Trademark Appeal Case
立体商標の形状識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 平成11年審判第6454号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
1 本願商標
本願商標は、その構成を別掲(1)ないし(3)に示すものとし、第30類「キャンディー」を指定商品として、平成9年4月1日に立体商標として登録出願されたものである。
2 原査定の理由
原査定は、「本願商標は、その指定商品との関係よりすれば、その指定商品に採用し得る一形状を表したものと認識される立体的形状よりなるものであるから、これを指定商品について使用しても、単に商品の形状そのものを普通に用いられる方法をもって表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」との理由で本願を拒絶したものである。
3 請求人の主張
(1)請求人は、審判請求の理由において概要以下のように主張し、第1号証ないし第8号証を提出した。
ある商標が、商標法第3条第1項第3号に該当するか否かの判断は、一般需要者が、商標を見て、商品の品質・内容等を直感するか否かを基準になされなければならない。一般需要者が、商品の品質・内容等を直感しないのであれば、自他商品識別力を有し、登録後商標の使用により法の保護をしようとする業務上の信用が発生することは経験則から明らかであり、また、特定人に独占使用を認めても公益上特に問題がないからである。
商品「キャンディー」の形状としては、球、円柱、四角柱等様々な形状をとることができ、本願商標のような土星をイメージしたものはユニークな形態といえる。
立体商標制度がスタートしたばかりの日本において、自他商品識別力の基準を考える場合には、米国の裁判例や日本の不正競争防止法事件での裁判例が参考になる。
米国では、立体商標が本来的に自他識別力があるというためには、「独自(unusual)な形状で記憶に残りやすいこと」「概念的に商品と分離できること」「主に出所表示として機能する可能性が高いこと」の3つの要件を満たす必要があるとの判示例があり、また、「幼児用パンツに関する立体商標(アイスクリームのコーンの形状をした包装容器)」「排水管開通液に関する立体商標(上部に排水管を模した包装容器)」が本来的に自他識別力があるとして登録されている(第8号証 CIPICジャーナルNO.56第43頁)。これらのいずれの立体商標もユニークで記憶に残り易く、概念的に一般の商品の包装から分離して把握することができるものである。
一方、日本では、伝票会計用伝票事件控訴審(旧不正競争防止法事件)において、東京高裁が次のように述べている(昭和58年11月15日判決)。
「商品の形態は、本来、当該商品が目差す特定の使用目的ないし機能を果たす上で、その客体的、外部的表現としての内容が、おのずから制約された態様の範囲内にとどまざるをえないから、本来的に商品主体の識別を直接目的とする氏名、商号、商標等の表示と同様に出所表示機能、自他識別機能を備えるものとして評価されるためには、当該商品の使用目的ないし機能の評価自体の面と、切り離しがたく関連するとしても、一応その観点を離れて、なおかつ需要者の感覚、購買心理、選択意欲、消費行動に、より端的に訴える、表示としての素朴な統一的把握を可能とする表現能力・吸引力を具備すべきことは、その商品表示としての性質上当然といわねばならない。」
また、日本の不正競争防止法及び商標法の法改正作業に関与された松尾和子弁護士は、「識別力を有することと意匠的であること自体が排斥しあう関係にないことはすでに多くの判例・学説により確認されているとおりである。なお、商品形態が多数の美感を招く要素からなり、他と比較したとき個別化できるにもかかわらず、全体として、一つの統一的な形態上の印象を与えることができない場合がある。このようなときは、識別力を否定することになるであろう。」と述べられている(「立体商標の登録制度について−その一−登録の要件」発明協会1996年『知的財産権法・民商法論叢』)。
本願商標はユニークな形態であり、土星という、全体として一つの統一的な形態上の印象を与えることのできる立体的な標識であり、本来的な自他商品識別性は証明され、商標法第3条第1項第3号に該当しないことは明らかである。
(2)本願商標は日本を含め世界的に販売され、広告もなされているから、商標法第3条第2項の規定によっても登録されるべきである。
4 当審の判断
(1)平成8年法律第68号により改正された商標法は、立体的形状若しくは立体的形状と文字、図形、記号等の結合又はこれらと色彩との結合された標章であって、商品又は役務について使用するものを登録する立体商標制度を導入した。
立体商標は、商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下「商品等」という。)の形状も含むものであるが、商品等の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいはその商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり、本来的(第一義的)には商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。
そして、商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、それは、前示したように、商品等の機能、又は美感をより発揮させるために施されたものであって、本来的には、自他商品を識別するための標識として採択されるのではなく、全体としてみた場合、商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状を有している場合には、これに接する取引者、需要者は当該商品等の形状を表示したものであると認識するに止まり、このような商品等の機能又は美感に関わる形状は、多少特異なものであっても、未だ、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。
また、商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でないというべきである。
そうとすれば、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はともかくとして、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、使用をされた結果、当該形状に係る商標が単に出所を表示するのみならず、取引者、需要者間において当該形状をもって同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法第3条第1項第3号に該当し、商標登録を受けることができないものと解すべきである。
(2)立体商標制度を審議した工業所有権審議会の平成7年12月13日付け「商標法等の改正に関する答申」P30においても「3.(1)立体商標制度の導入 需要者が指定商品若しくはその容器又は指定役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲を出ないと認識する形状のみからなる立体商標は登録対象としないことが適当と考えられる。・・・ただし、これらの商標であっても使用の結果識別力が生ずるに至ったものは、現行法第3条第2項に基づき登録が認められることが適当である。」としている。
(3)これを本願についてみるに、本願商標は、別掲(1)ないし(3)に示すとおり、球の中央部に帯状の輪を成形嵌合し、該輪の部分と垂直に細長い円柱状の棒を取り付けた立体的形状からなるものであって、これを指定商品に使用しても、取引者、需要者は、単に商品「キャンディー」の形状の一形態を表してなると認識するにすぎないと判断するのが相当である。
請求人は、「ある商標が、商標法第3条第1項第3号に該当するか否かの判断は、一般需要者が、商標を見て、商品の品質・内容等を直感するか否かを基準になされなければならない。一般需要者が、商品の品質・内容等を直感しないのであれば、自他商品識別力を有し、登録後商標の使用により法の保護をしようとする業務上の信用が発生することは経験則から明らかである。」旨主張する。
しかしながら、本願指定商品であるキャンディーを取り扱う業界においては、味や包装、容器の形状などのほかに、商品そのものの形状に特徴をもたせたものを採択し、販売していることが一般に行われているところであって、本件におけるキャンディーの形状の特徴は、商品の見た目の美しさ(美感)を効果的に際立たせるための範囲のものというべきである。
このことは、別掲(4)ないし(6)をもって示した、他社の取り扱いに係るキャンディーの包装袋に示されているキャンディーが、本願商標と円柱状の棒を取り付けた位置を違えたにすぎない類型的形状を採択していることからも明らかであって、本願商標は、需要者により商品の形状の一形態を表したと認識されるにすぎないというべきである。
なお、請求人は、本願商標のような土星をイメージしたものはユニークな形態であり、自他商品識別性は証明され、商標法第3条第1項第3号に該当しないことは明らかであると主張するが、前示の他社商品の形状に照らせば、本願商標が殊更ユニークな形状を呈しているとはいえず、この請求人の主張は採用できない。
また、請求人は文字を含まない立体商標の登録例を示しているが登録第4170258号商標は、商品の形状とは認識し得ない、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状よりなる商標であり、登録第4168940号商標は、識別力のある「サラサーティ」の文字が付されていることで登録されたものであり、他の事例は、人形等の形状よりなるものであることから、商品等の形状とは認識されない広告物として識別性を発揮しているとみるべき事例であって、本願商標とは事例を異にするものである。
さらに、請求人は、判決や学説を紹介して特異な形状の商標は登録要件を備えている旨主張するが、請求人提示の判決(東京高等裁判所 昭和52年(ネ)第3193号 昭和58年11月15日判決言渡)には、請求人引用部分の前に「不正競争防止法第1条第1項第1号は、・・・商品主体を直接認識させる意図で表示される氏名、商品等のほか、本来第一義的には商品の出所を識別させるためのものではない『商品ノ容器包装』をも例示しているところからすると、・・・」として商品等の形状が、第一義的には商品の出所を識別させるためのものではないことを述べ、また、その原審(東京地方裁判所 昭和50年(ワ)第3035号 昭和52年12月23日判決言渡)においては、「商品の形態自体は、その商品の目的とする機能をよりよく発揮させあるいはその美感を高める等の見地から選択されるものであって、本来、商品の出所を表示することを目的とするものではないけれども、二次的に出所表示の機能を備えることもありうべく、この場合には商品の形態自体が特定人の商品たることを示す表示に該当すると解すべきである。」との明確な判示がなされているところである。
また、請求人が指摘する第8号証の同頁には、「立体的形状は、通常は、商品の実用的又は装飾的な側面として一般需要者に受け止められることが多いから、・・・」との記載がされており、さらに、「商品の機能と係わる形状は、多少、特殊なものであっても、未だ『普通に用いられる方法で表示する』ものの域を出ないというべきであろう。」とする学説も存するところである(田村善之「商標法概説」175頁乃至176頁 株式会社弘文堂発行)。
以上、本願商標は、前記認定のとおり、商品の美感やユニークさをより発揮させるために施されたものであり、商品の形状の一形態を普通に用いられる方法の範疇で表示する標章のみからなる商標というべきであって、本願商標は、その形状に特徴をもたせたことをもって自他商品の識別力を有するものとは認められないものである。
なお、立体的形状からなる商標であっても、商品等の形状をもって構成されるものについては、平面的な商標とは明らかに異なるものであるため、商標法においては、立体商標制度の導入に当たっては、商標法第4条第1項第18号等が設けられ、また、前掲工業所有権審議会答申でも、「指定商品やその容器の形状そのものの場合には不登録とする運用を厳しくすること」としている(前掲答申P31参照)。
そして、商品等の形状であっても、使用により自他商品の識別力を取得する場合があり、そのときに、識別力を認めて登録することは前記(1)で述べたとおりであり、諸外国と何ら異なるところはない。
(4)請求人は、本願商標は日本を含め世界的に販売され、広告もなされているから、商標法第3条第2項の規定によっても登録されるべきであると主張し、第2号証を提出している。
しかしながら、第2号証である、販売個数・売上高に係る宣誓書をもってしては、本願商標に係る立体的形状部分が識別標識として需要者に認識されているとも認め得ず、外に、請求人の主張を証する公的機関や同業組合等による客観的な証明等もないから、この書証によって本願商標それ自体が自他商品の識別標識として認識されたとするには十分とはいえないものである。
したがって、本願商標が使用により識別力を有するに至っているものと認定することはできないというべきである。
4 結 論
してみれば、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当し、同法第3条第2項には該当しないから、本願を拒絶した原査定の認定、判断は妥当なものであって取り消すべき理由はない。
よって、結論のとおり審決する。
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