埋金法は垂加神道の中の1つの祭祀であり(甲21の1~4)、中国から伝わった風水は神道とも関わりが深いため(甲22)、「風水」をキーワードにして調査をしたことはあながち誤りとはいえない。しかし、インターネット上で検索できる事柄が、どのような文言で検索したときに紐づけ先となって挙がってくるのかは、やってみなければわからない。このため、キーワード検索をするときには、複数の文言の組合せをつくり、それらの組合せを使ってインターネット検索を行うことは、インターネットを使う者にとっての常識である。すなわち、検索範囲を狭く設定したり、的外れな範囲にしたりすると検索しても探すものが出てこないことは、多くのインターネット使用者が日常経験していることである。

「祭主」については、広辞苑に掲載されている文言でもあり、祭事を主として司る者という意味であるから、一般的に使用されているといえる。そして、「祭主」は祭祀の主催者のことであるから、「祭主」と「・・・祭」という文言が併記されているということは、何らかの祭祀に関連するものであることは容易に推察される。そして、「土金祭」「風水」、「土金の伝」「風水」等の組合せを使って検索をすると、垂加神道や山崎闇斎がヒットしてくる(甲23)。垂加神道の創設者である山崎闇斎は江戸時代の人であるから、明治時代に成立した「九星気学」をキーワードにしても、辿り着くことはできないと思われる。要は、設定の手法を誤っただけのことである。

甲第21号証の1に示すように、埋金法において「土金兼備祭」及び「祭主」の文言を箱に記載することは古くから行われてきている。そして、これらの文字列及び図形は、2011年には、他の占い師が使用していたものと同一である(甲8の1)。

したがって、以上からも、本件商標が専章堂のオリジナルであるということはできないのである。

このため、誤った手法で検索した結果をもって「すなわち、「土金兼備祭」という言葉は、風水や九星気学の分野で一般的に使用されているとはいえない。」と結論付けることは、失当というほかない。

(ク)本件商標の「上面、左側面、及び右側面」はいずれも識別性のない文言又は図形が表されているにすぎないから、「このうちいずれの面も欠けることなく全てが一体となって立体商標としての美感、独創性を表出することで、本件商標は自他商品識別機能を発揮する」とはいえない。

本件商標は、「「上面、左側面、右側面」の3面全てを一体とした、いわば平面商標における「結合商標」のようなものであると捉える」までもなく、「識別力のない2面」に「識別力のない1面を加えた」ものにすぎないから、全体としても識別力を有さないと考えるのが妥当である。

(ケ)被請求人は、本件商標は「立体商標としての独自性を有し、出所識別機能及び自他商品識別機能を発揮するといえる。」と述べているが、被請求人が「識別性がある」と主張した「土金兼備祭」及び「祭主」という文言はいずれも、神道の流れを汲む埋金法においては一般的に使用されるものであるから(甲21の1~4)、本件立体商標は自他商品識別機能がなく出所識別機能もない。

被請求人は、答弁書の中で自らの指定商品及び指定役務を「埋金」であると述べており、この祭祀以外には使用されないものと自認している。一方で、本件商標の指定商品又は指定役務には祭祀である「埋金」という文言での登録は認められていない。このため、被請求人のいう「埋金」という文言は、「埋金法」という祭祀に使用される「術具」及び「埋金」という祭祀の作法を示すものと解することになる。

そうすると、本件商標は、この分野において一般的に使用されているものであるから、自他商品・役務識別力のない商標となる。

ウ 商標法第3条第1項第2号に基づく無効理由について

(ア)被請求人は、「祭主」については広辞苑を引用しなかったにもかかわらず、「そのうえで、例えば広辞苑に代表される辞典・辞書の何処にも、本件商標を含む埋金法の道具セット、あるいは「埋金」という言葉についてさえ記載がない」と主張している。広辞苑は日本で最初に編纂された大辞典であり、「垂加神道」についての説明はある。しかし、宗教に特化した辞書ではないから、埋金法の道具セットの説明や「埋金」という文言が収載されていないことには不思議はない。

被請求人は、インターネットの検索において「土金兼備祭」や「埋金」といった文言の使用例がないと主張している。上述したように、これは「日本占術協会」、「九星気学」、「埋金」を検索キーワードとしたことが誤りだっただけのことである。さらに、一般的に高齢者のインターネット利用率が若年層に比べて相当に低いのと同様、この「術具(埋金セット)」を使って埋金法の実施というサービスを提供してきた占い師は70代以上の高齢者が多く、インターネットの利用率は相当に低い。こうした現状を考慮することなくインターネットでしか検索しない、というのがそもそもの誤りである。

また、一般社団法人日本占術協会は、1974年に創立された、九星に関する書籍などを出版している団体である。これもまた、見当違いの団体を引合いに出してきたものである。

(イ)被請求人は、「「こはく館」によるもの(甲8の5)のみが、本件商標を構成する立体部分の「上面・左側面・右側面」と同一の構成を有するものと推認でき、それ以外の引用商標(甲8の5を除くもの)については本件商標を構成する立体部分の「上面・左側面」のみ同一又は類似するにすぎない」と強弁している。右側面の画像がないことをもって、「「上面・左側面」のみ同一又は類似である」というのであれば、その他販売されていた術具には「右側面に「土金兼備祭」及び「祭主」の文字が記されていない」ことを被請求人が立証すべきである。

(ウ)被請求人は、「本件商標が、埋金法の道具セットを表示するものとして広く知れ渡っていると認定するには難がある」とか「同業者間において慣用化されたとの共通認識があると認めるに足る事実も存在」しないと述べているが、埋金セットの市場は、年間に数百個程度が販売されるというニッチな市場である。その中で、請求人は平均年間200個以上を販売しているのだから、請求人の「術具」、すなわち引用商標が「埋金法の道具セットを表示するものとして広く知れ渡っている」ことは明らかであり、「同業者間において慣用化されたとの共通認識があると認めるに足る事実」に相当すると思料する。

エ 商標法第3条第1項第3号に基づく無効理由について

(ア)商品等の形状は、商品等の通常の機能又は美感とは関わりがなく、これを普通に用いられる方法で表示するものではない特異な形状あるいは装飾的な形状であると認められる場合に限り、自他商品の識別標識となり得るものと解すべきである(甲8の14、甲19の1、2)。

(イ)被請求人は、「本件商標の収納箱は、「埋金」を行うために製造されているものである。」と、本件商標の収納箱が「埋金」という祭祀、すなわち特定の役務の提供に使用されるものであることを自認している。また、「埋金を行うためには収納箱が必要」と、何らの証拠を示さないまま主張する。しかし、布に包んで埋める方法や箱を使わない方法もあることから、この主張には根拠がない(甲24の1、2)。

(ウ)被請求人は、本件商標は専章堂が販売していた埋金セットの形状を踏襲したものであると述べており、本件商標は被請求人が創作したものではないということを自認した。

被請求人は、「単に散逸しないという機能を求めるのであれば、収納箱の箱本体は直方体とした方が収納容量も上がり、より散逸防止機能を果たせる」と主張するが、本件商標における収納箱は、納めるべきものを収めた上で祭祀に使用される。このことは、「祭主」や「祝詞師」という文言が記載されていることからも明らかである。このため、この収納箱の中に、納めるべきもの以外のものを入れることはないし、そもそも入れる必要もない。そうすると、内容量を増やす必然性は全くないから、被請求人の「収納容量も上がり、より散逸防止機能を果たせる」という主張は失当であるというほかない。また、「美感を重視するのであれば」、「印籠蓋とした方が高級感も増」すとは思われるが、布に包んで埋める箱に対して高級感を出す必要はない。身が立方体の場合、蓋の東をどの側面と合致させるようにするのかを一々確認しなければならなくなる。そして、間違えて被せたまま埋めるという事態も発生し得るが、これは祭祀上避けるべき事態である。したがって、被請求人の「デザイン性も高まると考えられる。」という主張については、こうした機能を無視した暴論というほかない。

(エ)被請求人は、「既述した判決公報において述べられているとおり、商品等の形状は、その性質上それ自体にどんな変更等を施したとしても商品等の機能又は美感を発揮させるための形状から完全に離れることはできないものであり」、「そのような目的と全く関係のない商品等の形状は考え難いものである」から、「仮に、本件商標の形状が、埋金の機能又は美感に資する目的のために採用されたもの」であるか、又は「需要者において機能又は美感上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲にあるものだとしても、保護すべきである」旨の主張をしている。

そうすると、「埋金法」では箱が必須となるが、「箱を使用しない埋金法」もあり、その場合の「商品等の形状」について説明がつかない(甲24)。したがって、被請求人の主張は失当というほかない。

以上のとおり、本件商標に係る収納箱は、埋金セットを収納する容器として使用されてきたにすぎないから、商標的使用態様では使用されていない。ここで、POS事件(東京地裁昭和62年(ワ)第9572号商標使用禁止等請求事件、甲25)では、「商標は出所表示機能を有するものをいい、また、標章の使用は出所表示機能を有するものとして商品に標章を付する行為をいうものとはされていない。したがって、右定義に従うとすれば、被告標章は、被告書籍の表紙に題号として表示されているものであっても、標章であって、書籍という商品について使用をするものであるから、商標であり、又、その使用行為は、書籍という商品に標章を付するものであるから、商標としての使用と言わざるを得ない。しかしながら、商標法25条本文は、「商標権者は、指定商品について登録商標の使用をする権利を専有する。」旨規定しているから、商標法36条第1項にいう商標権の侵害とは、右の登録商標の使用権の侵害を意味するものと解されるところ、他方、同法3条によれば、登録商標とは(同条)のような要件に適合するものとして、「商標登録を受けている商標」であって(同法2条2項)、本来、何人かの業務に係る商品であることを認識することができる商標、すなわち、出所表示機能を有する商標であることは明らかであり、したがって、前記同法25条本文にいう「登録商標の使用をする権利」とは、出所表示機能を有する商標の使用をする権利を意味するものであるから、出所表示機能を有しない商標の使用もしくは出所表示機能を有しない態様で表示されている商標の使用は、「登録商標の使用をする権利」には含まれないものと解するのが相当である。そうすると、このような商標の使用は、同法25条本文に規定する登録商標の使用権を侵害するものということはできない。また、このように解すべきことは、商標法1条が「この法律は、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」旨規定している趣旨にも合致するものである。」と述べられている(甲25)。

そして、自他商品識別力は出所表示機能、品質保証機能及び広告宣伝機能等の他の機能を発揮する上での基礎となるものである。このため、自他商品識別力を有しない標章は、当然のことながら出所表示機能もまた有しない。

したがって、埋金セットで使用されている標章の使用態様は、自他商品識別力がなく、それによって出所表示機能、品質保証機能、及び広告宣伝機能といった商標の機能を発揮することもないのである。

(オ)被請求人は、「商品等の形状への装飾等が独創的でその商品の分野においてほかに例を見ないものであるときは、一私人に独占を認めたとしても何ら問題はないのであり、そのような意匠的形状は、自他商品識別機能を発揮しているものとして積極的に保護されるべき」と主張する。

しかし、本件商標は「専章堂時代の古くから続く標章を踏襲した」独創性のないものであり、本件商標の出願時点で複数のルートで販売されていたから(甲8の1~13)「その商品の分野においてほかに例を見ないもの」でもなかったのである。このため、本件商標は、「商品等の形状への装飾等が独創的でその商品の分野においてほかに例を見ないものであるとき」には該当せず、自他商品・役務識別機能を発揮しているとはいえない。したがって、もとより自他商品識別力がない商標であるから、一私人に独占を認めると問題が生じる。

オ 商標法第3条第1項第6号に基づく無効理由について

請求人が証拠として提示する商標(甲6、甲8の1~13)は、本件商標の出願前及び登録時に、複数の提供元から術具として販売されており、需要者は本件商標を「埋金法に使用する術具」として認識するにとどまるから、本件商標は「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できない商標」に該当する。このため、商標法第3条第1項第6号に該当する。

カ 商標法第4条第1項第16号に基づく無効理由について

被請求人は、「本件商標は、本件商標をその指定商品又は指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が本件商標を「埋金法」という使用方法、その役務の提供の用に供する物(埋金法に使用する道具セット)、「埋金」という用途その他の特徴を、普通に用いられる態様で表示したものと認識するものとはいい難いもの」と主張するが、「埋金法」は単なる「占い」ではなく、神道に端を発する「祭祀」であるから、この「術具」を「埋金法」以外で使用することはあり得ない。さらに、被請求人自身が「本件商標の収納箱は「埋金」のためのものである」と自認しているから、被請求人は、本件商標は「埋金」以外には使用しないことを認識しているはずである。そうでなければ、被請求人のホームページに、「埋金指導」をするという記載をするはずがない(甲27の1)。

また、需要者も、1個15,000円という比較的高価な商品を、使い方もわからないままに購入するはずはない。せっかく購入しても、使い方がわからないのでは望む結果を得ることはできないからである。

被請求人は、「この種の商品の取引の実情を無視する」ことは適切ではないとした判決を引用している以上、上記のような取引の実情を鑑みると「埋金」以外に使用できるとすることは不適切である。もし「埋金以外にも使用する」というのであれば、被請求人は使用した例を被請求人が運営しているまいきん堂のホームページに掲載すべきである。

キ 商標法第4条第1項第7号に基づく無効理由について

(ア)被請求人は、「本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきである」と主張する。

ここで、本件商標については、「埋金法」という祭祀において使用する「術具」の形について、「埋金法」を行っていた何人かの占い師が本件商標の形にまとめ上げ、先代の専章堂の店主に製造を委託したものである。専章堂はその名前が示すように、もともと印章の製造販売もとであったから、このような「術具」の形状を案出するはずがない。

そして、そもそも祭祀とは神事であるから、専章堂から販売されていた「術具」の形状そのものを商売道具として「商標登録する」ことなど、「埋金法」が祭祀であることを知っている者には想定もできないことであったし、出願するはずもなかったのである。

このため、本件商標の出願の経緯については、「本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合」には該当しない。また、甲第6号証の4に示すように、専章堂の閉店は請求人及びその師であるM氏にとっても寝耳に水の話であったし、閉店の話が出た際に真っ先に懸念したのは「この「術具」をどうやって販売し続けるか」ということであった。もとより「商標登録出願すること」等は考えるはずもない。そして、単なる「術具の入手先」であった専章堂とは、商品の仕入先とその顧客という関係にすぎなかったのだから、「契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合」にも当たらない。

これに対し、被請求人は、本件商標についての商標登録出願を専章堂が閉店してから4年近くも経過した後に行っていること、また、業務を承継したという証拠を一切提出していないこと、及び「顧客リストを引き継いだ」と主張しながら請求人及びM氏には、お知らせ(甲28)を送付してきていないという事実がある。

そして、自らの販売数を一切開示することなく、請求人に対して4,500万円という高額の損害賠償請求訴訟を提起したことから、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合に該当するものと思料する。

(イ)被請求人は「請求人サイトでの開始時期は、2011年4月13日であり(甲6の1)、本件商標の出願日である2016年12月16日までの期間は、5年8か月程度であり、該期間は決して長いものとはいえ」ないから、「請求人サイトで使用されていた引用商標は、長年使用されていたとはいえない」と主張する。

請求人のウェブサイトは一度引っ越しをしており、引っ越し後のウェブサイトで「埋金」についての記事を掲載し始めたのが2011年である。2006年にカフェをオープンした当初から数は少ないものの、「埋金法」を実施していたから、使用期間は10年を超える。

これに対し、被請求人がまいきん堂のホームページを開設したのが2012年であるから(甲29)、被請求人が請求人の後追いでウェブサイトを開設したと考えるのが妥当である。

(ウ)被請求人は、「埋金関連の市場規模を示す具体的な資料やデータは何も提示されておらず、引用商標の周知性の認定において、埋金セットの販売数を比較の根拠とする理由は明らかでなく、当該販売数の多寡について比較すべき客観的な資料は存在しない。」と述べている。

しかし、被請求人自身も「埋金関連の市場規模を示す具体的な資料やデータ」はおろか、自分の販売数量さえ示していないことから、この主張の根拠となる客観的な証拠を示していない。

加えて、甲第32号証には、「その商標を使用した商品等の販売数量,販売地域,広告宣伝の内容や回数が明らかにされることが,周知性の認定判断にとって有効であることは,その限りにおいて正しいといえるものの,これらの事実が認定されなければ,周知性を認定することが一切許されないとする根拠はないというべきである。」と判示されている。

さらに、被請求人は、「例えば」といかにも例を挙げるような書き方で、2013年9月14日付けのYahoo!ニュースの記事(乙9)及び、当該記事内においても紹介されている三菱UFJリサーチ&コンサルティング有元裕美子氏の著書「スピリチュアル市場の研究」(乙10)を挙げて、「スピリチュアル分野の市場規模は約1兆円」であることが述べられている。」と主張する。そして、「スピリチュアル分野の市場規模」が「約1兆円」という乙第10号証の主張を、「占い・スピリチュアル産業」が「数千億円~1兆円のマーケットであるとするならば」とすり替えている。そして、その上で、請求人の売上を「数百万円からせいぜい数千万円にすぎない」と述べている。しかしながら、「占い・スピリチュアル産業」における埋金の規模については、何らの言及もしていない。

ここで、被請求人は「スピリチュアル分野の市場」及び「占い・スピリチュアル産業」がいかなるものなのかを定義していないから、両者の関係が全く不明である。そして、被請求人は、「占い・スピリチュアル・開運という言葉から連想される商品及びサービスは多岐にわたり、その全貌を捉えたうえで正確な市場規模を算出することは、そもそも困難である。」と、市場規模の算出ができないことを自認している。

したがって、このような意味のない前提のもとに、同産業のマーケットに占める割合は「1%にも満たない」と述べているが、これは数字を小さく見せかけるための意図的な外延の不明確化と前提の変更であり、全く意味がない。ただし、上記の数字に信ぴょう性があるのならば、大企業でもなく、一人で1%近い売上げを挙げているということは大変なことであり、逆に周知性はあることの証左となると思料する。

以上から、請求人が販売する引用商標は、周知性を獲得したといえる。

(エ)被請求人は、「請求人の名称が記載された記事が確認でき・・・引用商標が商標として使用されていることを表すものではなく」と述べて、「引用商標が商標的使用態様で使用されていない」ことを自認した。

また、被請求人は、「雑誌全体では請求人商品以外にも多数の商品が紹介されていると推察され、請求人商品は多数ある商品の中の一商品として紹介されていたにすぎず、そこに掲載されている請求人商品を需要者が確実に見たとは限らない。」と述べているが、通常、雑誌は、多くの記事と少しの広告とで構成されており、その逆の構成を採用している雑誌は、寡聞にして知らない。こうした広告には、新製品や注目を集めている商品等が掲載されることが多いから、一般的に雑誌を見る場合には、目次を確認し、広告にざっと目を通して、読みたい記事を読むことが多い。全く広告を見ることなく、記事だけを読むというのはかなりの少数派であろう。

被請求人は、「当該雑誌の販売又は配布部数、地域など、全国の一般需要者層に広く配布されたかについて全く示されていない」と主張をしているが、そもそも「埋金」の需要者が「全国の一般需要者層ではない」。また、この雑誌はタウン誌のように無料で「配布される」ものではなく、需要者は自らが知りたい情報が掲載されていると思われる雑誌を手に取って内容を確認し、その上で購入するのが通常である。このため、「そこに掲載されている請求人商品を需要者が確実に見たとは限らない。」と主張する以上、被請求人が「そこに掲載されている請求人商品を需要者が確実に見ていない」ことを立証すべきである。

商標の周知性については、商標法第3条第2項及び第4条第1項第10号において、「全国的に認識されている」ことを要すると審査基準に記載されているが、「必ずしもすべての都道府県下で認識されている必要はなく、大半以上で足りると解すべきであろう。また指定商品や指定役務によっては同じではなく、それぞれの取引の実情に応じた取引者を含めた需要者の間の認識、すなわち浸透度について、認定判断されることとなる」とされている(甲30)。

被請求人は、「雑誌中に複数ある同種商品が紹介されていたと仮定した場合に、それらの商品の中でどのようにして請求人商品のみが広く知られるようになったといえるのかについて示す資料もない。」と主張するが、そもそも、使い方等について説明を受ける必要がある同種の商品が、複数のルートから提供されている場合には、需要者はそうした説明を聞いてみて、最も的確な説明が受けられると思った出所の商品を購入する。また、こうした説明の内容が丁寧だったか、分かり易かったかといった点は、いわゆる「口コミ」を介した評判として広がることが多い。請求人からこの「術具」を購入して、望むような結果が得られた需要者が、別の人に話をして紹介するというのは普通にあることであり、請求人が誠実な販売の姿勢を貫いた結果、これだけの数の術具を販売できるようになったのである。

(オ)被請求人は、「その他、本件商標の出願日及び査定時における引用商標を使用した請求人商品の我が国及び外国における売上げ、業界における市場占有率、広告宣伝の回数や広告宣伝費の額等、引用商標の周知性を客観的に示す資料は見当たらない」と主張するが、「埋金法」は我国固有の「神道」に端を発するものであるから、そもそも「外国における売上げ」を持ち出すこと自体、非常識というほかない。被請求人が外国で販売しているかどうかは知らないが、請求人は外国において販売をしていない。このため、「外国での売上げ」等あるはずがないからである。

業界における市場占有率については、請求人は日本で最も多くの「術具」を、取引者を含めた需要者に販売しており、販売数も開示している。これに対し、被請求人は自らの販売数量を一切開示しない。「販売している」と述べている以上、被請求人は根拠を示す証拠とともに販売個数を開示すべきである。被請求人に販売数量を開示できないどのような理由があるのかは知らないが、開示しないのであれば、被請求人はほとんど販売していないものと考えざるを得ない。そうすると、請求人の市場占有率は、相当に高いものとなるから、「引用商標は周知である」といえる。

(カ)本件商標は、その出願前に「埋金法」という九星気学における開運法において用いられてきた術具の収納箱を、その術具を使用する他人を排除するために商標登録出願した「悪意の出願」に該当する。「術具」である収納箱は祭祀に使用されるものであり、本件商標が出願される前から「埋金法のための術具」として他人によって使用されてきたものだからである。

(キ)被請求人は、「引用商標は、本件商標の出願日において、我が国及び外国において請求人の商品を表すものとして広く認識されているということができないもの」であり、「商標権者による引用商標の使用が、その著名性に便乗するものということはできない。」と主張するが、請求人は、引用商標が「この分野では周知である」とは主張したが、「著名である」と主張したことはない。

被請求人が運営する「まいきん堂」というサイトは2012年に開設されており、その当時からこの「術具」を販売していたのであるから、請求人が同じ「術具」を販売していたことを知らないはずはない。

被請求人は、専章堂が2011年に閉店した後、2016年12月16日になって本件商標を出願した。被請求人が言うように、「専章堂から一切の事業を引き継いだ」のであれば、4年以上も経過してから出願する必要はなく、2011年には出願できたはずである。

一方で、請求人は、2016年当時172個の「術具」を販売しており(甲17)、この数字は被請求人が販売していたとして、その販売数量よりもはるかに大きなものであったと推察する。そうすると、4年以上も出願しなかったのは、請求人が築いた信用を利用しようとしたからにほかならないということになる。

請求人は2011年当時でも多数の術具を販売しており、M氏はさらに多くの術具を販売していた。そうした中で、専章堂の先代店主から「事業を引き継ぐことなく閉店する」と聞いたために、甲第6号証の4に示すように、請求人はM氏とともに専章堂に出向いて、多数の術具を「買い占めてきた」のである。そして、このときに購入した「埋金セット」の残り個数が少なくなってきた時期に、被請求人が「専章堂と同じ仕様の埋金セットを販売している」という事実を知ったのである。

当然のことながら、請求人は販売されている「埋金セット」が専章堂で販売されていたものと同じかどうかを確認するために、5個を購入したのである。なお、今年になってWaybackmachineの画像を確認したところ、昨年4月28日に確認した画像とは異なる画像に差し替えられていることが判明した(甲31の1、2)。昨年4月28日に確認した2012年当時の画像では、「1個 15,000円」の埋金セットが、「代理店登録をした場合には5個で50,000円」と記載されていた(甲31の2)。仕様を確認するためには、1個だけを購入するのではなく、ランダムサンプリングの意味からも複数個購入して、品質が一定しているかどうかを確認するのが普通である。また、その後に被請求人がこのような訴訟を仕掛けてくるということは全く予測していなかったことから、請求人は代理店登録をして5個を注文した。この際に支払ったのは、26,250円であった(甲31の3、4)。請求人は以上の理由からウェブサイト上で代理店登録をして5個を購入したが、このことをもって、被請求人は「請求人が被請求人の代理店であった」と本件に関連する侵害訴訟で主張した。なお、被請求人からは代理店契約に関する契約書類は一切送付されてきていないから(甲31の3、5)、請求人は被請求人の代理店ではない。また、請求人が被請求人から「埋金セット」を購入したのはこの1回限りであり、その後は一切購入していない。被請求人が、「請求人は被請求人の代理店であった」とあくまでも主張するのであれば、請求人による発注の記録及び被請求人による発送の記録を示すべきである。

以上の状況から、被請求人は、単に商標の存在を知っていただけではなく、販売数量がほとんどなかった被請求人が、周知性、すなわち、他人が築いた信用の利用の意図があったということができるのである。

したがって、上記の出願までの経緯を鑑みると、被請求人が「被請求人が本件商標を出願し登録した行為は、引用商標の顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)することを意図し、引用商標を剽窃して出願されたもの」といわざるを得ない。

(ク)被請求人は、「本件商標は、その構成文字からして、きょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるようなものではなく、他の法律によってその使用が制限又は禁止されているものでもない。」と主張する。しかし、本件商標は上述したように祭祀に使用する神聖な「術具」であるから、そもそも商標登録になじまない。

被請求人は、「その商標を自ら登録出願する機会は十分にあったというべきであって、自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求めるべき具体的な事情を見いだすこともできない。」と強弁するが、祭祀に使用する「術具」を立体商標として登録することは、それまで祭祀に携わってきた者が考えるはずがない。この主張にも被請求人のフリーライドの意思が透けて見える。

(ケ)被請求人は、「商標法の先願登録主義を上回るような、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるということはできない」と主張する。しかし、上記の出願までの経緯、そして登録後のいいがかりのような侵害訴訟の提起を鑑みると、「商標法の先願登録主義を上回るような、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがある」といわざるを得ない。

請求人は、「埋金」という文字列について、「金属製の開運祈願用お守り・お守り玉・お札・お守りの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,屋外で用いる金属の球体からなる開運祈願用お守りの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,気学・遁甲術の方位学を用いて埋めに行く開運祈願用道具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,収納箱・お守り札・麻紐・布・金粉・球体を一組とした開運祈願用道具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として2015年2月25日に出願し、同年8月28日に商標登録を受けている(登録第5788440号)。この商標を出願したのは、「埋金」という文字列を第三者が、上記の指定役務について登録を受けてしまい、他人の使用を排除するようになるという事態を危惧したためである。

一方、被請求人は、2016年11月28日付けで「吉方位埋金」(登録第6004042号)、「遁甲埋金」(登録第6004043号)及び「気学埋金」(登録第6004044号)を、第45類の指定役務について出願し、2017年12月15日に登録を受けている。

すなわち、被請求人が「埋金」の商標登録を受けることができなかったのは、請求人の登録第5788440号があったからにほかならない。

それにもかかわらず、被請求人は、自身の運営するホームページ上で上記の3つの登録商標と並べて、「「埋金」は弊社の登録商標です。」と虚偽の表示を行っている(甲33)。

このことも、被請求人が「その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠く」行為を行った証左になると思料する。

ク 商標法第4条第1項第10号に基づく無効理由について

(ア)被請求人は、本件商標の「要部は立体部分のうち「上面、左側面、右側面」の3面」であると主張する。しかし、本件商標の上記3面についてはいずれも自他商品識別力がない。

(イ)被請求人は、「引用商標のうち「こはく館」によるもの以外の引用商標(甲8の5を除くもの)については本件商標を構成する立体部分の「上面・左側面」のみ同一又は類似するにすぎない」と主張するが、これは単なる言いがかりである。甲第9号証の3を見ればわかるように、請求人は「1,000個」という単位で見積りを取っている。このような単位で発注し、甲第9号証の2に示す版下を使用して製作するときに、同じものを製作しないという合理的な理由がない。したがって、被請求人の主張は根拠がなく、失当である。

(ウ)被請求人は、「本件商標の右側面図に表示されている「土金兼備祭、祭主」の文字が、仮に引用商標の右側面図には表示されてない場合、両商標をこの角度から比較したときに全く類似しない。」と主張するが、版下に「土金兼備祭 祭主」の文字列は明記されているし、「術具」にも表示されているから(甲26)、被請求人の主張は失当である。

(エ)以上より、本件商標と引用商標とは、その外観において類似しない、あるいは類比判断が不能であるという被請求人の主張は失当であり、本件商標と引用商標とは酷似するものである。

(オ)被請求人の登録商標の指定商品及び指定役務は、請求人が主張するとおりである。一方、請求人の術具は、収納箱・お守り札・麻紐・布・金粉・金属製の球体を一組とした道具セットであって、お守り札に、所定の文字数の願い事を書き込んで収納箱の中に入れ、その上に金属製の球体を置き、その上に金粉を降りかけた後に収納箱の蓋を閉じ、その後、赤色の布でこの箱を包み、蓋に記載された「東」の文字の位置がわかるように麻ひもをかけ、「東」の文字が東の方位と合うように、日時及び場所を選んで埋めるためのものである。

したがって、被請求人の指定商品の記載とは相違があり、また、指定役務のうち、「気学・遁甲術の方位学を用いて埋めるまたは水中に投げる開運祈願用道具を用いた開運方法に関する占いの指導・助言・相談並びにこれらに関する情報の提供、金属の球体からなる開運祈願用お守り・祈願文書・収納箱・お守り札・麻紐・布・金粉・球体を一組とした開運祈願用道具を用いた開運方法に関する占いの指導・助言・相談並びにこれらに関する情報の提供」とは明確に類似する。

(カ)被請求人は、「本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するというためには、引用商標が、請求人の商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることが求められる。しかし、引用商標は、本件商標の登録出願時において我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない」と主張するが、「商標法4条1項10号にいう周知商標というためには,一定の何人かの商品の識別標識であるという点において周知でなければならないものの,現実にそれが何人であるかまで明確にされることは,必ずしも必要ではないというべきである。」と判示する(甲32)。そして、請求人の「術具」、すなわち引用商標は「埋金」というニッチな市場において高い占有率を有するから、この分野の「需要者の間に広く知られていた」といえるのである。

ケ 商標法第4条第1項第15号に基づく無効理由について

(ア)被請求人は「本件商標の出願時において、引用商標が我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものとは認められない」と主張する。

しかし、本号に該当するか否かの要件は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがあるか否かであり、そもそも周知要件は、商標法第4条第1項第15号には含まれていない。そして、被請求人は、本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがない」という点について、何ら主張もしていない。このため、この主張は失当である。

(イ)被請求人は「引用商標の独創性の程度を示す証拠については何も提示されておらず、よって、請求人が使用する引用商標は独創的なものであるとはいえない」と主張するが、この主張は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるか否か」とは無関係である。商標は「自他の商品・役務を識別するための標識」であるから、そもそも「独創性」は登録要件に含まれていない(商標法第3条、第4条)。したがって、この主張は明らかに失当であり、意味不明である。

(ウ)被請求人は、「本件商標の指定商品等と引用商標の商品等とが類似し需要者が共通するとしても、引用商標は我が国の需要者の間に広く認識されていたものではなく、かつ、その独創性の程度も極めて高いものではない」と主張しており、「本件商標の指定商品等と引用商標の商品等とが類似し需要者が共通する」ことを実質的に自認した。

また、請求人の「術具」は「埋金」というニッチな市場において高い占有率を有しており、この分野の「需要者の間に広く知られていた」から、本件商標をその指定商品に使用し、「気学・遁甲術の方位学を用いて埋めるまたは水中に投げる開運祈願用道具を用いた開運方法に関する占いの指導・助言・相談並びにこれらに関する情報の提供、金属の球体からなる開運祈願用お守り・祈願文書・収納箱・お守り札・麻紐・布・金粉・球体を一組とした開運祈願用道具を用いた開運方法に関する占いの指導・助言・相談並びにこれらに関する情報の提供」という役務を提供した場合には、商品又は役務の出所について他人、すなわち、請求人の業務と混同を生じるおそれがある。

コ 商標法第4条第1項第19号に基づく無効理由について

(ア)請求人の「術具」は「埋金」というニッチな国内市場において高い占有率を有するから、この分野の「需要者の間に広く知られて」おり、周知要件を充足する。

(イ)被請求人は、「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの」については、何らの主張もしていない。

被請求人の上記の主張は、これまで「埋金法を実施してきた多くの占い師」が使用してきた「術具」について、商標登録を行い、彼らの事業を妨害するという排他権の行使を意図したものにほかならない。

そもそも商標法は、「自己の業務に使用する商標」の登録を認めるに際して、「正当に使用する」義務を商標権者に課している(第1条、第51条)から、このような不当な使用を目的とする登録商標の使用は、許されるべきものではない。したがって、被請求人は不正の目的を有していたことを自認したものと思料する。そしてこのことは、上記で述べたような出願前の経緯によっても裏付けられるものである。

なお、被請求人には請求人の築いた信用にフリーライドしようとする意図があったことは明らかであるし、訴訟においても「請求人が被請求人の代理店であった」という虚偽の事実を述べている。そして、本号でいう「不正の目的」には、「不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的」が挙げられており、この認定に当たっては、「出願人より代理店契約締結等の要求を受けている事実を示す資料を十分勘案するものとする」とされているし、「周知商標についてダイリューションやフリーライドがあることを示す資料」も勘案の資料とされている(甲33)。以上から、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。

(2)本審判の進行

本審判の進行、とりわけ「答弁書提出の遅延」及び「答弁書の副本の送達の遅延」について、請求人としては納得できない点があるため、以下に述べる。

ア 答弁書提出の遅延について

請求人に対して被請求人が2023年3月14日に提起した侵害訴訟(令和5年(ワ)第70120号商標権侵害に基づく損害賠償等請求事件)に対抗するために、請求人は2023年6月9日に審判請求書を提出して本件無効審判を請求した。

本件無効審判については、2023年9月1日に請求書副本の送達通知(答弁指令)がなされ、提出期限が同年10月10日に設定された。

しかし、その後、被請求人の代理人であるI弁理士は、答弁書及び期間延長請求書のいずれをも提出していない。

2023年12月20日に提出された代理人受任届に記載された代理人の中には、I弁理士とともに侵害訴訟(令和5年(ワ)第70120号)の代理人として名前を連ねている弁護士2名も含まれている。

I弁理士が答弁書を提出しなかった理由については、2023年12月21日付け上申書(以下「被請求人上申書」という。)が提出されている。しかし、答弁書の副本の郵便送達があった2023年9月15日から侵害訴訟の共同代理人となっている弁護士がI弁理士の執務不能状態を知った12月18日までの間に裁判の期日(同年9月22日)及び準備書面の提出(同年12月18日)があり、期日においては、請求人代理人は、答弁書提出期間内に何らの書面も提出されておらず、期間延長請求もなされていないことにも言及した。このため、上記答弁書が提出されていないことを当該弁護士が知らないはずはなく、また、その時点でI弁理士に問い合わせていなかったとすると、代理人間のコミュニケーションに問題があったというほかない。

また、本来提出すべき期間内に、被請求人に何らの連絡もせず、手続きもしないという行為は、それだけで弁理士法第29条、日本弁理士会会則17号第41条に違反する行為であり、同法32条の懲戒処分の対象ともなる行為である。なお、I弁理士は2023年12月18日に訴訟代理人から電話があるまで、被請求人及び訴訟代理人に自らの執務不能状態について積極的に連絡していないことから、この点においても落ち度がある。

答弁書の提出には、特許法第134条第1項で「相当の期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えなければならない。」と規定されているとおり、期間が定められている。そして、同法第133条の2第1項では「審判長は、審判事件に係る手続において、不適法な手続きであってその補正をすることができないものについては、決定をもってその手続きを却下することができる。」と規定されていることから、指定された期間を過ぎて提出された答弁書はこの規定に基づき原則的に却下されるべきである。

なお、この却下は審判長の裁量として規定されているが、却下によって仮に被請求人にとって不利な結果となったとしても、審決取消訴訟という救済の途があり、特段被請求人に酷ということはない。加えて、特許法は審判の審理を迅速に進行させるための規定をいくつも設けているため、それら規定の趣旨にそぐわない手続の遅延に対しては厳格な対応を取るべきである。

他方、答弁書の提出が遅れた理由について、被請求人代理人弁護士は審判請求時の代理人であったI弁理士が急病により執務不能であった旨を被請求人上申書で説明しているが、当該事実についての証明書類(例えば、診断書等)が提出された形跡は見当たらない。

そのため、今回の手続経緯が悪意を持って利用されたとすると、病気と偽る上申書を提出し、審理の遅延を生じさせたという悪しき先例となる。また、特許庁の「期間徒過後の救済規定に係るガイドライン」でも、「救済規定の適用を受けようとする出願人等は、回復理由書に記載した事項を裏付ける証拠書類を提出しなければなりません」と明記されており、病気を起因とする場合には証拠書類として診断書等の提出が必要とされている。

そのため、本件答弁書について正式に受理する前に、提出期間を大幅に徒過した補正のできない不適法な手続きであることを通知し、証拠書類等を提出するための弁明をする機会を与えるべきであったと思料する。なお、その後の令和6年4月22日付の訴訟の準備書面にはI弁理士の名前が引き続き記載されており、現時点で、回復しているのか否かは不明である。

また、本来、期間経過後でも答弁書の提出を行うためには、期間徒過前又は期間経過後に期間延長請求の手続きをし、所定の手数料を納付した上で、答弁書を提出することになる。しかし、本件答弁書の提出においてそのような請求書の提出及び手数料の納付が行われた事実は、経過情報からは確認できない。

そうすると、病気と偽って答弁書を提出することで、期間延長請求も手数料の納付もすることなく、期間延長と同等の効果が生じることとなるため、正式な手続きをした者との間で不公平が生じ、著しく公平性を欠く。この観点からも、期間徒過後に提出された書面の受理については、却下理由通知と証拠書類の提出などの弁明の機会を与えることで対処することを所望する。

イ 答弁書の副本の送達について

答弁書の副本については、特許法第134条第3項にて「審判長は、第一項又は前項本文の答弁書を受理したときは、その副本を請求人に送達しなければならない。」と規定されているにもかかわらず、本件においては2024年1月5日に受理されてから同年11月13日に送達されるまで、およそ10か月を要した。通常、方式審査で答弁書に問題がなければ、遅くとも1月程度でその副本が送達される。本件においても、答弁書提出6日後の2024年1月11日に審判書記官から相手方が電子特殊申請で提出した書類(答弁書等)をDVD-Rに記録したもので送付してよいかとの電話が請求人代理人にあったことから、その後直ちに答弁書が送達されるものと考えていた。

しかし、実際には副本の送達は行われず、裁判所からの無効審判の進捗状況についての問合せがあったことを何回か電話で伝えたにも関わらず、副本は送達されなかった。最終的に副本が送達されるまでには、被請求人による提出があってから実に10か月を要している。

2023年における商標無効審判の平均審理期間(審判請求日から、審決の発送日、取下げ・放棄の確定日又は却下の発送日までの期間の暦年平均)は12.3か月であることから、答弁書の副本が速やかに送達されていれば、本件審判の審理は終盤に差し掛かっていたのではないかと推測される。

本件審判の結果が訴訟に大きく影響することは、裁判官から無効審判の経過について何度も確認の質問がされたことからも明らかであり、2024年12月12日の期日においても、裁判官から迅速な審理を望むとの意見が出された。

この訴訟との同時係属については審判長から確認があり、また、答弁書の副本の送達について電話で確認をする際にも伝えていることから、審判長も承知しているはずである。それにも関わらず、10月もの間、副本の送達をすることなく本件審判の審理を進めなかったということは、職権審理が認められている審判においては不作為による審理の引き延ばしというほかなく、大いに疑問がある。

ウ 本弁駁書について

上述したように、答弁書の副本が送達されてこなかったため、請求人は2024年2月16日に特許庁へ赴き、被請求人上申書及び答弁書について包袋閲覧を行い、内容を確認した。そして、被請求人の「答弁書」に記載された事項についての請求人の反論を、2024年4月4日付け上申書(2)として特許庁へ提出した。なお、本弁駁書の上記(1)の内容は、上記上申書(2)に記載された内容と同様である。また、証拠方法についても上記上申書(2)に添付して提出した証拠及び証拠説明書と同じである。

第4 被請求人の答弁

被請求人は、結論同旨の審決を求め、審判事件答弁書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証を提出した。

1 請求人の主張に対し、被請求人は、以下のとおり無効理由が存在しないことを主張、立証する。

2 識別力について

(1)本件商標の構成

ア 本件商標は、商標掲載公報(乙1)に記載されているように、全体形状が立方体の立体商標として登録を受けたものである。また、本件商標は、蓋部材と本体部材(蓋部材を除いた部材)との二つの部材から構成されている。その形状が立方体であることから明らかなように、本件商標は、上面、底面、正面、背面、左側面、右側面の6面を有しており、蓋部材は直方体のうち上面に該当する部分を有し、本体部材は直方体のうち上面を除く他の5面に該当する部分を外側に有する。

イ 本件商標の上面は、八角形の方位盤を示す図が朱色で表示され、その上に重ねて「東」の文字が黒色で表示されている。

ウ 本件商標の左側面は、団扇紋が朱色で表示され、その上に重ねて「祝詞師」及び「敬白」の文字が黒色で表示されている。

エ 本件商標の右側面は、「土金兼備祭」及び「祭主」の文字が黒色で表示されている。

オ 本件商標の底面、正面、背面は、いずれの模様及び文字も表示されていない。

カ 本件商標の収納箱の形状は、立方体の形をしており、その上面の蓋は、上面の全体を覆うものではなく、収納箱本体の上面の縁を残し内側で上面を覆う落とし蓋となっている。埋金の収納箱は、箱の内部に球体、お守り札、金粉を収納することを目的とした箱であるところ、通常の蓋であれば、上面の全体を覆うような蓋を収納箱本体にかぶせ、収納箱本体内側に別の板を付けた上で蓋のずれを防ぐ印籠蓋、蓋の下面の四方に桟を付ける四方桟蓋とすることが一般的である。

キ しかし、本件商標は、埋金の機能や美感に関係なく、専章堂の時代から続くオリジナルの埋金収納箱のデザインを採用し、あえて蓋を落とし蓋とし、古くからの埋金法で使用される直方体の収納箱ではなく、立方体としている。

ク なお、専章堂については、被請求人らがK氏から事業を引き継いでいる。この際に、被請求人らは専章堂で使用していた印鑑を引き継いだ。加えて被請求人らが事業を引き継いだことを告知する挨拶状を、K氏から受けついだ専章堂の顧客リストを利用して、専章堂の顧客らに対して送付している。したがって、本件商標の形状は、埋金の機能又は美感に資する目的のために採用されたわけではなく、専章堂時代から続く埋金の形状として識別力のあるものである。

ケ 本件商標を使用した埋金は、被請求人が専章堂から事業を譲渡され、本件商標を利用した事業を開始する前は、専章堂において遅くとも1968年頃から販売されていた。このような立方体で落とし蓋を採用し、かつ識別力のある文字、図形の記載された埋金はほかになかった。そして、埋金の需要者において、あえて立方体の形状にして、蓋としての利用のしにくくなる落とし蓋を採用することは、埋金の需要者といえども予測が困難な形状の変化である。したがって、本件商標は、需要者において、機能又は美感上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲にはなく、識別力を有する標章である。

コ なお、請求人が主張するように、仮に本件商標が埋金の形状そのものの範囲を出ない形状であったとしても、本件商標には、次に述べる理由により、商標の識別力を有し、無効とならない。

(2)商品等の機能又は美感を発揮させるための形状について

ア 上述したとおり、本件商標を構成する立体部分のうち底面、正面、背面は、いずれの模様及び文字も表示されておらず、商標の識別標識としての機能を有していない。他方、本件商標を構成する立体部分のうち「上面、左側面、右側面」の3面は、いずれかの模様又は文字が表示されていることから本件商標の要部と認定されるのが妥当である。

イ ここで、立体商標の識別力については、審決取消訴訟(平成19年(行ケ)第10293号、乙2)の判決公報において、「商品等の形状は、その性質上、それ自体にどんな変更等を施したとしても、商品等の機能又は美感を発揮させるための形状から完全に離れることはできないものであり、そのような目的と全く関係のない商品等の形状は考え難いことである。そうすると、ほとんどの商品等の形状が、自他商品・役務識別機能を発揮し得ない標章に該当することとなり、商品等の形状については、立体商標としての保護を全面的に否定することになるから、審決(乙3)の上記判断は、立体的形状を保護すべく導入された立体商標制度の趣旨を没却するものであり、誤りである。また、商品等の形状のうち機能を発揮させるための形状については、取引上何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でないため、商標法3条1項3号の規定によって規制する必要があるが、美感を発揮させるための意匠的形状については、そのような必要があるとはいえない。かえって、商品等の形状への装飾等が独創的でその商品の分野においてほかに例を見ないものであるときは、一私人に独占を認めたとしても何ら問題はないのであり、そのような意匠的形状は、自他商品識別機能を発揮しているものとして積極的に保護されるべきものである。したがって、機能を発揮させるための商品等の形状は、商標法3条1項3号の規定に該当し得るとしても、美感を発揮させるための商品等の形状は、それのみを以って直ちに同号の規定に該当するとはいえないものであり、美感を発揮させる形状についても、一律に商標法3条1項3号の規定に該当するとの前提に立った審決の上記判断は誤りである。」として、平成19年3月29日にした審決(不服2004-65058号事件)を取り消している。

ウ また、同判決公報において、「このような(審決の)判断は、本願商標の形状の細部にのみ着目し、全体の形状についての個別具体的な検討を欠くものであって、チョコレート菓子の実際の取引においては、需要者は商品の形状の全体を一体的に認識して商品を購入するという、この種の商品の取引の実情を無視するものである」と述べており、当該審決で一度認定された商標の識別力欠如という判断を否定している。

エ そうすると、本件の事案について考える場合、本件商標を構成する形状の細部すなわち、いずれか任意の面についての模様又は文字にのみ着目し、全体の形状についての個別具体的な検討を欠くことは許されず、埋金法の実際の取引において、需要者は商品の形状の「全体を一体的に認識して」商品を購入するという商品の取引の実情を無視してはならないといえる。

オ そして、既述のとおり、本件商標の要部は、立体部分のうち「上面、左側面、右側面」の3面であり、このうちいずれの面も欠けることなく全てが一体となって立体商標としての美感、独創性を表出することで、本件商標は自他商品識別機能を発揮するものである。そのような意匠的形状(美感を発揮させるための商品等の形状)は自他商品識別機能を発揮しているものと捉えるのが妥当であり、積極的に保護されるべきものであるというのが上述の判決例からも明らかである。

カ さらに、被請求人は専章堂から埋金に関する事業を譲渡され、これに伴い埋金の仕入先、顧客、印鑑、道具セット等、専章堂の事業の一切を受け継いだ者である。そして、本件商標における埋金の収納箱には、上面、左側面、右側面に、特徴的な文字又は模様がある(詳細は後述する)。ここで記載された模様及び文字は、被請求人が本件商標を受継する前の専章堂で創作されたものであり、本件商標の模様及び文字の組合せは、専章堂オリジナルの開運祈願のための言葉や図の結晶であり、専章堂の埋金製品のメルクマールとなっていた。そして、被請求人はこの埋金についての事業を一体的に譲られていたため、被請求人商標記載の模様及び文字の組合せについての識別力は、専章堂から被請求人に移転している。

キ ここで、改めて本件商標の要部として捉えられるべき立体形状の「上面、左側面、右側面」の3面について考察すると、まず、請求人も指摘しているように(甲3)、上面に表示されている方位盤の模様及び「東」の文字は、風水や九星気学の分野で一般的に使用されるものである。本件商標における当該方位盤の模様及び「東」の文字についても、およそ一般的に使用されるものから大きく逸脱するものではないと思われる。次に、左側面に表示されている団扇紋の模様及び「祝詞師」及び「敬白」の文字もまた、風水や九星気学の分野で一般的に使用されるものであり、本件商標における当該模様及び文字についても、およそ一般的に使用されるものから大きく逸脱するものではない。

ク ただし、右側面に表示されている「土金兼備祭」及び「祭主」の文字については、風水や九星気学の分野で一般的に使用されているとまでいえるか否かは、請求人の提示する証拠(甲5の5、甲5の3)からは判断できない。確かに、甲第5号証の3には「土金兼備祭」という言葉が風水の分野で使用されていることが示されているが、これは使用例の一つを示すにすぎず、例えば、インターネットで、「土金兼備祭」という言葉を検索しても、風水の分野で一般に使用されている例は全く発見できない(Google検索、乙4)。

ケ すなわち、「土金兼備祭」という言葉は、風水や九星気学の分野で一般的に使用されているとはいえない。さらに、これに「祭主」という文字が追記されているのであるから、本件商標の右側面に表示される「土金兼備祭」及び「祭主」の文字部分は、風水や九星気学の分野で一般的に使用されているものではない。

コ そうすると、既述のとおり、本件商標の要部は、立体部分のうち「上面、左側面、右側面」の3面であり、このうちいずれの面も欠けることなく全てが一体となって立体商標としての美感、独創性を表出することで、本件商標は自他商品識別機能を発揮するものであるから、仮に「上面」と「左側面」が風水や九星気学の分野で一般的に使用されるものを表示していた(識別力がない)としても、「右側面」が風水や九星気学の分野で一般的に使用されるものを表示していない(識別力がある)ので、「上面、左側面、右側面」の3面全てを一体とした、いわば平面商標における「結合商標」のようなものであると捉えることにより(識別力のない2面に識別力のある1面を加えたのであるから)、3面全体としては識別力を有すると考えるのが妥当である。

サ したがって、方位盤の模様及び「東」の文字と、団扇紋の模様及び「祝詞師」及び「敬白」の文字と、「土金兼備祭」及び「祭主」の文字とがいずれも欠けることなく全て一体となった立体形状である本件商標は、立体商標としての独自性を有し、出所識別機能及び自他商品識別機能を発揮するといえる。

シ 以上より、本件商標は、指定商品及び指定役務である「埋金」及び風水や九星気学の分野において一般的に使用されているものではないため、商標の識別力を有する。

3 商標法第3条第1項第2号に基づく無効理由について

(1)まず、上記2で述べたとおり、本件商標は、立体商標としての美感、独創性を備えているものであり、商標の識別力を有している。

(2)そのうえで、例えば広辞苑に代表される辞典・辞書の何処にも、本件商標を含む埋金法の道具セット、あるいは「埋金」という言葉についてさえ記載がないこと(広辞苑、乙5)、「日本占術協会」、「九星気学」、「埋金」等の本件商標登録の指定商品及び指定役務と関連性の高いサービスを示す言葉によってインターネット検索をした場合に本件商標を含む埋金法の道具セットについての使用例がどこにもないこと(「日本占術協会」ホームページ、乙6)、さらに、請求人が証拠として提示する使用商標(引用商標)のうち「こはく館」によるもの(甲8の5)のみが、本件商標を構成する立体部分の「上面・左側面・右側面」と同一の構成を有するものと推認でき、それ以外(甲8の5を除くもの)については本件商標を構成する立体部分の「上面・左側面」のみ同一又は類似するにすぎないこと、といった各事実を総合的に鑑みると、本件商標が、埋金法の道具セットを表示するものとして広く知れ渡っていると認定するには難があるとともに、同業者間において慣用化されたとの共通認識があると認めるに足る事実も存在せず、需要者間において自他商品識別標識としての機能が希釈化して慣用商標化していると認め得るだけの事実も何ら存在しない。

(3)以上より、本件商標は、商標法第3条第1項第2号には該当しない。

4 商標法第3条第1項第3号に基づく無効理由について

(1)請求人によれば、本件商標は、商品の「埋金法」という使用方法、その役務の提供の用に供する物(埋金法に使用する道具セット)、「埋金」という用途その他の特徴を、普通に用いられる態様で表示する標章のみからなる商標にすぎないため、商標法第3条第1項第3号に該当すると主張している。さらに、商品等の形状は、商品等の通常の機能又は美感とは関わりがなく、これを普通に用いられる方法で表示するものではない特異な形状あるいは装飾的な形状であると認められる場合に限り、自他商品の識別標識となり得るものと解すべきである(甲8の14)と主張している。

(2)しかし、本件商標の収納箱は、「埋金」を行うために製造されているものである。埋金を行うためには収納箱が必要であり、ここでの収納箱の形状は、一定に定まっているわけではない。すなわち、埋金の収納箱の中には蓋が存在しないもの、蓋を四方桟蓋とするもの、収納箱の形状が直方体であるもの等、その形状は様々である。本件商標における収納箱の形状は、箱本体については立方体として、蓋についても落し蓋にあえてされている。これは、他の収納箱の標章とは異なり、被請求人が事業を受け継ぐ前の専章堂時代の古くから続く標章を採用したものである。請求人の主張するような単に散逸しないという機能を求めるのであれば、収納箱の箱本体は直方体とした方が収納容量も上がり、より散逸防止機能を果たせるものであり、美感を重視するのであれば、請求人も主張するように印籠蓋とした方が高級感も増してデザイン性も高まると考えられる。この中で本件商標の形状を選択したことは、埋金にあたっての機能や美感に資する目的で採用されたわけではないことを示すものである。したがって、本件商標の形状は、埋金の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められない。

(3)仮に、本件商標の形状が、埋金の機能又は美感に資する目的のために採用されたもの、あるいは、需要者において機能又は美感上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲にあるものだとしても、既述した判決公報において述べられているとおり、商品等の形状は、その性質上それ自体にどんな変更等を施したとしても商品等の機能又は美感を発揮させるための形状から完全に離れることはできないものであり、そのような目的と全く関係のない商品等の形状は考え難いものであるから、「商品等の形状が商品等の通常の機能又は美感とは関わりがなく、これを普通に用いられる方法で表示するものではない特異な形状あるいは装飾的な形状であると認められる場合に限り自他商品の識別標識となり得るもの」であるとすると、ほとんどの商品等の形状が、自他商品・役務識別機能を発揮し得ない標章に該当することとなり、商品等の形状については立体商標としての保護を全面的に否定することになり、立体的形状を保護すべく導入された立体商標制度の趣旨を没却するものである。

(4)また、既述のとおり、商品等の形状のうち美感を発揮させるための意匠的形状については、商標法第3条第1項第3号の規定によって規制する必要が必ずしもあるとはいえない。かえって、商品等の形状への装飾等が独創的でその商品の分野においてほかに例を見ないものであるときは、一私人に独占を認めたとしても何ら問題はないのであり、そのような意匠的形状は、自他商品識別機能を発揮しているものとして積極的に保護されるべきものである。

(5)そして、本件商標の要部は、立体部分のうち「上面、左側面、右側面」の3面であり、このうちいずれの面も欠けることなく全てが一体となって立体商標としての美感、独創性を表出することで、本件商標は自他商品識別機能を発揮するものである。すなわち、本件商標は識別力を有する。

(6)してみれば、本件商標をその指定商品又は指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が本件商標を「埋金法」という使用方法、その役務の提供の用に供する物(埋金法に使用する道具セット)、「埋金」という用途その他の特徴を、普通に用いられる態様で表示したものと認識するものとはいえず、本件商標は、自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものと見るのが相当である。

(7)したがって、本件商標は、その形状が埋金の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められず、本件商標が需要者において、機能又は美感上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲にもなく、仮にそうであったと仮定しても、本件商標は識別力を有するものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当するものではない。

5 商標法第3条第1項第6号に基づく無効理由について

(1)請求人によれば、請求人が証拠として提示する商標(甲6、甲8)は、本件商標の出願前及び登録時に、複数の提供元から術具として販売されており、需要者は本件商標を「埋金法に使用する術具」として認識するにとどまり、本件商標は「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できない商標」に該当するため、商標法第3条第1項第6号に該当すると主張している。

(2)しかし、既述のとおり、本件商標の要部は、立体部分のうち「上面、左側面、右側面」の3面であり、このうちいずれの面も欠けることなく全てが一体となって立体商標としての美感、独創性を表出することで、本件商標は自他商品識別機能を発揮するものである。すなわち、本件商標は、識別力を有する。

(3)さらに、引用商標のうち「こはく館」によるもの(甲8の5)のみが、本件商標を構成する立体部分の「上面・左側面・右側面」と同一の構成を有するものと推認でき、それ以外の引用商標(甲8の5を除くもの)については本件商標を構成する立体部分の「上面・左側面」のみ同一又は類似するにすぎないものであるから、需要者が本件商標を「埋金法に使用する術具」として認識するにとどまり、本件商標は「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できない商標」に該当するという請求人の主張は失当である。

(4)したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当するものではない。

6 商標法第4条第1項第16号に基づく無効理由について

請求人によれば、本件商標の指定役務には、「埋金」という役務ではない役務が含まれているから、埋金のみに使用する本件商標をそれ以外の役務に使用することは、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるため、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当すると主張している。

しかしながら、本件商標は、既述のとおり、本件商標をその指定商品又は指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が本件商標を「埋金法」という使用方法、その役務の提供の用に供する物(埋金法に使用する道具セット)、「埋金」という用途その他の特徴を、普通に用いられる態様で表示したものと認識するものとはいい難いものであり、本件商標をその指定商品又は指定役務中のいずれの商品又は役務に使用しても、商品の品質又は役務の質について誤認を生ずるおそれはないものというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。

7 商標法第4条第1項第7号に基づく無効理由について

(1)引用商標の周知性について

ア 使用期間

請求人サイトでの開始時期は、2011年4月13日であり(甲6の1)、本件商標の出願日である2016年12月16日までの期間は、5年8か月程度であり、該期間は決して長いものとはいえず、請求人サイトで使用されていた引用商標は、長年使用されていたとはいえないものである。

イ 引用商標の販売数量

請求人が引用商標を使用しつつ販売した埋金セットの数量は、2012年で38個、2013年1月ないし10月31日で50個である(甲14、甲15)。また、2016年で172個である(甲17)。そして、請求人によれば、「埋金法」の実施に際して用いられる術具は、お菓子その他の一般的な商品とは異なって、末端の需要者に広く流布する商品ではなく、埋金関連の市場規模は決して大きくはないため、これらの販売数量は、引用商標が埋金分野において周知性を獲得するのに十分であったと主張している。

しかし、埋金関連の市場規模を示す具体的な資料やデータは何も提示されておらず、引用商標の周知性の認定において、埋金セットの販売数を比較の根拠とする理由は明らかでなく、当該販売数の多寡について比較すべき客観的な資料は存在しない。

例えば、2013年9月14日付のYahoo!ニュースの記事(乙9)及び、当該記事内においても紹介されている三菱UFJリサーチ&コンサルティング有元裕美子氏の著書「スピリチュアル市場の研究」(乙10)によると、「スピリチュアル分野の市場規模は約1兆円」であることが述べられている。また、当該記事には「スピリチュアル市場」とは、目的によって「開運」と「自己啓発」の2つに分けることができ、風水のように黄色い財布を持つと金運が上がるというようなジャンルが「開運市場」で、「自分は何のために生まれてきたのか」などと精神性を高めるようなジャンルが「自己啓発市場」であり、圧倒的に「開運市場」の方が大きい旨が述べられている。

その他、占い産業の市場規模に関する複数のインターネット記事が見つかっており(乙11、乙12)、それらの記事の内容から、占い産業の市場規模も決して小さなものではないことが明らかである。

そうすると、仮に占い・スピリチュアル産業が数千億円ないし1兆円のマーケットであるとするならば、請求人による埋金セットの販売数が本件商標出願前の期間で数百個にすぎず、1個の埋金セットの販売価格が約2万円(甲6)であることから売上げとしては数百万円からせいぜい数千万円にすぎない。すなわち、同産業のマーケットに占める割合は1%にも満たないものであり、この程度の市場占有率から、請求人が販売する引用商標が周知性を獲得したということはできない。

なお、市場規模を示す1兆円という数字について真偽を明らかにする証拠がないという反論も考えられるが、占い・スピリチュアル・開運という言葉から連想される商品及びサービスは多岐にわたり、その全貌を捉えたうえで正確な市場規模を算出することは、そもそも困難である。であれば、請求人が埋金関連の市場規模を示す具体的な資料やデータを提示できないのは当然であり、引用商標の周知性の認定において、埋金セットの販売数を比較の根拠とする理由は結局のところ明らかではないため、当該販売数の多寡について比較すべき客観的な資料は存在しないことになり、いずれにせよ請求人が販売する引用商標が周知性を獲得したということはできない。

ウ 雑誌での引用商標の記事

甲第8号証の2において、請求人の名称が記載された記事が確認できるが、これらは、必ずしも引用商標が商標として使用されていることを表すものではなく、また、その件数も決して多いものとはいえないものであるから、引用商標が請求人役務の分野において周知性を獲得したことを裏付けるのに合理的なものとはいえない。また、甲第8号証の2は、占い関連の分野で著名であった雑誌とのことだが、そこにおいて請求人商品が紹介されている頁は第108頁で、少なくとも当該頁の前に約100頁にわたり、異なる商品が紹介されているものと推察される。すなわち、雑誌全体では請求人商品以外にも多数の商品が紹介されていると推察され、請求人商品は多数ある商品の中の一商品として紹介されていたにすぎず、そこに掲載されている請求人商品を需要者が確実に見たとは限らない。

さらに、当該雑誌の販売又は配布部数、地域など、全国の一般需要者層に広く配布されたかについて全く示されていないうえ、雑誌中に複数ある同種商品が紹介されていたと仮定した場合に、それらの商品の中でどのようにして請求人商品のみが広く知られるようになったといえるのかについて示す資料もない。

エ その他、本件商標の出願日及び査定時における引用商標を使用した請求人商品の我が国及び外国における売上げ、業界における市場占有率、広告宣伝の回数や広告宣伝費の額等、引用商標の周知性を客観的に示す資料は見当たらない。

オ 以上を総合的に判断すれば、引用商標が請求人の業務に係る請求人商品を表すものとして、本件商標の出願時において我が国及び外国における取引者、需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができないものである。

(2)悪意の出願について

ア 請求人によれば、本件商標は、その出願前に「埋金法」という九星気学における開運法において用いられてきた術具の収納箱を、その術具を使用する他人を排除するために商標登録出願した「悪意の出願」に該当したものであるため、商標法第4条第1項第7号に該当すると主張している。

イ しかしながら、引用商標は、既述のとおり、本件商標の出願日において、我が国及び外国において請求人の商品を表すものとして広く認識されているということができないものであり、商標権者による引用商標の使用が、その著名性に便乗するものということはできない。また、請求人提出に係る全証拠を勘案しても、被請求人が本件商標を出願し登録した行為は、引用商標の顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)することを意図し、引用商標を剽窃して出願されたものと認めるに足る具体的事実を見いだすことはできない。

ウ そのほか、本件商標は、その構成文字からして、きょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるようなものではなく、他の法律によってその使用が制限又は禁止されているものでもない。しかも、請求人は、引用商標の使用開始に当たって、その商標を自ら登録出願する機会は十分にあったというべきであって、自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求めるべき具体的な事情を見いだすこともできない。

エ そうすると、本件商標について、商標法の先願登録主義を上回るような、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるということはできないし、そのような場合には、あくまでも、当事者間の私的な問題として解決すべきであるから、公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。

オ したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

8 商標法第4条第1項第10号に基づく無効理由について

(1)本件商標と引用商標の類比

ア 本件商標は、既述のとおり、その要部は立体部分のうち「上面、左側面、右側面」の3面であり、このうちいずれの面も欠けることなく全てが一体となって立体商標としての美感、独創性を表出することで、本件商標は自他商品識別機能を発揮するものである。

イ 他方、引用商標のうち「こはく館」によるもの以外の引用商標(甲8の5を除くもの)については本件商標を構成する立体部分の「上面・左側面」のみ同一又は類似するにすぎないものである。すなわち、請求人が使用する引用商標、例えば甲第6号証の1で示されるものは、本件商標を構成する立体部分の「右側面図」に相当する部分が確認できない。

ウ そうすると、本件商標の右側面図に表示されている「土金兼備祭\祭主」の文字が、仮に引用商標の右側面図には表示されていない場合、両商標をこの角度から比較したときに全く類似しない。また、引用商標の右側面図に何らかの文字又は模様が表示されているとしても、請求人が提示する証拠からそれを確認することができないため、右側面から両商標を比較したときに両者が類似すると判断することはできない。

エ 以上から、本件商標と引用商標とは、その外観において類似しない、あるいは類比判断が不能であるため、商標全体としてみて類似しないものと判断するのが妥当である。

(2)本件商標の指定商品・役務と引用商標の使用に係る商品・役務との類否

本件商標の指定商品・役務と引用商標の使用に係る請求人商品・役務は、提供の目的、手段、需要者等を共通にするものであるから、これらの商品・役務は、類似する。

(3)小括

ア 本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するものというためには、引用商標が、請求人の商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることが求められる。しかし、上記で述べたとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。

イ また、上記で述べたとおり、本件商標と引用商標とは類似しないか類比判断が不能である。

ウ したがって、本件商標は、上記で述べたとおり、本件商標の指定商品又は役務と引用商標の請求人商品又は役務とが類似するとしても、商標法第4条第1項第10号の要件を欠くものであり、同号に該当するものではない。

9 商標法第4条第1項第15号に基づく無効理由について

(1)本件商標の出願時において、引用商標が我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものとは認められないことは上記で述べたとおりである。

(2)また、請求人は2011年6月までは引用商標を師匠のM氏から仕入れて販売しており、2011年7月からは専章堂より購入した引用商標を用いて販売していた(甲6の2~4)。この事実を除き、引用商標の独創性の程度を示す証拠については何も提示されておらず、よって、請求人が使用する引用商標は独創的なものであるとはいえない。

(3)してみれば、本件商標と引用商標とは、本件商標の指定商品等と引用商標の商品等とが類似し需要者が共通するとしても、引用商標は、我が国の需要者の間に広く認識されていたものではなく、かつ、その独創性の程度も極めて高いものではないから、本件商標をその指定商品等のいずれの商品又は役務に使用しても、これに接する需要者が、引用商標を想起し連想して、当該商品等を、請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように、商品又は役務の出所について混同を生じるおそれがある商標ということはできない。

(4)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。

10 商標法第4条第1項第19号に基づく無効理由について

(1)本件商標の出願時において、引用商標が我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものとは認められないことは上記で述べたとおりである。すなわち、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。

(2)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号所定の他の要件を判断するまでもなく、同号に該当するものではない。

第5 当審の判断

請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認めるので、以下、本案に入って審理する。

1 本件商標について

本件商標は、別掲1のとおりの構成からなる立体商標であり、木目風の表面で表した略立方体の形状からなるところ、各面の構成は次のとおりである。各面に表示された文字、図形の意味などについては、下記2(3)アないしキのとおりである。

(1)上面

本件商標の上面には、朱色の八角形の方位盤が表示され、かつ、正面に当たる当該八角形の一辺上に重なるように黒色の「東」の文字が表示されている。

(2)左側面

本件商標の左側面には、朱色の「変り羽団扇」の図形が表示され、その上に重ねて黒色の「祝詞師」及び「敬白」の各文字が2行に表示されている。

(3)右側面

本件商標の右側面には、黒色の「土金兼備祭」及び「祭主」の各文字が2行に表示されている。

(4)正面及び背面

本件商標の正面及び背面には、いずれの模様及び文字も表示されていない。

2 事実認定

当事者の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が確認できる。

(1)「埋金法」について

ア 「気学傾斜秘法(全)」(平成12年12月23日(株)東洋書院)には、「埋金法 この法は前の四法と違って、人造加工品です。方法は年、月、日、時の現地開運法で、他と同じですが、費用は一番高くつきましょう。何故かと言えば、金や銀を使うからです。・・・しかし開運法ではお水取りに次いで、大勢の人達が行っている人気開運法です。・・・埋金法はお金を掛けるとなると切りがありませんから、鉄の玉を主力にします。・・・次に、この鉄の玉を入れる箱を作ります。木は、ひのきか桐材です。天地左右も深さも五・九センチ。厚み約九ミリ。・・・次に、紙は玉を包むのではなく箱に詰めて下さい。そして玉の下に金粉を入れるのです。金がなければ銀粉だけでも良いと思います。・・・その上に長さ三十センチ、幅三センチの紙を作り、九つに折り九つの升の中に一字ずつ九文字の願い事を書くのです。例えば、地方公務員試験合格、マイホーム建築実現など頭をひねって下さい。そして九つに折り、ふたをボンドで付け下さい。・・・そして麻ひもで結わきます。麻ひもを十文字に結わけば終了です。・・・やがて日が来たら、それを年、月、日、時を合わせ現地に行き、地盤内に穴を五十センチ位掘り、塩を撒き、その上に置き埋めます。・・・敷地が広い人は、敷地内の吉方位に埋金しても良いのです。」との記載がある(甲6の5)。

イ 「秘占「金函玉鏡」方位術」(2003年5月2日(株)学習研究社)には、「■金属球を使う玉埋めの秘宝/金属を使う方法としては、古来から「玉埋め」と呼ばれ、効果が最もあらたかな手法があります。これは吉方へ赴き、直径3センチ程度の金属製の球を埋めるというものです。・・・方法としては、金属製の球に金箔をまぶし、木製の箱に自分の願望を書いた紙とともに入れて紙ひもで縛り、30センチ以上の深さに埋めればいいのです。・・・」との記載がある(甲6の7)。

ウ 「現代方位術大全」(2011年8月1日(株)説話社)には、「IV 白虎金気の法・・・1 目的 蓄財や金融、製造業、エンジニアリング分野の発展には特によろしい。一般的な開運にも使用できます。 2 埋金の法 いわゆる「玉埋め」と称されるものです。桐の箱、和紙、金属球を用意します。桐の箱は一辺59ミリの立方体、金属球の直径は36ミリと定められています。・・・箱の中に和紙を敷き、その上に純金製の金箔を敷きます。その上に金属球を乗せます。縦3センチ横27センチの紙を用意し、9つに折り、1マスごとに1文字ずつ、願望を9文字で縦書きに記入します。例えば「入学試験志望校合格」「○山○男と結婚祈願」「今年中に部長に昇格」・・・など、・・・記入後は、9つに折り曲げて金属球の上にのせ、ふたを接着剤でとじます。そして、麻ひもで十字に結わいて、完成です。・・・いよいよ玉埋め実行の日時が到来したら、現地に赴きます。・・・最初に塩で清め、穴を掘ったら再度穴の底に塩を撒きます。そして玉の入った箱を埋め、土をかぶせて完了します。・・・」との記載がある(甲6の6)。

エ 「クロスワードパクロス 6月号増刊 Chakra vol.31」(2013年4月16日アイア(株))には、「願いを“埋めて”かなえる!?五気法の秘儀「埋金法」が知りたい!!」のタイトルの下、「埋金法って何?/埋金法とは、文字通り埋金玉と呼ばれる金属の玉に金粉をかけて、願いを書いた札と共に吉方位の地中に埋める開運法。」「埋金法の起源は「五気法」四柱推命・易・姓名学・・・一般的に知られている様々な開運法も、全ては五種五行の考え方に基づいています。五種とは木・火・土・金・水で、万物はこの五種類の元素からなり、互いに影響を与えあう、という考え。その五行から分類され、考え出されたのが「五気法」。5つの気法の中で、その人の目的や願望に選び行うとされています。/五気法 木気法(木局開運法) 生火法(火局開運法) 土気法(土局開運法) 埋金法(金局開運法) 水気法(水局開運法) この五気法の中でもっとも強く作用すると言われているのが、埋金法(金局開運法)なのです。」との記載がある(甲8の2)。

オ 上記アないしエによれば、埋金法とは、木箱に、金属の玉、願い事を書いた紙、金属粉などを入れ蓋を付け、ひもで結わいて、吉日、吉時 吉方位の地中に埋めるという、時間や方位による占いに基づく開運法の一種であることが認められる。

他方、上記の証拠方法には、埋金法に用いる箱について59ミリの立方体であるなどの記述があるものの、箱の上面、左側面及び右側面に記載すべき図形、文字を特定する記述はない。

(2)埋金法に使用する箱について

請求人が「本件商標と要部が同一又は酷似している埋金法に使用する道具の提供者」と主張する者及び被請求人のウェブサイト、ブログ、雑誌並びにこれらブログ等に掲載された埋金用の箱の各面の構成については、以下のとおりである。

ア 開運鑑定士 紫央

「開運鑑定士 紫央」のブログ記事「埋金法による開運」(2010年2月20日)に、「私は本来、九星気学と四柱推命の長所を取り入れた鑑定を専門としているのですが、風水や手相の勉強もひととおりしてきました。今回は、私の専門である、九星気学の開運方法をご紹介いたします。・・・この写真が埋金になります。・・・無料で出来れば一番いいのですが、鑑定料や材料費は掛かりますので、是非ご相談ください。」の記載とともに、略立方体の木箱とおぼしき画像が掲載され、その上面には、朱色の八角形の方位盤とおぼしき図形が表示され、正面に当たる当該八角形の一辺上に重なるように黒色の「東」の文字が表示され、右側面には黒色の文字が2行に表示されていることがうかがえるが、これらの構成が本件商標の上面及び右側面を構成する文字及び図形と同一であるか否かは判然としない。また、左側面の表示を確認することはできず、本件商標との比較はできない(甲8の1)。

イ 請求人に係る販売店(パワーストーンカフェピーコック及び恵方屋)

「パワーストーンカフェピーコック」のブログ記事「【秘伝】埋金法(玉埋め)」(2011年4月13日)には、「開運法についてはいろいろな方法がありますが歴史的に積み重ねられた運命学の基本理念は総て五行から発生しています。木火土金水の五気法の開運法は目的や願望で選択し最善の方法を取ることができます。いつもピーコックで推奨しております御水取り(水局開運法)や御土取り(土局開運法)も非常に素晴らしい開運法ですが、本日は今までお知らせしたことのあまりなかった方法をひとつご紹介いたします。秘伝とも言われております非常に強い埋金法(玉埋め)という方法(金局開運法)です。」「埋金法は今現在本当に強く運気をあげたい方、開運転換したい方、七難即滅させたい方などにオススメです。・・・方位アドバイス料金 ¥5000 埋金セット 販売のみ¥15750 1箇所につき ¥20750」との記載がある。

そして、上記の記載とともに、略立方体の木箱の画像が掲載され、その蓋を構成する上面には、朱色の八角形の方位盤が表示され、かつ、正面に当たる当該八角形の一辺上に重なるように黒色の「東」の文字が表示され、左側面には、朱色の「変り羽団扇」の図形及びその上に重ねて黒色の「祝詞師」「敬白」の各文字が2行に表示されていることが確認でき、これらの構成は本件商標の上面及び左側面の構成とほぼ同じであることがうかがえる。しかしながら、右側面の表示を確認することはできず、本件商標との比較はできない(甲6の1)。

そのほか、パワーストーンカフェピーコックの各ブログ記事「埋金は10月にしたい!!」(2012年10月10日)、「二荒山神社にて埋金」(2013年8月27日)、「お盆も元気に営業ちう!&私はこれから埋金!」(2014年8月13日)、請求人が代表者である株式会社ORUFFが運営するウェブサイト「開運グッズ専門店 恵方屋」の記事(日付不明)にも、上記と同様の構成の商品の画像が掲載されている(甲8の7、10、12、甲12の4)。

ウ 株式会社プラスワン

「クロスワードパクロス 6月号増刊 Chakra vol.31」(2013年4月16日アイア(株))の「PR」ページに、「申込番号S8042 自分で出来る!秘儀埋金法の道具がセットで!18,800円(税込)購入者特典/初心者でも分かる埋金法の解説書をプレゼント●セット内容/埋金玉、金粉、福布、紐、願札2枚、専用箱 お申し込み・お問合せ【電話受付】9時~21時・・・<販売者>株式会社プラスワン」等の記載とともに、略立方体の木箱とおぼしき画像が掲載され、その蓋を構成する上面には、八角形の方位盤が表示され、かつ、正面に当たる当該八角形の一辺上に重なるように「東」の文字が表示され、左側面には「変り羽団扇」の図形及びその上に重ねて「祝詞」「敬白」の各文字が2行に表示された左側面が確認でき、これらの構成は本件商標の上面及び左側面の構成とほぼ同一であることがうかがえるが、右側面に表示された文字等を確認することはできず、本件商標との比較はできない(甲8の2)。

エ 気学館

「気学館のブログ」のブログ記事「埋金法」(2014年5月26日)に、「五気五行の開運法の一つ「埋金法」・・・金の玉を自分の分身と見立てて、吉方へ出来るだけ遠くに埋めてくる方法です。・・・お話を聞きたい方は、是非ともご連絡をしてください。」の記載とともに、略立方体の木箱とおぼしき画像が掲載され、その蓋を構成する上面には、朱色の八角形の方位盤とおぼしき図形が表示され、かつ、正面に当たる当該八角形の一辺上に重なるように黒色の文字が表示され、左側面には朱色の「変り羽団扇」とおぼしき図形及びその上に重ねて黒色の文字が2行に表示されていることがうかがえるものの、これらの構成が本件商標の上面及び左側面の構成と同一であるか否かは判然としない。また、右側面に表示された文字等を確認することはできず、本件商標との比較はできない(甲8の4)。

オ ヒーリングストーンjade・気学宗家直門こはく館

「ヒーリングストーンjade・気学宗家直門こはく館」のブログ記事「埋金の仕方」(2015年04月03日)に、「運命大開運ができる4月!!・・・先日から、埋金法を紹介していますが、・・・埋金法の仕方や方位の意味を説明したいと思います・・・方位指導料込 30,000円・・・埋金、個数に限りがあります チャンス日も近づいています お早めに」の記載とともに、略立方体の木箱とおぼしき画像が掲載され、その蓋を構成する上面には、朱色の八角形の方位盤とおぼしき図形が表示され、かつ、正面に当たる当該八角形の一辺上に重なるように黒色の文字が表示され、左側面には朱色の「変り羽団扇」とおぼしき図形及びその上に重ねて黒色の文字が2行に表示され、右側面には黒色の文字が2行に表示されていることがうかがえるが、これらの構成が本件商標の上面、左側面及び右側面を構成する文字及び図形と同一であるか否かは判然としない(甲8の5)。

カ 東京・銀座の占い師・隆之介

「東京・銀座の占い師・隆之介公式ページ」のウェブサイト記事「普通の300倍の威力で全ての運勢を上げる方法」(2016年2月24日)に、「あなたも、金運恋愛運含め、全ての運勢を大開運出来ますよ。・・・埋金法は、桐の箱に祈願札と鉄球に金色の粉をまぶし、恵方に向けて気学による秘伝の手法で吉方位の土に埋めて来る、と言う手法です。・・・このようなセットです。埋金法の受付は、数に限りがあります。・・・数量がなくなり次第、受付は早期締切りします。・・・埋金法代行・販売とも価格は5万5千円です。【締切】2021年分は、受付締め切りました。」の記載とともに、略立方体の木箱とおぼしき画像が掲載され、その蓋を構成する上面には、朱色の八角形の方位盤が表示され、かつ、正面に当たる当該八角形の一辺上に重なるように黒色の「東」の文字が表示され、左側面には、朱色の「変り羽団扇」の図形及びその上に重ねて黒色の「祝詞」「敬白」の各文字が2行に表示されていることが確認でき、これらの構成は本件商標の上面及び左側面の構成とほぼ同じであることがうかがえる。しかしながら、右側面の表示を確認することはできず、本件商標との比較はできない(甲8の6)。

キ 専章堂

「パワーストーンカフェピーコック」のブログ記事「開運埋金法」(2011年7月29日)には、「開運埋金法の記事を以前・・・書きましたが、その埋金がな・・・なんっと・・・製造販売中止になってしまうんですって・・・ありったけの埋金もらっておきます!!」の記載とともに、上面には、朱色の八角形の方位盤とおぼしき図形が表示され、かつ、当該八角形の一辺上に重なるように黒色の文字が表示された物などの画像が掲載されており(甲6の4)、埼玉県川口市の専章堂から請求人宛て納品書(平成23年7月25日付け)には、品名「埋金セット スチール」、数量「15」、単価「4500」及び金額「67500」の記載があるものの、専章堂が製造販売する商品の構成については記載がない(甲6の2、4)。

ク まいきん堂(被請求人に係るホームページとされるもの)

「まいきん堂」のウェブサイト(https://maikin.jp)には、「・・・中国最古の開運技法が導く、幸せへのステップ」の記載の下、「トピックス」の項に「2012.02.16 まいきん堂ホームページがオープン致しました。今後、開運グッズなど色々な商品を取り揃えてみなさまにご提供していきます。」との記載があり(甲31の1)、同じく「まいきん堂」のウェブサイト(https://maikin.jp/product/【代理店専用】埋金-個/)には、略立方体の木箱とおぼしき画像が掲載され、その蓋を構成する上面には、朱色の八角形の方位盤が表示され、かつ、正面に当たる当該八角形の一辺上に重なるように黒色の「東」の文字が表示され、左側面には、朱色の「変り羽団扇」の図形及びその上に重ねて黒色の「祝詞」「敬白」とおぼしき各文字が2行に表示されていることが確認でき、これらの構成は本件商標の上面及び左側面の構成とほぼ同じであることがうかがえる。しかしながら、右側面の表示を確認することはできず、本件商標との比較はできない。

さらに、その下に「【代理店専用】埋金五個¥50,000(税別)こちらの商品は代理店登録を行ったお客様のみご購入いただけます。」との記載がある(甲31の2)。

ケ M氏

請求人の師匠であり、高名な占い師であるM氏も上記商品(埋金セット)を数多く販売してきているとされるが、その記録は数年前に廃棄したため残っていない(請求人の主張)。

(3)本件商標の各面に表示された文字、図形の意味などについて

ア 「方位盤」について

「方位盤」は、占いの際に、東西南北、十二支、数字、色等を示すものであり、八角形を含む種々の構成態様がある(甲3)。

イ 「東」について

「広辞苑」によれば、「東」は「四方の一つ。日の出る方。東方。」の意味を有する語である。

ウ 「変り羽団扇」について

ウェブサイト「家紋のいろは」によれば、本件商標に表示されている図形は、「軍配や団扇をモチーフとした家紋。」である「団扇紋」(うちわもん)の一種である「変り羽団扇」に類するものといえる(甲4)。

エ 「祝詞師」について

「広辞苑」によれば、「祝詞師」は「伊勢神宮の昔の神官。正員外で祈祷などをつかさどる。」の意味を有する語である(甲5の1、甲20の1)。

オ 「敬白」について

「広辞苑」によれば、「敬白」は、「うやまって申し上げること。主として、願文がんもん・書簡などの末尾に用いる語。」である(甲5の2、甲20の4)。

カ 「土金兼備祭」について

(ア)「ヤフオク!」のウェブサイトの「商品情報」に掲載された画像によれば、「神道極秘伝書/埋金法の古式作法」なる書籍に「土金兼備祭」の文字が記載されていることがうかがえるものの、その意味・内容については不明瞭である(甲5の3の1、2)。

(イ)「土金兼備麒麟之巻」(天保8年)なる書物において、「桐」の文字の下に表された直方体図形(底面は多角形で構成されている。)の隣り合う異なる側面に「土金兼備祭」「願主」等の各文字が記載され、上記と異なる頁に「右土金兼備祭者」の記載がされているものの、詳細は不明である(甲21の1)。

(ウ)「日本思想大系」(1972年7月25日)、「新撰神道祈祷全書」(大正3年12月9日)、「福島県史料情報第56号」(2020年2月)等の書籍に、「土金之秘決」「土金兼備行事」などの記載があるものの、「土金兼備祭」についての説明はなく、その意味や内容は不明である(甲21の2~8)。

(エ)「Microsoft Bing」における「土金祭」及び「風水」のキーワード検索結果によれば、「土金の伝」などの記載が確認できるものの、「土金兼備祭」の記載は見当たらない(甲23)。

キ 「祭主」について

「広辞苑」によれば、「祭主」は、「<1>伊勢神宮の神官の長。もとは大中臣氏の世襲であったが、近代は皇族を親任した。<2>祭事を主宰する人。」の意味を有する語である(甲5の4、甲20の3)。

(4)請求人による引用商標の販売について

ア 請求人は、2006年に、占い鑑定、パワーストーン等の販売を行う「パワーストーンカフェPEACOCK」をオープンし(甲8の8~13、甲11等)、上記(2)イのとおり「埋金」に使用する道具セット(引用商標)の製造販売を行っている。

イ 請求人は、2011年7月25日に「埋金」に使用する商品(埋金セット)を専章堂より15個購入し(甲6の2~4)、埋金法を実施していたが、専章堂が完全閉店したと聞き、同年10月頃から埋金セットの製造委託先を探し、製造をゼスト株式会社に依頼することし、2012年6月及び同年8月に同社から見積りを得た(甲9)。

ウ 請求人は、「埋金セット」を2011年4月頃には「パワーストーンカフェPEACOCK」(甲6の1)に掲載した。

エ 請求人が販売した引用商標を使用した埋金セットの数量は、同人の主張によれば、2012年1月ないし同年12月で38個、2013年1月ないし同年10月31日で50個であり(甲14、甲15)、さらに、同人の主張によれば、本件商標の登録出願時及び登録審決時を含む2016年ないし2022年における各年で平均して、卸売による個数は、約170個、売上げは約94万円とされる(甲17)。

(5)占い、開運に係る産業の市場規模について

埋金法は、時間、方位による占いに基づく開運法の一種であるところ、占い、開運に係る産業の市場規模については、以下のとおりである。

ア 「YAHOO!ニュース」における「効率的に癒やされたい時代に?スピリチュアル市場は1兆円」との記事(2013年9月14日)に三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員による「スピリチュアル市場」の解説として、「市場としてはどれくらいの規模があるのでしょうか?/およそ1兆円です。目的によって「開運」と「自己啓発」の2つに分けることができます。風水のように黄色い財布を持つと金運が上がるというようなジャンルが「開運市場」、・・・が「自己啓発市場」です。圧倒的に「開運市場」の方が大きいです。」との記載があり、また、その顧客について「多くは女性です。占いサイトの利用や相性診断は20代前後の女性で、少しお金に余裕がある30代から40代の女性は対面式の占いを利用するという傾向があります。企業の経営判断を求める会社経営者といった顧客もいます。特に女性は直感的に物事を考えると言われ、目に見えない力を信じやすい傾向にあります。この市場は、元々信じやすい人たちが顧客なので、テレビなどのメディアに喚起されると急激に伸びます。」との記載がある(乙9、乙10)。

イ ウェブサイト「ビジネス頭の体操」における「9月9日 占い産業の市場規模は1兆円!?最もシェアが高いのは手相!?」と題する記事(2022年9月8日)に、「占い、街でよく見かけますが、市場規模ってどれくらいか、詳しい統計はないのですが、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員の方が「スピリチュアル市場の研究 データで読む急拡大マーケットの真実」という本を出されており、それによると、当時で推定される市場規模は1兆円。これは当時のペット関連市場と同程度、化粧品市場の半分程度の規模。」との記載がある(乙11)。

ウ 「総務省」のウェブサイト「平成28年版 情報通信白書のポイント」の記事において、「(3)通信系コンテンツ市場の動向」の項に、「●2015年のモバイルコンテンツ産業の市場規模は前年比13.3%増の4兆4,228億円/モバイルコンテンツ市場とモバイルコマース市場からなる我が国のモバイルコンテンツ産業の市場規模は、スマートフォンやタブレット端末の普及・進展等により、2015年で4兆4,228億円(前年比13.3%増)となっており、引き続き増加している・・・。この内訳を市場別にみると、モバイルコンテンツ市場が1兆5,632億円(前年比7.3%増)、・・・となっている。」「モバイルコンテンツ市場は、モバイルインターネット上で展開されるデジタルコンテンツ(着信メロディ、音楽配信、動画、ゲーム、占い等)の市場を指・・・す。」との記載がある(乙12)。

3 商標法第3条第1項第2号該当性について

(1)商標法第3条第1項第2号について

商標法第3条第1項第2号は、「その商品又は役務について慣用されている商標」については、商標登録を受けることができない旨定めているところ、その「慣用されている商標」とは、同種類の商品又は役務について、同業者間において普通に使用されるに至った結果、自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを識別することができなくなった商標をいうと解される。

(2)本件商標の商標法第3条第1項第2号該当性について

上記(1)に照らして本件商標の商標法第3条第1項第2号該当性について検討する。

ア 上記2(1)によれば、埋金法と呼ばれる開運法は2000年以前から存在していたことが認められるところ、2010年より前に埋金セットと同種類の商品、又は埋金セットを用いた開運方法に関する占いの指導・助言・相談並びにこれらに関する情報の提供(以下、これらの商品又は役務を「埋金法に係る商品又は役務」という。)について、本件商標が同業者間において普通に使用されていたことは確認できない。

イ 上記2(4)によれば、2011年頃には、埋金セットを専章堂が製造、販売し、請求人がこれを購入して販売していたことがうかがえるものの、当該埋金セットが本件商標と同一であるかは明らかでなく、また仮にこれが本件商標と同一であるとしても、本件商標が埋金法に係る商品又は役務について専章堂以外の者により使用されていた事実は確認できない。

ウ 上記2(2)によれば、専章堂が閉店したとされる2011年以降については、請求人、被請求人を含む6者によるウェブサイト、ブログ、雑誌において、埋金用の箱が、掲載されていたことが認められるものの、いずれも箱の上面、左側面、右側面、正面及び背面が本件商標と同一の構成態様であることは確認できないし、仮にこれらの箱が本件商標と同一のものであったとしても、当該ウェブサイト、ブログ、雑誌が多数閲覧されて埋金法に係る商品又は役務の取引者・需要者にこれらのウェブサイト等が広く一般に周知されたと認めるに足りる事実は見いだせない。

エ 請求人によれば、同人が販売した引用商標を使用した埋金セットの数量は2012年1月ないし同年12月で38個、2013年1月ないし同年10月31日で50個であり、本件商標の登録審決時を含む2016年ないし2022年の卸売による個数は各年で平均して約170個であり、売上げは約94万円であるとされるが、当該期間における請求人以外の者に係る本件商標と同種の商品の販売個数、売上金額の多寡は確認できない(上記2(4))。

オ 上記アないしエを総合して判断するに、上記1のとおりの構成からなる本件商標は、その登録審決時以前から、埋金法に係る商品又は役務として同業者間において広く一般に広告、販売、提供されていたとはいえないから、同種類の商品又は役務について、同業者間において普通に使用されるに至った結果、自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを識別することができなくなったものと認めることはできない。

したがって、本件商標は、その商品又は役務について慣用されている商標ということはできないから、商標法第3条第1項第2号に該当しない。

4 商標法第3条第1項第3号該当性について

(1)商標法第3条第1項第3号について

商標法第3条第1項第3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されているのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する商標であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適切でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・集民126号507頁)。

そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の産地、販売地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の産地、販売地又は品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の産地、販売地又は品質を表示したものとして一般に認識されるものであるか否かによって判断すべきである。そして、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである(知財高裁令和6年4月11日判決(令和5年(行ケ)第10115号))。

(2)本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について

上記(1)に照らして本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について検討する。

ア 本件商標を構成する文字及び図形について

(ア)本件商標の構成文字について

「東」「祝詞師」「敬白」「土金兼備祭」及び「祭主」の各文字の意味については上記2(3)イ、エないしキに示すとおりであり、「土金兼備祭」を除き、辞書等に掲載された既成の語であるが、請求人が提出した各証拠を総合してみても、上記2(1)に係る埋金法との関係でこれらの文字を必ず用いなければならないとする根拠は見いだせず、また、本件商標の指定商品及び指定役務に係る取引において、「土金兼備祭」及び「祭主」の文字が商品の品質、用途、その他の特徴又は役務の質、役務の提供の用に供する物、その他の特徴等を表示記述するものとして一般に用いられているとの実情は見いだせない。

そうすると、「土金兼備祭」及び「祭主」の各文字を含む本件商標の構成文字は、全体として、その指定商品及び指定役務との関係で、自他商品及び役務の識別力を有しないとはいえないものというのが相当である。

(イ)方位盤及び「変り羽団扇」の各図形について

上記2(3)ア及びウに示すとおり、方位盤は占いの際、方位等を示すものであり、「変り羽団扇」は「軍配や団扇をモチーフとした家紋。」の一種であるとしても、上記2(1)に係る埋金法との関係で本件商標の上面及び左側面に表された図形を必ず用いなければならないとする根拠は見当たらず、また、本件商標の指定商品及び指定役務に係る取引において、本件商標に表された両図形が商品の品質、用途、その他の特徴又は役務の質、役務の提供の用に供する物、その他の特徴等を表示記述するものとして一般に用いられているとの実情は見いだせない。

そうすると、本件商標の構成図形は、その指定商品及び指定役務との関係で、自他商品及び役務の識別力を有しないとはいえないというのが相当である。

イ 本件商標の識別力について

本件商標は、上記1のとおり、略立方体の形状からなる立体の上面、左側面及び右側面に、文字及び図形を表示してなる立体商標であるところ、当該形状自体は埋金法に係る商品又は役務の提供に用いられる商品(略立方体の箱)の形状を普通に用いられる方法で表示したものといい得るものであるが、その上面、左側面及び右側面に表示された文字及び図形は、上記アのとおり、自他商品及び役務の識別力を有しないとはいえないことからすれば、立体商標全体としても自他商品及び役務の識別力を発揮しているというべきである。

ウ 小括

そうすると、本件商標は、その登録審決の時点において、埋金法に係る商品又は役務との関係で商品の品質、用途、その他の特徴又は役務の質、役務の提供の用に供する物、その他の特徴等を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の品質、用途、その他の特徴又は役務の質、役務の提供の用に供する物、その他の特徴等を表示したものとして一般に認識されるものであると認めることはできない。

したがって、本件商標は、その指定商品及び指定役務について商品の品質、用途、その他の特徴又は役務の質、役務の提供の用に供する物、その他の特徴等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものということはできないから、商標法第3条第1項第3号に該当しない。

5 商標法第3条第1項第6号該当性について

(1)商標法第3条第1項第6号について

商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条)、商標の本質は、自己の業務に係る商品又は役務と識別するための標識として機能することにあり、この自他商品の識別標識としての機能から、出所表示機能、品質保証機能及び広告宣伝機能等が生じるものである。同法3条1項6号が、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を商標登録の要件を欠くと規定するのは、同項1号ないし5号に例示されるような、識別力のない商標は、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、自他商品の識別力を欠くために、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(知財高裁平成25年1月10日判決(平成24年(行ケ)第10323号))。

(2)本件商標の商標法第3条第1項第6号該当性について

上記(1)の趣旨に照らして本件商標の商標法第3条第1項第6号該当性について検討するに、本件商標は、上記2及び3のとおり、商標法第3条第1項第2号及び同項第3号に該当するものではなく、他に同項第1号、同項第4号及び同項第5号に該当するというべき事情も見いだせない。

そして、請求人が提出した甲各号証に照らしても、本件商標が、その登録審決の時点において、埋金法に係る商品又は役務の取引において、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、自他商品及び役務の識別力を欠くために、商標としての機能を果たし得ないものであると認めるに足りる事実は認めることはできない。

したがって、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標ということはできないから、商標法第3条第1項第6号に該当しない。

6 商標法第4条第1項第16号該当性について

本件商標は、上記4のとおり、その指定商品及び指定役務について商品の品質、用途、その他の特徴又は役務の質、役務の提供の用に供する物、その他の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものということはできず、また、本件商標に接する取引者、需要者が、その構成から直接的、具体的な商品の品質又は役務の質を看取するともいい難いから、これをその指定商品及び指定役務に使用しても商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれのないものというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。

7 商標法第4条第1項第10号該当性について

(1)引用商標の周知性について

ア 上記2(2)イ及び(4)によれば、請求人は、2011年ないし2014年のブログ記事に埋金法に係る商品又は役務の紹介を掲載し、埋金セットを販売していたことを示す2012年1月ないし2013年10月の日報を提出し、2022年の卸売個数及び売上金額を示していることからすれば、埋金法に係る商品又は役務に引用商標を継続して使用していたことはうかがえる。

しかしながら、引用商標を使用した請求人の業務に係る商品又は役務の我が国における市場シェア、広告宣伝の規模等、引用商標の周知性を数量的に判断し得る具体的な証拠の提出はないから、引用商標が、我が国の需要者にどの程度認識されるに至ったかうかがい知ることはできず、その他に、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、我が国の需要者の間で、広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。

イ また、上記2(2)によれば、請求人以外の者により引用商標と同様の箱がブログ等に掲載されていたことが認められるものの、引用商標を使用した請求人以外の業務に係る商品又は役務について、我が国における売上高、市場シェア等の販売実績及び広告宣伝の規模等、引用商標の周知性を数量的に判断し得る具体的な証拠の提出はないから、請求人以外の業務に係る引用商標が、我が国の需要者にどの程度認識されるに至ったかうかがい知ることはできず、その他に、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、何人かの業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間で、広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。

ウ 請求人は、同人の商品(埋金セット)、すなわち引用商標は「埋金」というニッチな市場において高い占有率を有するから、この分野の需要者の間に広く知られていた旨主張している。

しかしながら、上記アのとおり、請求人の業務に係る引用商標が市場において高い占有率を有することを示すシェア等の客観的な証拠はなく、また、本件商標の指定商品及び指定役務は、上記第1のとおり、埋金法に係る商品又は役務に加え、「占い,方位占い,身の上相談,人生相談,易占及びこれに関する情報の提供,身の上相談・人生相談の斡旋・媒介又は取次ぎ並びにこれらに関する情報の提供,開運指導,開運相談,運勢判断,気学判断,運命判断,暦学診断,姓名判断,運勢鑑定,風水鑑定,運命鑑定,印相鑑定,気学・遁甲術の方位学を用いて埋めるまたは水中に投げる開運祈願用道具を用いた開運方法に関する占いの指導・助言・相談並びにこれらに関する情報の提供」などであって、お守り、おみくじ、占い、開運に係る商品又は役務に属するものといえるところ、これら商品、役務に関連するいわゆる「スピリチュアル市場」の市場規模が1兆円規模であるとされ、インターネット等のコンテンツ市場にも広がりを持つものといえる(上記2(5))一方で、「埋金」の市場規模を限定的に解すべきことを示す客観的な証拠の提出は見いだせないから、請求人の上記主張を採用することはできない。

エ 以上アないしウを総合して判断するに、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、その指定商品及び指定役務の分野において、引用商標が、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、我が国又は外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。

(2)本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について

上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものして、需要者の間に広く認識されていたとは認めることができないものである。

したがって、本件商標は、引用商標に同一又は類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものであったとしても、商標法第4条第1項第10号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ないから、同号に該当しない。

8 商標法第4条第1項第15号該当性について

(1)商標法第4条第1項第15号について

商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は当該役務が他人の業務に係る商品又は役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品又は当該役務が前記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして、上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。

(2)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について

上記(1)の趣旨に照らして本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について検討するに、上記7(1)のとおり、引用商標は他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできず周知性が認められないものであり、また、上記2(3)のとおり、引用商標の構成は略立方体の木箱に既成の語、家紋、方位盤等を表示したものであって、その形状や構成要素の独創性の程度が高いとはいい難いものである。

さらに、上記2(1)(2)及び(5)の書籍やブログ記事などの内容を総合すれば、埋金法に係る商品又は役務の需要者は、神道に関する専門知識を有する者に限られず、占いによって開運を願う一般の需要者が含まれるものと解される。

そうすると、本件商標と引用商標の構成に共通点があり、本件商標の指定商品及び指定役務に引用商標に係る商品又は役務と同じ埋金法が含まれており、取引者及び需要者の共通性が見いだせるとしても、商品又は役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すれば、本件商標は、商標権者がその指定商品及び指定役務について使用をしても、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想、想起し、他人又は当該他人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわざるを得ない。

その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

9 商標法第4条第1項第19号該当性について

商標法第4条第1項第19号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。

そこで検討するに、本件商標は引用商標と構成要素が共通するとしても、引用商標は、上記7(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されているとは認めることはできず、被請求人による本件商標の出願が引用商標の知名度に便乗した不正な意図を有するものであるとはいえないから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。

また、請求人は、被請求人が本件商標の商標権に基づいて請求人に対して差止請求訴訟を提起しており、そのような訴訟の提起をしたこと自体が「不正の目的で出願した」ことを示すものである旨主張しているが、通常、商標権者が商標権に基づいて差止請求訴訟を提起すること自体が直ちに不当な行為とはいえないところ、請求人が提出した証拠からは、本件商標の買取りを迫るとか、請求人に損害を与え、被請求人において不正の利益を得る意図があったといった事実は見いだせず、そのほか、商標権者が本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

10 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)商標法第4条第1項第7号について

商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、<1>その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、<3>他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、<4>特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、<5>当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知的高裁平成18年9月20日判決(平成17年(行ケ)第10349号))。

また、商標法第4条第1項第7号は、本来、商標を構成する「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」(標章)それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に、そのような商標について、登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である(商標の構成に着目した公序良俗違反)ところ、同号は、上記のような場合ばかりではなく、商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても、商標保護を目的とする商標法の精神にもとり、商品流通社会の秩序を害し、公の秩序又は善良な風俗に反することになるから、そのような者から出願された商標について、登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない(主体に着目した公序良俗違反)。

しかし、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、商標法第4条各号で個別的具体的に定めているから、このことに照らすならば、当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。すなわち、商標法は、商標登録を受けることができない商標について、同項第8号で「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定し、同項第10号で「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・・・」と規定し、同項第15号で「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標・・・」と規定し、同項第19号で「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・」と規定している。商標法のこのような構造を前提とするならば、少なくとも、これらの条項(上記の商標法第4条第1項第8号、第10号、第15号、第19号)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については、専ら、当該条項の該当性の有無によって判断すべきであるといえる。

また、当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、同項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである(知財高裁平成20年6月26日判決(平成19年(行ケ)第10391号)。

(2)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について

ア 上記(1)の趣旨に照らして本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について検討するに、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様ではないことは明らかであり、本件商標をその指定商品及び指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するということもできず、他の法律によってその使用が禁止されているものでもない。

イ また、本件商標が、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合に当たるということもできない。

ウ さらに、本件商標は、上記7ないし9のとおり、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものとはいえない。

請求人は、引用商標があるにもかかわらず、本件商標を出願した被請求人の意図は、引用商標を使用している他人を排除しようとしたものと考えるほかなく、本件商標は「悪意の出願」に該当する剽窃的な出願である旨主張しているが、本件商標の出願について、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法第4条第1項第19号の趣旨から離れて、同項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈すべき特段の事情のある例外的な場合に当たることを認めるに足りる事実は認めることができない。

エ 加えて、請求人は、被請求人が運営するホームページ上で「吉方位埋金」(登録第6004042号商標)、「遁甲埋金」(登録第6004043号商標)、「気学埋金」(登録第6004044号商標)の3つの登録商標と並べて「「埋金」は弊社の登録商標です。」と虚偽の表示を行っている(甲33)ことが「その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠く」行為を行った証左になる旨主張している。

確かに、甲第33号証の1及び2には、「『埋金』『気学埋金』『遁甲埋金』『吉方位埋金』は弊社の登録商標です。」との記載が認められるものの、当該「『埋金』」の記載が具体的に何を意味するのかは明らかではなく、被請求人が上記3件の商標登録に加え本件商標についても登録を受けていることからすれば、当該記載を全く虚偽のものとまでは断定できないし、ホームページに当該文字を記載する行為が直ちに本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないと認定する根拠となるともいい難い。

オ そのほか、請求人が提出した証拠及び主張を検討しても、本件商標の登録出願の経緯が、社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たると認めることはできない。

カ したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

11 その他の請求人の主張について

(1)答弁書提出の遅延について

請求人は、上記第3の8(2)アにおいて、指定された期間を過ぎて提出された答弁書は特許法第133条の2第1項の規定に基づき却下されるべきである旨主張しているが、無効審判を含む当事者系審判において期間を指定することは、審判の審理の促進と便宜をはかるためであり、当事者は商標法第56条第1項で準用する特許法第156条第1項による審理終結通知がされるまでは、答弁書等の書面を提出することができる(東京高判昭49年9月3日(昭40年(行ケ)第5号))ので、指定した期間が経過した後に提出された書面であっても、審理終結通知がなされるまでは審理の対象とすることができる。そして、無効審判においては、当事者対立構造のもと、被請求人に答弁書提出の機会を与えて審理を進めることが適切である(商標法第56条第1項で準用する特許法第134条第1項)ことに鑑みれば、本件審判において審理終結通知がなされる前に提出された答弁書は採用し審理の対象とすべきであるから、上記主張を採用することはできない。

(2)答弁書副本送達の遅延について

請求人は、上記第3の8(2)イにおいて、本件審判における答弁書の副本の送達について、通常、方式審査で答弁書に問題がなければ、遅くとも1月程度でその副本が送達されるとの前提を基に、10月もの間、送達をすることなく審理を進めなかったということは、不作為による審理の引き延ばしである旨主張しているが、無効審判において、被請求人が提出した答弁書の方式について不備があれば補正命令等を行う一方、答弁書の方式に不備がないときは、審判請求書で主張立証された無効理由と被請求人の答弁書とを基礎として審理の上、被請求人の反論に対して請求人に反論させることが必要であるなど審決をするに熟しているといえない場合は、請求人に答弁書副本を送達し、弁駁機会を与えるものである。

本件無効審判請求においては、審判請求書における多岐にわたる無効理由及び答弁書におけるこれへの反論に加え、請求人から提出された複数の上申書における主張も踏まえた結果その審理に時間を要したものであり、不作為による審理の引き延ばしには当たらない。

また、審判長は、請求書副本の送達に対して、被請求人から答弁書を受理したときは、その副本を請求人に送達しなければならない(商標法第56条第1項で準用する特許法第134条第3項)ことを踏まえ、審理終結通知前に答弁書の副本を請求人に送達している。

したがって、本件審判の進行が商標法に規定する手続に違反するものではなく、上記主張を採用することはできない。

(3)そのほか、請求人はるる主張するところがあるが、いずれも上記1ないし10による判断を左右するものとはいえない。

12 まとめ

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第2号、同項第3号、同項第6号、同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号、同項第16号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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